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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】スラブ軌道の補修方法
(51)【国際特許分類】
   E01B 37/00 20060101AFI20230509BHJP
   E01B 1/00 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
E01B37/00 C
E01B1/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019038904
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2019183625
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018077610
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000192844
【氏名又は名称】神東塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】二股 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡村 亮洋
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-202501(JP,U)
【文献】特開平11-256504(JP,A)
【文献】特開平08-232203(JP,A)
【文献】特開2015-003426(JP,A)
【文献】米国特許第04703890(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 27/00-37/00
E01B 1/00-26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面である路盤面上に、円柱状または半円柱状の突起部を有するコンクリート製の路盤と、軌道敷設方向である長手方向の端部に、前記突起部の外周形状に対応する断面半円状の凹部を有する軌道締結用の軌道スラブと、水平方向に嵌め合わされた前記路盤の前記突起部と前記軌道スラブの前記凹部との間に充填されて硬化したてん充層と、を備えるスラブ軌道において、
前記てん充層と前記路盤の前記突起部との間、もしくは、前記てん充層と前記軌道スラブの前記凹部との間に生じた、上下方向の隙間に、反応性合成樹脂化合物で構成された樹脂を調製した補修用てん充材を充填して補修する、スラブ軌道の補修方法であって、
前記隙間は、前記内側突起部の半円状の突起部および同心円状の凹部の径方向の幅が、1~10mmであり、
前記隙間に、前記補修用てん充材を吸収もしくは一時的に保持可能な、てん充材吸収体を挿入する吸収体挿入ステップと、
前記てん充材吸収体が充填された前記隙間に、前記調製した補修用てん充材を注入するてん充材注入ステップと、
前記隙間に注入した前記補修用てん充材の硬化を待機する養生ステップと、
を備えることを特徴とするスラブ軌道の補修方法。
【請求項2】
前記吸収体挿入ステップの実行前に、
前記補修用てん充材を前記てん充材吸収体に含浸させ、前記補修用てん充材の一部を前記てん充材吸収体に吸収または保持させるてん充材含浸ステップを備えることを特徴とする請求項1に記載のスラブ軌道の補修方法。
【請求項3】
前記てん充材含浸ステップと前記吸収体挿入ステップとを連続して実行した後、
前記てん充材注入ステップの実行前に、
前記てん充材吸収体に含浸させた前記補修用てん充材の硬化を待機する待機ステップを備えることを特徴とする請求項2に記載のスラブ軌道の補修方法。
【請求項4】
前記補修用てん充材が、反応性合成樹脂化合物で構成されており、
前記てん充材含浸ステップにおいて前記てん充材吸収体に含浸させる前記補修用てん充材の粘度が、50~10000mPa・sに調製され、
前記てん充材注入ステップにおいて前記隙間に注入される前記補修用てん充材の粘度が、50~700mPa・sに調製されていることを特徴とする請求項2または3に記載のスラブ軌道の補修方法。
【請求項5】
前記てん充材吸収体が、厚さ1mm以上10mm以下の、膜状体または布状体あるいは可撓性を有する板体であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載のスラブ軌道の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブ軌道において、コンクリート製の路盤上に設けられた突起部と、これに嵌め合わされた軌道スラブの凹部との間に、経年で生じる上下方向の隙間を補修する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道用の軌道として、コンクリート製の路盤上に形成されたセメントアスファルトモルタル(CAモルタル)によるてん充層と、てん充層上に設置されたコンクリート製の軌道スラブ(以下、スラブ板とも言う)とを有し、スラブ板上に軌道(レール)が締結された、スラブ軌道が知られている(例えば、特許文献1,2等を参照。)。
