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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】炭素繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230515BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230515BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20230515BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
C08L101/00
C08J5/04 CFC
C08K7/06
C08L1/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019110459
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2019218538
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2018113857
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】坪井 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】森岡 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大和 恭平
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-101227(JP,A)
【文献】特開2018-095675(JP,A)
【文献】特開2015-036414(JP,A)
【文献】特開2010-024413(JP,A)
【文献】特開2019-006997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維とマトリクス樹脂と改質セルロース繊維とを配合してなる炭素繊維強化複合材料であって、前記改質セルロース繊維が以下の改質セルロース繊維(A)を含むものである、炭素繊維強化複合材料。
改質セルロース繊維(A):イオン性基を含むセルロース繊維のイオン性基に修飾基が結合してなる改質セルロース繊
【請求項2】
前記マトリクス樹脂が、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及びセルロース系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂を含む、請求項1に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項3】
改質セルロース繊維(A)におけるイオン性基がカルボキシ基である、請求項1又は2に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項4】
以下の改質セルロース繊維(A)を含む改質セルロース繊維、マトリクス樹脂、並びに炭素繊維を複合化する工程を含む、炭素繊維強化複合材料の製造方法。
改質セルロース繊維(A):イオン性基を含むセルロース繊維のイオン性基に修飾基が結合してなる改質セルロース繊
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限な資源である石油由来のプラスチック材料が多用されていたが、近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになり、かかる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維を用いた材料が注目されている。
【0003】
また、炭素繊維とマトリクス樹脂とを含む炭素繊維強化複合材料(CFRP)は、軽量、高強度といった特徴を有しており、金属代替材料として自動車や航空機への適用が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には高分子系母材中にミクロフィブリルセルロースを分散させたものを繊維強化材に含浸させることで、疲労特性と衝撃特性の双方に優れた繊維状強化複合材料を提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-024413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1の技術では樹脂へのミクロフィブリルセルロースの分散が十分ではないため、寸法安定性も低いものであった。
【0007】
従って、本発明は、寸法安定性に優れた炭素繊維強化複合材料を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記〔1〕~〔2〕に関する。
〔1〕 炭素繊維とマトリクス樹脂と改質セルロース繊維とを配合してなる炭素繊維強化複合材料であって、前記改質セルロース繊維が以下の改質セルロース繊維(A)及び改質セルロース繊維(B)からなる群より選択される一種以上である、炭素繊維強化複合材料。
改質セルロース繊維(A):イオン性基を含むセルロース繊維のイオン性基に修飾基が結合してなる改質セルロース繊維
改質セルロース繊維(B):セルロース繊維の水酸基の水素基を除いた基に修飾基が結合されてなる改質セルロース繊維
〔2〕 以下の改質セルロース繊維(A)及び改質セルロース繊維(B)からなる群より選択される一種以上の改質セルロース繊維、マトリクス樹脂、並びに炭素繊維を複合化する工程を含む、炭素繊維強化複合材料の製造方法。
改質セルロース繊維(A):イオン性基を含むセルロース繊維のイオン性基に修飾基が結合してなる改質セルロース繊維
改質セルロース繊維(B):セルロース繊維の水酸基の水素基を除いた基に修飾基が結合されてなる改質セルロース繊維
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、寸法安定性に優れた炭素繊維強化複合材料を提供することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、炭素繊維とマトリクス樹脂と改質セルロース繊維とを配合してなるものである。
【0011】
〔炭素繊維〕
本発明の炭素繊維強化複合材料に用いられる炭素繊維は、石油や石炭等のピッチを原料として紡糸して製造したものもよく、ポリアクリロニトリルやレーヨン等を原料として製造したものでもよい。また、炭素繊維の端材を再利用した再生品や、炭素繊維強化複合材料から樹脂を除去した再生品の炭素繊維を用いることもできる。
【0012】
炭素繊維の形態としては、例えば単にモノフィラメント又はマルチフィラメントを一方向または交互の交差するように並べたもの、編織物等の布帛、不織布又はマット等の種々の形態が挙げられる。これらのうち、モノフィラメント、布帛、不織布又はマットの形態が好ましい。
【0013】
炭素繊維の平均繊維径は、好ましくは1~100μmであり、より好ましくは3~50μmであり、更に好ましくは4~20μmである。平均繊維径がこの範囲であると、加工が容易であり、得られる炭素繊維強化複合材料の弾性率及び強度が優れたものとなる。なお、炭素繊維の平均繊維径は走査型電子顕微鏡(SEM)などによる観察によって測定することが可能であり、例えば、50本以上の繊維を無作為に選んで長さを測定し、個数平均の平均繊維径を算出することができる。
【0014】
炭素繊維の繊度は、好ましくは20~4,500texであり、より好ましくは50~4,000texである。繊度がこの範囲であると、マトリクス樹脂の含浸が容易であり、得られる炭素繊維強化複合材料の弾性率及び強度が優れたものとなる。なお、繊度は任意の長さの長繊維の質量を求めて、1,000m当たりの質量に換算して求めることができる。フィラメント数は通常、500~60,000程度の炭素繊維を好ましく用いることができる。
【0015】
〔マトリクス樹脂〕
マトリクス樹脂は、炭素繊維や改質セルロース繊維のマトリクスとなる樹脂成分であり、用途や所望の特性に応じて、適宜選択できる。
【0016】
このようなマトリクス樹脂としては、用途や所望の特性又は物性に応じて選択でき、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、セルロース系樹脂のいずれであってもよい。樹脂は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0017】
本発明では、強度や熱的特性などの観点から、マトリクス樹脂としては熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及びセルロース系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂を含むことが好ましい。
