(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】部分放電検出装置、部分放電検出方法、部分放電検出システム及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20230508BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R19/00 L
(21)【出願番号】P 2018210016
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伴野 幸造
(72)【発明者】
【氏名】高野 俊也
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇介
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-112452(JP,A)
【文献】特開2001-133506(JP,A)
【文献】特開平04-070573(JP,A)
【文献】特開2016-061733(JP,A)
【文献】特開2010-210411(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042675(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12-31/20
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器が収納された箱体内で発生した部分放電の信号を表す部分放電信号と前記箱体の近傍で発生したノイズの信号を表すノイズ信号とが混合された混合信号を取得する信号取得部と、
前記箱体の近傍において前記部分放電が生じる前に取得されたノイズの信号を表す過去ノイズ信号を記憶するノイズ信号記憶部と、
前記混合信号と前記過去ノイズ信号とに基づいて、前記混合信号から前記ノイズ信号を除去することで前記ノイズ信号が除去された復元信号を取得するノイズ除去部と、
を備え、
前記ノイズ除去部は、前記電気機器に印加される電圧の位相毎に、複数の前記混合信号及び複数の前記過去ノイズ信号を用いて、前記混合信号及び前記過去ノイズ信号の信号強度の統計情報を算出し、一の混合信号について、位相毎に、算出した前記統計情報を用いてノイズを除去した信号強度を求めることで、前記復元信号を生成する、
部分放電検出装置。
【請求項2】
前記復元信号に対して機械学習された識別モデルを適用することで部分放電の種類を識別する識別部をさらに備える、
請求項1に記載の部分放電検出装置。
【請求項3】
前記識別部の結果に応じて警報を発する警報部をさらに備える、
請求項2に記載の部分放電検出装置。
【請求項4】
電気機器が収納された箱体内で発生した部分放電の信号を表す部分放電信号と前記箱体の近傍で発生したノイズの信号を表すノイズ信号とが混合された混合信号を取得する信号取得部と、
前記箱体の近傍において前記部分放電が生じる前に取得されたノイズの信号を表す過去ノイズ信号を記憶するノイズ信号記憶部と、
前記混合信号の統計情報と、前記ノイズ信号の統計情報と、に基づいて、前記混合信号及び前記ノイズ信号の印加電圧の位相の一致点を推定する位相推定部
と、
前記混合信号と前記過去ノイズ信号と前記一致点とに基づいて、前記混合信号から前記ノイズ信号を除去することで前記ノイズ信号が除去された復元信号を取得するノイズ除去部と、
を備える、部分放電検出装置。
【請求項5】
前記ノイズ信号記憶部は、前記過去ノイズ信号を、前記過去ノイズ信号が取得された状態を表す状態情報と対応付けて記憶し、
前記混合信号が取得された状態に応じた前記過去ノイズ信号を選択するノイズ選択部をさらに備える、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の、部分放電検出装置。
【請求項6】
電気機器が収納された箱体内で発生した部分放電の信号を表す部分放電信号と前記箱体の近傍で発生したノイズの信号を表すノイズ信号とが混合された混合信号を取得する信号取得部と、
前記箱体の近傍において前記部分放電が生じる前のノイズの信号を表す過去ノイズ信号が取得されていない場合において、前記混合
信号から、印加電圧位相毎のノイズ信号の統計情報に基づいて、前記過去ノイズ信号の統計情報を推定するノイズ推定部
と、
前記混合信号と前記過去ノイズ信号の統計情報とに基づいて、前記混合信号から前記ノイズ信号を除去することで前記ノイズ信号が除去された復元信号を取得するノイズ除去部と、
を備える、部分放電検出装置。
【請求項7】
ノイズ信号の発生頻度と混合信号の発生頻度とのそれぞれの分布が混合された分布に対して、所定の手段を用いて前記それぞれの分布を推定する混合分布推定部をさらに備える、
請求項1から
6のいずれか一項に記載の部分放電検出装置。
【請求項8】
部分放電検出装置が、電気機器が収納された箱体内で発生した部分放電の信号を表す部分放電信号と前記箱体の近傍で発生したノイズの信号を表すノイズ信号とが混合された混合信号を取得する信号取得ステップと、
部分放電検出装置が、前記箱体の近傍において前記部分放電が生じる前に取得されたノイズの信号を表す過去ノイズ信号を記憶するノイズ信号記憶ステップと、
部分放電検出装置が、前記混合信号と前記過去ノイズ信号とに基づいて、前記混合信号から前記ノイズ信号を除去することで前記ノイズ信号が除去された復元信号を取得するノイズ除去ステップと、
を有
し、
