(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 11/145 20060101AFI20230523BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230523BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20230523BHJP
A61Q 5/02 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
C08B11/145
A61K8/73
A61Q5/00
A61Q5/02
(21)【出願番号】P 2018232844
(22)【出願日】2018-12-12
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【氏名又は名称】佐々木 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100142295
【氏名又は名称】深海 明子
(72)【発明者】
【氏名】高井 雅規
(72)【発明者】
【氏名】福原 智佳子
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/059063(WO,A1)
【文献】特開平07-258041(JP,A)
【文献】特開2015-030718(JP,A)
【文献】特表2008-536959(JP,A)
【文献】特開2010-037670(JP,A)
【文献】特開2016-130285(JP,A)
【文献】特表平11-500482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 11/145
A61K 8/73
A61Q 5/00
A61Q 5/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1及び工程2をこの順で含む、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法。
工程1:18質量%水酸化ナトリウム可溶分が5.6質量%以下であるパルプを粉砕して粉末状セルロースを得る工程
工程2:工程1で得られた粉末状セルロースに、
炭素数2以上4以下のアルキレンオキシドと
、下記式1又は2で表されるカチオン化剤とを反応させる工程
【化1】
式(1)及び(2)中、R
21
~R
23
はそれぞれ独立に、炭素数1以上24以下の炭化水素基を示し、Aはハロゲン原子を示し、X
-
はアニオンを示し、tは0以上3以下の整数を示す。
【請求項2】
工程1で得られたセルロースの粘度平均分子量が10万以上18万以下である、請求項1に記載のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法。
【請求項3】
工程1で得られたセルロースが、結晶化指数が30%以下である非晶質セルロースである、請求項1
又は2に記載のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法。
【請求項4】
工程1の前に、更に、パルプの18質量%水酸化ナトリウム可溶分が5.6質量%以下であることを確認する工程を有する、請求項1~
3のいずれかに記載のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の製造方法により得られたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースと、界面活性剤とを混合する、毛髪化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、毛髪化粧料のコンディショニング剤には、指通り性、柔らかさ、まとまりを向上させるために、一般にカチオン性ポリマーが配合される。
特許文献1には、使用後のべたつき感がなく、優れた指通り性、コート感、まとまり感を髪に付与することができる毛髪化粧料を提供することを課題として、界面活性剤及びカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを含有する毛髪化粧料であって、該カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースが、アンヒドログルコース由来の主鎖を有し、かつカチオン化エチレンオキシ基の置換度が0.01~2.5であり、プロピレンオキシ基の置換度が0.1~2.8である、毛髪化粧料が開示されている。
また、毛髪のセット保持力を向上させるために、ヘミセルロースを配合することも知られている。
特許文献2には、セット保持力に優れ、良好な使用感触を有する毛髪化粧料を提供することを課題として、ヘミセルロースを1種又は2種以上配合したことを特徴とする毛髪化粧料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/059063号
【文献】特開平7-258041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、使用後のべたつき感がなく、優れた指通り性、コート感、まとまり感を髪に付与することができる毛髪化粧料として、特定のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを用いることが記載されており、特許文献2では、ヘミセルロースを配合することにより、毛髪のセット性が向上することが記載されているが、洗浄時の泡のすべり、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさについては、未だ十分とはいえない。
本発明は、毛髪洗浄時の泡のすべりがよく、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさに優れる毛髪洗浄剤を得ることを課題として、それに配合されるカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法及び該カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを含有する毛髪化粧料の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定のパルプ原料を使用することにより、上記の課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は、次の〔1〕及び〔2〕に関する。
〔1〕 下記工程1及び工程2をこの順で含む、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法。
工程1:18質量%水酸化ナトリウム可溶分が5.6質量%以下であるパルプを粉砕して粉末状セルロースを得る工程
工程2:工程1で得られた粉末状セルロースに、アルキレンオキシドとカチオン化剤とを反応させる工程
〔2〕 〔1〕に記載の製造方法により得られたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースと、界面活性剤とを混合する、毛髪化粧料の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、毛髪洗浄時の泡のすべりがよく、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさに優れる毛髪洗浄剤に配合されるカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法及び該カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを含有する毛髪化粧料の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法]
本発明のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース(以下、「C-HAC」ともいう。)の製造方法は、下記工程1及び工程2をこの順で有することを特徴とする。
工程1:18質量%水酸化ナトリウム可溶分が5.6質量%以下であるパルプを粉砕して粉末状セルロースを得る工程
工程2:工程1で得られた粉末状セルロースに、アルキレンオキシドとカチオン化剤とを反応させる工程
【0008】
カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを配合した毛髪化粧料において、十分な洗浄時の泡すべりや、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさが得られない場合があった。
