(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】ウランの放射能の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/167 20060101AFI20230421BHJP
G01T 1/16 20060101ALI20230421BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
G01T1/167 C
G01T1/167 H
G01T1/167 D
G01T1/16 A
G01T1/20 F
G01T1/20 J
(21)【出願番号】P 2022132683
(22)【出願日】2022-08-23
【審査請求日】2023-02-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506214460
【氏名又は名称】株式会社スリー・アール
(74)【代理人】
【識別番号】100134740
【氏名又は名称】小池 文雄
(72)【発明者】
【氏名】茂木 道教
(72)【発明者】
【氏名】昆 達郎
(72)【発明者】
【氏名】菅井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】菅井 弘
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-340861(JP,A)
【文献】放射能測定法シリーズ ゲルマニウム半導体検出器による γ線スペクトロメトリー,No.7,日本,原子力規制庁監視情報課,2020年02月
【文献】放射能測定法シリーズ ゲルマニウム半導体検出器を用いた in-situ 測定法,No.33,日本,原子力規制庁監視情報課,2017年03月
【文献】永松知洋 他,岡山大学における核燃料物質の安全管理のための 劣化ウランと天然ウランの鑑別について,環境制御 (Environment Research and Control),30,日本,2008年,p.33-37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00 - 1/16
G01T 1/167 - 7/12
G21F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核燃料物質又は核原料物質を扱う施設から出る廃棄物において、精製ウランと自然界由来のウランの共存下での精製ウランの放射能を求めるための測定方法であって、
(A)開口部と、底部と、所定の深さの側部とを備える測定容器を準備する工程と、
(B)前記測定容器の側部の外側にNaI(Tl)シンチレーション放射線検出器を配置する工程と、
(C)前記放射線検出器で前記測定容器中に収納された前記廃棄物からのγ線スペクトルを測定する工程と、
(D)前記γ線スペクトルからバックグランドを差し引いた後の1.001MeVでのピークから、隣接し干渉する
214Biの0.934MeV及び1.120MeVのピークを差し引いて、
238Uの崩壊過程で発生する
234mPaが放出する1.001MeVのピークを弁別する工程と、
(E)弁別した前記1.001MeVのピークから前記精製ウランの放射能を算出する工程と、を含
み、
前記1.001MeVのピークを弁別する工程(D)は、
(D1)前記γ線スペクトルから、前記測定容器でのγ線測定に合わせて補正されたトリウム系列標準スペクトルを差し引いて、補正γ線スペクトルを得る工程と、
(D2)前記補正γ線スペクトル中の1.001MeVでのピークから、前記0.934MeV及び1.120MeVのピークを差し引いて、
238
Uの崩壊過程で発生する
234m
Paが放出する1.001MeVのピークを弁別する工程と、を含む測定方法。
【請求項2】
前記補正γ線スペクトルを得る工程(D1)は、
(D10)トリウム系列の所定のγ線源からのγ線を測定し、バックグランドを差し引いてトリウム系列スペクトルを得る工程と、
(D20)得られたトリウム系列スペクトルに前記測定容器での密度補正を行ってトリウム系列標準スペクトルを得る工程と、を含む請求項
1の測定方法。
【請求項3】
前記1.001MeVのピークを弁別する工程(D)は、
