(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】人工皮革及びその製法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/14 20060101AFI20230522BHJP
【FI】
D06N3/14
(21)【出願番号】P 2021553630
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2020040288
(87)【国際公開番号】W WO2021085427
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019197790
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】弘中 大介
(72)【発明者】
【氏名】田所 義幸
(72)【発明者】
【氏名】阪田 慶一郎
(72)【発明者】
【氏名】川嵜 正也
(72)【発明者】
【氏名】山本 挙
(72)【発明者】
【氏名】池端 久貴
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-069790(JP,A)
【文献】特開昭62-062991(JP,A)
【文献】特開2004-332173(JP,A)
【文献】特開2019-183375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
B32B 1/00-43/00
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シートとポリウレタン樹脂とを含む人工皮革であって、該繊維シートが、該人工皮革の第1の外表面を構成する繊維層(A)を少なくとも含み、かつ、該人工皮革の厚み方向断面における該繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が10%以上80%以下であり、かつ、前記繊維層(A)の厚み方向断面における断面ポリウレタン樹脂面積率が10%以上30%以下であり、かつ、前記繊維層(A)の厚み方向断面における断面ポリウレタン樹脂面積率の標準偏差が25%以下であ
り、かつ、該繊維層(A)のX線CTによる三次元画像において、該繊維層(A)を構成する繊維と前記ポリウレタン樹脂を除外した空間に入る最大の球の直径である空間サイズの、該繊維層(A)の厚み方向における平均値(平均空間サイズ)が5μm以上35μm以下であり、かつ、該繊維層(A)を構成する単繊維の平均直径が、1.0μm以上8.0μm以下であり、かつ、該ポリウレタン樹脂が、水分散型ポリウレタン樹脂であり、かつ、該繊維シートに対する前記ポリウレタン樹脂の付着率は、15質量%以上50質量%以下であることを特徴とする前記人工皮革。
【請求項2】
前記繊維シートが、前記第1の外表面を構成する繊維層(A)と、該繊維層(A)に接するスクリム及び/又は繊維層(B)とで構成された2層以上の構造を有する、請求項
1に記載の人工皮革。
【請求項3】
剛軟値が28cm以下である、請求項1
又は2に記載の人工皮革。
【請求項4】
前記繊維シートは、ポリエステル繊維から構成される、請求項1
~3のいずれか1項に記載の人工皮革。
【請求項5】
緻密感が4.0級以上である、請求項1
~4のいずれか1項に記載の人工皮革。
【請求項6】
以下の工程:
海島短繊維で繊維ウェブを形成し、その後ニードルパンチ処理して得た繊維シートを脱海処理して、島成分の単繊維が露出した繊維シートを得る工程;及び
得られた繊維シートに、
擾乱が10%以上の水流を吐出する複数のノズルを用いて水圧1.0MPa以上10.0MPa以下の高圧水を噴射する水流分散処理を施し、単繊維が分散した繊維シートを得る工程;
得られた単繊維が分散した繊維シートに、平均粒子径1μm以上8μm以下の熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型ポリウレタン樹脂分散液を、該繊維シート100質量%に対するポリウレタン樹脂の付着率が15質量%以上50質量%以下となるように、含浸させ、さらにその後、該ポリウレタン樹脂を加熱により固着させて、ポリウレタン樹脂が充填されたシート状物を得る工程;及び
得られたシート状物から熱水を用いて該熱水溶解性樹脂微粒子を除去する工程;
を含む、請求項1
~5のいずれか1項に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項7】
前記熱水溶解性樹脂微粒子は、ポリビニルアルコール樹脂である、請求項
6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記水流分散処理が、ノズル孔間隔が1.0mm以下であり、かつ、ノズル孔径が0.05mm以上0.30mm以下である複数のノズルを用いて実施される、請求項
6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記水分散型ポリウレタン樹脂分散液の固形分濃度が、10重量%以上35重量%以下である、請求項
6~
8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記水分散型ポリウレタン樹脂分散液中の熱水溶解性樹脂微粒子の含有量が、1重量%以上20重量%以下である、請求項
6~
9のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風合い(剛軟値)、緻密感(繊維束の分散性)、及びしっとり感(適度なサイズの樹脂塊)を両立した人工皮革及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布等の繊維シート(繊維質基材)とポリウレタン(以下、PUともいう。)樹脂を主材として構成された人工皮革は、イージーケア、機能性、均質性等の、天然皮革では実現が難しい優れた特徴を有しており、衣類、靴、鞄、更に、インテリア用、自動車用、航空機用、鉄道車両用等のシートの表皮材及び内装材、リボン、ワッペン基材等の服飾材、等に好適に用いられている。
【0003】
このような人工皮革を製造する方法としては、従来、繊維シートにPU樹脂の有機溶剤溶液を含浸せしめた後、PU樹脂の非溶媒(例えば、水又は有機溶剤)中に浸漬してPU樹脂を湿式凝固せしめる方法が、一般的に採用されている。例えば、以下の特許文献1では、PU樹脂の溶媒である有機溶剤としてN,N-ジメチルホルムアミドを用いた有機溶剤系PU樹脂が用いられている。しかしながら、一般的に有機溶剤は人体及び環境への有害性が高いことから、人工皮革の製造に関しては、有機溶剤を使用しない手法が強く求められている。
【0004】
以下の特許文献2には、従来の有機溶剤系PU樹脂に替えて、水中にPU樹脂を分散させた水分散型PU樹脂分散液を用いる方法が検討されているが、水分散型PU樹脂分散液に繊維シートを含浸し、PU樹脂を凝固させたシート状物は、風合いが硬くなりやすいという問題がある。その主な理由の一つとして、両者の凝固方式の違いがある。すなわち、有機溶剤系PU樹脂分散液の凝固方式は、PU分子を溶解している有機溶剤を水で溶媒置換することでPU分子を析出させて凝固する「湿式凝固方式」であり、PU膜で見ると、密度が低い多孔膜を形成する。そのため、PU樹脂が繊維シート内へ含浸され凝固された場合も繊維とPU樹脂の接着箇所が点状に存在し、かつ、PU樹脂が多孔構造になりやすいので、柔らかいシート状物となる。他方、水分散型PU樹脂は、主に加熱することにより、水に分散させたPU分子の水和状態を崩壊させ、PU分子同士を凝集させることにより凝固する「乾熱凝固方式」であり、得られるPU膜構造は密度が高い無孔膜となる。そのため、繊維とPU樹脂の接着は密になり、繊維の交絡部分を強く把持するため、風合いが硬くなる。この水分散型PU樹脂適用による風合いの改善、すなわち、PU樹脂による繊維交絡点の把持を抑制するために、シート状物内でのPU樹脂の構造を多孔構造とする技術が提案されているとの認識の下、繊維シートに、水分散型PU樹脂と発泡剤とアニオン系界面活性剤及び/又は両イオン系界面活性剤を含有するPU樹脂分散液を付与することを特徴とするシート状物の製造方法により、発泡剤とPUの種類に関係なく、シート状物内部のPU樹脂の多孔構造を発現でき、有機溶剤系PU樹脂を適用した人工皮革と同等に均一な起毛長からなり、繊維緻密感に優れる優美な表面品位と柔軟で反発感にも優れる良好な風合いを有するシート状物を製造することができる旨開示されている。
しかしながら、特許文献2に記載された方法で得られたシート状物では、極細繊維束とPU樹脂間の空隙が大きくなっており(PU樹脂の多孔構造化)、極細繊維束にPU樹脂が強固に接着することが抑制される結果として、風合いの柔軟化が一部認められるものの、断面PU樹脂面積率が未だ比較的高く、PU樹脂の分散性が充分でないばかりか、単繊維の分散性については検討されていない。
【0005】
また、以下の特許文献3には、有機溶剤系PU樹脂を適用した人工皮革と比べて遜色ない均一感があり、優美な表面品位と良好な風合いを有するシート状物とその製法、さらには、水分散型PU樹脂を適用することにより、PU樹脂の多孔構造化を達成し、有機溶剤系PU樹脂を適用した人工皮革に酷似した折れシワ回復性と柔軟性を有するシート状物とその製法を提供すべく、その解決手段として、極細繊維及び/又は極細繊維束からなる繊維シートに、親水性基を有する高分子弾性体(例えば、水分散型PU樹脂)がバインダーとして付与されてなるシート状物であって、前記のシート状物の厚み方向に切断した断面において、切断面内に観察される前記高分子弾性体のうち、独立して50μm2以上の断面積を有する部分の占有比率が観察視野内の人工皮革断面の面積に対し0.1%以上5.0%以下であるものが開示され、また、その製法として、極細繊維からなる繊維シートに、親水性基を有する高分子弾性体がバインダーとして付与されてなるシート状物の製造方法において、前記高分子弾性体と増粘剤を含む分散液を繊維シートに付与し、50~100℃の温度の熱水中で前記高分子弾性体を凝固させることが提案されている。同書では、増粘剤としては、低濃度においてチキソトロピー性が高いグアーガム等が使用されており、前記分散液がチキソトロピー性であれば、撹拌等により力を加えることにより粘度が低下し、前記分散液を繊維シート内に均一に含浸させることができ、さらに力を加えた後に静置しておくことにより、粘度が元に戻るため、繊維シート内に含浸された前記分散液が繊維シートから脱落しにくくなると記載されている。
しかしながら、特許文献3に記載された方法で得られたシート状物では、水分散型PU樹脂の大きさが制御される(PU樹脂塊が小型化される)結果、樹脂の脱落、風合い、外観品位の若干の向上が認められるものの、断面PU樹脂面積率が高く、PU樹脂の分散性が充分でなく、また、単繊維の分散性については検討されていない。
【0006】
以下の特許文献4には、機械的諸物性、柔軟性、風合いに優れた素材感、さらに軽量性を兼ね備えた人工皮革用基材を提供することを目的として、三次元絡合不織布と高分子弾性体とからなる人工皮革用基材であって、下記要件(1):三次元絡合不織布を形成する繊維の表面に高分子弾性体が不連続で存在する;要件(2):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における350μm2未満の空隙間内接円面積を除いた空隙間内接円面積の平均が1250μm2以下である;及び要件(3):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における空隙間内接円面積350~3000μm2の空隙間内接円数が、全空隙間内接円数に対し85%以上である;を満たす人工皮革用基材が提案されている。かかる人工皮革用基材は、三次元絡合不織布にポリビニルアルコール(以下、PVAともいう。)樹脂を添加した水分散型PU樹脂分散液を含浸、凝固させて高分子弾性体を形成する工程を経ることにより得られるものである。特許文献4では、高分子弾性体が繊維と一定の離型構造を有して繊維表面に不連続に存在し、かつPU樹脂が内部に均一に分散することで、繊維間空隙が均一に分布しており、スポーツシューズ等に用いられる、機械的物性に優れ、柔軟かつ軽量で風合いに優れた素材感を有する人工皮革基材が得られるとされる。
しかしながら特許文献4に記載された方法で得られた人工皮革用基材では、水分散型PU樹脂の分散性の向上が認められ、柔軟、軽量ではあるものの、単繊維の分散性は良好でなく、緻密感に乏しいものである。また、特許文献4に記載された人工皮革用基材は、主に銀面様外観を持つ「スムーズ」人工皮革に使用するものである。
【0007】
