(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/184 20060101AFI20230523BHJP
B62D 1/189 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B62D1/184
B62D1/189
(21)【出願番号】P 2020509259
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013375
(87)【国際公開番号】W WO2019189474
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2018059631
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018074164
(32)【優先日】2018-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018075911
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018156901
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉下 傑
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-094950(JP,A)
【文献】国際公開第2016/186144(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1465496(KR,B1)
【文献】特開2017-081516(JP,A)
【文献】特開2017-001569(JP,A)
【文献】特開2014-172569(JP,A)
【文献】特開2014-083906(JP,A)
【文献】特開2018-127041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/184
B62D 1/189
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の形状を有し、車体または車体に固定可能な部材に対して幅方向に配置されたチルト軸を中心に揺動変位可能である、ステアリングコラムと、
前記ステアリングコラムの一部に備えられ、かつ、幅方向に貫通するコラム側通孔を有する変位ブラケットと、
取付板部と、該取付板部に連結され、前記変位ブラケットの幅方向両側に配置された1対の支持板部と、該1対の支持板部に備えられ、上下方向に伸長する1対の上下方向長孔とを有する、支持ブラケットと、
前記コラム側通孔および前記1対の上下方向長孔を幅方向に挿通する調節ロッドと、
駆動側カムと、被駆動側カムとを有し、前記調節ロッドの一端側で、前記1対の支持板部のうちの一方の支持板部の外側面から突出した部分の周囲に配置されるカム装置と、
前記駆動側カムに固定された基部を有する調節レバーと、
を備え、
前記被駆動側カムは、その内側面に係合凸部を備え、該係合凸部は、前記1対の上下方向長孔のうちの一方の上下方向長孔に対し、該一方の上下方向長孔に沿った変位を可能に係合する、
ステアリング装置であって、
前記1対の支持板部の幅方向両外側に、1対の引張ばねが配置され、該1対の引張ばねのうちの一方の引張ばねは、前記支持ブラケットと前記調節レバーの基部との間に架け渡され、前記1対の引張ばねのうちの他方の引張ばねは、前記支持ブラケットと前記調節ロッドの他端側で前記1対の支持板部のうちの他方の支持板部の外側面から突出した部分に備えられた被係止部との間に架け渡されており、前記調節レバーを前記カム装置の幅方向寸法を縮小する方向に揺動操作した状態で、前記1対の引張ばねは、前記調節レバーの基部および前記被係止部に対して、前記ステアリングコラムの中心軸に対し互いに同じ角度だけ斜め前上方を向いた作用方向に互いに同じ大きさの力を付与し、および、前記係合凸部の前側面は、前記上下方向長孔の前側縁に押し付けられている、
ステアリング装置。
【請求項2】
前記ステアリングコラムは、インナコラムと、該インナコラムの後側に配置され、該インナコラムに軸方向に関する相対変位を可能に嵌合したアウタコラムとを有し、前記ステアリングコラムの一部は、前記アウタコラムの一部からなり、前記コラム側通孔は、前後方向に伸長する前後方向長孔により構成される、請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記作用方向が、前記チルト軸と前記調節ロッドとに直交する仮想直線の方向よりも上方を向いている、請求項1または2に記載したステアリング装置。
【請求項4】
前記1対の引張ばねは、コイル部を有するコイルばねにより構成され、少なくとも前記一方の引張ばねは、前記コイル部の内側または外側に、ダンパ部材を備える、請求項1~3のいずれかに記載したステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールの位置調節装置を備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置は、
図23に示すように、ステアリングホイール1の回転をステアリングギヤユニット2の入力軸3に伝達し、入力軸3の回転に基づいて左右1対のタイロッド4を押し引きして、前車輪に舵角を付与する。ステアリング装置は、ステアリングホイール1をその後端部に支持するステアリングシャフト5と、ステアリングシャフト5を、その内側に軸方向に挿通した状態で回転自在に支持する円筒状のステアリングコラム6とを備える。ステアリングシャフト5の前端部は、自在継手7を介して中間シャフト8の後端部に接続し、中間シャフト8の前端部は、別の自在継手9を介して、入力軸3に接続する。なお、前後方向、幅方向および上下方向は、特に断わらない限り、車両の前後方向、幅方向および上下方向を意味する。
【0003】
ステアリング装置には、ステアリングホイール1の上下位置を調節するためのチルト機構や、ステアリングホイール1の前後位置を調節するためのテレスコピック機構を備えることができる。図示の構造では、ステアリングコラム6の前部に固定されたギヤハウジング10は、車体11に対して、幅方向に配置されたチルト軸12により揺動変位を可能に支持される。ステアリングコラム6の下方に変位ブラケット13が備えられ、変位ブラケット13を幅方向両側から挟む位置に支持ブラケット14が配置される。支持ブラケット14は、上下方向に伸長する上下方向長孔15を有し、変位ブラケット13は、前後方向に伸長する前後方向長孔16を有する。上下方向長孔15および前後方向長孔16を幅方向に挿通するように、調節ロッド17が配置される。ステアリングシャフト5およびステアリングコラム6は、伸縮可能な構造を備える。支持ブラケット14が変位ブラケット13を幅方向両側から挟持するクランプ力を調節することで、ステアリングホイール1の上下位置および前後位置の調節が可能となる。
【0004】
ステアリングホイールの位置調節装置を備えたステアリング装置の具体的な構造について、
図24および
図25を参照して説明する。
図25は、特開2015-214291号公報に記載された構造と同様の構造を示す。
【0005】
ステアリングコラム6は、後側に配置されたアウタコラム18と前側に配置されたインナコラム19とを備え、アウタコラム18の前部とインナコラム19の後部とを軸方向に関する相対変位を可能に嵌合させて、その全長を伸縮可能に構成される。アウタコラム18は、その前部にスリット20を備え、アウタコラム18の前部の内径は弾性的に拡縮可能である。アウタコラム18は、スリット20を幅方向両側から挟む部分に、変位ブラケット13を構成する1対の被挟持板部21a、21bを備える。1対の被挟持板部21a、21bは、前後方向長孔16a、16bを有する。支持ブラケット14は、1対の支持板部22a、22bを備え、1対の支持板部22a、22bは、上下方向長孔15a、15bを有する。調節ロッド17は、1対の上下方向長孔15a、15bおよび1対の前後方向長孔16a、16bを挿通するように配置される。
【0006】
調節ロッド17の一端側で、1対の支持板部22a、22bのうちの一方の支持板部22aの外側面から突出した部分に、調節レバー23の基部が固定される。一方の支持板部22aの外側面と調節レバー23の基部との間には、カム装置24が配置される。カム装置24は、駆動側カム25および被駆動側カム26を備え、これらのカムの相対回転に基づいて幅方向寸法を拡縮可能である。被駆動側カム26は、その内側面に係合凸部27を備え、係合凸部27は、一方の支持板部22aの上下方向長孔15aに、上下方向長孔15aに沿った変位のみを可能に係合する。駆動側カム25は、調節レバー23により、調節ロッド17とともに回動可能である。調節ロッド17の他端側で、1対の支持板部22a、22bのうちの他方の支持板部22bの外側面から突出した部分に、ナット28が螺合される。他方の支持板部22bの外側面とナット28との間には、スラスト軸受29および押圧プレート30が配置される。
【0007】
