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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】脱泡促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   B01D 19/04 20060101AFI20230516BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20230516BHJP
   C04B 16/02 20060101ALI20230516BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20230516BHJP
   C04B 24/28 20060101ALI20230516BHJP
   C04B 24/08 20060101ALI20230516BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20230516BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20230516BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230516BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230516BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230516BHJP
【FI】
B01D19/04 B
C04B28/02
C04B16/02 Z
C04B24/12 A
C04B24/28 Z
C04B24/08
C08L1/08
C08L91/00
C08L101/00
C09D201/00
C09D7/65
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020098518
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021191565
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】島田 恒平
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 嘉則
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-256202(JP,A)
【文献】特開2018-043928(JP,A)
【文献】特開2019-189841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00-19/04
C04B 16/02,24/12,24/28,28/02
C08L 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)疎水変性セルロース繊維〔以下、(A)成分という〕を含有する、水硬性組成物用脱泡促進用組成物であって、
(A)成分が、アニオン性基を有するセルロース繊維のアニオン性基にアミノ変性シリコーン化合物がイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維である、
水硬性組成物用脱泡促進用組成物。
【請求項2】
アニオン性基がカルボキシ基である、請求項1に記載の水硬性組成物用脱泡促進用組成物。
【請求項3】
(a)成分のアミノ変性シリコーン化合物が、下記一般式(a1)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物用脱泡促進用組成物。
【化1】

〔式中、R1aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基又は水素原子から選ばれる基を示す。R2aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基又は水素原子から選ばれる基である。Bは少なくとも一つのアミノ基を有する側鎖を示し、R3aは炭素数1~3のアルキル基又は水素原子を示す。x及びyはそれぞれ平均重合度を示し、該化合物の25℃の動粘度が10mm /s以上20,000mm /s以下、及びアミノ当量が400g/mol以上8,000g/mol以下となるように選ばれる。尚、R1a、R2a、R3aはそれぞれ同一でも異なっていても良く、また複数個のR2aは同一でも異なっていても良い。〕
【請求項4】
(B)油〔以下、(B)成分という〕を含有する、請求項1~3の何れか1項に記載の水硬性組成物用脱泡促進用組成物。
【請求項5】
(B)成分の20℃での粘度が300mPa・s以下である、請求項4に記載の水硬性組成物用脱泡促進用組成物。
【請求項6】
(B)成分が、テルペノイド及び鉱油から選択される1種類以上である、請求項4又は5に記載の水硬性組成物用脱泡促進用組成物。
【請求項7】
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との質量比である、(A)/(B)が0.01以上1以下である、請求項4~6何れか1項に記載の水硬性組成物用脱泡促進用組成物。
【請求項8】
(C)(A)成分及び油以外の高分子化合物〔以下、(C)成分という〕を含有する、請求項1~7の何れか1項に記載の水硬性組成物用脱泡促進用組成物。
【請求項9】
(C)成分を、(A)成分に対して、1質量%以上1000質量%以下含有する、請求項8に記載の水硬性組成物用脱泡促進用組成物。
【請求項10】
気泡を含む流体を、請求項1~9の何れか1項に記載の水硬性組成物脱泡促進用組成物と接触させ、接触位置で流体表面への気泡の表出を抑制する、流体の発泡制御方法であって、前記流体が水硬性組成物である、流体の発泡制御方法。
【請求項11】
前記流体を前記水硬性組成物脱泡促進用組成物から得た膜と接触させる、請求項10に記載の発泡制御方法。
【請求項12】
気泡を含む水硬性組成物を、請求項1~9の何れか1項に記載の水硬性組成物脱泡促進用組成物が塗布された支持体と接触させて硬化させる、硬化体の製造方法。
【請求項13】
前記支持体が、前記水硬性組成物を収容する型枠である、請求項12に記載の硬化体の製造方法。
【請求項14】
前記水硬性組成物の硬化後、前記支持体を硬化体から分離する、請求項12又は13に記載の硬化体の製造方法。
【請求項15】
硬化体の表面での気泡跡を低減する、請求項12~14の何れか1項に記載の硬化体の製造方法。
【請求項16】
気泡を含む水硬性組成物を、請求項1~9の何れか1項に記載の水硬性組成物脱泡促進用組成物を塗布した型枠に充填し硬化させた後、得られた硬化体を型枠から脱型する、水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【請求項17】
気泡を含む水硬性組成物を、請求項1~9の何れか1項に記載の水硬性組成物脱泡促進用組成物から得られた塗膜と接触させて硬化させ、硬化体の表面での気泡痕を低減する、硬化体の表面美観改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱泡促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート、セラミック、プラスチック、樹脂及び食品等に代表される多くの産業製品は、型枠に未硬化の硬化性組成物を充填し、後工程で乾燥や化学反応により硬化させ、硬化体を得る工程により製造される。硬化体の価値を左右する要因の一つに、表面の美観が挙げられる。これは、文字通り硬化体表面の美しさを意味し、表面美観に優れるほど、製品価値が高く評価される傾向にある。
【0003】
硬化体の表面美観を損なう原因としては、硬化体表面に露出する気泡痕が挙げられる。これは、硬化前の組成物中に混入した気泡が硬化の際に表面に表出する欠陥である。こうした気泡による欠陥を低減するために、気泡の破泡、合一、浮上を促進する消泡剤を添加する、硬化後に別工程を設けて補修する、といった対策が講じられている。しかしながら、消泡剤の添加は煩雑であり、また硬化性組成物の物性に悪影響を及ぼすこともある。更には、硬化体での空気量を担保したい場合には、消泡剤の利用は望ましくない。また、硬化後に別工程を設けて欠陥を補修することは、コストや労働力の確保などの観点から、好ましくない。
【0004】
一方、硬化性組成物の表面美観向上剤や、硬化性組成物を硬化させる際に用いる型枠に塗布する離型剤も提案されている。例えば、特許文献1には、特定のアミドを含有してなる表面美観向上剤が開示されている。また、特許文献2には、特定の脂肪酸アルカノールアミド、ポリカルボン酸系分散剤及び特定の溶剤を含有する水硬性組成物用表面美観向上剤が開示されている。また、特許文献3には、特定の脂肪酸アルカノールアミドを含む型枠剥離剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-77008号公報
【文献】特開2019-104673号公報
【文献】特開2018-130957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、気泡を含む物質、例えば気泡を含む流体の脱泡を促進する脱泡促進用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(A)疎水変性セルロース繊維〔以下、(A)成分という〕を含有する、脱泡促進用組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、気泡を含む流体を、前記本発明の脱泡促進用組成物と接触させ、接触位置で流体表面への気泡の表出を抑制する、流体の発泡制御方法に関する。
【0009】
また、本発明は、気泡を含む硬化性組成物を、前記本発明の脱泡促進用組成物が塗布された支持体と接触させて硬化させる、硬化体の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、気泡を含む水硬性組成物を、前記本発明の脱泡促進用組成物を塗布した型枠に充填し硬化させた後、得られた硬化体を型枠から脱型する、水硬性組成物の硬化体の製造方法に関する。
【0011】
また、本発明は、気泡を含む硬化性組成物を、前記本発明の脱泡促進用組成物から得られた塗膜と接触させて硬化させ、硬化体の表面での気泡痕を低減する、硬化体の表面美観改善方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、気泡を含む物質、例えば気泡を含む流体の脱泡を促進する脱泡促進用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、(A)成分の疎水変性セルロース繊維を含有してなる脱泡促進用組成物を、気泡を含む流体と接触させた際に、流体からの脱泡が促進されることを見出した。より具体的には、例えば、本発明の脱泡促進用組成物を型枠に塗布し、該型枠に硬化性組成物を充填し硬化させた際に、該硬化体の表面気泡痕が低減され、表面美観性が向上することを見出した。このような効果が発現する理由は必ずしも定かではないが、以下のように推測される。
本発明の脱泡促進用組成物は、気泡を含む流体、例えば水硬性組成物と接触したときに、表面自由エネルギーを低減することで当該流体の付着力を低減する。このことは、当該流体が本発明の脱泡促進用組成物との接触部位で移動しやすくなることを意味し、その結果、当該流体の型枠等への充填性が向上する。その際、本発明の脱泡促進用組成物が、平滑かつ緻密な表面を提供していることで、充填性はさらに向上し、流体の気泡は接触部位よりも流体内部に移動しやすくなる。例えば、水硬性組成物を、本発明の脱泡促進用組成物を塗布した型枠に充填した場合は、このような作用機構により、水硬性組成物の表面、すなわち、型枠に塗布した本発明の組成物と接触する部位に出現する気泡が順次、水硬性組成物内部へ移動し、表面での気泡痕を低減し、表面美観性を向上させると考えられる。
なお、本発明の脱泡促進用組成物を用いて流体の硬化体を製造するような場合に、当該硬化体に本発明の脱泡促進用組成物が移行して付着した状態であると、当該硬化体の表面に防汚性を付与する効果が期待できる。すなわち、例えば、本発明の脱泡促進用組成物を用いて水硬性組成物の硬化体を製造する場合に、硬化体の表面に本発明の脱泡促進用組成物が付着して硬化した場合、防汚性が付与されて、硬化体の保存中に付着するダスト等の付着を抑制し、表面美観性を維持することが期待される。
【0014】
<脱泡促進用組成物>
(A)成分は、疎水変性セルロース繊維である。疎水変性セルロース繊維は、例えば、疎水基が結合したセルロースからなる繊維である。
【0015】
(A)成分は、後述する(B)成分の油に分散性を示すものが好ましい。油に対して分散性を有するとは、例えば、油と対象の疎水変性セルロース繊維との混合液の粘度をE型粘度計(25℃、1rpm、1分後、標準コーンロータ、ロータコード:01)を用いて測定した場合、増粘が観測されることをいう。例えば、本発明における疎水変性セルロースとしては、油の代表例としてスクアラン中にセルロース繊維の濃度を0.5質量%になるように調製した液の微細化処理後の分散液粘度が50mPa・s以上になるものが好ましい。なお、微細化処理は、後述の方法により行うことができる。
【0016】
(A)成分の結晶化度は、表面性、成膜性及び加工性の観点から、好ましくは10%以上である。なお、表面性、成膜性及び加工性は、本発明の脱泡促進用組成物を支持体等に塗布する際の物性である(以下同様)。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下である。なお、本明細書において、セルロースの結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、X線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0017】
(A)成分の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比の好ましい範囲は、表面性、成膜性及び加工性の観点から、後述の微細セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比の好ましい範囲と同じである。また、後述の実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0018】
(A)成分としては、例えば、アニオン性基を有するセルロース繊維(以下、「アニオン変性セルロース繊維」とも言う。)のアニオン性基に修飾基が結合されてなる疎水変性セルロース繊維(A)や、セルロース繊維表面の水酸基に修飾基がエーテル結合されてなる疎水変性セルロース繊維(B)(以下、「エーテル化セルロース繊維」とも言う。)が挙げられ、本発明の効果がより発揮できる観点から、好ましくは、疎水変性セルロース繊維(A)である。
【0019】
より具体的には、(A)成分としては、セルロース繊維の水酸基に修飾基が結合した疎水変性セルロース繊維が挙げられる。
また、(A)成分としては、アニオン性基を有するセルロース繊維のアニオン性基に修飾基が結合した疎水変性セルロース繊維が挙げられる。
また、(A)成分としては、アニオン性基を有するセルロース繊維のアニオン性基及び水酸基から選ばれる1種類以上に修飾基が結合した疎水変性セルロース繊維が挙げられる。