以下の特許文献5には、シート状物、特に長期的に良好な表面タッチと発色性と外観品位に優れた皮革様シート状物及びその製法を提供することを目的として、平均単繊維直径が0.3~7μmの極細繊維を含んでなる繊維シートの内部に高分子弾性体を含有し、表面に立毛を有するシート状物であって、前記シート状物の表面から厚み方向に0.2μm以内に存在する立毛繊維について、無作為に抽出した100本の内の1本と最も近接した立毛繊維との最短の繊維間距離の、当該100本の平均値が10~30μmであり、無作為に抽出した100本のうちの1本との距離が近い順に選ばれる周辺の20本の立毛繊維との繊維間距離の当該100本分の標準偏差が10以下であるシート状物が提案されている。かかるシート状物は、次の工程1:海島型繊維を含む繊維シートの海成分を除去し、極細繊維を発現させる工程;工程2:極細繊維を含む繊維シートの極細繊維をアルカリ減量処理する工程;工程3:上記の1~2の工程の後に、得られた繊維シートに高分子弾性体を付与する工程;工程4:上記の3の工程の後に、得られたシート状物を厚さ方向に半裁し、半裁して得られたシート状物の少なくとも片方の面を起毛処理する工程により得られるとされる。特許文献5には、極細繊維のアルカリ減量処理の後に極細繊維を均一に分散させる処理を行うことが好ましく、極細繊維を均一に分散させる処理は、アルカリ減量後の繊維シートに水によるシャワーリングを行う方法、繊維シートを水中に浸漬し、バイブロウォッシャー等の水流を当てて分散させる方法、ウォータージェットパンチにより水流を当てて分散させる方法等があり、これらの極細繊維を均一に分散させる処理を行うことで、極細繊維のバラケが均一になり、平均単繊維直径が0.3~7μmの発色性のよい繊維を用いて、薬剤付与による一時的な表面タッチの改良ではなく、特に長期的に立毛の分散状態が良く、良好な表面タッチ(ざらついた感触がないこと)、均一な立毛を有し、優美な外観品位、発色性に優れたシート状物を得ることができることが記載されている。
しかしながら、特許文献5に記載されるような、極細繊維を均一に分散させる処理であるところの、バイブロウォッシャー等の水流を当てて分散させる処理では、繊維の分散性が充分でなく、また、PU樹脂の分散性にも劣るため、緻密感としっとり感のいずれも充分でなく、また、風合い(剛軟値)については不明である。
【0008】
このように、従来技術においては、海島型繊維を用いた繊維シートにPU樹脂を含浸させて得られる人工皮革において、繊維の分散性やPU樹脂の分散性を高めることで、風合い(剛軟値)、緻密感(繊維束の分散性)、及びしっとり感(PU樹脂塊の適度なサイズ)に優れる人工皮革を提供するための様々な試みがなされてきたものの、風合い(剛軟値)、緻密感、及びしっとり感(PU樹脂塊の適度なサイズ)はトレードオフの関係にあり、風合い(剛軟値)、緻密感(繊維束の分散性)、及びしっとり感(PU樹脂塊の適度なサイズ)を共に満足できるレベルの人工皮革及びその製法は未だ達成されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4089324号公報
【文献】特開2014-25165号公報
【文献】国際公開第2015/129602号
【文献】特開2017-8478号公報
【文献】特開2015-161040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記した従来技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、人体及び環境への有害性が低く、かつ、風合い(剛軟値)、緻密感(繊維束の分散性)、及びしっとり感(PU樹脂塊の適度なサイズ)とを満足できるレベルで両立した人工皮革及びその製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決すべく本発明者らは鋭意研究し実験を重ねた結果、以下の特徴を有する人工皮革であれば該課題を解決しうることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]繊維シートとポリウレタン樹脂とを含む人工皮革であって、該繊維シートが、該人工皮革の第1の外表面を構成する繊維層(A)を少なくとも含み、かつ、該人工皮革の厚み方向断面における該繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が10%以上80%以下であり、かつ、前記繊維層(A)の厚み方向断面における断面ポリウレタン樹脂面積率が10%以上30%以下であり、かつ、前記繊維層(A)の厚み方向断面における断面ポリウレタン樹脂面積率の標準偏差が25%以下であることを特徴とする前記人工皮革。
[2]前記繊維層(A)のX線CTによる三次元画像において、該繊維層(A)を構成する繊維と前記ポリウレタン樹脂を除外した空間に入る最大の球の直径である空間サイズの、該繊維層(A)の厚み方向における平均値(平均空間サイズ)が5μm以上35μm以下である、前記[1]に記載の人工皮革。
[3]前記繊維シートが、前記第1の外表面を構成する繊維層(A)と、該繊維層(A)に接するスクリム及び/又は繊維層(B)とで構成された2層以上の構造を有する、前記[1]又は[2]に記載の人工皮革。
[4]前記繊維層(A)を構成する単繊維の平均直径が、1.0μm以上8.0μm以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革。
[5]前記ポリウレタン樹脂が、水分散型ポリウレタン樹脂である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の人工皮革。
[6]前記繊維シートに対する前記ポリウレタン樹脂の付着率は、15質量%以上50質量%以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の人工皮革。
[7]剛軟値が28cm以下である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の人工皮革。
[8]前記繊維シートは、ポリエステル繊維から構成される、前記[1]~[7]のいずれかに記載の人工皮革。
[9]緻密感が4.0級以上である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の人工皮革。
[10]以下の工程:
海島短繊維で繊維ウェブを形成し、その後ニードルパンチ処理して得た繊維シートを脱海処理して、島成分の単繊維が露出した繊維シートを得る工程;及び
得られた繊維シートに水流分散処理を施し、単繊維が分散した繊維シートを得る工程;を含む、前記[1]~[9]のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
[11]以下の工程:
前記単繊維が分散した繊維シートに、熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型ポリウレタン樹脂分散液を含浸させ、さらにその後、該ポリウレタン樹脂を加熱により固着させて、ポリウレタン樹脂が充填されたシート状物を得る工程;及び
得られたシート状物から熱水を用いて該熱水溶解性樹脂微粒子を除去する工程;
をさらに含む、前記[10]に記載の製造方法。
[12]前記熱水溶解性樹脂微粒子は、ポリビニルアルコール樹脂である、前記[10]又は[11]に記載の製造方法。
[13]前記水流分散処理が、ノズル孔間隔が1.0mm以下であり、かつ、ノズル孔径が0.05mm以上0.30mm以下である複数のノズルを用いて実施される、前記[10]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]前記水流分散処理が、擾乱が10%以上の水流を吐出する複数のノズルを用いて実施される、前記[10]~[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]前記水分散型ポリウレタン樹脂分散液の固形分濃度が、10重量%以上35重量%以下である、前記[11]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]前記水分散型ポリウレタン樹脂分散液中の熱水溶解性樹脂微粒子の含有量が、1重量%以上20重量%以下である、前記[11]~[15]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る人工皮革は、風合い(剛軟値)、緻密感(繊維束の分散性)、及びしっとり感(ポリウレタン樹脂塊の適度なサイズ)に優れるため、インテリア用、自動車用、航空機用、鉄道車両用等のシートの表皮材又は内装材等、服飾製品等に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、符号1の人工皮革の構成例を示す概念図である。尚、符号11のスクリム、及び符号13の繊維層(B)は任意であるため、本実施形態の人工皮革は、符号12の繊維層(A)の単層の場合、繊維層(A)とスクリム又は繊維層(B)との2層の場合、繊維層(A)とスクリムと繊維層(B)の3層の場合がある。
【
図2】
図2は、繊維層(A)を構成する繊維の平均直径の求め方を説明する概念図である。
【
図3】
図3は、繊維層(A)からの、厚み方向断面における単繊維断面k近傍距離割合値(%)、断面PU樹脂面積率、単繊維の平均直径、第1の外表面における表面PU樹脂面積率、空間サイズの各々のサンプル採取箇所を説明する概念図である。
【
図4】
図4は、厚み方向断面における単繊維断面k近傍距離割合値(%)を求めるために、所定画像領域内の各単繊維断面を人でマーキングした状態を示す画像である。
【
図5】
図5は、厚み方向断面における単繊維断面k近傍距離割合値(%)の求め方を説明するための概念図である。
【
図6】
図6は、断面又は表面PU樹脂面積率、及びその標準偏差の求め方を説明するための概念図である。
【
図7】
図7は、断面PU樹脂面積率(%)とその標準偏差に関して、実施例と比較例を対比したグラフである。
【
図8】
図8は、水流分散処理に用いるノズルのノズル孔が1列又は2列以上の場合におけるノズル孔間隔を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明するが、本発明は実施形態に限定されるものではない。また、本開示の各種値は、特記がない限り、本開示の[実施例]の項に記載される方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で得られる値である。
【0015】
<人工皮革>
本発明の一の実施形態は、繊維シートとPU樹脂とを含む人工皮革であって、該繊維シートが、該人工皮革の第1の外表面を構成する繊維層(A)を少なくとも含み、かつ、該人工皮革の厚み方向断面における該繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が10%以上80%以下であり、かつ、前記繊維層(A)の厚み方向断面における断面ポリウレタン樹脂面積率が10%以上30%以下であり、かつ、前記繊維層(A)の厚み方向断面における断面ポリウレタン樹脂面積率の標準偏差が25%以下であることを特徴とする前記人工皮革である。
【0016】
本明細書中、「人工皮革」とは、家庭用品品質表示法に準じ「基材に特殊不織布(ランダム三次元立体構造を有する繊維層を主とし、PU樹脂又はそれに類する可撓性を有する高分子弾性体を含浸させたもの)を用いているもの」である。また、JIS-6601の定義では、人工皮革は、その外観によって、革の銀面様外観を持つ「スムーズ」と、革のスエード、ベロア等の外観を持つ「ナップ」に分類されるが、本実施形態の人工皮革は「ナップ」に分類されるもの(すなわち、起毛調外観を有するスエード調人工皮革)に関するものである。スエード調外観は、繊維層(A)の外表面(すなわち、人工皮革の第1の外表面となる面)をサンドペーパー等でバフィング処理(起毛処理)することにより形成することができる。尚、本明細書中、人工皮革の第1の外表面とは、人工皮革が使用される際に外部に露出する表面(例えば、椅子用途の場合は人体と接触する側の表面)である(
図1、
図3参照)。一態様において、スエード調人工皮革の場合には、第1の外表面が、バフィング加工等により起毛又は立毛されている。
本明細書中、特段の定めなき限り、用語「繊維ウェブ」とは、短繊維の交絡前の状態を、用語「繊維シート」とは、交絡後からPU樹脂充填前の状態を、用語「シート状物」とは、PU樹脂充填後から染色仕上げ前の状態を、そして用語「人工皮革」とは、染色仕上げ後の製品の状態を意味する。また、用語「不織布」とは、「繊維ウェブ」、「繊維シート」、「シート状物」、「人工皮革」を包含し、また、用語「繊維質基材」とは、用語「不織布」に加えて、織編物等も包含する。
【0017】
[繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)]
本実施形態の1の特徴は、人工皮革の厚み方向断面における該繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が10%以上80%以下であることである。k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)は、単繊維の密集度合いを指標する。
