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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20230427BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20230427BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230427BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230427BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230427BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230427BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M10/052
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/48
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019549252
(86)(22)【出願日】2018-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2018038203
(87)【国際公開番号】W WO2019078130
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2017202610
(32)【優先日】2017-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】野上 玄器
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智裕
(72)【発明者】
【氏名】二反田(香取) 亜希
(72)【発明者】
【氏名】野口 敬太
(72)【発明者】
【氏名】山下 直人
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝志
(72)【発明者】
【氏名】柳田 昌宏
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-004910(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111495(WO,A1)
【文献】特開2011-065841(JP,A)
【文献】特開2009-081106(JP,A)
【文献】特開2015-002080(JP,A)
【文献】特開2016-018679(JP,A)
【文献】特開2017-4705(JP,A)
【文献】特開2017-135005(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0319240(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と負極層との間に固体電解質層を有する全固体電池の製造方法であって、
固体電解質である水素化ホウ素化合物が溶媒に溶解した固体電解質溶液を前記正極層および負極層の少なくとも一方に塗布又は含浸させる工程と、
前記塗布又は含浸させた固体電解質溶液から溶媒を除去して、前記正極層および負極層の少なくとも一方に固体電解質を析出させる工程と、を含み、
前記溶媒が、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロパンニトリル、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする全固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記固体電解質を析出させる工程が、前記正極層および負極層の少なくとも一方の表面上に固体電解質層を形成することを含む、請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項3】
前記固体電解質を析出させた正極層および負極層の少なくとも一方に、前記固体電解質溶液を更に塗工し、該固体電解質溶液から溶媒を除去して、前記正極層および負極層の少なくとも一方の表面上に固体電解質層を形成する工程を含む、請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項4】
支持体に前記固体電解質溶液を含浸させ、該固体電解質溶液から溶媒を除去して形成した固体電解質層を準備する工程を含む、請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項5】
前記正極層と前記負極層との間に前記固体電解質層を有するように、前記正極層と前記負極層とを張り合わせる工程を含む、請求項2から4のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。
【請求項6】
前記正極層と前記負極層とを張り合わせる工程のプレス圧が、0.001MPa~10MPaである、請求項5に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項7】
前記正極層と前記負極層とを張り合わせる工程のプレス圧が、0.001MPa~2MPaである、請求項5に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項8】
前記固体電解質層が形成された正極層および負極層の少なくとも一方を、プレスなしで形成する、請求項2または3に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項9】