前記ノイズ除去ステップにおいて、前記電気機器に印加される電圧の位相毎に、複数の前記混合信号及び複数の前記過去ノイズ信号を用いて、前記混合信号及び前記過去ノイズ信号の信号強度の統計情報を算出し、一の混合信号について、位相毎に、算出した前記統計情報を用いてノイズを除去した信号強度を求めることで、前記復元信号を生成する、
部分放電検出方法。
【請求項9】
電気機器が収納された箱体内で発生した部分放電の信号を表す部分放電信号と前記箱体の近傍で発生したノイズの信号を表すノイズ信号とが混合された混合信号を取得する信号取得ステップと、
前記箱体の近傍において前記部分放電が生じる前に取得されたノイズの信号を表す過去ノイズ信号を記憶するノイズ信号記憶ステップと、
前記混合信号の統計情報と、前記ノイズ信号の統計情報と、に基づいて、前記混合信号及び前記ノイズ信号の印加電圧の位相の一致点を推定する位相推定ステップと、
前記混合信号と前記過去ノイズ信号と前記一致点とに基づいて、前記混合信号から前記ノイズ信号を除去することで前記ノイズ信号が除去された復元信号を取得するノイズ除去ステップと、
を有する、部分放電検出方法。
【請求項10】
電気機器が収納された箱体内で発生した部分放電の信号を表す部分放電信号と前記箱体の近傍で発生したノイズの信号を表すノイズ信号とが混合された混合信号を取得する信号取得ステップと、
前記箱体の近傍において前記部分放電が生じる前のノイズの信号を表す過去ノイズ信号が取得されていない場合において、前記混合信号から、印加電圧位相毎のノイズ信号の統計情報に基づいて、前記過去ノイズ信号の統計情報を推定するノイズ推定ステップと、
前記混合信号と前記過去ノイズ信号の統計情報とに基づいて、前記混合信号から前記ノイズ信号を除去することで前記ノイズ信号が除去された復元信号を取得するノイズ除去ステップと、
を有する、部分放電検出方法。
【請求項11】
電気機器が収納された箱体内で発生した部分放電の信号を表す部分放電信号と前記箱体の近傍で発生したノイズの信号を表すノイズ信号とが混合された混合信号を取得する信号取得部と、
前記箱体の近傍において前記部分放電が生じる前に取得されたノイズの信号を表す過去ノイズ信号を記憶するノイズ信号記憶部と、
前記混合信号と前記過去ノイズ信号とに基づいて、前記混合信号から前記ノイズ信号を除去することで前記ノイズ信号が除去された復元信号を取得するノイズ除去部と、
を備え
、
前記ノイズ除去部は、前記電気機器に印加される電圧の位相毎に、複数の前記混合信号及び複数の前記過去ノイズ信号を用いて、前記混合信号及び前記過去ノイズ信号の信号強度の統計情報を算出し、一の混合信号について、位相毎に、算出した前記統計情報を用いてノイズを除去した信号強度を求めることで、前記復元信号を生成する、
部分放電検出システム。
【請求項12】
電気機器が収納された箱体内で発生した部分放電の信号を表す部分放電信号と前記箱体の近傍で発生したノイズの信号を表すノイズ信号とが混合された混合信号を取得する信号取得部と、
前記箱体の近傍において前記部分放電が生じる前に取得されたノイズの信号を表す過去ノイズ信号を記憶するノイズ信号記憶部と、
前記混合信号の統計情報と、前記ノイズ信号の統計情報と、に基づいて、前記混合信号及び前記ノイズ信号の印加電圧の位相の一致点を推定する位相推定部と、
前記混合信号と前記過去ノイズ信号と前記一致点とに基づいて、前記混合信号から前記ノイズ信号を除去することで前記ノイズ信号が除去された復元信号を取得するノイズ除去部と、
を備える、部分放電検出システム。
【請求項13】
電気機器が収納された箱体内で発生した部分放電の信号を表す部分放電信号と前記箱体の近傍で発生したノイズの信号を表すノイズ信号とが混合された混合信号を取得する信号取得部と、
前記箱体の近傍において前記部分放電が生じる前のノイズの信号を表す過去ノイズ信号が取得されていない場合において、前記混合信号から、印加電圧位相毎のノイズ信号の統計情報に基づいて、前記過去ノイズ信号の統計情報を推定するノイズ推定部と、
前記混合信号と前記過去ノイズ信号の統計情報とに基づいて、前記混合信号から前記ノイズ信号を除去することで前記ノイズ信号が除去された復元信号を取得するノイズ除去部と、
を備える、部分放電検出システム。
【請求項14】
請求項1から
7のいずれか一項に記載の部分放電検出装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、部分放電検出装置、部分放電検出方法、部分放電検出システム及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチギヤ等の電気機器から生じる部分放電は、印加される電圧の位相に応じて発生傾向が異なる。電気機器の点検者は、一定期間の計測データに対してφ‐Qプロットと呼ばれる散布図を作成することで、部分放電を特定する。φ‐Qプロットは、横軸に印過電圧位相φを持つ。φ‐Qプロットは、縦軸に放電強度Qを持つ。点検者は、φ‐Qプロットの分布から部分放電の発生源を特定する。しかし、点検者が電気機器が設置される場所で部分放電を計測した場合、部分放電信号にノイズが重畳する。このため、計測データからノイズを除去する技術が用いられる。しかしながら、これまでのノイズ除去技術では、本来の放電電荷量が得られない、印過電圧位相に応じて生じるノイズには対応できない、部分放電信号よりも大きなノイズは除去できない等、ノイズを十分に除去することができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、より高い精度でノイズを除去することができる部分放電検出装置、部分放電検出方法、部分放電検出システム及びコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の部分放電検出装置は、信号取得部と、ノイズ信号記憶部と、ノイズ除去部とを持つ。信号取得部は、電気機器が収納された箱体内で発生した部分放電の信号を表す部分放電信号と前記箱体の近傍で発生したノイズの信号を表すノイズ信号とが混合された混合信号を取得する。ノイズ信号記憶部は、前記箱体の近傍において前記部分放電が生じる前に取得されたノイズの信号を表す過去ノイズ信号を記憶する。ノイズ除去部は、前記混合信号と前記過去ノイズ信号とに基づいて、前記混合信号から前記ノイズ信号を除去することで前記ノイズ信号が除去された復元信号を取得する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態の部分放電検出装置100の機能構成を表す機能ブロック図。
