(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】センサー
(51)【国際特許分類】
G01N 19/00 20060101AFI20230508BHJP
G01N 27/12 20060101ALN20230508BHJP
G01N 5/02 20060101ALN20230508BHJP
【FI】
G01N19/00 H
G01N27/12 C
G01N5/02 A
(21)【出願番号】P 2019221949
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山川 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】辻本 浩行
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-071906(JP,A)
【文献】特開2000-131122(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121155(WO,A1)
【文献】特開2001-013055(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101603956(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/00
G01N 27/00
G01N 27/12
G01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機無機ハイブリッドを含む受容体層を有するセンサーであって、
前記受容体層は式RSiO
3/2(前記式中Rは有機官能基を表す)で表される単位を含む構造を有し、
前記有機無機ハイブリッドは重量平均分子量が800~10000である第一成分と、重量平均分子量が30000~2000000である第二成分とを含み、
GPCで測定した前記第二成分のピーク面積が、前記第一成分及び前記第二成分の合計のピーク面積に対して0.01%~55%である、センサー。
【請求項2】
前記第二成分はフィラーである、請求項1に記載のセンサー。
【請求項3】
前記フィラーは金属酸化物を含む、請求項2に記載のセンサー。
【請求項4】
前記フィラーはシリカを含む、請求項2又は請求項3のいずれか一項に記載のセンサー。
【請求項5】
前記フィラーの形状は球状もしくは鎖状である、請求項2から4のいずれか一項に記載のセンサー。
【請求項6】
前記有機官能基は少なくとも1種類以上の芳香環構造を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のセンサー。
【請求項7】
前記有機官能基の前記芳香環構造はSi原子に直接結合している、請求項6に記載のセンサー。
【請求項8】
前記有機官能基は芳香環構造と非芳香環構造との共重合構造である、請求項6又は請求項7に記載のセンサー。
【請求項9】
前記非芳香環構造は窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子、ホウ素原子、及びリン原子からなる群より選択される1種を含む請求項8に記載のセンサー。
【請求項10】
前記有機無機ハイブリッド中、有機成分の含有量が75重量%以下である請求項1から9のいずれか一項に記載のセンサー。
【請求項11】
受容体層の最大厚みが30μm以下である、請求項1から10のいずれか一項に記載のセンサー。
【請求項12】
前記センサーは表面応力型センサーである、請求項1から11のいずれかに記載のセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受容体を有するセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にセンサーは、対象となるアナライトを高感度かつ高選択的な検出を可能とする検知部(受容体)を有する。受容体として自己組織化膜、単分子膜、DNA/RNA、タンパク質、抗原/抗体、ポリマーなど多岐に渡る物質が用いられている。嗅覚/ガスセンサ分野では近年のAI,IoTの発達により、今後新たなアプリケーションが期待されている。
【0003】
特許文献1では、多孔質材料または粒状材料を、物理パラメータを検出するタイプのセンサー本体上に被覆し、検体分子を前記多孔質材料または粒状材料が吸着することによる前記物理パラメータの変化により前記検体分子を検出するセンサーが記載されている。
【0004】
特許文献2では、酸化セリウムを主成分としたガス感応部と、ガス感応部の電気抵抗値を検出する検出電極とを有し、含酸素有機化合物及び含硫黄化合物のうちの少なくともいずれかのガスを検知するガス検知素子が記載されている。
【0005】
特許文献3では、水に不溶な高分子材料と湿度への応答性を有する水溶性ポリマーとが混合された感応材からなる感応部とを有し、感応部の導電性の変化を測定することにより湿度又は結露を検出する感湿センサが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/121155号
【文献】特開2010-002335号公報
【文献】特開平11-101766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、高い感度と選択性、安定性を実現する一方で、乾燥雰囲気下以外では電気シグナルが大きく減衰し、嗅覚センサーとして使用できる環境が大きく制限されている。
【0008】
特許文献2に記載の技術では、低濃度の含酸素有機化合物や含硫黄化合物を高感度、選択的に、安定した検知を実現する一方、検出するガスが含酸素有機化合物や含硫黄化合物に限定されている。
【0009】
特許文献3に記載の技術では、生体用としても適し、湿度、結露両用に適する感湿センサを提供する一方、湿度以外のガスの検出ができない。
【0010】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エタノール、アルデヒドといった親水性の高いガスを湿度のある状態下であっても高感度で測定可能であり、更にはリフロー処理後、長時間使用後であっても受容体の劣化がなく継続測定可能なセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決すべく、本願発明者らは鋭意検討し、実験を重ねた結果、予想外に前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1]
有機無機ハイブリッドを含む受容体層を有するセンサーであって、
前記受容体層は式RSiO3/2(前記式中Rは有機官能基を表す)で表される単位を含む構造を有し、
前記有機無機ハイブリッドは重量平均分子量が800~10000である第一成分と、重量平均分子量が30000~2000000である第二成分とを含み、
GPCで測定した前記第二成分のピーク面積が、前記第一成分及び前記第二成分の合計のピーク面積に対して0.01%~55%である、センサー。
[2]
前記第二成分はフィラーである、[1]のセンサー。
[3]
前記フィラーは金属酸化物を含む、[2]のセンサー。
[4]
前記フィラーはシリカを含む、[2]又は[3]のいずれか一項に記載のセンサー。
[5]
前記フィラーの形状は球状もしくは鎖状である、[2]~[4]のいずれか一項に記載のセンサー。
[6]
前記有機官能基は少なくとも1種類以上の芳香環構造を含む、[1]~[5]のいずれかのセンサー。
[7]
前記有機官能基の前記芳香環構造はSi原子に直接結合している、[6]のセンサー。
[8]
前記有機官能基は芳香環構造と非芳香環構造との共重合構造である、[6]又は[7]のセンサー。
[9]
前記非芳香環構造は窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子、ホウ素原子、及びリン原子からなる群より選択される1種を含む[8]のセンサー。
[10]
前記有機無機ハイブリッド中、有機成分の含有量が75重量%以下である[1]~[9]のいずれかのセンサー。
[11]
受容体層の最大厚みが30μm以下である、[1]~[10]のいずれかのセンサー。
[12]
