(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】複合半透膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/56 20060101AFI20230523BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230523BHJP
C08F 8/32 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D69/12
C08F8/32
(21)【出願番号】P 2019085294
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉崎友哉
(72)【発明者】
【氏名】浜田剛志
(72)【発明者】
【氏名】尾形雅美
(72)【発明者】
【氏名】志村晴季
(72)【発明者】
【氏名】小川貴史
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/198679(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/133132(WO,A1)
【文献】特開2001-327840(JP,A)
【文献】特表2015-516876(JP,A)
【文献】国際公開第2019/168137(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0175820(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
C02F 1/44
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に設けられた多孔性支持層と、前記多孔性支持層上に設けられた分離機能層と、前記分離機能層を被覆する被覆層とを備える複合半透膜であって、
前記分離機能層は、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドとの重合物である架橋芳香族ポリアミドを有する第1層と、前記第1層上に存在し、重量平均分子量2000以上の脂肪族アミド系ポリマーを含む被覆層とを含有し、
かつ下記(A)、(B)
及び(C)を満たす複合半透膜。(A)前記被覆層が、下記構造群(I)に含まれる1種類以上の構造、および、下記構造群(II)
に含まれる1種類以上の構造、を共に有することを特徴とする複合半透膜。
【化1】
(ただし、X
1, X
2またはX
3~X
6の少なくとも一つはハロゲンであり、R
1~R
6は水素または任意の官能基である)
【化2】
(ただし、X
7, X
8またはX
9~X
12の少なくとも一つはハロゲンであり、
R
7
~R
10
は水素または任意の官能基である)
(B)前記複合半透膜の前記被覆層側からX線を照射することで行われるX線光電子分光測定において、C1sの289eVにおけるピーク強度が、288eVにおけるピーク強度の0.4~0.8倍である
(C)pH3およびpH6における前記複合半透膜の被覆層側の表面ゼータ電位が負である
【請求項2】
前記脂肪族アミド系ポリマーが分子内または分子間の少なくとも一方で架橋されている
請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記脂肪族アミド系ポリマーが前記第1層にアミド結合で結合している
請求項1または2のいずれかに記載の複合半透膜。
【請求項4】
前記構造群(I)のX
1, X
2またはX
3~X
6の少なくとも一つはフッ素である、
請求項1~3のいずれかに記載の複合半透膜。
【請求項5】
前記構造群(II)X
7, X
8またはX
9~X
12の少なくとも一つはフッ素である
請求項1~4のいずれかに記載の複合半透膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な半透膜に関し、耐汚れ性、耐薬品性に優れた複合半透膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液状混合物の膜分離に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがあり、これらの膜は、例えば塩分、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられている。
【0003】
現在市販されている逆浸透膜およびナノろ過膜の大部分は複合半透膜であり、中でも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能層を微多孔性支持膜上に被覆して得られる複合半透膜は、透過性や選択分離性の高い分離膜として広く用いられている。
【0004】
しかし、複合半透膜を使用し続けると、膜表面に、有機物や重金属、微生物などの汚れ物質が付着し、膜の透過流束が低下し易く、ある期間運転後に酸、アルカリ、塩素などによる薬液洗浄が必要となるが、汚れ物質が付着しにくく、かつ、酸、アルカリ、塩素などの薬液洗浄前後での性能変化の少ない複合半透膜が望まれている。
【0005】
汚れの付着を改善する方法として、ポリビニルアルコールを分離機能層表面に被覆することで荷電状態を中性にして、汚れの付着を抑制する方法(特許文献1参照)、ポリアルキレンオキシドを含有する被覆層を形成するなどの方法(特許文献2,3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第97/34686号公報
【文献】特表2003-501249号公報
【文献】特表2015-516876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に記載の技術では、汚れ物質の付着抑制効果が不十分であることや酸や塩素による洗浄や酸性溶液中、塩素溶液中での保存により、耐汚れ性が低下するなどの問題点がある。
【0008】
本発明は、酸接触前後および塩素接触前後で耐汚れ性が安定した複合半透膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、下記(1)~(5)のいずれかの構成を備える
(1)基材と、前記基材上に設けられた多孔性支持層と、前記多孔性支持層上に設けられた分離機能層と、前記分離機能層を被覆する被覆層とを備える複合半透膜であって、前記分離機能層は、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドとの重合物である架橋芳香族ポリアミドを有する第1層と、前記第1層上に存在し、重量平均分子量2000以上の脂肪族アミド系ポリマーを含む被覆層とを含有し、かつ下記(A)~(C)を満たす複合半透膜。
(A)前記被覆層が、下記構造群(I)に含まれる1種類以上の構造、および、下記構造群(II)
に含まれる1種類以上の構造、を共に有する
【0010】
【0011】
(ただし、X1、X2またはX3~X6の少なくとも一つはハロゲンであり、R1~R6は水素または任意の官能基である)
【0012】
【0013】
(ただし、X7, X8またはX9~X12の少なくとも一つはハロゲンであり、R
7
~R
10
は水素または任意の官能基である)
(B)前記複合半透膜の前記被覆層側からX線を照射することで行われるX線光電子分光測定において、C1sの289eVにおけるピーク強度が、288eVにおけるピーク強度の0.4~0.8倍である
