(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】毛乳頭細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230523BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20230523BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230523BHJP
A61K 35/36 20150101ALI20230523BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20230523BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20230523BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230523BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230523BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20230523BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
A61P17/14
A61P43/00 107
A61K35/36
A61Q7/00
A61K8/98
A61L27/38 100
A61L27/38 300
C12N15/12
C07K14/47
(21)【出願番号】P 2020133961
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019145099
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 詩保
(72)【発明者】
【氏名】中桐 頼子
(72)【発明者】
【氏名】関口 清俊
(72)【発明者】
【氏名】下野 知性
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】Experimental Dermatology,2016年11月28日,Vol.26, No.5,pp.435-438
【文献】Journal of Investigative Dermatology,2016年,Vol.136, No.6,pp.1150-1160, Supplementary information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛乳頭細胞をエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種
を含む培養基材上で培養する、
或いはエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を培地に添加する毛乳頭細胞の培養方法
であって、エミリンのフラグメントがgC1qドメインを含むものである、方法。
【請求項2】
エミリンがエミリン-1である、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
エミリンのフラグメントがエミリン-1のC末端フラグメントである、請求項
2記載の方法。
【請求項4】
毛乳頭細胞をエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種
を含む培養基材上で培養する
、或いはエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を培地に添加する工程を含む、毛乳頭細胞の毛包誘導能の維持又は促進方法
であって、エミリンのフラグメントがgC1qドメインを含むものである、方法。
【請求項5】
エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、毛乳頭細胞の毛包誘導能維持又は促進剤
であって、エミリンのフラグメントがgC1qドメインを含むものである、剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毛乳頭細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛乳頭細胞(dermal papilla)は、毛包の基部にある間葉系由来の細胞で、毛包上皮系幹細胞に分化シグナルを送ることにより毛包へ分化誘導する役割を担っている。
【0003】
すなわち、毛乳頭細胞は、毛包再生には毛包上皮系幹細胞と共に欠くことのできない細胞であり、少数の毛包から毛乳頭細胞を採取して大量に培養することができれば、毛髪再生治療や毛の再生研究に貢献できる。
【0004】
しかしながら、毛乳頭細胞が有する毛包誘導能は、培養継代数を重ねると共に失われてしまう。このため、毛包誘導能を維持したまま毛乳頭細胞を培養する技術が従来から求められており、例えば、BMP-2/BMP-4系材料及びWNT系材料の存在下で毛乳頭細胞を培養すること(特許文献1)、フィーダー細胞上で培養すること(特許文献2)、スフェロイド状に培養すること(非特許文献1)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/021245号
【文献】特許第5164439号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】ACS Appl Master Interfaces, 2016, 8: 5906-5916