測定方法は後述するが、k近傍法とは、任意の1つの単繊維断面に近いk個の単繊維断面を取り上げ、ユークリッド距離(すなわち、X方向とY方向の距離の二乗和の平方根(=最短距離))においてk番目に近い半径を決定境界とする手法であり、本実施形態においては、SEM画像を撮影し、任意の1つの単繊維断面の略中心から半径20μmの距離内にk=9番目に近い単繊維断面が存在しているか否かを決定する。1つのSEM画像内の全ての単繊維断面について、該存在の有無を求め、単繊維断面k=9近傍距離割合値(%)を以下の式で求める:
単繊維断面(k=9)近傍距離割合値(%)={(単繊維断面の略中心から半径20μmの距離内にk=9番目に近い単繊維断面が存在している単繊維断面の個数)/(1つのSEM画像内の単繊維断面の全数)}×100。
人工皮革の厚み方向断面における繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が10%以上であれば、単繊維が適度に分散している状態で存在し、その結果、繊維層(A)のPU樹脂塊も適度に分散して存在し、人工皮革を指先で触れるとかかる適度に分散したPU樹脂塊に触れることになるため、しっとり感(PU樹脂塊の程度なサイズ)が満足できるものとなる。他方、k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が80%以下であれば、単繊維が適度に凝集しているため、緻密感(繊維束の分散性)が高い滑らかな触感となる。k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)は、20%以上70%以下が好ましく、30%以上60%以下がより好ましい。
【0018】
後述するように、海島短繊維で繊維ウェブを形成し、その後ニードルパンチ処理して得た繊維シートを脱海処理して、島成分の単繊維が露出した繊維シートを得る工程の後に、得られた繊維シートに水流分散処理を施し、単繊維が分散した繊維シートを得る工程を施すことにより、k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)を80%以下の範囲内に制御することができる。水流分散処理としては、ノズル孔間隔が1.00mm以下である複数のノズルを用いて高圧水を噴射させて実施することが好ましい。
図8に示すように、ノズル孔間隔とは、ノズル孔と該ノズル孔にノズル幅方向で最も隣接するノズル孔とのノズル幅方向の距離である(ノズル孔が2列以上の場合も、1列の場合と同様である)。ノズル孔間隔を1.00mm以下にすることによって、繊維シート上に緻密な間隔の水流を吐出することができ、単繊維束の状態である単繊維を分散することで緻密感やしっとり感を向上させ易い。また、繊維シート表面に水流分散処理による水流軌跡が目立ち難い。ノズル孔間隔は好ましくは0.60mm以下、さらに好ましくは0.30mm以下である。
【0019】
また、水流分散処理設備の幅方向に開孔されたノズル孔の列数は1列でも2列以上の多列でもかまわない。水流分散処理を行う場合は、繊維シートの均一性や形態安定性保持の点から水流分散処理で繊維シートへ投入した水分を取り除くことが一般的であり、水流分散処理面の反対面からサクション法などによって脱水する。その場合、例えばノズル孔列数1列でノズル孔間隔を狭くする場合は投入水量に対して脱水能力が不足し、結果として繊維シートの均一性や形態安定性が悪化する場合がある。それに対し列数を多列とし、ノズル孔列1列あたりのノズル孔間隔を広くすることでノズル孔列1列あたりの投入水量を低下させることは投入水量と脱水能力のバランスが取り易いので好ましい態様である。例えば、ノズル孔間隔0.30mmの1列ノズルにおいて脱水不良が発生した場合、1列のノズル孔間隔が0.60mmの2列ノズルとし、2列目を1列目に対して位相差0.30mmでノズル間隔0.60mmのノズル孔列を配置すれば水流軌跡(ノズル孔間隔)は0.30mmになり、脱水不良を改善する効果が得られる。また、ノズル孔間隔を広くし、多列にすることはノズル工作が容易になることからも好ましい。ノズル孔間隔(水流軌跡)は単繊維を均一に分散させ易く、水流軌跡が目立ち難く緻密感やしっとり感が向上し易い点から等間隔が好ましい。
ノズル孔列数が多列の場合のノズル孔列間距離は、脱水性の点から例えばノズル1列内のノズル孔間隔相当の距離にすることが好ましい。
【0020】
水流分散処理における高圧水噴射ノズル孔の孔径は、高い単繊維分散化が得られ易く、且つ水流軌跡が目立ち難く、さらには投入水量が過多とならず脱水能力とのバランスが取り易い点から0.05mm以上0.30mm以下が好ましく、より好ましくは0.05mm以上0.20mm以下、さらに好ましくは0.08mm以上0.13mm以下である。
また、水流分散処理の水圧は1.0~10.0MPaで噴射させることが好ましい。水流分散処理の水圧を1.0Mpa以上にすることにより、単繊維束の状態である単繊維を分散させ易く、水流分散処理の水圧を10.0Mpa以下にすることにより、短繊維束を過度に分散させることがないので、k近傍距離割合値を10%以上80%以下にコントロールさせ易い。また、単繊維束の状態である単繊維を分散させ、且つ水流軌跡が目立ち難くなり易い。水流分散処理の水圧が高い場合は水流が繊維シートを貫通することがあり、単繊維束を分散させるエネルギーとして使われず、返って低水圧で処理する場合よりも単繊維束の分散化効果が低下する場合がある。また、水流分散処理の水圧が高い場合は、繊維シートが高密度化し、風合い(剛軟値)が悪化する傾向がある。分散処理の水圧は、より好ましくは1.5~7.0MPa、さらに好ましくは2.0~4.5MPaである。
【0021】
ノズル孔より吐出される水流の形状としては、水流の擾乱が10%以上である水流を吐出する複数のノズルを用いて実施することも好ましい。擾乱とは、水流の直径の変動の指標である。水流のエネルギーを効率よく繊維の分散に変換できるため、擾乱は12%以上が好ましく、さらに好ましくは15%以上である。擾乱は、ノズル孔の吐出口より25mmから35mmまでの範囲における水流の平均径をW、該平均径の標準偏差をσとして、以下の式:
擾乱(%)=σ(mm)/W(mm)×100
により算出する。
擾乱による単繊維束の分散化メカニズムは明確になっていないが、本願発明者らは、擾乱が小さい場合に対して大きい場合には、水流エネルギーが繊維シートの垂直方向に加え水平方向へ向かった多方向へも分散され易くなることで、水流エネルギーを効率よく単繊維束の分散化エネルギーに変換できるため分散化効果が高くなると考えている。一例として、高水圧では繊維シートを貫通して無駄になる水流エネルギーを分散化エネルギーとして取り込み易いと考えている。
【0022】
また、高圧水噴射ノズルを円運動させること、あるいは工程進行方向(機械方向)に対して直角に往復運動させることなども、単繊維分散化を促進し緻密感やしっとり感が向上する上で好ましい。
高圧水噴射面から被処理物までの距離は、単繊維束の分散化効果に加え、水流分散処理前の導布、及び水流分散処理時の工程通過性の点から、好ましくは5mm以上100mm以下であり、より好ましくは10mm以上60mm以下、さらに好ましくは20mm以上40mm以下である。
【0023】
[繊維層(A)の厚み方向断面における断面PU樹脂面積率とその標準偏差]
本実施形態の人工皮革では、繊維層(A)の厚み方向断面における断面PU樹脂面積率が10%以上30%以下であり、かつ、該断面PU樹脂面積率の標準偏差が25%以下である。
断面PU樹脂面積率が30%を超えると、PU樹脂付着率が高すぎるものとなり、人工皮革のゴムライク感が強くなる。この場合、柔軟性は低下し、風合いが硬いものとなる。人工皮革にスクリムがない場合には、平面方向における充分な機械物性が得られ易い点で、断面PU樹脂面積率は10%以上である。断面PU樹脂面積率は好ましくは15%以上30%以下、より好ましくは15%以上28%以下、さらに好ましくは15%以上26%以下である。
断面PU樹脂面積率は、前記k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)と相俟って、以下に説明する風合い(剛軟値)を指標する。例えば、k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が80%を超える場合は、過剰な単繊維束が存在する。他方、水分散型PU樹脂は、単繊維や単繊維束に付着した状態で固着する傾向が大きい。つまり、k近傍距離割合値が80%以上である過剰な単繊維束の存在下で、断面PU樹脂面積率が10%以上であると、PU樹脂塊が単繊維束に凝集して付着するため、風合い(剛軟値)が悪化する。k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が10%以上80%以下であり、さらに、断面PU樹脂面積率が10%以上30%以下であれば、風合い(剛軟値)が28cm以下になる。
後述するように(
図6参照)、断面PU樹脂面積率は、SEM画像内のPU樹脂を黒色部分として二値化し、得られた二値化像から、区画法により各区画に対するPU樹脂の面積割合を求め、全区画について断面PU樹脂面積率(%)を平均したものであり、その標準偏差は、全区画についての平均からのバラツキを指標する。断面PU樹脂面積率の標準偏差が25%以下であれば、PU樹脂塊の大きさの分布が制御されるため、風合い(剛軟値)のバラツキが小さくなる。断面PU樹脂面積率の標準偏差は好ましくは25%以下、より好ましくは22%以下、さらに好ましくは20%以下である。断面PU樹脂面積率の標準偏差の下限は特に限定されず、0%以上であればよい。
後述するように、例えば、熱水溶解性樹脂微粒子(例えば、PVA樹脂微粒子)を含む水分散型PU樹脂分散液を含侵させ、その後、該PU樹脂を加熱により固着させて、PU樹脂が充填されたシート状物を得る工程を施すことで、断面PU樹脂面積率を10%以上30%以下に制御することができる。また、海島短繊維で繊維ウェブを形成し、その後ニードルパンチ処理して得た繊維シートを脱海処理して、島成分の単繊維が露出した繊維シートを得る工程の後、得られた繊維シートに前記した水流分散処理を施し、単繊維が分散した繊維シートを得る工程を施すことで、単繊維の分散に伴い、繊維に付着するPU樹脂も分散する結果、断面PU樹脂面積率の標準偏差を25%以下に制御することができる。
【0024】
[平均空間サイズ]
本実施形態の人工皮革では、前記繊維層(A)のX線CTによる三次元画像において、該繊維層(A)を構成する繊維と前記PU樹脂を除外した空間に入る最大の球の直径である空間サイズの、該人工皮革の厚み方向における平均値(平均空間サイズ)が5μm以上35μm以下であることが好ましい。
後述するように、平均空間サイズとは、X線CTにより繊維層(A)の3次元画像を撮影し、繊維層(A)を構成する単繊維とPU樹脂を除外した空間に入る最大の球の直径(μm)の厚み方向における平均値である。平均空間サイズは、人工皮革の繊維層(A)における繊維とPU樹脂塊からなる構造体の分散状態を指標する。平均空間サイズが大きい場合、繊維とPU樹脂塊が密着して存在していることを意味する。平均空間サイズが5μm以上35μm以下の範囲内であれば、繊維とPU樹脂が適度に分散しているので、風合い(剛軟値)が28cm以下となりやすい。後述するように、例えば、単繊維が分散した繊維シートに、熱水溶解性樹脂微粒子(例えば、PVA樹脂微粒子)を含む、水分散型PU樹脂分散液を含侵させ、さらにその後、該PU樹脂を加熱により固着させて、PU樹脂が充填された繊維シートを得る工程を施すことで、最終製品である人工皮革の平均空間サイズを5μm以上35μm以下に制御することができる。平均空間サイズは、より好ましくは5μm以上25μm以下、さらに好ましくは5μm以上13μm以下である。
【0025】
[繊維シートに対するPU樹脂の付着率]
本実施形態の人工皮革においては、繊維シートに対するPU樹脂の付着率は、15質量%以上50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは22質量%以上45質量%以下、更に好ましくは26質量%以上40質量%以下である。繊維シートに対するPU樹脂の比率は、前記した断面PU樹脂面積率、及び平均空間サイズのコントロール性に影響する。PU樹脂の比率が低い場合は、断面PU樹脂面積率が低い傾向、及び平均空間サイズが大きい傾向がある。他方、PU樹脂の比率が高い場合には、断面PU樹脂面積率が高い傾向、及び平均空間サイズが小さい傾向がある。繊維シートに対するPU樹脂の比率が15質量%以上であれば、PU樹脂によって繊維同士が良好に把持され、市場ニーズを満足する耐摩耗性等の機械強度が得られ易い。他方、繊維シートに対するPU樹脂の比率が50質量%以下であれば、柔軟な風合いが得られ易い。
