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特許7274718輸送管の耐摩耗性向上方法、磁性ビーズ、及び磁力発生装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】輸送管の耐摩耗性向上方法、磁性ビーズ、及び磁力発生装置
(51)【国際特許分類】
   F16L 57/00 20060101AFI20230510BHJP
   B65G 53/52 20060101ALI20230510BHJP
   F16L 57/06 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
F16L57/00 B
B65G53/52
F16L57/06
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2018156925
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2019044966
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2017164988
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一比古
(72)【発明者】
【氏名】小野 正夫
(72)【発明者】
【氏名】高野 慧
(72)【発明者】
【氏名】正信 聡太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 譲司
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-026436(JP,U)
【文献】特開2012-153491(JP,A)
【文献】国際公開第2016/151719(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/125254(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 57/00
B65G 53/52
F16L 57/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、前記輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を前記摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された前記箇所の前記輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、前記輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により前記磁力発生器の磁力を調整して前記輸送管の前記内壁上に前記磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップとを備え、前記磁性ビーズが、球又は碁石型体であり、かつ前記球体又は前記碁石型体の形状及び寸法並びに磁性が所定の範囲の管理されたものであることを特徴とする輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項2】
前記形状及び前記寸法並びに前記磁性が同じ単一の種類の前記磁性ビーズを用いて、前記保護層を1層又は複数層形成することを特徴とする請求項1に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項3】
前記形状及び前記磁性が同じで前記寸法が異なる複数の種類の前記磁性ビーズを用いて、前記保護層を1層又は複数層形成することを特徴とする請求項1に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項4】
前記形状及び前記磁性が同じ前記複数の種類の前記磁性ビーズのうちの1つの寸法の前記磁性ビーズ同士で形成される空間を効率よく埋める他の寸法の前記磁性ビーズを使用して前記保護層を形成することを特徴とする請求項3に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項5】
単一径の前記磁性ビーズを稠密に配置したことを特徴とする請求項2に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項6】
摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、前記輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を前記摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された前記箇所の前記輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、前記輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により前記磁力発生器の磁力を調整して前記輸送管の前記内壁上に前記磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップとを備え、複数個の前記磁性ビーズを、保持力を有したシートに配置して予めシート状成型体として準備し、前記シート状成型体を前記輸送管の内部に供給して前記保護層を形成することを特徴とする輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項7】
前記保護層形成ステップを終えた後に、前記輸送管を稼働する稼働ステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項8】
摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、前記輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を前記摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された前記箇所の前記輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、前記輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により前記磁力発生器の磁力を調整して前記輸送管の前記内壁上に前記磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップと、前記輸送管の前記保護層の欠損又は前記保護層からの前記磁性ビーズの脱落を検出する検出ステップとを備え、前記検出ステップで前記欠損又は前記脱落を検出した場合には、前記輸送管の内部に前記磁性ビーズをさらに供給することを特徴とする輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項9】
前記保護層形成ステップにおいて、前記保護層の形成状況を確認して前記磁力調整手段により前記磁力発生器の前記磁力を調整することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項10】
摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、前記輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を前記摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された前記箇所の前記輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、前記輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により前記磁力発生器の磁力を調整して前記輸送管の前記内壁上に前記磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップとを備え、前記保護層形成ステップにおいて、前記保護層の形成状況を確認して前記磁力調整手段により前記磁力発生器の前記磁力を調整するとともに、上流側で供給した前記磁性ビーズの数及び下流側を通過する前記磁性ビーズの数を計数し、両者の差分に基づいて前記保護層の前記形成状況を確認することを特徴とする輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項11】
摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、前記輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を前記摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された前記箇所の前記輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、前記輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により前記磁力発生器の磁力を調整して前記輸送管の前記内壁上に前記磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップとを備え、前記保護層形成ステップにおいて、前記保護層の形成状況を確認して前記磁力調整手段により前記磁力発生器の前記磁力を調整するとともに、前記磁性ビーズを供給する前に前記箇所から前記摩耗性物質により発生する衝突音と、前記磁性ビーズを供給した後に前記箇所から前記摩耗性物質により発生する前記衝突音との相違に基づいて前記保護層の前記形成状況を確認することを特徴とする輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項12】
前記輸送管が非磁性体の場合、又は強磁性体の薄肉管の場合に、前記磁力発生器により前記輸送管の管壁に沿って生じるN極とS極との間隔が前記輸送管の管板厚と同等又はそれ以上となるように前記外壁に設置することを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項13】
摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、前記輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を前記摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された前記箇所の前記輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、前記輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により前記磁力発生器の磁力を調整して前記輸送管の前記内壁上に前記磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップとを備え、前記輸送管が強磁性体で、かつその管板厚が前記磁力発生器により前記輸送管の管壁に沿って生じるN極とS極との間隔以上の場合に、前記N極と前記S極との間の前記輸送管に貫通穴を設け、前記貫通穴に非磁性体のセパレータを嵌合させることを特徴とする輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項14】
前記セパレータを透明な材料で構成することを特徴とする請求項13に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項15】
前記輸送管の直管部の前記内壁の局所的な摩耗が進行しやすい前記箇所に、前記磁性ビーズの前記保護層を形成することを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項16】
前記輸送管の屈曲管部の前記内壁の局所的な摩耗が進行しやすい前記箇所に、前記磁性ビーズの前記保護層を形成することを特徴とする請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法。
【請求項17】
請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法に用いる前記磁性ビーズであって、前記磁性ビーズを構成する前記球体又は碁石型体を強磁性体又は永久磁石を基材として形成することを特徴とする磁性ビーズ。
【請求項18】
前記強磁性体の粒子が、ゴム、樹脂、金属、又はセラミックスを含む1種又は複数種の材料中に混合された状態で含まれていることを特徴とする請求項17に記載の磁性ビーズ。
【請求項19】
前記強磁性体又は前記永久磁石が、ゴム、樹脂、金属、又はセラミックスを含む1種又は複数種の材料で被覆されていることを特徴とする請求項17に記載の磁性ビーズ。
【請求項20】