【0003】
図6に例示するように、スラブ軌道10では、上面である路盤面上に、軌道スラブ1の位置規制用の、円柱状または半円柱状の突起部2が設けられている。また、軌道スラブ(スラブ板)1の長手方向である軌道敷設方向の両端部には、断面半円状の凹部1aがそれぞれ形成されている。そして、スラブ軌道10の敷設において、軌道スラブ1は、路盤7との間に形成された下側てん充層9により、路盤7に接合されるとともに、端部の凹部1aを、路盤7の突起部2に係合させることにより、コンクリート路盤上における軌道スラブの、横方向への移動が拘束(規制)されている。
【0004】
路盤7上の突起部2の外周面2aと、軌道スラブ1の端部の凹部1aの内周面1bとの間にできる、半円環状の間隙は、以下のように充填される(特許文献3を参照)。
【0005】
まず、不織布を縫製または接着などして形成された、上方開口のてん充層形成用袋体8(図7を参照)を、上述の「間隙」に差し込む。つぎに、この開口から袋体8内に、CAモルタルやウレタン系樹脂等からなる、てん充材(図示省略)を流し込んで、硬化させる。これにより、路盤7の突起部2と軌道スラブ1の凹部1aとの間の縦方向の間隙に、てん充材が硬化・固化した固体層(てん充層3という)が形成される。なお、袋体8の内周面1bと突起部2の外周面2aとの間、および、袋体8の外周面2aと凹部1aの内周面1bとの間は、接着剤等を用いて、予め接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-167421号公報
【文献】特開2013-36303号公報
【文献】特開2016-223240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述の、路盤の突起部周りには、鉄道車両による荷重や振動あるいは気温差による膨張や収縮等が加わるため、経年で、てん充層(袋体)の内周面と突起部の外周面との間、および、てん充層(袋体)の外周面と凹部の内周面との間が離間して、縦方向(上下方向)の隙間が生じる。
【0008】
この上下方向の隙間は、鉄道車両の通行時に、軌道スラブおよびその上を通行する鉄道車両に振動や動揺を発生させるおそれがあるため、隙間が生じた場合は、この隙間にてん充材等を充填(補填)する補修作業を行う必要がある。しかしながら、前述の上下方向の隙間は、軌道スラブ(スラブ板)の長手方向の端面や、路盤との接合面である、軌道スラブの下面にまで達しているものが多く、補修作業で充填したてん充材が、軌道スラブの端面側や下面側に漏れ出して、隙間が充分に充填されない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上面である路盤面上に、円柱状または半円柱状の突起部を有するコンクリート製の路盤と、軌道敷設方向である長手方向の端部に、前記突起部の外周形状に対応する断面半円状の凹部を有する軌道締結用の軌道スラブと、水平方向に嵌め合わされた前記路盤の前記突起部と前記軌道スラブの前記凹部との間に充填されて硬化したてん充層と、を備えるスラブ軌道において、
前記てん充層と前記路盤の前記突起部との間、もしくは、前記てん充層と前記軌道スラブの前記凹部との間に生じた、上下方向の隙間に、反応性合成樹脂化合物で構成された樹脂を調製した補修用てん充材を充填して補修する、スラブ軌道の補修方法であって、
前記隙間は、前記内側突起部の半円状の突起部および同心円状の凹部の径方向の幅が、1~10mmであり、
前記隙間に、前記補修用てん充材を吸収もしくは一時的に保持可能な、てん充材吸収体を挿入する吸収体挿入ステップと、
前記てん充材吸収体が充填された前記隙間に、前記調製した補修用てん充材を注入するてん充材注入ステップと、
前記隙間に注入した前記補修用てん充材の硬化を待機する養生ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のスラブ軌道の補修方法は、前記吸収体挿入ステップの実行前に、前記補修用てん充材を前記てん充材吸収体に含浸させ、前記補修用てん充材の一部を前記てん充材吸収体に吸収または保持させるてん充材含浸ステップを、備えていてもよい。
【0011】
また、本発明のスラブ軌道の補修方法は、前記てん充材挿入ステップと前記吸収体充填ステップとを連続して実行した後、前記てん充材注入ステップの実行前に、前記てん充材吸収体に含浸させた前記補修用てん充材の硬化を待機する待機ステップを、備えていてもよい。
