(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】フィルム状分度器
(51)【国際特許分類】
B43L 13/00 20060101AFI20230523BHJP
C08G 63/183 20060101ALI20230523BHJP
G01B 3/56 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B43L13/00 U
C08G63/183
G01B3/56
(21)【出願番号】P 2019063706
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋田 智之
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-147089(JP,U)
【文献】特開2015-160375(JP,A)
【文献】実公昭11-016429(JP,Y1)
【文献】登録実用新案第3168974(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 13/00
C08G 63/183
G01B 3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムと、分度器柄を含む印刷部とを有し、
該分度器柄において0度から360度の範囲の角度において、少なくとも10度間隔における全ての角度の目盛り線を有し、20℃の環境下で24時間保管した後の折畳み保持角度が80度以下、かつ厚さが200μm以下であることを特徴とするフィルム状分度器。
【請求項2】
2枚のポリエステルフィルムの間に分度器柄を含む印刷部を有する請求項1に記載のフィルム状分度器。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムは、エチレンテレフタレートユニットを全エステルユニット100モル%中、50モル%以上有し、
全アルコール成分100モル%中の非晶質アルコール成分の割合と、全酸成分100モル%中の非晶質酸成分の割合の合計が12モル%以上30モル%以下であるポリエステル樹脂で構成されている請求項1または2のいずれかに記載のフィルム状分度器。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムが延伸ポリエステルフィルムである、請求項1~3のいずれかに記載のフィルム状分度器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムを用いたフィルム状分度器に関し、詳しくは、20℃の環境下で24時間保管した後の折畳み保持性能に優れたフィルム状分度器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分度器は硬質塩化ビニル樹脂板やアクリル樹脂板等の厚さが1~1.5mm程度の板状プラスチックを材料に、分度器に必要な図柄を印刷したものが一般的であった。
【0003】
特許文献1には、不透明シート表面に寸法目盛及び角度目盛を作図、印刷した物差し・分度器付き下敷きが開示されており、長さ及び角度の両方を測定できるという効果を奏するものである。なお、一般的に下敷きの厚さも分度器と同様に1~1.5mm程度である。
【0004】
上記の従来技術の分度器は、平面における角度を測定するために用いられるものであり、ほとんど曲げることができないので、円柱状物の側面のような曲面における角度を測定することができない。また、所定の角度を有する2本以上の線等を含むような図形等のデザインを描く場合には、まず定規を使用して直線を引き、次いで分度器を使用して所定の角度の直線を引くという複雑な操作が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、曲面における角度を測定することが可能なフィルム状分度器を提供するとともに、折り畳み形状の保持性(折畳み保持性能)に優れて所定の角度の直線を容易に引くことが可能なフィルム状分度器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明者らは種々検討した結果、所定の折畳み保持性能を有するフィルムを使用すれば、所期の目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
上記課題を解決し得た本発明は、以下の構成よりなる。
1.ポリエステルフィルムと、分度器柄を含む印刷部とを有し、20℃の環境下で24時間保管した後の折畳み保持角度が80度以下、かつ厚さが200μm以下であることを特徴とするフィルム状分度器。
2.2枚のポリエステルフィルムの間に分度器柄を含む印刷部を有する1.に記載のフィルム状分度器。
3.前記ポリエステルフィルムは、エチレンテレフタレートユニットを全エステルユニット100モル%中、50モル%以上有し、
全アルコール成分100モル%中の非晶質アルコール成分の割合と、全酸成分100モル%中の非晶質酸成分の割合の合計が12モル%以上30モル%以下であるポリエステル樹脂で構成されている1.または2.のいずれかに記載のフィルム状分度器。
4.前記ポリエステルフィルムが延伸ポリエステルフィルムである、1.~3.のいずれかに記載のフィルム状分度器。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、曲面における角度を測定することが可能であると共に、折り畳み形状の保持性(折畳み保持性能)に優れて所定の角度の直線を容易に引くことが可能なフィルム状分度器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るフィルム状分度器の折畳み保持角度の測定方法を示す図である。
