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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20230511BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20230511BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C08J3/22
C08L21/00
C08K7/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020509768
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2019008680
(87)【国際公開番号】W WO2019188050
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2018058500
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100195017
【弁理士】
【氏名又は名称】水間 章子
(72)【発明者】
【氏名】竹下 誠
(72)【発明者】
【氏名】武山 慶久
(72)【発明者】
【氏名】周藤 茂
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186476(JP,A)
【文献】特開2009-197198(JP,A)
【文献】特開2009-046547(JP,A)
【文献】特開2011-105841(JP,A)
【文献】特開2010-185032(JP,A)
【文献】特開2018-028028(JP,A)
【文献】特開2018-100334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
C08J3/00-3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体とを含む複合混合物を混練して、予備混練物を得る予備混練工程と、
前記予備混練工程後に、更に、前記予備混練物を混練する本混練工程とを含み、
前記予備混練工程における混練温度は、前記本混練工程における混練温度よりも高く、
前記複合混合物は、
前記ゴムと、該ゴムに対する貧溶媒と、前記繊維状炭素ナノ構造体と、を含む組成物を分散処理して分散物を得る手順と、
得られた前記分散物から前記貧溶媒を除去する手順と、を経て得られ、
前記本混練工程における前記混練温度は60℃以下である、複合材料の製造方法。
【請求項2】
ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体とを含む複合混合物を混練して、予備混練物を得る予備混練工程と、
前記予備混練工程後に、更に、前記予備混練物を混練する本混練工程とを含み、
前記予備混練工程における混練温度は、前記本混練工程における混練温度よりも高く、
前記複合混合物は、
前記ゴムと、該ゴムを溶解し得る良溶媒と、前記繊維状炭素ナノ構造体と、を含む組成物を分散処理して分散物を得る手順と、
得られた前記分散物から前記良溶媒を除去する手順と、を経て得られ、
前記本混練工程における前記混練温度は60℃以下である、複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記複合混合物は、粒子状フィラーを含有する、請求項1または2に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記ゴムは、前記予備混練工程の混練温度におけるせん断速度0.1(1/s)条件下での複素粘度が、200,000Pa・s以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記予備混練工程の混練温度が80℃以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記ゴムは、フッ素ゴム、ニトリルゴム及び水素化ニトリルゴムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記繊維状炭素ナノ構造体がカーボンナノチューブを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記繊維状炭素ナノ構造体は、BET比表面積が600m/g以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の製造方法に関し、特には、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体とを含む複合材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下「CNT」と称することがある。)などの繊維状炭素ナノ構造体は、導電性、熱伝導性、摺動特性、機械特性等に優れるため、幅広い用途への応用が検討されている。
近年、繊維状炭素ナノ構造体の優れた特性を活かし、ゴムと繊維状炭素ナノ構造体とを複合化することで、加工性や強度といったゴムの特性と、補強性などの繊維状炭素ナノ構造体の特性とを併せ持つ複合材料を提供する技術の開発が進められている。
【0003】
ここで、複合材料の機械的特性を良好に向上させる観点からは、CNTなどの繊維状炭素ナノ構造体をゴムのマトリックス中に均一に分散させる必要がある。そこで、分散媒中に繊維状炭素ナノ構造体を均一に分散させて調製した調製分散液と、ゴムとを混合してなる分散液を用いて複合材料を調製することにより、ゴムのマトリックス中に繊維状炭素ナノ構造体が均一に分散した複合材料を得る技術が提案されている。
【0004】
具体的には、例えば特許文献1では、溶媒中にCNTなどの炭素質材料を分散させてなる分散液に、ゴムなどのエラストマーを溶解させてエラストマー溶液を得た後、該エラストマー溶液から溶媒を除去して、炭素質材料を含むエラストマー組成物を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-8244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車産業、化学産業、機械関連産業などにおいて用いられる複合材料には、高温条件下において高い引張強度が求められることがある。しかし、従来の方法によって得られる複合材料は、高温条件下における引張強度が必ずしも十分とは言えない。そのため、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体とを含有する複合材料の従来の製造方法には改良の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、高温条件下における引張強度に優れた複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。そして、本発明者らは、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体とを含む複合混合物を、混練温度の異なる少なくとも2段階の混練工程で混練することで、高温条件下における引張強度が向上した複合材料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の複合材料の製造方法は、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体とを含む複合混合物を混練して、予備混練物を得る予備混練工程と、前記予備混練工程後に、更に、前記予備混練物を混練する本混練工程とを含み、前記予備混練工程における混練温度は、前記本混練工程における混練温度よりも高いことを特徴とする。このように、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体とを含む複合混合物を混練して、予備混練物を得る予備混練工程と、予備混練工程後に、更に、予備混練物を混練する本混練工程との少なくとも2段階の混練工程を含むことで、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を得ることができる。
