(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/511 20060101AFI20230518BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61F13/511 100
A61F13/15 144
A61F13/511 200
(21)【出願番号】P 2019044127
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】相良 早苗
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-153915(JP,A)
【文献】特開2017-202254(JP,A)
【文献】特開2016-060995(JP,A)
【文献】特開2015-171649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/511
A61F 13/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌当接面側の表面シート、非肌当接面側の裏面シート、及び前記表面シートと前記裏面シートとの間に介在される吸収体を備える吸収性物品であって、
前記表面シートは肌当接面側にスキンケア剤を含む凸部を備えており、
前記凸部は、厚み方向の断面視に
おいて、
該凸部の隆起高さの上部のうちの着用者の肌に触れる頂部に、2つの峰部と該2つの峰部に挟まれた窪み部とを有し、
前記厚み方向の断面視における前記2つの峰部は、前記凸部の平面視において繋がって環状をなしており、該環状の峰部に囲まれた領域に前記窪み部が配され、
前記窪み部には前記峰部よりもスキンケア剤が多く配されている吸収性物品。
【請求項2】
前記凸部の根本壁部が、該根本壁部の上方にある壁部よりも、高い繊維密度を有する請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記表面シートは高凸部と、該高凸部よりも高さが低い低凸部とを備えており、該高凸部が、前記スキンケア剤を含む凸部である、請求項1又は2記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記スキンケア剤を含む凸部が、前記表面シートの平面方向に点在している請求項1~3のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おむつや生理用ナプキン等の吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
おむつや生理用ナプキン等の吸収性物品において、着用者の皮膚トラブルを低減するための技術が提案されてきた。
例えば、特許文献1において、高密度部と低密度部とを有する表面シートの肌当接面側にスキンケア剤を適用させた吸収性物品が記載されている。また、特許文献2記載の吸収性物品では、通気性による皮膚トラブル低減のため、積層された表面シートに隆起部を形成し該隆起部に高密度部を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-131044号公報
【文献】特開2006-263296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表面シートに塗布されたスキンケア剤は肌に移行してその効果を発揮する。吸収性物品の装着初期にはスキンケア剤は十分に肌に移行し得るが、装着時間・排泄の経過とともに表面シートに残るスキンケア剤は低減していく。そのため、従来、装着時間が延びる程、排泄の影響によりスキンケア剤の肌への移行量が低減し、スキンケア効果が薄れてきやすかった。
本発明は、上記の点に鑑み、スキンケア剤による効果の持続性を高めることができる吸収性物品の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、肌当接面側の表面シート、非肌当接面側の裏面シート、及び前記表面シートと前記裏面シートとの間に介在される吸収体を備える吸収性物品であって、前記表面シートは肌当接面側にスキンケア剤を含む凸部を備えており、前記凸部は、厚み方向の断面視にて、2つの峰部と該2つの峰部に挟まれた窪み部とを有し、前記窪み部には前記峰部よりもスキンケア剤が多く配されている吸収性物品を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の吸収性物品は、スキンケア剤による効果の持続性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明における一実施形態としてのテープ型のおむつを展開させて肌当接面側からみた一部切欠平面図である。
