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特許7280997画像処理装置及び磁気共鳴イメージング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】画像処理装置及び磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20230517BHJP
【FI】
A61B5/055 380
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022073213
(22)【出願日】2022-04-27
(62)【分割の表示】P 2018160616の分割
【原出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2022105103
(43)【公開日】2022-07-12
【審査請求日】2022-04-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業 認知症の早期診断・早期治療のための医療機器開発プロジェクト」「QSMとVBMのハイブリッド撮像・解析による認知症の早期診断MRI」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良太
(72)【発明者】
【氏名】工藤 與亮
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】河田 康雄
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-108789(JP,A)
【文献】特開2018-075075(JP,A)
【文献】特開2017-064175(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022136(WO,A1)
【文献】特開2008-142368(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0292166(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/28 - 33/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体から発生する磁気共鳴信号に基づいて生成された複数の複素画像の少なくとも一の複素画像に対して組織分割処理を行って、予め定めた特定組織に係る組織画像を算出する組織分割処理部と、
前記複数の複素画像うち、少なくとも一つの複素画像に含まれる所定組織の磁化率を示す磁化率画像を算出する磁化率画像算出部と、
前記磁化率画像上の静脈に係る領域を除去した静脈除去磁化率画像を算出する静脈除去処理部と、
前記静脈除去磁化率画像及び前記組織画像に基づいて前記特定組織の磁化率を算出する磁化率算出部と、
を備え
前記静脈除去処理部が、個人アトラス画像を算出し、該個人アトラス画像を用いて、前記磁化率画像に対して石灰化領域除去処理を行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記静脈除去処理部が、静脈マスク画像を算出し、静脈マスク画像を用いて静脈除去磁化率画像を算出することを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記静脈除去処理部が、線分強調処理した磁化率画像に対して閾値処理することで静脈マスク画像を算出することを特徴とする請求項2記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記静脈除去処理部が、個人アトラス画像を算出し、該個人アトラス画像を用いて、前記磁化率画像に対して静脈除去処理を行う請求項1記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記特定組織の磁化率に基いて予め定めた疾患を診断するための診断指標を算出する診断指標算出部と、を備えた請求項1記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記特定組織が灰白質である請求項1記載の画像処理装置。
【請求項7】
静磁場中に置かれた被検体に高周波磁場パルス及び傾斜磁場を印加することにより、前記被検体から発生する磁気共鳴信号を計測する計測部と、
前記磁気共鳴信号に基づいて画像を再構成する画像再構成部と、
前記画像から予め定めた疾患を診断するための診断指標を算出する画像処理部と、を備え、
該画像処理部が、
被検体から発生する磁気共鳴信号に基づいて生成された複数の複素画像の少なくとも一の複素画像に対して組織分割処理を行って、予め定めた特定組織に係る組織画像を算出する組織分割処理部と、
前記複数の複素画像うち、少なくとも一つの複素画像に含まれる所定組織の磁化率を示す磁化率画像を算出する磁化率画像算出部と、
前記磁化率画像上の静脈に係る領域を除去した静脈除去磁化率画像を算出する静脈除去処理部と、
前記静脈除去磁化率画像及び前記組織画像に基づいて前記特定組織の磁化率を算出する磁化率算出部と、を備え、
前記静脈除去処理部が、個人アトラス画像を算出し、該個人アトラス画像を用いて、前記磁化率画像に対して石灰化領域除去処理を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記複数の複素画像は1つのパルスシーケンスから得られることを特徴とした請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記パルスシーケンスはグラディエントエコー型のパルスシーケンスに基づいて、エコー時間の異なる少なくとも2つの磁気共鳴信号を計測することを特徴とする請求項8記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記組織画像は最短TEの複素画像を用いて算出し、前記磁化率画像は最長TEを含む少なくとも一つ以上の複素画像から算出することを特徴とする請求項8記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