本発明者等は、原料であるパルプに着目して検討した結果、18質量%水酸化ナトリウム可溶分が5.6質量%以下であるパルプ原料を使用することにより、上記の問題が解決され、安定して優れた性能が得られることを見出した。その詳細な機構は不明であるが、以下のように推察される。
ISO692:1982による18質量%水酸化ナトリウム可溶分(以下、S18ともいう。)は、ヘミセルロース量と相関があることが一般的に知られている(例えば、特開2013-179036号公報参照、測定方法としては、例えば、TAPPI T235参照)。18質量%水酸化ナトリウム可溶分(S18)が少ないパルプは、ヘミセルロース量が少ないと考えられる。ここで、本発明者等は、シャンプー剤に対して、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースと共に、別途パルプより抽出したヘミセルロースを添加して、評価を行ったところ、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースと共に、ヘミセルロースを別途添加したシャンプー剤では、洗浄時の泡のすべりが悪く、泡がつぶれたような状態となった。また、すすぎ時には髪のなめらかさに劣り、きしみが強くなった。そこで、シャンプー剤等の毛髪化粧料においては、ヘミセルロース量が多い原料を使用した場合に、洗浄時の泡のすべり、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさといった、優れた効果が十分に得られないのではないかと考え、ヘミセルロース量の指標として18質量%水酸化ナトリウム可溶分を採用し、原料パルプの18質量%水酸化ナトリウム可溶分と、得られたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを毛髪化粧料に配合した場合の評価との関係を評価した結果、18質量%水酸化ナトリウム可溶分が5.6質量%以下であるパルプを使用することで、優れた効果が得られることを見出したものである。
この理由は不明であるが、ヘミセルロースの主成分として、キシラン、アラビノキシラン、マンナン、グルコマンナン、グルクロノキシラン等が含まれており、これらの分岐鎖を有する多糖類が存在すると、泡膜の安定性への影響があると考えられる。また、毛髪に上記の分岐鎖を有する多糖類が吸着すると、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの毛髪への均一な吸着に影響を及ぼすため、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの本来の機能が発揮できなくなるためと考えられる。
以下、本発明の製造方法で用いられる各成分、及び各工程等について順次説明する。
【0009】
<工程1>
(パルプ)
本発明において原料として使用されるパルプは、18質量%水酸化ナトリウム可溶分が5.6質量%以下である。ここで、18質量%水酸化ナトリウム可溶分は、パルプ中のヘミセルロース量と相関していると考えられ、18質量%水酸化ナトリウム可溶分が多いと、含有するヘミセルロース量が多いことを意味する。
ここで、18質量%水酸化ナトリウム可溶分は、洗浄時の泡すべりがよく、すすぎ時及び乾燥後の髪の滑らかさに優れる毛髪洗浄料を得る観点から、5.6質量%以下、好ましくは5.5質量%以下、より好ましくは5.4質量%以下、更に好ましくは5.3質量%以下である。また、18質量%水酸化ナトリウム可溶分の下限は特に限定されないが、パルプの製造の容易性の観点及び入手容易性の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは4質量%以上である。
18質量%水酸化ナトリウム可溶分は、実施例に記載の方法により測定される。
【0010】
なお、パルプの18質量%水酸化ナトリウム可溶分は、原料となる木材の種類、パルプ製造時の条件を選択することで、5.6質量%以下とすることができる。
パルプ原料としては、広葉樹及び針葉樹のいずれを使用してもよいが、S18が5.6質量%以下のパルプを効率的に得る観点から、針葉樹が好ましく、例えば、松などが好ましく例示される。
また、木材を、蒸解工程及び漂白工程によりパルプとする場合には、蒸解工程の熱アルカリ工程が特に重要であり、熱アルカリ工程の温度、時間により、ヘミセルロース量を制御することもできる。
【0011】
本発明において、工程1の前に、更に、パルプの18質量%水酸化ナトリウム可溶分(S18)が5.6質量%以下であることを確認する工程を有することが好ましい。
上記の確認する工程は、本発明のC-HACの製造方法における原料となるパルプの18質量%水酸化ナトリウム可溶分(S18)を測定し、S18が5.6質量%以下であれば、本発明の原料として使用に適することを判断する工程である。
ここで、既にS18を測定し、S18が5.6質量%以下であった同じロットのパルプが存在するような場合や、S18が5.6質量%以下であることが保証されているパルプについては、S18が5.6質量%であることが確認されているので、測定を省略してもよい。
【0012】
本発明において原料として使用されるパルプの極限粘度数(Viscosity)は、セルロースの粘度平均分子量を調整して、毛髪洗浄時の泡のすべり、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさを向上させる観点から、好ましくは1450mL/g以上、より好ましくは1490mL/g以上、更に好ましくは1510mL/g以上であり、そして、好ましくは1600mL/g以下、より好ましくは1570mL/g以下、更に好ましくは1550mL/g以下である。
パルプの極限粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0013】
工程1では、汎用原料として得られるシート状やロール状のセルロース純度の高いパルプを粉砕して、粉末状セルロースを調製することができる。粉末セルロースの調製方法は特に限定されない。例えば、特開昭62-236801号公報、特開2003-64184号公報、特開2004-331918号公報等に記載の方法を挙げることができる。
工程1における粉砕処理方法としては、例えば、S18が5.6質量%以下であるパルプを、必要に応じて裁断処理及び乾燥処理した後、粉砕機により粉砕処理する方法が挙げられる。特に後述するように、粉砕処理を多段階に分けて行う方法、すなわち、パルプを粗粉砕処理し、次いで、小粒径化処理を行う方法を採用することが好ましい。当該粉砕処理では、パルプを粉末化すると共に、後述する結晶化指数を低減することができ、工程2におけるカチオン化剤及びアルキレンオキシドとの反応性が向上するので好ましい。以下、裁断処理、乾燥処理及び粉砕処理について説明する。
【0014】
(裁断処理)
パルプの種類や形状によっては、前処理として裁断処理を行うことが好ましい。パルプを裁断する方法は、パルプの種類や形状により適宜選択することができるが、例えば、シュレッダー、スリッターカッター及びロータリーカッターから選ばれる1種以上の裁断機を使用する方法が挙げられる。
シート状のパルプを用いる場合、裁断機としてシュレッダー又はスリッターカッターを使用することが好ましく、生産性を向上させる観点から、スリッターカッターを使用することがより好ましい。
スリッターカッターは、シートの長手方向に沿った縦方向にロールカッターで縦切りして、細長い短冊状とし、次に、固定刃と回転刃でシートの幅方向に短く横切りする裁断機であって、スリッターカッターを用いることにより、原料であるパルプの形状をさいの目形状にすることができる。スリッターカッターとしては、株式会社荻野精機製作所製の裁断機(スーパーカッター)、株式会社ホーライ製のシートペレタイザー等を好ましく使用できる。
【0015】
裁断処理後に得られるセルロース含有原料の大きさとしては、生産性を向上させる観点から、好ましくは1mm角以上、より好ましくは1.5mm角以上であり、後の粉砕処理における粉砕に要する負荷を軽減する観点、及び後述する乾燥処理を効率よく容易に行う観点から、好ましくは70mm角以下、より好ましくは50mm角以下である。
【0016】
(乾燥処理)
一般に、市販のパルプ類は、通常5~30質量%程度の水分を含有している。従って、通常、パルプ、好ましくは裁断処理後に得られる裁断物の乾燥処理を行うことによって、パルプの水分量を調整することが好ましい。
乾燥方法としては、公知の乾燥手段を適宜選択すればよく、例えば、「粉体工学概論」(社団法人日本粉体工業技術会編集 粉体工学情報センター1995年発行)176頁に記載の方法が挙げられる。該乾燥手段としては、熱風受熱乾燥法、伝導受熱乾燥法、除湿空気乾燥法、冷風乾燥法、マイクロ波乾燥法、赤外線乾燥法、天日乾燥法、真空乾燥法、凍結乾燥法等が挙げられる。