(C)pH3およびpH6における前記複合半透膜の被覆層側の表面ゼータ電位が負である
(2)前記脂肪族アミド系ポリマーが分子内または分子間の少なくとも一方で架橋されている、前記(1)に記載の複合半透膜。
(3)前記脂肪族アミド系ポリマーが前記第1層にアミド結合で結合している、前記(1)または(2)のいずれかに記載の複合半透膜。
(4)前記構造群(I)のX1, X2またはX3~X6の少なくとも一つはフッ素である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の複合半透膜。
(5)前記構造群(II)X7, X8またはX9~X12の少なくとも一つはフッ素である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の複合半透膜。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合半透膜の分離機能層が、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドとの重合物である架橋芳香族ポリアミドを含むことで高い塩除去率を達成することができ、架橋芳香族ポリアミドを被覆する層(被覆層)を有することで高い耐汚れ性をもつ複合半透膜が得られる。また、本発明の分離機能層がハロゲン置換された脂肪族アミド系ポリマーを含有し、かつ、X線光電子分光測定において、C1sの289eVにおけるピーク強度が、288eVにおけるピーク強度の0.4~0.8倍であり、pH3およびpH6での表面ゼータ電位が負であるため、酸や塩素の接触前後でも優れた耐汚れ性を維持し易く、長期間にわたる安定な運転を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の複合半透膜は、基材と微多孔性支持層から成る支持膜と、支持膜上に形成される分離機能層とを備える。前記分離機能層は実質的に分離性能を有するも のであり、支持膜は水を透過するものの実質的にイオン等の分離性能を有さず、分離機能層に強度を与えることができる。分離機能層中の架橋芳香族ポリアミド層を被覆する脂肪族アミド系ポリマーは、汚れ物質の付着を防止する機能を有する。
【0016】
複合半透膜は、水溶液からイオンを除去する機能を有する膜として、具体的には、RO(Reverse Osmosis)膜及びNF(Nanofiltration)膜が挙げられる。
【0017】
以下、本発明の構成について具体的に説明する。
【0018】
(1)支持膜
本実施形態では、支持膜は、基材と、微多孔性支持層とを備える。ただし、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、支持膜は、基材を持たず、多孔性支持層のみで構成されていてもよい。
【0019】
(1-1)基材
基材は、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、及びこれらの混合物又は共重合体等が挙げられる。中でも、機械的、熱的に安定性の高いポリエステル系重合体の布帛が特に好ましい。布帛の形態としては、長繊維不織布や短繊維不織布、さらには織編物を好ましく用いることができる。
【0020】
(1-2)微多孔性支持層
微多孔性支持層は、イオン等の分離性能を実質的に有さず、分離性能を実質的に有する分離機能層に強度を与えるためのものである。微多孔性支持層の孔のサイズや分布は特に限定されない。例えば、均一で微細な孔、又は分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもち、かつ、分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが0.1nm以上100nm以下であるような微多孔性支持層が好ましい。支持層に使用する材料やその形状は特に限定されない。
【0021】
微多孔性支持層は、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、及びポリフェニレンオキシド等のホモポリマー又はコポリマーを、単独で又は混合して使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが使用できる。
【0022】
中でもポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。より好ましくは酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、またはポリフェニレンスルホンが挙げられる。さらに、これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることからポリスルホンが一般的に使用できる。
【0023】
ポリスルホンは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でN-メチルピロリドンを溶媒に、ポリスチレンを標準物質として測定した場合の重量平均分子量(Mw)が、10000以上200000以下であることが好ましく、より好ましくは15000以上100000以下であることが好ましい。
【0024】
ポリスルホンのMwが10000以上であることで、多孔性支持層として好ましい機械的強度および耐熱性を得ることができる。また、Mwが200000以下であることで、溶液の粘度が適切な範囲となり、良好な成形性を実現することができる。
【0025】
例えば、上記ポリスルホンのN,N-ジメチルホルムアミド(以降、DMFと記載)溶液を、密に織ったポリエステル布又は不織布の上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有する微多孔性支持層を得ることができる。
【0026】
基材と微多孔性支持層の厚みは、複合半透膜の強度及びそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度及び充填密度を得るためには、基材と多孔性支持層の厚みの合計が、30μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上220μm以下であるとより好ましい。また、微多孔性支持層の厚みは、20μm以上100μm以下であることが好ましい。なお、本書において、特に付記しない限り、厚みとは、平均値を意味する。ここで平均値とは相加平均値を表す。すなわち、基材と多孔性支持層の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向(膜の面方向)に20μm間隔で測定した、20点の厚みの平均値を算出することで求められる。
【0027】
(1-3)支持膜の形成方法
微多孔性支持層は、ミリポア社製“ミリポアフィルターVSWP”(商品名)や、東洋濾紙社製“ウルトラフィルターUK10”(商品名)のような各種市販材料から選択することもできるが、“オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って製造することができる。
【0028】
(2)分離機能層
分離機能層は、複合半透膜において溶質の分離機能を担う層である。
【0029】
