(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】mRNAの機能化方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20230418BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20230418BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230418BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/87 Z
A61K31/7088
A61K31/713
(21)【出願番号】P 2020180549
(22)【出願日】2020-10-28
(62)【分割の表示】P 2018559579の分割
【原出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2016252487
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016252488
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514299594
【氏名又は名称】公益財団法人川崎市産業振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【氏名又は名称】星川 亮
(72)【発明者】
【氏名】内田 智士
(72)【発明者】
【氏名】位高 啓史
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一則
(72)【発明者】
【氏名】吉永 直人
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0267192(US,A1)
【文献】特表2007-513148(JP,A)
【文献】特表2007-524373(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0317087(US,A1)
【文献】国際公開第2015/121924(WO,A1)
【文献】特表2010-540500(JP,A)
【文献】特表2004-520839(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0190026(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0176293(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的遺伝子をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーとを内包した前記mRNAの輸送担体であって、
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されていない又は化学修飾されており、
前記RNAオリゴマーをハイブリダイズさせるmRNA中の位置は、5’UTR、コード領域および3’UTRのいずれかの位置である、輸送担体。
【請求項2】
前記RNA配列が15~23塩基の配列からなる、請求項1に記載の輸送担体。
【請求項3】
前記RNA配列が17塩基の配列からなる、請求項2に記載の輸送担体。
【請求項4】
前記化学修飾は、
1~2塩基のオーバーハング配列を介してRNAオリゴマーの配列の5’末端又は3’末端になされたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の輸送担体。
【請求項5】
前記オーバーハング配列が2塩基の配列である、請求項4に記載の輸送担体。
【請求項6】
前記化学修飾が疎水性基による修飾である、請求項1~5のいずれか1項に記載の輸送担体。
【請求項7】
前記疎水性基による修飾がコレステロール修飾である、請求項6に記載の輸送担体。
【請求項8】
前記化学修飾がポリエチレングリコール修飾である、請求項1~5のいずれか1項に記載の輸送担体。
【請求項9】
前記輸送担体が、高分子ミセル又は脂質性mRNAキャリアである、請求項1~8のいずれか1項に記載の輸送担体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の輸送担体を含有する、医薬組成物。
【請求項11】
目的遺伝子をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーとを輸送担体に内包させることを含み、
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されており、
前記RNAオリゴマーをハイブリダイズさせるmRNA中の位置は、5’UTR、コード領域および3’UTRのいずれかの位置である、輸送担体の安定化方法。
【請求項12】
目的遺伝子をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーとを含む二本鎖RNAであって、
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されていない又は化学修飾されており、
前記RNAオリゴマーをハイブリダイズさせるmRNA中の位置は、5’UTR、コード領域および3’UTRのいずれかの位置である、二本鎖RNA。
【請求項13】
前記RNA配列が15~23塩基の配列からなる、請求項12に記載の二本鎖RNA。
【請求項14】
前記RNA配列が17塩基の配列からなる、請求項13に記載の二本鎖RNA。
【請求項15】
前記化学修飾は、1~2塩基のオーバーハング配列を介してRNAオリゴマーの配列の5’末端又は3’末端になされたものである、請求項12~14のいずれか1項に記載の二本鎖RNA。
【請求項16】
前記オーバーハング配列が2塩基の配列である、請求項15に記載の二本鎖RNA。
【請求項17】
前記化学修飾が疎水性基による修飾である、請求項12~16のいずれか1項に記載の二本鎖RNA。
【請求項18】
前記疎水性基による修飾がコレステロール修飾である、請求項17に記載の二本鎖RNA。
【請求項19】
前記化学修飾がポリエチレングリコール修飾である、請求項12~16のいずれか1項に記載の二本鎖RNA。
【請求項20】
請求項12~19のいずれか1項に記載の二本鎖RNAを含有する、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、mRNAの機能化方法に関する。より具体的には、本発明は、mRNA輸送担体の安定化方法、mRNAワクチンなどに関する。
【背景技術】
【0002】
mRNA送達は、治療用タンパク質を安全かつ持続的に供給するための手法として注目を集めている。一方でmRNAが生体内で速やかに酵素分解を受けてしまうことが大きな課題である。これに対して、mRNA輸送担体を用いてmRNAを分解から保護する方法、及びmRNA分子自体を改良する方法が検討されているが、生体内でのRNA分解酵素が非常に強いため、さらなる技術革新が求められている。
【0003】
mRNA分子自体を改良する方法について、mRNA塩基の一部を化学修飾したものに置換する方法が検討されている(例えば、非特許文献1)。これまでに様々な化学修飾塩基が網羅的に検討されたが、mRNAの酵素耐性を大幅に向上させることができるものは未だに報告されていない。また、修飾を行うことでしばしばmRNAからのタンパク質翻訳効率が大きく低下してしまうことから、自由な化学修飾は困難であった。
【0004】
ここで、特許文献1には、ポリカチオン性ポリマーとmRNAのポリイオンコンプレックスが記載され、これをmRNAの送達に用いることが記載されている。また、非特許文献2には、高分子ミセル型mRNA輸送担体の安定性、酵素分解の評価、およびポリマーにコレステロール修飾を行う効果について記載されている。しかしながら、これらの文献には、生体内において、mRNAからのタンパク質翻訳効率を大きく低下させることなく、mRNAの酵素耐性を向上させることできる、mRNA輸送担体の安定化方法は記載されていない。
【0005】
また、病原体の病原性を弱めて用いる従来の生ワクチンは病原性の復帰により副作用が生じる恐れがある。また、病原体の病原性をなくして用いる従来の不活化ワクチンは感染細胞が出現しないため細胞性免疫を誘導しにくいという問題がある。
【0006】
DNAワクチン、mRNAワクチンなどの核酸ワクチンでは、抗原タンパク質を提示するために核酸を用いる。すなわち、核酸ワクチンは、投与した核酸を抗原提示細胞の核内又は細胞質に移行させて抗原タンパク質を発現させ、抗原タンパク質を提示させることによって免疫を賦活化させる。核酸ワクチンは、病原性の復帰の問題がないため生ワクチンと比較して安全性が高いと考えられている。また、核酸ワクチンでは抗原提示細胞が抗原タンパク質を提示するため細胞性免疫を誘導することが可能であり、このため、核酸ワクチンは、がんや慢性感染症への展開が可能である。さらに、核酸ワクチンでは配列を変えるだけで比較的自由な核酸の設計が可能であり、このため、核酸ワクチンには、がんの個別化治療に用いることができること、ウイルス変異にも迅速に対応可能あることからパンデミックへの素早い対応が可能であること、などの利点もある。
【0007】
このうちDNAワクチンでは、ホストゲノムへのランダムな挿入による変異誘発のリスクがあると考えられている。その一方で、抗原タンパク質を提示するためにmRNAを用いるmRNAワクチンは、ホストゲノムへの変異誘発のリスクがないと考えられており、近年注目を集められている。
【0008】
mRNAワクチンにより免疫誘導効果を得るためには、抗原タンパク質を発現させると同時に、炎症反応を惹起する必要がある。しかしながら、mRNA自体は免疫原性が低いために炎症反応を惹起しにくい。そこで従来、mRNAとは別に炎症反応を惹起するためのアジュバンドを同時に投与する必要があった(例えば、特許文献2)。
【0009】
このような従来のmRNAワクチンには、以下の3つの問題がある。1つ目の問題は、外来物質をアジュバントとして用いる場合にはその安全性に相当の注意を払う必要が生じることである。2つ目の問題は、投与したmRNAとアジュバントの組織分布が異なると、抗原タンパク質を発現する細胞に十分な炎症反応が惹起されない可能性があることである。3つ目の問題は、mRNAを生体へ投与する際、mRNAを酵素分解から保護するためにしばしば輸送担体が必要になるが、アジュバントが輸送担体の機能に影響する可能性があることである。
【0010】
ここで、非特許文献3には、mRNAワクチンとして、mRNAをアジュバント成分であるプロタミンと一体化したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】WO2015/121924A
【文献】特表2012-502074号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Meis,J.E.and Chen,F.(2002)EPICENTRE Forum 9(1),10
【文献】Uchida,S.,et al.,Biomaterials(2016)82,p.221-228.
【文献】Karl-Josef Kallen et al.,Human Vaccines&Immunotherapeutics(2013)9:10,p.2263-2276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況のもと、機能化mRNAが求められていた。
【0014】
本発明の第1の態様は、mRNA輸送担体の新たな安定化方法を提供することを目的とする。
【0015】
本発明の第2及び第3の態様は、効率のよいタンパク質発現及び免疫誘導を可能とする新たなmRNAワクチンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、mRNAと相補的な配列を持つRNAオリゴマーをmRNAにハイブリダイズさせることによりmRNAを機能化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
また、本発明者らは、mRNAと相補的な配列を持つRNAオリゴマーに化学修飾を行い、それをmRNAにハイブリダイズさせることでmRNAの化学修飾を行うことができ、これによりそのmRNAを安定化できること、あるいはそのmRNAを輸送担体に搭載することにより輸送担体を安定化できることを見出し、本発明の第1の態様を完成するに至った。
【0018】
また、本発明者らは、抗原をコードするmRNAのpoly A配列と相補的な配列をもつRNAオリゴマーをmRNAにハイブリダイズさせることで、mRNAからの効率のよいタンパク質発現及び免疫誘導の両方を達成できることなどを見出し、本発明の第2の態様を完成するに至った。
【0019】
さらに、本発明者らは、抗原をコードするmRNAの配列と相補的な配列をもつ第1のRNAオリゴマーをmRNAにハイブリダイズさせ、かつ第1のRNAオリゴマーと相補的な配列をもつ第2のRNAオリゴマーを第1のRNAオリゴマーにハイブリダイズさせることで、mRNAからの効率のよいタンパク質発現及び免疫誘導の両方を達成できることなどを見出し、本発明の第3の態様を完成するに至った。
【0020】
本発明は以下のとおりである。
mRNAと、mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つの修飾されたRNAオリゴマーとを含む二本鎖RNAを含む、機能化mRNA。
【0021】
本発明の第1の態様は以下のとおりである。
[1-1] 目的遺伝子をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーとを内包した前記mRNAの輸送担体であって、
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されている、輸送担体。
[1-1A] 目的遺伝子をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーとを内包した前記mRNAの輸送担体であって、
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されていない又は化学修飾されている、輸送担体。
[1-2] 前記RNA配列が15~23塩基の配列からなる、上記[1-1]又は[1-1A]に記載の輸送担体。
[1-3] 前記RNA配列が17塩基の配列からなる、上記[1-2]に記載の輸送担体。
[1-4] 前記化学修飾は、1~5塩基のオーバーハング配列を介してRNAオリゴマーの配列の5’末端又は3’末端になされたものである、上記[1-1]~[1-3]のいずれか1項に記載の輸送担体。
[1-5] 前記オーバーハング配列が2塩基の配列である、上記[1-4]に記載の輸送担体。
[1-6] 前記化学修飾が疎水性基による修飾である、上記[1-1]~[1-5]のいずれか1項に記載の輸送担体。
[1-7] 前記疎水性基による修飾がコレステロール修飾である、上記[1-6]に記載の輸送担体。
[1-8] 前記化学修飾がポリエレングリコール修飾である、上記[1-1]~[1-5]のいずれか1項に記載の輸送担体。
[1-9] 前記輸送担体が、高分子ミセル又は脂質性mRNAキャリアである、上記[1-1]~[1-8]のいずれか1項に記載の輸送担体。
[1-10] 上記[1-1]~[1-9]のいずれか1項に記載の輸送担体を含有する、医薬組成物。
[1-11] 目的遺伝子をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーとを輸送担体に内包させることを含み、
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されている、輸送担体の安定化方法。
[1-11A] 目的遺伝子をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーとを輸送担体に内包させることを含み、
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されていない又は化学修飾されている、輸送担体の安定化方法。
[1-12] 目的遺伝子をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーとを含む二本鎖RNAであって、
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されていない又は化学修飾されている、二本鎖RNA。
[1-13] 前記RNA配列が15~23塩基の配列からなる、上記[1-12]に記載の二本鎖RNA。
[1-14] 前記RNA配列が17塩基の配列からなる、上記[1-13]に記載の二本鎖RNA。
[1-15] 前記化学修飾は、1~5塩基のオーバーハング配列を介してRNAオリゴマーの配列の5’末端又は3’末端になされたものである、上記[1-12]~[1-14]のいずれか1項に記載の二本鎖RNA。
[1-16] 前記オーバーハング配列が2塩基の配列である、上記[1-15]に記載の二本鎖RNA。
[1-17] 前記化学修飾が疎水性基による修飾である、上記[1-12]~[1-16]のいずれか1項に記載の二本鎖RNA。
[1-18] 前記疎水性基による修飾がコレステロール修飾である、上記[1-17]に記載の二本鎖RNA。
[1-19] 前記化学修飾がポリエレングリコール修飾である、上記[1-12~[1-16]のいずれか1項に記載の二本鎖RNA。
[1-20] 上記[1-12]~[1-19]のいずれか1項に記載の二本鎖RNAが輸送担体に内包されている、mRNA輸送担体。
[1-21] 前記輸送担体が、高分子ミセル又は脂質性mRNAキャリアである、上記[1-20]に記載の輸送担体。
[1-22] 上記[1-20]または[1-21]のいずれか1項に記載の輸送担体を含有する、医薬組成物。
【0022】
本発明の第2の態様は以下のとおりである。
[2-1] 抗原をコードするmRNAと、当該mRNAの少なくともpoly A配列にハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーからなる二本鎖RNAを含み、前記少なくとも1つのRNAオリゴマーは化学修飾されていない、mRNAワクチン。
[2-1A] 抗原をコードするmRNAと、当該mRNAの少なくともpoly A配列にハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーからなる二本鎖RNAを含み、前記少なくとも1つのRNAオリゴマーは化学修飾されていない又は化学修飾されている、mRNAワクチン。
[2-2] RNAオリゴマーは、10~500塩基配列からなる、上記[2-1]又は[2-1A]に記載のmRNAワクチン。
[2-3] RNAオリゴマーは、5’末端にトリリン酸構造を有する、上記[2-1]~[2-2]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
[2-4] 二本鎖RNAは、mRNAの少なくともpoly A配列に1つのRNAオリゴマーがハイブリダイズしたものである、上記[2-1]~[2-3]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
[2-5] 二本鎖RNAがネイキッドの形態である、上記[2-1]~[2-4]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
[2-6] アジュバントと共に用いない、上記[2-1]~[2-5]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
[2-7] 疾患の予防又は治療を必要とする対象において当該疾患の予防又は治療に用いるための、上記[2-1]~[2-6]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
[2-8] 疾患の予防又は治療を必要とする対象に、上記[2-1]~[2-6]のいずれか1項に記載のmRNAワクチンを投与することを含む、疾患の予防又は治療方法。
【0023】
本発明の第3の態様は以下の通りである。
[3-1] 抗原をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つの第1のRNAオリゴマーと、当該第1のRNAオリゴマーにハイブリダイズした第2のRNAオリゴマーからなる二本鎖RNAを含み、
第1のRNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなる第1のRNA配列と、第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列からなる第2のRNA配列を、5’末端よりこの順に含むRNA配列、
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズする第1のRNA配列と、第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつ第2のRNAオリゴマーにハイブリダイズする第2のRNA配列を、5’末端よりこの順に含むRNA配列、
(c)第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列からなる第2のRNA配列と、mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなる第1のRNA配列を、5’末端よりこの順に含むRNA配列、又は
(d)第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつ第2のRNAオリゴマーにハイブリダイズする第2のRNA配列と、mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズする第1のRNA配列と、5’末端よりこの順に含むRNA配列
を含む、mRNAワクチン。
[3-2] 第1のRNAオリゴマーは、22~240塩基の配列からなる、上記[3-1]に記載のmRNAワクチン。
[3-3] 1つのmRNAにハイブリダイズさせる第1のRNAオリゴマーの数が、1~50個である、上記[3-1]または[3-2]に記載のmRNAワクチン。
[3-4] 第1のRNAオリゴマーは、前記(a)のRNA配列又は前記(b)のRNA配列を含み、第2のRNAオリゴマーは、5’末端にトリリン酸構造を有する、上記[3-1]~[3-3]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
[3-5] 第1のRNAオリゴマーは、前記(c)のRNA配列又は前記(d)のRNA配列を含み、第1のRNAオリゴマーは、5’末端にトリリン酸構造を有する、上記[3-1]~[3-3]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
[3-6] 第2のRNAオリゴマーが第1のRNAオリゴマーにハイブリダイズしている側の二本鎖RNAの末端が、平滑末端である、上記[3-1]~[3-5]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
[3-7] 第2のRNAオリゴマーは10~200塩基の配列を含む、上記[3-1]~[3-6]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
[3-8] 二本鎖RNAがネイキッドの形態である、上記[3-1]~[3-7]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
[3-9] アジュバントと共に用いない、上記[3-1]~[3-8]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
[3-10] 疾患の予防又は治療を必要とする対象において当該疾患の予防又は治療に用いるための、上記[3-1]~[3-9]のいずれか1項に記載のmRNAワクチン。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、機能化mRNAを提供することができる。
【0025】
本発明の第1の態様は、mRNA、又はmRNA輸送担体の新たな安定化方法を提供する。好ましくは、本発明の第1の態様は、生体内において、mRNAからのタンパク質翻訳効率を維持したまま、比較的自由なmRNA修飾を実現することができる。より好ましくは、本発明の第1の態様は、生体内でのmRNAの酵素分解を抑制することができる。
【0026】
本発明の第2及び第3の態様は、効率のよいタンパク質発現及び免疫誘導を可能とする新たなmRNAワクチンを提供する。好ましくは、本発明の第2及び第3の態様のmRNAワクチンは、アジュバントを同時投与しなくても、抗原提示及び免疫誘導が可能である。より好ましくは、本発明の第2及び第3の態様のmRNAワクチンは、より強い細胞性免疫を誘導することができる。さらに好ましくは、本発明の第2及び第3のmRNAワクチンは、mRNA単独で投与するよりも強い液性免疫を誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】RNAオリゴマーがmRNAにハイブリダイズしたことを示す電気泳動画像である。(1)overhang 2base(1)のみ;(2)overhang 2base(1)をハイブリダイズさせたmRNA;(3)overhang 2base(1)をハイブリダイズしていないmRNA。