【0010】
ここで、本発明の複合材料の製造方法において、前記複合混合物は、前記ゴムと、該ゴムに対する貧溶媒と、前記繊維状炭素ナノ構造体と、を含む組成物を分散処理して分散物を得る手順と、得られた該分散物から該貧溶媒を除去する手順と、を経て得られるものとしてもよい。このような手順を経て得られる複合混合物とすれば、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を効率的に得ることができる。
【0011】
また、本発明の複合材料の製造方法において、前記複合混合物は、前記ゴムと、該ゴムを溶解し得る良溶媒と、前記繊維状炭素ナノ構造体と、を含む組成物を分散処理して分散物を得る手順と、得られた該分散物から該良溶媒を除去する手順と、を経て得られるものとしてもよい。このような手順を経て得られる複合混合物としても、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を効率的に得ることができる。
【0012】
なお、本発明の複合材料の製造方法において、前記複合混合物は、粒子状フィラーを含有してもよい。粒子状フィラーを含有する複合混合物としても、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を効率的に得ることができる。
【0013】
ここで、本発明の複合材料の製造方法において、前記ゴムは、前記予備混練工程の混練温度におけるせん断速度0.1(1/s)条件下での複素粘度が、200,000Pa・s以下であることが好ましい。ゴムの複素粘度が上記上限値以下であれば、高温条件下における引張強度により優れた複合材料を効率的に得ることができる。
【0014】
また、本発明の複合材料の製造方法において、前記予備混練工程の混練温度が80℃以上であることが好ましい。予備混練工程の混練温度が80℃以上であれば、高温条件下における引張強度に更に優れた複合材料を効率的に得ることができる。
【0015】
更に、本発明の複合材料の製造方法において、前記ゴムは、フッ素ゴム、ニトリルゴム及び水素化ニトリルゴムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。このようなゴムを使用することで、耐油性、耐老化性などに優れる複合材料を得ることができる。
【0016】
また、本発明の複合材料の製造方法において、前記繊維状炭素ナノ構造体がカーボンナノチューブを含むことが好ましい。カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、複合材料中に含まれる繊維状炭素ナノ構造体の量が少ない場合であっても、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を得ることができる。
【0017】
そして、本発明の複合材料の製造方法において、前記繊維状炭素ナノ構造体は、BET比表面積が600m/g以上であることが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m/g以上であれば、高温条件下における引張強度に十分に優れた複合材料を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複合材料の製造方法によれば、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の複合材料は、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含む複合材料を製造する際に用いられる。そして、本発明の複合材料の製造方法を用いて製造した複合材料は、高温条件下での引張強度に優れている。そのため、例えば、シート材、シール材などの、高温条件下での高い引張強度が求められる各種用途に用いられる。
【0020】
(複合材料の製造方法)
本発明の複合材料の製造方法は、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含む複合混合物を混練して、予備混練物を得る予備混練工程と、予備混練工程後に、更に、予備混練物を混練する本混練工程とを含み、予備混練工程における混練温度は、本混練工程における混練工程よりも高い。また、本発明の複合材料の製造方法は、任意に、上記予備混練工程の前に、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含む複合混合物を調製する調製工程を更に含んでいてもよい。
【0021】
そして、本発明の複合材料の製造方法は、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含む複合混合物を混練して、予備混練物を得る予備混練工程と、予備混練工程後に、更に、予備混練物を混練する本混練工程との少なくとも2段階の混練工程によって混練し、予備混練工程における混練温度を本混練工程における混練温度よりも高くするため、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を得ることができる。
ここで、本発明の製造方法によって得られる複合材料が、高温条件下において引張強度に優れる理由は、明らかではないが、次のように推察される。即ち、本混練工程よりも高温で行われる予備混練工程では、混練の際の熱によってゴムが繊維状炭素ナノ構造体と繊維状炭素ナノ構造体との間の隙間に侵入し易くなることで、繊維状炭素ナノ構造体が解繊して分散し易くなる。そのため、予備混練工程の後に本混練工程を実施することで、繊維状炭素ナノ構造体が良好に分散するためと推察される。
【0022】
<調製工程>
調製工程は、本発明の複合材料の製造方法に任意に含まれ得る工程である。そして、調製工程では、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含む複合混合物を調製する。
【0023】
<<複合混合物の調製>>
予備混練工程で混練する、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含む複合混合物は、例えば、下記(1)または(2)の方法により得ることができる。
(1)ゴムと、このゴムに対する貧溶媒と、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含む組成物を分散処理して分散物を得る手順と、得られた分散物から貧溶媒を除去する手順と、を含む方法
(2)ゴムと、このゴムを溶解し得る良溶媒と、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含む組成物を分散処理して分散物を得る手順と、得られた分散物から良溶媒を除去する手順と、を含む方法
【0024】
[ゴム]