これらの乾燥方法は1種でも又は2種以上を組み合わせて使用してもよく、効率よく乾燥を行う観点から、伝導受熱乾燥法が好ましい。乾燥処理はバッチ処理、連続処理のいずれでも可能であるが、生産性を向上させる観点から連続処理が好ましい。
【0017】
乾燥処理を経て粉砕処理に供されるパルプの水分量の下限は、パルプに対して0質量%であるが、生産性を向上させる観点から、該水分量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また、粉砕処理においてパルプを効率よく粉砕及び低結晶化する観点、及び、最終的に得られるC-HACの水溶液の透明性を向上させる観点から、当該水分量は好ましくは2.5質量%以下であり、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.8質量%以下である。
当該水分量は、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0018】
(粉砕処理)
水分量の低い粉末セルロースを得る観点から、粉砕処理は、好ましくはパルプ中の水分量が2.5質量%以下の条件下で行うことが好ましい。
パルプを効率よく粉末化及び低結晶化し、工程2における反応性を向上させる観点から、粉砕処理は多段階に分けて行うことが好ましい。粉砕処理を多段階に分けて行う場合、裁断処理及び乾燥処理を行ったパルプを粗粉砕処理し、次いで、小粒径化処理を行う方法が好ましい。
粉砕処理で用いられる粉砕機に特に制限はなく、パルプを粉末化し、結晶化指数を所定の値以下に低減できる装置であればよいが、後述する振動ロッドミルを用いることが好ましく、振動ロッドミル及び高速回転式微粉砕機を用いることがより好ましい。より詳細には、粗粉砕処理において振動ロッドミルを用い、小粒径化処理において高速回転式微粉砕機を用いることがより好ましい。
【0019】
〔粗粉砕処理〕
粗粉砕処理では、必要に応じ裁断処理及び乾燥処理を行ったパルプを粗粉砕し、粉末化及び低結晶化する。粗粉砕処理においては短時間で大量の処理を行うことが可能であるため、低結晶化された粉末状セルロースを効率よく得ることができる。以下、粗粉砕処理後に得られるセルロースを「粗粉砕セルロース」ともいう。
粗粉砕処理に用いられる粉砕機の具体例としては、高圧圧縮ロールミルや、ロール回転ミル等のロールミル、リングローラーミル、ローラーレースミル又はボールレースミル等の竪型ローラーミル、転動ボールミル、振動ボールミル、振動ロッドミル、振動チューブミル、遊星ボールミル又は遠心流動化ミル等の容器駆動式媒体ミル、高速遠心ローラーミルやオングミル等の圧密せん断ミル、乳鉢、石臼、マスコロイダー、フレットミル、エッジランナーミル、ナイフミル、カッターミル等が挙げられる。これらの粉砕機は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、パルプの粉砕効率及び低結晶化効率を向上させる観点から、容器駆動式媒体ミルが好ましく、振動ボールミル、振動ロッドミル又は振動チューブミル等の振動ミルがより好ましく、振動ロッドミルが更に好ましい。粉砕方法としては、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
粉砕処理に用いる粉砕機の材質、媒体の材質としては、セルロース含有原料の粉砕効率の観点から、鉄、ステンレス、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素が好ましく、更に工業的な利用の観点から、鉄又はステンレスがより好ましい。
【0020】
上記の処理方法により、パルプから、粗粉砕セルロースを効率よく得ることができる。粗粉砕処理では、粗粉砕セルロースの再凝集を抑制し、また、粉砕機の内部に粉砕物を固着させずに、乾式にて処理することができる。
また、セルロースの低結晶化は主に粗粉砕処理において行われるため、粗粉砕処理で得られる粗粉砕セルロースの結晶化指数は、-3.5%以下であることが好ましい。
粗粉砕後の粗粉砕セルロースのD50は、好ましくは80μm以上であり、そして、好ましくは300μm以下である。
【0021】
〔小粒径化処理〕
小粒径化処理では、粗粉砕処理で得られた粗粉砕セルロースを更に粉砕し、小粒径化する。粗粉砕処理に続いて小粒径化処理を行うことで、体積中位粒径(D50)がより低減された粉末状セルロースを効率よく得ることができる。
小粒径化処理に用いられる粉砕機としては、高速回転式微粉砕機が好ましい。高速回転式微粉砕機とは、ハンマー、ブレード、ピン等を高速回転させ、衝撃、せん断により粉砕筒内に装填された粗粉砕セルロースの粉砕を行う装置である。
【0022】
上記の粉砕処理により、パルプの粉末化及び低結晶化が進行し、本発明の製造方法に好適な粉末状セルロースを得ることができる。
最終的に得られるC-HACの水溶性を向上させる観点、及び、工程2で使用するカチオン化剤及びアルキレンオキシドとの反応性を向上させる観点から、粉砕処理後に得られる粉末状セルロースは、結晶化指数が30%以下である非晶質セルロースであることが好ましい。ここで、非晶質セルロースとは、セルロースの結晶構造においてアモルファス部の割合が多い状態を意味する。具体的には下記計算式(1)による結晶化指数が好ましくは30%以下、より好ましくは0%以下、更に好ましくは-5.0%以下あり、生産性の観点からは、好ましくは-30.0%以上である。粉末状セルロースの結晶化指数が上記範囲内であると、カチオン化剤及びアルキレンオキシドとの反応性に優れ、また、結晶部と非晶部の反応速度の差が少なく、カチオン化剤及びアルキレンオキシドとの反応均一性が向上する。
結晶化指数(%)=[(I22.6-I18.5)/I22.6]×100 (1)
(式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度を示し、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。)
【0023】
工程1により得られる粉末状セルロースの、セルロースの粘度平均分子量は、得られるC-HACを洗浄剤に配合した際の洗浄時の泡のすべり、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさを向上させる観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは11万以上、更に好ましくは12万以上、より更に好ましくは13万以上であり、同様の観点から、好ましくは18万以下、より好ましくは17万以下、更に好ましくは16万以下、より更に好ましくは15万以下である。
セルロースの粘度平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0024】
カチオン化剤及びアルキレンオキシドとの反応均一性を向上させる観点から、粉砕処理後に得られる粉末状セルロースは、水分量が、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.8質量%以下である。また、コストの観点から、該水分量は0質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。
【0025】
また、粉末状セルロースの生産性の観点から、粉砕処理後に得られる粉末状セルロースのD50は、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上である。また、工程2におけるカチオン化剤及びアルキレンオキシドとの反応均一性を向上させる観点からは、D50は、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下である。
【0026】
工程1では、塩基性化合物を添加せずに粉砕処理を行うことが好ましい。粉砕機内に塩基性化合物が滞留すると、コンタミネーションや、製品品質の不安定化の原因となる可能性があるが、これを回避できるためである。
【0027】
<工程2>
工程2では、工程1で得られた粉末状セルロースに、アルキレンオキシドとカチオン化剤とを反応させて、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロース(C-HAC)を得る。なお、以下の説明において、アルキレンオキシド及びカチオン化剤を総称して、「反応剤」ともいう。
なお、アルキレンオキシドとカチオン化剤との反応順序は特に限定されず、粉末状セルロースに対して、アルキレンオキシドとカチオン化剤とを同時に反応させてもよく、粉末状セルロースにカチオン化剤を反応させた後、アルキレンオキシドを反応させてもよく、これとは逆に、粉末状セルロースにアルキレンオキシドを反応させた後、カチオン化剤を反応させてもよい。これらの中でも、反応性の観点から、粉末状セルロースとアルキレンオキシドとを反応させた後、カチオン化剤を反応させることが好ましい。