【0012】
さらに、本発明のスラブ軌道の補修方法は、前記補修用てん充材が、反応性合成樹脂化合物で構成されている場合、
前記てん充材含浸ステップにおいて前記てん充材吸収体に含浸させる前記補修用てん充材の粘度が、50~10000mPa・sに調製され、
前記てん充材注入ステップにおいて前記隙間に注入される前記補修用てん充材の粘度が、50~700mPa・sに調製されていることを特徴とする。
【0013】
そして、本発明のスラブ軌道の補修方法は、前記てん充材吸収体が、厚さ1mm以上10mm以下の、膜状体または布状体あるいは可撓性を有する板体である構成を、好適に採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスラブ軌道の補修方法によれば、補修用のてん充材の注入前に、てん充層と突起部との間あるいはてん充層と凹部との間に生じた上下方向の隙間に、てん充材を吸収もしくは一時的に保持可能な、てん充材吸収体が挿入されている。そのため、補修作業で上下方向の隙間に充填されたてん充材は、この隙間の外へ漏れ出ることなく、当該隙間の中で充分に硬化して、この隙間を挟んで対向する部材の間を接合することができる。
【0015】
また、本発明のスラブ軌道の補修方法のなかでも、前記吸収体挿入ステップの実行前に、前記補修用てん充材の一部を前記てん充材吸収体に吸収または保持させる、てん充材含浸ステップを備えている場合は、補修用てん充材を前記上下方向の隙間に注入した際の、この隙間からのてん充材の漏れを、より効率良く防止することができる。
【0016】
また、本発明のスラブ軌道の補修方法のなかでも、前記てん充材注入ステップの実行前に、前記てん充材吸収体に含浸させた前記補修用てん充材の硬化を待機する待機ステップを備えている場合は、前記上下方向の隙間からのてん充材の漏れを、より確実に防止することができる。
【0017】
なお、前記補修用てん充材が、反応性合成樹脂化合物で構成されている場合、前記てん充材含浸ステップにおいて前記てん充材吸収体に含浸させる前記補修用てん充材の粘度は、含浸およびその後の硬化に適した50~10000mPa・sとすることができる。また、前記てん充材注入ステップにおいて前記隙間に注入される前記補修用てん充材の粘度は、隙間への注入および充填に適した50~700mPa・sとすることができる。
【0018】
また、前記てん充材吸収体を、厚さ1mm以上10mm以下の、膜状体または布状体あるいは可撓性を有する板体とした場合、このてん充材吸収体の、前述の上下方向の隙間への挿入を、より容易にかつ短時間で行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態のスラブ軌道の補修方法のステップを示すフロー図である。
図2】実施形態のスラブ軌道における路盤の突起部周辺を拡大した平面図である。
図3】スラブ軌道の路盤の突起部周辺に生じる隙間を説明する平面図である。
図4】スラブ軌道の路盤の突起部周辺で、てん充層と、突起部または凹部との間に生じる隙間を説明する、縦方向の断面図である。
図5】上下方向の隙間に挿入されたてん充材吸収体を示す図である。
図6】スラブ軌道の路盤の突起部周辺の斜視図である。
図7】路盤の突起部と軌道スラブの凹部との間にてん充層を形成するための袋体を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について図を用いて説明する。
実施形態のスラブ軌道の補修方法は、図2の平面図に示すように、スラブ軌道10における、突起部2と凹部1aとの間に充填されたてん充層3と路盤7の前記突起部2との間、もしくは、てん充層3と軌道スラブ1の前記凹部1aとの間に、経年で生じた上下方向の隙間Sに、図4の縦方向断面図に示すような、補修用のてん充材B(B2)を充填する、補修方法である。
【0021】
以下、図1に示す具体的なフローに沿って、実施形態のスラブ軌道の補修方法を説明する。なお、この図1において、点線(鎖線)で囲まれた各ステップは、省略可能なステップであることを示す。
【0022】
[てん充材含浸ステップ]
まず、吸収体挿入ステップを行う前に、補修用てん充材B1を、用意したてん充材吸収体6(詳細は後記)に含浸させ、補修用てん充材B1の一部をてん充材吸収体6に吸収または保持させる、てん充材含浸ステップを実行する。なお、このてん充材含浸ステップを行わず、直接、後記の「吸収体挿入ステップ」に進んでもよい。
【0023】
補修用のてん充材B1としては、反応性(反応硬化性)を有する樹脂化合物または樹脂組成物を、幅広く利用することができる。たとえば、反応性を有する樹脂として、エポキシ樹脂、ポリオール樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、イソシアネート樹脂、アミノ樹脂などが挙げられる。