ステアリングホイール1の位置調節をするために、調節レバー23を所定方向に揺動させると、駆動側カム25がアンロック方向に回転し、カム装置24の幅方向寸法が縮小し、被駆動側カム26と押圧プレート30との間隔が拡大する。この結果、支持板部22a、22bの内側面と被挟持板部21a、21bの外側面との当接部の面圧が低下ないしは喪失すると同時に、アウタコラム18の前部の内径が弾性的に拡大し、アウタコラム18の前部内周面とインナコラム19の後部外周面との当接部の面圧が低下する。このアンクランプ状態では、調節ロッド17が上下方向長孔15a、15bおよび前後方向長孔16a、16bの内側を移動可能な範囲で、ステアリングホイール1の上下位置および前後位置の調節が可能になる。
【0008】
ステアリングホイール1を所望位置に移動させた後に、調節レバー23を所定方向とは逆方向に揺動させる。これにより、駆動側カム25は、ロック方向に回転し、カム装置24の幅方向寸法は拡大し、1対の支持板部22a、22bの内側面同士の間隔は縮小する。この結果、支持板部22a、22bの内側面と被挟持板部21a、21bの外側面との当接部の面圧が上昇すると同時に、アウタコラム18の前部の内径が弾性的に縮小し、アウタコラム18の前部内周面とインナコラム19の後部外周面との当接部の面圧が上昇する。このクランプ状態では、ステアリングホイール1の調節後の上下位置および前後位置が保持される。
【0009】
前記クランプ力を解除した際に、ステアリングホイール1が落下する方向にステアリングコラム6が傾動することを防止するために、ステアリング装置は、ばね31を備えることができる。ばね31の一端部は、支持ブラケット14に係止され、ばね31の他端部は、押圧プレート30の下面に弾性的に当接する。ばね31により、押圧プレート30を介して、調節ロッド17の他端部に、上下方向長孔15bの伸長方向にほぼ沿った方向に上向きの力が付与される。このため、ステアリングホイール1の位置調節時に、ステアリングコラム6の傾動が防止されて、ステアリングホイール1の上下位置の調節を軽い力で行うことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来構造では、ばね31により調節ロッド17に、上下方向長孔15bの伸長方向にほぼ沿った上向きの力を付与しているため、調節ロッド17が、前後方向長孔16a、16bの内周面のうちの上面に押し付けられる。このため、調節ロッド17の外周面と前後方向長孔16a、16bの上面との間の摺動抵抗が大きくなり、ステアリングホイール1の前後位置の調節に要する力が大きくなる。したがって、ステアリングホイール1の前後位置を調節する作業の円滑性が損なわれる可能性がある。特に、ステアリングホイール1を下方に移動させた状態では、ばね31の撓み量が大きく、調節ロッド17が前後方向長孔16a、16bの上面を押圧する力も大きくなるため、ステアリングホイール1の前後位置の調節により大きな力が必要となる。
【0012】
また、従来構造では、ばね31は調節ロッド17の一端部側には設置されず、調節ロッド17の他端部側のみに設置されている。このため、支持ブラケットが変位ブラケットを幅方向両側から挟持するクランプ力を解除したときに、調節ロッド17の他端部側に配置された押圧プレート30に対してのみ、上方向を向いた力が付与されるため、調節ロッド17が上下に傾いてしまう場合がある。このため、ステアリングホイール1の上下位置を調節する際に、調節ロッド17が上下方向長孔15a、15b内をスムーズに変位できなくなって、調節レバー23が上下に振動する(暴れる)場合もある。
【0013】
ステアリング装置に対しては、一般的に、ステアリングホイールの位置調節を行うために、支持ブラケットが変位ブラケットを幅方向両側から挟持するクランプ力を解除したとき、ステアリングホイールに急な跳ね上がりや急落下を生じさせないことも要求される。
【0014】
本発明は、上述のような事情に鑑み、ステアリングホイールの上下位置の調節に要する力が軽減され、ステアリングホイールの上下位置の調節をスムーズに行うことができ、さらには、ステアリングホイールの前後位置を調節する作業の円滑性も確保された、ステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のステアリング装置は、ステアリングコラムと、変位ブラケットと、支持ブラケットと、調節ロッドと、カム装置と、調節レバーを備える。
【0016】
前記ステアリングコラムは、その内側にステアリングシャフトを軸方向に挿通した状態で回転自在に支持するためのものであり、筒状の形状を有し、車体または車体に固定可能な部材に取り付けられ、幅方向に配置されて、該ステアリングコラムまたは該ステアリングコラムに固定された部材を支持するチルト軸を中心に揺動変位可能である。該ステアリングコラムは、インナコラムと、該インナコラムの後側に配置され、該インナコラムに軸方向に関する相対変位を可能に嵌合したアウタコラムとにより構成されることができる。
【0017】
前記変位ブラケットは、前記ステアリングコラムの一部に備えられ、かつ、該変位ブラケットを幅方向に貫通するコラム側通孔を有する。本発明のステアリング装置がテレスコピック機構を備える場合には、前記変位ブラケットは、前記アウタコラムの一部に備えられ、前記コラム側通孔は、前後方向に伸長する前後方向長孔(テレスコ調節用長孔)により構成されることができる。本発明のステアリング装置がテレスコピック機構を備えない場合には、円孔により構成されることができる。
【0018】
前記支持ブラケットは、取付板部と、該取付板部に連結され、前記変位ブラケットの幅方向両側に配置された1対の支持板部と、該1対の支持板部に備えられ、上下方向に伸長する1対の上下方向長孔(チルト調節用長孔)とを有する。
【0019】
前記調節ロッドは、前記コラム側通孔および前記1対の上下方向長孔を幅方向に挿通する。
【0020】
前記カム装置は、駆動側カムと、被駆動側カムとを有し、前記調節ロッドの一端側で、前記1対の支持板部のうちの一方の支持板部の外側面から突出した部分の周囲に配置される。
【0021】
前記調節レバーは、前記駆動側カムに固定された基部を有する。
【0022】
前記被駆動側カムは、その内側面に係合凸部を備え、該係合凸部は、前記1対の上下方向長孔のうちの一方の上下方向長孔に対し、該一方の上下方向長孔に沿った変位を可能に係合する。
【0023】
特に、本発明のステアリング装置では、前記1対の支持板部の幅方向両外側に、1対の引張ばねが配置される。該1対の引張ばねのうちの一方の引張ばねは、前記支持ブラケットと前記調節レバーの前記基部との間に架け渡され、前記1対の引張ばねのうちの他方の引張ばねは、前記支持ブラケットと前記調節ロッドの他端側で前記1対の支持板部のうちの他方の支持板部の外側面から突出した部分に備えられた被係止部との間に架け渡される。
【0024】
前記調節レバーを前記カム装置の幅方向寸法を縮小する方向(アンロック方向)に揺動操作した状態で、前記1対の引張ばねは、前記調節レバーの基部および前記被係止部に対して、前記ステアリングコラムの中心軸に対し互いに同じ角度だけ斜め前上方を向いた作用方向に互いに同じ大きさの力を付与する。これにより、前記係合凸部の前側面は、前記一方の上下方向長孔の前側縁に弾性的に押し付けられる。
【0025】
前記同じ角度は、実質的に同じ角度を含み、前記同じ大きさは、実質的に同じ大きさを含む。
【0026】
前記被係止部は、前記調節ロッドの他端部あるいは該調節ロッドの他端側に配置された部材により構成されることができる。該部材の機能および種類は問われない。該部材としては、押圧プレート、スラスト軸受、ナットなどが挙げられる。
【0027】
本発明のステアリング装置において、前記調節ロッドが前記駆動側カムと同期して回転する構造、および、前記駆動側カムのみが回転して、前記調節ロッドは回転しない構造のいずれも採用可能である。
【0028】
本発明のステアリング装置では、前記作用方向を、前記チルト軸と前記調節ロッドとに直交する仮想直線の方向よりも上方を向かせることができる。
【0029】
本発明のステアリング装置では、前記1対の引張ばねを、コイル部を有するコイルばねにより構成することができる。この場合、少なくとも前記一方の引張ばねは、前記コイル部の内側または外側に、ダンパ部材を備えることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のステアリング装置によれば、ステアリングホイールの上下位置の調節に要する力を軽減でき、ステアリングホイールの上下位置の調節をスムーズに行うことができ、さらには、ステアリングホイールの前後位置を調節する作業の円滑性を確保することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例のステアリング装置を、後方側かつ上方側で、調節レバー側から見た斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例のステアリング装置を、後方側かつ上方側で、調節レバーとは反対側から見た斜視図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の第1例のステアリング装置を、前方側かつ上方側で、調節レバー側から見た斜視図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第1例のステアリング装置を、後方側かつ下方側で、調節レバー側から見た斜視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の第1例のステアリング装置を、後方側かつ下方側で、調節レバーとは反対側から見た斜視図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第1例のステアリング装置を、調節レバー側から見た側面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態の第1例のステアリング装置を、調節レバーとは反対側から見た側面図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の第1例のステアリング装置の平面図である。
