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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】成形品の品質予測システム及び成形機
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/78 20060101AFI20230523BHJP
【FI】
B29C45/78
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019041736
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2020142460
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓮池 正晴
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勇佐
(72)【発明者】
【氏名】馬場 紀行
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸治
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-309711(JP,A)
【文献】特開平04-037518(JP,A)
【文献】特開2006-297832(JP,A)
【文献】特開2004-009305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/00-45/24;45/46-45/63;45/70-45/72;45/74-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形機の型の円環状のキャビティに溶融材料を供給することにより円環状の成形品を成形する成形方法に適用され、
前記型に配置され、前記キャビティに供給された前記溶融材料の温度を検出する材料温度センサと、
前記材料温度センサにより検出された前記溶融材料の温度と前記成形品の品質要素としての質量との関係を表す学習モデルを記憶する学習モデル記憶部と、
前記溶融材料の温度及び前記学習モデルに基づいて、前記成形品の質量を予測する品質予測部と、
を備え
前記材料温度センサは、
円環状の前記キャビティ内において前記型のゲートから前記溶融材料が流入する流入経路の中で前記溶融材料が前記ゲートから一方へ流入する側のうち前記ゲートと前記ゲートからの最遠位置との間に配置された第一センサと、
前記流入経路の中で前記溶融材料が前記ゲートから他方へ流入する側のうち前記ゲートと前記最遠位置との間に配置され、前記流入経路において前記ゲートからの距離が前記ゲートから前記第一センサまでの距離と同等となる位置に配置された第二センサと、を備え、
前記第一センサ及び前記第二センサは、前記流入経路において、前記ゲートよりも前記最遠位置寄りの位置であって、前記最遠位置の近傍に配置され、
前記溶融材料の温度は、前記第一センサによる検出温度と前記第二センサによる検出温度のうち高い方の温度である、成形品の品質予測システム。
【請求項2】
前記溶融材料の温度は、前記溶融材料が前記キャビティに充填される射出充填工程において、前記第一センサによる検出温度と前記第二センサによる検出温度のうち高い方の温度である、請求項1に記載の成形品の品質予測システム。
【請求項3】
前記溶融材料の温度は、前記射出充填工程において、前記第一センサによる最大検出温度と前記第二センサによる最大検出温度のうち高い方の温度である、請求項2に記載の成形品の品質予測システム。
【請求項4】
前記第一センサ又は前記第二センサは、前記流入経路の中で、前記溶融材料の温度が最も高くなる位置に配置される、請求項1-の何れか一項に記載の成形品の品質予測システム。
【請求項5】
前記品質予測システムは、さらに、前記品質予測部による前記成形品の質量の予測結果に基づき、前記成形品が良品であるか否かの良否判定を行う判定部を備える、請求項1-の何れか一項に記載の成形品の品質予測システム。
【請求項6】
前記品質予測システムは、さらに、
前記溶融材料の温度及び前記成形品の質量に基づき、前記学習モデルを生成する学習モデル生成部備え、
前記学習モデル記憶部は、前記学習モデル生成部により生成された前記学習モデルを記憶する、請求項1-の何れか一項に記載の成形品の品質予測システム。
【請求項7】
前記品質予測システムは、さらに、
複数の前記成形機と通信可能に設けられ、前記溶融材料の温度及び前記成形品の質量を収集するサーバを備え、
前記学習モデル生成部は、前記サーバが収集した前記溶融材料の温度及び前記成形品の質量に基づき、前記学習モデルを生成する、請求項に記載の成形品の品質予測システム。
【請求項8】
成形機の型の円環状のキャビティに溶融材料を供給することにより円環状の成形品を成形する成形方法に適用され、
前記型に配置され、前記キャビティに供給された前記溶融材料の温度を検出する材料温度センサと、
前記材料温度センサにより検出された前記溶融材料の温度と前記成形品の品質要素としての質量との関係を表す学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を備え
前記材料温度センサは、
円環状の前記キャビティ内において前記型のゲートから前記溶融材料が流入する流入経路の中で前記溶融材料が前記ゲートから一方へ流入する側のうち前記ゲートと前記ゲートからの最遠位置との間に配置された第一センサと、
前記流入経路の中で前記溶融材料が前記ゲートから他方へ流入する側のうち前記ゲートと前記最遠位置との間に配置され、前記流入経路において前記ゲートからの距離が前記ゲートから前記第一センサまでの距離と同等となる位置に配置された第二センサと、を備え、