(D3)γ線標準線源のγ線測定により得られたスペクトルデータの各エネルギーの全吸収ピークを正規確率分布にフィッティングした時の標準偏差(σ)を求める工程と、
(D4)
214Biの1.765MeVから求めた正味計数から、干渉している0.934MeV、1.120MeVの実際のピークを模擬した正規確率分布(各ピークでの標準偏差(σ))を算出する工程と、
(D5)前記補正γ線スペクトル中の1.001MeVでのピークから、算出された0.934MeV、1.120MeVの実際のピークを模擬した正規確率分布を差し引いて、前記1.001MeVのピークを得る工程と、を含む請求項
1の測定方法。
【請求項4】
前記廃棄物からのγ線スペクトルを測定する工程(C)は、
(C1)前記測定容器中に異なるKCl水溶液を入れ、単位濃度に対する
40Kからの1.461MeVのγ線の全吸収ピークの面積から基準効率(η
E1.461、単位:cps/(photon/cm
3))を求める工程と、
(C2)前記NaI(Tl)シンチレーション放射線検出器のγ線に対するエネルギー相対効率(Rη)を求める工程と、
(C3)円柱体積線源モデルを用いて、水、コンクリートについて、密度が変化した時の基準効率に対する密度補正係数(D
W・D
C)を求める工程と、
(C4)前記測定容器での測定効率ηE
x(cps/(photon/cm
3))を、基準効率(η
E1.461)、エネルギー相対効率(Rη)、及び密度補正係数D
W・D
Cを用いて、次式
η
Ex=η
E1.461×Rη×D
W・D
C
から求める工程と、を含む請求項
1の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、ウランの放射能の測定方法に関し、具体的には、原子力施設等から出る廃棄物についてのウランの放射能の測定方法に関し、より具体的には、その廃棄物中に含まれている可能性のある、精製ウランと、一般土木・工業資材等中に含まれる自然界由来のウランとを判別するために、精製ウランの放射能を測定する方法に関する。技術分野
【背景技術】
【0002】
原子力施設等の核燃料物質又は核原料物質を扱う施設において放射線防御の観点から特別の管理を必要とする放射性廃棄物のほかに、放射性廃棄物ではない廃棄物(以下、「NR廃棄物」と呼ぶ。)も大量に発生する。このNR廃棄物については、経済産業省がその取扱いについてのガイドライン(指示)を出しており(非特許文献1)、その内容に沿って廃棄物として判断し管理等を行う必要がある。例えば、NR廃棄物であると判断される可能性のある、管理区域に設置された資材等及管理区域で使用された物品は、念のための放射線測定評価を行うこと等が求められる。
【0003】
また、原子力施設等の建屋解体時に発生するコンクリート屑等は、一次除染の測定では汚染が無く、本来一次除染後の文部科学省による確認検査で問題が指摘されなかった場合、その建屋は管理区域解除となり、原子炉等規制法(炉規法)による規制枠外となり、建屋解体廃棄物(産業廃棄物)として廃棄できたものである。しかし、もしそのコンクリート屑等の建屋解体廃棄物が炉規法の規制枠内で管理された状態にある場合は、安心・安全のために、念のための放射線測定評価を行うことが求められる。
【0004】
さらに、管理区域から持ち出す物品(廃棄物を含む)については、他の規定、例えば電離放射線障害防止規則(昭和47年9月30日労働省令第41号)等に沿って、汚染が無いことを確認した上で搬出等を行う必要がある。
【0005】
原子力施設等の一つであるウランを取り扱う施設でのNR廃棄物に該当するか否かの判断(以下、「NR判断」とも呼ぶ。)は、汚染部位が明らかに分離されている、汚染の履歴が明らかにないことをもって判断することになっている。NR判断の際に行う測定は、廃棄物中の全ウランを測定して、汚染ないことを念のために測定するものである。その汚染がないことの確認は、例えばウランが理論的検出限界値未満であることを判断基準とすることができる。
【0006】
しかし、この全ウランには研究等で用いた精製ウランのみならず例えばコンクリート等の土木資材原料、土壌、あるいは研磨材等に含まれる自然界由来のウラン(NORM; Naturally Occurring Radioactive Materials、以下「NORMウラン」と呼ぶ。)が混在する可能性がある。その際、精製ウランの残留がないものであってもNORMウランが検出された場合、米国でのウラン回収、或いは国内埋設処分の何れかの適用が必要となり、その処理量及び処理費用が増大してしまう恐れがある。