【0018】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ジアクリルフタレート樹脂、ケイ素樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0019】
熱硬化性樹脂の中でもエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、アルケンオキシド類、トリグリシジルイソシアヌレートなどが挙げられる。エポキシ樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせもよい。
【0020】
マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂を含む場合、マトリクス樹脂を含む組成物は、硬化剤や硬化促進剤を含んでいてもよい。すなわち、マトリクス樹脂を含む組成物は、樹脂(熱硬化性樹脂)と、この樹脂に対する硬化剤や硬化促進剤とで構成されてもよい。
【0021】
硬化剤としては、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、フェノール樹脂系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、潜在性硬化剤(三フッ化ホウ素-アミン錯体、ジシアンジアミド、カルボン酸ヒドラジドなど)などが挙げられる。硬化剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、硬化剤は、硬化促進剤として作用する場合もある。
【0022】
硬化剤の割合は、マトリクス樹脂や硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、マトリクス樹脂100質量部に対して好ましくは0.1~300質量部である。
【0023】
硬化促進剤も、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化促進剤としては、例えば、ホスフィン類、アミン類などが挙げられる。硬化促進剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0024】
硬化促進剤の割合は、硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、エポキシ樹脂100質量部に対して好ましくは0.01~100質量部である。
【0025】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸樹脂等の飽和ポリエステル樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン樹脂;塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、スチレン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂等のビニル樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリウレタン樹脂;フェノキシ樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いても良い。熱可塑性樹脂としてはポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂が好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル系樹脂とは、メタクリル系樹脂及びアクリル系樹脂を含む概念を意味する。
【0026】
(セルロース系樹脂)
セルロース系樹脂としては、酢酸セルロース(セルロースアセテート)、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース混合アシレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;硝酸酢酸セルロース等の有機酸無機酸混酸エステル;アセチル化ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエーテルエステルなどが挙げられる。上記酢酸セルロースには、セルローストリアセテート(アセチル置換度2.6~3)、セルロースジアセテート(アセチル置換度2以上2.6未満)、セルロースモノアセテートが含まれる。セルロース系樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
(光硬化性樹脂)
光硬化性樹脂としては、光硬化性樹脂前駆体を硬化させたものであってよい。
光硬化性樹脂前駆体は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線照射により、必要により光重合開始剤を用いて、重合反応が進行するものであれば特に限定はない。例えば、単量体(単官能単量体、多官能単量体)、反応性不飽和基を有するオリゴマー又は樹脂等を用いることができる。
【0028】
〔改質セルロース繊維〕
本発明における改質セルロース繊維とは、以下の改質セルロース繊維(A)及び改質セルロース繊維(B)からなる群より選択される一種以上であり、改質セルロース繊維(A)を含むものが好ましい。
【0029】
改質セルロース繊維は、その原料として天然セルロース繊維を使用していることに起因して、セルロースI型結晶構造を有している。セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうちのセルロースI型結晶領域量の占める割合のことを意味する。
【0030】
改質セルロース繊維のセルロースI型結晶化度は、炭素繊維との分散性の観点から、好ましくは30%以上であり、また、使用するセルロース原料のコストの観点から、好ましくは95%以下である。なお、本明細書において、セルロース繊維や改質セルロース繊維等におけるセルロースI型結晶化度は、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0031】
改質セルロース繊維の原料のセルロース繊維としては、環境負荷の観点から、天然セルロース繊維を用いることが好ましい。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
原料のセルロース繊維の平均繊維径や平均繊維長は特に限定されない。平均繊維径としては、例えば、入手容易性の観点から、好ましくは1μm以上であり、同様の観点から、好ましくは100μm以下である。平均繊維長としては、例えば、入手容易性の観点から、好ましくは1000μm以上であり、同様の観点から、好ましくは10000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径や平均繊維長は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0033】
改質セルロース繊維の平均繊維径は、改質セルロース繊維とマトリクス樹脂等とを混合する前に改質セルロース繊維の微細化処理を行うか否かによって異なる。微細化処理を行う場合の平均繊維径は、炭素繊維やマトリクス樹脂等との分散性の観点から、好ましくは0.1nm以上であり、同様の観点から、好ましくは100nm以下である。一方、微細化処理を行わない場合の平均繊維径は特に限定されず、原料のセルロース繊維と同程度でよい。改質セルロース繊維の平均繊維径は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0034】
改質セルロース繊維の平均繊維長は、改質セルロース繊維とマトリクス樹脂等とを混合する前に改質セルロース繊維の微細化処理を行うか否かによって異なる。微細化処理を行う場合の平均繊維長は、炭素繊維やマトリクス樹脂等との分散性の観点から、好ましくは150nm以上であり、同様の観点から、好ましくは1,000nm以下である。一方、微細化処理を行わない場合の平均繊維長は特に限定されず、原料のセルロース繊維と同程度でよい。改質セルロース繊維の平均繊維長は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0035】
改質セルロース繊維の平均アスペクト比、すなわち平均繊維長/平均繊維径の値は、分散性の観点から、好ましくは1以上であり、同様の観点から、250以下である。平均アスペクト比が前記範囲内にある場合、平均アスペクト比の標準偏差は、分散性の観点から、好ましくは60以下であり、経済性の観点から、好ましくは4以上である。改質セルロース繊維の平均アスペクト比は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0036】