【
図2】
図1のII―II線に沿った拡大断面図であり、符号Pで示す円内の図は凸部の拡大断面図である。
【
図3】(A)は凸部が斜めに傾いて隆起している状態を示す断面図であり、(B)は凸部が隆起の途中で屈曲している状態を示す断面図である。
【
図4】凸部が円錐台の形状を有する態様を示す部分拡大斜視図である。
【
図5】凸部が筋状の形状を有する態様を示す一断面斜視図である。
【
図6】表面シートが第1不織布及び第2不織布からなる態様を示す断面図である。
【
図7】表面シートが高凸部と低凸部とを備える態様を示す断面図である。
【
図8】スキンケア剤を配した窪み部を有する凸部が表面シートの全体に配置される場合の配置パターンを一部拡大して示す平面図である。
【
図9】(A)は、スキンケア剤を配した窪み部を有する凸部が表面シートの平面方向に格子状に点在する配置パターンを一部拡大して示す平面図であり、(B)及び(C)は、スキンケア剤を配した窪み部を有する凸部を長手方向Yに並べた列が幅方向Xに間欠配置されて点在する配置パターンを一部拡大して示す平面図である。
【
図10】
図1に示すおむつの表面シートにおいて、ストライプ状の複数の領域に、スキンケア剤を配した窪み部を有する凸部の列を配置する態様を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る吸収性物品の好ましい一実施形態としてのおむつ10について、図面を参照しながら説明する。なお、
図1においては、おむつ10をテープ型として示したがこれに限定されるものでなく、例えばパンツ型であってもよい。
【0009】
本発明においては、着用者の肌に接触する側を肌面側ないし肌当接面側あるいは表面側といい、これと反対側を非肌面側ないし非肌当接面側あるいは裏面側という。これらは、着用者の肌に接触する面を有さない部材に関しても、吸収性物品の部材構成における相対的な位置関係を示す用語として用いる。また、着用時に着用者の前側に位置する方向を前方といい、後側に位置する方向を後方という。吸収性物品の表面又は裏面の法線方向を厚み方向という。なお、前記前側とは着用者の腹側であり、前記後側とは着用者の背側である。
【0010】
図1は、本実施形態のおむつ10を展開して肌当接面側から平面視した状態を示している。この状態で、おむつ10は、着用者の前側、股下及び後側のそれぞれに配される前側部F、股下部C及び後側部Rに区分され、前側部F、股下部C及び後側部Rがつながる方向に相当する長手方向Yと、長手方向Yに直交する幅方向Xとを有する。
【0011】
おむつ10は、構成部材として、肌当接面側に配置される表面シート1、非肌当接面側に配置される防漏性の裏面シート2、及び表面シート1と裏面シート2との間に介在される吸収体3とを有する。
表面シート1は、液透過性の柔らかい素材からなり、例えば、親水性の不織布からなることが好ましい。本実施形態においては、表面シート1が親水性の不織布からなるものとして説明する。
吸収体3は、排泄液の吸収材料の集合体(以下、吸収性コアともいう。)を有し、例えば、パルプ繊維の集合体、又はパルプ繊維と高吸水性ポリマー材の集合体を有する。吸収性コアは形状保持性の観点から、親水性の被覆シート(図示せず)で覆われていることが好ましい。裏面シート2は、防漏性を備えた部材からなることが好ましく、例えば、通気性を有した透湿性フィルムに肌ざわりのよい外装の不織布を積層したものが好ましい。
【0012】
本実施形態において、表面シート1の肌当接面側には、その長手方向Yの両側部から幅方向Xの左右外方に向けて、一対のサイドシート8、8が配されている。おむつ10は、股下部Cが括れており、前側部F及び後側部Rが幅方向に張り出した外形を有する。前側部F及び後側部Rの張り出した部分が、左右一対の前側サイドフラップ10Aと後側サイドフラップ10Bとをなしている。後側サイドフラップ10Bのそれぞれ幅方向外方縁部には、装着時におむつ10を身体に固定する際に使用するファスニングテープ9、9が配されている。
【0013】
次に、表面シート1について詳述する。
