(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20230427BHJP
【FI】
A01B69/00 302
(21)【出願番号】P 2020212481
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100200942
【氏名又は名称】岸本 高史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 学
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-034612(JP,A)
【文献】特開2006-218974(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0373257(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の走行車輪を操舵する操舵装置と、
前記操舵装置を駆動するアクチュエータと、
車両の位置情報を取得する位置情報取得手段と、
左右の走行車輪の車軸への駆動力を分配する差動装置と、
前記差動装置による左右の前記車軸の差動回転の許容と制限を制御するコントローラと、
車両の後部に設けられた昇降可能な作業機とを備えた自動走行可能な作業車両であって、
走行車輪が空転している場合には、前記コントローラが、左右の前記車軸の差動回転を制限するよう構成され、さらに、
前記走行車輪が前輪であり、
左右の前輪の前記車軸の差動回転が制限された後に、前記位置情報取得手段によって取得される車両の位置情報が変化していない場合には、前記コントローラは、さらに、後輪に伝動する入状態と、後輪に伝動しない切状態との間で切換え可能なクラッチであって、切状態にある前記クラッチを、入状態に切り換えることを特徴とす
る作業車両。
【請求項2】
切状態にある前記クラッチが入状態に切り換えられた後に、前記位置情報取得手段によって取得される車両の位置が変化していない場合には、前記コントローラは、さらに、前記アクチュエータにより前記操舵装置を直進位置に操舵し、前記作業機を、作業が可能な作業位置まで下降させることを特徴とする請求項
1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記コントローラは、前記操舵装置を直進位置に操舵し、前記作業機を作業位置まで下降させた状態で、仮に車両が所定の距離を走行した場合に、作業領域を逸脱するか否かを判定し、判定の結果、作業領域を逸脱しない場合のみに、前記静油圧式無段変速機から出力を行うことを特徴とする請求項
2に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機などの作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場において、自動で直進走行と旋回とを繰り返し行う田植機やコンバインなどの作業車両が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機により取得した位置情報(位置座標)に基づき、ステアリングハンドルを自動操舵して、圃場内を自動走行する作業車両が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載された作業車両においては、ディファレンシャル機構(差動装置)が設けられており、旋回する際に、左右の走行車輪それぞれにかかる負荷に基づき、左右の走行車輪のうち、外側に位置する方の走行車輪に駆動力(トルク)が多く分配され、内側に位置する方の走行車輪の回転数が抑えられるため、スムーズに旋回することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、作業車両が走行する際に、圃場の状態が悪く、左右の走行車輪の一方が空転(スリップ)している場合には、ディファレンシャル機構が機能し、空転していない他方の走行車輪の回転数が抑えられた状態で、空転する一方の走行車輪に偏重して駆動力が伝達されるため、走行が困難になることがあった。
【0007】
また、このように、左右一方の走行車輪が空転するときには、同じ場所で走行車輪が空転し続けるため、圃場が荒れてしまうという問題もあった。
【0008】
したがって、本発明は、圃場の状態が悪い場合であっても、自動走行によって安定して走行することができる作業車両を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のかかる目的は、
左右の走行車輪を操舵する操舵装置と、
前記操舵装置を駆動するアクチュエータと、
車両の位置情報を取得する位置情報取得手段と、
左右の走行車輪の車軸への駆動力を分配する差動装置と、
前記差動装置による左右の前記車軸の差動回転の許容と制限を制御するコントローラと、
車両の後部に設けられた昇降可能な作業機とを備えた自動走行可能な作業車両であって、
走行車輪が空転している場合には、前記コントローラが、左右の前記車軸の差動回転を制限することを特徴とする作業車両によって達成される。
【0010】
本発明によれば、作業車両が走行している間に、走行車輪が空転している場合には、左右の走行車輪の車軸の差動回転が制限されるように構成されているから、左右の走行車輪のうち、空転する走行車輪に偏重して駆動力(トルク)が伝達され続ける事態を防止し、空転していない走行車輪にも充分に駆動力を伝達することができ、したがって、作業車両が、自動走行によって安定して走行することができる。
【0011】
本発明の好ましい実施態様においては、
走行車輪の回転速度を変速する静油圧式無段変速機からの出力がある場合であって、前記位置情報取得手段によって取得される車両の位置情報が変化していない場合には、前記コントローラは、走行車輪が空転していると判定し、左右の前記車軸の差動回転を制限する。
【0012】
本発明のこの好ましい実施態様によれば、左右の車軸の差動回転を制限するにあたって、静油圧式無段変速機からの出力があるという点と、作業車両の位置(位置情報、位置座標)が変化していないという点の計2点を要件とすることによって、必要でないときに、誤って左右の車軸の差動回転を制限してしまう事態を防止することができる。
【0013】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、
車両が旋回している際に、所定時間内の左右の前記車軸の回転数のうち、少ない方の回転数に対する多い方の回転数の比が所定値以上の場合には、前記コントローラは、走行車輪が空転していると判定し、左右の走行車輪の前記車軸の差動回転を制限する。
【0014】
本発明のこの好ましい実施態様によれば、GNSS受信機などで構成される位置情報取得手段が電波状況などによって機能しない場合であっても、左右の走行車輪の車軸の回転数を検出し、その比を算出することによって、走行車輪の空転を検知することができる。
【0015】
また、本発明のこの好ましい実施態様によれば、左右の走行車輪の車軸の回転数を検出し、その比を算出するだけで、走行車輪の空転を検知することができるから、構成を簡潔にすることができる。
【0016】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、
前記走行車輪が前輪であり、
左右の前輪の前記車軸の差動回転が制限された後に、前記位置情報取得手段によって取得される車両の位置情報が変化していない場合には、前記コントローラは、さらに、後輪に伝動する入状態と、後輪に伝動しない切状態との間で切換え可能なクラッチであって、切状態にある前記クラッチを、入状態に切り換える。
【0017】
本発明のこの好ましい実施態様によれば、左右の前輪車軸がデフロックされたにも拘わらず、車両の位置が変化していない場合には、駆動力の伝達が切られている後輪クラッチを入状態にするように構成されているから、左右両方の後輪の牽引力を利用し、前輪の空転を解消することができる。
【0018】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、
切状態にある前記クラッチが入状態に切り換えられた後に、前記位置情報取得手段によって取得される車両の位置が変化していない場合には、前記コントローラは、さらに、前記アクチュエータにより前記操舵装置を直進位置に操舵し、前記作業機を、作業が可能な作業位置まで下降させる。
【0019】
本発明のこの好ましい実施態様によれば、後輪クラッチが入状態に切り換えられた後においても、作業車両の位置が変化しない場合には、操舵装置が直進位置に操舵されるから、前輪の空転状態を解消し易くすることができる。
【0020】
さらに、この好ましい実施態様によれば、作業機を作業位置まで下降させることによって、作業車両の動力の一部を、作業機を持ち上げ続ける目的に割く(向ける)ことなく、走行用に向け、牽引力を増加させ、前輪の空転状態を解消し易くすることができる。
【0021】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、
前記コントローラは、前記操舵装置を直進位置に操舵し、前記作業機を作業位置まで下降させた状態で、仮に車両が所定の距離を走行した場合に、作業領域を逸脱するか否かを判定し、判定の結果、作業領域を逸脱しない場合のみに、前記静油圧式無段変速機から出力を行う。
【0022】
本発明のこの好ましい実施態様によれば、コントローラは、作業車両が仮に所定の距離を走行した場合に、作業領域を逸脱するか否かの判定の結果、作業領域を逸脱しない場合のみに、静油圧式無段変速機から出力を行い、走行するように構成されているから、安全性を確保し、機体を保護することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、圃場の状態が悪い場合であっても、自動走行によって安定して走行することができる作業車両を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる苗移植機の略左側面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示された苗移植機のミッションケースの近傍の伝動機構を示す略平面図である。
【
図4】
図4(a)は、静油圧式無段変速機の近傍の部分平面図であり、
図4(b)は、静油圧式無段変速機の近傍の部分側面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示された苗移植機の制御系、検出系、入力系、表示系および駆動系のブロックダイアグラムである。
【
図6】
図6(a)は、
図1に示された苗移植機の操舵機構の上部の分解斜視図であり、
図6(b)は、操舵機構の内歯車の近傍の水平断面図である。
【
図7】
図7は、圃場内において、苗移植機が自動走行する経路を示す模式的平面図である。
【
図8】
図8は、苗移植機が自動で旋回を開始してから、前輪が空転するまでの流れを示す説明図である。
【
図9】
図9は、
図1に示された苗移植機が自動走行する間に、コントローラが走行車輪の空転を検知し、さらに解消するまでの制御の流れを示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、
図1に示された苗移植機が異なる硬さの圃場内を旋回走行する際の左右の前輪の回転数の増減を示す説明図である。
【
図11】
図11は、
図1に示された苗移植機において、自動走行の開始操作が行われた際のエンジン回転数の上昇制御にかかるフローチャートである。
【
図12】
図12は、
図6(a)に示されたステアリングモータの制御にかかる図面である。
【
図13】
図13は、本発明の他の好ましい実施態様にかかる苗移植機が通電されてからのコントローラによる走行車輪の空転の検知と解消についての制御の流れを示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、本発明の他の好ましい実施態様にかかる苗移植機の制御系、検出系、入力系、表示系、駆動系および通信系のブロックダイアグラムである。
【
図15】
図15は、
図14に示された苗移植機が自動走行により旋回走行する際に、コントローラが走行車輪の空転を検知し、さらに解消するまでの制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。
【0026】
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる苗移植機1の略左側面図であり、
図2は、
図1に示された苗移植機1の略平面図である。
【0027】
本明細書においては、
図1および
図2に矢印で示されるように、苗移植機1(本発明にかかる作業車両の一例)の進行方向となる側を前方とし、特に断りがない限り、苗移植機1の進行方向に向かって左側を「左」といい、その反対側を「右」という。
【0028】
本実施態様にかかる苗移植機1は、
図1および
図2に示されるように、走行車両2と、走行車両2の後部に取り付けられた苗植付部63(本発明にかかる作業機の一例)を備えている。
【0029】
図1に示されるように、走行車両2は、走行車両2の略中央に配置されたメインフレーム3と、メインフレーム3の後端部に取り付けられ、苗移植機1の幅方向に延びる後部フレーム6と、走行車輪(駆動輪)としての左右一対の前輪8(操舵輪)および左右一対の後輪9(
図2参照)を備えている。
【0030】
図1および
図2に示されるように、メインフレーム3の上方には、フロアステップ60が設けられ、フロアステップ60の上方には、走行車両2の前部に配置されたフロントカバー47と、フロントカバー47の後方に配置された操縦部49と、フロントカバー47に覆われ、苗移植機1を制御するコントローラ87(
図1の図面左側参照、制御部)と、操縦部49の後方に配置された操縦席48とが設けられている。
【0031】
本実施態様にかかる苗移植機1においては、コントローラ87によって、圃場中央部での直進走行と圃場端部(畔際)での旋回走行とが自動的に行われる状態と(以下、苗移植機1が、コントローラ87の制御に基づき、自動的に走行することを「自動走行」という。)、作業者の操縦によって走行する状態(以下、苗移植機1が、作業者の操縦に基づき、走行することを「マニュアル走行」という。)との間で切り換え可能に構成されている。なお、マニュアル走行の場合においては、直進走行する際に、コントローラ87がステアリングハンドル56の操舵角を自動的に制御する直進アシストを実行可能に構成されている。
【0032】
操縦部49は、左右一対の前輪8の操舵を行うステアリングハンドル56を含む操舵機構66と、走行車両2を前進、後進または停止させる前後進レバー35と、苗移植機1の走行状態を、自動走行とマニュアル走行との間で切り換える自動走行レバー79を備えている。
【0033】
自動走行レバー79は、苗移植機1の前部に設けられたGNSS受信機130を用いて苗移植機1の位置情報の取得する際と、自動走行および直進アシストの開始と停止を行う際に操作される。
【0034】
図1および
図2に示されるように、操縦席48の後方には、圃場に肥料を供給する施肥装置26が設けられている。
【0035】
図1に示されるように、施肥装置26は、肥料を貯留する施肥ホッパ27と、施肥ホッパ27内の肥料を下方に繰り出す繰出装置34と、繰り出された肥料を圃場に供給する施肥ホース40を備えている。
【0036】
図1に示されるように、後輪9の後方には、中央整地ロータ31が設けられており、中央整地ロータ31の後方には、左右一対の整地ロータ32が設けられている。
【0037】
図3は、
図1に示された苗移植機1のミッションケース30の近傍の伝動機構を示す略平面図である。
【0038】
また、
図4(a)は、静油圧式無段変速機25の近傍の部分平面図であり、
図4(b)は、静油圧式無段変速機25の近傍の部分側面図である。
【0039】