【
図9】
図9は、実施の形態の第1例のステアリング装置の底面図である。
【
図10】
図10は、実施の形態の第1例のステアリング装置を示す、
図6のA-A断面図である。
【
図11】
図11は、実施の形態の第1例のステアリング装置に組み込まれるカム装置の斜視図である。
【
図12】
図12(A)~
図12(D)は、実施の形態の第1例のステアリング装置に組み込まれるカム装置の駆動側カムおよび被駆動側カムを模式的に示し、
図12(A)は駆動側カムの正面図、
図12(B)は駆動側カムの背面図、
図12(C)は被駆動側カムの正面図、および、
図12(D)は被駆動側カムの背面図である。
【
図13】
図13(A)および
図13(B)は、実施の形態の第1例のステアリング装置に組み込まれる押圧プレートを示し、
図13(A)は押圧プレートの平面図であり、
図13(B)は押圧プレートの正面図である。
【
図15】
図15(A)および
図15(B)は、実施の形態の第1例のステアリング装置に関して、調節レバーの揺動位置とカム装置の係合状態との関係の説明図であり、
図15(A)は、(a)ロック状態での調節レバーの揺動位置、および、(b)ロック状態での駆動側カムと被駆動側カムとの係合状態を示し、
図15(B)は、(a)アンロック状態での調節レバーの揺動位置、および、(b)アンロック状態での駆動側カムと被駆動側カムとの係合状態を示す。
【
図16】
図16は、実施の形態の第2例を示す、
図6の左右中間部に相当する部分の一部省略拡大図である。
【
図17】
図17は、実施の形態の第2例を示す、
図6の左右中間部に相当する部分の部分断面拡大図である。
【
図19】
図19(A)および
図19(B)は、実施の形態の第3例のステアリング装置に組み込まれる引張ばねを示し、
図19(A)は引張ばねの斜視図であり、
図19(B)は引張ばねの端面図である。
【
図20】
図20は、実施の形態の第4例のステアリング装置に関して、アンロック状態での調節レバーの揺動位置における、調節レバーの基部に引張ばねが係止された状態を示す一部省略図である。
【
図21】
図21は、実施の形態の第5例のステアリング装置に関して、アンロック状態での調節レバーの揺動位置における、調節レバーの基部に引張ばねが係止された状態を示す一部省略図である。
【
図22】
図22(A)および
図22(B)は、実施の形態の第6例のステアリング装置に組み込まれる押圧プレートを示し、
図22(A)は押圧プレートの平面図であり、
図22(B)は押圧プレートの正面図である。
【
図23】
図23は、本発明の適用が可能な従来のステアリング装置の1例の概略図である。
【
図24】
図24は、本発明の適用が可能な従来のステアリングホイールの位置調節装置の1例の部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図15を用いて説明する。なお、
図1~
図10、および
図15(A)には、ステアリングホイール1(
図23参照)の位置が保持されるロック位置に、調節レバー23aを揺動操作した状態が示されており、
図15(B)には、ステアリングホイール1の位置調節が可能になるアンロック位置に、調節レバー23aを揺動操作した状態が示されている。
【0033】
本例のステアリング装置は、ステアリングホイール1をその後端部に支持するステアリングシャフト5aと、車体11(
図23参照)に支持され、ステアリングシャフト5aを、その内側に軸方向に挿通した状態で複数の転がり軸受を介して回転自在に支持する筒状のステアリングコラム6aとを備える。
【0034】
ステアリングコラム6aの前端部には、電動アシスト装置を構成するギヤハウジング10aが固定される。ギヤハウジング10aは、車体11に固定可能なロアブラケット32に対して、幅方向に配置されたチルト軸12aを中心とする揺動変位を可能に支持される。ギヤハウジング10aには、図示しない電動モータが支持され、この電動モータの出力トルクは、ギヤハウジング10aの内部に配置した減速機構を介して、ステアリングシャフト5aに付与される。これにより、ステアリングホイール1の操作に要する力の軽減が図られる。
【0035】
本例のステアリング装置は、運転者の体格や運転姿勢に応じて、ステアリングホイール1の前後位置を調節するためのテレスコピック機構、および、ステアリングホイール1の上下位置を調節するためのチルト機構を備える。
【0036】
ステアリングコラム6aは、前側(ロアー側)に配置されたインナコラム19aの後部に、後側(アッパー側)に配置されたアウタコラム18aの前部が、軸方向に関する相対変位を可能に嵌合して、全長を伸縮可能に構成される。アウタコラム18aは、支持ブラケット14aに対して前後方向に移動可能に支持される。ステアリングシャフト5aは、インナシャフト33とアウタシャフト34とがスプライン係合などによりトルク伝達可能かつ伸縮可能に組み合わされた構造を有する。このような構造により、テレスコピック機構が構成される。
【0037】
ステアリングコラム6aおよびギヤハウジング10aが、車体11に対してチルト軸12aを中心とする揺動変位を可能に支持され、アウタコラム18aが、支持ブラケット14aに対して上下方向に移動可能に支持されることにより、チルト機構が構成される。
【0038】
アウタコラム18aは、アルミニウム系合金、マグネシウム系合金などの軽合金製で、前半部に配置された被挟持部35と、炭素鋼などの鉄系合金製で、後半部に配置され、被挟持部35に軸方向に結合された筒状部36とにより構成される。被挟持部35は、支持ブラケット14aに対して前後方向および上下方向に移動可能に支持される。具体的には、アウタコラム18aの被挟持部35は、その上半部にコラム嵌合部37を、その下半部に変位ブラケット13aを備える。
図10に示すように、コラム嵌合部37は、インナコラム19aの後部に外嵌され、その下端部に軸方向に伸長するスリット20aを備える。本例では、変位ブラケット13aは、コラム嵌合部37の下側で、スリット20aの幅方向両側に配置された1対の被挟持板部21c、21dを備える。1対の被挟持板部21c、21dの下端部同士は、幅方向に連結している。
【0039】
1対の被挟持板部21c、21dは、その幅方向に貫通し、かつ、前後方向に伸長する前後方向長孔(テレスコ調節用長孔)16c、16dを備える。図示の例では、前後方向長孔16c、16dは、被挟持板部21c、21dに形成された下孔38a、38bと、下孔38a、38bの幅方向外半部の内側に装着された、合成樹脂製で長円筒状のスリーブ39a、39bの内面により構成される。スリーブ39a、39bは、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂などの摺動性に優れた合成樹脂製である。
【0040】
支持ブラケット14aは、鋼やアルミニウム系合金などの十分な剛性を有する金属板製で、取付板部40と、取付板部40に連結され、変位ブラケット13aの幅方向両側に配置された1対の支持板部22c、22dと、1対の支持板部22c、22dに備えられた、上下方向に伸長する1対の上下方向長孔(チルト調節用長孔)15c、15dとを有する。
【0041】
取付板部40は、車体に支持固定された係止カプセル41に対して前方への離脱を可能に係止される。取付板部40は、通常時には係止カプセル41を介して車体11に対して支持されるが、衝突事故の際には、二次衝突の衝撃に基づいて係止カプセル41から前方に離脱し、アウタコラム18aの前方への変位が許容される。
【0042】
取付板部40は、幅方向中央部に配置されたブリッジ部42と、幅方向両側部に配置された1対のサイド板部43a、43bとを備える。ブリッジ部42は、断面逆U字状で、アウタコラム18aの被挟持部35の上方に配置される。ブリッジ部42は、前後方向に離隔した状態で配置された、複数(図示の例では3つ)のリブ44を備え、その剛性確保が図られている。1対のサイド板部43a、43bのそれぞれは、平板状で、その後端縁に開口し、係止カプセル41を係止するための係止切り欠きを備える。1対のサイド板部43a、43bのそれぞれは、その前端部の幅方向内端部に、略L字状の係止腕部45a、45bを備える。係止腕部45a、45bは、1対のサイド板部43a、43bのそれぞれの前端部の幅方向内端部から下方に向けて略直角に折れ曲がり、その下端部から前方に向けて突出する形状を有する。係止腕部45a、45bの形状およびその形成位置は、幅方向に関して対称であることが好ましい。