ここで、ゴムとしては、特に限定されず、公知のゴムを用いることができるが、ゴムは、フッ素ゴム、ニトリルゴムおよび水素化ニトリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。このようなゴムを使用することで、耐油性、耐老化性などに優れる複合材料を得ることができる。なお、これらのゴムは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
-フッ素ゴム-
そして、フッ素ゴムとしては、例えば、四フッ化エチレン-プロピレン系ゴム(FEPM)、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、四フッ化エチレン-パーフルオロメチルビニルエーテル系ゴム(FFKM)、テトラフルオロエチレン系ゴム(TFE)などが挙げられる。これらの中でも、四フッ化エチレン-プロピレン系ゴム(FEPM)、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)が好ましい。
【0026】
-ニトリルゴム-
また、ニトリルゴムとしては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエン(XNBR)、アクリロニトリルブタジエンイソプレンゴム(NBIR)などが挙げられる。これらの中でも、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)が好ましい。
【0027】
-水素化ニトリルゴム-
更に、水素化ニトリルゴムとしては、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)などが挙げられる。
【0028】
[複素粘度(η*)]
そして、ゴムは、本発明の予備混練工程の混練温度におけるせん断速度0.1(1/s)の条件下での複素粘度(η)が200,000Pa・s以下であることが好ましく、70,000Pa・s以下であることがより好ましく、65,000Pa・s以下であることが更に好ましく、40,000以下であることが特に好ましい。ゴムの複素粘度が上記上限値以下であれば、高温条件下における引張強度により優れた複合材料を効率的に得ることができる。なお、ゴムの複素粘度は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0029】
[繊維状炭素ナノ構造体]
また、繊維状炭素ナノ構造体としては、特に限定されることなく、導電性を有する繊維状炭素ナノ構造体を用いることができる。具体的には、繊維状炭素ナノ構造体としては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)等の円筒形状の炭素ナノ構造体や、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成されてなる炭素ナノ構造体等の非円筒形状の炭素ナノ構造体を用いることができる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
そして、上述した中でも、繊維状炭素ナノ構造体としては、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、混合液中に含まれる繊維状炭素ナノ構造体の量が少ない場合であっても、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を提供することができる。
【0031】
ここで、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、CNTのみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
そして、繊維状炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。カーボンナノチューブの層数が少ないほど、混合液中に含まれる繊維状炭素ナノ構造体の量が少ない場合であっても、引張強度に優れた複合材料を効率的に製造することができる。
【0032】
また、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径は、1nm以上であることが好ましく、60nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の平均直径が1nm以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高めることができる。また、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径が60nm以下であれば、複合混合物中に含まれる繊維状炭素ナノ構造体の量が少ない場合であっても、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を効率的に製造することができる。
なお、本発明において、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径」は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像上で、例えば、20本の繊維状炭素ナノ構造体について直径(外径)を測定し、個数平均値を算出することで求めることができる。
【0033】
また、繊維状炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.80未満の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.40超の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.80未満の繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、製造される複合材料の性能を更に向上させることができる。
なお、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られた繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0034】
そして、繊維状炭素ナノ構造体としては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0035】
また、繊維状炭素ナノ構造体は、平均長さが、10μmm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることが更に好ましく、600μm以下であることが好ましく、550μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが更に好ましい。平均長さが10μm以上であれば、複合混合物中に含まれる繊維状炭素ナノ構造体の量が少ない場合であっても、複合材料の引張強度を向上させることができる。そして、平均長さが600μm以下であれば、後述する分散処理において繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高めることができる。
なお、本発明において、「繊維状炭素ナノ構造体」の平均長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)画像上で、例えば、20本の繊維状炭素ナノ構造体について長さを測定し、個数平均値を算出することで求めることができる。
【0036】