【
図2】RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズによる影響を示す図である。(A)培養細胞へのmRNA導入効率;(B)無細胞系でのタンパク質翻訳効率。
【
図3】RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAを内包した高分子ミセルの物理化学的性質を示す図である。(A)PEG-PAsp(DET)+RNAオリゴ(-);(B)PEG-PAsp(DET)-Chol+RNAオリゴ(-);(C)PEG-PAsp(DET)+未修飾RNAオリゴ;(D)PEG-PAsp(DET)-Chol+未修飾RNAオリゴ;(E)PEG-PAsp(DET)+Chol-RNAオリゴ;(F)PEG-PAsp(DET)-Chol+Chol-RNAオリゴ。
【
図4-1】Chol修飾RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズによる安定性への影響を示す図である。(A)PEG-PAsp(DET)-Chol;(B)PEG-PAsp(DET);(C)PEG-PAsp(DET)-Chol;(D)PEG-PAsp(DET);(E)PEG-PAsp(DET)-Chol。
【
図5】Chol修飾RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズによる安定性への影響を示す図である。(A)PEG-PAsp(DET)-Chol+オリゴ(-);(B)PEG-PAsp(DET)-Chol+Cholオリゴ;(C)PEG-PAsp(DET)+オリゴ(-);(D)PEG-PAsp(DET)+Cholオリゴ。
【
図6】複数のChol修飾RNAオリゴマーをmRNAへハイブリダイズさせたことによる安定性への影響を示す図である。10v/v%のFBS条件。
【
図7】複数のChol修飾RNAオリゴマーをmRNAへハイブリダイズさせたことによる、細胞へ導入した際のたんぱく質翻訳効率への影響を示す図である。10v/v%のFBS条件。
【
図8】オリゴマーへのChol修飾を3’側に行った場合と、5’側に行った場合を比較する図である。(A)安定性への影響、(B) 細胞に導入した際のたんぱく質翻訳効率。
【
図9】Chol修飾RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズによる無細胞系でのタンパク質翻訳効率への影響を示す図である。
【
図10】Chol修飾RNAオリゴマーの内因性遺伝子発現に対する影響を示す図である。
【
図11】Chol修飾RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズによる安定性への影響を示す図である。(A)ゲル電気泳動(PEG-PLys+オリゴ(-));(B)ゲル電気泳動(PEG-PLys+Cholオリゴ);(C)翻訳効率。
【
図12】マウスを用いた血中安定性試験の結果を示す図である。
【
図13】Chol修飾RNAオリゴマーを肺へ投与した結果を示す図である。(A)タンパク質発現効率;(B)mRNA量。
【
図14】実施例で作製したガウシアルシフェラーゼ(Gluc)のmRNAの配列である(配列番号1)。下線部がopen reading flameである。
【
図15】実施例で使用したガウシアルシフェラーゼ(Gluc)のコード配列である(配列番号32)。
【
図16】実施例で使用したLucのmRNAの配列である(配列番号33)。下線部がopen reading flameである。
【
図17】mRNA輸送担体の安定化の概念図である。
【
図18】PEG修飾RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズによる翻訳効率の変化を示す図である。
【
図19】PEG修飾RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズによる安定化効果の変化を示す図である。(A)実験手順、(B)安定性への影響。
【
図20】PEG化mRNAの発現試験の結果を示す図である。
【0028】
【
図21】ガウシアルシフェラーゼ(Gluc又はLuc)mRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖を示す図である。(A) Gluc sense鎖、(B)Gluc antisense鎖(poly U込み)、(C)Gluc antisense鎖(poly Uなし)、及び(D)poly U。
【
図22】二本鎖RNAを示す図である。(A)mRNA:RNA、(B)mRNA:RNA poly U(-)、(C)mRNA:poly U、及び(D)mRNA:poly U ppp(-)。
【
図23】二本鎖RNAを樹状細胞株(DC2.4)へ導入した結果を示す図である。(A)インターフェロンβ発現量、及び(B)Luc発現量。
【
図24】二本鎖RNAをマウスに投与した結果を示す図である。(A)Luc発現量、(B)インターフェロンβ発現量、及び(C)インターロイキン6発現量。
【
図25】二本鎖RNAをマウスに投与した結果を示す図である。(A)投与から細胞数定量までの手順、及び(B)IFN-γ産生細胞数。
【
図26】二本鎖RNAをマウスに投与した結果を示す図である。(A)投与から抗OVA IgGの血清中濃度定量までの手順、及び(B)抗OVA IgGの血清中濃度。
【
図27】実施例で作製したGluc sense鎖の配列である(配列番号51)。下線部がopen reading flameである。
【
図28】実施例で作製したGluc antisense鎖(poly U込み)の配列である(配列番号52)。
【
図29】実施例で作製したGluc antisense鎖(poly Uなし)の配列である(配列番号53)。
【
図30】実施例で作製したpoly Uの配列である(配列番号54)。
【
図31】実施例で作製したOVA sense鎖の配列である(配列番号55)。下線部がopen reading flameである。
【
図32】実施例で作製したpoly Uの配列である(配列番号56)。
【
図33】実施例で使用したガウシアルシフェラーゼ(Gluc)のコード配列である(配列番号57)。
【
図34】実施例で使用した卵白アルブミン(OVA)のコード配列である(配列番号58)。
【
図35】二本鎖RNAを樹状細胞株(DC2.4)へ導入し、ルシフェラーゼ発現量を確認した結果を示す図である。
【
図36】実施例で作製した3つのpoly Uの配列である。(A)各poly Uの作製方法、及び(B)各poly Uの配列(それぞれ、配列番号56、54及び59)。
【0029】
【
図38】二本鎖RNAを樹状細胞株(DC2.4)へ導入した結果を示す図である。未投与に対するインターフェロンβの相対発現量。
【
図39】二本鎖RNAを樹状細胞株(DC2.4)へ導入した結果を示す図である。未投与に対するインターロイキン6の相対発現量。
【
図40】二本鎖RNAを樹状細胞株(DC2.4)へ導入した結果を示す図である。一本鎖RNAに対するLucの相対発現量。
【
図41】実施例で使用したベクターの配列である(配列番号65)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の実施の形態は本発明を説明するための例示であり、本発明はその要旨を逸脱しない限りさまざまな形態で実施することができる。また、本明細書において引用した全ての刊行物、例えば、先行技術文献及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、その全体が本明細書において参照として組み込まれる。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2016-252487号(2016年12月27日出願)及び特願2016-252488号(2016年12月27日出願)の特許請求の範囲、明細書、及び図面の開示内容を参照して組み込むものとする。
【0031】
ここでは、mRNAと、mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つの修飾されたRNAオリゴマーとを含む二本鎖RNAを含む、機能化mRNAが提供される。以下、機能化mRNAの各態様について説明する。
【0032】
1.本発明の第1の態様
1.1.本発明の第1の態様の概要
mRNAの塩基修飾では、従来は、自由な化学修飾の設計が困難であった。そこで、本発明者らは、mRNAと相補的な配列を持つRNAオリゴマーに化学修飾を行い、それをmRNAにハイブリダイズさせることで、mRNAの化学修飾を行うことができないかと考えた(
図1)。この場合、mRNA自体は天然のものであるため、翻訳の過程は障害されず、自由な化学修飾が可能になることが期待された。一方でハイブリダイズを行うことによる翻訳過程の障害も懸念されたため、まず、様々な鎖長のRNAオリゴマーをハイブリダイズさせ、翻訳効率への影響を調べた。すると、RNAオリゴマー鎖長を長くすればするほど翻訳効率が低下していく傾向にあることが明らかとなった。一方で、17~40塩基のRNAオリゴマーでは、ハイブリダイズに伴う発現の低下を十分に防ぐことができることがわかった(
図2)。特に、17塩基のオリゴマーでは、ハイブリダイズに伴う発現の低下がほとんど見られなかった(
図2)。これらのことから、12~40塩基のRNAオリゴマーを用いることで、翻訳効率を十分に維持することができることが分かった。
【0033】
次に、化学修飾の1例として、コレステロール(Chol)修飾RNAオリゴマーのハイブリダイズを検討した(
図17)。Chol修飾を行うとmRNA輸送担体にmRNAを搭載した際、輸送担体が疎水性相互作用により安定化され、結果的にmRNAの酵素分解を防ぐことができることが期待された(
図17)。mRNA輸送担体として、生体適合性ポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)で覆われた高分子ミセルを用いた(
図3、
図17)。この高分子ミセルは、とりわけin vivo環境で高い安全性及びmRNA導入効率を示すことが明らかとなっている。
【0034】
Chol修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAを搭載した高分子ミセルの血清中での酵素耐性を調べたところ、ハイブリダイズにより酵素耐性が顕著に向上することが明らかとなった(
図4)。結果的に、培養細胞に対するmRNAの導入効率を有意に向上させることに成功した(
図7)。また、生体内は、ポリアニオンが豊富に存在することから、ポリアニオン存在下での高分子ミセルの安定性は重要であるが、実際に本技術によりポリアニオン存在下でミセルの崩壊が抑制された(
図5)。さらに、マウスの経気道肺投与において、mRNA導入効率を比較したところ、ここでもハイブリダイズによる導入効率向上効果が得られた(
図13)。以上のことから、本発明の第1の態様により、mRNA搭載輸送担体(例えば、高分子ミセル)が安定化され、結果的にmRNA酵素分解を様々な環境下で抑制できることが明らかとなった。また、このようなChol修飾オリゴマーによる安定化効果は、複数の高分子ミセルの組成において得られており(
図11)、mRNAの酵素耐性を向上させるための汎用性の高いプラットフォームと言える。
【0035】
RNAオリゴマーに関して、Chol基を5’及び3’のどちらの末端に修飾しても、安定性及びmRNAからのタンパク質発現効率に大きく影響しなかった(
図8)。また、RNAオリゴマーの相補配列とChol基との間にハイブリダイズしないオーバーハング配列を挿入することもできる。例えば、Cholが修飾されたブロック共重合体を用いた場合、オーバーハング配列がない場合と比較して、2塩基のオーバーハング配列がある場合でより高い安定化効果が得られる傾向があった(
図4(A)及び(C))。一方で、Cholが修飾されていないブロック共重合体を用いた場合は、オーバーハング配列がなくてもより優れた安定化効果が得られた(
図4(B)及び(D))。
【0036】
ハイブリダイズするChol修飾RNAオリゴマーの数に関して、1つだけでも非常に高い安定性向上効果が得られたが、数を増やすにしたがって、安定性はさらに向上した(
図6、11)。一方で、数を大きく増やすと過度の安定化による、mRNA翻訳の阻害の傾向が見られた(
図9)。投与システムにより求められる安定性は異なるので、それに伴ったChol修飾オリゴマーの最適な数も異なると想定される。
【0037】
RNAオリゴマーに化学修飾を行い、それをmRNAにハイブリダイズさせることで、mRNAを自由に化学修飾できると考えられる。しかし、ハイブリダイズすることにより、mRNAからの翻訳効率が低下してしまうことが懸念されるため、化学修飾したmRNAをハイブリダイズしてmRNAの酵素分解の抑制に用いるという検討は行われてこなかった。
【0038】
本発明者らは、様々な鎖長のRNAオリゴマーをハイブリダイズさせて検討を行ったところ、安定なハイブリダイズを形成できる鎖長をもち、翻訳効率に影響しない組成として12~40塩基の相補配列を持つものがよいということを見出した。また、化学修飾RNAオリゴマーのハイブリダイズを用いた高分子ミセルの安定化において、化学修飾位置に関して5’末端でも3’末端でもよいことを見出した(
図8)。また、RNAオリゴマーの相補配列とChol基との間に、オーバーハング配列がなくてもよいし、あるいは1~5塩基のオーバーハング配列があってもよいことを見出した。これらの特徴を持つ化学修飾RNAオリゴマーを用いることで、比較的高い酵素分解抑制効果が得られることは、従来の生物学的知見からは予想されない結果である。
さらに本発明の第1の態様は、mRNA自体、又は様々な輸送担体(例えば、高分子ミセル)においてmRNAの酵素分解を抑制できる汎用性がある技術である。
【0039】
1.2.二本鎖RNAおよび輸送担体
本発明の第1の態様は、目的遺伝子をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーとを含む二本鎖RNAであって、
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されていない又は化学修飾されている、二本鎖RNAを提供する。
【0040】
二本鎖RNAは、輸送担体に内包されていてよい。あるいは、二本鎖RNAは輸送担体に内包されていなくてもよく、すなわちネイキッドの形態でもよい。前者の本発明の第1の態様は、目的遺伝子をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーとを内包した前記mRNAの輸送担体であって、
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されていない又は化学修飾されている、輸送担体を提供する。
【0041】
輸送担体は、核酸を内包して、対象の体内の好適な箇所に送達することができるものであればよく、特に限定されない。輸送担体は、例えば、高分子ミセル、脂質性mRNAキャリア、又はカチオン性ポリマー複合体であり、より好ましくは、高分子ミセル又は脂質性mRNAキャリアである。
【0042】
高分子ミセルは、凝縮した核酸とカチオン性ポリマーで形成される内核と親水性ポリマーで形成される外殻との二層構造を有している。カチオン性ポリマーは、例えば、ポリアミノ酸誘導体である。親水性ポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール(「PEG」)である。内核は、mRNAを物理的又は化学的に封入する。外殻は、その物理化学的な性質によって、内殻に封入されたmRNAを所定の組織に送達する。高分子ミセルは、エンドサイトーシスによって細胞内に入り込むことができる。高分子ミセルは、例えば、ブロックポリマー上のポリカチオンと核酸の相互作用(ポリイオンコンプレックス(「PIC」))を利用することもできるほか、それと無機分子とのハイブリッドミセルを利用することもできる。PIC型高分子ミセルとしては、例えば、PEG-PAsp(DET)-Chol、PEG-PAsp(DET)、PEG-PLysとmRNAの多分子会合により形成されるPICミセル(後述の実施例を参照)や、PAsp(TET)、PAsp(TEP)といった別のポリカチオンをブロック共重合体に用いたもの(Uchida,S.,et al.,Biomaterials(2016)82,p.221-228)及びトリブロック共重合体を用いたもの(Osawa,S.,et al.Biomacromolecules 17,p354-361(2016))が挙げられる。無機分子とのハイブリッドミセルとしては、例えば、PEG化リン酸カルシウム(CaP)粒子(Pittela,et al.,Biomaterials(2011)32,p.3106-3114)、PEG化シリカ粒子(Miyata,K.,et al.Biomaterials(2010)31,p4764-4770)が挙げられる。
【0043】
脂質性mRNAキャリアは、リピッドまたはカチオニックリピッドをキャリアとして形成され、そしてmRNAが内包もしくは結合された形態にある。例えば、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)、1、2-ジオレオイルオキシ-3-(トリメチルアンモニウム)プロパン(DOTAP)、N-[1-(2、3-ジミリスチルオキシ)プロピル]-N、N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムブロミド(DMRIE)又はDC-Cholesterolといったカチオン性脂質;ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)又はジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)といった中性リン脂質;PEG化脂質;及びコレステロールからなる群より選択される一つまたは複数からなり、それとmRNAを混合して得られるものである。
【0044】
カチオン性ポリマー複合体は、例えば、直鎖状もしくは分枝状ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、キトサン誘導体、ポリメタクリル酸誘導体とmRNAの混合物である。
【0045】
これらの輸送担体は、公知の方法又はそれに準ずる方法にて調製することができる。
いくつかの態様では、輸送担体に内包させるmRNAの量は、輸送担体中のカチオン電荷(+)とmRNAのアニオン電荷(-)の比(+/-比)において、例えば、0.5~200であり、好ましくは1~50であり、より好ましくは1~10である。
【0046】
目的遺伝子は、当業者であれば目的に応じて適宜選択することができる。目的遺伝子は、例えば、レポーター遺伝子、成長因子遺伝子、細胞増殖因子遺伝子、細胞増殖抑制因子遺伝子、細胞死促進因子遺伝子、細胞死抑制因子遺伝子、癌抑制遺伝子、転写因子遺伝子、ゲノム編集遺伝子又はワクチン抗原遺伝子である。例えば、特定の細胞を増殖させることが必要な対象に対して該特定の細胞の増殖因子遺伝子をコードするmRNAを内包する輸送担体を投与することで、該対象における疾患や状態を処置することができる。
【0047】
レポーターとしては、例えば、発光タンパク質、及び蛍光タンパク質が挙げられる。
【0048】
成長因子としては、例えば、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、血小板由来成長因子(PDGF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF又はFGF-2)及び肝細胞増殖因子(HGF)が挙げられる。
【0049】
細胞増殖抑制因子としては、例えば、p21、p17、p16及びp53が挙げられる。
【0050】
細胞死促進因子としては、例えば、Smac/Diablo、アポトーシス誘導因子(AIF)、HtrA2、Bad、Bim、Bax、p53、カスパーゼ1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10(例えば、カスパーゼ2、3、6、7、8、9及び10、好ましくはカスパーゼ3、6及び7)、Fasリガンド(FasL)、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)並びにFoxO1が挙げられる。
【0051】
細胞死抑制因子としては、例えば、抗アポトーシス因子(例えば、FLIP、Mcl-1、Xiap、crmA、Bcl-2及びBcl-xL)が挙げられる。
【0052】
癌抑制遺伝子としては、例えば、p53、網膜芽細胞腫遺伝子(Rb)、大腸腺腫症遺伝子(APC)、神経線維腫症1型遺伝子(NF1)、神経線維腫症2型遺伝子(NF2)、WT1、VHL、BRCA1、BRCA2、CHEK2、マスピン、p73、Smad4、MSH2、MLH1、PMS2、DCC、ホスファターゼテンシンホモログ(PTEN)、SDHD、p16、p57Kip2、PTC、TSC1、TSC2、EXT1及びEXT2が挙げられる。
【0053】
転写因子としては、例えば、Runt関連転写因子1(Runx1)、p53、c-fos、c-Jun、CREB、C/EBP、MyoD、c-Myc、c-Myb、Oct3/4、NF-κB、NF-AT、Mef-2及び細胞外シグナル応答因子(SRF)が挙げられる。
【0054】
ゲノム編集遺伝子としては、例えば、zinc finger nuclease(ZNF)、transcription activator like effector nuclease(TALEN)及びclustered,regularly interspaced,short palindromic repeat(CRISPR)/CRISPR-associated(Cas)9遺伝子が挙げられる。
【0055】
ワクチン抗原遺伝子としては、例えば、病原体抗原及び腫瘍特異的抗原が挙げられる。
【0056】
mRNAは、メッセンジャーRNAを意味し、通常、5’非翻訳領域(5’UTR)とコード領域と3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む。mRNAは、さらに、通常、5’末端のキャップ構造(5’Cap)と3’末端のpoly A配列を含む。
ここで用いるmRNAは、次のいずれかのものであってよい。
(1)5’Cap、5’UTR、コード領域、3’UTR、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
(2)5’Cap、5’UTR、コード領域、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
(3)5’UTR、コード領域、3’UTR、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
(4)5’UTR、コード領域、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
(5)5’Cap、5’UTR、コード領域、及び3’UTRをこの順に含むmRNA。
(6)5’Cap、5’UTR、コード領域をこの順に含むmRNA。
(7)5’UTR、コード領域、及び3’UTRをこの順に含むmRNA。
(8)5’UTR、コード領域をこの順に含むmRNA。
【0057】
目的遺伝子をコードするmRNAは、公知の方法により、目的遺伝子をコードするテンプレートDNAをin vitro環境下で転写することで作製することができる。例えば、Blood 108(13)(2006)4009-17に記載の方法に従って、作製することができる。具体的には、タンパク質コード配列の下流にpoly A/T鎖が組み込まれた鋳型DNAをpoly A/T鎖のすぐ下流で切断し、翻訳酵素、ヌクレオシド、5’キャップアナログを含むバッファー溶液中にてin vitro転写を行い、その後、mRNAを精製することで作製することができる。mRNAのより具体的な調製方法は後述の実施例に記載した通りである。
【0058】
いくつかの態様では、mRNA自体の塩基の化学修飾は行わない。この場合、mRNA自体は天然のものであるため、翻訳の過程はほとんど障害されないことが期待できる。別のいくつかの態様では、mRNA自体の塩基の化学修飾を行う。mRNA自体の塩基の化学修飾は、例えば、mRNAの酵素耐性を向上させることや免疫原性を軽減できることが知られているものである。そのようなmRNA自体の化学修飾塩基は、例えば、メチル化塩基(例えば、5-メチルシトシン)、硫黄修飾塩基(例えば、2-チオウリジン)、シュードウリジン、N1メチルシュードウリジン及び5メトキシウリジンが挙げられる。
【0059】
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含むRNA鎖である。
【0060】
「90%以上の同一性を有するRNA配列」における「90%以上」の範囲は、例えば、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上である。上記同一性の数値は、一般的に大きいほど好ましい。なお、RNA配列の同一性は、BLAST(例えば、Altzshul S.F.et al.,J.Mol.Biol.215,403(1990)参照)等の解析プログラムを用いて決定できる。BLASTを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0061】