前記第一センサ及び前記第二センサは、前記流入経路において、前記ゲートよりも前記最遠位置寄りの位置であって、前記最遠位置の近傍に配置され、
前記溶融材料の温度は、前記第一センサによる検出温度と前記第二センサによる検出温度のうち高い方の温度である、成形品の品質予測システム。
【請求項9】
請求項1-の何れか一項に記載の成形品の品質予測システムに用いられる前記成形機であって、
前記成形機の制御装置に動作指令データを与える動作指令部と、
前記品質予測部による前記成形品の質量の予測結果に基づき、前記動作指令データの調整を行う動作指令データ調整部と、
を備える、成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の品質予測システム及び成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形機の型に加熱溶融した材料(溶融材料)を供給し、成形品を成形する技術が知られている。溶融材料は、型のキャビティに充填された状態で保圧及び冷却されることにより固化し、キャビティの形状に応じた形状に成形される。キャビティに供給された溶融材料は、キャビティ内において膨張及び収縮するため、成形品の品質予測は、容易でない。
【0003】
この点に関して、特許文献1には、ゲートから注入された樹脂材料が金型に沿って流動し、その後に冷却された硬化していく過程をシミュレーションする流動解析の結果に基づき、射出成形された成形品の品質を予測する技術が開示されている。また、特許文献2には、射出成形した成形品の体積収縮率を予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-207440号公報
【文献】特開2007-83802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1及び2に記載の技術に対し、発明者は、キャビティに供給された溶融材料の温度を把握することで、成形品の品質要素を予測できること、及び、機械学習を用いることで成形品の品質要素の予測精度が向上することを見い出した。
【0006】
本発明は、機械学習を用いて、成形品の品質要素を予測する成形品の品質予測システム及び当該成形品の品質予測システムに用いられる成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様は、成形機の型の円環状のキャビティに溶融材料を供給することにより円環状の成形品を成形する成形方法に適用され、
前記型に配置され、前記キャビティに供給された前記溶融材料の温度を検出する材料温度センサと、
前記材料温度センサにより検出された前記溶融材料の温度と前記成形品の品質要素としての質量との関係を表す学習モデルを記憶する学習モデル記憶部と、
前記溶融材料の温度及び前記学習モデルに基づいて、前記成形品の質量を予測する品質予測部と、
を備え
前記材料温度センサは、
円環状の前記キャビティ内において前記型のゲートから前記溶融材料が流入する流入経路の中で前記溶融材料が前記ゲートから一方へ流入する側のうち前記ゲートと前記ゲートからの最遠位置との間に配置された第一センサと、
前記流入経路の中で前記溶融材料が前記ゲートから他方へ流入する側のうち前記ゲートと前記最遠位置との間に配置され、前記流入経路において前記ゲートからの距離が前記ゲートから前記第一センサまでの距離と同等となる位置に配置された第二センサと、を備え、
前記第一センサ及び前記第二センサは、前記流入経路において、前記ゲートよりも前記最遠位置寄りの位置であって、前記最遠位置の近傍に配置され、
前記溶融材料の温度は、前記第一センサによる検出温度と前記第二センサによる検出温度のうち高い方の温度である、成形品の品質予測システムにある。
【0008】
第一の態様によれば、品質予測部は、キャビティに供給された溶融材料の温度と成形品の品質要素との関係を表す学習モデルと、新たな成形品を成形した際の溶融材料の温度とに基づいて、新たな成形品の品質を予測する。よって、当該第一の成形品の品質予測システムは、成形品の品質要素を高精度に予測できる。
【0009】
本発明の第二の態様は、成形機の型の円環状のキャビティに溶融材料を供給することにより円環状の成形品を成形する成形方法に適用され、
前記型に配置され、前記キャビティに供給された前記溶融材料の温度を検出する材料温度センサと、
前記材料温度センサにより検出された前記溶融材料の温度と前記成形品の品質要素としての質量との関係を表す学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を備え
前記材料温度センサは、
円環状の前記キャビティ内において前記型のゲートから前記溶融材料が流入する流入経路の中で前記溶融材料が前記ゲートから一方へ流入する側のうち前記ゲートと前記ゲートからの最遠位置との間に配置された第一センサと、
前記流入経路の中で前記溶融材料が前記ゲートから他方へ流入する側のうち前記ゲートと前記最遠位置との間に配置され、前記流入経路において前記ゲートからの距離が前記ゲートから前記第一センサまでの距離と同等となる位置に配置された第二センサと、を備え、
前記第一センサ及び前記第二センサは、前記流入経路において、前記ゲートよりも前記最遠位置寄りの位置であって、前記最遠位置の近傍に配置され、
前記溶融材料の温度は、前記第一センサによる検出温度と前記第二センサによる検出温度のうち高い方の温度である、成形品の品質予測システムにある。
【0010】
第二の態様によれば、学習モデル生成部は、溶融材料の温度と成形品の品質要素との関係を表す学習モデルを生成できる。その結果、当該第二の成形品の品質予測システムは、新たな成形品を成形した際の溶融材料の温度と学習モデルとに基づき、成形品の品質要素を高精度に予測できる。
【0011】
本発明の第三の態様は、上述した成形品の品質予測システムに用いられる前記成形機であって、