【0007】
また、精製ウラン汚染に関する念のために測定においては、全ウランの測定結果のみで精製ウランの残留可能性の有無を判定することができない。しかし、もし精製ウランとNORMウランを識別し、精製ウランが検出限界値(0.05~0.1Bq/g程度)以下であることが確認できれば、精製ウランによる残留汚染がないことを示すことができることになり、施設での安全管理上有効である。また、NORM以外の生成フランは存在しないことを明らかにする念のため測定を行い、炉規法の枠外に出すことで管理区域解除後の建屋解体物と同様の一般廃棄物として処分が可能になる。
【0008】
上述したコンクリート屑等の建屋解体廃棄物は、通常ドラム缶等の収納容器に保管されており、収納容器からサンプリングを行った上で化学分析を行うことができる。しかし、その場合、直接測定として通常ウランの同位体(238Uと235U)のICP-MASS分析を行うこととなり、NORMウランも精製ウランも天然ウラン(238Uと235U)であれば両者の識別はできない。また、収納容器からサンプルを採取し、これらをNaI(Tl)シンチレーション放射線検出器(以下、単にNaI放射線検出器とも呼ぶ。)やGe半導体放射線検出器で解析する方法を併用することは可能である。しかし、その場合、収納容器の内容物の均一化を行っていないため、収納容器の内容物全体の測定結果を得ることはできない。
【0009】
NORMウランとしては、ウランを親核種として永続平衡状態にあるものと、精製されたウランがスタート核種であるもの、あるいは何らかの操作等により226Raがスタートの親核種として以下永続平衡状態にあるものが想定される。NaI放射線検出器でそれぞれのγ線スペクトル測定を行うとほぼ同じスペクトルが得られる。違いは、238U崩壊後の234Thと234mPaから放出されるわずかなγ線(1.001MeV)の有無である。精製ウランは、234mPaからのγ線(1.001MeV)を放出する。したがって、精製された238Uの放射能を評価するためには、234mPaのγ線(1.001MeV)のスペクトルのピークを弁別する必要がある。
【0010】
特許文献1は、容器に収納された放射性廃棄物に含まれるウラン(235U及び238U)量を容器の外部から非破壊で測定する方法において、238Uのγ線強度を求めるために、234mPaが放出する1.001MeVのγ線強度をNaI放射線検出器で測定されたγ線スペクトルから求める方法を開示する。
【0011】
しかし、特許文献1の方法は、上述したコンクリート屑等の放射性廃棄物の対象でない建屋解体廃棄物中のウラン量、特に精製ウランとNORMウランの共存下での微量な精製ウラン量を検出するための方法ではない。また、特許文献1の方法では、先ず放射性廃棄物の破壊測定で得られたウラン分析値に基づいてウラン含有量が既知の校正用放射性廃棄物を調製し、その校正用放射性廃棄物に本発明の非破壊測定方法を適用して検量線を作成し、その検量線を用いてウラン量を算出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【文献】原子力施設における「放射性廃棄物でない廃棄物」の取扱いについて(指示)、経済産業省原子力安全・保安院、NISA-111a-08-1、平成20年5月27日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、核燃料物質又は核原料物質を扱う施設から出る廃棄物において、精製ウランとNORMウランの共存下での精製ウランの放射能を測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様では、核燃料物質又は核原料物質を扱う施設から出る廃棄物において、精製ウランと自然界由来のウランの共存下での精製ウランの放射能を求めるための測定方法が提供される。その測定方法は、
(A)開口部と、底部と、所定の深さの側部とを備える測定容器を準備する工程と、
(B)測定容器の側部の外側にNaI(Tl)シンチレーション放射線検出器を配置する工程と、