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、毛乳頭細胞を、毛包誘導能を維持させながら効率よく培養する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、毛乳頭細胞の培養条件を種々検討したところ、エミリン又はそのフラグメントが存在する条件下で毛乳頭細胞を培養することにより、毛包誘導能を維持させながら増殖できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
1)毛乳頭細胞をエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で培養する、毛乳頭細胞の培養方法。
2)毛乳頭細胞をエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で培養する工程を含む、毛乳頭細胞の毛包誘導能の維持又は促進方法。
3)エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、毛乳頭細胞の毛包誘導能維持又は促進剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、毛包誘導能を低下させずに、毛乳頭細胞が容易に増殖可能となる。これにより、毛包誘導能を持つ培養毛乳頭細胞を用いたin vitro実験が容易となり、また、患者自身の毛から採取した毛乳頭細胞を単離・培養し、再び患者自身に戻すような毛の再生が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】培養毛乳頭細胞をアルカリフォスファターゼ活性染色した顕微鏡写真。
【
図2】培養毛乳頭細胞の各種遺伝子発現の変化を示すグラフ。
【
図3】培養多能性幹細胞由来毛乳頭細胞の増殖を示す顕微鏡写真。
【
図4】培養多能性幹細胞由来毛乳頭細胞の各種遺伝子発現の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、「毛乳頭細胞」とは、毛包最底部に位置する間葉系細胞であり、毛包の自己再生のために毛包上皮幹細胞に活性化シグナルを送る役割を担っている。
なお、毛乳頭細胞は毛乳頭に局在し、骨髄、脂肪、関節滑膜、歯髄等に局在する間葉系幹細胞とは明確に区別される。
【0013】
本発明で用いる毛乳頭細胞は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギ、ブタ、ウシ等の哺乳動物の皮膚由来の毛乳頭細胞を使用できるが、好ましくはヒト皮膚由来の毛乳頭細胞である。皮膚は、毛乳頭が正常な生理機能を保持されている限り、頭髪に限らず体毛等に属する皮膚を選択できるが、好ましくは頭皮である。ヒト頭皮は、例えば外科手術等によって採取されたものを使用することができ、顕微鏡下で単離した成長期毛包より毛乳頭細胞が採取される。
【0014】
培養に供する毛乳頭細胞は、採取した皮膚から公知の手法(例えば、Tissue Eng. 2007 ,13:975-82.)を用いて調製することができる。すなわち、採取した頭皮組織から実体顕微鏡下で成長期毛包を単離し、さらに単離した毛乳頭細胞を培養用ディッシュ上に静置し、10%ウシ血清及びFGF-2を含むDMEM培地で、CO2インキュベーター内にて37℃、5%CO2、湿度100%条件下で数日間培養することにより毛乳頭細胞を単離できる。
【0015】
また、本発明で用いる毛乳頭細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、iPS細胞等の多能性幹細胞から分化誘導して作製された多能性幹細胞由来の毛乳頭細胞であってもよい。多能性幹細胞としてはヒト由来の多能性幹細胞が好ましく、ヒトiPS細胞がより好ましい。多能性幹細胞由来の毛乳頭細胞としては、多能性幹細胞を公知の方法(例えば、特許第6304818号公報)により分化誘導して作製された皮膚由来多能性前駆細胞(SKPs)等を毛乳頭細胞として使用することができる。
【0016】
本発明において、毛乳頭細胞の培養は、エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下に行われる。
「エミリン(Emilin)」とは、細胞外マトリックスを構成する、分子量115kDaの糖タンパク質であるelastin microfibril interface-located proteinを指す。現在までに、エミリン-1、エミリン-2、エミリン-3が見出され、エミリンタンパク質ファミリーを形成している。
このうち、エミリン-1については、その機能が明らかにされ、皮膚においてエラスチンと微細繊維の界面に存在し、エラスチン沈着を調節することで皮膚の弾性に関与することが報告されている(日本歯周病学会会誌 2004 46:175-184)。
【0017】
エミリンは、C末端側にインテグリン結合部位であるgC1qドメインと、N末端側にはシステインリッチなEMIドメインが存在し、多量体形成に関わっている。エミリンはホモ3量体を形成し、機能を発揮する。
【0018】
本発明のエミリンとしては、その由来は特に限定されず、各種生物、好ましくは哺乳動物由来のエミリンを用いることができる。哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ等が挙げられるが、限定されない。なかでもヒト由来のエミリンを用いることが特に好ましい。また組換体であってもよい。
