(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】高い生産性でのプレス硬化部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/28 20060101AFI20230510BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20230510BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20230510BHJP
C21D 3/06 20060101ALI20230510BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20230510BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230510BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20230510BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20230510BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20230510BHJP
C22C 38/14 20060101ALN20230510BHJP
C22C 38/32 20060101ALN20230510BHJP
C22C 38/58 20060101ALN20230510BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20230510BHJP
【FI】
C23C2/28
B21D22/20 E
B21D22/20 H
C21D1/18 C
C21D3/06
C21D9/00 A
C22C38/00 301T
C23C2/12
C23C2/40
C22C21/02
C22C38/14
C22C38/32
C22C38/58
C22C38/60
(21)【出願番号】P 2022083578
(22)【出願日】2022-05-23
(62)【分割の表示】P 2020547034の分割
【原出願日】2019-03-05
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/051546
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・ブレーズ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ドリエ
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー・スチューレル
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-199759(JP,A)
【文献】特表2019-506523(JP,A)
【文献】国際公開第2010/005121(WO,A1)
【文献】特表2018-527461(JP,A)
【文献】特開2002-012963(JP,A)
【文献】特開2004-360022(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0321314(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0089084(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0040513(US,A1)
【文献】国際公開第2017/182382(WO,A1)
【文献】特表2020-510755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法であって、以下の連続した工程、すなわち
- アルミニウム又はアルミニウムベースの合金又はアルミニウム合金のプレコートで覆われた熱処理可能な鋼基材から構成されたプレス加工されていないプレコート鋼コイル、板又はブランクを提供する工程であって、アルミニウムベースの合金とはアルミニウムが重量パーセントでの主元素である合金を指し、アルミニウム合金とはアルミニウムが重量で50%を超える合金を指すものであり、該プレコートが、追加の熱処理を伴わない溶融アルミニウムめっき法から直接生じ、該プレコートの厚さが鋼コイル、板又はブランクの各面上で10~35マイクロメートルの間に含まれる、工程、次いで、
- 少なくとも5%の酸素を含む雰囲気下で、750~1000℃の間に含まれる温度θ
1まで、t
1min~t
1maxの間に含まれる持続時間t
1の間、該プレス加工されていない鋼コイル、板又はブランクを、炉内で加熱する工程であって、
t
1min=23500/(θ
1-729.5)及び
t
1max=4.946×10
41×θ
1
-13.08、
t
1は、該炉内での総持続時間を表し、
θ
1は℃で表され、t
1min及びt
1maxは秒で表される、工程、次いで
- 該プレス加工されていない鋼コイル、板又はブランクを冷却速度V
r1で温度θ
iまで冷却する工程、次いで
- 0.35ppm未満の拡散性水素含有率が得られるように、100~500℃の間に含まれる温度θ
2で、3~45分の間に含まれる持続時間t
2の間、該プレス加工されていない鋼コイル、板、又はブランクを維持する工程
を含
み、前記熱処理可能な鋼基材の化学組成
は、重量%で表して、0.20%≦C≦0.25%、1.1%≦Mn≦1.4%、0.15%≦Si≦0.35%、Cr≦0.30%、0.020%≦Ti≦0.060%、0.020%≦Al≦0.060%、S≦0.005%、P≦0.025%、0.002%≦B≦0.004%、残りは鉄及び精錬に起因する避けられない不純物である、方法。
【請求項2】
前記プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクが、2~16マイクロメートルの間に含まれる厚さを有する相互拡散層を、該鋼基材と該コートとの間に含み、該相互拡散層が固溶体中にAl及びSiを有するα(Fe)フェライト組織を有する層である、請求項1に記載のプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法。
【請求項3】
前記プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクが、0.10μmを超える厚さを有するアルミナ含有酸化物層を頂部に含む、請求項1又は2に記載のプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法。
【請求項4】
前記冷却V
r1の後かつその後の加熱の前に、該鋼基材中のベイナイト及びマルテンサイトの面積分率の合計が、30%未満となるように、前記冷却速度V