(C)NaI(Tl)シンチレーション放射線検出器で測定容器中に収納された廃棄物からのγ線スペクトルを測定する工程と、
(D)γ線スペクトルからバックグランドを差し引いた後の1.001MeVでのピークから、隣接し干渉する214Biの0.934MeV及び1.120MeVのピークを差し引いて、238Uの崩壊過程で発生する234mPaが放出する1.001MeVのピークを弁別する工程と、
(E)弁別した1.001MeVのピークから精製ウランの放射能を算出する工程と、を含む。
【0016】
本発明の一態様では、1.001MeVのピークを弁別する工程(D)は、
(D1)γ線スペクトルから、測定容器でのγ線測定に合わせて補正されたトリウム系列標準スペクトルを差し引いて、補正γ線スペクトルを得る工程と、
(D2)補正γ線スペクトル中の1.001MeVでのピークから、0.934MeV及び1.120MeVのピークを差し引いて、238Uの崩壊過程で発生する234mPaが放出する1.001MeVのピークを弁別する工程と、を含む。
【0017】
本発明の一態様では、補正γ線スペクトルを得る工程(D1)は、
(D10)トリウム系列の所定のγ線源からのγ線を測定し、バックグランドを差し引いてトリウム系列スペクトルを得る工程と、
(D20)得られたトリウム系列スペクトルに測定容器での密度補正を行ってトリウム系列標準スペクトルを得る工程と、を含む。
【0018】
本発明の一態様では、1.001MeVのピークを弁別する工程(D)は、
(D3)γ線標準線源のγ線測定により得られたスペクトルデータの各エネルギーの全吸収ピークを正規確率分布にフィッティングした時の標準偏差(σ)を求める工程と、
(D4)214Biの1.765MeV(15.4%)から求めた正味計数から、干渉している0.934MeV(3.03%)、1.120MeV(15.1%)の実際のピークを模擬した正規確率分布(各ピークでの標準偏差(σ))を算出する工程と、
(D5)補正γ線スペクトル中の1.001MeVでのピークから、算出された0.934MeV(3.03%)、1.120MeV(15.1%)の実際のピークを模擬した正規確率分布を差し引いて、1.001MeV(0.84%)のピークを得る工程と、を含む。
【0019】
本発明の一態様では、廃棄物からのγ線スペクトルを測定する工程(C)は、
(C1)測定容器中に異なるKCl水溶液を入れ、単位濃度に対する40Kからの1.461MeVのγ線の全吸収ピークの面積から基準効率(ηE1.461、単位:cps/(photon/cm3))を求める工程と、
(C2)NaI(Tl)シンチレーション放射線検出器のγ線に対するエネルギー相対効率(Rη)を求める工程と、
(C3)円柱体積線源モデルを用いて、水、コンクリートについて、密度が変化した時の基準効率に対する密度補正係数(DW・DC)を求める工程と、
(C4)測定容器での測定効率ηEx(cps/(photon/cm3))を、基準効率(ηE1.461)、エネルギー相対効率(Rη)、及び密度補正係数DW・DCを用いて、次式
ηEx=ηE1.461×Rη×DW・DC
から求める工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態の測定方法の基本フローを示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態の測定容器と放射線測定器の配置を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態の測定効率の算出フローを示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態の密度補正係数を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態の測定効率を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態のγ線スペクトルの処理フローを示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態のトリウム系列標準スペクトルを示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態のウラン系列標準スペクトルを示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態の
