(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】靭性、延性及び強度に優れた鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20230510BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230510BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
C21D9/46 P
C21D9/46 G
C22C38/00 302A
C22C38/00 301S
C22C38/38
(21)【出願番号】P 2020533590
(86)(22)【出願日】2018-12-18
(86)【国際出願番号】 IB2018060242
(87)【国際公開番号】W WO2019123240
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/058129
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,コラリ
(72)【発明者】
【氏名】ペルラド,アストリッド
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ,カンイン
(72)【発明者】
【氏名】ケーゲル,フレデリク
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/131053(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/067624(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/113788(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/102050(WO,A1)
【文献】特表2016-531200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0205488(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104988391(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46 - 9/48
C21D 8/00 - 8/04
C22C 38/00 - 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を製造する方法であって、以下の工程、
- 重量パーセントで、
0.1%≦C≦0.4%
3.5%≦Mn≦8.0%
0.1%≦Si≦1.5%
Al≦3%
Mo≦0.5%
Cr≦1%
Nb≦0.1%
Ti≦0.1%
V≦0.2%
B≦0.004%
0.002%≦N≦0.013%
S≦0.003%
P≦0.015%
を含み、残部が鉄及び製錬から生じる不可避的不純物である組成を有する鋼を鋳造して、鋼半製品を得る工程、
- 該鋼半製品を1150℃~1300℃の間に含まれる温度T
reheatに再加熱する工程、
- 該再加熱した半製品を800℃~1250℃の間に含まれる温度で熱間圧延する工程であって、最終圧延温度T
FRTが800℃以上であり、それにより熱間圧延鋼板を得る工程、
- 該熱間圧延鋼板を1℃/秒~150℃/秒の間に含まれる冷却速度V
c1で650℃以下の巻取り温度T
coilまで冷却し、該熱間圧延鋼板を巻取り温度T
coilで巻き取る工程、その後
- T
ICAmin~T
ICAmaxの間に含まれる連続焼鈍温度T
ICAで該熱間圧延鋼板を連続焼鈍する工程であって、T
ICAmin=650℃、T
ICAmaxは加熱時に30%のオーステナイトが生成する温度であり、該熱間圧延鋼板は該連続焼鈍温度T
ICAで3秒~3600秒の間に含まれる連続焼鈍時間t
ICAの間保持される工程、その後、
- 該熱間圧延鋼板を室温まで冷却する工程であって、該熱間圧延鋼板は600~350℃の間の、少なくとも1℃/秒の平均冷却速度V
ICAで冷却されて、それにより熱間圧延及び焼鈍された鋼板を得る工程、
- 冷間圧延圧下比30~70%で該熱間圧延及び焼鈍された鋼板を冷間圧延して、それにより冷間圧延鋼板を得る工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記熱間圧延及び焼鈍された鋼板が、表面分率で
- フェライトであって、フェライト粒は最大3μmの平均サイズを有するフェライト、
- 最大30%のオーステナイト、
- 最大8%のフレッシュマルテンサイト、及び
- 25%より低い平均Mn含有率を有するセメンタイト
からなる組織を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱間圧延及び焼鈍された鋼板が、400HVより低いビッカース硬さを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱間圧延及び焼鈍された鋼板が、20℃において少なくとも50J/cm
2のシャルピーエネルギーを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記巻取りと前記連続焼鈍の間、及び/又は前記連続焼鈍の後に、前記熱間圧延鋼板を酸洗する工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記連続的焼鈍時間t
ICAが200秒~3600秒の間に含まれる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
冷間圧延後に、
- 前記冷間圧延鋼板を650~1000℃の間に含まれる焼鈍温度T
annealまで加熱し、及び
- 前記冷間圧延鋼板を焼鈍温度T
annealに30秒~10分の間に含まれる焼鈍時間t
annealの間保持する
ことをさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い冷間圧延性及び靭性を有し、延性及び強度の高い組み合わせを有する冷間圧延及び熱処理された鋼板の製造に好適な熱間圧延及び焼鈍された鋼板の製造方法、及び本方法により製造された熱間圧延及び焼鈍された鋼板に関するものである。
【0002】
本発明は、延性と強度の高い組合せを有する冷間圧延及び熱処理された鋼板の製造方法、及びこの方法によって得られる冷間圧延及び熱処理された鋼板に関する。
【背景技術】
【0003】
特に自動車産業においては、地球環境保全の観点から燃費向上のための車両の軽量化、及び高い引張り強さを有する鋼の使用による安全性の向上が継続的に求められている。このような鋼は、実際に、同じ又は改善された安全性レベルを保証しながら、より薄い厚さを有する部品を製造するために使用され得る。
【0004】
そのために、析出及び結晶粒サイズの微細化によって同時に硬化が得られる微小合金元素を有する鋼が提案されている。このような鋼の開発に続いて、良好なレベルの強度及び良好な冷間成形性を保持する先進高張力鋼と呼ばれるより高い強度の鋼が開発された。
【0005】
さらに高い引張強さレベルを得る目的で、特性(引張強さ/変形性)の高度に有利な組み合わせを持つTRIP(変態誘起塑性)挙動を示す鋼が開発された。これらの特性は、ベイナイト及び残留オーステナイトを含むフェライトマトリックスからなるこのような鋼の組織と関連している。残留オーステナイトはケイ素又はアルミニウムの添加によって安定化され、これらの元素はオーステナイト中及びベイナイト中の炭化物の析出を遅らせる。残留オーステナイトの存在により、未変形板に高延性が与えられる。その後の変形の効果の下で、例えば一軸方向に応力を加えると、TRIP鋼で作られた部品の残留オーステナイトはマルテンサイトに徐々に変態し、結果として実質的な硬化がもたらされ、ネッキングの出現が遅れる。