前記センサーは表面応力型センサーである、[1]~[11]のいずれかのセンサー。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エタノールやアルデヒド等の高親水性のガスを湿度のある状態下であっても高感度に測定可能であり、更にはリフロー処理後、長時間使用後であっても受容体の劣化がなく継続測定可能なセンサーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】受容体を塗布したチップの光学顕微鏡写真の例を示す。
【
図3】実施例1の受容体を共焦点顕微鏡で観察して得られた画像及び膜厚分布である。
【
図4】実施例1の湿度が0%と30%でのエタノールへの応答性を示す。
【
図6】比較例3の湿度が0%と30%でのエタノールへの応答性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0016】
本実施形態のセンサーは、有機無機ハイブリッドを含む受容体を有し、有機無機ハイブリッドが、式RSiO3/2(前記式中Rは有機官能基を表す)で表される単位を含む構造(以下、「RSiO3/2で表される構造」ともいう。)を有し、有機無機ハイブリッドは重量平均分子量が800~10000となる第一成分と重量平均分子量が30000~2000000となる第二成分とを含み、GPCで測定した前記第二成分のピーク面積が、前記第一成分及び前記第二成分の合計のピーク面積に対して0.01%~55%であるものである。受容体がこのように構成されているため、本実施形態のセンサーは、エタノールやアルデヒド等の高親水性のガスを湿度のある状態下であっても高感度に測定することができ、更にはリフロー処理後、長時間使用後であっても受容体の劣化がなく継続して測定することができる。
【0017】
本実施形態のセンサーは、特に限定されないが、例えば、物理パラメータを検出するタイプのセンサー本体を含む。物理パラメータとしては、特に限定されないが、例えば、表面応力、応力、力、表面張力、圧力、質量、弾性、ヤング率、ポアソン比、共振周波数、周波数、体積、厚み、粘度、密度、磁力、磁気量、磁場、磁束、磁束密度、電気抵抗、電気量、誘電率、電力、電界、電荷、電流、電圧、電位、移動度、静電エネルギー、キャパシタンス、インダクタンス、リアクタンス、サセプタンス、アドミッタンス、インピーダンス、コンダクタンス、プラズモン、屈折率、光度および温度やその他の様々な物理パラメータが挙げられる。本実施形態のセンサーは、例えば、センサー本体上に直接、受容体受容体層(本技術分野において、「感応膜」と呼ばれる場合もある。)を設けたセンサーである。すなわち、本実施形態のセンサーは、当該受容体層が検体分子を吸着することで、そこに引き起こされる物理パラメータの変化を、センサー本体により検出するものとすることができる。上記のとおり、本実施形態において使用可能なセンサー本体は、その表面上に配された受容体層が検知対象物質を吸着することによって当該受容体に引き起こされる変化を検知するものであれば、特に限定されない。
【0018】
本実施形態のセンサーを、例えば、表面応力型嗅覚センサーに適用する場合には、センサー本体の表面の少なくとも一部を被覆した受容体感応膜が検知対象物質を吸着することで当該受容体中に引き起こされた応力変化を検出して本体がシグナルを出力する。
【0019】
また、別の種類のセンサー本体として、例えば、QCM装置を適用しうる。QCM装置は、交流電場を印加した水晶振動子の電極表面に物質が吸着すると、その吸着質の質量や粘弾性等に応じて共振周波数が減少する性質を利用して微量な質量変化を計測する質量センサーであり、in-situでの測定が可能である。本実施形態のセンサーをQCM装置として適用する場合、例えば、電極の表面に本実施形態における受容体感応膜を形成することにより、当該受容体が検知対象物質を吸着することで起こる質量変化をセンサー本体で検出してシグナルを出力する。また、QCMの電極としては、様々な導電性材料を適用しうるが、本実施形態における受容体に導電性を持たせる場合、当該受容体をQCMの電極として用いることもできる。
【0020】
なお、本明細書において、吸着という用語は、ある物体の界面において、(吸着質となる)他の物質の濃度が周囲よりも増加する現象を含む意味で用いており、物理吸着だけではなく、化学結合や生化学的な作用による化学吸着も含むものである。
【0021】
[受容体]
本実施形態における受容体は、有機無機ハイブリッドを含む。本実施形態における有機無機ハイブリッドは、湿度のある環境下での感度及び安定性の観点から、RSiO3/2で表される構造を含み、ここで、前記Rは有機官能基を表す。
【0022】
本実施形態において、有機官能基が1種類以上の芳香環(芳香環構造)を含むことが好ましい。芳香環を含む場合、耐湿度性がより向上する傾向にある。芳香環としては、センサーの用途等を考慮して適宜選択できるため特に限定されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、p-トリル基、ビフェニル基等の芳香族炭化水素基、4-クロロフェニル基、4-メトキシフェニル基、4-アミノフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等の置換芳香族炭化水素基、3-フリル基、3-チエニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基等の複素環炭化水素基、フェロセニル基等のメタロセン等が挙げられる。本実施形態における有機官能基は、上述した芳香環を1種単独で含んでいてもよく、2種以上を併せて含んでいてもよい。
【0023】
有機無機ハイブリッドにおいて、芳香環とケイ素原子との間には、アルキル基(炭素数が1から18までのもの)やエーテル基、カルボニル基、カルボキシル基、アミド基、ウレタン結合、尿素結合、イミド基、イミン基等のスペーサーとなる構造を挟んでもよいが、応答性感度の観点から、これらのスペーサーは挟まず、芳香環が、前記有機無機ハイブリッドにおけるSi原子に直接結合していることが好ましい。
【0024】
耐湿度性と様々なガス分子への選択性とを両立する観点から、本実施形態における有機官能基は、芳香環構造と非芳香環構造との共重合構造を含むことが好ましい。
【0025】
また、極性の高いガス・ニオイ分子への応答性の観点から、本実施形態における有機官能基は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ホウ素原子、及びリン原子からなる群より選択される1種以上の原子を含有する官能基を含むことが好ましい。これらの中でも、安定性の観点から、有機官能基は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、及びフッ素原子からなる群より選択される1種以上の原子を含有する官能基を含むことが好ましい。
【0026】
本実施形態における有機官能基の具体例としては、以下に限定されないが、ハロゲン原子等の置換基を有してもよい直鎖状若しくは分岐状炭化水素基(例えば、3-クロロプロピル基、オクチル基等の直鎖状若しくは分岐状C1-8アルキル基)、ハロゲン原子等の置換基を有してもよい脂環炭化水素基(例えば、シクロヘキシル基等のC5-6シクロアルキル基)、ハロゲン原子等の置換基を有してもよい芳香族炭化水素基(例えば、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基等)、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基(例えば、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基等の(メタ)アクリロイルオキシC1-3アルキル基)、エポキシ基、グリシジルオキシアルキル基(例えば、3-グリシジルオキシプロピル基等のグリシジルオキシC1-3アルキル基)、(エポキシシクロアルキル)アルキル基(例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基等)、ヒドロキシ基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基、ウレタン基、ウレア基、メルカプト基、メルカプトアルキル基(例えば、メルカプトプロピル基等のメルカプトC1-3アルキル基)、スルフィド基、アミノ基(例えば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基)、アミノアルキル基(例えば、アミノプロピル基等のアミノC1-3アルキル基)、(アミノアルキルアミノ)アルキル基(例えば、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル基)、イミダゾリル基、イミダゾリルアルキル基(例えば、3-(2-イミダゾリン-1-イル)プロピル基)、アルキルアミノアルキル基(例えば、3-(ジメチルアミノ)プロピル基)、アミド基、複素環芳香族基、オキシム基、イミド基、イミン基、ハロゲン基、ニトリル基、ホスホン基、リン酸基等があげられる。