(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物及びその硬化物、繊維強化複合材、高圧ガス容器
(51)【国際特許分類】
C08G 59/24 20060101AFI20230516BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20230516BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20230516BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C08G59/24
C08G59/50
C08J5/24 CFC
F17C1/06
(21)【出願番号】P 2022574121
(86)(22)【出願日】2022-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2022034090
【審査請求日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2021169002
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若原 大暉
(72)【発明者】
【氏名】池内 孝介
(72)【発明者】
【氏名】大西 展義
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/200028(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/221810(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/175775(WO,A1)
【文献】特開2005-220341(JP,A)
【文献】特開2012-042300(JP,A)
【文献】特開2013-089578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08J 5/24
F17C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)と、エポキシ樹脂硬化剤(B)とを含有するエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)は、レゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(A1) 10~65質量%と、芳香環を含有する(A1)以外のエポキシ樹脂(A2) 35~90質量%とを含み、
前記エポキシ樹脂(A2)は、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を70質量%以上含み、
前記エポキシ樹脂硬化剤(B)は、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及びN-アミノエチルピペラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の水素ガス透過係数が6.4×10
-11[cc・cm/(cm
2・s・cmHg)]以下である、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂(A2)が、さらにビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を含む、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂硬化剤(B)がメタキシリレンジアミンを含む、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂組成物の温度80℃における粘度が60mPa・s以下である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物と、強化繊維とを含む繊維強化複合材。
【請求項7】
前記強化繊維が炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の繊維強化複合材。
【請求項8】
請求項6に記載の繊維強化複合材の製造方法であって、
該製造方法は、前記エポキシ樹脂組成物を前記強化繊維に含浸させ、次いで該エポキシ樹脂組成物を硬化させて成形する工程を含み、該成形が、低圧RTM法、中圧RTM法、高圧RTM法、真空RTM法、コンプレッションRTM法、又はリキッドコンプレッションモールディング法により行われる、製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の繊維強化複合材を含む、高圧ガス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物及びその硬化物、繊維強化複合材、並びに、該繊維強化複合材を含む高圧ガス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した天然ガス自動車(CNG車)や燃料電池自動車(FCV)の普及が進んでいる。燃料電池自動車は燃料電池を動力源としており、その燃料となる水素を高圧に圧縮して自動車に充填する水素ステーションの整備が不可欠である。
燃料電池自動車用の水素ステーション、あるいは、CNG車、燃料電池自動車等の車載用燃料タンクとして用いられる高圧ガス貯蔵タンクとして、これまで鋼製のタンクが使用されてきたが、タンクのライナーあるいはその外層に樹脂材料を用いた、より軽量な高圧ガス貯蔵タンクの開発が進められてきている。車載用燃料タンクを軽量化することにより、搭載車の燃費を改善できるなどのメリットがある。
【0003】
高圧ガス貯蔵タンクは通常、金属製のライナーと、該ライナーの外表面を覆うように設けられる外層とを有するが、より軽量な高圧ガス貯蔵タンクを作製するため、ライナーレスの高圧ガス貯蔵タンクの作製が検討されている(例えば特許文献1)。
特許文献1に開示されたライナーレスの高圧ガス貯蔵タンクにおいては、強度、ガスバリア性、及び軽量性を達成するため、強化繊維に対し、延性の高い樹脂材料を含浸させてなる繊維強化複合材が用いられている。また、ライナーレスの高圧ガス貯蔵タンクの製造において、樹脂トランスファー成形法(RTM)を用いることも開示されている。
【0004】
樹脂トランスファー成形法による成形(以下「RTM成形」ともいう)では、上型と、下型とからなる型内に予め強化繊維を配置し、この金型内を真空引きし、繊維強化複合材のマトリクス樹脂となる樹脂成分、又はその前駆体を常圧で充填し、強化繊維へ含浸させて成形する。
「マトリクス樹脂となる樹脂成分の前駆体」としては、例えば熱硬化性樹脂組成物が挙げられる。金型内への充填時間、及び強化繊維への含浸時間を短縮して生産性を向上させるため、該熱硬化性樹脂組成物は低粘度であることが望まれる。さらに、高圧ガス貯蔵タンクに用いる熱硬化性樹脂組成物には、その硬化物のガスバリア性が高いことも要求される。
【0005】
ここで、特許文献2には、電気部品のための酸素バリア組成物として、メタ置換芳香族樹脂、ならびに追加の芳香族エポキシ樹脂を含んでなり、所定値以下の酸素透過性を有する組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2009/0314785号明細書
【文献】特表2012-533643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料電池自動車用の水素ステーション、あるいは、CNG車、燃料電池自動車等の車載用燃料タンク等、水素ガス貯蔵用の高圧ガス容器においては、水素ガスに対する高いバリア性が要求される。特に、高圧ガス容器がライナーレスである場合、該高圧ガス容器に用いる材料にはより高い水素ガスバリア性が必要となる。
しかしながら特許文献1に開示される高圧ガス貯蔵タンクに用いられる樹脂、及び、特許文献2に開示される酸素バリア組成物のいずれにおいても、水素バリア性については検討されておらず、この点において改善の余地があった。特に特許文献1,2の開示技術では、RTM成形に適した低粘度性と、水素ガスバリア性とを両立し得る熱硬化性樹脂組成物については見出されていない。
またRTM成形においては、生産性の観点から、金型内での熱硬化性樹脂組成物の硬化速度がある程度高いことが望まれる。しかしながら熱硬化性樹脂組成物の硬化が速すぎると硬化時に発熱して、得られる成形体にコゲが発生するなどの不具合が生じることがある。