234mPaが放出する1.001MeVのピークを弁別する処理フローを示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態のγ線スペクトルデータの各エネルギーの全吸収ピークを正規確率分布にフィッティングした時の標準偏差(σ)を示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態の算出した0.934MeV(3.03%)、1.120MeV(15.1%)の正規確率分布を示す図である。
【
図12】本発明の一実施形態の
238U含まない石膏ボードのγ線測定での
234mPaが放出する1.001MeVのピークの弁別結果を示す図である。
【
図13】本発明の一実施形態の
238U含む天然ウラン鉱石のγ線測定での
234mPaが放出する1.001MeVのピークの弁別結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態の検査方法の基本フローを示す図である。工程S1において、開口部と、底部と、所定の深さの側部とを備える測定容器を準備する。工程S2において、測定容器の側部の外側にNaI(Tl)シンチレーション放射線検出器を配置する。工程S2は工程S1の測定容器の準備と同時に一体的に行ってもよい。工程S3において、測定容器中の測定対象(NR廃棄物等)からのγ線スペクトルを放射線検出器で測定する。工程S4において、γ線スペクトルからバックグランドを差し引いた後の1.001MeVでのピークから、隣接し干渉する
214Biの0.934MeV及び1.120MeVのピークを差し引いて、
238Uの崩壊過程で発生する
234mPaが放出する1.001MeVのピークを弁別する。工程S4において、弁別した1.001MeVのピークから精製ウランの放射能を算出する。
【0022】
図2は、本発明の一実施形態の測定容器と放射線測定器の配置を示す図である。
図2では、円筒型の測定容器1と、測定容器1の側壁の外側に位置する放射線遮蔽体2内に挿入された放射線検出器3を示している。測定容器1は、開口部がほぼ円形または楕円形な筒型の収納部を含む。測定容器1は、例えば金属製または樹脂製のドラム缶等からなる。測定容器1には、測定対象となる塩化カリウム(KCl)の水溶液、粉体状の廃棄物(NR廃棄物)、裁断された廃棄物、圧縮性の廃棄物、可撓性の廃棄物等が充填(収納)可能となっている。
【0023】
放射線遮蔽体2は、鉛等の重金属を内蔵し、バックグランドとなる外部からの放射線が放射線検出器3に入ることを遮蔽する。放射線遮蔽体2は、一方の側壁が重機5の可動部に接続されている。放射線遮蔽体2は、円形または半円形の開口部を有する筒型形状を有しており、開口部から放射線検出器3を内部に出し入れできるようになっている。重機5のハンドル6を操作することによって、放射線遮蔽体2を測定容器1の側壁に沿って上下に移動させることができる。これにより放射線遮蔽体2内の放射線検出器3の測定位置を変えることができる。
【0024】
放射線検出器3は、1つに限定されず2つ以上設けることができる。その際、例えば放射線検出器3を1つ内包する放射線遮蔽体2を複数配置する、あるいは長形の放射線遮蔽体2内に2以上の放射線検出器3を配置することができる。放射線検出器3は先端部に検出部4を内蔵している。放射線検出器3は、例えば検出部の結晶サイズがΦ63×160mmのNa(Tl)シンチレーション検出器を用いることができる。結晶サイズが63×63の3倍ほどあり、検出精度がNR測定に対応する精度まで高まることが期待できる。
【0025】
放射線検出器3を、通信ケーブル(図示無し)を介してスペクトラムアナライザ(図示無し)と演算装置(図示無し)に接続する。通信ケーブルは、例えばGP-IBケーブル、USBケーブルあるいはLANケーブル等からなる。スペクトラムアナライザは、放射線検出器3が検出した測定容器1内の測定対象物からのγ線のスペクトルを計測する。演算装置は、計測されたγ線スペクトルから測定対象物中のウランの放射能を得るための各種パラメータ(測定効率や放射能(密度)等)の算出を行う。演算装置は、例えばパーソナルコンピューター(PC)を含む。
【0026】