これらの中でも、有機官能基は、入手性の観点から、置換基を有してもよい直鎖状又は分岐状炭化水素基、置換基を有してもよい脂環炭化水素基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基、グリシジルオキシアルキル基、(エポキシシクロアルキル)アルキル基、メルカプトアルキル基、アミノアルキル基、(アミノアルキルアミノ)アルキル基、イミダゾリルアルキル基、及びアルキルアミノアルキル基、ヒドロキシ基からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。これらの官能基は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
有機官能基は、シランカップリング剤由来の有機官能基であることが好ましい。シランカップリング剤としては、アルコキシシラン、アセトキシシランもしくはクロロシラン等の加水分解性金属酸化物が挙げられる。これらの中でも、加水分解性金属酸化物は、取り扱い性、官能基の汎用性からアルコキシシランが好ましく、反応性の観点から3官能性のアルコキシシランがより好ましい。
3官能性のアルコキシシランは1、2,4官能性のアルコキシシラン等と共重合されてもよいが、有機無機ハイブリッドのヤング率を上げ高感度化させる観点から4官能性のものとの共重合が好ましい。
【0028】
3官能性のアルコキシシランとしては、アルコキシ基にメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基を有するシランカップリング剤を使用することができる。
市販の芳香族系シランカップリング剤としてはフェニルトリアルコキシシラン、ニトロベンゼンアミドトリアルコキシシラン、ベンジルトリアルコキシシラン、4-クロロフェニルトリアルコキシシラン、フェニルアミノプロピルトリアルコキシシラン、4-アミノフェニルトリアルコキシシラン、ナフチルトリアルコキシシラン、4-メトキシトリアルコキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリアルコキシシラン、フェロセニルトリアルコキシシラン、ビフェニルトリアルコキシシラン、3―フリルトリアルコキシシラン、3-チエニルトリアルコキシシラン、2-ピリジルトリアルコキシシラン、3-ピリジルトリアルコキシシラン、4-ピリジルトリアルコキシシラン等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0029】
市販の非芳香族系シランカップリング剤としては、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、ビニルトリアルコキシシラン、シクロヘキシルトリアルコキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリアルコキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリアルコキシシラン、3-(ジメチルアミノ)プロピルトリアルコキシシラン、3-(2-イミダゾリン-1-イル)プロピルトリアルコキシシラン、3-アミノプロピルトリアルコキシシラン、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリアルコキシシラン、3-(アクリロイルオキシ)プロピルトリアルコキシシラン、アリルトリアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、エチルトリアルコキシシラン、プロピルトリアルコキシシラン、ブチルアルコキシシラン、ヘキシルトリアルコキシシラン、オクチルトリアルコキシシラン、デシルトリアルコキシシラン、ドデシルトリアルコキシシラン、オクタデシルトリアルコキシシラン、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、シクロヘキシルアミノプロピルトリアルコキシシラン、ヘキサフルオロフェニルトリアルコキシシラン、3-クロロプロピルトリアルコキシシラン、3-ブロモプロピルトリアルコキシシラン、3-ピペラジノプロピルトリアルコキシシラン、3-モルフォリノプロピルトリアルコキシシラン、3-アリルアミノプロピルトリアルコキシシラン、ノルボルニルトリアルコキシシラン、ピペリジノプロピルトリアルコキシシラン等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0030】
2種類以上のシランカップリング剤を共重合する場合、芳香族シランカップリング剤と非芳香族シランカップリング剤の比率として、モル比で1:10から1:5であることが好ましく、耐熱性の点から1:5から1:1であることが好ましく、湿度下におけるシグナル強度低減の抑制の点から1:1から10:1であることが好ましい。
【0031】
本実施形態のセンサーにおける有機官能基については、センサー本体上の受容体をSEM-EDXやXPS、ATR等の表面元素解析に供することにより、同定することができる。
【0032】
本実施形態の有機無機ハイブリッドにおいてポリスチレン換算における重量平均分子量がRI検出器で800~10000となる第一成分と、重量平均分子量が30000~2000000となる第二成分が含まれることでセンサー感度を向上させることができる。
第一成分の重量平均分子量は900~9000であることがインクの塗布性の点で好ましく、1000~8000であることが合成再現性の点でさらに好ましい。
第二成分の重量平均分子量は40000~1900000であることが感度をさらに向上させる点で好ましく、5000~1800000であることがインクの塗布性の点でさらに好ましい。
【0033】
重量平均分子量で第一成分と第二成分との比率としては第二成分のシグナル強度(面積積分)が全成分の合計面積の0.01%~55%であると感度を向上させる点で好ましく、、0.05%~50%であるとインクの塗布性の点で好ましく、0.1%~45%であると耐湿度性の点でさらに好ましい。
【0034】
[フィラー]
本実施形態における受容体の第二の成分はフィラーであることが好ましい。フィラーを用いると、有機無機ハイブリッドのヤング率を向上させ、感度を高めることができる。本実施形態におけるフィラーとしては、特に限定されず、種々公知のものから選択することができる。具体例としては、以下に限定されないが、ポリスチレンやポリメチルメタクリレート、ポリフェニレンオキシド等のポリマービーズやアクリルラテックス等の球状粒子、窒化シリコン等の金属窒化物、シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化スズ等の金属酸化物、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ITO等の複合金属化合物、金や銀、銅、パラジウム、白金、鉄、アルミニウム等の無機金属フィラー、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンドット、カーボンブラック等の炭素材料から選ばれる1種以上を含むことができる。
【0035】