【0026】
[ポリウレタン(PU)樹脂]
PU樹脂としては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるものが好ましい。
ポリマージオールとしては、例えば、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系、シリコーン系、フッ素系等のジオールを採用することができ、これらの2種以上を組み合わせた共重合体を用いてもよい。耐加水分解性の観点からは、ポリカーボネート系若しくはポリエーテル系又はこれらの組み合わせのジオールが好ましく用いられる。また、耐光性及び耐熱性の観点からは、ポリカーボネート系、ポリエステル系、又はこれらの組み合わせのジオールが好ましく用いられる。さらに、コスト競争力の観点からは、ポリエーテル系、ポリエステル系、又はこれらの組み合わせのジオールが好ましく用いられる。
ポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルとのエステル交換反応、ホスゲン又はクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応等によって製造することができる。
【0027】
アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の直鎖アルキレングリコール;ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等の分岐アルキレングリコール;1,4-シクロヘキサンジオール等の脂環族ジオール;ビスフェノールA等の芳香族ジオール;等が挙げられ、これらを1種又は2種以上の組み合わせで使用できる。
ポリエステル系ジオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルジオールを挙げることができる。
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノールから選ばれる一種又は二種以上を使用することができる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も使用可能である。
また、多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びヘキサヒドロイソフタル酸からなる群から選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。
【0028】
ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、又はそれらを組み合わせた共重合ジオールを挙げることができる。
ポリマージオールの数平均分子量は、500~4000であることが好ましい。数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、風合いが硬くなることを防ぐことができる。また、数平均分子量を4000以下、より好ましくは3000以下とすることにより、PU樹脂の強度を良好に維持することができる。
有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネート;ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート;が挙げられ、またこれらを組み合わせて用いてもよい。中でも、耐光性の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートが好ましく用いられる。
鎖伸長剤としては、エチレンジアミン及びメチレンビスアニリン等のアミン系の鎖伸長剤、又はエチレングリコール等のジオール系の鎖伸長剤を用いることができる。また、ポリイソシアネートと水とを反応させて得られるポリアミンを鎖伸長剤として用いることもできる。
【0029】
また、PU樹脂は、PU樹脂をN,N-ジメチルホルムアミド等の有機溶媒で溶解した溶剤型PU樹脂、PU樹脂を乳化剤で乳化させて水中へ分散させた水分散型PU樹脂等の形態で使用できる。中でも、PU樹脂を微細な形態で繊維シートに充填し易く、少量の付着でも風合い及び機械物性等の人工皮革としての要求性能が得られ易く、且つ、有機溶媒を使用する必要がなく環境負荷を低減できる点から、水分散型PU樹脂が好ましい。すなわち、水分散型PU樹脂は、PU樹脂が所望の粒子径で分散した分散液(以下、PU樹脂分散液ともいう。)の形態で繊維シートに含浸させることができるため、当該粒子径の制御によってPU樹脂の繊維シート中での充填形態を良好に制御できる。
水分散型PU樹脂としては、PU分子内に親水基を含有する自己乳化型PU樹脂、外部乳化剤でPU樹脂を乳化させた強制乳化型PU樹脂等を使用することができる。
水分散型PU樹脂には、耐湿熱性、耐摩耗性、耐加水分解性等の耐久性を向上させる目的で架橋剤を併用することができる。液流染色加工時の耐久性を向上させ、繊維の脱落を抑制し、優れた表面品位を得るために、架橋剤を添加することが好ましい。架橋剤は、PU樹脂に対し、添加成分として添加する外部架橋剤でもよく、また、PU樹脂構造内に予め架橋構造を採ることができる反応基を導入する内部架橋剤でもよい。
人工皮革に使用される水分散型PU樹脂は、一般的には染色加工耐性を具備させるために架橋構造を有しているため、N,N-ジメチルホルムアミド等の有機溶剤に溶け難い傾向にある。そのため、例えば、人工皮革をN,N-ジメチルホルムアミドに室温で12時間浸漬させて、PU樹脂の溶解処理を行った後、電子顕微鏡等で断面を観察した際に、繊維形状を有しない樹脂状物が残存していれば、該樹脂状物は水分散型PU樹脂であると判断できる。
【0030】
好ましい態様においては、断面PU樹脂面積率とその標準偏差、及び平均空間サイズを容易にコントロールする観点から、PU樹脂分散液を用いてPU樹脂の充填を行い、かつその際に該分散液中のPU樹脂の平均一次粒子径を0.1μm以上0.8μm以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上0.6μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以上0.5μm以下である。尚、平均一次粒子径は、PU樹脂分散液のレーザー型回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-920」)による測定で得られる値である。PU樹脂の平均一次粒子径を0.1μm以上とすることで、繊維シート中の繊維同士をPU樹脂によって把持する力(すなわち、バインダー力)を良好にすることによって優れた機械強度を有する人工皮革が得られる。また、PU樹脂の平均一次粒子径を0.8μm以下とすることは、PU樹脂が凝集又は粗大化することを抑制し、断面PU樹脂面積率の標準偏差を25%以下に制御できる点で有利である。PU樹脂分散液中のPU樹脂の平均一次粒子径を0.1μm以上0.8μm以下とすることで、人工皮革(特にその表層)を構成する繊維同士が把持される点が多くなり、柔軟な風合い(剛軟値)、及び優れた機械強度(耐摩耗性等)が得られる。
【0031】
[PU樹脂分散液の固形分濃度]
後述するように、典型的な態様において、PU樹脂は、溶液(例えば、溶剤溶解型の場合)、分散液(例えば、水分散型の場合)等の含浸液の形態で含浸される。例えば、水分散型PU樹脂分散液の固形分濃度は、10重量%以上35重量%以下であることができ、より好ましくは15~30質量%、さらに好ましくは15~25質量%である。一態様において、繊維シート100質量%に対するPU樹脂の付着率が15質量%以上50質量%以下となるように含浸液の調製及び繊維シートへの含浸を行う。
【0032】
PU樹脂(例えば、水分散型PU樹脂)を含む含浸液には、必要に応じて安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤等)、難燃剤、帯電防止剤、顔料(カーボンブラック等)等の添加剤を添加してよい。人工皮革中に存在するこれら添加剤の総量は、PU樹脂100質量部に対して、例えば、0.1~10.0質量部、又は0.2~8.0質量部、又は0.3~6.0質量部であってよい。尚、このような添加剤は、人工皮革のPU樹脂中に分布することになる。本開示において、PU樹脂のサイズ及び繊維シートに対する質量比率について言及するときの値は添加剤(用いる場合)も含んでの値を意図する。
【0033】
[熱水溶解性樹脂微粒子]
PU樹脂を含む含浸液を繊維シートに含浸させることによって繊維シートにPU樹脂を充填する場合、繊維シートに熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させ、さらにその後、該PU樹脂を加熱により固着させて、PU樹脂が充填されたシート状物を得る工程を施すことが好ましい態様である。後工程、又は染色工程において、得られた繊維シートから熱水を用いて該熱水溶解性樹脂微粒子を除去することで、PU樹脂の連続層の一部を分断、多孔化し、PU樹脂の付着状態を微細化する効果が得られる。
熱水溶解性樹脂微粒子としては、部分ケン化型PVA樹脂微粒子、完全ケン化型PVA樹脂微粒子等が挙げられる。完全ケン化型PVA樹脂微粒子は部分ケン化型PVA樹脂微粒子と比べて常温(20℃)の水に溶出し難い傾向があるため、熱水溶解性樹脂微粒子として完全ケン化型PVA樹脂微粒子を用いることが好ましい。常温(20℃)の水に溶出し難いという観点から、完全ケン化型PVA樹脂微粒子のケン化度は95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましい。繊維を接着し把持する力とPU樹脂の付着状態の微細化を両立するため、熱水溶解性樹脂微粒子の平均粒子径(サイズ)は1μm以上8μm以下が好ましく、2μm以上6μm以下がより好ましく、2μm以上4μm以下がより好ましい。前記平均粒子径を1μm以上とすることで、熱水溶解性樹脂微粒子が凝集し難く、前記平均粒子径を8μm以下とすることで、熱水溶解性樹脂微粒子が繊維シートへ良好に含浸しやすい。前記微粒子として三菱ケミカル株式会社製「NL-05」を用いることができ、前記熱水溶解性樹脂微粒子の微細化は特開平7-82384号公報に記載の方法により達成できる。
前記水分散型PU樹脂分散液中の熱水溶解性樹脂微粒子の含有量は、1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは2重量%以上15重量%以下であり、さらに好ましくは3重量%以上10重量%以下である。水分散型PU樹脂分散液中に熱水溶解性樹脂微粒子が1質量%以上含まれることにより、PU樹脂塊の分散化が促進されやすい。他方、水分散型PU樹脂分散液中に熱水溶解性樹脂微粒子が20重量%以下含まれることにより、該微粒子が凝集せず該分散液の安定性が保持され易い。
尚、本明細書中、「熱水溶解性樹脂」とは、常温水に難溶解性である樹脂をいう。
【0034】
[熱水溶解性樹脂]
繊維シートに熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させ、その後、該PU樹脂を加熱により固着させて、PU樹脂が充填されたシート状物を得る場合、繊維シートに熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸する前に、繊維シートに熱水溶解性樹脂を付着させる工程を施すこともできる。熱水溶解性樹脂(例えば、PVA樹脂)の付着方法としては、熱水溶解性樹脂水溶液を調製し、該水溶液を繊維シートへ含浸後、乾燥するなどの方法で付着させることができる。後工程、又は染色工程において、得られた繊維シートから熱水を用いて該熱水溶解性樹脂微粒子とともに該熱水溶解性樹脂を除去することで、繊維とPU樹脂との接着の阻害や、PU樹脂の連続層の一部を分断、多孔化し、PU樹脂の付着状態を微細化する効果が得られるので、人工皮革の風合いが向上し易い。
熱水溶解性樹脂としては、部分ケン化型PVA樹脂、完全ケン化型PVA樹脂等が挙げられる。完全ケン化型PVA樹脂は部分ケン化型PVA樹脂と比べて常温(20℃)の水に溶出し難い傾向があるため、熱水溶解性樹脂として完全ケン化型PVA樹脂を用いることが好ましい。常温(20℃)の水に溶出し難いという観点から、完全ケン化型PVA樹脂のケン化度は95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましい。また、含浸時の熱水溶解性樹脂水溶液の浸透性を高めるため、重合度は1000以下であることが好ましく、700以下であることがより好ましい。
【0035】
[繊維シート]
図1に示すように、繊維シート1は、少なくとも繊維層(A)12を含み、スクリム11と繊維層(B)13は任意であり必須要素ではない。したがって、本実施形態の人工皮革は、繊維層(A)の単層の場合、繊維層(A)とスクリム又は繊維層(B)との2層の場合、繊維層(A)とスクリムと繊維層(B)の3層の場合がある。