【0043】
1対の支持板部22c、22dの上端部は、ブリッジ部42の下面の幅方向両端部に溶接により固定されている。1対の支持板部22c、22dは、アウタコラム18aの被挟持部35の幅方向両側に互いに略平行に配置されている。本例では、1対の支持板部22c、22dは、チルト軸12aを中心とする部分円弧状で上下方向に伸長する1対の上下方向長孔15c、15dを備える。また、1対の支持板部22c、22dは、その前端部に、上下方向に伸長する補強突条46a、46bを備える。補強突条46a、46bの上端部は、ブリッジ部42に連続していない。本例では、1対の支持板部22c、22dの幅方向両外側に、引張ばね73a、73bが配置されるため、断面係数を確保しつつ幅方向外側への突出量を抑えるために、補強突条46a、46bは、その前端部が幅方向内側に折り返された断面円弧状の形状を有する。1対の支持板部22c、22dは、その後端部に、上下方向に伸長し、幅方向外側に向けて略直角に折れ曲がった曲げ板部47a、47bを備える。補強突条46a、46および曲げ板部47a、47bは、支持板部22c、22dの曲げ剛性(捩り強度)を高めるために備えられる。上下方向長孔の形状は、チルト軸を中心とした部分円弧状に限られず、代替的に、上方に向かうほど後方に向かう方向に伸長した直線状の形状を採用することもできる。
【0044】
図10に示すように、調節ロッド17aは、1対の前後方向長孔16c、16dおよび1対の上下方向長孔15c、15dを幅方向に挿通するように配置される。調節ロッド17aは、その一端部に頭部48を備え、その他端部に雄ねじ部49を備える。調節ロッド17aの一端側で、1対の支持板部22c、22dのうちの一方の支持板部22cの外側面から突出した部分の周囲に、すなわち、頭部48と一方の支持板部22cの外側面と間に、幅方向外側から順に、皿ばね50、調節レバー23a、カム装置24aが配置される。調節ロッド17aの他端側で、1対の支持板部22c、22dのうちの他方の支持板部22dの外側面から突出した部分の周囲に、幅方向外側から順に、ナット28a、スラスト軸受29a、押圧プレート30aが配置される。ナット28aは、調節ロッド17aの他端部の雄ねじ部49に螺合している。調節ロッド17aの両端部に配置された頭部48およびナット28aは、調節ロッド17aの軸方向に関する相対変位が不能であるため、頭部48およびナット28aの幅方向内側に配置された部材が幅方向外側に変位することを阻止する変位規制部として機能する。
【0045】
本例の構造では、調節レバー23aとカム装置24aにより拡縮機構が構成されている。調節レバー23aを揺動させて、カム装置24aの幅方向寸法を拡縮させることにより、被駆動側カム26aと押圧プレート30aとの間隔および1対の支持板部22c、22dの内側面同士の間隔が拡縮可能である。この拡縮機構により、支持ブラケット14aが変位ブラケット13aを幅方向両側から挟持するクランプ力の大きさが調節可能となる。
【0046】
調節レバー23aは、運転者がステアリングホイール1の位置を調節する際に揺動操作するための部材である。調節レバー23aは、鋼板やステンレス鋼板などの金属板製で、略クランク形に折れ曲がった長尺状の形状を有する。本例では、調節レバー23aは、先端側に向かうほど、後方側(運転席側)に、かつ、下方に伸長するように配置される。調節レバー23aは、その前端側部分(上端側部分)に、平板状の基部51を備える。基部51は、板厚方向に貫通する略矩形状の取付孔52を備える。基部51は、取付孔52よりも前方に位置する部分に、円形状のばね係止孔53を備える。調節レバー23aは、取付孔52を利用して、駆動側カム25aに相対回転不能に固定される。このため、調節レバー23aの揺動操作により、駆動側カム25aは、被駆動側カム26aに対して相対回転可能である。本例では、調節レバー23aを上方に揺動させた
図15(A)(a)に示す状態では、カム装置24aがロック状態となり、調節レバー23aを下方に揺動させた
図15(B)(a)に示す状態では、カム装置24aがアンロック状態となる。
【0047】
カム装置24aは、駆動側カム25aと被駆動側カム26aの組み合わせにより構成されている。駆動側カム25aが幅方向外側に配置され、被駆動側カム26aが幅方向内側に配置される。
【0048】
駆動側カム25aは、焼結金属製で、全体として円輪板状の形状を有し、調節ロッド17aを挿通するための中心孔54を備える。
図12(A)に示すように、駆動側カム25aは、その内側面に、周方向に関する凹凸面である駆動側カム面55を備える。
図12(B)に示すように、駆動側カム25aは、その外側面に、調節レバー23aの基部51を嵌合固定するための正面視で略矩形状の嵌合凸部56を備える。
【0049】
駆動側カム面55は、平坦面状の駆動側基底面57と、駆動側基底面57の円周方向等間隔複数個所(図示の例では4個所)からそれぞれ幅方向内方に向けて突出した、断面略台形状の駆動側凸部58を有する。駆動側凸部58の円周方向両側面のうち、アンロック状態に切り替える際の駆動側カム25aの回転方向であるアンロック方向に関する前方側には、駆動側ストッパ面59が備えられ、その後方側には、駆動側案内斜面60が備えられる。駆動側案内斜面60と駆動側ストッパ面59とは、円周方向に関する傾斜方向が反対であり、駆動側基底面57に対する傾斜角度の大きさは、駆動側ストッパ面59の方が駆動側案内斜面60よりも大きい。本例では、実質的に駆動側ストッパ面59が利用されることはない。
【0050】
駆動側カム25aの嵌合凸部56に、調節レバー23aの基部51の取付孔52が非円形嵌合することにより、駆動側カム25aは、調節レバー23aの基部51に対して固定され、調節レバー23aの往復揺動に伴って往復回転可能となる。調節レバー23aと調節ロッド17aとは、図示しない凹凸嵌合などにより相対回転不能に係合することにより、駆動側カム25aは、調節ロッド17aと同期した回転が可能である。ただし、駆動側カムが調節ロッドに対して相対回転を可能に外嵌された構成を採用することもできる。
【0051】
被駆動側カム26aは、駆動側カム25aと同様に、焼結金属製で、全体として円輪板状の形状を有し、調節ロッド17aを挿通するための中心孔61を備える。
図12(C)に示すように、被駆動側カム26aは、その外側面に、周方向に関する凹凸面である被駆動側カム面62を備える。
図12(D)に示すように、被駆動側カム26aは、その内側面に、幅方向内側に突出した略矩形板状の係合凸部27aを備える。
【0052】
被駆動側カム面62は、平坦面状の被駆動側基底面63と、被駆動側基底面63の円周方向等間隔複数個所からそれぞれ幅方向外方に向けて突出した断面略台形状で、駆動側凸部58と同数の被駆動側凸部64を有する。被駆動側凸部64の円周方向両側面のうち、アンロック方向に関する前方側には、被駆動側案内斜面65が備えられ、その後方側には、被駆動側ストッパ面66が備えられている。被駆動側案内斜面65と被駆動側ストッパ面66とは、円周方向に関する傾斜方向が反対であり、被駆動側基底面63に対する傾斜角度の大きさは、被駆動側ストッパ面66の方が被駆動側案内斜面65よりも大きい。本例では、実質的に被駆動側ストッパ面66が利用されることはない。
【0053】
被駆動側カム26aは、調節ロッド17aに対する相対回転および調節ロッド17aの軸方向に関する相対変位を可能に、調節ロッド17aに外嵌される。係合凸部27aは、一方の支持板部22cの上下方向長孔15cに対し、上下方向長孔15cに沿った変位のみを可能に係合する。このため、被駆動側カム26aは、上下方向長孔15cに沿って昇降可能であるが、上下方向長孔15cの前後方向側縁と係合凸部27aの前後方向側面との間に存在する隙間に起因したわずかな回動を除いて、大きく回動することはない。
【0054】
ステアリングホイール1の位置調節を行う際には、調節レバー23aを、
図15(A)(a)に示すロック位置から
図15(B)(a)に示すアンロック位置まで下方に揺動させる。これにより、
図15(A)(b)に示すように、駆動側カム25aがアンロック方向に回転して、
図15(B)(b)に示すように、駆動側凸部58と被駆動側凸部64とが円周方向に関して交互に配置されたアンロック状態となる。カム装置24aの幅方向寸法が縮小し、被駆動側カム26aと押圧プレート30aとの間隔が拡大する。この結果、支持板部22c、22dの内側面と被挟持板部21c、21dの外側面との当接部の面圧が低下ないしは喪失すると同時に、アウタコラム18aのコラム嵌合部37の内径が弾性的に拡大し、コラム嵌合部37の内周面とインナコラム19aの後部外周面との当接部の面圧が低下する。このアンクランプ状態において、調節ロッド17aが1対の上下方向長孔15c、15dおよび1対の前後方向長孔16c、16dの内側で動ける範囲で、ステアリングホイール1の上下位置および前後位置の調節が可能になる。