これらの修飾基は、疎水性修飾基であってよい。
【0020】
(セルロース繊維)
疎水変性セルロース繊維の原料のセルロース繊維としては、環境面から好ましくは天然セルロース繊維であり、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
原料のセルロース繊維の平均繊維径は特に限定されないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、更に好ましくは15μm以上であり、一方、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは60μm以下である。
【0022】
また、原料のセルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは100μm以上であり、より好ましくは500μm以上であり、更に好ましくは1,000μm以上であり、好ましくは5,000μm以下であり、より好ましくは4,000μm以下であり、更に好ましくは3,000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0023】
<疎水変性セルロース繊維(A)>
本発明における疎水変性セルロース繊維(A)とは、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に、修飾基を導入するための化合物が結合してなるセルロース繊維である。
【0024】
(アニオン変性セルロース繊維)
アニオン変性セルロース繊維中に含まれるアニオン性基は、例えばカルボキシ基、スルホン酸基及びリン酸基等が挙げられ、セルロース繊維への導入効率の観点から、カルボキシ基であることが好ましい。アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)としては、例えば、製造時のアルカリ存在下で生じるナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン及びアルミニウムイオン等の金属イオンや、これらの金属イオンを酸で置換して生じるプロトン等が挙げられる。
【0025】
(アニオン性基含有量)
本発明で用いられるアニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基含有量は、修飾基導入の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上であり、より好ましくは0.4mmol/g以上であり、更に好ましくは0.6mmol/g以上であり、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下であり、より好ましくは2mmol/g以下であり、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。なお、「アニオン性基含有量」とは、セルロース繊維を構成するセルロース中のアニオン性基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0026】
また、アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比の好適な範囲は、前述の疎水変性セルロース繊維と同様、後述の微細セルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長の好ましい範囲と同じである。また、後述の実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0027】
(アニオン性基を導入する工程)
本発明で用いられるアニオン変性セルロース繊維は、対象のセルロース繊維に酸化処理又はアニオン性基の付加処理を施して、少なくとも1つ以上のアニオン性基を導入してアニオン変性させることによって得ることができる。
アニオン変性の対象となるセルロース繊維としては、原料のセルロース繊維が挙げられる。脱泡促進用組成物への分散性(以下、分散性ともいう)の観点から、原料のセルロース繊維を、アルカリ加水分解処理や酸加水分解処理等で短繊維化処理した平均繊維長が1μm以上であり、1,000μm以下であるセルロース繊維を用いることが好ましい。
【0028】
以下、(i)セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する場合と、(ii)セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基又はリン酸基を導入する場合とに分けてより具体的に説明する。
【0029】
(i)セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する場合
セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロースの水酸基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロースの水酸基にカルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法が挙げられる。
【0030】
(酸化セルロース繊維)
本明細書において、カルボキシ基を有するセルロース繊維を「酸化セルロース繊維」と称する。酸化セルロース繊維は、例えば、触媒として2,2,6,6,-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を使用し、更に次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を併用して、セルロース繊維の水酸基をカルボキシ基に酸化する方法を適用することにより、製造することができる。より詳細には、特開2011-140632号公報に記載の方法を参照することができ、更に、追酸化処理又は還元処理を行うことで、アルデヒドを除去した酸化セルロース繊維として調製することができる。酸化セルロース繊維は、それ以外のアニオン変性セルロース繊維と比べて、表面性、成膜性及び加工性の観点から、好ましい。
【0031】
(ii)セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基又はリン酸基を導入する場合
セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
【0032】
セルロース繊維にアニオン性基としてリン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液にリン酸又はリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらの方法を採用した場合、一般的に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合又は添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
【0033】
(修飾基)
本明細書において、疎水変性セルロース繊維(A)における修飾基の結合とは、セルロース繊維表面のアニオン性基に、好ましくはカルボキシ基に、修飾基がイオン結合及び/又は共有結合している状態のことを意味する。アニオン性基への結合様式としては、イオン結合、共有結合が挙げられる。ここでの共有結合としては、例えば、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合が挙げられ、なかでも、加工性及び脱泡促進用組成物の安定性(以下、安定性ともいう)の観点から、好ましくはアミド結合である。加工性及び安定性の観点から、本発明における疎水変性セルロース繊維(A)としては、セルロース繊維表面に既に存在するカルボキシ基に、修飾基を導入するための化合物をイオン結合及び/又はアミド結合させることにより得られるものが好ましい。
【0034】
(修飾基を導入するための化合物)
修飾基を導入するための化合物としては、後述の修飾基を導入可能なものであればよく、結合様式によって、例えば、以下のものを用いることができる。イオン結合の場合は、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物のいずれでもよい。これらの中では、分散性の観点から、好ましくは、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム化合物である。また、前記のアンモニウム化合物やホスホニウム化合物の陰イオン成分としては、反応性の観点から、好ましくは、塩素イオンや臭素イオンなどのハロゲンイオン、硫酸水素イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェイトイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヒドロキシイオンが挙げられ、より好ましくは、ヒドロキシイオンが挙げられる。共有結合の場合は置換される官能基によって以下のものを用いることができる。
【0035】
カルボキシ基への修飾においては、アミド結合の場合は、第1級アミン、第2級アミンのいずれでもよい。エステル結合の場合は、アルコールがよく、例えば、ブタノール、オクタノール、ドデカノールが例示される。ウレタン結合の場合は、イソシアネート化合物がよい。
【0036】
疎水変性セルロース繊維(A)における修飾基としては、炭化水素基等を用いることができる。これらは単独で又は2種以上が組み合わさって、セルロース繊維に結合(導入)されてもよい。
【0037】
(炭化水素基)
炭化水素基としては、例えば、鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられ、副反応を抑制する観点及び安定性の観点から、鎖式飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基及び芳香族炭化水素基であることが好ましい。炭化水素基の炭素数は、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは3以上であり、同様の観点から、好ましくは30以下であり、より好ましくは24以下であり、更に好ましくは18以下である。
【0038】
鎖式飽和炭化水素基は、直鎖状又は分岐状であってもよい。鎖式飽和炭化水素基の炭素数は、表面性及び成膜性の観点から、一つの修飾基における炭素数が好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上、更に好ましくは6以上、更に好ましくは8以上である。また、同様の観点から、好ましくは30以下、より好ましくは24以下、更に好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である。なお、以降において炭化水素基の炭素数とは、一つの修飾基における炭素数のことを意味する。
【0039】
鎖式飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられ、表面性及び成膜性の観点から、好ましくはプロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基である。これらは、単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。
【0040】
鎖式不飽和炭化水素基は、直鎖状又は分岐状であってもよい。鎖式不飽和炭化水素基の炭素数は、取り扱い性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上である。また、入手容易性の観点から、好ましくは30以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは12以下、更に好ましくは8以下である。
【0041】
鎖式不飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブテン基、イソブテン基、イソプレン基、ペンテン基、ヘキセン基、ヘプテン基、オクテン基、ノネン基、デセン基、ドデセン基、トリデセン基、テトラデセン基、オクタデセン基が挙げられ、表面性及び成膜性の観点から、好ましくはエチレン基、プロピレン基、ブテン基、イソブテン基、イソプレン基、ペンテン基、ヘキセン基、ヘプテン基、オクテン基、ノネン基、デセン基、ドデセン基である。これらは、単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。
【0042】
環式飽和炭化水素基の炭素数は、取り扱い性の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上である。また、入手容易性の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下、更に好ましくは8以下である。
【0043】
環式飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、シクロプロパン基、シクロブチル基、シクロペンタン基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロオクタデシル基等が挙げられ、表面性及び成膜性の観点から、好ましくはシクロプロパン基、シクロブチル基、シクロペンタン基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基である。これらは、単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。
【0044】
芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれる。アリール基及びアラルキル基としては、芳香族環そのものが置換されたものでも非置換のものであってもよい。
【0045】
前記アリール基の総炭素数は6以上であればよく、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは24以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは14以下、更に好ましくは12以下、更に好ましくは10以下である。
【0046】
前記アラルキル基の総炭素数は7以上であり、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは8以上であり、また、同様の観点から、好ましくは24以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは14以下、更に好ましくは13以下、更に好ましくは11以下である。
【0047】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基及びこれらの基が後述する置換基で置換された基が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。なかでも、表面性及び成膜性の観点から、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基が好ましい。