【
図2】本発明に係るフィルム状分度器の一例を示す写真である。
【
図3】本発明に係るフィルム状分度器を角度60度で折畳んだ一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のフィルム状分度器について詳述する。
【0011】
本発明のフィルム状分度器は、ポリエステルフィルムと、分度器柄を含む印刷部とを有し、20℃の環境下で24時間保管した後の折畳み保持角度が80度以下、かつ厚さが200μm以下であることを特徴とする。
【0012】
上記のように本発明のフィルム状分度器は、20℃の環境下で24時間保管した後の折畳み保持角度が80度以下を満足するため、手で容易に折り畳むことが可能で、且つ、折り畳んだ状態での形状を維持できる。上記保管後の折畳み保持角度が80度以下に制御されていれば、特に折り畳む場合に、容易な折り畳み性と折り畳み後の形状維持性を両立できることが分かった。本発明のフィルム状分度器は、一度折り畳むとしっかりと折りぐせを付与することができるので、例えば
図3に示すように所定の角度(60度)で折畳んでその角度を保持することが可能であり、定規のように使用すれば、折畳んだフィルム端部に沿って所定の角度を有する2本の直線を容易に引くことができる。
上記折り畳み保持角度は70度以下が好ましく、60度以下がより好ましく、55度以下が特に好ましい。上記折り畳み保持角度の下限は特に限定されないが、実際に達成できる値はおおむね20度以上である。
【0013】
また、本発明のフィルム状分度器は、ポリエステルフィルムと、分度器柄を含む印刷部とを有し、厚さが200μm以下であるため、可撓性を有し円柱状物の側面のような曲面における角度を測定することができる。前述のように、従来の分度器は硬質塩化ビニル樹脂板やアクリル樹脂板等の材料で構成されており、厚さが1~1.5mm程度である。該分度器は、平面における角度を測定するために用いられるものであり、ほとんど曲げることができず、無理に曲げると割れてしまい、円柱状物の側面のような曲面における角度を測定することができない。
上記厚さは150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましく、60μm以下が特に好ましい。また、厚さが5μm未満であると、ハンドリングに必要なフィルムの腰が得られず、また、折り畳む際のハンドリング性が悪くなる場合がある。厚さの下限値は5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。
【0014】
また、本発明のフィルム状分度器は、上記のように厚さが200μm以下であり、従来の分度器に比して5分の1以下程度の厚みを有するので、廃棄する際の環境負荷を低減することができる。
【0015】
本発明のフィルム状分度器は、2枚のプラスチックフィルムの間に分度器柄を含む印刷部を有することが好ましい。上記構成とすることにより、印刷部が保護されて長期間の使用が可能であり、印刷部に欠陥部分や脱落部分が発生して分度器柄が読み取れなくなる等の弊害を防止することができる。特に折り畳む際には、折り曲げた部分の印刷部の欠陥が発生し易くなるが、上記構成とすることにより、これらの欠陥を抑制することが可能となる。印刷部は一層であっても良いし、二層以上であっても良い。
【0016】
上記印刷部は、本発明のフィルム状分度器を構成するプラスチックフィルム上に、印刷用インクを印刷することにより形成することが可能である。印刷用インクは、着色するための顔料または染料と、有機樹脂バインダーと、有機溶剤とを含有することが好ましい。上記印刷用インクとしては、例えば大日本インキ工業(株)のファインラップ(登録商標)、サカタインクスのシュリンクパック(登録商標)等を使用することが可能である。上記印刷部の厚さは2~8μmが好ましく、3~6μmがより好ましい。
【0017】
上記印刷部は分度器柄を含む。分度器柄とは、少なくとも複数の同心円と角度目盛を含む。該複数の同心円と角度目盛を含むことにより、0~360度の角度が測定可能である。さらに、角度目盛の近傍に角度を示す数値を10度毎又は20度毎に含むことが好ましい。角度目盛は1つの円に沿って設けられてもよく、また、複数の円に沿って設けられていてもよいが、2以上の複数の円に沿って設けられていると角度をより測定しやすくなるので好ましい。また、特定の角度の範囲に色付けをしてあると、角度をより測定しやすくなるので好ましい。
図2の例においては、10~20度、30~40度、50~60度等の色付けがなされており、角度が10度毎に透明部分と色付け部分を交互に有している。
前記印刷部以外の部分は、透明である部分を含むことが好ましい。
【0018】
本発明のフィルム状分度器を構成するポリエステルフィルムは、透明フィルムであることが好ましい。すなわち上記印刷部以外の部分は、透明である部分を含むことが好ましい。本発明では、ポリエステルフィルムの印刷部を含まない部分のヘイズ値が25%以下のものを透明フィルムと定義する。ヘイズ値は、JIS-K-7105に準じて測定されるものであり、異なる3ヶ所の値を測定して、その平均値をヘイズ値とする。
【0019】
本発明のフィルム状分度器を構成するポリエステルフィルムの組成は、フィルム状分度器を20℃の環境下で24時間保管した後の折畳み保持角度が80度以下に制御されるものであれば特に限定されず、例えばエチレンテレフタレートユニットを含有するポリエステルフィルムが好ましい。
【0020】