【0028】
反応剤は、塩基性化合物の存在下に、粉末状セルロースと反応させることが好ましい。粉末状セルロースと塩基性化合物とから生成されるアルカリセルロースは反応剤との反応活性が高い。また塩基性化合物はセルロースと反応剤との反応における反応触媒としても作用する。そのため、所定量の塩基性化合物の存在下で粉末状セルロースと反応剤とを反応させることにより、C-HACを効率よく得ることができる。
【0029】
工程2の反応は、より詳細には、粉末状セルロースを撹拌しながら、所定量の塩基性化合物の存在下で、反応剤を添加して反応させることが好ましい。
塩基性化合物及び反応剤の添加順序には特に制限はないが、粉末状セルロースと塩基性化合物とを混合した後に、反応剤を添加して反応させることが好ましい。粉末状セルロースと塩基性化合物とを混合することで反応活性の高いアルカリセルロースが生成するので、その後の反応剤との反応が効率よく進行するためである。
【0030】
工程2の反応は、固相状態で行われることが好ましい。固相状態での反応とは、液相が実質的に存在しない状態での反応をいい、溶液中又は懸濁液中での反応とは異なるものである。
工程2の反応を固相状態で行うことにより、粉末状セルロースと反応剤との反応が効率よく進行する。また、例えば工程2の反応系内に大過剰の水が存在すると、アルキレンオキシドと反応させた場合に、アルキレンオキシドの水和反応(副反応)等が起こり、副生成物の生成及び収率低下が起こりやすくなる。そのため工程2の反応を固相状態で行い、かつ反応時の水分量を少なくすることで、上記副反応を抑制し、収率を向上させることができる。
【0031】
工程2における反応時の水分量は、粉末状セルロース中に塩基性化合物及び反応剤を均一に分散させる観点から、粉末状セルロース中のセルロースに対し、好ましくは0質量%超であり、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。また、副反応を抑制して収率を向上させる観点からは、好ましくは100質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
なお、粉末状セルロース中のセルロースの量とは、粉末状セルロースの質量から該粉末状セルロース中の水分量を差し引いた値を意味する。また工程2における反応時の水分量は、工程2に供される粉末状セルロース中の水分量と、工程2で添加する水の量の合計を意味する。
【0032】
例えば工程2では、まず、粉末状セルロース、塩基性化合物、必要に応じて水を加えて混合し、撹拌する。水を添加する場合、工程2の反応時の水分量が好ましくは上記範囲となるよう添加量を調整する。
水を添加する場合、塩基性化合物と水の添加順序に特に限定はなく、(i)塩基性化合物の添加後に水を添加する方法、(ii)塩基性化合物と水を同時に添加する方法、(iii)塩基性化合物を添加する水の一部又は全部に溶解して水溶液の形態で添加する方法、のいずれであってもよい。製造上の操作性の観点からは、(iii)の方法が好ましい。
【0033】
(塩基性化合物)
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン類等が挙げられる。これらの中ではアルカリ金属水酸化物、及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、アルカリ金属水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる1種以上が更に好ましく、水酸化ナトリウムがより更に好ましい。
上記の塩基性化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
塩基性化合物の使用量は、粉末状セルロースと反応剤との反応を効率よく進行させる観点から、粉末状セルロースのセルロースを構成するアンヒドログルコース単位(以下、「AGU」ともいう。)1モルに対し、好ましくは0.05モル当量以上、より好ましくは0.1モル当量以上、更に好ましくは0.5モル当量以上、、より更に好ましくは0.8モル当量以上である。
一方、反応剤との反応において副生成物を抑制し、収率(反応剤基準)を向上させる観点、過剰の塩基性化合物の除去処理を避ける観点から、工程2における塩基性化合物の使用量は、粉末状セルロースのAGU1モルに対して、好ましくは3.0モル当量以下、より好ましくは2.0モル当量以下、更に好ましくは1.5モル当量以下である。
【0034】
塩基性化合物を添加する方法としては、粉末状セルロース中に塩基性化合物を均一に分散させる観点から、粉末状セルロースに塩基性化合物の水溶液を噴霧して添加する方法が好ましい。
【0035】
粉末状セルロース、塩基性化合物、必要に応じて水を加えて撹拌する際の温度は、セルロースを活性化する観点から、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上であり、また、セルロースの重合度低下を抑制する観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。
撹拌時間は、アルカリセルロースの生成効率の観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.2時間以上である。また生産性の観点からは、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは12時間以下である。
セルロースの着色を避ける観点、反応中のセルロース鎖の開裂による分子量の低下を避ける観点から、上記撹拌、及び以後の反応は窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0036】
(反応剤)
次いで、上記方法で得られたアルカリセルロース(粉末状セルロース、塩基性化合物、及び水の混合撹拌物)に反応剤を添加して、粉末状セルロースと反応剤とを反応させる。
工程2で用いられる反応剤は、セルロースの第1級又は第2級の水酸基と反応して置換基を導入しうる化合物であり、カチオン化剤及びアルキレンオキシドである。
カチオン化剤及びアルキレンオキシドを用いる場合、反応剤の添加順序は特に制限されないが、上述したように、最初に粉末状セルロースとアルキレンオキシドとを反応させ、次いでカチオン化剤と反応させることが好ましい。この反応順序とすることで、より反応性が向上する。その理由は、より分子体積の小さい反応剤であるアルキレンオキシドから先に付加させることで、次いで反応させるカチオン化剤の付加が均一に進みやすくなるためと考えられる。
【0037】
〔アルキレンオキシド〕
アルキレンオキシドの使用量に限定はなく、所望の導入量に応じて適宜調整すればよい。得られるC-HACを洗浄剤に配合した際の洗浄時の泡のすべり、すすぎ時及び乾燥後のの髪のなめらかさを向上させる観点から、アルキレンオキシドの使用量は、工程2で用いられる粉末状セルロースのAGU1モルあたり、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは1.0モル以上、更に好ましくは3.0モル以上、より更に好ましくは3.5モル以上である。また、コストの観点から、アルキレンオキシドの使用量は、工程2で用いられる粉末状セルロースのAGU1モルあたり、好ましくは20モル以下、より好ましくは10モル以下、更に好ましくは8.0モル以下、より更に好ましくは5.0モル以下である。
【0038】
また、アルキレンオキシドが気体である場合、反応は加圧条件下で行うことが好ましい。
アルキレンオキシドは、一括で添加しても、連続的又は逐次的に添加してもよいが、上述する反応圧力となるように、連続的又は逐次的に添加することが好ましい。
アルキレンオキシドとしては、毛髪洗浄時の泡のすべりがよく、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさに優れる観点から、好ましくは炭素数2以上4以下のアルキレンオキシド、より好ましくはエチレンオキシド又はプロピレンオキシド、更に好ましくはプロピレンオキシドを含むことが好ましい。
【0039】
〔カチオン化剤〕
本発明に用いられるカチオン化剤は、下記式(1)又は式(2)で示される化合物が好ましい。
【0040】
【化1】
式(1)及び(2)中、R
21~R
23はそれぞれ独立に、炭素数1以上24以下の炭化水素基を示し、Aはハロゲン原子を示し、X
-はアニオンを示し、tは0以上3以下の整数を示す。
【0041】
式(1)及び式(2)中、R21~R23はそれぞれ独立に、炭素数1以上24以下の炭化水素基を示し、炭素数1以上4以下の直鎖又は分岐の炭化水素基であることが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基が例示される。これらの中でも、メチル基又はエチル基が好ましく、R21~R23の全てがメチル基又はエチル基であることがより好ましく、R21~R23の全てがメチル基であることが更に好ましい。