前記成形機の制御装置に動作指令データを与える動作指令部と、
前記品質予測部による前記成形品の質量の予測結果に基づき、前記動作指令データの調整を行う動作指令データ調整部と、
を備える、成形機にある。
第三の態様によれば、生産する成形品の品質を高めることができると共に、良品である成形品を安定して生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】品質予測システムの構成を示す図である。
図2】成形機(射出成形機)を示す図である。
図3図2に示す型を拡大した図である。
図4図3のIV-IV線における型の断面図である。
図5】品質予測システムを示すブロック図である。
図6】材料温度データの推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.品質予測システム100の適用対象)
品質予測システム100は、加熱溶融した材料(以下「溶融材料」と称す)を成形機1の型4のキャビティCに供給することにより成形品を成形する成形方法に適用される。本実施形態では、成形機1が、樹脂又はゴム等の射出成形を行う射出成形機である場合を例に挙げて説明するが、成形機1は、射出成形機以外の成形機、例えば、ブロー成形機や圧縮成形機であってもよく、ダイキャスト等の金属鋳造を行う鋳造機であってもよい。
【0014】
(2.品質予測システム100の概略構成)
次に、図1を参照しながら、品質予測システム100の概略構成を説明する。図1に示すように、品質予測システム100は、複数の成形機1と、品質要素データ入力部110と、サーバ120と、学習装置200と、品質予測装置300とを主に備える。
【0015】
品質要素データ入力部110には、成形機1が成形した成形品の品質要素に関するデータ(以下「品質要素データ」と称す)が入力される。品質要素データ入力部110には、成形品の品質要素として、例えば、成形機1の外部に設けられた各種測定装置により測定された成形品の寸法や形状等に関する測定結果が入力される。
【0016】
サーバ120は、複数の成形機1及び品質要素データ入力部110と通信可能に設けられる。サーバ120は、品質要素データ入力部110に入力された成形品の品質要素データ、及び、当該成形品を成形機1が成形した際に得られた各種温度データを収集する。サーバ120が収集する各種温度データには、型4に供給された溶融材料の温度に関する材料温度データが少なくとも含まれる。
【0017】
学習装置200は、いわゆる機械学習装置であり、サーバ120を介して成形機1及び品質要素データ入力部110と通信可能に設けられる。学習装置200は、サーバ120が収集した品質要素データ及び各種温度データを取得する。そして、学習装置200は、各種温度データ及び品質要素データを学習データとする機械学習を行うことにより、材料温度データと成形品の品質要素とに関する学習モデルを生成する。即ち、学習装置200は、型4に供給された溶融材料の温度と、当該溶融材料が固化することにより成形された成形品の品質要素との関係を表す学習モデルを生成する。なお、本実施形態では、機械学習が教師あり学習である場合を例に挙げて説明するが、他の機械学習アルゴリズムを適用することも可能である。
【0018】
品質予測装置300は、サーバ120を介して成形機1及び学習装置200と通信可能に設けられる。品質予測装置300は、成形機1が成形品を成形した際に取得した各種温度データと、学習装置200により生成された学習モデルとに基づき、当該成形品の品質要素を予測する。つまり、品質予測装置300は、型4に供給された溶融材料の温度と、当該溶融材料が固化することにより成形された成形品の品質要素との間に相関があることに着目した品質予測装置である。そして、品質予測システム100は、上記した品質予測装置300を用いることにより、成形品の品質要素を高精度に予測する。
【0019】
ここで、品質予測システム100において、サーバ120は、複数の成形機1の各々が成形品を成形した際に得られる各種温度データ、及び、当該成形品に関する品質要素データを収集する。よって、品質予測システム100は、各種温度データ及び品質要素データを多量に収集できる。そして、収集した多量の各種温度データ及び品質要素データは、学習装置200が学習モデルを生成する際の機械学習の学習データとして用いられる。従って、学習装置200は、短時間で良質な学習モデルを生成することができる。また、品質予測装置300は、当該学習モデルを用いて成形品の品質要素を予測するので、成形品の品質要素の予測精度を高めることができる。
【0020】
(3.成形機1の例)
(3-1:成形機1の構成)
次に、図2を参照して、成形機1の一例である射出成形機について説明する。射出成形機としての成形機1は、ベッド2と、射出装置3と、型4と、型締装置5と、動作指令部6と、制御装置7とを主に備える。
【0021】
射出装置3は、ベッド2上に配置される。射出装置3は、ホッパ31と、加熱シリンダ32と、スクリュ33と、ノズル34と、ヒータ35と、駆動装置36と、射出装置用センサ37と、外気温センサ38とを主に備える。
【0022】
ホッパ31は、ペレット(粒状の成形材料)の投入口である。加熱シリンダ32は、ホッパ31に投入されたペレットを加熱溶融してできた溶融材料を加圧する。また、加熱シリンダ32は、ベッド2に対して軸方向に移動可能に設けられる。スクリュ33は、加熱シリンダ32の内部に配置され、回転可能且つ軸方向へ移動可能に設けられる。ノズル34は、加熱シリンダ32の先端に設けられた射出口であり、スクリュ33の軸方向移動によって、加熱シリンダ32の内部の溶融材料を型4に供給する。
【0023】