【0019】
ヒトエミリンの遺伝子やアミノ酸配列の情報は、公知のデータベース(GenBank等)から取得可能であり、ヒトエミリン-1はNP_008977.1、ヒトエミリン-2はNP_114437.2、ヒトエミリン-3はNP_443078.1として登録されている。このうち、好ましくはヒトエミリン-1であり、そのアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0020】
エミリンフラグメントとしては、エミリンの部分ペプチドが挙げられ、例えばC末端フラグメント等が例示できる。好ましくはエミリン-1の部分ペプチドである。gC1qドメインはエミリンのC末端側から120~160個のアミノ酸領域に位置するインテグリン結合部位である(J Biol Chem. 2003,278 :6160-6167.)。よって、本発明のエミリンフラグメントは、好適にはインテグリン結合活性を有するエミリンの部分ペプチドであると云える。エミリンフラグメントがインテグリン結合活性を有していることは、ELISA法等により確認することができる。
本発明において、好適なエミリンフラグメントとしては、具体的には、エミリン-1のC末端フラグメント、gC1qドメインを含むエミリン-1のフラグメント、より好ましくは120~200個のアミノ酸からなるエミリン-1のC末端フラグメント、詳細にはgC1qドメインを含むエミリン-1のC末端フラグメント、より詳細には120~160個のアミノ酸からなるgC1qドメインを含むエミリン-1のC末端フラグメントが挙げられる。
【0021】
本発明のエミリン又はエミリンフラグメントは、当該タンパク質又はペプチドにおいて1又は数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つインテグリン結合活性を有するタンパク質又はペプチドであってもよい。斯かるタンパク質又はペプチドとしては、例えば当該タンパク質又はペプチドにおけるgC1qドメイン以外の部分の1又は数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチドが挙げられる。
ここで、数個とは、例えば、2~10個であってもよいし、2~8個であってもよいし、2~6個であってもよいし、2~4個であってもよい。
【0022】
エミリンは、例えば、エミリン高発現細胞から精製する方法や、組換えタンパク質として製造することができる。エミリンフラグメントの製造方法も特に限定されず、例えば、全長エミリンをタンパク質分解酵素で消化し、目的のフラグメントを分取、精製する方法や、組換えタンパク質として製造する方法などが挙げられる。組換えエミリン、組換えエミリンフラグメントは、公知の遺伝子組換え技術を適宜用いることにより製造することができる。すなわち、全長タンパク質または部分タンパク質をコードするDNAをそれぞれ取得し、これをそれぞれ発現ベクターに挿入し、これを適切な宿主細胞に導入して発現させ、3量体を形成しているタンパク質を公知の方法で精製することにより製造することができる。
【0023】
また、上述したエミリン又はそのフラグメントは、それらの構築、分離、又は精製に用いられる配列、例えばタグ配列、リンカー配列等、を含んでいてもよい。すなわち、本発明のエミリン又はそのフラグメントには、一態様として、エミリン又はエミリンフラグメントの末端にタグ配列などのアミノ酸が付加されたもの、例えばN末端に6×Hisタグ配列が付加されたもの等が包含される。
【0024】
本発明の毛乳頭細胞の培養条件は、毛乳頭細胞が増殖可能なものであればよく、エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下に行われること以外特に制限されない。例えば、エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材上で毛乳頭細胞を培養してもよく、またエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を培地に添加して毛乳頭細胞を培養してもよい。
エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材の例としては、該エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含有するコーティング剤を有する培養基材(例えばプレート、メッシュ、ディッシュ等)が挙げられ、その例としては、エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含むコーティング剤によりコートすることでエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種が吸着している培養基材が挙げられる。
また、培地にエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を添加する場合、毛乳頭細胞の播種に先立って培地にエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を添加してもよく、あるいは毛乳頭細胞と一緒に培地にエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を添加してもよい。