【
図2】第1の実施形態の部分放電信号の波形の一具体例を表す図。
【
図3】第1の実施形態の測定された混合信号の波形の一具体例を示す図。
【
図4】第1の実施形態の過去ノイズ信号の波形の一具体例を示す図。
【
図5】第1の実施形態の復元信号の波形の一具体例を示す図。
【
図6】第1の実施形態の復元信号のφ―Qプロットの一具体例を示す図。
【
図7】第1の実施形態の復元信号の算出の処理の流れを示すフローチャート。
【
図8】第2の実施形態の部分放電検出装置100aの機能構成を表す機能ブロック図。
【
図9】第3の実施形態の部分放電検出装置100bの機能構成を表す機能ブロック図。
【
図10】第4の実施形態の部分放電検出装置100cの機能構成を表す機能ブロック図。
【
図11】第5の実施形態の部分放電検出装置100dの機能構成を表す機能ブロック図。
【
図12】第6の実施形態の部分放電検出装置100eの機能構成を表す機能ブロック図。
【
図13】第7の実施形態における2つの正規分布となる混合信号の一具体例を示す図。
【
図14】第7の実施形態の部分放電検出装置100fの機能構成を表す機能ブロック図。
【
図15】実施形態の部分放電検出装置100gの機能構成を表す機能ブロック図。
【
図16】実施形態の部分放電検出システム1の一具体例を示すシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の部分放電検出装置、部分放電検出方法、部分放電検出システム及びコンピュータプログラムを、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の部分放電検出装置100の機能構成を表す機能ブロック図である。部分放電検出装置100は、パーソナルコンピュータ、サーバ、タブレットコンピュータ又はスマートデバイス等の情報処理装置である。部分放電検出装置100は、電気機器が収容された箱体の近傍に設けられる。箱体は、例えばスイッチギヤである。電気機器は、遮断機、断路器、変流器又は変圧器等の機器(いずれも不図示)によって構成される。電気機器は、外部から電源ケーブルを介して、高電圧及び大電流を通電する。電気機器は、異常時には通電を遮断する機能を有する。なお、箱体の下部には、接地極が接続される。電気機器は、電力用変圧器、ガス絶縁開閉器、発電機、電動機又はリアクトル等のように、部分放電を発生する可能性がある機器であればどのような機器であってもよい。部分放電検出装置100は、部分放電測定部10と接続される。
【0009】
部分放電測定部10は、部分放電の放電信号を測定する。部分放電測定部10は、例えば、CT(Current Transformer)センサ、AE(Acoustic Emission)センサ、TEV(Transient Earth Voltage)センサ等のセンサである。部分放電測定部10は、用いられるセンサの種類に応じて設置手段が異なる。例えば、部分放電測定部10は、箱体に取り付けられてもよいし、導線にクランプされてもよい。部分放電測定部10は、電気機器が収納された箱体内の絶縁材料に発生する部分放電を検出する。部分放電測定部10は、電気機器に印加される電圧位相に応じて、検出された部分放電の信号とノイズの信号とが混合された混合信号として、部分放電の放電信号を測定する。混合信号は、部分放電信号の信号強度とノイズ信号の信号強度との和で表される。部分放電信号は絶縁材料から発生した部分放電を表す信号である。各信号は、検出された信号強度と時間の推移とによって表される。部分放電測定部10は、測定された混合信号を部分放電検出装置100に出力する。部分放電は、箱体内に設置された電気機器から発生する。部分放電測定部10は、部分放電の放電信号が測定できる機器であればどのような機器であってもよい。例えば、部分放電測定部10は、金属板等で構成されたアンテナであってもよい。
【0010】
部分放電検出装置100は、出力された混合信号からノイズを除去し、部分放電の診断を行う。部分放電検出装置100は、部分放電診断プログラムを実行することによって通信部101、入力部102、表示部103、記憶部104及び制御部105を備える装置として機能する。
【0011】
通信部101は、ネットワークインタフェースである。通信部101はネットワークを介して、外部の通信装置と通信する。通信部101は、例えば無線LAN(Local Area Network)、有線LAN、Bluetooth(登録商標)又はLTE(Long Term Evolution)(登録商標)等の通信方式で通信してもよい。
【0012】
入力部102は、タッチパネル、マウス及びキーボード等の入力装置を用いて構成される。入力部102は、入力装置を部分放電検出装置100に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、入力部102は、入力装置において入力された入力信号から入力データ(例えば、部分放電検出装置100に対する指示を示す指示情報)を生成し、部分放電検出装置100に入力する。