分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層と、第1層の上に存在する脂肪族アミド系ポリマーを含有する被覆層とを備える。被覆層は、実質的に汚れの付着を抑制する機能を有する。
【0030】
(2-1)組成
分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを主成分として含有することが好ましい。主成分とは分離機能層の成分のうち、50重量%以上を占める成分を指す。分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを50重量%以上含むことにより、高い除去性能を発現することができる。また、分離機能層における架橋芳香族ポリアミドの含有率は80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。
【0031】
また、第1層において、架橋芳香族ポリアミドが占める割合は、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。第1層は架橋芳香族ポリアミドのみで形成されていてもよい。
【0032】
第1層は、多孔性支持層の上(基材と接するのとは逆の面)に、接するように配置される。
【0033】
架橋芳香族ポリアミドは、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドとを化学反応させることにより形成できる。ここで、多官能芳香族アミン及び多官能芳香族酸クロリドの少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。これにより、剛直な分子鎖が得られ、水和イオンやホウ素などの微細な溶質を除去するための良好な孔構造が形成される。
【0034】
多官能芳香族アミンとは、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方のアミノ基を2個以上有し、かつ、アミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基である芳香族アミンを意味する。多官能芳香族アミンとしては、例えば、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、o-ジアミノピリジン、m-ジアミノピリジン、p-ジアミノピリジン等の2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係で芳香環に結合した多官能芳香族アミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、3-アミノベンジルアミン、4-アミノベンジルアミンなどの多官能芳香族アミンなどが挙げられる。特に、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、及び1,3,5-トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m-フェニレンジアミン(以下、m-PDAとも記す。)を用いることがより好ましい。これらの多官能芳香族アミンは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
多官能芳香族酸クロリドとは、一分子中に少なくとも2個のクロロカルボニル基を有する芳香族酸クロリドをいう。例えば、3官能酸クロリドでは、トリメシン酸クロリドなどを挙げることができ、2官能酸クロリドでは、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどを挙げることができる。膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2~4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸クロリドであることが好ましい。特に経済性、入手の容易さ、取り扱い易さ、反応性の容易さ等の点から、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸の酸クロリドであるトリメシン酸クロリド(以下、TMCという。)が好ましい。上記多官能芳香族酸クロリドは1種を単独で用いても、2種類以上を混合物として用いてもよい。
【0036】
架橋芳香族ポリアミドを構成する多官能芳香族アミン及び多官能芳香族酸クロリドのそれぞれの90重量%以上を分子量1000未満の化合物が占めることが好ましく、500未満の化合物が占めることがより好ましい。多官能芳香族アミン及び多官能酸芳香族クロリドのそれぞれの90重量%以上を分子量1000未満の化合物が占めることで、多官能芳香族アミン及び多官能酸芳香族クロリドの溶媒への溶解性が高くなるので、高効率で界面重縮合が起こる。その結果、得られる架橋芳香族ポリアミドの薄膜は、高い溶質分離機能を有する。
【0037】
上記架橋芳香族ポリアミドは、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドの重合反応に由来するアミド基、未反応末端官能基に由来するアミノ基及びカルボキシ基を有する。これらの官能基量は、複合半透膜の透水性能や塩除去率に影響を与える。
【0038】
脂肪族アミド系ポリマーは、第1層の表面、つまり多孔性支持層と接するのとは逆の面に存在する。脂肪族アミド系ポリマーは第1層を完全に被覆していてもよいし、第1層の一部が露出していてもよい。説明の便宜上、第1層の一部が露出している場合も含めて、第1層上に位置し、かつ脂肪族アミド系ポリマーを含む部分を「第2層」と呼ぶ。分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層と、第1層上に設けられ、脂肪族アミド系ポリマーを含有する第2層とを有する。つまり、基材、多孔性支持層、第1層及び第2層がこの順に配置される。
【0039】
脂肪族アミド系ポリマーが分離機能層表面に存在することで、仮に汚染物質が分離機能層表面に付着しても、汚染物質が架橋芳香族ポリアミドに付着することが抑制される。その結果、分離機能を実質的に担う架橋芳香族ポリアミドの汚染が抑制され、分離膜の性能低下が抑制される。
【0040】
本発明では脂肪族アミド系ポリマーの重量平均分子量は2000以上である。脂肪族アミド系ポリマーの重量平均分子量は2000以上であれば、上記した汚染物質が仮に汚染物質が分離機能層表面に付着しても、汚染物質が架橋芳香族ポリアミド直接付着することが抑制され、文リンクの性能低下を抑制できる。また、脂肪族アミド系ポリマーの重量平均分子量はポリマー溶液の取り扱いがしやすいという点で1000000以下であることが好ましい。
【0041】
本発明者らは鋭意検討した結果、被覆層中に含まれる脂肪族アミド系ポリマーに前記(1)に記載のハロゲンを有するアミド基、および前記(2)に記載のハロゲンを有するカルボキシ基を有することが酸および塩素接触前後の耐汚れ性に影響することを見出した。親水性の高いアミド基およびカルボキシ基を有することで、膜表面に水和した水分子による汚れの付着抑制と付着した汚れの脱着促進の効果があると考えられる。また、電子吸引性の高いハロゲンを含むアミド基はハロゲンを含まないアミド基よりも塩素接触による分解が起こりにくく、かつ、アミド基上の水素の酸性度が高く水和しやすいため、塩素での洗浄後も優れた耐汚れ性を維持できることを見出した。また、電子吸引性の高いハロゲンを含むカルボキシ基はハロゲンを含まないカルボキシ基と異なり、中性条件下に加え、酸条件下においても負荷電性を保つことができ、水和可能な水分子が多いため、酸での洗浄後も優れた耐汚れ性を維持できることを見出した。
