(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】工具駆動装置、工具回転装置用の工具送り機構及び孔加工方法
(51)【国際特許分類】
B23B 47/22 20060101AFI20230523BHJP
B23B 39/10 20060101ALI20230523BHJP
B23B 47/02 20060101ALI20230523BHJP
B23B 47/08 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B23B47/22
B23B39/10
B23B47/02 A
B23B47/08
(21)【出願番号】P 2019053910
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 政雄
(72)【発明者】
【氏名】中畑 達雄
(72)【発明者】
【氏名】小野 遼平
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-039992(JP,A)
【文献】特開2012-016793(JP,A)
【文献】米国特許第04688970(US,A)
【文献】特開昭59-187474(JP,A)
【文献】米国特許第05649451(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 47/02、08、22
B23B 39/10
B23B 45/04
B25F 5/00
B25B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具を掴んで保持するためのホルダと、前記ホルダを回転させる第1のエアモータとを有する手持ち式の工具回転装置に取付けられる工具送り機構であって、
前記工具回転装置に取付けられる連結器具と、
前記回転工具による孔加工の対象となる被削材に直接又は間接的に取付けられる固定部材と、
前記固定部材に対して前記連結器具を工具軸方向に相対移動させる
ボールネジと、
前記
ボールネジに動力を与える第2のエアモータと、
を有
し、
前記ボールネジの回転軸を前記回転工具の工具軸と同一直線上となるように配置して、前記回転工具の先端側における前記ボールネジの一端を前記第2のエアモータと直接又は間接的に連結し、前記第2のエアモータを前記連結器具とともに前記工具軸方向に移動させるようにした工具回転装置用の工具送り機構。
【請求項2】
回転工具を掴んで保持するためのホルダと、前記ホルダを回転させる第1のエアモータとを有する手持ち式の工具回転装置に取付けられる工具送り機構であって、
前記工具回転装置に取付けられる連結器具と、
前記回転工具による孔加工の対象となる被削材に直接又は間接的に取付けられる固定部材と、
前記固定部材に対して前記連結器具を工具軸方向に相対移動させるボールネジと、
前記ボールネジに動力を与える第2のエアモータと、
を有し、
前記ボールネジの回転軸を前記回転工具の工具軸と平行となるように配置して、前記回転工具の先端側における前記ボールネジの一端を前記第2のエアモータと直接又は間接的に連結し、前記第2のエアモータを前記連結器具とともに前記工具軸方向に移動させるようにした工具回転装置用の工具送り機構。
【請求項3】
回転工具を掴んで保持するためのホルダと、
前記ホルダを回転させる第1のエアモータと、
前記ホルダを工具軸方向に移動させる送り機構と、
を備え、
前記送り機構に前記ホルダを移動させるための動力を発生させる第2のエアモータを設けた工具駆動装置
であって、
前記送り機構は、
前記回転工具による孔加工の対象となる被削材又は前記被削材に取付けられる前記孔加工用の治具に前記工具駆動装置を固定するための固定部材と、
前記固定部材に対して前記ホルダを前記工具軸方向に相対移動させるボールネジと、
を有し、
前記第2のエアモータは、前記ボールネジに回転動力を与えるように構成され、かつ
前記ボールネジの回転軸を前記回転工具の工具軸と同一直線上となるように配置して、前記回転工具の先端側における前記ボールネジの一端を前記第2のエアモータと直接又は間接的に連結し、前記第2のエアモータを前記ホルダとともに前記工具軸方向に移動させるようにした工具駆動装置。