「mRNAにハイブリダイズする」とは、後述のハイブリダイズ条件で、RNAオリゴマーがmRNAにハイブリダイズすることを意味する。
【0062】
RNAオリゴマーは、mRNAの連続する12~40塩基の配列にハイブリダイズするように設計されている。いくつかの態様では、RNAオリゴマーの配列は、mRNAの配列に相補的な12~30塩基の配列からなる。より好ましくは、RNAオリゴマーの配列は、mRNAの配列に相補的な15~23塩基の配列からなるものである。さらに好ましくは、RNAオリゴマーの配列は、mRNAの配列に相補的な17塩基の配列からなるものである。
【0063】
RNAオリゴマーをハイブリダイズさせるmRNA中の位置は、5’UTR、コード領域、3’UTR、及びpoly A配列のいずれの位置でもよい。RNAオリゴマーは、mRNAの2次構造を予測し、mRNA鎖が2次構造を持たない部分に対してハイブリダイズするようにRNAオリゴマーを設計するのが望ましい。すなわち、RNAオリゴマーは、mRNA全配列のうち2次構造を持たない部分に対してハイブリダイズするように設計するのが好ましい。mRNAの2次構造を予測するソフトウエアとしては、例えば、後述の実施例に記載のものが挙げられる。
【0064】
いくつかの態様では、RNAオリゴマーは、mRNAのポリAの配列にハイブリダイズするように設計する。
【0065】
オリゴRNAの化学修飾は、オーバーハング配列を介さずに行ってよく、あるいは、オーバーハング配列を介して行ってもよい。ここで、「オーバーハング配列」は、mRNAにハイブリダイズしない配列である。
【0066】
化学修飾は、オーバーハング配列を介さずに行う場合、オリゴRNAは、好ましくは、前記(a)又は(b)のRNA配列のみからなる。この場合、化学修飾は、RNAオリゴマーの配列の例えば5’末端又は3’末端に行う。いくつかの態様では、輸送担体が、疎水性基により修飾されていない輸送担体(例えば、疎水性基により修飾されていないブロック共重合体)であるときに、オリゴRNAの化学修飾はオーバーハング配列を介さずに行う。
【0067】
一方、化学修飾は、オーバーハング配列を介して行う場合、オリゴRNAは、好ましくは、前記(a)又は(b)のRNA配列とオーバーハング配列からなる。この場合、化学修飾は、RNAオリゴマーの前記(a)又は(b)のRNA配列の5’末端又は3’末端に、1~5塩基のオーバーハング配列を介して行う。化学修飾をオーバーハング配列を介して行う場合、オーバーハング配列の鎖長は、好ましくは、1~4塩基であり、より好ましくは、1~3塩基であり、さらに好ましくは、2塩基である。オーバーハング配列の鎖長が1~5塩基あれば、比較的高いmRNA安定化効果が期待できる。いくつかの態様では、輸送担体が、疎水性基により修飾された輸送担体(例えば、疎水性基により修飾されたブロック共重合体)であるときに、オリゴRNAの化学修飾は、1~5塩基のオーバーハング配列を介してRNAオリゴマーの前記(a)又は(b)のRNA配列の5’末端又は3’末端になされる。
【0068】
RNAオリゴマーに関して、オーバーハング配列を介して前記(a)又は(b)のRNA配列の5’末端及び3’末端のどちらの末端を化学修飾してもよい。ここでは、オーバーハング配列を介して化学修飾したRNAオリゴマーを、「化学修飾オリゴマー」という場合がある。
【0069】
化学修飾は、例えば、ネイキッドの二本鎖RNA又はmRNA輸送担体を安定化させることができる修飾である。そのような化学修飾としては、例えば、疎水性基による修飾、ポリエチレングリコールによる修飾が挙げられる。疎水性基による修飾としては、コレステロール修飾、及びトコフェロール修飾が挙げられる。疎水性基による修飾を行うとmRNA輸送担体にmRNAを搭載した際、輸送担体が疎水性相互作用により安定化され、結果的にmRNAの酵素分解を防ぐことができることが期待できる。いくつかの態様では、疎水性基による修飾は、コレステロール修飾である。疎水性基による修飾は、例えば、(S.L.Beaucage,et al.,Tetrahedron Letters(1981)22,p.1859-1862)に記載のホスホロアミダイト法又はそれに準ずる方法にて行うことができる。疎水性基による修飾は、例えば、次のようにして行うことができる。RNAオリゴマーを合成した後、アミダイト化した疎水性基とRNAオリゴマーの5’末端OH基を反応させることで、5’末端に疎水性基を導入したRNAオリゴマーを得ることができる。また、OH基末端の疎水性基からホスホロアミダイト法によりRNA合成を行うことで、3’末端に疎水性基を導入したRNAオリゴマーを得ることができる。
尚、「化学修飾」の定義には、5’末端のトリリン酸構造は含まれない。
【0070】
ポリエチレングリコール(PEG)による修飾を行うと、mRNA輸送担体にmRNAを搭載した際、輸送担体がポリエチレングリコール鎖により覆われ、そのステルス性により安定化されることに加え、ポリエチレングリコール鎖のシールディング効果により表面電位が減少し、カチオン性タンパク質である分解酵素からの認識を抑えることができる。その結果、mRNAの酵素分解を防ぐことができることが期待できる。ポリエチレングリコールによる修飾は、例えば、文献M.Oishi,etal.,ChemBioChem 6(4),2005,718-725に記載の方法又はそれに準ずる方法にて行うことができる。より具体的には、DMS(O)MT-AMINO-MODIFIER(GLENRESERCH)などの開始剤を用いてRNAオリゴマーを合成し、脱保護することで5’末端アミノ化RNAオリゴマーを得る。この5’末端アミノ化RNAオリゴと例えばPEG-N-hydroxysuccinimideと反応させることでPEG化RNAオリゴマーを得ることができる。用いるポリエチレングリコールとしては、例えば、重量平均分子量1,000~80,000の直鎖状のPEGや、同分子量の2分岐型、4分岐型、8分岐型などの分岐状のPEGなどが挙げられる。
【0071】
mRNAにハイブリダイズさせる化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーの数は、少なくとも1つであり、好ましくは1~50個であり、より好ましくは1~15個であり、さらに好ましくは、1~5個である。RNAオリゴマーの数を増やすにしたがって、mRNAの安定性はさらに向上する。RNAオリゴマーの数が1~50個の範囲であれば、mRNAの翻訳効率を比較的高いレベルに維持することができる。
【0072】
複数の化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーをmRNAにハイブリダイズさせる場合、いくつかの態様では、それぞれの化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーがmRNA上で重ならないようにRNAオリゴマーを設計する。
【0073】
RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズは、公知の方法及び条件により行うことができる。ハイブリダイズでは、加温して、一定時間静置したのち、徐々に温度を低下させる。加温は、mRNAやオリゴマーの分子内、分子間にあらかじめ存在する相補的結合を解くことで、mRNAとオリゴマーをより効率的に結合させることを目的として行う。適切なハイブリダイズが保証されるならば、その温度時間は適宜調整可能である。温度低下は緩やかな方がハイブリダイズの特異性が増す。また、オリゴマー鎖長は、ハイブリダイズの条件設定に大きく影響しない。ハイブリダイズ効率を評価しながら、適宜条件を設定するべきである。例えば、後述の実施例に記載の方法及び条件が挙げられる。
【0074】
また、本発明の第1の態様は、目的遺伝子をコードするmRNAに、少なくとも1つのRNAオリゴマーをハイブリダイズさせて二本鎖RNAを得ることを含み、
RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されていない又は化学修飾されている、mRNAの安定化方法を提供する。
【0075】
安定化方法において、化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAは、輸送担体に内包されていてよい。あるいは、化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAは輸送担体に内包されていなくてもよく、すなわちネイキッドの形態でもよい。好ましくは、化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAは、輸送担体に内包されていている。前者の本発明の第1の態様は、目的遺伝子をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーとを輸送担体に内包させることを含み、RNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなるRNA配列、又は
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズするRNA配列
を含み、かつ化学修飾されていない又は化学修飾されている、輸送担体の安定化方法も提供する。
【0076】
安定化方法に用いる、mRNA、RNAオリゴマー、輸送担体、化学修飾等は、前記輸送担体に関する説明で記載した通りである。
【0077】
1.3.医薬組成物
本発明の第1の態様は、前記二本鎖RNA又は輸送担体を含有する医薬組成物を提供する。医薬組成物は、mRNA、又はmRNAを内包する輸送担体を、対象の体内に送達することに用いられる。
【0078】
「対象」は、ヒト、又はヒト以外の生物、例えば、トリ及び非ヒト哺乳動物(例えば、ウシ、サル、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、及びウマ)である。
【0079】
医薬組成物は、対象に対し、静脈内投与、動脈内投与、経口投与、組織内投与(例えば、膀胱内投与、胸腔内投与、腹腔内投与、眼内投与、脳内投与)、経皮投与、経粘膜投与、経肺投与又は経直腸投与することができる。特に静脈内投与、経皮投与、経粘膜投与が望ましい。これらの投与に適した剤型、例えば、各種の注射剤、経口剤、点滴剤、吸入剤、点眼剤、軟膏剤、ローション剤、座剤で投与される。投与量、投与回数及び投与期間などの各条件は、mRNAの種類、剤型、年齢や体重等の対象の状態、投与経路、疾患の性質や程度を考慮した上で、当業者であれば適宜設定することができる。
【0080】
医薬組成物は、各種疾患の原因となる細胞に所望の遺伝子をコードするmRNAを導入する治療に用いることができる。よって、本発明の第1の態様は、医薬組成物を、各種疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、各種疾患の治療方法を提供することもできる。なお、投与量、投与回数及び投与期間などの各条件は前記と同様である。
【0081】
治療する各種疾患は、例えば、癌、ウイルス性疾患、代謝性疾患、循環器疾患、神経疾患、腎泌尿器疾患、血液学的悪性疾患、アポトーシスの促進又は抑制が所望される疾患、膠原病、呼吸器疾患及び消化器疾患が挙げられる。
【0082】
医薬組成物については、薬剤製造上一般に用いられる賦形材、充填材、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤及び等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。静脈内注射剤(点滴を含む)とする場合、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態等で提供される。
【0083】
いくつかの態様では、mRNAの投与量は、mRNAの種類、剤型、年齢や体重等の対象の状態、投与経路、疾患の性質や程度を考慮した上で、例えば、成人に対して、1日当たり0.1mg~5g/ヒトの範囲内が、好ましくは1mg~2gの範囲内が一般的である。この投与量は、標的とする疾患の種類、投与形態、標的分子によっても異なる場合がある。従って、場合によってはこれ以下でも十分であるし、また逆にこれ以上の用量を必要とするときもある。また1日1回から数回の投与又は1日から数日間の間隔で投与することができる。
【0084】
1.4.mRNA送達用キット
本発明の第1の態様のmRNA送達用キットは、前記化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAを含むことを特徴とするものである。化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAは、輸送担体に内包されていてよい。あるいは、化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAは輸送担体に内包されていなくてもよく、すなわちネイキッドの形態でもよい。好ましくは、化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAは、輸送担体に内包されていている。前者の本発明の第1の態様のmRNA送達用キットは、輸送担体を含むことを特徴とするものである。当該キットは、例えば、前記化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNA又は輸送担体を用いた各種疾患の治療方法に好ましく用いることができる。
【0085】
キットにおいて、前記化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNA又は輸送担体の保存状態は、限定はされず、その安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して溶液状又は粉末状等の状態を選択できる。
【0086】
キットは、前記化学修飾されていないRNAオリゴマー又は化学修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNA又は輸送担体以外に、他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、例えば、各種バッファー及び使用説明書(使用マニュアル)を挙げることができる。
【0087】
2.本発明の第2の態様
2.1.本発明の第2の態様の概要
mRNA自体は免疫原性が低いために炎症反応を惹起しにくい。そのため、従来の一本鎖のmRNAを用いたワクチンは、効果的に炎症反応を惹起するためのアジュバント併用が避けられなかった。
【0088】
ここで、RNAを二本鎖にするとより強い炎症反応が誘導されることが知られている。そこで、本発明者らは、抗原タンパク質をコードする一本鎖のmRNAに対して、そのmRNAに相補的な配列を持つRNA鎖(「相補鎖RNA」)をハイブリダイズさせ二本鎖RNAとして投与することに着想した。相補鎖RNAからのタンパク質発現が起こらない制御を加えることで、二本鎖RNAが目的とするタンパク質発現を得つつ、十分な免疫誘導を同時に達成することが期待できる。また、RNA分子自体は生体内に存在し、外来物質を用いるわけではないので、二本鎖RNAを用いる場合、比較的高い安全性が担保されると考えられる。
【0089】
mRNAの全長に対して相補鎖RNAをハイブリダイズさせた場合、ハイブリダイズさせていないmRNAと比べ、非常に強い炎症反応が見られたものの(
図23(A))、mRNAからのタンパク質発現効率が1/100以下に低下した(
図23(B))。そこで、本発明者らは、より短い相補鎖を部分的にハイブリダイズさせることに着想した。二本鎖を形成させる部位としてコード配列にハイブリダイズさせた場合は、タンパク質発現効率が低下したが、3’末端に付加されるpoly A配列に相補鎖(poly U)を主にハイブリダイズさせると、タンパク質発現効率をほとんど低下させることなく(
図23(B))、強い炎症反応を惹起することが分かった(
図23(A))。
【0090】
そこで、本発明の第2の態様は、抗原をコードするmRNAと、当該mRNAの少なくともpoly A配列にハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーからなる二本鎖RNAを含み、前記少なくとも1つのRNAオリゴマーは化学修飾されていない又は化学修飾されている、mRNAワクチンを提供する。本発明の第2の態様のmRNAワクチンは、効率よいタンパク質発現及び免疫誘導能を共に達成することができる。
【0091】
本発明の第2の態様のmRNAワクチンを用いて、実際にワクチンの効果を向上できるかについて、マウスにおける免疫誘導能を細胞性免疫に着目して評価した(
図25(A))。ここでは、モデル抗原として卵白アルブミン(OVA)を用い、OVA発現mRNAをマウスの鼠径リンパ節に投与した。続いて、その1週間後の脾臓の細胞を回収し、その中でOVAに特異的に反応する細胞の数をELISPOT法にて評価した。すると、リンパ節に投与した場合に、poly A配列に相補鎖RNA(poly U)をハイブリダイズさせたmRNAが、ハイブリダイズしていないmRNAと比べて、有意に強く抗原特異的な細胞性免疫を誘導していることが明らかとなった(
図25(B))。このように、本発明の第2の態様のmRNAワクチンを用いることで、細胞性免疫誘導効果が向上することが、実証された。
【0092】
さらに、本発明の第2の態様のmRNAワクチンを用いてマウスにおける免疫誘導能を液性免疫について評価したところ(
図26(A))、poly A配列に相補鎖RNA(poly U)をハイブリダイズさせたmRNAが、ハイブリダイズしていないmRNAと比べて、有意に強く抗原特異的な液性免疫を誘導していることが明らかとなった(
図26(B))。
【0093】
poly A配列にpoly UをハイブリダイズさせたmRNAが炎症反応を惹起するメカニズムに関する検証も行った。二本鎖RNA認識において細胞内受容体であるRIG-Iが重要な役割を担うことが知られている。そして、RIG-Iと二本鎖RNAの結合において、片方のRNA鎖の5’末端がトリリン酸化されていることが重要であるとの報告もある。5’末端がトリリン酸化された相補鎖RNA(poly U)をpoly A配列にハイブリダイズしたmRNAを用いた場合、5’末端がトリリン酸化されていない相補鎖RNA(RNA ppp(-))をpoly A配列にハイブリダイズしたmRNAを用いた場合と比較して、より強い炎症反応が惹起されることが分かった(
図23(A))。従って、RIG-Iがpoly A配列をハイブリダイズさせたmRNAに対する炎症反応に強く関わっていることが示唆された。
【0094】
ここで、poly Uをハイブリダイズさせた時は炎症反応が惹起された一方で、タンパク質コード配列に対する相補鎖をハイブリダイズさせた時はあまり炎症が起きなかった(
図23(A))。用いる相補鎖に依存してRIG-Iによるトリリン酸認識が異なることが強く示唆されるが、poly Uの場合、5’末端がmRNA末端に露出され、トリリン酸が立体的にRIG-Iに認識されやすくなった可能性、トリリン酸周囲の配列にUを多く含むが、AU結合が弱いのでトリリン酸の運動性が高まり、認識されやすくなった可能性等が想定される。このように相補鎖の選択がRIG-Iを介した自然免疫応答に重要である可能性が強く示唆された。
【0095】
一般的に二本鎖RNAは細胞内に導入されると強い炎症反応が惹起されることは知られる。しかし、mRNAに対して全長の相補鎖を結合させると、mRNAからのタンパク質発現を阻害してしまうことが分かった。本発明の第2の態様では、poly A配列を中心に、相補鎖を部位特異的にハイブリダイズさせることで、mRNAからのタンパク質発現を保ったまま炎症反応を惹起することができる。
【0096】
2.2.mRNAワクチン
本発明の第2の態様は、抗原をコードするmRNAと、当該mRNAの少なくともpoly A配列にハイブリダイズした少なくとも1つのRNAオリゴマーからなる二本鎖RNAを含み、前記少なくとも1つのRNAオリゴマーは化学修飾されていない又は化学修飾されている、mRNAワクチンを提供する。
【0097】
2.2.1.mRNA
mRNAは、メッセンジャーRNAを意味し、通常、5’非翻訳領域(5’UTR)とコード領域と3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む。mRNAは、さらに、通常、5’末端のキャップ構造(5’Cap)と3’末端のpoly A配列を含む。
mRNAワクチンに用いるmRNAは、次のいずれかのものであってよい。
(1)5’Cap、5’UTR、コード領域、3’UTR、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
(2)5’Cap、5’UTR、コード領域、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
(3)5’UTR、コード領域、3’UTR、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
(4)5’UTR、コード領域、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
mRNAワクチンに用いるmRNAは、公知の方法により、目的遺伝子をコードするテンプレートDNAをin vitro環境下で転写することで作製することができる。例えば、Blood 108(13)(2006)4009-17に記載の方法に従って、作製することができる。具体的には、タンパク質コード配列の下流にpoly A/T鎖が組み込まれた鋳型DNAをpoly A/T鎖のすぐ下流で切断し、翻訳酵素、ヌクレオシド、5’キャップアナログを含むバッファー溶液中にてin vitro転写を行い、その後、mRNAを精製することで作製する。mRNAのより具体的な調製方法は、後述の実施例に記載の通りである。
【0098】
mRNAのコード領域によってコードされる抗原としては、免疫応答を誘発するのに好適な公知の抗原から任意に選択することができる。抗原としては、より具体的には、腫瘍抗原、ウイルス由来抗原、細菌由来抗原、真菌由来抗原、原生生物由来抗原、動物由来抗原、植物由来抗原、自己免疫疾患の自己抗原などが挙げられる。mRNAにコードされる抗原は、1つの抗原であってもよいし、あるいは、2つ以上(例えば、2つ、3つ、4つ又は5つ以上)の同一又は異なる抗原であってもよい。本発明の第2の態様のいくつかの態様では、mRNAのコードされる抗原は、1つの抗原である。
【0099】
mRNAのpoly A配列の長さは、例えば、10~500塩基であり、好ましくは、30~300塩基であり、より好ましくは、60~250塩基である。
【0100】
mRNAの5’UTRと3’UTRの配列は、天然に生じる配列と100%の配列同一性を有するものとしてよく、あるいは、部分的又はその全体を他の5’UTR及び/又は3’UTRの配列と置換してもよい。他の5’UTR及び/又は3’UTRの配列としては、例えば、グロビン、hydroxysteroid(17-β)dehydrogenase 4、又はアルブミンをコードするmRNAの5’UTR及び/又は3’UTRの配列が挙げられる。
【0101】
いくつかの態様では、mRNAは修飾されていない。この場合、mRNA自体は天然のものであるため翻訳の過程はほとんど障害されないことが期待できる。
【0102】
別のいくつかの態様では、mRNAをさらに安定化させるためにmRNAは修飾されている。mRNAの修飾としては、mRNAの塩基の化学修飾、mRNAのコード領域のG/C含量の修飾、mRNAのCap構造の修飾などが挙げられる。
【0103】
mRNAの塩基の化学修飾は、例えば、mRNAの酵素耐性を向上させることが知られているものである。そのようなmRNA自体の化学修飾塩基は、例えば、メチル化塩基(例えば、5-メチルシトシン)、硫黄修飾塩基(例えば、2-チオウリジン)、シュードウリジン、N1メチルシュードウリジン及び5-メトキシウリジンが挙げられる。
【0104】
mRNAのコード領域のG/C含量の修飾は、G(グアニン)/C(シトシン)の含有量が多くなるように修飾することであり、これにより、より安定なmRNAとすることができる。
【0105】
mRNAのCap構造の修飾は、5’側の1番目もしくは2番目のリボースの2位をメトキシ基とすることであり、これにより、発現効率が向上することも知られている。
mRNAの調製及び修飾は、公知の方法又はそれに準ずる方法により行うことができる。
【0106】
2.2.2.RNAオリゴマー
本発明の第2の態様では、mRNAの少なくともpoly A配列に少なくとも1つのRNAオリゴマーがハイブリダイズしている。また、当該RNAオリゴマーは、化学修飾を含まないものである。
【0107】
1つのRNAオリゴマーがハイブリダイズするmRNAの配列は、例えば、次のいずれかの配列である。
(1)mRNAのpoly A配列中の連続する配列。
(2)mRNAの3’UTRとpoly A配列中の連続する配列。
(3)mRNAのコード領域とpoly A配列中の連続する配列。
【0108】
(1)mRNAのpoly A配列中の連続する配列の場合、poly A配列の全体(100%)又は一部には1つのRNAオリゴマーがハイブリダイズするが、その直前の配列(すなわち、3’UTR又はコード領域)には当該RNAオリゴマーはハイブリダイズしないように、RNAオリゴマーを設計する。ここで、poly A配列の一部は、poly A配列の全長の0%より大きく100%未満の塩基長、かつ、例えば10塩基長以上の塩基長(好ましくは17塩基長以上の塩基長)の配列である。mRNAのpoly A配列部分には、RNAオリゴマーがハイブリダイズする17塩基以上の相補配列があることが好ましい。