式(1)及び式(2)中、tは0以上3以下の整数を示し、好ましくは1以上3以下の整数、より好ましくは1又は2、更に好ましくは1である。
X-はアニオンを示し、第4級アンモニウムカチオンの対イオンである。具体的には、炭素数1以上3以下のアルキル硫酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、炭素数1以上3以下のカルボン酸イオン(ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン)、及びハロゲン化物イオンが例示される。
これらの中でも、製造の容易性及び原料入手容易性の観点から、X-は、好ましくは炭素数1以上3以下のアルキル硫酸イオン、硫酸イオン、及びハロゲン化物イオンから選択される1種以上、より好ましくはハロゲン化物イオンである。ハロゲン化物イオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、及びヨウ化物イオンが挙げられるが、得られる多糖誘導体の水溶性及び化学的安定性の観点から、好ましくは塩化物イオン及び臭化物イオンから選択される1種以上、より好ましくは塩化物イオンである。
X-は1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。
【0042】
前記式(1)又は(2)で表される化合物の具体例としては、原料の入手の容易性及び化学的安定性の観点から、グリシジルトリメチルアンモニウム又はグリシジルトリエチルアンモニウムの塩化物又は臭化物;3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム又は3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウムの塩化物;3-ブロモ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム又は3-ブロモ-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウムの臭化物から選ばれる1種以上が好ましく、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド及び3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドから選ばれる1種以上がより好ましい。
これらのカチオン化剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
使用するカチオン化剤の量は、得られるC-HACを洗浄剤に配合した際の洗浄時の泡のすべり、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさを向上させる観点から、粉末状セルロースのAGU1モルあたり、好ましくは0.01モル以上、より好ましくは0.1モル以上、更に好ましくは0.3モル以上、より更に好ましくは0.5モル以上であり、上記の観点及びC-HACの製造コストの観点から、好ましくは10モル以下、より好ましくは5モル以下、更に好ましくは3モル以下、より更に好ましくは1モル以下である。
【0044】
カチオン化剤の添加方法は一括、間欠、連続のいずれでもよい。
反応剤を添加する方法としては、粉末状セルロース中に反応剤を均一に分散させる観点から、粉末状セルロースに反応剤又は反応剤溶液を噴霧して添加する方法が好ましい。
【0045】
工程2における反応剤との反応温度及び反応時間は特に限定されず、使用する反応剤の種類等に応じて適宜選択できる。
【0046】
本発明における好ましい製造方法は以下の通りである。
まず、前述の方法で粉末状セルロース、塩基性化合物、必要に応じて水を加えて混合し撹拌した後に、アルキレンオキシドを添加して反応させ、ヒドロキシアルキルセルロースを得る。次いで、カチオン化剤を添加してヒドロキシアルキルセルロースと反応させ、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得る。この反応順序とすることで、より良好な反応性が得られる。
使用する各成分の種類及び量、反応条件、並びにそれらの好ましい態様は前記と同じである。
【0047】
工程2で用いる装置は、撹拌翼を内部に有する機械撹拌式混合機と、前記撹拌槽内に塩基性化合物及び反応剤を噴霧する噴霧装置とを有することが好ましい。
上記機械撹拌式混合機内に、塩基性化合物及び反応剤を供給する噴霧装置は、特に限定されない。例えば、一流体ノズル、二流体ノズル等の噴霧ノズルを有する噴霧装置が好ましい。
噴霧ノズルによるスプレーパターンは、特に限定されないが、例えば、充円錐、空円錐、充角錐、扇形が挙げられる。
【0048】
工程2の反応終了後は、必要に応じて塩基性化合物の中和、含水イソプロパノール、含水アセトン溶媒等での洗浄等の精製操作を行って、C-HACを単離することもできる。
【0049】
<カチオン化ヒドロキシアルキルセルロース>
(置換度)
本発明により得られるカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース(C-HAC)のアルキレンオキシ基の置換度は、洗浄時の泡のすべりがよく、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさに優れる観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは1.5以上、より更に好ましくは2以上、より更に好ましくは2.2以上であり、同様の観点から、好ましくは3以下、より好ましくは2.8以下、更に好ましくは2.6以下である。
本発明においてアルキレンオキシ基の置換度とは、C-HAC分子中に存在するアルキレンオキシ基の、セルロース主鎖を構成するアンヒドログルコース単位1モルあたりに対する平均モル数をいう。アルキレンオキシ基の置換度は、後述の実施例に記載の方法によ
り測定される。
【0050】
本発明により得られるC-HACのカチオン性基の置換度は、洗浄時の泡のすべりがよく、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさに優れる観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上であり、より更に好ましくは0.15以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.3以下、より更に好ましくは0.25以下、である。
本発明においてカチオン性基の置換度とは、C-HAC分子中に存在するカチオン性基の、セルロース主鎖を構成するアンヒドログルコース単位1モルあたりに対する平均モル数をいう。カチオン性基の置換度は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0051】
(透明性)
本発明により得られるC-HACは、その水溶液高い透明性を有することが好ましい。具体的には、C-HACを2%水溶液とした場合に、外観が透明性に優れるものであることが好ましい。
【0052】
(用途)
本発明により得られるC-HACの用途としては特に限定されず、例えば、シャンプーやリンス、トリートメント、コンディショナー等の毛髪化粧料組成物の配合成分や分散剤、改質剤、凝集剤等の幅広い分野で利用することができる。当該C-HACは粉末状態で用いてもよく、水に溶解させて水溶液の状態で用いることもできる。
【0053】
<カチオン化ヒドロキシアルキルセルロース水溶液の製造>
本発明の製造方法で得られたC-HACの水溶液の調製方法は特に限定されないが、例えば、水と混合し、好ましくは40~90℃で0.5~12時間撹拌することにより調製できる。水溶液の固形分濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上であり、水溶液の調製のしやすさからは、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0054】
C-HAC水溶液には、本発明の効果を損なわない範囲で、中和剤、防腐剤等の各種添加剤を配合してもよい。中和剤としては無機酸、有機酸のいずれも用いることができるが、有機酸が好ましく、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、オキシフタル酸、クエン酸等が挙げられる。中でも、水酸基を有する炭素数2以上8以下のジカルボン酸が好ましく、リンゴ酸及び酒石酸から選ばれる1種以上がより好ましく、リンゴ酸が更に好ましい。