上記ポリエステルフィルムは、エチレンテレフタレートユニットを全エステルユニット100モル%中、好ましくは50モル%以上有し、より好ましくは60モル%以上有する。エチレンテレフタレートユニットは、エチレングリコールおよびテレフタル酸を主な構成成分として含有する。このようにエチレンテレフタレートを主成分として用いることにより、優れた耐熱性と透明性を得ることができる。エチレンテレフタレートユニットの上限は100モル%未満が好ましく、95モル%以下がより好ましく、90モル%以下が更に好ましく、88モル%以下が最も好ましい。
【0021】
上記ポリエステルフィルムを構成するテレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
【0022】
なお、上記ポリエステルフィルムは、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)を含有しないことが好ましい。これらの多価カルボン酸を含有するポリエステルを使用して得たフィルムは、溶融押出しして製膜する際に異物が発生して外観不良となる虞があるためである。
【0023】
上記ポリエステルフィルムを構成するエチレングリコール以外の他のジオール成分としては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール;ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。
【0024】
これらのうち1,4-シクロヘキサンジメタノール等の環状ジオール;3~6の炭素数を有するジオール(例えば1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等)は低Tg成分として有用であり、これら成分を1種または2種以上添加することにより、ガラス転移点(Tg)を60~70℃に調整することができる。
【0025】
上記ポリエステルフィルムは、好ましくは非晶質成分(非晶質アルコール成分および非晶質酸成分)を含み、全アルコール成分100モル%中の非晶質アルコール成分の割合と、全酸成分100モル%中の非晶質酸成分の割合との好ましい合計は12モル%以上、30モル%以下である。エチレンテレフタレートを主成分とすると共に、非晶質成分となり得るモノマー成分を12モル%以上含有することにより、フィルムの折畳み保持角度をより低い保持角度に容易に調整することができる。より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは17モル%以上、更により好ましくは18モル%以上である。一方、非晶質成分となり得るモノマー成分の合計が30モル%を超えると、耐破れ性や耐熱性が不十分となり易い。
【0026】
非晶質酸成分(カルボン酸成分)のモノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0027】
また非晶質アルコール成分(ジオール成分)のモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0028】
これらのモノマー成分の中でも、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはイソフタル酸が好ましく、ネオペンチルグリコールが特に好ましい。
【0029】
なお、上記ポリエステルフィルムは、炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリン等)を含有しないことが好ましい。炭素数が8個以上のジオールを含有するとフィルムの機械的強度を損なう場合がある。また3価以上の多価アルコールを含有すると溶融押出ししてフィルムを製膜する際に異物が発生して外観不良となる虞がある。
【0030】
また、上記ポリエステルフィルムは、ポリエステル系エラストマーを併用することが好ましい。これにより、非晶度合いが高まって、折畳み保持性が良好となる。本発明に用いられる好ましいポリエステル系エラストマーは、高融点結晶性ポリエステルセグメント(ハードセグメント)と数平均分子量400以上の低融点軟重合体セグメント(ソフトセグメント)からなるポリエステル系ブロック共重合体である。
【0031】
ここで上記高融点結晶性ポリエステルセグメントは、その構成成分だけで重合体を形成した場合、融点が200℃以上になるセグメントを意味する。
上記高融点結晶性ポリエステルセグメントとして、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の残基と、ペンタメチレングリコール、2,2-ジメチルトリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、p-キシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族、芳香族、または脂環族ジオールの残基とからなるポリエステル;p-(β-ヒドロキシエトキシ)安息香酸、p-オキシ安息香酸ピバロラクトン等のオキシ酸の残基からなるポリエステル;1,2-ビス(4,4’-ジカルボキシメチルフェノキシ)エタン、ジ(4-カルボキシフェノキシ)エタン等の芳香族エーテルジカルボン酸の残基と上記の脂肪族、芳香族、または脂環族ジオールの残基とからなるポリエーテルエステル;ビス(N-パラカルボエトキシフェニル)テレフタルイミド等の芳香族アミドジカルボン酸の残基と上記の脂肪族、芳香族、または脂環族ジオールの残基とからなるポリアミドエステル等が挙げられる。また、上記ジカルボン酸の残基および/またはジオールの残基を2種以上使用した共重合ポリエステル等も使用することができる。
【0032】
一方、上記低融点軟重合体セグメントは、ポリエステル系エラストマー中で実質的に非晶の状態を示すものであり、その構成成分だけで重合体を形成した場合、融点または軟化点が80℃以下になるセグメントを意味する。上記低融点軟重合体セグメントの数平均分子量は、400~8000が好ましく、700~5000がより好ましい。