前記磁性ビーズの外径が前記輸送管の内径の1/10以下であることを特徴とする請求項17から請求項19のいずれか1項に記載の磁性ビーズ。
【請求項21】
複数個の前記磁性ビーズが、保持力を有した前記シートに配置されて前記シート状成型体を成していることを特徴とする請求項6を引用する請求項17から請求項20のいずれか1項に記載の磁性ビーズ。
【請求項22】
請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法に用いる磁力発生装置であって、前記磁力発生器として複数の永久磁石及び継鉄と、前記磁力調整手段として複数の前記永久磁石の前記継鉄及び前記輸送管に対する磁極の相対的位置を一括して調整する調整機構とを備えたことを特徴とする磁力発生装置。
【請求項23】
前記永久磁石として円柱型永久磁石を用い、前記調整機構として前記円柱型永久磁石の磁石回転軸を中心に回転させる機構を用いることを特徴とする請求項22に記載の磁力発生装置。
【請求項24】
前記永久磁石としてネオジム磁石を用いたことを特徴とする請求項22又は請求項23に記載の磁力発生装置。
【請求項25】
請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の輸送管の耐摩耗性向上方法に用いる磁力発生装置であって、前記磁力発生器として複数の電磁石と、前記磁力調整手段として前記磁力を電気的に調整する制御手段とを備えたことを特徴とする磁力発生装置。
【請求項26】
前記制御手段は、前記電磁石に流す電流を調整する及び/又は前記電磁石をオン/オフすることを特徴とする請求項25に記載の磁力発生装置。
【請求項27】
前記制御手段は、前記保護層の状態を検出する保護層検出手段を有し、前記保護層の状態の検出結果に基づいて前記磁力を調整する及び/又は前記検知結果を報知することを特徴とする請求項25又は請求項26に記載の磁力発生装置。
【請求項28】
前記磁力調整手段が、前記保護層の形成に必要な吸着磁束密度、及び前記吸着磁束密度以上の前記保護層の保持に必要な保持磁束密度に調整可能であることを特徴とする請求項22から請求項27のいずれか1項に記載の磁力発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形物等の摩耗性物質と液体との混合物であるスラリー、又は粉体若しくはペレット等の摩耗性物質の輸送に用いる輸送管の耐摩耗性向上方法、磁性ビーズ、及び磁力発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海底で掘削した鉱石等を海上の船舶へ輸送する際や、各種プラントにおいてスラリー、粉体又はペレット等を輸送する際には、輸送管が用いられる。
図31は各種の輸送管の概略図であり、図31(a)、(b)は曲がり部分を有する輸送管を示し、図31(c)は曲がり部分を有さない輸送管を示している。
【0003】
図31(a)における輸送管100は、曲がり部分を有しない第1直管部101及び第2直管部102と、曲がり部分を有する第1屈曲管部103及び第2屈曲管部104とを備える。第1直管部101の下流側端部に第1屈曲管部103が接続され、第1屈曲管部103の下流側端部に第2屈曲管部104が接続され、第2屈曲管部104の下流側端部に第2直管部102が接続されている。
図31(b)における輸送管200は耐摩耗ホースであり、端部がそれぞれ継手201、202を介して配管に接続されている。輸送管200は、一方の継手201と他方の継手202との間に4カ所の曲がり部分を有する。
図31(c)における輸送管300は、端部がそれぞれ継手301、302を介して配管に接続されている。輸送管300は、一方の継手301と他方の継手302との間に曲がり部分を有さない。
【0004】
スラリー、粉体又はペレット等の摩耗性物質を金属製配管やホース等、各種の輸送管により輸送する場合、特に輸送管の曲率が大きくなっているところの曲がり外側部分(図31(a)及び図31(b)の長円で囲んだ部分a)では、輸送管100、200の内面がスラリー中の固形物、粉体又はペレット等の衝突により局所的に著しい摩耗損傷を受けて短時間で使用不能となり、輸送管100、200の交換を余儀なくされるおそれがある。輸送管100、200の部分的な交換作業はそれ自体煩雑であるのと同時に、作業中の全体システム停止に伴う時間的・経済的損失も甚大となる。
一方、液相に比べて固相の比重が大きいスラリーやペレットなどの固形物を輸送する場合には、曲がり部分を有しない直管部においても重力の影響により摩耗の進行が輸送管300の内壁の鉛直下側(図31(c)の長円で囲んだ部分b)に偏り、内壁の上側や側面には問題がなくても下側の摩耗が限界に達した時点で輸送管300全体が使用不能となってしまう。
従って、各種の輸送管を摩耗性物質の輸送に用いる場合には、内壁の局所的摩耗による破損を避けて輸送管全体としての稼働をできるだけ長く維持し、寿命を延伸させるような対策をとることが必要である。
【0005】
ここで、特許文献1には、製鉄業の製銑工場や製鋼工場で製鉄原料として使用される製鉄原料粒子を気送する配管の湾曲部の摩耗損傷を防止することを目的として、配管の湾曲部の外壁面又は内壁面に全弧長にわたって磁石を配設又は埋設し、製鉄原料粒子に含まれる磁性体粒子を湾曲部の内壁面に磁着させて内壁面に被覆層を形成する方法が開示されている。
また、特許文献2には、ごみ空気輸送管の曲管の摩耗損傷を防止することを目的として、曲管の外側の外面に磁石を貼付けるか又は曲管外側部を磁化し、ごみ中の鉄片を管壁に付着させて内壁面に被覆層を形成する方法が開示されている。
また、特許文献3には、曲管の摩耗損傷を低減することを目的として、曲管の屈曲部に磁石を取り付け、管内を流れる粉粒体の中の磁性粒子を内壁面に付着させて被覆層を形成する方法が開示されている。
また、特許文献4には、輸送管の摩耗損傷を防止することを目的として、流路壁の外面部に複数個の磁石を取り付け、表面処理装置等に使用される鉄鋼製ショットの一部を吸着して内壁面に被覆層を形成する方法が開示されている。
また、特許文献5には、ろ過した磁性異物を配管外に容易に排出することを目的として、油圧機器へ圧油が流れる配管の外周部にコイルを巻回した電磁石を装着するとともに配管の内周部に磁性体製のシートを挿入しておき、圧油中に混入している磁性異物をシートに吸着させた後に該シートを配管外に取り出す方法が開示されている。
また、特許文献6には、ゴムホースの耐摩耗性向上を目的として、球状又は長球状のセラミックス玉を数珠状に連結し、ゴムホース内面のゴム層内部に埋設して、セラミックス埋設層を構成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-153491号公報
【文献】実願昭59-183586号(実開昭61-98707号)のマイクロフィルム
【文献】実願昭57-119972号(実開昭59-26436号)のマイクロフィルム
【文献】実願昭49-3715号(実開昭50-91279号)のマイクロフィルム
【文献】特開2006-258224号公報
【文献】実願昭62-102187号(実開昭64-7527号)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~4のように、流体中に含まれる磁性粒子を用いて輸送管の内壁面に保護層を形成すると、保護層の厚さが連続的に変化するため、保護層の厚さを把握して制御することは困難である。また、保護層の形成状況を確認しようとすれば、輸送管内を直接観察するしかない。また、流体が水等の液相を含む場合、磁性粒子が堆積後に電気化学的変化を起こしてスラッジ状や塊状になるおそれがあるとともに、これにより輸送管の内壁を腐食させるおそれもある。また、磁性粒子は鋭い角部を有する摩耗性粒子であるから、保護層が摺動することにより輸送管の内壁が摩耗するおそれがある。また、磁性粒子が堆積後に電気化学的変化のような経時変化を起こすと、輸送管に設けた磁石の磁力を取り去っても、スラッジ状や塊状となった磁性粒子を除去できなくなるおそれがある。また、磁性粒子が堆積後に電気化学的変化のような経時変化を起こすと、保護層の厚さを制御できなくなり、輸送管の流路を閉塞するおそれがある。
【0008】
また、特許文献5は、油中に含まれる磁性異物を除去するものであり、輸送管の局所的摩耗による破損を防止しようとするものではない。
【0009】
また、特許文献6は、セラミック埋設層を既設の輸送管の内面に後付けすることは困難であるため、既設の輸送管には適用できない。また、輸送管の内面全体にわたってセラミック埋設層を設けるものであるため、大量のセラミックス玉が必要となる。さらに、セラミックス玉が局所的に摩滅した場合でもセラミックス玉を補充することはできないため、セラミックス玉の摩滅により露出した箇所の摩耗損傷が進行して輸送管の交換が必要となってしまう。
【0010】
そこで本発明は、内壁の局所的な摩耗損傷を防止して輸送管の寿命を延伸させることのできる輸送管の耐摩耗性向上方法、磁性ビーズ、及び磁力発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載に対応した輸送管の耐摩耗性向上方法においては、摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された箇所の輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により磁力発生器の磁力を調整して輸送管の内壁上に磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップとを備え、磁性ビーズが、球又は碁石型体であり、かつ球体又は碁石型体の形状及び寸法並びに磁性が所定の範囲の管理されたものであることを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、管内流体に含まれる磁性粒子ではなく、摩耗性物質とは別の保護層形成用の専用の磁性ビーズを用いて保護層を形成するため、保護層の厚みや密度を的確に形成することができ、形成状況を把握して容易に制御することができる。よって、局所的な摩耗が進行しやすい箇所を効果的に保護して輸送管の寿命を延伸させることができる。また、形状や寸法、磁性が任意のものでなく所定の範囲の管理されたものであるため、保護層の形成が的確にでき、形成状況をさらに正確に把握して制御しやすくなるため、輸送管の局所的な摩耗が進行しやすい箇所をより一層効果的に保護することができる。
【0012】
請求項2記載の本発明は、形状及び寸法並びに磁性が同じ単一の種類の磁性ビーズを用いて、保護層を1層又は複数層形成することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、磁性ビーズを単一の種類とすることで、磁性ビーズの管理や保護層の形成状況の把握等が容易となる。なお、磁性ビーズの「種類」は、形状、寸法、磁性又は材質等によって分類する。また、保護層を複数層形成した場合には、隣接する磁性ビーズ同士の間に生じる空間(隙間)を少なくして保護層をより密に形成することができる。
【0013】
請求項3記載の本発明は、形状及び磁性が同じで寸法が異なる複数の種類の磁性ビーズを用いて、保護層を1層又は複数層形成することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、輸送管の材質や稼働条件に応じて磁性ビーズの種類を組み合わせて用いることで、保護層を複数層形成する場合はもちろんのこと、1層形成する場合であっても密に形成することができる。
【0014】
請求項4記載の本発明は、形状及び磁性が同じ複数の種類の磁性ビーズのうちの1つの寸法の磁性ビーズ同士で形成される空間を効率よく埋める他の寸法の磁性ビーズを使用して保護層を形成することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、磁性ビーズと磁性ビーズの間に生じる空間(隙間)を小さくし、保護層をさらに密に形成することができる。
【0015】
請求項5記載の本発明は、単一径の磁性ビーズを稠密に配置したことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、磁性ビーズと磁性ビーズの間に生じる空間(隙間)を小さくし、保護層をさらに密に形成し保持力も高めることができる。
【0016】
請求項6記載に対応した輸送管の耐摩耗性向上方法においては、摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された箇所の輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により磁力発生器の磁力を調整して輸送管の内壁上に磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップとを備え、複数個の磁性ビーズを、保持力を有したシートに配置して予めシート状成型体として準備し、シート状成型体を輸送管の内部に供給して保護層を形成することを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、磁性ビーズを、例えばシートに規則正しく稠密に配置した状態や、2層重ねた形にした状態で輸送管の内部に供給することができるため、保護層を所望の厚みや密度に形成しやすくなり、ばらの状態よりも磁力による吸着性能を良好なものとし、輸送管をより効果的に保護することができる。