【0013】
表示部103は、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の出力装置である。表示部103は、出力装置を部分放電検出装置100に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部103は、映像データから映像信号を生成し自身に接続されている映像出力装置に映像信号を出力する。
【0014】
記憶部104は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。記憶部104は、混合信号と、混合信号に含まれるノイズを除去するために用いられるデータと、混合信号からノイズが除去された復元信号とを記憶する。記憶部104は、ノイズ信号記憶部106、混合信号記憶部107及び復元信号記憶部108を備える。
【0015】
ノイズ信号記憶部106は、過去ノイズ信号を記憶する。過去ノイズ信号は、箱体近傍で、電気機器から部分放電が生じる前に取得されたノイズの信号である。ノイズ信号記憶部106は、一定期間分のノイズ信号を記憶する。一定期間は、どのような期間であってもよいが、混合信号からノイズ信号を除去することができる程度の期間が望ましい。過去ノイズ信号は、例えば、過去ノイズ信号は、スイッチギヤ等の電力機器が設置されたタイミングにおける絶縁機器が劣化していない状態での信号が測定されてもよいし、電力機器に対する供給電力を遮断させた状態での信号が測定されても良い。過去ノイズ信号は、部分放電が発生していない状態で測定された信号であればどのようなタイミングで測定されてもよい。混合信号記憶部107は、混合信号を記憶する。混合信号は、部分放電測定部10から出力される。混合信号記憶部107は、一定期間分の混合信号を記憶する。一定期間は、どのような期間であってもよい。復元信号記憶部108は、復元信号を記憶する。復元信号は、混合信号からノイズ信号が除去された信号である。復元信号は、ノイズ除去部110によって算出される。
【0016】
制御部105は、部分放電検出装置100の各部の動作を制御する。制御部105は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びRAM(Random Access Memory)を備えた装置により実行される。制御部105は、部分放電検出プログラムを実行することによって、信号取得部109、ノイズ除去部110及び可視化部111として機能する。
【0017】
信号取得部109は、部分放電測定部10によって入力された混合信号を取得する。信号取得部109は、取得された混合信号を混合信号記憶部107に記録する。なお、部分放電検出装置100が部分放電測定部10を複数備える場合、信号取得部109は、混合信号と部分放電測定部10との識別情報とを対応付けて、混合信号記憶部107に記録してもよい。
【0018】
ノイズ除去部110は、混合信号記憶部107に記憶された混合信号からノイズを除去する。ノイズ除去部110は、混合信号からノイズが除去された信号である復元信号を算出する。ノイズ除去部110は、復元信号を復元信号記憶部108に記憶する。
【0019】
ノイズ除去部110がノイズを除去する手段について説明する。ノイズ除去部110は、電気機器に印加される電圧の位相毎に、混合信号及び過去ノイズ信号の統計情報を算出する。ノイズ除去部110は、算出された統計情報に基づいて、部分放電信号の統計情報を推定することで混合信号からノイズ信号が除去された復元信号を生成する。具体的には、ノイズ除去部110は、任意の1位相φにおけるノイズ信号をノイズ信号記憶部106から取得する。ノイズ除去部110は、任意の1位相φにおける混合信号を混合信号記憶部107から取得する。ノイズ除去部110は、ノイズ信号と混合信号とで同じ位相φに対する信号を取得する。ノイズ除去部110は、1位相φの信号が複数記憶されている場合、混合信号及びノイズ信号を複数取得する。ノイズ除去部110は、取得された混合信号及びノイズ信号の信号強度を正規分布で近似する。ノイズ除去部110は、正規分布で表された混合信号及びノイズ信号の信号強度の平均値と標準偏差とを算出する。混合信号の信号強度の平均値をμm、標準偏差をσmとする。ノイズ信号の信号強度の平均値をμn、標準偏差をσnとする。この場合、部分放電信号の平均値は数式(1)で表される。部分放電信号の標準偏差は数式(2)で表される。
【0020】
【0021】
【0022】
ノイズ除去部110は、算出された混合信号の平均値及び標準偏差の不偏推定量を算出する。混合信号の平均値の不偏推定量は数式(3)で表される。混合信号の標準偏差の不偏推定量は数式(4)で表される。smは、混合信号の信号強度を表す。Nmは混合信号記憶部107に記憶された1位相の信号の数を表す。
【0023】
【0024】
【0025】
ノイズ除去部110は、算出されたノイズ信号の平均値及び標準偏差の不偏推定量を算出する。ノイズ信号の平均値の不偏推定量は数式(5)で表される。混合信号の標準偏差の不偏推定量は数式(6)で表される。snは、ノイズ信号の信号強度を表す。Nnはノイズ信号記憶部106に記憶された1位相の信号の数を表す。
【0026】
【0027】
【0028】
ノイズ除去部110は、数式(7)に混合信号及びノイズ信号の平均値の不偏推定量を代入することで、部分放電信号の平均値の推定値を算出する。ノイズ除去部110は、数式(8)に混合信号及びノイズ信号の標準偏差の不偏推定量を代入することで、部分放電信号の標準偏差の推定値を算出する。
【0029】
【0030】
【0031】