【0055】
ステアリングホイール1を所望位置に保持するには、ステアリングホイール1を所望位置に移動させた後に、調節レバー23aを、
図15(B)(a)の状態から上方に揺動させて、駆動側カム25aをロック方向に回転させる。
図15(A)(b)に示すように、駆動側凸部58の先端面と被駆動側凸部64の先端面とが互いに突き当てる状態(ロック状態)となり、カム装置24aの幅方向寸法が拡大し、被駆動側カム26aと押圧プレート30aとの間隔(1対の支持板部22c、22dの内側面同士の間隔)が縮小する。この結果、支持板部22c、22dの内側面と被挟持板部21c、21dの外側面との当接部の面圧が上昇すると同時に、コラム嵌合部37の内径が弾性的に縮小し、コラム嵌合部37の内周面とインナコラム19aの後部外周面との当接部の面圧が上昇する。このクランプ状態において、ステアリングホイール1は、調節後の位置に保持される。
【0056】
皿ばね50は、炭素鋼、炭素工具鋼、ばね鋼などの金属製で、円輪状の形状を有し、調節ロッド17aの一端寄り部分に外嵌され、調節ロッド17aの頭部48の内側面と調節レバー23aの基部51の外側面との間に挟持される。皿ばね50は、頭部48の内側面と基部51の外側面とに、互いに離れる方向の弾力を付与する。このため、ステアリングホイール1の位置調節を行うべく、前記クランプ力を解除した際にも、頭部48の内側面と一方の支持板部22cの外側面との間で、カム装置24aに幅方向のがたつきが生じることを抑制でき、ナット28aの内側面と他方の支持板部22dの外側面との間で、スラスト軸受29aおよび押圧プレート30aに幅方向のがたつきが生じることを抑制できる。本例では、押圧プレート30aに作用するモーメントを利用して、カム装置24aおよびスラスト軸受29aに幅方向のがたつきが生じることを抑制できるため、皿ばね50を省略することもできる。
【0057】
図13に示すように、押圧プレート30aは、冷間圧延鋼板(SPCC)、熱間圧延鋼板(SPHC)などの金属板製で、全体としてクランク形状を有する。押圧プレート30aは、調節ロッド17aに対する相対回転および調節ロッド17aの軸方向に関する相対変位を可能に、調節ロッド17aの他端寄り部分に外嵌される。押圧プレート30aは、調節ロッド17aを挿通するための挿通孔67を有し、調節ロッド17aに外嵌される円輪状のプレート本体68と、プレート本体68の外周縁の円周方向1箇所に配置された略L字形の係止板部69を備える。係止板部69の基半部70は、平板状で、プレート本体68の外周縁から幅方向外側(プレート本体68の軸方向)に向けて伸長し、係止板部69の先半部71は、平板状で、基半部70の幅方向外端部(先端部)からプレート本体68とは反対側に向けて略直角に折れ曲がるように伸長する。プレート本体68は、他方の支持板部22dの外側面とスラスト軸受29aの内側面との間に配置される。係止板部69の先半部71は、円形状のばね係止孔72を備える。本例では、調節ロッド17aの回転中心(中心軸)からばね係止孔72までの距離は、調節ロッド17aの回転中心から調節レバー23aの基部51に備えられたばね係止孔53までの距離と同じである。プレート本体68と係止板部69の先半部71とは互いに平行に配置され、係止板部69の基半部70は、プレート本体68および係止板部69の先半部71に対して直角に配置される。本例では、押圧プレート30aが、被係止部に相当する。
【0058】
スラスト軸受29aは、円輪板状の1対の軌道輪と、これら1対の軌道輪同士の間に放射状に配置された複数本のニードルを有する。スラスト軸受29aは、ナット28aから押圧プレート30aに作用するスラスト荷重を支承し、ナット28aの往復揺動を可能にする。
【0059】
本例では、ステアリングホイール1の位置調節を行うべく、カム装置24aの幅方向寸法を縮小し、前記クランプ力を解除した際に、ステアリングホイール1が落下するようにステアリングコラム6aが傾動することを防止するため、支持ブラケット14aの1対の支持板部22c、22dの幅方向両外側に、1対の引張ばね73a、73bが配置される。本例では、1対の引張ばね73a、73bは、ステンレス、ピアノ線などのばね鋼製で、互いに同じばね定数を有し、かつ、自由状態での長さ寸法が互いに同じ、同一のコイルばねにより構成される。1対の引張ばね73a、73bのそれぞれの中心軸O
a、O
bは、
図9に示すように、ステアリングコラム6aの中心軸O
6に対して、前方に向かうほど幅方向外側に向かう(互いに離れる)方向に数度(たとえば1度~5度)程度わずかに傾斜して配置されるか、もしくは、平行に配置される。1対の引張ばね73a、73bのそれぞれの中心軸O
a、O
bは、
図6および
図7に示すように、前方に向かうほど上方に向かう方向に数十度(たとえば30度~50度)程度傾斜している。本例では、ステアリングコラム6aの中心軸O
6に対して幅方向に傾いた傾斜角度は、一方の引張ばね73aと他方の引張ばね73bとでほぼ同じである。
【0060】
1対の引張ばね73a、73bのうちの一方の引張ばね73aは、一端部に配置されたU字状のフック部74aと、他端部に配置されたU字状のフック部74bと、中間部に配置されたコイル部77aとを備える。フック部74aは、一方のサイド板部43aの係止腕部45aに幅方向外側から係止される。フック部74bは、調節レバー23aの基部51のばね係止孔53に幅方向内側から係止される。これにより、一方の引張ばね73aは、一方のサイド板部43aと調節レバー23aの基部51との間に架け渡されるように配置される。一方の引張ばね73aにより、調節レバー23aの基部51に対して斜め前上方を向いた力F1が付与され、
図14に示すように、被駆動側カム26aの係合凸部27aの前側面は、一方の支持板部22cの上下方向長孔15cの前側縁に弾性的に押し付けられる。
【0061】
1対の引張ばね73a、73bのうちの他方の引張ばね73bは、一端部に配置されたU字状のフック部75aと、他端部に配置されたU字状のフック部75bと、中間部に配置されたコイル部77bとを備える。フック部75aは、他方のサイド板部43bの係止腕部45bに幅方向外側から係止される。フック部75bは、押圧プレート30aの係止板部69の先半部71のばね係止孔72に幅方向内側から係止される。これにより、他方の引張ばね73bは、他方のサイド板部43bと押圧プレート30aとの間に架け渡されるように配置される。他方の引張ばね73bにより、押圧プレート30aに対して斜め前上方を向いた力F2が付与される。
【0062】
本例のステアリング装置では、支持ブラケット14aの幅方向両外側に配置された1対の引張ばね73a、73bにより、調節ロッド17aの両端部に対し、それぞれ斜め前上方を向いた力を付与される。このため、アウタコラム18aに対して上方に向いた力が付与され、ステアリングホイール1の位置調節時(アンクランプ時)に、ステアリングコラム6aが傾動することを防止でき、ステアリングホイール1の上下位置の調節を軽い力で行うことが可能になる。
【0063】
次に、一方の引張ばね73aから調節レバー23aの基部51に付与される力と、他方の引張ばね73bから押圧プレート30aに付与される力について、具体的に説明する。
【0064】
調節レバー23aの基部51のばね係止孔53の位置は、調節レバー23aの揺動操作に起因して、調節ロッド17aの中心軸O
17を中心として円弧状に移動するため、ばね係止孔53から係止腕部45aまでの距離は変化する。このため、係止腕部45aとばね係止孔53との間に架け渡された一方の引張ばね73aについても、調節レバー23aの揺動操作に起因して、ステアリングコラム6aの中心軸O
6に対する傾斜角度およびその全長が変化する。本例では、調節レバー23aを、カム装置24aの幅方向寸法を縮小する方向に揺動操作し、調節レバー23aをアンロック位置に移動させた状態、すなわち、調節レバー23aを下方に回動した状態で、
図15(B)(a)に示す、一方の引張ばね73aのステアリングコラム6aの中心軸O
6に対する傾斜角度θ1および一方の引張ばね73aの全長L1と、
図7に示す、他方の引張ばね73bのステアリングコラム6aの中心軸O
6に対する傾斜角度θ2および他方の引張ばね73bの全長L2とが、互いに同じになる(θ1=θ2、L1=L2)、あるいは、実質的に同じになる(θ1≒θ2、L1≒L2)ように、関連する部材の寸法および調節レバー23aと駆動側カム25aとの組み付け位相などを規制している。
【0065】
押圧プレート30aは、他方の引張ばね73aの引っ張り力に基づいて、他方の支持板部22cの外側面およびスラスト軸受29aの内側面に押し付けられるため、調節ロッド17aを上下方向に移動させた際にも、その回転位相はほとんど変化しない。このため、調節ロッド17aの上下位置にかかわらず、調節レバー23aをアンロック位置に移動させた際に、一方の引張ばね73aと他方の引張ばね73bとで、ステアリングコラム6aに対する傾斜角度およびその全長が互いに同じになる。本例では、調節ロッド17aの上下位置にかかわらず、調節レバー23aがアンロック位置に移動した状態において、1対の引張ばね73a、73bの力の作用方向が、チルト軸12aと調節ロッド17aとに直交する仮想直線M(