【0006】
強度及び延性の改良された組合せを達成するために、板がオーステナイト又は変態区間ドメインで焼鈍され、Ms変態点未満の焼入れ温度まで冷却され、その後炭素濃化温度まで加熱され、所定の時間この温度に維持される、いわゆる「焼入れ及び炭素濃化」方法によって板を製造することがさらに提案された。得られた鋼板は、マルテンサイト及び残留オーステナイト、及び任意でベイナイト及び/又はフェライトを含む組織を有する。残留オーステナイトは、炭素濃化中のマルテンサイトからの炭素の炭素濃化に起因する高いC含有率を有し、マルテンサイトは低い割合の炭化物を含む。
【0007】
これらの鋼板はすべて、抵抗及び延性の良好なバランスを示す。
【0008】
しかし、このような板の製造に関しては新たな課題が出てくる。特に、このような鋼板の製造方法は、一般に、鋼に最終的な特性を付与する熱処理前に、鋼半製品を鋳造し、この半製品を熱間圧延して熱間圧延鋼板を作製し、その後、この熱間圧延鋼板を巻取りすることを含む。次いで、熱間圧延鋼板は所望の厚さに冷間圧延され、所望の最終組織及び特性に応じて選ばれた熱処理が施され、冷間圧延及び熱処理された鋼板を得る。
【0009】
これらの鋼の組成のために、製造方法を通して高いレベルの抵抗に到達する。特に、熱間圧延鋼板は、冷間圧延前に、その冷間圧延性を損なう高い硬さを発揮する。その結果、冷間圧延板の利用可能なサイズの範囲が狭まる。
【0010】
この問題を解決するために、冷間圧延の前に、熱間圧延鋼板を、一般に500℃~700℃の間に含まれる温度で数時間バッチ焼鈍することが提案された。
【0011】
バッチ焼鈍は実際に熱間圧延鋼板の硬さの低下をもたらし、したがってその冷間圧延性を改善する。
【0012】
しかし、この解決法は完全に満足できるものではない。
【0013】
実際、バッチ焼鈍処理は一般に鋼の最終特性、特にその延性及び強度の低下をもたらす。
【0014】
また、熱間圧延鋼板はバッチ焼鈍後に不十分な靭性を示すが、これはさらなる加工中のバンド破壊の原因となる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、高い機械的性質、特に延性及び強度の高い組合せを有する冷間圧延及び熱処理された鋼板の製造に適しつつ、冷間圧延性及び靭性を向上させた熱間圧延鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、冷間圧延前にバッチ焼鈍処理を含む方法によって製造された同様の鋼板と比較して機械的特性の高い組合せを有する冷間圧延及び熱処理された鋼板、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的のために、本発明は、以下の工程、すなわち
- 重量パーセントで、
0.1%≦C≦0.4%
3.5%≦Mn≦8.0%
0.1%≦Si≦1.5%
Al≦3%
Mo≦0.5%
Cr≦1%
Nb≦0.1%
Ti≦0.1%
V≦0.2%
B≦0.004%
0.002%≦N≦0.013%
S≦0.003%
P≦0.015%
を含み、残部が鉄及び製錬から生じる不可避的不純物である組成を有する鋼を鋳造して、鋼半製品を得る工程、
- 鋼半製品を1150℃~1300℃の間に含まれる温度Treheatに再加熱する工程、
- 再加熱した半製品を800℃~1250℃の間に含まれる温度で熱間圧延する工程であって、最終圧延温度TFRTが800℃以上であり、それにより熱間圧延鋼板を得る工程、
- 熱間圧延鋼板を1℃/秒~150℃/秒の間に含まれる冷却速度Vc1で650℃以下の巻取り温度Tcoilまで冷却し、熱間圧延鋼板を巻取り温度Tcoilで巻き取る工程、その後
- TICAmin~TICAmaxの間に含まれる連続焼鈍温度TICAで熱間圧延鋼板を連続焼鈍する工程であって、TICAmin=650℃、TICAmaxは加熱時に30%のオーステナイトが生成する温度であり、熱間圧延鋼板は該連続焼鈍温度TICAで3秒~3600秒の間に含まれる連続焼鈍時間tICAの間保持される工程、その後、
- 熱間圧延鋼板を室温まで冷却する工程であって、該熱間圧延鋼板は600~350℃の間の、少なくとも1℃/秒の平均冷却速度VICAで冷却されて、それにより熱間圧延及び焼鈍された鋼板を得る工程、
- 30~70%の間の冷間圧延圧下比率で熱間圧延及び焼鈍された鋼板を冷間圧延して、それにより冷間圧延鋼板を得る工程
を含む、鋼板の製造方法に関する。
【0018】
好ましくは、熱間圧延及び焼鈍された鋼板は、表面分率で
- フェライト(フェライト粒は最大3μmの平均サイズを有する。)、
- 最大30%のオーステナイト、
- 最大8%のフレッシュマルテンサイト、及び
- 25%より低い平均Mn含有率を有するセメンタイト
からなる組織を有する。
【0019】
一般に、熱間圧延及び焼鈍された鋼板は、400HVより低いビッカース硬さを有する。
【0020】
好ましくは、熱間圧延及び焼鈍された鋼板は、20℃において少なくとも50J/cm2のシャルピーエネルギーを有する。
【0021】
好ましくは、前記方法は、巻取りと連続焼鈍の間、及び/又は連続焼鈍の後に、熱間圧延鋼板を酸洗する工程をさらに含む。
【0022】
好ましくは、連続的焼鈍時間tICAは200秒~3600秒の間に含まれる。
【0023】
好ましくは、この方法はさらに、冷間圧延後に、
- 冷間圧延鋼板を650~1000℃の間に含まれる焼鈍温度Tannealまで加熱し、及び
- 冷間圧延鋼板を焼鈍温度Tannealに30秒~10分の間に含まれる焼鈍時間tannealの間保持する
ことを含む。
【0024】
第1の実施形態では、焼鈍温度TannealはTICAmin~Ae3の間に含まれる。
【0025】
第2の実施形態では、焼鈍温度Tannealは、Ae3~1000℃の間に含まれる。
【0026】
一実施形態によると、本方法は、さらに、冷間圧延鋼板を焼鈍温度Tannealから室温まで、1℃/秒~70℃/秒の間に含まれる冷却速度Vc2で冷却して、冷間圧延及び熱処理された鋼板を得る工程を含む。
【0027】
別の実施形態では、この方法はさらに、冷間圧延鋼板を焼鈍温度Tannealで保持した後、以下の連続工程、すなわち、
- 冷間圧延鋼板を焼鈍温度Tannealから350℃~550℃の間に含まれる保持温度THまで1℃/秒~70℃/秒の間に含まれる冷却速度Vc2で冷却する工程、
- 10秒~500秒の間に含まれる保持時間tHで冷間圧延鋼板を保持温度THに保持する工程、その後
- 冷間圧延鋼板を保持温度THから室温まで1℃/秒~70℃/秒の間に含まれる冷却速度Vc3で冷却し、冷間圧延及び熱処理された鋼板を得る工程
を含む。
【0028】
好ましくは、前記方法は、170~450℃の間に含まれる焼戻し温度TTで、10秒~1200秒の間に含まれる焼戻し時間tTの間、前記冷間圧延及び熱処理された鋼板を焼戻す工程をさらに含む。
【0029】
好ましくは、前記方法は、前記冷間圧延及び熱処理された鋼板をZn若しくはZn合金又はAl若しくはAl合金で被覆する工程をさらに含む。
【0030】
別の実施形態では、前記方法はさらに、以下の工程、すなわち、
- 加熱された冷間圧延鋼板を焼鈍温度TannealからMf+20℃~Ms-20℃の間に含まれる焼入れ温度QTまで、冷却時にフェライト及びパーライトの生成を回避するのに十分高い冷却速度Vc4で焼入れする工程、
- 冷間圧延鋼板を焼入れ温度QTから350℃~500℃の間に含まれる炭素濃化温度TPまで再加熱し、冷間圧延鋼板を炭素濃化温度TPで3秒~1000秒の間に含まれる炭素濃化時間tPの間維持する工程、
- 冷間圧延鋼板を室温まで冷却して、冷間圧延及び熱処理された鋼板を得る工程
を含む。
【0031】
本実施形態の第1の変形例では、焼鈍温度Tannealは、焼鈍時に、冷間圧延鋼板が表面分率で