防腐剤としては、ベンジルアルコール、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸,ソルビン酸,デヒドロ酢酸等が挙げられる。
C-HAC水溶液中の添加剤の配合量は、通常、0.001質量%以上、5.0質量%以下である。
上記のようにして得られた水溶液は、必要に応じ目開き10μm以上、300μm以下程度のメッシュを用いて濾過を行ってもよい。
【0055】
[毛髪化粧料の製造方法]
本発明の毛髪化粧料の製造方法は、上述した本発明の製造方法により得られたC-HACと、界面活性剤とを混合する工程を有する。すなわち、本発明の毛髪化粧料の製造方法は、下記工程1~工程3をこの順で有することが好ましい。本発明の製造方法により得られた毛髪化粧料は、毛髪洗浄時の泡のすべりがよく、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさに優れる。
工程1:18質量%水酸化ナトリウム可溶分が5.6質量%以下であるパルプを粉砕して粉末状セルロースを得る工程
工程2:工程1で得られた粉末状セルロースに、アルキレンオキシドとカチオン化剤とを反応させる工程
工程3:工程2で得られたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースと、界面活性剤とを混合する工程
工程1及び工程2は前記の通りである。工程3は、工程2で得られたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースと界面活性剤を混合する工程であり、混合方法は特に限定されない。
以下、C-HACの含有量及び界面活性剤について説明する。
【0056】
毛髪化粧料中におけるC-HACの含有量は、毛髪洗浄時の泡のすべりがよく、すすぎ時及び乾燥後の髪のなめらかさに優れる毛髪化粧料を得る観点から、毛髪化粧料中、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上、より更に好ましくは0.04質量%以上、より更に好ましくは0.05質量%以上であり、毛髪化粧料で処理した毛髪の乾燥後のべたつき感を抑制する観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.5質量%以下、より更に好ましくは0.3質量%以下である。
【0057】
本発明の毛髪化粧料は、更に1種以上の界面活性剤を含有する。
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
シャンプー等の洗浄剤として使用する場合は、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤が好ましく、リンス、コンディショナー、トリートメント、ヘアスタイリング剤等として使用する場合は、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤が好ましい。
【0058】
陰イオン性界面活性剤としては、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、カルボン酸塩、リン酸エステル塩及びアミノ酸塩が好ましい。
これらの中では、毛髪化粧料で処理した毛髪の乾燥後のなめらかさを得る観点からアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸塩、高級脂肪酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、スルホコハク酸アルキルエステル塩、アシルグルタミン酸塩が好ましく、特に下記式(4)又は式(5)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩又はアルキル硫酸塩が好ましい。
{R7-O(CH2CH2O)rSO3}tM (4)
{R8-OSO3}tM (5)
(式中、R7は炭素数10~18のアルキル基又はアルケニル基を示し、R8は炭素数10~18のアルキル基を示し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルカノールアミンの塩又は塩基性アミノ酸を示し、rはエチレンオキシ基の平均付加モル数を示し、1~5である。tはMの価数と同じ数である。)
【0059】
非イオン性界面活性剤としては、毛髪化粧料で処理した毛髪の乾燥後のなめらかさを得る観点から、ポリアルキレングリコール型、多価アルコール型の非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリアルキレングリコール型の中では、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油が好ましく、多価アルコール型の中では、アルキルグリコシドが好ましい。
【0060】
両性界面活性剤としては、ベタイン系界面活性剤及びアミンオキシド型界面活性剤等が挙げられる。
ベタイン系界面活性剤としては、脂肪酸アミドプロピルベタイン及びアルキルヒドロキシスルホベタインが好ましく、炭素数8~18、特に炭素数10~16のアルキル基を有するものがより好ましく、特にラウリン酸アミドプロピルベタイン、パーム核油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ラウリルスルホベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルスルホベタイン等が好ましい。
アミンオキシド型界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシドが好ましく、炭素数8~18、特に炭素数10~16のアルキル基を有するものが好ましく、特にラウリルジメチルアミンオキシド及びミリスチルジメチルアミンオキシドが好ましい。
【0061】
本発明の毛髪化粧料中の界面活性剤含有量は、毛髪化粧料で処理した毛髪の乾燥後のなめらかさを向上させ、べたつき感を抑制する観点から、好ましくは0.11質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
毛髪化粧料がシャンプー(毛髪洗浄料)である場合、界面活性剤の含有量は、同様の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
毛髪化粧料がリンス、コンディショナー、トリートメント又はヘアスタイリング剤である場合、毛髪化粧料で処理した毛髪の乾燥後のなめらかさ、指通り、さらさら感を向上させ、べたつき感を抑制する観点から、毛髪化粧料中の含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0062】
本発明の毛髪化粧料中、C-HACと界面活性剤の比率は、毛髪化粧料で処理した毛髪の乾燥後のなめらかさ、指通り、さらさら感を得る観点から、〔C-HAC/界面活性剤〕の質量比で、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.003以上、更に好ましくは0.005以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下、より更に好ましくは0.5以下である。
毛髪化粧料がシャンプー(毛髪洗浄料)である場合、毛髪化粧料で処理した毛髪の乾燥後のなめらかさを向上させ、べたつき感を抑制する観点から、C-HACと界面活性剤の比率(〔C-HAC/界面活性剤〕の質量比)は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.003以上、更に好ましくは0.005以上であり、そして、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.01以下である。
毛髪化粧料がリンス、コンディショナー、トリートメント又はヘアスタイリング剤である場合、毛髪化粧料で処理した毛髪の乾燥後のなめらかさを向上させ、べたつき感を抑制する観点から、C-HACと界面活性剤の比率(〔C-HAC/界面活性剤〕の質量比)は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.08以上、更に好ましくは0.1以上であり、そして、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.35以下である。
【0063】
本発明の毛髪化粧料は、本発明のC-HACを除くカチオン性ポリマー、両性ポリマー又は油性成分を含有することができる。
本発明の毛髪化粧料中のC-HACを除くカチオン性ポリマー又は両性ポリマーの含有量は、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.05~1質量%、更に好ましくは0.1~0.5質量%である。