図7参照)の方向よりも所定角度(たとえば10度~30度程度)だけ上方を向く。換言すれば、ステアリングコラム6aの中心軸O
6と引張ばね73a、73bの力の作用方向とのなす角度は、ステアリングコラム6aの中心軸O
6と仮想直線Mとのなす角度よりも大きい。本発明を実施する場合、調節レバーをアンロック位置に揺動操作した状態で、1対の引張ばねが、該調節レバーの基部および前記被係止部に対して、ステアリングコラムの中心軸に対し互いに同じ角度だけ斜め前上方を向いた作用方向に互いに同じ大きさの力を付与することができる限り、上述の好適例に制限されることなく、その構造、形状、長さ(両端部の取付位置)が、一方の引張ばねと他方の引張ばねの間で異なる構成を採用することも可能である。
【0066】
一方の引張ばね73aから調節レバー23aの基部51に対して付与される力は、駆動側カム25aの回転を抑制する抗力(ブレーキ)として作用する。
【0067】
ステアリングホイール1の位置調節を行うべく、調節レバー23aを、
図15(A)(a)に示したクランプ位置から下方にある程度揺動させると、駆動側カム面55の駆動側凸部58の駆動側案内斜面60が、被駆動側カム面62の被駆動側凸部64の被駆動側案内斜面65に案内される。この際、駆動側カム25aには、慣性力が作用するだけでなく、1対の被挟持板部21c、21dの弾性復元力、および、調節レバー23aの自重が作用するため、回転方向に付勢された状態になり、駆動側カム25aは勢いよく回転する傾向になる。調節レバー23aが下方に揺動して、ばね係止孔53が上方に移動すると、所定の位置にて、一方の引張ばね73aの一端側のフック部74aと他端側のフック部74bと調節ロッド17aの中心軸O
17が同一直線上に並び、引張ばね73aが最も縮んだ状態になる。調節レバー23aを、前記所定の位置からさらに下方に揺動させる(駆動側カム25aをさらに回転させる)には、一方の引張ばね73aを伸長させる必要があるため、一方の引張ばね73aのばね力は抗力として作用する。つまり、一方の引張ばね73aから調節レバー23aの基部51に対して、調節レバー23aの下方への揺動動作に抗する力が付与される。
【0068】
本例では、調節レバー23aが下方への揺動限界(揺動下端)まで移動する前に、一方の引張ばね73aの一端側のフック部74aと他端側のフック部74bと調節ロッド17aの中心軸O
17が同一直線上に並ぶように、一方の引張ばね73aの取付位置や調節レバー23aと駆動側カム25aとの組み付け位相などは規制される。これにより、本例では、一方の引張ばね73aの力を利用して、調節レバー23aをクランプ位置から下方に揺動させた際に、上述したような回転方向の付勢力にかかわらず、
図15(B)(b)に示すように、駆動側案内斜面60が被駆動側案内斜面65に案内されている途中の段階、換言すれば、調節レバー23aが揺動下端まで移動する前に、調節レバー23aの下方への揺動動作が自動的に停止する。このため、駆動側カム面55と被駆動側カム面62とが全面当たりすることで、カム装置24aの幅方向寸法が最も小さくなる前に、調節レバー23aの下方への揺動動作が停止する。したがって、調節レバー23aをアンクランプ位置に移動させた状態で、駆動側カム面55と被駆動側カム面62とが片当たりした状態になる。具体的には、駆動側案内斜面60と被駆動側案内斜面65のみが当接して、駆動側凸部58の先端面と被駆動側基底面63との間に隙間76aが形成され、被駆動側凸部64の先端面と駆動側基底面57との間に隙間76bが形成され、および、駆動側ストッパ面59と被駆動側ストッパ面66との間に隙間76cが形成される。
【0069】
本例のステアリング装置によれば、調節レバー23aをクランプ位置から下方に揺動させた際に、駆動側凸部58の先端面と被駆動側基底面63、被駆動側凸部64の先端面と駆動側基底面57、および、駆動側ストッパ面59と被駆動側ストッパ面66がそれぞれ勢いよく衝突して、異音(メタルコンタクト音)が発生することを防止できる。さらに、
図15(B)(b)に示すように、駆動側凸部58の先端面と被駆動側基底面63との間の隙間76a、および、被駆動側凸部64の先端面と駆動側基底面57との間の隙間76bの分だけ、アンロック状態でのカム装置24aの幅方向寸法を大きくできる。このため、頭部48の内側面と一方の支持板部22cの外側面との間で、カム装置24aに幅方向のがたつきが生じることを抑制でき、ナット28aの内側面と他方の支持板部22dの外側面との間で、スラスト軸受29aおよび押圧プレート30aに幅方向のがたつきが生じることを抑制できる。さらに、一方の引張ばね73aにより駆動側カム25aの回転にブレーキをかけられるため、調節レバー23aが勢いよく揺動して、調節レバー23aの一部が乗員の手指などに衝突することも防止される。
【0070】
他方の引張ばね73bから押圧プレート30aに対して付与される力は、押圧プレート30aにモーメントを作用させる。
【0071】
本例では、他方の引張ばね73bのフック部75bは、調節ロッド17aに外嵌したプレート本体68に対して幅方向に外れた(オフセットした)位置に配置された係止板部69の先半部71に係止される。このため、押圧プレート30aには、
図13に示すように、他方の引張ばね73bから作用する力F2に基づいて、プレート本体68と係止板部69の基半部70との折れ曲がり部を支点とし、該折れ曲がり部の伸長方向に伸びる仮想直線Z回りに、矢印α方向のモーメントが作用する。このため、プレート本体68により、他方の支持板部22dの外側面とスラスト軸受29aの内側面とに、互いに離れる方向の力が付与される。したがって、皿ばね50と同様に、前記クランプ力を解除した際にも、変位規制部である頭部48の内側面と一方の支持板部22cの外側面との間で、カム装置24aに幅方向のがたつきが生じることを抑制でき、変位規制部であるナット28aの内側面とプレート本体68の外側面との間で、スラスト軸受29aに幅方向のがたつきが生じることを抑制できる。
【0072】
本例のステアリング装置によれば、ステアリングホイール1の上下位置の調節に要する力を軽減できるだけでなく、ステアリングホイール1の前後位置を調節する作業の円滑性を確保することもできる。すなわち、支持ブラケット14aの1対の支持板部22c、22dの幅方向両外側に1対の引張ばね73a、73bが配置され、調節ロッド17aの両端側部分に配置された調節レバー23aの基部51および押圧プレート30aに対して、それぞれ斜め前上方を向いた力が付与される。このため、アウタコラム18aに対して上方に向いた力(分力)が付与されるので、ステアリングホイール1の位置調節時に前記クランプ力を解除した際にも、ステアリングホイール1が落下するようにステアリングコラム6aが傾動することを防止でき、ステアリングホイール1の上下位置の調節に要する力を軽減できる。
【0073】
1対の引張ばね73a、73bによる力の作用方向は、1対の上下方向長孔15c、15dの伸長方向に沿った上方ではなく、斜め前上方を向いた方向であるため、上方向への分力が小さく抑えられる。
【0074】
被駆動側カム26aの係合凸部27aの前側面は、一方の支持板部22cの上下方向長孔15cの前側縁に弾性的に当接するため、調節ロッド17aが上方に移動する際に、係合凸部27aの前側面と上下方向長孔15cの前側縁との間に摩擦力を発生させることができる。このため、前後方向長孔16c、16dの内周面のうちの上面に調節ロッド17aを押し付ける力を低減でき、調節ロッド17aの外周面と前後方向長孔16c、16dの上面との間の摺動抵抗が低減される。このため、ステアリングホイール1の前後位置を調節するのに要する力が大きくなることを防止でき、ステアリングホイール1の前後位置を調節する作業の円滑性を確保することができる。
【0075】
本例のステアリング装置では、従来構造に比べて、調節ロッド17aが前後方向長孔16c、16dの上面を押し上げる力が弱くなりやすいため、1対の引張ばね73a、73bの力の作用方向を、チルト軸12aの中心軸および調節ロッド17aの中心軸に直交する前記仮想直線Mの方向よりも所定角度だけ上方を向くようにして、押し上げ力が低くなり過ぎることを防止している。
【0076】
本例では、調節レバー23aをアンロック位置に移動させた状態で、1対の引張ばね73a、73bにより、調節レバー23aの基部51および押圧プレート30aに対して、同じ方向を向いた互いに同じ大きさの力が付与される。このため、ステアリングホイール1の位置調節時に、調節ロッド17aの姿勢を安定させることができ、調節ロッド17aが上下に傾くことを防止できる。
【0077】
本例では、1対の引張ばね73a、73bによる力の作用方向は、1対の上下方向長孔15c、15dの伸長方向に沿った上方ではなく、斜め前上方を向いた方向であるため、上方向への分力を小さく抑えられるとともに、係合凸部27aの前側面と上下方向長孔15cの前側縁との間に摩擦力を発生させることができる。このため、前記クランプ力を解除した際に、ステアリングホイール1の位置を、該クランプ力を解除した状態での位置にとどめることができる。このため、ステアリング装置に対して従来から求められている、クランプ力を解除した際に、ステアリングホイール1に急な跳ね上がりや急落下が生じない構造を実現できる。