- 10%~45%の間のフェライト、
- オーステナイト、及び
- 最大で0.3%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nmよりも小さい平均サイズを有する。)
からなる組織を有するようなものである。
【0032】
本実施形態の第2の変形例では、焼鈍温度TannealはAe3よりも高く、冷間圧延鋼板は、焼鈍時に、
- オーステナイト、及び
- 最大で0.3%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nmよりも小さい平均サイズを有する。)
からなる組織を有する。
【0033】
この冷間圧延鋼板を炭素濃化温度TPに維持した後、冷間圧延鋼板を直ちに室温まで冷却することができる。
【0034】
変形例では、炭素濃化温度TPでの冷間圧延鋼板の保持から室温までの冷間圧延鋼板の冷却の間に、冷間圧延鋼板は浴中で溶融めっきされる。
【0035】
好ましくは、この組成中のSi含有率は、最大で1.4%である。
【0036】
また、本発明は、重量パーセントで、
0.1%≦C≦0.4%
3.5%≦Mn≦8.0%
0.1%≦Si≦1.5%
Al≦3%
Mo≦0.5%
Cr≦1%
Nb≦0.1%
Ti≦0.1%
V≦0.2%
B≦0.004%
0.002%≦N≦0.013%
S≦0.003%
P≦0.015%
を含み、残部が鉄及び製錬から生じる不可避的不純物である組成を有する鋼から作られ、冷間圧延鋼板は、表面分率で、
- 8~50%の間の残留オーステナイト、
- 最大80%の変態区間フェライト(フェライト粒は、あったとしても、最大で1.5μmの平均サイズを有する。)、
- 最大で1%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)、
- マルテンサイト及び/又はベイナイト
からなる組織を有する、冷間圧延及び熱処理された鋼板にも関する。
【0037】
一実施形態では、組織は、表面分率において、少なくとも10%の変態区間フェライトを含む。
【0038】
別の実施形態では、組織は、表面分率で、
- 8~50%の間の残留オーステナイト、
- 最大1%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)、
- マルテンサイト及び/又はベイナイト
からなる。
【0039】
一実施形態によると、マルテンサイトは、焼戻しマルテンサイト及び/又はフレッシュマルテンサイトからなる。
【0040】
この実施形態の第1の変形例において、組織は、表面分率で、
- 8%~50%の間の、少なくとも0.4%の平均C含有率及び少なくとも1.3*Mn%の平均Mn含有率を有し、Mn%は、鋼組成中の平均Mn含有率を示す残留オーステナイト、
- 40%~80%の間の変態区間フェライト、
- 最大15%のマルテンサイト及び/又はベイナイト、及び
- 最大で0.3%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)
からなる。
【0041】
この実施形態の第2の変形例において、組織は、表面分率で、
- 8%~30%の間の、少なくとも0.4%の平均C含有率を有する残留オーステナイト、
- 70%~92%の間のマルテンサイト及び/又はベイナイト、及び
- 最大で1%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)
からなる。
【0042】
別の実施形態では、組織は、表面分率で、
- 最大45%の変態区間フェライト、
- 8%~30%の間の残留オーステナイト、
- 炭素濃化マルテンサイト、
- 最大8%のフレッシュマルテンサイト、及び
- 最大で1%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)
からなる。
【0043】
この実施形態の第1の変形例において、組織は、表面分率で、
- 10%~45%の間の変態区間フェライト、
- 8%~30%の間の残留オーステナイト、
- 炭素濃化マルテンサイト、
- 最大8%のフレッシュマルテンサイト、及び
- 最大で0.3%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)
からなる。
【0044】
この実施形態の第2の変形例において、組織は、表面分率で、
- 8%~30%の間の残留オーステナイト、
- 炭素濃化マルテンサイト、
- 最大8%のフレッシュマルテンサイト、及び
- 最大で1%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)
からなる。
【0045】
好ましくは、組成中のSi含有率は、最大で1.4%である。
【0046】
本発明は、以下に詳細に記載され、添付の図を参照しながら、制限を導入することなく、例により図示される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】比較の熱間圧延及びバッチ焼鈍された鋼板の組織を示す顕微鏡写真である。
【
図2】本発明による連続焼鈍を行った熱間圧延鋼の組織を示す顕微鏡写真である。
【
図3】熱間圧延及びバッチ焼鈍された鋼板、又は熱間圧延及び連続鋼板のいずれかから製造された冷間圧延及び熱処理された鋼板の機械的特性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明によれば、炭素含有率は、0.1%~0.4%の間である。炭素はオーステナイトを安定化させる元素である。0.1%未満では、高いレベルの引張強さを達成することは困難である。炭素含有率が0.4%を超えると、冷間圧延性が低下し、溶接性が悪くなる。好ましくは、炭素含有率は、0.1%~0.2%の間に含まれる。
【0049】
マンガン含有率は3.5~8.0%の間に含まれる。マンガンは固溶体硬化及び微細組織に対する微細化効果を提供する。したがって、マンガンは引張強さの増加に寄与する。3.5%を超える含有率では、全製造方法を通して微細組織における、及び最終組織におけるオーステナイトの重要な安定化を提供するために、Mnが使用される。特に、Mn含有率が3.5%を超えると、少なくとも8%の残留オーステナイトを含む冷間圧延及び熱処理された鋼板の最終組織が達成できる。さらに、Mnによる残留オーステナイトの安定化のために、高い延性が得られる。8.0%を超えると、溶接性が悪くなり、それと同時に偏析及び介在物が損傷特性を劣化させる。
【0050】
ケイ素は、固溶体を通して強度を増加させ、オーステナイトを安定化させるのに非常に効率的である。さらに、ケイ素は、炭化物の析出をかなり遅らせることによって、冷却時のセメンタイトの形成を遅らせる。これは、セメンタイト中のケイ素の溶解度が非常に低く、Siがオーステナイト中の炭素の活性を増加させるという事実に起因する。したがって、セメントタイトの形成に先立って、界面でSiを追い出す工程が行われる。よって、炭素によるオーステナイトの濃縮は室温でのその安定化につながる。
【0051】
このため、Si含有率は少なくとも0.1%である。しかし、Si含有率は1.5%に制限される。何故ならこの値を超えると、圧延荷重が大きくなり過ぎて熱間圧延工程が困難となるからである。また、冷間圧延性も低下する。加えて、高すぎる含有率では、表面に酸化ケイ素が生じ、これが鋼の被覆性を損なう。
【0052】
Si含有率は最大で1.4%であることが好ましい。実際、Si含有量が最大で1.4%であると、熱間圧延時に鉄かんらん石(Fe2SiO4)の存在によって生じる赤いスケール(タイガーストライプとも呼ばれる)の発生が減少又は抑制される。
【0053】
アルミニウムは精緻化の間に液相中の鋼を脱酸するための非常に有効な元素である。好ましくは、液状の鋼の十分な脱酸を得るためには、Al含有率は0.003%以上である。
【0054】