(微細化処理)
本発明における改質セルロース繊維を、公知の微細化処理、例えば、有機溶媒中で分散機を用いた処理に供してもよい。
【0037】
(分散機)
微細化処理で使用できる装置としては公知の分散機が好適なものとして挙げられる。例えば、撹拌翼を備えた撹拌機、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、ロールミル、短軸混練機、2軸機混練機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。装置の運転条件は、添付の取扱い説明書を参照しつつ適宜設定すればよい。
【0038】
(有機溶媒)
本発明において、微細化処理の際に使用できる分散媒としての有機溶媒は、分散性の観点からN,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、メタノール、エタノール、ベンジルアルコール、n-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、t-ブチルアルコール、シクロヘキサノン、アセトニトリル、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、プロピレングリコール及びメチルエチルケトンからなる群より選択される1種以上の有機溶媒を含むものが好ましく、より好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、メタノール、エタノール、ベンジルアルコール、n-プロパノール、及びエチレングリコールからなる群より選択される1種以上の有機溶媒を含むものであり、更に好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN-メチルピロリドンからなる群より選択される1種以上の有機溶媒を含むものである。このような有機溶媒は疎水変性セルロース繊維との親和性が高いと推定されるため、疎水変性セルロース繊維の調製や微細化処理の際に、セルロース繊維の分散性がより高くなり、その結果、微細化疎水変性セルロース繊維も高い分散性を発揮するものと推定される。
【0039】
微細化処理における有機溶媒の使用量としては、疎水変性セルロース繊維の分散状態を維持できる程度であればよく、特に制限はないが、例えば、懸濁液等の処理対象における固形分含有量が好ましくは0.01質量%以上となる量であり、好ましくは50質量%以下となる量である。
【0040】
改質セルロース繊維は、分散液の状態で使用することもできるし、あるいは乾燥処理等により該分散液から溶媒を除去して、乾燥した粉末状の改質セルロース繊維を得て、これを使用することもできる。ここで「粉末状」とは、改質セルロース繊維が凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない。
【0041】
粉末状の改質セルロース繊維としては、例えば、前記セルロース繊維の分散液をそのまま乾燥させた乾燥物;該乾燥物を機械処理で粉末化したもの;前記セルロース繊維の分散液を公知のスプレードライ法により粉末化したもの;前記セルロース繊維の分散液を公知のフリーズドライ法により粉末化したもの等が挙げられる。前記スプレードライ法は、前記セルロース繊維の分散液を大気中で噴霧し、乾燥させる方法である。
【0042】
<改質セルロース繊維(A)>
本発明における改質セルロース繊維(A)とは、イオン性基を含むセルロース繊維のイオン性基に修飾基が結合してなる改質セルロース繊維である。
【0043】
(イオン性基)
イオン性基を含むセルロース繊維とは、セルロース繊維中にイオン性基を含むように変性されたセルロース繊維のことである。
【0044】
イオン性基としては、例えば、アニオン性基及びカチオン性基が挙げられる。アニオン性基としては、例えばカルボキシ基、硫酸基及びリン酸基等が挙げられ、カチオン性基としては、その基内にアンモニウム、ホスホニウム、スルホニウムなどのオニウムを有する基が挙げられる。改質セルロース繊維(A)への導入効率の観点から、イオン性基としてはアニオン性基が好ましく、アニオン性基としてはカルボキシ基がより好ましい。
【0045】
イオン性基がアニオン性基である場合、アニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)は、金属イオン及びプロトンからなる群より選択される1種以上である。金属イオンとしては一価のカチオンが好ましく、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。改質セルロース繊維への反応効率の観点から、好ましくはプロトンである。
【0046】
イオン性基を含むセルロース繊維におけるイオン性基の含有量は、安定的な微細化及び修飾基導入の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上であり、同様の観点から、好ましくは3.0mmol/g以下である。イオン性基がアニオン性基の場合のアニオン性基の含有量は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0047】
(修飾基)
改質セルロース繊維(A)においては、イオン性基を含むセルロース繊維のイオン性基に修飾基が結合している。ここでの結合様式としては、イオン結合及び共有結合(例えば、アミド結合、エステル結合及びウレタン結合等)が挙げられる。
【0048】
改質セルロース繊維(A)における修飾基としては、各種の炭化水素基(例えば鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基及び芳香族炭化水素基等の炭化水素基)やアルキル基に共重合部位が結合した基等が挙げられる。これらの基は単独で又は2種以上を組み合わせて、改質セルロース繊維(A)に導入されていてもよい。
【0049】
修飾基としての炭化水素基の炭素数は、分散性の観点から、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは3以上であり、同様の観点から、好ましくは30以下であり、より好ましくは24以下であり、更に好ましくは18以下である。なお、炭化水素基の炭素数とは、別に規定の無い限り、一つの修飾基における炭素数のことを意味する。
【0050】
鎖式飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられる。
【0051】
鎖式不飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブテン基、イソブテン基、イソプレン基、ペンテン基、ヘキセン基、ヘプテン基、オクテン基、ノネン基、デセン基、ドデセン基、トリデセン基、テトラデセン基、オクタデセン基が挙げられる。
【0052】
環式飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、シクロプロパン基、シクロブチル基、シクロペンタン基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロオクタデシル基等が挙げられる。
【0053】
芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれる。アリール基及びアラルキル基としては、芳香族環そのものが置換されたものでも非置換のものであってもよい。
【0054】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、及びこれらの基が後述する置換基で置換された基が挙げられる。
【0055】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基、及びこれらの基の芳香族基が置換基でさらに置換された基などが挙げられる。
【0056】
修飾基が炭化水素基であり、該炭化水素基が置換基を有する場合は、置換基として、例えば炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基;アルコキシ基の炭素数が1~6の直鎖又は分岐のアルコキシカルボニル基;臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;炭素数1~6のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1~6のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数が1~6のジアルキルアミノ基や、水酸基、エーテル、アミド等を用いてもよい。なお、前述の各種の炭化水素基そのものが別の炭化水素基に置換基として結合していてもよい。
【0057】