ノイズ除去部110は、数式(9)に基づいて、平均値が^μs、不偏標準偏差が^σsとなるように、測定された混合信号から復元信号を算出する。復元信号は、混合信号からノイズが除去された信号である。数式(9)のmiはi番目の混合信号のデータある。^siは、i番目の部分放電の復元信号である。なお、“^μs”、“^σs”及び“^si”に記載された“^”は、推定値を表す記号である。“^”は、文字“μs”、“σs”及び“si”の上に記載される記号であるとして説明する。
【0032】
【0033】
ノイズ除去部110は、全ての位相で部分放電の復元信号を算出する。ノイズ除去部110は、算出された復元信号を復元信号記憶部108に記憶する。
【0034】
可視化部111は、表示部103に復元信号を表示させる。可視化部111は、時系列で復元信号を表示させてもよいし、φ―Qプロット等の公知の診断方法に基づく態様で復元信号を表示させてもよい。可視化部111は、復元信号とともに、ユーザに診断を促すようなテロップを表示させてもよい。ユーザは、部分放電検出装置を使用する者である。例えば、ユーザは、電気機器の点検を行う点検員であってもよい。
【0035】
図2は、第1の実施形態の部分放電信号の波形の一具体例を表す図である。
図2(a)は、スイッチギヤ等の電気機器に印加される電圧の波形である。
図2(a)の縦軸は振幅を表す。
図2(a)の横軸は位相を表す。
図2(b)は、部分放電信号の波形である。
図2(b)の縦軸は信号強度を表す。
図2(b)の横軸は位相を表す。部分放電測定部10は、
図2(a)及び
図2(b)に示されるような信号を測定することが望ましい。
【0036】
図3は、第1の実施形態の測定された混合信号の波形の一具体例を示す図である。
図3(a)は、スイッチギヤ等の電気機器に印加される電圧の波形である。
図3(a)の縦軸は振幅を表す。
図3(a)の横軸は位相を表す。
図3(b)は、部分放電測定部10によって測定された信号の波形である。
図3(b)の縦軸は信号強度を表す。
図3(b)の横軸は位相を表す。部分放電測定部10によって測定された信号には、部分放電信号にノイズ信号が重畳する。したがって、
図3(b)のような信号が測定される。すなわち、
図3(b)に示される信号は部分放電の信号とノイズ信号とが混合された混合信号である。
【0037】
図4は、第1の実施形態の過去ノイズ信号の波形の一具体例を示す図である。
図4(a)は、スイッチギヤ等の電気機器に印加される電圧の波形である。
図4(a)の縦軸は振幅を表す。
図4(a)の横軸は位相を表す。
図4(b)は、予め記憶された過去ノイズ信号の波形である。
図4(b)の縦軸は信号強度を表す。
図4(b)の横軸は位相を表す。
【0038】
図5は、第1の実施形態の復元信号の波形の一具体例を示す図である。
図5(a)は、スイッチギヤ等の電気機器に印加される電圧の波形である。
図5(a)の縦軸は振幅を表す。
図5(a)の横軸は位相を表す。
図5(b)は、ノイズ除去部110によって算出された復元信号の波形である。
図5(b)の縦軸は信号強度を表す。
図5(b)の横軸は位相を表す。ノイズ除去部110は、
図5のように混合信号からノイズ信号を除去して復元信号を算出する。したがって、ユーザは、発生している部分放電をより高い精度で診断することができる。なお、可視化部111は、復元信号を
図5の態様で表示部103に表示させてもよい。
【0039】
図6は、第1の実施形態の復元信号のφ―Qプロットの一具体例を示す図である。
図6は、復元信号をφ―Qプロットで表した図である。
図6の縦軸は、放電の発生頻度を表す。
図6の横軸は位相を表す。可視化部111は、復元信号を
図6の態様で表示部103に表示させてもよい。
【0040】
図7は、第1の実施形態の復元信号の算出の処理の流れを示すフローチャートである。ノイズ除去部110は、任意の1位相φにおける過去ノイズ信号をノイズ信号記憶部106から取得する。ノイズ除去部110は、任意の1位相φにおける混合信号を混合信号記憶部107から取得する(ステップS101)。なお、ノイズ除去部110は、過去ノイズ信号と混合信号とで同じ位相φに対する信号を取得する。ノイズ除去部110は、取得された混合信号及び過去ノイズ信号の信号強度を正規分布で近似し、正規分布で表された信号強度の平均値と標準偏差とを算出する(ステップS102)。ノイズ除去部110は、算出された混合信号の平均値及び標準偏差の不偏推定量を算出する。ノイズ除去部110は、算出された過去ノイズ信号の平均値及び標準偏差の不偏推定量を算出する(ステップS103)。
【0041】
ノイズ除去部110は、混合信号及び過去ノイズ信号の平均値の不偏推定量に基づいて、部分放電信号の平均値の推定値を算出する。ノイズ除去部110は、混合信号及び過去ノイズ信号の標準偏差の不偏推定量に基づいて、部分放電信号の標準偏差の推定値を算出する(ステップS104)。ノイズ除去部110は、測定された混合信号のデータについて、復元信号を算出する(ステップS105)。ノイズ除去部110は、全ての位相で部分放電の復元信号を算出したか否か判定する(ステップS106)。すべての位相で部分放電の復元信号を算出した場合(ステップS106:YES)、ノイズ除去部110は、処理を終了する。すべての位相で部分放電の復元信号を算出していない場合(ステップS106:NO)、ノイズ除去部110は、ステップS101に遷移し、まだ取得されていない1位相でノイズ波形及び混合波形を取得する。
【0042】