さらに、Siと同様に、Alは残留オーステナイトを安定化させ、冷却時のセメンタイトの形成を遅らせる。しかし、Al含有率は、介在物の発生を回避し、酸化の問題を回避し、材料の硬化性を保証するには、3%以下である。
【0055】
本発明の鋼は、モリブデン及びクロムの中から選択される少なくとも1種の元素を含むことができる。
【0056】
モリブデンは、硬化性を増加させ、残留オーステナイトを安定化させ、マンガン含有量から生じ得、成形性に有害である中心偏析を減少させる。0.5%を超えると、Moが多すぎる炭化物を形成し、延性に有害となる場合がある。
【0057】
しかし、Moを添加しない場合でも、鋼は不純物として少なくとも0.001%のMoを含み得る。Moを添加する場合、Mo含有率は一般に0.05%以上である。
【0058】
クロムは鋼の焼入れ性を高め、高い引張強さの達成に貢献する。最大1%のクロムは許容される。実際、1%を超えると、飽和効果が認められ、Crを加えることは無益で費用もかかる。Crを添加する場合は、その含有率は一般に少なくとも0.01%である。Crの自発的な添加を行わない場合、Cr含有率は、0.001%程度の低含有率で、不純物として存在することがある。
【0059】
チタン、ニオブ及びバナジウムなどの微小合金元素は、追加の析出硬化を得るために、最大で0.1%のTi、最大で0.1%のNb及び最大で0.2%のVの含有率で添加することができる。特に、チタンとニオブは、凝固中の粒径を制御するために使用される。
【0060】
Nbを添加する場合、その含有率は少なくとも0.01%であることが好ましい。0.1%を超えると、飽和効果が得られ、0.1%を超えるNbを添加することは無益で費用もかかる。
【0061】
Tiを添加する場合、その含有率は少なくとも0.015%であることが好ましい。Ti含有率が0.015%~0.1%の間に含まれる場合、析出が非常に高温でTiNの形で起こり、その後より低温で微細なTiCの形で起こり、硬化がもたらされる。さらに、ホウ素に加えてチタンを添加すると、チタンはホウ素と窒素との結合を妨げ、窒素はチタンと結合する。したがって、ホウ素を添加する場合、チタン含有率は3.42Nより高いことが好ましい。しかし、製造方法中の熱間圧延鋼板及び冷間圧延鋼板の硬さを増加させる粗いTiN析出物の析出を避けるために、Ti含有率は0.1%以下のままであるべきである。
【0062】
任意に、鋼組成は、鋼の焼入れ性を高めるために、ホウ素を含む。Bを添加する場合、その含有率は0.0002%より高く、好ましくは0.0005%より高く、最大で0.004%である。実際、このような限界を超えると、焼入れ性に関して飽和レベルが予想される。
【0063】
一般に、硫黄、リン及び窒素は不純物として鋼組成中に存在する。
【0064】
窒素含有率は一般に少なくとも0.002%である。粗大なTiN及び/又はAlN析出物の析出が延性を劣化させないように、窒素含有率は最大で0.013%でなければならない。
【0065】
硫黄に関しては、0.003%を超える含有率では、過剰な、MnSのような硫化物の存在により延性が低下し、特に孔拡げ試験では、このような硫化物の存在下でより低い値が示される。
【0066】
リンは固溶体中で硬化するが、特に粒界での偏析あるいはマンガンとの共偏析の傾向により、スポット溶接性及び熱間延性を低下させる元素である。これらの理由から、良好なスポット溶接性を得るためには、その含有率は0.015%に制限されなければならない。
【0067】
残りは鉄及び不可避の不純物でできている。このような不純物は、最大で0.03%のCu及び最大で0.03%のNiを含み得る。
【0068】
本発明に係る方法は、高い靭性と共に高い冷間圧延性を有し、延性と強度との組合せが高い、冷間圧延及び熱処理された鋼板の製造に適した熱間圧延及び焼鈍された鋼板を提供することを目的とする。
【0069】
また、本発明による方法は、このような冷間圧延及び熱処理された鋼板の製造を目的とする。
【0070】
発明者らは、熱間圧延及びバッチ焼鈍された鋼板の低い靭性、及び焼鈍を受けなかったであろう鋼板と比較したこのような熱間圧延及びバッチ焼鈍された鋼板から製造された冷間圧延及び熱処理された鋼板の機械的特性の劣化の問題を調査し、これらの問題が4つの主な要因から生じることを発見した。
【0071】
特に、本発明者らは、バッチ焼鈍により、マンガンが高度に濃縮された粗いセメンタイトが形成され、それゆえ、熱間圧延及びバッチ焼鈍された鋼板で極めて安定化されることを発見した。本発明者らはさらに、このように安定化されたセメンタイトが、その後の冷間圧延鋼板の標準的な熱処理中に完全に溶解しないことを見出した。その結果、鋼のMnの一部はセメンタイトに捕捉されたままであり、したがって鋼の強度及び延性に及ぼすその影響が抑制される。
【0072】
本発明者らはさらに、バッチ焼鈍によって、熱間圧延及びバッチ焼鈍された鋼板の組織も粗大化し、その結果、冷間圧延及び熱処理された鋼板の最終組織が粗大化し、機械的特性が劣化することを発見した。
【0073】
さらに、本発明者らは、鋼組成に含まれ得る微小合金元素、特にNbが、鋼を硬化させない粗大な析出物としてバッチ焼鈍中の早い段階で析出し、結果的に、その後の冷間圧延鋼板の熱処理中における析出硬化に利用できなくなることを発見した。
【0074】
最後に、本発明者らは、バッチ焼鈍が、ある温度及びある時間行われ、焼戻脆化を誘起して、熱間圧延及びバッチ焼鈍された鋼板の低い靭性をもたらすことを見出した。
【0075】
これらの問題を解決するために、本発明者らは、鋼のAe1変態点を超えるようにバッチ焼鈍温度を上昇させて実験を行った。
【0076】
しかし、本発明者らは、より高いバッチ焼鈍温度を使用すると、Mnに富むセメンタイトの形成は制限されるものの、微細組織の粗大化をもたらし、冷間圧延及び熱処理された鋼板の最終的な特性を損なうことを見出した。
【0077】
これらの知見から、本発明者らは、熱間圧延鋼板が、
- 平均フェライト粒径が最大3μmであるフェライト、
- 最大30%のオーステナイト、
- 最大8%のフレッシュマルテンサイト、及び
- 平均Mn含有率が25%未満であるセメンタイト
を含む微細組織を有するように焼鈍されるならば、冷間圧延性及び靭性を高度に向上させることができる一方で、冷間圧延及び熱処理された鋼板の最終的な特性を保証することを発見した。
【0078】
最高で8%のフレッシュマルテンサイト分率により、熱間圧延及び焼鈍された鋼板の高い靭性を達成することが可能となる。
【0079】
特に、本発明者らは、数種類の鋼組成からできた熱間圧延鋼板を種々の焼鈍条件に供して、室温まで冷却した後に変化するオーステナイト及びフレッシュマルテンサイト分率に至る実験を行い、こうして得られた鋼板の20℃におけるシャルピーエネルギーを測定した。
【0080】
これらの実験に基づいて、本発明者らは、シャルピーエネルギーが焼鈍温度の増加関数であり、フレッシュマルテンサイト分率の減少関数であることを見出した。さらに、本発明者らは、熱間圧延及び焼鈍された鋼板が最大で8%のフレッシュマルテンサイト分率を有する場合、20℃で少なくとも50J/cm2の高いシャルピーエネルギーが達成されることを発見した。
【0081】
さらに、平均Mn含有率が25%より低いセメンタイトは、セメンタイト溶解が冷間圧延鋼板の最終熱処理中に容易になり、これはさらなる処理工程中の延性及び強度を改善することを意味する。対照的に、平均Mn含有率が25%を超えるセメンタイトは、前記熱間圧延及び焼鈍された鋼板から製造された冷間圧延及び熱処理された鋼板の機械的特性の低下をもたらすであろう。
【0082】
加えて、最大3μmの平均フェライト粒径を有することは、非常に微細な微細組織を有する冷間圧延及び熱処理されたものを製造し、その機械的特性を増加させることを可能にする。
【0083】
本発明者らは、上記の微細組織により、400HVよりも低い熱間圧延及び焼鈍された鋼板の硬さを達成することが可能であり、これは熱間圧延及び焼鈍された鋼板の満足な冷間圧延性を保証することをさらに見出した。