表面シート1は、肌当接面側に凸部6を備えている。本実施形態の表面シート1は、複数の凸部6と、凸部6、6間の凹部7とを有する凹凸構造5を備えている。凹凸構造5において、凸部6及び凹部7は、表面シート1の肌当接面側の平面方向に交互に複数配されている。凸部6は、表面シート1の肌当接面側の全体の領域にあってもよく、一部の領域にあってもよい。少なくとも表面シートが着用者の肌に触れる領域に凸部6が配されていることが好ましい。例えば、
図1に示す、表面シート1が一対のサイドシート8、8に覆われず、肌当接面側に露出している領域(おむつ10の幅方向Xの中心Lから所定幅にて表面シート1の長手方向Yに亘る領域)M1に凸部6が配されていることが好ましい。長手方向Yについては、凸部6は、吸収体3の存在領域に配されているのが好ましく、少なくとも排泄部位から臀部を覆う領域(製品長手方向中心を挟んで200mmの領域)に配されていることがより好ましい。また、凸部6を含む凹凸構造5も上記の範囲に配されていることが好ましい。これにより、肌トラブルの生じやすい部位に剤が移行しやすくなり、当該部位のケアを有効に行うことが容易となる。なお、本発明において、凸部の数は上記の実施形態のものに限定されず、吸収性物品の大きさや形状等に応じて適宜決められ、1つであってもよく、2以上の複数であってもよい。
【0014】
図2に示すように、凸部6上にスキンケア剤4を含んでいる。「凸部6上」とは、凸部6の表面(肌当接面側を向く面)を意味する。
【0015】
本発明で用いるスキンケア剤について説明する。本発明で用いるスキンケア剤としては、着用者の肌に対して保護、治癒等の効能を有するものを特に制限なく用いることができる。例えば、好ましいスキンケア剤として、下記式(I)で表されるジアミド誘導体が挙げられる。下記式(I)で表されるジアミド誘導体は、国際公開公報WO00/61097号に記載されている発明のジアミド誘導体であり、角質層の水分保持能力及びバリヤ機能を改善する、という薬効を有している。該ジアミド誘導体が、吸収性物品の着用中に着用者の肌に移行すると、油性スキンケア剤として機能し、肌のかぶれを抑制/改善することができる。
【化1】
式中、R
1は、ヒドロキシ基及び/又はアルコキシ基が置換していてもよい、炭素数1~22の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を示し、R
2は、炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖の二価の炭化水素基を示し、R
3は、炭素数1~42の直鎖又は分岐鎖の二価の炭化水素基を示す。
【0016】
スキンケア剤として前記ジアミド誘導体を使用する場合、使用するジアミド誘導体は1種のみであってもよいし、2種以上を併用することもできる。
本発明で使用可能な他のスキンケア剤としては、例えば化粧品の分野においてエモリエント剤として用いられているスキンケア剤等を用いることができる。他のスキンケア剤の具体例としては、流動パラフィン、シリコーンオイル、動植物油(オリーブ油、ホオバ油、ベニバナ油、スクワラン及びスクワレン等)、モノグリセライド、ジグリセライド、トリグリセライド、脂肪族エーテル(ミリスチル-1,3-ジメチルブチルエーテル、パルミチル-1,3-ジメチルブチルエーテル、ステアリル-1,3-ジメチルブチルエーテル、パルミチル-1,3-メチルプロピルエーテル、ステアリル-1,3-メチルプロピルエーテル等)、イソステアリル-コレステロールエステル、パラフィンワックス、C12~C22脂肪酸、C12~C44脂肪酸エーテル、C12~C22脂肪アルコール、ワセリン、脂肪酸ソルビタンエステル(モノエステル、ジエステル、及びトリエステルのいずれでもよい。)、ポリオキシエチレン脂肪酸ソルビタンエステル(モノエステル、ジエステル、及びトリエステルのいずれでもよい。)、金属石験(ステアリン酸マグネシウム等)、ショ糖脂肪酸エステル、シクロデキストリン脂肪酸エステル、シリコーン、シリコーン系レジン、特開2004-298643号公報又は特表2008-522772号公報に記載されている発明で使用されるエモリエント剤やエモリエント剤と固定化剤を含むローション組成物等が挙げられる。前記各種の親水性のスキンケア剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
スキンケア剤の好ましい実施形態としては、装着前は凸部に留まりやすい流動性の低い固形状であり、装着時の体温等による加温で半固体となり流動性が生じるものが挙げられる。これにより、凸部6の後述する構造おけるスキンケア剤の持続的な移行をより効果的に実現することができる。