r1が選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法。
【請求項5】
前記冷却V
r1の後かつその後の加熱の前に、該鋼基材中にフェライト-パーライト組織を得るように前記冷却速度V
r1が選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法。
【請求項6】
前記温度θ
2が100℃以上300℃未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法。
【請求項7】
前記温度θ
2が300℃以上400℃以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法。
【請求項8】
前記温度θ
2が400℃より高く500℃以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法。
【請求項9】
前記持続時間t
2が4~15分の間に含まれる、請求項1~8のいずれか一項に記載のプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法。
【請求項10】
前記温度θ
iが室温と等しく、かつ、室温まで冷却された後に、該プレス加工されていないコイル、板又はブランクが、前記温度θ
2まで加熱される、請求項1~9のいずれか一項に記載のプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法。
【請求項11】
前記温度θ
iが前記温度θ
2と等しい、請求項1~9のいずれか一項に記載のプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法。
【請求項12】
該プレス加工されていないコイル、鋼板又はブランクを、持続時間t
2の間100~500℃の間に含まれる温度θ
2に維持した直後、該鋼コイル、板又はブランクを室温まで冷却することをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法。
【請求項13】
プレス硬化被覆鋼部品を製造するための方法であって、
-
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法により製造されたプレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを提供し、次いで、
- 前記プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクが、コイル又は板の形であるときは、該コイル又は板を切断して、プレアロイ鋼ブランクを得、次いで、
- 該プレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクを、秒で表される20~700℃の間の加熱持続時間ΔT
20-700°が((26.22×th)-0.5)未満になるように温度θ
3まで加熱し、thはミリメートルで表される該プレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクの厚さであり、並びに、該プレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクを持続時間t
3の間、前記温度θ
3に維持して、該鋼基材中に部分的又は完全なオーステナイト組織を得、次いで、
- 該加熱したブランクをプレスに移送し、次いで、
- 該加熱したブランクをホットプレス成形して部品を得、次いで、
- 該鋼基材中に少なくともマルテンサイト及び/又はベイナイトを含む微細組織を得、かつプレス硬化被覆部品を得るように、該部品をプレスツーリング内に維持しながら、該部品を冷却する
方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法により製造されたプレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクが提供され、前記プレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクは、前記温度θ
2に維持してから前記温度θ
3に加熱するまでの間に室温まで冷却されない、請求項
13に記載のプレス硬化被覆鋼部品を製造する方法。
【請求項15】
前記プレス硬化被覆部品中の拡散性水素の含有率と、前記プレス加工されていないプレアロイ鋼ブランク中の拡散性水素の含有率との差ΔH
diffが0.10ppm未満である、請求項
13又は
14に記載のプレス硬化被覆部品を製造する方法。
【請求項16】
前記プレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクの温度θ
3までの加熱が、誘導加熱、抵抗加熱又は伝導加熱の中から選択される方法によって行われる、請求項
13~
15のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆部品を製造する方法。
【請求項17】
該プレス硬化被覆部品の該鋼基材の微細組織が80%を超えるマルテンサイトを含む、請求項
13~
16のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆部品を製造する方法。
【請求項18】
プレス硬化被覆部品が1000MPaよりも高い降伏応力を有する、請求項
13~
17のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆部品を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるプレス硬化又はホットプレス成形部品を得るように、加熱、プレス成形及び冷却されるアルミナニウムめっきされたプレコート鋼板から作られた部品を製造する方法に関する。降伏強度及び引張強度が高いこれらの部品は、車又はトラック内での侵入防止機能又はエネルギー吸収機能を保証する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業における白い構造体の最近の筐体の製造のために、熱間鍛造又はホットプレス成形法とも呼ばれるプレス硬化法は、高い機械的強度(車両が衝突した場合の高い抵抗と共に軽量化を可能にする)を有する鋼部品の製造のための急速に成長する技術である。
【0003】
アルミニウムめっきされたプレコート板又はブランクを用いたプレス硬化の実施は、特に、刊行物FR2780984号及びWO2008053273号から知られており、熱処理可能なアルミニウムめっき鋼板を切断してブランクを得、炉内で加熱し、プレス機内に速やかに移送し、プレス金型内で熱間成形及び冷却する。炉内での加熱中に、アルミニウムプレコートは基材の鋼と合金化され、こうして脱炭及びスケール形成から鋼表面を保護することを保証する化合物が形成される。この加熱は、鋼基材のオーステナイトへの部分的又は完全な変態を得ることが可能な温度で行われる。オーステナイトは、プレス金型からの熱除去に起因する冷却中に、マルテンサイト及び/又はベイナイトのような微細組織成分に変態し、それにより鋼の組織硬化が達成される。その後、プレス硬化後に高い硬度及び機械的強度が得られる。