ヒータ35は、例えば、加熱シリンダ32の外側に設けられ、加熱シリンダ32の内部のペレットを加熱する。駆動装置36は、加熱シリンダ32の軸方向への移動、スクリュ33の回転及び軸方向移動等を行う。射出装置用センサ37は、溶融材料の貯留量、保圧力、保圧時間、射出速度、溶融材料の粘度、駆動装置36の状態等を取得するセンサを総称する。ただし、当該センサ37は、上記に限られず、種々の情報を取得するようにしてもよい。外気温センサ38は、成形機1が配置された場所の外気温を測定する。
【0024】
型4は、固定側である第一型4aと、可動側である第二型4bとを備えた金型である。型4は、第一型4aと第二型4bとを型締めすることで、第一型4aと第二型4bとの間にキャビティCを形成する。第一型4aは、ノズル34から供給された溶融材料をキャビティCまで導く供給路4cを備える。
【0025】
型締装置5は、ベッド2上において射出装置3に対向配置される。型締装置5は、装着された型4の開閉動作を行うと共に、型4を締め付けた状態において、キャビティCに射出された溶融材料の圧力により型4が開かないようにする。
【0026】
型締装置5は、固定盤51、可動盤52、タイバー53、駆動装置54、型締装置用センサ55を備える。固定盤51には、第一型4aが固定される。固定盤51は、射出装置3のノズル34に当接可能であり、ノズル34から射出される溶融材料を型4へ導く。可動盤52には、第二型4bが固定される。可動盤52は、固定盤51に対して接近及び離間可能である。タイバー53は、可動盤52の移動を支持する。駆動装置54は、例えば、シリンダ装置によって構成されており、可動盤52を移動させる。型締装置用センサ55は、型締力、金型温度、駆動装置54の状態等を取得するセンサを総称する。
【0027】
動作指令部6は、成形条件に関する動作指令データを制御装置7に与える。また、成形機1は、品質予測装置300による品質要素の予測結果に基づき、動作指令部6に記憶された動作指令データの調整を行う動作指令データ調整部6aを備える。動作指令部6は、動作指令データ調整部6aにより調整された動作指令データを制御装置7に与えるので、成形機1は、成形する成形品の品質を高めることができる。
【0028】
制御装置7は、動作指令部6からの動作指令データに基づいて、射出装置3の駆動装置36及び型締装置5の駆動装置54を制御する。例えば、制御装置7は、射出装置用センサ37及び型締装置用センサ55から各種情報を取得して、動作指令データに応じた動作を行うように、射出装置3の駆動装置36及び型締装置5の駆動装置54を制御する。
【0029】
(3-2:成形機1による成形品の成形方法)
続いて、射出成形機としての成形機1による成形品の成形方法について説明する。成形機1による成形方法では、計量工程、型締工程、射出充填工程、保圧工程、冷却工程、離型取出工程が順次実行される。計量工程において、成形機1は、ヒータ35の加熱及びスクリュ33の回転に伴うせん断摩擦熱によってペレットを溶融しながら、加熱シリンダ32の先端とノズル34の間に溶融材料を貯留する。このとき、溶融材料の貯留量の増加に伴ってスクリュ33が後退するため、スクリュ33の後退位置から溶融材料の貯留量の計量が行われる。
【0030】
計量工程に続く型締工程において、成形機1は、可動盤52を移動させて、第一型4aに第二型4bを合わせ、型締めを行う。さらに、成形機1は、加熱シリンダ32を軸方向へ移動させて型締装置5に近づけ、ノズル34を型締装置5の固定盤51に接続する。続く射出充填工程において、成形機1は、スクリュ33の回転を停止した状態において、スクリュ33をノズル34に向けて所定の押し込み力で移動させることにより、溶融材料を高い圧力で型4に射出充填する。なおこのとき、型4に供給された溶融材料の温度は、せん断発熱により上昇するため、加熱された型4の温度よりも高くなる。
【0031】
成形機1は、キャビティCに溶融材料が充填されると、保圧工程に移行する。保圧工程において、成形機1は、キャビティCに溶融材料が充填された状態で更に溶融材料をキャビティCに押し込み、キャビティC内の溶融材料に所定の圧力(保圧力)を所定時間加える保圧処理を行う。具体的に、成形機1は、スクリュ33に一定の押し込み力を付与することにより、溶融材料に所定の保圧力を付与する。なお、保圧工程において、型4に供給された溶融材料の温度は、徐々に低下する。
【0032】
そして、成形機1は、所定時間の保圧処理を行った後、冷却工程へ移行する。冷却工程において、成形機1は、溶融材料の押し込みを停止して保圧力を減少させる処理を行いつつ、キャビティC内の溶融材料を冷却する。冷却工程において、型4は、引き続き加熱された状態が維持されるので、溶融材料の温度は、時間の経過に伴って型4の温度まで低下する。なお、成形機1は、溶融材料の温度が型4の温度まで低下する前に冷却工程を終了することも可能である。最後に、離型取出工程において、成形機1は、型開きを行い、成形品を取り出す。なお、型4に供給された溶融材料は、型開き時に外気にさらされるため、溶融材料の温度は、外気温まで急低下する。
【0033】
(4.型4の詳細構成)
ここで、図3及び図4を参照しながら、型4の詳細な構成を説明する。なお、型4は、いわゆる多数個取り金型であり、型4には複数のキャビティCが形成されているが、図面を簡素化するため、図3及び図4には、1つのキャビティCをのみ図示している。また、本実施形態において、成形機1が成形する成形品は、等速ジョイントに用いられる保持器である。従って、成形品は、環状、特に、円環状であり、キャビティCは、保持器の形状に倣った環状、特に円環状に形成される。なお、成形品及びキャビティCの形状は、環状以外の形状、例えば、C形状や矩形枠状等であってもよい。
【0034】
供給路4cは、スプルー41と、ランナー42と、ゲート43とを備える。スプルー41は、ノズル34から溶融材料が供給される通路である。ランナー42は、スプルー41から分岐する通路であり、スプルー41に供給された溶融材料は、ランナー42に流入する。ゲート43は、ランナー42に流入した溶融材料をキャビティCに導く通路であり、ゲート43の流路断面積は、ランナー42の流路断面積よりも小さい。型4には、キャビティCと同数のランナー42及びゲート43が形成され、スプルー41に供給された溶融材料は、ランナー42及びゲート43を介して各々のキャビティCに供給される。