【0033】
上記低融点軟重合体セグメントとしては、ポリエチレンオキサイドグリコール、ポリプロピレンオキサイドグリコール、ポリテトラメチレンオキサイドグリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体のグリコール、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランとの共重合体のグリコール等のポリエーテル;ポリネオペンチルアゼレート、ポリネオペンチルアジペート、ポリネオペンチルセバケート等の脂肪族ポリエステル;ポリ-ε-カプロラクトン等のポリラクトン等が挙げられる。ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとの相溶性の観点を考慮すると、ポリ-ε-カプロラクトン等のポリラクトンをソフトセグメントに用いたポリエステル系エラストマーが好ましい。
ポリエステル系エラストマーに占める上記低融点軟重合体セグメントの割合は、1~90質量%が好ましく、より好ましくは5~80質量%である。
【0034】
ポリエステル系エラストマーとして、本発明では、テレフタル酸とブタンジオールとε-カプロラクトンの共重合ポリエステルからなるε-カプロラクトン系ポリエステルエラストマーが好ましく用いられる(後記する表1のポリエステル原料Eを参照)。これにより、非晶度合いが高められ、折畳み保持性能が一層良好に発揮される。このような効果を充分に発揮させるためには、ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル樹脂100モル%に占める、ε-カプロラクトン系ポリエステルエラストマーの含有量は1~30モル%が好ましく、3~25モル%がより好ましく、5~20モル%が更に好ましい。ε-カプロラクトン系ポリエステルエラストマーの含有量が1モル%を下回ると、ε-カプロラクトン系ポリエステルエラストマーの添加効果が十分に発揮されない。一方、ε-カプロラクトン系ポリエステルエラストマーの含有量が30モル%を超えると、フィルムの耐破れ性、強度や耐熱性等の物理的強度が充分に得られない虞がある。
【0035】
本発明に用いるポリエステル原料は、必要に応じて各種の添加剤を添加することができる。上記添加剤は特に限定されず、例えばワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤が挙げられる。
【0036】
また、上記ポリエステル原料は、フィルムの作業性(滑り性)を良好にするため、滑剤として作用する微粒子を添加することが好ましい。上記微粒子としては、無機系微粒子および有機系微粒子の種類を問わず、任意のものを選択することができる。無機系微粒子としては、例えばシリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等が挙げられる。有機系微粒子としては、例えばアクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等が挙げられる。上記微粒子の平均粒径は、コールターカウンタにて測定した場合、約0.05~3.0μmの範囲内であることが好ましい。ポリエステルフィルム中の微粒子含有率の下限は好ましくは0.01重量%であり、より好ましくは0.015重量%であり、さらに好ましくは0.02重量%である。0.01重量%未満であると滑り性が低下することがある。上限は好ましくは1重量%であり、より好ましくは0.2重量%であり、さらに好ましくは0.1重量%である。1重量%を超えると透明性が低下することがあり、あまり好ましくない。
【0037】
ポリエステル原料中に上記微粒子を配合する方法は特に限定されず、例えばポリエステル系樹脂を製造する任意の段階で添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法や、混練押出し機を用いて乾燥させた微粒子とポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法等も挙げられる。
【0038】
さらに、上記ポリエステル系フィルムは、フィルム表面の接着性を良好にするため、コロナ処理、コーティング処理、火炎処理等を施したりすることも可能である。
【0039】
本発明のフィルム状分度器は、単層フィルムであっても良いし、二層以上の積層フィルムであっても良い。単層フィルムの場合、例えば耐擦傷性インキ等を使用して表印刷することにより、分度器柄を含む印刷部を形成することができる。積層フィルムの場合、更に接着剤層を含有することができる。これにより、接着剤層を介して積層された複数の層からなる積層フィルムとすることが可能である。具体的には、例えば後記する表3の積層フィルムのようにポリエステルフィルムの印刷部側とポリエステルフィルムの接着剤層側とが積層されたポリエステルフィルム/印刷部/接着剤/ポリエステルフィルム(表3のNo.1~10)、フィルムの印刷部側同士が接着剤を介して積層されたポリエステルフィルム/印刷部/接着剤/印刷部/ポリエステルフィルム(表3のNo.11)等の積層構造が挙げられる。
【0040】
本発明に用いられる接着剤は、折畳み保持性能を具備しながら印刷部に施される図柄などの意匠性を良好に発揮させる観点からすると、例えば、ポリウレタン接着剤が好ましく用いられる。ポリウレタン接着剤としては、例えば三井化学社製タケラック(登録商標)、三井化学社製タケネート(登録商標)、東洋インキ社製のTM-250HV、TM-556S、TM-265L等のドライラミネート用接着剤が挙げられる。