図1に示されるように、操縦席48の下方にはエンジン7が設けられており、エンジン7から出力された駆動力は、フロアステップ60の下方に設けられたベルト式動力伝達機構4および静油圧式無段変速機25(HSTともいう、
図3も参照)を介してミッションケース30に伝動された後に、ミッションケース30内の副変速機構20(
図3参照)で変速されて、左右一対の前輪8および左右一対の後輪9への走行用の動力と、苗植付部63を駆動するための動力(駆動用の動力)とに分けて伝動される。
【0040】
図3に示されるように、静油圧式無段変速機25は、トラニオン軸120を備え、トラニオン軸120の開度が制御されることによって、ミッションケース30への出力を調整可能に構成されている。
【0041】
たとえば、
図2に示された前後進レバー35が操作された場合のように、走行車両2の走行速度を調整する必要があるときには、コントローラ87によって、
図4(b)に示されるHSTサーボモータ150が駆動され、ライニングを有するギア124、
図4(a)および
図4(b)に示されるロッド123を介して、トラニオンアーム121の回動角度が変更される。
【0042】
その結果、
図3に示されるトラニオン軸120の開度が大きく、または小さくなり、走行車両2が加速し、減速し、または停車する。このとき、走行車輪8,9の回転が加速され、減速され、または停止される。なお、本実施態様においては、コントローラ87は、
図4(b)に示されるトラニオンアーム121の回動角度を検出するポテンショメータ122および前後進レバー35の位置(前後進レバーセンサの検出信号)に基づき、HSTサーボモータ150の駆動範囲を決定する。
【0043】
静油圧式無段変速機25から出力された後に、
図3に示される副変速機構20で変速された走行用の動力(トルク)は、左右の前輪8にかかる負荷の差に基づき、ディファレンシャル機構15(本発明の差動装置に相当)によって、左右の前輪車軸17、18にそれぞれ分配され、前輪ファイナルケース13(
図1参照)を介して、左右一対の前輪8に伝達される。すなわち、左右の前輪8にかかる負荷の差に基づき、左右の前輪車軸17、18が、互いに異なる回転数で回転可能に構成されている(以下、左右の前輪車軸17、18または左右の走行車輪8,9が、左右間で互いに異なる回転数で回転される場合に「差動回転」という。)。
【0044】
また、本実施態様においては、ディファレンシャル機構15は、デフロック機能を有し、
図3に示されるデフロックモータ16が駆動されることによって、左右の前輪車軸17、18の回転数に差が生じることを防止可能に構成されている(以下、デフロック機能によって、左右の前輪車軸17、18の回転数を同一にすることを「差動回転を制限する」、「デフロックする」または「デフロックを作動する」といい、ディファレンシャル機構15によって左右の前輪車軸17、18の回転数に開きが生じる事態を許容することを「差動回転を許容する」または「デフロックを解除する」という。)。
【0045】
具体的には、
図3に示されるように、デフロックモータ16には、デフロックアーム19が取り付けられており、デフロックモータ16が駆動されるときには、デフロックアーム19に連結された入切ピン22が移動されてデフクラッチ23が入れられ、その結果、左右の前輪車軸17、18の差動回転が制限される。
【0046】
したがって、左右一方の前輪8が空転しているにも拘わらず、左右一対の前輪8のうち、空転する前輪8のみに駆動力が伝達され、苗移植機1の走行が困難になることを防止することができる。
【0047】
さらに、左右一対の後輪9に伝達される動力は、ミッションケース30の後部から取り出された後に、
図2に示される左右一対の後輪伝動軸14、左右一対の後輪ギアケース51および車軸82(
図1参照)を介して、左右一対の後輪9に伝達される。
【0048】
以上のようにして、エンジン7から伝達された動力によって、走行車輪8,9が回転され、走行車両2が前進または後進する。
【0049】
なお、本実施態様においては、左右の後輪車軸82に駆動力を伝達する(伝動する)サイドクラッチ(図示せず、後輪クラッチともいう)が設けられており、苗移植機1が旋回する際に、内側に位置する後輪9のサイドクラッチが切られる(切状態に切り換えられる)ように構成されている。このように構成することによって、圃場を荒らすことなく、スムーズで小回りに旋回を行うことができる。
【0050】
また、後輪ギアケース51に伝動された駆動力の一部は、施肥装置26に伝達される。
【0051】
さらに、エンジン7の回転動力は、油圧ポンプ(図示せず)に伝動され、油圧ポンプは、エンジン7の回転数に比例して駆動回転し、操舵機構66(
図1参照)のパワーステアリング(
図1ないし
図4には図示せず)、静油圧式無段変速機25、昇降油圧シリンダ12(
図1参照)などに油圧が供給される。
【0052】
一方、駆動用の動力は、走行車両2の後部に設けられた植付クラッチ(図示せず)に伝動され、植付クラッチが入れられた際に苗植付部63へ伝動される。
【0053】
図1に示されるように、苗植付部63は、昇降リンク装置5を介して、走行車両2に連結されている。昇降リンク装置5は、上部リンクアーム85および左右一対の下部リンクアーム86を備え、苗植付部63を昇降可能に構成されている。
【0054】
上部リンクアーム85および下部リンクアーム86の前側の端部は、後部フレーム6に固定されたリンクベースフレーム10に取り付けられ、他端は苗植付部63の下部に位置する上下リンクアーム11に取り付けられている。
【0055】
コントローラ87は、電子油圧バルブ(
図1ないし
図3には図示せず)を制御するように構成され、コントローラ87によって電子油圧バルブが制御され、昇降油圧シリンダ12(
図1参照)が油圧で縮められると、上部リンクアーム85が回動され、苗植付部63が非作業位置まで上昇される。また、昇降油圧シリンダ12が油圧で伸ばされると、上部リンクアーム85が回動され、苗植付部63が、苗の植付け作業が可能な作業位置まで下降される。なお、苗植付部63が非作業位置にあるときには、その下端部がメインフレーム3の底部と略同一の高さに位置し、苗植付部63が作業位置にあるときには、その下端部が接地する。
【0056】
図1および
図2に示されるように、苗植付部63は、土付きのマット状の苗(以下、「苗マット」という。)を立て掛ける台65と、台65の後方かつ下方に設けられた3つの植付装置64と、苗植付部63の下部に設けられたセンターフロート38と、センターフロート38の左右に配置された左右一対のサイドフロート39を備えている。
【0057】
図2に示されるように、3つの植付装置64は苗移植機1の幅方向に並べて設けられ、各植付装置64は、前後方向に並ぶ左右二対の植付具69を備え、
図1に示される駆動軸67が回転される際に、
図1および
図2に示される前側の植付具69と後ろ側の植付具69が、駆動軸67まわりに回転しつつ、交互に、台65の下端部に位置する苗を取出し、圃場に植え付けるように構成されている。
【0058】
センターフロート38および左右一対のサイドフロート39はそれぞれ、苗移植機1が走行するに伴って、圃場上を滑走し、整地可能に構成され、センターフロート38および左右一対のサイドフロート39によって整地された圃場に、各植付装置64を用いて、苗が植え付けられる。センターフロート38および左右一対のサイドフロート39の前部はそれぞれ、圃場の凹凸に合わせて揺動可能に構成されている。
【0059】
図1および
図2に示されるように、苗移植機1の前部には、台65に補充する苗マットを収容する予備苗載台74が設けられており、予備苗載台74を支持するフレーム77を介して、走行車両2に取り付けられている。
【0060】
図5は、
図1に示された苗移植機1の制御系、検出系、入力系、表示系および駆動系のブロックダイアグラムである。
【0061】
図5に示されるように、苗移植機1の制御系は、苗移植機1全体の動作を制御するコントローラ87と、時間を計測するタイマー105を備えている。
【0062】
コントローラ87は、CPU(Central Processing Unit)を有する処理部89と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を有する記憶部93を備え、記憶部93には、苗移植機1を制御する種々のプログラムおよびデータが格納されている。
【0063】
図5に示されるように、苗移植機1の検出系は、ステアリングハンドル56(本発明にかかる操舵装置の一例)の舵角を検出するエンコーダ(図示せず)を有するステアリングセンサ58と、操舵機構66の上部シャフト83(
図6(a)参照)に取り付けられ、ステアリングハンドル56への入力トルク(そのときの操舵量)を検出するトルクセンサ111と、エンジン7の回転数を検出するエンジン回転センサ96と、リンクベースフレーム10に対する上部リンクアーム85の相対角度を検出するリンクセンサ90と、位置情報取得手段として機能し、人工衛星からの電波を受信するGNSS受信機130と、左右の各前輪車軸17,18(
図3参照)の回転数をカウントする前輪回転センサ21と、左右一対の後輪9に連結された左右の各車軸82の回転数をカウントする後輪回転センサ29と、センターフロート38前部の上下位置を検出するフロートセンサ33と、方位センサ80と、デフロックアーム19の動きを検出することによって、一対の前輪車軸17,18のデフロック(差動回転の制限)を機械的に検知するリミットスイッチ59と、トラニオンアーム121の回動角度を検出するポテンショメータ122を備えている。
【0064】
フロートセンサ33は、センターフロート38の前部に設けられており、センターフロート38の前部が圃場の凹凸に合わせて揺動される際に、センターフロート38前部の上下位置を検出し、コントローラ87に出力するように構成されている。
【0065】
図5に示されるように、苗移植機1は、入力系として機能する操縦部49を備え、操縦部49は、苗移植機1の前後進および車速を変更操作する前後進レバー35(
図1および
図2参照)の位置を検出する前後進レバーセンサ36と、自動走行とマニュアル走行との間で切換えを行う自動走行切換えスイッチ78(
図2参照)と、位置情報の取得ならびに自動走行、直進アシストの開始と停止を行う際に操作される自動走行レバー79(
図1および
図2参照)の揺動操作を検知する自動走行レバーセンサ81を備えている。
【0066】
本実施態様においては、自動走行レバー79は上方および下方に揺動操作が可能であり、上下いずれかの方向に揺動操作された後には、スプリングによって自動的に元の上下位置に戻るように構成されている。
【0067】
図5に示されるように、苗移植機1の表示系は、種々の情報を表示するモニタ61を備えている。
【0068】
図5に示されるように、苗移植機1の駆動系は、操縦席48の下方に設けられたエンジン7の吸気量を調節するスロットルモータ97と、苗植付部35が昇降される際に、昇降油圧シリンダ12を伸縮させる電子油圧バルブ88と、静油圧式無段変速機25内のトラニオン軸120の開度を調整し、苗移植機1の前後進および車速を変更するHSTサーボモータ150と、ステアリングハンドル56を回動させるステアリングモータ57(本発明にかかる「アクチュエータ」の一例)と、デフクラッチ23(
図3参照)を入切し、左右の前輪車軸17,18の差動回転を許容する状態と、制限する状態(デフロック)との間で切換えるデフロックモータ16と、後輪9のサイドクラッチを入切する電磁バルブ103と、パワーステアリング108を備えている。
【0069】
なお、
図1に示されたコントローラ87は、リンクセンサ90からの出力信号に基づいて苗植付部35の現在の高さ(上下位置)を算出可能に構成されている。
【0070】
加えて、コントローラ87は、フロートセンサ33からの検出信号に基づき、電子油圧バルブ88を制御して、
図1に示された昇降油圧シリンダ12を伸縮させ、
図1に示された苗植付部63を昇降させることにより、圃場への苗の植付深さを一定に維持することができる。
【0071】
また、コントローラ87は、リミットスイッチ59の検出信号に基づき、一対の前輪車軸17,18のデフロックの状態をモニタ61に表示するように構成されている。このように構成することによって、作業者は、コントローラ87による自動的なデフロックの故障を把握することができ、また、苗移植機1の挙動の予測が容易に立ち、安全性を確保することができる。
【0072】
図6(a)は、
図1に示された苗移植機1の操舵機構66の上部の分解斜視図であり、
図6(b)は、操舵機構66の内歯車の近傍の水平断面図である。
【0073】
図6(a)または
図6(b)に示されるように、操舵機構66は、ユニバーサルジョイント107を有する上部シャフト83(本発明にかかるステアリングシャフトの一例)と、上部シャフト83の上端部に取り付けられたステアリングハンドル56と、上部シャフト83の下部に取り付けられた内歯車106と、下部シャフト84と、下部シャフト84に取り付けられ、トルクジェネレータによって構成されたパワーステアリング108と、下部シャフト84の上部に固定されたモータ側ギヤ109と、内歯車106の内側に取り付けられたハブダンパ110と、モータ側ギヤ109(延いてはステアリングハンドル56)を回転駆動するステアリングモータ57と、ギヤボックス112と、ピットマンアームおよび左右一対のタイロッド(図示せず)を備えている。
【0074】
本実施態様にかかる操舵機構66においては、ステアリングハンドル56からピットマンアームまでが機械的に繋がれており、ステアリングハンドル56が操舵される(トルクが入力される)と、トルクセンサ111(
図6参照)によって操舵量が検出される。
【0075】
その結果、入力されたトルクがパワーステアリング108によって増大される形で、ステアリング制御、すなわち、左右の前輪8の向きの調節が行われる。苗移植機1が自動走行しているときには、ステアリングハンドル56はステアリングモータ57によって自動的に操舵される。この場合には、ステアリングモータ57によって、モータ側ギヤ109が回転駆動され、モータ側ギヤ109の回転が、内歯車106、上部シャフト(ステアリングシャフト)83を介してステアリングハンドル56にも伝達される。
【0076】
本実施態様においては、苗移植機1が自動走行している間に、ステアリングハンドル56への入力トルク値(トルクセンサ111で検出)が一定値以上である場合には、コントローラ87は、トルク低減方向にステアリングモータ57を駆動し、ステアリングハンドル56の自動操舵を停止した後に、マニュアル走行に切り換えるように構成されている。このように構成することによって、作業者は、咄嗟の判断でステアリングハンドル56を強い力で操作し、マニュアル走行へ切換えることができる。なお、ステアリングモータ57は、ステアリングハンドル56に何かが巻き込まれた場合のため、入力トルク値が一定値以上である場合には、トルクセンサ値が低減する方向にモータ駆動を行った後に、自動操舵が停止されるように構成されてもよい。
【0077】
一方、苗移植機1がマニュアル走行している間には、コントローラ87は、ステアリングハンドル56への入力トルク値が低減する方向にステアリングモータ57を駆動し、さらに、ステアリングハンドル56への入力トルク(操作速度、時間、大きさ)に応じて、ステアリングモータ57の駆動速度、駆動時間および駆動量を変化させるように構成されている。
【0078】
このように構成することによって、作業者は、ステアリングハンドル56を、弱い力で繊細に操作することができ、加えて、ステアリングハンドル56を強い力で回転操作したときのみに、素早い操舵を行うことができる。なお、コントローラ87は、マニュアル走行する間は、作業者によるトルク入力を補助するように、ステアリングモータ57のモータ駆動を行うように構成されてもよく、ステアリングモータ57の駆動のオンオフを作業者によって切換え可能に構成されてもよい。このように構成することによって、作業者は、ステアリングモータ57の駆動をオフし、より繊細にステアリングハンドル56の回転操作を行うことができる。