前記パルスシーケンスは、最短TEが5ms以下、最長TEが20ms以上であることを特徴とする請求項10記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
前記パルスシーケンスは、フリップ角が最短TEにおける灰白質と白質のコントラスト対ノイズ比が最大となる値に設定することを特徴とする請求項9記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
前記パルスシーケンスは、フリップ角が30度以上となる値に設定することを特徴とする請求項12記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
前記静脈除去処理部が、静脈マスク画像を算出し、静脈マスク画像を用いて静脈除去磁化率画像を算出することを特徴とする請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項15】
前記静脈除去処理部が、線分強調処理した磁化率画像に対して閾値処理することで静脈マスク画像を算出することを特徴とする請求項14記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項16】
前記静脈除去処理部が、個人アトラス画像を算出し、該個人アトラス画像を用いて、前記磁化率画像に対して静脈除去処理を行う請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項17】
前記特定組織の磁化率に基いて予め定めた疾患を診断するための診断指標を算出する診断指標算出部と、を備えた請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項18】
前記特定組織が灰白質である請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、画像処理方法、画像処理プログラム及び磁気共鳴イメージング装置に係り、特に、磁気共鳴イメージング装置によって撮影された被検体内の組織を表す再構成像に対して所定の画像処理を施す技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)は、静磁場内に置かれた被検体に高周波磁場、傾斜磁場を印加し、核磁気共鳴により被検体から発生する信号を計測して診断に供する医用画像を取得する装置である。
MRI装置は、腫瘍や認知症など様々な疾患の画像診断に有用である。例えば、アルツハイマー病(Alzheimer‘s disease、AD)の診断では、組織構造の描出に優れるT1強調画像を用いて、病理学的変化の一つである脳萎縮を視覚的に評価することができる。また、VSRAD(Voxel-Based Specific RegionalAnalysis System for Alzheimer’s Disease)などの診断支援ソフトを用いることで、萎縮の程度を定量評価することもできる。
【0003】
しかしながら、一般的にT1強調画像による形態診断のみでは、脳容積に特徴的な変化が生じる前の病期において正確な診断を行うことは困難と考えられる。
近年、位相画像が組織間の磁化率差を反映することを利用し、位相画像から生体内の磁化率分布を推定する定量的磁化率マッピング(QSM:Quantitatively Susceptibility Mapping)法が提案されている。QSM法は、ADの早期で生じる鉄沈着を捉える方法として期待されている。
【0004】
例えば、非特許文献1では、QSM法で算出した脳内の磁化率についてAD患者と健常人とを比較し、AD患者における基底核や皮質などの磁化率が健常人に比べて大きいことを利用して診断する手法が開示されている。また、非特許文献1では、QSM画像とは別にT1強調画像も撮影し、磁化率の評価に用いない脳脊髄液(cerebrospinal fluid、CSF)の除去や、異なる被験者を同一座標(標準脳座標)で評価するための解剖学的標準化に使用することについて開示されている。具体的には、非特許文献1に開示された手法では、T1強調画像に対して組織分割処理を行い、灰白質と白質のボクセル内存在確率を表す灰白質画像と白質画像を算出する。次に、灰白質画像、白質画像及び磁化率画像に対してそれぞれ解剖学的標準化を行い、灰白質・白質領域の磁化率抽出や容積評価を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kim HGほか、Quantitative susceptibility mapping to evaluate the early stage of Alzheimer’s disease、Neuroimage Clinical 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した非特許文献1に開示された手法では、T1強調画像と磁化率画像とを別々に撮影しているため、領域毎の磁化率抽出や容積評価を行うに際して両者の位置合わせ処理が必要となり、位置合わせ誤差や計算時間増大が生じる。また、灰白質画像と白質画像を同時に磁化率画像にかけあわせているため、灰白質領域と白質領域の磁化率の情報が混在してしまう。また、同一の灰白質画像を用いて磁化率抽出と脳容積評価を行っているため、磁化率に容積情報が混在する場合や、脳容積を適切に評価できない場合がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、容積情報や灰白質・白質の磁化率情報を高精度に抽出して、高精度な診断指標を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、被検体から発生する磁気共鳴信号に基づいて生成された複数の複素画像の少なくとも一の複素画像に対して組織分割処理を行って、予め定めた特定の組織に係る組織画像を算出する組織分割処理部と、前記複素画像から該複素画像に含まれる所定組織の磁化率を示す磁化率画像を算出する磁化率画像算出部と、前記磁化率画像及び前記組織画像に対して解剖学的標準化処理を行って標準磁化率画像及び標準組織画像を算出すると共に、該標準組織画像に容積補正を行った容積補正標準組織画像を算出する解剖学的標準化処理部と、前記標準磁化率画像及び前記標準組織画像に基づいて前記特定組織の磁化率を算出する磁化率算出部と、前記特定組織の磁化率及び前記容積補正標準組織画像に基づいて予め定めた疾患を診断するための診断指標を算出する診断指標算出部と、を備えた画像処理装置を提供する。