【0084】
本発明者らは、この熱間圧延及び焼鈍された鋼板の微細組織及びこれらの特性が、熱間圧延鋼板に対して、最低連続焼鈍温度TICAmin=650℃から加熱時に30%のオーステナイトが形成される温度である最高連続焼鈍温度TICAmaxの間に含まれる連続焼鈍温度TICA及び3秒~3600秒の間に含まれる時間で連続焼鈍を行い、続いて特定の冷却条件下で熱間圧延鋼板を冷却することによって達成されることを見出した。
【0085】
特に、本発明者らは、高い連続焼鈍温度TICAのために、最大3600秒の焼鈍時間が、組織の十分な焼戻しを達成し、それによって組織の粗大化を回避しつつ、熱間圧延及び焼鈍された鋼板の冷間圧延性を改善するのに十分であることを見出した。
【0086】
また、650℃より高い温度で板を焼鈍することにより、熱間圧延鋼板の軟化が可能になり、セメンタイト粒子のMn濃縮が25%未満に制限され、微小合金元素の析出があったとしても制限され、そのような析出物の粗大化が防止され、それによって最終的な機械的特性に対するC、Mn及び微小合金元素の影響が保たれる。また、そのことは、粒界でのPのような脆弱な不純物の偏析を制限する。
【0087】
製造方法については、これからさらに詳細に説明する。
【0088】
本発明の鋼を製造する方法は、本発明の化学組成の鋼を鋳造することを含む。
【0089】
鋳造された鋼は、1150℃~1300℃の間に含まれる温度Treheatまで再加熱される。
【0090】
スラブ再加熱温度Treheatが1150℃未満の場合、圧延荷重が大きくなり過ぎ、熱間圧延処理が困難になる。
【0091】
1300℃を超えると、酸化が非常に激しくなり、スケールの損失と表面の劣化につながる。
【0092】
再加熱されたスラブは、1250℃~800℃の間の温度で熱間圧延され、最後の熱間圧延パスは800℃以上の最終圧延温度TFRTで行われる。
【0093】
最終圧延温度TFRTが800℃未満であると、熱間加工性が低下する。
【0094】
熱間圧延後、鋼は1℃/秒~150℃/秒の間に含まれる冷却速度Vc1で、650℃以下の巻取り温度Tcoilまで冷却される。1℃/秒未満では、あまりに粗い微細組織が作られ、最終的な機械的特性が劣化する。150℃/秒を超えると、冷却処理は制御困難である。
【0095】
巻取り温度Tcoilは650℃以下でなければならない。巻取り温度が650℃を超える場合、スケールの下で深い粒間酸化が形成され、表面特性の劣化につながる。
【0096】
巻取り後、熱間圧延鋼板を酸洗することが好ましい。
【0097】
次いで、熱間圧延鋼板は連続的に焼鈍される。すなわち、巻きを解かれた熱間圧延鋼板は、炉内を連続的に移動することによって熱処理を受ける。
【0098】
熱間圧延鋼板は、最低連続焼鈍温度TICAmin=650℃から加熱時に30%のオーステナイトが形成される温度である最高連続焼鈍温度TICAmaxの間に含まれる連続焼鈍温度TICA及び3秒~3600秒の間に含まれる時間で連続焼鈍される。
【0099】
これらの条件下で、連続焼鈍の間に作られた鋼の微細組織は、室温まで冷却する前に、
- フェライト、
- 30%未満のオーステナイト、
- 平均Mn含有率が25%未満のセメンタイト
からなる。
【0100】
連続焼鈍温度が650℃より低い場合、連続焼鈍処理中に微細組織回復による軟化が不十分であるため、熱間圧延及び焼鈍された鋼板の硬さは400HVを超える。また、650℃未満の連続焼鈍温度は、Pのような脆化元素の粒界での偏析を強化し、不十分な靭性値をもたらし、これは鋼板のさらなる加工には危機的である。
【0101】
連続焼鈍温度がTICAmaxより高い場合、連続焼鈍中に高すぎるオーステナイト分率が生じ、その結果、オーステナイトの安定化が不十分になり、冷却時に8%を超えるフレッシュマルテンサイトが生成する可能性がある。
【0102】
連続焼鈍時間が3秒より短い場合、熱間圧延及び焼鈍された鋼板の硬さは高すぎ、特に400HVより高くなるため、その冷間圧延性は不満足となる。連続焼鈍時間は少なくとも200秒であることが好ましい。
【0103】
連続焼鈍時間が3600秒よりも長いと、微細組織は粗大化し、特にフェライト粒は3μmを超える平均サイズを有する。連続焼鈍時間は、最大で500秒であることが好ましい。
【0104】
焼鈍中に作製できるオーステナイトは炭素及びマンガンに富み、特に少なくとも1.3*Mn%の平均Mn含有率(Mn%は鋼のMn含有率を示す)及び少なくとも0.4%の平均C含有率を有する。
【0105】
したがって、オーステナイトは非常に安定化される。
【0106】
次いで、熱間圧延鋼板は焼鈍温度TICAから室温まで冷却され、ここで600℃~350℃の間の平均冷却速度VICAは少なくとも1℃/秒である。この条件下では、焼戻脆性は制限される。
【0107】
600℃~350℃の間の冷却速度が1℃/秒より低い場合、熱間圧延及び焼鈍された鋼板に焼戻脆性を高める偏析が発生するため、冷間圧延性は満足できない。
【0108】
こうして得られた熱間圧延及び焼鈍された鋼板は、
- フェライト、
- 最大30%のオーステナイト、
- 最大8%のフレッシュマルテンサイト、
- 25%未満の平均Mn含有率を有するセメンタイト
からなる組織を有する。
【0109】
Mnによるオーステナイトの安定化のために、最大8%のフレッシュマルテンサイト分率が達成され、このためオーステナイトは冷却時にフレッシュマルテンサイトに変化しないか、又はわずかしかフレッシュマルテンサイトに変化しない。
【0110】
熱間圧延及び焼鈍された鋼板の残留オーステナイトは、少なくとも1.3*Mn%の平均Mn含有率(Mn%は鋼のMn含有率を示す。)及び少なくとも0.4%の平均C含有率を有する。
【0111】
フレッシュマルテンサイト分率をさらに制限するために、焼戻処理を任意選択的に行う。
【0112】
さらに、フェライト粒は最大で3μmの平均サイズを有する。実際、バッチ焼鈍と比較して比較的短時間に行われた連続焼鈍は、組織の粗大化をもたらさず、したがって非常に微細な組織を有する熱間圧延及び焼鈍された板を達成することを可能にする。
【0113】
この段階では、熱間圧延及び焼鈍された板は、焼鈍前の熱間圧延鋼板に比べて、向上した冷間圧延性及び靭性を有する。また、熱間圧延及び焼鈍された鋼板は高い機械的特性、特に高い延性及び強度を有する冷間圧延及び熱処理された鋼板の製造に適している。
【0114】
特に、熱間圧延及び焼鈍された板は400HVより低いビッカース硬さを有し、このため非常に良好な冷間圧延性を有する。
【0115】
また、熱間圧延及び焼鈍された鋼板は、20℃で少なくとも50J/cm2のシャルピーエネルギーを有する。したがって、熱間圧延及び焼鈍された鋼板は非常に良好な加工性を有し、さらなる加工中のバンド破損の危険性は、バッチ焼鈍されたであろう熱間圧延鋼板に比べて大幅に減少する。また、本発明者らは、熱間圧延及びバッチ焼鈍された鋼板よりも熱間圧延及び焼鈍鋼板のシャルピーエネルギーが高いだけでなく、熱間圧延及び焼鈍された鋼板がそれから製造された熱間圧延鋼板のシャルピーエネルギーよりも一般に高いことを発見した。
【0116】
室温まで冷却後、熱間圧延及び焼鈍された鋼板を任意選択的に酸洗する。しかし、この工程は省略してもよい。実際、連続焼鈍の持続時間が短いため、連続焼鈍中に内部酸化は全く又はほとんど起こらない。熱間圧延と連続焼鈍の間に酸洗を行わなかった場合、この段階で熱間圧延及び焼鈍された鋼板を酸洗することが好ましい。
【0117】
次いで、この熱間圧延鋼板は冷間圧延され、冷間圧延圧下比率は30%~70%であり、冷間圧延鋼板を得る。30%未満では、その後の熱処理時の再結晶に都合が良くなく、熱処理後の冷間圧延鋼板の延性を損なう恐れがある。70%を超えると、寒冷圧延中にエッジ割れの危険性がある。
【0118】