更に、繊維状炭素ナノ構造体は、通常、アスペクト比が10超である。なお、繊維状炭素ナノ構造体のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて、無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径および長さを測定し、直径と長さとの比(長さ/直径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0037】
-BET比表面積-
更に、繊維状炭素ナノ構造体は、BET比表面積が600m/g以上であることが好ましく、800m/g以上であることがより好ましく、2500m/g以下であることが好ましく、1200m/g以下であることがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積上記範囲内であれば、高温条件下における引張強度により優れた複合材料を提供することができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着
比表面積を指す。
【0038】
また、繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。なお、「t-プロット」は、窒素ガス吸着法により測定された繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得ることができる。すなわち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットが得られる(de Boerらによるt-プロット法)。
【0039】
ここで、表面に細孔を有する物質では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0040】
そして、上に凸な形状を示すt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt-プロットの形状を有する繊維状炭素ナノ構造体は、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、繊維状炭素ナノ構造体を構成する炭素ナノ構造体に多数の開口が形成されていることを示している。
【0041】
なお、繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットの屈曲点がかかる範囲内にあれば、繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高めることができる。具体的には、屈曲点の値が0.2未満であれば、繊維状炭素ナノ構造体が凝集し易く分散性が低下し、屈曲点の値が1.5超であれば繊維状炭素ナノ構造体同士が絡み合いやすくなり分散性が低下する虞がある。
なお、「屈曲点の位置」は、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0042】
更に、繊維状炭素ナノ構造体は、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上0.30以下であるのが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体のS2/S1の値がかかる範囲内であれば、繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高め、少ない使用量で、本発明の製造方法によって得られる複合材料の高温条件下における引張強度を高めることができる。
ここで、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt-プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0043】
因みに、繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線の測定、t-プロットの作成、および、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0044】
更に、繊維状炭素ナノ構造体として好適なCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのみからなる繊維状炭素ナノ構造体のラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0045】
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が0.5以上5.0以下であることが好ましい。G/D比が0.5以上5.0以下であれば、本発明の製造方法によって得られる複合材料の性能を更に向上させることができる。
【0046】
なお、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、特に限定されることなく、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法(CVD法)などの既知のCNTの合成方法を用いて製造することができる。具体的には、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に原料化合物およびキャリアガスを供給し、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称する。
そして、スーパーグロース法により製造された繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体を含んでいてもよい。
【0047】
[粒子状フィラー]
また、本発明において複合混合物が任意に含み得る粒子状フィラーとしては、特に限定されることない。そして、粒子状フィラーの材料として、例えば非炭素フィラーを用いることができ、中でも、タルク(MgSi10(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化亜鉛(ZnO)などを用いることが好ましく、タルクを用いることがより好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、本発明において、「粒子状」には、球状、楕円形状、多角形状、鱗片状などが含まれるものとする。
【0048】
-平均粒径-
ここで、粒子状フィラーの平均粒径は、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、10μm以下であることが好ましく、8.5μm以下であることがより好ましく、また、5μm以下としてもよい。粒子状フィラーの平均粒径が上記範囲内であることにより、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を得ることができる。なお、粒子状フィラーが真球状でない場合には、粒子状フィラーの長径を粒子状フィラーの粒径とする。
また、粒子状フィラーの平均粒径は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0049】
-モース硬度-
更に、粒子状フィラーのモース硬度は、0.5以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.0以下であることが更に好ましい。粒子状フィラーのモース硬度が上記下限値以上であれば、粒子状フィラーの損傷を防止して、引張強度が向上した複合材料を得ることができる。また、粒子状フィラーのモース硬度が上記上限値以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体の損傷を防止して、引張強度が向上した複合材料を提供することができる。