【0042】
本発明では得られた複合半透膜を室温・真空下で乾燥し、X線光電子分光測定によるワイドスキャン分析にて、0eV以上1400eV以下の範囲に検出される元素の組成分析をおこなった。また、280eV以上300eV以下の範囲に検出されるC1sのピーク中のアミドのピーク(288eV)とカルボン酸のピーク(289eV)を分析した。
【0043】
本発明者らは鋭意検討した結果、C1sの289eVにおけるピーク強度が、288eVにおけるピーク強度の0.4~0.8倍であることで、薬品接触前後で優れた耐汚れ性が得られることを見出した。C1sの289eVにおけるピーク強度が、288eVにおけるピーク強度の0.4倍以上であることで、被覆層に多量の水和水を保持可能なカルボキシ基を多く含むため、優れた耐汚れ性を維持でき、ピーク強度が0.8倍以下であることで塩素や酸に対して化学的に安定なアミド基を被覆層に多く含むため、酸や塩素接触後も優れた耐汚れ性が得られる。C1sの289eVにおけるピーク強度が、288eVにおけるピーク強度の0.5~0.7倍であればより好ましい。米国SSI社製X線光電子分光測定装置SSX-100を用い、励起X線としてアルミニウム Kα1線、Kα2線(1486.6eV)、X線出力を10kV 20mV、光電子脱出角度を30°の条件で測定し、異なる膜位置での測定を3回繰り返し行い、その平均値を測定値とした。
【0044】
(2-2)被覆層の化学構造
被覆層は、脂肪族アミド系モノマーを重合反応させる、あるいは、脂肪族アミン化合物と、脂肪族カルボン酸化合物とを反応させることで形成された脂肪族アミド系ポリマーを含有し、かつ、以下に説明する官能基、ポリマー構造を取る。
【0045】
脂肪族アミド系ポリマーは分子間又は分子内の少なくとも一方で架橋されていることが好ましい。これは架橋構造を有していることで、一箇所切断を受けても機能を保ちつづけることができるため、耐汚れ性の長期維持という観点から好ましい。架橋構造は、直鎖ポリマーが架橋剤を用いて架橋された構造、3次元の網目状ポリマー、ペンダントポリマーやデンドリマーが複数の点で接続された構造等をあげることができる。
非芳香族ポリマーとは、芳香環を持たないポリマーである。被覆層の含有する脂肪族アミド系ポリマーは、芳香族化合物を含有しない。
【0046】
(2-2-1)官能基
(2-2-1-1)ハロゲン
被覆層を形成する脂肪族アミド系ポリマーは、ハロゲンを含有する。ハロゲンの種類および量を制御することで、被覆層の化学安定性と水和水の量を制御し、(2-1)に示す所望の状態とすることに寄与する。具体的には、前記(1)および(2)に記載のとおり、アミド基を構成するカルボニル炭素に隣接する炭素、および、カルボキシ基を構成するカルボニル炭素に隣接する炭素のそれぞれにハロゲンを1つ以上有する。さらに望ましくは2つ以上有することが好ましい。ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、アスタチンが適宜選択可能であるが、扱いやすさの点からフッ素、塩素、臭素が好ましく、化学的安定性、電子吸引性の強さの点からフッ素がより好ましい。
【0047】
(2-2-1-2)アミド基
被覆層を形成する脂肪族アミド系ポリマーは、複数のアミド基を有する。脂肪族アミド系ポリマーとは、一分子中にアミド基を繰り返し単位にもつポリマーである。脂肪族アミド系ポリマーとしては、例えば、脂肪族アミンと脂肪族カルボン酸化合物の縮合重合物である脂肪族ポリアミドやアクリルアミド誘導体のように一分子内にビニル基とアミド基を両方有する脂肪族モノマーの重合体が挙げられる。アミド基を複数含有することで適度な親水性を保持させて被覆層に含まれる水の量を制御し、さらに、ハロゲン置換されたアミド基を含有することで、(2-1)に示す所望の状態とすることに寄与する。
【0048】
(2-2-1-3)カルボキシ基
被覆層を形成する脂肪族アミド系ポリマーは、複数のカルボキシ基を有する。カルボキシ基を複数含有することで適度な親水性を保持させて被覆層に含まれる水の量を制御し、さらに、ハロゲン置換されたカルボキシ基を含有することで、(2-1)に示す所望の状態とすることに寄与する。
【0049】
(2-2-2)ポリマー構造
被覆層は、脂肪族アミド系ポリマーを含有する。さらに、本発明の被覆層を構成する脂肪族アミド系ポリマーは、上記(2-2-1)の「ハロゲン」、「アミド基」、「カルボキシ基」を含有する。より具体的には、本発明の被覆層を構成する脂肪族アミド系ポリマーは、アミド基を構成するカルボニル炭素に隣接する炭素上に一つ以上のハロゲンを有し、カルボキシ基を構成するカルボニル炭素に隣接する炭素上に一つ以上のハロゲンを有する。
【0050】
被覆層を構成する非芳香族ポリマーを形成するためには上記脂肪族アミド系モノマー、上記脂肪族カルボン酸化合物に、ハロゲンが含まれることが必要である。脂肪族アミド系モノマーの重合により非芳香族ポリマーを形成する場合、脂肪族アミド系モノマーとしては、アクリルアミド系モノマーのα位のハロゲン置換体が好適に使用できる。これらのアクリルアミド系モノマーとα位がハロゲン置換されたアクリル酸を共重合させることで(2-1)に示す所望の状態とすることに寄与する。また、脂肪族アミン化合物と、脂肪族カルボン酸化合物とを反応させることで非芳香族ポリマーを形成する場合には、脂肪族アミン化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物が好適に使用できる。脂肪族カルボン酸化合物としては、2つ以上のカルボキシ基またはカルボン酸から誘導される官能基(酸クロリド、酸フルオライドなど)を有する化合物が好適に使用できる。入手容易性から、2つのカルボキシ基またはカルボン酸から誘導される官能基(酸クロリド、酸フルオライドなど)を有する脂肪族カルボン酸化合物を使用することが好ましく、市販品から適宜選択することができる。具体的には、クロロコハク酸、ブロモコハク酸、フルオロコハク酸、2,3-ジクロロコハク酸、2,3-ジブロモコハク酸、2,3-ジフルオロコハク酸、パーフルオロアルカンジオイックアシッド、パーフルオロ-3,6-ジオキサオクタン-1,8-ジオイックアシッド、パーフルオロ-3,6,9-トリオキサウンデカン-1,11-ジオイックアシッド、などが例として挙げられる。なお、エポキシ基―アミノ基による縮合により形成される構造は、耐酸性に劣ることから、本発明ではエポキシ基を含有する化合物を使用しない。
【0051】
(2-3)分離機能層の特性
本願発明者らは鋭意検討を行った結果、分離機能層の表面ゼータ電位と、複合半透膜の膜汚染物質の脱離性とに密接な関係があることを見出した。
【0052】
ゼータ電位とは超薄膜層表面の正味の固定電荷の尺度であり、本発明の薄膜層表面のゼータ電位は、電気移動度から、下記式(2)に示すヘルムホルツ・スモルコフスキー(Helmholtz-Smoluchowski)の式によって求めることができる。
【0053】
【0054】
(式中、Uは電気移動度、εは溶液の誘電率、ηは溶液の粘度である)。
【0055】
ここで、溶液の誘電率、粘度は、測定温度での文献値を使用した。
【0056】
ゼータ電位の測定原理について説明する。材料に接した溶液又は水溶液には、材料表面の電荷の影響で、表面の近傍に流動できない静止層が存在する。ゼータ電位は、材料の静止層と流動層の境界面(すべり面)での溶液に対する電位である。