【0008】
本発明の課題は、RTM成形に適した低粘度性及び成形性を有し、高い水素ガスバリア性を達成できる熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、繊維強化複合材、並びに、該繊維強化複合材を含む高圧ガス容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、主剤エポキシ樹脂として、レゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂と、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂とをそれぞれ所定量含有し、硬化物とした際の水素ガス透過係数が所定値以下である熱硬化性のエポキシ樹脂組成物が、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記に関する。
[1]エポキシ樹脂(A)と、エポキシ樹脂硬化剤(B)とを含有するエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)は、レゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(A1) 10~65質量%と、芳香環を含有する(A1)以外のエポキシ樹脂(A2) 35~90質量%とを含み、
前記エポキシ樹脂(A2)は、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を70質量%以上含み、
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の水素ガス透過係数が6.4×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下である、エポキシ樹脂組成物。
[2]上記[1]に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
[3]上記[1]に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物と、強化繊維とを含む繊維強化複合材。
[4]上記[3]に記載の繊維強化複合材の製造方法であって、
該製造方法は、前記エポキシ樹脂組成物を前記強化繊維に含浸させ、次いで該エポキシ樹脂組成物を硬化させて成形する工程を含み、該成形が、低圧RTM法、中圧RTM法、高圧RTM法、真空RTM法、コンプレッションRTM法、又はリキッドコンプレッションモールディング法により行われる、製造方法。
[5]上記[3]に記載の繊維強化複合材を含む、高圧ガス容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、RTM成形に適した低粘度性及び成形性を有し、高い水素ガスバリア性を達成できるエポキシ樹脂組成物、その硬化物、繊維強化複合材、並びに、該繊維強化複合材を含む高圧ガス容器を提供できる。該高圧ガス容器はRTM成形により製造することができ、ライナーレスの高圧ガス容器とすることも可能である。また該高圧ガス容器は高い水素ガスバリア性を有し、高圧水素ガス貯蔵用の容器として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)と、エポキシ樹脂硬化剤(B)とを含有するエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂(A)は、レゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(A1) 10~65質量%と、芳香環を含有する(A1)以外のエポキシ樹脂(A2) 35~90質量%とを含み、前記エポキシ樹脂(A2)は、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を70質量%以上含み、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の水素ガス透過係数が6.4×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下である。
本発明のエポキシ樹脂組成物は上記構成を有することにより、RTM成形に適した低粘度性及び成形性を有し、高い水素ガスバリア性を達成できる。
【0012】
本明細書において「(RTM成形に適した)低粘度性」とは、エポキシ樹脂組成物の80℃における粘度が、好ましくは後述する粘度値以下であることを意味する。
本明細書において「(RTM成形に適した)成形性」とは、金型内でエポキシ樹脂組成物を加熱して硬化させた際に、硬化が十分に進行し、且つ、得られた成形体の変色及びコゲの発生が少なく、外観良好な成形体が得られることを意味する。
エポキシ樹脂組成物の粘度及び成形性は、具体的には実施例に記載の方法により評価できる。
【0013】
本発明において上記効果が得られる理由については定かではないが、次のように考えられる。
レゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(A1)(以下、単に「エポキシ樹脂(A1)」又は「成分(A1)」ともいう。)は、エポキシ樹脂の中でも低粘度で速硬化性であり、且つ、高い水素ガスバリア性を発現することが本発明者らにより見出された。一方でエポキシ樹脂(A1)はエポキシ当量が低く、速硬化性であることから、加熱硬化時にエポキシ樹脂硬化剤と急激に反応して発熱しやすいという傾向がある。そのため、エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂(A1)の含有量が多すぎると、RTM成形においては硬化物の変色やコゲが発生するという不具合が生じることが判明した。またエポキシ樹脂(A1)は、得られる硬化物のガラス転移温度(Tg)が低くなる傾向があり、金型からの離型性の面でも改善の余地があった。
ここで、芳香環を含有する(A1)以外のエポキシ樹脂(A2)(以下、単に「エポキシ樹脂(A2)」又は「成分(A2)」ともいう。)は、エポキシ樹脂の中でも比較的水素ガスバリア性を発現しやすく、硬化物Tgが高く、さらに、加熱硬化時の発熱も抑えることができる。特にビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(A1)に由来する低粘度性と水素ガスバリア性を損なわないため、エポキシ樹脂(A2)中、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂の含有量が70質量%以上であることで、RTM成形に適した低粘度性及び成形性、並びに高い水素ガスバリア性を達成できると考えられる。
また、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物の水素ガス透過係数は6.4×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下である。硬化物の水素ガス透過係数が所定値以下であることにより、本発明のエポキシ樹脂組成物は、高圧水素ガス貯蔵用の容器への使用に好適なものとなる。
【0014】
<エポキシ樹脂(A)>
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂(A)は、レゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(A1) 10~65質量%と、芳香環を含有する(A1)以外のエポキシ樹脂(A2) 35~90質量%とを含み、エポキシ樹脂(A2)は、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を70質量%以上含むものである。これにより、RTM成形に適した低粘度性及び成形性、並びに高い水素ガスバリア性を達成できるエポキシ樹脂組成物が得られると考えられる。
【0015】
(エポキシ樹脂(A1))
エポキシ樹脂(A1)は、レゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂(A)がエポキシ樹脂(A1)を含有することで、低粘度で速硬化性であり、且つ、高い水素ガスバリア性を達成できるエポキシ樹脂組成物が得られる。
エポキシ樹脂(A1)は典型的にはレゾルシノールジグリシジルエーテルであり、レゾルシノールジグリシジルエーテル以外に、オリゴマーを含有していてもよい。