アルキル基に共重合部位が結合した基における共重合部位としては、例えば、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(EO/PO)共重合部位等が挙げられる。(EO/PO)共重合部位とは、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)がランダム又はブロック状に重合した構造を意味する。アルキル基に(EO/PO)共重合部位が結合した基としては、例えば下記式(i’)で示される基が挙げられる。
【0058】
【化1】
【0059】
〔式中、Rは水素原子又は炭素数1~6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を示し、EO及びPOはランダム又はブロック状に存在し、aはEOの平均付加モル数を示す正の数、bはPOの平均付加モル数を示す正の数である。式(i)中、アミノ基とEO又はPOとの間に、炭素数1~3のアルキレン基が存在していてもよい。〕
【0060】
は、分散性の観点から水素原子であることが好ましい。Rが炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である場合、該アルキル基は好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基及びsec-プロピル基である。
【0061】
式(i)で表されるEOPOアミンについての詳細は、例えば特許第6105139号公報に記載されている。
【0062】
aは、分散性の観点から好ましくは11以上であり、より好ましくは15以上であり、更に好ましくは20以上であり、更に好ましくは25以上であり、更に好ましくは30以上である。同様の観点から、好ましくは100以下であり、より好ましくは70以下であり、更に好ましくは60以下であり、更に好ましくは50以下である。
【0063】
bは、分散性の観点から好ましくは1以上であり、より好ましくは3以上であり、更に好ましくは5以上である。同様の観点から、好ましくは50以下であり、より好ましくは40以下であり、更に好ましくは30以下であり、更に好ましくは25以下であり、更に好ましくは20以下であり、更に好ましくは15以下であり、更に好ましくは10以下である。
【0064】
前記炭素数1~3のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基及びプロピレン基が挙げられる。
【0065】
(EO/PO)共重合部位中のPOの含有率(モル%)は、前記aとbに基づいて計算することが可能であり、具体的にはb×100/(a+b)より求めることができる。POの含有率は、分散性の観点から好ましくは1モル%以上であり、同様の観点から、好ましくは100モル%以下である。
【0066】
(EO/PO)共重合部位の分子量は、分散性の観点から好ましくは100以上、より好ましくは200以上、さらに好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上であり、同様の観点から、好ましくは10,000以下、より好ましくは8000以下、さらに好ましくは5000以下、さらに好ましくは3000以下である。
【0067】
前記(EO/PO)共重合部位を有するアミン(「EOPOアミン」とも称する。)は、例えば、市販品を好適に用いることができ、具体例としては、HUNTSMAN社製のJeffamine M-2070、Jeffamine M-2005、Jeffamine M-2095、Jeffamine M-1000、Jeffamine M-600、Surfoamine B200、Surfoamine L100、Surfoamine L200、Surfoamine L207,Surfoamine L300、XTJ-501、XTJ-506、XTJ-507、XTJ―508;BASF社製のM3000、Jeffamine ED-900、Jeffamine ED-2003、Jeffamine D-2000、Jeffamine D-4000、XTJ-510、Jeffamine T-3000、JeffamineT-5000、XTJ-502、XTJ-509、XTJ-510等が挙げられる。
【0068】
改質セルロース繊維(A)における修飾基の平均結合量は、分散性の観点から、好ましくは0.01mmol/g以上であり、同様の観点から、好ましくは3.0mmol/g以下である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に改質セルロース繊維(A)に導入されている場合、修飾基の平均結合量は、前記範囲内であることが好ましい。
【0069】
改質セルロース繊維(A)における修飾基の導入率は、分散性の観点から、好ましくは10%以上であり、同様の観点から、好ましくは99%以下である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に導入されている場合には、導入率の合計が上限の100%を超えない範囲において、前記範囲内となることが好ましい。
【0070】
修飾基の平均結合量及び導入率は、修飾基を導入するための化合物、即ち修飾用化合物の添加量や種類、反応温度、反応時間、溶媒の種類等によって調整することができる。修飾基の平均結合量(mmol/g)及び導入率(%)とは、改質セルロース繊維(A)において、イオン性基に修飾基が導入された(結合した)量及び割合のことである。修飾基の平均結合量及び導入率は、例えば、イオン性基がアニオン性基の場合には、実施例に記載の方法で算出される。
【0071】
(改質セルロース繊維(A)の製造方法)
改質セルロース繊維(A)は、例えば、イオン性基を含むセルロース繊維のイオン性基に修飾基を導入できるのであれば、特に限定なく公知の方法に従って製造することができる。例えば、イオン性基がカルボキシ基の場合、特開2018-024967号公報の段落0017~0106等を参照して改質セルロース繊維(A)を製造することができる。なお、改質セルロース繊維(A)の製造の際には、特開2018-024967号公報における低アスペクト比化処理や微細化工程を省略することができる。
【0072】
<改質セルロース繊維(B)>
本発明における改質セルロース繊維(B)とは、セルロース繊維の水酸基の水素基を除いた基に修飾基が結合されてなる改質セルロース繊維である。
【0073】
(修飾基)
改質セルロース繊維(B)において、セルロース繊維と修飾基とはエーテル結合を介して結合している。なお、本明細書において、「エーテル結合を介して結合」とは、セルロース繊維の水酸基に修飾基が反応して、エーテル結合した状態を意味する。
【0074】
改質セルロース繊維(B)における修飾基は、好ましくは、置換基を有していてもよい炭化水素基である。ここで、置換基を有してもよい炭化水素基において、炭化水素基としては、飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基、フェニル基等の芳香族炭化水素基、又はシクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基が挙げられる。また、本発明における置換基を有してもよい炭化水素基において、置換基としては、ハロゲン原子、オキシエチレン基等のオキシアルキレン基及び水酸基等が挙げられる。
【0075】
このような改質セルロース繊維(B)の好適な態様(「態様1」とする)として、例えば、下記一般式(1)で表される修飾基及び下記一般式(2)で表される修飾基から選ばれる1種又は2種以上の修飾基がエーテル結合を介してセルロース繊維に結合しており、セルロースI型結晶構造を有するものが挙げられる。
-CH-CH(R)-R (1)
-CH-CH(R)-CH-(OA)-O-R (2)
〔式中、一般式(1)及び一般式(2)におけるRは水素原子又は水酸基を示し、Rはそれぞれ独立して炭素数3以上30以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキルを示し、一般式(2)におけるnは0以上50以下の数、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示す。〕
【0076】
態様1の具体例としては、例えば、下記一般式(4)で表される改質セルロース繊維が例示される。
【0077】
【化2】
【0078】
〔式中、Rは同一又は異なって、水素、もしくは前記一般式(1)で表される修飾基及び前記一般式(2)で表される修飾基から選ばれる修飾基を示す。但し、全てのRが同時に水素である場合を除く。mは20以上3000以下の整数が好ましい。〕
【0079】
一般式(4)で表される改質セルロース繊維(B)は、前記修飾基が導入されたセルロースユニットの繰り返し構造を有するものである。繰り返し構造の繰り返し数として、一般式(4)におけるmは、分散性の観点から20以上3000以下の整数が好ましい。