【0109】
mRNAを、poly A配列の直前に3’UTR配列を含む設計とする場合は、1つのRNAオリゴマーがハイブリダイズする配列が、(2)mRNAの3’UTRとpoly A配列中の連続する配列であってよい。この場合、poly A配列の全体(100%)又は一部とその直前の3’UTR配列の一部の連続する配列に1つのRNAオリゴマーがハイブリダイズするように、RNAオリゴマーを設計する。この場合、1つのRNAオリゴマーは、例えば、poly A配列の全長の0%より大きく100%未満の塩基長、かつ、例えば10塩基長以上の塩基長(例えば、10、11、12、13、14、15、16または17塩基長以上の塩基長、好ましくは17塩基長以上の塩基長)の配列とその直前の3’UTR配列の全長の0%より大きく100%未満の塩基長の配列にハイブリダイズするように設計される。mRNAのpoly A配列部分と3’UTR配列部分には、RNAオリゴマーがハイブリダイズする、合わせて17塩基以上の相補配列があることが好ましい。RNAオリゴマーがハイブリダイズするmRNAの3’UTR配列部分は短ければ短いほど好ましく、例えば、1~30塩基長であり、好ましくは、1~25塩基長であり、より好ましくは、1~2塩基長である。
【0110】
mRNAを、poly A配列の直前にコード配列を含む設計とする場合は、1つのRNAオリゴマーがハイブリダイズする配列が、(3)mRNAのコード配列とpoly A配列中の連続する配列であってよい。この場合、poly A配列の全体(100%)又は一部とその直前のコード配列の一部の連続する配列に1つのRNAオリゴマーがハイブリダイズするように、RNAオリゴマーを設計する。この場合、1つのRNAオリゴマーは、例えば、poly A配列の全長の0%より大きく100%未満の塩基長、かつ、例えば10塩基長以上の塩基長(例えば、10、11、12、13、14、15、16または17塩基長以上の塩基長、好ましくは17塩基長以上の塩基長)とその直前のコード配列の全長の0%より大きく100%未満の塩基長の配列にハイブリダイズするように設計される。mRNAのpoly A配列部分とコード配列部分には、RNAオリゴマーがハイブリダイズする、合わせて17塩基以上の相補配列があることが好ましい。RNAオリゴマーがハイブリダイズするmRNAのコード配列部分は短ければ短いほど好ましく、例えば、1~30塩基長であり、好ましくは、1~25塩基長であり、より好ましくは、1~2塩基長である。
【0111】
RNAオリゴマーは、具体的には、以下のものが挙げられる。
(a)上記(1)~(3)のいずれかの連続する配列に相補的な配列を有するRNAオリゴマー、または、
(b)上記(1)~(3)のいずれかの連続する配列に相補的な配列と90%以上の同一性を有するRNA配列を有し、かつ、mRNAにハイブリダイズするRNAオリゴマー。
【0112】
「90%以上の同一性を有するRNA配列」における「90%以上」の範囲は、例えば、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上である。上記同一性の数値は、一般的に大きいほど好ましい。なお、RNA配列の同一性は、BLAST(例えば、Altzshul S.F.et al.,J.Mol.Biol.215,403(1990)参照)等の解析プログラムを用いて決定できる。BLASTを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
「mRNAにハイブリダイズする」とは、後述のハイブリダイズ条件で、RNAオリゴマーがmRNAにハイブリダイズすることを意味する。
【0113】
RNAオリゴマーは、さらに、他の配列を含むようにしてもよいし、あるいは、他の配列を含まないようにしてもよい。「他の配列」は、例えば、RNAオリゴマーを作製する際に残ったプロモーター配列、制限酵素配列、その他、RNAオリゴマー設計の際止むを得ず残る配列、またはその一部である。「他の配列」を含み場合、「他の配列」の塩基長は、例えば、1~30塩基であり、好ましくは、1~25塩基であり、より好ましくは、1~2塩基である。
【0114】
RNAオリゴマーは、好ましくは、少なくとも10塩基の配列からなり、より好ましくは、少なくとも17塩基の配列からなり、さらに好ましくは、少なくとも30塩基の配列からなり、特に好ましくは少なくとも60塩基の配列からなる。また、いくつかの態様では、RNAオリゴマーは、好ましくは、10~500塩基の配列からなり、より好ましくは、17塩基~500塩基の配列からなり、さらに好ましくは、30~300塩基の配列からなり、特に好ましくは、60~250塩基の配列からなる。RNAオリゴマーの塩基長は、mRNAのpoly A配列の長さ等を考慮して適宜設計することができる。
いくつかの態様のRNAオリゴマーは、化学修飾を含まないものである。別のいくつかの態様のRNAオリゴマーは、又は化学修飾を含むものである。化学修飾は、例えば、疎水性基による修飾が挙げられる。疎水性基による修飾としては、コレステロール修飾、及びトコフェロール修飾が挙げられる。また、化学修飾としては、例えば、ポリエチレングリコール修飾も挙げられる。
尚、「化学修飾」の定義には、5’末端のトリリン酸構造は含まれない。
【0115】
RNAオリゴマーの調製は、公知の方法又はそれに準ずる方法により行うことができる。RNAオリゴマーは、テンプレートDNAよりin vitro転写にて作製される。原理上、RNAオリゴマーの調製は、前述のmRNAの作製とほぼ同様にして行うことができるが、mRNAは転写の際に5’キャップアナログを添加しているのに対して、RNAオリゴマーの作製の際はキャップアナログを添加せずに作製する。このように生物学的にRNAオリゴマーを調製した場合、5’末端にトリリン酸構造を有するものとすることができる。トリリン酸の除去方法は、後述の通りである。
【0116】
2.2.3.二本鎖RNA
二本鎖RNAは、前述のmRNAに少なくとも1つの前述のRNAオリゴマーがハイブリダイズしたものである。
【0117】
二本鎖RNAは、mRNAとRNAオリゴマーのハイブリダイゼーションにより調製することができる。ハイブリダイゼーションは、より具体的には、後述の実施例に記載の条件又はそれに準ずる条件にて行うことができる。1つのmRNAにハイブリダイズさせるRNAオリゴマーの数は、少なくとも1つであり、好ましくは1~5個であり、より好ましくは1~3個であり、さらに好ましくは、1~2個であり、特に好ましくは、1個である。
【0118】
RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズは、公知の方法及び条件により行うことができる。より具体的には、ハイブリダイズでは、加温して、一定時間静置したのち、徐々に温度を低下させる。加温は、mRNAやオリゴマーの分子内、分子間にあらかじめ存在する相補的結合を解くことで、mRNAとオリゴマーをより効率的に結合させることを目的として行う。適切なハイブリダイズが保証されるならば、その温度時間は適宜調整可能である。とりわけpoly Aやpoly Uは予め他の配列と結合している可能性は低く、より穏やかな加温条件の設定が可能である。温度低下は緩やかな方がハイブリダイズの特異性が増す。また、オリゴマー鎖長は、ハイブリダイズの条件設定に大きく影響しない。ハイブリダイズ効率を評価しながら、適宜条件を設定するべきである。例えば、後述の実施例に記載の方法及び条件が挙げられる。
【0119】
いくつかの態様では、二本鎖RNAは、RNAオリゴマーの5’末端のトリリン酸構造を有する。RNAオリゴマーの5’末端のトリリン酸構造を有するものとすることで、より強い炎症反応を惹起することができる。
別のいくつかの態様では、二本鎖RNAは、RNAオリゴマーの5’末端のトリリン酸構造を有さない。トリリン酸化を除く方法は、公知の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。トリリン酸化を除く方法としては、例えば、後述の実施例のように、Antarctic phosphatase(New England Biolabs,cat.no.M0289S)を用いる方法が挙げられる。
【0120】
いくつかの態様では、二本鎖RNAは、ネイキッドの形態である。すなわち、二本鎖RNAは、輸送担体を伴わない。
別のいくつかの態様では、二本鎖RNAは、輸送担体に内包される形態である。輸送担体は、二本鎖mRNAを内包して、対象の体内の好適な箇所に送達することができるものであればよく、特に限定されない。輸送担体は脂質性mRNAキャリア、又はカチオン性ポリマー複合体であり、より好ましくは、高分子ミセル又は脂質性mRNAキャリアである。
【0121】
高分子ミセルは、凝縮した核酸とカチオン性ポリマーで形成される内核と親水性ポリマーで形成される外殻との二層構造を有している。カチオン性ポリマーは、例えば、ポリアミノ酸誘導体である。親水性ポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール(「PEG」)である。内核は、mRNAを物理的又は化学的に封入する。外殻は、その物理化学的な性質によって、内殻に封入されたmRNAを所定の組織に送達する。高分子ミセルは、エンドサイトーシスによって細胞内に入り込むことができる。高分子ミセルは、例えば、ブロックポリマー上のポリカチオンと核酸の総合作用(ポリイオンコンプレックス(「PIC」))を利用することもできるほか、それと無機分子とのハイブリットミセルを利用することもできる。PIC型高分子ミセルとしては、例えば、PEG-PAsp(DET)-Chol、PEG-PAsp(DET)、PEG-PLysとmRNAの多分子会合により形成されるPICミセルや、PAsp(TET), PAsp(TEP)といった別のポリカチオンをブロック共重合体に用いたもの(Uchida, S., et al.,Biomaterials (2016)82,p.221-228)及びトリブロック共重合体を用いたもの(Osawa, S., et al. Biomacromolecules 17, p354-361 (2016))が挙げられる。無機粒子とのハイブリッド型高分子ミセルとしては、例えば、PEG化リン酸カルシウム(CaP)粒子(Pittela,et al.,Biomaterials(2011)32,p.3106-3114)、PEG化シリカ粒子(Miyata, K., et al. Biomaterials (2010)31, p4764-4770 )が挙げられる。
【0122】
脂質性mRNAキャリアは、リピッドまたはカチオニックリピッドをキャリアとして形成され、そしてmRNAが内包もしくは結合された形態にある。例えば、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)、1、2-ジオレオイルオキシ-3-(トリメチルアンモニウム)プロパン(DOTAP)、N-[1-(2、3-ジミリスチルオキシ)プロピル]-N、N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムブロミド(DMRIE)又はDC-cholesterolといったカチオン性脂質;ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)又はジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)といった中性リン脂質;PEG化脂質;及びコレステロールからなる群より選択される一つまたは複数からなり、それとmRNAを混合して得られるものである。
【0123】
カチオン性ポリマー複合体は、例えば、直鎖状もしくは分枝状ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、キトサン誘導体、ポリメタクリル酸誘導体とmRNAの混合物である。
【0124】
これらの輸送担体は、公知の方法又はそれに準ずる方法にて調製することができる。
【0125】
2.2.4.アジュバント
いくつかの好ましい態様では、RNAワクチンは、アジュバントと共には用いない。
別のいくつかの態様では、RNAワクチンは、アジュバントと共に用いる。アジュバントと共に用いる場合、RNAワクチンは、アジュバントと共に製剤化されてもよい。アジュバントは、免疫反応を増強するのに好適な任意の化合物である。そのようなアジュバントは公知であり、当業者であれば、任意のアジュバントの中から適切なものを選択することができる。
【0126】
2.3.疾患の予防又は治療
mRNAワクチンは、疾患の予防又は治療を必要とする対象において当該疾患の予防又は治療に用いることができる。
【0127】
予防又は治療する疾患は、例えば、がん、ウイルス性感染症、細菌性感染症、真菌感染症、原生生物感染症、及び自己免疫疾患を挙げることができる。前述のmRNAのコード領域がコードする抗原を、予防又は治療する疾患に応じて適切に選択することで、当該疾患を予防又は治療することができる。
【0128】
「対象」は、ヒト、又はヒト以外の生物、例えば、トリ及び非ヒト哺乳動物(例えば、ウシ、サル、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、及びウマ)である。
【0129】
mRNAワクチンは、常法に従って製剤化することができる。いくつかの態様では、mRNAワクチンは、医薬的に許容される添加剤を含む。医薬的に許容される添加剤としては、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬的に許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0130】
上記添加剤は、mRNAワクチンの剤形に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれる。例えば、注射用製剤として使用する場合、精製された二本鎖RNAを溶剤(例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等)に溶解し、これにTween80、Tween20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥用賦形剤としては、例えばマンニトール、ブドウ糖、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール等の糖類、トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモまたは他の植物由来のデンプン等のデンプン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース、アラビアゴム、トラガカントゴム等のゴム、ゼラチン、コラーゲン等などが挙げられる。
【0131】
mRNAワクチンの投与量は、対象の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤形などによって適宜選択することができる。mRNAワクチンの有効投与量は、疾患の兆候又は状態を軽減するワクチンの量である。このようなmRNAワクチンの治療効果及び毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的手順、例えば、ED50(集団の50%において治療的に有効な用量)、及びLD50(集団の50%に対して致死的である用量)によって決定することができる。いくつかの態様では、mRNAワクチンの投与量は、成人に対して、1日当たり10ng~1g、100ng~100mg、1μg~10μg、又は30μg~300μgのmRNAの範囲とする。
【0132】
mRNAワクチンの投与経路は適切に選択することができ、例えば、経皮、鼻腔内、経気管支、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、直腸内、及び膣内の経路を含むが、これらの経路に限定されるものではない。
【0133】
mRNAワクチンの投与回数は、1回、又は副作用が臨床上許容される範囲内である限り複数回とすることができる。
【0134】
いくつかの態様では、mRNAワクチン投与における抗体価又は細胞性免疫活性を測定する。例えば、抗体価は、生体より血液を採取し、血清中のIgGを定量することにより評価できる。細胞性免疫活性は、生体よりリンパ球を分離及び培養し、3H-チミジンの取り込みを測定することにより評価できる。
【0135】
2.4.キット
本発明の第2の態様のキットは、前記mRNAワクチンを含むことを特徴とするものである。当該キットは、例えば、前記RNAワクチンを用いた前記各種疾患の治療方法に好ましく用いることができる。
【0136】
キットにおいて、前記mRNAワクチンの保存状態は、限定はされず、その安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して溶液状又は粉末状等の状態を選択できる。
キットは、前記mRNAワクチン以外に、他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、例えば、各種バッファー及び使用説明書(使用マニュアル)を挙げることができる。キットには、アジュバントを含めてもよいし、含めなくてもよい。好ましくは、キットは、アジュバントを含めない。
【0137】
3.本発明の第3の態様
3.1.本発明の第3の態様の概要
二本鎖RNA認識において細胞内受容体であるRIG-Iが重要な役割を担うことが知られている。そして、RIG-Iと二本鎖RNAの結合において、片方のRNA鎖の5’末端がトリリン酸化されていることが重要であるとの報告もある。5’末端がトリリン酸化された第2のRNAオリゴマーを第1のRNAオリゴマーにハイブリダイズし、これをmRNAにハイブリダイズした二本鎖mRNAを作製した。
図37の二本鎖mRNAは、1つのmRNAにつき、5つのRNAオリゴマーをハイブリダイズさせたものを例示している。一方、後述の実施例では、1つのmRNAにつき、1~3個のRNAオリゴマーをハイブリダイズさせたものを用いた。これらの二本鎖mRNAを用いた場合、ハイブリダイズさせていないmRNAと比べ、免疫賦活化作用が向上し(
図38及び39)、また、mRNAの発現効率は維持された(
図40)。このとき、免疫賦活化作用は、mRNAにハイブリダイズする二本鎖RNAオリゴマーの個数が増えるにしたがって向上した(
図38及び39)。従って、RIG-IがRNAオリゴマーをハイブリダイズさせたmRNAに対する炎症反応に強く関わっていることが示唆された。
【0138】
本発明の第2の態様の特定のmRNAワクチンはタンパク質発現効率がやや低下したが(
図40の「mRNA:pU」)、上記の二本鎖mRNAを用いた場合、翻訳活性が十分に維持された(
図40の「1個」、「2個」及び「3個」)。さらに、ハイブリダイズするRNAオリゴマー数を調整することで、免疫応答の強度を調整することができた(
図38及び39の「1個」、「2個」及び「3個」)。過度の炎症は副作用の原因ともなるほか、ワクチン効果を得る上でも好ましくない可能性がある。RNAオリゴマーの数を変えることで、今回の免疫応答の強度を調整できた点は、ワクチン効果を得るのに適当な強度の炎症反応を得る上で極めて重要となる。
また、本発明の第3の態様のmRNAワクチンは、第2の態様のmRNAワクチンと比べ、RIG-I認識に必要な平滑5’末端トリリン酸化構造を構築するのが容易である。
さらに、本発明の第3の態様のmRNAワクチンは、in vitro転写で第2のRNA鎖を調製する際に副産物として目的RNAの相補鎖RNAが転写されるが、第2の態様の特定のmRNAワクチンと比べ、その副産物の産生を容易に回避できる。
【0139】
3.2.mRNAワクチン
本発明の第3の態様は、抗原をコードするmRNAと、当該mRNAにハイブリダイズした少なくとも1つの第1のRNAオリゴマーと、当該第1のRNAオリゴマーにハイブリダイズした第2のRNAオリゴマーからなる二本鎖RNAを含み、
第1のRNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなる第1のRNA配列と、第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列からなる第2のRNA配列を、5’末端よりこの順に含むRNA配列、
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズする第1のRNA配列と、第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつ第2のRNAオリゴマーにハイブリダイズする第2のRNA配列を、5’末端よりこの順に含むRNA配列、
(c)第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列からなる第2のRNA配列と、mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなる第1のRNA配列を、5’末端よりこの順に含むRNA配列、又は
(d)第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつ第2のRNAオリゴマーにハイブリダイズする第2のRNA配列と、mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズする第1のRNA配列と、5’末端よりこの順に含むRNA配列
を含む、mRNAワクチンを提供する。
【0140】
3.2.1.mRNA
mRNAは、メッセンジャーRNAを意味し、通常、5’非翻訳領域(5’UTR)とコード領域と3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む。mRNAは、さらに、通常、5’末端のキャップ構造(5’Cap)と3’末端のpoly A配列を含む。
mRNAワクチンに用いるmRNAは、次のいずれかのものであってよい。
【0141】
(1)5’Cap、5’UTR、コード領域、3’UTR、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
(2)5’Cap、5’UTR、コード領域、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
(3)5’UTR、コード領域、3’UTR、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
(4)5’UTR、コード領域、及びpoly Aをこの順に含むmRNA。
【0142】
mRNAワクチンに用いるmRNAは、公知の方法により、目的遺伝子をコードするテンプレートDNAをin vitro環境下で転写することで作製することができる。例えば、Blood 108(13)(2006)4009-17に記載の方法に従って、作製することができる。具体的には、タンパク質コード配列の下流にpoly A/T鎖が組み込まれた鋳型DNAをpoly A/T鎖のすぐ下流で切断し、翻訳酵素、ヌクレオシド、5’キャップアナログを含むバッファー溶液中にてin vitro転写を行い、その後、mRNAを精製することで作製する。mRNAのより具体的な調製方法は、後述の実施例に記載の通りである。
【0143】
mRNAのコード領域によってコードされる抗原としては、免疫応答を誘発するのに好適な公知の抗原から任意に選択することができる。抗原としては、より具体的には、腫瘍抗原、ウイルス由来抗原、細菌由来抗原、真菌由来抗原、原生生物由来抗原、動物由来抗原、植物由来抗原、自己免疫疾患の自己抗原などが挙げられる。mRNAにコードされる抗原は、1つの抗原であってもよいし、あるいは、2つ以上(例えば、2つ、3つ、4つ又は5つ以上)の同一又は異なる抗原であってもよい。本発明の第3の態様のいくつかの態様では、mRNAのコードされる抗原は、1つの抗原である。
【0144】
mRNAのpoly A配列の長さは、例えば、10~500塩基であり、好ましくは、30~300塩基であり、より好ましくは、60~250塩基である。
【0145】
mRNAの5’UTRと3’UTRの配列は、天然に生じる配列と100%の配列同一性を有するものとしてよく、あるいは、部分的又はその全体を他の5’UTR及び/又は3’UTRの配列と置換してもよい。他の5’UTR及び/又は3’UTRの配列としては、例えば、グロビン、hydroxysteroid(17-β)dehydrogenase 4、又はアルブミンをコードするmRNAの5’UTR及び/又は3’UTRの配列が挙げられる。
【0146】
いくつかの態様では、mRNAは修飾されていない。この場合、mRNA自体は天然のものであるため翻訳の過程はほとんど障害されないことが期待できる。
【0147】
別のいくつかの態様では、mRNAをさらに安定化させるためにmRNAは修飾されている。mRNAの修飾としては、mRNAの塩基の化学修飾、mRNAのコード領域のG/C含量の修飾、mRNAのCap構造の修飾などが挙げられる。
【0148】
mRNAの塩基の化学修飾は、例えば、mRNAの酵素耐性を向上させることが知られているものである。そのようなmRNA自体の化学修飾塩基は、例えば、メチル化塩基(例えば、5-メチルシトシン)、硫黄修飾塩基(例えば、2-チオウリジン)、シュードウリジン、N1メチルシュードウリジン及び5-メトキシウリジンが挙げられる。
【0149】
mRNAのコード領域のG/C含量の修飾は、G(グアニン)/C(シトシン)の含有量が多くなるように修飾することであり、これにより、より安定なmRNAとすることができる。
【0150】