【0079】
トルクセンサ111は、本実施態様においては、上部シャフト83におけるユニバーサルジョイント107よりも上方の位置に取り付けられており、このように構成することによって、ステアリングハンドル56からの入力トルクを容易に検出することができるが、トルクセンサ111の位置は、上部シャフト83の内部に設け、レイアウトとしての機体側の変更を少なく構成してもよく、ギヤボックス112に設け、モータ基準にたわみを抑えるように構成してもよい。ギヤボックス112に設けられた場合には、スペースを有効に利用することができる。
【0080】
パワーステアリング108は、本実施態様においては、コントローラ87からの電気的な入力操作が可能な油圧式電子制御パワーステアリングによって構成されているが、電子制御によらない油圧式のパワーステアリングによって構成してもよく、油圧によらないEPSとして構成してもよい。
【0081】
図6(a)または
図6(b)に示されるように、上部シャフト83に取り付けられた内歯車106と、下部シャフト84に取り付けられたモータ側ギヤ109とは、ハブダンパ110を介して噛み合っている。したがって、苗移植機1がマニュアル走行する際に上部シャフト83から下部シャフト84へ、自動走行する際に下部シャフト84から上部シャフト83へと回転が伝達される。
【0082】
本実施態様においては、ハブダンパ110は樹脂によって形成されており、ハブダンパ110を介して内歯車106とモータ側ギヤ109とが噛み合うため、ステアリングハンドル56からピットマンアームまでが機械的に繋がれた構造であっても、ステアリングモータ57から発生する振動がステアリングハンドル56へ伝わることを抑制することができる。
【0083】
また、ハブダンパ110を介しているため、作業者によって、ステアリングハンドル56が急激に操作された場合でも、操舵機構66が損傷する事態を抑制することができる。
【0084】
さらに、本実施態様においては、ハブダンパ110がユニバーサルジョイント107よりも下方の位置に位置し、加えて、モータ側ギヤ109と噛み合うギヤが、内歯車106として構成されていることによって、ステアリングモータ57が駆動しているときに、モータ側ギヤ109と内歯車106との抵抗を比較的大きくすることができ、ステアリングハンドル56の振動のより一層の抑制が図られている。
【0085】
一方、本実施態様にかかる苗移植機1は、コントローラ87の制御に基づき、以下のようにして、圃場内を自動走行しつつ、圃場に苗を植え付けることができる。
【0086】
図7は、圃場内において、苗移植機1が自動走行する経路を示す模式的平面図である。
【0087】
図7に示されるように、本実施態様にかかる苗移植機1が自動走行する圃場200は、平面視において略矩形をなし、南北方向に延びる2つの辺201および203と、東西方向に延びる2つの辺202および204と、各辺201ないし204に沿うように延びる4つの周縁領域211ないし214と、4つの周縁領域211ないし214に囲まれた中央領域210を備えた水田である。4つの周縁領域211ないし214は、いわゆる枕地である。
【0088】
圃場200内において、苗移植機1が自動走行しつつ、圃場に苗を植え付けるには、まず、自動走行切換えスイッチ78が押圧操作され、自動走行がオンされた状態で、コントローラ87が、自動走行を行う圃場200の四隅に関する位置情報と、直進走行する際の基準となる基準線の位置情報を取得する。
【0089】
具体的には、作業者の操縦に基づき、苗移植機1が、略矩形をなす圃場200内の3辺201ないし203に沿って、周縁領域211ないし213(圃場200内の3辺)を、順にマニュアル走行しつつ、圃場200の四隅でそれぞれ自動走行レバー79が下方に揺動操作され、圃場200の四隅の位置情報が取得される。ここに、圃場200の四隅の位置情報を取得するためにマニュアル走行することを「ティーチング」と呼ぶ。
【0090】
本実施態様においては、周縁領域211ないし213を、順にマニュアル走行する際に、圃場200の南西の隅で、自動走行レバー79が下方に揺動操作され、その位置情報が取得されると、直ちにモニタ61上に始点の位置(1点目)を表示するように構成されている。また、同様にして、北西の隅、北東の隅および南東の隅においても、自動走行レバー79が下方に揺動操作される度に、都度、モニタ61に北西の隅(2点目)、北東の隅(3点目)および南東の隅(4点目)の位置が追加で表示されるように構成されている。
【0091】
したがって、作業者は、現在のティーチングの状況を、モニタ61上で視認することができるため、位置情報(座標)が取得できなかった場合には、直ちに、自動走行レバー79の揺動操作をやり直すことができる。
【0092】
さらに、本実施態様においては、ティーチングのため、周縁領域213をマニュアル走行する際に、自動走行レバー79が上方に揺動操作されると、その前に取得された圃場200の南西の隅と北西の隅の計2点の位置情報に基づき、直進アシストが行われるように構成されている。すなわち、ステアリングモータ57が自動的に駆動され、圃場200の南西の隅と北西の隅とを結ぶ直線(基準線)に平行に周縁領域213を直進走行可能に構成されている。
【0093】
次いで、コントローラ87は、圃場200内の3辺を走行した際に、GNSS受信機130によって取得した圃場200の四隅の位置情報に基づき、自動走行経路を算出し、そのデータを記憶部93に格納する。
【0094】
本実施態様においては、自動走行経路のデータには、中央領域210における直進走行(
図7に一点鎖線で図示)と、周縁領域212および214における旋回(
図7に二点鎖線で図示)とを繰り返し行う経路(以下、「第一の経路」という。)のデータと、第一の経路を走行した後に、周縁領域211ないし214を順に走行する経路(
図7にグレー色の矢印で図示。以下、「第二の経路」という。)のデータと、第一の経路において、南から北へ直進走行する際に苗の植付けを開始する第一の植付開始位置205(
図7に破線で図示)および北から南へ直進走行する際に苗の植付けを開始する第二の植付開始位置206(
図7に破線で図示)のデータが含まれている。
【0095】
すなわち、圃場200内をつづら折りのように走行する経路を「第一の経路」と呼び、周縁領域211ないし214を順に走行する経路を「第二の経路」と呼び、自動走行経路のデータには、「第一の経路」に関するデータと「第二の経路」に関するデータが含まれている。
【0096】
自動走行経路のデータが記憶部93に格納された後に、苗移植機1は、第一の経路の1列目を直進走行する際に、苗の植付けを開始する位置207までマニュアル走行する。
【0097】
こうして、苗の植付けを開始する位置207に到達すると、作業者によって自動走行レバー79が上方に揺動操作され、苗移植機1が、第一の経路上の自動走行と、中央領域210への苗の植付けを開始する。
【0098】
第一の経路上の自動走行においては、苗移植機1は、方位センサ80およびステアリングセンサ58から出力される検出信号と、GNSS受信機130から出力される現在の苗移植機1の位置情報と、自動走行経路に基づき、HSTサーボモータ150およびステアリングモータ57を駆動させて、
図7に示されるように、中央領域210の西側端部に位置する「1列目」を北へ直進走行しつつ、苗を植え付け、周縁領域212に達すると、旋回して、隣り合う列上(「2列目」)を南へ直進走行しつつ、苗を植付け、周縁領域214に達すると、旋回して、隣り合う列上(「3列目」)を北へ直進走行しつつ、苗を植え付け、以下、同様にして、苗移植機1は、中央領域210の東側端部に位置する「n列目」まで、自動走行しつつ、中央領域210に苗を植え付ける。
【0099】
最後に、苗移植機1は、第二の経路上を順に自動走行しつつ、周縁領域211ないし214に苗を植え付け、自動走行を終了する。
【0100】
なお、本実施態様においては、コントローラ87は、苗移植機1が自動走行によって旋回する間に、GNSS受信機130によって取得される実際の走行軌跡(自動走行軌跡)を評価しながら、ステアリングを適正化するように構成されている。
【0101】
具体的には、コントローラ87は、圃場200が、大回り(アンダーステア)になるような状態の場合には、オーバー気味に(ステアリングハンドル57の操舵角を大き目に)ステアリングモータ57を駆動し、小回り(オーバーステア)になるような状態の場合には、アンダー気味に(ステアリングハンドル57の操舵角を小さ目に)ステアリングモータ57を駆動する。このように構成することによって、適正な旋回走行を行うことができる。なお、圃場の状態は、畔ごとに異なることもあるため、ステアリングの駆動の適正化は、苗継ぎ側と、その反対側とでそれぞれ補正するように構成してもよく、この場合には、枕地が荒れることを防止することができる。さらに、2つ前の旋回の際の自動走行軌跡(
図7における西側に隣り合う旋回時の自動走行軌跡)を評価し、ステアリングを適正化してもよく、最も近接する箇所の旋回時の自動走行軌跡を評価し、ステアリングの補正を行うようにしてもよい。
【0102】
以上、圃場200上における自動走行について説明を加えたが、直進アシストを伴うマニュアル走行の場合には、以下のようにして、圃場200に苗の植付けが行われる。
【0103】
まず、
図1に示される自動走行切換えスイッチ78が押圧操作され、自動走行がオフされた後に、直進走行する際の基準となる基準線の始点の位置情報が取得される(ステップ1)。
【0104】
具体的には、作業者の操縦に基づき、苗移植機1が、
図7に示される圃場200の周縁領域211の北側の端部に移動され、自動走行レバー79が下方に揺動操作されることによって、基準線の始点218の位置情報が取得される。このとき、モニタ61上に、始点218の位置情報が表示される。
【0105】
次いで、作業者の操縦に基づき、
図7に矢印付きの破線208で示されるように、苗移植機1が、周縁領域211の南側の端部まで移動され、自動走行レバー79が下方に揺動操作されることによって、基準線の終点219の位置情報が取得される(ステップ2)。このとき、モニタ61上に、終点219の位置情報が表示される。
【0106】
なお、本実施態様においては、たとえば、自動走行が開始された後に、自動走行切換えスイッチ78の操作によってマニュアル走行に切り換えられた場合のように、直進アシストを伴うマニュアル走行が行われるより前に、自動走行切換えスイッチ78がオンされ、圃場200の四隅に関する位置情報と、直進走行する際の基準となる基準線の位置情報を取得するティーチングがすでに行われている場合には、自動走行切換えスイッチ78がオフされたときに、ティーチングによって取得された圃場の四隅の位置情報の中から、最初の2点(二隅)を、直進アシストに用いる基準線の始点および終点として利用するように構成されている。
【0107】
本実施態様においては、ティーチングの際に、まず、周縁領域211を北上する前後に、自動走行レバー79の下方への揺動操作によって、圃場200の南西および北西の端部の位置情報が取得されているため、マニュアル走行に切り換えられたときに、これら2点の位置情報が、直進アシストにおける基準線の始点および終点の位置情報として利用される。
【0108】
このように構成することによって、作業者が、自動走行の途中で、マニュアル走行に切り換えたときに、改めて直進アシストの基準線の始点218および終点219の位置情報を取得する手間を省くことができるから、スムーズにマニュアル走行に移行することができる。また、マニュアル走行する際に、自動走行した際に植え付けられた苗列に対して苗を平行に植え付けることができる。
【0109】
なお、基準線の始点および終点として利用される2点は、取得された四隅の位置情報の中の最初の2点でなく、直前の直線経路にかかる2点であってもよい。この場合には、周縁領域213を南下する前後に、自動走行レバー79の下方への揺動操作によって、取得された北東および南東の隅の2点の位置情報が、基準線の始点および終点として利用される。また、基準線の始点および終点として利用される2点を、自動走行にかかるティーチングの際に取得された四隅の各位置情報の中から選択可能に構成してもよい。
【0110】
さらに、本実施態様にかかる苗移植機1においては、自動走行切換えスイッチ78が操作され、自動走行からマニュアル走行へ切り換えられた場合には、圃場200の四隅に関する位置情報および直進走行する際の基準となる基準線の位置情報に関するメモリデータを保持しつつ、マニュアル走行を行い、植付済みのデータを更新し続けるように構成されている。このように構成することによって、暗渠の近傍を走行するときなど、自動走行が困難であることが明らかな場所においては、自動走行からマニュアル走行に切り換えて走行し、その後に、再び自動走行に切り換えた際に、スムーズに自動走行に復帰することができる。また、自動走行切換えスイッチ78が操作され、自動走行とマニュアル走行との間で切り換えられた場合には、圃場200の四隅に関する位置情報および直進走行する際の基準となる基準線の位置情報に関する直前のメモリデータは保持しつつ、そのひとつ前のデータを削除するように構成してもよい。このように構成することによって、メモリデータの増加によるシステムのひっ迫を避けつつ、自動走行切換えスイッチ78が誤って操作されたときにも、作業を継続することができる。
【0111】
こうして、基準線の始点および終点の位置情報が取得された後に、苗移植機1は、作業者の操縦に基づき旋回され、
図7に示される1列目の植付開始位置207の位置で、自動走行レバー79が上方に揺動される(ステップ3)。
【0112】
その結果、直進アシストが開始され、苗移植機1が
図7に示される「1列目」を北へ直進走行しつつ、苗を中央領域210に植え付ける際に、ステアリングモータ57が駆動され、基準線に対して平行に直進走行できるようにステアリングハンドル56が自動的に操舵される。
【0113】
苗移植機1が第二の植付開始位置206の近傍まで直進走行すると、作業者によって、自動走行レバー79が上方に揺動操作される(ステップ4)。その結果、直進アシストが停止されるため、作業者によって手動でステアリングハンドル56が右に操舵されて、苗移植機1が「二列目」の位置に旋回される。
【0114】
以下、同様にして、苗移植機1は、中央領域210内における直進アシストを伴う直進走行と、周縁領域214における手動による旋回走行とを繰り返しながら、中央領域210に苗を植え付ける。
【0115】
最後に、苗移植機1は、第二の経路上を順にマニュアル走行しつつ、周縁領域211ないし214に苗を植え付け、マニュアル走行を終了する。
【0116】
なお、
図2に示される自動走行切換えスイッチ78が操作されて、直進アシストを伴うマニュアル走行から、自動走行に切り換えられた場合で、苗移植機1が同一の圃場200内またはその近傍に位置している場合には、ステップ1において取得された基準線の位置情報が記憶部93に保存(格納)されるように構成されている。したがって、再びマニュアル走行に切り換えられたときに、スムーズにマニュアル走行に移行することができる。
【0117】
一方、
図8は、苗移植機1が自動で旋回を開始してから、前輪が空転するまでの流れを示す説明図である。
【0118】
苗移植機1が、自動走行によって圃場200の端部で旋回する際には、通常、
図8にプロセス(i)として示されるように、ディファレンシャル機構15によって外側の前輪8の回転が一旦増える。しかしながら、次第に、旋回外側の前輪8の抵抗が増え、
図3に示されたディファレンシャル機構15によって、プロセス(ii)として示されるように、旋回外側の空転していない前輪8の回転数が減少し、旋回内側の前輪8に偏重して駆動力が伝達されることがある。この場合には、旋回内側の後輪9のサイドクラッチが切られていることもあり、プロセス(iii)として示されるように、苗移植機1を牽引するトルク(牽引力)が足りず、走行車輪8,9が空転し、苗移植機1が走行できない状況となる。