【請求項4】
回転工具を掴んで保持するためのホルダと、
前記ホルダを回転させる第1のエアモータと、
前記ホルダを工具軸方向に移動させる送り機構と、
を備え、
前記送り機構に前記ホルダを移動させるための動力を発生させる第2のエアモータを設けた工具駆動装置
であって、
前記送り機構は、
前記回転工具による孔加工の対象となる被削材又は前記被削材に取付けられる前記孔加工用の治具に前記工具駆動装置を固定するための固定部材と、
前記固定部材に対して前記ホルダを前記工具軸方向に相対移動させるボールネジと、
を有し、
前記第2のエアモータは、前記ボールネジに回転動力を与えるように構成され、かつ
前記ボールネジの回転軸を前記回転工具の工具軸と平行となるように配置して、前記回転工具の先端側における前記ボールネジの一端を前記第2のエアモータと直接又は間接的に連結し、前記第2のエアモータを前記ホルダとともに前記工具軸方向に移動させるように
した工具駆動装置。
【請求項5】
請求項
3又は4記載の工具駆動装置を用いて被加工品を製造する孔加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、工具駆動装置、工具回転装置用の工具送り機構及び孔加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドリル駆動装置の1つとして、エア(空気圧)式のドリル駆動装置が知られている(例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。エア式のドリル駆動装置には、空気圧によってドリルの回転動作のみならず、ドリルに工具軸方向への送り動作を与えることができるように構成されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-228049号公報
【文献】特開2014-039992号公報
【文献】特表2015-501227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、エア式の工具駆動装置を用いて、より好適な条件で被削材(ワーク)の穿孔や孔の内面仕上げ加工等の孔加工を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態に係る工具回転装置用の工具送り機構は、回転工具を掴んで保持するためのホルダと、前記ホルダを回転させる第1のエアモータとを有する手持ち式の工具回転装置に取付けられる工具送り機構であって、前記工具回転装置に取付けられる連結器具と、前記回転工具による孔加工の対象となる被削材に直接又は間接的に取付けられる固定部材と、前記固定部材に対して前記連結器具を工具軸方向に相対移動させるボールネジと、前記ボールネジに動力を与える第2のエアモータとを有し、前記ボールネジの回転軸を前記回転工具の工具軸と同一直線上となるように配置して、前記回転工具の先端側における前記ボールネジの一端を前記第2のエアモータと直接又は間接的に連結し、前記第2のエアモータを前記連結器具とともに前記工具軸方向に移動させるようにしたものである。
また、本発明の実施形態に係る工具回転装置用の工具送り機構は、回転工具を掴んで保持するためのホルダと、前記ホルダを回転させる第1のエアモータとを有する手持ち式の工具回転装置に取付けられる工具送り機構であって、前記工具回転装置に取付けられる連結器具と、前記回転工具による孔加工の対象となる被削材に直接又は間接的に取付けられる固定部材と、前記固定部材に対して前記連結器具を工具軸方向に相対移動させるボールネジと、前記ボールネジに動力を与える第2のエアモータとを有し、前記ボールネジの回転軸を前記回転工具の工具軸と平行となるように配置して、前記回転工具の先端側における前記ボールネジの一端を前記第2のエアモータと直接又は間接的に連結し、前記第2のエアモータを前記連結器具とともに前記工具軸方向に移動させるようにしたものである。
【0006】