【0080】
(置換基を有していてもよい炭化水素基)
態様1の改質セルロース繊維(B)は、前記の一般式(1)及び下記一般式(2)で表される修飾基から選ばれる1種又は2種以上の修飾基を単独で又は任意の組み合わせで導入される。なお、導入される修飾基が前記修飾基群のいずれか一方の場合であっても、各修飾基群においては同一の修飾基であっても2種以上が組み合わさって導入されてもよい。
【0081】
分散性の観点から、一般式(1)及び一般式(2)におけるRは水酸基が好ましい。
【0082】
一般式(1)におけるRの炭素数は、分散性の観点から、好ましくは25以下である。具体的には、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イソオクタデシル基、イコシル基、トリアコンチル基等が例示される。
【0083】
一般式(2)におけるRの炭素数は、分散性の観点から、好ましくは4以上であり、入手性及び反応性向上の観点から、好ましくは27以下である。具体的には、前記した一般式(1)におけるRと同じものが挙げられる。
【0084】
一般式(2)におけるAは、隣接する酸素原子とオキシアルキレン基を形成する。Aの炭素数は、入手性及びコストの観点から、好ましくは2以上であり、同様の観点から、好ましくは4以下である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が例示される。
【0085】
一般式(2)におけるnは、アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。nは、分散性、入手性及びコストの観点から、好ましくは3以上であり、同様の観点から、好ましくは40以下である。
【0086】
一般式(2)におけるAとnの組み合わせとしては、分散性の観点から、好ましくはAが炭素数2以上3以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基で、nが0以上20以下の数の組み合わせである。
【0087】
一般式(1)で表される修飾基の具体例としては、例えば、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イソオクタデシル基、イコシル基、プロピルヒドロキシエチル基、ブチルヒドロキシエチル基、ペンチルヒドロキシエチル基、ヘキシルヒドロキシエチル基、ヘプチルヒドロキシエチル基、オクチルヒドロキシエチル基、2-エチルヘキシルヒドロキシエチル基、ノニルヒドロキシエチル基、デシルヒドロキシエチル基、ウンデシルヒドロキシエチル基、ドデシルヒドロキシエチル基、ヘキサデシルヒドロキシエチル基、オクタデシルヒドロキシエチル基、イソオクタデシルヒドロキシエチル基、イコシルヒドロキシエチル基、トリアコンチルヒドロキシエチル基等が挙げられる。
【0088】
一般式(2)で表される修飾基の具体例としては、例えば、3-ブトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ヘキトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ヘキトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-オクトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-オクトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、6-エチル-3-ヘキトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、6-エチル-3-ヘキトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-デトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-デトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ウンデトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ウンデトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ドデトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ドデトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ヘキサデトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ヘキサデトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-オクタデトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-オクタデトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基等が挙げられる。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は0以上50以下であればよく、例えば、前記したエチレンオキシド等のオキシアルキレン基を有する置換基において付加モル数が10、12、13、20モルの置換基が例示される。
【0089】
(モル置換度(MS))
改質セルロース繊維(B)において、セルロースの無水グルコースユニット1モルに対する修飾基が導入されたモル量(モル置換度:MS)は、修飾基の種類により一概には限定できないが、分散性の観点から、好ましくは0.0001以上であり、また、セルロースI型結晶構造を有し、分散性の観点から、好ましくは1.5以下である。ここで、結合した修飾基が複数種の修飾基で構成されている場合、結合した修飾基のMSは、各修飾基のMSの合計である。なお、本明細書において、改質セルロース繊維(B)における修飾基のMSは、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0090】
<改質セルロース繊維(B)の製造方法>
本発明における改質セルロース繊維(B)は、上記したようにセルロース繊維に、修飾基、好ましくは前記の修飾基を有していてもよい炭化水素基がエーテル結合を介して結合しているが、修飾基の導入は、特に限定なく公知の方法に従って行うことができる。以下、態様1の改質セルロース繊維(B)を製造する方法の具体的な例を説明する。
【0091】
態様1の改質セルロース繊維(B)の製造方法の具体例として、原料のセルロース繊維に対し、塩基存在下、特定の化合物を反応させる態様が挙げられる。
【0092】
また、製造工程数低減の観点から、あらかじめ微細化されたセルロース繊維を原料のセルロース繊維として用いてよく、その場合の平均繊維径は、入手性およびコストの観点から、好ましくは1nm以上である。また、上限は特に設定されないが、取扱い性の観点から、好ましくは500nm以下である。
【0093】
(塩基)
塩基としては、特に制限はないが、エーテル化反応を進行させる観点から、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましい。具体的には、特開2017-053077号公報の段落0053~0058に記載の塩基が挙げられる。
【0094】
塩基の量は、原料のセルロース繊維の無水グルコースユニットに対して、エーテル化反応を進行させる観点から、好ましくは0.01当量以上であり、製造コストの観点から、好ましくは10当量以下である。
【0095】
なお、前記原料のセルロース繊維と塩基の混合は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、特に制限はなく、例えば、水、イソプロパノール、t-ブタノール、ジメチルホルムアミド、トルエン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサン、1,4-ジオキサン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0096】
原料のセルロース繊維と塩基の混合は、均一に混合できるのであれば、温度や時間は特に制限はない。
【0097】
次に、前記で得られた原料のセルロース繊維と塩基の混合物に、修飾用化合物(本明細書において「エーテル化剤」ともいう)、好ましくは置換基を有していてもよい炭化水素基を導入するための化合物を添加して、原料のセルロース繊維とかかる化合物とを反応させる。かかる化合物としては、反応性を有する環状構造基を有する化合物を用いることが好ましく、エポキシ基を有する化合物を用いることがより好ましい。
【0098】