なお、エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材やコーティング剤、培地には、エミリン又はそのフラグメント以外の足場材又は細胞接着分子が含まれていてもよい。エミリン又はそのフラグメント以外の足場材又は細胞接着分子としては、例えば、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン等の細胞外マトリクス構成成分を挙げることができるが、このうち、毛根部に準じた細胞外マトリクス構成成分である、ラミニン、コラーゲンタイプI又はコラーゲンタイプIVを選択することが好適である。
【0025】
エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材における該エミリン又はそのフラグメントの含有量は、該培養基材が培養物と接触する面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μg、より好ましくは0.2~3μgであればよい。例えば、コーティングする面積1cm2あたり、エミリン又はそのフラグメントを好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μg、より好ましくは0.2~3μg含むコーティング剤により、該培養基材をコーティング処理し、エミリン又はそのフラグメントを該培養基材に吸着させればよい。
また、エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を添加した培地におけるエミリン又はそのフラグメントの含有量を、培地1mLあたりの最終濃度として、好ましくは0.1~100μg、より好ましくは0.2~20μgになるように調整するとよい。
【0026】
培養器としては、細胞を培養可能なものであれば、材質や形状は特に限定されるものではない。例えば、材質はプラスチックやガラス等を用いることが可能であり、ディッシュの他、丸底型又はすり鉢型等の形状の底面を有するウエルを用いることもできる。
【0027】
具体的には、例えば、組織培養ディッシュ(例えば、コーニング社製の細胞培養表面処理済ディッシュ(製品番号:430165)やIWAKI社製の組織培養用ディッシュ(製品番号:3000-035)が挙げられる。
【0028】
培養液(培地)は、動物細胞の培養に用いられる市販の栄養培地をそのまま、或いは添加剤を添加して改変して用いることができる。既知の培地としては、例えば、MEM培地(Minimum Essential Medium)、BME培地(Basal Medium Eagle)、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、D-MEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハム培地(Ham’s F12)、RPMI培地(Roswell Park Memorial Institute medium)、Fischer’s培地、毛乳頭細胞増殖培地及びこれらの混合培地等を挙げることができる。
【0029】
添加剤としては、血清含有培地であっても、無血清培地であっても、血清代替物を含有する培地であってもよい。該血清代替物としては、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素(例えば亜鉛、セレン等)、栄養因子(EGF(上皮成長因子)、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)等)、B-27(商標)サプリメント、N2サプリメント、ノックアウトシーラムリプレースメント、2-メルカプトエタノールが挙げられる。さらには、必要に応じてビタミン、緩衝剤、無機塩類、抗生物質(例えば、ペニシリン、カナマイシン、ストレプトマイシン)等、培地に通常用いられる成分が挙げられる。
【0030】
培養開始時の細胞の播種密度は、特に限定されないが、例えば、培養器に対して0.15×104~10×104cells/cm2、好ましくは0.5×104~2.0×104cells/cm2である。
【0031】
培養条件は、特に限定されるものではないが、培養温度は、例えば30~40℃、好ましくは36℃~38℃であり、また、CO2濃度は、例えば3~10%、好ましくは4~6%である。また、酸素濃度は例えば1~25%、好ましくは2~20%である。培養は、細胞のコロニーの密度が培養器に対して80%前後に達するまで行うことが好ましい。
【0032】
斯くして、培養された毛乳頭細胞は、毛包誘導能を維持している。毛包誘導能を有することの確認は、毛包誘導能とその活性の関連性が報告されているアルカリフォスファターゼ(ALP)活性や、毛包誘導能を発揮するためのタンパク質や当該タンパク質をコードする遺伝子の発現の有無や、顕微鏡観察による細胞形態などを評価することによって行うことができる。例えば、タンパク質の発現は抗原抗体反応を利用した方法等によって確認することができ、遺伝子の発現はノーザンブロット法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などを利用した方法等によって確認することができる。
なお、毛包誘導能が高まるとその発現が増加する分子として、アルカリフォスファターゼ(ALP)、Wingless related MMTV integration site 5A(WNT5A;胎仔期の毛包発生に関与)、Bone morphogenetic protein 4(BMP4;胎仔期の毛包発生に関与)、Lymphoid enhancer binding factor 1(LEF1;毛包原基発生時におけるE-cadhelinの発現抑制に関与)、Low-density lipoprotein receptor-related protein 4(LRP4;毛乳頭細胞マーカー)等が挙げられ、毛包誘導能が高まるとその発現が低下する分子としてDickkopf-1(DKK-1;脱毛症患者で高発現)が報告されている(文献;J Cell Sci. 2012 125: 4114-4125)。