本実施形態におけるフィラーとしては、分散性、塗布性の観点から、無機フィラーであることが好ましい。上記同様の観点から、本実施形態においては、シリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナ等の金属化合物、金や銀、銅、パラジウム、白金、鉄、アルミニウム等の無機金属フィラーが好ましく、湿度下での水分によるシグナル減衰の影響が小さい点からシリカ、ジルコニア等の金属酸化物がより好ましく、経済性の観点からシリカであることがさらに好ましい。本発明者らは、特にシリカを用いる場合、湿度のある状態でもエタノール、アセトアルデヒド等の一般的な親水性ガスの応答の減衰がより顕著に改良されることを見出した。その理由としては、以下のように考えられるが、以下に限定する趣旨ではない。すなわち、シリカの骨格及びケイ素原子に結合した状態で存在する水酸基が、特許文献1のチタニア骨格もしくはチタン原子に結合した水酸基に比べて比較的疎水的であるため、疎水性相互作用により、水分由来の吸着阻害が抑制されるものと推定する。
【0036】
フィラーの形状としては、特に限定されないが、入手性の観点から、好ましくは、球状、棒状、板状若しくは繊維状又はこれらの2種類以上が合体した形状であり、より好ましくは球状、鎖状である。なお、ここでいう球状とは、真球状の他、回転楕円体、卵形等も含む略球状を意味する。
【0037】
球状のフィラーのサイズとしては、特に限定するものではないが、インクの分散性を維持し、つまり等インクジェットでの塗布性を向上できる観点から、平均一次粒子径として、100μm以下が好ましく、感度を向上できる観点から500nm以下がさらに好ましく、より空隙を低減する観点から200nm以下であることがさらに好ましい。ここで、平均一次粒子径とは数平均での値を意味する。上記平均一次粒子径は、本明細書の実施例の項に記載の走査型電子顕微鏡を用いた方法、又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される粒子50個の数平均値である。
【0038】
鎖状のフィラーとしては、連続鎖状構造を有することが好ましく、例えば、球状の粒子が連続的に真直につながった構造、分岐してつながった構造、屈曲してつながった構造、環状につながった構造(「パールネックレス状」につながった構造ともいう。)、又は個々には連続した球状には観察されず糸状の構造が多数絡まりあった構造(「ネットワーク状」につながった構造ともいう。)が好ましい例として挙げられる。
【0039】
連続鎖状構造を構成するフィラーは、一概に球状を仮定して、一次粒子径で規定することは容易でないが、透過型又は走査型の電子顕微鏡観察により鎖幅を観察することができる。鎖幅としては、1nm~200nmであり、被表面積を大きくする観点から1nm~100nmであることが好ましく、ガス応答性の感度の観点から1nm~85nmであることがさらに好ましい。上記平均一次粒子径は、本明細書の実施例の項に記載の走査型電子顕微鏡を用いた方法、又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される粒子50個の数平均値であり、鎖幅として定義する。
【0040】
このようなフィラーとしての金属酸化物は、ゾルゲル法を用いてアルコキシ、クロロ等の4官能性加水分解基を有する金属酸化物前駆体のゾルゲル法によって製造することができるし、市販品を用いることもできる。4官能性の加水分解基を有する金属酸化物前駆体としてはテトラアルコキシシラン、テトラクロロシラン、テトラアルコキシチタン、テトラアセトキシジルコニウム等が挙げられる。これらの4官能性の加水分解性金属無機酸化物は3官能性の加水分解性金属酸化物と共重合してもよく、反応系の濃度、温度、pH、水分量等を調整することにより形状の制御を行うことができる。なお、例えばエマルジョン重合によりフィラーが製造された場合等、フィラー側にRSiO3/2で表される構造が得られることも考えられるが、受容体中でこのような構造を持つフィラーについては本実施形態における有機無機ハイブリッドと扱うものとする。
【0041】
使用し得るフィラーの市販品としては、LEVASILシリーズ(H.C.Starck(株)製)、クオートロンP Lシリーズ(扶桑化学(株)製)、OSCALシリーズ(触媒化成工業(株)製)等;粉体状のシリカ粒子として、例えばアエロジル130、同300、同380、同TT600、同OX50(以上、日本アエロジル(株)製)、シルデックスH31、同H32、同H51、同H52、同H121、同H122(以上、旭硝子(株)製)、E220A、E220(以上、日本シリカ工業(株))、SYLYSIA470(富士シリシア(株)製)、SGフレーク(日本板硝子(株)製)等、IPA-ST, IPA-ST-L, IPA-ST-ZL, ST-XS,ST-S, ST-30,ST-50T, ST-30L,ST-YL, ST-ZL,MP-1040, MP-2040, MP-4540M,ST-OXS, ST-OS, ST-O, ST-O-40, ST-OL, ST-OYL, ST-NXS, ST-NS, ST-N, ST-N-40,ST-CXS,ST-C, ST-CM, ST-AK, ST-AK-L, ST-AK-YL,OZ-S30K,SZ-S30K-AC, OZ-S30M、セルナックス CX-S505M、IPA―ST-UP、MEK―ST―UP、ST―UP、ST-PS-S、ST-PS-M、ST-OUP、ST-PS―SO、ST-PS-MO、ST-AK-PS-S等(日産化学(株)製),SRD-K, SRD-M,
SXR-CM, SZR-K, SZR-M(堺化学(株)製)があげられる。粉体状のフ
ィラーとして、例えばアエロジル130、同300、同380、同TT600、同OX50(以上、日本アエロジル(株)製)、シルデックスH31、同H32、同H51、同H52、同H121、同H122(以上、旭硝子(株)製)、E220A、E220(以上、日本シリカ工業(株)製)、SYLYSIA470(富士シリシア(株)製)、SGフレーク(日本板硝子(株)製)等を挙げることができる。
【0042】
[有機無機ハイブリッドの製造方法]
有機無機ハイブリッドの製造方法としては、特に限定されないが、主にゾルゲル法を用いて製造される。具体的には、加水分解性シラン化合物(シランカップリング剤を含む)を水存在下で酸、塩基性条件下でゾルゲル法により処理することにより、シランカップリング剤の縮合体、すなわち、RSiO3/2で表される構造を含む有機無機ハイブリッドを得ることができる。
【0043】
加水分解及び縮合の反応速度を調節できる観点から、触媒の存在下で、シランカップリング剤を加水分解及び縮合、表面修飾することがより好ましい。
【0044】
触媒の種類としては、酸触媒及び塩基触媒が挙げられる。酸触媒としては、例えば、無機酸及び有機酸が挙げられる。無機酸としては、以下に限定されないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。有機酸としては、以下に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、安息香酸、p-アミノ安息香酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、シトラコン酸、リンゴ酸、グルタル酸等が挙げられる。塩基触媒としては、例えば、無機塩基及び有機塩基が挙げられる。無機塩基としては、以下に限定されないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ又はアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の金属炭酸水素塩;等が挙げられる。有機塩基としては、以下に限定されないが、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等のトリアルキルアミン;N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン等の炭素数1~4のN,N-ジアルキルアニリン誘導体;ピリジン、2,6-ルチジン等の、炭素数1~4のアルキル置換基を有していてもよいピリジン誘導体;等が挙げられる。これらの触媒は、1種で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