このように構成された、部分放電検出装置100では、ノイズ除去部110が部分放電信号とノイズ信号とが合成された混合信号から、ノイズ信号を除去することで部分放電を表す復元信号を取得する。ノイズ除去部110は、ノイズ信号を除去するために、予め箱体近傍で取得された過去のノイズ信号を用いる。ノイズ除去部110は、混合信号の統計情報から、過去のノイズ信号の統計情報に対して、所定の処理を実行することで、復元信号を取得する。したがって、印加電圧の位相に依存して発生するノイズであっても除去することができる。また、部分放電信号の信号強度と比べて大きなノイズ信号の信号強度であっても除去することができるようになる。したがって、より高い精度で部分放電を診断することが可能になる。
【0043】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態における部分放電検出装置100aについて説明する。
図8は、第2の実施形態の部分放電検出装置100aの機能構成を表す機能ブロック図である。第2の実施形態における部分放電検出装置100aは、制御部105の代わりに制御部105aを備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。制御部105aは、部分放電検出装置100aの各部の動作を制御する。制御部105aは、識別部112をさらに備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。
【0044】
識別部112は、復元信号に対して、識別モデルを適用することで部分放電の種類を識別する。部分放電の種類は、例えば、コロナ放電、沿面放電又はボイド放電等の部分放電である。識別モデルは、部分放電信号と部分放電の種類とを対応付けた教師データを機械学習することで予め生成される。機械学習は、例えばニューラルネットワークが用いられてもよいし、どのようなアルゴリズムが用いられてもよい。部分放電検出装置100aは、識別部112を備えることによって、ユーザの熟練度に影響されることなく、より高い精度で部分放電を診断することができる。
【0045】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態における部分放電検出装置100bについて説明する。
図9は、第3の実施形態の部分放電検出装置100bの機能構成を表す機能ブロック図である。第3の実施形態における部分放電検出装置100bは、制御部105の代わりに制御部105bを備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。制御部105bは、部分放電検出装置100bの各部の動作を制御する。制御部105bは、識別部112及び警報部113をさらに備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。
【0046】
警報部113は、識別部112の識別結果に応じて、警報を発報する。警報部113は、例えば、識別部112によって復元信号に含まれる部分放電信号の種類が識別された場合、部分放電検出装置100bから警告音を発してもよい。警報部113は、例えば、識別部112によって復元信号に含まれる部分放電信号の種類が識別された場合、通信部101を介して外部の通信装置に警報を発してもよい。警報は、例えば、スピーカーから音声を発することであってもよいし、表示部103等の表示装置に文言を表示させることであってもよい。このような警報部113を備えることにより、部分放電が生じた電気機器の状態をリアルタイムに通知することができる。
【0047】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態における部分放電検出装置100cについて説明する。
図10は、第4の実施形態の部分放電検出装置100cの機能構成を表す機能ブロック図である。第4の実施形態における部分放電検出装置100cは、制御部105の代わりに制御部105cを備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。制御部105cは、部分放電検出装置100cの各部の動作を制御する。制御部105cは、識別部112、警報部113及び位相推定部114をさらに備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。
【0048】
位相推定部114は、印加電圧の位相が計測されていない場合に、混合信号の統計情報と、ノイズ信号の統計情報と、に基づいて、混合信号及びノイズ信号の印加電圧の位相の一致点を推定する。具体的には、位相推定部114は、定められた角度ずつ混合信号の位相をずらしながら、ノイズ信号と混合信号の平均値の差の2乗和を算出する。位相推定部114は、算出された2乗和が最小となる位相位置を算出する。すなわち、位相推定部114は、数式(10)で表される位相φを算出する。数式(10)におけるμniは、位相iにおけるノイズ信号の平均値である。数式(10)におけるμm(i+φ)は、位相i+φにおける混合信号の平均値である。
【0049】
【0050】
このように構成された部分放電検出装置100cでは、印加電圧の位相が測定されない場合でも、混合信号とノイズ信号の位相を合わせることが可能となる。したがって、部分放電検出装置100cは、より高い精度で復元信号を算出できる。
【0051】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態における部分放電検出装置100dについて説明する。
図11は、第5の実施形態の部分放電検出装置100dの機能構成を表す機能ブロック図である。第5の実施形態における部分放電検出装置100dは、記憶部104の代わりに記憶部104dを備え、制御部105の代わりに制御部105dを備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0052】