エポキシ樹脂(A1)としては、ナガセケムテックス(株)製「デナコールEX-201」等の市販品を用いることができる。
【0016】
エポキシ樹脂(A)中のエポキシ樹脂(A1)の含有量は、10~65質量%であり、好ましくは10~60質量%、より好ましくは15~55質量%、更に好ましくは20~55質量%、より更に好ましくは30~55質量%、より更に好ましくは35~50質量%である。エポキシ樹脂(A)中のエポキシ樹脂(A1)の含有量が10質量%以上であれば、低粘度性、速硬化性、及び高い水素ガスバリア性を発現することができ、65質量%以下であれば、金型内での加熱成形時のコゲの発生を抑制できる。
【0017】
(エポキシ樹脂(A2))
エポキシ樹脂(A2)は、芳香環を含有する、(A1)以外のエポキシ樹脂である。
エポキシ樹脂(A2)は、低粘度性、速硬化性、及び水素ガスバリア性の発現しやすさの観点から、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を70質量%以上含む。エポキシ樹脂(A2)中の、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂の含有量は、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、また、100質量%以下である。
【0018】
ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂は典型的にはビスフェノールFジグリシジルエーテルであり、ビスフェノールFジグリシジルエーテル以外に、オリゴマーを含有していてもよい。
【0019】
ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂(A2)としては、少なくとも1つの芳香環と、少なくとも2つのエポキシ基とを含むエポキシ樹脂であればよい。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはベンゼン環である。
【0020】
ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂(A2)の具体例としては、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基及び/又はグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、及び、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。柔軟性、耐衝撃性、耐湿熱性などの諸性能を向上させるために、上記のエポキシ樹脂を適切な割合で2種以上混合して用いることもできる。
上記の中でも、低粘度性、速硬化性、及び水素ガスバリア性の発現しやすさの観点から、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、及びビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を含むことがより好ましい。すなわちエポキシ樹脂(A2)は、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂以外に、好ましくは、さらにビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を含むことができる。
【0021】
エポキシ樹脂(A2)は、更に好ましくは、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂単独、又は、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂及びビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる態様である。
【0022】
エポキシ樹脂(A)中のエポキシ樹脂(A2)の含有量は、35~90質量%であり、好ましくは40~90質量%、より好ましくは45~85質量%、更に好ましくは45~80質量%、より更に好ましくは45~70質量%、より更に好ましくは50~65質量%である。エポキシ樹脂(A)中のエポキシ樹脂(A2)の含有量が35質量%以上であれば、金型内での加熱成形時のコゲの発生を抑制することができ、90質量%以下であれば、エポキシ樹脂(A1)由来の低粘度性、速硬化性、及び高い水素ガスバリア性を著しく損なうことのないエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0023】
エポキシ樹脂(A)は、エポキシ樹脂(A1)及びエポキシ樹脂(A2)以外のエポキシ樹脂を含むこともできる。エポキシ樹脂(A1)及びエポキシ樹脂(A2)以外のエポキシ樹脂としては、芳香環を有さない脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。芳香環を有さない脂肪族エポキシ樹脂としては、鎖状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式構造を有する脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。
但し、高い水素ガスバリア性を発現する観点から、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)の合計含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【0024】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、エポキシ樹脂組成物の低粘度性及び速硬化性を両立する観点から、好ましくは400g/当量以下、より好ましくは300g/当量以下、更に好ましくは250g/当量以下、より更に好ましくは220g/当量以下、より更に好ましくは200g/当量以下、より更に好ましくは180g/当量以下、より更に好ましくは160g/当量以下である。また、金型内での加熱成形時のコゲの発生を抑制する観点から、好ましくは120g/当量以上である。
【0025】
<エポキシ樹脂硬化剤(B)>
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂硬化剤(B)としては、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基と反応し得る活性水素を有する基を2以上有する化合物が挙げられる。該エポキシ樹脂硬化剤の種類としては、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤等が挙げられる。これらの中でも、低粘度性及び速硬化性の観点、並びに高い水素ガスバリア性を発現する観点からは、エポキシ樹脂硬化剤(B)はアミン系硬化剤であることが好ましい。
【0026】
アミン系硬化剤としては、分子内に2つ以上のアミノ基を有するポリアミン化合物又はその変性体が挙げられる。当該ポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等の鎖状脂肪族ポリアミン化合物;オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン(PXDA)等の芳香環含有脂肪族ポリアミン化合物;イソホロンジアミン(IPDA)、メンセンジアミン、ノルボルナンジアミン、トリシクロデカンジアミン、アダマンタンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-メチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-3,6-ジエチルシクロヘキサン、ジアミノジエチルメチルシクロヘキサン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン)、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂環式構造を有するポリアミン化合物;フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン等の芳香族ポリアミン化合物;N-アミノエチルピペラジン、N,N’-ビス(アミノエチル)ピペラジン等の複素環式構造を有するポリアミン化合物;ポリエーテルポリアミン化合物等が挙げられる。また、当該ポリアミン化合物の変性体としては、上記化合物のマンニッヒ変性物、エポキシ変性物、マイケル付加物、マイケル付加・重縮合物、スチレン変性物、ポリアミド変性物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