mRNAのCap構造の修飾は、5’側の1番目もしくは2番目のリボースの2位をメトキシ基とすることであり、これにより、発現効率が向上することも知られている。
【0151】
mRNAの調製及び修飾は、公知の方法又はそれに準ずる方法により行うことができる。
【0152】
3.2.2.RNAオリゴマー
本発明の第3の態様では、少なくとも1つの第1のRNAオリゴマーがmRNAにハイブリダイズする。また、さらに第2のRNAオリゴマーが第1のRNAオリゴマーにハイブリダイズしている。
【0153】
第1のRNAオリゴマーは、
(a)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなる第1のRNA配列と、第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列からなる第2のRNA配列を、5’末端よりこの順に含むRNA配列、
(b)mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズする第1のRNA配列と、第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつ第2のRNAオリゴマーにハイブリダイズする第2のRNA配列を、5’末端よりこの順に含むRNA配列、
(c)第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列からなる第2のRNA配列と、mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列からなる第1のRNA配列を、5’末端よりこの順に含むRNA配列、又は
(d)第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な10~200塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつ第2のRNAオリゴマーにハイブリダイズする第2のRNA配列と、mRNAの配列に相補的な12~40塩基の配列と90%以上の同一性を有し、かつmRNAにハイブリダイズする第1のRNA配列と、5’末端よりこの順に含むRNA配列
を含むRNA鎖である。
【0154】
「90%以上の同一性を有するRNA配列」における「90%以上」の範囲は、例えば、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上である。上記同一性の数値は、一般的に大きいほど好ましい。なお、RNA配列の同一性は、BLAST(例えば、Altzshul S.F.et al.,J.Mol.Biol.215,403(1990)参照)等の解析プログラムを用いて決定できる。BLASTを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0155】
「mRNAにハイブリダイズする」とは、後述のハイブリダイズ条件で、RNAオリゴマーがmRNAにハイブリダイズすることを意味する。「第1のRNAにハイブリダイズする」とは、後述のハイブリダイズ条件で、第2のRNAオリゴマーが第1のRNAにハイブリダイズすることを意味する。
【0156】
第1のRNAオリゴマーの第1のRNA配列は、mRNAの連続する12~40塩基の配列にハイブリダイズするように設計されている。いくつかの態様では、第1のRNAオリゴマーの第1のRNA配列は、mRNAの配列に相補的な12~30塩基の配列からなる。より好ましくは、第1のRNAオリゴマーの第1のRNA配列は、mRNAの配列に相補的な15~23塩基の配列からなるものである。さらに好ましくは、第1のRNAオリゴマーの配列の第1のRNA配列は、mRNAの配列に相補的な17塩基の配列からなるものである。
【0157】
RNAオリゴマーをハイブリダイズさせるmRNA中の位置は、5’UTR、コード領域、3’UTR、及びpoly A配列のいずれの位置でもよい。RNAオリゴマーは、mRNAの2次構造を予測し、mRNA鎖が2次構造を持たない部分に対してハイブリダイズするようにRNAオリゴマーを設計するのが望ましい。すなわち、RNAオリゴマーは、mRNA全配列のうち2次構造を持たない部分に対してハイブリダイズするように設計するのが好ましい。mRNAの2次構造を予測するソフトウエアとしては、例えば、後述の実施例に記載のものが挙げられる。いくつかの態様では、RNAオリゴマーは、mRNAの5’UTR、コード領域および3’UTRの少なくとも1つの配列にハイブリダイズするように設計する。
【0158】
第1のRNAオリゴマーの第2のRNA配列は、第1のRNA配列が前記各塩基長であることに加えて、第2のRNAオリゴマーの連続する10~200塩基の配列にハイブリダイズするように設計されている。いくつかの態様では、第1のRNAオリゴマーの第2のRNA配列は、第1のRNA配列が前記各塩基長であることに加えて、第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な15~150塩基の配列からなる。より好ましくは、第1のRNAオリゴマーの第2のRNA配列は、第1のRNA配列が前記各塩基長であることに加えて、第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な20~100塩基の配列からなるものである。さらに好ましくは、第1のRNAオリゴマーの配列の第2のRNA配列は、第1のRNA配列が前記各塩基長であることに加えて、第2のRNAオリゴマーの配列に相補的な20~80塩基の配列からなるものである。
【0159】
第1のRNAオリゴマーの第2のRNA配列は、例えば、次のように設計する。すなわち、以下の(i)~(iv)の少なくとも1つを満たすように、より好ましくは、2つ、3つ、または4つを満たすように設計する。いくつかの好ましい態様では、第1のRNAオリゴマーの第2のRNA配列は、少なくとも以下の(i)及び(ii)を満たすように、より好ましくは、さらに以下の(iii)及び(iv)の少なくとも1つを満たすように設計する。
【0160】
(i)テンプレートDNAをin vitro環境下で転写することにより5’末端トリリン酸化を含む第2のRNAオリゴマーを調製する際に、目的RNAオリゴマーに対する相補鎖RNA(副産物)が形成されないようにすること、
(ii)第2のRNAオリゴマーが第1のRNAオリゴマーにハイブリダイズしている側の二本鎖RNAの末端が、5’末端トリリン酸化構造、好ましくは平滑5’末端トリリン酸化構造を取るようにすること、
(iii)第2のRNA配列及び第2のRNAオリゴマーがmRNA上の配列にハイブリダイズしないこと、及び
(iv)第1及び第2のRNAオリゴマーが2次構造を作らないこと。
【0161】
ここで、「(i)テンプレートDNAをin vitro環境下で転写することにより5’末端トリリン酸化を含む第2のRNAオリゴマーを調製する際に、目的RNAオリゴマーに対する相補鎖RNA(副産物)が形成されないようにする」ためには、例えば、次のように設計する。すなわち、相補鎖RNAの転写に必要な塩基を除いて第2のRNAオリゴマーを調製する。そこで、その塩基を除いても、目的とする第2のRNAオリゴマーが転写されるように、テンプレートDNAを設計する。例えば、配列GUGUGUGUGU(配列番号67)を、in vitro転写する際、配列ACACACACAC(配列番号68)が副産物として生じうるが、Aを除いてin vitro転写することでこの副産物の生成は回避される。そして、このような第2のRNAオリゴマーが調製できるように、第1のRNAオリゴマーの第2のRNA配列を設計する。
【0162】
また、「(ii)第2のRNAオリゴマーが第1のRNAオリゴマーにハイブリダイズしている側の二本鎖RNAの末端が、5’末端トリリン酸化構造、好ましくは平滑5’末端トリリン酸化構造を取るようにする」ためには次のように設計する。
すなわち、第1のRNAオリゴマーが前記(a)のRNA配列又は前記(b)のRNA配列であるときは、5’末端にトリリン酸化構造を有する第2のRNAオリゴマーをin vitro転写させることで第2のオリゴマーを調製する。好ましくは、このとき、第2のオリゴマーの5’末端と、第1オリゴマーの3’末端がハイブリダイズしたときに平滑末端になるように第1のオリゴマーを調製する。そして、このような第1及び第2のRNAオリゴマーが調製できるように、第1のRNAオリゴマーの第2のRNA配列を設計する。
一方、第1のRNAオリゴマーが前記(c)のRNA配列又は前記(d)のRNA配列であるときは、第1のRNAオリゴマーをin vitro転写させることで第1のRNAオリゴマーを調製する。好ましくは、このとき、第1のRNAオリゴマーの5’末端と、第2のRNAオリゴマーの3’末端がハイブリダイズしたときに平滑末端になるよう第2オリゴマーを調製する。そして、このような第1及び第2のRNAオリゴマーが調製できるように、第1のRNAオリゴマーの第2のRNA配列を設計する。
【0163】
「(iii)第2のRNA配列及び第2のRNAオリゴマーがmRNA上の配列にハイブリダイズしない」ようにするためには、設計後の2次構造を、複数のRNA鎖の2次構造を予測できるソフト(NUPACK,http://www.nupack.org)等で検証する。
【0164】
「(iv)第1及び第2のRNAオリゴマーが2次構造を作らない」ようにするためには、設計後の2次構造を、複数のRNA鎖の2次構造を予測できるソフト(NUPACK,http://www.nupack.org)等で検証する。
【0165】
第1のRNAオリゴマーの第1のRNA配列と第2のRNA配列の間には、リンカー配列が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。いくつかの態様では、リンカー配列が含まれる。リンカー配列の塩基長は、第1のRNA配列と第2のRNA配列が前記各塩基長であることに加えて、好ましくは1~100塩基であり、より好ましくは2~30塩基であり、さらに好ましくは2~20塩基である。リンカー配列は、具体的には、mRNAやRNAオリゴマーの他の部位とハイブリダイズしないように、又はハイブリダイズしづらいように設計する。いくつかの態様では、リンカー配列は、mRNAにハイブリダイズしづらいように、アデニン(A)やウラシル(U)を用いたリンカーを設計する。このとき、Uを用いたリンカーは一定以上長くなるとpoly Aと結合する可能性があるので、原則として、Aを使うのが好ましい。例えば、リンカー配列は、前記塩基長のオリゴアデニン配列である。ただし、リンカー配列のその位置に対応するmRNAがウラシル(U)であると、その位置の塩基をアデニン(A)にするとmRNAにハイブリダイズされてしまう。この場合、その位置の塩基をウラシル(U)に変えるのが好ましい。
【0166】
第1のRNAオリゴマーは、さらに、他の配列を含むようにしてもよいし、あるいは、他の配列を含まないようにしてもよい。いくつかの態様では、他の配列が含まれる。「他の配列」は、例えば、RNAオリゴマーを作製する際に残ったプロモーター配列、制限酵素配列、その他RNAオリゴマー設計の際止むを得ず残る配列、またはその一部である。「他の配列」を含み場合、「他の配列」の塩基長は、例えば、1~30塩基であり、好ましくは、1~25塩基であり、より好ましくは、1~2塩基である。
【0167】
第2のRNAオリゴマーは、第1のRNAオリゴマーの第2のRNA配列にハイブリダイズする例えば10~200塩基の配列を含み、好ましくは15~150塩基の配列を含み、より好ましくは20~100塩基の配列を含み、さらに好ましくは24塩基の配列を含む。第2のRNAオリゴマーの設計方法は、上記第1のRNAオリゴマーの第2のRNA配列で説明した通りである。
【0168】
第2のRNAオリゴマーは、さらに、他の配列を含むようにしてもよいし、あるいは、他の配列を含まないようにしてもよい。「他の配列」は、例えば、RNAオリゴマーを作製する際に残ったプロモーター配列、制限酵素配列、その他RNAオリゴマー設計の際止むを得ず残る配列、またはその一部である。「他の配列」を含み場合、「他の配列」の塩基長は、例えば、1~30塩基であり、好ましくは、1~25塩基であり、より好ましくは、1~2塩基である。
【0169】
いくつかの態様では、第1及び第2のRNAオリゴマーは、化学修飾を含まないものである。別のいくつかの態様の第1及び第2のRNAオリゴマーは、化学修飾を含むものである。化学修飾は、例えば、疎水性基による修飾が挙げられる。疎水性基による修飾としては、コレステロール修飾、及びトコフェロール修飾が挙げられる。また、化学修飾としては、例えば、ポリエチレングリコール修飾も挙げられる。
尚、「化学修飾」の定義には、5’末端のトリリン酸構造は含まれない。
【0170】
第1および第2のRNAオリゴマーの調製は、公知の方法又はそれに準ずる方法により行うことができる。具体的には、第1及び第2のRNAオリゴマーは、例えば、テンプレートDNAよりin vitro転写にて作製される。原理上、第1及び第2のRNAオリゴマーの調製は、前述のmRNAの作製とほぼ同様にして行うことができるが、mRNAは転写の際に5’キャップアナログを添加しているのに対して、第1及び第2のRNAオリゴマーの作製の際はキャップアナログを添加せずに作製する。このように生物学的に第1及び第2のRNAオリゴマーを調製した場合、5’末端にトリリン酸構造を有するものとすることができる。トリリン酸の除去方法は、後述の通りである。5’末端にトリリン酸構造を有さない方のRNAオリゴマーに関しては、化学合成することができる。
【0171】
3.2.3.二本鎖RNA
ここで、「二本鎖RNA」は、前述のmRNAに少なくとも1つの前述の第1のRNAオリゴマーがハイブリダイズし、かつ第1のRNAオリゴマーに第2のRNAオリゴマーがハイブリダイズしたものである。また、第1のRNAオリゴマーと、第1のRNAオリゴマーにハイブリダイズした第2のRNAオリゴマーからなるものを、「二本鎖RNAオリゴマー」という場合がある。
【0172】
二本鎖RNAは、mRNAと第1のRNAオリゴマーのハイブリダイゼーションおよび第1のRNAオリゴマーと第2のRNAオリゴマーのハイブリダイゼーションにより調製することができる。ハイブリダイゼーションは、より具体的には、後述の実施例に記載の条件又はそれに準ずる条件にて行うことができる。
【0173】
1つのmRNAにハイブリダイズさせる第1のRNAオリゴマーの数は、少なくとも1つであり、好ましくは1~50個であり、より好ましくは1~15個であり、さらに好ましくは、1~5個である。第1のRNAオリゴマーの数が1~50個の範囲であれば、mRNAの翻訳効率を比較的高いレベルに維持することができる。また、1つのmRNAにハイブリダイズさせる第1のRNAオリゴマーと第2のRNAオリゴマーからなる二本鎖RNAオリゴマーの個数が増えると、免疫賦活作用が向上する。このため、1つのmRNAにハイブリダイズさせる第1のRNAオリゴマーと第2のRNAオリゴマーからなる二本鎖RNAオリゴマーの個数を調節することで、免疫反応を調節することができる。
そこで、ここでは、1つのmRNAにハイブリダイズさせる二本鎖RNAオリゴマーの個数を調節することを含む、免疫反応を調節する方法が提供される。
【0174】
また、1つの第1のRNAオリゴマーにハイブリダイズさせる第2のRNAオリゴマーの数は1つである。
【0175】
RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズは、公知の方法及び条件により行うことができる。より具体的には、ハイブリダイズでは、加温して、一定時間静置したのち、徐々に温度を低下させる。加温は、mRNAやオリゴマーの分子内、分子間にあらかじめ存在する相補的結合を解くことで、mRNAとオリゴマーをより効率的に結合させることを目的として行う。適切なハイブリダイズが保証されるならば、その温度時間は適宜調整可能である。とりわけpoly Aやpoly Uは予め他の配列と結合している可能性は低く、より穏やかな加温条件の設定が可能である。温度低下は緩やかな方がハイブリダイズの特異性が増す。また、オリゴマー鎖長は、ハイブリダイズの条件設定に大きく影響しない。ハイブリダイズ効率を評価しながら、適宜条件を設定するべきである。例えば、後述の実施例に記載の方法及び条件が挙げられる。
【0176】
いくつかの態様では、二本鎖RNAは、RNAオリゴマーの5’末端のトリリン酸構造を有する。RNAオリゴマーの5’末端のトリリン酸構造を有するものとすることで、より強い炎症反応を惹起することができる。
【0177】
別のいくつかの態様では、二本鎖RNAは、RNAオリゴマーの5’末端のトリリン酸構造を有さない。トリリン酸化を除く方法は、公知の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。トリリン酸化を除く方法としては、例えば、後述の実施例のように、Antarctic phosphatase(New England Biolabs,cat.no.M0289S)を用いる方法が挙げられる。
【0178】
いくつかの態様では、二本鎖RNAは、第2のRNAオリゴマーが第1のRNAオリゴマーにハイブリダイズしている側の末端が、平滑末端である。平滑末端の5’にトリリン酸化構造がある際にRIG-Iを介した、免疫誘導が向上されることが知られている。in vitro転写により5’末端トリリン酸化を含むRNAを転写する際、目的RNAに対する相補鎖RNAが形成されないよう設計する。ここでは、相補鎖RNAの転写に必要な塩基を除いてRNAを調製する。そこで、その塩基を除いても、目的とするRNAが転写されるよう設計する。例えば、配列GUGUGUGUGU(配列番号67)を、in vitro転写する際、配列ACACACACAC(配列番号68)が副産物として生じうるが、Aを除いてin vitro転写することでこの副産物の生成は回避される。
【0179】
いくつかの態様では、二本鎖RNAは、ネイキッドの形態である。すなわち、二本鎖RNAは、輸送担体を伴わない。
別のいくつかの態様では、二本鎖RNAは、輸送担体に内包される形態である。輸送担体は、二本鎖mRNAを内包して、対象の体内の好適な箇所に送達することができるものであればよく、特に限定されない。輸送担体は脂質性mRNAキャリア、又はカチオン性ポリマー複合体であり、より好ましくは、高分子ミセル又は脂質性mRNAキャリアである。
【0180】
高分子ミセルは、凝縮した核酸とカチオン性ポリマーで形成される内核と親水性ポリマーで形成される外殻との二層構造を有している。カチオン性ポリマーは、例えば、ポリアミノ酸誘導体である。親水性ポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール(「PEG」)である。内核は、mRNAを物理的又は化学的に封入する。外殻は、その物理化学的な性質によって、内殻に封入されたmRNAを所定の組織に送達する。高分子ミセルは、エンドサイトーシスによって細胞内に入り込むことができる。高分子ミセルは、例えば、ブロックポリマー上のポリカチオンと核酸の総合作用(ポリイオンコンプレックス(「PIC」))を利用することもできるほか、それと無機分子とのハイブリットミセルを利用することもできる。PIC型高分子ミセルとしては、例えば、PEG-PAsp(DET)-Chol、PEG-PAsp(DET)、PEG-PLysとmRNAの多分子会合により形成されるPICミセルや、PAsp(TET), PAsp(TEP)といった別のポリカチオンをブロック共重合体に用いたもの(Uchida,S.,et al.,Biomaterials(2016)82,p.221-228)及びトリブロック共重合体を用いたもの(Osawa,S.,et al.,Biomacromolecules 17,p354-361(2016))が挙げられる。無機粒子とのハイブリッド型高分子ミセルとしては、例えば、PEG化リン酸カルシウム(CaP)粒子(Pittela,et al.,Biomaterials(2011)32,p.3106-3114)、PEG化シリカ粒子(Miyata,K.,et al.,Biomaterials(2010)31,p4764-4770)が挙げられる。
【0181】
脂質性mRNAキャリアは、リピッドまたはカチオニックリピッドをキャリアとして形成され、そしてmRNAが内包もしくは結合された形態にある。例えば、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)、1、2-ジオレオイルオキシ-3-(トリメチルアンモニウム)プロパン(DOTAP)、N-[1-(2、3-ジミリスチルオキシ)プロピル]-N、N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムブロミド(DMRIE)又はDC-cholesterolといったカチオン性脂質;ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)又はジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)といった中性リン脂質;PEG化脂質;及びコレステロールからなる群より選択される一つまたは複数からなり、それとmRNAを混合して得られるものである。
【0182】
カチオン性ポリマー複合体は、例えば、直鎖状もしくは分枝状ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、キトサン誘導体、ポリメタクリル酸誘導体とmRNAの混合物である。
【0183】
これらの輸送担体は、公知の方法又はそれに準ずる方法にて調製することができる。
【0184】
3.2.4.アジュバント
いくつかの好ましい態様では、RNAワクチンは、アジュバントと共には用いない。
別のいくつかの態様では、RNAワクチンは、アジュバントと共に用いる。アジュバントと共に用いる場合、RNAワクチンは、アジュバントと共に製剤化されてもよい。アジュバントは、免疫反応を増強するのに好適な任意の化合物である。そのようなアジュバントは公知であり、当業者であれば、任意のアジュバントの中から適切なものを選択することができる。
【0185】
3.3.疾患の予防又は治療
mRNAワクチンは、疾患の予防又は治療を必要とする対象において当該疾患の予防又は治療に用いることができる。
予防又は治療する疾患は、例えば、がん、ウイルス性感染症、細菌性感染症、真菌感染症、原生生物感染症、及び自己免疫疾患を挙げることができる。前述のmRNAのコード領域がコードする抗原を、予防又は治療する疾患に応じて適切に選択することで、当該疾患を予防又は治療することができる。
【0186】
「対象」は、ヒト、又はヒト以外の生物、例えば、トリ及び非ヒト哺乳動物(例えば、ウシ、サル、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、及びウマ)である。
【0187】
mRNAワクチンは、常法に従って製剤化することができる。いくつかの態様では、mRNAワクチンは、医薬的に許容される添加剤を含む。医薬的に許容される添加剤としては、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬的に許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0188】
上記添加剤は、mRNAワクチンの剤形に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれる。例えば、注射用製剤として使用する場合、精製された二本鎖RNAを溶剤(例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等)に溶解し、これにTween80、Tween20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥用賦形剤としては、例えばマンニトール、ブドウ糖、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール等の糖類、トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモまたは他の植物由来のデンプン等のデンプン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース、アラビアゴム、トラガカントゴム等のゴム、ゼラチン、コラーゲン等などが挙げられる。
【0189】
mRNAワクチンの投与量は、対象の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤形などによって適宜選択することができる。mRNAワクチンの有効投与量は、疾患の兆候又は状態を軽減するワクチンの量である。このようなmRNAワクチンの治療効果及び毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的手順、例えば、ED50(集団の50%において治療的に有効な用量)、及びLD50(集団の50%に対して致死的である用量)によって決定することができる。いくつかの態様では、mRNAワクチンの投与量は、成人に対して、1日当たり10ng~1g、100ng~100mg、1μg~10μg、又は30μg~300μgのmRNAの範囲とする。
【0190】
mRNAワクチンの投与経路は適切に選択することができ、例えば、経皮、鼻腔内、経気管支、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、直腸内、及び膣内の経路を含むが、これらの経路に限定されるものではない。
【0191】