また、シートを軟質の基材とした場合には、保護層を形成した後、磨耗性物質の衝突によりシートが次第に摩滅して保持機能を失い、磁性ビーズをばらばらの状態とすることができるため、回収等が容易にできる。
【0017】
請求項7記載の本発明は、保護層形成ステップを終えた後に、輸送管を稼働する稼働ステップをさらに備えたことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、保護層が予め形成された状態の輸送管に摩耗性物質が流れるため、輸送管の局所的な摩耗損傷を稼働当初から防止することができる。
【0018】
請求項8記載に対応した輸送管の耐摩耗性向上方法においては、摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された箇所の輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により磁力発生器の磁力を調整して輸送管の内壁上に磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップと、輸送管の保護層の欠損又は保護層からの磁性ビーズの脱落を検出する検出ステップとを備え、検出ステップで欠損又は脱落を検出した場合には、輸送管の内部に磁性ビーズをさらに供給することを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、欠損箇所又は脱落個所には磁性ビーズが補われるため、保護層を適切に形成又は維持することができる。
【0019】
請求項9記載の本発明は、保護層形成ステップにおいて、保護層の形成状況を確認して磁力調整手段により磁力発生器の磁力を調整することを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、磁力が弱すぎて保護層が適切に形成されなかったり、磁力が強すぎて保護層が輸送管の流路を閉塞するほど多重層となったりすることを防止できる。
【0020】
請求項10記載に対応した輸送管の耐摩耗性向上方法においては、摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された箇所の輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により磁力発生器の磁力を調整して輸送管の内壁上に磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップとを備え、保護層形成ステップにおいて、保護層の形成状況を確認して磁力調整手段により磁力発生器の磁力を調整するとともに、上流側で供給した磁性ビーズの数及び下流側を通過する磁性ビーズの数を計数し、両者の差分に基づいて保護層の形成状況を確認することを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、目視により又はカメラやファイバースコープ等を用いて輸送管の内部を直接確認することなく、稼働前若しくは稼働中に保護層の形成状況を確認することができる。
【0021】
請求項11記載に対応した輸送管の耐摩耗性向上方法においては、摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された箇所の輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により磁力発生器の磁力を調整して輸送管の内壁上に磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップとを備え、保護層形成ステップにおいて、保護層の形成状況を確認して磁力調整手段により磁力発生器の磁力を調整するとともに、磁性ビーズを供給する前に箇所から摩耗性物質により発生する衝突音と、磁性ビーズを供給した後に箇所から摩耗性物質により発生する衝突音との相違に基づいて保護層の形成状況を確認することを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、目視により又はカメラやファイバースコープ等を用いて輸送管の内部を直接確認することなく、稼働中に保護層の形成状況を確認することができる。なお、保護層を予め形成した後に稼働を開始する場合は、保護層を形成する前に衝突音確認のための摩耗性物質を所定時間流して衝突音を確認しておけばよい。
【0022】
請求項12記載の本発明は、輸送管が非磁性体の場合、又は強磁性体の薄肉管の場合に、磁力発生器により輸送管の管壁に沿って生じるN極とS極との間隔が輸送管の管板厚と同等又はそれ以上となるように外壁に設置することを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、磁石又は継鉄のN極から出て磁石又は継鉄のS極に向かう磁力線は、輸送管に吸収されることなく十分な強度を保ったまま輸送管の内部にまで達することができる。
【0023】
請求項13記載に対応した輸送管の耐摩耗性向上方法においては、摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管の耐摩耗性向上方法であって、輸送管の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を摩耗性物質の比重を考慮し直管部も含めて特定する摩耗箇所特定ステップと、特定された箇所の輸送管の外壁に磁力発生器を設置する磁力発生器設置ステップと、輸送管の内部に複数個の磁性ビーズを供給する磁性ビーズ供給ステップと、磁力調整手段により磁力発生器の磁力を調整して輸送管の内壁上に磁性ビーズの保護層を形成する保護層形成ステップとを備え、輸送管が強磁性体で、かつその管板厚が磁力発生器により輸送管の管壁に沿って生じるN極とS極との間隔以上の場合に、N極とS極との間の輸送管に貫通穴を設け、貫通穴に非磁性体のセパレータを嵌合させることを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、磁石又は継鉄のN極から隣接する磁石又は継鉄のS極に向かう磁力線が輸送管に吸収されて短絡することを防止できる。
【0024】
請求項14記載の本発明は、セパレータを透明な材料で構成することを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、保護層の形成状況を輸送管の外側から視認することができる。
【0025】
請求項15記載の本発明は、輸送管の直管部の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所に、磁性ビーズの保護層を形成することを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、直管部の摩耗損傷を防止して輸送管の寿命を延伸させることができる。
【0026】
請求項16記載の本発明は、輸送管の屈曲管部の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所に、磁性ビーズの保護層を形成することを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、屈曲管部の摩耗損傷を防止して輸送管の寿命を延伸させることができる。
【0027】
請求項17記載に対応した磁性ビーズにおいては、磁性ビーズを構成する球体又は碁石型体を強磁性体又は永久磁石を基材として形成することを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、球体の磁性ビーズ同士の接触は点接触となるため、磁性ビーズが電気化学的変化等により経時変化してスラッジ状や塊状になることを防止できる。また、磁性ビーズと輸送管の内壁面との接触も点接触が可能となるため、磁性ビーズとの接触によって輸送管が腐食することを防止できる。また、磁性ビーズは角部の無い球体であるため、保護層を形成しようとする箇所まで輸送管の内壁を傷つけることなく移動して到達することができる。
【0028】
請求項18記載の本発明は、強磁性体の粒子が、ゴム、樹脂、金属、又はセラミックスを含む1種又は複数種の材料中に混合された状態で含まれていることを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、磁性ビーズの耐食性や耐衝撃性を向上させることができる。
【0029】
請求項19記載の本発明は、強磁性体又は永久磁石が、ゴム、樹脂、金属、又はセラミックスを含む1種又は複数種の材料で被覆されていることを特徴とする。
請求項19に記載の本発明によれば、磁性ビーズの耐食性や耐衝撃性を向上させることができる。
【0030】
請求項20記載の本発明は、磁性ビーズの外径が輸送管の内径の1/10以下であることを特徴とする。
請求項20に記載の本発明によれば、形成した保護層が摩耗性物質を含んだ管内流体の円滑な流れの妨げとなることを防止できる。
【0031】
請求項21記載の本発明は、複数個の磁性ビーズが、保持力を有したシートに配置されてシート状成型体を成していることを特徴とする。
請求項21に記載の本発明によれば、磁性ビーズを、例えばシートに規則正しく稠密に配置した状態や、2層重ねた形にした状態で輸送管の内部に供給することができるため、保護層を所望の厚みや密度に形成しやすくなり、ばらの状態よりも磁力による吸着性能を良好なものとし、輸送管をより効果的に保護することができる。
【0032】
請求項22記載に対応した磁力発生装置においては、磁力発生器として複数の永久磁石及び継鉄と、磁力調整手段として複数の永久磁石の継鉄及び輸送管に対する磁極の相対的位置を一括して調整する調整機構とを備えたことを特徴とする。
請求項22に記載の本発明によれば、永久磁石を用いた磁力発生器を提供することができる。また、この磁力発生器の磁力を調整機構によって簡便に精度よく制御することができる。
【0033】
請求項23記載の本発明は、永久磁石として円柱型永久磁石を用い、調整機構として円柱型永久磁石の磁石回転軸を中心に回転させる機構を用いることを特徴とする。
請求項23に記載の本発明によれば、円柱型永久磁石を調整機構を用いて回転させることによって、磁力発生器の磁力を容易に制御することができる。
【0034】
請求項24記載の本発明は、永久磁石としてネオジム磁石を用いたことを特徴とする。
請求項24に記載の本発明によれば、磁力発生器の吸着性能をより優れたものにすることができるとともに、輸送管の外壁から内部の磁性ビーズを吸着する場合の磁束密度の低下が少なくて済む。
【0035】
請求項25記載に対応した磁力発生装置においては、磁力発生器として複数の電磁石と、磁力調整手段として磁力を電気的に調整する制御手段とを備えたことを特徴とする。
請求項25に記載の本発明によれば、磁力を電気的に調整可能な電磁石を用いた磁力発生器を提供することができる。また、この磁力発生器の磁力を制御手段によって電気的に簡便に精度よく制御することができる。
【0036】
請求項26記載の本発明は、制御手段は、電磁石に流す電流を調整する及び/又は電磁石をオン/オフすることを特徴とする。
請求項26に記載の本発明によれば、制御手段は電流の調整や電源のオン/オフにより、容易に電磁石を制御することができる。
【0037】
請求項27記載の本発明は、制御手段は、保護層の状態を検出する保護層検出手段を有し、保護層の状態の検出結果に基づいて磁力を調整する及び/又は検知結果を報知することを特徴とする。
請求項27に記載の本発明によれば、磁力が弱すぎて保護層が適切に形成されなかったり、磁力が強すぎて保護層が輸送管の流路を閉塞するほど多重層となったりすることを防止できる。また、稼働中の磁性ビーズの欠損や脱落を検出して磁力を調整することができる。さらに、保護層の形成時の従事者に形成状況を知らせたり、輸送作業の従事者等に対して注意を喚起することができる。
【0038】
請求項28記載の本発明は、磁力調整手段が、保護層の形成に必要な吸着磁束密度、及び吸着磁束密度以上の保護層の保持に必要な保持磁束密度に調整可能であることを特徴とする。
請求項28に記載の本発明によれば、磁力発生器の磁力を磁性ビーズの吸着、保持に最適な強さとなるように調整し、保護層を良好な状態に形成、保持することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の輸送管の耐摩耗性向上方法によれば、管内流体に含まれる磁性粒子ではなく、摩耗性物質とは別の保護層形成用の専用の磁性ビーズを用いて保護層を形成するため、保護層の厚みや密度を的確に形成することができ、形成状況を把握して容易に制御することができる。よって、局所的な摩耗が進行しやすい箇所を効果的に保護して輸送管の寿命を延伸させることができる。また、形状や寸法、磁性が任意のものでなく所定の範囲の管理されたものであるため、保護層の形成が的確にでき、形成状況をさらに正確に把握して制御しやすくなるため、輸送管の局所的な摩耗が進行しやすい箇所をより一層効果的に保護することができる。
【0040】