【0004】
典型的な工業方法では、基材中の完全なオーステナイト微細組織を得るために、プレコートされたアルミニウムめっき鋼ブランクを炉内で880~930℃の温度まで総持続時間3~10分加熱し、その後、成形プレス中に速やかに移送する。前記ブランクは直ちに所望の部品形状に熱間成形され、同時に金型焼入れにより硬化させる。22MnB5鋼組成では、部品の変形ゾーンにおいて完全なマルテンサイト組織が望まれる場合、冷却速度は50℃/秒より高くなければならない。約500MPaの初期引張強度さから出発して、最終プレス硬化部品は完全マルテンサイト微細組織及び約1500MPaの最大抗張力の値を有する。
【0005】
生産性のために、プレコートされたアルミニウムめっきブランクの加熱時間を可能な限り短縮することが望ましい。この持続時間を短縮するために、WO2009095427号は、2回目の加熱及びプレス硬化の前に、アルミニウムめっきブランクの最初の不完全な合金化を行うことを提案している。第1の工程では、不完全な合金化が起こり、アルミニウムプレコートはその厚さの少なくとも50%にわたりFeと合金化される。この最初の不完全な合金化工程は、実際には、500℃からAc1(この温度は加熱時のオーステナイトの出現を示す)までの温度範囲での数時間のバッチ焼鈍、又は950℃での6分間の連続焼鈍により達成される。この第1の工程の後、板をAc1より高い温度まで加熱し、プレス硬化させる。
【0006】
WO2010005121号は、600~750℃の範囲のバッチ焼鈍によって、1時間~200時間の間に含まれる期間にわたって、アルミニウムめっき鋼板の第1の熱処理を行うことを開示する。この第1の工程の後、板を700℃より高い温度まで加熱し、熱間鍛造する。
【0007】
WO2017111525号も炉内のアルミニウム融解のリスクを低下させ、水素含有率を低下させるため第1の熱処理を開示する。この第1の処理は、450~700℃の範囲で1~100時間の間に含まれる持続時間にわたって行われる。この第1の熱処理後、板を加熱して、ホットプレス成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】仏国特許発明第2780984号明細書
【文献】国際公開第2008/053273号
【文献】国際公開第2009/095427号
【文献】国際公開第2010/005121号
【文献】国際公開第2017/111525号
【文献】国際公開第2009/090443号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記の焼鈍処理には、以下の欠点又は不十分な点がある。
- 上記の第1の熱処理により作製したコートの幾分かの多孔性のため、プレス硬化部品の水素含有率は高い可能性がある。プレス硬化部品に加わる機械的応力も高い、すなわち降伏応力が1000MPaを超える場合があるので、応力、拡散性水素及び微細組織の組合せによって誘起される遅れ破壊のリスクも高くなる。このため、平均拡散性水素がプレス硬化部品において0.40ppm未満、好ましくは0.30ppm未満、非常に好ましくは0.25ppm未満である方法を有することが望ましい。
- 第2の加熱工程(すなわち、ホットプレス形成工程の直前の工程)中の水素吸入も重要である。これは、ブランクの表面では、炉の雰囲気から水蒸気が吸着されるために起こり得る。このような水素吸入を避けるためには、不活性ガスの使用又は第2の工程の加熱炉内の露点の厳格な制御などの費用のかかる解決策が求められる。第2の加熱工程中の平均水素吸入量ΔHdiffが0.10ppm未満である方法を有することが望ましい。
- プレス硬化部品は抵抗スポット溶接で接合できなければならない。これは、特に、溶接強度範囲によって定義される溶接強度のドメインが、十分に広く、例えば少なくとも1kA幅でなければならないことを意味する。文献WO2009090443号に開示されているように、プレス硬化後のコートに4層を含むコート構造により、このような溶接性範囲を得ることが可能になる。したがって、スポット溶接機の設定パラメータを修正する必要がないように、文献WO2009090443号に記載されているものと同様の層状コート構造を有するプレス硬化部品を製造できるような方法を有することが望ましい。
- 不完全な合金化鋼板を製造するための上記のバッチ焼鈍処理は長く、かつ費用がかかるので、より生産性の高い方法が望ましい。
【0010】
また、以下の製造方法を有することが望ましい。
- 第2の加熱工程がコート中に液相の形成を引き起こさない。ブランク又は板は一般にセラミック製のローラ上で炉内加熱されるので、液体が存在せず、液体によるローラの汚染、及びローラの定期的な点検又は交換の必要性を回避することができるであろう。
- 第2の加熱工程は、増加した加熱速度で、すなわちオーステナイト化温度及び均熱まで、短縮した総持続時間で行うことができる。20~700°(ΔT20-700°)の間に経過した時間の量で定義される加熱持続時間は、ブランク又は板の厚さthと共に増加する。ブランク又は板を((26.22×th)-0.5)(thはmmで表される)未満の秒で表した期間加熱することが望ましい。したがって、加熱サイクルは非常に生産性が高く、製造時間の短縮をもたらすであろう。
【0011】
その目的のために、本発明は、以下の連続した工程、すなわち
- アルミニウム又はアルミニウムベースの合金(アルミニウムベースの合金とはアルミニウムが重量パーセントでの主元素である合金を指す)又はアルミニウム合金(アルミニウム合金とはアルミニウムが重量で50%を超える合金を指す)のプレコートで覆われた熱処理可能な鋼基材から構成されたプレス加工されていないプレコート鋼コイル、板又はブランクを提供する工程であって、該プレコートが、追加の熱処理を伴わない溶融アルミニウムめっき法から直接生じ、該プレコートの厚さが鋼コイル、板又はブランクの各面で10~35マイクロメートルの間に含まれる、工程、次いで、
- 少なくとも5%の酸素を含む雰囲気下で、750~1000℃の間に含まれる温度θ1まで、t1min~t1maxの間に含まれる持続時間t1の間、該プレス加工されていない鋼コイル、板又はブランクを、炉内で加熱する工程であって、
t1min=23500/(θ1-729.5)及び
t1max=4.946×1041×θ1
-13.08、
t1は、該炉内での総持続時間を表し、
θ1は℃で表され、t1min及びt1maxは秒で表される、工程、次いで
- 該プレス加工されていない鋼コイル、板又はブランクを冷却速度Vr1で温度θiまで冷却する工程、次いで
- 0.35ppm未満の拡散性水素含有率が得られるように、100~500℃の間に含まれる温度θ2で、3~45分の間に含まれる持続時間t2の間、該プレス加工されていない鋼コイル、板、又はブランクを維持する工程