【0018】
凸部6は肌当接面側に隆起している。凸部6における隆起する方向に沿った相対的な位置関係として、肌に触れる位置に近い方を上方、遠い方を下方という。また、凸部6の隆起高さH1を2等分して、肌に触れる位置に近い方を上部6T、上部6Tよりも下方側の部分を根本部6Nとして区分する。「凸部6の隆起高さH1」は、凸部6の側面視(又は厚み方向の断面視)において、凸部6の肌当接面側の表面の最も高い部分から最も低い部分までの厚み方向の距離を言いう。この距離は、例えばデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製)を用いて厚み方向の断面を観察し、凸部6の峰部61つまり肌当接面側の表面の最も高い部分から最も低い部分までの厚み方向の最短距離における高さによって測定することができる。なお、前述の「厚み方向の断面視」とは、表面シート1の厚み方向に沿う平面にて切断した断面に対して、該断面と直交する方向から観察することを言う。
【0019】
凸部6は、
図2に示すように、厚み方向の断面視において、2つの峰部61と2つの峰部61に挟まれた窪み部62とを有する。なお、上記規定は、凸部6に対して種々とり得る厚み方向の断面の中で、窪み部62を通る厚み方向の断面であって、上記要件(2つの峰部61と2つの峰部61に挟まれた窪み部62の要件)を満たす断面が少なくとも1つあることを意味する。したがって、とり得る断面全てについて上記要件を満たすことを要しない。
峰部61及び窪み部62は、凸部6の上部6Tに配されている。峰部61及び窪み部62は、上部6Tの中でも、着用者の肌に接する部分にあること好ましい。具体的には、個々の凸部6において、峰部61の少なくとも一部が凸部6の隆起高さH1の最も高い位置配されることが好ましい。この凸部6の隆起高さH1の最も高い位置にある峰部61に隣接して、窪み部62が配されることが好ましい。
【0020】
凸部6は、
図2示すように表面シート1の平面方向に対して垂直に隆起するものに限定されない。例えば、
図3(A)お及び(B)に示すように斜めに傾いて隆起するものや、隆起の途中で屈曲するものなどがあってもよい。凸部6がどのような隆起形状を有していても、凸部6の隆起高さH1は、前述したとおり、凸部6の肌当接面側の表面の最も高い部分から最も低い部分までの厚み方向の距離を言いう。また、個々の凸部6において、峰部61の高さが均一でもよく、不均一でもよい。更に凸部6同士で、峰部61の高さが均一でもよく、不均一でもよい。
【0021】
峰部61は、凸部6の形状に応じて形成される。
例えば、
図4に示すように個々の凸部6が互いに独立した錐台形状である場合、峰部61は、凸部6を平面視して環状に形成される。この場合、窪み部62は、平面視において、環状の峰部61に囲まれた領域に配される。なお、峰部61が環状である場合、該環状は切れ目が無い完全な環になっていてもよく、途中で環が途切れる部分を有していてもよい。凸部6が錐台形状である場合、表面シート1の柔らかい肌触りを高める観点から、凸部6が円錐台形状であることが好ましく、峰部61の平面視の形状が円形であることが好ましい。
また、
図5に示すように各凸部6が平面方向に筋状に形成されている場合、これに合わせて、峰部61も筋状に形成される。この場合、筋状の峰部61が2本並走して配され、峰部61、62の間に挟まれた領域に窪み部62が配される。筋状の峰部61の場合も、筋に切れ目が無くてもよく、筋の途中に途切れる部分があってもよい。
図4及び
図5のいずれの態様であっても、窪み部62を通る厚み方向の凸部6の断面においては、2つの峰部61、61とその間の窪み部62とが確認できる。
【0022】
峰部61は、表面シート1の柔らかい肌触りを高める観点から、先端が丸みのある形状であることが好ましい。また、峰部61は、スキンケア剤4の肌への移行性を円滑にするため、前記先端から窪み部62に向かって下る傾斜面(テーパ形状)を有することが好ましい。
【0023】
窪み部62は、
図2、
図3(A)及び(B)に示すように、峰部61に隣接し、肌当接面側に向かって開口している。また、窪み部62は、凸部6の隆起形状を損なわない程度に、凸部6の隆起高さH1未満で浅く窪んだ部分である。窪み部62の深さH2は、表面シート1の凹凸構造5による柔らかい肌触りやクッション性を保持する観点から、凸部6の隆起高さH1に対して50%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。また、窪み部62の深さH2は、下記のスキンケア効果の持続性を高める観点から、凸部6の隆起高さH1に対して10%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。窪み部62の深さH2は、前述の「凸部6の隆起高さH1」の測定方法を準用し、峰部61の最も高い位置に配される部分を基準とし、該位置から下る深さとして測定することができる。なお、窪み部62は、