また、形状及び寸法並びに磁性が同じ単一の種類の磁性ビーズを用いて、保護層を1層又は複数層形成する場合には、磁性ビーズを単一の種類とすることで、磁性ビーズの管理や保護層の形成状況の把握等が容易となる。また、保護層を複数層形成した場合には、隣接する磁性ビーズ同士の間に生じる空間(隙間)を少なくして保護層をより密に形成することができる。
【0041】
また、形状及び磁性が同じで寸法が異なる複数の種類の磁性ビーズを用いて、保護層を1層又は複数層形成する場合には、輸送管の材質や稼働条件に応じて磁性ビーズの種類を組み合わせて用いることで、保護層を複数層形成する場合はもちろんのこと、1層形成する場合であっても密に形成することができる。
【0042】
また、形状及び磁性が同じ複数の種類の磁性ビーズのうちの1つの寸法の磁性ビーズ同士で形成される空間を効率よく埋める他の寸法の磁性ビーズを使用して保護層を形成する場合には、磁性ビーズと磁性ビーズの間に生じる空間(隙間)を小さくし、保護層をさらに密に形成することができる。
【0043】
また、単一径の磁性ビーズを稠密に配置した場合には、磁性ビーズと磁性ビーズの間に生じる空間(隙間)を小さくし、保護層をさらに密に形成し保持力も高めることができる。
【0044】
また、複数個の磁性ビーズを、保持力を有したシートに配置して予めシート状成型体として準備し、シート状成型体を輸送管の内部に供給して保護層を形成することで、磁性ビーズを、例えばシートに規則正しく稠密に配置した状態や、2層重ねた形にした状態で輸送管の内部に供給することができるため、保護層を所望の厚みや密度に形成しやすくなり、ばらの状態よりも磁力による吸着性能を良好なものとし、輸送管をより効果的に保護することができる。
また、シートを軟質の基材とした場合には、保護層を形成した後、磨耗性物質の衝突によりシートが次第に摩滅して保持機能を失い、磁性ビーズをばらばらの状態とすることができるため、回収等が容易にできる。
【0045】
また、保護層形成ステップを終えた後に、輸送管を稼働する稼働ステップをさらに備えた場合には、保護層が予め形成された状態の輸送管に摩耗性物質が流れるため、輸送管の局所的な摩耗損傷を稼働当初から防止することができる。
【0046】
また、輸送管の保護層の欠損又は保護層からの磁性ビーズの脱落を検出する検出ステップを備え、検出ステップで欠損又は脱落を検出することで、輸送管の内部に磁性ビーズをさらに供給する場合には、欠損箇所又は脱落個所には磁性ビーズが補われるため、保護層を適切に形成又は維持することができる。
【0047】
また、保護層形成ステップにおいて、保護層の形成状況を確認して磁力調整手段により磁力発生器の磁力を調整する場合には、磁力が弱すぎて保護層が適切に形成されなかったり、磁力が強すぎて保護層が輸送管の流路を閉塞するほど多重層となったりすることを防止できる。
【0048】
また、上流側で供給した磁性ビーズの数及び下流側を通過する磁性ビーズの数を計数し、両者の差分に基づいて保護層の形成状況を確認することで、目視により又はカメラやファイバースコープ等を用いて輸送管の内部を直接確認することなく、稼働前若しくは稼働中に保護層の形成状況を確認することができる。
【0049】
また、磁性ビーズを供給する前に箇所から摩耗性物質により発生する衝突音と、磁性ビーズを供給した後に箇所から摩耗性物質により発生する衝突音との相違に基づいて保護層の形成状況を確認することで、目視により又はカメラやファイバースコープ等を用いて輸送管の内部を直接確認することなく、稼働中に保護層の形成状況を確認することができる。
【0050】
また、輸送管が非磁性体の場合、又は強磁性体の薄肉管の場合に、磁力発生器により輸送管の管壁に沿って生じるN極とS極との間隔が輸送管の管板厚と同等又はそれ以上となるように外壁に設置する場合には、磁石又は継鉄のN極から出て磁石又は継鉄のS極に向かう磁力線は、輸送管に吸収されることなく十分な強度を保ったまま輸送管の内部にまで達することができる。
【0051】
また、輸送管が強磁性体で、かつその管板厚が磁力発生器により輸送管の管壁に沿って生じるN極とS極との間隔以上の場合に、N極とS極との間の輸送管に貫通穴を設け、貫通穴に非磁性体のセパレータを嵌合させることで、磁石又は継鉄のN極から隣接する磁石又は継鉄のS極に向かう磁力線が輸送管に吸収されて短絡することを防止できる。
【0052】
また、セパレータを透明な材料で構成する場合には、保護層の形成状況を輸送管の外側から視認することができる。
【0053】
また、輸送管の直管部の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所に、磁性ビーズの保護層を形成する場合には、直管部の摩耗損傷を防止して輸送管の寿命を延伸させることができる。
【0054】
また、輸送管の屈曲管部の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所に、磁性ビーズの保護層を形成する場合には、屈曲管部の摩耗損傷を防止して輸送管の寿命を延伸させることができる。
【0055】
また、本発明の磁性ビーズによれば、球体の磁性ビーズ同士の接触は点接触となるため、磁性ビーズが電気化学的変化等により経時変化してスラッジ状や塊状になることを防止できる。また、磁性ビーズと輸送管の内壁面との接触も点接触が可能となるため、磁性ビーズとの接触によって輸送管が腐食することを防止できる。また、磁性ビーズは角部の無い球体であるため、保護層を形成しようとする箇所まで輸送管の内壁を傷つけることなく移動して到達することができる。
【0056】
また、強磁性体の粒子が、ゴム、樹脂、金属、又はセラミックスを含む1種又は複数種の材料中に混合された状態で含まれている場合には、磁性ビーズの耐食性や耐衝撃性を向上させることができる。
【0057】
また、強磁性体又は永久磁石が、ゴム、樹脂、金属、又はセラミックスを含む1種又は複数種の材料で被覆されている場合には、磁性ビーズの耐食性や耐衝撃性を向上させることができる。
【0058】
また、磁性ビーズの外径が輸送管の内径の1/10以下である場合には、形成した保護層が摩耗性物質を含んだ管内流体の円滑な流れの妨げとなることを防止できる。
【0059】
また、複数個の磁性ビーズが、保持力を有したシートに配置されてシート状成型体を成している場合には、磁性ビーズを、例えばシートに規則正しく稠密に配置した状態や、2層重ねた形にした状態で輸送管の内部に供給することができるため、保護層を所望の厚みや密度に形成しやすくなり、ばらの状態よりも磁力による吸着性能を良好なものとし、輸送管をより効果的に保護することができる。
【0060】
また、本発明の磁力発生装置によれば、永久磁石を用いた磁力発生器を提供することができる。また、この磁力発生器の磁力を調整機構によって簡便に精度よく制御することができる。
【0061】
また、永久磁石として円柱型永久磁石を用い、調整機構として円柱型永久磁石の磁石回転軸を中心に回転させる機構を用いる場合には、円柱型永久磁石を調整機構を用いて回転させることによって、磁力発生器の磁力を容易に制御することができる。
【0062】
また、永久磁石としてネオジム磁石を用いた場合には、磁力発生器の吸着性能をより優れたものにすることができるとともに、輸送管の外壁から内部の磁性ビーズを吸着する場合の磁束密度の低下が少なくて済む。
【0063】
また、本発明の磁力発生装置によれば、磁力を電気的に調整可能な電磁石を用いた磁力発生器を提供することができる。また、この磁力発生器の磁力を制御手段によって電気的に簡便に精度よく制御することができる。
【0064】
また、制御手段は、電磁石に流す電流を調整する及び/又は電磁石をオン/オフする場合には、制御手段は電流の調整や電源のオン/オフにより、容易に電磁石を制御することができる。
【0065】
また、制御手段は、保護層の状態を検出する保護層検出手段を有し、保護層の状態の検出結果に基づいて磁力を調整する及び/又は検知結果を報知する場合には、磁力が弱すぎて保護層が適切に形成されなかったり、磁力が強すぎて保護層が輸送管の流路を閉塞するほどの多重層となったりすることを防止できる。また、稼働中の磁性ビーズの欠損や脱落を検出して磁力を調整することができる。さらに、保護層の形成時の従事者に形成状況を知らせたり、輸送作業の従事者等に対して注意を喚起することができる。
【0066】
また、磁力調整手段が、保護層の形成に必要な吸着磁束密度、及び吸着磁束密度以上の保護層の保持に必要な保持磁束密度に調整可能である場合には、磁力発生器の磁力を磁性ビーズの吸着、保持に最適な強さとなるように調整し、保護層を良好な状態に形成、保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】本発明の一実施形態による耐摩耗性向上方法のフロー図
図2】同耐摩耗性向上方法を適用する輸送管の概略図
図3】同磁性ビーズの構造の一例を表す模式図
図4】同磁性ビーズの構造の他の例を表す模式図
図5】同輸送管の外壁に磁力発生装置を設置した状態を示す図
図6】同輸送管にセパレータを有する磁力発生装置を設置した状態を示す図
図7】同輸送管の直管部の内壁面上に磁性ビーズによる保護層を形成した状態を示す図
図8】同輸送管の屈曲管部の内壁面上に磁性ビーズによる保護層を形成した状態を示す図
図9】同磁性ビーズによる保護層の第一例を示す説明図
図10】同磁性ビーズによる保護層の第二例を示す説明図
図11】同磁性ビーズによる保護層の第二例を示す説明図
図12】同磁性ビーズによる保護層の第三例を示す説明図
図13】同磁性ビーズによる保護層の第四例を示す説明図
図14】同磁性ビーズによる保護層の第四例を示す説明図
図15】同磁性ビーズによる保護層の第五例を示す説明図
図16】同磁性ビーズによる保護層の第五例を示す説明図
図17】試験1に用いた試験装置の外観図
図18】同試験装置に用いた磁石の外観図
図19】同試験装置に用いた第1のシート状成型体を示す図
図20】同試験装置に用いた第2のシート状成型体を示す図
図21】同試験装置に用いた第3のシート状成型体を示す図
図22】同試験装置における吸着力測定の様子を示す図
図23】同試験装置における磁性ビーズの吸着時の状況を例示する図
図24】試験2に用いた試験装置の外観図
図25】同試験装置に用いたアルミナボールの外観図
図26】同試験装置における磁性ビーズの吸着時の状況を例示する図
図27】同試験装置における砂鉄の吸着時の状況を例示する図。
図28】同試験装置における砂鉄に対するアルミナボール衝突試験前後における保護層の変化の状況を例示する図
図29】同試験装置における磁性ビーズに対するアルミナボール衝突試験前後における保護層の変化の状況を例示する図
図30】同試験装置における磁性ビーズに対するアルミナボール衝突試験前後における保護層の変化の状況を例示する図
図31】各種の輸送管の概略図
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下に、本発明の一実施形態による輸送管の耐摩耗性向上方法、磁性ビーズ、及び磁力発生装置について説明する。
図1は本実施形態による耐摩耗性向上方法のフロー図、図2は同耐摩耗性向上方法を適用する輸送管の概略図である。
【0069】
輸送管1は、スラリー(固形物と液体の混合物)、粉体又はペレット等の摩耗性物質含む流体(空気等)の輸送に用いられる。輸送管1は、曲がり部分を有しない第1直管部11及び第2直管部12と、曲がり部分を有する第1屈曲管部13及び第2屈曲管部14とを備える。
第1直管部11の下流側端部に第1屈曲管部13が接続され、第1屈曲管部13の下流側端部に第2屈曲管部14が接続され、第2屈曲管部14の下流側端部に第2直管部12が接続されている。
【0070】
本実施形態による耐摩耗性向上方法は、まず、輸送管1の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を特定する(摩耗箇所特定ステップS1)。
例えば、第1屈曲管部13及び第2屈曲管部14の曲率が大きくなっている箇所の曲がり外側の内壁(図2(a)の長円で囲んだ部分)は、摩耗性物質が衝突しやすいと考えられる。よって、この部分を内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所Aとして特定する。
なお、曲がり部分を有しない直管部分であっても、液相に比べて固相の比重が大きいスラリーやペレットなどの固形物を輸送する場合には、重力の影響により摩耗の進行が輸送管1の鉛直下側に偏るため、この場合には、第1直管部11及び第2直管部12の鉛直下側を内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所として特定する。
【0071】
本実施形態による耐摩耗性向上方法には、磁力発生器2と磁力調整手段3を備えた磁力発生装置を用いる。
摩耗箇所特定ステップS1の後、図2(b)に示すように、輸送管1のうち、特定した二つの箇所Aの外壁に磁石を用いた磁力発生器2をそれぞれ設置する(磁力発生器設置ステップS2)。磁力発生器2には、磁石の磁力を調整する磁力調整手段3が設けられている。
【0072】
磁力発生器設置ステップS2の後、図2(c)に示すように、輸送管1の内部に複数個の磁性ビーズ4を供給し(磁性ビーズ供給ステップS3)、磁力調整手段3により磁力発生器2の磁力を調整して輸送管1の内壁面上に磁性ビーズ4による保護層40を形成する(保護層形成ステップS4)。