を含む、プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを製造するための方法に関する。
【0012】
方法の実施形態によれば、該プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクは、2~16マイクロメートルの間に含まれる厚さを有する相互拡散層を、該鋼基材と該コートとの間に含み、該相互拡散層は、固溶体中にAl及びSiを有するα(Fe)フェライト組織を有する層である。
【0013】
別の方法の実施形態によれば、該プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクは、頂部に0.10μmを超える厚さを有するアルミナ含有酸化物層を含む。
【0014】
好ましくは、Vr1は、該Vr1の冷却後かつその後の加熱の前に、該鋼基材中のベイナイト及びマルテンサイトの面積分率の合計が、30%未満になるように選択される。
【0015】
また、好ましくは、Vr1は、該Vr1の冷却後かつその後の加熱前に、該鋼基材中にフェライト-パーライト組織を得るように選択される。
【0016】
別の方法の実施形態では、温度θ2は100℃以上300℃未満である。
【0017】
温度θ2は300℃以上400℃以下が好ましい。
【0018】
別の好ましい実施形態では、θ2は400℃より高く500℃以下である。
【0019】
持続時間t2は、4~15分の間に含まれることが好ましい。
【0020】
特定の実施形態では、θiは室温と等しく、室温で冷却した後、該プレス加工されていないコイル板又はブランクは温度θ2まで加熱される。
【0021】
別の特定の実施形態では、θiは温度θ2と等しい。
【0022】
別の実施形態では、プレス加工されていないコイル、鋼板又はブランクを持続時間t2の間100~500℃の間に含まれる温度θ2で維持した直後に、該プレス加工されていない鋼コイル、板又はブランクは室温まで冷却される。
【0023】
本発明はまた、アルミニウム(遊離アルミニウムとして存在しない)及び鉄を含む合金プレコートで被覆された熱処理可能な鋼基材を含む、プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクであって、2~16マイクロメートルの間に含まれる厚さの相互拡散層を、該鋼基材と該プレコートの間の界面に含み、該相互拡散層は固溶体中にAl及びSiを有するα(Fe)フェライト組織を有する層である、プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクに関する。
【0024】
実施形態によれば、プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクは、合金化プレコートの上に0.10μmを超える厚さを有するアルミナ含有酸化物層を含む。
【0025】
別の実施形態によれば、拡散性水素は0.35ppm未満である。
【0026】
プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクの厚さは、好ましくは0.5~5mmの間に含まれる。
【0027】
別の実施形態では、プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクの鋼基材は、不均一な厚さを有する。
【0028】
好ましくは、鋼微細組織におけるベイナイト及びマルテンサイトの面積分率の合計は30%未満である。
【0029】
また、好ましくは、プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクの鋼基材は、フェライト-パーライト微細組織を有する。
【0030】
本発明は、プレス硬化被覆鋼部品を製造するための方法にも関し、ここで、
- 上記の実施形態のいずれか1つに従うか、又は上記の実施形態のいずれか1つに従い製造された、プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを提供し、次いで、
- 該プレス加工されていないプレアロイ鋼板、コイル又はブランクがコイル又は板の形態であるならば、該コイル又は板を切断してプレアロイ鋼ブランクを得、次いで、
- 該プレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクを、秒で表される20~700℃の間の加熱持続時間ΔT20-700°が((26.22×th)-0.5)未満になるように温度θ3まで加熱し、thはミリメートルで表される該プレアロイ鋼ブランクの厚さであり、並びに、該プレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクを持続時間t3の間、温度θ3に維持して、該鋼基材中に部分的又は完全オーステナイト組織を得、次いで、
- 該加熱したブランクをプレスに移送し、次いで、
- 該加熱したブランクをホットプレス成形して部品を得、次いで、
- 該鋼基材中に少なくともマルテンサイト及び/又はベイナイトを含む微細組織を得、かつプレス硬化被覆部品を得るように、該部品をプレスツーリング内に維持しながら、該部品を冷却する。
【0031】
特定の方法の実施形態では、上記の方法の実施形態のいずれか1つに従って製造されたプレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクが提供され、該プレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクは、温度θ2で維持してから温度θ3で加熱するまでの間、室温で冷却されない。
【0032】
別の方法の実施形態では、プレス硬化被覆部品中の拡散性水素の含有率とプレス加工されていないプレアロイブランク中の拡散性水素の含有率との差ΔHdiffは0.10ppm未満である。好ましくは、温度θ3までのプレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクの加熱は、誘導加熱、抵抗加熱又は伝導加熱の中から選択される方法によって行われる。
【0033】
別の好ましい方法の実施形態によれば、該プレス硬化被覆部品の該鋼基材の微細組織は、80%を超えるマルテンサイトを含む。
【0034】
別の方法の実施形態では、プレス硬化被覆部品は、1000MPaより高い降伏応力を有する。
【0035】
本発明はまた、前記実施形態のいずれか1つに従って製造されたプレス硬化部品の、車両の構造部品又は安全部品の製造のための使用にも関する。
【0036】
次に、添付の図を参照しながら、本発明を詳細に記載し、限定を導入することなく、例により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明に係るプレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクの表面における、グロー放電発光分光法で測定したO、Al、Si、Feの変動を示す。