mRNAワクチンの投与回数は、1回、又は副作用が臨床上許容される範囲内である限り複数回とすることができる。
【0192】
いくつかの態様では、mRNAワクチン投与における抗体価又は細胞性免疫活性を測定する。例えば、抗体価は、生体より血液を採取し、血清中のIgGを定量することにより評価できる。細胞性免疫活性は、生体よりリンパ球を分離及び培養し、3H-チミジンの取り込みを測定することにより評価できる。
【0193】
3.4.キット
本発明の第3の態様のキットは、前記mRNAワクチンを含むことを特徴とするものである。当該キットは、例えば、前記RNAワクチンを用いた前記各種疾患の治療方法に好ましく用いることができる。
キットにおいて、前記mRNAワクチンの保存状態は、限定はされず、その安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して溶液状又は粉末状等の状態を選択できる。
キットは、前記mRNAワクチン以外に、他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、例えば、各種バッファー及び使用説明書(使用マニュアル)を挙げることができる。キットには、アジュバントを含めてもよいし、含めなくてもよい。好ましくは、キットは、アジュバントを含めない。
【0194】
以下の実施例により本発明を更に詳述するが、本発明はこれら実施例に限定して理解されるべきものではない。
【実施例】
【0195】
実施例1-1:各種ブロック共重合体の合成
1.1.PEG-PAsp(DET)-Cholの合成
PEG-PAsp(DET)-Cholは既報に従い合成した(Oba,M.,et al.,Biomaterials(2011)32,p.652-663)(Scheme1)。合成スキームは以下のとおりである。
【0196】
【0197】
まず、α-メトキシ-ω-アミノ-ポリエチレングリコール(MeO-PEG-NH2,PEGのMw:12kDa)を開始剤としたβ-ベンジル-L-アスパルテート-N-カルボン酸無水物(NCA-BLA)の開環重合によって、PEG-poly(β-benzyl L-aspartate)(PEG-PBLA)を合成した。MeO-PEG-NH2を505mgとり、ベンゼンに溶解させて一晩凍結乾燥させた。凍結乾燥後、Ar雰囲気下においてジメチルホルムアミド(DMF):ジクロロメタン(DCM)=1:10混合溶媒にMeO-PEG-NH2及びNCA-BLAを完全に溶解させた。NCA-BLA溶液をMeO-PEG-NH2溶液に添加し、25℃で3日間撹拌した。反応溶液をn-ヘキサン/酢酸エチル(3:2)混合溶液に再沈殿させ、PEG-PBLAを回収した。その後、PEG-PBLAを真空乾燥させ、白色粉末を得た。PBLAの重合度は68(n=68)であった。尚、上記式中、m=293であった。
【0198】
次に、合成したPEG-PBLAのω末端にコレステロール基を導入した。DCM(4mL)に溶解させたPEG-PBLA(200mg)に、11v/v% トリエチルアミン(TEA)/DCM混合溶液(200μL)に溶解させたCholesterol chloroformate(328mg)をゆっくり添加し、室温で24時間撹拌した。反応溶液をジエチルエーテルに再沈殿させ、PEG-PBLA-Cholesterol(Chol)を回収した。
【0199】
回収したPEG-PBLA-Cholのアミノリシス反応によりPEG-PAsp(DET)-Cholを合成した。PEG-PBLA-Chol(100mg)をベンゼンに溶解させて凍結乾燥し、乾燥したPEG-PBLA-Chol及びDryジエチレントリアミン(DET)(PBLAに対して50当量)を0.5MチオウレアとしたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させた。これら溶液を10℃に冷却し、PEG-PBLA-Chol溶液をゆっくりDET溶液に滴下し、1時間撹拌した。反応後、溶液温度を10度以下に保ったまま反応溶液を5N HCl水溶液で中和し、0.01N HCl水溶液で4℃にて1日透析を行った。その後、イオン交換水で4℃にてもう1日透析を行った。透析後、溶液を凍結乾燥することでPEG-PAsp(DET)-Chol白色粉末を得た。
【0200】
1.2.PEG-PAsp(DET)の合成
また、同様のPEG-PBLAのアミノリシス反応によりPEG-PAsp(DET)を合成した(Scheme2)。
【0201】
【0202】
PEG-PBLA(200mg)をベンゼンに溶解させて凍結乾燥し、乾燥したPEG-PBLA及びDryジエチレントリアミン(DET)(PBLAに対して50当量)を0.5MチオウレアとしたNMPに溶解させた。これら溶液を10℃に冷却し、PEG-PBLA溶液をゆっくりDET溶液に滴下し、1時間撹拌した。反応後、溶液温度を10度以下に保ったまま反応溶液を5N HCl水溶液で中和し、0.01N HCl水溶液で4℃にて1日透析を行った。その後、イオン交換水で4℃にてもう1日透析を行った。透析後、溶液を凍結乾燥することでPEG-PAsp(DET)白色粉末を得た。尚、上記式中、n=68であり、m=293であった。
【0203】
実施例1-2:mRNAの調製
mRNAは鋳型DNAよりin vitro転写により調製するが、ここで鋳型DNAは以下のように作製した。まず、T7-Gluc plasmidは、pCMV-Gluc control plasmid(New England BioLabs,Ipswich,MA,USA)からGlucコード配列(
図15および配列番号32)をpSP73ベクター(Promega)のHindIII,Xba1サイトに挿入することで作製した。その後、T7-Gluc poly A120 plasmidを、T7-Gluc plasmidのEcoR1-Bgl2サイトにA120-(BsmBI切断部位)を挿入することで作製した。その後、BsmBIで切断したのち、T4 DNA Polymerase(タカラバイオ)で末端の平滑化を用い、以下のin vitro転写に用いた。
【0204】
mRNAは、mMESSAGE mMACHINE(商品名) T7(Thermo Fisher Scientific)を用いてガウシアルシフェラーゼ(Gluc)をコードした上述の制限酵素処理を行い、平滑化したテンプレートDNA(T7-Gluc poly A120 plasmid)をin vitro環境下で転写することで作製した。転写されたmRNAはRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて精製、回収した。回収したmRNA濃度はNanoDrop(Thermo Fisher Scientific)により測定した。また、Agilent 2100バイオアナライザ(Agilent technologies)を用いた電気泳動法により目的のmRNAが作成されていることを確認した。
【0205】
NanoDropにより、500~1,000ng/μLという高い濃度で、260nmと280nmの吸光度比が2.0~2.2という高純度のmRNAの作製が確認された。また、バイオアナライザの解析で、意図した大きさのmRNAの作製が確認された。
【0206】
作製したmRNAの配列を、
図14および配列番号1に示す。
図14の配列において、下線部分がopen reading frame(ORF)であり、ORFの上流が5’UTR(54塩基)であり、ORFの下流に3’UTR(52塩基)があり、さらにその下流の120Aがpoly A配列である。
【0207】
ここで、Poly Aの数について、理論上は鋳型DNAに120bpに組み込まれ、mRNAでは119塩基である。しかし、DNA増幅や、mRNA調製の段階でその数は増減しうる。
【0208】
実施例1-3:RNAオリゴマーのハイブリダイゼーション
RNAオリゴマーを次のようにして設計し、調製した。RNA2次構造予測ソフトウェア(http://rtips.dna.bio.keio.ac.jp/ipknot/)にて、Gluc mRNAの2次構造を予測し、RNA鎖が2次構造を持たない部分に対してRNAオリゴマーを設計した。RNAオリゴマーは、5’末端又は3’末端のコレステロール修飾を含めて、北海道システムサイエンス社にて、依頼合成した。尚、下記RNAオリゴマーの配列中の下線部はオーバーハング配列を示す。また、ミスマッチChol-RNAオリゴは、mRNAとハイブリダイズしない19merのChol修飾ポリAである。「Chol-overhang」は、RNAオリゴマーの5’末端がコレステロール修飾されていることを示し、「Chol―overhang 3’」はRNAオリゴマーの3’末端がコレステロール修飾されていることを示す。
【0209】
RNAオリゴマー
17mer(1)(配列番号2):UCUUUGAGCACCUCCAG
17mer(2)(配列番号3):CUCUAGAUGCAUGCUCG
17mer(3)(配列番号4):CUCGGCCACAGCGAUGC
17mer(4)(配列番号5):GCGGCAGCCACUUCUUG
17mer(5)(配列番号6):AUCUCAGGAAUGUCGAC
【0210】
23mer(配列番号7):UCCAUCUCUUUGAGCACCUCCAG
40mer(配列番号8):CUUUCCGGGCAUUGGCUUCCAUCUCUUUGAGCACCUCCAG
60mer(配列番号9):ACAGCCCCUGGUGCAGCCAGCUUUCCGGGCAUUGGCUUCCAUCUCUUUGAGCACCUCCAG
【0211】
overhang 2base(1)(配列番号10):AAUCUUUGAGCACCUCCAG
【0212】
Chol-overhang 0(1)(17mer(1);配列番号2):UCUUUGAGCACCUCCAG
Chol-overhang 2base(1)(配列番号10):AAUCUUUGAGCACCUCCAG
Chol-overhang 5base(1)(配列番号11):AAUAAUCUUUGAGCACCUCCAG
【0213】
Chol-overhang 0(2)(17mer(2);配列番号3):CUCUAGAUGCAUGCUCG
Chol-overhang 2base(2)(配列番号12):AACUCUAGAUGCAUGCUCG
Chol-overhang 5base(2)(配列番号13):AAUAACUCUAGAUGCAUGCUCG
【0214】
Chol―overhang 2base(3)(配列番号14):AACUCGGCCACAGCGAUGC
Chol―overhang 2base(4)(配列番号15):AAGCGGCAGCCACUUCUUG
Chol―overhang 2base(5)(配列番号16):AUAUCUCAGGAAUGUCGAC
【0215】
Chol―overhang 2base(6)(配列番号17):AAGCAGCCAGCUUUCCCGG
Chol―overhang 2base(7)(配列番号18):AAACUCUUUGUCGCCUUCG
Chol―overhang 2base(8)(配列番号19):AAUUGAGGCAGCCAGUUGU
Chol―overhang 2base(9)(配列番号20):UAGUGGGACAGGCAGAUCA
Chol―overhang 2base(10)(配列番号21):AAUUGAAGUCUUCGUUGUU
【0216】
Chol―overhang 2base(11)(配列番号22):AAUUUUUUUUUUUUUUUUU
【0217】
Chol―overhang 3’ 2base(1)(配列番号23):UCUUUGAGCACCUCCAGAU
【0218】
ミスマッチChol-RNAオリゴ(配列番号24):AAAAAAAAAAAAAAAAAAA
【0219】
mRNAに対して1当量のRNAオリゴマー(overhang 2base(1))を、65℃で5分加熱し、10分かけて30℃まで冷却することで、ハイブリダイゼーションを行った。調製したRNAオリゴマー修飾mRNAの評価はポリアクリルアミドゲル電気泳動により行った。mRNA溶液(1×TBE buffer)に最終濃度が5wt%となるようにグリセロール溶液を添加し、100V,800mA,200W,30minの条件で電気泳動を行った。
【0220】
その結果を
図1に示す。
図1(2)及び(3)ではそれぞれChol修飾していないRNAオリゴマー(overhang 2base(1))、ハイブリダイズしていないmRNAの電気泳動を行った。
図1(1)では、
図1(2)でハイブリダイズした量の1/16量のRNAオリゴマー(overhang 2base(1))だけを電気泳動した。
図1(2)でハイブリダイズが起きていなければ、
図1(1)と同じ位置にRNAオリゴマー由来のバンドが見られるはずであるが、実際ほとんど見られなかった。すなわち大多数のRNAオリゴマーがハイブリダイズしていることが確認された。
【0221】
このように、本実施例では、RNAオリゴマーがハイブリダイズしていることが確認できた。
【0222】
実施例1-4:培養細胞およびCell-free系におけるmRNA発現能評価
培養細胞を用いた評価では、RAW264.7細胞を12wellプレートに300,000cells/wellとなるように播種し、10v/v%ウシ胎児血清(FBS)を含むDulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)中で24hインキュベーションした。インキュベーション後、DMEMをOpti-MEM(商品名)(Thermo Fisher Scientific)に置き換え、実施例1-2で調製したGluc mRNA又は実施例1-3で調製したRNAオリゴマー(17mer(1),23mer,40mer又は60mer)をハイブリダイズしたGluc mRNAが1μg/wellとなるようにLipofectamine(商品名) LTX(Thermo Fisher Scientific)とmRNAからなるコンプレックスを添加した。トランスフェクションから4h後、培地を回収し、そこに含まれるGlucの量をルミノメータにて評価した。
【0223】
Cell-free系での評価では、Rabbit Reticulocyte Lysate System(Promega)を用いて、実施例1-2で調製したmRNA又は実施例1-3で調製したRNAオリゴマー(17mer(1),23mer,40mer又は60mer)をハイブリダイズしたGluc mRNAの発現能を評価した。プロトコルに従い、mRNAを含む混合溶液を調製した後、30℃で90minインキュベートした。発現したGlucはルミノメータを用いて発光強度を測定することで評価した。
【0224】
その結果を
図2に示す。
図2(A)に示すように、培養細胞へのmRNA導入効率を検討したところ、23mer以上の鎖長のオリゴマーをハイブリダイズした場合(23mer,40mer,60mer)、ハイブリダイズしていないmRNAを用いた場合(オリゴ(-))と比べて有意にGluc発現量が低下していた。一方で、17merのオリゴマーを修飾した場合の発現量はハイブリダイズしていないmRNAを用いた場合とほぼ同等であった。一方で、
図2(B)に示すように、無細胞系でのタンパク質翻訳効率は、RNAオリゴマーの鎖長によらず一定で、ハイブリダイズしていないmRNAとほぼ同程度であった。すなわち、無細胞系ではハイブリダイズによる翻訳効率の低下は見られなかった。以上の実験より、細胞内の何らかの機構により長鎖長をハイブリダイズした場合に発現がやや低下することが分かった。これらのことから、RNAオリゴマーの鎖長は12~40merとするのが望ましいことが明らかとなった。
【0225】
ここで
図2中、「**」及び「***」はオリゴ修飾していない場合と比べた場合、p<0.01、p<0.001という統計学的有意差があることを示す。統計処理はANOVA検定ののち、オリゴ修飾していない場合をコントロールとしたDunnett検定を行った。
【0226】
このように、本実施例では、培養細胞へのmRNAの導入効率を確認した結果、長鎖長RNAオリゴマーは発現がやや低下するものの、17merのRNAオリゴマーでは発現がほぼ維持できることが確認できた(
図2(A))。一方、無細胞系でのタンパク質翻訳効率は、RNAオリゴマーの鎖長によらず一定であることが確認できた(
図2(B))。
【0227】
実施例1-5:mRNA内包PMsの調製
ここでは実施例1-2で調製したGluc mRNA又は実施例1-3で調製したRNAオリゴマー(overhang 2base(1)又はChol-overhang 2base(1))をハイブリダイズしたGluc mRNAを用いた。
【0228】
PEG-PAsp(DET)-CholとGluc mRNAはそれぞれ独立して10mM HEPES buffer(pH7.4)に溶解させた。PEG-PAsp(DET)-Cholの濃度は、pH7.4において((PAsp(DET)の正電荷数)/(mRNAの負電荷数))(N
+/P
―比)が1.5となるように調整した。mRNA最終濃度が33.3μg/mLとなるようにPEG-PAsp(DET)-Chol溶液をmRNA溶液に添加し、高分子ミセル(PMs)を調製した。PMsの粒径及び多分散度はZetasizerNano(Malvern Instruments)によって評価した。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて調製したPMsを観察した。PEG-PAsp(DET)からなるPMsに関しても同様の方法で調製した。
その結果を、表1及び2、
図3に示す。
【0229】
【0230】
【0231】
実施例1-6:血清中での酵素耐性試験
ここでは実施例1-2で調製したGluc mRNA又は実施例1-3で調製した以下のRNAオリゴマーをハイブリダイズしたGluc mRNAを用いた。
【0232】
図4(A)及び(B)の実験で用いたRNAオリゴマー
Chol-overhang 0(1)
Chol-overhang 2base(1)
Chol-overhang 5base(1)
ミスマッチChol-RNAオリゴ
【0233】
図4(C)及び(D)の実験で用いたRNAオリゴマー
Chol-overhang 0(2)
Chol-overhang 2base(2)
Chol-overhang 5base(2)
ミスマッチChol-RNAオリゴ
【0234】
図4(E)で用いたRNAオリゴマー
Chol―overhang 2base(11)
【0235】
各PMsは実地例5と同様の条件で調製した。尚、
図4(A)(C)(E)の実験ではPEG-PAsp(DET)-Cholを用い、
図4(B)及び(D)の実験ではPEG-PAsp(DET)を用いた。
【0236】
ウシ胎児血清(FBS)を10mM HEPES buffer(pH7.4)で所定の濃度となるよう希釈し、そこにPM溶液を添加したのち、37℃で15分静置した。その後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて溶液よりRNAを抽出した。抽出したRNAをコンプリメンタリーDNA(cDNA)に逆転写した後、qRT-PCRにより残存しているcDNAを定量評価した。FBS存在下で37℃静置を行わなかった場合のmRNA量を100%として、相対値を示した。
【0237】
その結果を、
図4に示す。
図4(A)に示すように、PEG-PAsp(DET)-Cholを用いた場合、2baseのオーバーハングを持つオリゴマーをハイブリダイズした群で、ハイブリダイズを行わなかった群と比べ、有意な血清中での安定性の向上を認めた。なお、オーバーハングがない場合は安定性が向上する傾向が見られたものの有意差うは得られなかった。5baseの場合では安定化効果は認めなかった。一方で、PEG-PAsp(DET)を用いた場合、オーバーハングがない場合、および2baseのオーバーハングがある場合に、安定性の向上を認めた(
図4(B))。以上のデータは、ハイブリダイズする場所が異なる別のオリゴを用いた場合も再現された(
図4(C):PEG-PAsp(DET)-Chol,
図4(D):PEG-PAsp(DET))。なお、ミスマッチChol-RNAオリゴは、mRNAとハイブリダイズしない19merのChol修飾ポリAをmRNAと混ぜて、PMを形成したものであるが、この場合血清中での酵素耐性は向上しておらず、効果を得るにはハイブリダイズする必要があることが示された。
【0238】
また、ポリA配列に対して2baseのオーバーハングを持つChol修飾オリゴをハイブリダイズさせたmRNAとPEG-PAsp(DET)-CholからなるPMに関しても、ハイブリダイズによる安定化作用を認めた(
図4(E))。
【0239】
このように、PEG-PAsp(DET)-Cholを用いた場合、2baseのオーバーハングがあり、かつコレステロール修飾したオリゴマーで特に高い安定性を示すことが分かった(
図4(A)及び(C))。一方で、PEG-PAsp(DET)を用いた場合、オーバーハングがない場合および2baseのオーバーハングがある場合の両方で安定性の向上を認めた(
図4(B)及び(D))。また、ハイブリダイズの位置に関して、タンパク質コード配列だけではなく、ポリA部分にハイブリダイズした場合も安定性が向上することが明らかとなった(
図4(E))。
【0240】
実施例1-7:アガロースゲル電気泳動
ここでは実施例1-2で調製したGluc mRNA又は実施例1-3で調製したRNAオリゴマー(Chol―overhang 2base(1))をハイブリダイズしたGluc mRNAを用いた。
【0241】
各PMsは実地例5と同様の条件で調製した。
【0242】
Tris 40mM,酢酸20mM,エチレンジアミン四酢酸(EDTA)・2Na 1mMとなるように1×TAEバッファー(トリス-酢酸-EDTAバッファー)を調製し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7.4に調整したものを電気泳動用バッファーとした。0.9重量%アガロースゲルを作成し、PM溶液15μLにA/P比(ポリアニオンの負電荷数/mRNAのリン酸基数)に応じたデキストラン硫酸5μLと750mM NaCl溶液5μLを加えた後、37℃で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、ローディングバッファーを2.5μL加えて100Vで60分間電気泳動を行い、mRNAの放出の有無を確認した。
【0243】
その結果を、
図5に示す。
図5(A)~(D)ではいずれも最も左の列にnaked mRNAを置いたが、ミセルからmRNAが放出されると、naked mRNAと同じ位置にバンドが見られる。Chol修飾オリゴマーをハイブリダイズしていない場合、すなわち、
図5(A)のPEG-PAsp(DET)-Cholを用いた場合と、
図5(C)のPEG-PAsp(DET)を用いた場合には、A/P比1.5から2でミセルからの多量のmRNAの放出が観られた。一方でChol修飾オリゴマーをハイブリダイズした場合、いずれのポリマーを用いた場合も、A/P比2でもあまりmRNAの放出は観られなかった(
図5(B)及び(D))。
【0244】
このように、CholオリゴによりmRNAの放出が抑制されることが分かった(
図5(B)及び(D))。
【0245】
実施例1-8:ハイブリダイズするオリゴの数を増やした際の血清中での酵素耐性試験
ここでは、ここでは実施例1-2で調製したGluc mRNA又は実施例1-3で調製した以下のRNAオリゴマーをハイブリダイズしたGluc mRNAを用いた。
【0246】
Chol―overhang 2base(1)
Chol―overhang 2base(2)
Chol―overhang 2base(3)
Chol―overhang 2base(4)
Chol―overhang 2base(5)
【0247】
各PMsは実施例1-5と同様の条件でPEG-PAsp(DET)-Cholを用いて調製した。
【0248】
1箇所又は5箇所にChol修飾オリゴマーをハイブリダイズしたmRNAを用い、実施例1-6と同様の方法で実験をおこなった。尚、Unmodified Oligoでは、overhang 2base(1)を用いた。Chol修飾オリゴマー1個の実験(Chol oligo X1)では、Chol―overhang 2base(1)を用いた。また、Chol修飾オリゴマー5個の実験(Chol oligo X5)では、Chol―overhang 2base(1)~(5)を用いた。
【0249】
その結果を
図6示す。ハイブリダイズしていないものと比べて、1箇所に修飾した場合(Chol oligo X1)安定性が向上し、また、5箇所に修飾した場合(Chol oligo X5)1箇所に修飾した場合(Chol oligo X1)と比べて、更に高い安定性を示した。
【0250】
実施例1-9:PMsのルシフェラーゼ発現試験
ここでは実施例1-2で調製したGluc mRNA又は実施例1-3で調製した以下のRNAオリゴマーをハイブリダイズしたGluc mRNAを用いた。
【0251】
Chol―overhang 2base(1)
Chol―overhang 2base(2)
Chol―overhang 2base(3)
Chol―overhang 2base(4)
Chol―overhang 2base(5)
17mer(1)
【0252】
各PMsは実地例5と同様の条件でPEG-PAsp(DET)-Cholを用いて調製した。
Huh-7細胞(5,000cells-well)を96-wellプレートに播種し、10v/v%FBSを含むDMEM(100μL)中で24時間インキュベーションした。培地を10v/v%FBSを含む新しいものに取り替えた後、250ngのmRNAを含むPMs溶液を7.5μL加えた。24時間のインキュベーション後、DMEMの上澄みを10μL回収し、ルミノメータを用いてGlucの発光強度を測定した。