また、本発明の実施形態に係る工具駆動装置は、回転工具を掴んで保持するためのホルダと、前記ホルダを回転させる第1のエアモータと、前記ホルダを工具軸方向に移動させる送り機構とを備え、前記送り機構に前記ホルダを移動させるための動力を発生させる第2のエアモータを設けたものであって、前記送り機構は、前記回転工具による孔加工の対象となる被削材又は前記被削材に取付けられる前記孔加工用の治具に前記工具駆動装置を固定するための固定部材と、前記固定部材に対して前記ホルダを前記工具軸方向に相対移動させるボールネジとを有し、前記第2のエアモータは、前記ボールネジに回転動力を与えるように構成され、かつ前記ボールネジの回転軸を前記回転工具の工具軸と同一直線上となるように配置して、前記回転工具の先端側における前記ボールネジの一端を前記第2のエアモータと直接又は間接的に連結し、前記第2のエアモータを前記ホルダとともに前記工具軸方向に移動させるようにしたものである。
また、本発明の実施形態に係る工具駆動装置は、回転工具を掴んで保持するためのホルダと、前記ホルダを回転させる第1のエアモータと、前記ホルダを工具軸方向に移動させる送り機構とを備え、前記送り機構に前記ホルダを移動させるための動力を発生させる第2のエアモータを設けたものであって、前記送り機構は、前記回転工具による孔加工の対象となる被削材又は前記被削材に取付けられる前記孔加工用の治具に前記工具駆動装置を固定するための固定部材と、前記固定部材に対して前記ホルダを前記工具軸方向に相対移動させるボールネジとを有し、前記第2のエアモータは、前記ボールネジに回転動力を与えるように構成され、かつ前記ボールネジの回転軸を前記回転工具の工具軸と平行となるように配置して、前記回転工具の先端側における前記ボールネジの一端を前記第2のエアモータと直接又は間接的に連結し、前記第2のエアモータを前記ホルダとともに前記工具軸方向に移動させるようにしたものである。
【0007】
また、本発明の実施形態に係る孔加工方法は、上述した工具駆動装置を用いて被加工品を製造するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る工具送り機構を備えた工具駆動装置の構成を示す正面図。
【
図3】
図1及び
図2に示すギアとして用いられる遊星ギアの構成例を示す図。
【
図4】
図1及び
図2に示す第2のエアモータ、ギア及びボールネジの回転軸が工具軸と平行となるように配置した例を示す図。
【
図5】
図1又は
図4に示す工具駆動装置をエア信号で制御するためのエア信号回路ユニットを含むエア信号回路の回路構成例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る工具駆動装置、工具回転装置用の工具送り機構及び孔加工方法について添付図面を参照して説明する。
【0010】
(構成及び機能)
図1は本発明の実施形態に係る工具送り機構を備えた工具駆動装置の構成を示す正面図であり、
図2は
図1に示す工具駆動装置の上面図である。
【0011】
工具駆動装置1は、ドリル(ドリルビット)、リーマ或いはエンドミル等の回転工具Tを取付けてワークWの穿孔や孔の内面仕上げ加工等の孔加工を行うための手持ち式の装置(ハンドツール)である。工具駆動装置1は、回転工具Tの回転動作のみならず、回転工具Tの工具軸AX方向への送り動作を行う機能を有している。このため、工具駆動装置1は、手持ち式の工具回転装置2に送り機構3を設けて構成される。
【0012】
図1及び
図2は、汎用の工具回転装置2にアタッチメントとして送り機構3を取付ける改造を行って工具駆動装置1を製作した例を示している。汎用の工具回転装置2を用いて工具駆動装置1を製作すれば、工具駆動装置1の製作コストを飛躍的に低減することができる。また、既存の工具回転装置2を用いて回転工具Tの送り動作機能付きの工具駆動装置1を簡易に製作することができる。このため、送り機構3を、手持ち式の工具回転装置2に取付けられる工具送り機構として製造及び販売することもできる。
【0013】
もちろん、独立して動作しない専用の工具回転装置2と、送り機構3で工具駆動装置1を構成しても良い。その場合には、工具回転装置2を構成する部品の筐体と送り機構3を構成する部品の全部又は一部が共通となる。
【0014】