【
図2】本発明に係るプレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクのコートの最端層(すなわち、コート表面下0~0.01μm)における、X線光電子分光法によって測定されたアルミニウムの酸化状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
厚さ0.5~5mmの範囲の鋼板コイル又はブランクが提供される。好ましい範囲では、厚さは0.5~2.5mmの間に含まれる。その厚さに応じて、鋼板コイル又はブランクは熱間圧延又は熱間圧延及び続いて冷間圧延によって製造することができる。0.5mm厚未満では、平面度に対する厳しい要件を満たすプレス硬化部品の製造が困難である。板の厚さが5mmを超えると、加熱又は冷却工程中に厚さの中に熱勾配が生じ、微細組織の、機械的な又は幾何学的不均一性を引き起こすことがある。
【0039】
この初期生成物は、それ自体圧延ストリップの巻取りから得られるコイルの形態であり得る。これは、例えばコイルをほどき、切断した後に得られるストリップの形態でもあり得る。あるいは、例えば、ほどいたコイル又はストリップのブランキング又はトリミングから得られるブランクの形態であってもよく、このブランクの輪郭形状は、最終プレス硬化部品の幾何形状との関係において、多かれ少なかれ複雑である。
【0040】
初期生成物は均一な厚さを有することができる。また、初期生成物は上記の範囲内で不均一な厚さを有していてもよい。後者の場合には、初期生成物は、ブランクのテーラード溶接又はテーラード圧延など、それ自身知られている方法によって得ることができる。したがって、異なる厚さを有する板の溶接から生じるテーラード溶接ブランク、又はテーラード圧延ブランクを実施することができる。
【0041】
コイル、板又はブランクは、アルミニウム、アルミニウムベースの合金、又はアルミニウム合金でプレコートされた平らな鋼基材で構成される。したがって、この段階では、コイル、板、又はブランクの形態で、この平らな鋼基材は、最終部品の形状を得る観点から、いかなるプレス加工操作にも供されない。
【0042】
基材の鋼は、熱処理可能な鋼、すなわち、オーステナイトドメインで加熱し、急速冷却によりさらに焼き入れした後にマルテンサイト及び/又はベイナイトを得ることが可能な組成を有する鋼である。鋼組成は特に制限されないが、本発明は、プレス硬化後に1000MPaより高い降伏応力を得ることを可能にする鋼組成で有利に実施される。
【0043】
この点に関し、鋼組成は、重量%で表される以下の元素を含むことができる。
【0044】
- 0.06%≦C≦0.1%、1.4%≦Mn≦1.9%、及び0.1%未満のNb、0.1%未満のTi、0.010%未満のBの任意の添加、残りは鉄及び精錬に起因する避けられない不純物である。
【0045】
- 0.15%≦C≦0.5%、0.5%≦Mn≦3%、0.1%≦Si≦1%、0.005%≦Cr≦1%、Ti≦0.2%、Al≦0.1%、S≦0.05%、P≦0.1%、B≦0.010%であり、残りは鉄及び精錬に起因する避けられない不純物である。
【0046】
- 0.20%≦C≦0.25%、1.1%≦Mn≦1.4%、0.15%≦Si≦0.35%、≦Cr≦0.30%、0.020%≦Ti≦0.060%、0.020%≦Al≦0.060%、S≦0.005%、P≦0.025%、0.002%≦B≦0.004%、残りは鉄及び精錬に起因する避けられない不純物である。
【0047】
- 0.24%≦C≦0.38%、0.40%≦Mn≦3%、0.10%≦Si≦0.70%、0.015%≦Al≦0.070%、Cr≦2%、0.25%≦Ni≦2%、0.015%≦Ti≦0.10%、Nb≦0.060%、0.0005%≦B≦0.0040%、0.003%≦N≦0.010%、S≦0.005%、P≦0.025%、残りは鉄及び精錬に起因する避けられない不純物である。
【0048】
これらの組成により、プレス硬化後の異なるレベルの降伏応力及び引張応力を達成することが可能になる。
【0049】
プレコートは、アルミニウム、又はアルミニウムベースの合金(すなわち、プレコートの重量パーセントにおいてアルミニウムが主元素である)又はアルミニウム合金(すなわち、プレコートの重量においてアルミニウムが50%より高い)であることができる。
【0050】
鋼板は、約670~680℃の温度で、浴中で溶融めっきすることにより得ることができ、正確な温度はアルミニウムベースの合金又はアルミニウム合金の組成に依存する。好ましいプレコートは、重量で5%~11%のSi、2%~4%のFe、場合によっては0.0015%~0.0030%のCaを含み、残りはAl及び精錬に起因する不純物である浴中で板を溶融めっきすることで得られるAl-Siである。このプレコートの特徴は、本発明の熱サイクルに特別に適合する。
【0051】
プレコートは、溶融めっき方法から直接生じ、このことは、この段階において、以下に詳述する加熱工程前に、溶融アルミニウムめっきによって直接得られた生成物に対して追加の熱処理が行われないことを意味する。
【0052】
鋼コイル、板、又はブランクの各面のプレコートの厚さは、10~35μmの間に含まれる。プレコートの厚さが10μm未満では、プレス硬化後の耐食性が低下する。
【0053】
プレコートの厚さが35μmを超える場合、鋼基材からの鉄との合金化は、プレコートの外側部分においてより困難であり、それは、プレス硬化の直前の加熱工程における液相の存在のリスク、ひいては炉内のローラの汚染のリスクを増加させる。
【0054】
プレス加工されていないプレコート鋼コイル、板又はブランクを提供した後、これは温度θ1まで炉内で加熱される。炉は、単一ゾーン又は複数ゾーンの炉、すなわち、それら自身の加熱手段及び設定を有する異なるゾーンを有することができる。加熱は、放射管、放射電気抵抗又は誘導などの手段によって行うことができる。以下に説明するように、鋼コイル、板又はブランクの最端面にアルミナ含有酸化物層を作り出すことができるように、炉の雰囲気には少なくとも5%の酸素が含まれていなければならない。
【0055】
鋼コイル、板又はブランクは、750~1000℃の間に含まれる最高炉温度θ1まで加熱される。これにより、初期鋼微細組織のオーステナイトへの変態が少なくとも部分的に引き起こされる。750℃を下回ると、プレコートと鋼基材間のプレアロイは非常に長くなり、コスト効率が悪くなるであろう。1000℃を超えると、θ1の直後の冷却は、基材内に高硬度の微細組織を発生させる可能性があり、それは、切断、ピアシング、トリミング又はコイルをほどくことのような、幾つかのさらなる工程を困難にするであろう。さらに、1000℃を超えると、結晶粒の粗大化及び靭性の低下を避けるために、この温度での保持期間を制限しなければならない。生産ラインが予期せぬ理由で停止すると、炉内に置かれたブランクが長時間保持されすぎて廃棄されることになるであろうから、コスト効率が悪くなる。
【0056】