図2、
図3(A)及び(B)に示すように1つの凸部6に対して1箇所配される場合に限らず、複数個所に配されていてもよい。
【0024】
個々の凸部6において、窪み部62には峰部61よりもスキンケア剤4が多く配されている。ここでいうスキンケア剤4の量は、峰部61及び窪み部62の肌当接面側の面上に存在するスキンケア剤4の量を言う。このスキンケア剤4の量の大小関係は下記の方法によって測定することができる。
【0025】
(スキンケア剤の量の大小関係の評価方法)
スキンケア剤4の量の大小関係を評価する方法として、赤外分光法(IR)を用いることができる。スキンケア剤4が多いところと少ないところを比較する場合にはIRにより得られる、対象とするスキンケア剤由来の赤外吸収ピークの高さの比較により、スキンケア剤が多いところと少ないところの判断が可能である。すなわち赤外吸収ピークの高い(吸収量の多い)方が、存在するスキンケア剤4が多いと判断できる。
赤外分光法にはATR法を用いることができ、測定する範囲が十分に広い場合は直接測定(マクロ:2~3mm)することで得られる吸収ピークのうち任意のもの(例えば前述のジアミド誘導体の場合はアミド基の吸収ピークである3300cm-1)を比較することができる。また、測定する部位が小さい場合には顕微(100μm)を用いると良い。
一例として上記測定の要領を下記に示す。
測定装置:パーキンエルマー社 Spectrum One (+Multiscope)
マクロ測定:ATRプローブはダイヤモンドを用いて1回反射で測定
顕微測定:ATRプローブはゲルマニウムを用いて測定
波数分解能:4cm-1
積算回数:4回(マクロ測定)、16回(顕微測定)
【0026】
上記のスキンケア剤の配置によって、肌に接する凸部6の上部6Tにある窪み部62にスキンケア剤4が留まっており、少量のスキンケア剤4の配置であっても、効率よく肌に移行させることができる。また、肌に接する凸部6において、窪み部62がスキンケア剤4の貯蔵部となっており、峰部61と同じ高さ位置のみならず、峰部61よりも低い位置にもスキンケア剤4を留めて安定的に保持可能である。更に窪み部62は、スキンケア剤4の物理的な脱落や排泄物による流れ落ちを防ぐことができる。他方、窪み部62に隣接する峰部61は、肌面に接触してスキンケア剤4を肌に移行させる。また、峰部61は、隣接する窪み部62からのスキンケア剤4の供給を受けることも可能であり、肌へのスキンケア剤4の移行を持続させやすい。窪み部62からの峰部61へのスキンケア剤4の供給は、例えば、表面シート1と肌面との接触や擦れ等を契機として生じ得る。また、表面シート1と肌面との接触や擦れの程度によっては、峰部61に対する強い押圧に伴って、窪み部62に留まるスキンケア剤4が直接肌面に触れて移行することもある。これらの移行は、スキンケア剤4が体温等による加温によって流動性が高められることによって、より生じやすくなる。
これにより、凸部6における峰部61と窪み部62との組み合わせが、スキンケア剤4を徐々に持続的に肌に移行させ、スキンケア効果の持続性を高める。その結果、おむつ10は良好な装着感を長く維持することができる。
また、おむつ10において、表面シート1が上記の凸部6を有することによって、表面シート1と着用者の肌面との接触面積を抑えて、通気性を高めることができる。この通気性と前述のスキンケア効果の持続性とが相俟って、おむつ10の良好な着用感を更に高める。
【0027】
上記の測定方法に基づいて、窪み部62におけるスキンケア剤4の量Q1の峰部61におけるスキンケア剤4の量Q2に対する比Q1/Q2は、スキンケア剤4の持続的な肌への移行性を高める観点から、1.1/1以上が好ましく、1.2/1以上がより好ましく、1.5/1以上が更に好ましい。また、前記比Q1/Q2は、吸収性能の阻害を抑制する観点から、20/1以下が好ましく、10/1以下がより好ましく、5/1以下が更に好ましい。
【0028】