【0253】
1箇所又は5箇所にChol修飾オリゴマーをハイブリダイズしたmRNAを用いた。尚、Chol修飾オリゴマー1個の実験(Chol oligo X1)では、Chol―overhang 2base(1)を用いた。また、Chol修飾オリゴマー5個の実験(Chol oligo X5)では、Chol―overhang 2base(1)~(5)を用いた。さらに、非修飾オリゴマーの実験(Unmodified Oligo)では、overhang 2base(1)17mer(1)を用いた。
【0254】
その結果を、
図7に示す。Cholオリゴマーで1個もしくは5個修飾したmRNAを導入した群(Chol oligo X1もしくはChol oligo X5)で、オリゴマーをハイブリダイズしていないmRNAを導入した群(ハイブリ(-))もしくはChol修飾のないオリゴマーで修飾したmRNAを導入した群(Unmodified Oligo)と比べて、高いmRNAからのルシフェラーゼ発現効率を示した。
このように、Cholオリゴ修飾により、発現が上昇することがわかった。また、オリゴの個数で差は見られなかった。
【0255】
実施例1-10:Cholを5’側に修飾した場合と3’側に修飾した場合の比較
ここでは実施例1-2で調製したGluc mRNA、実施例1-3で調製した以下のRNAオリゴマーをハイブリダイズしたGluc mRNA、またはそれと同じ場所に設計し3’側に2baseのoverhang配列をもつ以下の配列のオリゴマーをハイブリダイズしたGluc mRNAを用いた。
【0256】
Chol―overhang 2base(1)
Chol―overhang 3’ 2base(1)
【0257】
各PMsは実地例5と同様の条件で、PEG-PAsp(DET)-Cholを用いて調製した。実施例1-8と同様の方法で血清耐性試験を行い、実施例1-9と同様の方法でPMをHuH-7細胞に導入し、Gluc発現量を評価した。
血清耐性試験の結果を
図8(A)に、Gluc発現量の結果を
図8(B)に示す。いずれの評価においても、Cholの修飾位置が3’の場合と5’の場合で大きな違いは観察されなかった。
【0258】
実施例1-11:無細胞系でのChol修飾mRNAからの翻訳効率の評価
ここでは実施例1-2で調製したGluc mRNA又は実施例1-3で調製した以下のRNAオリゴマーをハイブリダイズしたGluc mRNAを用いた。
【0259】
Chol―overhang 2base(1)
Chol―overhang 2base(2)
Chol―overhang 2base(3)
Chol―overhang 2base(4)
Chol―overhang 2base(5)
【0260】
この評価では、mRNAはPMに内包せず、単体で用いた。
【0261】
Cell-free系での評価では、Rabbit Reticulocyte Lysate System(Promega)を用いて、Chol―RNAオリゴマーを修飾したmRNAの発現能を評価した。プロトコルに従い、mRNAを含む混合溶液を調製した後、30℃で90minインキュベートした。発現したGlucはルミノメータを用いて発光強度を測定することで評価した。
【0262】
その結果を
図9に示す。Chol―RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAの無細胞系でのタンパク質翻訳効率は、Chol―RNAオリゴマー数の増加に伴い減少していくことが確認された。すなわち、複数のChol基はmRNAの翻訳効率を低下させることが明らかとなった。
【0263】
ここで、Chol―RNAオリゴマー数が1個の実験ではChol―overhang 2base(1)を用いた。Chol―RNAオリゴマー数が2個の実験ではChol―overhang 2base(1)と(3)を用いた。Chol―RNAオリゴマー数が3個の実験ではChol―overhang 2base(1)~(3)を用いた。Chol―RNAオリゴマー数が4個の実験ではChol―overhang 2base(1)~(4)を用いた。Chol―RNAオリゴマー数が5個の実験ではChol―overhang 2base(1)~(5)を用いた。
【0264】
実施例1-12:内因性遺伝子発現への影響
ここでは実施例1-3と同様に設計し、調製した以下のRNAオリゴ、又は後述のように調製した以下のsiRNAを用いた。「Chol―」は、RNAオリゴマーの5’末端がコレステロール修飾されていることを示す。
【0265】
ここで、RNAオリゴマーの設計に用いたLuc mRNAの配列を
図16及び配列番号33に示す。
【0266】
luc oligo(配列番号25):UCGAAGUACUCAGCGUA
Chol―oligo luc(配列番号26):AAUCGAAGUACUCAGCGUA
oligo Scr(配列番号27):UCUUUGAGCACCUCCAG
Chol―oligo Scr(配列番号27):UCUUUGAGCACCUCCAG
siLuc(sense strand)(配列番号28):CUUACGCUGAGUACUUCGAdTdT
siLuc(antisense strand)(配列番号29):UCGAAGUACUCAGCGUAAGdTdT
siScramble(siScr)(sense strand)(配列番号30):UUCUCCGAACGUGUCACGUdTdT
siScr(antisense strand)(配列番号31):ACGUGACACGUUCGGAGAAdTdT
【0267】
ここで、siRNAは北海道システムサイエンス社に依頼合成し、そのまま使用した。
【0268】
Lucを恒常発現しているHela-luc細胞(Caliper LifeScience 社)(5,000cells/well)を96-wellプレートに播種し、10v/v%FBSを含むDMEM(100μL)中で24時間インキュベーションした。その後、培地を無血清培地(Opti-MEM(商品名)(Thermo Fisher Scientific))(100μL)に取り換え、Lipofectamine RNAiMax(Thermo Fisher Scientific)とRNAオリゴ又はsiRNAからなるコンプレックスを細胞に添加した。4時間インキュベーションした後、添加した各コンプレックスを除去した。トランスフェクションから24時間後、Cell lysate bufferを用いて細胞を溶解し、ルミノメータを用いて10μL細胞溶解液中のルシフェラーゼ発現量を評価した。
【0269】
その結果を
図10に示す。ここで、siLuc、Luc Oligo及びChol Oligo LucはそれぞれLuc配列をターゲットとしたsiRNA、未修飾RNA Oligo及びChol修飾RNA Oligoを示し、siScr、Oligo Scr、Chol Oligo ScrはGluc配列と相同性のない配列のsiRNA、未修飾RNA Oligo及びChol修飾RNA Oligoを示している。
図2及び7に示すような培養細胞へのtransfection実験では、8nMの濃度のoligoを用いているが、その濃度では内因性遺伝子発現は減少しなかった。siRNAと比較して1,000倍という高濃度でないと、内因性遺伝子発現の減少は観られなかったことから、内因性遺伝子に対する影響は非常に軽微なものと想定される。
図10に示すように、siRNAのアンチセンス鎖と同配列のRNAオリゴマー及び他配列RNAオリゴマー群はsiRNAと比較して、内因性遺伝子をノックダウンしないことが確認された。以上の結果から、RNAオリゴマーは内因性遺伝子を阻害することなくmRNAを機能化することが確認された。
【0270】
実施例1-13:PEG-Plysによる検討
PEG-PLysは既報に従い合成した(K.Osada et al.,Biomaterials 33,325-332,(2012))(Scheme3)。合成スキームは以下のとおりである。
【0271】
【0272】
MeO-PEG-NH2を400mgとり、ベンゼンに溶解させて一晩凍結乾燥させた。凍結乾燥後、Ar雰囲気下において0.5Mジメチルホルムアミド(DMF)溶媒にMeO-PEG-NH2及びNCA-Lys(TFA)を完全に溶解させた。NCA-Lys(TFA)溶液をMeO-PEG-NH2溶液に添加し、25℃で3日間撹拌した。反応溶液をn-ヘキサン/酢酸エチル(3:2)混合溶液に再沈殿させ、PEG-PLys(TFA)を回収した。その後、PEG-PLys(TFA)を真空乾燥させ、白色粉末を得た。その後、0.1N NaOHを含むメタノール混合溶媒中において35℃で6時間反応させ、TFA基を脱保護した。透析による精製後、PEG-PLys白色粉末を得た。1H-NMR分析より、回収したPEG-PLysのPLys重合度は69であった。
【0273】
ここでは、ここでは実施例1-2で調製したGluc mRNA又は実施例1-3で調製した以下のRNAオリゴマーをハイブリダイズしたGluc mRNAを用いた。
【0274】
Chol―overhang 2base(1)
Chol―overhang 2base(2)
Chol―overhang 2base(3)
Chol―overhang 2base(4)
Chol―overhang 2base(5)
【0275】
PMの作製では、PEG-PLysとmRNAはそれぞれ独立して10mM HEPES buffer(pH7.4)に溶解させた。PEG-PLysの濃度は、pH7.4において((PLysの正電荷数)/(mRNAの負電荷数))(N+/P-比)が2となるように調整した。mRNA最終濃度が33.3μg/mLとなるように、PEG-PLys溶液をmRNA溶液に添加し、PMsを調製した。
【0276】
合成したPEG-PLysを用いて、実施例1-7におけるPEG-PAsp(DET)-Cholと同様にゲル電気泳動を行った。また、実施例1-9におけるPEG-PAsp(DET)-Cholと同様にルシフェラーゼ発現試験を行った。
【0277】
ゲル電気泳動の実験では、1箇所にChol修飾オリゴマーをハイブリダイズしたmRNAを用い、ルシフェラーゼ発現実験では1箇所又は5箇所にChol修飾オリゴマーをハイブリダイズしたmRNAを用いた。この際、Chol修飾オリゴマー1個の実験(Chol oligo X1)では、Chol―overhang 2base(1)を用いた。また、Chol修飾オリゴマー5個の実験(Chol oligo X5)では、Chol―overhang 2base(1)~(5)を用いた。
【0278】
その結果を
図11に示す。PEG-PAsp(DET)やPEG-PAsp(DET)-CholからなるPMsと同様(
図5)にPEG-PLysからなるPMsにおいても、Chol-RNAオリゴマー(Chol―overhang 2base(1)
)を用いることで、ポリアニオンを加えた際のmRNAの放出が抑制されたほか(
図11(B))、細胞に導入した際のmRNAからのタンパク質発現効率が向上した(
図11(C))。一方、Chol-RNAオリゴマーを用いない場合には、A/P比1.5から2でミセルからの多量のmRNAの放出が観られた(
図11(A))。従って、様々な組成のポリカチオンにおいて、Chol修飾オリゴのハイブリダイズがその安定化に有効であることが明らかとなった。
【0279】
実施例1-14:マウスを用いた血中安定性試験
ここでは実施例1-2で調製したGluc mRNA又は実施例1-3で調製した以下のRNAオリゴマーをハイブリダイズしたGluc mRNAを用いた。
【0280】
Chol―overhang 2base(1)
Chol―overhang 2base(2)
Chol―overhang 2base(3)
Chol―overhang 2base(4)
Chol―overhang 2base(5)
Chol―overhang 2base(6)
Chol―overhang 2base(7)
Chol―overhang 2base(8)
Chol―overhang 2base(9)
Chol―overhang 2base(10)
【0281】
PEG-PAsp(DET)-CholとmRNAはそれぞれ独立して10mM HEPES buffer(pH7.4)に溶解させた。PEG-PAsp(DET)-Cholの濃度は、pH7.4において((PAsp(DET)の正電荷数)/(mRNAの負電荷数))(N+/P―比)が1.5となるように調整した。mRNA最終濃度が200μg/mLとなるようにPEG-PAsp(DET)-Chol溶液をmRNA溶液に添加し、PMsを調製した。
【0282】
Balb/Cマウス(メス、6週齡)の尾静脈より、40μgのmRNAを含むPMs溶液を200μL投与した。2.5、5、10分後に尾静脈より2μLの血液を採取した。採取した血液から、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてmRNAを抽出し、抽出したmRNAをcDNAに逆転写した後、qRT-PCRにより残存しているcDNAを定量評価した。統計学的処理は、Studentのt検定により行った。
【0283】
その結果を、
図12に示す。
図12に示すように、Chol修飾オリゴを10個ハイブリダイズすることで、血中滞留性が向上する傾向が見られた。
【0284】
実施例1-15:マウスを用いたPMsの肺への局所投与
ここでは実施例1-2で調製したGluc mRNA又は実施例1-3で調製した以下のRNAオリゴマーをハイブリダイズしたGluc mRNAを用いた。
【0285】
Chol―overhang 2base(1)
Chol―overhang 2base(2)
Chol―overhang 2base(3)
Chol―overhang 2base(4)
Chol―overhang 2base(5)
【0286】
各PMsは実地例5と同様の方法でPEG-PAsp(DET)-Cholを用いて調製した。
【0287】
Balb/Cマウス(メス、6週齡)の気管を切開し、1.67μgのmRNAを含むPMs溶液50μLを噴霧器により直接肺へ投与した。24時間後、マウスの肺を摘出し、ホモジェナイズした後に、そこに含まれるGlucタンパク質量をルミノメータにて定量した。また、投与4時間後の肺を用いて、肺において残存しているGluc mRNA量を定量する目的で、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてmRNAを抽出し、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、qRT-PCRにより残存しているcDNAを定量評価した。この際、組織に含まれるアクチンの量を下にmRNA発現量を規格化した。
【0288】
その結果を、
図13に示す。
図13(A)に示すように、Chol修飾オリゴマーを5個ハイブリダイズしたmRNAで、ハイブリダイズしていないmRNAと比べて、有意に高いmRNAからのタンパク質発現効率が得られた。また、
図13(B)に示すように、肺組織に分解されずに残存したmRNA量も、Chol修飾オリゴマーを5個ハイブリダイズすることで、有意に増加することから、生体内での安定性が向上したことが明らかとなった。また安全性に関して、投与後の肺組織での(c)インターフェロンβ、(d)インターロイキン6の発現量は、ハイブリダイズしていないmRNAとChol修飾オリゴマーを5個ハイブリダイズしたもので有意な変化はなく、低い値にとどまったことから、安全性は担保されたものと考えられた。
【0289】
このように、安定性が向上した結果(
図13(B))、発現が向上することが分かった(
図13(A))。このことから、in vivoでも有効であることが分かる。
【0290】
実施例1-15:ポリエチレングリコール(PEG)化mRNAの作製
PEG化mRNAを、以下のように作製した。RNA2次構造予測ソフトウェア(http://rtips.dna.bio.keio.ac.jp/ipknot/)にて、Gluc mRNAの2次構造を予測し、RNA鎖が2次構造を持たない部分に対してRNAオリゴマーを設計した。RNAオリゴマーは、5’末端のPEG修飾を含めて、ジーンデザイン社にて、依頼合成した。ここで、重量平均分子量12,000の直鎖PEGを用いた。そして、以下の5’末端PEG修飾RNAオリゴマーをジーンデザイン社より購入した。
【0291】
配列p1(配列番号34):5’―PEG-ACUCUUUGUCGCCUUCG―3’
配列p2(配列番号35):5’―PEG-CUCGGCCACAGCGAUGC―3’
配列p3(配列番号36):5’―PEG-UCUUUGAGCACCUCCAG―3’
配列p4(配列番号37):5’―PEG-CUCUAGAUGCAUGCUCG―3’
配列p5(配列番号38):5’―PEG-GCGGCAGCCACUUCUUG―3’
配列p6(配列番号39):5’―PEG-AUCUCAGGAAUGUCGAC―3’
配列p7(配列番号40):5’―PEG-GCAGCCAGCUUUCCGGG―3’
配列p8(配列番号41):5’―PEG-UUGAGGCAGCCAGUUGU―3’
配列p9(配列番号42):5’―PEG-UGAUCUUGUCCACCUGG―3’
配列p10(配列番号43):5’―PEG-GAUGAACUUCUUCAUCU―3’
配列p11(配列番号44):5’―PEG-GUGGGACAGGCAGAUCA―3’
配列p12(配列番号45):5’―PEG-UUGAAGUCUUCGUUGUU―3’
配列p13(配列番号46):5’―PEG-GGGCAACUUCCCGCGGU―3’
配列p14(配列番号47):5’―PEG-CUGCUCCAUGGGCUCCA―3’
配列p15(配列番号48):5’―PEG-CUUGCUGGCAAAGGUCG―3’
【0292】
以下の実施例1-16~18では、mRNAとして実施例1-3で調製したものを用いた。mRNAに対して1当量のRNAオリゴマーを加え、65℃で5分加熱し、10分かけて30℃まで冷却することで、ハイブリダイゼーションを行った。これにより、PEG化mRNAを作製した。
【0293】
実施例1-16:PEG修飾RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズによる翻訳効率の変化
1箇所、5箇所、10箇所、又は15箇所にPEG修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAを用いた。尚、PEGRNA修飾オリゴマー1個、5個、10個、及び15個の各実験では、実施例1-15で作製した以下のPEG修飾RNAオリゴマーを用いた。
【0294】
PEG修飾RNAオリゴマー1個の実験:配列p1
PEG修飾RNAオリゴマー5個の実験:配列p1~p5
PEG修飾RNAオリゴマー10個の実験:配列p1~p10
PEG修飾RNAオリゴマー15個の実験:配列p1~p15
【0295】
さらに、PEG修飾RNAオリゴマー0個の実験では、mRNAだけを65℃で5分加熱し、10分かけて30℃まで冷却したものを用いた。
実験は、それぞれ3回行った。
【0296】
調製したmRNAサンプルの無細胞系でのタンパク質翻訳効率は、Rabbit Reticulocyte Lysate System, Nuclease treated(Promega Co.,Madison,WI)を用いて評価した。300ngのGLuc mRNAを含むサンプル溶液をRabbit reticulocyte lysateに添加し、30℃で90分インキュベートした後、反応溶液10μLの発光強度をRenilla Luciferase assay kit(Promega)を用いて定量した。測定にはMithras LB 940(Berthold technologies Co.)を用いた。
【0297】
その結果を、
図18に示す。PEG量の増加に伴う、若干の翻訳活性の低下を認めたが、15個のPEG修飾RNAオリゴマーを用いてmRNAを修飾しても、未修飾のものと比べ64%程度の翻訳活性は得られた。
ここで、
図18中、「*」はオリゴ修飾していない場合と比べた場合、p<0.05という統計学的有意差があることを示す。統計処理はANOVA検定ののち、オリゴ修飾していない場合をコントロールとしたDunnett検定を行った。
【0298】
実施例1-17:PEG修飾RNAオリゴマーのmRNAへのハイブリダイズによる安定化効果
1箇所、5箇所、10箇所、又は15箇所にPEG修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAを用いた。尚、PEG修飾オリゴマー1個、5個、10個、及び15個の各実験では、実施例1-15で作製した以下のPEG修飾オリゴマーを用いた。
【0299】
PEG修飾オリゴマー1個の実験:配列p1
PEG修飾オリゴマー5個の実験:配列p1~p5
PEG修飾オリゴマー10個の実験:配列p1~p10
PEG修飾オリゴマー15個の実験:配列p1~p15
【0300】
さらに、PEG修飾オリゴマー0個の実験では、mRNAだけを65℃で5分加熱し、10分かけて30℃まで冷却したものを用いた。
実験は、それぞれ3回行った。
【0301】
FBSに対する安定性を確認する試験の手順は
図19(A)に示す通りである。100ngのGLuc mRNAを含むサンプルを0.5%Fetal Bovine Serum(FBS,Dainippon Sumitomo Pharma Co.,Ltd.,Osaka,Japan)溶液中で37℃、15分インキュベートした。その後、1v/v%2-メルカプトエタノールを含むRLT buffer(Quiage,Hilden,Germany)350μLを添加し、65℃で5分間インキュベートした後、氷上で急冷することで、PEG-RNAオリゴマーをdenatureした。mRNAをRNeasy Mini Kit(Quiagen)を用いて精製した後、ReverTra Ace(商品名)qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(TOYOBO CO.,Ltd.,Osaka,Japan)を用いてコンプリメンタリーDNA(cDNA)に逆転写した。逆転写したcDNAを定量RT-PCR(qRT-PCR)により定量評価した。ここで、qRT-PCR測定には下記配列のプライマーを用いた。
【0302】
Forward(配列番号49):TGAGATTCCTGGGTTCAAGG
Reverse(配列番号50):GTCAGAACACTGCACGTTGG
【0303】
その結果を
図19(B)に示す。PEG修飾オリゴマーによって分解酵素耐性が向上することが示唆された。また、分解酵素耐性は修飾されるPEGオリゴの数が多いほど向上する傾向があった。
【0304】
実施例1-18:PEG化mRNAの発現試験
15箇所にPEG修飾RNAオリゴマーをハイブリダイズしたmRNAを用いた。尚、PEG修飾オリゴマー15個の実験では、実施例1-15で作製した以下のPEG修飾オリゴマーを用いた。
【0305】
PEG修飾オリゴマー15個の実験:配列p1~p15
【0306】
さらに、PEG修飾オリゴマー0個の実験では、mRNAだけを65℃で5分加熱し、10分かけて30℃まで冷却したものを用いた。
実験は、それぞれ3回行った。
【0307】
培養細胞(HuH-7細胞)に対するmRNA発現試験を次のように行った。ヒト肝がん細胞(HuH-7細胞)を96-wellプレートに5,000 cells/wellで播種し、a humidified atmosphere with 5%CO2 at 37°Cで24時間インキュベートした。血清培地を取り除いた後、無血清培地(Opti-MEM, Thermo Fisher Scientific Inc.,Waltham,MA)100μLに置換し、250ngのGluc mRNAを含むサンプル溶液を添加した。4時間後、Renilla Luciferase assay kit(Promega)を用いて10μLの上澄中の発光強度を定量した。測定にはMithras LB 940(Berthold technologies Co.)を用いた。
【0308】
その結果を、
図20に示す。培養細胞においてPEG修飾mRNAは未修飾のものと比較して有意に高い発現を示した。これはPEG修飾mRNAの安定化効果によるものと考えられる。
【0309】
実施例2-1:様々な二本鎖RNAの作製
T7-Gluc plasmidは、pCMV-Gluc control plasmid(New England BioLabs,Ipswich,MA,USA)からGlucコード配列(配列番号57及び
図33)をpSP73ベクター(Promega)のHindIII,Xba1サイトに挿入することで作製した。
【0310】
T7-Gluc poly A120 plasmidは、T7-Gluc plasmidのEcoR1-Bgl2サイトにA120-(BsmB1切断部位)を挿入することで作製した。
【0311】
図21(A)に示した通り、Gluc sense鎖は、T7-Gluc poly A120 plasmidをBsmBIで切断し、mMESSAGE mMACHINE T7 Ultra Kit(Thermo Fisher Scientific)にてT7プロモーターより転写することで作製した。このキットでRNAを作成した場合、5’末端はCap修飾される。
【0312】
図21(B)に示した通り、Gluc antisense鎖(poly U込み)はT7-Gluc poly A120 plasmidをHindIIIで切断し、MEGAscript(登録商標) SP6 Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific)にてSp6プロモーターより転写することで作製した。ここではCapアナログを加えずにRNAを作製しているため、5’末端はCap修飾されず、トリリン酸基が結合した状態となる。