ここで、粒子状フィラーのモース硬度は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0050】
[貧溶媒]
そして、複合混合物の調製において、上述した(1)の方法を採用する場合、用いる貧溶媒としては、水やシクロヘキサンなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。ここで、貧溶媒とは、温度30℃におけるゴムの溶解度が10g/100g以下の溶媒をいう。具体的には、例えばゴムとしてFEPMを用いた場合には、貧溶媒として、シクロヘキサンや、水、アルコール類(イソプロピルアルコール、メタノール等)、ケトン類(メチルエチルケトン、アセトン等)等を挙げることができる。また、ゴムとしてFKMを用いた場合には、貧溶媒として、シクロヘキサンや、水等を挙げることができる。ゴムとしてNBRを用いた場合には、貧溶媒として、シクロヘキサンや、水、アルコール類(イソプロピルアルコール、メタノール等)等を挙げることができる。
【0051】
[良溶媒]
また、複合混合物の調製において、上述した(2)の方法を採用する場合、用いる良溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)やメチルエチルケトン(MEK)などが挙げられる。これらは、1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。ここで、良溶媒とは、温度30℃におけるゴムの溶解度が90g/100g以上の溶媒をいう。具体的には、例えばゴムとしてFEPMを用いた場合には、良溶媒として、THF等を挙げることができる。また、ゴムとしてFKMを用いた場合には、良溶媒として、MEK等を挙げることができる。ゴムとしてNBRを用いた場合には、良溶媒として、MEK等を挙げることができる。
【0052】
-複合混合物中のゴムと繊維状炭素ナノ構造体との含有割合-
そして、複合混合物中の繊維状炭素ナノ構造体の含有量に対するゴムの含有量の比は、質量比(ゴム/繊維状炭素ナノ構造体)で5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることが更に好ましく、120以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、30以下であることが更に好ましい。複合混合物中のゴムと繊維状炭素ナノ構造体との含有割合が上記範囲内であれば、高温条件下における引張強度が高められた複合材料を得ることができる。
【0053】
-複合混合物中のゴムと粒子状フィラーとの含有割合-
また、複合混合物中の粒子状フィラーの含有量に対するゴムの含有量の比は、質量比(ゴム/粒子状フィラー)で5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることが更に好ましく、120以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、30以下であることが更に好ましい。複合混合物中のゴムと粒子状フィラーとの含有割合が上記範囲内であれば、高温条件下における引張強度がより高められた複合材料を得ることができる。
【0054】
-複合混合物中の繊維状炭素ナノ構造体と粒子状フィラーとの含有割合-
更に、複合混合物中の粒子状フィラーの含有量に対する繊維状炭素ナノ構造体の含有量の比は、質量比(繊維状炭素ナノ構造体/粒子状フィラー)で0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.4以上であることが更に好ましく、0.6以上であることが特に好ましく、12以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、2以下であることが更に好ましく、1以下であることが特に好ましい。複合混合物中の繊維状炭素ナノ構造体と粒子状フィラーとの含有割合が上記範囲内であれば、高温条件下における引張強度が更に高められた複合材料を得ることができる。
【0055】
-複合混合物中のゴムの固形分濃度-
また、複合混合物中のゴムの固形分は、複合混合物(100質量%)中、2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることが更に好ましい。複合混合物中のゴムの固形分の濃度が上記下限値以上であれば、後に分散処理する際に、各成分を効率的に分散させることができる。一方、複合混合物中のゴムの固形分の濃度が上記上限値以下であれば、後に溶媒を除去する際に、溶媒の除去が容易になる。
【0056】
ここで、複合混合物の調製において、各成分の混合は、既知の方法により行えばよい。また、上述した各成分を混合する順番は、特に限定されることはなく、全成分を一括で混合してもよいし、一部の成分を混合した後に残部の成分を添加して更に混合してもよい。
【0057】
また、複合混合物の調製において、上述した(1)の方法を採用する場合には、例えば、ゴムの塊と、任意の粒子状フィラーとを含む混合物を粉砕して、ゴムと、粒子状フィラーとが混合した粉砕混合物を得た後に、この粉砕混合物と、残りの成分とを一括で混合してもよい。あるいは、例えば、粉砕や乳化重合などの既知の方法で調製したゴム粒子と、繊維状炭素ナノ構造体と、貧溶媒と、任意の粒子状フィラーと混合してもよい。
【0058】
-ゴムの平均粒径-
その際、ゴムの塊と粒子状フィラーとを含む混合物の粉砕は、粉砕して得られるゴムが、好ましくは平均粒径が1mm以下、より好ましくは0.5mm以下のゴムの粒子となるまで粉砕することが好ましい。粉砕によってゴムを平均粒径が1mm以下のゴムの粒子とすることで、複合材料中でのゴムの分散性をより高めることができる。
【0059】
なお、ゴムの塊と粒子状フィラーとを含む混合物の粉砕方法は特に限定されず、ゴムの塊と、粒子状フィラーとを含む混合物を、凍結粉砕機などの既知の粉砕機を用いて粉砕することができる。また、粉砕強度などの粉砕条件は、粉砕して得られるゴム粒子の所望の粒径などに合わせて適宜調整すればよい。
【0060】
[分散処理]
そして、複合混合物の調製において、上述した(1)の方法を用いる場合には、ゴムと、ゴムに対する貧溶媒と、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含む組成物を分散処理して分散物を得る。
また、複合混合物の調製において、上述した(2)の方法を用いる場合には、ゴムと、ゴムを溶解し得る良溶媒と、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含む組成物を分散処理して分散物を得る。
【0061】
なお、分散処理する方法は特に限定されないが、複合混合物中の各成分を均一に分散させることができる観点から、分散処理は、複合混合物にせん断力を加えて行うことが好ましい。
【0062】
ここで、複合混合物にせん断力を加えた分散処理に関し、以下ではメディアレス高速せん断機を用いた湿式分散処理を例に挙げて説明するが、本発明の複合材料の製造方法において、分散処理の方法は以下の一例に限定されるものではない。
【0063】
-メディアレス高速せん断機-
メディアレス高速せん断機としては、高速撹拌機、ホモジナイザーおよびインラインミキサーなどの、分散メディアを使用せずに湿式で高速せん断力を用いて分散処理をすることが可能な既知のメディアレス分散機を用いることができる。メディアレス高速せん断機を用いることにより、ジェットミル等の高圧型の高速せん断機に比べ、一度に多量の混合液を短時間で分散処理することができる。
【0064】
-圧力-