このように、輸送管1の屈曲管部13、14の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所Aに、磁性ビーズ4による保護層40を形成することで、屈曲管部13、14の摩耗損傷を防止して輸送管1の寿命を延伸させることができる。なお、直管部11、12の内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所に磁性ビーズ4による保護層40を形成した場合には、直管部11、12の摩耗損傷を防止して輸送管1の寿命を延伸させることができる。
また、保護層40は、管内流体に含まれる磁性粒子ではなく、摩耗性物質とは別の保護層形成用の専用の磁性ビーズ4によって形成されるため、保護層40の厚みや密度を的確に形成することができ、形成状況を把握して容易に制御することができる。よって、輸送管1の局所的な摩耗が進行しやすい箇所を効果的に保護することができ、保護層40の厚さも連続的に変化させずに済む。さらに、磁力発生器2よりも上流側で供給した磁性ビーズ4の数及び下流側を通過する磁性ビーズ4の数を計数し、両者の差分に基づいて保護層40の形成状況を確認することもできる。この場合は、輸送管1の内部を目視したり、カメラやファイバースコープを使用したりすることなく、稼働前若しくは稼働中に保護層40の形成状況を確認することができる。
【0073】
なお、磁力調整手段3は、保護層40の形成に必要な吸着磁束密度、及び吸着磁束密度以上の保護層40の保持に必要な保持磁束密度に調整可能であることが好ましい。
これにより、磁力発生器2の磁力を磁性ビーズ4の吸着、保持に最適な強さとなるように調整し、保護層40を良好な状態に形成及び保持することができる。
【0074】
保護層形成ステップS4を終えた後、輸送管1を稼働する(稼働ステップS5)。保護層40は稼働開始後に形成することも可能であるが、稼働開始前に予め保護層40を形成しておくことで、輸送管1の内壁の局所的な摩耗損傷が稼働当初から防止されるため、輸送管1のより一層の長寿命化を図ることができる。
【0075】
輸送管1の稼働を開始した後は、定期的若しくは連続的に輸送管1の保護層40の欠損、又は保護層40からの磁性ビーズ4の脱落を検出する(検出ステップS6)。保護層40からの磁性ビーズ4の脱落は、例えば磁力発生器2よりも下流側に磁性ビーズ4が存在するか否か等によって検出する。
検出ステップS6において、輸送管1の保護層40の欠損又は保護層40からの磁性ビーズ4の脱落を検出した場合には、磁性ビーズ供給ステップS3に戻り、輸送管1の内部に磁性ビーズ4をさらに供給する。これにより欠損箇所又は脱落個所に磁性ビーズ4が補われるため、保護層40を適切に形成又は維持することができる。
このように、磁性ビーズ4による保護層40を形成した後、輸送管1内を移動する摩耗性物質の衝突等により、保護層40を構成する磁性ビーズ4の一部又は全部が脱落して失われた場合には、上流側から磁性ビーズ4を再供給することにより、磁性ビーズ4による保護層40を速やかに修復することが好ましい。この場合、輸送管1の稼働を一時停止して磁性ビーズ4を再供給することもできるし、輸送管1を稼働したまま、輸送管1内の流体に磁性ビーズ4を適宜混合して再供給することもできる。
【0076】
磁力発生器2に用いる磁石としては、永久磁石又は電磁石を輸送管1の種類や稼働条件に応じて適宜使い分けることが可能である。
【0077】
永久磁石を用いる場合は、磁石の種類として、フェライト磁石、ネオジム(ネオジウム)磁石、アルニコ磁石、サマリウムコバルト磁石等を挙げることができる。これらの磁石の中から、磁力発生器2が設置される輸送管1の種類や形状及び管内流体の流速、温度等の稼働条件、使用する磁性ビーズ4の種類等、諸々の条件に適したものを選定できるが、基本的に磁力が強くて磁束密度や磁気エネルギー積(BH積)が高く、磁気保持力が高くて減磁しにくいものが好適である。但し、過度に磁力が強すぎると、輸送管1の内壁に吸着する磁性ビーズ4が輸送管1の流路を閉塞するほど多重層になったり塊状になったりして管内流体の円滑な流れを阻害するおそれがあるため、輸送管1のうち、磁性ビーズ4による保護層40を形成しようとする内壁面上の範囲に、複数の磁性ビーズ4が1~2層の密な状態で安定的に吸着される程度の磁力を有する磁石を選定することが好ましい。
なお、磁石と共に継鉄(ヨーク)を用いる場合は、軟鉄等、透磁率や残留磁気特性に優れた材料が好適である。
また、永久磁石を用いた磁力発生器2の形状としては、磁力発生器2が設置される輸送管1の外壁(多くの場合に曲面)に密着させて装着できる磁石又は磁石及び継鉄を選定するか、あるいは小型の磁石又は磁石及び継鉄を輸送管1の外壁面上に複数配置して、磁力発生器2全体として設置箇所の外壁面を覆うような配置となる形状とする。
【0078】
また、電磁石を用いる場合は、永久磁石の代わりに、ソレノイドコイルとコア(鉄芯など)、及び電源を用いた電磁石を用いる。これにより、磁力発生器2として複数の電磁石と、磁力調整手段3として磁力を電気的に調整する制御手段とを備えた磁力発生装置を構成することができる。また、必要に応じて電磁石と継鉄を組み合わせて利用してもよい。
電磁石の種類としては、各種の交流電磁石又は直流電磁石を挙げることができる。これらの電磁石の中から、磁力発生器2が設置される輸送管1の種類や形状及び管内流体の流速、温度等の稼働条件、使用する磁性ビーズ4の種類等、諸々の条件に適したものを選定できるが、基本的に磁力が強くて磁束密度や磁気エネルギー積(BH積)が高いものが好適である。但し、過度に磁力が強すぎると、輸送管1の内壁に吸着する磁性ビーズ4が輸送管1の流路を閉塞するほど多重層になったり塊状になったりして管内流体の円滑な流れを阻害するおそれがあるため、輸送管1のうち、磁性ビーズ4による保護層40を形成しようとする内壁面上の範囲に、複数の磁性ビーズ4が1~2層の密な状態で安定的に吸着される程度の磁力となるように電磁石を選定したり、コイルの巻数や使用電流を調節したりすることが好ましい。
また、電磁石を用いた磁力発生器2の形状としては、磁力発生器2が設置される輸送管1の外壁(多くの場合に曲面)に密着させて装着できる電磁石を選定するか、あるいは小型の電磁石を輸送管1の外壁面上に複数配置して、磁力発生器2全体として設置箇所の外壁面を覆うような配置とする。
電磁石を用いた場合には、制御手段によって簡単に磁力をオン/オフできるため、輸送管1が強磁性体である場合には輸送管1の外壁への着脱作業が永久磁石の場合よりも容易である。また、電磁石を輸送管1の外壁に取り付けた後、輸送管1内に磁性ビーズ4を供給し、磁性ビーズ4による保護層40の状態を確認しながら制御手段により使用電流を調節して、保護層40を形成すべき範囲に磁性ビーズ4が1~2層の密な状態で安定的に吸着される程度の磁力となるよう発生磁力を最適化するというように、電流調整器をそのまま制御手段として用いることができる。
なお、保護層40の状態は、保護層検出手段により検出する。保護層検出手段としては、ファイバースコープやカメラ等を利用した構成とすることもできるが、上述したように、磁力発生器2よりも上流側で供給した磁性ビーズ4の数と下流側を通過する磁性ビーズ4の数との差分に基づいて保護層40の状態を確認する構成とした場合には、稼働前若しくは稼働中に保護層40の状態を容易に確認することができる。保護層40の状態を検出し、その検出結果に基づいて発生磁力が最適となるように制御手段で調整することによって、磁力が弱すぎて保護層40が適切に形成されなかったり、磁力が強すぎて保護層40が輸送管1の流路を閉塞するほど多重層となったりすることを防止できる。また、稼働中に保護層40の欠損や保護層40からの磁性ビーズ4の脱落を検出して磁力を調整することができる。さらに、保護層40の状態の検知結果を報知する報知手段を備え、保護層40の形成時の従事者に形成状況を知らせたり、輸送作業の従事者等に対して注意を喚起するようにしてもよい。
また、輸送管1が鉄などの強磁性体である場合には、輸送管1の外周に直接ソレノイドコイルを巻き付けて、輸送管1そのものをコア(芯)とした電磁石として利用することも可能である。但し、この場合は輸送管1の円周方向に沿う磁束密度がほぼ均等になるため、輸送管1の内壁面上に形成される保護層40の形成範囲は輸送管1の円周方向に一様なものとなる。
【0079】
図3は、磁性ビーズの構造の一例を表す模式図である。
本例による磁性ビーズ4は、鉄等の強磁性体若しくは各種の永久磁石を基材41とする球体、又は鉄等の強磁性体の粒子とゴム・樹脂・金属・セラミックス等、その他の材質の粒子とを混合した後に接着・圧着・熱溶着・焼結等、任意の方法によって成型したものを基材41とする球体であり、磁石に吸引され吸着する性質を有している。
基材41に強磁性体の粒子が、ゴム、樹脂、金属、又はセラミックスを含む1種又は複数種の材料中に混合された状態で含まれている場合には、磁性ビーズ4の耐食性や耐衝撃性をより一層向上させることができる。
また、耐摩耗性ゴムと混合した場合には、鉱石スラリー中の鉱石やペレット等が保護層40に衝突した際の衝撃を和らげるクッション効果も期待できるため、特定した箇所Aに摩耗性物質が衝突する際に発生する衝突音を輸送管1の外部から聞き分け、磁性ビーズ4による保護層40が有る場合と無い場合の衝突音を比較して、衝突音の相違に基づいて保護層40の形成状況や効果の発現具合を稼働中に確認することができる。なお、保護層40を形成した後に稼働を開始する場合は、保護層40を形成する前に衝突音確認のための摩耗性物質を所定時間流して箇所Aにおける衝突音を確認しておけばよい。
また、磁性ビーズ4の基材41を永久磁石とした場合、輸送管1の外壁に設ける磁石又は磁石及び継鉄が同一の場合には、基材41を強磁性体とした場合よりも相対的に強い輸送管1の内壁への吸引力及び吸着力が得られる。基材41の球体の寸法(外径d)としては、磁力発生器2が設置される輸送管1の種類や形状及び管内流体の流速等の稼働条件、使用する磁石の種類等、各種の条件に適したものを選定できるが、輸送管1の内径をDとしたとき「d≦D/10」として、1~2層で保護層40を形成した場合に摩耗性物質を含んだ管内流体の円滑な流れを妨げることがない程度に十分小さく、なおかつ1~2層でも保護層40として十分な機能を発現できる程度の寸法が好適である。
【0080】
図4は、磁性ビーズの構造の他の例を表す模式図である。
本例による磁性ビーズ4は、鉄等の強磁性体、又は各種の永久磁石を基材41とする球体が、基材41よりも耐摩耗性や耐食性に優れ、かつ基材41に対する防食機能も有するセラミックスや金属、ゴム、樹脂等の各種被膜42で包含され、全体として球状に形成されており、磁石に吸引され吸着する性質を有している。このように、強磁性体又は永久磁石を、ゴム、樹脂、金属、又はセラミックスを含む1種又は複数種の材料で被覆することにより、磁性ビーズ4の耐食性や耐衝撃性をより一層向上させることができる。
なお、耐摩耗性ゴムを被膜42とした場合には、鉱石スラリー中の鉱石やペレット等が保護層40に衝突した際の衝撃を和らげるクッション効果も期待できるため、特定した箇所Aに摩耗性物質が衝突する際に発生する衝突音を輸送管1の外部から聞き分け、磁性ビーズ4による保護層40が有る場合と無い場合の衝突音を比較して、衝突音の相違に基づいて保護層40の形成状況や効果の発現具合を稼働中に確認することができる。なお、保護層40を形成した後に稼働を開始する場合は、保護層40を形成する前に衝突音確認のための摩耗性物質を所定時間流して箇所Aにおける衝突音を確認しておけばよい。
また、磁性ビーズ4の基材41を永久磁石とした場合、輸送管1の外壁に設ける磁石又は磁石及び継鉄が同一の場合には、基材41を強磁性体とした場合よりも相対的に強い輸送管1の内壁への吸引力及び吸着力が得られる。
被膜42に用いるセラミックスとしては、耐摩耗性や耐食性、さらに基材41の防食性に優れたアルミナ、チタニア、炭化タングステン(WC)等が好適であり、金属被膜としては同じく耐摩耗性や耐食性、さらに基材41の防食性に優れたハステロイの被膜や硬質クロムメッキ等が好適である。
被膜42を含めた球状の磁性ビーズ4の寸法(外径d)としては、磁力発生器2が設置される輸送管1の種類や形状及び管内流体の流速等の稼働条件、使用する磁石の種類等、各種の条件に適したものを選定できるが、輸送管1の内径をDとしたとき、「d≦D/10」として、1~2層で保護層40を形成した場合に管内流体の円滑な流れを妨げることがない程度に十分小さく、なおかつ1~2層でも保護層として十分な機能を発現できる程度の寸法が好適である。
【0081】
図3及び図4を用いて説明したように、磁性ビーズ4を、その形状及び/又は磁性が任意のものではなく所定の範囲の管理されたものとすることで、保護層40の形成が的確にでき、形成状況をさらに正確に把握して制御しやすくなるため、局所的な摩耗が進行しやすい箇所Aをより一層効果的に保護することができる。