一般式(1)で表される修飾基をエーテル結合を介して結合させることができる化合物としては、例えば、特開2017-053077号公報の段落0079~0084に記載の酸化アルキレン化合物が挙げられる。
【0099】
一般式(2)で表される修飾基をエーテル結合を介して結合させることができる化合物としては、例えば、特開2017-053077号公報の段落0085~0091に記載のグリシジルエーテル化合物が挙げられる。
【0100】
修飾用化合物の量は、得られる改質セルロース繊維(B)における修飾基の所望の導入率により決めることができるが、反応性の観点から、原料のセルロース繊維の無水グルコースユニットに対して、好ましくは0.01当量以上であり、製造コストの観点から、好ましくは10当量以下である。
【0101】
(エーテル化反応)
前記化合物と原料のセルロース繊維とのエーテル化反応は、溶媒の存在下で、両者を混合することにより行うことができる。溶媒としては、特に制限はなく、前記塩基を存在させる際に使用することができると例示した溶媒を用いることができる。エーテル化反応の詳細については、特開2017-053077号公報の段落0070~0075の記載を参照することができる。
【0102】
このようにして得られた改質セルロース繊維(B)を、前述のような公知の微細化処理、例えば、有機溶媒中で高圧ホモジナイザー等の分散機を用いた処理を行ってもよい。
【0103】
〔他の成分〕
なお、本発明の炭素繊維強化複合材料は、本発明の効果を害しない範囲であれば、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、用途などに応じて適宜選択できるが、例えば、安定剤、充填剤(非繊維状充填剤)、着色剤、分散剤、防腐剤、抗酸化剤、消泡剤、粘度調製剤、重合開始剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、レベリング剤、可塑剤、結晶核剤、難燃剤、加水分解抑制剤、防曇剤、光安定剤、顔料、抗菌剤などが挙げられる。これらの他の成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0104】
〔炭素繊維強化複合材料及びその製造方法〕
本発明の炭素繊維強化複合材料は寸法安定性に優れたものである。寸法安定性に優れているとは、炭素繊維強化複合材料の線熱膨張係数が低く収縮が生じにくいことである。本発明の炭素繊維強化複合材料がこのような優れた物性を有するメカニズムは定かではないが、従来では困難であった、低熱膨張材料である改質セルロース繊維をマトリクス樹脂中で十分に分散させることが本発明によって可能になったことによるものと推定される。
【0105】
本発明の炭素繊維強化複合材料における炭素繊維の配合量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは9質量%以上である。一方、前記配合量は、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下である。
【0106】
本発明の炭素繊維強化複合材料におけるマトリクス樹脂の配合量は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上である。一方、前記配合量は、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下である。
【0107】
本発明の炭素繊維強化複合材料における改質セルロース繊維の配合量は、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上である。一方、前記配合量は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0108】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、上記に例示した各構成要素を組み合わせて製造することができる。例えば、上記の改質セルロース繊維(A)及び改質セルロース繊維(B)からなる群より選択される一種以上の改質セルロース繊維、マトリクス樹脂、並びに炭素繊維を複合化する工程を含む製造方法により、マトリクス樹脂を炭素繊維で強化した炭素繊維強化複合材料を製造することができる。複合化の方法としては、改質セルロース繊維、マトリクス樹脂及び炭素繊維を溶融混練する方法や、予め、改質セルロース繊維とマトリクス樹脂を混合し、改質セルロース繊維を分散させたマトリクス樹脂組成物を調製し、この組成物を炭素繊維に含浸させる方法が挙げられる。本発明の効果発現の観点から、後者の方法が好ましい。
【0109】
より具体的には、炭素繊維強化複合材料は、例えば、適切な溶媒中の改質セルロース繊維をマトリクス樹脂組成物中に分散させる工程と、上記改質セルロース繊維が分散した状態のマトリクス樹脂組成物を炭素繊維に含浸させて所定の形状に成形する工程とを経て製造される。具体的な各工程の詳細については、例えば、特開2010-024413号公報の段落0025~0029に記載された方法を参照することができる。
【0110】
炭素繊維強化複合材料の成形方法としては特に限定なく公知の方法に従って行うことができる。成形方法としては、例えば、成形材料をプリプレグ化してプレスやオートクレーブにより加圧加熱する方法や、RTM(Resin Transfer Molding)成形、VaRTM(Vaccum assist Resin Transfer Molding)成形、積層成形、ハンドレイアップ成形等が挙げられる。
【0111】
改質セルロース繊維をマトリクス樹脂組成物中に分散させる工程においては、改質セルロース繊維をマトリクス樹脂組成物中に分散させるために、例えば、改質セルロース繊維とマトリクス樹脂とを高圧ホモジナイザー等で分散処理することが好ましい。高圧ホモジナイザー等で分散処理を行うことで、改質セルロース繊維が微細化処理を経ていないものであっても、改質セルロース繊維の平均繊維径をナノメータースケールの大きさにすることができる。
【0112】
従って、改質セルロース繊維を分散させたマトリクス樹脂組成物の物性、例えば寸法安定性が優れていれば、かかる樹脂を含浸させて製造される炭素繊維強化複合材料の寸法安定性も優れていると言うことができる。マトリクス樹脂組成物の寸法安定性は、例えば、後述の実施例に記載の方法によって評価することができる。
【0113】
炭素繊維強化複合材料(及び改質セルロース繊維を分散させたマトリクス樹脂組成物)における改質セルロース繊維のセルロース繊維に換算した量としての配合量は、炭素繊維強化複合材料の強度を確保する観点から、マトリクス樹脂100質量部に対して好ましくは3質量部以上であり、より好ましくは4質量部以上であり、更に好ましくは5質量部以上であり、同様の観点から、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは15質量部以下であり、更に好ましくは10質量部以下である。改質セルロース繊維におけるセルロース繊維の換算量は、後述の実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0114】
炭素繊維強化複合材料(及び改質セルロース繊維を分散させたマトリクス樹脂組成物)における改質セルロース繊維の配合量は、炭素繊維強化複合材料の強度を確保する観点から、マトリクス樹脂100質量部に対して好ましくは3質量部以上であり、より好ましくは4質量部以上であり、更に好ましくは5.5質量部以上であり、同様の観点から、好ましくは25質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下であり、更に好ましくは14質量部以下である。
【0115】
含浸の際の、炭素繊維の配合量としては、炭素繊維強化複合材料の強度を確保する観点から、(改質セルロース繊維を含まない)マトリクス樹脂100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、同様の観点から好ましくは100質量部以下である。
【実施例
【0116】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0117】
〔セルロース繊維における結晶構造の確認〕
セルロース繊維の結晶構造は、X線回折計(リガク社製、「RigakuRINT 2500VC X-RAY diffractometer」)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
測定条件は、X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:40kv、管電流:120mA、測定範囲:回折角2θ=5~45°、X線のスキャンスピード:10°/minとする。測定用サンプルは面積320mm×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製する。また、セルロースI型結晶構造の結晶化度は得られたX線回折強度を、以下の式(A)に基づいて算出する。
セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6-I18.5)/I22.6]×100 (A)
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
【0118】
〔セルロース繊維の平均繊維径〕
(1)測定対象のセルロース繊維の平均繊維径が数ナノメートル~百ナノメートル程度であると見込まれる場合、次のようにしてセルロース繊維の平均繊維径を求める。
測定対象のセルロース繊維に水又はエタノールを加えて、その濃度が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さを測定する。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。一般に、高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6×6の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析される高さを繊維の幅とみなすことができる。
【0119】
(2)測定対象のセルロース繊維の平均繊維径が百ナノメートル程度を超え、最大で数千マイクロメートル程度であると見込まれる場合、次のようにしてセルロース繊維の平均繊維径を求める。
測定対象のセルロース繊維にイオン交換水を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定する。セルロース繊維を100本以上測定し、それらの平均ISO繊維径を平均繊維径をとして、平均ISO繊維長を平均繊維長として算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。
【0120】
〔改質セルロース繊維(A)のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維を100mLビーカーにとり、イオン交換水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製する。測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT-701」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出する。
【0121】
アニオン性基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)
【0122】
〔改質セルロース繊維(A)の修飾基の平均結合量及び導入率(イオン結合)〕
修飾基の結合量を次のIR測定方法によって求め、下記式によりその平均結合量及び導入率を算出する。IR測定は、具体的には、乾燥させたイオン性基を含むセルロース繊維又は改質セルロース繊維を赤外吸収分光装置(IR)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:Nicolet 6700)を用いATR法にて測定し、次式により、イオン結合による修飾基の平均結合量及び導入率を算出する。以下はイオン性基がカルボキシ基の場合を示す。以下の「1720cm-1のピーク強度」は、カルボニル基に由来するピーク強度である。なお、カルボキシ基以外のイオン性基の場合はピーク強度の値を適宜変更し、修飾基の平均結合量及び導入率を算出すればよい。
【0123】
修飾基の結合量(mmol/g)=[カルボキシ基を含むセルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)]×[(カルボキシ基を含むセルロース繊維の1720cm-1のピーク強度-改質セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度)/カルボキシ基を含むセルロース繊維の1720cm-1のピーク強度]
【0124】
修飾基の導入率(%)=100×(修飾基の結合量(mmol/g))/(カルボキシ基を含むセルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g))
【0125】
〔改質セルロース繊維(A)の修飾基の平均結合量及び導入率(アミド結合)〕
アミド結合による修飾基の平均結合量は、下記式により算出する。
修飾基の結合量(mmol/g)=(カルボキシ基を含むセルロース繊維中カルボキシ基含有量(mmol/g))-(改質セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g))
【0126】
修飾基の導入率(%)=100×(修飾基の結合量(mmol/g))/(カルボキシ基を含むセルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g))
【0127】
〔改質セルロース繊維(B)の修飾基のモル置換度〕
まず最初に、得られた改質セルロース繊維(B)中に含有される修飾基の含有量%(質量%)を、Analytical Chemistry, Vol.51, No.13, 2172(1979)、「第十五改正日本薬局方(ヒドロキシプロピルセルロースの分析方法の項)」等に記載の、セルロースエーテルのアルコキシ基の平均付加モル数を分析する手法として知られるZeisel法に準じて算出する。以下に手順を示す。
(i)200mLメスフラスコにn-オクタデカン0.1gを加え、ヘキサンにて標線までメスアップを行い、内標溶液を調製する。
(ii)精製、乾燥を行った改質セルロース繊維100mg、アジピン酸100mgを10mLバイアル瓶に精秤し、ヨウ化水素酸2mLを加えて密栓する。
(iii)上記バイアル瓶中の混合物を、スターラーチップにより攪拌しながら、160℃のブロックヒーターにて1時間加熱する。
(iv)加熱後、バイアルに内標溶液3mL、ジエチルエーテル3mLを順次注入し、室温で1分間攪拌する。
(v)バイアル瓶中の2相に分離した混合物の上層(ジエチルエーテル層)をガスクロマトグラフィー(SHIMADZU社製、「GC2010Plus」)にて分析し、エーテル化剤を定量する。
(vi)これとは別に、改質セルロース繊維に代えて、改質に使用したエーテル化剤5mg、10mg、15mgを用いて、前記(i)~(v)と同様の方法で分析を行い、エーテル化剤の検量線を作成する。
【0128】
分析条件は以下のとおりである。
カラム:アジレント・テクノロジー社製DB-5(12m、0.2mm×0.33μm)
カラム温度:100℃→10℃/min→280℃(10min Hold)
インジェクター温度:300℃、検出器温度:300℃、打ち込み量:1μL
作成した検量線と、使用したエーテル化剤の検出量から改質セルロース繊維中の修飾基の含有量(質量%)を算出する。
得られた修飾基の含有量から、下記数式(1)を用いてモル置換度(MS)(無水グルコースユニット1モルに対する置換基モル量)を算出する。
(数式1)
MS=(W1/Mw)/((100-W1)/162.14)
W1:改質セルロース繊維中の修飾基の含有量(質量%)
Mw:導入したエーテル化剤の分子量(g/mol)
【0129】
〔改質セルロース繊維(A)におけるセルロース繊維(換算量)〕
改質セルロース繊維(A)におけるセルロース繊維(換算量)は、以下の方法によって測定する。
(1)添加される修飾用化合物が1種類の場合
セルロース繊維量(換算量)を下記式Aによって算出する。
<式A>
セルロース繊維量(換算量)(g)=改質セルロース繊維の質量(g)/〔1+修飾用化合物の分子量(g/mol)×修飾基の結合量(mmol/g)×0.001〕
【0130】
(2)添加される修飾用化合物が2種類以上の場合
各修飾用化合物のモル比率(即ち、添加される修飾用化合物の合計モル量を1とした時のモル比率)を考慮して、セルロース繊維量(換算量)を算出する。
【0131】
なお、セルロース繊維と修飾用化合物との結合様式がイオン結合の場合、上述の式Aにおいて、「修飾用化合物の分子量」とは、修飾用化合物が第1級アミン、第2級アミン又は第3級アミンである場合は「共重合部を含めた修飾用化合物全体の分子量」を指し、修飾基を有する化合物が第4級アンモニウム化合物又はホスホニウム化合物である場合は「(共重合部を含めた修飾用化合物全体の分子量)-(陰イオン成分の分子量)」を指す。
【0132】
一方、セルロース繊維と修飾用化合物との結合様式がアミド結合の場合、上述の式Aにおいて、「修飾用化合物の分子量」とは、修飾用化合物が第1級アミン又は第2級アミンである場合、「(共重合部を含めた修飾基を有する化合物全体の分子量)-18」である。
【0133】
〔改質セルロース繊維(B)におけるセルロース繊維(換算量)〕