【0033】
斯様に、本発明の毛乳頭細胞をエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で培養する方法によれば、毛乳頭細胞の毛包誘導能の維持又は促進が可能となる。したがって、エミリン又はそのフラグメントは、毛乳頭細胞の培養の際に培地に添加等して使用される、毛包誘導能の維持又は促進剤となり得る。
【0034】
上述した実施形態に関し、本発明においては更に以下の態様が開示される。
<1>毛乳頭細胞をエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で培養する、毛乳頭細胞の培養方法。
<2>エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材上で行われる、或いはエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を培地に添加することにより行われる、<1>の方法。
<3>培養がエミリン又はそのフラグメント以外の足場材又は細胞接着分子を用いてコーティングされた培養器中で、エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を添加して行われる、<2>の方法。
<4>エミリン又はそのフラグメントの培地中の含有量が培地1mLあたりの最終濃度として、0.1~100μg、好ましくは0.2~20μgになるように調整される、<1>~<3>のいずれかの方法。
<5>エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材における該エミリン又はそのフラグメントの含有量が、該培養基材が培養物と接触する面積1cm2あたり、0.05~50μg、好ましくは0.1~10μg、より好ましくは0.2~3μgである、<2>の方法。
<6>エミリンがエミリン-1である、<1>~<5>のいずれかの方法。
<7>エミリンのフラグメントがgC1qドメインを含むものである、<1>~<5>のいずれかの方法。
<8>エミリンのフラグメントがエミリン-1のC末端フラグメントである、<7>の方法。
<9>エミリンのフラグメントが120~200個のアミノ酸からなるエミリン-1のC末端フラグメントである、<7>の方法。
<10>毛乳頭細胞をエミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で培養する工程を含む、毛乳頭細胞の毛包誘導能の維持又は促進方法。
<11>エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、毛乳頭細胞の毛包誘導能維持又は促進剤。
<12>毛乳頭細胞の毛包誘導能維持又は促進剤製造における、エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の使用。
<13>毛乳頭細胞の毛包誘導能維持又は促進をするための、エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の使用。
<14>毛乳頭細胞の毛包誘導能維持又は促進に使用するための、エミリン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種。
<15>上記<11>~<14>において、エミリンがエミリン-1である。
<16>上記<11>~<14>において、エミリンのフラグメントがgC1qドメインを含むものである。
<17>上記<16>において、エミリンのフラグメントがエミリン-1のC末端フラグメントである。
<18>上記<16>において、エミリンのフラグメントが120~200個のアミノ酸からなるエミリン-1のC末端フラグメントである。
【実施例】
【0035】
参考例1 ヒト組換えEMILIN-1 C末端フラグメントの作製
エミリンフラグメントとして、ヒト組換えEMILIN-1 C末端フラグメント(以下、「EM1-C」と記す)を以下に示す方法により作製した。
【0036】
最初に、Human Fetal Heart Total RNA(クロンテック社)をSuperScriptTM III First-Strand Synthesis System(商品名、インビトロジェン社)で逆転写したcDNAを鋳型として、以下の3種類のプライマーセットを用いてPCRを行い、ヒトEMILIN-1フラグメントをコードするcDNAを増幅した。
(i)ヒトEMILIN-1第1フラグメント増幅用プライマー
5’-atatatgctagccactgtggagcgccccgccatg-3’(forward、配列番号2)
5’-tccctgccccgcggctcctc-3’(reverse、配列番号3)
(ii) ヒトEMILIN-1第2フラグメント増幅用プライマー
5’-atgtcgtggccggctcagtgacagtg-3’(forward、配列番号4)
5’-cctcctgctgcagcctgttaatctcagaaatgatacggtc-3’(reverse、配列番号5)
(iii) ヒトEMILIN-1第3フラグメント増幅用プライマー
5’-gaccgtatcatttctgagattaacaggctgcagcaggagg-3’(forward、配列番号6)