また、本発明の他の態様は、上記画像処理装置を備えた磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、容積情報や灰白質・白質の磁化率情報を高精度に抽出して、高精度な診断指標を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る画像処理装置を適用したMRI装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る画像処理装置の概略構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係るMRI装置による計測シーケンスのタイムチャートを示す参考図である。
図4】本発明の実施形態に係るMRI装置の画像処理部において処理の流れに沿って生成される画像等を表した参考図である。
図5】本発明の実施形態に係るMRI装置の画像処理部において処理によって生成される画像の一例を示す参考図である。
図6】本発明の実施形態に係るMRI装置におけるMRI装置による撮像処理流れを示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態に係るMRI装置の画像処理部による診断指標算出までの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る画像処理装置は、被検体から発生する磁気共鳴信号に基づいて生成された複数の複素画像の少なくとも一の複素画像に対して組織分割処理を行って、予め定めた特定の組織に係る組織画像を算出する組織分割処理部と、複素画像から複素画像に含まれる所定組織の磁化率を示す磁化率画像を算出する磁化率画像算出部と、磁化率画像及び組織画像に対して解剖学的標準化処理を行って標準磁化率画像及び標準組織画像を算出すると共に、標準組織画像に容積補正を行った容積補正標準組織画像を算出する解剖学的標準化処理部と、標準磁化率画像及び標準組織画像に基づいて特定組織の磁化率を算出する磁化率算出部と、特定組織の磁化率及び容積補正標準組織画像に基づいて予め定めた疾患を診断するための診断指標を算出する診断指標算出部と、を備えている。
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照してより詳細に説明する。
本実施形態では、一例として、上記した画像処理装置を水平磁場方式のMRI装置に適用した例について説明する。
【0013】
図1に示すように、MRI装置101は、被検体に平行な方向に静磁場を発生するマグネット201、傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル202、シーケンサ204、傾斜磁場電源205、高周波磁場発生器206、高周波磁場を照射するとともに核磁気共鳴信号(エコー)を検出するプローブ207、受信器208、演算部209、表示装置210、及び記憶装置211を備えている。
なお、本実施形態において、MRI装置101の静磁場方向をz方向、それに垂直な2方向のうち、寝台における被検体の載置面に平行な方向をx方向、他方向をy方向とする座標系を用いる。
【0014】
寝台(テーブル)等に生体等の被検体203が載置され、マグネット201によって発生する静磁場空間内に配される。なお、本実施形態においては、生体の頭部を撮影対象とし、撮影された画像を用いて認知症、アルツハイマー病等の脳疾患に関する診断を行うこととして説明する。
【0015】
シーケンサ204は、後述する演算部209からの指示に従って、傾斜磁場電源205及び高周波磁場発生器206に命令を送り、それぞれ傾斜磁場及び高周波磁場を発生させる。発生された高周波磁場は、プローブ207を通じて被検体203に印加される。被検体203から発生したエコーはプローブ207によって受波され、受信器208で検波が行われる。
【0016】
受信器208は、検波の基準となる核磁気共鳴周波数(検波基準周波数f0)に従って検波を行う。なお、検波の基準となる核磁気共鳴周波数は、シーケンサ204によりセットされる。受信器208は、検波した信号を演算部209に出力する。このとき、必要に応じて、記憶装置211に検波された信号や測定条件、信号処理後の画像情報などを記憶させてもよい。
シーケンサ204は、予めプログラムされたタイミング、強度で各部が動作するように制御を行う。プログラムのうち、特に、高周波磁場、傾斜磁場、信号受信のタイミングや強度を記述したものはパルスシーケンスと呼ばれる。
【0017】
本実施形態では、位相画像から得られる磁場変化に基づいて磁化率を算出するため、位相をずらしたエコーを少なくとも一つ取得するパルスシーケンスを用いる。以下の説明においては、特に、磁場強度の空間分布の不均一性に応じた信号が得られるGrE(Gradient Echo)系のパルスシーケンスを用いることとする。GrE系のパルスシーケンスには、例えば、RSSG(RF-spoiled-Steady-state Acquisition with Rewound Gradient-Echo)シーケンスがある。
【0018】