工具回転装置2は、ホルダ4、第1のエアモータ5、筐体6、グリップ7及びスイッチ8で構成することができる。ホルダ4は、回転工具Tを掴んで保持しながら第1のエアモータ5から与えられる動力によって回転するように構成されている。第1のエアモータ5は、エア信号によって回転するモータであり、エア信号の流量に応じて回転数を調整することができる。筐体6には、第1のエアモータ5とともに第1のエアモータ5で発生させたトルクをホルダ4に伝達する公知の動力伝達機構が収納される。グリップ7は、ユーザが手で掴むための部分であり、筐体6と連結される。スイッチ8は、少なくとも第1のエアモータ5の回転をユーザが操作するために設けられる。
【0015】
送り機構3は、回転工具T及びホルダ4をワークWに対して工具軸AX方向に往復移動させる装置である。すなわち、ワークWの孔加工を行うために、初期位置にある回転工具T及びホルダ4を送り機構3で回転工具Tの先端方向に向かって前進移動させる一方、孔加工が完了した後は、孔加工位置にある回転工具T及びホルダ4を停止させて退避位置まで後退移動させることができる。
【0016】
特に、送り機構3には、ホルダ4を工具軸AX方向に直線移動させる直線移動機構9に加え、ホルダ4を平行移動させるための動力を発生させる第2のエアモータ10が設けられる。すなわち、送り機構3には、回転工具T及びホルダ4を回転させるための動力を発生させる第1のエアモータ5とは別に、直線移動機構9に動力を与える第2のエアモータ10が設けられる。第2のエアモータ10は、第1のエアモータ5と同様にエア信号の流量に応じて回転数を調整することができるモータである。
【0017】
送り機構3は、他に、ギア(歯車)11、ガイド機構12、ノーズピース13及び連結器具14等を用いて構成することができる。
【0018】
直線移動機構9は、第2のエアモータ10の出力軸の回転運動を直線運動に変換し、回転工具T及びホルダ4を工具軸AX方向に直線的に移動させる機械要素である。直線移動機構9は、第2のエアモータ10が正回転する場合には、回転工具T及びホルダ4を工具軸AX方向及び孔加工方向に前進させる一方、第2のエアモータ10が逆回転する場合には、回転工具T及びホルダ4を孔加工方向とは反対方向に後退させるように構成される。
【0019】
直線移動機構9としては、スプロケットの回転で移動するチェーンやローラの回転で移動する動力伝達ベルト等のクローラ或いはラック・アンド・ピニオンを用いても良いが、
図1及び
図2に例示されるようにボールネジ9Aを用いれば、第2のエアモータ10の出力軸とボールネジ9Aの回転軸を、工具軸AXと同一直線上に配置することが可能となる。その結果、送り機構3の構成を簡易にすることができる。そこで、以降では、直線移動機構9がボールネジ9Aである場合を例に、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0020】
ボールネジ9Aでホルダ4を工具軸AX方向に移動させる場合には、ボールネジ9Aの回転軸方向及び長さ方向が工具軸AX方向となるようにボールネジ9Aを配置することが構造の簡易化とボールネジ9Aで発生させる力の有効利用に繋がる。そして、第2のエアモータ10から出力される回転動力でボールネジ9Aが回転することになる。すなわち、ボールネジ9Aの一端が第2のエアモータ10の出力軸と連結され、第2のエアモータ10からボールネジ9Aに回転動力としてトルクが与えられる。
【0021】
但し、一般にエアモータから出力することが可能なトルクは、電動モータから出力することが可能なトルクよりも小さい。このため、孔加工時の切削抵抗に対抗しながら回転工具T及びホルダ4を送り出すためにボールネジ9Aに付与するべき十分なトルクを第2のエアモータ10から出力することが困難となる場合が多いことが従来の技術常識となっている。逆に、第2のエアモータ10の出力軸を直接ボールネジ9Aと連結してボールネジ9Aを回転させると、第2のエアモータ10の出力トルクに応じた切削抵抗が小さい孔加工条件の孔加工しか行えないことになる。
【0022】
そこで、
図1及び
図2に例示されるように第2のエアモータ10から出力されるトルクを増加させてボールネジ9A等の直線移動機構9に伝達するギア11を送り機構3に設けることが実用的である。すなわち、第2のエアモータ10の出力軸にギア11を連結し、第2のエアモータ10の出力軸の回転数を減少させる一方、トルクを増加させることができる。
図1及び
図2に示す例では、共通の筐体15に第2のエアモータ10とギア11が収納されている。