前記水素化ホウ素化合物が、LiBH、LiBH-LiI系、3LiBH-LiI、LiBH-P系、9LiBH-P、LiBH-P系、9LiBH-P、85LiBH-15P、Li1212、Li1010、LiCB1112、およびLiCB10からなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項1から7のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。
【請求項10】
前記水素化ホウ素化合物がLiBHを含む、請求項8に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項11】
前記溶媒が、テトラヒドロフラン及びアセトニトリルからなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項1から10のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。
【請求項12】
前記正極層が正極活物質を含み、該正極活物質の電位が、リチウム基準で3.0V以下である、請求項1から11のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。
【請求項13】
前記正極層が、硫黄系正極活物質を含む、請求項1から12のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。
【請求項14】
前記負極層が、負極活物質としてケイ素、スズ、ケイ素を含む化合物、およびスズを含む化合物からなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項1から13のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。
【請求項15】
前記負極活物質としてSiOを含む、請求項14に記載の全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、更には定置型蓄電システムなどの用途において、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池は、電解液として可燃性の有機溶媒を使用しており、有機溶媒が漏れないように強固な外装を必要とする。また、携帯型のパソコン等においては、万が一電解液が漏れ出した時のリスクに備えた構造を取る必要があるなど、機器の構造に対する制約も出ている。
【0003】
更には、自動車や飛行機等の移動体にまでその用途が広がり、定置型のリチウムイオン二次電池においては大きな容量が求められている。このような状況の下、安全性が従来よりも重視される傾向にあり、有機溶媒等の有害な物質を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発に力が注がれている。
例えば、全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質として、酸化物、リン酸化合物、有機高分子、硫化物、錯体水素化物等を使用することが検討されている。
【0004】
全固体電池は大きくわけて薄膜型とバルク型に分類される。薄膜型については、気相成膜を利用することで界面接合が理想的に形成されるものの、電極層が数μmと薄く、電極面積も小さなものであり、1セルあたりの蓄えられるエネルギーが小さく、コストも高くなる。よって、多くのエネルギーを蓄える必要のある、大型蓄電装置や電気自動車向けの電池としては不適である。一方、バルク型の電極層の厚みは数十μm~100μmにすることができ、高いエネルギー密度を有する全固体電池が作製可能である。
【0005】
固体電解質の中で、硫化物固体電解質や錯体水素化物はイオン伝導度が高く、比較的やわらかいことから固体-固体間の界面を形成しやすい特徴がある。金属リチウムにも安定であり、実用的な固体電解質として開発が進んでいる。
【0006】
しかしながら、これらの固体電解質を用いた全固体電池の製造法は、高い圧力を必要とするプレスを伴った手法で作製されていることから、大きな電極を製造することに制限があり、界面接合の難しさが課題であった。また、硫化物固体電解質や錯体水素化物固体電解質は水分に不安定であるため、不活性ガス雰囲気もしくは超低露点のドライルーム等の特殊な環境を必要とすることから、小スペースで作製可能な装置で全固体電池が製造できることが求められている。
【0007】
この課題に対し、正極層と負極層の合わさる面に溶液化した固体電解質を塗布して張り合わせることにより、低いプレス圧で良好な界面が形成されることが開示されている(特許文献1)。しかし、正極層および負極層自体は高いプレス圧で成形する必要があるとともに、硫化物固体電解質をアルコール溶媒で溶かすと、徐々に硫化物固体電解質が分解し、硫化水素が発生するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-2080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の下、生産性に優れた全固体電池の製造方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を行ったところ、電解液が浸透可能なリチウムイオン電池用の電極層に溶液化した固体電解質溶液を含浸させた後、溶媒を除去して固体電解質を析出させることで、良好な全固体電池用の固体電解質が充填された電極層を形成することができるという知見を得た。更に、この固体電解質が充填された電極層に溶液化した固体電解質溶液を塗布・乾燥させることで固体電解質を形成し、得られた2枚の電極シートを張り合わせることで、高いプレス成型を不要とする、極めて生産性の高い全固体電池が製造できるという、予想外の知見を得た。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
<1> 正極層と負極層との間に固体電解質層を有する全固体電池の製造方法であって、
固体電解質である水素化ホウ素化合物が溶媒に溶解した固体電解質溶液を前記正極層および負極層の少なくとも一方に塗布又は含浸させる工程と、
前記塗布又は含浸させた固体電解質溶液から溶媒を除去して、前記正極層および負極層の少なくとも一方に固体電解質を析出させる工程と、を含むことを特徴とする全固体電池の製造方法である。