演算部209は中央処理装置(CPU)として機能し、MRI装置全体を制御する。すなわち、入力装置212を介して入力された又は予め設定された撮像条件(計測パラメータとパルスシーケンス)に従って、エコーの計測を行うようシーケンサ204を制御する。さらに、演算部209は、計測によって得られたエコーに対して画像再構成や磁化率画像の算出を含む所定の演算処理を行い、処理後の画像を表示装置210に表示させる。また、必要に応じて、処理後の画像上にROIを設定し、ROI内の画素の統計値を算出する。
【0019】
このため、図1及び図2に示すように、演算部209は、計測部300、画像再構成部400、画像処理部500及び表示制御部600の機能を実現する。なお、これらの演算部209が実現する各部の機能は、演算部209が予め記憶装置211等のメモリに格納されたプログラムを読み込んで実行することによりソフトウエアとして実現することができる。また、演算部209に含まれる各部が実行する動作の一部又は全部を、ASIC(application specific integrated circuit)やFPGA(field-programmable gate array)により実現することもできる。
【0020】
計測部300は、各種の計測パラメータが設定され、撮像開始の指示を受け付けると、予め定められたパルスシーケンスに従って、シーケンサ204に指示を行い、エコー信号を取得し、得られたエコー信号をk空間に配置する。
【0021】
図3に、計測部300によってシーケンサ204に指示される計測シーケンスのタイムチャートの一例を示す。図3に示す計測シーケンス710は、グラディエントエコー(GrE)型のパルスシーケンスである。計測シーケンス710において、RFはRFパルスの、Gsはスライス選択傾斜磁場の、Gpは位相エンコード傾斜磁場の、Grは読み出し傾斜磁場の、それぞれ印加タイミングをそれぞれ示す。また、最初のエコー時間をt、その後のエコー時間の間隔(エコー間隔)をΔtとする。エコーは、エコー信号の取得タイミングを示す。
【0022】
計測シーケンス710では、1回の繰り返し時間TR内に以下の手順でエコー信号の計測を行う。計測部300は、短いエコー時間(例えば4ミリ秒、最短TEとよぶ)で実現可能なT1強調画像化法と、長いエコー時間(例えば30ミリ秒、最長TEとよぶ)で実現可能なQSM法を1つのシーケンスで両立させるため、異なるエコー時間で2つ以上のエコーを取得する。
【0023】
図3に示すように、本実施形態においては、一例として、1つのシーケンスにおいて4つの異なるエコー時間でエコー信号を取得することする。以下、エコー時間tで取得されたエコー信号を第1エコー信号、第1エコー信号から得られる複素画像を第1原画像とし、以下、同様に、第2エコー信号、第3エコー信号、第4エコー信号、第2原画像、第3原画像及び第4原画像とする。なお、異なるエコー時間の数、すなわち原画像の数は4つに限らず、任意である。また、k空間において回転状にデータを取得するラジアルスキャンなど、ノンカーテシアン撮像を用いてもよい。
【0024】
画像再構成部400は、計測部300の指示に従って計測した複数のエコー時間についての各エコー信号から画像を再構成する画像再構成処理を行う。本実施形態では、画像再構成部400は、画像再構成処理により各画素値が複素数となる複素画像を取得する。
【0025】
画像処理部500は、得られた複素画像に基づいて灰白質画像や磁化率画像を算出する等後述する種々の画像処理を行う。画像処理部500の詳細及び画像処理部500における画像処理の流れについては後述する。
表示制御部600は、画像処理部500によって得られた灰白質画像や磁化率画像等を含む種々の画像を濃淡画像として表示装置210に表示させる。
【0026】
以下、より詳細に画像処理部500の詳細について説明する。
図1及び図2に示すように、画像処理部500は、上記処理を実行するため、組織分割処理部501、磁化率画像算出部502、静脈除去処理部503、解剖学的標準化処理部504、磁化率算出部505及び診断指標を算出する診断指標算出部506を備えている。図4に、画像処理部500において処理の流れに沿って算出される画像等を表した参考図を示す。
【0027】
組織分割処理部501は、組織分割処理を行い、画像再構成部400において取得された複素画像400Aを灰白質領域、白質領域、脳脊髄液領域などの組織画像に分割する。各組織画像における画素値は0から1の範囲の値であり、各組織(灰白質、白質、脳脊髄液)の存在確率を表す。組織分割処理には、先行研究(Good他、A voxel-based morphometric study of ageing in 465 normal adult human brains、Neuroimageなど)で用いられている公知の方法を用いる。
【0028】
本実施形態では、1つのパルスシーケンス内で得られる複数の複素画像(第1原画像~第4原画像)のうち、第1原画像に対して組織分割処理を行うこととし、組織分割処理により得られた各種画像のうち、灰白質画像510Aを後の処理に用いる例について説明する。
【0029】
磁化率画像算出部502は、入力された画像から磁化率画像を算出する。磁化率画像の算出は、例えば、公知の方法(例えば、Sato他、Quantitative Susceptibility Mapping Using the Multiple Dipole-Inversion Combination with k-space Segmentation Method、Magnetic Resonance in Medical Sciencesに記載)を用いて行う。本実施形態においては、最終エコーである第4原画像(絶対値画像と位相画像)を用いて磁化率画像520Aを算出する。
【0030】
磁化率画像の算出は、具体的には、以下のように行われる。磁化率画像処理部502は、まず閾値処理などにより、第4原画像の絶対値画像から脳領域を定義するマスク画像を算出する。マスク画像は、脳領域を1、その他の領域を0とした二値画像である。次に、領域拡大法などにより、位相画像をアンラップ処理する。