【0057】
ここで、石英ガラスセル中の水溶液を考えると、石英表面は通常マイナスに荷電されているため、セル表面付近にプラス荷電のイオンや粒子が集まる。一方、セル中心部にはマイナス荷電のイオンや粒子が多くなり、セル内でイオン分布が生じている。この状態で電場をかけると、セル内ではイオン分布を反映し、セル内の位置で異なる泳動速度でイオンが動く(電気浸透流という。)。泳動速度はセル表面の電荷を反映したものであるので、この泳動速度分布を求めることにより、セル表面の電荷(表面電位)を評価することができる。
【0058】
通常ゼータ電位の測定は、大きさ20mm×30mmの膜試料を用い、電気泳動させるための標準粒子は表面をヒドロキシプロピルセルロースでコーティングしたポリスチレン粒子(粒径520nm)を所定濃度に調整したNaCl水溶液に分散させて測定することができる。測定装置は例えば大塚電子製電気泳動光散乱光度計ELS-8000などが使用できる。
【0059】
本発明の複合半透膜は、pH3、NaCl10mM、およびpH6、NaCl10mMの条件における分離機能層の表面ゼータ電位が負であること望ましい。
【0060】
分離機能層の第1層には、多官能芳香族アミンに由来するアミノ基及び多官能芳香族酸クロリドに由来するカルボキシ基が含まれる。また、第2層には、ハロゲン置換された脂肪族アミド系ポリマーに由来するハロゲン置換されたカルボキシ基が含まれる。第1層及び第2層に含まれるこれら官能基の解離度によって表面ゼータ電位の値が変化する。
【0061】
分離機能層のpH3およびpH6における表面ゼータ電位は、酸接触後の膜汚染物質の吸着性に関係している。pHを中性領域から酸性領域に変化させたときに、表面ゼータ電位がともに負であると、膜の酸接触前後ともに汚染物質の付着が起こりにくくなる。これは、pH変化に伴う膜面の荷電性が大きく変化せず、負荷電性を維持するため、分離機能層表面への汚染物質の付着が静電反発によって抑制されるためと考えられる。
【0062】
(2-4)分離機能層の形成方法
分離機能層は、多官能芳香族アミン、多官能芳香族酸クロリドを化学反応させることにより架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層を形成し、その後、第1層上に脂肪族アミド系ポリマーを含む被覆層を形成することで得られる。第1層形成のための化学反応の方法として、界面重合法が生産性、性能の観点から最も好ましい。以下、界面重合の工程について説明する。
界面重合の工程は、(a)多官能芳香族アミンを含有する水溶液を多孔性支持層上に接触させる工程と、(b)多官能芳香族アミンを含有する水溶液を接触させた多孔性支持層に多官能芳香族酸クロリドを溶解させた溶液Aを接触させる工程と、(c)さらに多官能芳香族酸クロリドを溶解させた有機溶媒溶液Bを接触させ加熱する工程と、(d)反応後に残留する有機溶媒を液切りする工程、を有する。
【0063】
なお、本欄では、支持膜が基材と微多孔性支持層とを備える場合を例に挙げるが、支持膜が別の構成を備える場合は、「微多孔性支持層」を「支持膜」と読み替えればよい。
【0064】
工程(a)において、多官能芳香族アミン水溶液における多官能芳香族アミンの濃度は0.1重量%以上20重量%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下の範囲内である。多官能芳香族アミンの濃度がこの範囲であると十分な溶質除去性能および透水性を得ることができる。
【0065】
多官能芳香族アミン水溶液には、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドとの反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、支持膜表面の濡れ性を向上させ、多官能芳香族アミン水溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果がある。有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重縮合反応を効率よく行える場合がある。
【0066】
多官能芳香族アミン水溶液の接触は、微多孔性支持層上に均一かつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能芳香族アミン水溶液を微多孔性支持層にコーティングする方法や、微多孔性支持層を多官能芳香族アミン水溶液に浸漬する方法などを挙げることができる。微多孔性支持層と多官能芳香族アミン水溶液との接触時間は、1秒以上10分間以下であることが好ましく、10秒以上3分間以下であるとさらに好ましい。
【0067】
多官能芳香族アミン水溶液を微多孔性支持層に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。十分に液切りすることで、微多孔性支持層形成後に液滴残存部分が膜欠点となって除去性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、例えば、特開平2-78428号公報に記載されているように、多官能芳香族アミン水溶液接触後の支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0068】
有機溶媒溶液(溶液Aおよび溶液B)中の多官能芳香族酸クロリドの濃度は、0.01重量%以上10重量%以下の範囲内であると好ましく、0.02重量%以上2.0重量%以下の範囲内であるとさらに好ましい。0.01重量%以上とすることで十分な反応速度が得られ、また、10重量%以下とすることで副反応の発生を抑制することができるためである。
【0069】
有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能芳香族酸クロリドを溶解し、支持膜を破壊しないものが好ましく、多官能芳香族アミンおよび多官能芳香族酸クロリドに対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、イソオクタン、イソデカン、イソドデカンなどの炭化水素化合物および混合溶媒が挙げられる。
【0070】
多官能芳香族酸クロリドの有機溶媒溶液の多官能芳香族アミン水溶液と接触させた微多孔性支持層への接触の方法は、多官能芳香族アミン水溶液の微多孔性支持層への被覆方法と同様に行えばよい。
【0071】
工程(c)において多官能芳香族酸クロリドを溶解させた溶液Bを接触させ加熱する。加熱処理する温度としては50℃以上180℃以下、好ましくは60℃以上160℃以下である。この範囲で加熱することにより、熱および溶液の濃縮による界面重合反応の促進の相乗効果が得られる。
【0072】
工程(d)において、反応後の有機溶媒溶液を液切りする工程により、有機溶媒を除去する。有機溶媒の除去は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法、送風機で風を吹き付けることで有機溶媒を乾燥除去する方法、水とエアーの混合流体で過剰の有機溶媒を除去する方法等を用いることができる。
【0073】
(2-4-1)被覆層の形成方法