【0119】
一方、圃場中央部を自動走行するときにおいても、たとえば、暗渠などが圃場中央部にある場合には、その直前でステアリングハンドル56が切られる際に、旋回する場合と同様に、走行車輪8,9が空転し、苗移植機1が走行できなくなることがある。
【0120】
このような状況に照らして、本実施態様にかかる苗移植機1においては、自動走行により第一の経路上を走行する際に、走行車輪8,9の空転が発生した場合であっても、以下のようにして、プロセス(iii)として示される空転を自動的に検知し、左右一対の前輪8をデフロックすることによって、自動的かつ安定的に走行を継続することができる。
【0121】
図9は、
図1に示された苗移植機1が自動走行する間に、コントローラ87が走行車輪8,9の空転を検知し、さらに解消するまでの制御の流れを示すフローチャートである。
【0122】
図9に示されるように、まず、コントローラ87は、走行車輪8,9が空転しているか否かを判定する(ステップs1)。
【0123】
本実施態様においては、コントローラ87は、前輪回転センサ21の検出信号に基づき、算出された所定時間内(所定時間当たり、単位時間あたり)の左側の前輪車軸17の回転数をLとし、所定時間内(所定時間当たり、単位時間あたり)の右の前輪車軸18の回転数をRとした場合に、LとRとの差の絶対値が、所定値未満である場合には、走行車輪8,9が空転していないと判定し、所定値以上である場合には、走行車輪8,9が空転していると判定する。
【0124】
このように、左右の前輪車軸17,18の回転数L,Rの差が所定値以上に開いたときに走行車輪8,9が空転していると判定することによって、低速走行時の空転検知の感度を下げることができ、空転の誤検知を抑制することができる。本実施態様においては、所定値は500に設定されている。
【0125】
なお、前輪回転センサ21を用いて、左右の前輪車軸17,18の回転数を検出することによって、直接的には前後の走行車輪8,9のうちの前輪8の空転を検知することができるが、前輪8が空転している際には、牽引力が足りず、後輪9も空転していることが推定される。
【0126】
走行車輪8,9が空転しているか否かの判定の結果、走行車輪8,9が空転していない場合には、走行車輪8,9が空転していると判定されるまで、コントローラ87による前輪回転センサ21の検出信号の取得と判定とが繰り返される。
【0127】
一方、判定の結果、走行車輪8,9が空転している場合には、コントローラ87は、デフロックモータ16(
図3参照)を駆動させ、左右の前輪車軸17、18の差動回転を制限する(ステップs2)。
【0128】
このように、左右の前輪車軸17、18の差動回転が制限される結果、左右一対の前輪8のうち、走行用の駆動力が殆ど伝達されていない方の前輪8にも、駆動力が充分に伝達されるため、苗移植機1は、自動的に走行に復帰することができる。
【0129】
こうして、左右の前輪車軸17、18の差動回転を制限する(デフロックを作動する)と、コントローラ87は、走行車輪8,9の空転が解消されたか否かを判定する(ステップs3)。
【0130】
具体的には、コントローラ87は、左右の前輪車軸17、18の差動回転が制限されてから起算して、前輪回転センサ21の検出信号に基づき、前輪車軸17,18が所定回転分回転されたか否かを判定する。その結果、前輪車軸17,18が所定回転分回転された場合には、走行車輪8,9の空転がすでに解消されているものとみなし、判定の時点で所定回転分回転されていない場合には、走行車輪8,9の空転が解消されていないものとみなすように構成されている。
【0131】
判定の結果、前輪車軸17,18が所定回転分回転され、走行車輪8,9の空転が解消されている場合には、コントローラ87は、デフロックモータ16(
図3参照)を駆動させ、左右の前輪車軸17、18の差動回転を許容する(ステップs4)。なお、本実施態様においては、コントローラ87は、前輪回転センサ21のセンサ位置で50パルスカウントされた時点で、走行車輪8,9の空転が解消されているものとみなし、左右の前輪車軸17、18の差動回転を許容するように構成されているが、最近の旋回状況(通常旋回したときのデフセンサ値)により、回転量を補正するように構成してもよい。このように構成することによって、必要以上のデフロックを省き、自動走行経路に復帰し易くすることができる。
【0132】
これに対して、前輪車軸17,18が、まだ所定回転分回転されておらず、走行車輪8,9の空転が解消されていない場合には、所定回転分回転されるまで、コントローラ87による判定が繰り返される。
【0133】
このように、本実施態様にかかる苗移植機1は、走行車輪8,9が空転した場合であっても、前輪車軸17,18の差動回転を制限することによって、自動的に走行に復帰することができる。
【0134】
一方、
図10は、
図1に示された苗移植機1が異なる硬さの圃場内を旋回走行する際の左右の前輪8の回転数の増減を示す説明図であり、
図10(a)は、苗移植機1が硬い圃場A内を旋回走行する際の左右の前輪8の回転数の増減を示す説明図であり、
図10(b)は、苗移植機1が軟らかい圃場B内を旋回走行する際の左右の前輪8の回転数の増減を示す説明図である。
【0135】
本実施態様においては、コントローラ87は、苗移植機1が旋回走行する際に、各圃場の状態(特に圃場の深さ、硬さ)を検知し、種々の制御に反映させるように構成されており、まず、以下に、各圃場の状態を検知する方法について詳細に説明を加える。
【0136】
苗移植機1が直進走行する際に、左右の前輪車軸17,18に略同一に分配されていた走行用の動力(トルク)は、通常、圃場内を旋回走行する際に、ディファレンシャル機構15によって、外側に位置する前輪車軸17または18に偏重して分配される。
【0137】
ここに、軟らかい(深い)圃場内を旋回走行する場合には、硬い(浅い)圃場内を旋回走行する場合に比して、外側に位置する前輪8(外輪)にかかる負荷が多い。その結果、
図10(a)および
図10(b)に示されるように、硬い圃場Aよりも、軟らかい圃場B内を旋回走行する場合の方が、左右の前輪車軸17,18の回転数の増減幅が大きくなる。
【0138】
したがって、苗移植機1が旋回走行する際にディファレンシャル機構15によって偏重して駆動力が伝達された左右の各前輪車軸17,18の回転数を、前輪回転センサ21を用いて検出し、比較することによって、コントローラ87は、圃場の硬さを検出する硬軟センサやレーキセンサ、リングセンサなどを別途設けることなく、走行する圃場の硬さ(深さ)を検知することができる。
【0139】
さらに、このようにして検知した圃場の硬さ(深さ)を、コントローラ87は、以下のように、種々の制御に反映させるように構成されている。
【0140】
第一に、コントローラ87は、検出された圃場の硬さに応じて、センターフロート38の迎え角、すなわち、フロートセンサ33の感度を自動的に変更するように構成されている。
【0141】
第二に、コントローラ87は、検出された圃場の硬さに応じて、中央整地ロータ31および左右の整地ロータ32の高さを変更するように構成されている。
【0142】
具体的には、圃場が軟らかく、抵抗が大きい場合には、コントローラ87は、ロータの位置を低く調整し、反対に、圃場が硬く、抵抗が小さい場合には、ロータの位置を高く調整するように構成されている。
【0143】
第三に、コントローラ87は、検出された圃場の硬さが硬い場合には、施肥装置26による圃場への施肥量を多くし、検出された圃場の硬さが軟らかい場合には、施肥装置26による圃場への施肥量を少なくするように構成されている。このように構成することによって、超音波センサなどの高価な硬さ検出手段を別途設けることなく、安価に可変施肥を行うことができる。
【0144】
第四に、コントローラ87は、検出された圃場の硬さが硬い場合には、苗の植付け深さを自動的に深く調整し、検出された圃場の硬さが軟らかい場合には、苗の植付け深さを自動的に浅く調整するように構成されている。
【0145】
以上のように、本実施態様にかかる苗移植機1のコントローラ87は、苗移植機1が旋回走行する際に検知された各圃場の深さ(硬さ)を検出し、種々の制御に反映させることができるが、検出された圃場の硬さに応じて、旋回アシストにおけるステアリング時間(パルス)と駆動回転(パルス)を補正するように構成してもよい。このように構成することによって、どの圃場においても、設定どおりの旋回を行うことができる。
【0146】
一方、
図11は、
図1に示された苗移植機1において、自動走行の開始操作が行われた際のエンジン回転数の上昇制御にかかるフローチャートである。
【0147】
自動走行経路のデータが記憶部93に格納された状態で、かつ、自動走行切換えスイッチ78がオンされた状態で、自動走行レバー79が上方に揺動操作される(すなわち、苗移植機1の自動走行の開始操作が行われる)と、
図11に示されるように、まず、コントローラ87は、エンジン回転センサ96の検出信号に基づき、所定時間当たりのエンジン7の回転数が、所定値未満であるか否かを判定する(ステップS1)。なお、ステップS1は、苗移植機1が走行しているか否かに拘わらず行われる。
【0148】
判定の結果、所定時間当たりのエンジン7の回転数が第一の所定値以上である場合には、コントローラ87は、苗移植機1が自動走行経路に沿って走行するように、ステアリングモータ57の駆動を開始し、ステアリングハンドルの操舵を開始する(ステップS2)。また、このとき、苗移植機1が停車している場合には、コントローラ87は、ステアリングモータ57の駆動と同時にHSTサーボモータ150を駆動し、苗移植機1の走行を開始させる。
【0149】
なお、本実施態様においては、コントローラ87は、ステアリングモータ57の駆動を、静油圧式無段変速機25の出力に比例した速度で行うように構成され、静油圧式無段変速機25の出力が高く、苗移植機1が高速で走行している場合には、ステアリングモータ57を速く駆動してステアリングハンドル56を速く回転させ、静油圧式無段変速機25の出力が低く、苗移植機1が低速で走行している場合には、ステアリングモータ57の駆動速度を緩慢にし、ステアリングハンドル56を低い速度で回転させる。このように構成することによって、苗移植機1がスムーズに、旋回等の方向転換を行うことができ、自動走行経路の補正を加える必要がない。
【0150】
一方、判定の結果、所定時間当たりのエンジン7の回転数が第一の所定値未満である場合には、コントローラ87は、エンジン7の回転数が第一の所定値以上になるまでスロットルモータ97を作動させる(ステップS3)。
【0151】
こうして、エンジン7の回転数が、第一の所定値以上に上昇させると、コントローラ87は、
図11に示されるように、苗移植機1が自動走行経路に沿って走行するように、ステアリングモータ57を駆動し、ステアリングハンドル56を操舵する(ステップS2)。
【0152】
その結果、トルクセンサ111の検出信号に基づき、入力トルクがパワーステアリング108によってより大きなトルクに変換され、前輪8の向きが変更される。加えて、このとき、苗移植機1が停車している場合には、コントローラ87は、HSTサーボモータ150を駆動し、苗移植機1の走行を開始させる。
【0153】
このように、自動走行の開始操作が行われた後に、操舵装置としてのステアリングハンドル56が操舵されるに先立ち、エンジン7の回転数が確保されることによって、パワーステアリング108における油圧力不足を原因とした操舵機構66の挙動の不安定化を防止し、コントローラ87および操舵機構66によるスムーズな自動操舵(苗移植機1の旋回含む)ならびに自動走行の開始が可能になる。さらに、これにより、とくに湿田の旋回時においても、比較的低速で走行しながらも、油圧ポンプを回転させ、パワーステアリング108の油圧力を確保することができる。
【0154】
なお、本実施態様においては、自動走行において、上述のように、エンジン7の回転数を確保した後に、コントローラ87がステアリングハンドル56を操舵し、停車している場合には、さらにHSTサーボモータ150を駆動して苗移植機1の走行を開始させるように構成されているが、ステアリングハンドル56の操舵に先立って、エンジン7の回転数が確保されれば、ステアリングハンドル56の操舵と、HSTサーボモータ150の駆動による発車との両タイミングは、どちらが先に構成されてもよく、ステアリングハンドル56の操舵と発車のタイミングが同時であってもよい。
【0155】
本実施態様においては、コントローラ87は、エンジン7の回転数の上昇に伴う苗移植機1の車速の上昇分を考慮し、HSTサーボモータ150の出力を補正するように構成されており、エンジン7の回転数の上昇に伴う車速変化の抑制が図られている。
【0156】
また、自動走行の開始操作が行われた後に、操舵装置としてのステアリングハンドル56が操舵されるに先立ち、静油圧式無段変速機25の出力、または出力の増大が行われた場合のように、自動走行経路の補正を行う必要がない。
【0157】
なお、本実施態様においては、油圧ポンプからパワーステアリング108へ充分に油圧が供給されるように、第一の所定値が決定されているが、油圧ポンプの回転数を検出する手段を別途設け、油圧ポンプの回転数が、パワーステアリング108へ充分な油圧の供給が行える回転数の規定値未満である場合には、コントローラ87がスロットルモータ97を駆動し、エンジン7の回転数を規定値まで、もしくは規定値以上に上昇させるように構成してもよい。
【0158】
以上のようにして、エンジン7の回転数を確保し、安定した自動操舵の開始が可能に構成された苗移植機1のコントローラ87は、自動走行する間に、油圧力が必要となる以下のタイミングで、エンジン7の回転数の適正判別を行い、その結果、エンジン7の回転数が、必要な値に満たない場合には、スロットルモータ97を駆動し、エンジン7の回転数(延いては油圧ポンプの回転数)を上昇させるように構成されている。
【0159】
第一に、自動走行経路上に、苗移植機1の旋回動作が予定されている場合には、コントローラ87は、苗移植機1が旋回する手前で、エンジン7の回転数を上昇させるように構成されている。このように構成することによって、機体の挙動をスムーズにすることができる。
【0160】
第二に、自動走行経路上に、苗植付部63を昇降させた直後に旋回する予定がある場合には、コントローラ87は、苗植付部63を昇降させる前に、エンジン7の回転数を、旋回動作に必要な数値(回転数)まで上昇させるように構成されている。このように構成することによって、圃場上のある列における植え終わりから、旋回、隣り合う列での植え始めに至るまでの機体の挙動をスムーズにすることができる。
【0161】
以上のタイミングでエンジン7の回転数を上昇させ、苗移植機1が旋回した後に、コントローラ87は、エンジン7の回転数を、前後進レバー35の操作位置に応じた数値に元に戻すように構成されている。
【0162】
ここに、本実施態様においては、エンジン7の回転数を戻すにあたり、その変化率を低く抑え(ゆっくりとエンジン7の回転数を下げる)、車速が急変して加速度がつくことを防止するように構成されている。このように構成することによって、機体の挙動をスムーズにすることができ、また、旋回後に、苗の植付けを開始したときに、機体のピッチングが発生することを抑制することができる。
【0163】
一方、作業者の操縦に基づき、苗移植機1がマニュアル走行する場合には、コントローラ87は、油圧力が必要となる以下のタイミングで、エンジン7の回転数の適正判別を行い、その結果、エンジン7の回転数が、必要な値に満たない場合には、スロットルモータ97を駆動し、エンジン7の回転数(延いては油圧ポンプの回転数)を上昇させるように構成されている。
【0164】
第一に、ステアリングセンサ58の検出信号に基づき、旋回を検知した場合には、コントローラ87は、アクセル回転が規定値以上であるか否かを判定し、アクセル回転が規定値に満たない場合には、エンジン7の回転数を上昇させるように構成されており、これにより、苗移植機1がスムーズに旋回することができる。