スクリム11及び/又は繊維層(B)13を含まない場合、繊維層(A)は、後述するように、PU樹脂が充填された単層の繊維シートを半裁したものであってもよい。一態様では、繊維シートは、スクリムを含まない単層構造である。半裁することにより生産性が高まるからである。
他の態様においては、繊維シートは、3層構造であり、且つ、スクリムが中間層である。例えば、人工皮革の第1の外表面を構成する繊維層(A)12と、人工皮革の第2の外表面を構成する繊維層(B)13との間に、織編物であるスクリム11をサンドイッチ状に挟み込み、繊維をこれらの層間で交絡させてなる3層構造は、寸法安定性、引張強度、引裂強度等においては好ましいものとなる。また、繊維層(A)と、繊維層(B)と、これらに挟まれたスクリムとの3層構造によれば、繊維層(A)と繊維層(B)とをそれぞれ個別に設計できるので、これらの層を構成する繊維の直径、種類等を、人工皮革に要求される機能及び用途に合わせて自由にカスタマイズできる点では好ましい。例えば、繊維層(A)に極細繊維を、繊維層(B)に難燃繊維をそれぞれ使用すれば、優れた表面品位と高い難燃性とを両立できる。
【0036】
繊維シートがスクリムを含む場合、織編物であるスクリムは、染色による同色性の点から、繊維層(A)を構成する繊維と同じポリマー系であることが好ましい。例えば、繊維層(A)を構成する繊維がポリエステル系であれば、スクリムを構成する繊維もポリエステル系であることが好ましく、繊維層(A)を構成する繊維がポリアミド系であれば、スクリムを構成する繊維もポリアミド系であることが好ましい。編物の場合のスクリムは、22ゲージ以上28ゲージ以下で編み上げたシングルニットが好ましい。スクリムが織物の場合、編物よりも高い寸法安定性及び強度が実現できる。織物の組織は、平織、綾織、朱子織等であってよいが、コスト面、及び交絡性等の工程面から、平織が好ましい。
織物を構成する糸条は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。糸条の単繊維繊度は、柔軟な人工皮革が得られ易い点で5.5dtex以下が好ましい。織物を構成する糸条の形態としては、ポリエステル、ポリアミド等のマルチフィラメントの生糸、又は仮撚り加工を施した加工糸等に撚数0~3000T/mで撚りを施したものが好ましい。該マルチフィラメントは通常のものでよく、例えば、ポリエステル、ポリアミド等の33dtex/6f、55dtex/24f、83dtex/36f、83dtex/72f、110dtex/36f、110dtex/48f、167dtex/36f、166dtex/48f等が好ましく用いられる。織物を構成する糸条は、マルチフィラメントの長繊維であってよい。織物における糸条の織密度は、柔軟で且つ機械強度に優れる人工皮革を得る点で、30~150本/インチが好ましく、更に好ましくは40~100本/インチである。良好な機械強度と適度な風合いとを具備するためには、織物の目付は20~150g/m2が好ましい。尚、織物における仮撚り加工の有無、撚数、マルチフィラメントの単繊維繊度、織密度等は、繊維層(A)及び任意の層である繊維層(B)を構成する繊維との交絡性、人工皮革の柔軟性に加え、縫目強力、引裂強力、引張強伸度、伸縮性等の機械物性にも寄与するため、目標とする物性及び用途に応じて適宜選択すればよい。
【0037】
耐摩耗性、染色性、及び表面品位を更に高いレベルで兼ね備えた人工皮革を得る観点から、本実施形態の人工皮革では、繊維層(A)が平均直径1μm以上8μm以下の繊維から構成されていることが好ましく、より好ましくは2μm以上6μm以下、更に好ましくは2μm以上5μm以下である。繊維の平均直径が1μm以上であれば、耐摩耗性、染色による発色性、及び耐光堅牢度が良好になる。他方、繊維の平均直径が8μm以下であれば、繊維の本数密度が大きいため、緻密感が高く、表面の触感が滑らかで、表面品位がより良好な人工皮革が得られ易い。
【0038】
人工皮革を構成する繊維層(繊維層(A)、並びに任意の層としての繊維層(B)及び追加の層)を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のボリアミド系繊維;等の合成繊維が好適である。その中でも、カーシート分野等の、耐久性が要求される用途を考慮すると、直射日光に長時間曝露しても繊維自身が黄変等せず、染色堅牢度に優れる点で、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、環境負荷を低減するという観点から、人工皮革を構成する繊維層を構成する繊維としては、ケミカルリサイクル若しくはマテリアルリサイクルされたポリエチレンテレフタレート、又は植物由来原料を使ったポリエチレンテレフタレート等が更に好ましい。
【0039】
本明細書中、繊維が「単繊維分散している」とは、繊維が、例えば、下記の海島型複合繊維中の島成分のような繊維束を形成していないことを意味する。例えば、海島型複合繊維(例えば、共重合ポリエステルを海成分、レギュラーポリエステルを島成分に用いたもの)等の極細繊維発生型繊維を使用し、スクリムとの三次元交絡体とした後で細繊化処理(海島型複合繊維の海成分を溶解、分解等によって除去)することによって得られる繊維は、繊維層(A)中では繊維束として存在することになり、単繊維分散していない。一例として、島成分が単繊維繊度0.2dtex相当で24島/1fである海島型複合短繊維を作製し、該海島型複合短繊維で繊維層(A)を形成した後、ニードルパンチ処理等でスクリムとの三次元交絡体を形成し、該三次元交絡体にPU樹脂を充填した後、海成分を溶解又は分解することで、単繊維繊度が0.2dtex相当の極細繊維が得られる。この場合、単繊維が24本収束した繊維束の状態(収束状態では4.8dtex相当)で繊維層(A)に存在することになる。
【0040】
繊維層(A)が、単繊維分散している繊維から構成されている場合、表面平滑性に優れ、例えば、繊維層(A)の外表面をバフィング加工等によって起毛させる際に均質な起毛が得られ易く、且つ、PU樹脂の付着率が比較的少ない場合でも、摩擦によってピリングと呼ばれる毛玉状の外観が生じ難いため、より優れた表面品位と耐摩耗性とを有する人工皮革が得られる。また、繊維が単繊維分散している場合、繊維間隔が狭く均一になり易いため、PU樹脂が微細な形態で付着していても、良好な耐摩耗性が得られる。繊維を単繊維分散させる方法としては、直接紡糸法により製造された繊維を抄造法により繊維シート化する方法、海島型複合繊維で作製された繊維シートの海成分を溶解又は分解して極細繊維束を発生させた後に、極細繊維束面に前述の水流分散処理を施すことで、極細繊維束の単繊維化を促進する方法等が挙げられる。
【0041】
人工皮革を構成する繊維層のうち繊維層(A)以外の繊維層においては、繊維が単繊維分散していてもしていなくてもよいが、好ましい態様においては、繊維層(A)以外の層も単繊維分散している繊維で構成されている。繊維層(A)以外の層を構成する繊維が単繊維分散していることにより、人工皮革の厚みが均質となり加工精度が向上し、品質を安定化させるという観点から、また、人工皮革の表裏の外観が同質化する観点から好ましい。
【0042】
人工皮革が繊維層(A)のみで構成される場合、繊維層(A)を構成する繊維の目付は、耐摩耗性等の機械強度の観点から、好ましくは40g/m2以上500g/m2以下、より好ましくは50g/m2以上370g/m2以下、更に好ましくは60g/m2以上320g/m2以下である。
人工皮革が繊維層(A)、スクリム、及び繊維層(B)3層構造で構成される場合、繊維層(A)を構成する繊維の目付は、耐摩耗性等の機械強度の観点から、好ましくは10g/m2以上200g/m2以下、より好ましくは30g/m2以上170g/m2以下、更に好ましくは60g/m2以上170g/m2以下である。また、繊維層(B)を構成する繊維の目付は、コスト及び製造のしやすさの観点から、好ましくは10g/m2以上200g/m2以下、より好ましくは20g/m2以上170g/m2以下とすることができる。スクリムの目付は、機械強度、及び繊維層とスクリムとの交絡性の観点から、好ましくは20g/m2以上150g/m2以下、より好ましくは20g/m2以上130g/m2以下、更に好ましくは30g/m2以上110g/m2以下である。
PU樹脂が充填された人工皮革の目付は、好ましくは50g/m2以上550g/m2以下、より好ましくは60g/m2以上400g/m2以下、更に好ましくは70g/m2以上350g/m2以下である。
【0043】
一態様において、人工皮革の風合い(剛軟値)は、28cm以下であることが好ましく、より好ましくは6cm以上26cm以下、更に好ましくは8cm以上22cm以下である。剛軟値とは、人工皮革の風合いを示す指標である。剛軟値を28cm以下とすることで、インテリア、自動車、航空機、鉄道車両等のシートの表皮材又は内装材の成形性が向上し、且つ、消費性能も良好となり、柔軟性に関して市場から求められるニーズを満足させ易い。
【0044】
一態様において、人工皮革の緻密感(繊維束の分散性)は、4.0級以上であることが好ましく、より好ましくは5.0級以上である。緻密感(繊維束の分散性)とは、目視及び触感による官能評価により、起毛の緻密さを7段階に判定した値である。緻密感を4.0級以上とすることで、インテリア、自動車、航空機、鉄道車両等のシートの表皮材又は内装材としての品位が向上する。
【0045】
<人工皮革の製造方法>
以下、本実施形態の人工皮革の製造方法一例を説明する。
本実施形態の人工皮革の製造方法一例は、以下の工程:
海島短繊維で繊維ウェブを形成し、その後ニードルパンチ処理して得た繊維シートを脱海処理して、島成分の単繊維が露出した繊維シートを得る工程;及び
得られた繊維シートに水流分散処理を施し、単繊維が分散した繊維シートを得る工程;を含むことができ、以下の工程:
前記単繊維が分散した繊維シートに、熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させ、その後、該PU樹脂を加熱により固着させて、PU樹脂が充填されたシート状物を得る工程;及び
得られたシート状物から熱水を用いて該熱水溶解性樹脂微粒子を除去する工程;
をさらに含むことができる。
以下、順番に各工程を説明する。
【0046】
[海島短繊維で繊維ウェブを形成し、その後ニードルパンチ処理して得た繊維シートを脱海処理して、島成分の単繊維が露出した繊維シートを得る工程]
人工皮革の繊維シートを構成する各繊維層(繊維層(A)、任意の繊維層(B)等)の製造方法としては、紡糸直結型の方法(例えば、スパンボンド法及びメルトブローン法)、又は、短繊維を用いて繊維シートを形成する方法(例えば、カーディング法、エアレイド法等の乾式法、及び、抄造法等の湿式法)が挙げられ、いずれも好適に用いることができるが、本実施形態では、海島(SIF)短繊維を原料として使用する。短繊維を用いて製造される繊維シートは、目付斑が小さく均一性に優れ、且つ、均一な起毛が得られ易いため、人工皮革の表面品位を向上させる点で好適である。
【0047】
繊維シートの極細繊維を形成する手段は、極細繊維発現型繊維を用いることができる。極細繊維発現型繊維を用いることにより、極細繊維束が絡合した形態を安定して得ることができる。
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、海成分を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状又は多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。なかでも、海島型繊維は、海成分を除去することによって島成分間、すなわち極細繊維間に適度な空隙を付与することができるので、シート状物の柔軟性や風合いの観点からも好ましく用いられる。
海島型繊維には、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海成分と島成分の2成分を混合して紡糸する海島型混合繊維などがある。均一な繊度の極細繊維が得られる点、また、充分な長さの極細繊維が得られシート状物の強度にも資する点からは、海島型複合繊維が好ましく用いられる。
海島型繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステルおよびポリ乳酸などを用いることができる。なかでも、環境配慮の観点から、有機溶剤を使用せずに分解可能なアルカリ分解性のナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステルやポリ乳酸が好ましい。
海島型繊維を用いた場合の脱海処理は、繊維シートへのPU樹脂の付与前が好ましい。PU樹脂付与前に脱海処理を行えば、極細繊維に直接PU樹脂が密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性が良好となる。