【0078】
本例では、好ましくは、1対の引張ばね73a、73bのそれぞれの中心軸Oa、Obは、ステアリングコラム6aの中心軸O6に対して、前方に向かうほど幅方向外側に向かう(互いに離れる)方向に傾いている。この場合、調節レバー23aの基部51および押圧プレート30aに対して、それぞれ幅方向外側に向いた分力を作用させることができる。この面からも、クランプ力を解除した際に、カム装置24aおよびスラスト軸受29aが幅方向にがたつくことを抑制することができる。
【0079】
一方の引張ばね73aにより、調節レバー23aの基部51を斜め前上方に向けて引っ張っているため、クランプ力を解除した際に、調節レバー23aの自重により、調節ロッド17aの一端側が下方に変位するように傾くことを防止できる。このため、ステアリングホイール1の上下位置を調節する際に、調節ロッド17aが上下方向長孔15c内をスムーズに変位できなくなることで、調節レバー23aが上下に振動する(暴れる)ことを防止できる。したがって、異音(カタカタ音)の発生を防止できるとともに、ステアリングホイール1に微振動が伝達されることも防止できる。
【0080】
ステアリングホイール1の位置調節を行うべく、調節レバー23aを下方にある程度揺動させると、駆動側カム25aは勢いよく回転する傾向になる。この際、駆動側カム面55と被駆動側カム面62との凹凸係合に基づき、被駆動側カム26aも、調節ロッド17aを中心として回転する傾向になる。ただし、本例では、引張ばね73aの弾力により、被駆動側カム26aの係合凸部27aの前側面が、上下方向長孔15cの前側縁に弾性的に押し付けられているため、被駆動側カム26aが回転することを有効に防止できる。このため、係合凸部27aの前後方向側面と上下方向長孔15cの前後方向側縁とが勢いよく衝突することによる異音(メタルコンタクト音)が発生することを防止できる。
【0081】
ステアリングホイール1の前後位置の調節時に、ステアリングホイール1を前方側に最大限移動させて、調節ロッド17aを1対の前後方向長孔16c、16dの後端縁と1対の上下方向長孔15c、15dの前側縁との間で挟持する際にも、係合凸部27aの前側面が上下方向長孔15cの前側縁に予め当接しているため、係合凸部27aの前側面と上下方向長孔15cの前側縁とが勢いよく衝突することに起因して、衝突音が発生することも防止できる。
【0082】
調節レバーの基部の一部に前記基部から伸長した延出腕部を設け、該延出腕部のうちで前記基部から幅方向に外れた位置に、一方の引張ばね73aの端部を取り付ける構成を採用することもできる。このような構成を採用すれば、一方の引張ばね73aから作用する力に基づき、調節レバーに、押圧プレート30aに作用させるのと同様のモーメントを作用させることもできる。
【0083】
本例では、本発明は、チルト機構とテレスコピック機構の両方を備えたステアリング装置に適用されているが、本発明を、チルト機構のみを備えたステアリング装置に適用することも可能である。この場合、たとえば、ステアリングコラムの軸方向中間部に、前後方向長孔に代替して、断面円形状の通孔が幅方向を貫通する変位ブラケットが備えられ、調節ロッドが、該通孔と支持ブラケットの1対の上下方向長孔を幅方向に挿通する。この場合でも、1対の引張ばねの両方あるいは一方の存在に起因して、クランプ力を解除した際に、カム装置およびスラスト軸受が幅方向にがたつくことを抑制する、ステアリングホイールの上下位置を調節する際に、調節ロッドが上下方向長孔内をスムーズに変位できなくなることで、調節レバーが上下に振動する(暴れる)ことを抑制できる、および、被駆動側カムの係合凸部の前側面が、上下方向長孔の前側縁に弾性的に押し付けられることにより、被駆動側カムが回転することを抑制するといった作用効果は得られる。
【0084】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図16~
図18を用いて説明する。本例では、ステアリングホイール1の上下位置の調節時や調節レバー23aの揺動操作時に、1対の引張ばね73a、73bから異音が発生することを防止するために、1対の引張ばね73a、73bは、コイル部77a、77bの内側に配置されたダンパ部材78を備える。
【0085】
ダンパ部材78は、ゴムや合成樹脂などの弾性材製であり、自由状態で、全体として円環状の形状、および、略矩形の断面形状を有する。ダンパ部材78は、コイル部77a、77bの内側に、ダンパ部材78を変形させた状態で配置される。具体的には、ダンパ部材78のうちの直径方向に関して反対側に位置する部分同士を互いに近づけるように押し潰し(折り畳み)、ダンパ部材78全体を直線状(板状)に変形させた状態で、ダンパ部材78は、コイル部77a、77bの内側に押し込むように挿入される。ダンパ部材78がコイル部77a、77bの内側に配置された状態で、ダンパ部材78の外周面はコイル部77a、77bの内周面に弾性的に当接する。
【0086】
ステアリングホイール1の上下位置の調節時や調節レバー23aの揺動操作時のコイル部77a、77bの伸縮に伴い、ダンパ部材78がコイル部77a、77bの軸方向に移動して、コイル部77a、77bの内側から脱落しないように、ダンパ部材78のコイル部77a、77b内での長さ(折径)が規制される。具体的には、ダンパ部材78がコイル部77a、77bの上側から脱落することを防止するために、ダンパ部材78の上端部が係止腕部45a、45bの下面に当接した状態での、コイル部77a、77bの内側に存在するダンパ部材78の長さ(係り代)は、十分に、たとえば、コイル部77a、77bの上端面から係止腕部45a、45bの下面までの距離よりも長くなるように、確保される。ダンパ部材78がコイル部77a、77bの下側から脱落することを防止するために、ダンパ部材78の下端部が調節レバー23aの基部51および押圧プレート30aの係止板部69(
図7および
図13参照)の上面に当接した状態での、コイル部77a、77bの内側に存在するダンパ部材78の長さ(係り代)は、十分に、たとえば、コイル部77a、77bの下端面から調節レバー23aの基部51および押圧プレート30の係止板部69の上面までの距離よりも長くなるように、確保される。本例では、引張ばね73a、73bの取り付け作業時に、コイル部77a、77bの内側に配置したダンパ部材78が、引張ばね73a、73bの取付治具によって損傷することがないように、ダンパ部材78の長さ、特にコイル部77a、77bからの突出量が規制される。
【0087】
本例では、ステアリングホイール1の上下位置の調節時や調節レバー23aの揺動操作時に、コイル部77a、77bから、弾け音や残響音といった異音が発生することを防止できる。すなわち、ステアリングホイール1の上下位置の調節時や調節レバー23aの揺動操作時には、係止腕部45a、45bに対する調節レバー23aのばね係止孔53および押圧プレート30aのばね係止孔72の位置が変化する。このため、引張ばね73a、73bのフック部74b、75bが、それぞれが円孔であるばね係止孔53、72の内周縁に沿って移動し、スティックスリップ(微振動)を生じさせる可能性がある。スティックスリップが生じると、引張ばね73a、73bに振動が伝播し、コイル部77a、77bをスピーカとして異音を発生させる可能性がある。本例では、コイル部77a、77bの内側に、吸音材として機能するダンパ部材78が配置されているため、コイル部77a、77bの振動を減衰させることができ、コイル部77a、77bから異音が発生することを有効に防止できる。
【0088】
ステアリングホイール1の上下位置を調節した際に生じる、押圧プレート30aの回転位相の変化はわずかであるため、引張ばね73bのフック部75b(
図7参照)が、押圧プレート30aのばね係止孔72の内周縁に沿って移動する量はわずかである。このため、ダンパ部材78は、一方の引張ばね73aを構成するコイル部77aの内側にのみ配置し、他方の引張ばね73bを構成するコイル部77bの内側には配置しない構成を採用することもできる。実施の形態の第2例のその他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0089】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、
図19を用いて説明する。本例では、引張ばね73a、73bを構成するコイル部77a、77bの外側に、ダンパ部材78aが配置される。ダンパ部材78aは、ゴムや合成樹脂などの弾性材製であり、自由状態で、コイル部77a、77bの外径よりもわずかに小さな内径を有する円筒状の形状を有する。ダンパ部材78aは、コイル部77a、77bの外側に、内径を弾性的にわずかに拡げた状態で外嵌される。ダンパ部材78aがコイル部77a、77bの外側に配置された状態で、ダンパ部材78aの内周面はコイル部77a、77bの外周面に弾性的に当接する。
【0090】