【0035】
なお、キャビティCが環状である場合であって、第一型4aが1つのゲート43を備える場合、キャビティC内における溶融材料の流入経路は、ゲート43からキャビティCの環状の周方向に流動する経路となる。溶融材料は、ゲート43からキャビティCへ流入した後に2方向へ分かれて移動し、ゲート43からの最遠位置(以下、単に「最遠位置」と称す)の近傍で合流する。
【0036】
(5.材料温度センサ44a-44c)
次に、型4に配置される材料温度センサ44a-44cについて説明する。図4に示すように、キャビティC及び供給路4cには、型4に供給された溶融材料の温度を検出する3つの材料温度センサ44a-44cが設けられる。本実施形態において、材料温度センサ44a-44cは、第一型4aに設けられているが、第二型4bに設けることも可能である。また、材料温度センサ44a-44cは、接触式のセンサであってもよく、非接触式のセンサであってもよい。なお、型4には、少なくとも1つの材料温度センサが設けられていればよく、この場合には、材料温度センサをキャビティC内に設けることが好ましい。
【0037】
型4に設けられた3つの材料温度センサ44a-44cのうち、2つの材料温度センサ44a,44bは、キャビティCに設けられ、残りの1つの材料温度センサ44cは、供給路4cに設けられる。キャビティCに設けられた2つの材料温度センサ44a,44bは、左右対称となる位置であって、ゲート43からの距離が同等となる位置に配置される。また、2つの材料温度センサ44a,44bは、流入経路における中間位置に対し、ゲート43よりも最遠位置寄りに配置される。
【0038】
ここで、成形品を成形する際の射出充填工程において、型4に供給された溶融材料の温度は、せん断発熱により上昇する。そして、キャビティCにおいて2方向に分かれて移動する溶融材料が合流する際に、溶融材料のせん断発熱による発熱量が大きくなり、溶融材料の温度が最大になると考えられる。つまり、キャビティC内において2方向へ分かれて移動する溶融材料が合流する最遠位置の近傍において、溶融材料の温度は、最大となると考えられる。そして、品質予測システム100は、キャビティCに配置される2つの材料温度センサ44a,44bを最遠位置の近傍に配置することにより、キャビティC内における溶融材料の最大温度を把握できると考えられる。
【0039】
この点において、品質予測システム100は、2つの材料温度センサ44a,44bをゲート43よりも最遠位置寄りに配置している。つまり、2つの材料温度センサ44a,44bは、最遠位置の近傍に配置されるので、品質予測システム100は、キャビティC内における溶融材料の最大値を把握できる。また、品質予測システム100は、キャビティC内において、2つの材料温度センサ44a,44bを左右対称に配置する。これにより、品質予測システム100は、最遠位置からずれた位置で溶融材料が合流した場合であっても、2つの材料温度センサ44a,44bのうち検出した温度が高い方を取得することにより、キャビティC内における溶融材料の最大温度を把握できる。
【0040】
なお、キャビティCの形状が環状でない場合においても、品質予測システムは、溶融材料の温度が最大となる位置に材料温度センサを配置することが望ましい。例えば、品質予測システムは、キャビティを移動する溶融材料がキャビティを形成する壁面と接触するときに溶融材料が最大温度に到達する場合には、当該壁面の近傍に材料温度センサを配置することにより、キャビティ内における溶融材料の最大温度を把握できる。
【0041】
(6.品質予測システム100の各構成)
(6-1.サーバ120の構成)
次に、図5を参照しながら、品質予測システム100の各構成を説明する。最初に、サーバ120の構成を説明する。図5に示すように、サーバ120は、品質要素データ入力部110と通信可能に設けられる。そして、サーバ120は、品質要素データ入力部110に入力された測定結果を、品質要素データとして収集する。
【0042】
また、品質予測システム100において、成形機1に設けられた材料温度センサ44a-44c及び外気温センサ38は、サーバ120と通信可能に設けられる。材料温度センサ44a-44cは、成形機1が成形品を成形する際に得られた情報として、型4に供給された溶融材料の温度を検出する。そして、サーバ120は、材料温度センサ44a,44bによる検出結果を、材料温度データとして収集する。また、外気温センサ38は、成形機1が成形品を成形する際に得られた情報として、当該成形品を成形した際の外気温を検出する。そして、サーバ120は、外気温センサ38による検出結果を、外気温データとして収集する。
【0043】
(6-2.学習装置200の構成)
続いて、学習装置200の構成を説明する。図5に示すように、学習装置200は、サーバ120が収集した品質要素データ及び各種温度データに基づいて学習モデルを生成する。学習装置200は、成形品データ取得部210と、成形品データ記憶部220と、成形品データ抽出部230と、学習モデル生成部240とを備える。
【0044】
成形品データ取得部210は、サーバ120が収集した品質要素データ及び各種温度データをサーバ120から取得し、成形品データ記憶部220に記憶する。成形品データ抽出部230は、成形品データ記憶部220に記憶された各種データの中から、学習モデルの生成に用いるデータを抽出する。
【0045】
このとき、成形品データ抽出部230は、成形品データ記憶部220に記憶された材料温度データの中から、溶融材料がキャビティCに供給された状態で型4を開いたときの溶融材料の温度(以下「第一温度Th1」と称す)を抽出する。具体的に、第一温度Th1は、冷却工程から離型取出工程へ移行するときの溶融材料の温度であって、第一型4aを第二型4bから離間させたときの温度(型開き時の温度)である。