本発明のC-HACとC-HACを除くカチオン性ポリマー及び両性ポリマーの比率は、毛髪化粧料で処理した毛髪のすすぎ時及び乾燥後のなめらかさとべたつき感の抑制の観点から、〔C-HAC/C-HACを除くカチオン性ポリマー及び両性ポリマー〕の質量比で0.05~20が好ましく、0.1~10がより好ましく、0.1~5が更に好ましく、0.2~1が特に好ましい。
【0064】
本発明の毛髪化粧料は、常法に従って製造することができる。具体的には、例えば、液状シャンプーの場合は、水及び界面活性剤を加温し、均一混合する。均一溶解確認後、油性成分やポリマーを添加し混合する。ポリマーは、必要に応じて、予め水に分散、もしくは溶解させた後に添加できる。均一溶解もしくは分散後、冷却し、必要に応じて、パール化剤、pH調製剤、香料、色素等を加え調製することができる。同様にコンディショナーの場合は、水及び界面活性剤を加温し、均一混合後、溶解もしくは融解させた油性成分(高級アルコール等)、溶媒を加え、乳化する。その後、冷却し、必要に応じて、油性成分(シリコーン等)、パール化剤、pH調製剤、香料、色素等を加え調製することができる。また、本発明の毛髪化粧料の剤型も特に制限されず、液体状、泡状、ペースト状、クリーム状、固形状、粉末状等、任意の剤型とすることができるが、液体状、ペースト状又はクリーム状とすることが好ましく、液体状とすることが特に好ましい。
液体状とする場合には、液体媒体として水、ポリエチレングリコール、エタノール等を用いるのが好ましく、水の配合量は、全組成物中に10~90質量%が好ましい。
【実施例】
【0065】
各種物性については、以下の方法により、測定及び評価を行った。
なお、以下の実施例及び比較例において、特に断りのない限り、部及び%は質量基準である。
【0066】
[測定方法]
(1)18質量%水酸化ナトリウム可溶分(S18)の測定
ISO692:1982に準拠して測定した。
【0067】
(2)水分量の測定
パルプ、粉末状セルロースの水分量は、赤外線水分計(株式会社ケット科学研究所製「FD-610」)を用いて測定した。測定1回あたり試料5gを用い、試料を平らにならして温度120℃にて測定を行い、30秒間の質量変化率が0.1%以下となる点を測定の終点とした。測定された水分量の値をセルロースに対する質量%に換算して、各水分量の値とした。
【0068】
(3)結晶化指数の算出
粉末状セルロースのX線回折強度を、X線回折装置(株式会社リガク製「MiniFlexII」)を用いて以下の条件で測定し、前記計算式(1)に基づいてセルロースのI型の結晶化指数を算出した。
測定条件は、X線源:Cu/Kα-radiation,管電圧:30kV,管電流:15mA,測定範囲:回折角2θ=5~35°、X線のスキャンスピードは40°/minで測定した。測定用サンプルは面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。
【0069】
(4)体積中位粒径(D50)の測定
粉末状セルロースのD50は、レーザー回析/散乱式粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製「LS13 320」)を用い、乾式法(トルネード方式)にて測定した。具体的には粉末状セルロース20mLをセルに仕込み、吸引して測定を行った。
【0070】
(5)粘度平均分子量の測定
(銅-アンモニア法)
(i)測定用溶液の調製
メスフラスコ(100mL)に塩化第一銅0.5g、25質量%アンモニア水20~30mLを加え、完全に溶解した後に、水酸化第二銅1.0g、及び25質量%アンモニア水を加えて、メスフラスコの標線の一寸手前までの量とした。これを30~40分撹拌して、完全に溶解した。その後、実施例もしくは比較例で得られた粉末状セルロースを加え、メスフラスコの標線まで25質量%アンモニア水を加えた。空気が入らないように密封し、マグネチックスターラーで12時間撹拌して溶解した。同様の操作を行って、添加する粉末状セルロース量を20~500mgの範囲で変えて、異なる粉末状セルロース濃度の測定用溶液を調製した。
【0071】
(ii)粘度平均重合度の測定
上記(i)で得られた測定用溶液(銅アンモニア水溶液)をウべローデ粘度計に入れ、恒温槽(20±0.1℃)中で1時間静置したのち、液の流下速度を測定した。種々の粉末状セルロース濃度(g/dL)の銅アンモニア溶液の流下時間(t(秒))と試料無添加の銅アンモニア水溶液の流下時間(t0(秒))から、下記式により、それぞれの濃度における還元粘度(ηsp/c)を以下の式より求めた。
ηsp/c=(t/t0-1)/c
(式中、cは粉末状セルロース濃度(g/dL)である。)
更に、還元粘度をc=0に外挿して固有粘度[η](dL/g)を求め、以下の式より粘度平均分子量(MV)を求めた。
MV=2000×[η]×162.14(g/mol)
(式中、2000はセルロースに固有の係数である。)
【0072】
(6)Viscosity(極限粘度数)の測定
パルプ試料を引き裂き、小片にし、蒸留水中で振とうして離解した後、ブフナー漏斗によって薄いシートを作製して、そのシートを60℃で乾燥した。絶乾で約0.04gに対応する風乾セルロースを精秤し、50mLの三角フラスコにとり、続いてイオン交換水10mLを加え、十分浸透したら、1M銅エチレンジアミン(CED)溶液(市販品、1L中に銅1.0モル及びエチレンジアミン2.0モルを含む)10mLを加えて、撹拌しながら溶解させた。静置後、三角フラスコを傾け、底に膨潤したゲル状の塊がなくなれば溶解したと判断できる。パルプが溶解したら、毛細管粘度計(キャピラリー型)に移し、25℃の恒温水槽にセットして、25℃±0.1℃になるまで放置する。溶液を吸い上げて、溶液の流下時間を測定した。ブランク溶液(パルプの入っていない0.5M銅エチレンジアミン溶液)の流下時間(t0(秒))とパルプ溶液の流下時間(t(秒))、パルプの濃度(c、g/mL)から、次式により、相対粘度(ηr)、比粘度(ηsp)から、極限粘度数[η]を求めた。セルロース濃度は、精秤した風乾セルロース質量とその含水率から絶乾質量を求め、溶液の容量を20mLとして計算した。
ηr=η/η0=t/t0
ηsp=ηr-1
[η]=ηsp/(100×c(1+0.28ηsp))
【0073】
(7)アルキレンオキシ基の平均付加モル数及びカチオン置換度の算出
各例で得られたC-HAC中のプロピレンオキシ基の置換度及びカチオン性基の置換度は、元素分析による塩素元素量の測定値、及び分析対象がヒドロキシプロピルセルロースではなくC-HPCであることを除き、第十五改正日本薬局方に記載のヒドロキシプロピルセルロースの分析法に従って得られた値から求めた。
具体的には、各例で得られたC-HACの水溶液を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液を凍結乾燥して精製C-HACを得た。得られたC-HACの塩素含有量(%)を元素分析によって測定し、精製C-HAC中に含まれるカチオン基の数と対イオンである塩化物イオンの数を同数であると近似して、下記計算式(2)から、C-HAC単位質量中に含まれるカチオン基の量(a(モル/g))を求めた。
a(モル/g)
=元素分析から求められる塩素含有量(%)/(35.5×100) (2)
次に、分析対象がヒドロキシプロピルセルロースではなく精製C-HACであることを除き、第十五改正日本薬局方記載の「ヒドロキシプロピルセルロースの分析法」に従って、精製C-HAC中のヒドロキシプロポキシ基含有量(%)を測定した。下記計算式(3)から、ヒドロキシプロポキシ基含有量〔式量(-OC3H6OH)=75.09〕(b(モル/g))を求めた。
b(モル/g)
=ガスクロマトグラフ分析から求められるヒドロキシプロポキシ基含有量(%)
/(75.09×100) (3)
得られたa及びbと下記計算式(4)、(5)からC-HACのカチオン置換度(k)及びプロピレンオキシ基の平均付加モル数(m)を算出した。
a=k/(162+k×151.5+m×58) (4)
b=m/(162+k×151.5+m×58) (5)
〔式中、kは、C-HACのカチオン置換度を示す。mはプロピレンオキシ基の平均付加モル数を示す。〕
なお、アルキレンオキシ基が、エチレンオキシ基の場合は、ヒドロキシプロポキシ基含有量に替えて、ヒドロキシエチル基含有量(%)を測定し、同様の計算式によって、ヒドロキシエチル基含有量(モル/g)を求め、平均付加モル数を算出することができる。
【0074】
製造例1(セルロース誘導体の製造)
<工程1>
(1)裁断処理
セルロース含有原料として、シート状木材パルプ(Tembec社製「BioflocHV+」、結晶化指数:82%、水分量:7.0%、Viscosity:1524mL/g、S18:5.3%)を、裁断機(製品名:スーパーカッターRK6-800、株式会社荻野精機製作所製)を用いて、約3mm×1.5mm×1mmのチップ状に裁断した。