【0165】
第二に、リンクセンサ90の検出信号に基づき、苗植付部63の上昇を検知した場合には、コントローラ87は、アクセル回転が規定値以上であるか否かを判定し、アクセル回転が規定値に満たない場合には、エンジン7の回転数を上昇させるように構成されており、これにより、油圧揚力を増加させ、スムーズな作動が行える。なお、苗植付部63の上昇を検知した場合には、コントローラ87は、エンジン回転数を、旋回に必要となる回転数まで上昇させるように構成してもよい。苗植付部63が上昇された場合には、直後に、苗移植機1が旋回することが多いため、このように構成することによって、とくに旋回が開始された直後の油圧力の不足を防止することができる。
【0166】
以上のタイミングで、エンジン7の回転数が上昇されることによって、苗移植機1は、マニュアル走行においても、油圧力の不足を防止することができ、機体のスムーズな挙動を実現することができる。
【0167】
一方、
図12は、
図6(a)に示されたステアリングモータ57の制御にかかる図面である。
【0168】
ここに、従来の苗移植機においては、ステアリングハンドルを駆動するステアリングモータから、過渡応答によって発生する振動がステアリングハンドルに伝わり、ステアリングハンドルがガタついてしまうという問題があった。
【0169】
このような状況に照らして、本実施態様においては、苗移植機1が自動走行する間に、ステアリングハンドル56を操舵するため、ステアリングモータ57を駆動する際には、コントローラ87は、自動走行経路と方位センサ80に基づく機体の向きとから算出されるモータ回転角の制御目標値に対応する制御信号を、はじめからステアリングモータ57に出力するのではなく、敢えて、モータ回転角の制御目標値の前後の値に対応する仮の目標値(制御量)に対応する制御信号をステアリングモータ57に出力する。なお、本実施態様においては、制御量の算出方法として、PI制御が用いられている。
【0170】
たとえば、
図12に示される制御目標値が100である場合には、コントローラ87は、敢えて、その前後一方(上下一方)の値である105を第一の仮目標値として定め、第一の仮目標値に対応する制御信号をステアリングモータ57に出力する。
【0171】
次いで、コントローラ87は、制御目標値の前後他方(上下他方)であり、かつ、前回に出力した制御量である105(第一の仮目標値)よりも、制御目標値100との差が小さい97を第二の仮目標値として定め、第二の仮目標値に対応する制御信号をステアリングモータ57に出力する。
【0172】
さらに、コントローラ87は、制御目標値の前後一方(上下一方)であり、かつ、前回に出力した制御量である97(第二の仮目標値)よりも、制御目標値100との差が小さい102を第三の仮目標値として定め、第三の仮目標値に対応する制御信号をステアリングモータ57に出力する。
【0173】
次いで、コントローラ87は、制御目標値の前後他方(上下他方)であり、かつ、前回に出力した制御量である102(第三の仮目標値)よりも、制御目標値100との差が小さい99を第四の仮目標値として定め、第四の仮目標値に対応する制御信号をステアリングモータ57に出力する。
【0174】
このように、コントローラ87は、はじめからモータ回転角の制御目標値に対応する制御信号を出力するのではなく、制御目標値に前後(上下)する値を敢えて仮の目標値として出力し、目標制御量の前後(上下)から、徐々に目標値に収束させるように制御するように構成されているため、ステアリングモータ57の過渡応答とそれによって発生する振動を抑制することができる。
【0175】
なお、本実施態様においては、ステアリングモータ57はステッピングモータによって構成され、ステアリングモータ57の制御目標値を、PI制御に基づき算出するように構成されているが、ステアリングモータ57をステッピングモータによって構成することは必ずしも必要でなく、また、制御目標値は、PID制御やPD制御に基づき算出するように構成してもよい。
【0176】
さらに、PI制御によって、仮目標値および制御目標値に近づけるに際し、残留偏差をなくすI制御の割合(ゲイン)を増大させてもよく、また、残留偏差をなくす積分制御の時間を長く構成することによって、ステアリングモータ57の制御量の変化速度を低くし、ステアリングモータ57から発生する振動をより一層抑制することができる。
【0177】
残留偏差をなくす積分制御の時間を長く構成する場合には、とくに、ステアリングモータ57の駆動開始のタイミングから起算して、制御量の目標値が、第一の仮目標値から第二の仮目標値へ切り換えられるタイミング(第二の仮目標値を定めたタイミング)T1までの制御速度(
図12参照)よりも、制御量の目標値が第一の仮目標値から第二の仮目標値へ切り換えられるタイミングT1から、制御量の目標値が本来の制御目標値(上述の例でいう100)へ切り換えられるタイミング(本来の制御目標値を目標値として定めるタイミング)までに要する時間を長く構成することによって、ステアリングモータ57から発生する振動を効果的に抑制することができる。
【0178】
本実施態様によれば、苗移植機1が走行している間に、走行車輪8,9が空転している場合には、左右の前輪車軸8,9の差動回転が制限されるように構成されているから、左右の前輪8のうち、空転する前輪8に偏重して駆動力(トルク)が伝達され続ける事態を防止し、空転していない走行車輪にも充分に駆動力を伝達することができ、したがって、苗移植機1が、自動走行によって、安定して走行することができる。
【0179】
さらに、本実施態様によれば、苗移植機1の自動走行が開始される際に、エンジン7の回転数が第一の所定値未満である場合には、エンジン7の回転数を上昇させた後に、ステアリングハンドルの操舵が開始されるから、パワーステアリング108における油圧力の不足によって、操舵輪としての左右一対の前輪8を操舵する力が、路面の抵抗力を下回ることがなく、安定して、操舵機構66およびコントローラ87による自動操舵を開始することができる。
【0180】
また、本実施態様によれば、ステアリングモータ57によるステアリングハンドル56の駆動速度(操舵速度)が、静油圧式無段変速機25の出力に比例するように構成されているから、苗移植機1の旋回等の進行方向転換をスムーズに行うことができ、したがって、自動走行経路に補正を加える必要がない。
【0181】
加えて、本実施態様によれば、コントローラ87は、ステアリングモータ57を駆動させる際に、はじめから制御目標値を制御量としてステアリングモータ57を駆動させるのではなく、制御目標値に前後する値を仮目標値として定め、ステアリングモータ57の制御量を、徐々に制御目標値へ収束させるように構成されているから、ステアリングモータ57の過渡応答による振動の発生と、ステアリングハンドル56への振動の伝達を抑制することができる。
【0182】
さらに、本実施態様によれば、上部シャフト83に設けられた内歯車106と、ステアリングモータ57によって駆動されるモータ側ギヤ109とが、ハブダンパ110を介して噛み合うから、ステアリングモータ57からステアリングハンドル56へ振動が伝達されることを抑制することができる。
【0183】
図13は、本発明の他の好ましい実施態様にかかる苗移植機1が通電されてからのコントローラ87による走行車輪8,9の空転の検知と解消についての制御の流れを示すフローチャートである。
【0184】
本実施態様においては、エンジン7(
図1参照)を始動させるキーシリンダー(図示せず)にキーが挿し込まれ、苗移植機1が通電されると、
図9に示されるように、コントローラ87は、まず、静油圧式無段変速機(HST)25の出力があるか否かを判定する(ステップss1)。
【0185】
具体的には、コントローラ87は、トラニオンアーム121の回動角度を検出するポテンショメータ122(
図4(b)参照)の検出信号に基づき、静油圧式無段変速機25の出力の有無を判定する。なお、静油圧式無段変速機25の出力の判定は、前後進レバー35の位置を検出する前後進レバーセンサ36の検出信号に基づいてもよく、後輪回転センサ29の検出信号に基づいて行ってもよい。
【0186】
判定の結果、出力がない場合には、静油圧式無段変速機(HST)25の出力があるまで、ポテンショメータ122の検出信号に基づく静油圧式無段変速機25の出力の有無の判定が繰り返される。
【0187】
これに対して、判定の結果、静油圧式無段変速機25の出力がある場合には、コントローラ87は、GNSS受信機130によって取得した苗移植機1の位置情報(位置座標)が変化しているか否かを判定する(ステップss2)。
【0188】
その結果、苗移植機1の位置情報が変化していない場合には、コントローラ87は、左右一対の前輪8の回転数の比率に基づき、走行車輪8,9が空転しているか否かを判定する(ステップss3)。
【0189】
具体的には、前輪回転センサ21の検出信号に基づき、算出された所定時間内の(単位時間当たりの)左の前輪車軸17の回転数をLとし、所定時間内の(単位時間当たりの、所定時間当たりの)右の前輪車軸17,18の回転数をRとした場合に、L/R(所定時間あたりの左右の前輪8の回転数の比)の値が、1/50<L/R<50である場合には、コントローラ87は、走行車輪8,9が空転していないと判定し、そうでなければ走行車輪8,9が空転していると判定する。換言すれば、左右の前輪車軸17、18の回転数のうち、少ない方の回転数に対する大きい方の回転数の比が50以上の場合には、コントローラ87は、走行車輪8,9が空転していると判定し、比が50を下回る場合には、コントローラ87は、走行車輪8,9が空転していないと判定する。
【0190】
ここに、ディファレンシャル機構15による左右の前輪車軸17,18の回転速度の比は、通常、最大でも10倍に満たない値である。これに対して、ディファレンシャル機構15によって、空転する左右一方の前輪8に偏重して駆動力が伝達され、空転していない左右他方の前輪8にほとんど駆動力が伝達されていない場合には、左右の前輪車軸17,18の回転速度の比は、100倍以上である。このような状況に照らして、本実施態様においては、左右の前輪車軸17,18の回転数の比が50倍を超えている場合には、走行車輪8,9が空転していると判定するように構成されている。なお、左右の前輪車軸17,18の回転数について、最低回転数による制限を設けることによって、低速走行時の走行車輪8,9の空転検知の感度を下げ、たとえば連続して旋回した場合に、空転の誤検知に伴うデフロックの誤作動を防止することができる。
【0191】
走行車輪8,9が空転しているか否かの判定の結果、走行車輪8,9が空転していない場合には、静油圧式無段変速機(HST)25の出力の判定に戻る(ステップss1参照)。
【0192】
一方、判定の結果、走行車輪8,9が空転している場合には、コントローラ87は、デフロックモータ16(
図3参照)を駆動させ、左右の前輪車軸17、18の差動回転を制限する(ステップss4)。
【0193】
このように、左右の前輪車軸17、18の差動回転が制限される結果、左右一対の前輪8のうち、走行用の駆動力が殆ど伝達されていない方の前輪8にも、駆動力が充分に伝達されるため、苗移植機1は、自動的に走行(直進走行または旋回走行)に復帰することができる。なお、左右の前輪車軸17、18の差動回転を制限した場合には、その地点の位置情報を、記憶部93またはオンラインストレージに格納するように構成してもよい。このように構成することによって、次回作業時や次回通過時において、格納された位置情報を有効的に利用することができる。また、オンラインストレージの場合には、他の機体で利用することもでき、統計処理や管理を容易に行うことが可能になる他、オンライン用のインターフェースを設ける必要がなくなる。
【0194】
こうして、左右の前輪車軸17、18の差動回転を制限する(デフロックを作動する)と、コントローラ87は、走行車輪8,9の空転が解消されたか否かを判定する(ステップss5)。
【0195】
本実施態様においては、コントローラ87は、デフロックの作動開始から起算して、苗移植機1が時間内に所定の距離(たとえば1m)を移動した場合には、走行車輪8,9の空転が解消されていると判定し、苗移植機1が時間内に所定の距離を移動していない場合には、走行車輪8,9の空転が解消されていないと判定する。なお、苗移植機1が旋回走行する際に、走行車輪8,9が空転し、左右の前輪8がデフロックされた場合には、走行車輪8,9の空転解消の判定は、旋回内側のサイドクラッチが切られている後輪9の所定時間当たりの回転パルス(回転数)が、所定値以上であるか否かによって行われてもよい。すなわち、走行車輪8,9が空転し、苗移植機1が走行できていないときには、旋回内側の後輪9には駆動力が伝達されておらず、殆ど無回転の状態であるため、旋回内側の後輪9(および後輪車軸82の回転パルスが所定値を下回る場合のみに、走行車輪8,9の空転が解消されていないと判定することができる。また、走行車輪8,9のこの空転解消判定方法については、位置情報を用いる必要がないため、GNSS受信機によって位置情報の取得が困難な状況のみに適用するように構成してもよい。
【0196】
判定の結果、走行車輪8,9の空転が解消されている場合には、コントローラ87は、デフロックモータ16(
図3参照)を駆動させ、左右の前輪車軸17、18の差動回転を許容する(ステップss6)。
【0197】
これに対して、判定の結果、走行車輪8,9の空転が解消されていない場合には、コントローラ87は、苗移植機1が旋回しているか否かを判定する(ステップss7)。
【0198】
具体的には、コントローラ87は、ステアリングセンサ58からステアリングハンドル56の舵角の検出値を取得し、現在のステアリングハンドル56の舵角が、所定の角度(たとえば225度)を超えている場合には、苗移植機1が旋回していると判定し、そうでない場合には、苗移植機1が旋回していないと判定する。なお、旋回しているか否かの判定には、トルクセンサ111によって入力トルクを見るように構成してもよい。
【0199】
判定の結果、苗移植機1が旋回している場合には、前記実施態様において述べたように、通常、旋回内側の後輪9のサイドクラッチが切状態にあり、後輪9による牽引力を利用するため、コントローラ87は、電磁バルブ103を駆動し、旋回内側の後輪9のサイドクラッチを入状態に切り換える(ステップss8)。なお、本実施態様においては、旋回内側の後輪9のサイドクラッチを断続的に繋ぐ(断続的に入状態にする)ように構成されており、このように構成することによって、苗移植機1は、旋回内側の後輪9の牽引力も利用しつつ、スムーズに旋回することができる(以下、苗移植機1が旋回する際に、内側に位置する後輪9のサイドクラッチが断続的に入切されることを「ポンピングクラッチ」という。)。ポンピングクラッチが行われている間は、左右の後輪9のサイドクラッチがいずれも入状態(繋がれている状態)である。なお、ステップss8においては、ポンピングクラッチでなく、後輪9のサイドクラッチを、連続的に入状態とするように構成し、牽引力をさらに高めてもよく、また、ポンピングクラッチにおいては、ポンピングターンとして、サイドクラッチの入切のタイミングや長さを自動的に最適化するように構成してもよい。
【0200】
こうして、ポンピングクラッチが開始された後に、苗移植機1は、走行車輪8,9の空転が解消されたか否かを判定する(ステップss9)。
【0201】