また、磁性ビーズ4を球体として管理されたものとすることにより、保護層40を形成する磁性ビーズ4同士の接触が点接触となるため、磁性ビーズ4が電気化学的変化等により経時変化してスラッジ状や塊状になることを防止できる。保護層40を形成する磁性ビーズ4がスラッジ状や塊状になることを防止することで、磁力発生器2の磁力を取り去れば瞬時に保護層40を形成している磁性ビーズ4を離脱させ、下流側において磁性ビーズ4を回収することができる。そのため、保護層40の厚さ制御と除去が容易であり、確実に流路の閉塞を防止できる。また、磁性ビーズ4と輸送管1との材料の組み合わせを適正に管理できるため電気化学的な変化が抑制でき、磁性ビーズ4と輸送管1の内壁面との接触も点接触が可能となるため、磁性ビーズ4との接触によって輸送管1が腐食することを防止できる。また、磁性ビーズ4は角部の無い球体であるため、保護層40を形成しようとする箇所まで輸送管1の内壁を傷つけることなく移動して到達することができる。
なお、磁性ビーズ4は球形に形成することが好ましいが、稼働条件に応じて碁石型、平たい円柱状の円板型等といった形状を適宜選択することもできる。
【0082】
図5は、輸送管の外壁に磁力発生装置を設置した状態を示す図である。
磁力発生装置は、複数の永久磁石21、継鉄22及び非磁性体23を有する磁力発生器2と、複数の永久磁石21のそれぞれに設けられて永久磁石21の回転を制御するレバー31、及び各レバー31を連結する連結機構32を有する調整機構30(磁力調整手段3)とから成る。
永久磁石21は円柱形であり、複数の永久磁石21が輸送管1の管長方向に整列配置されている。永久磁石21と永久磁石21の間には継鉄22が介在している。また、各永久磁石21の輸送管1側と反輸送管1側には、非磁性体23がそれぞれ配置されている。
図5においては、4個の永久磁石21と、5個の継鉄22と、8個の非磁性体23で構成された磁力発生器2を設置した状態を示している。各永久磁石21には、それぞれレバー31が設けられている。
なお、図5では輸送管1の曲がりの無い直管部に磁力発生装置を設定した状態を示しているが、図2(b)(c)に示すような屈曲管部13、14に対しても同様に磁力発生装置を設置することができる。
【0083】
また、4個の永久磁石21は、磁石回転軸Xを中心にそれぞれ回転できるようになっており、回転を制御するレバー31と、各レバー31を連結する連結機構32とから成る調整機構30により、4個の永久磁石21の回転量が等量となるように一括して回転させることができる。このように、複数の永久磁石21の継鉄22及び輸送管1に対する磁極の相対的位置を一括して調整する調整機構30を備えることにより、磁力を簡便に精度よく制御することができる。
なお、本実施形態では、磁力調整手段3を調整機構30により実現しているが、複数の円柱形永久磁石21の各々にギヤを取り付け、該ギヤをギヤ機構により連結して一括調整するなど、円柱形永久磁石21の回転制御の方法及び機構は任意である。
【0084】
図中の永久磁石21のN及びSの文字は、それぞれN極及びS極を表す。図5(a)では、各永久磁石21は、輸送管1に対してN極とS極を結ぶ直線が垂直となるように調整機構30により調整されている。このとき、隣り合う永久磁石21同士はS極とN極の配置が逆になっている。図5(a)の状態では、4個の永久磁石21のN極からS極に向かう磁力線は、隣接する継鉄22により短絡されるため、輸送管1の内壁面上には磁力が作用しない。
【0085】
図5(a)の状態から、調整機構30を用いて4個の円柱形永久磁石21を同方向に一括して90度回転させ、図5(b)に示すようにN極とS極を結ぶ直線が輸送管1に対して平行な状態にすると(このとき、隣り合う永久磁石21同士はS極とN極が逆配置の状態となる。)、継鉄22の端部に生じたN極から隣接する継鉄22の端部に生じるS極へと磁力線が向かい、輸送管1の内壁上に磁力が作用するようになる。図5(b)中の矢印は、磁力線の向きを示している。
【0086】
輸送管1が、樹脂、ゴム、オーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム、若しくは銅等の非磁性体、又は鉄、通常の炭素鋼、若しくはニッケル等の強磁性体の薄肉管の場合は、磁力発生器2により輸送管1の管壁に沿って生じるN極とS極との間隔が輸送管1の管板厚と同等又はそれ以上となるように外壁に設置する。これにより、磁石21又は継鉄22のN極から出て磁石21又は継鉄22のS極に向かう磁力線は、配管1の材料に吸収されることなく十分な強度を保ったまま配管1の内部にまで達し、摩耗箇所特定ステップS1で特定した箇所Aに十分な磁力を作用させることができる。なお、本発明において「薄肉管」とは、輸送管1の管板厚が磁力発生器2により輸送管1の管壁に沿って生じるN極とS極との間隔よりも小さい場合をいう。
【0087】
また、図6は、輸送管にセパレータを有する磁力発生装置を設置した状態を示す図である。
輸送管1が、鉄、通常の炭素鋼、又はニッケル等の強磁性体で、かつその管板厚が磁力発生器2により輸送管1の管壁に沿って生じるN極とS極との間隔以上の場合には、磁力発生器2を輸送管1の外壁面上に設置するだけだと、磁石21又は継鉄22のN極から隣接する磁石21又は継鉄22のS極に向かう磁力線が厚肉の強磁性体である輸送管1の管壁に吸収されて短絡してしまい、特定した箇所Aに十分な磁力を作用させることができない場合がある。この場合には、図6に示すように、強磁性体の輸送管1のうち磁石21を配置する箇所に適当な形状寸法の貫通穴を開けてそれぞれ設け、その貫通穴に嵌合する形状に加工した非磁性体のセパレータ5を挿入する。これにより、摩耗箇所特定ステップS1で特定した箇所Aに十分な磁力を作用させることができる。図6中の矢印は、磁力線の向きを示している。
セパレータ5の輸送管1の周方向の寸法は、継鉄22の輸送管1の周方向の寸法に応じて適宜設定するが、継鉄22のN極からS極に向かおうとする磁力線が輸送管1の外壁内で短絡することを防止するのに十分な寸法となるように設定することが好ましい。具体的には、「セパレータ5の輸送管1の周方向の寸法 > 継鉄22の輸送管1の周方向の寸法+セパレータ5同士の間隔(中心間距離)の4倍」とすることが好ましい。
セパレータ5の材質としては、オーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム、銅等の金属や、各種のセラミックス、樹脂、ゴム等、任意のものを用いることができるが、耐食性及び耐摩耗性に優れた材料が好適である。また、輸送管1の外壁にセパレータ5を固定する方法としては、溶接、接着、焼き嵌め等、任意の方法を用いることができるが、水密及び気密性が高く、耐衝撃などの機械的性質に優れた方法を選ぶことが好ましい。なお、セパレータ5を透明な樹脂又はゴム等、透明な材料で構成することにより、磁性ビーズ4による保護層40の形成状況を輸送管1の外側から目視確認することができる。
【0088】
図7は、輸送管の直管部の内壁面上に磁性ビーズによる保護層を形成した状態を示す図、図8は、輸送管の屈曲管部の内壁面上に磁性ビーズによる保護層を形成した状態を示す図である。
保護層形成ステップS4において、図7及び図8に示すように、輸送管1の上流側から磁性ビーズ4を供給し、輸送管1内を通過させると、磁力発生器2による磁力が作用している範囲に入った磁性ビーズ4は吸引されて輸送管1の内壁に吸着し、内壁面上に磁性ビーズによる保護層40が形成される。なお、磁性ビーズ4を供給する際は、通常は水等の流体と共に供給する。
この際、内壁に磁性ビーズ4が1~2層となった密な保護層40が確実に形成されるように、保護層40の形成状況を確認し、保護層40を形成すべき内壁面の範囲に1~2層の磁性ビーズが密な状態で安定的に吸着されることを確認しながら、磁力調整手段3を用いて磁力発生器2の磁力が最適な強さとなるように調整することが好ましい。これにより、磁力が弱すぎて保護層40が適切に形成されなかったり、磁力が強すぎて保護層40が輸送管1の流路を閉塞するほどの多重層となったりすることを防止して、管内流体の円滑な流れを阻害することなく内壁面を保護する保護層40を形成することができる。
【0089】
保護層40の形成に寄与しなかった磁性ビーズ4がすべて磁力発生器2の下流側に通過した後も、磁性ビーズ4による保護層40は磁力調整手段3により最適に調整された磁力により保持されるため、輸送管1の内壁の局所的な摩耗が進行しやすいと特定された箇所が保護され、輸送管1の耐摩耗性が向上する。
このように、輸送管1のうち内壁の局所的な摩耗が進行しやすい箇所であると特定された箇所Aの内壁面に保護層40を形成することによって、箇所Aの耐摩耗性が向上するため、箇所Aが他の箇所よりも早く摩耗損傷して破損に至ることが少なくなり、輸送管1全体としての寿命を延伸させることができる。
【0090】
また、輸送管1が鉄管、通常鋼管等の強磁性体の場合は、磁力調整手段3を用いて磁力発生器2の磁力を調整することで、輸送管1の外壁への磁力発生器2の着脱作業を容易に行うことができる。
また、図7及び図8は、輸送管1が非磁性体、又は強磁性体の薄肉管の場合を示しているが、輸送管1が強磁性体で、かつその管板厚が磁力発生器2により輸送管1の管壁に沿って生じるN極とS極との間隔以上の場合は、図6を用いて説明したように、非磁性体のセパレータ5を輸送管1に形成した貫通穴に嵌入することにより、同様の手順により保護層40を形成することができる。
【0091】
図9図16は、磁性ビーズによる保護層の説明図である。
図7及び図8においては、単一径の磁性ビーズ4を使用して、輸送管1の内壁面上に1層の保護層を形成した場合を図示しているが、これを内壁と平行な方向及び内壁と垂直な方向から観察すると、図9のようになる(第一例)。図9(a)は内壁と平行な方向から観察した場合を示し、図9(b)は内壁と垂直な方向から観察した場合を示している。なお、図9では便宜上、磁性ビーズ4が縦横に整列した場合を示している。
局所的な摩耗損傷が予想される箇所Aに保護層40を形成することで、輸送管1の耐摩耗性が向上する。また、磁性ビーズ4を単一径とすることで、磁性ビーズ4の管理や保護層40の形成状況の把握等が容易となる。しかし、単一径の磁性ビーズ4を用いて1層の保護層40を形成した場合は、図9(b)に示すように、磁性ビーズ4同士の間に生じる空間Bが保護層40の隙間となり、この隙間に摩耗性物質が入り込むことによって輸送管1の内壁に摩耗損傷が生じる可能性がある。
【0092】
図10は、単一径の磁性ビーズ4を用いて2層の保護層40を形成した場合を示している(第二例)。図10(a)は内壁と平行な方向から観察した図、図10(b)は内壁と垂直な方向から観察した図である。なお、図10では便宜上、磁性ビーズ4が縦横に整列した場合を示している。
単一径の磁性ビーズ4を用いて2層の保護層40を形成した場合は、図10(b)に示すように、1層目の磁性ビーズ4同士の空間の部分に2層目の磁性ビーズ4が載ることによって空間が塞がれるため、保護層40の隙間が無くなる。従って、単一径の磁性ビーズ4を用いて1層の保護層40を形成した場合(第一例)よりも緻密な保護層40が形成されることとなり、輸送管1の耐摩耗性がさらに向上する。
【0093】
図11は、単一径の磁性ビーズ4を用いて2層の保護層40を形成した場合(第二例)の幾何学的位置関係を示している。図11(a)は内壁と平行な方向から観察した場合を示し、図11(b)は内壁と垂直な方向から観察した場合を示している。
上述のように、単一径の磁性ビーズ4を用いて2層の保護層40を形成した場合は保護層40の隙間が無くなり、単一径の磁性ビーズ4を用いて1層の保護層40を形成した場合に比べて輸送管1の耐摩耗性が向上する。しかしこの場合、図11(a)に示すように、2層目の磁性ビーズ4は、磁性ビーズ4の半径をRとしたとき、距離√2・Rだけ輸送管1の内壁から浮いた状態となっており、1層目の磁性ビーズ4よりも脱落しやすく、1層目と2層目とを比較すると、2層目は保護層としての安定性(磁性ビーズ4の脱落しにくさ)が1層目よりも相対的に低くなっている。また、2層目の磁性ビーズ4に働く磁力による吸引力は、2層目の磁性ビーズ4が1層目の磁性ビーズ4を押し分ける方向に作用するため、保護層40全体としてもやや不安定となる可能性がある。
【0094】
図12は、単一径の磁性ビーズ4を用いて稠密な1層の保護層40を形成した場合を示している(第三例)。図12(a)は内壁と平行な方向から観察した図、図12(b)は内壁と垂直な方向から観察した図である。
図12に示す1層の保護層40においては、磁性ビーズ4の隣接する列同士が互い違いに配置されている。このように単一径の磁性ビーズ4を稠密に配置して1層の保護層40を形成した場合には、単一径の磁性ビーズ4を縦横に整列させて1層の保護層40を形成した場合(第一例)と比べて保護層40の隙間が少なくなり保持力も高まるため、輸送管1の耐摩耗性が向上する。しかし、この場合でも、図12(b)に示すように、保護層40の隙間(磁性ビーズ4同士の間に生じる空間B)がゼロとはならないため、隙間に摩耗性物質が入り込むことによって輸送管1の内壁に摩耗損傷が生じる可能性はある。
【0095】
図13は、単一径の磁性ビーズ4を用いて稠密な2層の保護層40を形成した場合を示している(第四例)。図13(a)は内壁と平行な方向から観察した図、図13(b)は内壁と垂直な方向から観察した図である。