測定容器1内に充填される廃棄物は、核燃料物質等を扱う施設で発生するNR廃棄物の対象となる廃棄物を意味する。廃棄物には、測定容器1に充填可能な、粉体状の廃棄物、裁断された廃棄物、圧縮性の廃棄物、可撓性の廃棄物等が含まれる。粉体状の廃棄物における粉体状とは、砂粒や米粒のような細かさの粉体のみならず、数ミリ程度(<約10mm)のサイズを含み得る。廃棄物には、例えば、塗装や錆びた鉄の剥離片、金属、小石、コンクリート片、木材、紙、プラスチック、ポリシート、ビニール、ゴム等の材質が含まれ得る。
【0027】
核燃料物質等には、α、β、γ線源となるウラン、トリウム、及びそれらの化合物が含まれる。核燃料物質等を扱う施設には、原子力施設の他に原子力とは直接的には関係のない、例えば、精製ウランを取り扱う施設、ウランを触媒として使用する化学工場等の製造施設、加工施設も含まれる。原子力施設には、例えば非特許文献1に記載される精錬施設、原子炉施設、再処理施設等が含まれる。さらに、NR廃棄物は、基本的に非特許文献1のガイドラインに沿って判断されるものを言うが、対象となる廃棄物が発生する施設には、原子力施設の他に上述した原子力とは直接的には関係のない化学工場等も含むものとする。
【0028】
次に、
図1の工程S3~S5におけるγ線スペクトル測定及びその処理フローの詳細を
図3~
図14及び表1~表4を参照しながら以下に説明する。
【0029】
図3は、測定容器1としてドラム缶を用いた場合に、測定対象の収納物の重量、材質の違いによる自己吸収を考慮した測定効率の算出フローを示す図である。工程S10において、測定容器1(ドラム缶)中に異なるKCl水溶液を入れ、単位濃度に対する
40Kからの1.461MeVのγ線の全吸収ピーク面積計数率(η
E1.461、単位:cps/(photon/cm
3))を求め、これを基準効率(密度:1、材質:水、E
γ:1.461MeV)とする。
【0030】
表1に試験に用いたKCl水溶液の濃度に関する情報を示す。試験では0~1.419の4つの異なる放射能濃度(Bq/cm
3)濃度のKCl水溶液を準備して測定を行った。
【表1】
【0031】
表2に求められた基準効率、すなわち1.461MeVのγ線の全吸収ピーク面積計数率(η
E1.461、単位:cps/(photon/cm
3)))を示す。
【表2】
【0032】
工程S11において、使用したNaI(Tl)シンチレーション放射線検出器での1.461MeVのγ線を基準とするエネルギー相対効率(R
η)を求める。表3に求められたエネルギー相対効率(R
η)を示す。
【表3】
【0033】
工程S12において、円柱体積線源モデルを用いて、水、コンクリートについて、密度が変化した時の基準効率に対する密度補正係数(D
W・D
C)を計算により求める。計算は、例えば1968 Engineering Compendium on Radiation Shielding IAEA にある円柱線源計算方法に基づいて行う。
図4に、密度1、γ線のエネルギー1.461MeV、収納物材質を水とした場合を標準とした材質、密度補正係数の計算結果を示す。計算結果は、エネルギー毎に重量を変数とした3次関数近似式で表している。ドラム缶の総重量は178kgである。
【0034】
工程S13において、測定容器(ドラム缶)での測定効率ηE
x(cps/(photon/cm
3))を、基準効率(η
E1.461)、エネルギー相対効率(R
η)、及び密度補正係数D
W・D
Cを用いて、次式
η
Ex=η
E1.461×Rη×D
W・D
C
から求める。
図5に、測定効率η
Ex(cps/(photon/cm
3))の計算結果を示す。
【0035】
次に、NaI(Tl)シンチレーション放射線検出器での重なり合うガンマ線スペクトル中の評価対象エネルギーでの全吸収ピーク弁別方法について説明する。ウラン及びトリウム系列の放射性物質が混在する場合、測定によって得られたγ線スペクトルは幾重にもブロードなピークが重なり合ってしまう。解析する際は、それらの影響を除去し、評価対象エネルギーのγ線を単独ピークに分離して面積を算定する必要がある。そのため、
図6の本発明の一実施形態のγ線スペクトルの処理フローに従って評価する必要がある。また、単一系列放射性物質であってもいくつかのエネルギーのピークが干渉する場合は、後述する