<2> 前記固体電解質を析出させる工程が、前記正極層および負極層の少なくとも一方の表面上に固体電解質層を形成することを含む、上記<1>に記載の全固体電池の製造方法である。
<3> 前記固体電解質を析出させた正極層および負極層の少なくとも一方に、前記固体電解質溶液を更に塗工し、該固体電解質溶液から溶媒を除去して、前記正極層および負極層の少なくとも一方の表面上に固体電解質層を形成する工程を含む、上記<1>に記載の全固体電池の製造方法である。
<4> 支持体に前記固体電解質溶液を含浸させ、該固体電解質溶液から溶媒を除去して形成した固体電解質層を準備する工程を含む、上記<1>に記載の全固体電池の製造方法である。
<5> 前記正極層と前記負極層との間に前記固体電解質層を有するように、前記正極層と前記負極層とを張り合わせる工程を含む、上記<2>から<4>のいずれかに記載の全固体電池の製造方法である。
<6> 前記正極層と前記負極層とを張り合わせる工程のプレス圧が、0.001MPa~10MPaである、上記<5>に記載の全固体電池の製造方法である。
<7> 前記固体電解質層が形成された正極層および負極層の少なくとも一方を、プレスなしで形成する、上記<2>または<3>に記載の全固体電池の製造方法である。
<8> 前記水素化ホウ素化合物が、LiBH、LiBH-LiI系、3LiBH-LiI、LiBH-P系、9LiBH-P、LiBH-P系、9LiBH-P、85LiBH-15P、Li1212、Li1010、LiCB1112、およびLiCB10からなる群より選択される少なくとも一つを含む、上記<1>から<7>のいずれかに記載の全固体電池の製造方法である。
<9> 前記水素化ホウ素化合物がLiBHを含む、上記<8>に記載の全固体電池の製造方法である。
<10> 前記溶媒が、HO、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒およびニトリル系溶媒からなる群より選択される少なくとも一つを含む、上記<1>から<9>のいずれかに記載の全固体電池の製造方法である。
<11> 前記溶媒が、テトラヒドロフラン及びアセトニトリルからなる群より選択される少なくとも一つを含む、上記<10>に記載の全固体電池の製造方法である。
<12> 前記正極層が正極活物質を含み、該正極活物質の電位が、リチウム基準で3.0V以下である、上記<1>から<11>のいずれかに記載の全固体電池の製造方法である。
<13> 前記正極層が、硫黄系正極活物質を含む、上記<1>から<12>のいずれかに記載の全固体電池の製造方法である。
<14> 前記負極層が、負極活物質としてケイ素、スズ、ケイ素を含む化合物、およびスズを含む化合物からなる群より選択される少なくとも一つを含む、上記<1>から<13>のいずれかに記載の全固体電池の製造方法である。
<15> 前記負極活物質としてSiOを含有する、上記<14>に記載の全固体電池の製造方法である。
<16> 正極層と負極層との間に固体電解質層を有する全固体電池の製造方法であって、
固体電解質である水素化ホウ素化合物を融解させた溶融塩を前記正極層および負極層の少なくとも一方に塗布又は含浸させる工程と、
前記溶融塩を冷却して、前記正極層および負極層の少なくとも一方に固体電解質を析出させる工程と、を含むことを特徴とする全固体電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、全固体電池の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、高いプレス圧を必要としないことから、生産性が高く、大量製造にも応用可能な全固体電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の全固体電池の層構成の一例を示す概略図である。
図2】実施例1で作製した全固体電池の充放電曲線を示す図である。
図3】実施例2で作製した全固体電池のサイクル特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の全固体電池の製造方法について具体的に説明する。なお、以下に説明する材料及び構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。なお、本明細書において、数値範囲を「~」を用いて示した時、その両端の数値を含む。
【0015】
<電極シート>
本発明の全固体電池の層構成の一例を図1を用いて説明する。
本発明で使用される電極シート10は、正極シートとも呼ばれ、集電体11上に正極層12を有している。その正極層12上には固体電解質層13が形成される。
本発明で使用される電極シート20は、負極シートとも呼ばれ、集電体21上に負極層22を有している。その負極層22上には固体電解質層23が形成される。
そして、正極層12と負極層22との間に固体電解質層13及び23を有するように、正極層12と負極層22とを張り合わせ、本発明の一実施形態である全固体電池を作製することができる。
なお、正極層と負極層を総称して電極層と呼ぶ。
本発明に用いる電極層としては、電解液を使用するリチウムイオン電池向けの電極層を使用することができる。上述した通り、一般的な電極シートの構成は、集電体上に電極層が形成されている。正極層は、通常、正極活物質と、バインダーと、導電助剤とによって形成され、負極層は、通常、負極活物質と、バインダーと、導電助剤とによって形成されている。これらの電極層は空隙を有しており、電解液を含浸させることが可能である。なお、正極層もしくは負極層のどちらか一方については、金属箔や合金箔を使用し、他方の電極に本発明で製造される電極シートを用いることも可能である。
集電体としては、正極層にはステンレス箔やアルミニウム箔が、負極層にはステンレス箔や銅箔が用いられることが一般的である。なお、集電体の表面がカーボンコートされたものを用いることもできる。
【0016】