反応系のpHを0.01~6.0の範囲、若しくはpH8~14になる量の触媒を加えることが、反応効率の点で好ましく、より効率を高めるためにはpH8~14の塩基性条件下でゾルゲル反応を行うことがより好ましい。
【0046】
有機無機ハイブリッドを製造するための加水分解及び縮合は、有機溶媒中で行うこともできる。縮合反応に使用できる有機溶媒としては、例えば、アルコール、エステル、ケトン、エーテル、脂肪族炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物、アミド化合物等が挙げられる。
【0047】
上記アルコールとしては、以下に限定されないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールのような一価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールのような多価アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルのような多価アルコールのモノエーテル類;等が挙げられる。
【0048】
上記エステルとしては、以下に限定されないが、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。ケトン類としては、以下に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン等が挙げられる。
【0049】
上記エーテルとしては、上記の多価アルコールのモノエーテル類の他に、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルのような多価アルコールの水酸基の全てをアルキルエーテル化した多価アルコールエーテル類;テトラヒドロフラン;1,4-ジオキサン;アニソール等が挙げられる。
【0050】
上記脂肪族炭化水素化合物としては、以下に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等が挙げられる。
【0051】
上記芳香族炭化水素化合物としては、以下に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる
【0052】
上記アミド化合物としては、以下に限定されないが、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0053】
以上の溶媒の中でも、アルコールとしてメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等;ケトンとしてアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等;エーテルとしてエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等;及びアミド化合物としてジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が水と混合しやすい点で好ましい。これらの溶媒は単独で使用してもよいし、複数の溶媒を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
有機無機ハイブリッドを製造するためにフィラーを配合する場合は、RSiO3/2で表される構造はフィラーの存在下で製造してもよいし、RSiO3/2で表される構造にフィラーを配合してもよい。
市販の分散フィラーにシランカップリング剤の縮合物を溶解させてもよいし、フィラーとシランカップリング剤をボールミル、ジェットミル等で分散処理してもよいし、アルコキシシランとフィラーを同時に縮合反応することで製造することができるが、フィラーの溶剤分散性を高め、インクジェット塗布性を高める点でアルコキシシランとフィラーを同時に縮合する製造方法がより好ましい。コロイダルフィラーをシランカップリング剤存在下でゾルゲル法により処理した場合は、シランカップリング剤の縮合体がフィラーの表面を変性しながら隙間を埋めるように縮合体が配されることになりアルコキシシランの量を任意に調整することで細孔量を調整することができる。フィラー表面に水酸基が存在する場合、その表面水酸基とアルコキシシランの加水分解により生成される水酸基が相互作用、縮合反応によりエーテル結合を形成するため、フィラーと縮合体の相溶性を高めることができるため、より安定な受容体を得ることができる。
【0055】
フィラーに有機官能基を表面変性させることは、分散媒に分散させた状態で表面修飾することにより行われる。具体的には、例えば、アルコール及び水を含む金属酸化物の均一分散液に、触媒存在下で上記シランカップリング剤を添加する工程により有機無機ハイブリッドが製造される。
【0056】
有機無機ハイブリッドは沈殿物、ゲル化物を遠心分離、ろ過により濾別することにより回収してもよいし、エバポレーター等で揮発性溶剤を除去することにより単離される。
【0057】
有機官能基の導入は、FT-IRや元素分析により確認することができる。また、熱重量減少測定により確認することができる。吸着水の影響を除去するため150℃から1000℃までの、無機フィラー(i)と有機官能基(ii)を合わせた有機分の熱重量減少率が、感度の観点から、3%~75%であることが好ましく、湿度耐性の観点から5%~65%であることがより好ましく、更に熱安定性の観点から5%~60%であることが更に好ましい。すなわち、本実施形態における有機無機ハイブリッド中の有機官能基量としては、特に限定されないが、アナライトへの応答性と受容体の安定性とのバランスの観点から、75重量%以下であることが好ましく、65重量%以下であることがより好ましい。
【0058】
本実施形態における受容体の膜厚は、有機無機ハイブリッドが均質な膜厚分布を有する形状でもよいし、端部の膜厚が厚くなるように分布するコーヒーリング状の形状を有することができる。コーヒーリング状の形状となる場合は、受容体の中心部分における最も薄い部分、及び端部分における最も厚い部分の膜厚は、それぞれ通常10nm以上50μm以下であることが好ましい。膜厚は、製造時における乾燥に要する時間を短縮し、生産性を高める観点から、好ましくは10nm以上30μm以下であり、感度を高める観点から、より好ましくは10nm以上20μm以下である。また、本実施形態における受容体の最大厚みは、30μm以下であることが好ましい。上記膜厚や最大厚みは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0059】
本実施形態における受容体で被覆した表面応力センサーMSSを嗅覚センサーとして用いる為には、気相中において、有機官能基とガス分子が相互作用し、受容体内部に拡散することにより応力発生し、それによってガスを検出することが好ましい。
【0060】
[表面応力型(MSS)センサー]
本実施形態のセンサーは、表面応力型のセンサーとして用いることができる。表面応力型センサーは4点固定のピエゾ素子型表面応力(MSS)センサーであることが好ましい。
【0061】
[センサーの製造方法]
本実施形態のセンサーの製造方法としては、特に限定されないが、センサー本体上に受容体を形成するための種々の方法により製造することができる。本実施形態における受容体は、例えば、有機無機ハイブリッドを有機溶剤に分散させて塗布液を調製し、当該塗布液をセンサー本体上に塗布することにより製造される。塗布液をセンサーのチップ上に塗布する際には、インクジェット装置を好適に用いることができる。インクジェット装置によれば、塗布液の液滴を射出し、液滴がセンサー上に塗布され、受容体が成膜される。チップ上に受容体を形成した例を
図1に示す。センサー1は、センサー本体に対応するチップ3と、その表面上に形成された受容体2を有するものとして構成されており、
図1に示す例において、このような構成を4箇所において備えている。
【0062】
有機無機ハイブリッドをセンサー本体(例えば、MSSセンサー本体)の表面に被覆するための手法は、特に限定されないが、例えば、ディップコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、インクジェットスポッティング、キャスティング、ドクターブレードなどを用いた被覆方法が挙げられる。
【0063】