峰部61及び窪み部62に上記の比によるスキンケア剤4の量を配することで、表面シート1全体におけるスキンケア剤4の量を過剰にせずに抑えることができる。これにより、吸収性能の阻害を抑えつつ、持続的にスキンケア剤が肌面へ移行されることとなり好ましい。この観点から、表面シート1に配されるスキンケア剤4の量は、5g/m2以下が好ましく、3g/m2以下がより好ましく、1g/m2以下が更に好ましい。また、表面シート1に配されるスキンケア剤4の量は、スキンケア効果を十分に発揮させる観点から、0.01g/m2以上が好ましく、0.05g/m2以上がより好ましく、0.1g/m2以上が更に好ましい。スキンケア剤の量は、スキンケア剤の種類によって適当な溶媒を選択し、表面シート1から抽出を行い、ガスクロマトグラフィ(GC)又は高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いた定量を行うことによって得ることができる。また、定量されたスキンケア剤の量を、抽出の対象とした表面シート1の面積で除することで単位面積当たりのスキンケア剤の量を求めることができる。用いる溶媒としては、メタノールやエタノール等の極性の高い溶媒(高極性溶媒)、ヘキサン等の非極性溶媒、又は高極性溶媒よりも極性の低い溶媒から1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
凸部6は、
図2~5に示すように中空部63を備えるものであってもよく、中空部63を備えない中実であってもよい(図示せず)。ただし、凸部6は中空部63を備える方が好ましい。これにより、着用者の動きに伴う表面シート1に対する荷重の変化があっても凸部6が柔軟に肌面に追従して、前述のスキンケア剤4の持続的な肌への移行をより良好に発現させることができる。加えて、凸部6による柔らかい肌触りやクッション性をより良好にすることができる。
【0030】
表面シート1は、
図2~5において1枚の不織布からなるものとして示したが、これに限らず、複数の不織布を厚み方向に積層させたものであってもよい。その具体例として、
図6に示すものが挙げられる。
図6に示す表面シート1では、肌当接面側の第1不織布11が凹凸構造5を備え、非肌当接面側の平坦な第2不織布12と接合されている。第2不織布12は第1不織布11の凹部7の底面71と接合されていることが好ましい。第1不織布11と第2不織布12との接合は、接着剤によるものでもよく、エンボス処理の熱融着によるものでもよい。中空部63が第1不織布11と第2不織布12とに囲まれ、中空部63の周辺に第1不織布11と第2不織布12との接合部分が配されることによって、中空部63及びこれを内包する凸部6の形状安定性が増す。これにより、前述の峰部61及び窪み部62によるスキンケア剤4の持続的な肌への移行をより安定的に実現することができる。加えて、凸部6による柔らかい肌触りやクッション性が良好に発現される。
【0031】
表面シート1の凸部6は、吸収性物品において通常用いられる種々の方法によって製造することができる。例えば、表面シート1を構成する不織布をエアスルー法によって形成する際に、凹凸支持体上に融着前の繊維ウエブを載置して熱風処理を行うことにより凹凸賦形して凸部6を形成することができる。歯溝ロール等を用いて不織布又は繊維ウエブを凹凸賦形してもよい。歯溝ロールを用いる場合、1枚の不織布を凹凸賦形すると同時に、凹部においてもう1枚の平坦な不織布と熱融着して、
図6に示すような凸部6を形成してもよい。また、間欠的なエンボス処理によって不織布又は繊維ウエブを凹凸賦形してもよい。この場合、繊維ウエブに熱収縮性の繊維を所定領域に含ませ、間欠的なエンボス処理をした後、熱風処理により非エンボス部を隆起させて凸部とし、エンボス部を凹部として形成してもよい。
凸部6における窪み部62は、凸部6の形成の後に形成することができる。窪み部62の形成において、吸収性物品において通常用いられる種々の方法を採用することができる。例えば、熱圧縮することで押し潰すように賦形して窪み部を形成する方法、賦形後に機械力を与えることで頂部にへこみを与える方法、凹凸支持体の凸部の頂部にあらかじめ通気口を有する窪みを設けておき、凸部内から吸引する方法等が挙げられる。
【0032】
凸部6へのスキンケア剤4の適用は、吸収性物品において通常用いられる種々の方法によって行うことができる。特に、接触式のコーターを用い所定の圧力を加えながら塗工することが好ましい。これにより、より確実に、窪み部62に対しスキンケア剤4を峰部61よりも多く配することができる。
【0033】