【0048】
繊維ウェブの繊維又は繊維束を交絡させる方法としては、海島型繊維を所定の繊維長にカットしてステープルとし、カード及びクロスラパーを通じて繊維ウェブを形成し、ニードルパンチやスパンレース法と呼ばれる水流交絡処理により交絡させる方法を採用することができる。
ニードルパンチ法では、使用される針のバーブ本数は1~9本が好ましい。バーブの本数を1本以上とすることにより、交絡効果が得られ、且つ、繊維の損傷を抑えることができる。バーブ数を9本以下とすることにより、繊維の損傷を小さくすることができ、また、人工皮革に残る針跡を減らすことができるので、製品の外観を向上させることができる。
繊維の交絡性及び製品外観への影響を考慮すると、バーブのトータルデプス(バーブの先端部からバーブ底部までの長さ)は0.05mm以上0.10mm以下であることが好ましい。バーブのトータルデプスが0.05mm以上であることで、繊維への良好な引掛かりが得られるため効率的な繊維交絡が可能となる。また、バーブのトータルデプスが0.10mm以下であることで、人工皮革に残る針跡が低減され、品位が向上する。バーブ部の強度と繊維交絡とのバランスを考慮すると、バーブのトータルデプスは、0.06mm以上0.08mm以下であることがより好ましい。
ニードルパンチ法により繊維を絡合させる場合は、パンチ密度の範囲を300本/cm2以上6000本/cm2以下とすることが好ましく、1000本/cm2以上6000本/cm2以下とすることがより好ましい。
ニードルパンチ処理により得られた繊維シートは、例えば、98℃の温度の水中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させて、脱海前の繊維シートとすることができる。
脱海処理は、溶剤中に海島型繊維を浸漬し、窄液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、海成分が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合には水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。工程の環境配慮の観点からは、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液での脱海処理が好ましい。
【0049】
短繊維(ステープル)を用いた方法を選択する場合の短繊維長は、乾式法(カーディング法、エアレイド法等)で、好ましくは13mm以上102mm以下、より好ましくは25mm以上76mm以下、更に好ましくは38mm以上76mm以下であり、湿式法(抄造法等)で、好ましくは1mm以上30mm以下、より好ましくは2mm以上25mm以下、更に好ましくは3mm以上20mm以下である。例えば、湿式法(抄造法等)に用いられる短繊維の、長さ(L)と直径(D)との比であるアスペクト比(L/D)は、好ましくは500以上2000以下、より好ましくは700~1500である。このようなアスペクト比は、短繊維を水中に分散してスラリーを調製する際の該スラリー中での短繊維の分散性及び開繊性が良好であること、繊維層強度が良好であること、乾式法と較べて繊維長が短く且つ単繊維分散し易いため、摩擦によってピリングと呼ばれる毛玉状の外観になり難いこと、から好ましい。例えば、直径4μmの短繊維の繊維長は、好ましくは2mm以上8mm以下、より好ましくは3mm以上6mm以下である。
【0050】
[得られた繊維シートに水流分散処理を施し、単繊維が分散した繊維シートを得る工程]
得られた繊維シートに、前述の水流分散処理を施すことによって、単繊維が分散した繊維シートを得ることができる。前述の水流分散処理を、脱海工程の後に実施することにより、人工皮革の厚み方向断面における該繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)を80%以下にコントロールすることが可能となる。
【0051】
[前記単繊維が分散した繊維シートに、熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させ、その後、該PU樹脂を加熱により固着させて、PU樹脂が充填されたシート状物を得る工程]
この工程では、繊維シートに、熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させ、その後PU樹脂を加熱により固着させて、PU樹脂を充填する。典型的な態様において、PU樹脂は、分散液(例えば、水分散型の場合)等の含浸液の形態で含浸される。含浸液中のPU樹脂の濃度は、例えば、10~35質量%であることができる。一態様において、繊維シート100質量%に対するPU樹脂の比率が15~50質量%となるように含浸液の調製及び繊維シートへの含浸を行う。
【0052】
水分散型PU樹脂は、界面活性剤を用いて強制的に分散・安定化させる強制乳化型PU樹脂と、PU分子構造中に親水性構造を有し、界面活性剤が存在しなくても水中に分散・安定化する自己乳化型PU樹脂に分類される。本実施形態ではいずれを用いてもよいが、後述する感熱凝固性を付与する観点から、強制乳化型PU樹脂を用いることが好ましい。
本実施形態では、繊維シートに熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸するが、水分散型PU樹脂分散液に熱水溶解性樹脂微粒子が溶解することは好ましくない。他方、熱水溶解性樹脂微粒子は、水よりも界面活性剤が溶解している水溶液の方が溶解しにくい性質を示すことから、界面活性剤を含む強制乳化型PU樹脂分散液の方が界面活性剤を含まない自己乳化型PU樹脂分散液より好ましい態様である。水分散型PU樹脂の濃度(水分散型PU樹脂分散液に対するPU樹脂の含有量)は、水分散型PU樹脂の付着量を制御する点、そして、高濃度であるとPU樹脂の凝集が促進され、前記含浸液の安定性が低下する点から、10~35質量%が好ましく、より好ましくは15~30質量%、さらに好ましくは15~25質量%である。
また、水分散型PU樹脂分散液としては、感熱凝固性を有するものが好ましい。感熱凝固性を有する水分散型PU樹脂分散液を用いることにより、繊維シートの厚み方向に均一にPU樹脂を付与することができる。感熱凝固性とは、PU樹脂分散液を加熱した際に、ある温度(感熱凝固温度)に達するとPU樹脂分散液の流動性が減少し、凝固する性質のことを言う。PU樹脂が充填されたシート状物の製造においてはPU樹脂分散液を繊維シートに含浸後、それを乾熱凝固、湿熱凝固、熱水凝固、あるいはこれらの組み合わせにより凝固させ、乾燥することにより繊維シートにPU樹脂を付与する。感熱凝固性を示さない水分散型PU樹脂分散液を凝固させる方法としては乾式凝固が工業的な生産において現実的であるが、その場合、シート状物の表層にPU樹脂が集中するマイグレーション現象が発生し、PU樹脂が充填されたシート状物の風合いは硬化する傾向にある。
水分散型PU樹脂分散液の感熱凝固温度は、40~90℃であることが好ましい。感熱凝固温度を40℃以上とすることにより、PU樹脂分散液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時のマシンへのPU樹脂の付着等を抑制することができる。また、感熱凝固温度を90℃以下とすることにより、繊維シート中でのPU樹脂のマイグレーション現象を抑制することができる。
感熱凝固温度を前記のとおりとするために、適宜、感熱凝固剤を添加してもよい。感熱凝固剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム等の無機塩や過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等のラジカル反応開始剤が挙げられる。
【0053】
水分散型PU樹脂分散液を、繊維シートに含浸、塗布等し、乾熱凝固、湿熱凝固、熱水凝固、あるいはこれらの組み合わせによりPU樹脂を凝固させることができる。湿熱凝固の温度は、PU樹脂の感熱凝固温度以上とし、40~200℃であることが好ましい。湿熱凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることにより、PU樹脂の凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。他方、湿熱凝固の温度を200℃以下、より好ましくは160℃以下とすることにより、PU樹脂やPVA樹脂の熱劣化を防ぐことができる。熱水凝固の温度は、PU樹脂の感熱凝固温度以上とし、40~100℃とすることが好ましい。熱水中での熱水凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることにより、PU樹脂の凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。乾式凝固温度、及び乾燥温度は、80~180℃であることが好ましい。乾式凝固温度、及び乾燥温度を80℃以上、より好ましくは90℃以上とすることにより、生産性に優れる。他方、乾式凝固温度、及び乾燥温度を180℃以下、より好ましくは160℃以下とすることにより、PU樹脂やPVA樹脂の熱劣化を防ぐことができる。
前記したように、該単繊維が分散した繊維シートに、熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させる場合には、前記水分散型PU樹脂分散液中の熱水溶解性樹脂微粒子の含有量は、1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは2重量%以上15重量%以下、さらに好ましくは3重量%以上10重量%以下である。水分散型PU樹脂分散液中に熱水溶解性樹脂微粒子が含まれることにより、PU樹脂塊のさらなる分散化が促進される。
【0054】
[得られたシート状物から熱水を用いて該熱水溶解性樹脂微粒子を除去する工程]
熱水溶解性樹脂をシート状物から除去する手段としては、例えば、60℃以上、好ましくは80℃以上の熱水に浸漬させる方法、液流染色機内で染色加工を行う前に80℃以上の熱水を循環させながら熱水溶解性樹脂微粒子を除去する方法等が挙げられる。特に、液流染色機内で熱水溶解性樹脂微粒子を除去する方法が、熱水溶解性樹脂微粒子を除去した後のシート状物の乾燥及び巻き取りという工程を省略でき、生産効率を高くできる点で好ましい。本実施形態では、PU樹脂付与後のシート状物から、熱水溶解性樹脂微粒子を除去することにより、柔軟なシート状物を得る。熱水溶解性樹脂微粒子を除去する方法は特に限定しないが、例えば、60~100℃の熱水にシートを浸漬し、必要に応じてマングル等で搾液することにより、溶解除去することが好ましい態様である。
【0055】
[後工程]
繊維シートにPU樹脂を充填し、熱水溶解性樹脂微粒子を除去した後、スクリムを含まない場合には、PU樹脂が充填されたシート状物をシート厚み方向に半裁することができる。これにより、生産効率を向上することができる。
また、後述する起毛処理の前に、PU樹脂が充填されたシート状物にシリコーン分散液などの滑剤を付与してもよい。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することは、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくする上で好ましい態様である。
シート状物の表面に立毛を形成するために、起毛処理を行うことができる。起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて、研削する方法などにより施すことができる。また、起毛処理の前に滑剤としてシリコーン等を付与することは、表面研削による起毛が容易に可能となり、表面品位が非常に良好となる。
人工皮革は、感性面の価値(すなわち、視覚効果)を高める目的で、染色処理されていることが好ましい。染料は、繊維シートを構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。染色方法としては、染色加工業者に良く知られた通常の方法を用いることができる。染色方法としては、シート状物を染色すると同時に揉み効果を与えてシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。染色温度は、繊維の種類にもよるが、80~150℃であることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維への染着を効率良く行わせることができる。他方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、PU樹脂の劣化を防ぐことができる。