300μmφのMSSメンブレンに塗布するためには、インクジェット、マイクロジェット方式が好ましく、生産性の観点からマイクロジェット方式の塗布がより好ましい。
【0064】
受容体は、例えば、有機無機ハイブリッドを有機溶剤に分散させ、その分散液をMSSチップ上に塗布することにより製造できる。有機無機ハイブリッドは、有機溶剤中に0.1g/L~50g/Lの濃度で分散されて塗布液となる。生産性の観点から、濃度は、0.5~50g/Lであることが好ましく、ノズルつまりを抑制する観点から、0.5~15g/Lであることがより好ましい。
【0065】
有機無機ハイブリッドを分散する有機溶媒としては、分散可能な溶媒であればよく、沸点としては80℃~250℃のものが好ましく、ノズルのつまりによる生産性の低下を抑制するためには100℃~250℃のものが好ましく、乾燥にかかる時間を早め、生産性を高めるために100℃~200℃であることがより好ましい。
【0066】
有機溶媒としては、以下に限定されないが、例えば、アルコール溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、エーテル溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、アミド溶媒等が挙げられる。
【0067】
アルコール溶媒としては、以下に限定されないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等の多価アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールのモノエーテル類;等が挙げられる。
エステル溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
【0068】
ケトン溶媒としては、以下に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン等が挙げられる。
【0069】
エーテル溶媒としては、以下に限定されないが、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールの水酸基の全てをアルキルエーテル化した多価アルコールエーテル類;テトラヒドロフラン;1,4-ジオキサン;アニソール;等が挙げられる。
【0070】
脂肪族炭化水素溶媒としては、以下に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等が挙げられる。
【0071】
芳香族炭化水素溶媒としては、以下に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0072】
アミド溶媒としては、以下に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0073】
これらの有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
これらの有機溶媒の中でも、安全性及び溶解性に優れることから、N,N-ジメチルホルムアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0075】
本実施形態における受容体は、有機無機ハイブリッド以外に、任意の粒子、イオン性化合物、樹脂、及び低分子化合物等の添加物を含んでもよい。上記添加物は、例えば、塗布液に配合し、センサー本体の表面に塗布することにより、上記添加物を含む受容体を有するセンサーを得ることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例により本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0077】
各実施例及び比較例のMSS嗅覚センサーの各種物性を以下の(1)~(8)に従って評価した。
【0078】
(1)GPCによる分子量測定
受容体材料をDMFに溶解し5μmのPTFEシリンジフィルターを通すことでサンプルを調製した。GPCは東ソー株式会社製HLC-8420GPCを用いて測定した。分析条件は以下の通りにした。
<分析条件>
カラムTSK gel SuperAWM-H×2本
流量0.6mL/min
検出器HLC-8420GPC内蔵RI検出器+UV-8420
カラム温度40℃
システム温度40℃
溶離液10mM LiBr in DMF検量線条件 標準ポリスチレンKIT-H(東ソー株式会社製)
分析はRI検出器を用い、EcoSEC Elite-WSソフトウェアを用いて重量平均分子量を算出した。高重量平均分子量と低重量平均分子量のシグナル強度の比率はRI検出器で出たシグナル強度を用いて計算した。
【0079】
(2)有機無機ハイブリッドにおける有機官能基種の同定
下記の条件に基づき、センサー本体上の受容体を顕微ATR法で測定することにより、有機無機ハイブリッドにおける有機官能基を同定した。
(測定条件)
使用装置;Cary620(Agilent社製)
測定方法;顕微ATR法(結晶:Ge) スライド・オン型ATRアタッチメントを使用
検出器;MCT(HgCeTe)赤外線検出素子
アパーチャサイズ;約100um
ATR結晶へのIR入射角 30°
分解能;4cm-1
積算回数;64scans
【0080】
(3)熱重量減少率(有機官能基量の定量)
センサーから削りとった受容体の粉末試料を、大気中100℃で乾燥し、次いで室温に戻してから正確に秤量した。その後、TGAを用いて大気中で1000℃まで10℃/分で昇温加熱することで有機成分を除去し、熱重量減少率とした。有機官能基のみ加熱で分解して、SiO3/2の部分はシリカとして残るため、熱重量減少率を有機官能基量(質量%)、すなわち有機無機ハイブリッド中の有機成分の含有量(表中、「重量分率」と表す。)とした。
【0081】
(4)受容体の最大厚み
共焦点レーザー顕微鏡(VK09700 Violet Laser(キーエンス製))を用いてセンサーにおける受容体未塗布部分と受容体の最大膜厚部分を観察することにより、受容体の膜厚を測定した。すなわち、略円形状に形成された受容体の直径上における2点間の断面プロファイルを取得し、断面プロファイルから未塗布部分と最大膜厚部分を特定し、これらの差をとり最大厚みとした。
(観察条件)
対物レンズ:標準レンズ 20.0倍
測定エリア:面
測定モード:表面形状
RPD:精度優先
測定品質:高精細
測定ピッチ:0.5μm
Z測定距離:37.92μm
ワイドダイナミックレンジ:OFF
明るさ1:648
減光フィルタ:100%
光学ズーム:1倍
平均回数:1回
フィルタ:OFF
ホワイトバランスモード:ワンプッシュ
ホワイトバランスR:131
ホワイトバランスB:138
受光光量補正モード:γ補正
γ補正値:0.45
γオフセット:0
白黒反転:OFF
ヘッド種別:VK-9700
光量偏心補正:ON
像面湾曲補正:ON
XYキャリブレーション:688nm/pixel
Zキャリブレーション:1nm/digit
鮮やかさ:5
コントラスト:5
明るさ:0
【0082】
(5)耐湿度影響性
アナライトとしてガス状のエタノール100ppmを用いた。25℃、乾燥条件下で、エタノール100ppmを窒素とともに10分間パージして、これを3回繰り返し、シグナル強度を測定した。
同様にして、25℃、30RT%条件下で、エタノール100ppmを窒素とともに10分間パージして、これを3回繰り返し、シグナル強度を測定した。
そして、100×(「乾燥下で測定された3度目のシグナルの強度」-「30RT%下で測定された3度目のシグナルの強度」)/(「乾燥下で測定された3度目のシグナルの強度」を減衰率(%)とし、その値が20%以下のものをS、21%から40%以下のものをA、41%以上50%未満のものをB、51%以上のものをCとした。
【0083】
(6)物理・化学安定性
(1回目)
アナライトとして水飽和蒸気を用いた。25℃、乾燥条件下で、水飽和蒸気を6sccm窒素とともに10分間パージ(全体流量を30sccmに設定)して、シグナル強度を測定した。
(2回目)
アナライトとしてエタノールを用いた。25℃、乾燥条件下で、エタノールのヘッドスペースガスを6sccm窒素とともに10分間パージ(全体流量を30sccmに設定)して、シグナル強度を測定した。