上記の中でも、エポキシ樹脂硬化剤(B)としては、高い水素ガスバリア性を発現する観点、及び硬化物Tgを向上させる観点からは、芳香環含有脂肪族ポリアミン化合物、脂環式構造を有するポリアミン化合物、芳香族ポリアミン化合物、及び複素環式構造を有するポリアミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。さらに低粘度性の観点から、より好ましくは、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及びN-アミノエチルピペラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、低粘度性及び速硬化性の観点から、更に好ましくは、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、高い水素ガスバリア性を発現する観点、低粘度性及び速硬化性の観点からは、より更に好ましくはメタキシリレンジアミンを含む態様である。
低粘度性及び速硬化性の観点、並びに高い水素ガスバリア性を発現する観点から、エポキシ樹脂硬化剤(B)中のメタキシリレンジアミンの含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)との含有量比は、エポキシ樹脂中のエポキシ基の数に対するエポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数の比(エポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)が、好ましくは1/0.5~1/2、より好ましくは1/0.75~1/1.5、さらに好ましくは1/0.8~1/1.2となる量である。当該比は最終的に上記範囲となればよく、エポキシ樹脂組成物の成形中一定であってもよいし、成形中に変動させてもよい。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の含有量は、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)との含有量比が好ましくは前記範囲となる範囲であれば制限されないが、低粘度性、速硬化性、並びに高い水素ガスバリア性を発現する観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは70質量%超、更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは82質量%以下である。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量は、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)との含有量比が好ましくは前記範囲となる範囲であれば制限されないが、低粘度性、速硬化性、並びに高い水素ガスバリア性を発現する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは18質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは30質量%未満、更に好ましくは28質量%以下、より更に好ましくは25質量%以下である。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)との合計含有量は、本発明の効果を有効に発現する観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、さらに、充填材、可塑剤などの改質成分、揺変剤などの流動調整成分、硬化促進剤、反応性又は非反応性希釈剤、顔料、レベリング剤、粘着付与剤、応力緩和成分などのその他の成分を用途に応じて含有させてもよい。
【0033】
上記のうち、硬化促進剤としては、ビスフェノールA、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物及びその塩;p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸系化合物及びその塩あるいはエステル化物;サリチル酸、安息香酸等のカルボン酸系化合物及びその塩;メルカプタン末端ポリサルファイド化合物;グアニジン系化合物;アルカノールアミン系化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の効果を有効に発現する観点から、エポキシ樹脂組成物が硬化促進剤を含有する場合、その含有量は、本発明のエポキシ樹脂組成物中、好ましくは0.01~15質量%、より好ましくは0.1~10質量%である。
また、応力緩和成分としては、シリコーン系、ブチルアクリレート系、ポリエーテルアミン系、その他ゴム粒子等の、エラストマー粒子が挙げられる。
【0034】
また、RTM成形に供する観点からは、本発明のエポキシ樹脂組成物は無溶媒型であることが好ましい。すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物は実質無溶媒であり、且つ低粘度性を有するものである。この観点から、エポキシ樹脂組成物中の溶媒の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であり、下限は0質量%である。
ここでいう「溶媒」としては、水及び有機溶剤が挙げられる。
【0035】
<水素ガス透過係数>
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、高い水素ガスバリア性を発現する。本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物の水素ガス透過係数は、6.4×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下であり、好ましくは6.2×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下、より好ましくは6.0×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下、更に好ましくは5.5×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下、より更に好ましくは5.0×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下、より更に好ましくは4.5×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下、より更に好ましくは4.0×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下、より更に好ましくは3.5×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下とすることができる。
エポキシ樹脂組成物の硬化物の水素ガス透過係数は、厚さ1mmの硬化物を用いて、23℃の乾燥条件下で、実施例に記載の方法により測定できる。
【0036】
<粘度>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、RTM成形に適した低粘度性を有する。エポキシ樹脂組成物の温度80℃における粘度は、好ましくは100mPa・s以下、より好ましくは60mPa・s以下、更に好ましくは55mPa・s以下、より更に好ましくは50mPa・s以下、より更に好ましくは45mPa・s以下、より更に好ましくは40mPa・s以下である。エポキシ樹脂組成物の温度80℃における粘度が100mPa・s以下であると、RTM成形での生産性が向上する。エポキシ樹脂組成物の温度80℃における粘度の下限値には特に制限はないが、レイノルズ数の上昇により金型内で乱流が生じて強化繊維に乱れが生じることを抑制する点から、好ましくは5mPa・s以上である。