このようにして染色された人工皮革には、ソーピング、及び必要に応じて還元洗浄(すなわち、化学的還元剤の存在下での洗浄)を実施し、余剰染料を除去することが好ましい。また、染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴又は染色後に、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤、抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【0056】
本実施形態の人工皮革は、家具、椅子、壁材、自動車、電車、航空機などの車輛室内における座席、天井、内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴、婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ベルト、財布等、それらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布、CDカーテン等の工業用資材としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。実施例及び比較例に係る人工皮革サンプルについて、各物性、品位等を以下の手順、方法で評価した。
【0058】
(1)サンプルの採取箇所
図3にサンプルの採取箇所を示す。
まず、繊維層(A)又は該繊維層(A)を含む人工皮革の機械方向(MD)における略均等に10箇所(サンプリング領域1、2、…)を帯状(点線で示す)に切り出す。各サンプリング領域において、厚み(t)方向断面を作製する。作製した厚み(t)方向断面に、オスミウム原子を1nmコーティング加工することで導電処理する。この断面において、単繊維断面k近傍距離割合値(%)、断面PU樹脂面積率(%)を求めるために、MD方向に直交するCD方向において略均等に10箇所のSEM画像を撮影する。また、各サンプリング領域において、表面PU樹脂面積率(%)を求めるために、CD方向において略均等に10箇所の繊維層(A)の第1の外表面に、オスミウム原子を1nmコーティング加工することで導電処理し、その第1の外表面のSEM画像を撮影する。また、各サンプリング領域において、空間サイズを求めるために、CD方向において略均等に10箇所のX線CTによる3次元画像を撮影する。すなわち、単繊維断面k近傍距離割合値(%)、断面PU樹脂面積率(%)、及び空間サイズを求めるために用いる各画像は、それぞれ、100枚用意する。この場合、各値の平均値、及び標準偏差は、画像100枚分のものとする。
尚、人工皮革が起毛している場合、起毛方向がMD方向であると判断できる。人工皮革が起毛しておらずMD方向が不明な場合には、任意の一方向とそれに直交する方向においてサンプルを切り出せばよい。
【0059】
(2)単繊維断面k近傍距離割合値(%)
図5に示すように、k近傍法とは、任意の1つの単繊維断面に近いk個の単繊維断面を取り上げ、ユークリッド距離においてk番目に近い半径を決定境界とする手法である。
本実施形態においては、1つのSEM画像において、画像下の帯込みで640×480pixelで約250μm×約186μm範囲を撮影し(この場合、1pixelは約0.40μm×約0.40μmに相当する)、任意の1つの単繊維断面の略中心から半径20μmの距離内にk=9番目に近い単繊維断面が存在しているか否かを求める。1つのSEM画像内の全ての単繊維断面について、存在の有無を求め、単繊維断面k=9近傍距離割合値(%)を以下の式で求める:
単繊維断面(k=9)近傍距離割合値(%)={(単繊維断面の略中心から半径20μmの距離内にk=9番目に近い単繊維断面が存在している単繊維断面の個数)/(1つのSEM画像内の単繊維断面の全数)}×100。
尚、単繊維断面k=9近傍距離割合値(%)は、100枚のSEM画像から算出した各値の平均値である。また、サンプルがスクリムを有する場合、導電処理済みのサンプルの上記切断面における繊維層(A)の最深部(すなわち、最もスクリム側の部分)を観察領域とし、且つ、スクリムを構成する繊維を観察対象外として、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製「JSM-5610」)で観察する。サンプルがスクリムを有しない場合には、導電処理済みのサンプルの上記切断面における人工皮革厚み方向の中央部を観察領域の中心点とし、前記SEMで観察する。
SEM画像内の単繊維断面は、
図4に示すように、人によりマーキングを行うことで、その存在を同定することができる。具体的な手順は以下のとおりである:
[手順1]
SEM画像(グレー)において、繊維断面に赤色(R)の丸点を付けた後、繊維の断面の座標を算出する。
<詳細な方法>
(i)OpenCV(Python用のcv2モジュール)を用いて画像を読み込む。
(ii)RGBのRが220以上、かつ、G、Bが100以下のピクセルを抽出する。
(iii)ノイズ処理のため、検出された丸点の膨張処理(cv2.dilateをiteration=2で)と収縮処理(cv2.erodeをiteration=2で)を行う。
(iv)ノイズ処理された画像をcv2.connected Component With Statsで処理し、得られる4つの結果のうち3番目の結果である検出された丸点の重心座標を得る。
(v)上記の重心座標を繊維断面位置とする。
(vi)更に、座標上の特定位置間距離を算出する。繊維断面Aと繊維断面Bの座標を(Ax、Ay)、(Bx,By)としたとき、2つのユークリッド距離Rは、R=√((Ax-Bx)
2+(Ay-By)
2)で計算される。
[手順2]
全ての繊維断面について、k番目に近い繊維断面までのユークリッド距離(k近傍距離:行列距離)を算出する。
<詳細な方法>
(i)繊維断面Aと他の断面の座標の距離を計算する。
(ii)計算した距離を昇順に並べる。
(iii)並べた距離k番目をk近傍距離とする。
[手順3]
k近傍距離がR以下の断面の数を全繊維断面数で割り、そのSEM画像におけるk近傍距離割合値とする。
尚、SEM画像数が多数になる場合には、繊維断面に赤色(R)の丸点を付けた教師データ(正解ラベル)を含む画像を学習データとして用いて、すべてが畳み込み層から構成されるネットワークFCN(Fully Convolutional Networks)手法(Jonathan Long, Evan Shelhamer, and Trevor Darrel (2015): Fully Convolutional Networks for Semantic Segmentation. In The IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR)を用いたセマンティック・セグメンテーションによりピクセルレベルでクラス分類を行う機械学習(深層学習)により、人によるマーキングを代替して、繊維断面の位置を特定してもよい。
【0060】
(3)断面PU樹脂面積率(%)、及び標準偏差
・前処理
厚み方向断面におけるサンプルを1cm×0.5cm(ヨコ(x)×タテ(y))にカットした後、該サンプルの内部空間をエポキシ系樹脂(主剤:日新EM株式会社製「Quetol812」、硬化剤:日新EM株式会社製「MNA」、加速剤:日新EM株式会社製「DMP-30」)で包埋した。得られた樹脂包埋サンプルをミクロトームで厚み方向と平行に切断し、平滑な切断面を得る。次いで、四酸化ルテニウムの飽和蒸気中に4時間静置し、サンプルに付着しているPU樹脂をルテニウムで電子染色する。次いで、オスミウム原子を1nmコーティング加工することで導電処理する。
・観察
サンプルがスクリムを有する場合、導電処理済みのサンプルの上記切断面における繊維層(A)の最深部(すなわち、最もスクリム側の部分)を観察領域とし、且つ、スクリムを構成する繊維を観察対象外として、走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU8220」)で観察する。尚、サンプルがスクリムを有しない場合、導電処理済みのサンプルの上記切断面における人工皮革厚み方向の中央部を観察領域の中心点とし、前記SEMで観察する。観察条件は以下の通りである。
加速電圧:10kV
検出器 :YAG-BSE(円環状シンチレータ型反射電子)
撮像倍率:500倍
観察視野:約230μm×約173μm
・画像解析
得られたSEM反射電子像について、画像解析ソフト「ImageJ(バージョン:1.51j8)アメリカ国立衛生研究所)を用いて、以下の方法で画像を二値化し、PU樹脂の平均サイズを求める。
(i)SEM画像をフィルター処理する。処理条件は以下の通りである:
ハンドパスフィルター処理 Filter large structures down to 40 pixels、Filter small structures up to 3 pixels、Suppress stipes None、Tolerance of direction 5%、Autoscale after filtering あり、Saturate image when autoscaling あり、加えてメディアンフィルター処理として、radius:4、1回のフィルター処理。
(ii)MaxEntropy法で二値化を実施し、二値化後のSEM画像内の黒色部分をPU樹脂とする。
(iii)得られた二値化像から、各区画に対するPU樹脂の面積割合を求める。
図6に示すように、得られた二値化像(1280×960pixel、画像下の帯を除くと1280×896pixel)を32×32pixelに区画分割し(この場合、1120分割)、ImageJのAnalyze Particle機能(条件:Size=0-infinity、Circularity=0.00-1.00)を用い、各区画内に分布するそれぞれのPU樹脂の面積の合計を、各区画の面積で除した値を、各区画の断面PU樹脂面積率(%)とする。対象画像のx、y軸のピクセル数を読み取り、区画サイズをピクセルサイズで指定し、x、y軸の分割数を求め、各分割領域内のPU樹脂面積%を計算する。
1枚のSEM画像から算出されるPU樹脂の面積割合は、1枚のSEM画像の全区画についてのPU樹脂の面積割合を平均したものであり、その標準偏差は、
図6に示す式により計算される。
尚、断面PU樹脂面積率(%)及び標準偏差は、1枚のSEM画像から算出したPU樹脂の面積割合および標準偏差の、100枚についての平均値である。すなわち、
図6に示すとおり、まずは1つのSEM画像について区画分割した全区画を対象として標準偏差を算出し、100枚のSEM画像それぞれから算出される標準偏差の平均を標準偏差とする。
【0061】
(4)繊維層(A)を構成する単繊維の平均直径(μm)
繊維層(A)を構成する繊維の平均直径は、人工皮革を構成する繊維層(A)の厚み方向断面を、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製「JSM-5610」)を用いて倍率1500倍でSEM画像を10枚撮影し、人工皮革の第1の外表面をなす繊維をランダムに100本選び、単繊維の断面の直径を測定して、100本の測定値の算術平均値として求める。
単繊維の断面の観察形状が円形ではない場合は、単繊維断面の最長径の中点に直交する直線上の外周間距離を繊維径とする。
図2は、繊維直径の求め方を説明する概念図である。例えば、
図2のように繊維の断面Aが楕円形である場合、観察像における断面Aの最長径aの中点pに直交する直線b上の外周間距離cを繊維直径とする。
【0062】
(5)空間サイズ(μm)
X線CTにより繊維層(A)の3次元画像を撮影し、繊維層(A)を構成する繊維とPU樹脂塊を除外した空間に入る最大の球の直径(μm)の厚み方向における平均値を空間サイズとして、以下の手順で求める。
(i)画面上でxz軸が面内、y軸が厚み方向になるように回転させ、画像を直方体にトリミングする。
(ii)medianフィルターを半径2pixの条件で実施する。
(iii)Otsu法を適用して領域を分割する。画素の輝度値を空気が0、不織布の繊維、及びウレタン樹脂が255となるように設定する。
(iv)輝度値255(繊維、PU樹脂)の画素に対して、画像処理方法のsegmentationを実施し、一つながりの輝度値255の部分の画素数(pix)が10000以下の構造はノイズとして除去する。
(v)輝度値0(空気)に対して、画像解析のthickness法を実施し、空間サイズを求める。3次元画像のすべての画素が空間サイズの値を持つ。
(vi)xz面の2次元元画像をy軸(厚み方向)に厚さ1pixで切り出し、その面での空間サイズの平均と標準偏差を求める。
(vii)上記(vi)をすべてのyに対して実施し、厚み方向のプロファイルを求める。
尚、空間サイズ(μm)および標準偏差は100枚のX線CTによる3次元画像から算出した各値の平均値である。また、サンプルがスクリムを有する場合、繊維層(A)の最深部(すなわち、最もスクリム側の部分)を観察領域とし、且つ、スクリムを構成する繊維を観察対象外として、X線CT装置(株式会社リガク製「高分解能3DX線顕微鏡」)で撮影する。尚、サンプルがスクリムを有しない場合、厚み方向断面における厚みの中央部を観察領域の中心点とし、撮影する。