【0046】
さらに、成形品データ抽出部230は、成形品データ記憶部220に記憶された材料温度データの中から、溶融材料の温度が最大となったときの温度(以下「第二温度Th2」を抽出する。具体的に、第二温度Th2は、型4への溶融材料の供給が開始されてから冷却工程が終了するまでの間で、材料温度センサ44a-44cの各々が検出した溶融材料の最大温度(最大材料温度)である。
【0047】
なお、成形品データ抽出部230は、必ずしも3つの材料温度センサ44a-44cの各々が検出した第一温度Th1の全てを抽出する必要はない。例えば、成形品データ抽出部230は、キャビティC内に配置された2つの材料温度センサ44a,44bのうち何れか一方が検出した検出結果のみを抽出することも可能である。また、成形品データ抽出部230は、必ずしも第一温度Th1又は第二温度Th2の双方を抽出する必要はなく、何れか一方のみを抽出することも可能である。
【0048】
なお、成形品データ抽出部230は、離型取出工程において成形品を型4から取り出したとき、或いは、成形品を型4から取り出してから所定時間経過後に材料温度センサ44a-44cが検出した検出結果を、外気温データとして抽出することも可能である。この場合、成形品データ抽出部230は、外気温センサ38を不要とすることができる。
【0049】
学習モデル生成部240は、成形品データ抽出部230に抽出した品質要素データ、材料温度データ、及び、外気温データに基づき、品質要素データと材料温度データと外気温データとを学習データとする機械学習を行うことにより、成形品の品質要素と材料温度データと外気温データとに関する学習モデルを生成する。学習モデル生成部240は、サーバ120が収集した多量の各種温度データ及び品質要素データを、学習モデルを生成する際の機械学習の学習データとして用いるので、学習モデルを効率的に生成できる。
【0050】
(6-3.品質予測装置300の構成)
続いて、図5を参照しながら、品質予測装置300の構成を説明する。図5に示すように、品質予測装置300は、学習モデル記憶部310と、材料温度データ取得部320と、材料温度データ抽出部330と、外気温データ取得部340と、品質予測部350と、判定部360と、出力部370とを主に備える。
【0051】
学習モデル記憶部310は、学習モデル生成部240により生成された学習モデルを記憶する。本実施形態において、学習モデル生成部240が生成した学習モデルは、サーバ120を介して学習モデル記憶部310に記憶されるが、学習モデル生成部240が直接的に(サーバ120を介さずに)学習モデルを学習モデル記憶部310に記憶することも可能である。
【0052】
材料温度データ取得部320は、成形機1が新たに成形品を成形した際にサーバ120が収集した材料温度データを取得する。そして、材料温度データ抽出部330は、材料温度データ取得部320が取得した材料温度データの中から、学習モデルに入力する材料温度データを抽出する。本実施形態において、材料温度データ抽出部330は、第一温度Th1及び第二温度Th2を抽出する。外気温データ取得部340は、成形機1が新たに成形品を成形した際に、外気温センサ38が検出した外気温を、外気温データとして取得する。
【0053】
品質予測部350は、材料温度データ抽出部330が抽出した材料温度データ、外気温データ取得部340が取得した外気温データ、及び、学習モデル記憶部310に記憶された学習モデルに基づき、新たに成形した成形品の品質要素を予測する。判定部360は、品質予測部350による品質要素の予測結果に基づき、新たに成形された成形品が良品であるか否かの良否判定を行う。
【0054】
出力部370は、品質予測部350による予測結果、及び、判定部360による良否判定結果の出力を行う。出力部370は、例えば、表示装置(図示せず)への表示による案内、音声による案内、表示灯による案内等を行う。この場合に、出力部370は、品質予測装置300に設けられた表示装置等に案内を行うようにしてもよいし、複数の成形機1の各々に設けられた表示装置等に案内を行うようにしてもよいし、サーバ120等その他の管理装置に設けられた表示装置等に案内を行うようにしてもよい。また、出力部370は、作業者または管理者が所有する携帯端末に案内を行うこともできる。
【0055】
(7.材料温度データの推移)
ここで、図6を参照して、材料温度データの推移について説明する。図6に示すグラフは、材料温度データの推移の一例を示すグラフであり、キャビティCに設けた材料温度センサ44aが検出した材料温度データの推移を示す。
【0056】
図6に示すグラフにおいて、横軸は、型4への溶融材料の供給を開始してからの経過時間を示し、縦軸は、材料温度センサ44aによる検出値(溶融材料の温度)を示す。横軸に関して、時間t1は、溶融材料がキャビティC内に供給される過程で材料温度センサ44aが第二温度Th2を検出した時間を示す。時間t2は、型4を開いた時間であり、時間t2における溶融材料の温度が第一温度Th1となる。なお、図6に示す例において、第一温度Th1は、加熱された型4の温度と概ね同等である。また、縦軸に関して、Th3は、外気温を示す。
【0057】
図6に示すように、材料温度センサ44aによる検出値は、材料温度センサ44aが配置された位置に溶融材料が到達した時点で急上昇する。このとき、キャビティC内を移動する溶融材料は、せん断発熱によって発熱し、型4の温度よりも高温となる。そして、キャビティC内を2方向へ分かれて移動した溶融材料どうしが合流すると、せん断発熱による溶融材料の発熱量が更に大きくなり、溶融材料の温度は、最大となる。
【0058】