被覆層は、架橋芳香族ポリアミドを含有する第1層の表面に形成される。その際、上記脂肪族アミン化合物と脂肪族カルボン酸化合物を、表面で直接反応させ、被覆層を形成してもよい。または、予め合成されたポリマーを含む溶液を第1層上にコーティングして被覆層を形成してもよい。または、予め合成されたポリマーを含む溶液に第1層を含む膜を浸漬して被覆層を形成してもよい。さらに、後述する複合半透膜エレメントを作成してからポリマー溶液を通液処理して、被覆層を形成しても良い。
上記ポリマーの合成に際しては、上記脂肪族アミド系モノマーの重合反応を利用する、あるいは、上記脂肪族アミン化合物と脂肪族カルボン酸化合物との反応を利用する。この際、アミノ基と、カルボキシ基またはカルボン酸から誘導される官能基(酸クロリド、酸フルオライドなど)との反応により、アミド結合が形成されるが、高効率かつ短時間での反応にとり、必要に応じ、種々の反応助剤(縮合促進剤)を利用することが好ましい。縮合促進剤として、硫酸、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)、 1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’-カルボニルジイミダゾール、1,1’-カルボニルジ(1,2,4-トリアゾール)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、(7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、クロロトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロりん酸塩、ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩、O-(3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン-3-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-(2-オクトキシ-2-オキソエチル)ジメチルアンモニウム、S-(1-オキシド-2-ピリジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルチウロニウムテトラフルオロほう酸塩、O-[2-オキソ-1(2H)-ピリジル]-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩、{{[(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデン)アミノ]オキシ}-4-モルホリノメチレン}ジメチルアンモニウムヘキサフルオロりん酸塩、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロりん酸塩、1-(クロロ-1-ピロリジニルメチレン)ピロリジニウムヘキサフルオロりん酸塩、2-フルオロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロりん酸塩、フルオロ-N,N,N’,N’-テトラメチルホルムアミジニウムヘキサフルオロりん酸塩、などが例として挙げられる。
被覆層を形成するためのポリマー合成の反応時間および濃度は、使用する溶媒、縮合剤および化合物の化学構造により、適宜調整可能であるが、生産性の観点から、反応時間は24時間以内が好ましく、12時間以内がより好ましく、6時間以内がさらに好ましく、1時間以内が特に好ましい。反応終了後、残渣化合物を除去し、精製しておいてもよい。
【0074】
(2-5)被覆層と第1層との間の化学結合
被覆層と第1層は、互いに化学結合により繋がっていてもよい。被覆層と第1層が化学結合を形成している場合、被覆層がより安定的に存在できるので、より好ましい。被覆層と第1層との間の化学結合は、共有結合であることが好ましく、各々の層を構成するポリマーの保有する官能基を使用できる点や、酸接触前後での性能安定性を担保できる点から、被覆層と第1層との間の化学結合は、アミド結合であることが特に好ましい。具体的には、被覆層を形成するポリマーのアミノ基と、第1層を形成する架橋芳香族ポリアミドのカルボキシ基またはカルボン酸から誘導される官能基(酸クロリド、酸フルオライドなど)との反応によりアミド結合を形成するか、被覆層を形成するポリマーのカルボキシ基またはカルボン酸から誘導される官能基と、第1層を形成する架橋芳香族ポリアミドのアミノ基との反応によりアミド結合を形成することで、被覆層と第1層との間にアミド結合を形成することができる。
本アミド結合の形成は、第1層を構成する架橋芳香族ポリアミドと、上記ポリマーとが接触した際に行われる。具体的には、予め合成されたポリマーを含む溶液を第1層上にコーティングして被覆層を形成する際、被覆層と第1層との間で化学反応を行ってよい。または、予め合成されたポリマーを含む溶液に第1層を含む膜を浸漬して被覆層を形成する際、被覆層と第1層との間で化学反応を行ってよい。さらに、後述する複合半透膜エレメントを作成してからポリマー溶液を通液処理して、被覆層を形成する際、被覆層と第1層との間で化学反応を行ってよい。または、上記脂肪族アミン化合物と脂肪族カルボン酸化合物を、第1層表面で直接反応させ、被覆層となるポリマーを形成する際、同時に、第1層を形成する架橋芳香族ポリアミドとのアミド結合形成を行ってもよい。
被覆層と第1層との間のアミド結合形成に際し、カルボキシ基は、必要に応じ反応活性の高い状態にしておくことが好ましい。例えば、界面重合直後の架橋芳香族ポリアミドの保有する酸クロリド基と、上記ポリマーの保有するアミノ基との反応を利用してもよいし、脂肪族アミン化合物と脂肪族カルボン酸化合物との反応終了直後のポリマーの保有する酸フルオライド基と、架橋芳香族ポリアミドの保有するアミノ基との反応を利用してもよい。反応助剤(縮合促進剤)の利用は、高効率かつ短時間でのアミド結合形成にとり、特に好ましい。縮合促進剤としては、上記(2-4-1)で例示した全く同じ化合物を、好適に使用することができる。これらの反応を利用することで、高効率かつ短時間で被覆層と第1層との間にアミド結合を形成することができる。
被覆層と第1層との間のアミド結合形成の反応時間および濃度は、使用する溶媒、縮合剤およびポリマー、架橋芳香族ポリアミドの化学構造により、適宜調整可能であるが、生産性の観点から、反応時間は24時間以内が好ましく、1時間以内がより好ましく、10分以内がさらに好ましく、3分以内が特に好ましい。反応の最中、必要に応じ加熱を行ってもよい。反応終了後、水、熱水または適切な有機溶媒により、得られた複合半透膜を洗浄し、反応性の化合物を除去してもよい。
【0075】
(3)複合半透膜の利用
複合半透膜は、プラスチックネットなどの供給水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに供給水を供給するポンプや、その供給水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、供給水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
本発明に係る複合半透膜によって処理される供給水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L以上100g/L以下のTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5℃以上40.5℃以下の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