【0031】
次に、アンラップ処理した位相画像に対して、体内外の磁化率差などに起因する大域的な磁場変化を除き、生体組織間の磁化率差などに起因する局所磁場を算出する背景磁場除去処理を行う。本実施形態では、例えば、公知のRESHARP(regularization enabled sophisticated harmonic artifact reduction for phase data)法を用いて背景磁場除去処理を行う。
【0032】
その後、磁場変化と磁化率分布の関係式に基づき磁化率を算出する。本実施形態では、例えば、磁場と磁化率との関係式に基づく制約条件下で、磁場分布から算出した磁化率分布に対して平滑化処理を行うことを繰り返す方法(本発明者らによる特許第6289664号公報記載)を用いる。又は、MUDICK(multiple dipole-inversion combination with k-space segmentation)法とよばれるk空間の領域ごとに異なる処理を適用して磁化率を算出する手法で求めることもできる。又は、正則化とよばれる制約項を用いた方法などを用いてもよい。
【0033】
なお、本実施形態では第4の原画像を用いて磁化率画像を算出したが、第1原画像~第4原画像の何れの原画像を用いて磁化率画像を算出してもよい。また全画像を用いて、磁化率画像を算出してもよい。複数のエコー時間から磁化率画像を算出する方法は、公知の方法(例えば、Wu他、Fast and tissue-optimized mapping of magnetic susceptibility and T2* with multi-echo and multi-shot spirals、NeuroImage)を用いる。全画像を用いた場合、一つの画像に比べて一般的に計算時間が増大するが、ノイズが低減した磁化率画像が得られる。
【0034】
静脈除去処理部503は、磁化率画像上の静脈を除去するものであり、図2に示すように、個人アトラス画像算出部531、領域画像算出部532、静脈除去部533、除去領域選択部534を備えている。
個人アトラス画像算出部531は、標準脳上で定義されている一般的なアトラス画像を逆変換することにより個人アトラス画像を算出する。つまり、解剖学的標準化で行われる各被験者の脳画像を標準脳座標系に当てはめる変換処理と逆の変換処理を行うことにより個人アトラス画像を算出する。
【0035】
この逆変換処理の際に用いるパラメータは、解剖学的標準化処理と同様のパラメータを用いることができる。又、逆変換を行う際は、本実施形態では最近傍補間により補間処理を行う。算出した個人アトラス画像を用いることで、磁化率画像と同じ座標上に、解剖学的に定義された領域の場所を同定することができる。アトラス画像は、例えばAAL(Automated Anatomical Labeling)アトラスを用いる。
【0036】
領域画像算出部532は、個人アトラス画像算出部531によって得られた個人アトラス画像に対して、基底核領域のみを1とし、それ以外を0とする基底核マスク画像を算出すると共に、基底核以外の脳領域を1、それ以外を0とする基底核外マスク画像を算出する。
【0037】
本実施形態における基底核マスク画像は、個人アトラス画像上で、被殻、尾状核、淡蒼球、視床と定義されている基底核領域の画素値を1、その他の領域を0とする。基底核外マスク画像は、磁化率画像処理部502で算出したマスク画像から基底核マスク画像を画素ごとに減算処理した画像とする。このように生成した基底核マスクや基底核外マスクを用いることにより、磁化率画像内の所定の構造に係る領域を分離した画像を抽出して後の処理に用いることができる。
【0038】
静脈除去部533は、磁化率画像に対して次のような処理を行うことにより、磁化率画像から静脈を除去し静脈除去磁化率画像530Aを取得する。つまり、静脈除去部は、まずソーベルフィルタ等を用いて、磁化率画像に対して線分強調処理をスライス毎に実施し、静脈領域を強調した画像を作成する。この処理によって線分領域が強調されるため、静脈に加えて白質と灰白質の境界も強調される。
【0039】
次に、線分領域が強調された磁化率画像に対して閾値処理を実施して静脈のみを抽出し、静脈マスク画像を得る。静脈マスク画像は、静脈領域が1、その他の領域が0となる。本実施形態における閾値は、0.03ppmとし、閾値以上の領域を1、閾値以下の領域を0とする。
【0040】
最後に、磁化率画像において、静脈マスク画像によって判別された静脈領域の磁化率を周辺画素の平均値でおきかえ、静脈除去磁化率画像530Aを得る。この処理では、静脈領域の画素ごとにカーネルを設定し、該当画素値を、カーネル内の静脈領域以外の平均画素値とする。本実施形態におけるカーネルサイズは、7×7ピクセルとする。
【0041】
除去領域選択部534は、必要に応じて静脈除去磁化率画像に基づいて選択的静脈除去磁化率画像を算出する。選択的静脈除去磁化率画像は、磁化率画像と基底核マスク画像をかけあわせた画像、静脈除去磁化率画像と基底核外マスク画像をかけあわせた画像を足しあわせることにより算出する。
【0042】
図5に、磁化率画像と、静脈除去処理部503によって生成される静脈除去磁化率画像及び選択的静脈除去磁化率画像とを示す。また、各画像における除去領域を示す。図5に示すように、静脈除去磁化率画像では、皮質の静脈に加えて基底核の構造も除去されていることが分かる。一方で、選択的静脈除去磁化率画像では、基底核の構造を残しつつ、静脈を除去していることが分かる。このように、選択的静脈除去処理を行うことにより、高精度に皮質と基底核の磁化率を抽出することができる。
【0043】
なお、個人アトラス画像算出部531、領域画像算出部532、除去領域選択部534による処理を省略してもよい。その場合、基底核領域の構造が除去されてしまうが、個人脳変換の演算を省略することができるため、計算時間が短縮する。