【0048】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基及びこれらの基の芳香族基が後述する置換基で置換された基などが挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。なかでも、表面性及び成膜性の観点から、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基が好ましい。
【0049】
前記炭化水素基を導入するための第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物、酸無水物、イソシアネート化合物は、市販品を用いるか、公知の方法に従って調製することができる。
【0050】
第1~3級アミンとしては、加工性及び安定性の観点から、炭素数が好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは3以上であり、同様の観点から、炭素数が好ましくは20以下であり、より好ましくは18以下であり、更に好ましくは16以下である(ただし、アミノ変性シリコーン化合物を除く。)。第1~3級アミンの具体例としては、例えば、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン、ステアリルアミン、ジステアリルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アニリン及びベンジルアミン、並びにアミノ変性シリコーン化合物等が挙げられる。第4級アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラブチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。これらの中では、加工性及び安定性の観点から、好ましくは、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン、ジステアリルアミン、アミノ変性シリコーン化合物、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、アニリン、より好ましくはプロピルアミン、ドデシルアミン、アミノ変性シリコーン化合物、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、アニリンであり、更に好ましくはアミノ変性シリコーン化合物である。
【0051】
これらの化合物の中で、とりわけアミノ変性シリコーン化合物を用いて得られた疎水変性セルロース繊維が、本発明の組成物の膜、とりわけ塗膜の原料として有用である。従って、本発明の一態様として、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基にアミノ変性シリコーン化合物が結合されてなる疎水変性セルロース繊維が提供される。かかる疎水変性セルロース繊維を含む膜とした場合、優れた脱泡性を発揮することができる。
【0052】
(アミノ変性シリコーン化合物)
アミノ変性シリコーン化合物としては、25℃での動粘度が10mm/s以上20,000mm/s以下、アミノ当量400g/mol以上8,000g/mol以下のアミノ変性シリコーン化合物が好ましいものとして挙げられる。
【0053】
25℃での動粘度はオストワルト型粘度計で求めることができ、加工性及び安定性の観点から、より好ましくは200mm/s以上、更に好ましくは500mm/s以上、そして、より好ましくは10,000mm/s以下、更に好ましくは5,000mm/s以下である。
【0054】
また、アミノ当量は、安定性の観点から、好ましくは400g/mol以上、より好ましくは600g/mol以上、更に好ましくは800g/mol以上、そして、好ましくは8,000g/mol以下、より好ましくは5,000g/mol以下、更に好ましくは3,000g/mol以下である。なお、アミノ当量は、窒素原子1個当りの分子量であり、アミノ当量(g/mol)=質量平均分子量/1分子あたりの窒素原子数で求められる。ここで質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーでポリスチレンを標準物質として求めた値であり、窒素原子数は元素分析法により求めることができる。
【0055】
アミノ変性シリコーン化合物の具体例として、一般式(a1)で表される化合物が挙げられる。
【0056】
【化1】
【0057】
〔式中、R1aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基又は水素原子から選ばれる基を示し、表面性及び成膜性の観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。R2aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基又は水素原子から選ばれる基であり、表面性及び成膜性の観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。Bは少なくとも一つのアミノ基を有する側鎖を示し、R3aは炭素数1~3のアルキル基又は水素原子を示す。x及びyはそれぞれ平均重合度を示し、該化合物の25℃の動粘度及びアミノ当量が上記範囲になるように選ばれる。尚、R1a、R2a、R3aはそれぞれ同一でも異なっていても良く、また複数個のR2aは同一でも異なっていても良い。〕
【0058】
一般式(a1)の化合物において、表面性及び成膜性の観点から、xは好ましくは10以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは30以上、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは5,000以下、更に好ましくは3,000以下の数である。yは好ましくは1以上、そして、好ましくは1,000以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは200以下の数である。一般式(a1)の化合物の質量平均分子量は、好ましくは2,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは8,000以上、そして、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは50,000以下である。
【0059】
一般式(a1)において、アミノ基を有する側鎖Bとしては、下記のものを挙げることができる。
-C-NH
-C-NH-C-NH
-C-NH-[C-NH]e-C-NH
-C-NH(CH
-C-NH-C-NH(CH
-C-NH-[C-NH]f-C-NH(CH
-C-N(CH
-C-N(CH)-C-N(CH
-C-N(CH)-[C-N(CH)]-C-N(CH
-C-NH-cyclo-C11
(ここで、e、f、gは、それぞれ1~30の数である。)
【0060】
本発明で用いるアミノ変性シリコーン化合物は、例えば、一般式(a2)で表されるオルガノアルコキシシランを過剰の水で加水分解して得られた加水分解物と、ジメチルシクロポリシロキサンとを水酸化ナトリウムのような塩基性触媒を用いて、80~110℃に加熱して平衡反応させ、反応混合物が所望の粘度に達した時点で酸を用いて塩基性触媒を中和することにより製造することができる(特開昭53-98499号参照)。
N(CHNH(CHSi(CH)(OCH (a2)
【0061】
また、アミノ変性シリコーン化合物としては、脱泡性の観点から、好ましくは側鎖Bの1個の中にアミノ基が1個有するモノアミノ変性シリコーン及び側鎖Bの1個の中にアミノ基が2個有するジアミノ変性シリコーンからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはアミノ基を有する側鎖Bが-C-NHで表される化合物〔以下、(a1-1)成分という〕及びアミノ基を有する側鎖Bが-C-NH-C-NHで表される化合物〔以下、(a1-2)成分という〕からなる群から選ばれる1種以上である。
【0062】
(a1-1)成分としては、BY16-213(動粘度:55、アミノ当量:2700)、BY16-853U(動粘度:14、アミノ当量:450)がより好ましい。
(a1-2)成分としては、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700)、BY16-209(動粘度:500、アミノ当量:1800)、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600)がより好ましい。
【0063】
疎水変性セルロース繊維(A)における修飾基の平均結合量は、表面性及び成膜性の観点から、セルロース繊維あたり、好ましくは0.01mmol/g以上であり、より好ましくは0.05mmol/g以上であり、更に好ましくは0.1mmol/g以上であり、更に好ましくは0.3mmol/g以上であり、更に好ましくは0.5mmol/g以上である。また、反応性の観点から、好ましくは3mmol/g以下であり、より好ましくは2.5mmol/g以下であり、更に好ましくは2mmol/g以下であり、更に好ましくは1.8mmol/g以下であり、更に好ましくは1.5mmol/g以下である。ここで、修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時にセルロース繊維に導入されている場合、修飾基の平均結合量は、導入されている修飾基の合計量が前記範囲内であることが好ましい。
【0064】
疎水変性セルロース繊維(A)における修飾基の導入率は、いずれの修飾基についても、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは10%以上であり、より好ましくは30%以上であり、更に好ましくは50%以上であり、更に好ましくは60%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、反応性の観点から、好ましくは99%以下であり、より好ましくは97%以下であり、更に好ましくは95%以下であり、更に好ましくは90%以下である。ここで、修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時にセルロース繊維に導入されている場合、導入率の合計は、上限の100%を超えない範囲において、前記範囲内であることが好ましい。
【0065】
なお、前記修飾基は更に置換基を有するものであってもよく、例えば、炭化水素基の場合、置換基を含めた修飾基全体の総炭素数が前記範囲内となるものが好ましい。置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルコキシ基の炭素数が1~6のアルコキシ-カルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1~6のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1~6のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数が1~6のジアルキルアミノ基が挙げられる。なお、前記した炭化水素基そのものが置換基として結合していてもよい。
【0066】
本明細書において、疎水変性セルロース繊維(A)における修飾基の平均結合量及び導入率は、修飾基を導入するための化合物の添加量や種類、反応温度、反応時間、溶媒などによって調整することができる。修飾基の平均結合量(mmol/g)及び導入率(%)とは、疎水変性セルロース繊維(A)の表面のアニオン性基に修飾基が導入された量及び割合のことである。疎水変性セルロース繊維(A)のアニオン性基含有量は公知の方法(例えば、滴定、IR測定等)に従って測定することで算出できる。疎水変性セルロース繊維(A)における修飾基の平均結合量及び導入率は、例えば、実施例に記載された方法で算出される。
【0067】
[疎水変性セルロース繊維(A)の製造方法]
本発明で用いられる疎水変性セルロース繊維繊維(A)は、前記したアニオン変性セルロース繊維に修飾基を導入できるのであれば、特に限定なく公知の方法に従って製造することができる。なお、ここでいうアニオン変性セルロース繊維は、公知の方法、例えば、特開2011-140632号公報に記載の方法を参照にし、更に、前述の追酸化処理又は還元処理を行うことで、アルデヒドを除去した酸化セルロース繊維として調製することができる。
【0068】
具体的な製造方法としては、修飾基の酸化セルロース繊維への導入態様によって、以下の2態様が挙げられる。即ち、修飾基をイオン結合によって酸化セルロース繊維に結合させる態様(態様A)、修飾基を共有結合によって酸化セルロース繊維に結合させる態様(態様B)が挙げられる。なお、共有結合として、アミド結合の場合を以下に示す。
〔態様A〕
工程(1):天然セルロース繊維をN-オキシル化合物存在下で酸化して、酸化セルロース繊維を得る工程
工程(2A):工程(1)で得られた酸化セルロース繊維と、修飾基を導入するための化合物とを混合する工程
〔態様B〕
工程(1):天然セルロース繊維をN-オキシル化合物存在下で酸化して、酸化セルロース繊維を得る工程
工程(2B):工程(1)で得られた酸化セルロース繊維と、修飾基を導入するための化合物とをアミド化反応させる工程
【0069】
修飾基の導入方法は、例えば、態様Aは特開2015-143336号公報に記載の方法を、態様Bは特開2015-143337号公報に記載の方法を参照して行うことができる。また、本発明においては、工程(1)の後に後述する微細化工程を行い、微細セルロース繊維とした後に工程(2A又は2B)を行う方法(第1の製造形態)及び工程(1)から順に工程(2A又は2B)を行い、その後に微細化工程を行って微細セルロース繊維を得る方法(第2の製造形態)を行ってもよい。なお、微細化処理後のセルロース繊維を、特に、「微細セルロース繊維」という場合がある。
【0070】
以下、態様Aの第1の製造形態に基づいて、微細セルロース繊維の製造方法を説明する。
【0071】
〔工程(1)〕
工程(1)は、天然セルロース繊維をN-オキシル化合物存在下で酸化して、酸化セルロース繊維を得る工程である。具体的には、天然セルロース繊維に対して、特開2015-143336号又は特開2015-143337号に記載の、酸化処理工程(例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を用いた酸化処理)及び精製工程(必要により)を行うことで、カルボキシ基含有量が好ましくは0.1mmol/g以上の酸化セルロース繊維が得られる。TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化処理を行うことによって、セルロース構成単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CH2OH)が選択的にカルボキシ基に変換される。特にこの方法は、原料のセルロース繊維表面の酸化対象となるC6位の水酸基の選択性に優れており、且つ反応条件も穏やかである点で有利である。
【0072】
(微細化工程)
次に、(必要により行われてもよい)精製工程後に工程(1)で得られた酸化セルロース繊維を微細化する工程を行って、微細な酸化セルロース繊維を得る。微細化工程では、精製工程を経た酸化セルロース繊維を溶媒中に分散させ、微細化処理を行うことが好ましい。
【0073】