流体分離装置の操作圧力は高い方が溶質除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.5MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると溶質除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHが高くなると、海水などの高溶質濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【実施例】
【0076】
以下実施例をもって本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0077】
(1)膜の作製
(比較例1)
ポリエステル不織布(通気量2.0cc/cm2/sec)上にポリスルホン(PSf)の16.0質量%DMF溶液を25℃の条件下で200μmの厚みでキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって、多孔性支持膜を作製した。
得られた多孔性支持膜をm-フェニレンジアミン(m-PDA)の3質量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、室温40℃に制御した環境で、トリメシン酸クロリド(TMC)0.165質量%を含む40℃のデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置したのち、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去し、80℃で1分間加熱乾燥することで、架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0078】
(比較例2)
重量平均分子量500000のポリ(ビニルアルコール)を1wt%の濃度で純水中に溶解した後、得られたポリマー溶液を、(比較例1)で得られた架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜の分離機能層側表面に塗布し、25℃で1時間自然乾燥した後、純水で洗浄することで、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0079】
(比較例3)
ポリ(ビニルアルコール)の替わりに重量平均分子量25000のポリ(エチレンイミン)を用いる以外は(比較例2)と同様の方法で、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0080】
(比較例4)
ポリ(ビニルアルコール)の替わりに重量平均分子量6000のポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテルを用いる以外は(比較例2)と同様の方法で、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0081】
(比較例5)
重量平均分子量5000のポリ(アクリル酸) 1wt%の濃度で純水中に溶解した後、縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドをポリ(アクリル酸)のカルボン酸と同じモル濃度となる様に溶解し、25℃で1分間攪拌し、ポリマー溶液を作製した。得られたポリマー溶液を、(比較例1)で得られた架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜の分離機能層側表面に塗布し、25℃で1時間自然乾燥した後、純水で洗浄することで、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0082】
(比較例6)
重量平均分子量5000のポリ(アクリル酸) 1wt%の濃度で純水中に溶解した後、縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドとエチルアミンをポリ(アクリル酸)のカルボン酸の20%のモル濃度となる様にそれぞれ溶解し、25℃で24時間攪拌し、重量平均分子量5400の下記分子構造のポリマー溶液を作製した。得られたポリマー溶液を、(比較例1)で得られた架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜の分離機能層側表面に塗布し、25℃で1時間自然乾燥した後、純水で洗浄することで、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0083】
【0084】
(ここで、m=16、n=4である)
(比較例7)
重量平均分子量1700のポリ(2-クロロアクリル酸) 1wt%の濃度で純水中に溶解した後、縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドとエチルアミンをポリ(2-クロロアクリル酸)のカルボン酸の20%のモル濃度となる様にそれぞれ溶解し、25℃で24時間攪拌し、重量平均分子量1800の下記分子構造のポリマー溶液を作製した。得られたポリマー溶液を、(比較例1)で得られた架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜の分離機能層側表面に塗布し、25℃で1時間自然乾燥した後、純水で洗浄することで、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0085】
【0086】
(ここで、m=4、n=1である)
(実施例1)
重量平均分子量2000のポリ(2-クロロアクリル酸) 1wt%の濃度で純水中に溶解した後、縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドとエチルアミンをポリ(2-クロロアクリル酸)のカルボン酸の20%のモル濃度となる様にそれぞれ溶解し、25℃で24時間攪拌し、重量平均分子量2100の下記分子構造のポリマー溶液を作製した。得られたポリマー溶液を、(比較例1)で得られた架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜の分離機能層側表面に塗布し、25℃で1時間自然乾燥した後、純水で洗浄することで、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0087】
【0088】
(ここで、m=8、n=2である)
(実施例2)
重量平均分子量3900のポリ(2-ブロモアクリル酸) 1wt%の濃度で純水中に溶解した後、縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドとエチルアミンをポリ(2-クロロアクリル酸)のカルボン酸の20%のモル濃度となる様にそれぞれ溶解し、25℃で24時間攪拌し、重量平均分子量4100の下記分子構造のポリマー溶液を作製した。得られたポリマー溶液を、(比較例1)で得られた架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜の分離機能層側表面に塗布し、25℃で1時間自然乾燥した後、純水で洗浄することで、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0089】