その後、冷間圧延鋼板を連続焼鈍ラインで熱処理し、冷間圧延及び熱処理された鋼板を製造する。
【0119】
冷間圧延鋼板に対して行われる熱処理は、目的とする最終的な機械的特性に応じて選択される。
【0120】
いずれの場合でも、熱処理は、冷間圧延鋼板を650~1000℃の間に含まれる焼鈍温度Tannealまで加熱し、冷間圧延鋼板を焼鈍温度Tannealに30秒~10分の間に含まれる焼鈍時間tannealの間保持する工程を含む。
【0121】
さらに、焼鈍温度Tannealは、焼鈍時に作られた組織が少なくとも8%のオーステナイトを含むようなものである。
【0122】
焼鈍温度が650℃より低い場合、焼鈍中にセメンタイトが組織に生成し、冷間圧延及び熱処理された鋼板の機械的特性の劣化をもたらす。
【0123】
オーステナイト結晶粒の粗大化を制限するために、焼鈍温度Tannealは最高で1000℃である。
【0124】
焼鈍温度Tannealまでの再加熱速度Vrは、好ましくは1℃/秒~200℃/秒の間に含まれる。
【0125】
第1の実施形態によれば、焼鈍は変態区間焼鈍であり、焼鈍温度TannealはAe3よりも低く、焼鈍時に作られる組織は少なくとも8%のオーステナイトを含むようなものである。
【0126】
第2の実施形態によれば、焼鈍時に、オーステナイト及び最大で1%のセメンタイトからなる組織を得るために、焼鈍温度TannealはAe3以上である。
【0127】
第1の実施形態では、焼鈍温度での保持終了時に、オーステナイトは少なくとも0.4%のC含有率、及び少なくとも1.3*Mn%の平均Mn含有率を有する。
【0128】
次に、冷間圧延及び焼鈍された鋼板は、直接、すなわち、焼鈍温度Tannealと室温との間の保持、焼き戻し又は再加熱工程なしに、又は間接的に、すなわち、保持、焼き戻し及び/又は再加熱工程を伴って、室温まで冷却され、冷間圧延及び熱処理された鋼板が得られる。
【0129】
いずれの場合でも、冷間圧延及び熱処理された鋼板は、
- 8%~50%の間の残留オーステナイト、
- マルテンサイト(フレッシュマルテンサイト及び/又は炭素濃化若しくは焼戻しマルテンサイト、並びに任意選択的にベイナイトを含むことができる。)、
- 最大80%の変態区間フェライト、及び
- 最大1%のセメンタイト
を含む組織(以下、最終組織)を有する。
【0130】
残留オーステナイトは、少なくとも0.4%の平均C含有率を一般に有し、少なくとも1.3*Mn%の平均Mn含有率を一般に有する。
【0131】
熱間圧延及び焼鈍された鋼板の微細組織中の最大で25%というセメンタイト中のMn含有率のために、セメンタイトは焼鈍時に容易に溶解する。実施した熱処理にもよるが、少量のセメンタイトが最終組織に残存することがある。しかし、最終組織におけるセメンタイト分率は、いずれの場合でも1%未満のままである。さらに、セメンタイト粒子は、もしあったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。
【0132】
マルテンサイトは、フレッシュマルテンサイト及び炭素濃化されたマルテンサイト又は焼戻しマルテンサイトを含むことができる。
【0133】
以下にさらに詳細に説明するように、炭素濃化されたマルテンサイトは、鋼の公称C含有率よりも厳密に低い平均C含有率を有する。この低いC含有率は、鋼のMs温度未満での焼入れ時に生成されたマルテンサイトからオーステナイトへの、350℃~500℃の間に含まれる炭素濃化温度TPでの保持中の炭素濃化から生じる。
【0134】
対照的に、焼戻しマルテンサイトは、鋼の公称C含有率に等しい平均C含有率を有する。焼戻しマルテンサイトは、鋼のMs温度未満での焼入れで作られたマルテンサイトの焼戻しから生じる。
【0135】
炭素濃化マルテンサイトは、走査型電子顕微鏡法(SEM)及び電子線後方散乱回折法(EBSD)によって観察される、研磨及びそれ自体が知られている試薬、例えばNital試薬でエッチングされた切片上で、焼戻マルテンサイト及びフレッシュマルテンサイトから区別することができる。
【0136】
この組織は、ベイナイト、特に100mm2の表面単位当たり100個未満しか炭化物を含まない、炭化物フリーのベイナイトを含むことができる。
【0137】
フェライト分率は熱処理中の焼鈍温度に依存する。
【0138】
フェライトは、最終組織中に存在する場合、変態区間フェライトである。
【0139】
したがって、フェライトは、存在する場合、熱間圧延及び焼鈍された鋼板の組織から引き継がれ、この鋼板はその後冷間圧延及び再結晶化される。その結果、フェライトは最大で1.5μmの平均粒径を有する。
【0140】
ここで、冷間圧延鋼板に実施される好ましい熱処理について、さらに詳細に説明する。
【0141】
第1の好ましい熱処理では、Ae3よりも低いか、又は高い焼鈍温度Tannealで保持した後、冷間圧延鋼板は、1℃/秒~70℃/秒の間に含まれる冷却速度Vc2で室温まで冷却される。
【0142】
冷間圧延鋼板は、冷却速度Vc2で室温まで冷却されるか、冷却速度Vc2で、350~550℃の間に含まれる保持温度THまで冷却され、10秒~500秒の間、保持温度THで保持される。例えば、溶融法によるZnコーティングを容易にするこのような熱処理は、最終的な機械的特性に影響しないことが示された。保持温度THで任意選択の保持後、1℃/秒~70℃/秒の間に含まれる冷却速度Vc3で冷間圧延鋼板は室温まで冷却される。
【0143】
任意選択に、室温まで冷却した後、170~450℃の間に含まれる温度Ttで10~1200秒の間に含まれる焼戻し時間ttの間、冷間圧延及び熱処理された鋼板は焼戻される。
【0144】
この処理により焼鈍後に室温まで冷却される間に作り出すことができるマルテンサイトの焼戻しが可能になる。このようにしてマルテンサイトの硬さが低下し、延性が向上する。170℃未満では、焼戻処理は十分に効率的ではない。450℃を超えると、強度損失が高くなり、強度と延性のバランスはこれ以上改善されない。
【0145】
第1の好ましい熱処理で得られた冷間圧延及び熱処理された鋼板の組織は、表面分率で、
- 8%~50%の間の、少なくとも0.4%の平均C含有率を有する残留オーステナイト、
- 最大80%の変態区間フェライト、
- 最大92%のマルテンサイト及び/又はベイナイト、
- 最大1%のセメンタイト
からなる。
【0146】
マルテンサイトは焼戻しマルテンサイト及び/又はフレッシュマルテンサイトからなる。
【0147】
この組織は、ベイナイト、特に100mm2の表面単位当たり100個未満の炭化物しか含まない、炭化物フリーのベイナイトを含むことができる。
【0148】
セメンタイト粒の平均サイズは50nm未満である。
【0149】
フェライト及びオーステナイトの分率は熱処理中の焼鈍温度に依存する。
【0150】
第1の好ましい熱処理の第1の変形例において、焼鈍温度TannealはAe3より低く、好ましくは、焼鈍時に作製される組織が40%~80%のフェライトを含むようなものである。
【0151】
この第1の変形例では、最終組織は、好ましくは、表面分率で、
- 8~50%の、少なくとも0.4%の平均C含有率及び少なくとも1.3*Mn%の平均Mn含有率を有する残留オーステナイト、
- 40~80%の変態区間フェライト(フェライト粒は最大1.5μmの平均サイズを有する。)、
- 最大15%のマルテンサイト(焼戻マルテンサイト及び/又はフレッシュマルテンサイトからなる)及び/又はベイナイト、
- 最大0.3%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)
を含む。
【0152】
第1の好ましい熱処理の第2の変形例において、焼鈍温度はAe3以上である。
【0153】
この第2の変形例では、最終組織は、
- 8~30%の、少なくとも0.4%の平均C含有率を有する残留オーステナイト、