なお本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂を混合し、温度80℃において30秒経過した後の初期粘度が上記範囲であることが好ましい。エポキシ樹脂組成物の粘度は、E型粘度計を用いて、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製方法には特に制限はなく、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、及び必要に応じ他の成分を公知の方法及び装置を用いて混合し、調製することができる。エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分の混合順序にも特に制限はなく、エポキシ樹脂(A)を構成する成分(A1)及び成分(A2)を混合した後、これをエポキシ樹脂硬化剤(B)と混合してもよく、エポキシ樹脂(A)を構成する成分(A1)、成分(A2)、並びにその他の各成分と、エポキシ樹脂硬化剤(B)とを同時に混合して調製してもよい。
使用前にゲル化が進行するのを避ける観点から、エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分は使用直前に接触させて混合することが好ましい。エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分を混合する際の温度は、エポキシ樹脂の粘度に応じて適宜調整できるが、粘度上昇を抑制する観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下であり、エポキシ樹脂の混和性の観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上である。また、混合時間は好ましくは0.1~15分、より好ましくは0.2~10分、さらに好ましくは0.3~5分の範囲である。装置としては、例えば後述する各種成形方法において例示される装置を用いることができる。
【0038】
[硬化物]
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物(以下、単に「本発明の硬化物」ともいう)は、上述した本発明のエポキシ樹脂組成物を公知の方法で硬化させたものである。エポキシ樹脂組成物の硬化条件は用途、形態に応じて適宜選択され、特に限定されない。
本発明の硬化物の形態も特に限定されず、用途に応じて選択することができる。例えばエポキシ樹脂組成物の用途が塗料である場合、当該組成物の硬化物は通常、膜状である。なお本発明の効果を有効に発揮する観点からは、本発明の硬化物は後述する繊維強化複合材のマトリクス樹脂であることが好ましい。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、繊維強化複合材などに用いた際の成形品の生産性を向上させる観点、及び成形品の耐熱性の観点から、硬化物のガラス転移温度(Tg)が高い方が好ましい。エポキシ樹脂組成物の硬化物のTgが高いと、繊維強化複合材などに用いた際に金型を低い温度まで冷却しなくても離型可能であるため、成形サイクルを短縮できる。また、成形品の耐熱性も良好になる。
例えば本発明のエポキシ樹脂組成物は、温度120℃で15分硬化させて得られた硬化物について、示差走査熱量計を用いて、昇温速度5℃/分の条件で30~250℃まで示差走査熱分析を行うことにより求められるTgが好ましくは80℃以上、より好ましくは83℃以上、更に好ましくは85℃以上である。硬化物のTgは、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0040】
[繊維強化複合材]
本発明の繊維強化複合材(FRP)は、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物と、強化繊維とを含むものであり、強化繊維に前記エポキシ樹脂組成物を含浸させた後、該組成物を硬化させることにより得ることができる。本発明の繊維強化複合材は前記エポキシ樹脂組成物の硬化物を含むことにより、高い水素バリア性を有する。
【0041】
強化繊維の形態としては、短繊維、長繊維、連続繊維が挙げられる。これらの中でも、得られるプリプレグを、後述する高圧ガス容器を構成する材料として用いる観点からは、長繊維又は連続繊維が好ましく、連続繊維がより好ましい。
なお本明細書において、短繊維とは繊維長が0.1mm以上10mm未満、長繊維とは繊維長が10mm以上100mm以下のものをいう。また連続繊維とは、100mmを超える繊維長を有する繊維束をいう。
【0042】
連続繊維の形状としては、モノフィラメント又はマルチフィラメントを一方向又は交互に交差するように並べた一方向(UD)材、編織物等の布帛、不織布、マット等の種々の形態が挙げられる。これらのうち、RTM成形により繊維強化複合材及び高圧ガス容器を製造する観点からは、好ましくはモノフィラメント、布帛、不織布、又はマットの形態であり、より好ましくは布帛である。
【0043】
連続繊維において、連続繊維束の平均繊維長には特に制限はないが、成形加工性の観点から、好ましくは1~10,000m、より好ましくは100~10,000mである。
連続繊維束の平均繊度は、成形加工性の観点、高強度及び高弾性率が得られやすいという観点から、好ましくは50~2000tex(g/1000m)、より好ましくは200~1500tex、さらに好ましくは500~1500texである。
また連続繊維束の平均引張弾性率は、好ましくは50~1000GPaである。
【0044】
強化繊維の材質としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、金属繊維、ボロン繊維、セラミック繊維等の無機繊維;アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の有機繊維が挙げられる。これらの中でも、高強度を得る観点からは無機繊維が好ましく、軽量で且つ高強度、高弾性率であることから好ましくは炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、強度及び軽量性の観点からは、より好ましくは炭素繊維である。すなわち本発明の繊維強化複合材は、より好ましくは前記エポキシ樹脂組成物の硬化物と、炭素繊維とを含む炭素繊維強化複合材(CFRP)である。
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。また、リグニンやセルロースなど、植物由来原料の炭素繊維も用いることができる。
【0045】
強化繊維は、処理剤で処理されたものでもよい。処理剤としては、表面処理剤又は集束剤が例示される。
上記表面処理剤としては、シランカップリング剤が好ましい。例えば、ビニル基を有するシランカップリング剤、アミノ基を有するシランカップリング剤、エポキシ基を有するシランカップリング剤、(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0046】
上記集束剤としては、例えば、ウレタン系集束剤、エポキシ系集束剤、アクリル系集束剤、ポリエステル系集束剤、ビニルエステル系集束剤、ポリオレフィン系集束剤、ポリエーテル系集束剤、及びカルボン酸系集束剤等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上を組み合わせた集束剤としては、例えば、ウレタン/エポキシ系集束剤、ウレタン/アクリル系集束剤、ウレタン/カルボン酸系集束剤等が挙げられる。
【0047】
前記処理剤の量は、エポキシ樹脂組成物の硬化物との界面接着性を向上させ、得られるプリプレグ及び複合材の強度、耐衝撃性をより向上させる観点から、強化繊維に対し、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.1~3質量%、さらに好ましくは0.5~2質量%である。
【0048】