ここで、湿式分散処理において上記複合混合物にかかる圧力、即ち、メディアレス高速せん断機へ上記複合混合物を供給してから湿式分散処理の終了までの間に混合液にかかる圧力は、ゲージ圧で5MPa以下であることが好ましく、4MPa以下であることがより好ましい。そして、混合液の分散処理は無加圧下で行うことが更に好ましい。複合混合物にかかる圧力を上記上限値以下とすれば、繊維状炭素ナノ構造体や粒子状フィラーに損傷が発生するのを抑制することができる。
【0065】
そして、複合混合物にかかる圧力(ゲージ圧)が5MPa以下の条件下において繊維状炭素ナノ構造体や粒子状フィラーを良好に分散させる観点から、メディアレス高速せん断機としては、回転式のメディアレス高速せん断機が好ましく、回転式ホモジナイザー、または、固定されたステーターとステーターに対抗して高速回転するローターとを備えるインライン・ローター・ステーター式ミキサーが好ましい。
【0066】
なお、メディアレス高速せん断機として回転式ホモジナイザーを使用する場合には、湿式分散処理は、翼周速度が5m/秒以上となる条件で行うことが好ましい。翼周速度が5m/秒以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体や粒子状フィラーを十分に分散させることができる。また、処理時間は、10分以上300分以下が好ましい。更に、回転部の形状としては、例えば、鋸歯ブレード、閉式ローター、ローター/ステーター式が好ましい。閉式ローターのスリット幅またはローター/ステーターの最小クリアランスは、3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。
【0067】
また、メディアレス高速せん断機としてインライン・ローター・ステーター式ミキサーを使用する場合には、湿式分散処理は、周速度が5m/秒以上となる条件で行うことが好ましい。周速度が5m/秒以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体や粒子状フィラーを十分に分散させることができる。また、回転部への混合液の通過回数は10回以上であることが好ましい。混合液を回転部に10回以上通過させることで、繊維状炭素ナノ構造体や粒子状フィラーを均一かつ良好に分散させることができる。更に、処理時間は10分以上300分以下が好ましい。また、回転部の形状としては、スリット式が好ましい。ローター/ステーターの最小クリアランスは3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。また、スリット幅は2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。
【0068】
湿式分散処理は、湿式分散処理によって得られる分散物中の繊維状炭素ナノ構造体の平均バンドル径が、10μm以下となったときに終了することが好ましく、0.1μm以下となったときに終了することがより好ましい。分散物中の繊維状炭素ナノ構造体の平均バンドル径が10μm以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体のバンドルが十分ほぐれた状態で分散される。ここで、分散物中の繊維状炭素ナノ構造体の平均バンドル径が3nm以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体が繊維形状を損なうことなく分散される。このことから、繊維状炭素ナノ構造体の平均バンドル径は3nm以上になるようにして、湿式分散処理を終了することが好ましい。
【0069】
分散物中の繊維状炭素ナノ構造体の平均バンドル径は、湿式分散処理の途中で分取した分散物を、マイクロスコープを用いて観察して、無作為に選択した20本の繊維状炭素ナノ構造体のバンドルのバンドル径を測定して算術平均により求めることができる。
【0070】
なお、湿式分散処理の終了時は、繊維状炭素ナノ構造体の平均バンドル径を指標とすることができる。
【0071】
[溶媒の除去]
そして、複合混合物の調製において、上述した(1)の方法を用いる場合には、分散処理によって得られた分散物から貧溶媒を除去する。
また、複合混合物の調製において、上述した(2)の方法を用いる場合には、分散処理によって得られた分散物から良溶媒を除去する。
これにより、(1)および(2)のいずれの方法を用いた場合でも、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーを含む複合混合物を得ることができる。
【0072】
ここで、分散物から貧溶媒または良溶媒を除去する方法としては、特に限定されることなく、乾燥やろ過などの既知の方法を用いることができる。中でも、貧溶媒または良溶媒を除去する方法としては、ろ過と乾燥とを組み合わせることが好ましい。ろ過としては、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過など公知のろ過方法を用いればよい。乾燥としては、真空乾燥、不活性ガスの流通による乾燥、スプレードライヤーを用いた乾燥およびCDドライヤーを用いた乾燥が好ましく、真空乾燥、スプレードライヤーを用いた乾燥およびCDドライヤーを用いた乾燥がより好ましい。
【0073】
<予備混練工程>
そして、本発明の複合材料の製造方法において、予備混練工程では、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含む複合混合物を混練する。この際、混練温度は、後工程である本混練工程における混練温度よりも高いことを必要とする。
なお、予備混練工程で用いる複合混合物は、ゴムと、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを含んでいればよく、複合混合物の調製方法は上述した調製方法に限定されるものではない。したがって、市販のゴム粒子と、繊維状炭素ナノ構造体と、任意の粒子状フィラーとを用いて複合混合物を調製し、予備混練工程を実施してもよいし、上述した調製方法によって得られた複合混合物を用いて予備混練工程を実施してもよい。なお、予備混練工程で用いる複合混合物中に含まれる各成分は、上述した複合混合物の調製方法において複合混合物中に含まれていたものとすることができ、それらの好適な存在比は、上述した複合混合物中の各成分の好適な存在比と同じである。
【0074】
[混練温度]
そして、予備混練工程における混練温度は、後工程としての本混練工程における混練温度よりも高いことが必要である。そして、予備混練工程における混練温度は、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることが更に好ましく、200℃以上であることが最も好ましく、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、250℃以下であることが更に好ましい。予備混練工程における混練温度が上記下限値以上であれば、ゴムと、粒子状フィラーと、繊維状炭素ナノ構造体とを十分に混練することができる。一方、予備混練工程における混練温度が上記上限値以下であれば、ゴムの分解や劣化を抑制することができる。
【0075】
[混練時間]
また、予備混練工程における混練時間は、特に限定されることはなく、例えば1分以上60分以下とすることができる。
【0076】
[混練方法]
更に、予備混練工程における予備混練方法は、特に限定されることなく、ニーダー;ホバードミキサー、バンバリミキサー、ハイスピードミキサーなどのミキサー;二軸混練機械;ロール;等の既知の混練装置を用いて行うことができる。
【0077】
<本混練工程>