分散媒としての溶媒は、水の他、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~6、好ましくは炭素数1~3のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン;直鎖又は分岐状の炭素数1~6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、微細化処理の操作性の観点から、水、炭素数1~6のアルコール、炭素数3~6のケトン、炭素数2~5の低級アルキルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、コハク酸メチルトリグリコールジエステル等の極性溶媒が好ましく、環境負荷低減の観点から、水がより好ましい。溶媒の使用量は、酸化セルロース繊維を分散できる有効量であればよく、特に制限はないが、酸化セルロース繊維に対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは200質量倍以上、そして、好ましくは500質量倍以下、より好ましくは200質量倍以下使用することがより好ましい。
【0074】
微細化処理で使用する装置としては公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、ラボプラストミル、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における反応物繊維の固形分含有量は50質量%以下が好ましい。
【0075】
かくして、セルロース繊維構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシ基へと選択的に酸化されたセルロース繊維を得ることができる。
【0076】
〔工程(2A)〕
第1の製造形態において、工程(2A)は、前記工程を経て得られた酸化セルロース繊維と、修飾基を導入するための化合物とを混合して、疎水変性セルロース繊維(A)を得る工程である。具体的には、酸化セルロース繊維と、修飾基を導入するための化合物とを溶媒中で混合すればよく、例えば、特開2015-143336号に記載の方法に従って製造することができる。
【0077】
工程(2A)で用いられる、修飾基を導入するための化合物としては、前述のものが挙げられる。
【0078】
前記化合物の使用量は、疎水変性セルロース繊維(A)における修飾基の所望結合量により決めることができるが、反応性の観点から、酸化セルロース繊維に含有されるカルボキシ基1molに対して、アミノ基が、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.1mol以上であり、製品純度の観点から、好ましくは50mol以下、より好ましくは20mol以下、更に好ましくは10mol以下となる量用いる。なお、前記範囲に含まれる量の化合物を一度に反応に供しても、分割して反応に供してもよい。化合物が、モノアミンの場合は、上記のアミノ基とアミンとは同じである。
【0079】
溶媒としては、用いる化合物が溶解する溶媒を選択することが好ましく、例えば、イソプロパノール(IPA)、1-プロパノール、エタノール、メタノール、t-ブタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、1,4-ジオキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジエチルエーテル及びこれらの混合物が挙げられる。
【0080】
混合時の温度は、化合物を得るための原料の反応性の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上である。また、着色等の製品品質の観点から、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは30℃以下である。混合時間は、用いる化合物及び溶媒の種類に応じて適宜設定することができるが、化合物を得るための原料の反応性の観点から、好ましくは0.01時間以上、より好ましくは0.1時間以上、更に好ましくは1時間以上であり、生産性の観点から、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下である。
【0081】
疎水変性セルロース繊維(A)が生成した後、未反応の化合物等を除去するために、適宜後処理を行ってもよい。該後処理の方法としては、例えば、ろ過、遠心分離、透析等を用いることができる。
【0082】
また、態様Bの製造方法については、工程(1)は態様Aと同様に行うことができるので、以下に第1の製造形態における工程(2B)について記載する。また、例えば、特開2013-151661号公報に記載の方法により製造することができる。
【0083】
なお、態様A及び態様Bのいずれにおいても、第2の製造形態では、前記した各工程を、工程(1)、工程(2A)又は工程(2B)、微細化工程の順で行うこと以外は、第1の製造形態と同様の方法で行うことができる。
【0084】
また、態様A及び態様Bを組み合せて得られる疎水変性セルロース繊維であってもよく、即ち、イオン結合を介して連結した修飾基とアミド結合を介して連結した修飾基を有する疎水変性セルロース繊維であってもよい。この場合、工程(2A)と工程(2B)のいずれを先に行ってもよい。
【0085】
かくして、セルロース繊維に修飾基がイオン結合及び/又は共有結合を介して連結した、疎水変性セルロース繊維を得ることができる。
【0086】
<疎水変性セルロース繊維(B)(エーテル化セルロース繊維)>
本発明における疎水変性セルロース繊維(B)(エーテル化セルロース繊維とも言う)は、セルロース繊維表面に修飾基がエーテル結合を介して結合していることを特徴とし、好ましくはセルロースI型結晶構造を有するものである。なお、本明細書において、「エーテル結合を介して結合」とは、セルロース繊維表面の水酸基に修飾基が反応して、エーテル結合した状態を意味する。
【0087】
エーテル化セルロース繊維における修飾基は、好ましくは置換基を有していてもよい炭化水素基である。ここで、置換基を有してもよい炭化水素基において、炭化水素基としては、飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基、フェニル基等の芳香族炭化水素基、又はシクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基が挙げられる。また、本発明における置換基を有してもよい炭化水素基において、置換基としては、ハロゲン原子、オキシエチレン基等のオキシアルキレン基及び水酸基等が挙げられる。
【0088】
このようなエーテル化セルロース繊維の好適な態様(「態様1」とする)として、例えば、下記一般式(1)で表される置換基及び下記一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基がエーテル結合を介してセルロース繊維に結合しており、セルロースI型結晶構造を有するものが挙げられる。
-CH-CH(R)-R (1)
-CH-CH(R)-CH-(OA)-O-R (2)
〔式中、一般式(1)及び一般式(2)におけるRは水素原子又は水酸基を示し、Rはそれぞれ独立して炭素数3以上30以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキルを示し、一般式(2)におけるnは0以上50以下の数、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示す。〕
【0089】
態様1の具体例としては、例えば、下記一般式(4)で表されるエーテル化セルロース繊維が例示される。
【0090】
【化2】
【0091】
〔式中、Rは同一又は異なって、水素、もしくは前記一般式(1)で表される置換基及び前記一般式(2)で表される置換基から選ばれる置換基を示し、mは20以上3000以下の整数が好ましく、但し、全てのRが同時に水素である場合を除く〕
【0092】
一般式(4)で表されるエーテル化セルロース繊維は、前記置換基が導入されたセルロースユニットの繰り返し構造を有するものである。繰り返し構造の繰り返し数として、一般式(4)におけるmは、表面性及び成膜性の観点から、20以上3000以下の整数が好ましい。
【0093】
(置換基を有していてもよい炭化水素基)
態様1のエーテル化セルロース繊維は、前記の一般式(1)及び下記一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基を単独で又は任意の組み合わせで導入される。なお、導入される置換基が前記置換基群のいずれか一方の場合であっても、各置換基群においては同一の置換基であっても2種以上が組み合わさって導入されてもよい。
【0094】
加工性及び安定性の観点から、一般式(1)及び一般式(2)におけるRは水酸基が好ましい。
【0095】
一般式(1)におけるRの炭素数は、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは25以下である。具体的には、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イソオクタデシル基、イコシル基、トリアコンチル基等が例示される。
【0096】
一般式(2)におけるRの炭素数は、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは4以上であり、表面性、成膜性、入手性及び反応性向上の観点から、好ましくは27以下である。具体的には、前記した一般式(1)におけるRと同じものが挙げられる。
【0097】
一般式(2)におけるAは、隣接する酸素原子とオキシアルキレン基を形成する。Aの炭素数は、表面性、成膜性、入手性及びコストの観点から、好ましくは2以上であり、同様の観点から、好ましくは4以下である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が例示される。
【0098】
一般式(2)におけるnは、アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。nは、表面性、成膜性、入手性及びコストの観点から、好ましくは3以上であり、同様の観点から、好ましくは40以下である。
【0099】
一般式(2)におけるAとnの組み合わせとしては、表面性及び成膜性の観点から、好ましくはAが炭素数2以上3以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基で、nが0以上20以下の数の組み合わせである。
【0100】
一般式(1)で表される置換基の具体例としては、例えば、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イソオクタデシル基、イコシル基、プロピルヒドロキシエチル基、ブチルヒドロキシエチル基、ペンチルヒドロキシエチル基、ヘキシルヒドロキシエチル基、ヘプチルヒドロキシエチル基、オクチルヒドロキシエチル基、2-エチルヘキシルヒドロキシエチル基、ノニルヒドロキシエチル基、デシルヒドロキシエチル基、ウンデシルヒドロキシエチル基、ドデシルヒドロキシエチル基、ヘキサデシルヒドロキシエチル基、オクタデシルヒドロキシエチル基、イソオクタデシルヒドロキシエチル基、イコシルヒドロキシエチル基、トリアコンチルヒドロキシエチル基等が挙げられる。
【0101】
一般式(2)で表される置換基の具体例としては、例えば、3-ブトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ヘキトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ヘキトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-オクトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-オクトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、6-エチル-3-ヘキトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、6-エチル-3-ヘキトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-デトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-デトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ウンデトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ウンデトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ドデトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ドデトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ヘキサデトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-ヘキサデトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-オクタデトキシエチレンオキシド-2-ヒドロキシ-プロピル基、3-オクタデトキシ-2-ヒドロキシ-プロピル基等が挙げられる。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は0以上50以下であればよく、例えば、前記したエチレンオキシド等のオキシアルキレン基を有する置換基において付加モル数が10、12、13、20モルの置換基が例示される。
【0102】
(導入率)
エーテル化セルロース繊維において、セルロースの無水グルコースユニット1モルに対する修飾基の導入率は、修飾基の種類により一概には限定できないが、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは0.0001モル以上であり、また、セルロースI型結晶構造を有し、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは1.5モル以下である。ここで、修飾基として、一般式(1)で表される置換基と一般式(2)で表される置換基のいずれもが導入されている場合は、合計した導入モル率のことである。なお、本明細書において、エーテル化セルロース繊維における修飾基の導入率は、以下の方法に従って測定することができる。
【0103】
〔疎水変性セルロース繊維(B)における修飾基の導入率〕
得られたエーテル化セルロース繊維中に含有される修飾基の含有量%(質量%)は、Analytical Chemistry, Vol.51, No.13, 2172(1979)、「第十五改正日本薬局方(ヒドロキシプロピルセルロースの分析方法の項)」等に記載の、セルロースエーテルのアルコキシ基の平均付加モル数を分析する手法として知られるZeisel法に準じて算出する。以下に手順を示す。
(i)200mLメスフラスコにn-オクタデカン0.1gを加え、ヘキサンにて標線までメスアップを行い、内標溶液を調製する。
(ii)精製、乾燥を行ったエーテル化セルロース繊維100mg、アジピン酸100mgを10mLバイアル瓶に精秤し、ヨウ化水素酸2mLを加えて密栓する。
(iii)上記バイアル瓶中の混合物を、スターラーチップにより攪拌しながら、160℃のブロックヒーターにて1時間加熱する。