5’-atatataagcttctaatgatgatgatgatgatgcgcgtgttcaagctctgggtcccc-3’(reverse、配列番号7)
【0037】
次に、ヒトEMILIN-1第2フラグメントと第3フラグメントをコードするcDNAを鋳型として、以下のプライマーセットを用いてPCRを行い、第2フラグメントと第3フラグメントを連結したフラグメントをコードするcDNAを増幅した。
(iv)第2と第3フラグメントを連結したフラグメントをコードするcDNA増幅用プライマー
5’-atgtcgtggccggctcagtgacagtg-3’(forward、配列番号4と同じ)
5’-atatataagcttctaatgatgatgatgatgatgcgcgtgttcaagctctgggtcccc-3’(reverse、配列番号7と同じ)
ヒトEMILIN-1第1フラグメントをコードするcDNAは制限酵素NheIとSacIIで、第2と第3フラグメントを連結したフラグメントをコードするcDNAは制限酵素SacIIとHindIIIで、酵素消化した。
【0038】
哺乳細胞用発現ベクターpSecTag2A(インビトロジェン社)を制限酵素NheIとHindIIIで切断し、当該部位に上記の酵素消化を行ったヒトEMILIN-1フラグメントをコードする各cDNAを挿入し、ヒト全長EMILIN-1の発現ベクターを作製した。
【0039】
次に、ヒト全長EMILIN-1の発現ベクターを鋳型として、以下のプライマーを用いたPCRを行い、ヒトEMILIN-1のC末端フラグメント(Ala845-Ala995ポリペプチド鎖[分泌シグナルを除いたヒトEMILIN-1アミノ酸配列N末端残基Alaを1位とする])をコードするcDNAを増幅した。
(v)ヒトEMILIN-1のC末端フラグメント増幅用プライマー
5’-ccaggttccactggtgaccatcatcatcatcatcatgaggagggacaagcacaggccggc-3’(forward、配列番号8)
5’-atatataagcttctacgcgtgttcaagctctgggtccccatagag-3’(reverse、配列番号9)
【0040】
また、哺乳細胞用発現ベクターpSecTag2A(インビトロジェン社)を鋳型として、以下のプライマーを用いたPCRを行い、pSecTag2A発現ベクターのIgκ分泌シグナル(Met-Glu-Thr-Asp-Thr-Leu-Leu-Leu-Trp-Val-Leu-Leu-Leu-Trp-Val-Pro-Gly-Ser-Thr-Gly-Asp(配列番号10))及び6×HisタグをコードするcDNAを増幅した。
(vi)Igκ分泌シグナル増幅用プライマー
5’-CGGTAGGCGTGTACGGTGGG-3’(forward、配列番号11)
5’-atgatgatgatgatgatggtcaccagtggaacctggaaccc-3’(reverse、配列番号12)
【0041】
上記で作製したIgκ分泌シグナルをコードするcDNAとヒトEMILIN-1のC末端フラグメントをコードするcDNAを鋳型として以下のプライマーを用いたPCRを行い、ヒト組換えEMILIN-1 C末端フラグメント(EM1-C)(N末端側にIgΚ分泌シグナルと6×Hisタグを含む)をコードするcDNAを増幅した。
(vii)EM1-CをコードするcDNA増幅用プライマー
5’-CGGTAGGCGTGTACGGTGGG-3’(forward、配列番号11と同じ)
5’-atatataagcttctacgcgtgttcaagctctgggtccccatagag-3’(reverse、配列番号9と同じ)
【0042】
増幅したcDNAを制限酵素NheIとHindIIIで切り出し、哺乳細胞用発現ベクターpSecTag2A(インビトロジェン社)の当該部位に挿入して、EM1-Cの発現ベクターを作製した。
【0043】
EM1-Cの発現は、作製した発現ベクターをヒト腎臓由来293F細胞(インビトロジェン社より購入)に導入して行った。600mLの293F細胞(1.0×106個/mL)にトランスフェクション試薬293fectin(商品名、インビトロジェン社)780μL及びOpti-MEM(商品名、インビトロジェン社)42mLを用いて発現ベクター600μgをトランスフェクトし、48時間培養を行ったのち、培養液を回収した。培養液は1000×gで15分間遠心し、その上清をさらに15,000×gで30分間遠心して細胞や不溶物を除去した。培養上清をプラスチック製三角フラスコ(コーニング社)に移して、1mLのcOmplete His-tag Purification Resin(商品名、Roche社)、プロテアーゼ阻害剤Pefabloc(商品名、Roche社、終濃度2000倍希釈)、イミダゾール(終濃度5mM)、アジ化ナトリウム(終濃度0.05%)を添加し、4℃で一晩旋回させながらインキュベートしてバッチ法で目的蛋白質を吸着させた。懸濁液をエコノカラムに移して、cOmplete His-tag Purification Resinを回収し、5mMイミダゾ-ル/TBS(-)(Ca、Mgを含まないトリス緩衝生理的食塩水)で洗浄したのち250mMイミダゾール/TBS(-)で溶出した。溶出されたフラクションを合わせて、遠心式限外ろ過フィルター(NMWL:30K、ミリポア社)に移し、遠心濃縮した。濃縮したフラクションを透析カセット(MWCO:20K、Thermo Fisher Scientific社)に移して、PBS(-)(Ca、Mgを含まないリン酸緩衝生理的食塩水)に対し透析を行った。透析した精製タンパク質溶液を回収して、0.22μmディスクフィルターでフィルター滅菌し、BCA法で定量した。精製したEM1-C(N末端側に6×Hisタグを含む)はSDS-PAGE後に銀染色を行って純度を確認した。