本実施態様においては、コントローラ87は、ポンピングクラッチの開始から起算して、苗移植機1が時間内に所定の距離(たとえば1m)を移動した場合には、走行車輪8,9の空転が解消されていると判定し、苗移植機1が時間内に所定の距離を移動していない場合には、走行車輪8,9の空転が解消されていないと判定する。なお、走行車輪8,9の空転解消の判定は、ポンピングクラッチにおいて、旋回内側の後輪9のサイドクラッチが切られているタイミングで、旋回内側の後輪9の所定時間当たりの回転パルス(回転数)が、所定値以上であるか否かによって行われてもよく、この場合には、サイドクラッチが切られている旋回内側の後輪9の所定時間当たりの回転パルス(回転数)が所定値未満である場合のみに、走行車輪8,9の空転が解消されていないと判定する。この空転解消判定方法によれば、GNSSの電波取得に失敗したときにおいても、前輪8のデフロックおよび後輪9のポンピングクラッチの効果の判定(空転解消の判定)を行うことができる。
【0202】
判定の結果、走行車輪8,9の空転が解消されている場合には、コントローラ87は、デフロックモータ16(
図3参照)を駆動させ、左右の前輪車軸17、18の差動回転を許容する。
【0203】
これに対して、判定の結果、走行車輪8,9の空転が解消されていない場合には、コントローラ87は、静油圧式無段変速機25の出力を停止させ、ステアリングモータ57を駆動してステアリングハンドル56を直進位置に操舵し、苗植付部63を作業位置まで下降させる(ステップss10)。
【0204】
このように、ステアリングハンドル56を直進位置に操舵する(作業車両の一例である苗移植機1が直進するように、ステアリングハンドル56を切る)ことによって、走行車輪8,9の空転状態を解消し易くすることができる。また、苗植付部63を作業位置まで下降させることによって、エンジン7の動力の一部を、駆動用の動力(苗植付部63の油圧揚力)に割くことなく、走行用の動力に向け、牽引力を増加させることができる。加えて、湿田においては、苗植付部63を下降させることによって、その浮力を利用することができるという効果もある。
【0205】
次いで、コントローラ87は、苗移植機1が、仮に所定の距離(本実施態様においては1m)を走行した場合に、苗移植機1の位置が、作業領域(本実施態様においては作業車両が、苗を植え付ける苗移植機1として構成されているので、苗植付部63によって苗を植え付ける領域である中央領域210および周縁領域211ないし214)から逸脱するか否かを判定する(ステップss11)。
【0206】
判定の結果、苗移植機1の位置が作業領域から逸脱する場合には、コントローラ87は、静油圧式無段変速機25(HST)の出力を停止させた状態で、制御を終了する。
【0207】
これに対し、判定の結果、苗移植機1の位置が作業領域から逸脱しない場合には、コントローラ87は、静油圧式無段変速機25に定量分を出力させ、4輪トルク走行を行う(ステップss12)。なお、静油圧式無段変速機25の定量分とは、本実施態様においては前輪回転センサ21の200パルス分(前輪8の所定回転分)に構成されている。
【0208】
こうして、静油圧式無段変速機25が定量分の出力を行った後に、コントローラ87は、出力開始から起算して、前輪回転センサ21の検出信号に基づき、前輪車軸17,18が所定回転分回転されたか否かを判定する(ステップss13)。
【0209】
その結果、前輪車軸17,18が所定回転分回転された場合には、走行車輪8,9の空転がすでに解消されていることが推定されるので、コントローラ87は、デフロックモータ16を駆動させ、左右の前輪車軸17,18の差動回転を許容する。本実施態様においては、所定回転分とは、前輪回転センサ21のセンサ位置で200パルスカウントされるまでとする。
【0210】
これに対して、前輪車軸17,18が、まだ所定回転分回転されていない場合には、所定回転分回転されるまで、コントローラ87による判定が繰り返される。
【0211】
一方、ステップss7において、苗移植機1が旋回しているか否かの判定の結果、苗移植機1が旋回していない場合には、
図13に示されるように、ステップss10へ移行される。この場合には、ステップss11における作業領域は、中央領域210のみを含むものとして構成してもよい。
【0212】
本実施態様によれば、苗移植機1が走行している間に、走行車輪8,9が空転している場合には、左右の前輪車軸8,9の差動回転が制限されるように構成されているから、左右の前輪8のうち、空転する前輪8に偏重して駆動力(トルク)が伝達され続ける事態を防止し、空転していない走行車輪にも充分に駆動力を伝達することができ、したがって、作業車両が、自動走行によって、安定して走行することができる。
【0213】
さらに、本実施態様よれば、コントローラ87は、静油圧式無段変速機25の出力があるにも拘わらず、GNSS受信機130によって取得される苗移植機1の位置に変化がないことを確認した上で、走行車輪8,9の空転の有無を判定するように構成されているから、左右一対の前輪8のデフロックの誤作動を効果的に防止することができる。
【0214】
また、本実施態様によれば、簡単な構成であっても、苗移植機1の通電時に、常時、走行車輪8,9の空転を電気的に検知することができるから、圃場200内のどの場所においても、前輪車軸17,18をデフロックすることができ、走行安定性および作業継続性を向上させることができる。
【0215】
さらに、本実施態様によれば、位置情報取得手段として機能するGNSS受信機130が電波状況などによって機能しない場合であっても、左右の前輪車軸17,18の回転数を検出し、その比を算出することによって、走行車輪8,9の空転を検知(直接的には前輪8の空転が検知されるが、牽引力不足のため、後輪9の空転も自然に推定される)することができる。
【0216】
また、本実施態様によれば、左右の前輪車軸17,18の回転数を検出し、その比を算出するだけで、走行車輪8,9の空転を検知することができるから、空転検知の構成を簡潔にすることができる。
【0217】
さらに、本実施態様によれば、左右の前輪車軸17,18がデフロックされたにも拘わらず、苗移植機1の位置が変化していない場合には、旋回時において、駆動力の伝達が切られている後輪クラッチを入状態に切り換えるように構成されているから、左右両方の後輪9の牽引力を利用し、前輪8,9の空転を解消することができる。また、後輪クラッチの入状態への切換えは、左右の前輪8のデフロックによって空転が解消されなかった場合のみとすることによって、予定経路からのズレを最小限としながら、空転解消を図ることができる。
【0218】
加えて、本実施態様によれば、後輪クラッチが入状態に切り換えられた後においても、苗移植機1の位置が変化しない場合には、ステアリングハンドル56が直進位置に操舵されるから、前輪8および後輪9の空転状態を解消し易くすることができる。
【0219】
さらに、本実施態様によれば、苗植付部63を作業位置まで下降させることによって、苗移植機1の動力の一部を、苗植付部63の揚力に割くことなく、走行用の動力に向け、牽引力を増加させ、前輪8および後輪9の空転状態を解消し易くすることができる。
【0220】
また、本実施態様によれば、コントローラ87は、苗移植機1が、仮に所定の距離を走行した場合に、作業領域(本実施態様においては中央領域210および周縁領域211ないし214)を逸脱するか否かの判定の結果、作業領域を逸脱しない場合のみに、静油圧式無段変速機25から出力を行い、走行するように構成されているから、安全性を確保し、機体を保護することができる。
【0221】
図14は、本発明の他の好ましい実施態様にかかる苗移植機1の制御系、検出系、入力系、表示系、駆動系および通信系のブロックダイアグラムである。
【0222】
本実施態様においては、前記実施態様に加え、苗移植機1の通信系として、携帯端末100の通信部101と無線接続によってデータのやり取りを行う通信部99を備えている。
【0223】
本実施態様にかかる苗移植機1は、圃場200上を自動走行しつつ、後輪9のスリップ率を算出し、そのスリップ率を、ポンピングクラッチにおける後輪9のサイドクラッチの入切の頻度や、前輪車軸17,18のデフロックの作動間隔などにフィードバックするように構成されている。まず、以下に、後輪9のスリップ率の算出方法について、詳細に説明を加える。
【0224】
本実施態様においては、苗移植機1のコントローラ87は、圃場200の周縁領域211ないし213を、順にマニュアル走行するティーチングの際と、圃場200の中央領域210を直進走行する際と、圃場200南部および北部の周縁領域212および214を旋回走行する際にそれぞれ、後輪9のスリップ率を算出し、直進走行する際には、中央領域210の中央部分と、畔際に近接する部分のそれぞれで、後輪9のスリップ率を算出する。
【0225】
具体的には、コントローラ87は、通常、ティーチング時、直進走行時および旋回走行時の各タイミングにおいて、GNSS受信機130によって取得した位置情報の変化から算出される苗移植機1の実際の移動距離を、後輪回転センサ29の検出信号(回転数)から推定される苗移植機1の移動距離で割って算出された値を、1から引くことによって算出される。
【0226】
また、旋回時において、GNSS受信機130によって電波が取得できない場合には、コントローラ87は、ステアリングハンドル56が末切り状態(これ以上ハンドルを切れない状態であり、ステアリングセンサ58により判断)のときの後輪回転センサ29によって検出される後輪9の回転数(後輪車軸82の回転数)に基づき、スリップ率を算出するように構成されている。このように、末切り状態のときのみに、後輪9の回転数をカウントすることによって、ステアリングハンドル56が操舵される速度の影響を排除することができる。なお、後輪9の回転数のカウントは、植付け終わり位置の機体の向きから90度機体の方向が変わった位置(方位センサ80で検出)、すなわち、旋回中央位置で終了させ、その後の旋回の後半は、補正しながら行うように構成してもよい。さらに、後輪9の回転数当たりのステアリングハンドル56の操舵角の変化を検知することによっても、旋回時に、GNSS受信機130を用いずに、後輪9のスリップ率を算出することができる。
【0227】
本実施態様においては、以上のようにして算出されたスリップ率が、走行している際に、以下のように種々の制御にフィードバックされるように構成されている。
【0228】
第一に、コントローラ87は、ポンピングクラッチの作動開始のタイミングと作動間隔を、スリップ率に応じて自動的に調整するように構成されている。たとえば、
図7に示された「1列目」の北の畔際と「3列目」の北の畔際とは、スリップ率が似通った傾向にあるため、「1列目」を走行した直後に、北側の周縁領域212を旋回走行する際に算出された後輪9のスリップ率が高い場合には、「3列目」を北へ走行した直後に、北側の周縁領域212を旋回走行する際(すなわち、スリップ率を算出した旋回時の2回先の旋回時)に、ポンピングクラッチが作動している時間が長くなるように、作動開始のタイミングと作動間隔を調整する。このように、旋回内側の後輪9へ駆動力が伝達される時間を多めにとることによって、スムーズな旋回が図られている。
【0229】
第二に、コントローラ87は、算出した後輪9のスリップ率に応じた実株間を算出し、実株間に合わせて施肥装置26による施肥量を変化させるように構成されている。このように構成することによって、圃場200内のスリップ率が高い場所においても、肥料を撒きすぎることがなく、適切な量の肥料を圃場200全体に散布することができる。
【0230】
第三に、コントローラ87は、算出した後輪9のスリップ率に応じ、苗取り量を適切に調整するように構成されている。
【0231】
第四に、コントローラ87は、ステアリング速度、すなわち、エンジン7の回転やモータの速度を補正し、さらに、ステアリングハンドル56の操舵量および操舵時間(パルス数)を補正することによって、ステアリング精度を向上させるように構成されている。
【0232】
第四に、コントローラ87は、後輪9のスリップ率に応じ、中央整地ロータ31および左右一対の整地ロータ32(
図1参照)の回転速度を変化させるように構成されている。このように構成することによって、スリップ率が高い場合に中央整地ロータ31および左右一対の整地ロータ32が圃場200表面に潜り込むことを防止することができ、スリップ率が低い場合に中央整地ロータ31および左右一対の整地ロータ32によって泥押ししてしまう事態を防止することができる。
【0233】
第五に、コントローラ87は、苗移植機1が旋回走行する間に、走行車輪8,9の空転が発生した場合の左右の前輪8のデフロックの作動間隔を、2回前の旋回時(
図7における西側に隣接する1つ前の旋回時)に算出した後輪9のスリップ率に応じて調整するように構成されている。
【0234】
ここに、本実施態様においては、苗移植機1が旋回走行する間に、走行車輪8,9の空転が発生した場合には、左右の前輪8のデフロックを断続的に作動させるように構成されており、この作動間隔が、デフロックされる時間が長くなるように調整されることによって、左右の前輪車軸17,18および左右の前輪8に過度な負荷がかかることが抑制される。なお、左右の前輪8のデフロックについて、作動間隔のみならず、作動開始のタイミングをさらに調整可能に構成してもよい。
【0235】
さらに、コントローラ87は、ティーチングの際に算出した圃場200の周縁領域211ないし214における後輪9のスリップ率を、第二の経路(
図7にグレー色の矢印で図示)での走行と苗の植付けに利用するように構成されている。このように構成することによって、旋回走行により周縁領域212および214が荒れている場合であっても、その影響を排除することができる。
【0236】
図15は、
図14に示された苗移植機1が自動走行により旋回走行する際に、コントローラ87が走行車輪8,9の空転を検知し、さらに解消するまでの制御の流れを示すフローチャートである。
【0237】
図15に示されるように、本実施態様においては、コントローラ87は、まず、苗移植機1が旋回しているか否かを判定する(ステップsss1)。
【0238】
具体的には、コントローラ87は、ステアリングセンサ58からステアリングハンドル56の操舵角の検出値を取得し、現在のステアリングハンドル56の操舵角が、所定の角度を超えている場合には、苗移植機1が旋回していると判定し、そうでない場合には、苗移植機1が旋回していないと判定する。
【0239】
判定の結果、苗移植機1が旋回していないと判定した場合には、コントローラ87は、ステアリングハンドル56の操舵角が、所定の角度を超えるまで、コントローラ87によるステアリングセンサ58からの検出値の取得と判定が繰り返される。
【0240】
これに対して、判定の結果、苗移植機1が旋回していると判定した場合には、コントローラ87は、走行車輪8,9が空転しているか否かを判定する(ステップsss2)。
【0241】
本実施態様においては、
図8に示されたプロセス(ii)とプロセス(iii)の間に、旋回時に外側に位置する前輪8の所定時間内における回転数が、内側に位置する前輪8の所定時間内における回転数と略同一になった時点で、コントローラ87は、走行車輪8,9が空転している(空転状態に向かっている)と判定する。このように構成することによって、前記実施態様の場合よりも早期かつ精度よく走行車輪8,9の空転を検出することができ、したがって、走行車輪8,9が暗渠へ嵌り込むなどの事態を防止することができる。なお、前記実施態様の場合と同様に、この判定によっては、直接的には前後の走行車輪8,9のうちの前輪8の空転を検知することができるが、前輪8が空転している際には、牽引力が足りず、後輪9も空転していることが推定される。
【0242】
また、本実施態様においては、ティーチングの際に、後輪9のスリップ率が高まった箇所の近傍においては、苗の植付け走行を行う際の走行車輪8,9の空転検知のサンプリングレートをより細かく設定するように構成されている。このように構成することによって、ステップsss2において走行車輪8,9の空転を早期に検知し、対応することができ、耕盤を荒らしてしまう事態を防止することができる。なお、ティーチングの際のみならず、オンラインストレージ上の過去の空転データを利用し、空転が発生した箇所の近傍を走行する際には、走行車輪8,9の空転検知のサンプリングレートを、通常の走行時よりも細かく設定するように構成してもよい。