改質セルロース繊維(B)におけるセルロース繊維(換算量)は、以下の方法によって測定する。
(1)添加される修飾用化合物が1種類の場合
セルロース繊維量(換算量)を下記式Bによって算出する。
<式B>
セルロース繊維量(換算量)(g)=改質セルロース繊維の質量(g)×162/〔162+修飾用化合物の分子量(g/mol)×平均付加モル数〕
(2)添加される修飾用化合物が2種類以上の場合
各修飾用化合物のモル比率(即ち、添加される修飾用化合物の合計モル量を1とした時のモル比率)を考慮して、セルロース繊維量(換算量)を算出する。
【0134】
〔セルロース繊維の調製〕
調製例1(針葉樹の酸化パルプ由来のアニオン性基含有セルロース繊維)
針葉樹の漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ社製、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。
【0135】
まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9,900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、該パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25g、臭化ナトリウム12.5g、次亜塩素酸ナトリウム28.4gをこの順で添加した。pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持した。反応を120分(20℃)行った後、水酸化ナトリウムの滴下を停止し、酸化パルプを得た。イオン交換水を用いて得られた酸化パルプを十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、酸化パルプ3.9gとイオン交換水296.1gを高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで微細化処理を10回行い、イオン性基としてカルボキシ基を含有した、Na型のセルロース繊維分散液(固形分濃度1.3質量%)を得た。このセルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、カルボキシ基含有量は1.6mmol/gであった。
【0136】
調製例2(酸型処理して得られるカルボキシ基含有セルロース繊維分散液)
ビーカーに調製例1で得られたカルボキシ基含有セルロース繊維分散液4,088.75g(固形分濃度1.3質量%)にイオン交換水4085gを加え0.5質量%の水溶液とし、メカニカルスターラーにて室温下(25℃)、30分攪拌した。続いて1M塩酸水溶液を245g仕込み室温下、1時間反応させた。反応終了後、ろ過、その後、ケークをイオン交換水にて洗浄を行い、塩酸及び塩を除去した。続いて、アセトンで溶媒置換した後、ジメチルホルムアミド(DMF)で溶媒置換し、カルボキシ基含有セルロース繊維が膨潤した状態のDMF含有酸型セルロース繊維分散液(固形分濃度2.3質量%)を得た。このセルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、カルボキシ基含有量は1.6mmol/gであった。
【0137】
製造例1(実施例1、2)
マグネティックスターラーを備えたビーカーに、調製例2で得られたカルボキシ基含有セルロース繊維分散液100g(固形分濃度2.3質量%)を仕込んだ。続いて、EOPOアミン(ハンツマン社製、商品名:Jeffamine M-2070)を、セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基0.1molに相当する量を仕込み、反応液を室温(25℃)で14時間反応させ、カルボキシ基含有セルロース繊維に、(EO/PO)共重合部位を有する基がイオン結合を介して連結した改質セルロース繊維を得た。この改質セルロース繊維のセルロースI型結晶化度は60%であった。
【0138】
製造例2(実施例3、4)
修飾用化合物を表1に記載のものに変更し、修飾用化合物の仕込み量をカルボキシ基含有セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基1molに相当する量に変更したこと以外は製造例1と同様の方法で反応させ、カルボキシ基含有セルロース繊維にヘキシル基がイオン結合を介して連結した改質セルロース繊維を得た。
【0139】
製造例3(実施例5、6)
マグネティックスターラーを備えたビーカーに、調製例2で得られたカルボキシ基含有セルロース繊維分散液130g(固形分濃度2.3質量%)を仕込んだ。続いて、アニリンを、カルボキシ基含有セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基1.2molに相当する量、4-メチルモルホリンをカルボキシ基1molに対してアミン基1.1molに相当する量、縮合剤である4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド(DMT-MM)をカルボキシ基1molに対してアミン基1.2molに相当する量仕込み、反応液を室温(25℃)で14時間反応させた。反応終了後ろ過し、そのケークをエタノール洗浄してDMT-MM塩を除去し、更にDMFで洗浄及び溶媒置換し、カルボキシ基含有セルロース繊維に、フェニル基がアミド結合を介して連結した改質セルロース繊維を得た。
【0140】
次いで、得られた改質セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基0.06molに相当する量の前記EOPOアミンを仕込み、反応液を室温(25℃)で14時間反応させ、改質セルロース繊維のカルボキシ基に、(EO/PO)共重合部位を有する基がイオン結合を介してさらに連結した改質セルロース繊維を得た。
【0141】
〔エポキシ樹脂とセルロース繊維又は改質セルロース繊維を含む複合材料の製造〕
実施例1、2
製造例1で製造した改質セルロース繊維、エポキシ樹脂であるJER828(三菱ケミカル社製)、及び硬化剤として2-エチル-4-メチルイミダゾール(和光純薬工業社製)を表1に示す配合量となるよう、分散媒のDMFに添加した。この混合物を超音波ホモジナイザー(US-300E、日本精機製作所社製)にて2分間攪拌後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、「ナノヴェイタL-ES」)にて150MPaで3パス分散処理した。得られた分散液に対して、あわとり練太郎(シンキ-社製)を用いて7分間撹拌した。得られたワニスをバーコーターを用いて塗布厚1.8mmで塗工した。80℃で1時間乾燥し、分散媒を除去した後、150℃で1時間熱硬化させて、厚さ0.2mmのシート状の複合材料を製造した。
【0142】
実施例3~6及び比較例1~2
表1に記載の条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして複合材料を製造した。
【0143】
試験例1(寸法安定性)
各実施例及び各比較例で得られた複合材料を、幅3mm、長さ20mmの短冊型に切断してサンプルとした。熱応力歪測定装置(セイコー電子社製、商品名「EXSTAR TMA/SS6100」)を用いて、幅3mm、長さ20mmの短冊型サンプルを窒素雰囲気下1分間に5℃の割合で温度を上昇させて引張モードで荷重を30mNで計測した。線熱膨張係数はエポキシ樹脂のTg以下の50℃から100℃まで、及びTg以上の180℃から230℃の温度範囲での平均線熱膨張係数を算出して得た。結果を表1に示す。表1において、線熱膨張係数が低い方が寸法安定性に優れていることを示す。
【0144】
【表1】
【0145】
表1より、実施例の複合材料は寸法安定性が優れていることがわかった。一方、本発明に係る改質セルロース繊維を含有しない複合材料は、寸法安定性の点で本発明よりも明らかに劣っていることがわかった(比較例1)。さらに、比較例1以外の実施例及び比較例において、高圧ホモジナイザーによる分散処理後の分散液はいずれも透明であった。一方、比較例2においては、セルロース繊維の量を実施例よりも減らした上で高圧ホモジナイザーによる分散処理を行っても、分散液が透明に分散せず、静置後速やかに沈殿物が生じることが確認できたので、複合材料の製造を行うことができなかった。
この結果より、実施例の組み合わせの複合材料を炭素繊維に含浸させた本発明の炭素繊維強化複合材料も同様に寸法安定性に優れることが見込まれる。また、寸法安定性に優れるため炭素繊維複合材料の変形を抑制することが見込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、自動車、航空機、船舶等の産業用途やスポーツ用途等の各種部材の材料として利用することができる。