【0090】
(ここで、m=16、n=4である)
(実施例3)
(実施例1)で得られたポリマー溶液に縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドをポリマー中のカルボン酸と同じモル濃度となる様に溶解し、25℃で1分間攪拌し、(比較例1)で得られた架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜の分離機能層側表面に塗布し、ポリマー溶液に25℃で1時間浸漬した後、純水で洗浄することで、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0091】
(実施例4)
重量平均分子量8000のポリ(アリルアミン) 0.1wt%の濃度で純水中に溶解した後、縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドと2、3-ジフルオロコハク酸をポリ(アリルアミン)のアミノ基の80%のモル濃度となる様にそれぞれ溶解し、25℃で24時間攪拌し、重量平均分子量23000の下記分子構造のポリマー溶液を作製した。得られたポリマー溶液を、(比較例1)で得られた架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜の分離機能層側表面に塗布し、25℃で1時間自然乾燥した後、純水で洗浄することで、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0092】
【0093】
(ここで、m=8、n=32である)
(実施例5)
重量平均分子量4500のポリ(2-フルオロアクリル酸) 1wt%の濃度で純水中に溶解した後、縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドとエチルアミンをポリ(2-フルオロアクリル酸)のカルボン酸の20%のモル濃度となる様にそれぞれ溶解し、25℃で24時間攪拌し、重量平均分子量4800の下記分子構造のポリマー溶液を作製した。得られたポリマー溶液に縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドをポリマー中のカルボン酸と同じモル濃度となる様に溶解し、25℃で1分間攪拌し、(比較例1)で得られた架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜の分離機能層側表面に塗布し、25℃で1時間自然乾燥した後、純水で洗浄することで、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0094】
【0095】
(ここで、m=16、n=4である)
(実施例6)
重量平均分子量8000のポリ(2-クロロアクリル酸) 1wt%の濃度で純水中に溶解した後、縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドとジエチルアミンをポリ(2-クロロアクリル酸)のカルボン酸の20%のモル濃度となる様にそれぞれ溶解し、25℃で24時間攪拌し、重量平均分子量38000の下記分子構造のポリマー溶液を作製した。得られたポリマー溶液に縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドをポリマー中のカルボン酸と同じモル濃度となる様に溶解し、25℃で1分間攪拌し、(比較例1)で得られた架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜の分離機能層側表面に塗布し、25℃で1時間自然乾燥した後、純水で洗浄することで、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0096】
【0097】
(ここで、m=32、n=8である)
(実施例7)
重量平均分子量25000のポリ(エチレンイミン) 1wt%の濃度で純水中に溶解した後、縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドと2、2、3、3-テトラフルオロコハク酸をポリ(エチレンイミン)のアミノ基の20%のモル濃度となる様にそれぞれ溶解し、25℃で24時間攪拌し、重量平均分子量110000の下記分子構造のポリマー溶液を作製した。得られたポリマー溶液に縮合剤として4―(4,6―ジメトキシ―1,3,5-トリアジン―2―イル)―4―メチルモルホリニウムクロリドをポリマー中のカルボン酸と同じモル濃度となる様に溶解し、25℃で1分間攪拌し、(比較例1)で得られた架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜の分離機能層側表面に塗布し、25℃で1時間自然乾燥した後、純水で洗浄することで、被覆層を有する複合半透膜を作製した。
【0098】
【0099】
(2)複合半透膜の性能評価
得られた複合半透膜に、温度25℃、pH7に調整した海水(TDS濃度3.5%)(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を操作圧力5.5MPaで供給して膜通水試験を行い、製造時性能を求めた。
次の式から塩除去率を求めた。
【0100】
塩除去率(%)=100×{1-(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
また、上述の条件下で得られた、膜面1平方メートル当たりの1日の透水量(立方メートル)から、透過水量(m3/m2/日)を求めた。
【0101】
(3)耐汚れ性試験
上記(2)の製造時性能の評価後、ドライミルクを100ppmの濃度となる様に海水中に添加し、温度25℃、操作圧力5.5MPaでさらに1時間通水後、透過水量を測定し、製造時の透過水量との比(ドライミルク添加後の透過水量/製造時の透過水量)を透過水量保持率として算出した。
【0102】
(4)酸接触後の耐汚れ性試験
上記(1)で得られた複合半透膜を、pH2に調整した25℃の純水中で24時間浸漬した後、pH7の純水で洗浄し、上記(2)と同様の手順で透過水量(m3/m2/日)を求めた後、ドライミルクを100ppmの濃度となる様に海水中に添加し、温度25℃、操作圧力5.5MPaでさらに1時間通水後、透過水量を測定し、ドライミルク添加前の透過水量との比(ドライミルク添加後の透過水量/ドライミルク添加前の透過水量)を透過水量保持率として算出した。
【0103】
(5)塩素接触後の耐汚れ性試験
上記(1)で得られた複合半透膜を、pH7、塩素濃度100ppmに調整した25℃の塩素水溶液で24時間浸漬した後、pH7の純水で洗浄し、上記(2)と同様の手順で透過水量(m3/m2/日)を求めた後、ドライミルクを100ppmの濃度となる様に海水中に添加し、温度25℃、操作圧力5.5MPaでさらに1時間通水後、透過水量を測定し、ドライミルク添加前の透過水量との比(ドライミルク添加後の透過水量/ドライミルク添加前の透過水量)を透過水量保持率として算出した。
以上の実施例、比較例で得られた複合半透膜の分離機能層の化学構造、特性と性能値をそれぞれ表1、表2に示す。実施例に示すように、本発明の複合半透膜は、耐汚染性に優れ、さらに、酸接触後および塩素接触後の耐汚れ性の安定性においても優れていることが分かる。
【0104】
【0105】