したがって、プレス加工されていない鋼コイル、板又はブランクは、炉内で持続時間t1の間、温度θ1に維持される。このようにして、プレコートと鋼基材との間の界面に位置する相互拡散層が、t1の終了時に得られる。この相互拡散層の厚さがさらなる加熱及びθ2での維持の間に大きく変化しないことを経験している。この相互拡散層はフェライト組織(α-Fe)を有し、固溶体中にアルミニウムを豊富に含み、固溶体中にケイ素を含むこともある。例えばこの延性のある層は、重量で10%未満のAl及び重量で4%未満のSiを含有することができ、残りは主にFeである。
【0057】
炉内での総持続時間t1は、以下のように定義される範囲(t1min-t1max)に含まれなければならない。
t1min=23500/(θ1-729.5)(式[1])
t1max=4.946×1041×θ1
-13.08(式[2])
ここで、θ1は℃で表され、t1min及びt1maxは秒で表される。
【0058】
コイル、板又はブランクが唯一の加熱ゾーンを持つ炉で加熱される場合、θ1は炉の温度を指す。あるいは、コイル、板又はブランクを、各々のゾーン(i)がそれ自身の温度θ1(i)を有する、異なる加熱ゾーンを含む炉内で加熱することができる。したがって、炉内では最高温度θ1(max)及び最低温度θ1(min)が定義される。この場合、θ1(min)を用いて式[1]を算出し、θ1(max)を用いて式[2]を算出する。
【0059】
持続時間t1がt1min未満の場合、鋼基材とプレコートとの間の拡散量は不十分である。このため、温度θ3でさらに加熱すると、コートの表面に液相が形成され、炉内のローラの汚染を引き起こすリスクがある。
【0060】
さらに、加熱持続時間がt1min未満である場合、プレス加工されていないプレアロイコイル、板又はブランク上に存在するアルミナ含有酸化物層の厚さは不十分であり、すなわち0.10μm未満である。表面からの酸素含有率の変化を参照すると、この値は、T. Nellis及びR. Payling、Royal Society of Chemistry、ケンブリッジ、2003による「Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy: A Practical Guide」に定義されている半値全幅に相当する。
【0061】
理論に束縛されるものではないが、この表面アルミナ含有酸化物層の形成は、プレアロイコイル、板、又はブランクの全製造方法の高温範囲において、プレコート表面での吸着された酸素とアルミニウムとの間の反応によって生じると考えられる。この反応に必要な酸素の量は、炉の雰囲気中に存在する水の分解によって部分的に発生する。プレコート表面での吸着水の分解が吸着水素の発生を引き起こすにつれて、鋼基材中の水素含有率は加熱及びθ1での保持後に増加する。しかし、後述するように、この方法で実施される第2の工程において、水素含有率が低下し、生成されたアルミナ含有層が、第3の加熱工程においてそれ以上の大幅な水素吸入が起こらないことを可能にするであろう。
【0062】
このアルミナ含有層は複雑な層、例えばオキシ水酸化アルミナ(AlOOH)で覆われたアルミナ(Al2O3)の層であることができる。
【0063】
t1が範囲(t1min-t1max)から外れる場合、相互拡散層の厚さは2~16μmの範囲から外れる可能性がある。これは、ひいては、最終プレス硬化部品の被覆構造が抵抗スポット溶接にうまく適合しない、すなわち溶接強度範囲が1kA未満であるリスクを引き起こす。
【0064】
さらにt1maxを超えると、最終プレス硬化被覆部品の耐食性が低下する傾向にある。
【0065】
θ1で保持した後、プレス加工されていない鋼コイル、板又はブランクは中間温度θiで冷却される。
【0066】
鋼の微細組織が少なくとも部分的にオーステナイトに変態するにつれて、冷却速度Vr1は、この冷却工程中にマルテンサイト又はベイナイトなどの硬質変態成分を発生させないように選択されることが好ましい。特に、鋼微細組織におけるベイナイト及びマルテンサイトの面積分率の合計が、30%未満になるように冷却速度を選択する。この目的のために、Vr1は10℃/秒以下であることが好ましい。
【0067】
冷却は、切断、トリミング、ピアシング又はコイルをほどくことのような最終的な操作を行うことを可能にするフェライト-パーライト微細組織を得るように選択されることがさらに好ましい。この冷却速度の選択は、例えば膨張計に対し、このような微細組織の特徴を得ることを可能にする適切な臨界冷却速度を決定する限られた数の試験の実施を通して行うことができる。この目的のために、Vr1は5℃/秒以下であることが好ましく、3℃/秒以下であることがより好ましい。
【0068】
さらに、ゆっくりとした速度で冷却を行えば、アルミナ含有酸化物層の成長は高温域で起こり続けることができる。
【0069】
中温θiは室温であるか、又は室温よりも高くてもよい。
【0070】
第1の場合、プレス加工されていない鋼コイル、板又はブランクは、その後、室温から100~500℃の間に含まれる温度θ2まで加熱される。
【0071】
第2の場合では、θ1で加熱されたプレス加工されていない鋼コイル、板又はブランクは、100~500℃の間に含まれる温度θ2で加熱された炉にすぐに移送される、すなわちθi=θ2である。この炉では、その雰囲気には少なくとも5%の酸素が含まれる。
【0072】
第1の実施形態又は第2の実施形態の如何にかかわらず、3~45分の間に含まれる持続時間t2の間温度θ2に維持した後、プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクが得られる。
【0073】
θ2での維持工程も本製造方法の重要な工程であり、加熱及びθ1に維持した後、プレコート表面での炉からの水蒸気の吸着により、鋼基材中に水素が存在する。この段階では、鋼中の拡散性水素の量は、主にθ1で加熱したときの炉雰囲気の露点、温度θ1それ自体及び持続時間t1に依存する。拡散性水素の量は、高温での水素溶解度の増加により、高くてもよい。0.35~0.50ppmの範囲の拡散性水素の値を、例えばこの段階で測定することができる。
【0074】
θ1からコイル、板又はブランクを冷却すると、水素溶解度が低下し、水素が脱着しやすくなる。しかし、温度が100℃未満の場合には、プレアロイコートが水素の障壁として作用し、このため水素の脱着が非常に限られることを経験している。
【0075】
本発明者らは、プレス加工されていないコイル、板又はブランクを100~500℃の間の範囲に3~45分の間に含まれる持続時間を維持することにより、効率的な脱着速度を得ることが可能になることを見出した。
【0076】
第1の好ましい実施形態として、本発明者らは、400℃より高く500℃より低い温度θ2に維持することが有利であることを見出したが、それは、最終的なプレス硬化被覆部品上で0.25ppm未満の平均拡散性水素含有率を達成することを可能にするからである。
【0077】