本実施形態において、凸部6の根本壁部64が、根本壁部64の上方にある壁部(以下、上方壁部という)65よりも高い繊維密度を有することが好ましい。各壁部における繊維密度とは、表面シート1の表面における単位面積当たりの繊維の本数のことである。凸部6の根本壁部64は、上記のように高い繊維密度を有する場合、凸部6の根本壁部64の上方壁部65に比べて繊維の本数が多い(繊維間距離が小さい)、密な領域になっている。根本壁部64の繊維密度が大きいことで、凸部6形状を維持することができる。また、根本壁部64比べ、上部壁部65および窪み部62が変形しやく、装着状態において、着用者の肌と最も当接しやすい領域において、柔らかな感触による肌触りの良さを実現できる。なお、ここ言う「根本壁部64」とは、前述した根本部6Nにおける凸部6の表面部分である。また、「上方壁部65」は、前述した上部6Tにおける凸部6の表面部分を言う。
【0034】
(凸部6の根本壁部64の繊維密度及び上方壁部65の繊維密度の測定方法)
本発明において、根本壁部64及び上方壁部65の「繊維密度」は、表面シート1の形状を変化させない状態において(例えば、表面シート1に荷重をかけずに非接触にて)、凸部6の根本壁部6および上方壁部65をそれぞれ光学顕微鏡にて観察し、所定のシート(
図6においては第1不織布11)における根本壁部64および上方壁部65部分の表面の単位面積あたりの繊維の本数を測定することによって算出する。
【0035】
上記の測定方法に基づいて、根本壁部64の繊維密度S1の、根本壁部64の上方壁部65の繊維密度S2に対する比S1/S2は、凸部6の柔らかい肌触りと凸部6全体の潰れ難さとを両立させる観点から、1.1/1以上が好ましく、1.25/1以上がより好ましく、1.5/1以上が更に好ましい。また、前記比S1/S2は、吸収性能および凸部6の柔らかい肌触りと凸部6全体の潰れ難さの観点から、5/1以下が好ましく、4/1以下がより好ましく、3/1以下が更に好ましい。
【0036】
上記のような繊維密度の高低差は、例えば、特開2012-136790号の各実施例の記載の方法によって形成することができる。カード機からウェブ賦形装置に供給したウエブを、多数の突起を有し通気性を有する台座の上に定着させ、次いで、その台座上の繊維ウェブに熱風を吹きつけて、台座上の突起にそって繊維ウェブを賦形するとともに、各芯鞘構造の繊維を融着させる方法が挙げられる。当該方法によれば、熱風によって台座から離れる方向へ追いやられたウエブの領域では繊維密度が小さくなり、台座に近いウエブの領域では繊維が追いやられる距離が短いために繊維密度が相対的に大きくなる。
【0037】
また本実施形態において、表面シート1が、
図7に示すように、高凸部66と該高凸部66よりも高さが低い低凸部67とを備えていてもよい。この場合、高凸部66が、スキンケア剤4を含む窪み部62を有する凸部6であることが好ましい。すなわち、高凸部66が、厚み方向の断面視にて、2つの峰部61と該2つの峰部61に挟まれた窪み部62とを有し、窪み部62には峰部61よりもスキンケア剤が多く配されていることが好ましい。これにより、着用者の肌に対するスキンケア剤4の持続的な移行を更に安定的に実現することができる。この場合、高凸部66にスキンケア剤4を含む窪み部62が配される限り、低凸部67にもスキンケア剤4を含む窪み部62が配されていてもよい。
【0038】
本実施形態において、スキンケア剤4を含む窪み部62を有する凸部6は、前述のスキンケア剤4の持続的な肌への移行を実現する限り、表面シート1の肌当接面側に対して種々のパターンにて配置することができる。
【0039】
例えば、
図1に示す、おむつ10の幅方向Xの中心Lから所定幅にて表面シート1の長手方向Yに亘る領域(表面シート1が一対のサイドシート8、8に覆われず、露出している領域)M1全体に、スキンケア剤4を含む窪み部62を有する凸部6が配されていてもよい。これにより、スキンケア剤を持続的に移行できる範囲が広範囲となり好ましい。その具体例として、凸部6を
図4に示すような独立した錐台形状にし、
図8に示すように凸部6全部に、スキンケア剤4を含む窪み部62を配することが挙げられる。
【0040】
一方、上記の領域M1に対して、スキンケア剤4を含む窪み部62を有する凸部6が表面シート1の平面方向に点在していてもよい。点在配置の場合、窪み部の無い凸部上のスキンケア剤が初期の時点で優先的に移行し、窪み部62を有する凸部では持続的にスキンケア剤が肌に移行するので、おむつ装着初期から経時まで効果的にスキンケア効果を維持できる。また、窪み部の無い凸部を残すことにより、表面材のクッション性、通気性及び通液性能を確保することが可能となり好ましい。点在配置としては、規則的な点在配置、不規則な点在配置のいずれであってもよい。