図13に示す2層の保護層40においては、2層目も磁性ビーズ4の隣接する列同士が互い違いに配置されている。このように単一径の磁性ビーズ4を稠密に配置して2層の保護層40を形成した場合は、図13(b)に示すように、1層目の磁性ビーズ4同士の空間の部分に2層目の磁性ビーズ4が載ることによって空間が塞がれるため、保護層40の隙間が無くなる。従って、単一径の磁性ビーズ4を稠密に配置して1層の保護層40を形成した場合(第三例)よりも緻密な保護層40が形成されることとなり、輸送管1の耐摩耗性がさらに向上する。
【0096】
図14は、単一径の磁性ビーズ4を用いて稠密な2層の保護層40を形成した場合(第四例)の幾何学的位置関係を示している。図14(a)は内壁と平行な方向から観察した場合を示し、図14(b)は内壁と垂直な方向から観察した場合を示している。
上述のように、単一径の磁性ビーズ4を用いて稠密な2層の保護層40を形成した場合は保護層40の隙間が無くなり、単一径の磁性ビーズ4を用いて稠密な1層の保護層40を形成した場合に比べて輸送管1の耐摩耗性が向上する。しかしこの場合、図14(a)に示すように、2層目の磁性ビーズ4は、磁性ビーズ4の半径をRとしたとき、距離2√2/3・Rだけ輸送管1の内壁から浮いた状態となっており、1層目の磁性ビーズ4よりも脱落しやすく、1層目と2層目とを比較すると、2層目は保護層としての安定性(磁性ビーズ4の脱落しにくさ)が1層目よりも相対的に低くなっている。また、2層目の磁性ビーズ4に働く磁力による吸引力は、2層目の磁性ビーズ4が1層目の磁性ビーズ4を押し分ける方向に作用するため、保護層40全体としてもやや不安定となる可能性がある。
【0097】
図15は、径が異なる2種類の磁性ビーズ4を用いて稠密な保護層40を形成した場合を示している(第五例)。図15(a)は内壁と平行な方向から観察した図、図15(b)は内壁と垂直な方向から観察した図である。なお、図15では便宜上、磁性ビーズ4が縦横に整列した場合を示している。
図15では、大径の磁性ビーズ4Aと小径の磁性ビーズ4Bにより稠密な保護層40を形成している。この場合は、図15(b)に示すように、大径の磁性ビーズ4A同士の間に生じる空間が小径の磁性ビーズ4Bによって埋められるため、保護層40の隙間が殆ど無くなる。従って、単一径の磁性ビーズ4を用いて1層の保護層40を形成した場合(第一例、第三例)よりも緻密な保護層40が形成され、輸送管1の耐摩耗性がさらに向上する。
小径の磁性ビーズ4Bの外径寸法は、大径の磁性ビーズ4A同士の間に生じる空間の寸法とほぼ同じとしているため、小径の磁性ビーズ4Bは、大径の磁性ビーズ4A同士の接触を阻害することなく、1つの空間を形成している4個の大径の磁性ビーズ4A全てと接する。これにより、小径の磁性ビーズ4Bは、大径の磁性ビーズ4A同士の間に生じる空間を効率よく埋めることができる。
【0098】
図16は、径が異なる2種類の磁性ビーズ4を用いて稠密な保護層40を形成した場合(第五例)の幾何学的位置関係を示す。図16(a)は内壁と平行な方向から観察した図、図16(b)は内壁と垂直な方向から観察した図である。
この場合は、大径の磁性ビーズ4Aの半径をR、小径の磁性ビーズ4Bの半径をRとしたとき、簡単な幾何学計算により、下式(1)に示すように、RはRの2分の1となる。
=R/2 ・・・(1)
【0099】
この場合、大小2種類の磁性ビーズ4は、いずれも輸送管1の内壁面に接するため安定的に吸着されており、しかも大径の磁性ビーズ4Aと小径の磁性ビーズ4Bが接した状態で、大径の磁性ビーズ4Aが小径の磁性ビーズ4Bを内壁方向に押さえ込む形で磁力が作用するため、保護層40としての安定性(磁性ビーズ4の脱落しにくさ)は、単一径の磁性ビーズ4を用いて2層の保護層40を形成した場合よりも高くなっている。
また、この場合、まず始めに半径Rの小径の磁性ビーズ4Bを供給して小径の磁性ビーズ4Bによる保護層を形成した後、半径Rの大径の磁性ビーズ4Aを供給して大径の磁性ビーズ4Aによる保護層を形成させることにより、図15及び図16に示したような緻密な保護層40を形成しやすくなる。
なお、図15及び図16に示した例では磁性ビーズ4の径を大小2種類としたが、必要に応じて3種類以上の径の磁性ビーズ4を併用したり、多様な径の磁性ビーズ4を混合して一種の粒度分布を持たせた形で用いたりすることも可能である。
【0100】
図9図16を用いて説明したように、保護層40は、単一の種類の磁性ビーズ4を用いて形成することも、複数の種類の磁性ビーズ4を用いて形成することもできる。なお、磁性ビーズの「種類」は、形状や寸法の他、磁性や材質等によって分類することもできる。
単一の種類の磁性ビーズ4を用いて保護層40を形成する場合には、磁性ビーズの管理や保護層40の形成状況の把握が容易となる。なお、単一の種類の磁性ビーズ4を用いて保護層40を形成する場合には、保護層40を複数層形成することが好ましい。複数層形成することによって、下層の隣接する磁性ビーズ同士の間に生じる空間(隙間)が上層の磁性ビーズ4によって覆われるため、保護層40をより密に形成することができる。
また、複数の種類の磁性ビーズ4を用いて保護層40を形成する場合には、輸送管1の材質や稼働条件に応じて磁性ビーズ4の種類を組み合わせて用いることで、1層の場合であっても保護層40を密に形成することができる。特に、複数の種類の磁性ビーズ4のうちの1つの種類の磁性ビーズ4同士で形成される空間を効率よく埋める他の種類の磁性ビーズ4を使用して保護層40を形成した場合には、磁性ビーズ4と磁性ビーズ4の間に生じる空間(隙間)を小さくし、保護層40をさらに密に形成することができる。
【0101】
また、複数個の磁性ビーズ4を、保持力を有したシートに配置して予めシート状成型体として準備し、シート状成型体を輸送管1の内部に供給して保護層40を形成することもできる。
これにより、磁性ビーズ4を、例えばシートに規則正しく稠密に配置した状態や、2層重ねた形にした状態で輸送管1の内部に供給することができるため、保護層40を所望の厚みや密度に形成しやすくなり、ばらの状態よりも磁力による吸着性能を良好なものとし、輸送管1をより効果的に保護することができる。
また、シートを軟質の基材とした場合には、保護層40を形成した後、磨耗性物質の衝突によりシートが次第に摩滅して保持機能を失い、磁性ビーズ4をばらばらの状態とすることができるため、磁性ビーズ4の回収等が容易にできる。
【0102】
<試験1:透明アクリル板を用いた吸着試験>
本発明による輸送管の耐摩耗性向上方法、磁性ビーズ、及び磁力発生装置について、水平面に対して所定の角度に傾斜させた透明なアクリル板を輸送管1の代わりに用い、このアクリル板の裏面に磁力発生器2として各種磁石を配置し、アクリル板の表面を滑落等する各種磁性ビーズ4の吸着試験を行った。
【0103】
図17は、試験1に用いた試験装置の外観図(写真)である。
試験装置には、幅300mm、長さ400mmの透明なアクリル板101Aを、水平面に対して所定の角度に傾斜させて固定した。試験1における所定の角度は、「30度」、「45度」、「60度」の3通りとした。また、アクリル板101Aの板厚tは、t=1mm及びt=2mmの2種類とした。なお、図17では、透明なアクリル板101Aの形状を分かりやすくするため、アクリル板101Aの輪郭を点線で示している。
アクリル板101Aの裏面の所定の位置には、磁力発生器として各種磁石102をアクリル板101Aに接するように設置した。なお、図17には、磁力発生器として電磁石102Bを設置した場合を示している。
【0104】
図18は、アクリル板101Aの裏面に設置した磁石102の外観図(写真)である。
試験装置において、アクリル板101Aの裏面に設置する磁石102としては、以下の3種類を用いた。
(1)ネオジム磁石102A(図18(a))
矩形:縦25mm×横25mm×厚さ12.7mm、吸着力:15.2kg
(2)電磁石102B(図18(b))
カネテック(株)製、型番:KE-5B、円柱形:外径50mm×高さ50mm、吸着力:最大60kg
なお、当該製品の定格電源は直流90Vであるが、電圧を変化させた時に吸着の様子がどう変化するかを確認するため、直流30Vの電圧で動作させた場合の試験も一部実施した。
(3)マグネットベース102C(図18(c))
カネテック(株)製、型番:MB-H2、寸法:縦70mm×横70mm×奥行80mm、吸着力:25kg
なお、当該製品には永久磁石が用いられており、切換レバー102Caの操作により磁力をオン/オフできる。
【0105】
試験1では、高強度・高硬度(800HV)のマルテンサイト系ステンレス鋼であるJIS SUS440C鋼製の磁性鋼球を磁性ビーズ4として用いた。なお、磁性鋼球の直径は、2mm及び4mmの2種類とした。
この磁性ビーズ4を、幅50mmの気密防水用粘着テープ(ダイヤテックス(株)製、型番:KM-30-DBK、厚さ0.22mm、基材:ポリエチレンクロス、粘着剤:アクリル系、粘着力:60N/50mm(テープ幅))の粘着面上に所定の配置となるように並べ、矩形のシート状に成型した。なお、用いた粘着テープは両面タイプだが、磁性ビーズ4を並べる側のみを粘着面とし、反対側(試験装置と接する側)は剥離紙を貼り付けたまま使用した。
磁性ビーズ4をばらばらの状態で用いるのではなく、保持力を有したシートに配置して予めシート状成型体として準備することにより、磁性ビーズ4を規則正しく緻密に配置しやすくなり、所定の位置で磁石102に吸着させたときの耐摩耗性がより向上する。また、成型用の基材として上記の粘着テープのような樹脂を用いることにより、シート状成型体が所定の位置に吸着された後、軟質の基材は細かい摩耗性物質の衝突により次第に摩滅して程なく消失する。よって、必要に応じて磁石102の磁力をオフにすることにより磁性ビーズ4をばらばらの状態に戻すことができるため、磁性ビーズ4の回収等が容易となる。
なお、シート状成型体が消失しなくても粘着剤などの保持機能が失われたもの、収納した袋体の片側が摩滅したものであっても磁性ビーズ4はばらばらになり得るため、磁性ビーズ4の回収等を容易とするには、摩耗性物質の衝突に伴い次第に保持力を失うものであればよい。
【0106】
図19は単一の種類の磁性ビーズを用いた第1のシート状成型体を示す図であり、図19(a)は平面外観写真、図19(b)は斜視外観写真である。
第1のシート状成型体140は、磁性ビーズ4として直径4mmの単一径の磁性ビーズ104Aを、粘着テープの上に1層、図12と同様に稠密に並べて成型した。
【0107】
図20は複数の種類の磁性ビーズを用いた第2のシート状成型体を示す図であり、図20(a)は平面外観写真、図20(b)は斜視外観写真である。
第2のシート状成型体141は、磁性ビーズ4として直径4mmの磁性ビーズ104Aと直径2mmの磁性ビーズ104Bを、粘着テープの上に1層、図15と同様に規則正しく稠密に並べて成型した。
【0108】
図21は単一の種類の磁性ビーズを用いた第3のシート状成型体を示す図であり、図21(a)は製作状況の外観写真、図21(b)は平面外観写真である。
第3のシート状成型体142は、円形の枠内に直径4mmの単一径の磁性ビーズ104Aを稠密に並べ、透明樹脂製の真空袋(縦80mm×横150mm)110と、市販の真空パック装置(吸気性能:-60kPa/50Hz、真空度:約65%)を用いてシート状に成型した。なお、図21では、透明な真空袋110の形状を分かりやすくするため、真空袋110の輪郭を点線で示している。
【0109】
試験装置に固定したアクリル板101Aの裏面に上記(1)~(3)の3種類の磁石102(電磁石102Bについては電圧90V及び30Vの2通り)をそれぞれ設置した場合について、当該箇所のアクリル板101A表面におけるアクリル板101A垂直方向の磁束密度を、市販の磁束計(カネテック(株)製テスラメータ、型番:TM-801)を用いて測定した。
また、参考のため、アクリル板101Aが無い場合についても併せて測定を行った。磁束密度は計測プローブを当てる位置によって微妙に変化するため、測定に際してはプローブ位置を僅かに動かし、概ね最大と思われる値を記録した。下表1に磁束密度測定結果を示す。なお、表1において測定値の単位は「mT(ミリテスラ)」である。
【表1】
【0110】
表1から分かるように、磁束密度の値はネオジム磁石102Aが突出して高く、次いで電圧90Vの電磁石102B、電圧30Vの電磁石102B、マグネットベース102Cの順となっているが、電圧30Vの電磁石102Bとマグネットベース102Cはほぼ同等である。アクリル板101Aを挟むことにより磁束密度は低下するが、アクリル板なしの場合を100%としたとき、ネオジム磁石102Aでは板厚t=2mmのアクリル板101Aを挟んでも74%までしか低下しないのに対し、板厚t=1mmのアクリル板101Aを挟んだマグネットベース102Cや、板厚t=2mmのアクリル板101Aを挟んだ電圧90Vの電磁石102B、電圧30Vの電磁石102B、及びマグネットベース102Cでは1/2程度まで顕著に低下しており、間に樹脂を挟んだ場合における磁束密度の低下しにくさという点でも、ネオジム磁石102Aの優位性が示されている。
【0111】
図22は吸着力測定の様子を示す図(写真)である。
試験装置に固定したアクリル板101Aの所定の角度を45度に設定し、ネオジム磁石102A又は電磁石102Bを用いた場合における第1のシート状成型体140及び第2のシート状成型体141の吸着力測定を行った。