図9に示す本発明の一実施形態のγ線スペクトルの処理フローでデータ処理を行い、単一エネルギーピークとして扱えるようにする必要がある。
【0036】
図6の本発明の一実施形態のγ線スペクトルの処理フローの工程S21において、自己吸収を無視できるウラン及びトリウム系列の線源を用いて、それぞれ放射平衡状態にあるγ線スペクトルを測定し、バックグランドを差し引いて、ウラン及びトリウムの標準スペクトルを得る。
図7に得られたトリウム系列標準スペクトルを示す。
図8に得られたウラン系列標準スペクトルを示す。工程S21において、トリウムの標準スペクトルを廃棄物のγ線スペクトルの
208Tlの2.615MeVのピークに合わせ、同時に密度補正係数を加味したトリウム系列標準スペクトルを算定する。
【0037】
工程S22において、
図1の工程S3において得られた測定容器中の廃棄物のγ線スペクトルから工程S21で算定したトリウム系列標準スペクトルを差し引き、トリウム系列のピークを除去する。工程S23において、工程S22でトリウム系列またはウラン系列のピークを除去した廃棄物のγ線スペクトルをそれぞれ補正γ線スペクトルとする。
【0038】
次に、ウラン系列中に精製されたウランが混入した場合の精製ウラン濃度の評価方法を説明する。NORMとして扱われる放射性物質の中でもウラン系列は、ウランを親として永続平衡状態にあるもの、また「精製されたウランがスタート核種であるもの」、及び「
226Raがスタートの親核種として以下永続平衡状態にあるもの」などが想定される。精製された
238Uの放射能を評価するためには、トリウム系列のピークを除去して得られた補正γ線スペクトルから隣接し干渉する
214Biの0.934MeV(3.03%)及び1.120MeV(15.1%)のピークを差し引いて、
238Uの崩壊過程で発生する
234mPaが放出する1.001MeV(0.84%)のピークを弁別する必要がある。なお、他のエネルギーでのピークにも同様の処理を行うことが可能である。このような処理フローを
図9に示す。
【0039】
図9の工程S30において、標準線源により得られた線スペクトルの各エネルギーの全吸収ピークを正規確率分布にフィッティングした時の標準偏差(σ)を求める。
137Cs(661keV)、
60Co(1173keV、1333keV)の標準点線源を用いて得られたがγ線スペクトルの全吸収ピークを、バックグランを台形近似で切り取り、最小二乗法で正規確率分布とフィッティングした時に得られた標準偏差(σ、ピークの広がりを表す)を
図10に示す。
【0040】
工程S31において、測定容器内の廃棄物の重量、材質から対象となるγ線(1.765MeV、0.934MeV、1.120MeV)の相対効率を求める。工程S32において、214Biの1.765MeV(15.4%)から求めた正味計数から、干渉している0.934MeV(3.03%)、1.120MeV(15.1%)の実際のピークを模擬した正規確率分布(各ピークでの標準偏差(σ))を算出する。
【0041】
具体的には、例えば以下のように正規確率分布を算出する。
(1)214Biの1.765MeVのピーク面積(カウント数)Cに対して、214Biのγ線放出率比による補正を行う。すなわち、1.765MeVのピーク面積(カウント数)Cに、(0.934MeV放出率/1.765MeV放出率)=3.03%/15.4%と(1.120MeV放出率/1.765MeV放出率)=15.1%/15.4%を掛けて、C1とC2を得る。
(2)NaI放射線検出器によるγ線検出効率比による補正を行う。γ線検出効率比は、校正用線源測定結果から事前に算定する。具体的には、1.461MeVを1としたγ線検出効率比(1.48(0.934MeV)/0.86(1.765MeV)、1.39(1.120MeV)/0.86(1.765MeV))を(1)で得られたC1とC2に掛けてC11、C22を得る。
(3)測定対象である測定容器内の廃棄物の密度によるγ線自己吸収率比による補正を行う。γ線自己吸収率比は円柱線源モデル計算により事前に算定する。具体的には、例えば、密度が1.27g/cm3のケースの場合、γ線自己吸収率比(0.682(0.934MeV)/0.897(1.765MeV)と0.744(1.120MeV)/0.897(1.765MeV))を(2)で得られたC11、C22に掛けてC111、C222を得る。C111、C222は模擬的に算出された0.935MeV、1.120MeVのピーク面積(カウント数)に相当する。