正極層に含まれる正極活物質としては、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であれば特に制限なく使用することができる。例えば、遷移金属を有する金属酸化物、硫黄系正極活物質、有機系正極活物質、コンバージョン反応を利用したFeFやVFを挙げることができる。本発明では、正極活物質の電位がリチウム基準で3.0V以下であると、活物資と水素化ホウ素物系固体電解質界面における反応が抑制され、界面抵抗が少なくなる点で好ましい。より好ましくは、正極活物質の電位がリチウム基準で1.0~2.7Vである。
【0017】
遷移金属を有する金属酸化物としては、遷移金属であるMn、Co、Ni、Fe、Cr、Vのうちいずれか1つ以上とリチウムとを含む金属酸化物の粒子や薄膜を用いることができる。特に限定されないが、具体的には、LiCoO、LiCo4、LiMnO、LiMn、LiMnCoO4、LiMnCoO4、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.5Mn0.5、LiNiMn、LiVO、LiV、LiCrO、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、LiVOPO、LiNiO、LiNi4、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiFeSiO、LiMnSiO、LiFeBO等を挙げることができる。また、Fe、Cr、V、MnO等も用いることができる。その中でも、LiCoO、LiMnO、LiMn、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.5Mn0.5、LiNiMn、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、LiVOPO、LiNiOおよびLiNi1/3Co1/3Mn1/3が好ましい。
なお、これらの正極活物質は、固体電解質との反応を抑制することを目的として、正極活物質の粒子や薄膜に対して被覆層を設けることも可能である。被覆層の種類としては、LiNbO、LiTi12、LiTaO、LiNbO、LiAlO、LiZrO、LiWO、LiTiO、Li、LiPO、LiMoOおよびLiBOが挙げられる。
【0018】
硫黄系正極活物質としては、特に限定されないが、具体的には、S、硫黄-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS、NiS、NiS、CuS、FeS、LiS、MoS、硫黄変性ポリアクリトニトリル、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ジスルフィド化合物等を挙げることができる。その中でも、TiS、TiS、TiS、NiS、NiS、FeS、LiS、MoS、硫黄変性ポリアクリトニトリル、硫黄-カーボンコンポジット、及びルベアン酸(ジチオオキサミド)が好ましい。
【0019】
有機系正極活物質としては、特に限定されないが、具体的には、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノキシル-4-イルメタクリレートやポリテトラメチルピペリジノキシビニルエーテルに代表されるラジカル化合物、キノン化合物、ラジアレン化合物、テトラシアキノジメタン、フェナジンオキシド等を挙げることができる。その中でも、ラジカル化合物、及びキノン化合物は大きな理論容量を有し、放電容量を比較的良好に維持できることから好ましい。
【0020】
上記の正極活物質については、含浸させる固体電解質に合わせて、最適なものを選択すればよい。例えば、固体電解質に耐酸化性の低いLiBHを主成分として用いる場合には、平衡電位が低い(卑な)活物質である硫黄系正極活物質を用いることが好ましい。硫黄系正極活物質としては、例えば、WO2010-044437に記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、WO2015-030053、特開2015-92449およびWO2015-030053に代表される硫黄-カーボンコンポジットを使用することができる。耐電圧が高い高次のボラン化合物、例えばLi1212を固体電解質の主成分とした場合には上述の硫黄系正極活物質の他に、平衡電位が高い(貴な)活物質である、遷移金属を有する金属酸化物も用いることができる。平衡電位が高い正極活物質を使用した場合、1セルあたりの電池の電圧を高くすることができる。
【0021】
負極層に含まれる負極活物質としては、例えば金属活物質および炭素系活物質を使用することができる。上記金属活物質としては、例えば、LiTi12、Li、In、Al、Si、SiO、Snおよびこれら金属の合金等を挙げることができる。一方、上記炭素系活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。中でも、電池のエネルギー密度が向上して動作電圧が高まるため、負極としての平衡電位がより低くなる活物質を用いることが好ましい。そのような負極活物質としては、Li、炭素系活物質、SiおよびSiOが挙げられる。
【0022】
正極層に用いられるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリイミド系、アクリル系、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等を使用することができる。必要に応じて、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤も使用することができる。
負極層に用いられるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリイミド系、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリル系等が挙げられる。必要に応じて、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤も使用することができる。
【0023】