上記接着剤層の厚さは1~6μmであることが好ましく、2~5μmであることがより好ましい。
【0041】
但し、積層フィルムは、必ずしも接着剤層を介して作製する必要はなく、例えば共押し出し法等により接着剤層を介さずに積層フィルムを製造することも可能である。
【0042】
また積層フィルムを構成するフィルムの種類は、少なくとも一つが本発明の要件を満足するフィルムであれば良く、好ましくは後記する表3の積層フィルムのように全てのフィルムが本発明の要件を満足するフィルムである。
【0043】
本発明のフィルム状分度器は、人手による取り扱いが可能な面積を有することが好ましく、これにより本発明の効果がより発現し易くなる。本発明に係るフィルム状分度器の面積は、800cm2以下が好ましく、600cm2以下がより好ましく、400cm2以下がさらに好ましい。なお、該面積は分度器柄以外の余白を含む、フィルム状分度器全体の面積である。
【0044】
本発明に係るフィルム状分度器全体の形状は特に限定されず、三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形、円形、楕円形等の形状を採用することが可能であり、これらのうち四角形であることが好ましく、正方形であることがより好ましい。
【0045】
次に、本発明に係るポリエステルフィルムの製造方法について説明する。以下では、共重合ポリエステルを含有したポリエステルフィルムを用いて説明するが、これに限定されない。
【0046】
上記ポリエステルフィルムは、前述したポリエステル原料を押出機により溶融押し出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを以下に示す所定の方法により一軸延伸または二軸延伸することによって製造することができる。なおポリエステルは、前述した好適なジカルボン酸成分とジオール成分とを公知の方法で重縮合させることで得ることができる。また、通常は、チップ状のポリエステルを2種以上混合してフィルムの原料として使用する。
【0047】
まず、原料樹脂を溶融押し出しする。その際、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥することが好ましい。
このようにしてポリエステル原料を乾燥させた後、押出機を利用して、200~300℃の温度で溶融し、フィルム状に押し出す。押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0048】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0049】
次に、上記未延伸フィルムを延伸する。フィルムの延伸方向はフィルムの縦(長手)方向、横(幅)方向のいずれでも構わない。以下では、最初に横延伸、次に縦延伸を実施する横延伸-縦延伸による二軸延伸法について説明するが、順番を逆にする縦延伸-横延伸であっても、主配向方向が変わるだけなので構わない。或は、上記のように二軸延伸を行うことが好ましいが、横延伸、縦延伸のいずれか一方の一軸延伸でも良い。
【0050】
まず、横方向の延伸を行う。横方向の延伸は、テンター(第1テンター)内でフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、65~85℃で3.5~5倍程度、行うことが好ましい。横方向の延伸を行う前に予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が70~100℃になるまで行うとよい。
【0051】
横延伸の後、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。なお第1テンターの横延伸ゾーンと中間熱処理ゾーンとの間で温度差がある場合、中間熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込み、横延伸ゾーンの温度が安定しないためにフィルム品質が安定しなくなることがあるので、横延伸後で中間熱処理前のフィルムを、所定時間をかけて中間ゾーンを通過させた後、中間熱処理を実施することが好ましい。この中間ゾーンでは、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや中間熱処理からの熱風を遮断すると、安定した品質のフィルムが得られる。中間ゾーンの通過時間は、1~5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。中間ゾーンは長い方が好ましいが、あまり長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0052】
中間ゾーンの通過後は、縦延伸前の中間熱処理を行っても行わなくてもどちらでも構わない。横延伸後に中間熱処理を行う場合、上記中間熱処理の温度を高くすると、折畳み性に寄与する分子配向が緩和され、結晶化が進むため折畳み性は若干悪くなる。また厚み斑も同様に悪くなる。このような観点から、上記中間熱処理は、140℃以下で行うことが好ましい。ここで中間熱処理ゾーンの通過時間は、20秒以下が好ましい。中間熱処理ゾーンは長い方が好ましいが、20秒程度で充分である。これにより横一軸延伸ポリエステルフィルムが得られる。
【0053】