又、所定の構造を示す領域ごとに閾値を異ならせて処理を行ってもよい。例えば、基底核領域については、閾値を0ppmとし、閾値以下の領域1、閾値以上の領域を0とすることで淡蒼球や被殻に沈着した石灰化領域を除去するための石灰化マスクを算出してもよい。
【0044】
このように算出した石灰化マスクを用い、石灰化領域の磁化率を周辺画素の平均値でおきかえることにより、石灰化除去磁化率画像を得ることができる。石灰化除去磁化率画像と基底核マスク画像をかけあわせた画像、静脈除去磁化率画像と基底核外マスク画像をかけあわせた画像を足しあわせることにより、基底核の石灰化領域と皮質の静脈を除去した磁化率画像を算出することができ、両部位における鉄沈着を高精度に評価することができる。
【0045】
同様に、磁化率画像から基底核外の構造に係る領域をさらに分離するために、領域毎にフィルター処理のパラメータや、上記のカーネルサイズを変更させてもよい。例えば、内大脳静脈は一般的に他の静脈より直径が太いため、内大脳静脈が存在する領域のみカーネルサイズを大きくしてもよい。また、静脈除去処理は必ずしも行わなくてもよい。
【0046】
解剖学的標準化処理部504は、入力された画像に対して解剖学的標準化処理を行い、第一の標準灰白質画像(容積補正標準組織画像)540A、第二の標準灰白質画像(標準組織画像)540B、標準磁化率画像540Cを算出する。第一の標準灰白質画像は容積の算出に用い、第二の標準灰白質画像は磁化率画像の重みづけ処理に用いる。
【0047】
ここで、解剖学的標準化処理とは、各被験者の脳画像を標準脳座標系に変換し標準脳画像に合わせることいい、これにより脳の各構造物の位置を座標で把握することができる。本実施形態による解剖学的標準化には、例えば、DARTEL(Diffeomorphic Anatomical Registration Through Exponentiated Lie Algebra)法を用いる。
【0048】
本実施形態においては、解剖学的標準化処理部504によって、以下の画像を算出する(図4参照)。つまり、第一の標準灰白質画像は、組織分割処理部501によって第1原画像に基づいて得られた灰白質画像に対して解剖学的標準化処理と共に容積補正を行って得られた画像である。また、第二の標準灰白質画像は、組織分割処理部501によって第1原画像に基づいて得られた灰白質画像に対して容積補正を行わずに解剖学的標準化処理を行って得られた画像である。
【0049】
さらに、標準磁化率画像は、静脈除去処理部503において得られた選択的静脈除去磁化率画像に対して容積補正を実施せずに解剖学的標準化処理を行った画像である。なお、磁化率画像処理部502において第4原画像に基づいて得られた磁化率画像に基づいて標準磁化率画像を算出してもよい。
【0050】
一般的に、容積補正とは、モジュレーションと称される処理であり、解剖学標準化処理によって失われた体積の情報を復元する処理である。従って、容積補正を行うことで、標準灰白質画像の画素値は脳容積を反映したものとなる。一方で、容積補正を行わないと、標準灰白質画像の画素値は存在確率を反映したものとなる。
【0051】
本実施形態では、診断指標算出部において、容積補正を行った第一の標準灰白質画像を用いることにより、灰白質容積の正確な情報を診断指標に反映させることができる。また、灰白質磁化率算出部において、容積補正を実施していない第二の標準灰白質画像を用いることにより、脳容積の情報が混在することなく体積磁化率の情報を保存しながら、灰白質領域を抽出することができる。
【0052】
なお、先行研究(Langkammer他、Quantitative susceptibility mapping (QSM) as a means to measure brain iron? A post mortem validation study、NeuroImageなど)において、白質の磁化率が鉄だけでなくミエリンなど複数の影響で変化するのに対し、灰白質の磁化率は主に鉄の濃度により変化することが示されている。上述した本実施形態にかかる画像処理装置を用いて灰白質だけの磁化率を高精度に抽出することにより、アルツハイマー病による鉄の上昇を正確に評価することができる。
【0053】
また、第二の標準灰白質画像を重みとして用いてもよい。例えば、アトラス画像で定義された任意の領域(例えば眼窩前頭皮質)内において、第二の標準灰白質画像の画素値を重みとした標準磁化率画像の画素値の加重平均を算出し、当該領域の灰白質磁化率としてもよい。具体的には、以下の式(1)により加重平均値xを算出する。
【0054】
x = Σi(wi・xi)/Σiwi ・・・(1)
【0055】
ここで、wiは画素iにおける第二の標準灰白質画像の画素値、xiは標準磁化率画像の画素値、Σiは指定領域内における画素値の和を計算する演算子をあらわす。この計算により、指定領域における灰白質だけの平均磁化率を算出することができる。
【0056】
なお、解剖学的標準化処理部504において、灰白質画像に代えて白質画像に対して解剖学的標準化処理を行って第一の白質画像(容積補正あり)及び第二の白質画像(容積補正なし)を算出してもよい。第一の白質画像は白質の容積評価に、第二の白質画像は白質磁化率の抽出に用いることができる。
【0057】
磁化率算出部505は、第二の標準灰白質画像と標準磁化率画像に基づいて灰白質磁化率550Aの算出を行う。具体的には、磁化率算出部505は、第二の標準灰白質画像と標準磁化率画像をボクセルごとにかけあわせることにより、灰白質磁化率の算出を行う。灰白質磁化率を算出することにより、白質の磁化率や脳脊髄液の磁化率が混入することなく、皮質の鉄沈着を評価することが可能になる。
【0058】
なお、磁化率算出部505は、白質磁化率を算出してもよい。例えば、第二の標準白質画像と標準磁化率画像をボクセルごとにかけあわせることにより、白質磁化率の算出を行うことができ、白質磁化率を算出することにより、灰白質の磁化率や脳脊髄液の磁化率が混入することなく、白質の脱髄を評価することが可能になる。
【0059】