電極層に用いられる導電助剤としては、所望の導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料からなる導電助剤を挙げることができる。具体的には、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックおよびカーボンファイバー等を挙げることができる。
【0024】
電極シートの作製方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、正極活物質または負極活物質と、バインダーと導電助剤と有機溶媒とを混合して塗工液を作製する。この塗工液をドクターブレード法、スピンコート法あるいはスプレーコート法等で集電体上に塗工し、乾燥させることで集電体上に電極層が形成された電極シートを作製することができる。
【0025】
<リチウムドープ>
正極層および負極層のどちらにも活物質としてLiを含有していない場合、例えば、正極層に硫黄系正極活物質を、負極層にSiやSiOもしくは炭素系活物質を使用する場合は、どちらかの活物質にリチウムドープする必要がある。リチウムドープは、例えばWO2015-152214に記載されているように、電解液系の電池を組んで実施する。本発明のように電解液系の電極シートを用いて全固体電池を製造する場合には、既存の方法でリチウムドープをすることができる。全固体電池は正極層と固体電解質層と負極層との界面がしっかりと結合していることが必要であり、全固体電池の形態でリチウムドープを実施し、電池を解体して各電極シートを取り出すことは極めて困難である。以上のことから、正極層および負極層のどちらの活物質にもLiが含有されていない活物質の組み合わせで全固体電池を製造する場合においては、電解液系で使用できる電極シートを利用した製造方法に多分な利点がある。
リチウムドープの方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、対極に金属リチウム箔を用いた電池を作製して電気化学的な方法で実施してもよく、電極シートに直接、金属リチウム、アルキルリチウム、LiAlHやLiBH等の金属水素化物を接触させて反応させる化学的な方法で実施することもできる。化学的な方法でリチウムドープする場合には、電極シートに対して実施することもできるし、活物質に対して実施することもできる。これらの手法の中でも、電気化学的な手法は、流した電流量やリチウムドープした電極層の電位を図ることでリチウムドープの量が把握できることから、より優れている。
【0026】
<固体電解質溶液>
本発明で用いられる固体電解質溶液としては、固体電解質である水素化ホウ素化合物を溶媒に溶かしたものを使用することができる。
溶媒に溶かす固体電解質としては、水素化ホウ素化合物であれば特に制限なく使用することができるが、Liを含む水素化ホウ素化合物であることが好ましく、例えば、LiBH、LiBH-LiI系、3LiBH-LiI、LiBH-P系、9LiBH-P、LiBH-P系、9LiBH-P、85LiBH-15P、Li1212、Li1010、LiCB1112、LiCB10等を挙げることができる。なお、LiBH-LiI系とは、LiBHとLiIのモル比がLiBH/LiI=0.8~5の固溶体であり、LiBH-P系とは、LiBHとPの仕込みモル比がLiBH/P=5.6~49にて合成される結晶であり、LiBH-P系とは、LiBHとPの仕込みモル比がLiBH/P=4~99にて合成される結晶である。
【0027】
溶媒としては、固体電解質を溶かすことができるものであれば特に制限なく使用できるが、固体電解質と反応しないものが好ましい。LiBH系に対しては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、およびジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、プロパンニトリル、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒がより好ましく、これらを単独または組み合わせて使用してもよい。更に好ましくは、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、およびアセトニトリルであり、テトラヒドロフランおよびアセトニトリルが特に好ましい。
Li1212等の高次化した水素化ホウ素化合物については、HO、メタノールやエタノールやプロパノールやブタノール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、およびジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトニトリル、酢酸エチルや酢酸メチル等の酸エステル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミドやN,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、ケトン系溶媒等の様々なものを使用することができ、これらを単独または組み合わせて使用してもよい。この中でも、溶解度、粘度、蒸発速度、溶媒の安全性および副反応の少なさから、HO、アルコール系溶媒およびアセトニトリルが好ましい。
LiBHを含む場合はHOによって容易に分解することから、溶媒中の水分を十分に除去することがよく、水分濃度として好ましくは50ppm以下、より好ましくは15ppm以下である。一方、高次化した水素化ホウ素化合物は室温においてHO中でも安定であることから、溶媒中の水分は高めであっても使用することができる。
固体電解質溶液中の固体電解質の濃度は、後段の含浸時に最適な粘度となるように、固体電解質と溶媒の種類で最適な値は変わるものの、一般的には1~40wt%の範囲で実施することができる。この範囲よりも薄い濃度では、固体電解質の析出効率が悪くなる。より高い濃度においては、粘度が上昇することによって細孔の奥まで含浸されにくくなることが懸念される。固体電解質溶液中の固体電解質の濃度は、好ましくは3~25wt%である。
【0028】
<固体電解質溶融塩>