【0023】
図3は
図1及び
図2に示すギア11として用いられる遊星ギア16の構成例を示す図である。
【0024】
第2のエアモータ10の出力軸とボールネジ9Aの回転軸を同軸状とする場合、第2のエアモータ10の回転速度を減速するギア11として
図3に例示される遊星ギア16を用いることができる。遊星ギア16は、円盤状又は円筒状の外歯ギアである太陽ギア(サンギア)16Aの周囲を、円盤状又は円筒状の外歯ギアである単一又は複数の遊星ピニオン(プラネタリピニオン)16Bが回転し、遊星ピニオン16Bの更に外側をリング状又は円筒状の内歯ギア16Cが回転するギアである。
【0025】
遊星ギア16の入力軸は太陽ギア16Aに固定されるため、第2のエアモータ10の出力軸は遊星ギア16の太陽ギア16Aに固定される。また、遊星ギア16の出力軸は、内歯ギア16Cか、或いは複数の遊星ピニオン16Bの回転軸に回転可能に連結される遊星キャリア(プラネタリキャリア)に固定される。そして、遊星ギア16の出力軸にボールネジ9Aが固定される。
【0026】
また、複数の遊星ギア16を直列に連結すれば、第2のエアモータ10の出力軸から出力されるトルクを一層大きくすることができる。実用的には、2段又は3段の遊星ギア16を第2のエアモータ10の出力軸に連結することができる。
【0027】
このように必要に応じてギア11を介して第2のエアモータ10にボールネジ9Aを連結すると、ボールネジ9Aを締付けるための雌ネジ17を設けた部材18に対して、第2のエアモータ10をボールネジ9Aの長さ方向である工具軸AX方向に平行移動することができる。従って、第2のエアモータ10を内部に固定して収納する筐体15を、少なくともホルダ4、第1のエアモータ5、筐体6、グリップ7及びスイッチ8を備えた工具回転装置2側に連結器具14で固定すれば、第2のエアモータ10を収納する筐体15とともに工具回転装置2を、雌ネジ17を設けた部材18に対して工具軸AX方向に相対移動させることができる。
【0028】
尚、ボールネジ9Aを締付けるための雌ネジ17を設けた部材18側を工具回転装置2に固定し、第2のエアモータ10及び第2のエアモータ10を収納する筐体15については工具回転装置2とともに移動しないようにしても良い。すなわち、第2のエアモータ10及び第2のエアモータ10を収納する筐体15については工具軸AX方向に移動させずに、ボールネジ9Aで工具回転装置2を工具軸AX方向に往復させるようにしても良い。
【0029】
但し、第2のエアモータ10と、工具回転装置2との間にボールネジ9Aを配置すると、ボールネジ9Aの回転軸を工具軸AXからシフトさせて平行に配置するか、或いは、ボールネジ9Aの端部と、工具回転装置2との間に回転工具Tの送り方向におけるストロークをカバーする長さの空隙が必要となる。このため、ストロークを確保するために送り機構3の長さが長くなり、持ち運びに不便となったり干渉の原因となる場合がある。
【0030】
これに対して、回転工具Tの先端側におけるボールネジ9Aの一端を第2のエアモータ10と直接又はギア11を介して間接的に連結し、第2のエアモータ10をホルダ4とともに工具軸AX方向に移動させるようにすれば、ボールネジ9Aの回転軸を回転工具Tの工具軸AXと同一直線上となるように配置し、ボールネジ9Aの端部から工具軸AXと同一直線上の力を工具回転装置2に与えることができる。
【0031】
その結果、ボールネジ9Aの回転軸と工具軸AXが同一直線上に無いことに起因する無用なトルクの発生を回避し、第2のエアモータ10の動力を穿孔等の孔加工用のエネルギとして効率的に使用することが可能となる。加えて、回転工具Tに生じる反力と逆方向にボールネジ9Aから送り方向の力を作用させることができる。
【0032】
但し、ボールネジ9Aの回転軸と工具軸AXが同一直線上となるようにボールネジ9Aを配置すると、回転工具T及びホルダ4の送り方向におけるストロークの長さに応じて送り機構3の長さが長くなる。このため、送り機構3を含む工具駆動装置1の長さを短くするために、ボールネジ9Aの回転軸が工具軸AXと平行となるようにボールネジ9A及び第2のエアモータ10を含む送り機構3を配置するようにしても良い。
【0033】
図4は、
図1及び