そして、本混練工程では、予備混練工程の後に、更に、予備混練工程によって得られた予備混練物を、予備混練工程における混練温度よりも低い温度で混練する。
【0078】
[混練温度]
ここで、本混練工程における混練温度は、予備混練工程における混練温度よりも低いことが必要である。そして、本混練工程における混練温度は、60℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることが更に好ましく、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましい。本混練工程における混練温度が上記範囲内であれば、ゴムと、粒子状フィラーと、繊維状炭素ナノ構造体とを十分に混練することができる。
[混練時間]
そして、本混練工程における混練時間は、特に限定されることなく、例えば1分以上60分以下とすることができる。
【0079】
[混練方法]
また、本混練工程における本混練方法は、特に限定されることなく、予備混練工程において例示した既知の混練装置を用いて行うことができる。本発明によれば、本混練工程を経た後に、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を得ることができる。
なお、得られた複合材料に任意のゴム用配合剤として、例えば、架橋剤、補強材、酸化防止剤などを更に含有させて混練し、成形加工および架橋を行って所望の成形体を得ることもできる。ここで、混練、成形加工および架橋は、公知の方法および装置を用いて行うことができる。なお、本混練工程は予備混練工程よりも低い混練温度で実施するため、例えば、架橋剤を添加する場合であっても、繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させつつ、架橋することができる。
【0080】
そして、本発明の複合材料の製造方法によって得られる複合材料は、JIS K7194に準拠し、抵抗率計を用いて四探針法によって測定される体積抵抗率が1.0×10Ωcm以下であることが好ましい。ここで、本発明の製造方法によって得られる複合材料の体積抵抗率が低い理由は、明らかではないが、予備混練工程における混練の際の熱によってゴムの粘度が低下し、繊維状炭素ナノ構造体と繊維状炭素ナノ構造体との間の隙間にゴムが侵入することが、繊維状炭素ナノ構造体を分散させ、繊維状炭素ナノ構造体のネットワークの形成に寄与し、複合材料の体積抵抗率の低下に寄与すると推察される。
【実施例
【0081】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例におけるフィラーの平均粒径およびモース硬度、各実施例および各比較例におけるゴムの複素粘度、CNTに対するゴムの比、フィラーに対するCNTの比、および、フィラーに対するCNTの比、ならびに各実施例および各比較例で作製したゴムシートの引張強度は、以下の方法を使用して測定した。
【0082】
<フィラーの平均粒径>
実施例および比較例で使用したフィラーの平均粒径は、沈降法によって測定した。具体的には、JIS R1619に従った遠心沈降法によって粒子径分布を測定した。そして得られた粒子径分布におけるメディアン径をフィラーの平均粒径とした。
【0083】
<モース硬度>
実施例および比較例で使用したフィラーのモース硬度は、モース硬度計によって測定した。ここで、モース硬度計は鉱物の「ひっかき硬度」を測定するために用いられる器具であり、硬度の異なる10種の標準鉱物により成り立っている。本実施例および比較例では、フィラーのモース硬度を測定するために、モース硬度計の標準鉱物を用いてフィラーの表面をひっかき、表面にひっかき傷がつくか否かを確かめた。そして、フィラーの表面に傷がつかなかった場合は、更に硬度の高い標準鉱物を使用して、フィラーの表面に傷がつくまでひっかき操作を繰り返した。そして、フィラーの表面に傷がついた場合には、その傷がついたフィラーでモース硬度計の標準鉱物の表面をひっかき、フィラーおよび標準鉱物の双方にひっかき傷がついたときの標準鉱物の硬度を、フィラーの硬度とした。
【0084】
<複素粘度(η)>
レオメータとして、粘弾性測定装置(アルファテクノロジーズ社製、製品名「ラバープロセスアナライザー RPA-2000」、)を用いて、予備混練工程の混練温度におけるせん断速度0.1(1/s)の条件下で、ゴムの複素粘度(η)を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
<CNTに対するゴムの比、フィラーに対するCNTの比、および、フィラーに対するCNTの比>
実施例および比較例で使用したゴム、フィラーおよびCNTの量を用いて、CNTに対するゴムの比、フィラーに対するCNTの比、および、フィラーに対するCNTの比を求めた。結果を表1に示す。
【0086】
<引張強度>
得られたゴムシートを、ダンベル試験片状(JIS3号)に打ち抜き、試験片を作製した。引張試験機(ストログラフVG、東洋精機社製)を用い、JIS K6251:2010に準拠して、試験温度230℃、200℃または120℃、試験湿度50%、引張速度500±50mm/minの条件下で引張試験を行い、引張強度(試験片を切断するまで引っ張ったときに記録される最大の引張力を試験片の初期断面積で除した値)を測定した。引張強度の値が大きい程、高温条件下における引張強度に優れる。
【0087】
(実施例1)
フッ素ゴムとしてのFKM(フッ化ビニリデン系ゴム、ケマーズ社製、製品名「バイトン GBL600S」の塊100質量部と、フィラーとしてのタルク(竹原化学工業社製、製品名「TTタルク」、組成:MgSi10(OH)、平均粒径:8.5μm、モース硬度:1)5質量部とを凍結粉砕機(粉体技研社製、液体窒素冷却)に投入して、平均粒径が400μm程度のFKM粒子が得られるまで粉砕して、FKMとタルクとを含む粉砕混合物を得た。
次いで、0.9Lのガラス瓶に、得られた粉砕混合物55g(105質量部)と、FKMの貧溶媒としてのイオン交換水495gと、繊維状炭素ナノ構造体としてのカーボンナノチューブ(ゼオンナノテクノロジー社製、製品名「ZEONANO SG101」、SGCNT、比重:1.7、平均直径:3.5nm、平均長さ:400μm、BET比表面積:1050m/g、G/D比:2.1、t-プロットは上に凸)2.2g(4質量部)とを投入し、これらを混合した。
そして、メディアレスせん断機(プライミクス社製、撹拌羽「ネオミクサー(登録商標)」ロータ/ステータ、最少クリアランス0.5mm)を用いて、温度40℃、回転数17000rpm(翼周速度:24m/秒)で、30分間分散処理を行い、FKMと、タルクと、イオン交換水と、カーボンナノチューブとを含むスラリー状の混合液(混合液中のゴム固形分濃度:10質量%)を得た。なお、この分散処理は、必要量のスラリーが得られるまで繰り返した。
それから、得られたスラリーを風乾させて、貧溶媒としてのイオン交換水を除去した。その後、真空乾燥機(ヤマト科学社製)を用いて、温度80℃で12時間真空乾燥することで、FKMと、タルクと、カーボンナノチューブとを含む複合混合物を得た。
次いで、得られた複合混合物87.4gを、高温混練機であるラボプラストミル(東洋精機製作所社製、製品名「10C100」、容量:60ml、50rpm)を用いて、混練温度100℃で3分間、混練した(予備混練工程)。