【0243】
走行車輪8,9が空転しているか否かの判定の結果、走行車輪8,9が空転していない場合には、
図15に示されるように、苗移植機1が旋回しているか否かの判定に戻る。
【0244】
これに対して、判定の結果、走行車輪8,9が空転している場合には、コントローラ87は、デフロックモータ16(
図3参照)を駆動し、左右の前輪車軸17,18の差動回転を制限する(ステップsss3)。なお、本実施態様においては、上述のように、左右の前輪車軸17,18の差動回転は、断続的に制限され、その間隔は、2回前の旋回時(
図7における西側に隣接する1つ前の旋回時)に算出された後輪9のスリップ率に応じて決定される。
【0245】
次いで、コントローラ87は、走行車輪8,9の空転が解消されたか否かを判定する(ステップsss4)。
【0246】
本実施態様においては、コントローラ87は、左右の前輪車軸17、18の差動回転が制限されてから起算して、所定の時間が経過した場合には、走行車輪8,9の空転が解消されたと判定し、所定の時間が経過していない場合には、走行車輪8,9の空転が解消されていないと判定する。このように構成することによって、低速走行する場合に、オートデフの効果を抑えることができる。
【0247】
判定の結果、走行車輪8,9の空転が解消されていない場合には、所定の時間が経過するまでコントローラ87による判定が繰り返される。
【0248】
これに対して、走行車輪8,9の空転が解消されている場合には、コントローラ87は、デフロックモータ16を駆動し、左右の前輪17,18の差動回転を許容する(ステップsss5)。
【0249】
一方、本実施態様においては、第一の経路上を自動走行する際に、苗の植付け作業がまだ行われていない場所で、侵入者の接触を検知するため、苗移植機1のフロアステップ60前部の下方に、バンパーおよびバンパーに取り付けられた可動式の延長部(図示せず)が設けられている。延長部にはリミットセンサが取り付けられており、リミットセンサによって、接触を検知した場合には、コントローラ87は、HST出力を停止させるように構成されている。
【0250】
延長部は、使用されないときには、フロアステップ60前部の下方に収納可能に構成され、ティーチングが行われた後であって、第一の経路上の自動走行が開始される前に、作業者によって、苗移植機1の前方に引き出される。延長部がフロアステップ60前部の下方に収納されていることがリミットセンサによって検知されている場合には、コントローラ87は、自動走行を行わないように構成されている。
【0251】
このように構成することによって、苗移植機1が圃場200上を自動走行するときに、侵入者の接触を確実に検知し、HST出力を停止させることができる。
【0252】
また、本実施態様においては、機体と携帯端末100との間で定期的に通信を行い(ピンを飛ばす)、通信ができない場合には、コントローラ87は、自動走行する走行車両2を停車させるように構成されている。このように構成することによって、苗移植機1の監視者(作業者または管理者)がいないときに、制御不能となることを防止することができる。
【0253】
さらに、本実施態様においては、苗移植機1は、携帯端末100との間の通信距離を検知し、所定の速度以上の速度で携帯端末100が接近している場合(近付く距離の変化が一定以上の場合)には、HST出力を抑え、または停止するように構成されている。したがって、機体のエラーの状態や作業状況の確認のため、圃場200の作業者または管理者が、携帯端末100を所持した状態で苗移植機1に近寄った場合には、自動走行する苗移植機1の走行速度を抑え、または停止させることができる。
【0254】
さらに、苗移植機1と携帯端末100との間で、通信エラーが発生した場合には、携帯端末100は、ディスプレイにアラートを表示し、作業者または管理者に通知するように構成されている。
【0255】
また、苗移植機1は、機体に接近するスマートフォンその他の通信機器(携帯端末100とは別物)と通信を行うことによって、圃場200内での自動走行の経路上への侵入者を検知可能に構成されており、本実施態様においては、苗移植機1の前方のみを検知範囲(通信範囲)とすることによって、小規模の構成とすることができる。
【0256】
本実施態様においては、走行車輪8,9の空転を判定する前に、予め、苗移植機1が旋回しているか否かを判定し、苗移植機1が旋回している場合のみに、走行車輪8,9の空転を判定するように構成されているから、苗を植付けしている間に前輪8をデフロックすることを防止し、苗の植付けを伴う障害物の近傍などの小回り走行を阻害する事態を防ぐことができる。
【0257】
さらに、本実施態様においては、苗移植機1が旋回しているときのみに、走行車輪8,9の空転のセンシング(検知)を行うように構成されているから、システムのひっ迫を抑制し、コントローラ87の負荷を軽減することができる。
【0258】
本発明は、以上の実施態様に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0259】
例えば、
図1ないし
図15に示された各実施態様においては、作業車両の一例として、苗移植機が挙げられているが、本発明にかかる作業車両は、コンバインやトラクタなどで構成されてもよい。加えて、作業車両に取り付けられる作業機は、苗植付部63のみならず、耕うん機や整地機などとして構成することも可能である。
【0260】
また、
図1ないし
図15に示された各実施態様においては、前輪回転センサ21は、前輪車軸17,18の回転数を検出可能に構成されているが、前輪車軸17,18の回転数を検出するように構成してもよい。
【0261】
さらに、
図1ないし
図15に示された各実施態様においては、走行車輪8,9の空転が検知された場合に、前輪車軸17,18(および前輪8)の差動回転を制限するように構成されているが、左右の後輪車軸82の差動回転を制限するように構成してもよく、前輪車軸17,18と、後輪車軸82の両方の差動回転をそれぞれ制限するように構成してもよい。
【0262】
また、
図1ないし
図15に示された各実施態様においては、左右の前輪車軸17の回転数L,Rに基づき、走行車輪8,9の空転を検知するように構成されているが、走行車輪8,9の空転検知手段はとくに限定されない。例えば、GNSS受信機130によって取得される苗移植機1の実際の移動距離と、後輪回転センサ29の検出信号に基づき推定される移動距離をステアリングセンサ58の検出値に基づき補正した移動距離とを比較し、実際の移動距離が、推定される移動距離の所定の割合以下の場合には、コントローラ87は、走行車輪8,9が空転していると判定してもよい。また、前輪車軸17,18それぞれの回転数を微分していき、微分結果(変化量)が0になった時や、後輪回転数と同値になった時に、走行車輪8,9が空転していると判定してもよい。この場合には、前輪側の回転数検知を1か所で済ませることができるため、左右一方の前輪回転センサ21が故障した場合においても、他方の前輪回転センサ21のみで、前輪8(および延いては後輪9)の空転を検知することができる。さらに、前輪8の定時間内の回転数を微分していき、増加量がマイナスに転じたら、走行車輪8,9が空転に向かっているとして、左右の前輪車軸17,18をデフロックするように構成してもよい。このように構成することによって、空転直前に、精度よく検知することができる。また、左右の前輪車軸17,18のうちの一方の回転数と、左右の後輪9のうちの回転数の多い方の回転数とを比較しながら、その比が一定以上、または一定以下となった場合に、走行車輪8,9が空転していると判定してもよい。この場合には、前輪回転センサ21の取付けを、前輪車軸17,18の左右一方のみで済ませることができる。
【0263】
加えて、
図1ないし
図15に示された各実施態様においては、前輪8のデフロック、後輪クラッチの入状態への切り換え、ステアリングハンドル56の直進位置への操舵、苗植付部63の下降などの種々のトルク回復動作(走行車輪8,9による牽引力を回復させるための動作)が行われた後に、苗移植機1の位置情報の変化や、左右の前輪車軸17,18の回転量などによって、走行車輪8,9の空転の解消を検知するように構成されているが、走行車輪8,9の空転の解消を検知する手段は、これらに限定されるものではない。例えば、左右の前輪8のデフロック前と、デフロック後の両地点間の距離(実際の移動距離)が、走行車輪8,9の空転がない場合に想定される移動距離の所定割合以上(50%以上など)である場合には、空転状態が解消されたものとみなし、デフロックなどのトルク回復動作を終了するように構成してもよい。このように構成することによって、自動走行経路からのズレ量を最小限に留めることができる。また、前輪8のデフロックや後輪クラッチを入状態に切り換えるなどのトルク回復動作が行われた後に、走行車輪8,9の空転の解消を検知する手段は、コントローラ87によるものに限られず、コントローラ87によってトルク回復動作が停止された後に、トルク回復の効果を作業者に委ね、作業者による確実な判断と入力に基づき、次の制御に移行するように構成してもよい。この場合には、後輪クラッチ(サイドクラッチ)の連結時間(入状態の時間)を、作業者の入力によって行うように構成してもよく、トルク回復動作は、別途設けるリモコンからの操作によって実行または停止可能に構成してもよい。
【0264】
さらに、
図1ないし
図15に示された各実施態様においては、自動走行経路のデータが記憶部93に格納され、自動走行切換えスイッチ78がオンされた状態で、自動走行レバー79が上方に揺動操作されることによって、コントローラ87の制御に基づく自動走行が開始されるように構成されているが、作業者が苗移植機1の自動走行を開始する方法(自動走行の開始を機体に指示方法)は、とくにこれに限られない。
【0265】
また、
図1ないし
図15に示された各実施態様においては、GNSS受信機130によって取得される苗移植機1の位置情報(位置座標)の変化や、左右の前輪8の回転数を検出することによって、走行車輪8,9の空転を検知し、左右の前輪8のデフロック、後輪9のサイドクラッチの入状態への切り換え、ステアリングハンドル56の直進位置への操舵、植付部63の下降という種々のトルク回復動作を実行することによって、走行車輪8,9の空転を自動的に解消するように構成されているが、同様にして走行車輪8,9の空転を検知し、種々のトルク回復動作を行うことによって、苗移植機1の圃場200内での沈没も防止することができる。この場合には、通常、GNSS受信機130を利用するように構成し、電波が取得できないときには、ステアリングハンドル56の操舵角に変化がない場合であって、前輪8または後輪9の回転数が増加している場合に、苗移植機1が沈没していると判定し、種々のトルク回復動作を行うように構成してもよい。さらに、走行車輪8,9の空転検知の検知手段はとくに限定されるものではなく、たとえば、旋回走行時において、左右の後輪9がいずれも回転しているか否かを判定し、その結果、左右一方の後輪9が回転していない場合には、走行車輪8,9が空転しており、苗移植機1が沈没していることが推定されるため、上述の種々のトルク回復動作をすべて、あるいは選択的に行うように構成してもよい。さらに、苗移植機1の沈没を検知したときの圃場200内の場所に応じて、トルク回復動作の内容を自動的に選択するように構成してもよい。具体的には、直進走行している間に苗移植機1の沈没を検知した場合には、定パルス分にわたって左右の前輪8をデフロックするように構成することによって、進む方向のズレを抑制することができる。一方、旋回走行している間に苗移植機1の沈没を検知した場合には、旋回の前半においてポンピングクラッチのみを行い、旋回後半において左右の前輪8のデフロックを基準として、左右の前輪8のデフロックと、ポンピングクラッチとを協調的に作動させることによって、すべての走行車輪8,9に駆動力を伝達して機体の挙動を大きくし、沈没状態からの脱出を図るだけでなく、畔を超えて機体が進むことを防止し、苗移植機1の安全性を確保することができる。また、種々のトルク回復動作を強制的に行う脱出モードを実行可能に構成し、この脱出モードを実行する脱出モードボタンを別途操縦席48の近傍に設けてもよく、この場合には、脱出モードボタンが押圧操作されている間のみに、種々のトルク回復動作が実行されるように構成してもよい。さらに、脱出モードの動作内容を、前進する際の前進モードと、後進する際の後進モードとで互いに異なるように構成してもよく、具体的には、後進時に脱出モードボタンが押圧操作されている間は、苗植付部63を上昇させ(苗植付部63の保護のため)、前輪8をデフロック(左右の前輪車軸17,18の差動回転を制限)し、ステアリングハンドル56を直進位置に操舵し、左右の後輪9のサイドクラッチを両方、入状態(4輪駆動状態)にし、HST25から出力するように構成し、前進時に脱出モードボタンが押圧操作されている間は、苗植付部63を下降させ(浮力を得るのと、苗植付部を持ち上げ続けるための力を走行用に向けるため)、前輪8をデフロック(左右の前輪車軸17,18の差動回転を制限)し、ステアリングハンドル56を直進位置に操舵し、左右の後輪9のサイドクラッチを両方、入状態(4輪駆動状態)にし、HST25から出力するように構成してもよい。また、脱出モードボタンが押圧操作されている間に行われるトルク回復動作を、種々のトルク回復動作の中から任意に選択可能に構成してもよい。
【0266】
さらに、
図1ないし
図15に示された各実施態様においては、走行車輪8,9の空転が検出された場合には、左右の前輪8がデフロックされるように構成されているが、左右の前輪8がデフロックされている間に、GNSS受信機によって取得される苗移植機1の位置が、設定された作業領域を逸脱する場合には、静油圧式無段変速機25の出力を停止するように構成してもよい。このように構成することによって、機体を保護し、補植などの修正作業を不要とすることができる。
【0267】
また、
図1ないし
図15に示された各実施態様においては、走行車輪8,9の空転が検出された場合には、自動的に左右の前輪8がデフロックされるように構成されているが、さらに、操縦席48の近傍などに、コントローラ87によるデフロックを許可するか否かを切り換えるオート入切スイッチを設けてもよく、さらに、任意のときに操作されることによって、強制的に前輪車軸17,18の差動回転を制限または許容するデフ作動スイッチを設けてもよい。また、デフ作動スイッチを設けた場合には、デフロックの作動操作状態と、作動状態とを比べ、エラー箇所を特定し、モニタ61に表示させるように構成してもよい。具体的には、一対の前輪車軸17,18のデフロックが実際に作動または解除されていて、作動または解除操作がなされていない場合には、モニタ61に電装エラー表示を行うか、あるいは、デフロックモータ16からデフロックアーム19までの点検を促すような表示を行うように構成してもよい。このように構成することによって、問題が発生した場合に、電装系のトラブルであるのか、機械的なトラブルであるのかを把握し易くすることができ、安全性を高めることができる。また、デフロックモータ16の目標値が、解除状態と作動状態とに切り換えられたことをトリガーに、モニタ61上などでエラー報知を行うように構成してもよい。このように構成することによって、エラー報知のタイミングを特定し、始終エラー報知を行う必要をなくすことができる。さらに、デフロックの解除操作がされたにも拘わらず、実際にデフロックが実作動している場合や、デフロックの作動操作がされたにも拘わらず、実際にデフロックが作動していない場合には、規定量の駆動回転を待った後に、再び解除または作動するか否かを判定し、解除または作動されていない場合には、メカエラーを知らせる文言や、またはトランスミッション内の点検を行うように促す文言、または停車を促す文言などを、モニタ61上に表示するか、あるいは、別途設けるリモコン側に信号を送るように構成してもよい。このように構成することによって、重要度の高い走行系の機械的トラブルを作業者に通知することができる。また、リモコン側に信号を送る場合には、無人運転における遠隔操作状態においても、重要なエラーを作業者に通知することができる。なお、駆動回転の規定量については、解除する際の量を、作動する際の量よりも多く構成することによって、マニュアルによる操作感覚に合わせることができる。