- 70%~92%のマルテンサイト(焼戻マルテンサイト及び/又はフレッシュマルテンサイトからなる)及び/又はベイナイト、
- 最大1%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)
からなる。
【0154】
第2の好ましい熱処理において、前記冷間圧延鋼板は、焼き入れ及び炭素濃化処理に供される。
【0155】
そのために、焼鈍温度Tannealで保持した後、冷間圧延鋼板は焼鈍温度TannealからオーステナイトのMs変態点より低い焼入れ温度QTまで、冷却時にフェライト及びパーライトの生成を回避するのに十分高い冷却速度Vc4で焼入れされる。
【0156】
焼入れ温度QTまでの冷却速度Vc4は、少なくとも2℃/秒であることが好ましい。
【0157】
この焼入れ工程の間、オーステナイトは部分的にマルテンサイトに変態する。
【0158】
焼入れ温度はMf+20℃~Ms-20℃の間で、所望の最終組織、特に最終組織中に望まれる炭素濃化マルテンサイト及び残留オーステナイトの分率に依存して選択される。鋼の各特定の組成及び各組織について、当業者は、膨張率測定によってオーステナイトのMs及びMf開始及び終了変態点を決定する方法を知っている。
【0159】
焼入れ温度QTがMf+20℃より低ければ、最終組織における炭素濃化マルテンサイト分率は高すぎる。また、焼入れ温度QTがMs-20℃よりも高い場合、最終組織における炭素濃化マルテンサイト分率は低すぎるため、高い延性には達しない。
【0160】
当業者は、所望の組織を得るために適応された焼入れ温度を決定する方法を知っている。
【0161】
冷間圧延鋼板は、鋼の延性の低下をもたらすであろうマルテンサイト中のイプシロン炭化物の生成を回避するために、2秒~200秒の間、好ましくは3秒~7秒の間に含まれる保持時間tQの間、任意選択的に焼入れ温度QTで保持される。
【0162】
次いで、冷間圧延鋼板は350~500℃の間に含まれる炭素濃化温度TPまで再加熱され、炭素濃化温度TPで3秒~1000秒の間に含まれる炭素濃化時間tP維持される。この炭素濃化工程の間、炭素はマルテンサイトからオーステナイトに拡散し、それによってオーステナイトにおけるCの濃縮を達成する。
【0163】
炭素濃化時間tPが500℃より高いか、350℃より低い場合、最終生成物の伸びは満足できるものではない。
【0164】
任意選択的に、冷間圧延鋼板は、例えば480℃以下の温度の浴中で溶融めっきされる。任意の種類のコーティングを使用することができ、特に、亜鉛又は亜鉛合金、例えば亜鉛-ニッケル、亜鉛-マグネシウム又は亜鉛-マグネシウム-アルミニウム合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、例えばアルミニウム-ケイ素を使用することができる。
【0165】
炭素濃化工程の直後、又は溶融めっき工程を行う場合には溶融めっき工程の後、冷間圧延鋼板を室温まで冷却し、冷間圧延及び熱処理された鋼板を得る。室温までの冷却速度は1℃/秒よりも高いことが好ましく、例えば2℃/秒~20℃/秒の間に含まれる。
【0166】
第2の好ましい熱処理により得られた冷間圧延及び熱処理された鋼板の最終組織は、主に焼鈍温度Tanneal及び焼入れ温度QTに依存する。
【0167】
しかし、このようにして得られた冷間圧延及び熱処理された鋼板の組織は、一般に、表面分率で、
- 8%~30%の間の残留オーステナイト、
- 最大45%の変態区間フェライトの、
- 炭素濃化マルテンサイト、
- 最大8%のフレッシュマルテンサイト、
- 最大1%のセメンタイト
からなる。
【0168】
残留オーステナイトは炭素に富み、特に少なくとも0.4%の平均C含有率を有する。
【0169】
フェライトは、もしあれば、変態区間フェライトであり、最大1.5μmの平均粒径を有する。
【0170】
組織中のフレッシュマルテンサイトの分率は8%以下である。実際、8%より高いフレッシュマルテンサイトの分率は、穴広げ率HERを損なうであろう。
【0171】
この第2の好ましい熱処理において、焼鈍温度からの冷却時及び炭素濃化時に、少量のセメンタイトが生じることがある。しかし、最終組織におけるセメンタイトの分率はいずれの場合も1%未満のままであり、最終組織におけるセメンタイト粒子の平均サイズは50nm未満のままである。
【0172】
第2の好ましい実施形態の第1の変形例において、焼鈍温度Tannealは、冷間圧延鋼板が、焼鈍時に、表面分率で、
- 10%~45%の間のフェライト、
- オーステナイト、及び
- 最大で0.3%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)
からなる組織を有するようなものである。
【0173】
この第1の変形例において、最終組織は、好ましくは、表面分率で、
- 10~45%の、最大1.5μmの平均粒径を有する変態区間フェライト、
- 8%~30%の間の残留オーステナイト、
- 炭素濃化マルテンサイト、
- 最大8%のフレッシュマルテンサイト、及び
- 最大0.3%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)
を含む。
【0174】
残留オーステナイトはMn及びCに富んでいる。特に、残留オーステナイト中の平均C含有率は少なくとも0.4%であり、残留オーステナイト中の平均Mn含有率は少なくとも1.3*Mn%である。
【0175】
第2の好ましい実施形態の第2の変形例において、焼鈍温度TannealはAe3以上であり、その結果、冷間圧延鋼板は、焼鈍時に、オーステナイト及び最大で0.3%のセメンタイトからなる組織を有する。
【0176】
この第2の変形例では、焼入れ温度QTは、焼入れ直後に、最大で8%~30%の間のオーステナイト、最大で92%のマルテンサイト及び最大で1%のセメンタイトからなる組織を得るように選択することが好ましい。
【0177】
この第2の変形例では、最終組織は表面分率で、
- 8%~30%の間の残留オーステナイト、
- 炭素濃化マルテンサイト、
- 最大で8%のフレッシュマルテンサイト、及び
- 最大で1%のセメンタイト(セメンタイト粒は、あったとしても、50nm未満の平均サイズを有する。)
からなる。
【0178】
残留オーステナイトはCに富んでおり、残留オーステナイト中の平均C含有率は少なくとも0.4%である。
【0179】
上記の微細組織の特徴は、例えば、5000×を超える倍率で電界放出銃(「FEG-SEM」)を備え、電子線後方散乱回折(「EBSD」)装置及び透過型電子顕微鏡(TEM)に結合した走査型電子顕微鏡を用いて、微細組織を観察することによって決定される。
【実施例】
【0180】
実施例及び比較として、表Iによる鋼組成から作られた板が製造され、その含有率は重量パーセントで表される。
【0181】
【0182】
第1の実験では、鋼I1、I2、I3、I6及びI7を鋳造してインゴットを得た。このインゴットを1250℃の温度Treheatで再加熱し、スケールを除去し、Ar3より高い温度で熱間圧延して、熱間圧延鋼を得た。
【0183】
次いで、熱間圧延鋼を1℃/秒~150℃の間に含まれる冷却速度Vc1で巻き取り温度Tcoilまで冷却し、この温度Tcoilで巻き取った。
【0184】
次いで、熱間圧延鋼の一部を、連続的に焼鈍するか、焼鈍時間tAの間、焼鈍温度TAでバッチ焼鈍し、次いで、600℃~350℃の間の平均冷却速度VICAで室温まで冷却した。
【0185】
熱間圧延及び焼鈍された鋼板の製造条件を以下の表2に報告すると共に、焼鈍時に発生するオーステナイト分率について報告する。
【0186】
【0187】
表2において、下線の値は本発明によらず、「n.d.」は「決定されなかった」を意味する。
【0188】
本発明者らは、5000×の倍率で電界放出銃(「FEG-SEM」)を備え、電子線後方散乱回折(「EBSD」)装置及び透過型電子顕微鏡(TEM)に結合した走査型電子顕微鏡によって、このようにして得られた熱間圧延及び任意選択で焼鈍された鋼板の微細組織を調べた。