本発明では、上記固体電解質溶液の代わりに、低融点の水素化ホウ素化合物を融解させた溶融塩を用いることもできる。比較的低い融点を有する水素化ホウ素化合物としては、Liを含む水素化ホウ素化合物であることが好ましく、例えば、95~105℃に融点をもつLiBH-LiNHを挙げることができる。融点としては、80~250℃の範囲が好ましい。これよりも低い範囲では電池の温度が上昇することで固体電解質が融解し、短絡を生じさせる原因となる。また、これよりも高い温度の場合、高い温度の溶融塩が電極層の活物質、カーボン材料や集電体と反応する懸念が生じてくる。ただし、電極層に含浸させる際に、粘度が低い固体電解質溶液の方が電極層の細孔の奥まで入りやすいことから、濃度を変えることで容易に粘度を調整できる固体電解質溶液が好ましい。
【0029】
<固体電解質溶液または固体電解質溶融塩の含浸>
固体電解質溶液を電極シートに含浸させる方法としては、公知の電解液を電極シートに含浸させる方法を用いることができる。それらの中でも、電極層の細孔の奥まで含浸させるには、真空含浸させることが好ましい。また、加温すると溶液の粘度が下がることから、細孔の奥までより効率よく含浸させることができる。
固体電解質溶融塩を電極シートに含浸させる方法としては、固体電解質の融点以上に加熱した状態で含浸を行い、その温度範囲は80~300℃で実施することができる。これよりも高い温度で含浸させると、活物質と溶融塩が反応する懸念が生じてくる。また、電極層の細孔の奥まで含浸させるには、真空含浸させることが好ましい。
【0030】
<電極層空隙への固体電解質の析出>
電極層に固体電解質溶液を含浸させた後に、溶媒を除去して固体電解質を析出させ、電極層の空隙を固体電解質で密に埋めることを行う。低融点の固体電解質を融解させた固体電解質溶融塩を含浸させた場合には、融点以下の温度に下げることで固体電解質を析出させる。固体電解質を溶媒に溶かした固体電解質溶液を用いた場合には、溶媒を揮発させることで固体電解質を析出させる。溶媒の揮発を促進させるために、加温することが好ましい。加温する温度は溶媒の種類によって異なるが、50~200℃で実施することができる。この範囲よりも高い温度で溶媒を揮発させると、副反応が生じたり、溶媒が発泡したりすることで固体電解質が緻密に析出しないことが懸念される。また、不活性ガス気流下、あるいは、真空下で加温を行うことで、溶媒の揮発を促進させることができる。
乾燥して固体電解質が充填された電極シートは、圧延し、電極層をより緻密化することができる。圧延の方法としては特に限定されないが、リチウムイオン電池の電極シートを作製する際に使用されるロールプレス法を使用することが好ましい。ロールプレス法は連続生産性が高いものの、プレス圧は一軸加圧法や等方圧加圧法よりも低くなる。この場合のプレス圧は、0.1MPa~100MPaが好ましく、1MPa~80MPaがより好ましい。従来の全固体電池の成形は粉体そのものを変形させて緻密させるために非常に高いプレス圧が必要であったが、本発明においては、固体電解質溶液から固体電解質を析出させることで、電極層の空隙に緻密に固体電解質が形成されるため、例えば粒子を変形させるような300MPaといった高いプレス圧は不要である。本発明における乾燥後の圧延は、熱変化による膨張・収縮のため生じた小さなクラックや溶媒が揮発した際に生じる小さな空隙を埋めることを目的としており、ロールプレス法で十分な効果を得ることができる。
本発明は、特許文献1(特開2015-2080)とは異なり、細孔に固体電解質を充填させた正極層および負極層をプレスなしで形成することができるというメリットがある。
【0031】
<固体電解質層の形成>
固体電解質層は、細孔に固体電解質を充填させた電極層の表面に、<固体電解質溶液>に記載した固体電解質溶液を塗工した後、溶媒を除去して固体電解質を析出させることで形成することができる。あるいは、固体電解質層は、細孔に固体電解質を充填させた電極層の表面に、<固体電解質溶融塩>に記載した固体電解質溶融塩を塗工した後、溶融塩を冷却して固体電解質を析出させることで形成することができる。塗工は公知の方法で行うことができ、例えば、ドクターブレード法、スピンコート法やスプレーコート法等を挙げることができる。乾燥方法としては、<電極層空隙への固体電解質の析出>に記載したのと同様の方法で実施することができる。なお、<固体電解質溶液または固体電解質溶融塩の含浸>時に電極層の表面に固体電解質溶液または固体電解質溶融塩を塗布することにより、<電極層空隙への固体電解質の析出>と<固体電解質層の形成>を同時に行うこともできる。
正極シートに形成される固体電解質層の厚みは、薄すぎると短絡の懸念が生じるものの、厚くなりすぎると抵抗が増加してしまう点で、1~300μmであることが好ましく、5~100μmであることがより好ましい。
また、負極シートに形成される固体電解質の厚みは、薄すぎると短絡の懸念が生じるものの、厚くなりすぎると抵抗が増加してしまう点で、1~300μmであることが好ましく、5~100μmであることがより好ましい。
【0032】
また、固体電解質を単独で形成することも可能である。この場合、溶液を染み込ませることが可能な支持体に固体電解質溶液を含浸させ、溶媒を除去して固体電解質を析出させればよい。固体電解質層は、正極層と負極層とを隔てるセパレーターの役割も担うことから、支持体は絶縁性の高いことが要求され、特に限定されないが、電解液に使用されるセパレーターを用いることができる。例えば、ガラス繊維濾紙、ポリオレフィン系セパレーター、セルロース系セパレーター、不織布系セパレータ等を挙げることができ、その中でも、セパレーター中の空隙割合が多く、かつ、耐熱性が高いガラス繊維濾紙や不織布が好ましい。これは、空隙の部分へ固体電解質が形成されることから、イオン伝導体である固体電解質の割合が増えるためである。また、シャットダウン機能を有するポリオレフィン系については、<電極層空隙への固体電解質の析出>で加熱によってシャットダウン機能が働き、固体電解質が析出する空隙をより少なくしてしまう懸念が生じる。含浸方法および固体電解質の析出方法は、それぞれ<固体電解質溶液または固体電解質溶融塩の含浸>、<電極層空隙への固体電解質の析出>に記載したのと同様な方法で実施することができる。このようにして、固体電解質層シートを単独で作製することも可能である。上記固体電解質シートの厚みは、1~300μmが好ましく、5~100μmがより好ましい。