(iv)加熱後、バイアルに内標溶液3mL、ジエチルエーテル3mLを順次注入し、室温で1分間攪拌する。
(v)バイアル瓶中の2相に分離した混合物の上層(ジエチルエーテル層)をガスクロマトグラフィー(SHIMADZU社製、「GC2010Plus」)にて分析する。分析条件は以下のとおりとする。
カラム:アジレント・テクノロジー社製DB-5(12m、0.2mm×0.33μm)
カラム温度:100℃→10℃/min→280℃(10min Hold)
インジェクター温度:300℃、検出器温度:300℃、打ち込み量:1μL
【0104】
使用した、修飾基を導入するための化合物の検出量から、エーテル化セルロース繊維中の修飾基の含有量(質量%)を算出する。
【0105】
得られた修飾基の含有量から、下記数式(1)を用いてモル置換度(MS)(無水グルコースユニット1モルに対する修飾基のモル量)を算出する。
(数式1)
MS=(W1/Mw)/((100-W1)/162.14)
W1:エーテル化セルロース繊維中の修飾基の含有量(質量%)
Mw:導入した、修飾基を導入するための化合物の分子量(g/mol)
【0106】
(平均繊維径)
本発明におけるエーテル化セルロース繊維としては、置換基の種類に関係なく、平均繊維径に特に限定はない。例えば、平均繊維径がマイクロオーダーの態様、平均繊維径がナノオーダーの態様が例示される。
【0107】
マイクロオーダーの態様のエーテル化セルロース繊維は、表面性、成膜性、取扱い性、入手性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上である。また、上限は特に設定されないが、表面性、成膜性及び取扱い性の観点から、好ましくは100μm以下である。なお、本明細書において、マイクロオーダーのセルロース繊維の平均繊維径は、原料のセルロース繊維の平均繊維径と同じ方法で測定することができる。
【0108】
ナノオーダーの態様のエーテル化セルロース繊維は、表面性、成膜性、取扱い性、入手性及びコストの観点から、好ましくは1nm以上であり、表面性、成膜性及び取扱い性の観点から、好ましくは500nm以下である。なお、本明細書において、ナノオーダーのセルロース繊維の平均繊維径は、アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径と同じ方法で測定することができる。
【0109】
[エーテル化セルロース繊維の製造方法]
本発明におけるエーテル化セルロース繊維は、上記したようにセルロース繊維表面に、修飾基、好ましくは前記の置換基を有していてもよい炭化水素基がエーテル結合を介して結合しているが、修飾基の導入は、特に限定なく公知の方法に従って行うことができる。以下、態様1のエーテル化セルロース繊維を製造する方法の具体的な例を説明する。
態様1のエーテル化セルロース繊維の製造方法の具体例として、上記の原料のセルロース繊維に対し、塩基存在下、特定の化合物を反応させる態様が挙げられる。
【0110】
また、製造工程数低減の観点から、あらかじめ微細化されたセルロース繊維を原料のセルロース繊維として用いてよく、その場合の平均繊維径は、入手性及びコストの観点から、好ましくは1nm以上である。また、上限は特に設定されないが、取扱い性の観点から、好ましくは500nm以下である。
【0111】
(塩基)
本製造方法においては、前記原料のセルロース繊維に塩基を混合する。
塩基としては、特に制限はないが、エーテル化反応を進行させる観点から、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0112】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0113】
1~3級アミンとは、1級アミン、2級アミン及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0114】
4級アンモニウム塩としては、水酸化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、フッ化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0115】
イミダゾール及びその誘導体としては、1-メチルイミダゾール、3-アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
ピリジン及びその誘導体としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
【0116】
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0117】
塩基の量は、原料のセルロース繊維の無水グルコースユニットに対して、エーテル化反応を進行させる観点から、好ましくは0.01当量以上であり、製造コストの観点から、好ましくは10当量以下である。
【0118】
なお、前記原料のセルロース繊維と塩基の混合は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、特に制限はなく、例えば、水、イソプロパノール、t-ブタノール、ジメチルホルムアミド、トルエン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサン、1,4-ジオキサン及びこれらの混合物が挙げられる。
【0119】
原料のセルロース繊維と塩基の混合は、均一に混合できるのであれば、温度や時間は特に制限はない。
【0120】
次に、前記で得られた原料のセルロース繊維と塩基の混合物に、修飾基を導入するための化合物、好ましくは置換基を有していてもよい炭化水素基を導入するための化合物を添加して、原料のセルロース繊維とかかる化合物とを反応させる。かかる化合物としては、原料のセルロース繊維と反応する際に、好ましくは前記一般式(1)で表される置換基及び一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基をエーテル結合を介して結合させることができるものであれば特に制限はなく、本発明においては、反応性及び非ハロゲン含有化合物の観点から、反応性を有する環状構造基を有する化合物を用いることが好ましく、エポキシ基を有する化合物を用いることがより好ましい。以下に、それぞれの化合物を例示する。
【0121】
一般式(1)で表される置換基をエーテル結合を介して結合させることができる化合物としては、例えば、下記一般式(1A)で示される酸化アルキレン化合物及び一般式(1B)で示されるアルキルハライドが好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。該化合物の総炭素数としては、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは3以上であり、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは32以下である。
【0122】
【化3】
【0123】
〔式中、Rは炭素数3以上30以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。〕
【0124】
X-(CH-R (1B)
〔式中、Rは炭素数3以上30以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるハロゲン原子である。〕
【0125】
一般式(1A)及び(1B)におけるRの炭素数は、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは4以上であり、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは25以下である。具体的には、一般式(1)で表される置換基におけるRの項に記載のものを挙げることができる。
【0126】
一般式(1A)で示される化合物の具体例としては、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシオクタデカンが挙げられる。
一般式(1B)で示される化合物の具体例としては、1-クロロペンタン、1-クロロヘキサン、1-クロロオクタン、1-クロロデカン、1-クロロドデカン、1-クロロヘキサデカン、1-クロロオクタデカン、1-ブロモペンタン、1-ブロモヘキサン、1-ブロモオクタン、1-ブロモデカン、1-ブロモドデカン、1-ブロモヘキサデカン、1-ブロモオクタデカン、1-ヨードペンタン、1-ヨードヘキサン、1-ヨードオクタン、1-ヨードデカン、1-ヨードドデカン、1-ヨードヘキサデカン、1-ヨードオクタデカンが挙げられる。
【0127】
一般式(2)で表される置換基をエーテル結合を介して結合させることができる化合物としては、例えば、下記一般式(2A)で示されるグリシジルエーテル化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。該化合物の総炭素数としては、表面性及び成膜性の観点から、5以上が好ましく、表面性及び成膜性の観点から、100以下が好ましい。
【0128】
【化4】
【0129】
〔式中、Rは炭素数3以上30以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基、nは0以上50以下の数を示す。〕
【0130】
一般式(2A)におけるRの炭素数は、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは4以上であり、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは27以下である。具体的には、一般式(2)で表される置換基におけるRの項に記載のものを挙げることができる。
【0131】
一般式(2A)におけるAは隣接する酸素原子とオキシアルキレン基を形成する。Aの炭素数は、入手性及びコストの観点から、好ましくは2以上であり、同様の観点から、好ましくは4以下である。具体的には、一般式(2)で表される置換基におけるAの項に記載のものが例示され、なかでも、エチレン基、プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0132】
一般式(2A)におけるnは、アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。nは、入手性及びコストの観点から、好ましくは3以上、であり、同様の観点から、好ましくは40以下である。
【0133】
一般式(2A)で示される化合物の具体例としては、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、イソステアリルグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが挙げられる。
【0134】
修飾基を導入するための化合物の量は、得られるエーテル化セルロース繊維における修飾基の所望の導入率により決めることができるが、反応性の観点から、原料のセルロース繊維の無水グルコースユニットに対して、好ましくは0.01当量以上であり、製造コストの観点から、好ましくは10当量以下である。
【0135】
(エーテル化反応)
前記化合物と原料のセルロース繊維とのエーテル化反応は、溶媒の存在下で、両者を混合することにより行うことができる。溶媒としては、特に制限はなく、前記塩基を存在させる際に使用することができると例示した溶媒を用いることができる。
【0136】
溶媒の使用量としては、原料のセルロース繊維や修飾基を導入するための化合物の種類によって一概には決定されないが、原料のセルロース繊維100質量部に対して、反応性の観点から、好ましくは30質量部以上、であり、生産性の観点から、好ましくは10,000質量部以下である。
【0137】
混合条件としては、原料のセルロース繊維や修飾基を導入するための化合物が均一に混合され、十分に反応が進行できるのであれば特に制限はなく、連続的な混合処理は行っても行わなくてもよい。1Lを超えるような比較的大きな反応容器を用いる場合には、反応温度を制御する観点から、適宜攪拌を行ってもよい。
【0138】
反応温度としては、原料のセルロース繊維や修飾基を導入するための化合物の種類及び目標とする導入率によって一概には決定されないが、反応性を向上させる観点から、好ましくは40℃以上であり、熱分解を抑制する観点から、好ましくは120℃以下である。
【0139】
反応時間としては、原料のセルロース繊維や修飾基を導入するための化合物の種類及び目標とする導入率によって一概には決定されないが、反応性の観点から、好ましくは0.5時間以上であり、生産性の観点から、好ましくは60時間以下である。
【0140】
反応後は、未反応の化合物や塩基等を除去するために、適宜後処理を行うことができる。所望により、更に乾燥(真空乾燥など)を行ってもよい。
かくして、エーテル化セルロース繊維が得られる。
【0141】
上記の疎水変性セルロース繊維(A)及び(B)のいずれに関しても、得られた疎水変性セルロース繊維は、上記後処理を行った後の分散液の状態で使用することもできるし、あるいは乾燥処理等により該分散液から溶媒を除去して、乾燥した粉末状の疎水変性セルロース繊維を得て、これを使用することもできる。ここで「粉末状」とは、疎水変性セルロース繊維が凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない。
【0142】
粉末状の疎水変性セルロース繊維としては、例えば、前記セルロース繊維の分散液をそのまま乾燥させた乾燥物;該乾燥物を機械処理で粉末化したもの;前記セルロース繊維の分散液を公知のスプレードライ法により粉末化したもの;前記セルロース繊維の分散液を公知のフリーズドライ法により粉末化したもの等が挙げられる。前記スプレードライ法は、前記セルロース繊維の分散液を大気中で噴霧し、乾燥させる方法である。
【0143】
得られた微細セルロース繊維の平均繊維径は、表面性及び成膜性の観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは0.5nm以上、更に好ましくは1nm以上、更に好ましくは2nm以上、より更に好ましくは3nm以上である。また、同様の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下、更に好ましくは6nm以下、より更に好ましくは5nm以下である。
【0144】
得られた微細セルロース繊維の長さ(平均繊維長)としては、加工性及び安定性の観点から、好ましくは150nm以上、より好ましくは200nm以上である。また、加工性及び安定性の観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは750nm以下、更に好ましくは500nm以下、更に好ましくは400nm以下である。
【0145】
なお、本発明において、セルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、前記の範囲に限定されるものではなく、例えばマイクロメーターのオーダーのものであっても使用することができる。
【0146】