【0044】
実施例1 正常ヒト頭髪毛乳頭細胞の培養
1.細胞培養
正常ヒト頭髪毛乳頭細胞(TOYOBO:CA602t05a)をコラーゲンタイプIコートディッシュ100mm(IWAKI:4020-010)上に播種し、毛乳頭細胞増殖培地(TOYOBO:TMTPGM-250)を用いて培養した。Accutase(Innovative Cell Technologies:AT104)を用いて80%~90%コンフルエントの毛乳頭細胞を剥離し、コラーゲンタイプIコート ディッシュ35mm(IWAKI:4000-010)もしくは100nMのEM1-Cを1ウェル当たり2mL添加し37℃で1時間静置してコーティングした6ウェルプレート(Falcon:353046)上にそれぞれ0.67×104/cm2もしくは1.0×104/cm2となるように播種し、毛乳頭細胞増殖培地を用いて37℃、5%CO2のインキュベーターで3日間培養した。
【0045】
2.毛包誘導能の確認(アルカリフォスファターゼ染色)
培養した毛乳頭細胞をアルカリフォスファターゼ染色した。アルカリフォスファターゼ染色は、Blue Alkaline Phosphatase Substrate Kit(Vector laboratories:SK-5300)を用い、添付のプロトコールに従って行った。
【0046】
細胞をアルカリフォスファターゼ染色した結果を
図1に示した。EM1-Cをコーティングしたプレート上で培養した毛乳頭細胞は、コラーゲンタイプIをコーティングしたプレート上で培養した毛乳頭細胞よりもアルカリフォスファターゼ活性染色で強く染色された。
以上の結果から、エミリン-1は毛乳頭細胞の毛包誘導能を上昇させていると考えられた。
【0047】
3.毛乳頭細胞の遺伝子発現
培養した毛乳頭細胞の遺伝子発現状況を定量的PCR法により調べた。各サンプルからRNeasy Mini kit(QIAGEN:74104)を用い、RNAを抽出した。各Total RNAの濃度を測定し、一定量のtotal RNAを用いて逆転写反応を行った。逆転写反応にはHigh capacity RNA-to-cDNA Kit(Applied Biosystems:4387406)を用いた。定量的PCR法による遺伝子発現は、得られたcDNAサンプル1μLとTaqman Probe(Applied Biosystems:4448892)を用いて、QuantStudio Realtime PCR system(Applied Biosystems)で検出定量した。増幅条件は20μLの反応系で95℃、15秒の変性反応、60℃、1分のアニーリング、伸長反応にて行った。各遺伝子発現量はΔCt法にて算出した値を、RPLP0の発現量により補正し、それぞれの遺伝子発現量はコラーゲン-1上で培養した毛乳頭細胞における発現量を1.0として相対値で示した。
【0048】
定量的PCR法により調べた毛乳頭細胞の遺伝子発現の結果を
図2に示した。EM1-Cをコーティングしたプレート上で培養した毛乳頭細胞は、コラーゲンタイプIをコーティングしたプレート上で培養した毛乳頭細胞よりも毛包誘導能との関連が示唆されているAlkaline Phosphatase(ALP)発現の増加が確認された。また、胎仔期の毛包発生に関与しているWingless related MMTV integration site 5A(WNT5A)やBone morphogenetic protein 4(BMP4)、毛包原基発生時におけるE-cadhelinの発現を抑制するLymphoid enhancer binding factor 1(LEF1)の発現増加も確認された。毛乳頭細胞マーカーであるLow-density lipoprotein receptor-related protein 4(LRP4)の発現の増加が確認され、脱毛症患者で発現が高いDickkopf-1(DKK-1)は発現の低下が確認された。さらに、EM1-C上で毛乳頭細胞を培養すると、エミリン-1遺伝子の発現増加が確認された。
【0049】
以上の結果から、エミリン-1は毛乳頭細胞の毛包誘導能を上昇させる可能性があると考えられた。
【0050】
実施例2 多能性幹細胞由来毛乳頭細胞のエミリン-1上での培養
<多能性幹細胞由来毛乳頭細胞の調製>
1.皮膚由来多能性前駆細胞(SKPs)の作製
(1)iPS細胞の培養
多能性幹細胞として、ヒト由来のiPS細胞(クローン名:1231A3)を用いた。細胞は入手機関が推奨する培養方法に従って維持培養した。すなわち、ヒトiPS細胞用培地としてStemFit(登録商標)(AK02N、味の素株式会社製)を用いて、37℃、5%CO2のインキュベーターで、Sci. Rep, 4, 2014, 3594; DOI:10.1038/srep03594に記載の方法に従って、細胞を培養した。その時に足場用の分子として、ヒトパールカンのドメインI(Gly25-Pro196)(以下、Pln-D1ともいう)フラグメントがヒトラミニンα1鎖E8フラグメントのC末端部に融合したラミニン111E8フラグメント(以下、パールカン修飾LM111E8、P-LM111E8ともいう)〔PCT/JP2020/029855、特願2020-132547及び特願2019-144899に記載の方法に従って調製〕をDPBSに溶解し、事前に0.5μg/コーティング面積cm2の濃度でコーティングしたディッシュを用いて培養を行った。