次に、縦延伸を行う。前述したとおり横延伸後の縦延伸は必ずしも行わなくても良いが、縦延伸を行うとフィルムの引張り破壊強さが向上するので好ましい。具体的には、例えば横一軸延伸ポリエステルフィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸に当たっては、予熱ロールでフィルム温度が65~110℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸し難くなり(すなわち、破断が生じ易くなる)、好ましくない。一方、110℃より高いとロールにフィルムが粘着し易くなり、連続生産によるロールの汚れ方が進行し易くなって好ましくない。
【0054】
フィルム温度が上記範囲になったら、縦延伸を行う。縦延伸倍率は、主配向方向を縦方向にするか、横方向にするかで異なる。主配向方向を縦方向にする場合は、縦延伸倍率を2~5倍とするとよい。一方、主配向方向を横方向にする場合は、縦延伸倍率を1.2~1.8倍とするとよい。
【0055】
縦延伸後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、最終熱処理を行う前に、表面温度が20~40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。縦延伸後に急冷することで、フィルムの分子配向が安定化し、製品となった後のフィルムの自然収縮率が小さくなるため、好ましい。
【0056】
次に、縦延伸および冷却後のフィルムを、熱処理(リラックス処理)のための第2テンターへ導入し、熱処理(リラックス処理)を行う。リラックス処理はフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、0~30%でフィルムを弛ませる工程である。リラックス率により横方向の収縮率を変化させることができる。リラックス率は0%が下限であり、上限は99%であるが、リラックス率が高過ぎると、フィルム製品幅が短くなるというデメリットもあるので好ましくない。よって、リラックス率の上限は30%程度が好適である。
【0057】
上記熱処理(リラックス処理)の温度は、65~140℃が好ましい。熱処理温度が65℃より低いと熱処理による効果が有効に発揮されない。一方、熱処理温度が140℃より高いと、フィルムが結晶化してしまい、折畳み角度の保持性が悪いフィルムとなり易いので好ましくない。熱処理温度の下限は70℃以上がより好ましく、75℃以上がさらに好ましい。一方、熱処理温度の上限は130℃以下がより好ましく、120℃以下がさらに好ましい。
【0058】
最後に、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、ポリエステル系フィルムロールが得られる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下では特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0060】
本実施例では表2の単層フィルム1~8、および上記単層フィルムを用いた表3の積層フィルムNo.1~10(地図情報が施された本発明例)を製造し、以下の方法で評価した。更に上記積層フィルム1を用いて、ミシン目を有するチューブ状体のフィルムを製造した。
【0061】
[折畳み保持角度]
(単層フィルムの場合)
20℃、50%RH環境の恒温室で各フィルムを24時間放置した。その後直ちに、各フィルムを20℃、65%RH環境下で10cm×10cmの正方形に裁断し、4つ折にした(2.5cm×2.5cmの正方形が重なった状態)。その後、底面の大きさが3cm×3cmの5kgの錘を20秒間、4つ折りのフィルムに乗せた。そして錘を外した後、
図1に示すように、サンプル1の四隅がガラス板2に接するか、またはガラス板2近傍に位置する[折り目の頂点(4つ折り前のサンプル1の中央部)がガラス板2から離れたところに位置する]ように4つ折りにしたサンプル1をガラス板2上に置き、1分経過後に折られた単層フィルムが開いた角度3(完全に折りたたまれた状態を0度とした)を測定して折畳み保持角度を求めた。フィルムの縦方向および横方向の両方の折畳み保持角度を同様にして測定し、角度が大きい方の値をフィルムの折畳み保持角度とした。なお、折畳み保持角度の測定においては、フィルムの縦方向と横方向が不明瞭なフィルムサンプルの場合、一方向を仮に縦方向と定め、上記仮の縦方向と直交する方向を仮の横方向と定めた。なお表中、折畳み保持角が×となっている例は、上記のように折畳んだにもかかわらず、1秒後には折畳み状態を保持できなかったことを意味する。
【0062】
(積層フィルムの場合)
積層フィルムについては、以下の点を除いて上記単層フィルムと同様にして折畳み保持角度を測定した。
4つ折(2.5cm×2.5cmの正方形が重なった状態)状態にする前に、まず2つ折りを行った。その際、積層フィルムの一方の面(表面)が山折り面となるように2つ折りした場合の折畳み保持角度と、積層フィルムの他方の面(裏面)が山折り面となるように2つ折りした場合の折畳み保持角度とを測定し、角度が小さい方の値を折畳み保持角度とした。
【0063】
[非晶質成分含有量]
非晶質成分の含有量は、サンプリングしたフィルム約5mgを重クロロホルムとトリフルオロ酢酸との混合溶液(体積比9/1)0.7mLに溶解し、1H-NMR(varian製、UNITY50)を使用して求めた。具体的には、温度23℃、積算回数64回の測定条件で試料溶液のプロトンのNMRスペクトルを測定した。
【0064】
本実施例では、非晶質成分としてネオペンチルグリコール(NPG)および1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)の含有量を求めた。詳細には、以下のようにして各非晶質成分の含有量を算出した。