【0063】
(6)風合い(剛軟値)の算出
各サンプルを20cm×20cmの正方形にカットし測定サンプルとした。測定サンプルを水平面上に置き、正方形の頂点をA、B、C、Dとして、対角線で対面する頂点Aと頂点Cとを重ね合わせた。頂点Aを水平面に置き、頂点Cを頂点Aに重ね合わせた。次いで、頂点Cを、測定サンプルに接触させた状態で対角線ACに沿って頂点Aから徐々に遠ざけてゆき、頂点Cが測定サンプル面から離れた点を点Eとし、点Eと頂点Cとの距離を柔軟値1とした。頂点Aを頂点Bに、頂点Cを頂点Dにそれぞれ置き換えて上記と同様の手順で柔軟値2を測定した。柔軟値1と柔軟値2との算術平均値をサンプルの風合い(剛軟値)とした。尚、人工皮革が単層の場合、10枚のサンプルについての平均値を風合い(剛軟値)とする。人工皮革が2層構造又は3層構造の場合、人工皮革を構成する繊維層(A)を上面にして測定した5枚のサンプルと、該繊維層(A)を下面にして測定した5枚のサンプルについての平均値を風合い(剛軟値)とする。
【0064】
(7)緻密感(繊維束の分散性)
サンプルについて、健康状態の良好な成人男性及び成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、目視及び官能評価によって下記の基準で7段階評価し、最も多かった評価を緻密感とした。緻密感(繊維束の分散性)は、4.0~7.0級を良好(合格)とする。
7級:起毛が非常に緻密であり、外観は非常に良好である。
6級:7級と5級の間の評価である。
5級:起毛が緻密であり、外観は良好である。
4級:5級と3級の間の評価である。
3級:全体的に均一な起毛が存在し、皮革の様な外観である。
2級:3級と1級の間の評価である。
1級:起毛がまだらであり、外観は粗悪である。
尚、10枚のサンプルについての平均値を緻密感の等級とする。
【0065】
(8)繊維シートに対するPU樹脂の付着率
繊維シートに対するPU樹脂の付着率は下記の方法で測定した。
PU樹脂含浸前の繊維シートの質量をA(g)とする。繊維シートにPU樹脂分散液を含浸し、次いでピンテンター乾燥機を用いて130℃で加熱乾燥し、次いで90℃に加熱した熱水に浸漬した状態で柔布し、次いで乾燥して、PU樹脂が充填された繊維シート(以下、「樹脂充填繊維シート」ともいう。)を得る。樹脂充填繊維シートの質量をB(g)とする。PU樹脂の付着率(C)を以下の式で算出する。
C=(B-A)/A×100(wt%)
【0066】
(9)PU樹脂分散液中のPU樹脂の平均一次粒子径
レーザー型回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-920」)にて、同装置測定マニュアルに従い測定し、メディアン径を平均一次粒子径とした。
【0067】
(10)PU樹脂分散液に含まれるPVA樹脂微粒子のケン化度
JIS K 6726(1994)3.5に準じて測定した。
【0068】
(11)PU樹脂分散液に含まれるPVA樹脂微粒子の重合度
JIS K 6726(1994)3.7に準じて測定した。
【0069】
(12)PU樹脂分散液に含まれるPVA樹脂微粒子の平均粒子径(サイズ)(μm)
微粒子として三菱ケミカル株式会社製「NL-05」を用いることができ、熱水溶解性樹脂微粒子の微細化は特開平7-82384号公報に記載の方法に準じた。
【0070】
(13)水流分散処理におけるノズルから吐出される水流の擾乱
水流分散処理におけるノズルから吐出される水流の擾乱は下記の方法で測定した。
ノズルから吐出される水流を、テレセントリックレンズ(Sill Optics GmbH & Co.KG製「S5LPJ007/212」)を装着した一眼カメラ(株式会社ニコン製「D600」)で撮影し、画像データを得る。該画像データをPCに取り込み、ノズル孔の吐出口から25mm~35mmの範囲の水流を切り取り、水流の幅方向の1pixel列(約6μm)毎の水流直径を測定する。測定した全データより、ノズル孔の吐出口より25mmから35mmまでの範囲における水流の平均径Wおよび標準偏差σを算出し、擾乱を以下の式で算出する。
擾乱(%)=σ(mm)/W(mm)×100
なお、擾乱は5枚の画像データから得られた値の平均値とする。
【0071】
[実施例1]
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを用い、海成分が20質量%で島成分が80質量%の複合比率で、島数16島/1f、平均繊維径が18μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カード及びクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により繊維シートを得た。得られた繊維シートを95℃熱水中に浸漬させて収縮させ、そのピンテンター乾燥機を用いて100℃で5分間乾燥し、目付600g/m2の単層の繊維シートを得た。
得られた繊維シートを、95℃の温度に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して25分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去する脱海処理を行った。脱海後の繊維シートを構成する繊維の単繊維の平均直径は4μmであった。
次いで、ノズル孔間隔0.25mm、擾乱17%、孔径0.10mm、3列の直進流噴射ノズルを用いた高速水流を上層側から4MPa、下層側から3MPaの圧力で、複数回噴射し、繊維束を構成する繊維の単繊維化を促進させた。
次いで、平均一次粒子径:0.3μm、ポリエーテル系水分散型PU分散液「AE-12」(日華化学株式会社製) (固形分濃度:35質量%)を、含浸液中の量(固形分の質量%として)9.0%、含浸助剤として無水芒硝を含浸液中の量(固形分の質量%として)3.0重量%、及び平均粒径3μmのPVA樹脂微粒子「NL―05」(三菱ケミカル株式会社製)を含む含浸液を上記繊維シートに含浸させ、次いで、100℃で5分間湿熱凝固させ、ピンテンター乾燥機を用いて130℃~150℃で2~6分間で熱風乾燥させた。
その後、95℃に加熱した熱水に浸漬させて、含侵した無水芒硝とPVA樹脂微粒子を抽出、除去し、水分散型PU樹脂が充填されたシート状物を得た。このシート状物の繊維総質量に対する水分散型PU樹脂の比率は30質量%であった。
その後、エンドレスのバンドナイフを有する半裁機を用いて、シート状物を厚み方向に対して垂直に半裁し、半裁されていない面を#400のエメリペーパーを用いて起毛処理した後、染料濃度5.0%owfのブルー分散染料(住友化学株式会社製「BlueFBL」)で液流染色機を用いて130℃で15分間染色し、還元洗浄を行った。その後ピンテンター乾燥機を用いて100℃で5分間乾燥し、単層の人工皮革を得た。
【0072】
[実施例2]
水流分散処理における擾乱を13%に変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0073】
[実施例3]
水流分散処理における擾乱を11%に変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0074】
[実施例4]
水流分散処理における擾乱を7%に変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0075】
[実施例5]
高速水流の上層側圧力を5.5MPaに変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0076】
[実施例6]
高速水流の上層側圧力を12.0MPaに変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0077】
[実施例7]
水流分散処理におけるノズル孔径を0.15mmに変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0078】
[実施例8]
水流分散処理におけるノズル孔径を0.22mmに変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0079】
[実施例9]
水流分散処理におけるノズル孔間隔を0.50mmに変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0080】
[実施例10]
水流分散処理におけるノズル孔間隔を0.50mmに、ノズル孔列を1列に変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0081】
[実施例11]
水流分散処理におけるノズル孔間隔を0.90mmに、ノズル孔列を1列に変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0082】
[実施例12]
PVA樹脂微粒子の平均粒径を1.5μmに変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0083】
[実施例13]
PVA樹脂微粒子の平均粒径を7.0μmに変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0084】
[実施例14]
繊維シートに対するPU樹脂の比率を24質量%とした以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0085】
[実施例15]
繊維シートに対するPU樹脂の比率を43質量%とした以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0086】
[比較例1]
水流分散処理を実施しなかった以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0087】
[比較例2]
PU樹脂含浸液にPVA樹脂微粒子を添加しなかった以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0088】
[比較例3]
PVA樹脂微粒子の平均粒径を0.5μmに変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0089】
[比較例4]
PVA樹脂微粒子の平均粒径を11μmに変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0090】
[比較例5]
繊維シートに対するPU樹脂の比率を14質量%とした以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0091】
[比較例6]
繊維シートに対するPU樹脂の比率を53質量%とした以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0092】
実施例1~15、及び比較例1~6の結果を、以下の表1に示す。
【0093】
【0094】
これらの結果から、各実施例においては、繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が10%以上80%以下であり、かつ、該厚み方向断面における断面PU樹脂面積率が10%以上30%以下であり、かつ、該断面PU樹脂面積率の標準偏差が25%以下であり、PU樹脂と単繊維が特定構造で分布していることで、風合い(剛軟値)、緻密感、そしてしっとり感とを両立した人工皮革が得られたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る人工皮革は、風合い(剛軟値)、緻密感、そしてしっとり感に優れるため、インテリア用、自動車用、航空機用、鉄道車両用等のシートの表皮材又は内装材等、服飾製品等に好適に利用可能である。具体的には、本発明の人工皮革は、家具、椅子、壁材、自動車、電車、航空機などの車輛室内における座席、天井、内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴、婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ベルト、財布等、それらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布、CDカーテン等の工業用資材として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0096】
1 繊維シート
11 スクリム(任意)
12 繊維層(A)
13 繊維層(B)
A 断面が楕円形である場合の繊維の断面
a 断面Aの最長径
b 最長径aの中点pをとおり最長径aに直交する直線
c 直線b上の外周間距離
p 最長径aの中点
MD 機械方向
CD 幅(ヨコ)方向
t 人工皮革の厚み