また、灰白質磁化率と白質磁化率の和を用いてもよい。この場合、灰白質と白質の磁化率情報が混在してしまう問題があるが、領域によっては、鉄沈着と脱髄の二つの磁化率上昇を合わせて用いることで感度が向上する可能性がある。
【0060】
さらに、灰白質磁化率と白質磁化率の差分をとって、領域ごとの皮髄コントラストを算出してもよい。この場合、灰白質における鉄沈着や白質における脱髄に伴う皮髄コントラストを評価することができる。例えば、鉄沈着により灰白質の磁化率が向上した領域では皮髄コントラストが増加し、脱髄により白質の磁化率が向上した領域では皮髄コントラストが低下する。
【0061】
診断指標算出部506は、磁化率算出部505において算出された灰白質磁化率と、解剖学的標準化処理部504において算出された第一の灰白質画像に基づいて認知症、アルツハイマー病等の脳疾患に関する診断に寄与する診断指標d(560C)を算出する。
例えば、第一の灰白質画像から海馬領域の平均灰白質容積mhを算出し、灰白質磁化率画像から被殻領域の平均磁化率xpを算出し、それらの和を診断指標dとする(式(2))。
d = - mh + xp ・・・(2)
【0062】
海馬領域と被殻領域は、例えばAALアトラスなどを用いて定義する。上記(2)式は、mhが小さく、xpが大きいほど、dが大きくなることを表す。この診断指標dは、平均灰白質容積のみに依存した診断指標に比べ、鉄沈着の情報が加わるため、診断能が向上する。
【0063】
なお、脳容積情報と磁化率情報をどのように併用して診断指標を算出するかは任意である。例えば、海馬領域の平均灰白質容積と被殻領域の平均磁化率のそれぞれについて健常データベースからのずれ量(zスコア)を計算し、それらの和により診断指標を算出してもよい(式(3))。
【0064】
d = - zm h + zx p ・・・(3)
なお、例えば、海馬の灰白質容積におけるzスコアは、健常データベースの全被験者の平均値μm hと標準偏差σm hから以下の式により算出される(式(4))。
zm h = (mh - μm h) / σm h ・・・(4)
【0065】
又は、複数の領域の灰白質容積と灰白質磁化率から診断指標を算出してもよい。例えば、複数の領域のzスコア(zm α、zx α、αは任意の領域を表す)を用いて以下の式(5)により診断指標を算出する。
d = -Σα βm α・zm α + Σα βx α・zx α ・・・(5)
【0066】
ここで、βm αとβx αは任意の係数である。複数の領域における情報を用いることにより、診断精度が向上する。
なお、診断指標の算出には、任意の非線形関数を用いてもよい。例えば、認知症の初期に磁化率が上昇し、遅れて萎縮が生じるようなモデルを仮定して、診断指標を算出してもよい。
【0067】
以下、このように構成されたMRI装置における撮像処理について、図6のフローチャートに従って説明する。
【0068】
ステップS300において、各種の計測パラメータが設定され撮像開始の指示を受け付けると、計測部300が計測、すなわち、予め定められたパルスシーケンスに従って、シーケンサ204に指示を行い、エコー信号を取得する。シーケンサ204は、指示に従い、上述のように、傾斜磁場電源205と高周波磁場発生器206とに命令を送り、それぞれ傾斜磁場および高周波磁場を発生させる。計測部300では、プローブ207によって受波され、受信器208で検波が行われたエコーを複素信号として受信する。
【0069】
上述のように、本実施形態では、図3に例示したGrE系のパルスシーケンスを用いる。この時、繰り返し時間は、最長TEより長い時間、ここでは40msとする。また本実施形態におけるフリップ角は、T1強調画像における灰白質と白質のコントラスト対ノイズ比が最大となる値に設定する。ここでは45度とする。なお、これらのパラメータは任意である。
【0070】
図3において、RFパルス711を照射し、被検体203の水素原子核スピンを励起する。この際、被検体203の特定のスライスを選択するためにスライス選択傾斜磁場(Gs)712をRFパルス711と同時に印加する。続いてエコー信号に位相エンコードするための位相エンコード傾斜磁場(Gp)713を印加する。
【0071】
その後、最初のRFパルス711照射から時間t1後に、読み出し傾斜磁場(Gr)721を印加してエコー信号(第1エコー信号)731を計測する。更に、第1エコー信号731の計測から時間Δt後の時刻t2に、極性の反転した読み出し傾斜磁場(Gr)722を印加してエコー信号(第2エコー信号)732を計測する。同様に、第2エコー信号732の計測から時間Δt後の時刻t3に、極性の反転した読み出し傾斜磁場(Gr)723を印加してエコー信号(第3エコー信号)733を計測する。さらに、第3エコー信号733の計測から時間Δt後の時刻t4に、極性の反転した読み出し傾斜磁場(Gr)724を印加してエコー信号(第4エコー信号)734を計測する。
【0072】
計測部300は、計測シーケンス710を、位相エンコード傾斜磁場713の強度を変化させながら、被検体203の予め定めた撮像領域へのRFパルス711の照射、および同領域からのエコー信号731、732、733、734の計測を、所定回数繰り返す。繰り返し回数は、例えば128回、256回等である。
【0073】
これにより、当該撮像領域の画像再構成に必要な数のエコー信号を繰り返し取得する。繰り返し回数分の第1エコー信号731により、1つの原画像(第1原画像)が形成され、繰り返し回数分の第2エコー信号732、第三エコー信号733、第4エコー信号734により、それぞれ、第2原画像、第3原画像、第4原画像が形成される。これらは、灰白質画像および磁化率画像を算出するための演算用の原画像として記憶装置等に保存される。
【0074】
計測を終えると、ステップS400において、画像再構成部400により、計測した各エコー時間t1、t2、t3、t4のエコー信号から画像を再構成する画像再構成処理を行う。ここでは各エコー信号を、k空間上に各々配置し、フーリエ変換する。これにより、各エコー時間t1、t2、t3、t4に対する第1原画像、第2原画像、第3原画像、及び第4原画像をそれぞれ算出する。算出される各原画像は各画素値が複素数となる複素画像である。