図2に示す第2のエアモータ10、ギア11及びボールネジ9Aの回転軸が工具軸AXと平行となるように配置した例を示す図である。尚、
図4ではエア信号の経路が省略されている。
【0034】
図4に例示されるように第2のエアモータ10、ギア11及びボールネジ9Aの回転軸を、工具軸AX、すなわち回転工具T、ホルダ4及び第1のエアモータ5の回転軸と平行となるように配置することもできる。この場合、ボールネジ9Aの回転軸と工具軸AXが同一直線上に無いことに起因するトルクが発生するものの、送り機構3を含む工具駆動装置1の長さを短くすることができる。このため、工具駆動装置1をより狭い作業エリアに持ち運んで使用することが可能となる。
【0035】
同様に、工具回転装置2がコーナードリルである場合においても、コーナードリルに送り機構3を取付けて工具駆動装置1を構成することができる。コーナードリルでは、工具軸AXと、回転工具Tを回転させる第1のエアモータ5の回転軸が同一直線上に無い。しかも、コーナードリルは狭隘部分の孔加工を行うことが目的であるため、ワークWとの干渉が生じないように工具駆動装置1を構成することが重要である。
【0036】
このため、ワークWとの干渉が生じることなく回転工具T及びホルダ4を工具軸AX方向に移動させることができるように、工具回転装置2に対して適切な位置に第2のエアモータ10、ギア11及びボールネジ9Aを相対配置して工具駆動装置1を構成することができる。
【0037】
典型的なコーナードリルでは、回転工具Tを回転させる第1のエアモータ5の回転軸が工具軸AX、すなわち回転工具T及びホルダ4の回転軸に対して垂直となっている。この場合、第2のエアモータ10、ギア11及びボールネジ9Aの回転軸を、回転工具T及びホルダ4の回転軸に対して平行に配置すると、第2のエアモータ10、ギア11及びボールネジ9Aの回転軸は、第1のエアモータ5の回転軸に対して垂直となる。
【0038】
図1、
図2及び
図4に例示されるように、ボールネジ9Aを長さ方向に相対移動させる雌ネジ17を設けた部材18には、2本以上の複数のシャフト19が、長さ方向が工具軸AX方向と平行となるように固定される。そして、複数のシャフト19の他端には、ノーズピース13が固定される。
【0039】
ノーズピース13は、工具駆動装置1の先端に取付けられるノズル状のケーシングであり、回転工具Tによる孔加工の対象となるワークWに直接又は間接的に取付けられる固定部材として機能する。典型的なノーズピース13には、ブッシングチップ20が取付けられる。尚、ノーズピース13の先端にブッシングチップ20が一体化している場合もある。そして、ノーズピース13は、ブッシングチップ20と共に、ワークW又はワークWに取付けられる穿孔板等の孔加工用の治具Jに工具駆動装置1を固定するための固定部材として機能する。
【0040】
ブッシングチップ20は、ブッシュ20Aに厚みが変化する板状の部分20Bを設けた構造を有する。一方、ブッシングチップ20のブッシュ20Aに滑合するように穿孔板等の治具Jに設けられた孔又はワークWに設けられた下孔の近傍に、ブッシングチップ20の板状の部分20Bにおける厚さに相当する隙間を空けて止めねじJ1を設けておくことができる。そうすると、ブッシングチップ20のブッシュ20Aを治具Jに設けられた孔又はワークWに設けられた下孔に差し込んでブッシングチップ20を回転させると、止めねじJ1でブッシングチップ20の板状の部分20Bを挟み込んで固定することができる。
【0041】
これにより、ブッシングチップ20を用いてノーズピース13を含む工具駆動装置1をワークW及び治具Jに適切な向きで固定することができる。すなわち、工具軸AX方向が、穿孔対象となる孔の深さ方向となるようにワークW及び治具Jに対する工具駆動装置1の位置決めを行いつつ、工具駆動装置1をワークW及び治具Jに固定することができる。このため、ボールネジ9A等の直線移動機構9は、ワークW又は治具Jへの工具駆動装置1の固定部材として機能するノーズピース13及びブッシングチップ20に対して相対的にホルダ4を含む工具回転装置2を工具軸AX方向に移動させる装置として構成されることになる。
【0042】