乾燥によって固体電解質を析出させた後、圧延によって固体電解質層を緻密化させる。圧延方法としては特に限定されないが、生産性に優れたロールプレス法が好ましい。固体電解質溶液から固体電解質を析出させた固体電解質層は比較的緻密であることから、また、水素化ホウ素化合物はやわらかいことから、低いプレス圧で圧延することでも十分に固体電解質層を緻密化することできる。この場合のプレス圧は、0.1MPa~100MPaが好ましく、1MPa~80MPaがより好ましい。
【0033】
<全固体電池の作製>
全固体電池の作製は、各シートを重ね合わせて圧延することで作製することができる。
本発明では、正極層と負極層との間に固体電解質層を有するように、正極層と負極層とを張り合わせる工程を含むことが好ましい。正極層と負極層とを張り合わせる際のプレス圧は、0.0001MPa~100MPaであることが好ましく、0.0005MPa~20MPaであることがより好ましく、0.001MPa~10MPaであることが特に好ましい。
各シートの組み合わせとしては、(1)正極シートに固体電解質層を形成したシート+負極シート、(2)負極シートに固体電解質層を形成したシート+正極シート、(3)正極シートに固体電解質層を形成したシート+負極シートに固体電解質層を形成したシート、(4)正極シート+固体電解質層シート+負極シート、のいずれにおいても実施することができる。水素化ホウ素化合物はバインダーとしての能力も有していることから、これらのシートを接着させる効果が高い。圧延方法については、例えば、ロールプレス法で実施することができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例により本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<硫黄系正極活物質の製造方法>
ハイシスブタジエンゴム(宇部興産製のUBEPOL(登録商標)BR150L、シス1,4-結合含量:98%)100重量部に、硫黄(鶴見化学工業製のコロイド硫黄)1000重量部、加硫促進剤(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛:大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)EZ)25重量部、アセチレンブラック(電気化学工業製デンカブラック)20重量部を配合し、混練試験装置を用いて混練した。これをアルゴン雰囲気下で昇温速度5℃/分にて450℃まで昇温し、その後450℃を2時間維持した後、自然冷却させた。この間、硫黄は還流状態となるようにし、発生するガスを除去するために、わずかにアルゴンを流通させた。この後、真空条件下にて250℃で3時間維持し、残った硫黄を除去し、硫黄系正極活物質を得た。
【0035】
<正極スラリーの製造方法>
上記で得た硫黄系正極活物質:アセチレンブラック:VGCF:アクリルバインダー=87:2:8:3の重量比となるように測りとり、適度に水を加えて混練機にて混練し、正極スラリーを得た。なお、VGCFは昭和電工(株)の登録商標であり、気相法炭素繊維(カーボンファイバー)である。
<負極スラリーの製造方法>
SiO:アセチレンブラック:ポリイミドバインダー=80:5:15の重量比となるように測りとり、適度にN-メチルピロリドンを加えて混練機にて混練し、負極スラリーを得た。
【0036】
<電極シートの作製>
上記で得られた正極スラリーを集電体(厚み15μmのカーボンコートアルミ箔)に、上記で得られた負極スラリーを集電体(厚み10μmのSUS箔)に、それぞれ卓上塗工機(テスター産業製、FILM COATER:PI1210)を用いて塗工し、熱風乾燥機にて80℃で10分間の条件で仮乾燥させた。仮乾燥させた各電極シートをガラスチューブ内に入れて真空引きを行い、ガラスチューブオーブンを用いて、正極シートは160℃にて12時間、負極シートは300℃にて12時間の条件で真空乾燥を行った。その後、正極シートを直径11mm、負極シートを直径12mmの円板状に打ち抜き、各電極シートとした。各電極シートの容量密度は、正極シートは1.0mAh/cm、負極シートは3.0mAh/cmであった。
【0037】
<負極シートへのリチウムドープ>
上記で作製した負極シートを試験極とし、対極に直径14mmの金属リチウム箔、セパレーターに直径16mmのガラスファイバーフィルター(アドバンテック製、GA―100、厚さ500μm)、電解液に1M LiPF エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(=1/1、vol/vol)を用いたCR2032型コインセルを作製した。なお、これらの作業はすべてドライルーム内(室内温度:20℃、室内露点:-65℃)で実施した。
次に、充放電試験装置を用いて負極シートへのリチウムドープを実施した。30℃、電流0.3mAで0.001Vになるまで放電(Li挿入)し、10分間の休止の後、電流0.3mAで1.0Vになるまで充電(Li脱離)を行った。その後、再び電流0.3mAで0.001Vになるまで放電(Li挿入)し、負極シートへのリチウムドープを行った。
【0038】
<固体電解質層の形成>
前記でリチウムドープしたCR2032型コインセルを解体し、負極シートを取り出し、ジメチルカーボネートを用いて電極シート表面を洗浄し、自然乾燥させた。各電極シートの電極層の表面に3LiBH-LiI/テトラヒドロフラン溶液(固形分:25重量%、以下「固体電解質溶液」とする)を塗布し、アクリル真空容器内に入れて真空引きを行い、1時間静置して電極層内に固体電解質溶液を含浸させた。その後、アクリル真空容器内より電極シートを取り出し、ホットプレート上にて60℃、2時間の条件で仮乾燥を行った。なお、これらの作業はすべてドライルーム内(室内温度:20℃、室内露点:-65℃)で実施した。