(3回目)
アナライトとしてトルエンを用いた。25℃、乾燥条件下で、トルエンのヘッドスペースガスを窒素6sccmとともに10分間パージ(全体流量を30sccmに設定)して、シグナル強度を測定した。
各回で測定した後に、光学顕微鏡による観察で膜形状の変化を観察して以下のように評価した。
A・・・3回目の後も変化が見られなかった。
B・・・2回目の後は変化が見られなかったが3回目の後に明らかな膜の形状変化が倍率200倍の顕微鏡で見られた。
C・・・2回目の後に明らかな膜の形状変化が倍率200倍の顕微鏡で見られた。
【0084】
(7)耐熱性(リフロー耐性)
250℃、30秒のリフロー後に受容体に剥離、変形、クラック等がみられたものをC、見られなかったものをAとした。
【0085】
(8)フィラー粒径(直径)
上記(1)に記載の走査型電子顕微鏡を用い、フィラー粒子50個の数平均値とした。球状粒子の場合は、最大径を粒径とし、鎖状粒子の場合は、鎖幅を粒子径とし、各々50個分の数平均値を算出した。
【0086】
<実施例1>
セパラブルフラスコに鎖状コロイダルシリカの2-プロパノール分散液IPA-ST-UP(日産化学製品)50g、水90g、28%アンモニア水10g、2-プロパノール300gに、フェニルトリメトキシシラン27.1gを加え80℃で4時間反応させた。反応液を空冷後、6000rpm、10分間遠心分離することで沈殿物を単離した。エタノールでサンプルを十分に洗浄したのち、N,Nジメチルホルムアミドで10mg/mLになるように溶解し、塗布液を得た。サンプルを一部80℃真空下で乾燥させて、熱重量減少率を測定した。塗布液を、インクジェット装置を用いて1滴当たり300pLの量にて30滴を、80℃のホットプレート上に配したMSS表面上に塗布することにより感応膜付きの表面応力センサーを得た。その外観としては、
図1に示すものと同様であった。
【0087】
図2にGPCの結果を示した。高重量平均分子量176000、低重量平均分子量1600、高重量平均分子量のシグナル強度0.93%だった。
また、実施例1に係る表面応力センサーの最大厚みを上記(4)の方法に基づいて測定した結果、
図3上部の画像が得られた。
図3上部の画像より、縦700μm×横500μmのセンサー本体上にコーヒーリング状の受容体が形成されていることがわかる。
さらに、膜厚を分析した結果、
図4下部に示す膜厚分布が得られた。
図3下部の画像は、
図3上部におけるX-X’断面における2点間の断面プロファイルを示しており、このプロファイルに基づいて最大膜厚部分と受容体未塗布部分を特定し、これらの差より最大厚みを求めた。結果は表1に示す。
さらに、上記(5)の方法に基づいて耐湿度の影響を検討した結果を
図4に示す。湿度0%(乾燥下)では最大振幅550μVで湿度30%では360μVの最大振幅が得られた。前述の方法にて算出された減衰率は40%であったため〇とした。
上述した方法と同様の要領にて、以降の実施例及び比較例についても評価を行うこととした。
【0088】
<実施例2>
フェニルトリメトキシシラン27.1gを13.5gにした以外は実施例1に準じた。
図5にGPCの結果を示した。高重量平均分子量444000、低重量平均分子量1500、高重量平均分子量のシグナル強度19%だった。
【0089】
<実施例3>
IPA-ST-UP(日産化学製品)50gをIPA-ST(12nm球状シリカ)25gに変えた以外は実施例1に準じた。
【0090】
<実施例4>
IPA-ST-UP(日産化学製品)50gをIPA-ST―L(45nm球状シリカ)25gに変えた以外は実施例1に準じた。
【0091】
<実施例5>
IPA-ST-UP(日産化学製品)50gをMP-4540M(450nm球状シリカ)20gに変えた以外は実施例1に準じた。
【0092】
<実施例6>
IPA-ST-UP(日産化学製品)50gをZR-40BL20g(90nmジルコニア)に変えた以外は実施例1に準じた。
【0093】
<実施例7>
フェニルトリメトキシシラン27.1gを4-クロロフェニルトリエトキシシラン37.6gにした以外は実施例1に準じた。
【0094】
<実施例8>
フェニルトリメトキシシラン27.1gを4-メトキシフェニルトリメトキシシラン30.4gにした以外は実施例1に準じた。
【0095】
<実施例9>
フェニルトリメトキシシラン27.1gを3-フリルトリエトキシシラン31.5gにした以外は実施例1に準じた。
【0096】
<実施例10>
フェニルトリメトキシシラン27.1gを3-チエニルトリエトキシシラン33.9gにした以外は実施例1に準じた。
【0097】
<実施例11>
フェニルトリメトキシシラン27.1gを4-アミノフェニルトリメトキシシラン23.3gにした以外は実施例1に準じた。
【0098】
<実施例12>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをp-トリルトリメトキシシラン29gにした以外は実施例1に準じた。
【0099】
<実施例13>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをナフタレントリメトキシシラン27.2gにした以外は実施例1に準じた。
【0100】
<実施例14>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン27.1g+3-(2-イミザゾリンプロピル)トリエトキシシラン37.5gにした以外は実施例1に準じた。
【0101】
<実施例15>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン27.1g+3-(2-アミノプロピルエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン36.1gにした以外は実施例1に準じた。
【0102】
<実施例16>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン27.1g+ノルボルニルトリエトキシシラン35.7gにした以外は実施例1に準じた。
【0103】
<実施例17>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン27.1g+3-N,Nジメチルアミノプロピルトリメトキシシシラン7.08gにした以外は実施例1に準じた。
【0104】
<実施例18>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン27.1g+3-メルカプトプロピルトリエトキシシシラン9.77gにした以外は実施例1に準じた。
【0105】
<実施例19>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン24.4g+ペンタフルオロフェニルトリメトキシシシラン3.93gにした以外は実施例1に準じた。
【0106】
<実施例20>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン27.1g+3-メタクリルオキシプロピルトリエトキシシシラン11.9gにした以外は実施例1に準じた。
【0107】
<実施例21>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン27.1g+2-(3,4-エポキシシクロヘキシルトリメトキシシラン8.75gにした以外は実施例1に準じた。
【0108】
<実施例22>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン27.1g+4-アミノフェニルトリメトキシシシラン8.74gにした以外は実施例1に準じた。
【0109】
<実施例23>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン27.1g+3-ウレイドプロピルトリエトキシシシラン21.6gにした以外は実施例1に準じた。
【0110】
<実施例24>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン27.1g+3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン10.4gにした以外は実施例1に準じた。