【0051】
(2)ヒトiPS細胞由来神経堤幹(NCS)細胞の調製
Nature protocols, 2010, 5:688-701、又はCell reports, 2013, 3:1140-1152に記載の方法に基づいて、(1)で培養したiPS細胞をNCS細胞へと分化させた。該iPS細胞を、noggin(R&D systems社製、カタログ番号:6057-NG-100/CF、500ng/mL)及び/又はSB431542(TOCRIS社製、カタログ番号:1614、10μM)を含むStemFit(登録商標)AK02N(添加剤C(-))培地で5日間~2週間培養することにより、NCS細胞への分化を誘導した。なお、iPS細胞からNCS細胞への分化誘導時には継代しないことから、iPS細胞培養時にコーティングしたP-LM111E8がそのまま足場用分子として存在している。
【0052】
(3)NCS細胞からSKPsへの分化誘導
B-27(商標)サプリメント(Life Technologies社製、カタログ番号:17504-044、2質量%)、EGF(R&D systems社製、カタログ番号:336-EG-200、20ng/mL)、bFGF(Wako社製、カタログ番号:064-04541、40ng/mL)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies社製、カタログ番号:15140-122、50U、50μg/mL)、及びCHIR99021(Cayman社製、カタログ番号:13122、3μM)を含むDMEM/F12培地(Life Technologies社製、カタログ番号:10565-018)により、(2)で調製したNCS細胞を3~5日間培養して、NCS細胞からSKPsへの分化を誘導した。なお、NCS細胞からSKPsへの分化誘導時には継代しないことから、iPS細胞培養時にコーティングしたP-LM111E8が足場用分子としてそのまま存在している。次いで、SKPsへ分化した細胞を培養細胞分離/分散溶液(商品名:Accutase、BD Biosciences社製、カタログ番号:561527)を用いて、P-LM111E8足場なしで継代培養し、次いでB-27(商標)サプリメント(2質量%)、EGF(20ng/mL)、bFGF(40ng/mL)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies社製、カタログ番号:15140-122、50U、50μg/mL)を含むD-MEM/F12培地でさらに培養した。得られたSKPsを毛乳頭細胞として以下の実験に用いた。
【0053】
<多能性幹細胞由来毛乳頭細胞のエミリン-1上での培養>
1.細胞培養
上記のように多能性幹細胞由来SKPsを毛乳頭細胞として、コート無しディッシュ(IWAKI:3000-035)もしくは0.5μg/cm2のEM1-Cを37℃で1時間静置してコーティングした同ディッシュ上にそれぞれ播種し、B27 supplement(Life Technologies社製、カタログ番号:17504-044、2質量%)、EGF(R&D Systems社製、カタログ番号:336-EG-200、20ng/mL)、bFGF(Wako社製、カタログ番号:064-04541、40ng/mL)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies社製、カタログ番号:15140-122、50U、50μg/mL)を含むD-MEM/F12培地(Life Technologies社製、カタログ番号:10565-018)を用いて37℃、5%CO2のインキュベーターで3日間培養した。
【0054】
このように培養して得られた毛乳頭細胞の様子を示す顕微鏡写真を
図3に示す。多能性幹細胞由来の毛乳頭細胞についても、エミリン-1上で培養することにより、細胞の生育が良好であると考えられた。
【0055】
2.多能性幹細胞由来毛乳頭細胞の遺伝子発現
培養した多能性幹細胞由来毛乳頭細胞の遺伝子発現状況を定量的PCR法により調べた。各サンプルからRNeasy Mini kitを用い、RNAを抽出した。各Total RNAの濃度を測定し、一定量のtotal RNAを用いて逆転写反応を行った。逆転写反応にはHigh capacity RNA-to-cDNA Kitを用いた。定量的PCR法による遺伝子発現は、得られたcDNAサンプル1μLとTaqman Probeを用いて、QuantStudio Realtime PCR systemで検出定量した。増幅条件は20μLの反応系で95℃、15秒の変性反応、60℃、1分のアニーリング、伸長反応にて行った。各遺伝子発現量はΔCt法にて算出した値を、RPLP0の発現量により補正し、それぞれの遺伝子発現量はコラーゲンタイプI上で培養した毛乳頭細胞における発現量を1.0として相対値で示した。
【0056】
定量的PCR法により調べた多能性幹細胞由来毛乳頭細胞の遺伝子発現の結果を
図4に示した。P-LM111E8フラグメントを用いて作製した多能性幹細胞由来毛乳頭細胞をEM1-C上で培養すると、毛包誘導能との関連が示唆されているALP発現の増加が確認された。また、胎仔期の毛包発生に関与しているBMP4、毛包原基発生時におけるE-cadhelinの発現を抑制するLEF1の発現増加も確認された。さらに、毛乳頭細胞マーカーであるLRP4の発現の増加も確認された。
【0057】
以上の結果から、エミリン-1は多能性幹細胞由来毛乳頭細胞の毛包誘導能を上昇させる可能性あると考えられた。
【配列表】