また、得られた微細セルロース繊維の平均アスペクト比(繊維長/繊維径)は、表面性、成膜性、加工性及び安定性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、更に好ましくは40以上、更に好ましくは60以上であり、同様の観点から、好ましくは260以下、より好ましくは240以下、更に好ましくは220以下、更に好ましくは200以下、更に好ましくは190以下、更に好ましくは180以下である。また、平均アスペクト比が上記範囲内にある場合、アスペクト比の標準偏差としては、表面性、成膜性、加工性及び安定性の観点から、好ましくは60以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは45以下であり、下限は特に設定されないが、経済性の観点から、好ましくは4以上である。前記低アスペクト比の微細セルロース繊維は、耐熱性に優れる。
【0147】
本発明の脱泡促進用組成物は、脱泡促進能向上の観点から、(A)成分を、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下、より好ましくは80質量%以下含有する。
【0148】
本発明の脱泡促進用組成物は、(B)油〔以下、(B)成分という〕を含有することができる。(B)成分は、脱泡促進に加え、本発明の脱泡促進用組成物を塗布して用いる場合の塗布性(以下、塗布性ともいう)の向上の観点でも、好ましい成分である。
【0149】
(B)成分としては、スクアラン、リモネン、ミルセン、α-ピネン、β-ピネン、カンフェン、ゲラニオール、リナロール、シトロネロール、ネロール、テルピネオール、メントール、シネオール、アスカリドール、ボルネオール、シトラール、ヨノン、シトロネラール、ペリラアルデヒド、カルボン、ジヒドロカルボン、ピペリトン、メントン、カンフル、ツヨン、ギ酸シトロネリル、酢酸シトロネリル、酢酸テルピニル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ベンジル、酢酸ボルニル、ファルネソール、ネロリドール、フムレン、カリオフィレン、カジノール、カジネン、フィトール、アビエチン酸等のテルペノイド;パラフィン系オイル、ナフテン系オイル等の鉱油;ヘキサデカン、流動パラフィン等の炭化水素;オレイン酸等の脂肪酸;コハク酸ジメチル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ラウリン酸ヘキシル、ラウリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸イソプロピル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、2-エチルヘキサン酸セチル、二(2-エチルヘキサン酸)2,2-ジメチル-1,3-ジイソプロピル、二カプリン酸2,2-ジメチル-1,3-ジイソプロピル、三(2-エチルヘキサン酸)1,2,3-トリイソプロピル、三カプリン酸1,2,3-トリプロピル、二カプリン酸1,3-ジプロピル、乳酸オクチルドデシル等のエステル;月見草油、大豆油等の植物油;フロリナートFC-40、FC-43、FC-72、FC-770(以上、3M社製)等のフルオロカーボン系オイル;KF-96-1cs、KF-96-10cs(以上、信越化学工業社製)等のシリコーン系オイル;を例示することができる。
【0150】
(B)成分は、塗布性の観点から、テルペノイド及び鉱油から選択される1種類以上が好ましい。
【0151】
(B)成分は、塗布性の観点から、20℃での粘度は、好ましくは300mPa・s以下、より好ましくは280mPa・s以下、更に好ましくは260mPa・s以下、より更に好ましくは200mPa・s以下、より更に好ましくは150mPa・s以下、より更に好ましくは100mPa・s以下であり、下限値は10mPa・s以上であってよい。(B)成分の粘度は、この粘度は、AntonPaar社製レオメータPhysica MCR301により、直径25mmのプレート治具を用いて、ギャップ0.5mm、回転数3,000rpm、20℃で測定されたものである。
【0152】
また、(B)成分の分子量は、例えば、50以上、更に100以上、そして、1000以下、更に500以下であってよい。
【0153】
本発明の脱泡促進用組成物は、塗布性の観点から、(B)成分を、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下含有する。
【0154】
本発明の脱泡促進用組成物は、塗布性の観点から、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との質量比である、(A)/(B)が、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、そして、好ましくは1以下、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.8以下である。
【0155】
本発明の脱泡促進用組成物は、(C)(A)成分及び油以外の高分子化合物〔以下、(C)成分という〕を含有することができる。この油は(B)成分である。従って、(C)成分は、(A)成分及び(B)成分以外の高分子化合物である。(C)成分は、成膜性及び膜の耐久性の観点で好ましい成分である。
【0156】
(C)成分としては、下記の(X)及び(Y)からなる群より選択される1種以上の高分子化合物であることがより好ましく、(X)の高分子化合物が更に好ましい。(X)、(Y)は、非硬化性の高分子化合物であってよい。(X)、(Y)は、の質量平均分子量としては、成膜性及び膜の耐久性の観点から、好ましくは1,000以上であり、同様の観点から、好ましくは50万以下である。
(X)主鎖にエステル基、アミド基、ウレタン基、アミノ基、エーテル基又はカーボネート基を有する高分子化合物
(Y)側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子
【0157】
〔(X)の高分子化合物〕
主鎖にエステル基を有する高分子化合物(X)としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸及びアルケニルコハク酸等のジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオールとの縮合物等が挙げられる。
【0158】
主鎖にアミド基を有する高分子化合物(X)としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸及びアルケニルコハク酸等のジカルボン酸と、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族ジアミン等のジアミンとの縮合物等が挙げられる。
【0159】
主鎖にウレタン基を有する高分子化合物(X)としては、トリレジンジイソシアネート、ジフェニルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオールとの重合物等が挙げられる。
【0160】
主鎖にアミノ基を有する高分子化合物(X)としては、エチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミン、ジメチルエチレンイミン、ペンチレンイミン、へキシレンイミン等のアルキルイミンの重合物等が挙げられる。
【0161】
主鎖にエーテル基を有する高分子化合物(X)としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシドの重合物、ホルムアルデヒドの重合物等が挙げられる。
【0162】
主鎖にカーボネート基を有する高分子化合物(X)としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のポリオールとホスゲンとの縮合物等が挙げられる。
【0163】
高分子化合物(X)は、成膜性及び膜の耐久性の観点から、好ましくは下記の(a)及び(b)からなる群より選択される1種以上の高分子化合物であり、(a)のポリアミド化合物がより好ましい。
(a)ポリアミド化合物
(b)ポリアルキレンイミン化合物
【0164】
(a)ポリアミド化合物
ポリアミド化合物としては、セルロース構造を有さず、かつ、アミド結合(-CONH-)を有する高分子化合物であれば、いかなる化学構造を有するポリアミド化合物を使用することもできる。ポリアミド化合物は、例えば、主として脂肪族骨格からなるナイロンであってもよいし、主として芳香族骨格をもつアラミドであってもよい。更にはこの両者以外の骨格構造を有するものでもよい。一方で好適に用いられる構造体としては、アミン化合物と、モノカルボン酸、ジカルボン酸及び重合脂肪酸からなる群より選択される1種以上のカルボン酸とからなるポリアミドが挙げられる。
【0165】
一方の原料であるカルボン酸においては、モノカルボン酸、ジカルボン酸及び重合脂肪酸を好適に用いることができる。
【0166】
また、他方の原料であるアミン化合物としては、ポリアミン、アミノカルボン酸、アミノアルコールなどが挙げられる。ポリアミンとしては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン、(オルト、パラ又はメタ)キシレンジアミン、ジフェニルメタンジアミンなどの芳香族ジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミンが挙げられる。アミノカルボン酸としては、メチルグリシン、トリメチルグリシン、6-アミノカプロン酸、δ-アミノカプリル酸、ε-カプロラクタムなどが挙げられる。アミノアルコールとしては、エタノールアミン、プロパノールアミンなどが挙げられる。
【0167】
これら原料として使用される各化合物は、それぞれ単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0168】
また、成膜性及び膜の耐久性の観点から、アミン化合物として、好ましくはポリアミンを含むアミン成分、より好ましくは、前記アミン化合物として、ジアミンと、トリアミン、テトラミン、ペンタミン及びヘキサテトラアミンからなる群から選ばれる1種以上とを併用するアミン成分を用いることができる。
【0169】
〔(Y)の高分子化合物〕
高分子(Y)、即ち、側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等のポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリN-メチル(メタ)アクリルアミド、ポリN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリN-フェニル(メタ)アクリルアミド等のポリ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0170】
本発明の脱泡促進用組成物は、成膜性の観点から、(C)成分として、硬化性樹脂〔以下、(C1)成分という場合もある〕を含んでいてもよい。本発明における硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂が挙げられ、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される1種以上が好ましい。(C1)成分は、プレポリマーを用いることもできる。
【0171】
硬化性樹脂がウレタン樹脂の場合、硬化性モノマーとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系やヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族系等のイソシアネートや、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルジオール、ヒドロキシエチルアクリレート、トリメチロールプロパン、ジメチロールプロピオン酸、イソホロンジアミン等のポリオールが挙げられる。イソシアネートとポリオールの反応物がウレタン樹脂となるが、この限りではない。列記したポリオールのオリゴマーや、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリオールを硬化性プレポリマーとして用いても良い。
【0172】
硬化性樹脂が(メタ)アクリル樹脂の場合、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸へキシル、メタクリル酸へキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタアクリル酸2-エチルヘキシル、ノナンジオールジアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ビスフェノールA-アルキレンオキサイド付加体の(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート等)、ポリエステル(メタ)アクリレート(例えば、脂肪族ポリエステル型(メタ)アクリレート、芳香族ポリエステル型(メタ)アクリレートなど)、ウレタン(メタ)アクリレート(ポリエステル型ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル型ウレタン(メタ)アクリレート等)、シリコーン(メタ)アクリレート、シアノアクリレート等のモノ(メタ)アクリレートなどの硬化性モノマーから得られたものが挙げられる。列記したモノ(メタ)アクリレートなどの硬化性モノマーのオリゴマーを硬化性プレポリマーとして用いても良い。
【0173】
硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、例えばビスフェノールA型、フェノールノボラック型、グリシジルエーテル型、脂環型、グリシジルアミン型、グリシジルエステル型などの硬化性モノマーから得られたものが挙げられる。列記した硬化性モノマーのオリゴマーを硬化性プレポリマーとして用いても良い。
【0174】
硬化性樹脂がユリア樹脂の場合、尿素とホルムアルデヒドなどの硬化性モノマーから得られたものが挙げられる。
硬化性樹脂がメラミン樹脂の場合、メラミンとホルムアルデヒドなどの硬化性モノマーから得られたものが挙げられる。
硬化性樹脂がフェノール樹脂の場合、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノールとホルムアルデヒドなどの硬化性モノマーから得られたものが挙げられる。
【0175】
硬化性プレポリマーの質量平均分子量としては、塗膜乾燥時のヒビ割れ抑制の観点から、好ましくは100以上、より好ましくは500以上、更に好ましくは1,000以上であり、一方、疎水変性セルロース繊維の分散性の観点と硬化性プレポリマーの溶媒への溶解性の観点から、該分子量としては、好ましくは30,000以下、より好ましくは15,000以下、更に好ましくは10,000以下である。
【0176】
本発明におけるより好ましい硬化性モノマー又は硬化性プレポリマーとしては、硬化速度の観点から、UV硬化反応により重合するUV硬化性樹脂である。具体的には、UV硬化性樹脂である(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂の硬化性モノマー又は硬化性プレポリマーが挙げられる。その中でも、疎水変性セルロース繊維との相互作用の強さの観点から、ウレタンアクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートが好ましいものとして挙げられ、耐熱性の観点からはビスフェノール型、脂環型のエポキシ樹脂が好ましいものとして挙げられる。また、膜の靱性の観点からは、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂のモノマー又はプレポリマーが好ましく、その中でも、疎水変性セルロース繊維との相互作用の強さの観点から、ウレタンアクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、脂肪族系イソシアネート、芳香族系イソシアネート、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0177】