【0042】
は
図11に、算出された0.934MeV(3.03%)、1.120MeV(15.1%)の実際のピークを模擬した正規確率分布を示す。
図10において、下側のスペクトルAが算出した正規確率分布C
111、C
222であり、上側のスペクトルBは実際にGe半導体検出器で測定されたウラン系列のスペクトルである。算出したスペクトルA(C
111、C
222)は実際のスペクトルBに良く近似していることがわかる。
【0043】
工程S33において、
図6の工程S24で得られた補正γ線スペクトル中の1.001MeVでのピークから、工程S32で算出された0.934MeV(3.03%)、1.120MeV(15.1%)の実際のピークを模擬した正規確率分布を差し引いて、1.001MeV(0.84%)のピークを得る。
【0044】
事前のGe半導体検出器により226Ra以降の核種が放射平衡をなしており、238Uが含まれていないことをわかっている石膏ボードと、238Uが含まれている天然ウラン鉱石の測定スペクトルから、工程S32で算出された0.934MeV、1.120MeVの実際のピークを模擬した正規確率分布を差し引いて、1.001MeVのピークを得る実験を行った。
【0045】
図12は、本発明の一実施形態の
238U含まない石膏ボードのγ線測定での
234mPaが放出する1.001MeVのピークの弁別結果を示す図である。生データのスペクトルに対して、算出された0.934MeV、1.120MeVの実際のピークを模擬した正規確率分布を差し引いて得られる補正後のデータのスペクトルでは1.001MeVのピークはほとんど認識されず、
238Uが存在しないことが確認できる。
【0046】
図13は、本発明の一実施形態の
238U含む天然ウラン鉱石のγ線測定での
234mPaが放出する1.001MeVのピークの弁別結果を示す図である。生データのスペクトルに対して、算出された0.934MeV、1.120MeVの実際のピークを模擬した正規確率分布を差し引いて得られる補正後のデータのスペクトルでは1.001MeVのピークが認識され、
238Uが存在することが確認できる。その1.001MeVのピーク(計数率)から
238Uの放射能濃度を算出し、その値が検出限界値(0.05~0.1Bq/g程度)以下であるか否かを評価することができる。これにより、「精製ウラン」濃度を測定対象毎の「NORM」であるウラン及びトリウムを差し引いたスペクトルを解析することで算出することができる。
【0047】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明をした。しかし、本発明はこれらの実施形態に限られるものではない。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施できるものである。例えば、本発明の実施形態では、核燃料物質等としてウランを想定しているが、測定方法、演算方法は、他の核燃料物質等に対しても適用可能なものであって、それらを発明の適用対象から除外するものではない。
【符号の説明】
【0048】
1 測定容器
2 放射線遮蔽体
3 放射線検出器
4 検出部
5 重機
6 ハンドル
【要約】
【課題】核燃料物質又は核原料物質を扱う施設から出る廃棄物において、精製ウランとNORMウランの共存下での精製ウランの放射能を測定する方法を提供する。
【解決手段】本発明の測定方法は、(A)開口部と、底部と、所定の深さの側部とを備える測定容器を準備する工程と、(B)測定容器の側部の外側にNaI(Tl)シンチレーション放射線検出器を配置する工程と、(C)NaI(Tl)シンチレーション放射線検出器で測定容器中に収納された廃棄物からのγ線スペクトルを測定する工程と、(D)γ線スペクトルからバックグランドを差し引いた後の1.001MeVでのピークから、隣接し干渉する
214Biの0.934MeV及び1.120MeVのピークを差し引いて、
238Uの崩壊過程で発生する
234mPaが放出する1.001MeVのピークを弁別する工程と、(E)弁別した1.001MeVのピークから精製ウランの放射能を算出する工程とを含む。
【選択図】
図1