【0024】
また、てん充材吸収体6に含浸させる補修用てん充材B1は、含浸前に、その粘度が50~10000mPa・sの、比較的高粘度になるように調製される。この粘度とすることにより、補修用てん充材B1は、てん充材吸収体6に充分に保持されるようになる。
【0025】
補修用てん充材B1の、含浸前(できれば直前)の粘度が、50mPa・s未満であると、含浸後または隙間Sに挿入する際に、補修用てん充材B1がてん充材吸収体6から流れ出してしまい、てん充材漏洩防止効果が失われるおそれがある。また、補修用てん充材B1の粘度が、10000mPa・sを超えると、含浸させるための作業時間が長くなってしまう。含浸直前に粘度を調整するために、適宜、溶剤や希釈剤等を用いてもよい。
【0026】
なお、てん充材含浸ステップは、省略も可能であるが、できる限り行うことが望ましい。その理由は、てん充材を含浸させることで、上下方向の狭い隙間Sに挿入する際も、含浸させたてん充材が潤滑剤となって、挿入の際に発生する摩擦抵抗が軽減され、作業が容易になるからである。また、含浸させたてん充材は、補修用てん充材の漏洩を防止する効果を高める。この効果については後記で説明する。
【0027】
[吸収体挿入ステップ]
つぎに、前述のように補修用てん充材B1を含浸させたてん充材吸収体6、または、含浸させていないてん充材吸収体6を用いて、路盤7の突起部2の周りに経年で生じた上下方向の隙間Sに、いずれかのてん充材吸収体6を挿入する、吸収体挿入ステップを実行する。
【0028】
てん充材吸収体6を挿入する上下方向の隙間Sとしては、図3の平面図に示すように、硬化したてん充層3(袋体8)と、内側の突起部2との間に生じる内側隙間4と、てん充層3(袋体8)と、外側の軌道スラブ1との間に生じる外側隙間5とがある。隙間Sは、これら上下方向の隙間を総称するものである。隙間S(内側隙間4および外側隙間5)は、半円状の突起部2および同様(同心円状)の凹部1aの径方向に、幅20mm以下、たとえば1~10mm程度の幅の隙間Sが生じるものと想定されている。
【0029】
吸収体挿入ステップでは、この隙間Sに、用意したてん充材吸収体6(含浸ありまたは含浸なし)を押し込み、充填する。てん充材吸収体6として使用可能な部材としては、てん充材を吸収もしくは一時的に保持可能であればよく、たとえば柔軟性のある繊維体または合成樹脂製の発泡体を用いることができる。
【0030】
繊維体としては、たとえば毛糸、麻糸、綿糸等の天然繊維または合成繊維等からなる、織布あるいは不織布を、幅広く利用することができる。
【0031】
発泡体を構成する樹脂としては、たとえばポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステルなどを好適に使用することができる。
【0032】
なお、てん充材吸収体6を構成する材料・素材は、樹脂(てん充材)を含浸することが可能であればよく、他の材料や素材等を用いてもよい。また、てん充材吸収体6の形状は、厚さ1mm以上10mm以下の、膜状体または布状体あるいは可撓性を有する板体であることが好ましい。厚さが1mm未満であると、漏洩防止効果が不足するおそれがある。また、厚さが10mmを超えるものであると、隙間Sに挿入することが難しくなる可能性がある。
【0033】
[待機ステップ]
隙間Sへの挿入前に、てん充材吸収体6に補修用てん充材B1を含浸させる「てん充材含浸ステップ」を行った際は、つぎの「てん充材注入ステップ」を行う前に、てん充材吸収体6に含浸させた補修用てん充材B1の硬化を待機する、待機ステップを実行する。なお、先にも述べたが、「てん充材含浸ステップ」を行っていない場合、この待機ステップは省かれ、つぎの「てん充材注入ステップ」が実行される。
【0034】
この待機ステップを実行して、含浸させた補修用てん充材B1の硬化を待機した場合、隙間Sとこの隙間Sを構成する相手部材、すなわち、挿入したてん充材吸収体6と接触する突起部2の外周面2a側の界面、および、てん充材吸収体6と接触する凹部1aの内周面1b側界面、ならびに、てん充材吸収体6と隙間Sの底部(底面)との界面に、後に注入する補修用てん充材B2の漏洩を防止する漏洩防止部となる「てん充材の膜」(層または壁でもよい)が形成される。これにより、てん充材の漏洩を、より確実に防止することができる。
【0035】
[てん充材注入ステップ]
つぎに、既にてん充材吸収体6が充填された隙間Sに、調製した補修用てん充材B2を注入する、てん充材注入ステップを実行する。これにより、てん充材が、前述の上下方向の隙間Sの中に、すきまなく行き渡り、隙間Sを、てん充材により完全に充填することができる。
【0036】