規則的な点在配置の具体例としては、
図9(A)に示すように、スキンケア剤4を含む窪み部62を有する凸部6が斜め格子状の配置パターンが挙げられる。ここでは、スキンケア剤4を含む窪み部62を有する凸部6、6の間に、窪み部62の無い凸部69が配されている。斜め格子状の配置の場合、格子状で、窪み部62の無い凸部69と窪み部62を有する凸部6を均一に配置することができ、上記の均一なスキンケア効果と、表面材のクッション保持性、通気性及び通液性能とをいずれも確保することが可能となり好ましい。なお、窪み部62の無い凸部69はスキンケア剤を含む場合、スキンケア剤を含まない場合のいずれであってもよい。
また、
図9(B)に示すように、スキンケア剤4を含む窪み部62を有する凸部6を長手方向Yに並べた列を幅方向Xに間欠配置(ストライプ状の配置)した配置パターンが挙げられる。この場合、
図10に示すように、上記の領域M1内において、ストライプ状の複数の領域M2に、スキンケア剤4を含む窪み部62を有する凸部6の列を配置し、領域M2に隣接する領域M3に窪み部62が無い凸部69の列を配置することとなる。この配置パターンでは、窪み部62の無い凸部69と窪み部62を有する凸部6をストライプ状で配置することができ、上記のスキンケア効果と、表面材のクッション保持性、縦方向の通気性及び通液性能とをいずれも確保することが可能となり好ましい。なお、窪み部62の無い凸部69はスキンケア剤を含む場合、スキンケア剤を含まない場合のいずれであってもよい。この変形例として、領域M3において、
図9(C)に示すように、スキンケア剤4を含んでいない窪み部62を有する凸部68が配列される配置パターンであってもよい。この場合、スキンケア剤をストライプ状で塗ることができ、スキンケア剤の量を少なく、通液性能を確保することが可能となり好ましい。
図9(B)や
図9(C)においては、領域M2に、スキンケア剤4を含む窪み部62を有する凸部6を長手方向Yに並べた列が1列ずつ配置されているが、これに限らない。例えば、2列以上の複数列を束にして領域M2を形成してもよい。この場合、横方向の通気性、通液性能を確保可能となり好ましい。また、ストライプ状の配置として、
図4に示すような互いに独立した錐台形状の凸部6を用いる場合に限らず、
図5に示すような筋状に形成された凸部6を長手方向Yに延出させて幅方向Xに間欠配置していてもよい。この場合、縦方向にストライプ状で配置することができ、おむつが縦方向にヨレても持続的にスキンケア移行効果と、縦方向の通気性、通液性能を確保することが可能となり、横方向への便の拡散防止効果を高めることができ好ましい。
【0041】
また、表面シート1において、凸部6の形状や数、大きさは、
図2~9に示したものに限定されない。凸部6に峰部61と峰部61に挟まれた窪み部62を備え、スキンケア剤4を特定の配置として、前述のスキンケア剤4の持続的な肌への移行をより安定的に発現する限り、凸部6の形状や数、大きさを種々に適宜設定できる。
【0042】
本実施形態のおむつ10の構成部材は、吸収性物品において通常用いられる素材を特に制限なく用いることができる。前述した構成部材以外に他の部材を適宜組み込んでもよい。また、おむつ10の構成として、
図1に示すものに限らず、縦長の吸収性本体(表面シート、裏面シート及び吸収体)のユニットに前側部と後側部とに分離した外装体とを組み合わせたものであってもよい。
【0043】
本発明の吸収性物品は、上記の実施形態に制限されない。前述のとおり、凸部6に峰部61と窪み部62を配し、スキンケア剤4を峰部61よりも窪み部62に多く配した表面シート1を具備する限り、種々の吸収性物品に適用することができる。例えば、テープ型のおむつに限らず、パンツ型のおむつであってもよく、尿とりパッド、生理用ナプキン、パンティライナーなど、着用者の肌に当接して装着し、排泄物を吸収する種々の物品に適用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 表面シート
2 裏面シート
3 吸収体
4 スキンケア剤
5 凹凸構造
6 凸部
61 峰部
62 窪み部
63 中空部
64 根本壁部
65 根本壁部の上方にある壁部(上方壁部)
66 高凸部
67 低凸部
7 凹部
8 サイドシート
9 ファスニングテープ
10 おむつ
10A 前側サイドフラップ
10B 後側サイドフラップ