NMRスペクトルの測定チャートにおけるプロトンのピークの周波数により、試料溶液中のポリエステルを構成する多価アルコール成分の構成単位のモノマー種類を特定した。そして各モノマー種に対応する所定のプロトンのピーク強度の値に基づき、試料溶液中のポリエステルを構成する多価アルコール成分100モル%中のネオペンチルグリコール量、または1,4-シクロヘキサンジメタノール量を非晶質成分の含有量(モル%)として算出した。
【0065】
<ポリエステル原料の合成>
[ポリエステル原料Aの合成]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチル(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル原料Aを得た。このポリエステル原料Aはポリエチレンテレフタレートである。ポリエステル原料Aのモノマー成分の組成を表1に示す。
【0066】
表1において、TPAはテレフタル酸、BDは1,4-ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコール、ε-CLはε-カプロラクトンである。表1中、「酸成分」の欄には全酸成分100モル%に占めるモノマー成分(表1ではTPA)の含有量を、「多価アルコール成分」および「エステル成分」の欄には全多価アルコール成分および全エステル成分の合計100モル%中に占める各モノマー成分の含有量を、それぞれ示している。
【0067】
[ポリエステル原料B~Fの合成]
上記ポリエステル原料Aと同様の手順に基づき、モノマー成分の異なるポリエステル原料B~Fを得た。なお、ポリエステル原料Fは、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製
サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加して製造した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。これらのモノマー成分の組成を表1に示す。各ポリエステル原料の固有粘度は、それぞれ、B:0.72dl/g、C:0.80dl/g、D:1.20dl/g、E:0.77dl/g、F:0.75dl/gであった。
【0068】
【0069】
<単層フィルムの製造>
(フィルム1の製造)
上記ポリエステル原料Aとポリエステル原料Bとポリエステル原料Dとポリエステル原料Fを質量比5:60:30:5で混合して押出機に投入した。その後、上記混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ240μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は約20m/minであった。次に、上記未延伸フィルムを、横延伸ゾーン、中間ゾーン、中間熱処理ゾーンを連続的に設けたテンター(第1テンター)に導いた。なお、中間ゾーンでは、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、延伸ゾーンからの熱風および熱処理ゾーンからの熱風が遮断されるように制御した。
【0070】
そして、第1テンターに導かれた未延伸フィルムを、フィルム温度が80℃になるまで予備加熱した後、横延伸ゾーンで横方向に70℃で4倍に延伸し、中間ゾーンを通過させた後(通過時間=約1.2秒)、中間熱処理ゾーンへ導き、80℃の温度で8秒間に亘って熱処理することによって厚み60μmの横一軸延伸フィルムを得た。
【0071】
更に、上記の横一軸延伸フィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が70℃になるまで予備加熱した後、3倍に延伸した。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
【0072】
そして、冷却後のフィルムをテンター(第2テンター)へ導き、第2テンター内で100℃の雰囲気下で10秒間に亘って熱処理しつつ1%幅方向のリラックスを行った後、冷却し、両縁部を裁断除去することによって、厚みが20μmの二軸延伸フィルムを所定の長さに亘って連続的に製膜してフィルム1からなるフィルムロールを得た。
【0073】
(フィルム2の製造)
上記フィルム1において、ポリエステル原料Bをポリエステル原料Cに変えたこと以外はフィルム1と同様にして、厚み20μmのフィルム2からなるフィルムロールを得た。
【0074】
(フィルム3の製造)
上記フィルム1において、ポリエステル原料Dをポリエステル原料Eに変更したこと以外はフィルム1と同様にして、厚み20μmのフィルム3からなるフィルムロールを得た。
【0075】
(フィルム4の製造)
上記フィルム1において、未延伸フィルムの厚みを80μmに変更し、横延伸後の中間熱処理温度を82℃に変更し、且つ、縦延伸、最終熱処理を実施せずに横方向のみ延伸して厚み20μmのフィルム4からなるフィルムロールを得た。
【0076】
(フィルム5の製造)
上記フィルム1において、ポリエステル原料Bの重量比率を60から80へ変更し、且つ、ポリエステル原料Dの重量比率を30から10へ変更したこと以外はフィルム1と同様にして、厚み20μmのフィルム5からなるフィルムロールを得た。
【0077】
(フィルム6の製造)
上記フィルム1において、ポリエステル原料Aの重量比率を5から35へ変更し、且つ、ポリエステル原料Bの重量比率を60から50へ変更したこと以外はフィルム1と同様にして、厚み20μmのフィルム6からなるフィルムロールを得た。
【0078】
(フィルム7の製造)
上記フィルム1において、フィルム厚みを20μmから40μmへ変更したこと以外はフィルム1と同様にして、厚み40μmのフィルム7からなるフィルムロールを得た。
【0079】
(フィルム8の製造)