図22に示すように、ポリ袋に入れた第1又は第2のシート状成型体140,141を裏面にネオジム磁石102A又は電磁石102Bがある位置で予め吸着させておき、ポリ袋の下端をクリップ状の治具で引張り、第1又は第2のシート状成型体140,141が動き出す寸前における治具の引張り力をデジタル式の吊りはかりで計測した。なお、本測定においては参考のため板厚t=3mmのアクリル板101Aについても測定を行った。下表2に吸着力測定結果を示す。
【表2】
【0112】
表2から分かるように、アクリル板101A表面に沿った吸着力という点においても、ネオジム磁石102Aは電磁石102Bよりもはるかに勝っており、また、アクリル板101Aの板厚tが増したときの吸着力減少の度合いは小さくなっている。
【0113】
また、試験装置において、水平面に対して所定の角度に傾斜させたアクリル板101Aの裏面に上記(1)~(3)の3種類の各種磁石102を配置した状態で、アクリル板101Aの表面の上端部から磁性ビーズを初速ゼロの静止状態から自然に滑落させ、磁石102の配置位置における磁性ビーズの吸着試験を行った。ここで、ばらの磁性ビーズ104A,104Bを滑落させる場合の磁性ビーズ104A,104Bの数は、直径2mmの磁性ビーズ104Bは約2000個、直径4mmの磁性ビーズ104Aは約1000個とした。一方、第1から第3のシート状成型体140,141,142を滑落させる場合は、各シート状成型体とも1体とした。
図23は磁性ビーズの吸着時の状況を例示する図であり、図23(a)は、45度に傾斜させた板厚t=1mmのアクリル板101Aの裏面に電圧90Vの電磁石102Bを配置して直径2mmの磁性ビーズ104Bを滑落させたときの吸着状況を示す写真、図23(b)は、60度に傾斜させた板厚t=2mmのアクリル板101Aの裏面にネオジム磁石102Aを配置して第1のシート状成型体140を滑落させたときの吸着状況を示す写真、図23(c)は、45度に傾斜させた板厚t=2mmのアクリル板101Aの裏面に電圧90Vの電磁石102Bを配置して第2のシート状成型体141を滑落させたときの吸着状況を示す写真である。
吸着試験結果を下表3に示す。また、表3における記号の意味を下表4に示す。
【表3】
【表4】
【0114】
表3に示す磁性ビーズの滑落・吸着試験結果から、以下の所見が得られた。
(1)全体的な傾向として、吸着性能は概ねネオジム磁石102A>電圧90Vの電磁石102B≧マグネットベース102Cとなっており、特にネオジム磁石102Aが優れている。一方、電圧を30Vに下げた場合の電磁石102Bは明らかに磁力不足であった。
(2)磁性ビーズをばらで用いる場合、直径4mmの磁性ビーズ104Aよりも直径2mmの磁性ビーズ104Bの方が吸着状況が良い。これは、直径が大きいほど磁性ビーズが重くなり、磁石102の磁力が不足すると吸着しにくくなったり、一旦吸着しても後方から衝突してくる磁性ビーズにはじかれたりするためと考えられる。
(3)第1から第3のシート状成型体140,141,142それぞれを用いた結果に有意な差はなく、いずれもネオジム磁石102Aが◎、電圧90Vの電磁石102B及びマグネットベース102Cが○であり、直径2mmの磁性ビーズ104Bをばらで用いた場合とほぼ同等の結果であった。すなわち、磁性ビーズを予めシート状成型体としておくことにより、ばらの状態では吸着性能が不足していた直径4mmの大径磁性ビーズ104Aを用いた場合でも、良好な吸着性能が得られることが判明した。
【0115】
<試験2:透明アクリル管を用いた吸着試験及びアルミナボール衝突試験>
本発明による輸送管の耐摩耗性向上方法、磁性ビーズ、及び磁力発生装置について、透明なアクリル管(90°ベンド管)を輸送管1の代わりに用い、このアクリル管のベンド中央位置の外面に磁力発生器2として各種磁石を配置し、アクリル管の内面を滑落する各種磁性ビーズ4の吸着試験と、吸着させた各種磁性ビーズ4に対するアルミナボールの衝突試験を行った。
【0116】
図24は試験2に用いた試験装置の外観図であり、図24(a)は斜視外観写真、図24(b)は側面外観写真である。また、図25は本試験に用いたアルミナボールの外観図(写真)である。
試験装置は、肉厚3mm、内径81mm、ベンド半径340mmの透明なアクリル管101Bを、図24に示す通り、上側の入口が鉛直上方向、下側の出口が水平方向となるように固定したもので、ベンド部中央位置の外面に磁性体吸着用の各種磁石102をアクリル管101Bに接するように設置した。なお、図24は電磁石102Bを設置した場合を示している。
【0117】
アクリル管101Bの外面のベンド部中央位置に設置する磁石102としては、試験1と同じく、ネオジム磁石102A、電磁石102B、マグネットベース102Cの3種類を用いた。但し、電磁石102Bの電圧は定格の直流90Vのみとした。
【0118】
試験2において、アクリル管101Bの内面を滑落させる物としては、以下の3種類を用いた。
(1)磁鉄鉱などの酸化鉱物類から成る国内産の砂鉄(比較例)。
(2)試験1と同様の直径4mmの磁性ビーズ104A、及び直径2mmの磁性ビーズ104B。
(3)試験1と同様の第1のシート状成型体140、第2のシート状成型体141、及び第3のシート状成型体142。
【0119】
試験装置において、アクリル管101Bの外面のベンド部中央位置に上記の各種磁石102を配置した状態で、アクリル管101Bの上端部から上記(1)の砂鉄又は上記(2)、(3)の磁性ビーズを初速ゼロの静止状態から自然に滑落させ、磁石102の配置位置における吸着試験を行った。ここで、ばらの磁性ビーズ104A,104Bを滑落させる場合の磁性ビーズ104A,104Bの数は、直径2mmの磁性ビーズ104Bは約2000個、直径4mmの磁性ビーズ104Aは約1000個とした。一方、シート状成型体140,141,142を滑落させる場合は各成型体とも1体とした。
更に、砂鉄又は磁性ビーズが吸着した状態でアクリル管101Bの上端部から図25に示すアルミナボール120(直径6mm、比重3.69)を約6500個投入し、吸着中の砂鉄又は磁性ビーズに衝突させて保護層の状態の変化を観察した。
なお、ばらの磁性ビーズ104A,104Bをネオジム磁石102A又は電圧90Vの電磁石102Bで吸着させる場合については、吸着した磁性ビーズ104A,104Bがなるべく図12に示すような稠密に整列した1層の保護層となるように手指で整えたものに対しても併せてアルミナボール120の衝突試験を行い、磁性ビーズ104A,104Bの整列度合による影響を調べた。
【0120】
図26は磁性ビーズの吸着時の状況を例示する図であり、図26(a)はアクリル管101Bの外面にネオジム磁石102Aを配置して直径2mmの磁性ビーズ104Bを滑落させたときの吸着状況を示す写真、図26(b)はアクリル管101Bの外面に電圧90Vの電磁石102Bを配置して第1のシート状成型体140を滑落させたときの吸着状況を示す写真、図26(c)はアクリル管101Bの外面にネオジム磁石102Aを配置して第2のシート状成型体141を滑落させたときの吸着状況を示す写真である。
一方、図27は砂鉄の吸着時の状況を例示する図(写真)である。図27では、アクリル管101Bの外面にネオジム磁石102Aを配置して砂鉄130を滑落させたときの吸着状況を示している。
【0121】
図28は砂鉄130に対するアルミナボール120を用いた衝突試験前後における保護層の変化の状況を例示する図であり、図28(a)はアクリル管101Bの外面に電磁石102Bを配置して砂鉄130を滑落させたときの吸着状況(アルミナボール120の衝突前)を示す写真、図28(b)は砂鉄130に対するアルミナボール120衝突時の状況を示す写真、図28(c)はアルミナボール120が衝突した後の砂鉄130の吸着状況を示す写真である。
図28(a)と図28(c)の吸着状況を比較すると、アルミナボール120が衝突した後の図28(c)においては、吸着していた砂鉄130の大部分が脱落していることが分かる。
【0122】
図29は磁性ビーズ4に対するアルミナボール120を用いた衝突試験前後における保護層の変化の状況を例示する図であり、図29(a)はアクリル管101Bの外面にネオジム磁石102Aを配置して直径2mmの磁性ビーズ104Bを滑落させたときの吸着状況(アルミナボール120の衝突前)を示す写真、図29(b)は磁性ビーズ104Bに対するアルミナボール120衝突時の状況を示す写真、図29(c)はアルミナボール120が衝突した後の磁性ビーズ104Bの吸着状況を示す写真である。
図29(a)と図29(c)の吸着状況を比較すると、アルミナボール120が衝突した後の図29(c)においては、吸着している磁性ビーズ104Bが若干動いているものの影響は小さいことが分かる。
【0123】
図30は磁性ビーズ4に対するアルミナボール120を用いた衝突試験前後における保護層の変化の状況を例示する図であり、図30(a)はアクリル管101Bの外面にネオジム磁石102Aを配置して直径2mmの磁性ビーズ104Bを滑落させ、さらに手指で整えたときの吸着状況(アルミナボール120の衝突前)を示す写真、図30(b)は磁性ビーズ104Bに対するアルミナボール120衝突時の状況を示す写真、図30(c)はアルミナボール120が衝突した後の磁性ビーズ104Bの吸着状況を示す写真である。
図30(a)と図30(c)の吸着状況を比較すると、アルミナボール120が衝突した後の図30(c)においては、吸着している磁性ビーズ104Bは殆ど動いていないことが分かる。
【0124】
吸着試験とアルミナボール衝突試験の結果を下表5に示す。また、表5における記号の意味を下表6に示す。
【表5】
【表6】
【0125】
表5の結果から、以下のような所見が得られた。
(1)全体的な傾向として、吸着性能は、概ねネオジム磁石102A>電圧90Vの電磁石102B≧マグネットベース102Cとなっており、特にネオジム磁石102Aが優れている。
(2)磁性ビーズをばらで用いる場合、直径4mmの磁性ビーズ104Aよりも直径2mmの磁性ビーズ104Bの方が吸着状況が良い。これは、直径が大きいほど磁性ビーズが重くなり、磁石102の磁力が不足すると吸着しにくくなったり、一旦吸着しても後方から衝突してくる磁性ビーズにはじかれたりするためと考えられる。
(3)砂鉄130と直径2mmの磁性ビーズ104Bとではほぼ同等の吸着状況となっている。しかし、砂鉄130の場合は、図27に示すように棘状部分が生じる。このため、保護層の膜厚管理が困難である。また、棘状部分はアルミナボール120が衝突した時に脱落しやすい。
(4)すべての磁性ビーズについて、アルミナボール120の衝突後も良好な保護層の状態を保持できるのはネオジム磁石102Aを用いた場合のみである。
(5)ばらの磁性ビーズ104A,104Bをネオジム磁石102Aで吸着した場合、磁性ビーズ104A,104Bを図12に示すように稠密に整列させると、整列させないときよりも保護層の保持力が高まり、アルミナボール120を衝突させても殆ど変化がなかった。これは、磁性ビーズ104A,104Bを1層にするとアルミナボール120が衝突する保護層端部の断面厚さが減じることと、磁性ビーズ104A,104Bにアルミナボール120が衝突した時の衝撃が周囲をとりまく稠密な保護層に分散し、磁性ビーズ104A,104Bの吸着が保持されることによるものと思われる。
(6)第1から第3のシート状成型体140,141,142を用いた場合の吸着性能に有意な差はなく、いずれもネオジム磁石102Aが◎、電圧90Vの電磁石102B及びマグネットベース102Cが〇であった。すなわち、磁性ビーズを予めシート状成型体としておくことにより、ばらの状態では吸着性能が不足することのある直径4mmの大径の磁性ビーズ104Aを用いても、良好な吸着性能が得られることが判明した。
【0126】
上記の試験1及び試験2の試験結果を勘案し、磁性ビーズ4が滑落中でも良好に吸着し、アルミナボール120の衝突後でも保護層を良好に保持するために必要となる輸送管内面における磁束密度の必要条件を下表7にまとめて示す。
【表7】
なお、磁性ビーズ4を稠密に配置したり規則性を持たせて配置する方法は、上記のような第1~第3のシート状成型体140~142とする方法以外に、例えば磁力発生器2の磁力分布の配置やそれと合わせた磁力調整手段の磁力調整、マイクロマシン等による磁性ビーズ4の直接的な供給と配置、また大口径の輸送管1にあっては作業員による直接的な供給と配置など各種の方法がある。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、海底熱水鉱床の開発に用いられる揚鉱システム等、各種の鉱石スラリー輸送用配管系をはじめ、各種の摩耗性物質の輸送に用いられる輸送管へ活用できる。
【符号の説明】
【0128】
1 輸送管
2 磁力発生器
3 磁力調整手段
4 磁性ビーズ
5 セパレータ
11、12 直管部
13、14 屈曲管部
21 磁石(永久磁石)
22 継鉄
30 調整機構
40 保護層
41 基材
42 被覆
140 第1のシート状成型体
141 第2のシート状成型体
142 第3のシート状成型体
d ビーズの外径
A 箇所
B 空間
X 磁石回転軸
S1 摩耗箇所特定ステップ
S2 磁力発生器設置ステップ
S3 磁性ビーズ供給ステップ
S4 保護層形成ステップ
S5 稼働ステップ
S6 検出ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31