強化繊維として市販品を用いることもできる。連続炭素繊維の市販品としては、例えば東レ(株)製のトレカクロス「CO6142」「CO6151B」、「CO6343」、「CO6343B」、「CO6347B」、「CO6644B」、「CK6244C」、「CK6273C」、「CK6261C」、「UT70」シリーズ、「UM46」シリーズ、「BT70」シリーズ、「T300」シリーズ、「T300B」シリーズ、「T400HB」シリーズ、「T700SC」シリーズ、「T800SC」シリーズ、「T800HB」シリーズ、「T1000GB」シリーズ、「M35JB」シリーズ、「M40JB」シリーズ、「M46JB」シリーズ、「M50JB」シリーズ、「M55J」シリーズ、「M55JB」シリーズ、「M60JB」シリーズ、「M30SC」シリーズ、「Z600GT」シリーズ等;トレカ糸「T300」、「T300B」、「T400HB」、「T700SC」、「T800SC」、「T800HB」、「T830HB」、「T1000GB」、「T100GC」、「M35JB」、「M40JB」、「M46JB」、「M50JB」、「M55J」、「M55JB」、「M60JB」、「M30SC」、「Z600」の各シリーズ等;帝人(株)製のテナックス「HTA40」シリーズ、「HTS40」シリーズ、「HTS45」シリーズ、「HTS45P12」シリーズ、「STS40」シリーズ、「UTS50」シリーズ、「ITS50」シリーズ、「ITS55」シリーズ、「IMS40」シリーズ、「IMS60」シリーズ、「IMS65」シリーズ、「IMS65P12」シリーズ、「HMA35」シリーズ、「UMS40」シリーズ、「UMS45」シリーズ、「UMS55」シリーズ、「HTS40MC」シリーズ等;帝人(株)製のテナックス「HTA40」シリーズ、「HTS40」シリーズ、「HTS45」シリーズ、「HTS45P12」シリーズ、「STS40」シリーズ、「UTS50」シリーズ、「ITS50」シリーズ、「ITS55」シリーズ、「IMS40」シリーズ、「IMS60」シリーズ、「IMS65」シリーズ、「IMS65P12」シリーズ、「HMA35」シリーズ、「UMS40」シリーズ、「UMS45」シリーズ、「UMS55」シリーズ、「HTS40MC」シリーズ等;三菱ケミカル(株)製のPYROFIL「TR3110M」、「TR3523M」、「TR3524M」、「TR6110HM」、「TR6120HM」、「TRK101M」、「TRK510M」、「TR3160TMS」、「TRK979PQRW」、「TRK976PQRW」、「TR6185HM」、「TRK180M」等の炭素繊維ファブリック、PYROFIL「HT」、「IM」、「HM」シリーズ、GRAFIL「HT」シリーズ、「DIALEAD」シリーズの炭素繊維トウが挙げられる。
【0049】
繊維強化複合材中の強化繊維の含有量は、高強度及び高弾性率を得る観点から、繊維強化複合材中の強化繊維の体積分率が、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上、更に好ましくは0.30以上、より更に好ましくは0.40以上となる範囲である。また、水素ガスバリア性、耐衝撃性及び成形加工性の観点からは、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.80以下、更に好ましくは0.70以下となる範囲である。
繊維強化複合材中の強化繊維の体積分率Vfは下記式から算出することができる。
Vf={強化繊維の質量(g)/強化繊維の比重}÷[{強化繊維の質量(g)/強化繊維の比重}+{エポキシ樹脂組成物の硬化物の質量(g)/エポキシ樹脂組成物の硬化物の比重}]
【0050】
[繊維強化複合材の製造方法]
本発明の繊維強化複合材の製造方法は、前記エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させ、次いで該エポキシ樹脂組成物を硬化させて成形する工程を含む方法であれば特に制限されない。
本発明のエポキシ樹脂組成物は速硬化性であるため、より短時間内に強化繊維への含浸及び硬化を行うことが好ましい。この観点から、本発明の繊維強化複合材の製造方法は、前記エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させ、次いで該エポキシ樹脂組成物を硬化させて成形する工程を含み、該成形が、低圧RTM法、中圧RTM法、高圧RTM法、真空RTM法、コンプレッションRTM法、又はリキッドコンプレッションモールディング法により行われることが好ましい。
上記成形法では、主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを成形の直前に混合して使用することが可能である。また、得られるエポキシ樹脂組成物は低粘度でかつ速硬化性であり、金型内への充填及び強化繊維への含浸が速く、速やかに硬化するため、成形時間を大幅に短縮できる。したがって本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記成形法に特に好適である。また、上記成形法を用いることにより、中~大型のFRPを生産性よく製造することができる。
後述する高圧ガス容器を製造する観点からは、上記成形は、低圧RTM法、中圧RTM法、高圧RTM法、又は真空RTM法のいずれかにより行われることがより好ましい。
【0051】
なお本明細書において、低圧RTM法における「低圧」とは、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを圧送して混合する際の圧送時の圧力が0.5MPa未満であることをいう。同様に、中圧RTM法における「中圧」とは上記圧力が0.5MPa以上、7MPa未満、高圧RTM法における「高圧」とは上記圧力が7MPa以上、20MPa以下であるものを指す。
【0052】
低圧RTM法では、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを混合する装置としてダイナミックミキサーを使用することが好ましい。ダイナミックミキサーは、表面に凹凸を有する筒状の高速回転体を備えている。例えば、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを別々のタンクに充填し、それぞれをダイナミックミキサーに送液して前記回転体により主剤と硬化剤の2液を混合する。このようにして調製したエポキシ樹脂組成物を金型内に注入して強化繊維に含浸させ、次いで、エポキシ樹脂を硬化させる。低圧RTM法は、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤との配合比が大きく異なる場合や、装置コスト、装置の省スペース化の観点で有利である。
【0053】
中圧RTM法では、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを混合する装置としてスタティックミキサーを使用することが好ましい。スタティックミキサーは、多数のミキシングエレメントからなる静止型混合器を1個以上組み込んだ管型反応器である。例えば、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを別々のタンクに充填し、それぞれをスタティックミキサーに送液する。スタティックミキサーのねじれたエレメントにエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤の2液を通すことで、分割・転換・反転等の作用より2液が混合される。このようにして調製したエポキシ樹脂組成物を金型内に注入して強化繊維に含浸させ、次いで、エポキシ樹脂を硬化させる。中圧RTM法は、金型内にエポキシ樹脂組成物を圧送できること、及び、装置コストの観点で有利である。
【0054】
高圧RTM法では、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを混合する装置として衝突混合ミキサーを使用することが好ましい。例えば、上下一対の金型内に強化繊維を配置して密閉し、金型内を減圧にする。次いで、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを別々のタンクに充填し、それぞれを非常に小さい穴(オリフィス)から高速で吐出し、衝突混合ミキサーのミキシングチャンバー内で衝突混合させる。このようにして調製したエポキシ樹脂組成物を金型内に高圧注入して強化繊維に含浸させ、次いで、エポキシ樹脂を硬化させる。
【0055】
真空RTM法では、例えば、フィルムや金属を使用した上型と、下型とからなる型内に予め強化繊維を配置して、型内を真空引きする。この型内にエポキシ樹脂組成物を常圧で注入して強化繊維へ含浸させ、次いで、該エポキシ樹脂を硬化させる。
【0056】
コンプレッションRTM法、又はリキッドコンプレッションモールディング(LCM)法にも本発明のエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物を好適に用いることができる。これらの成形法では、強化繊維上にエポキシ樹脂組成物を流延させた後、加熱圧縮して強化繊維へ含浸させながらエポキシ樹脂を硬化させる。