第2の好ましい実施形態として、本発明者らは、θ2を100℃より高く300℃より低い温度に維持することも有利であることを見出したが、それは、最終的なプレス硬化被覆部品上で0.28ppm未満の平均拡散性水素含有率を達成することを可能にするからである。
【0078】
第3の好ましい実施形態として、発明者らは、θ2を300~400℃の間に含まれる温度に維持することが非常に有利であることを見出したが、この範囲は、短い持続時間t2で少ない平均拡散性水素を得ることを可能にするからである。
【0079】
θ2の好ましい温度範囲が何であれ、4~15分の間に含まれる持続時間t2により、短時間、すなわちコスト生産に有利な条件で、最終プレス硬化被覆部品において0.25ppm未満の平均拡散性水素を得ることが可能になる。
【0080】
θ2で維持した後、第1の選択肢として、コイル、板又はブランクを室温まで冷却して、プレス加工されていないプレアロイ鋼コイル、板又はブランクを得ることができる。このように、プレス硬化部品の製造において、さらに温度θ3で加熱するまでこの温度でコイル、板又はブランクを保存することができる。この段階で、プレアロイ鋼コイル又は板を切断して、プレス加工されていないプレアロイブランクを得、その形状の輪郭は、最終的なプレス硬化部品の幾何学的形状に関連している。
【0081】
第2の選択肢として、θ2に維持された生成物は、室温で冷却することなくその後にθ3で直接加熱することができるプレアロイブランクの形態である。
【0082】
この段階では、プレアロイ鋼生成物は、遊離アルミニウムが存在しない、すなわち、アルミニウムが他の元素に結合しているプレコートでプレアロイ鋼生成物が被覆されている。この生成物の平均拡散性含有率は0.35ppm未満であり、0.25ppm未満であることもできる。
【0083】
さらに、以下に示すように、前の工程の間に高温域で生成されたアルミナ含有酸化物層は、プレス硬化のためのさらなる加熱が、大幅な水素吸入を引き起こさないことを可能にする。
【0084】
上記の第1又は第2の選択肢の如何にかかわらず、プレス加工されていないプレアロイ鋼ブランクは、その後、総持続時間t3の間、温度θ3まで加熱され、鋼基材中に部分的又は完全なオーステナイト組織を得る。θ3は850~1000℃の間に含まれることが好ましい。
【0085】
オーステナイト結晶粒成長を制限し、非常に生産性のある条件で方法を実施するために、この工程では高速加熱が行われる。この加熱工程において、秒で表される、20~700℃の間に経過する時間を表す加熱持続時間ΔT20-700°は(26.22×th)-0.5未満である。この式において、thはミリメートルで表されるプレアロイブランクの厚さを表す。ブランクの厚さがthmin~thmaxの間で変化する場合、thはthmaxを示す。
【0086】
先行するプレアロイング処理のおかげで、θ3での加熱工程は被覆中に液相の形成を引き起こさない。したがって、プレアロイブランクがローラ上の炉内で加熱される場合、液体によるローラの汚染は回避される。液相の形成が起こらないので、抵抗加熱、すなわち、ジュール効果に基づく方法、又は誘導加熱などの効率的な加熱方法を実施することができる。代替方法として、熱伝導による加熱は、例えば、プレアロイブランクを2枚の加熱されたプレートの間に接触させること(「プレート加熱」)によって実施することができる。先行するプレアロイングは、ブランクとプレートとの間の粘着を引き起こす溶融相が存在するリスクを抑制する。
【0087】
先行するプレアロイング処理のおかげで、θ3での加熱工程を高い加熱速度で行うことができる。
【0088】
また、先行するプレアロイング処理のおかげで、θ3での加熱及び維持工程中の平均拡散性水素の増加分ΔHdiffは0.10ppm未満に低減され、プレス硬化部品の平均拡散性水素含有率は0.40ppm未満であり、0.30ppm未満とすることができる。
【0089】
θ3に維持した後、加熱したブランクを迅速に成形プレスに移送し、熱間成形して部品を得る。次いで、適正な冷却速度を確保し、収縮及び相変態における不均一性による歪みを回避するために、部品をプレスツーリング内に保持する。この部品は、主にツールとの熱伝達を介した伝導によって冷却される。ツーリングは、冷却速度を増加させるように、冷却剤の循環を含むことができ、又は冷却速度を低下させるように加熱カートリッジを含むことができる。このように、冷却速度は、このような手段の実施を通して、基材組成の硬化性を考慮に入れることによって、正確に調整することができる。冷却速度は、部品内で均一であってもよく、又は冷却手段に従ってゾーン毎に変化してもよく、したがって局所的に増加した強度又は増加した延性特性を達成することが可能になる。
【0090】
高い引張応力を達成するために、熱間成形部品中の微細組織はマルテンサイト又はベイナイトを含む。冷却速度は、達成されるべき微細組織及び機械的特性に依存して、臨界マルテンサイト又はベイナイト冷却速度よりも高くなるように、鋼組成に応じて選択される。特に、好適な実施形態として、鋼の組織硬化能を利用するために、微細組織は80%を超えるマルテンサイト及び/又はベイナイトを含む。
【実施例】
【0091】
表1の組成を有する厚さ1.5mmの22MnB5鋼の板を提供した。その他の元素は、鉄及び加工に固有の不純物である。
【0092】
【0093】
板を、連続溶融めっきによってAl-Siでプレコートしたコイルから得、次いでブランクに切断する。プレコートの厚さは両側で25μmである。プレコートは9重量%のSi、3重量%のFeを含み、残りはアルミニウムと製錬から生じる不純物である。
【0094】
平らなブランクに、表2に記載した製造条件に従って異なる熱処理を施した。
【0095】
総滞留時間t1の異なる値の間ブランクを維持しながら、21%の酸素を含む雰囲気下で、温度θ1までの熱処理を炉内で行う。t1min及びt1maxの値は、上記の式[1]及び[2]に従って温度θ1から算出し、t1の値はt1min及びt1maxによって定義される範囲と比較した。この温度で保持した後、ブランクを自然対流及び放射によって室温まで冷却し、フェライト-パーライト微細組織を得た。その後、ブランクを600℃までの範囲の温度θ2まで加熱し、21%の酸素を含む雰囲気下で、4分~24時間の間に含まれる持続時間t2の間、この温度で維持した。このように、プレス加工されていないプレアロイブランクを得た。
【0096】
さらなる比較として、プレコート鋼ブランクを、θ2及びθ3でのプレアロイング処理を経ることなくプレス硬化した。この試験は、表2の参考R6に対応する。
【0097】
【0098】
θ3で加熱する前のプレス加工されていないプレアロイブランクの特徴を決定し、表3に報告した。
【0099】
- 相互拡散層の厚さは、切断、研磨、Nital試薬による試験片のエッチング、及び500倍の倍率での光学顕微鏡観察によって決定した。相互拡散層は、そのフェライト組織のため識別可能である。
【0100】