(2)乾燥処理
前記(1)の裁断処理により得られたパルプを、2軸横型撹拌乾燥機(株式会社奈良機械製作所製「2軸パドルドライヤー、NPD-3W(1/2)」)を用いて、連続処理にてパルプを乾燥した。乾燥機の加熱媒体は150℃のスチームを用い、パルプの供給速度は45kg/h、大気圧下での処理とした。
(3)セルロース粗粉砕処理
前記(2)の乾燥処理により得られた乾燥パルプを、連続式振動ミル(ユーラステクノ株式会社製「バイブロミル、YAMT-200」、第1及び第2粉砕室の容量:112L、ステンレス製)を用いて粗粉砕した。第1及び第2粉砕室には、直径30mm、長さ1300mmのステンレス製の丸棒状の粉砕媒体(ロッド)を80本ずつ収容した。連続式振動ミルを振動数16.7Hz、振幅13.4mmの条件下、乾燥パルプを20.0kg/hで供給した。得られた粗粉砕パルプの体積中位粒径(D50)は、191μmであった。
(4)セルロース小粒径化処理
前記(3)の粗粉砕処理により得られた粗粉砕セルロースを、高速回転式微粉砕機(株式会社ダルトン製、製品名「アトマイザーAIIW-5型」)を用いて小粒径化した。目開き1.0mmのスクリーンを装着し、温度55℃でローター周速度を50m/s(4400r/min)で駆動すると共に、原料供給部から粗粉砕セルロースを粗粉砕処理と同じ供給速度で供給し、排出口から粉末状セルロースを回収した。得られた粉末状セロースの水分量は1.7%、結晶化指数は-10.7%、体積中位粒径(D50)70.6μmであった。(1)から(4)の処理は連続的に実施した。
【0075】
<工程2>
工程1で得られた粉末状セルロースを、主翼とチョッパー翼を撹拌機として付属したジャケット付き反応槽(大平洋機工株式会社製、WB-300PV)に、水分を除いた質量部として100質量部を投入した。槽内気相部を窒素で置換した後、主翼周速3m/s、チョッパー翼16m/sの撹拌下にて、塩基性化合物である水酸化ナトリウム24.5質量部(粉末状セルロースのAGU1モルに対し1.0モル)と水とを混合して得られた水酸化ナトリウム水溶液を噴霧投入した。水酸化ナトリウム水溶液の調製に用いた水の量は、当該水の量と、粉末状セルロースが含有する水分との合計量が、反応系内の水分量として49.8質量部となるよう調整した。更にジャケット温水にて内温を50℃±5℃に調節し、2時間混合を継続した。次に内温を37℃から47℃に保つよう調節しつつ、プロピレンオキシド(PO)142.9質量部(粉末状セルロースのAGU1モルに対し4.0モル)を、内圧0.07~0.10MPa(ゲージ圧)に保つように、約8時間かけて投入した。全てのプロピレンオキシドを投入した後、十分に内圧が安定するまで撹拌及び温度調節を約3時間継続した。この時の反応時の水分量は、セルロースに対し49.8質量%であった。続けて、カチオン化剤である3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(HAC)の70質量%水溶液(含水量30%、純度90%以上、四日市合成株式会社製、製品名「CTA-65」)112.0質量部(粉末状セルロースのAGU1モルに対しHACとして0.68モル)を噴霧投入し、内温を50℃±5℃に調節しつつ、2時間撹拌を継続した。この時の反応時の水分量は、セルロースに対し83.4質量%であった。その後、内温40℃まで冷却し、セルロース誘導体であるカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。反応槽単位体積あたりの全仕込み量は174kg/m3とした。カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースのPO平均付加モル数は2.41、カチオン置換度は0.18であった。
【0076】
製造例2~6、比較製造例1
表1に示すシート状木材パルプから、製造例1と同様の方法で(1)裁断処理、(2)乾燥処理、(3)セルロース粗粉砕処理、(4)セルロース小粒径化処理を行い、表1に示す水分量、結晶化指数、及び体積中位粒径(D50)の粉末状セルロースを得た。この粉末状セルロースを工程2で用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
*1:セルロースの無水グルコース(AGU)1モルに対するモル当量
【0078】
[毛髪化粧料の評価]
実施例1~6、比較例1(シャンプーの製造、評価)
以下の組成のヘアシャンプーを次のように製造した。製造例1~6及び比較製造例1で得られたC-HAC(1)~(7)、カチオン性ポリマー、カチオン化グアーガム及び界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、商品名:エマール170S-A(70%水溶液))、ラウリルヒドロキシスルホベタイン(花王株式会社製、商品名:アンヒトール20HD(30%水溶液))、シリコーン(東レ・ダウコーニング株式会社製、シリコーン BY22-050A(有効分55%))を用いて、各成分の有効分が表2に示す組成となるシャンプーを常法により調製した。
精製水、メチルパラベン、及び界面活性剤をビーカーにとり、撹拌しながら80℃まで加温した。均一に溶解したことを確認した後、予め水で2%に希釈したC-HAC及びカチオン性ポリマー水溶液を添加した。60℃以下に冷却後、シリコーンを、45℃以下に冷却後、香料を加え、均一になるまで撹拌した。室温まで冷却し、加熱により蒸発した水分を補充して、更に30分以上撹拌した。
評価用ヘアシャンプーの組成を、以下の表2に示す。
【0079】
【0080】
表2において使用した各成分は以下の通りである。
*1:花王株式会社製、エマール170S-A(有効分70%)を17.1%添加
*2:花王株式会社製、アンヒトール20HD(有効分30%)を2.6%添加
*3:花王株式会社製、ソフケアKG101E(有効分40%)を0.05%添加
*4:ローディア社製、ジャガーC-13S
*5:東レ・ダウコーニング株式会社製、シリコーン BY22-050A(有効分55
%)を0.91%添加
【0081】
(評価方法)
下記表3に示す組成の各成分をビーカーに取り、80℃に加温後、混合し、均一に溶解したことを確認した後、冷却して、プレーンシャンプーを得た。得られたプレーンシャンプーで毛束を洗浄し、35~40℃の温水で十分に湿らせた後、表2に示す組成のシャンプーで洗浄し、温水ですすぎ、タオルで水分を取り、櫛で毛束を整えた。その後、ドライヤーの温風で乾燥し、仕上げに櫛で毛束を整えた。このように処理した毛束を評価用トレスとして用い、4人のパネラーが、以下の評価基準、評価方法により、洗浄時、すすぎ時、乾燥後の評価を行った。結果を表4に示す。
【0082】
【0083】
(評価基準)
本発明品のC-HACを配合しない基準用ヘアシャンプーを基準に、下記の項目について、同等の性能を1とし、やや良好を2、良好を3として、4人の専門パネラーの平均を表4に記載した。
下記の項目について、以下の基準で判断した。
・洗浄時の泡量、泡立ちの速さ、泡持ち、泡のすべり
・すすぎ時の髪のなめらかさ及びその持続(きしみ感が感じるまでの時間の長さ)、髪のやわらかさ、髪のきしみ感の少なさ、髪の指通り(髪のからまりの少なさ)、残留感の少なさ
・乾燥後の髪の指通り、髪のなめらかさ、髪のまとまり、髪のさらさら感
3:良好
2:やや良好
1:同等
【0084】
【0085】
表4から明らかなように、工程1において、原料として18質量%水酸化ナトリウム可溶分が5.6質量%以下であるパルプを使用してC-HACを得た場合には、該C-HACを配合した毛髪洗浄料(ヘアシャンプー)は、洗浄時の泡すべりがよく、泡量、泡だちのはやさ、すすぎ時の髪のなめらかさ及びその持続性に優れ、乾燥後の髪のなめらかさ、指通り、まとまり感、さらさら感に優れるものであった。
一方、S18が5.6質量%を超えるパルプを原料として使用した比較例1では、泡すべり及び泡持ちが十分ではなく、洗浄時に泡がつぶれてしまい、洗浄時の使用感に劣るものであった。また、すすぎ時の髪のなめらかさ、なめらかさの持続が特に劣るものであった。更に、乾燥後には、髪のなめらかさ、指通りのよさ、及びさらさら感に劣るものであった。
このように、特定の18質量%水酸化ナトリウム可溶分を有するパルプを原料として使用することで、毛髪化粧料に配合した際に、極めて優れた効果を有するカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースが得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の製造方法により得られたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースは、特に毛髪化粧料に配合した際に、高品質な製品を提供できる。