回転工具TでワークWの孔加工を行った場合に生じる穿孔反力等の加工反力は、ブッシングチップ20及びノーズピース13で受けることになる。ノーズピース13で受けた加工反力は、複数のシャフト19を介して雌ネジ17を設けた部材18に伝達されることになる。従って、工具軸AX方向に平行配置される複数のシャフト19は、工具軸AXを中心に対称となるように等間隔で配置することが、加工反力を均等に分散することによって無用なトルクの発生を防止する観点から望ましい。
【0043】
複数のシャフト19は、工具回転装置2を工具軸AX方向に平行移動させるためのガイドとしても用いられる。すなわち、複数のシャフト19をそれぞれガイドとして工具軸AX方向に直線的にスライドするリニアブッシュ21が、環状連結具14Aによって工具回転装置2に固定される。そして、複数のシャフト19と、複数のシャフト19をそれぞれ直線的にスライドする複数のリニアブッシュ21で、工具回転装置2を工具軸AX方向に平行移動させるためのガイド機構12が形成される。尚、図示された例では、第2のエアモータ10及びギア11も工具回転装置2とともに工具軸AX方向に平行移動するように構成されているため、第2のエアモータ10及びギア11を収納する筐体15にもリニアブッシュ21が固定されている。
【0044】
このため、複数のシャフト19をスライドする複数のリニアブッシュ21で工具回転装置2とともに第2のエアモータ10及びギア11を収納する筐体15を工具軸AX方向に平行移動させることができる。これにより、ボールネジ9Aから作用する工具軸AX方向の力で孔加工を行う際に、回転工具Tに作用する加工反力で工具回転装置2に工具軸AX方向に垂直な成分の力が生じたとしても、複数のシャフト19に対して工具軸AX方向にのみスライドできるリニアブッシュ21によって、回転工具T及び工具回転装置2の工具軸AX方向に垂直な方向における位置ずれを抑止することができる。
【0045】
図示された例では、2本のシャフト19の中心と工具軸AXが同一平面上において互いに平行となるように、2本のシャフト19と工具軸AXの相対位置が決定されている。このため、部品点数の最小化による送り機構3の構造の簡易化に加えて、シャフト19及びリニアブッシュ21の精度誤差に起因するシャフト19とリニアブッシュ21間における無用な摩擦力の発生を低減することができる。
【0046】
連結器具14は、送り機構3を工具回転装置2に取付けるための金具(ブラケット)等の部品である。このため、連結器具14は、工具回転装置2に取付けられる。そして、送り機構3を構成するボールネジ9A等の直線移動機構9は、工具駆動装置1をワークW及び治具Jに固定するノーズピース13及びブッシングチップ20に対して連結器具14とともに工具回転装置2を工具軸AX方向に相対移動させるように構成される。
【0047】
図1及び
図2に示された例では、環状連結具14A、L型連結具14B、連結シャフト14C及び連結プレート14Dを含む連結器具14で、送り機構3が工具回転装置2に取付けられている。具体的には、工具回転装置2の筐体6を保持してリニアブッシュ21を固定するための環状連結具14Aと、筐体6の後端部がL型連結具14Bで2本の連結シャフト14Cと連結されている。2本の連結シャフト14Cは、リニアブッシュ21をガイドするシャフト19と同様に、工具軸AXに長さ方向が平行となり、かつ工具軸AXを中心に対称となるように配置されている。そして、各連結シャフト14Cの他端側、第2のエアモータ10の筐体15及び他方のリニアブッシュ21が共通の連結プレート14Dに固定されている。従って、各連結シャフト14Cは、連結プレート14Dを介してボールネジ9Aと連結される。
【0048】
このため、
図1及び
図2に示す例では、ボールネジ9Aの回転によって生じる工具軸AX方向の力は、連結プレート14D及び2本の連結シャフト14Cで工具回転装置2の筐体6及びホルダ4に伝達されることになる。従って、リニアブッシュ21をガイドするシャフト19と同様に、ボールネジ9Aの回転によって生じる力を伝達する2本の連結シャフト14Cについても、工具軸AXを中心に対称となるように配置して均等に分散することが、無用なトルクの発生を回避する観点から好ましい。
【0049】
他方、