その後、ステップS500において、得られた複素画像に対して画像処理部500によって診断指標算出までの各種処理を行う(詳細は後述)。
【0075】
次のステップS600において、ステップS500において画像処理部500が算出した診断指標、解剖学的標準化を行った灰白質画像や磁化率画像を表示制御部600によって、表示装置210に表示させる。磁化率画像は、最大値投影処理や最小値投影処理などの方法を用いて複数の空間的に連続する画像情報を統合させて表示してもよい。
【0076】
また、磁化率画像上に、健常人の平均値からのずれが大きい領域、すなわち磁化率の異常領域をカラーマップなどにより表示させてもよい。この場合、まず事前に複数の健常人の磁化率画像を取得し、標準脳座標上の各画素における全被験者の平均値と標準偏差を算出し、それらの値を記憶装置211に格納しておく。次に、標準脳座標上の磁化率画像の各画素において、標準偏差で規格化した平均値からのずれ量を算出する。最後に、算出したずれ量がある閾値(例えば2)以上の領域について、白黒表示した磁化率画像上にずれ量をカラー表示する。
【0077】
続いて、画像処理部500によって実行される、図6のフローチャートのステップS500における診断指標算出までの画像処理について図7のフローチャートに従って説明する。
【0078】
組織分割処理部501は画像再構成部400によって再構成され記憶装置211に記憶された第1の原画像に対して組織分割処理を行い、灰白質領域、白質領域、脳脊髄液領域などを示す組織画像に夫々分割し、特にここでは灰白質画像(図4の510A)を取得する(ステップS510)。
【0079】
ステップS510の処理に続いて、或いはステップS510における処理と並行して、磁化率画像算出部502は、記憶装置211に記憶された第4原画像に基づいて磁化率画像(図4の520A)を算出する(ステップS520)。次に、ステップS530において、静脈除去処理部530が、ステップS520で算出された磁化率画像上の静脈を除去し、静脈除去磁化率画像(図4の530A)を算出する。
【0080】
次のステップS540では、解剖学的標準化処理部504によってステップS510で得られた灰白質画像及びステップS530で得られた静脈除去磁化率画像に対して、解剖学的標準化処理を行い、灰白質画像から第一の標準灰白質画像(図4の540A)及び第二の標準灰白質画像(図4の540B)を算出し、静脈除去磁化率画像から標準磁化率画像(図4の540C)を算出する。
【0081】
次のステップS550において、磁化率算出部505は、第二の標準灰白質画像と標準磁化率画像をボクセルごとにかけあわせることにより、灰白質磁化率(図4の550A)の算出を行う。最後に、ステップS560において、診断指標算出部506が、灰白質磁化率と第一の灰白質画像とに基づいて診断指標(図4の560A)を算出する。
【0082】
このように本実施形態によれば、組織分割処理によって得られた灰白質画像と標準磁化率画像とを用いて灰白質磁化率情報を得るので、体積情報、白質の磁化率、静脈の磁化率などが混在していない高精度な灰白質磁化率情報を得ることができる。併せて、脳容積情報を有する第1の標準灰白質画像を併用して診断指標を算出するので、皮質や基底核に鉄沈着が生じる早期の段階から、萎縮の進んだ病状の進行した段階まで、高精度な診断指標を提供することができる。
【0083】
また、1つのシーケンスにおいて複数の異なるエコー時間でエコー信号を取得し、ているので、1回の計測において灰白質画像と磁化率画像を算出することができる。従ってその後の処理において、両画像の位置合わせを行う必要がなく、位置合わせ処理に伴う演算時間の増加や、位置合わせ誤差による精度低下が生じない。
【0084】
なお、T1強調画像と磁化率画像を必ずしも同一の撮像で取得する必要はなく、別々の撮影によりそれぞれ取得してもよい。また、本実施形態では磁化率画像を例に挙げて説明したが、別の定量画像を用いてもよい。例えば、T1強調画像と拡散画像を別々に取得し、上述の処理を行い、脳容積情報と特定組織の拡散情報から診断指標を算出してもよい。
【0085】
算出する診断指標の対象疾患を認知症やアルツハイマー病等の脳疾患として説明したが、これに限られず、任意の疾患に適用することができる。例えば、パーキンソン病などの神経変性疾患にも適用することができる。その場合、疾患ごとに異なる係数(βm αやβx α)を用いて診断指標を算出する。
【0086】
なお、本研究ではQSM画像を対象として組織磁化率の算出を行ったが、他の定量画像に対して同様の計算を行ってもよい。例えば、T1値やT2値などの緩和時間の分布をあらわした画像(T1画像、T2画像)に対して同様の計算を行い、特定領域における灰白質のT1値やT2値を算出してもよい。
【0087】
また、上述した例では水平磁場MRIについて説明したが、垂直磁場MRIやその他の装置を用いても、同様の処理が適用でき、同様の効果が得られる。また、撮像断面も、横断面、冠状断面、矢状断面、オブリーク断面など任意の撮像断面で同様の処理が適用でき、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0088】
101・・・MRI装置、201・・・:マグネット、202・・・傾斜磁場コイル、203・・・被検体、204・・・シーケンサ、205・・・傾斜磁場電源、206・・・高周波磁場発生器、207・・・プローブ、208・・・受信器、209・・・演算部、210・・・表示装置、211・・・記憶装置、212・・・入力装置、300・・・計測部、400・・・画像再構成部、500・・・画像処理部、600表示制御部、501・・・画像分離部、502・・・画像変換部、503・・・加減部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7