本例では、ダンパ部材78aを外部から視認することができるため、ダンパ部材78aの組み付け忘れを防止することができる。ダンパ部材78aは、コイル部77a、77bに外嵌され、コイル部77a、77bの両側に存在するフック部74a、74b、75a、75bが、係止腕部45a、45b、調節レバー23a、および、押圧プレート30aにそれぞれ係止されているため、ダンパ部材78aが脱落することを有効に防止できる。実施の形態の第3例のその他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例および第2例と同じである。
【0091】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、
図20を用いて説明する。本例では、ばね係止孔53aは、単なる円孔ではなく、前側(
図20の左側)に配置された略三角形の開口形状を有する(三角孔である)ガイド孔部79と、後側(
図20の右側)に配置された略半円形の開口形状を有する大径孔部80とを組み合わせた、略涙形の開口形状を有する。ガイド孔部79は、前側に向かうほど互いに近づく方向に傾斜した1対の直線状のガイド辺81a、81bと、1対のガイド辺81a、81bの前端部同士を連結した部分円弧状の連結部82を有する。1対のガイド辺81a、81bは、調節ロッド17aの中心軸O
17に直交し、かつ、連結部82の円周方向中央部を通る仮想直線Nに関して線対称である。また、大径孔部80の中心O
80は、仮想直線N上に位置する。大径孔部80の内径d
80は、引張ばね73aのフック部74bの線径D
74よりも十分に大きい(d
80>D
74)。連結部82の曲率半径は、フック部74bの線径D
74の2分の1よりも小さい。1対のガイド辺81a、81b同士の間の挟角θ
3の大きさは、フック部74bの線径D
74や基部51の形状などを考慮して決定され、たとえば30度~90度の範囲、好ましくは45度~75度の範囲で設定される。なお、図示の例では、挟角θ
3の大きさは60度である。
【0092】
フック部74bがばね係止孔53aに係止された状態で、フック部74bは、コイル部77aが発揮する弾性復元力により、連結部82に近づく方向である、1対のガイド辺81a、81bの間隔が小さくなる方向に引っ張られる。これにより、フック部74bは、1対のガイド辺81a、81b同士の間に弾性的に押し込まれ(くさびのように食い込み)、1対のガイド辺81a、81bに対して弾性的に押し付けられる。フック部74bと連結部82との間、および、フック部74bと大径孔部80との間には、それぞれ隙間が存在する。換言すれば、フック部74bは、1対のガイド辺81a、81bに対してのみ接触する。また、大径孔部80の内径d80は、フック部74bの線径D74よりも十分に大きいため、フック部74bは、大径孔部80に対して緩く挿入可能である。
【0093】
本例では、引張ばね73aのフック部74bが調節レバー23aのばね係止孔53aに係止された状態で、コイル部77aが発揮する弾性復元力により、フック部74bが、1対のガイド辺81a、81b同士の間に弾性的に押し込まれ、1対のガイド辺81a、81bに対して弾性的に押し付けられている。このため、ステアリングホイール1の上下位置の調節時や調節レバー23aの揺動操作時においても、1対のガイド辺81a、81bによってフック部74bの移動が制限され、フック部74bがばね係止孔53aの内周縁に沿って移動する(滑る)ことを防止できる。このような構成により、ステアリングホイール1の上下位置の調節や調節レバー23aの揺動操作を行った場合にも、フック部74bと1対のガイド辺81a、81bとの接触位置が変わらないようにすることができるため、引張ばね73aと調節レバー23aとの間でスティックスリップが発生することを抑制できる。
【0094】
また、大径孔部80の内径d80を、フック部74bの線径D74よりも十分に大きくし、フック部74bを、大径孔部80に対して緩く挿入可能としている。したがって、フック部74bを、ばね係止孔53aに対して容易に挿入することができるため、ステアリング装置の組立作業の作業性を確保することができる。実施の形態の第4例のその他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例~第3例と同じである。
【0095】
[実施の形態の第5例]
実施の形態の第5例について、
図21を用いて説明する。本例では、調節レバー23bの基部51aの形状が、実施の形態の第4例の構造から変更されている。具体的には、基部51aの前側部は、略三角形の先細形状を有し、調節ロッド17aの中心軸O
17に直交し、かつ、連結部82の円周方向中央部を通る仮想直線Nが、基部51aの頂部を通過する。
【0096】
本例の場合にも、引張ばね73aのフック部74bは、略三角形の開口形状を有するガイド孔部79を構成する1対のガイド辺81a、81b同士の間に弾性的に押し込まれる。このため、フック部74bがばね係止孔53aの内周縁に沿って移動することを防止でき、スティックスリップが発生することを抑制できる。実施の形態の第5例のその他の構成および作用効果については、実施の形態の第4例と同じである。
【0097】
[実施の形態の第6例]
実施の形態の第6例について、
図22(A)および
図22(B)を用いて説明する。本例で用いる押圧プレート30bは、調節ロッド17aを挿通するための挿通孔67aを有し、調節ロッド17aに外嵌される円輪状のプレート本体68aと、プレート本体68aの外周縁の円周方向1箇所に配置された平板状の係止板部69aを備える。係止板部69aは、プレート本体68aの外周縁部から幅方向外側(プレート本体68の軸方向)に向かうほど前方側(プレート本体68の径方向外側)に向かう方向に斜めに伸長する。係止板部69aは、プレート本体68aから幅方向に外れた(オフセットした)位置に、他方の引張ばね73bの端部を係止するためのばね係止孔72aを備える。
【0098】
本例の場合にも、他方の引張ばね73bから押圧プレート30bに作用する力に基づき、押圧プレート30bにモーメントを作用させることができる。すなわち、他方の引張ばね73bの端部は、係止板部69aのうちで、調節ロッド17aに外嵌されるプレート本体68aに対して幅方向に外れた位置に配置されたばね係止孔72aに係止される。このため、押圧プレート30bには、他方の引張ばね73bから作用する力F2に基づいて、プレート本体68aと係止板部69aの基端部との折れ曲がり部を支点とし、該折れ曲がり部の伸長方向に伸びる仮想直線Z回りに、矢印α方向のモーメントが作用する。このため、プレート本体68aにより、他方の支持板部22dの外側面とスラスト軸受29aの内側面とに、互いに離れる方向の力を付与することができる。実施の形態の第6例のその他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0099】
本発明を実施する場合、実施の形態の各例の構造は、相互に矛盾がない限り、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングギヤユニット
3 入力軸
4 タイロッド
5、5a ステアリングシャフト
6、6a ステアリングコラム
7 自在継手
8 中間シャフト
9 自在継手
10、10a ギヤハウジング
11 車体
12、12a チルト軸
13、13a 変位ブラケット
14、14a 支持ブラケット
15a、15b、15c、15d 上下方向長孔
16a、16b、16c、16d 前後方向長孔
17、17a 調節ロッド
18、18a アウタコラム
19、19a インナコラム
20、20a スリット
21a、21b、21a、21d 被挟持板部
22a、22b、22c、22d 支持板部
23、23a、23b 調節レバー
24、24a カム装置
25、25a 駆動側カム
26、26a 被駆動側カム
27、27a 係合凸部
28、28a ナット
29、29a スラスト軸受
30、30a、30b 押圧プレート
31 ばね
32 ロアブラケット
33 インナシャフト
34 アウタシャフト
35 被挟持部
36 筒状部
37 コラム嵌合部
38a、38b 下孔
39a、39b スリーブ
40 取付板部
41 係止カプセル
42 ブリッジ部
43a、43b サイド板部
44 リブ
45a、45b 係止腕部
46a、46b 補強突条
47a、47b 曲げ板部
48 頭部
49 雄ねじ部
50 皿ばね
51、51a 基部
52 取付孔
53、53a ばね係止孔
54 中心孔
55 駆動側カム面
56 嵌合凸部
57 駆動側基底面
58 駆動側凸部
59 駆動側ストッパ面
60 駆動側案内斜面
61 中心孔
62 被駆動側カム面
63 被駆動側基底面
64 被駆動側凸部
65 被駆動側案内斜面
66 被駆動側ストッパ面
67、67a 挿通孔
68、68a プレート本体
69、69a 係止板部
70 基半部
71 先半部
72、72a ばね係止孔
73a、73b 引張ばね
74a、74b フック部
75a、75b フック部
76a、76b、76c 隙間
77a、77b コイル部
78、78a ダンパ部材
79 ガイド孔部
80 大径孔部
81a、81b ガイド辺
82 連結部