記憶部104dは、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。記憶部104dは、混合信号と、混合信号に含まれるノイズを除去するために用いられる過去ノイズ信号と、混合信号からノイズが除去された復元信号とを記憶する。記憶部104は、ノイズ信号記憶部106の代わりにノイズ信号記憶部106dを備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。制御部105dは、部分放電検出装置100dの各部の動作を制御する。制御部105cは、識別部112、警報部113及びノイズ選択部115をさらに備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。
【0053】
ノイズ信号記憶部106dは、過去ノイズ信号と状態情報とを対応付けて予め記憶する。ノイズ信号は、測定される場所の状態によって変化する場合がある。状態情報は、時間帯、平日、休日、季節又は天候等のように、ノイズ信号が取得されたタイミングの状態を表す情報である。状態情報は、スイッチギヤ等の電気機器に対する負荷電流が用いられてもよい。ノイズ信号記憶部106dは、複数の状態におけるノイズ信号を予め記憶する。
【0054】
ノイズ選択部115は、部分放電を診断する場合に、混合信号が取得された状態に応じた過去ノイズ信号を選択する。ノイズ選択部115は、例えば、混合信号が取得された状態と一致するノイズを選択してもよい。ノイズ選択部115は、状態情報の代わりに、ノイズ信号と混合信号の位相毎の平均値の差の2乗が最小となるノイズ信号を選択してもよい。この場合、ノイズ選択部115は、位相推定部114を併用して位相を取得してもよい。このように構成された部分放電検出装置100dは、混合信号が取得された状態に応じてノイズ信号が変化する場合でも、最適なノイズ信号を選択することができる。したがって、部分放電検出装置100は、より高い精度で復元信号を算出できる。
【0055】
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態における部分放電検出装置100eについて説明する。
図12は、第6の実施形態の部分放電検出装置100eの機能構成を表す機能ブロック図である。第6の実施形態における部分放電検出装置100eは、制御部105の代わりに制御部105eを備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。制御部105eは、部分放電検出装置100eの各部の動作を制御する。制御部105eは、識別部112、警報部113及びノイズ推定部116をさらに備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。
【0056】
ノイズ推定部116は、位相毎のノイズ信号の平均値及び標準偏差を推定する。ノイズ推定部116は、位相毎の混合信号の平均値及び標準偏差を算出し、全位相のそれぞれの平均値及び標準偏差を過去ノイズ信号の位相毎の平均値及び標準偏差としてもよい。この場合、ノイズ推定部116は、過去ノイズ信号については電気機器に印加される電圧位相には依存しないと仮定して算出する。また、ノイズ推定部116は、位相毎の混合信号の平均値及び標準偏差を算出し、それぞれの一定位相範囲の移動平均値を位相毎の過去ノイズ信号の平均値及び標準偏差としてもよい。この場合、ノイズ推定部116は、過去ノイズ信号については電気機器に印加される電圧位相には依存してなだらかに変化すると仮定して算出する。このように構成することで、部分放電検出装置100eは、過去ノイズ信号を取得していない場合でも、ノイズ信号を推定することで、より高い精度で復元信号を算出できる。
【0057】
(第7の実施形態)
次に、第7の実施形態における部分放電検出装置100fについて説明する。第1から第6の実施形態においては、各位相の部分放電信号及びノイズ信号はそれぞれ一つの正規分布に従うと仮定して説明した。しかし、部分放電信号は、特定位相において発生する場合に限定されない。例えば、1つの位相において、部分放電信号が発生するタイミングと発生しないタイミングとが混在する場合がある。このような場合、部分放電信号の頻度は2つの正規分布によって表される。したがって、ノイズ信号の頻度が1つの正規分布に従う場合、混合信号の頻度は、2つの正規分布で表される。混合信号は、部分放電信号とノイズ信号との2つの和で表されるためである。
【0058】
図13は、第7の実施形態における2つの正規分布となる混合信号の一具体例を示す図である。
図13(a)は、特定の位相で必ず部分放電が発生する場合の正規分布である。
図13(a)の正規分布は、ノイズ信号の発生頻度の正規分布と部分放電の発生頻度の放電信号の正規分布との組み合わせの和で表される。
図13(b)の正規分布は、ノイズ信号の発生頻度の正規分布と部分放電の発生頻度の放電信号の正規分布との組み合わせで表される。ノイズ信号の放電電荷量は、平均すると0になる。このため、ノイズ信号の放電電荷量は、Q=0の場所に正規分布が生じる。部分放電の放電電荷量は、0より大きい値になる。このため、部分放電の放電信号の放電電荷量は、Q>0の場所に正規分布が生じる。ノイズ除去部110は、それぞれの信号に対して第1の実施形態と同様にノイズ信号の影響を除去することで、部分放電信号の復元信号を算出できる。
【0059】