更に、予備混練物(FKM 100質量部/タルク 5質量部/CNT 4質量部)109質量部に、架橋助剤としての酸化亜鉛(亜鉛華二種)3質量部と、第一架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(日本化成社製、製品名「TAIC(登録商標)」)3質量部と、第二架橋剤としての2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油社製、製品名「パーヘキサ25B‐40」)2質量部とを加えた後、これらを水冷しながら混練温度5℃で、ロールを用いて混練し(本混練工程)、一次加硫(160℃、15分)および二次加硫(232℃、2時間)の処理を施して、厚さ2mmのゴムシートを得た。
得られたゴムシートを用いて、試験温度を200℃として引張強度試験を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例2)
予備混練工程における混練温度を150℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、ゴムシートを得た。そして、得られたゴムシートを用いて、試験温度を200℃として引張強度試験を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例3)
予備混練工程における混練温度を200℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、ゴムシートを得た。そして、得られたゴムシートを用いて、試験温度を200℃として引張強度試験を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例4)
予備混練工程における混練温度を230℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、ゴムシートを得た。そして、得られたゴムシートを用いて、試験温度を200℃として引張強度試験を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例5)
FKMに替えて、FEPM(四フッ化エチレン-プロピレン系ゴム、AGC社製、製品名「アフラス100S」、シクロヘキサンに対する不溶分100%)を用いた。また、繊維状炭素ナノ構造体としてのカーボンナノチューブの添加量が3質量部になるように、投入するカーボンナノチューブの量を変更した。更に、貧溶媒としてのイオン交換水に替えてシクロヘキサン495gを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして複合混合物を得た。そして、予備混練工程における混練温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして予備混練工程を行った。
更に、予備混練物(FEPM 100質量部/タルク 5質量部/CNT 3質量部)108質量部に、カーボンブラック(カンカーブ社製、製品名「サ―マックス(登録商標)MT」5質量部と、第一架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(日本化成社製、製品名「TAIC(登録商標)」)5質量部と、第二架橋剤としての有機過酸化物である1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油社製、製品名「ペロキシモンF-40」)2.5質量部と、ステアリン酸Ca1質量部とを加えた後、これらを水冷しながら混練温度5℃で、ロールを用いて混練し(本混練工程)、一次加硫(170℃、20分)および二次加硫(200℃、4時間)の処理を施して、厚さ2mmのゴムシートを得た。
得られたゴムシートを用いて、試験温度を230℃として引張強度を測定した。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例6)
FKMの塊に替えて、NBR(ニトリルゴム、日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)DN3350」、シクロヘキサンに対する不溶分100%)の塊を用いた。また、繊維状炭素ナノ構造体としてのカーボンナノチューブの添加量が10質量部になるように、投入するカーボンナノチューブの量を変更した。更に、貧溶媒としてのイオン交換水に替えてシクロヘキサン495gを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして複合混合物を得て、予備混練工程を行った。
更に、予備混練物(NBR 100質量部/タルク 5質量部/CNT 10質量部)115質量部に、架橋助剤としての酸化亜鉛(亜鉛華二種)5質量部と、ステアリン酸1質量部と、加硫剤としての硫黄(S#325)0.5質量部と、第一加硫促進剤としてのテトラメチルチウラムジスルフィド(大内新興化学工業社製、製品名「ノクセラーTT」)1.5質量部と、第二加硫促進剤としてのN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業社製、製品名「ノクセラーCZG」)1.5質量部とを加えた後、これらを混練温度50℃で、ロールを用いて混練し(本混練工程)、加硫(160℃、10分)処理を施して、厚さ2mmのゴムシートを得た。
得られたゴムシートを用いて、試験温度を120℃として引張強度を測定した。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1)
予備混練工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ2mmのゴムシートを得た。得られたゴムシートを用いて、試験温度を200℃として引張強度試験を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例2)
予備混練工程を行わなかったこと以外は、実施例5と同様にして、厚さ2mmのゴムシートを得た。得られたゴムシートを用いて、試験温度を230℃として引張強度試験を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例3)
予備混練工程を行わなかったこと以外は、実施例6と同様にして、厚さ2mmのゴムシートを得た。得られたゴムシートを用いて、試験温度を120℃として引張強度試験を行った。結果を表1に示す。
【0096】
なお、以下に示す表1中、「CNT」はカーボンナノチューブを示し、「FKM」はフッ化ビニリデン系ゴムを示し、「FEPM」は四フッ化エチレン-プロピレン系ゴムを示し、「NBR」はアクリロニトリルブタジエンゴムを示し、「CHX」はシクロヘキサンを示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1より、予備混練工程および本混練工程を行い、且つ、予備混練工程における混練温度を本混練工程における混練温度よりも高くした実施例1~6では、得られたゴムシートの引張強度が高いことが分かる。
一方、比較例1では、予備混練工程を行わなかったために、得られたゴムシートの引張強度は、同じ種類のゴムを用いて得られた実施例1~4のゴムシートの引張強度よりも低下していることがわかる。
更に、比較例2では、予備混練工程を行わなかったために、得られたゴムシートの引張強度は、同じ種類のゴムを用いて得られた実施例5のゴムシートの引張強度よりも低下していることがわかる。
更に、比較例3では、予備混練工程を行わなかったために、得られたゴムシートの引張強度は、同じ種類のゴムを用いて得られた実施例6のゴムシートの引張強度よりも低下していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の複合材料の製造方法によれば、高温条件下における引張強度に優れた複合材料を製造することができる。