【0111】
<実施例25>
フェニルトリメトキシシラン27.1gをフェニルトリメトキシシラン27.1g+3-[ビス[(ジフェニルホスフィノ)メチル]アミノ]プロピルトリメトキシシラン25.3gにした以外は実施例1に準じた。
【0112】
<実施例26>
500mLセパラブルフラスコに水18g、28%アンモニア水2g、2-プロパノール80gに、フェニルトリメトキシシラン6gを加え80℃で4時間反応させた。反応液を空冷後、6000rpm、10分間遠心分離することで沈殿物を単離した。エタノールでサンプルを十分に洗浄し乾燥させたのち、N,Nジメチルホルムアミドで10g/mLになるように溶解した。鎖状コロイダルシリカの2-プロパノール分散液IPA-ST-UP(日産化学製品)をN,Nジメチルホルムアミドで10mg/mLになるように調整した溶液と、先述の溶液を5:5の割合で混合し塗布液を得た。サンプルを一部80℃真空下で乾燥させて、熱重量減少率を測定した。塗布液を、インクジェット装置を用いて1滴当たり300pLの量にて30滴を、40℃のホットプレート上に配したMSS表面上に塗布した。
【0113】
<実施例27>
500mLのセパラブルフラスコにエタノール30g、テトラエトキシシラン4.7g、フェニルトリエトキシシラン4.3g、28%アンモニア水を1.8gを混合、撹拌したのち室温でゲル化するまで静置した。得られたゲルをエタノールで洗浄し、アンモニアを除去したのち、DMF10mg/mLになるように溶解させ塗布液を得た。塗布液を、マイクロジェットを用いて1滴当たり300pLの量にて30滴を80℃のホットプレート上に配したMSS表面上に塗布した。
【0114】
<実施例28>
500mLのセパラブルフラスコにエタノール37g、テトラエトキシシラン2.6g、フェニルトリエトキシシラン9.0g、28%アンモニア水を2.26gを混合、撹拌したのち室温でゲル化するまで静置した。得られたゲルをエタノールで洗浄し、アンモニアを除去したのち、DMF10mg/mLになるように溶解させ塗布液を得た。塗布液を、マイクロジェットを用いて1滴当たり300pLの量にて30滴を80℃のホットプレート上に配したMSS表面上に塗布した。
【0115】
<実施例29>
3-フリルトリエトキシシラン10.1gにした以外は実施例9に準じた。
【0116】
<実施例30>
3-フリルトリエトキシシラン17.3gにした以外は実施例9に準じた。
【0117】
<実施例31>
実施例1の塗布液をインクジェット装置を用いて1滴当たり700pLの量にて150滴を、80℃のホットプレート上に配したMSS表面上に塗布することにより受容体付きの表面応力センサーを得た。
<実施例32>
実施例26の比率を5:5から1:9の変更した以外は実施例26に準じた。
【0118】
<比較例1>
シリカチタニア粒子(粒状)はWO2016/121155公報に記載の方法に準じて合成した。オクタデシルアミン(ODA)が溶解したアンモニア塩基性のイソプロパノール(IPA)水溶液中における、アミノプロピルトリメトキシシランとチタニウムテトライソプロポキシド(TTIP)の共加水分解、縮合重合反応により合成した。上記合成反応は、マイクロメートルサイズのY字型流路を有するテフロン(登録商標)製マイクロリアクタを用いて実施した。前駆溶液は、溶液1:アミノプロピルトリメトキシシラン/IPA、溶液2:H2O/IPA/アンモニア、溶液3:TTIP/IPA、溶液4:H2O/IPAの4つとし、溶液1から溶液4まで体積を揃えて調製した。前駆溶液はシリンジポンプにより同時に一定速度で送液した。溶液1と溶液2、溶液3と溶液4を並列したマイクロリアクタ内でそれぞれ混合し、両リアクタからの吐出液をさらに別のマイクロリアクタ内で混合することにより、1つの反応液とした。反応液は別途調製しておいた前駆溶液5:ODA/H2O/IPA中へ吐出し、吐出終了まで一定速度で撹拌した。その後、室温で静置し、ナノ粒子(NH2-STNP)分散液を得た。かかるナノ粒子にRSiO3/2で表される構造が確認されたため、これを有機無機ハイブリッドと扱った。反応液を空冷後、6000rpm,10分間遠心分離することで沈殿物を単離した。エタノールでサンプルを十分に洗浄したのち、N,N-ジメチルホルムアミドで1g/mLになるように溶解し、塗布液を得た。塗布液を、マイクロジェットを用いて1滴当たり300pLの量にて300滴を80℃のホットプレート上に配したMSS表面上に塗布することにより受容体付きの表面応力センサーを得た。
【0119】
<比較例2>
アミノプロピルトリメトキシシランの代わりに、オクタデシルトリエトキシシランを用いて得られたナノ粒子(C18-STNP)分散液を用いた以外は比較例1に準じた。なお、上記ナノ粒子にRSiO3/2で表される構造が確認されたため、これを有機無機ハイブリッドと扱った。
【0120】
<比較例3>
アミノプロピルトリメトキシシランの代わりに、フェニルトリメトキシシランを用いて得られたナノ粒子(フェニル-STNP)分散液を用いた以外は比較例1に準じた。なお、上記ナノ粒子にRSiO
3/2で表される構造が確認されたため、これを有機無機ハイブリッドと扱った。実施例1と同様に、湿度0%と30%でのエタノール100ppmに対する応答シグナルを確認した結果を
図6に示す。比較例1では、30%の湿度による顕著なシグナル減衰がみられた。
【0121】
<比較例4>
ポリ(メタクリル酸メチル)(Aldrich, average Mw ~15,000 by GPC, powder)をN,N-ジメチルホルムアミドで1g/mLになるように希釈し塗布液を作成した。塗布液を、マイクロジェットを用いて1滴当たり300pLの量にて300滴を、80℃のホットプレート上に配したMSS表面上に塗布した。エチレン100ppmへのシグナルが全く見られず、25℃にてエチレン、エタノール、アセトアルデヒド、トルエン500ppm10分/パージ10分を3回ずつ測定後、光学顕微鏡による観察で膜に剥離がみられたので×とした。
【0122】
<比較例5>
鎖状コロイダルシリカの2-プロパノール分散液IPA-ST-UP(日産化学製品)をDMFで10mg/mLになるように希釈し、インクジェット装置を用いて1滴当たり300pLの量にて350滴を、80℃のホットプレート上に配したMSS表面上に塗布することにより受容体付きの表面応力センサーを得た。
【0123】
<比較例6>
鎖状コロイダルシリカの2-プロパノール分散液IPA-ST-UP(日産化学製品)をDMFで10mg/mLになるように希釈し、インクジェット装置を用いて1滴当たり300pLの量にて30滴を、80℃のホットプレート上に配したMSS表面上に塗布することにより感応膜付きの表面応力センサーを得た。
【0124】
<比較例7>
フェニルトリメトキシシラン10g、水10g、エタノール30g、28%アンモニア水を混合し、80℃で2h反応させた。6000rpm、10分間遠心分離することで沈殿物を単離した。エタノールでサンプルを十分に洗浄したのち、N,N-ジメチルホルムアミドで1g/mLになるように溶解し、塗布液を得た。塗布液を、マイクロジェットを用いて1滴当たり300pLの量にて300滴を80℃のホットプレート上に配したMSS表面上に塗布した。
【0125】
実施例1と比較例5について、センサー本体上の受容体における有機官能基を上記(2)の方法により同定した結果を
図8に示す。導入されたフェニル基に由来するシグナルが検出された。また、実施例1ではRSiO
3/2で表される構造が観測されたのに対して、比較例5ではそのような構造が観測されなかった。他の実施例及び比較例についても同様に有機官能基種を同定した。
【0126】
各実施例/比較例について上記測定(1)~(8)を行った結果を次の表1~3に示す。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のセンサーは、例えば、湿度存在下でもエタノール、アセトアルデヒドといった親水性ガスに対して高い感度で応答を示す効果を奏するので、食品の輸送、鮮度、状態管理分野において好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0132】
1 センサー
2 受容体
3 チップ(センサー本体)