補修用のてん充材B2としては、前述のてん充材B1と同じ、反応性(反応硬化性)を有する樹脂化合物または樹脂組成物を、使用することができる。たとえば、反応性を有する樹脂として、エポキシ樹脂、ポリオール樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、イソシアネート樹脂、アミノ樹脂などが挙げられる。なお、てん充材B2は、てん充材T1と異なるものであってもよい。たとえば、てん充材B2として、CAモルタル等を用いてもよい。
【0037】
また、隙間Sに直接注入される補修用てん充材B2は、注入前に、その粘度が通常50~1000mPa・s程度、好ましくは50~700mPa・sの、比較的低粘度になるように調製される。この粘度とすることにより、補修用てん充材B2は、てん充材吸収体6が充填された隙間Sに容易に浸入し、充分に行き渡る(滲み込む)ことができる。
【0038】
なお、補修用てん充材B2の、注入前(できれば直前)の粘度が、50mPa・s未満であると、てん充材B2が、てん充材吸収体6を通って隙間Sから流れ出してしまい、充分に充填されないおそれがある。また、補修用てん充材B2の粘度が、700mPa・sを超えると、注入にかかる作業時間が長くなってしまう。てん充材B1同様、含浸直前に粘度を調整するために、適宜、溶剤や希釈剤等を使用してもよい。
【0039】
補修用てん充材B(B1,B2)は、粘度調整や硬度調整のための顔料、濡れ性向上、泡抜け性向上のための消泡剤、密着性付与のための表面張力調整剤、シランカップリング剤等の添加剤を、適宜配合することができる。
【0040】
[養生ステップ]
つぎに、養生ステップを実行して、隙間Sに注入・充填した補修用てん充材B2の、完全な硬化(固化)を、完成させる。
【0041】
以上の実施形態のスラブ軌道の補修方法によれば、補修用のてん充材の注入前に、突起部2周りに生じた上下方向の隙間Sに、てん充材を保持するてん充材吸収体6が予め挿入されているため、注入されたてん充材は、この隙間Sの外へ漏れ出ることなく、当該隙間Sの中で硬化して、この隙間Sを挟んで対向する部材の間を、充分にかつ強固に接合する。
【実施例
【0042】
実施例として、対向するように立てて配置した、2つのコンクリート板の間に、前述の突起部とてん充層との間に形成される「隙間」を模した、幅1~10mmの縦方向(垂直方向)の隙間を作成し、この隙間を利用して、実施形態に記載の補修方法の効果を実証する試験を行った。以下にその詳細を説明する。
【0043】
実施例1~9および比較例1における、2つのコンクリート板(高さ300mm×横幅600mm、60mm厚)を、水平方向に離間して対向するよう配置し、その間の「隙間」の幅(水平方向距離)を、1~10mmとした。
【0044】
使用したてん充材は、以下のとおりである。なお、「表1」におけるB1は吸収体含浸用、B2は隙間注入用である。
(1)シントーオービット S〔神東塗料株式会社製 ポリエステル樹脂系〕
粘度300mPa・sに調製
(2)シントーオービット S-F 〔神東塗料株式会社製 ポリエステル樹脂系〕
粘度50mPa・sに調製
(3)シントーオービット S-T 〔神東塗料株式会社製 ポリエステル樹脂系〕
粘度10000mPa・sに調製
(4)SP-107T 〔神東塗料株式会社製 ポリエステル樹脂系〕
粘度700mPa・sに調製
【0045】
行った実施例1~9および比較例1について、下記の「表1」および「表2」に、「隙間の幅」、「てん充材吸収体」の材料と、含浸(てん充材含浸ステップおよび待機ステップ)の有無の、各試験条件を、まとめて記載した。
【0046】
なお、隙間にてん充材を注入した際の、てん充材の漏れを、漏れがない場合を「S」、漏れが発生した場合を「F」で記載した。
【0047】
また、補修作業の際の、てん充材吸収体を隙間に挿入する際の容易さ、および、てん充材を隙間に注入する際の容易さを、作業にかかったおおよその時間から判断し、「補修の作業性」として評価した。「問題なし」を「S」、「容易でない(難しい)」を「F」とする。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
結果は、実施例1~9はいずれも、補修作業が容易であり、樹脂漏洩も生じなかった。これに対して、「てん充材吸収体」を用いない補修方法をとった比較例1は、樹脂漏洩が生じ、隙間の補修ができなかった。
【符号の説明】
【0051】
1 軌道スラブ(スラブ板)
1a 凹部
1b 内周面
2 突起部
2a 外周面
3 てん充層
4 内側隙間(補修箇所)
5 外側隙間(補修箇所)
6 てん充材吸収体
7 路盤
8 てん充層形成用袋体
9 下側てん充層
10 スラブ軌道
S 隙間
B てん充材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7