上記フィルム1において、フィルム厚みを20μmから12μmへ変更したこと以外はフィルム1と同様にして、厚み12μmのフィルム8からなるフィルムロールを得た。
【0080】
(フィルム9の製造)
フィルム9は、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製E5100、厚み12μm)である。
【0081】
(フィルム10の製造)
フィルム10は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡株式会社製P2161、厚み20μm)である。
【0082】
このようにして得られたフィルム1~10(単層フィルム)の特性を上記方法によって評価し、表2に併記した。
【0083】
【0084】
表2より、フィルム1~8はいずれも、折畳み保持角度が80度以下であり、良好な特性を有している。これらのうち特にフィルム5は非晶質成分の含有量が最も多いため、折畳み保持角度が24度と、折畳み保持性能に最も優れていた。これに対し、フィルム9は非晶質成分を含まないポリエチレンテレフタレートフィルムであり、折畳み保持角度が100度と、上記フィルム1~8に比べて折畳み保持性能に劣っている。
またフィルム10も非晶質成分を含まないポリプロピレンフィルムであり、折畳んだにもかかわらず、折畳み状態を保持することができなかった。
【0085】
<積層フィルムの製造>
上記フィルム1~10を用い、以下のようにして分度器柄の印刷が施された積層フィルムNo.1~11を製造した。
【0086】
(No.1の製造)
上記フィルム1に、印刷用インキとしてサカタインクス株式会社製「シュリンクパック」(登録商標)を用いてグラビア印刷法により
図2の分度器柄を印刷した。
上記とは別に、フィルム1に、ウレタン系2液硬化型接着剤[三井化学株式会社製の「タケラック(登録商標)A525S」および「タケネート(登録商標)A50」]と酢酸エチル(ナカライテスク株式会社製)を13.5:1:8.8の質量比率にて、ワイヤーバー#5を用いて3μmの厚さとなるように塗布した後、60℃のオーブンで30秒間静置させ、溶媒を揮発した。
その後、ドライラミネート法により、上記印刷を施したフィルム1の印刷部側と、上記接着剤を塗布したフィルム1の接着剤層側とを貼り合せ、40℃で3日間シーズニングを施した後、150mm×150mm(225cm
2)の正方形状に裁断してNo.1の積層フィルム(フィルム状分度器)を製造した。なお、印刷された分度器柄は直径134mmの円形状の図柄である。
【0087】
(No.2~10の製造)
上記No.1において、フィルム1の代わりにフィルム2~10を使用したこと以外はNo.1と同じ手順で、No.2~10の積層フィルムを製造した。
【0088】
【0089】
表3より、本発明の要件を満足するフィルム1~8(単層フィルム)を用いたNo.1~8の積層フィルム(フィルム状分度器)は、いずれも折畳み保持角度が80度以下に抑制されており、折り畳み加工が容易で、且つ、折り畳んだ後の形状保持性に優れている。 また折り畳み部分の印刷部には外観上の欠点は見られなかった。
上記No.1~8の積層フィルム(フィルム状分度器)を使用して
図3のように60度の角度となるように折畳んだところ、容易に折畳みができた。また、いずれも折畳んだ後の形状保持性にも優れたおり、折畳んだ後に定規のように使用して60度の角度となる2つの直線を、鉛筆を使用して紙の上に描くことができた。
【0090】
更に、上記積層フィルム(フィルム状分度器)を用いて、市販の缶コーヒー(直径52mm、高さ103mm)の側面部(曲面)において、缶コーヒー図柄の角度を測定したところ、No.1~8の積層フィルム(フィルム状分度器)を使用して容易に測定することができた。
【0091】
これに対し、本発明の要件を満足しない比較例のフィルム9、10を用いたNo.9、10の積層フィルムは以下の不具合を抱えている。
No.9の折畳み保持角度は120度であり、上記No.1~8に比べて折畳み保持角度が大きい。そのため、上記フィルムは折りぐせがつき難く、折り畳み加工性が悪く、また折り畳んだ後の形状保持性に劣るものであった。
上記No.9の積層フィルム(フィルム状分度器)を使用して
図3のように60度の角度となるように折畳んだところ、折りぐせがつき難く、折り畳み加工性が悪かった。また、折畳んだ後の形状保持性にも劣っており、折畳んだ後に定規のように使用して60度の角度となる2つの直線を、鉛筆を使用して紙の上に描こうとしたところ、約75度の角度となり、また、きれいな直線を描くことができなかった。
【0092】
No.10の折畳み保持角度は、フィルム10の単層フィルムと同様、評価が×であり、折畳み状態を保持できなかった。また、折畳んだ後の形状保持性にも劣っており、折畳んだ後に定規のように使用して60度の角度となる2つの直線を、鉛筆を使用して紙の上に描こうとしたが、形状が保持できないために不可能であった。
【0093】
また、市販の半円形状の分度器(厚さ1.0mm、アクリル樹脂製)を使用して、市販の缶コーヒー(直径52mm、高さ103mm)の側面部(曲面)において、缶コーヒー図柄の角度を測定しようとしたところ、分度器を曲面に沿って曲げることができず、測定ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、曲面における角度を測定することが可能であると共に、折り畳み形状の保持性(折畳み保持性能)に優れて所定の角度の直線を容易に引くことが可能なフィルム状分度器を提供することができる。従来の分度器に比べて廃棄する際の環境負荷を低減することもできるので、産業上広い利用価値を有するものである。
【符号の説明】
【0095】
1 サンプル
2 ガラス板
3 角度