図14は、第7の実施形態の部分放電検出装置100fの機能構成を表す機能ブロック図である。第7の実施形態における部分放電検出装置100fは、制御部105の代わりに制御部105fを備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。制御部105fは、部分放電検出装置100fの各部の動作を制御する。制御部105fは、識別部112、警報部113及び混合分布推定部117をさらに備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。
【0060】
混合分布推定部117は、混合される複数の正規分布を推定する。混合分布推定部117は、正規混合分布等の公知のアルゴリズムを用いて正規分布を分離することで推定してもよい。また、ノイズ信号が2つの正規分布に従う場合、部分放電信号及びノイズ信号はそれぞれの2つの正規分布の組み合わせとなる。したがって、混合分布推定部117は、4つの混合信号の正規分布を得る。ノイズ除去部110は、各正規分布の組み合わせについて、ノイズ信号を除去することで部分放電信号の復元信号を算出する。このように構成された部分放電検出装置100fは、部分放電信号及びノイズ信号が複数の正規分布で近似できる場合でも、より高い精度で復元信号を算出できる。
【0061】
図15は、実施形態の部分放電検出装置100gの機能構成を表す機能ブロック図である。
図15の部分放電検出装置100gのように、各部分放電検出装置100~100fのそれぞれの制御部が備えるノイズ除去部110、可視化部111、識別部112、警報部113、位相推定部114、ノイズ選択部115、ノイズ推定部116及び混合分布推定部117を1台の部分放電検出装置に備えられてもよい。
【0062】
部分放電検出装置は、ネットワークを介して通信可能に接続された複数台の情報処理装置を用いて実装されてもよい。この場合、部分放電検出装置が備える各機能部は、複数の情報処理装置に分散して実装されてもよい。例えば、ノイズ除去部と可視化部とはそれぞれ異なる情報処理装置に実装されてもよい。
【0063】
図16は、実施形態の部分放電検出システム1の一具体例を示すシステム構成図である。部分放電検出システム1は、ネットワーク300に設けられる。部分放電検出システム1は、ネットワーク300を介して互いに通信可能に接続される部分放電検出装置100h及び放電信号取得装置200を備える。ネットワーク300は、どのようなネットワークで構築されてもよい。例えば、ネットワーク300は、インターネットで構成されてもよい。
【0064】
放電信号取得装置200は、パーソナルコンピュータ、サーバ、タブレットコンピュータ又はスマートデバイス等の情報処理装置である。放電信号取得装置200は、電気機器が収容された箱体の近傍に設けられる。放電信号取得装置200は、部分放電測定部10と接続される。放電信号取得装置200は、出力された混合信号を部分放電検出装置100hに送信する。放電信号取得装置200は、放電信号取得プログラムを実行することによって通信部201及び及び制御部202を備える装置として機能する。
【0065】
制御部202は、放電信号取得装置200の各部の動作を制御する。制御部202は、例えばCPU等のプロセッサ及びRAMを備えた装置により実行される。制御部202は、放電信号取得プログラムを実行することによって、信号取得部203として機能する。
【0066】
信号取得部203は、部分放電測定部10によって入力された混合信号を取得する。信号取得部203は、取得された混合信号を部分放電検出装置100hに送信する。なお、放電信号取得装置200が部分放電測定部10を複数備える場合、信号取得部203は、混合信号と部分放電測定部10との識別情報とを対応付けて、部分放電検出装置100hに送信してもよい。
【0067】
部分放電検出装置100hは、部分放電測定部10に接続されていない点と制御部105の代わりに制御部105hを備える点とで第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。制御部105hは、部分放電検出装置100hの各部の動作を制御する。制御部105hは、信号取得部109を備えない点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。
【0068】
このように構成された部分放電検出システム1では、ネットワーク300を経由して複数地点に設けられた箱体から混合信号を取得することができる。したがって、点検者は箱体毎に部分放電検出装置を設けなくてもよくなるため、より簡単に部分放電の検出を行うことが可能になる。
【0069】
上記各実施形態では、ノイズ除去部110、可視化部111、識別部112、警報部113、位相推定部114、ノイズ選択部115、ノイズ推定部116及び混合分布推定部117はソフトウェア機能部であるものとしたが、LSI等のハードウェア機能部であってもよい。
【0070】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、ノイズ除去部110を持つことにより、より高い精度でノイズを除去することができる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
1…部分放電検出システム、10…部分放電測定部、100…部分放電検出装置、101…通信部、102…入力部、103…表示部、104…記憶部、105…制御部、106…ノイズ信号記憶部、107…混合信号記憶部、108…復元信号記憶部、109…信号取得部、110…ノイズ除去部、111…可視化部、112…識別部、113…警報部、114…位相推定部、115…ノイズ選択部、116…ノイズ推定部、117…混合分布推定部、200…放電信号取得装置、201…通信部、202…制御部、203…信号取得部、300…ネットワーク