【0189】
特に、本発明者はフェライト粒径、フレッシュマルテンサイト(FM)の表面分率、オーステナイト(RA)の表面分率及びセメンタイト中の平均Mn含有率(セメンタイト中のMn%)を測定した。
【0190】
本発明者らは、さらに、熱間圧延鋼板の20℃におけるシャルピーエネルギー及びビッカース硬さを測定した。微細組織の特徴及び機械的特性を以下の表3に報告する。
【0191】
【0192】
この表において、n.d.は「決定されなかった」を意味する。下線の値は本発明によるものではない。
【0193】
これらの実験は、熱間圧延鋼板が本発明の条件下で焼鈍された場合にのみ、熱間圧延及び焼鈍された鋼板の目的とする微細組織及び目的とする機械的特性が達成されることを示す。
【0194】
対照的に、例I1A、I2A、I3A、I6A及びI7Aは、いかなる焼鈍も受けなかった。
【0195】
その結果、それらの硬さは400HVより高く、そのためこれらの熱間圧延鋼板の冷間圧延性は不十分である。
【0196】
例I1B、I2B及びI3Bを500℃の温度で25200秒バッチ焼鈍した。バッチ焼鈍により、いかなる焼鈍も施さない例I1A、I2A、I3Aと比較して、それぞれ硬さの低下がもたらされた。しかし、バッチ焼鈍はシャルピーエネルギーの減少をもたらしたので、例I1B、I2B及びI3Bの加工性は不十分である。また、バッチ焼鈍により、Mnに高度に富んだセメンタイトの生成がもたらされた。
【0197】
例I1C、I2C、I3C、I6C及び7Cも、600℃の温度で25200秒間、バッチ焼鈍に供した。バッチ焼鈍の結果、これらの例の硬さは、例I1A、I2A、I3A、I6A及びI7Aと比較してそれぞれ低下し、例I1B、I2B及びI3Bと比較してさらに低下した。しかし、シャルピーエネルギーは50J/cm2より低いままであり、バッチ焼鈍によりMnに非常に富んだセメンタイトの生成がもたらされた。
【0198】
次いで、本発明者らは、バッチ焼鈍温度をAe1変態点より上の650℃まで上昇させることによって実験を行った(例I1D、I2D、I3D、I6D及びI7D)。このより高いバッチ焼鈍温度により、それぞれ例I1C、I2C、I3C、I6C及びI7Cと比較して、板のシャルピーエネルギーの増加、及びセメンタイト中の平均Mn含有率の減少がもたらされた。
【0199】
それにもかかわらず、Ae1を超える温度でのバッチ焼鈍により微細組織の粗大化がもたらされ、フェライト粒径は3μmよりも大きかった。
【0200】
本発明者らは、バッチ焼鈍温度をさらに680℃に上昇させた(例I1E及びI3E)。バッチ焼鈍温度のこの上昇により、シャルピーエネルギーのさらなる増加及びセメンタイト中の平均Mn含有率のさらなる減少がもたらされた。しかし、バッチ焼鈍温度のこの上昇によりフェライト粒径のさらなる望ましくない増大ももたらされた。
【0201】
このようにこれらの例は、バッチ焼鈍が熱間圧延鋼板の硬さを低下させても、熱間圧延及びバッチ焼鈍された鋼板のシャルピー(Chary)エネルギーは、一般に鋼板の高い加工性を確保するには不十分であることを示す。また、バッチ焼鈍は、Mnに非常に富んだセメンタイトを望ましくなく生成させる。これらの例はさらに、バッチ焼鈍温度の上昇がシャルピーエネルギーを増加させ、セメンタイト中の平均Mn含有率を低下させることができるが、シャルピーエネルギーは多くの場合、目標値50J/cm2より低いままであり、バッチ焼鈍温度の上昇は微細組織の望ましくない粗大化をもたらすことを示す。
【0202】
例I3Lは連続焼鈍を行ったが、連続焼鈍温度は650℃より低かった。その結果、微細組織の回復による軟化が不十分であったため、例I3Lの硬さは400HVより高く、シャルピーエネルギーは不十分であった。
【0203】
例I1G及びI3Qは、焼鈍時に30%を超えるオーステナイトが生成するような焼鈍温度で連続的に焼鈍した。その結果、熱間圧延及び焼鈍された鋼板中のフレッシュマルテンサイト分率は8%より高いので、これらの例の硬さは400HVより高く、それらのシャルピーエネルギーは50J/cm2より低い。
【0204】
実施例I1F、I2H、I2J、I2K、I3H、I3M、I3O、I3P、I3J、I6K及びI7Kは、本発明の条件下で連続焼鈍に供した。その結果、熱間圧延及び焼鈍された鋼板は、少なくとも50J/cm2の20℃でのシャルピーエネルギー及び400HV以下の硬さを有する。これらの熱間圧延及び焼鈍された鋼板は、そのため十分な冷間圧延性及び加工性を有している。また、これらの実施例の微細組織は、平均フェライト粒径が3μmよりも小さく、セメンタイト中の平均Mn含有率が25%よりも低いようなものである。したがって、これらの熱間圧延鋼板は、高い機械的特性を有する冷間圧延及び熱処理された鋼板の製造に適している。
【0205】
こうして得られた熱間圧延及び焼鈍された鋼板の微細組織を観察した。
【0206】
(実施)例I1E及びI1Fの微細組織をそれぞれ
図1及び
図2に示す。
【0207】
これらの図で見えるように、本発明による連続焼鈍で製造された鋼I1Fの微細組織は、Ae1を超えるバッチ焼鈍で製造された鋼I1Eの微細組織よりはるかに微細である。
【0208】
これらの実験は、バッチ焼鈍とは異なり、本発明による連続焼鈍により非常に微細な微細組織がもたらされることを実証する。
【0209】
本発明者らはさらに、Ae1より低い温度又はAe1より高い温度でのバッチ焼鈍から製造した、又は冷間圧延前に本発明による連続的焼鈍に供した、冷間圧延及び熱処理された鋼の最終特性を評価するために実験を行った。
【0210】
特に、鋼I1、I2、I4、I5、I6及びI7を鋳造してインゴットを得た。このインゴットを1250℃の温度Treheatで再加熱し、スケールを除去し、Ar3より高い温度で熱間圧延して、熱間圧延鋼を得た。
【0211】
次いで、熱間圧延鋼板を温度Tcoilで巻取った。
【0212】
次いで、熱間圧延鋼板をバッチ焼鈍又は連続焼鈍した。
【0213】
次いで、熱間圧延及び焼鈍された鋼板を冷間圧延圧下率50%で冷間圧延し、焼鈍、次に冷却速度Vc1で室温まで冷却することを含む種々の熱処理を施した。
【0214】
次に、このようにして得られた冷間圧延及び熱処理された鋼板の降伏強さ、引張強さ、一様伸び及び穴広げ率を測定した。
【0215】
製造条件及び測定した特性を表4及び表5に報告する。
【0216】
これらの表において、Tcoilは巻き取り温度を示し、TA及びtAはバッチ又は連続焼鈍温度及び時間であり、HBAはバッチ焼鈍を示し、ICAは本発明による連続焼鈍を示し、Tannealは焼鈍温度であり、tannealは焼鈍時間であり、VC1は冷却速度(又は冷却条件)である。
【0217】
表4及び表5に報告された測定特性は、降伏強さYS、引張強さTS、一様伸びUE及び穴広げ率HERである。
【0218】
これらの表において、「n.d.」は「決定されなかった」ことを意味する。下線の値は本発明によるものではない。
【0219】
【0220】
【0221】
鋼I4で作製した例の特性を
図3(引張強さを表すUTS及び一様伸びを表すUEl)で報告した。
【0222】
この図では、各曲線は熱間圧延後の焼鈍条件(黒い四角形:600℃で300分間のバッチ焼鈍;白い四角形:700℃で2分間の連続焼鈍)に対応し、各曲線の各点は特定の焼鈍温度で得られた引張強さ及び一様伸びを報告しており、焼鈍温度が高いほど引張強さが高いことが理解される。
【0223】
図3及び表4に報告された結果は、本発明の連続焼鈍を実施することにより、バッチ焼鈍と比較して、引張強さ及び伸びの改善された組み合わせを達成することが可能であることを実証する。
【0224】
したがって、本発明に従って製造された鋼板は、車両の構造部品又は安全部品の製造のために有益に使用することができる。