仮乾燥した各電極シートをガラスチューブ内に入れ、ガラスチューブオーブンを用いて80℃、15時間の条件で真空乾燥を行った。その後、ドライルーム内でガラスチューブから電極シートを取り出し、1軸加圧プレス機を用いて、2MPaの条件で冷間プレス加工を行い平滑にし、電極層内部および表面に固体電解質層が形成された各電極シートを得た。
下記表1に各電極シートに形成した固体電解質層の重量および厚みを示す。重量は電極シート内部および表面に形成された固体電解質の総重量、厚みは電極シート表面に形成された固体電解質層の厚みを示している。
【0039】
【表1】
【0040】
<全固体電池の作製>
上記で得た正極シート及び負極シートを組み合わせて、CR2032型コインセルを作製した。具体的には、正極シートと負極シートの電極層面が対向するように、硫黄系正極シートおよびSiO負極シートを積層した。この積層時には特別なプレスを実施することなく、コインセル内に設置された皿ばねの圧力のみで両電極シートを張り合わせることができた。
【0041】
<充放電試験>
得られた全固体電池を用いて、環境温度を90℃、充放電電流を0.1mA、作動電圧範囲を0.5~2.5Vとして定電流充放電試験を行った。初回の放電容量は、377mAh/g(正極シート重量当たりの容量に換算)、充電容量は173mAh/g(正極シート重量当たりの容量に換算)であった。図2に作製した全固体電池の充放電曲線を示す。この図から、作製した全固体電池は2サイクル目以降で安定して充放電が可能であることがわかる。
【0042】
(実施例2)
<正極スラリーの製造方法>
実施例1で得た硫黄系正極活物質:アセチレンブラック:アクリルバインダー=90:5:5の重量比となるように測りとり、適度に水を加えて混練機にて混練し、正極スラリーを得た。
<負極スラリーの製造方法>
SiO:アセチレンブラック:VGCF:ポリイミドバインダー=77:4:1:18の重量比となるように測りとり、適度にN-メチルピロリドンを加えて混練機にて混練し、負極スラリーを得た。なお、VGCFは昭和電工(株)の登録商標であり、気相法炭素繊維(カーボンファイバー)である。
【0043】
<電極シートの作製>
上記で得られた正極スラリーを集電体(厚み15μmのカーボンコートアルミ箔)に、上記で得られた負極スラリーを集電体(厚み10μmのSUS箔)に、それぞれ卓上塗工機(テスター産業製、FILM COATER:PI1210)を用いて塗工し、熱風乾燥機にて80℃で10分間の条件で仮乾燥させた。仮乾燥させた各電極シートをガラスチューブ内に入れて真空引きを行い、ガラスチューブオーブンを用いて、正極シートは150℃にて10時間、負極シートは300℃にて10時間の条件で真空乾燥を行った。その後、正極シートを直径11mm、負極シートを直径11mmの円板状に打ち抜き、各電極シートとした。各電極シートの容量密度は、正極シートは0.51mAh/cm、負極シートは1.0mAh/cmであった。
【0044】
<負極シートへのリチウムドープ>
上記で作製した負極シートを試験極とし、対極に直径14mmの金属リチウム箔、セパレーターに直径16mmのガラスファイバーフィルター(アドバンテック製、GA―100、厚さ500μm)、電解液に1M LiPF エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(=1/1、vol/vol)を用いたCR2032型コインセルを作製した。なお、これらの作業はすべてドライルーム内(室内温度:20℃、室内露点:-65℃)で実施した。
次に、充放電試験装置を用いて負極シートへのリチウムドープを実施した。30℃、電流0.3mAで0.001Vになるまで放電(Li挿入)し、10分間の休止の後、電流0.3mAで1.0Vになるまで充電(Li脱離)を行った。その後、再び電流0.3mAで0.001Vになるまで放電(Li挿入)し、負極シートへのリチウムドープを行った。
【0045】
<固体電解質層の形成>
前記でリチウムドープしたCR2032型コインセルを解体し、負極シートを取り出し、ジメチルカーボネートを用いて電極シート表面を洗浄し、自然乾燥させた。各電極シートの電極層の表面に3LiBH-LiI/テトラヒドロフラン溶液(固形分:25重量%、以下「固体電解質溶液」とする)を塗布し、アクリル真空容器内に入れて真空引きを行い、1時間静置して電極層内に固体電解質溶液を含浸させた。その後、アクリル真空容器内より電極シートを取り出し、ホットプレート上にて60℃、2時間の条件で仮乾燥を行った。なお、これらの作業はすべてドライルーム内(室内温度:20℃、室内露点:-65℃)で実施した。
仮乾燥した各電極シートをガラスチューブ内に入れ、ガラスチューブオーブンを用いて150℃、10時間の条件で真空乾燥を行った。その後、ドライルーム内でガラスチューブから電極シートを取り出し、1軸加圧プレス機を用いて、2MPaの条件で冷間プレス加工を行い平滑にし、電極層内部および表面に固体電解質層が形成された各電極シートを得た。
下記表2に各電極シートに形成した固体電解質層の重量および厚みを示す。重量は電極シート内部および表面に形成された固体電解質の総重量、厚みは電極シート表面に形成された固体電解質層の厚みを示している。
【0046】
【表2】
【0047】
<全固体電池の作製>
上記で得た正極シート及び負極シートを組み合わせて、CR2032型コインセルを作製した。具体的には、正極シートと負極シートの電極層面が対向するように、硫黄系正極シートおよびSiO負極シートを積層し、1軸加圧プレス機を用いて26MPaの条件で冷間プレス加工を行った。出来上がったシートをCR2032型コインセルに入れ、全固体電池を作製した。
【0048】
<充放電試験>
得られた全固体電池を用いて、環境温度を60℃および80℃で、充放電電流を0.1Cレート、作動電圧範囲を0.4~3.0Vとして定電流充放電試験を行った。図3に各サイクルに対する放電容量をプロットした、サイクル特性を示す。この図から、作製した全固体電池は、20サイクルの充放電試験の間、安定して充放電を行うことができていることがわかる。
【符号の説明】
【0049】
10 電極シート(正極シート)
11 集電体
12 正極層
13 固体電解質層
20 電極シート(負極シート)
21 集電体
22 負極層
23 固体電解質層
図1
図2
図3