【0057】
FRPの成形において、エポキシ樹脂組成物を金型内に注入、又は強化繊維に含浸させる際の温度は、好ましくは20~120℃、より好ましくは25~100℃である。エポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂とを別々のタンクから供給して成形直前に混合する場合、エポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂との混合時の温度は、個別に設定することもできる。エポキシ樹脂硬化剤の混合時の温度は、粘度上昇を抑制する観点から、好ましくは5~30℃、より好ましくは10~25℃である。またエポキシ樹脂の混合時の温度は、エポキシ樹脂の粘度に応じて適宜調整できるが、好ましくは20~120℃、より好ましくは25~100℃である。上記温度は成形中一定であってもよいし、成形中に変動させてもよい。
エポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸時間は、成形性及び生産性の観点から、好ましくは0.1~15分、より好ましくは0.2~10分、更に好ましくは0.3~5分である。
エポキシ樹脂組成物を金型内に注入する際の吐出速度は、成形性及び生産性の観点から、好ましくは毎秒5~400g、より好ましくは毎秒10~100g、更に好ましくは毎秒20~60gである。上記速度は成形中一定であってもよいし、成形中に変動させてもよい。
【0058】
エポキシ樹脂組成物の硬化温度は、好ましくは50~200℃、より好ましくは80~150℃、更に好ましくは100~150℃である。硬化温度は成形中一定であってもよいし、成形中に変動させてもよい。硬化温度が50℃以上であれば、エポキシ樹脂の硬化が十分に進み、得られるFRPの機械的特性が優れたものとなる。また、200℃以下であれば、金型温度調整にかかるコストが低く済む。エポキシ樹脂組成物の硬化時間は、硬化温度等に応じ適宜選択できるが、成形性及び生産性の観点から、好ましくは0.1~15分、より好ましくは0.2~10分、更に好ましくは0.5~5分である。
【0059】
[高圧ガス容器]
本発明の高圧ガス容器は、前記繊維強化複合材を含むものである。本発明の高圧ガス容器は、少なくとも一部が前記繊維強化複合材で構成されていればよい。例えば、ライナーと、該ライナーの外表面を覆うように設けられる外層とを有する高圧ガス容器であれば、ライナー及び外層の少なくとも一方が前記繊維強化複合材で構成されたものが挙げられる。また、ライナーレスの高圧ガス容器であれば、該容器全体が前記繊維強化複合材で構成されたものが挙げられる。
【0060】
繊維強化複合材を含む高圧ガス容器の具体的な態様としては、(1)金属製のライナーと、本発明の繊維強化複合材からなる外層とを有する構成、(2)樹脂製のライナーと、本発明の繊維強化複合材からなる外層とを有する構成、(3)本発明の繊維強化複合材からなるライナーと、該繊維強化複合材以外の材料からなる外層とを有する構成、(4)本発明の繊維強化複合材からなる容器のみ(ライナーレス)の構成、等が挙げられる。
【0061】
前記(1)の「金属製のライナー」に用いる金属としては、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽合金を例示することができる。
【0062】
前記(2)の「樹脂製のライナー」に用いる樹脂としては、水素ガスバリア性及び耐圧性に優れる樹脂であれば特に制限されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の硬化物、光硬化性樹脂の硬化物等が挙げられる。これらの中でも、ライナーを容易に成形できるという観点から、好ましくは熱可塑性樹脂である。
当該熱可塑性樹脂としては、例えばポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水素ガスバリア性及び耐圧性の観点から、熱可塑性樹脂の中でも好ましくはポリアミド樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはポリアミド樹脂である。
その他、耐衝撃性を高める観点から、樹脂ライナーには前述した応力緩和成分を含有させることもできる。
【0063】
前記(3)の「該繊維強化複合材以外の材料からなる外層」とは、補強性向上の観点から、好ましくは、本発明の繊維強化複合材以外の繊維強化複合材からなる外層が挙げられる。
【0064】
前記(1)~(3)の態様において、外層は、ライナーの本体部分の外表面を隙間なく覆うように形成することができる。
外層は、ライナー外表面に直接設けてもよい。あるいは、ライナーの外表面に1層又は2層以上の他の層を設け、該他の層の表面に設けてもよい。例えば、ライナーと外層の密着性を向上させるため、ライナーと外層との間に接着層を設けることができる。
【0065】
高圧ガス容器が前記(1)又は(2)の態様である場合、本発明の繊維強化複合材からなる外層の厚さは、高圧ガス容器の容量、形状等に応じて適宜選択することができるが、高い水素ガスバリア性及び耐衝撃性を付与する観点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは200μm以上、更に好ましくは400μm以上であり、高圧ガス容器の小型化及び軽量化の観点からは、好ましくは80mm以下、より好ましくは60mm以下である。
【0066】
高圧ガス容器が前記(3)の態様である場合、本発明の繊維強化複合材からなるライナーの厚さは、高圧ガス容器の容量、形状等に応じて適宜選択することができるが、水素ガスバリア性及び耐圧性の観点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは200μm以上、更に好ましくは400μm以上であり、高圧ガス容器の小型化及び軽量化の観点からは、好ましくは60mm以下、より好ましくは40mm以下である。
【0067】
高圧ガス容器が前記(4)の態様である場合、本発明の繊維強化複合材からなる容器の厚さは、高圧ガス容器の容量、形状等に応じて適宜選択することができるが、水素ガスバリア性及び耐圧性の観点から、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、更に好ましくは5mm以上であり、高圧ガス容器の小型化及び軽量化の観点からは、好ましくは80mm以下、より好ましくは60mm以下である。
【0068】
本発明の繊維強化複合材からなるライナー、外層又は高圧ガス容器中の強化繊維の含有量は、高強度及び高弾性率を得る観点から、強化繊維の体積分率が、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上、更に好ましくは0.30以上、より更に好ましくは0.40以上となる範囲である。また、水素ガスバリア性、耐衝撃性及び成形加工性の観点からは、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.80以下、更に好ましくは0.75以下、より更に好ましくは0.70以下となる範囲である。
上記強化繊維の体積分率は、前記と同様の方法で算出することができる。
【0069】
上記の中でも、軽量性の観点、及び、繊維強化複合材に対し高い水素バリア性が要求されるという観点からは、高圧ガス容器は前記(2)、(3)又は(4)のいずれかの態様であることが好ましく、(3)又は(4)の態様がより好ましく、前述したRTM成形等に供する観点からは、(4)の態様が更に好ましい。
【0070】
なお、高圧ガス容器は口金、バルブ等の、繊維強化複合材以外の材料で構成される部品をさらに有していてもよい。また高圧ガス容器の表面には、保護層、塗料層、錆止含有層等の任意の層が形成されていてもよい。
【0071】
高圧ガス容器の貯蔵対象となるガスは、25℃、1atmで気体のものであればよく、水素の他、酸素、二酸化炭素、窒素、アルゴン、LPG、代替フロン、メタン等が挙げられる。これらの中でも、本発明の有効性の観点から、好ましくは水素である。
【0072】