【0268】
さらに、
図1ないし
図15に示された各実施態様においては、走行車輪8,9の空転が検出された場合には、自動的に左右の前輪8がデフロックされるなどのトルク回復動作が行われるように構成されているが、静油圧式無段変速機25から出力されている状態で、ステアリングハンドル56が規定値(180°など)に操舵された場合には、トルク回復動作を停止し、デフォルトの制御に戻すように構成してもよい。このように構成することによって、自動走行とマニュアル走行とが切り換えられた場合や、GNSS受信機による位置情報の取得ができない場合などにおいても、同様にして停止制御を行うことができる。
【0269】
また、
図1ないし
図15に示された各実施態様においては、左右の前輪8のデフロックは、走行車輪8,9の空転が解消されるまで継続されるように構成されているが、間欠的に左右の前輪8のデフロックを作動させることによって、特に旋回走行する際に、負荷を逃がすことができる。この場合には、間欠作動の直後に、走行車輪8,9の空転判別を行うように構成してもよい。
【0270】
さらに、
図1ないし
図12に示された実施態様においては、一対の前輪車軸17,18のデフロック(差動回転の制限)を機械的に検知するリミットスイッチ59によって、前輪8のデフロック状態をモニタ61上に表示するように構成されているが、左右の前輪車軸17,18の回転数に基づき、前輪8のデフロックを検知し、モニタ61上に表示するように構成することによって、タイムラグなくデフロックを検知することができ、また、リミットスイッチ59を省くことができる。
【0271】
加えて、
図1ないし
図12に示された実施態様においては、自動走行の開始操作が行われた際に、エンジン7の回転数が、第一の所定値未満の場合には、第一の所定値以上となるようにスロットルモータ97を駆動するように構成されているが、第一の所定値未満の場合に、エンジン7の回転数を第一の所定値とは異なる第二の所定値まで上昇させるように構成してもよい。
【0272】
さらに、
図1ないし
図12に示された実施態様においては、自動走行の開始操作が行われた際に、エンジン7の回転数が、第一の所定値未満の場合には、第一の所定値以上となるようにスロットルモータ97を駆動するように構成されているが、エンジン7の回転数が、第一の所定値未満の場合に静油圧式無段変速機25(HST)の出力の動作、または出力増大の動作を行い、それによって、エンジン7の回転数を、ステアリングハンドル56(操舵装置の一例)の操舵に先立って上昇させるように構成してもよい。このように構成することによっても、パワーステアリング108の油圧力不足を防止し、スムーズな自動操舵(ステアリングハンドル56の回転と、それに伴う操舵輪としての前輪8の操舵)が可能になる。なお、この場合には、静油圧式無段変速機25の出力によって、自動走行経路の再算出(補正)を行う必要がある可能性がある。
【0273】
また、
図1ないし
図12に示された実施態様においては、自動走行の開始操作が行われた際に、エンジン7の回転数が、第一の所定値未満の場合には、第一の所定値以上となるようにスロットルモータ97を駆動するように構成されているが、自動走行の開始操作が行われた際に、油圧ポンプの回転数が規定値に達していない場合に、ステアリングハンドル56の操舵に先立ち、エンジン7の回転数を上昇させるように構成してもよい。この場合にも、同様に、パワーステアリング18における油圧力を確保することができ、したがって、スムーズに自動操舵を開始することができる。
【0274】
さらに、
図1ないし
図12に示された実施態様においては、コントローラ87は、ステアリングモータ57の制御量が、制御目標値に徐々に近づくように、仮の目標値を設定し、制御信号を出力することを繰返すように構成されているが、仮の目標値と制御目標値との差が、所定値未満となった時点で、制御目標値そのものに対応する制御信号をステアリングモータ57に出力するように構成してもよい。
【0275】
また、
図1ないし
図12に示された実施態様においては、
図6(b)に示されるように、モータ側ギヤ109と、内歯車106とが、ハブダンパ110を介して噛み合うことによって、ステアリングモータ57の振動が、上部シャフト83を伝い、ステアリングハンドル56に伝達されないように構成されているが、たとえば、ハブダンパ110をモータ側ギヤ109の下部のみに取付け、その上部はハブダンパ110によって覆われていない状態とし、別途モータを設けて、内歯車106(または内歯車106および上部シャフト83)を上下に摺動可能とすることによって、内歯車106がハブダンパ110を介してモータ側ギヤ109と噛み合う状態(内歯車106が下方に位置する場合)と、内歯車106がハブダンパ110を介さずにモータ側ギヤ109と噛み合う状態(内歯車106が上方に位置する場合)との間で切換え可能としてもよい。このように構成することによって、苗移植機1が自動走行する間は、ハブダンパ110を介して振動が伝達されないようにし、苗移植機1がマニュアル走行する間は、ハブダンパ110を介さずに、ステアリングハンドル56からのトルクを、エンコーダを有するステアリングセンサ58に伝え易くすることができる。
【0276】
さらに、
図1ないし
図12に示された実施態様においては、ハブダンパ110を用いることによって、ステアリングハンドル56からピットマンアームまでが機械的に繋がれていながらも、ステアリングモータ57からステアリングハンドル56への振動の伝達の抑制が図られているが、ステアリングハンドル56からピットマンアームまでを機械的に繋ぐことは必ずしも必要でなく、ステアリングハンドル56および上部シャフト83とを、他の操舵機構66から物理的に切り離し、ステアリングハンドル56の回動操作力を操舵力として利用せず、その回動操作による入力トルクを、トルクセンサ111で電気的に検出し、その検出値に応じて、モータなどによって左右一対の前輪8の向きを変更可能に構成してもよい。このように構成することによっても、モータなどの振動がステアリングハンドル56に伝達されることを防止することができる。また、ハンドルレイアウトを制約なく行え、さらに、ハンドル位相がなくなることで、生産性を向上させることができる。また、この場合には、マニュアル走行から自動走行に切り換えられたときに、ステアリングハンドル56をデフォルト位置に、自動的にハンドル専用のモータで操舵するように構成することによって、ハンドル位相を考慮することができる。なお、ステアリングハンドル56の位置(操舵角)は、自動操舵量に合わせて、専用のモータで追従させるように構成してもよく、これによって、操舵輪としての前輪8の状態(向き)を、ステアリング
ハンドル56でモニタリングすることができる。
【0277】
また、
図1ないし
図12に示された実施態様においては、走行車輪8,9が空転している場合には、左右の前輪車軸17,18の差動回転を制限(デフロック)するように構成されているが、走行車輪8,9が空転しているときに、左右の後輪車軸82の差動回転をデフロックするように構成してもよく、前後両方の車軸17,18ならびに82について、それぞれ、左右の回転が同一となるように、いずれもデフロックするように構成してもよい。
【0278】
また、
図1ないし
図12に示された実施態様においては、コントローラ87は、まず、ステップs1で走行車輪8,9の空転を検知するように構成されている(
図9参照)が、ステップs1に入る前に、予め、苗移植機1が旋回しているか否かを判定し、旋回している場合のみに、ステップs1に進むように構成してもよい。
【0279】
また、
図1ないし
図13に示された各実施態様においては、左右の前輪8のうちの一方に偏重して駆動力が伝達され、他方が殆ど無回転となった場合に、
図9におけるステップs1および
図13おけるステップSS3に示されるように、前輪回転センサ21を用いて、一度のみ、それを検知し、左右の前輪8をデフロックするように構成されているが、左右の前輪車軸17,18の回転数の検出による空転検知の回数を、複数回として構成することによって、デフロックの誤作動を抑制するように構成してもよい。さらに、予め入力された圃場内の任意の場所で、左右の前輪車軸17,18の回転数の検出による走行車輪8,9の空転検知が行われるように構成してもよい。
【0280】
さらに、
図13に示された実施態様においては、HST出力がある場合で、苗移植機1の移動が認められない場合には、前輪8の空転の有無を判定し、判定の結果、前輪8が空転している場合には、左右の前輪8をデフロックし、前輪8が空転していない場合には、HST出力の判定(ステップss1)に戻るように構成されているが、前輪8が空転していない場合には、切られている後輪クラッチを繋ぐ(入状態に切り換える)ように構成してもよい。この場合においても、牽引力を増すことができる。また、走行車輪8,9の空転が検知された場合には、左右の前輪8のデフロック(左右の前輪車軸17,18のデフロック)と、後輪クラッチ(サイドクラッチ)の入状態への切換えとを、同時に行うように構成してもよく、交互に行うように構成し、スリップの原因箇所が4輪(走行車輪8,9)のうちのどこであるのかを探るように構成してもよい。
【0281】
図13に示された実施態様においては、静油圧式無段変速機25の出力がある場合で、苗移植機1の位置情報(位置座標)が変化していない場合のみに、前輪車軸17,18の回転数に基づき、走行車輪8,9の空転を検知するように構成されているが、静油圧式無段変速機25の出力がある場合で、苗移植機の位置情報に変化がない場合には、走行車輪8,9が空転していると判定し、前輪車軸17,18の回転数による空転の有無の判定を行わずに、前輪車軸17,18をデフロックするように構成してもよい。このように、左右の前輪車軸17,18の差動回転を制限するにあたって、静油圧式無段変速機25からの出力と、作業車両の位置変化なしという2点を要件とすることによっても、必要でないときに、誤って左右の車軸の差動回転を制限してしまう事態を防止することができる。
【0282】
また、
図13に示された実施態様においては、後輪クラッチの入状態への切換えは、左右の前輪8のデフロックによって空転が解消されなかった場合のみとするように構成されているが、走行車輪8,9の空転が発生した場合に、まず、後輪クラッチを入状態に切換え、それによって走行車輪8,9の空転が解消されなかった場合のみに、左右の前輪8をデフロックするように構成してもよい。このように、出来るだけディファレンシャル機構15による左右の前輪8の差動回転を許容するように構成することによって、目標に対して機首を向けやすくなり、空転解消後に、軌道を修正し易くすることができる。
【0283】
また、
図13に示された第二実施態様においては、特にステップss12に示されたトルク回復動作における静油圧式無段変速機25の出力量は、定パルス分(規定量、定量分)として構成されているが、静油圧式無段変速機25の出力量を可変値とし、取得された苗移植機1の位置情報と、畔際または苗の既植付領域までの距離とに基づき、出力量を決定するように構成してもよい。このように構成することによって、安全性を確保し、機体を保護することができる。
【0284】
さらに、
図13に示された実施態様においては、コントローラ87は、位置情報の変化の有無に基づき、苗移植機1が移動しているか否かの判定の結果、苗移植機1が移動している場合のみに、走行車輪8,9の空転の判定をするように構成されているが、苗移植機1が移動しているか否かの判定を行うことなく、前輪車軸17,18の回転数に基づき、走行車輪8,9の空転の有無の判定を行った結果(
図13のステップss3参照)、走行車輪8,9が空転している場合には、前輪車軸17,18をデフロックするように構成してもよい。このように構成することによって、左右の前輪車軸17,18の回転数(前輪8の回転)を検出し、その比を算出するだけで走行車輪8,9(特に前輪8)の空転を検知することができるから、作業車両(苗移植機)の構成を簡潔にすることができ、また、GNSSの電波が受信できない場合でも、走行車輪8,9の空転を検知することができる。さらに、この場合には、サンプリングレートを変化させ、センサ緩慢を調整することができるから、ダイヤルなどによる調整機構を容易に設けることができる。
【0285】
さらに、
図13に示された実施態様においては、左右の前輪8がデフロックされたにも拘わらず、走行車輪8,9の空転が解消されない場合であって、苗移植機1が旋回している場合のみに、切状態にある後輪9のサイドクラッチが入状態に切換えられるように構成されているが、電磁バルブ103を駆動し、後輪9のサイドクラッチを入状態に切換えるにあたって、苗移植機1が旋回していることを要件とすることは必ずしも必要でない。
【符号の説明】
【0286】
1 苗移植機
2 走行車体
3 メインフレーム
4 ベルト式動力伝達機構
5 昇降リンク装置
6 後部フレーム
7 エンジン
8 前輪
9 後輪
10 リンクベースフレーム
11 上下リンクアーム
12 昇降油圧シリンダ
13 前輪ファイナルケース
14 後輪伝動軸
15 ディファレンシャル機構
16 デフロックモータ
17 前輪車軸
18 前輪車軸
19 デフロックアーム
20 副変速機構
21 前輪回転センサ
22 入切ピン
23 デフクラッチ
24 副変速レバー
25 静油圧式無段変速機
26 施肥装置
27 施肥ホッパ
28 ロータカバー
29 後輪回転センサ
30 ミッションケース
31 中央整地ロータ
32 左右の整地ロータ
33 フロートセンサ
34 繰出装置
35 前後進レバー
36 前後進レバーセンサ
37 駆動軸
38 センターフロート
39 サイドフロート
40 施肥ホース
41 ロータ刃
42 植付深さフレーム
43 第一のアーム
44 第二のアーム
45 貫通孔
46 平行リンク
47 フロントカバー
48 操縦席
49 操縦部
50 プッシュスイッチ
51 後輪ギアケース
52 突出部
53 水抜き用切り欠き
54 操作部
55 主変速レバー
56 ステアリングハンドル
57 ステアリングモータ
58 ステアリングセンサ
59 リミットスイッチ
60 フロアステップ
61 モニタ
62 デフロックペダル
63 苗植付部
64 植付装置
65 台
66 操舵機構
67 駆動軸
68 伝動ケース
69 植付具
70 植付ケース
71 苗取出口
72 苗タンク
73 出力軸
74 予備苗載台
78 自動走行切換えスイッチ
79 自動走行レバー
80 方位センサ
81 自動走行レバーセンサ
82 後輪車軸
83 上部シャフト
84 下部シャフト
85 上部リンクアーム
86 下部リンクアーム
87 コントローラ
88 電子油圧バルブ
89 処理部
90 リンクセンサ
91 RAM
92 ROM
93 記憶部
95 植付伝動軸
96 エンジン回転センサ
97 スロットルモータ
99 通信部
100 携帯端末
101 通信部
103 電磁バルブ
105 タイマー
106 内歯車
107 ユニバーサルジョイント
108 パワーステアリング
109 モータ側ギヤ
110 ハブダンパ
111 トルクセンサ
112 ギヤボックス
120 トラニオン軸
121 トラニオンアーム
122 ポテンショメータ
123 ロッド
124 ギヤ
130 GNSS受信機
150 HSTサーボモータ
200 圃場
201 圃場の一辺
202 圃場の一辺
203 圃場の一辺
204 圃場の一辺
205 第一の植付開始位置
206 第二の植付開始位置
207 1列目の植付開始位置
208 矢印付きの破線(直進アシスト時の基準線)
210 中央領域
211 周縁領域
212 周縁領域
213 周縁領域
214 周縁領域
218 始点
219 終点