【0313】
図21(C)に示した通り、Gluc antisense鎖(poly Uなし)はT7-Gluc plasmidをHindIIIで切断し、MEGAscript(登録商標) SP6 Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific)にてSp6プロモーターより転写することで作製した。
【0314】
図21(D)に示した通り、poly UはT7-Gluc poly A120 plasmidをSmaIで切断し、MEGAscript(登録商標) SP6 Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific)にてSp6プロモーターより転写することで作製した。poly Uは、poly A全体の配列に相補的な配列(120塩基)と、その下流に、mRNAの3’UTRの一部(すなわち、3’UTRの約37%の塩基長の配列)に相補的な配列(19塩基)を含む。尚、poly Uは、上流に、SP6プロモーター内の配列、及び、クローニングに用いた制限酵素配列を他の配列(17塩基)としてさらに含む。すなわち、ここで用いたpoly Uは、156塩基長の配列を有する。また、5’末端にトリリン酸構造を有する。
【0315】
以下に、作製したセンス鎖、アンチセンス酸、及びpoly Uの塩基配列を示す。
Gluc sense鎖(配列番号51及び
図27)
Gluc antisense鎖(poly U込み)(配列番号52及び
図28)
Gluc antisense鎖(poly Uなし)(配列番号53及び
図29)
poly U(配列番号54及び
図30)
【0316】
ここで、
図27の配列において、下線部分がopen reading frame(ORF)であり、ORFの上流が5’UTR(54塩基長)であり、ORFの下流に3’UTR(52塩基長)があり、さらにその下流の119Aがpoly A配列である。
【0317】
ここで、Poly Aの数について、理論上は鋳型DNAに120bpに組み込まれ、T7プロモーターから転写したmRNAは119塩基のAを、Sp6プロモーターから転写したRNAは120塩基のUをそれぞれ有する。しかし、DNA増幅や、mRNA調製の段階でその数は増減しうる。
【0318】
作製したセンス鎖、アンチセンス鎖、及びpoly Uを用いて、次のように、二本鎖RNAを作製した。先ず、10mM Hepesバッファー中にセンス鎖、アンチセンス鎖又はpoly Uが等モル量含まれ、RNA濃度が300μg/mlとなる溶液を調製した。その溶液を65℃で5分維持した後、10分かけて30℃に下げることでハイブリダイズを行った。
【0319】
トリリン酸化を除く際は、Antarctic phosphatase(New England Biolabs,cat.no.M0289S)を用いた。
【0320】
ここで、
図22に、作製した二本鎖RNAの模式図を示す。
図22(A)がmRNA:RNAであり、
図22(B)がmRNA:RNA poly U(-)であり、
図22(C)がmRNA:poly Uであり、
図22(D)がmRNA:poly U ppp(-)である。
【0321】
尚、
図22中、mRNAのタンパク質コード配列の上流には5’UTRがあり、下流には3’ UTRが存在する。
【0322】
実施例2-2:樹状細胞株を用いた二本鎖RNAワクチンの最適化
DC2.4細胞を6well plateに1,000,000/well蒔き、24h後に培地を交換し、無血清培地Opti-MEM(商品名)(Thermo Fisher Scientific)に置換したのち、Lipofectamine(商品名) LTX(Thermo Fisher Scientific)を用いてmRNAを2.5μg/well投与した。4時間後、細胞からRNeasy mini kit(QIAGEN)にてRNAを精製し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(TOYOBO)にてcomplementary DNA(cDNA)にした後、taqman gene expression assay(Applied Biosystems)を用いて、インターフェロンβの発現量を調べた。この際、actin bの発現量にて標準化した。また培地に含まれるGlucタンパク質量をRenilla Luciferase Assay System (Promega)にて定量した。
【0323】
その結果を
図23に示す。全長にハイブリダイズしたmRNA:RNAでは強い炎症反応を惹起できたものの(
図23(A))、mRNAからのGlucタンパク質発現量は、1本鎖mRNAと比べて100倍程度低下した(
図23(B))。一方で、mRNA:RNA poly U(-)では、mRNA:RNAと比べ炎症反応が著明に低下したのに加え(
図23(A))、Gluc発現量もmRNA:RNAと同程度であった(
図23(B))。それに対して、主にpoly U部分だけハイブリダイズしたものでは、mRNA:RNAと同等に強い炎症反応が見られたのに加え(
図23(A))、mRNAからのタンパク質発現量も、1本鎖mRNAとほぼ同程度のレベルに保たれた(
図23(B))。なお、ここでアンチセンス鎖RNAの5’末端はトリリン酸化された状態であるが、これは細胞内核酸受容体であるRIG-Iに認識され、強い炎症反応を惹起することが知られている。そこで、トリリン酸と炎症反応の関係を調べるために、トリリン酸を除いたpoly UをハイブリダイズさせたmRNAを導入したところ、炎症反応はトリリン酸化poly Uの場合と比べやや低下した。従って、RNAオリゴマーが5’末端トリリン酸を有することで、より強い炎症反応が惹起されることが明らかになった。
【0324】
mRNA:RNA poly U(-)ではあまり炎症が起きなかったことから、用いる相補鎖に依存してRIG-Iによるトリリン酸認識が異なることが強く示唆される。poly Uの場合、5’末端がmRNA末端に露出され、トリリン酸が立体的にRIG-Iに認識されやすくなった可能性、トリリン酸周囲の配列にUを多く含むが、AU結合が弱いのでトリリン酸の運動性が高まり、認識されやすくなった可能性等が想定される。このように相補鎖の選択がRIG-Iを介した自然免疫応答に重要である可能性が強く示唆された。
【0325】
このように、mRNAの3’末端に付加されるpoly A鎖の部分に相補鎖(poly U)を主にハイブリダイズさせた場合、タンパク質発現効率がほとんど低下させることなく、強い炎症反応を惹起することが分かった。
【0326】
実施例2-3:poly UハイブリダイズmRNAのリンパ節内投与
mRNA:poly Uは実施例2-2と同様に作製した。Gluc mRNA 3μgを含む10μLの10 mM Hepes溶液をC57BL6Nマウスの鼠径リンパ節に投与した。4時間後、鼠径リンパ節を回収し、Passive lysis buffer(Promega)にて溶解し、Luc発現量をRenilla Luciferase Assay System(Promega)にて定量した。また、RNAをRNeasy mini kit(QIAGEN)にて抽出し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(TOYOBO)にてcomplementary DNA (cDNA)にした後、taqman gene expression assay(Thermo Fisher Scientific)を用いて、インターフェロンβ及びインターロイキン6の発現量を調べた。この際、actin bの発現量にて標準化した。
【0327】
その結果を
図24に示す。すると、
図23の培養細胞を用いた解析と同様に、poly Uをハイブリダイズさせただけで、炎症反応は1本鎖mRNAと比べ著明に向上し(
図24(B)及び(C))、さらにmRNAからのGluc発現効率は、ほぼ1本鎖mRNAと同程度であった(
図24(A))。
【0328】
このように、in vivoにおいてもpoly UハイブリダイズmRNAは、翻訳効率を大きく損なうことなく、強い炎症反応を惹起することが分かった。
【0329】
実施例2-4:poly UハイブリダイズmRNAによる細胞性免疫の誘導
T7-OVA poly A120 plasmidは、Genscript社にてコドン最適化を行ったOVAコード配列(配列番号58及び
図34)をpSP73ベクター(Promega)のXhoI、EcoR1サイトに挿入することで作成した。OVA sense鎖は、T7-OVA poly A120 plasmidをBsmBIで切断し、mMESSAGE mMACHINE T7 Ultra Kit(Thermo Fisher Scientific)にてT7プロモーターより転写することで作製した。poly UはT7-Gluc poly A120 plasmidをEcoRIで切断し、MEGAscript(登録商標) SP6 Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific)にてSp6プロモーターより転写することで作製した。
ここで、poly Uは、poly A全体の配列に相補的な配列(120塩基)と、その下流に、mRNAの3’UTRの一部(すなわち、3’UTRの約83%の塩基長の配列)に相補的な配列(5塩基)を含む。尚、ここで用いたpoly Uは、SP6プロモーター内の配列、及び、クローニングに用いた制限酵素配列を他の配列(17塩基)としてさらに含む。すなわち、ここで用いたpoly Uは、142塩基長の配列を有する。また、5’末端にトリリン酸構造を有する。
【0330】
以下に、作製したセンス鎖、及びpoly Uの塩基配列を示す。
OVA sense鎖(配列番号55及び
図31)
poly U(配列番号56及び
図32)
【0331】
尚、
図31の配列において、下線部分がopen reading frame(ORF)であり、ORFの上流が5’UTR(16塩基)であり、ORFの下流に3’UTR(6塩基)があり、さらにその下流の119Aがpoly A配列である。
AやUの数に関しては、実施例2-1の場合と同様であり、T7プロモーターから転写したmRNAは119塩基のAを、Sp6プロモーターから転写したRNAは120塩基のUをそれぞれ有する。しかし、DNA増幅や、mRNA調製の段階でその数は増減しうる。
【0332】
poly UをハイブリダイズさせたOVA発現mRNA(mRNA:poly U)は、実施例2-2と同様に作製した。具体的には、10mM Hepesバッファー中にセンス鎖、アンチセンス鎖、又はpoly Uが等モル量含まれ、RNA濃度が300μg/mlとなる溶液を調製した。その溶液を65℃で5分維持した後、10分かけて30℃に下げることハイブリダイズを行った。
【0333】
図25(A)に以下の実験の手順を示す。先ず、OVA mRNA 3μgを含む10μLの10 mM Hepes溶液をC57BL6Nマウスの鼠径リンパ節に投与した。7日後、脾臓細胞を回収し、IFN-γ ELISpot PLUS、Mouse(-)HRPキット(MABTECH 社)にてEnzyme-Linked ImmunoSpot(ELISPOT)アッセイを行った。ここでは、96well plateに250,000cells/well蒔いた。最終OVA濃度10μg/mLで24時間培養したのち、IFN-γ産生細胞数を計測した。
【0334】
その結果を
図25(B)に示す。
図25(B)の縦軸は、OVAに反応してIFN-γを産生した脾細胞の数を示し、細胞性免疫の指標となる。
図25(B)に示されているように、1本鎖のOVA mRNAでは、細胞性免疫をほとんど誘導できなかったのに対して、poly UをハイブリダイズさせたOVA mRNA(mRNA:poly U)では、有意な細胞性免疫反応が観察された。
【0335】
このように、poly Uハイブリダイズにより、より強い細胞性免疫を誘導することができることが分かった。
【0336】
実施例2-5:poly UハイブリダイズmRNAによる液性免疫の誘導
実施例2-4と同様の方法でOVA mRNAをC57BL6Nマウスに投与し、7日後に血液を採取した(
図26(A))。血清中の抗OVA IgGをMouse Anti-OVA IgG Antibody Assay Kit(コンドレックス社)にて定量した。
【0337】
その結果を
図26(B)に示す。1本鎖mRNAではOVA反応性IgG値はコントロール群に比べ上昇しなかったのに対して、poly UをハイブリダイズさせたOVA mRNA(mRNA:poly U)では、IgG値の有意な上昇が観察された。
【0338】
このように、poly Uハイブリダイズにより、より強い液性免疫を誘導することができることが分かった。
【0339】
実施例2-6:樹状細胞を用いた二本鎖RNAワクチンの最適化
実施例2-2と同様の方法で、樹状細胞(D.C.2.4細胞)におけるmRNAからのタンパク質発現量(すなわちルシフェラーゼ発現量)を定量した。
ただし、D.C.2.4細胞を96well plateに40,000/well蒔いて実験を行った。また、RNAオリゴマーとして、以下の3つを用いた。
poly U(3’UTRと相補的な配列の鎖長:5塩基)(配列番号56、
図36(B))
poly U(3’UTRと相補的な配列の鎖長:19塩基)(配列番号54、
図36(B))
poly U(3’UTRと相補的な配列の鎖長:50塩基)(配列番号59、
図36(B))
【0340】
「poly U(3’UTRと相補的な配列の鎖長:5塩基)(配列番号56)」T7-Gluc poly A120 plasmidをEcoRIで切断し、MEGAscript(登録商標) SP6 Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific)にてSp6プロモーターより転写することで作製した(
図36(A))。
「poly U(3’UTRと相補的な配列の鎖長:19塩基)(配列番号54)」T7-Gluc poly A120 plasmidをSmaIで切断し、MEGAscript(登録商標) SP6 Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific)にてSp6プロモーターより転写することで作製した(
図36(A))。
尚、「poly U(3’UTRと相補的な配列の鎖長:5塩基)(配列番号56)」は、mRNAの3’UTRの一部(すなわち、3’UTR(52塩基長)の約10%の塩基長の配列)に相補的な配列(5塩基)を含む。
また、poly U(3’UTRと相補的な配列の鎖長:19塩基)は、mRNAの3’UTRの一部(すなわち、3’UTR(52塩基長)の約36%の塩基長の配列)に相補的な配列(19塩基)を含む。
【0341】
「poly U(3’UTRと相補的な配列の鎖長:50塩基)」は、T7-Gluc poly A120 plasmidをNotIで切断し、MEGAscript(登録商標) SP6 Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific)にてSp6プロモーターより転写することで作製した(
図36(A))。
ここで、poly Uは、poly A全体の配列に相補的な配列(120塩基)と、その下流に、mRNAの3’UTRの一部(すなわち、3’UTR(52塩基長)の約96%の塩基長の配列)に相補的な配列(50塩基)を含む。尚、ここで用いたpoly Uは、SP6プロモーター内の配列、及び、クローニングに用いた制限酵素配列を他の配列(17塩基)としてさらに含む。すなわち、ここで用いたpoly Uは、187塩基長の配列を有する。また、5’末端にトリリン酸構造を有する。
【0342】
その結果を、
図35に示す。
図35に示されるように、各poly Uの3’UTRと相補的な配列の鎖長は、短ければ短いほど、mRNAからのタンパク質発現を維持する上で好ましいことが分かる。
【0343】
実施例3-1:RNAオリゴマーのハイブリダイゼーション
合成RNAオリゴマーを以下のように作製した。先ず、Gluc mRNAに相補的な第1の配列については、RNA2次構造予測ソフトウェア(http://rtips.dna.bio.keio.ac.jp/ipknot/)にて、Gluc mRNAの2次構造を予測し、RNA鎖が2次構造を持たない部分に対してRNAオリゴマーを設計した。overhang配列については、可能な限りmRNA鎖とハイブリダイズしないようAまたはUを用いて設計した。5’ppp-RNAオリゴマーと相補的な第2の配列については、先ず、5’ppp-RNAオリゴマーの配列を設計し、その配列に相補的な第2の配列を得た。5’ppp-RNAオリゴマーではGUの繰り返し配列を用いたが、これは、ATPを含まない系でin vitro転写をすることにより、相補鎖の副産物の生成が抑制されるほか、GU繰り返し配列はそのRNA自体で2次構造を形成しないことが特徴である。この5’ppp-RNAオリゴマーに相補的な配列として第2の配列を得たが、この際、5’ppp-RNAオリゴマーのトリリン酸化された5’末端が平滑になるよう配列設計を行っている。。
【0344】
そのように設計した合成RNAオリゴマーの合成を依頼し、5’側より、Gluc mRNAに相補的な17塩基の配列、2塩基のoverhang配列、5’ppp-RNAオリゴマーと相補的な24塩基の配列からなる以下の合成RNAオリゴマーを購入した。
合成RNAオリゴマーは北海道システムサイエンスより購入した。
【0345】
合成RNAオリゴマー配列1(配列番号60):CAGCCAGCUUUCCGGGCUACACACACACACACACACACACACC
合成RNAオリゴマー配列2(配列番号61):ACUCUUUGUCGCCUUCGAUCACACACACACACACACACACACC
合成RNAオリゴマー配列3(配列番号62):GCGGCAGCCACUUCUUGUACACACACACACACACACACACACC
【0346】
5’ppp-RNAオリゴマーは次のように作製した。先ず、DR274ベクター(addgene)をBsaIで切断し、以下の2種類のオリゴマーをハイブリダイズさせたものをそこに挿入した。
【0347】
DNAオリゴマー(配列番号63):TAGGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGGGCCC
DNAオリゴマー(配列番号64):AAACGGGCCCACACACACACACACACACACA
【0348】
これにより
図41に示した塩基配列(配列番号65)のベクターを作製した。次に、5’ppp-RNAオリゴマーは、
図41に示した塩基配列(配列番号65)のベクターをApaIとSnaBIで切断してin vitro転写により調製した。in vitro転写の際、ATPを含まない反応液を用いることで目的配列の相補鎖RNAの転写を抑制した。これにより5’がトリリン酸化された以下の5’ppp-RNAオリゴマーが調製された。
【0349】
5’ppp-RNAオリゴマー(配列番号66):GGUGUGUGUGUGUGUGUGUGUGUG
【0350】
合成RNAオリゴマー配列1~3と5’ppp-RNAオリゴマーとのハイブリダイズにより、これらがハイブリダイズする側に平滑5’末端トリリン酸化構造が得られることが期待された。
【0351】
24nt 1個:5’ppp-RNAオリゴマー、合成RNAオリゴマー配列1、Gluc mRNAをモル比1:1:1で混合し、ハイブリダイズさせたものである。
【0352】
24nt 2個:5’ppp-RNAオリゴマー、合成RNAオリゴマー配列1及び2、Gluc mRNAをモル比1:1:1:1で混合し、ハイブリダイズさせたものである。
【0353】
24nt 3個:5’ppp-RNAオリゴマー、合成RNAオリゴマー配列1、2及び3、Gluc mRNAをモル比1:1:1:1:1で混合し、以下の条件でハイブリダイズさせたものである。
【0354】
以下の実施例3-2及び3-3では、Gluc mRNAとして実施例1-3で調製したものを用いた。ハイブリダイゼーションは、65℃で5分加熱し、10分かけて30℃まで冷却することで行った。
また、実施例3-3では、「mRNA:pU」として、実施例2-1で調製した「mRNA:polyU」を用いた。
【0355】
実施例3-2:免疫賦活化
DC2.4細胞を12 well plateに400,000/well蒔き、24h後に培地を交換し、無血清培地Opti-MEM(商品名)(Thermo Fisher Scientific)に置換したのち、Lipofectamine(商品名) LTX(Thermo Fisher Scientific)を用いてmRNAを2.5μg/well投与した。4時間後、細胞からRNeasy mini kit(QIAGEN)にてRNAを精製し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(TOYOBO)にてcomplementary DNA(cDNA)にした後、taqman gene expression assay(Applied Biosystems)を用いて、インターフェロンβおよびインターロイキン6の発現量を調べた。この際、actin bの発現量にて標準化した。
【0356】
その結果を
図38及び
図39に示す。5’ppp-RNAオリゴマーと合成RNAオリゴマーからなる2本鎖構造の増加に従って、インターフェロンβおよびインターロイキン6の発現量が増加していた。そこから、2本鎖構造の増加に従って、免疫賦活化効果が上昇したことが明らかとなった。
【0357】
実施例3-3:タンパク質翻訳
DC2.4細胞を96 well plateに40,000/well蒔き、24h後に培地を交換し、無血清培地Opti-MEM(商品名)(Thermo Fisher Scientific)に置換したのち、Lipofectamine(商品名) LTX(Thermo Fisher Scientific)を用いてmRNAを0.25μg/well投与した。4時間後Glucタンパク質量をRenilla Luciferase Assay System (Promega)にて定量した。
【0358】
その結果を
図40に示す。5’ppp-RNAオリゴマーと合成RNAオリゴマーからなる2本鎖構造の増加に従って、若干の翻訳活性の低下を認めたものの、3個結合した場合でも1本鎖RNAと比べ、70%程度の翻訳活性が保たれた。態様2のmRNA:pUと比較して、優れた翻訳活性が得られた。
ここで
図38~40のP値は、統計処理としてANOVA検定ののち、Tukey検定を行った際の統計学的有意差を示す。
【産業上の利用可能性】
【0359】
mRNA送達は、治療用タンパク質を安全かつ持続的に供給するための手法として、その医療への応用が期待されている。一方で、mRNAが生体内で速やかに酵素分解を受けてしまうことが大きな課題とされていた。これに対して、本発明の第1の態様では、mRNA分子自体を化学修飾することで、高分子ミセルに内包した際のmRNAの酵素分解を顕著に抑制し、mRNA導入効率を高めることに成功した。ここで用いたmRNA内包高分子ミセルは、中枢神経疾患、運動感覚器疾患、肝疾患、悪性腫瘍などの様々な疾患のモデル動物に対する治療実験において、優れた効果を示しており、将来の臨床応用を見据えた研究が進められている。高分子ミセルの組成は、標的臓器、投与法により異なるが、本発明の第1の態様の技術は様々な組成のミセルを安定化できることから、幅広く応用できる。
【0360】
mRNAワクチンは、従来のワクチンとは全く異なった仕組みによる医薬品として位置づけられる。特徴として、発現させる抗原タンパク質を自由に構築できること、細胞性免疫を誘導できることが挙げられる。また、同種の核酸ワクチンとしてDNAワクチンの研究例はあるが、DNAはホストゲノムへのランダムな挿入による変異誘発リスクがあり、実用化の障害となるのに対し、mRNAはその危険性がない。
【0361】
従来の一本鎖のmRNAを用いたワクチン開発はアメリカ、ドイツを中心に進んでいるが、効果的に炎症反応を惹起するためのアジュバント併用が避けられなかった。本発明の第2及び第3の態様のmRNAワクチンは、アジュバントが必ずしも必要ではなく、mRNAのみで効果的に炎症反応を惹起することが可能であり、また、抗原提示と同時かつ同所的に炎症反応を惹起できる。
【0362】
mRNAワクチンは、投与経路(皮下投与、筋肉内投与、経粘膜投与等)、輸送担体などを選ばず、用途や目的に応じた柔軟な適応を可能である。また、mRNAワクチンで用いるmRNAは化学反応をベースに精製され、塩基配列を変えるだけであらゆるタンパク質に対応可能であるため、スケールメリットによる大幅なコストダウンが見込まれる。これらのことは、従来のワクチンとは明白に異なったメリットである。本発明の第2及び第3の態様のワクチンは、新しいワクチンシステムとして、がんなどの個別化治療、ウイルス変異に迅速に対応可能な感染症ワクチンなど、広範なマーケットが期待される。
【配列表フリーテキスト】
【0363】
配列番号1~27:合成RNA
配列番号28~31:合成DNA/RNA
配列番号32:合成DNA
配列番号33:合成RNA
配列番号34~48:合成RNA
配列番号49及び50:合成DNA
【0364】
配列番号51~56:合成RNA
配列番号57及び58:合成DNA
配列番号59:合成RNA
【0365】
配列番号60~62:合成RNA
配列番号63~65:合成DNA
配列番号66~68:合成RNA
【配列表】