本発明の高圧ガス容器の製造方法としては、前述した繊維強化複合材の製造方法において記載した製造方法を用いることができる。中でも、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いる観点から、本発明の高圧ガス容器はRTM成形により製造されることが好ましい。具体的には、高圧ガス容器の製造方法は、前記エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させ、次いで該エポキシ樹脂組成物を硬化させて成形する工程を含み、該成形が、好ましくは低圧RTM法、中圧RTM法、又は高圧RTM法のいずれかにより行われる。この方法により、高圧ガス容器のライナー、外層、又はライナーレスの高圧ガス容器を、金型を用いて一括成形することができる。
【実施例】
【0073】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、本実施例における測定及び評価は以下の方法で行った。
【0074】
<水素ガス透過係数[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]>
各例で調製したエポキシ樹脂組成物を、離型剤(Henkel社製「FREKOTE 770-NC」)を塗布した金型(120mm×120mm×1mm)に流し込み、120℃で1時間加熱し硬化させて板状の試験片(厚さ1mm)を得た。この試験片について、気体透過率測定装置(GTRテック製「GTR-30X」)を使用して、差圧法にて、23℃の乾燥状態で水素ガス透過係数[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]を測定した。
【0075】
<粘度>
各例で調製したエポキシ樹脂組成物の80℃における粘度は、E型粘度計「TVE-22H型粘度計 コーンプレートタイプ」(東機産業(株)製)を用いて測定した。エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤を混合後に測定を開始し、80℃30秒後の値を読み取った。
【0076】
<金型での成形性>
各例で調製したエポキシ樹脂組成物を用い、連続強化繊維として東レ(株)製の連続炭素繊維「トレカクロス UT70-30G」(一方向クロス、300g/m2、シート厚さ0.167mm)を用いて、真空RTM(VaRTM)により下記方法で成形体(繊維強化複合材)を作製し、金型での成形性を評価した。
離型剤(Henkel社製「FREKOTE 770-NC」)を塗布した真空RTM用の金型(160mm×160mm×2mmt)内に、連続炭素繊維をフィラメント方向が交互に交差するように(0°/90°/0°/90°/0°/90°)合計6枚積層した。次いで、金型内に各例のエポキシ樹脂組成物を注入した後、120℃で1時間加熱して硬化させ、強化繊維の体積分率Vfが0.50の成形体を作製した。得られた成形体の外観を目視観察し、下記基準で評価を行った。
(評価基準)
A 成形体のコゲ、変色がなく、外観良好である
B 成形体の変色が見られるが、コゲはほぼ抑えられている
C 成形体にコゲが見られ、褐色に変化しており外観性を損なっている
【0077】
<硬化物のガラス転移温度(Tg)>
各例で調製したエポキシ樹脂組成物の硬化物のTgは、120℃で15分加熱して硬化させたエポキシ樹脂組成物について、示差走査熱量計「DSC25」(TAインスツルメンツ製)を用いて、昇温速度5℃/分の条件で30~250℃まで示差走査熱分析を行うことにより求めた。
【0078】
実施例1(エポキシ樹脂組成物の調製及び評価)
エポキシ樹脂(A)として、成分(A1):レゾルシノールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製「デナコールEX-201」、エポキシ当量:117g/当量)及び成分(A2):ビスフェノールFジグリシジルエーテル(三菱ケミカル(株)製「jER807」、エポキシ当量:168g/当量)を用い、エポキシ樹脂硬化剤(B)としてメタキシリレンジアミン(三菱瓦斯化学(株)製、MXDA)を用いた。これらエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)とを表1に示す質量部で配合して混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂中のエポキシ基の数に対するエポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数の比(エポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)とは1/1であった。
得られたエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
実施例2~8、比較例1~4
エポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂硬化剤(B)の種類及び配合量を表1に記載の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物の調製及び評価を行った。結果を表1に示す。
なお表1における配合量(質量部)は、いずれも有効成分量である。
【0080】
【0081】
表1に記載の成分は下記である。
<エポキシ樹脂(A)>
(A1)レゾルシノールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製「デナコールEX-201」、エポキシ当量:117g/当量)
(A2)ビスフェノールFジグリシジルエーテル(三菱ケミカル(株)製「jER807」、エポキシ当量:168g/当量)
(A2)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱ケミカル(株)製「jER828」、エポキシ当量:186g/当量)
<エポキシ樹脂硬化剤(B)>
MXDA:メタキシリレンジアミン(三菱瓦斯化学(株)製)
IPDA:イソホロンジアミン(東京化成工業(株)製)
1,3-BAC:1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱瓦斯化学(株)製)
【0082】
表1より、本発明のエポキシ樹脂組成物はいずれも80℃における粘度が60mPa・s以下になり、金型内で120℃に加熱して成形してもコゲの発生が少なく、RTM成形に適した低粘度性及び成形性を有している。また、得られる硬化物は水素ガスバリア性が高いものである。特に、エポキシ樹脂硬化剤(B)としてメタキシリレンジアミンを用いた実施例1~6は、高い水素ガスバリア性、低粘度性、金型での成形性のバランスに優れている。
これに対し、成分(A1)の割合が高いエポキシ樹脂を用いた比較例1のエポキシ樹脂組成物は、金型内で120℃での加熱成形を行うとコゲが発生した。エポキシ樹脂中の成分(A1)及びビスフェノールFジグリシジルエーテルの含有割合がいずれも低い比較例2,4のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、十分な水素ガスバリア性が得られなかった。また比較例2~4のエポキシ樹脂組成物は低粘度性の点で本発明のエポキシ樹脂組成物よりも劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、RTM成形に適した低粘度性及び成形性を有し、高い水素ガスバリア性を達成できるエポキシ樹脂組成物、その硬化物、繊維強化複合材、並びに、該繊維強化複合材を含む高圧ガス容器を提供できる。該高圧ガス容器はRTM成形により製造することができ、ライナーレスの高圧ガス容器とすることも可能である。また該高圧ガス容器は高い水素ガスバリア性を有し、高圧水素ガス貯蔵用の容器として好適である。
【要約】
エポキシ樹脂(A)と、エポキシ樹脂硬化剤(B)とを含有するエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂(A)は、レゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(A1) 10~65質量%と、芳香環を含有する(A1)以外のエポキシ樹脂(A2) 35~90質量%とを含み、前記エポキシ樹脂(A2)は、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を70質量%以上含み、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の水素ガス透過係数が6.4×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下であるエポキシ樹脂組成物、その硬化物、繊維強化複合材、並びに、該繊維強化複合材を含む高圧ガス容器である。