UV硬化性樹脂の硬化性プレポリマーを使用する場合、必要に応じて、光重合開始剤を更に用いることが好ましい。かかる光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物、2,3-ジアルキルシオン類化合物類、ジスルフィド化合物、チウラム化合物類、フルオロアミン化合物等が挙げられる。より具体的には、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、ベンジルメチルケトン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0178】
本発明の脱泡促進用組成物が(C)成分を含有する場合、成膜性の観点から、該組成物は、(C)成分を、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、そして、好ましくは75質量%以下、より好ましくは50質量%以下含有する。
【0179】
本発明の脱泡促進用組成物が(C)成分を含有する場合、成膜性の観点から、該組成物は、(C)成分を、(A)成分に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、そして、好ましくは1000質量%以下、より好ましくは500質量%以下含有する。
【0180】
本発明の脱泡促進用組成物が(C1)成分を含有する場合、成膜性の観点から、該組成物は、(C1)成分を、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下含有する。
【0181】
本発明の脱泡促進用組成物が(C1)成分を含有する場合、成膜性の観点から、該組成物は、(C1)成分を、(A)成分に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、そして、好ましくは1000質量%以下、より好ましくは500質量%以下含有する。
【0182】
また、本発明の脱泡促進用組成物は、(D)重合反応により硬化性樹脂となる硬化性モノマー〔以下、(D)成分という〕を含有することもできる。(D)成分は、(C1)成分で挙げた硬化性モノマーを用いることができる。本発明の脱泡促進用組成物が(D)成分を含有する場合、成膜性の観点から、該組成物は、(D)成分を、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下含有する。
【0183】
本発明の脱泡促進用組成物の形態は、固体、液体のいずれであってもよい。
【0184】
次に、本発明の脱泡促進用組成物の製造方法について説明する。脱泡促進用組成物は、(A)成分及び任意の(B)成分、(C)成分、(D)成分などを含む混合物を攪拌することにより、製造することができる。これらの成分の混合はマグネティックスターラーを用いて実施しても良く、その場合の条件としては、例えば、回転数400rpm以上600rpm以下、温度15℃以上35℃以下、6時間以上24時間以下撹拌しても良く、温度20℃以上30℃以下で10時間以上16時間以下撹拌しても良い。
【0185】
<流体の発泡制御方法>
本発明の脱泡促進用組成物は、気泡を含む流体と接触させることで、接触部位で当該流体の泡を消失させることができる。
本発明により、気泡を含む流体を、本発明の脱泡促進用組成物と接触させ、接触位置で流体表面への気泡の表出を抑制する、流体の発泡制御方法が提供される。
本発明の流体の発泡制御方法には、本発明の脱泡促進用組成物で述べた事項を適宜適用することができる。
【0186】
本発明の流体の発泡制御方法では、前記流体を前記組成物から得た膜と接触させることが好ましい。膜は、独立した膜であってもよいし、支持体表面に形成された膜であってもよい。支持体の素材としては特に限定はないが、ガラス、樹脂、金属、セラミックス又はコンクリート等の硬質素材や、繊維、紙等の軟質素材でもよい。また、支持体の形状に特に限定はなく、板状、筒状、フイルム状、これらの組み合わせ等が例示できる。
【0187】
脱泡促進用組成物の膜の厚みとしては、脱泡促進向上の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上であり、そして、塗布性の観点から、好ましくは2,000μm以下、より好ましくは1,500μm以下、更に好ましくは1,200μm以下である。
【0188】
脱泡促進用組成物の膜は、例えば、本発明の脱泡促進用組成物をそのままあるいは適当な溶媒で希釈した塗工液として支持体に塗布することで形成できる。塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、ブラシコーティングなどが挙げられる。支持体表面と膜との密着性を向上させるために、必要に応じて、プライマー等の下地(下層体)を予め支持体表面上に塗布したり、形成させたりしてもよい。
【0189】
塗工液として用いる場合、塗布性の観点から、塗工液は、アルコール、グリコール、エーテル、カルボニル化合物等の分散媒を含有することができる。分散媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、石油エーテル、アセトン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0190】
塗工液が分散媒を含有している場合、塗工液中の分散媒の含有量は、(A)成分等を十分に分散させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。また、膜形成時間の短縮化の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0191】
塗工液が分散媒を含有する場合、形成された膜から分散媒を除去する工程を、塗膜後に実施することが好ましい。分散媒を除去ための具体的な方法は特に限定されず、例えば、減圧下又は常圧下で混合物の塗膜を乾燥させる方法が挙げられる。乾燥時の温度範囲としては、15℃以上75 ℃以下が好ましい。また、乾燥のための時間としては、1時間以上24時間以下が好ましい。分散媒は必ずしも完全に除去する必要はなく、膜の性能を妨げない程度に、膜に残存していても良い。
【0192】
塗工液は、塗布性の観点から、20℃での粘度が、好ましくは400mPa・s以下、より好ましくは350mPa・s以下、更に好ましくは300mPa・s以下、より更に好ましくは250mPa・s以下であり、下限値は10mPa・s以上であってよい。塗工液の粘度は、(B)成分と同様に測定されたものである。
【0193】
脱泡促進用組成物が(D)成分の硬化性モノマー又は(C1)成分の硬化性プレポリマーを含む場合、分散媒除去後に、硬化性モノマー又は硬化性プレポリマーを重合反応させることが好ましい。重合反応により、硬化性モノマー又は硬化性プレポリマーが硬化し、硬化性樹脂が形成する。硬化方法には、公知の方法、例えば、UV硬化、熱硬化、水分硬化等が挙げられ、用いる樹脂のタイプによって適宜選択すればよい。好ましくは、熱処理による有機媒体の流出の観点や反応時間の観点からUV硬化であり、更に好ましくは、膜厚硬化性の観点からカチオン型よりもラジカル型のUV硬化が好ましい。
【0194】
気泡を含む流体としては、硬化性組成物、樹脂組成物、セラミック組成物、食品組成物、鋳造組成物、塗料組成物、電子材料組成物、吐出組成物等が挙げられる。
【0195】
本発明の流体の発泡制御方法では、前記流体が、硬化性組成物、例えば、水硬性組成物であってよい。水硬性組成物は、本発明の好適な対象物である。
【0196】
<硬化体の製造方法>
本発明は、気泡を含む硬化性組成物を、本発明の脱泡促進用組成物が塗布された支持体と接触させて硬化させる、硬化体の製造方法に関する。本発明では前記組成物の膜が形成された支持体を用いることができる。
本発明の硬化体の製造方法には、本発明の脱泡促進用組成物及び流体の発泡制御方法で述べた事項を適宜適用することができる。支持体、組成物の塗布方法、膜の厚みなども本発明の流体の発泡制御方法と同じである。
【0197】
本発明の硬化体の製造方法では、前記支持体が、前記硬化性組成物を収容する型枠であってよい。
本発明の硬化体の製造方法では、前記硬化性組成物の硬化後、前記支持体を硬化体から分離してよい。
【0198】
本発明の脱泡促進用組成物を前述のように支持体表面、更に型枠表面に適用することにより、脱泡促進用組成物から得られた膜と接触する硬化体の表面美観を改善することができる。膜自体の耐久性に優れるためにその表面美観効果を長期間維持できることから、硬化体からなる各種用途の成形体に用いることができる。
【0199】
本発明の硬化体の製造方法では、前記硬化性組成物が水硬性組成物であってよい。従って、本発明の硬化体の製造方法として、気泡を含む水硬性組成物を、本発明の脱泡促進用組成物を塗布した型枠に充填し硬化させた後、得られた硬化体を型枠から脱型する、水硬性組成物の硬化体の製造方法が提供される。水硬性組成物は、セメントなどの水硬性粉体を含有する組成物であり、モルタル、コンクリートなどが挙げられる。これらの水硬性組成物は、公知のものであってよい。
【0200】
本発明の硬化体の製造方法では、硬化体の表面での気泡跡を低減することができる。すなわち、例えば、硬化性組成物の硬化後、型枠から硬化体を分離することにより、表面の気泡痕が低減された硬化体を製造することができる。このように、気泡を含む硬化性組成物を、脱泡促進用組成物から得られた塗膜と接触させて硬化させ、硬化体の表面での気泡痕を低減させることにより、硬化体の表面美観を改善することができる。従って、本発明により、気泡を含む硬化性組成物、例えば水硬性組成物を、本発明の脱泡促進用組成物から得られた塗膜と接触させて硬化させ、硬化体の表面での気泡痕を低減する、硬化体の表面美観改善方法が提供される。
【実施例
【0201】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。なお、この実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温」とは25℃を示す。
【0202】
〔アニオン変性セルロース繊維及び疎水変性セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比〕
測定対象のセルロース繊維に水を加えて、その含有量が0.0001質量%の分散液を調製する。該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital instrument社製、Nanoscope IITappingmode AFM;プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe(NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さ(繊維のあるところとないところの高さの差)を測定する。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。一般に、高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6×6の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析される高さを繊維径とみなすことができる。
【0203】
〔原料のセルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長〕
測定対象のセルロース繊維にイオン交換水を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定する。セルロース繊維を100本以上測定し、それらの平均ISO繊維径を平均繊維径をとして、平均ISO繊維長を平均繊維長として算出する。
【0204】
〔アニオン変性セルロース繊維及び疎水変性セルロース繊維のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維を100mLビーカーにとり、イオン交換水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製する。測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、AUT-701)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出する。
アニオン性基含有量(mmol/g)=[水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)]/[測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)]
【0205】
〔アニオン変性セルロース繊維のアルデヒド基含有量〕
ビーカーに、測定対象のセルロース繊維100.0g(固形分含有量1.0質量%)、酢酸緩衝液(pH4.8)、2-メチル-2-ブテン0.33g、亜塩素酸ナトリウム0.45gを加え常温で16時間撹拌して、アルデヒド基の酸化処理を行う。反応終了後、イオン交換水にて洗浄を行い、アルデヒド基を酸化処理した測定対象のセルロース繊維を得る。反応液を凍結乾燥処理し、得られた乾燥品のカルボキシ基含有量を上記アニオン性基含有量の測定方法で測定し、「酸化処理したアニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基含有量」を算出する。続いて、次式にて測定対象のアニオン変性セルロース繊維のアルデヒド基含有量を算出する。
アルデヒド基含有量(mmol/g)=(酸化処理したアニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基含有量)-(測定対象のアニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基含有量)
【0206】
〔分散液中の固形分含有量〕
ハロゲン水分計(島津製作所社製、商品名:MOC-120H)を用いて行う。サンプル1gに対して150℃恒温で30秒ごとの測定を行い、質量減少が0.1%以下となった値を固形分含有量とする。
【0207】
〔疎水変性セルロース繊維の修飾基の平均結合量及び導入率(イオン結合)〕
修飾基の結合量を次のIR測定方法により求め、下記式によりその平均結合量及び導入率を算出する。IR測定は、具体的には、乾燥させた疎水変性セルロース繊維を赤外吸収分光装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:Nicolet 6700)を用いATR法にて測定し、下記式A及びBにより、修飾基の平均結合量及び導入率を算出する。式A、Bはアニオン性基がカルボキシ基の場合、即ち、酸化セルロース繊維の場合を示す。以下の「1720cm-1のピーク強度」は、カルボニル基に由来するピーク強度である。なお、カルボキシ基以外のアニオン性基の場合はピーク強度の値を適宜変更し、修飾基の平均結合量及び導入率を算出すればよい。