その後、せん断発熱による溶融材料の発熱が収まると、溶融材料の温度は、徐々に低下し、型4の温度に近づいていく。そして、時間t2に到達するまでに溶融材料の温度が型4の加熱温度まで低下すると、その後の溶融材料の温度が概ね一定となる。
【0059】
この場合、時間t2に到達するまでの間に溶融材料の温度が横ばいである時間が長ければ、冷却工程を短くすることにより、サイクルタイムの短縮を図ることができると考えられる。また、型開き時において、型4に供給された溶融材料は、外気にさらされるため、溶融材料の温度は、急低下する。そして、キャビティC内の溶融材料は、型開き後における溶融材料の急低下に伴って大きく収縮する。この点に関して、溶融材料の収縮量は、時間t2における溶融材料の温度と、成形機1が配置された場所の外気温との差が大きいほど大きく収縮するため、第一温度Th1と型4の加熱温度との温度差が大きい場合に、成形品の品質要素が不安定になることがある。よってこの場合には、時間t2を遅らせ、冷却工程を長くすることにより、成形品の品質要素を安定させることができる場合もある。
【0060】
そこで、品質予測装置300は、型開き時における溶融材料の温度である第一温度Th1に基づいて、型開き後における溶融材料の収縮量を予測し、溶融材料が固化して成形された成形品の品質要素を予測する。即ち、品質予測システム100において、学習装置200は、第一温度Th1と成形品の品質要素との関係を表す学習モデルを生成する。そして、品質予測装置300は、学習装置200が生成した学習モデルと、成形品を成形した際の第一温度Th1とに基づいて、成形品の品質要素を予測する。これにより、品質予測システム100は、当該成形品の品質要素を高精度に予測できる。
【0061】
これに加え、品質予測装置300は、第一温度Th1及び外気温と成形品の品質要素との関係を表す学習モデルと、成形品を成形した際の第一温度Th1及び外気温とに基づいて、成形品の品質要素を予測する。即ち、第一温度Th1を一定とした場合であっても、成形機1が配置される場所が温暖である場合と寒冷である場合とでは、第一温度Th1と外気温との温度差が変わる。そこで、品質予測システム100において、学習装置200は、第一温度Th1及び外気温と成形品の品質要素との関係を表す学習モデルを生成する。そして、品質予測装置300は、学習装置200が生成した学習モデルと、成形品を成形した際の第一温度Th1及び外気温とに基づいて、成形品の品質要素を予測する。これにより、品質予測システム100は、当該成形品の品質要素をより高精度に予測できる。
【0062】
また、第一温度Th1は、第二温度Th2の影響を受ける。即ち、第二温度Th2が高いほど、溶融材料の温度が型4の加熱温度まで低下するのに要する時間が長くなる。そして、時間t2を一定としたとき、第二温度Th2が所定温度を超える場合には、第二温度Th2が高温であるほど、第一温度Th1と型4の温度との差が大きくなる。つまり、第一温度Th1と外気温との温度が大きくなり、溶融材料が大きく収縮する。このように、第二温度Th2は、型開き後における溶融材料の収縮量を高精度に予測するにあたり、有用な情報となると考えられる。
【0063】
そこで、品質予測システム100において、学習装置200は、第一温度Th1及び第二温度Th2と成形品の品質要素との関係を表す学習モデルを生成する。そして、品質予測装置300は、学習装置200が生成した学習モデルと、成形品を成形した際の第一温度Th1及び第二温度Th2とに基づいて、成形品の品質要素を予測する。これにより、品質予測システム100は、当該成形品の品質要素をより高精度に予測できる。
【0064】
また、溶融材料は、加熱されることで膨張し、冷却されることで収縮する。従って、第二温度Th2が高温であるほど、型4に供給された溶融材料の膨張量が大きくなる。その結果、射出充填工程においてキャビティCに充填可能な溶融材料の質量は、少なくなる。そしてこの場合、キャビティC内の溶融材料が冷却されると、溶融材料は、キャビティCに対して大きく収縮する。反対に、第二温度Th2が低温であるほど、キャビティC内の溶融材料の膨張量は小さくなり、射出充填工程においてキャビティCに充填可能な溶融材料の質量は、大きくなる。そしてこの場合、冷却された時のキャビティC内の溶融材料の収縮量は、キャビティCに対して小さくなる。
【0065】
つまり、第二温度Th2を把握することにより、キャビティCに供給された溶融材料の質量を予測でき、その結果、溶融材料が固化して成形された成形品の品質要素を予測できると考えられる。そこで、品質予測システム100において、学習装置200は、第二温度Th2と成形品の品質要素との関係を表す学習モデルを生成する。そして、品質予測装置300は、学習装置200が生成した学習モデルと、成形品を成形した際の第二温度Th2に基づいて、成形品の品質要素を予測する。これにより、品質予測システム100は、当該成形品の品質要素をより高精度に予測できる。
【0066】
なお、溶融材料の温度は、第一温度Th1及び外気温との関連性が低いと考えられる。よって、学習装置200は、学習モデルを生成するにあたり、第一温度Th1及び外気温を学習データとすることを回避することも可能である。この場合において、品質予測装置300は、溶融材料の質量との関連性が高い第二温度Th2に基づいて成形品の品質予測を行うので、予測精度を高めることができる。
【0067】
また、材料温度センサ44aは、2方向へ分かれて移動した溶融材料どうしが合流すると考えられる最遠位置の近傍に配置される(図4参照)。よって、品質予測システム100は、キャビティC内に供給された溶融材料の中で最も高温になると想定される溶融材料の温度を、材料温度センサ44aにより検出できる。つまり、材料温度センサ44aは、キャビティC内においてゲート43から溶融材料が流入する流入経路の中で、溶融材料の温度が最も高くなる位置に配置される。そして、品質予測装置300は、当該温度と学習モデルとに基づいて成形品の品質要素を予測することにより、当該成形品の品質要素を高精度に予測できる。