- プレアロイコート上のアルミナ含有酸化物層の厚さ及び特徴を、グロー放電発光分光法及び二次イオン質量分析法により観察した。これらはそれ自体知られた技術である。後者の技術は単色アルミニウム源を用いて実施され、プレアロイコートの最上部表面層(厚さ0.01μm)におけるアルミニウムの酸化状態を識別することを可能にする。
【0101】
- 拡散性水素は熱脱着分析法によって測定し、この方法はそれ自体知られた技術である。すなわち、測定される試験片を炉に入れ、赤外線加熱する。加熱中は連続的に温度を記録する。放出された水素を窒素ガスによって運び、分光計で測定する。拡散性水素を、室温~360℃の間に放出された水素を積分することによって定量化する。平均拡散性水素は、N回の個々の測定値の平均値によって求められ、Nは3~9の間に含まれる。平均拡散性水素を、θ3で加熱する前にプレアロイ被覆鋼ブランク及びプレス硬化被覆部品について測定した。これら2つの測定値の差ΔHdiffは、プレス硬化過程による水素吸入を表す。
【0102】
プレアロイ被覆ブランクを温度θ3まで加熱し、最終的な液相の存在を確認した。加熱中に液相が存在している場合、走査電子顕微鏡で観察されるように、コート面の外観は、液体の表面張力のために非常に滑らかである。
【0103】
θ3=900℃では鋼の組織は完全にオーステナイトである。ブランクを10秒以内にプレスに移送し、熱間成形し、プレス硬化させた。プレスでの冷却は、プレス硬化被覆部品の鋼微細組織が完全にマルテンサイトになるように行う。
【0104】
プレス硬化後、被覆鋼部品を切断し、研磨し、Nital試薬でエッチングし、光学顕微鏡により倍率500倍で観察する。コートの構造を観察し、WO2008053273号に記載されているような、すなわち鋼基材からコート表面までの以下の範囲の、抵抗溶接に適応した明確な以下の4層構造を示すかどうかを決定する。
- 相互拡散層
- 中間層
- 金属間化合物層
- 表層
【0105】
プレス硬化被覆部品は1000MPaより高い降伏応力を有する。
【0106】
プレス硬化部品の特徴も表3に報告した。
【0107】
【0108】
試験I1及びI2では、本発明の条件に従ってプレス加工されていないプレアロイブランクを作製し、さらに本発明の条件に従ってプレス硬化させた。プレアロイブランクの上には遊離アルミニウムは存在しない。θ3での加熱中、加熱時間が短いにもかかわらず液相は経験しなかった。
【0109】
θ3での加熱による平均水素吸入率は非常に低く(0.01ppm)、平均水素自体も同様である(0.21ppm)。このように、遅延破壊のリスクは、低い水素含有率のため、大きく減少する。さらに、仮にブランクをより長時間(試験I1及びI2では1分40秒~2分30秒)炉内に静置しても、補足的な水素吸入ΔHdiffは生じないことが実証される。したがって、仮にプレアロイブランクが生産ラインにおいて予期せぬ事象により、さらに長い持続時間炉内に留まらなければならないとしても、これは有害な結果をもたらさない。
【0110】
プレス硬化後のコートの構造はWO2008053273号に記載されているものと同様であり、抵抗スポット溶接において広い強度範囲を達成することが可能である。
【0111】
試験I3~I4では、試験I1及びI2よりも高いθ2温度及び短いt2持続時間でプレス加工されていないプレアロイブランクを作製した。これにより、試験I1、I2のものと同等又はそれ以下(0.15~0.21ppm)の平均拡散含有率を有するプレアロイブランクを得ることができる。
【0112】
試験I5~I6では、(θ
1、t
1、θ
2、t
2)の条件に従って、0.14ppmの平均拡散性水素含有率の厚さ0.17μmのアルミナ含有酸化物層を作製した。
図1に示すように、この厚さの値はO含有量の最大値の半値全幅に相当する。
図1は、Fe及びSiも表面から一定の距離に存在し得ることを証明する。その最端面、すなわち、
図2に示すように、コートの表面下0~0.01μmでは、この層は、AlOOH、ベーマイト型によって被覆された30%のAl
2O
3から構成されており、AlOOHの存在は特定の熱サイクル及び炉中の酸素及び水蒸気の存在から生じる。350℃で15分保持した後、プレアロイブランクの平均拡散性水素含有率は試験I4におけるのとほぼ同じである。水素吸入率ΔH
diffは0.06ppm未満であり、平均拡散性水素がわずか0.20ppmのプレス硬化部品を得ることができる。さらに、t
3を1分40秒(I5)から6分(I6)に増加させても、プレス硬化部品における拡散性水素の増加には至らない。したがって、仮にプレアロイブランクが熱間鍛造の前に炉内で、さらに長い持続時間滞留しなければならないとしても、有害な効果は経験されない。
【0113】
これらの特性は、高い生産性条件、すなわち35秒というの速い加熱速度Δt20-700°(秒)で得られる。プレス硬化後のコート構造はWO2008053273号に記載されたものと類似している。また、熱処理工程(θ3、t3)はアルミナ含有層を大きく改質しないことに言及する。すなわち、(θ3=900℃、t3=1分40秒)で加熱する前、アルミナ含有層は0.17μmの厚さを有し、(θ3、t3)で加熱しプレス硬化した後、アルミナ含有層は0.18μmの厚さを有し、同様の微細組織の特徴を有する。
【0114】
全ての試験I1~I6に対して、プレアロイブランクのフェライト-パーライト微細組織により、ピアシング及び切断を容易に行うことが可能になる。
【0115】
試験R1~R2では、保持時間t1は少なくとも2μmの相互拡散間層を作るのに十分ではない。このため、遊離アルミニウムがプレアロイブランク中に存在し、θ3で加熱したときにプレコート上で溶融が起こる。さらに、アルミナ含有層は、プレス硬化中の顕著な水素吸入ΔHdiffを防止するには不十分である。この吸入量は、保持時間t3がさらに長い場合に特に高い。
【0116】
試験R3では、本発明に従って(θ1、t1)が選択されているが、温度θ2は高すぎる。理論に拘束されるものではないが、これはこの温度ではまだ高い水素溶解度、あるいはこの温度で存在する水吸着によるものであり得ると考えられる。その結果、拡散性水素含有率はプレアロイブランクでは高すぎる。
【0117】
試験R4では、本発明に従って(θ1、t1)が選択されているが、温度θ2は低すぎるため、水素流出は不十分である。というのはコートが水素脱着の障壁として作用するからである。その結果、拡散性水素含有率はプレアロイブランクでは高すぎる。
【0118】
試験R5では、(θ1、t1)が本発明の条件外であるため、(θ2、t2)、(θ3、t3)が本発明の条件に従うにもかかわらず、プレアロイブランク及びプレス硬化物上の拡散性水素は高すぎる。
【0119】
試験R6では、プレアロイング工程は適用されていない。したがって、θ3での加熱中に液相が存在する。θ3で加熱する前の平均拡散性は低いが、コートの上部のアルミナ含有酸化物の厚さは不十分(0.01μm)であり、このため最終部品の平均拡散性水素は0.40ppm以上である。
【0120】
したがって、本発明に従って製造されたプレス硬化被覆鋼部品は、車両の構造部品又は安全部品の製造のために有益に使用することができる。