【0208】
<式A>
修飾基の平均結合量(mmol/g)=a×(b-c)÷d
a:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
b:酸化セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
c:疎水変性セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
d:酸化セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
1720cm-1のピーク強度:カルボン酸のカルボニル基に由来するピーク強度
<式B>
修飾基の導入率(%)=100×e/f
e:修飾基の結合量(mmol/g)
f:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
【0209】
〔疎水変性セルロース繊維における結晶構造の確認〕
疎水変性セルロース繊維の結晶構造は、X線回折計(リガク社製、MiniFlexII)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
測定条件は、X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:30kv、管電流:15mA、測定範囲:回折角2θ=5~45°、X線のスキャンスピード:10°/minとする。測定用サンプルは面積320mm×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製する。また、セルロースI型結晶構造の結晶化度は得られたX線回折強度を、以下の式Cに基づいて算出する。
【0210】
<式C>
セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6-I18.5)/I22.6]×100
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
【0211】
〔疎水変性セルロース繊維におけるセルロース繊維量(換算量)〕
疎水変性セルロース繊維におけるセルロース繊維(換算量)は、以下の方法によって測定する。
(1)添加される「修飾基を導入するための化合物」が1種類の場合
セルロース繊維量(換算量)を下記式Eによって算出する。
<式E>
セルロース繊維量(換算量)(g)=疎水変性セルロース繊維の質量(g)/〔1+修飾基を導入するための化合物の分子量(g/mol)×修飾基の結合量(mmol/g)×0.001〕
【0212】
(2)添加される「修飾基を導入するための化合物」が2種類以上の場合
各化合物のモル比率(即ち、添加される化合物の合計モル量を1とした時のモル比率)を案分して、セルロース繊維量(換算量)を算出する。
【0213】
調製例1(アニオン変性セルロース繊維の調製)
針葉樹の漂白クラフトパルプ(ウエストフレザー社製、商品名:ヒントン)を原料のセルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウム、臭化ナトリウム及び水酸化ナトリウムは市販品を用いた。
【0214】
まず、メカニカルスターラー、テフロン(登録商標)製撹拌翼を備えた2LのPP製ビーカーに前記漂白クラフトパルプ繊維10g、イオン交換水990gをはかり取り、常温、100rpmで30分撹拌した。その後、該パルプ繊維10gに対し、TEMPO0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液35.5gをこの順で添加した。自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名:AUT-701)でpHスタット滴定を用い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持した。撹拌速度100rpmにて反応を常温で120分行った後、水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、アニオン変性セルロース繊維の懸濁液を得た。
【0215】
得られたアニオン変性セルロース繊維の懸濁液に0.01Mの塩酸を加えてpH=2とした後に、イオン交換水を用いて、コンパクト電気伝導率計(堀場製作所製、LAQUAtwinEC-33B)によるろ液の電導度測定において200μs/cm以下になるまで十分に洗浄し、次いで脱水処理を行って、アニオン変性セルロース繊維を得た。得られたアニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基含有量は1.50mmol/g、アルデヒド基含有量は0.23mmol/gであった。
【0216】
調製例2(微細化されたアニオン変性セルロース繊維の調製)
調製例1で最終的に得られたアニオン変性セルロース繊維の懸濁液(固形分含有量2.0質量%)100gを調製し、これに0.5M水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH=8に調整後、イオン交換水を加えて合計200gとした。この懸濁液に、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、商品名:ナノヴェイタL-ES)を用いて150MPaで微細化処理を3回行い、微細化されたアニオン変性セルロース繊維の分散液(固形分含有量1.0%)を得た。この微細化されたアニオン変性セルロース繊維が有するカルボキシ基のカウンターイオンはナトリウムイオンであり、「TCNF(Na型)」と略記する。
【0217】
製造例1(疎水変性セルロース繊維の製造)
マグネティックスターラー、攪拌子を備えたビーカーに、調製例で得られた微細化アニオン変性セルロース繊維をイソプロパノールに溶媒置換した分散液300g(固形分含有量2.0質量%)を仕込んだ。続いて、アミノ変性シリコーン(東レ・ダウコーニング株式会社製「SS-3551」;「シリコーン1」と略記する。)を、該アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミノ基0.5molに相当する量を仕込み、イソプロパノール100gを添加し、これらの混合物を常温(25℃)で14時間撹拌して反応させた。反応終了後ろ過し、得られたケークをイソプロパノールにて洗浄後、ホモジナイザー(プライミクス社製、商品名:T.K.ロボミックス)にて5000rpm、5分間攪拌後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、商品名:ナノヴェイタL-ES)にて150MPaで10パス処理させることで、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を得た。修飾基の導入率はアニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基の40%であった。この疎水変性セルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、平均繊維長は578nm、結晶化度は30%であった。
【0218】
実施例1~10及び比較例1~5
(1)用いた成分
(A)成分
・製造例1で得られた疎水変性セルロース繊維
(B)成分
・スクアラン:粘度(20℃)27.8mPa・s、富士フイルム和光純薬株式会社製
(鉱油)
・パラフィン系原料油:コスモピュアスピンE、粘度(20℃)7.2mPa・s、コスモ石油ルブリカンツ株式会社製
・パラフィン系マシン油(1):コスモピュアセイフティー(グレード22)、粘度(20℃)58.8mPa・s、コスモ石油ルブリカンツ株式会社製
・パラフィン系マシン油(2):コスモピュアセイフティー(グレード32)、粘度(20℃)92.6mPa・s、コスモ石油ルブリカンツ株式会社製
(C)成分
・ポリアミド:下記製造例2で得られたポリアミド
・硬化性プレポリマー:ウレタンアクリレート、日本合成化学社製「紫光UV-7000B」(Mw3500)
(分散媒)
・イソプロパノール:関東化学株式会社製
・トルエン:富士フイルム和光純薬株式会社製
【0219】
製造例2(ポリアミドの製造)
炭素数36のダイマー酸(ハリダイマー250K、ハリマ化成株式会社製、Cas番号61788-89-4、100%(C36Dimer acid))450gを2Lセパラフラスコにとり、70℃に昇温した後に窒素置換を行った。その後、エチレンジアミン45g、ジエチレントリアミン5gを徐々に添加し、添加後に内温が145℃になるまで昇温を行った。145℃で1時間撹拌した後に、内温を210℃に昇温し、6時間撹拌を行った。その後、内温を210℃に保ったまま、内圧を45KPaになるまで真空ポンプを用いて減圧を行い、0.5時間撹拌を行い、ポリアミドを調製した。質量平均分子量は33,000であった。なお、ポリアミドにおけるジエチレントリアミンの含有率は3.0モル%であった。また、(C)成分であるポリアミドの分子量は以下の方法で測定した。
【0220】
*ポリアミドの分子量測定方法
質量平均分子量(Mw)は、日立L-6000型高速液体クロマトグラフィーを使用し、ゲル・パーミッション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。溶離液流路ポンプは日立L-6000、検出器はショーデックスRISE-61示差屈折率検出器、カラムはGMHHR-Hをダブルに接続したものを用いた。サンプルは、溶離液で0.5g/100mLの濃度に調整し、20μLを用いた。溶離液には、1mmol/LのファーミンDM20(花王株式会社製)のクロロホルム溶液を使用した。カラム温度は40℃で、流速は1.0mL/分で行った。検量線の作成のための標準ポリマーとしては、ポリスチレン(東ソー株式会社製)を使用した。
【0221】
(2)脱泡促進用組成物の塗工液の調製
前記成分を用いて次のようにして脱泡促進用組成物の塗工液を調製した。
表2に示す組成の質量比になるように、(A)成分、必要に応じて(B)成分、(C)成分を採取し、更に分散媒をスクリュー管内に配合した。分散媒は、実施例6では、トルエン/イソプロパノールの95/5(質量比)混合物を用い、他の実施例及び比較例5では、イソプロパノールを用いた。ただし、比較例1~4は、分散媒を用いず脱泡促進用組成物をそのまま塗工液として用いた。なお、(C1)成分の硬化性プレポリマーを用いる場合は、更に光重合開始剤の1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを硬化性プレポリマーに対して4質量%配合した。次いで、スクリュー管の内容物を、マグネティックスターラーの回転数:500rpm、常温(25℃)で12時間撹拌した。その後、自動公転式攪拌機(シンキー社製、あわとり練太郎)を用いて2200rpmで2分撹拌して脱泡し、脱泡促進用組成物の塗工液を得た。分散媒を用いた塗工液では、(A)~(C)成分の合計濃度は、3質量%であった。
【0222】
(3)塗工液粘度の測定
(2)の方法で調製した塗工液の粘度を、AntonPaar社製レオメータPhysica MCR301により、直径25mmのプレート治具を用いて、ギャップ0.5mm、回転数3,000rpm、20℃で測定した。結果を表2に示す。なお、比較例1~4は、(B)成分そのものの粘度である。
【0223】
(4)型枠の調製
得られた脱泡促進用組成物の塗工液ないし比較例1~4の脱泡促進用組成物を、円柱鋼製型枠(高さ10cm、内径4cm)に、化粧用ハンディスプレー(25mL、株式会社アーテック製)を用いて厚み(湿潤厚み)が1000μmになるように塗布した。次いで、脱泡促進用組成物の塗工液を常温・常圧で24時間乾燥させた。塗工液に分散媒を用いたものはこの操作により分散媒を揮発させた。次いで、硬化性プレポリマーを配合した脱泡促進用組成物に対してのみ、UV照射機(FUSION UV SYSTEMS JAPAN社製、UV-1100-G)を用いて、速度15.8cm/min、出力90%、ランプ高さ67mm、2Passの条件でUV照射して該硬化性プレポリマーを重合・硬化させた。最終的な塗布厚みは、いずれの例においても50μmであった。
【0224】
(5)モルタルの調製
表1の配合でモルタルを調整した。該モルタルは、セメントと砂を混合したものに、水、分散剤、消泡剤を混合した水溶液を加えて、JISR 5201に規定されるモルタルミキサーを使用してモルタルを60rpmで60秒混練した後に120rpmで60秒混錬して調製した。分散剤としては、マイテイ 21VS(花王株式会社製)を使用し、分散剤の添加量は、JIS R 5201に記載のフローコーン(上径70mm×下径100mm×高さ60mm)を使用してモルタルフローが200±10mmとなるように調整し、いずれの実施例、比較例においても有効固形分質量部で対粉体として0.2質量部であった。また消泡剤としては、消泡剤No.21(花王株式会社製)を使用し、消泡剤の添加量は、ステンレス製の容器(内径7.5cm、内高8.0cm、重さ1.0kg)にモルタルを充填し、巻き込み空気を抜いて質量法により測定した空気量が1.0%±0.5%となるように消泡剤の添加量を調整し、いずれの実施例、比較例においても対粉体質量部で0.007質量部であった。
【0225】
【表1】
【0226】
モルタルの調製に使用した成分は以下の通りである。
・セメント:太平洋セメント(株)製普通ポルトランドセメントと住友大阪セメント(株)製普通ポルトランドセメントの1:1(質量比)混合物、比重3.16
・砂:京都府城陽産 表乾比重2.50
・水:水道水(表1中、水の含有量は、分散剤と消泡剤の添加量を含む)
【0227】
(6)モルタル硬化体の表面美観の評価
調製したモルタルを、(4)で調製した、表2に記載の脱泡促進用組成物を塗布した円柱鋼製型枠(高さ10cm、内径4cm)に、テーブルバイブレータ(株式会社関西機器製作所製)を用いて2500vpmの振動下で、30秒間で充填し、24時間、20℃の気中養生で硬化させ脱型した。このモルタルの型枠への充填及び脱型は、脱泡促進用組成物ごとに2個ずつ実施した。モルタル硬化体表面を、デジタルカメラで撮影縮尺を記録した上で撮影し、撮影した画像を、画像処理オープンソースソフトウェアのImageJを用いて画像解析を行った。撮影した画像の表面気泡径を、撮影縮尺を参考に実寸に換算し、表面積10,000mm当たりの硬化体表面気泡総表面積を算出し、表面美観の指標として表2に示した。表2中の値は、2つのモルタル硬化体ごとに各表面を撮影して、測定した値を平均したものである。硬化体表面気泡総表面積の値が小さいほど表面美観に優れていると言えるため好ましい。
【0228】
【表2】
【0229】
(考察)
(A)成分の疎水変性セルロース繊維を含有しない比較例の脱泡促進用組成物に比べ、(A)成分の疎水変性セルロース繊維を含有する実施例の脱泡促進用組成物では、硬化体表面の気泡総表面積の値が小さくなり、表面気泡痕が少ない、つまり、表面美観性に優れることが分かる。なお、実施例、比較例では消泡剤を用いているが、これはモルタル中の空気量の調整に用いたものであり、比較例での表面気泡が低減していないことからわかるように、この評価では、脱泡の促進に寄与するものではない。また、脱泡促進用組成物を用いずに硬化体を製造すると脱型が困難となり、表面美観(気泡総表面積)を評価できない。また、例えば、市販の離型剤を用いた場合は、気泡総表面積の値は比較例と同等となる。