【0068】
なお、キャビティの形状が環状でない場合においても、材料温度データの推移は、図6に示す例と概ね同様になる。つまり、溶融材料の温度は、キャビティに溶融材料が供給される過程で最大となり、せん断発熱による発熱が収まると、溶融材料の温度は、徐々に低下し、型の温度に近づく。
【0069】
(8.品質予測システム100を用いた成形品の品質要素の予測)
次に、品質予測システム100を用いた成形品の品質要素の予測について、例を挙げながら説明する。
【0070】
(8-1.第一例の品質予測システム100)
最初に、第一例として、成形機1が成形した成形品の寸法を品質予測装置300によって予測する場合について説明する。本例では、品質予測装置300が、円環に形成された成形品の外径を予測する場合を例に挙げて説明するが、成形品の他の寸法(内径、軸方向長さ等)を予測することも可能である。
【0071】
第一例において、学習装置200の成形品データ抽出部230は、学習データに用いるデータとして、成形品の外径に関する品質要素データと、第一温度Th1及び第二温度Th2に関する材料温度データと、外気温データとを抽出する。次に、学習モデル生成部240は、抽出した各種データを学習データとする機械学習により、品質要素データと材料温度データと外気温データとの関係を表す学習モデルを生成する。
【0072】
そして、品質予測装置300は、学習モデル生成部240が生成した学習モデルと、新たに成形品を生成した際に得られた材料温度データ(第一温度Th1及び第二温度Th2)及び外気温データとに基づいて、新たに成形された成形品の外径を予測する。
【0073】
なお、第一例において、学習モデル生成部240は、第一温度Th1及び第二温度Th2に関する材料温度データと外気温データとの全てを学習データとしなくてもよい。つまり、学習モデル生成部240は、少なくとも第一温度Th1を学習データとすればよい。この場合においても、品質予測装置300は、学習モデルと第一温度に関する材料温度データに基づき、新たなに成形された成形品の寸法を精度よく予測することができる。
【0074】
(8-2.第二例の品質予測システム100)
次に、第一例として、成形機1が成形した成形品の形状を品質予測装置300によって予測する場合について説明する。本例では、品質予測装置300が、円環に形成された成形品の外周面及び内周面の真円度を予測する場合を例に挙げて説明するが、成形品の他の形状(例えば、円筒度や真円度等の幾何公差)を予測することも可能である。
【0075】
第二例において、学習装置200の成形品データ抽出部230は、学習データに用いるデータとして、成形品の外径に関する品質要素データと、第二温度Th2に関する材料温度データとを抽出する。次に、学習モデル生成部240は、抽出した各種データを学習データとする機械学習により、品質要素データと材料温度データとの関係を表す学習モデルを生成する。
【0076】
そして、品質予測装置300は、学習モデル生成部240が生成した学習モデルと、新たに成形品を生成した際に得られた材料温度データ(第二温度Th2)とに基づいて、新たに成形された成形品の真円度を予測する。
【0077】
(9.品質予測部350による予測結果の活用例)
続いて、品質予測部350による予測結果の活用例を説明する。まず、品質予測装置300において、判定部360は、品質予測装置300による予測結果を取得する。そして、判定部360は、品質予測部350による予測結果に基づき、成形品が良品であるか否かの判定を行う。例えば、判定部360は、品質予測部350による予測結果として得られた成形品の寸法又は形状が、予め設定された閾値以内であるか否か(寸法公差内又は幾何公差内に収まるか否か)の判定を行う。そして、判定部360は、成形品の寸法又は形状が閾値以内であれば、当該成形品が良品であると判定する。これにより、品質予測システム100を用いる作業者等は、判定部360による判定結果に基づき、成形品の良否を容易に判定できる。
【0078】
また、作業者、又は、動作指令データ調整部6a(図2参照)は、品質予測装置300による品質要素の予測結果に基づき、動作指令部6に記憶された動作指令データの調整を行うことができる。例えば、作業者等は、時間t2を調整することにより、サイクルタイムの最適化と、良品の成形品を安定して生産することとの両立を図ることができる。さらに、作業者等は、加熱シリンダ32の温度調整や射出速度等を調整することにより、第二温度Th2の調整を図ることができる。また、作業者等は、供給路4cに設けた材料温度センサ44cの材料温度データに基づき、供給路4cの設計変更を検討することも可能である。
【0079】
(10.その他)
上記した品質予測システム100の成形機1において、型4には1つのキャビティCに対してゲート43が1つのみであるが、1つのキャビティCに対して2つ以上のゲート43を設けてもよい。
【0080】
上記した品質予測システム100において、学習装置200は、サーバ120を介して品質予測装置300に通信可能に設けられているが、品質予測装置300に内蔵されるものであってもよい。また、品質予測装置300は、サーバ120を介して複数の成形機1に通信可能に設けられているが、各々の成形機1に設けられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0081】
1:成形機、 4:型、 6:動作指令部、 6a:動作指令データ調整部、 7:制御装置、 38:外気温センサ、 44a-44c:材料温度センサ、 100:品質予測システム、 120:サーバ、 240:学習モデル生成部、 310:学習モデル記憶部、 350:品質予測部、 360:判定部、 C:キャビティ、 Th1:第一温度、 Th2:第二温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6