図4に示す例では、環状連結具14A及び連結プレート14Dを含む連結器具14で、送り機構3が工具回転装置2に取付けられている。具体的には、工具回転装置2の筐体6及び第2のエアモータ10の筐体15の双方を保持してリニアブッシュ21を固定するための環状連結具14Aと、工具回転装置2の筐体6及び第2のエアモータ10の筐体15の双方の後端部にリニアブッシュ21を固定するための連結プレート14Dで、送り機構3が工具回転装置2に取付けられている。このため、
図4に示す例では、ボールネジ9Aの回転によって生じる工具軸AX方向の力は、主に連結プレート14Dで工具回転装置2の筐体6及びホルダ4に伝達されることになる。
【0050】
このように、第2のエアモータ10で駆動する送り機構3を、第1のエアモータ5で駆動する工具回転装置2に連結器具14で取付けると、回転工具Tの回転用の第1のエアモータ5と、回転工具Tの工具軸AX方向への送り動作用の第2のエアモータ10を別々に制御することによって、回転工具Tの回転数(回転速度)及び回転工具Tの工具軸AX方向への送り速度を独立して調整することが可能となる。
【0051】
すなわち、第1のエアモータ5に供給されるエア信号の流量を調整することによって、回転工具T及びホルダ4の回転数を可変設定することができる。他方、第2のエアモータ10に供給されるエア信号の流量を調整することによって、回転工具T及びホルダ4を含む工具回転装置2の工具軸AX方向への送り速度を可変設定することができる。
【0052】
そのために、圧縮エアが供給される配管22Aから分岐して第1のエアモータ5に供給されるエア信号の配管22Bには、第1のエアモータ5に入力される第1のエア信号の流量を調整することによって回転工具T及びホルダ4の回転数を可変設定するための第1のスピードコントローラ23が接続される。
図1及び
図4に示す例では、グリップ7の下方に第1のスピードコントローラ23が固定されている。
【0053】
他方、第2のエアモータ10に供給されるエア信号の配管22F、22Gには、第2のエアモータ10に入力される第2のエア信号の流量を調整することによって回転工具T及びホルダ4の工具軸AX方向への送り速度を可変設定するための第2のスピードコントローラ24A、24Bが接続される。第2のスピードコントローラ24A、24Bは、配管22F、22Gを構成するホースや配管22F、22Gが収納される筐体等に設けることができる。
【0054】
上述したように、回転工具T及びホルダ4は第2のエアモータ10を正回転させると前進移動する一方、逆回転させると後退移動するように構成されるため、第2のエアモータ10には正回転用のエア信号を供給する配管22Fと、逆回転用のエア信号を供給する配管22Gが接続されることになる。そこで、
図1に示すように、第2のエアモータ10の正回転用のエア信号を供給する配管22Fと、第2のエアモータ10の逆回転用のエア信号を供給する配管22Gのそれぞれに第2のスピードコントローラ24A、24Bを接続すれば、回転工具T及びホルダ4を前進移動させる際の送り速度と、後退移動させる際の送り速度を、別々に調整することが可能となる。
【0055】
もちろん、第2のエアモータ10の逆回転用のエア信号を供給する配管22Gに接続される第2のスピードコントローラ24Bを省略し、回転工具T及びホルダ4を前進移動させる際の送り速度のみを調整できるようにしても良い。或いは、第2のエアモータ10の正回転用のエア信号を供給する配管22Fと、第2のエアモータ10の逆回転用のエア信号を供給する配管22Gが分岐する前の上流側における配管22Cに単一の第2のスピードコントローラを接続し、共通の第2のスピードコントローラで回転工具T及びホルダ4を前進移動させる際の送り速度と、後退移動させる際の送り速度を調整するようにしても良い。
【0056】
第1のスピードコントローラ23及び第2のスピードコントローラ24A、24Bは、工具駆動装置1を構成する部品としてユーザに提供されるようにしても良いし、工場等に配備される備品としてユーザが別途準備したものを使用しても良い。
【0057】
回転工具T及びホルダ4の回転動作と停止、すなわち第1のエアモータ5の回転動作と停止の切換えは、上述したように工具回転装置2のグリップ7付近に設けられた機械的なスイッチ8の操作によって行うことができる。他方、回転工具TでワークWの孔加工を行うための回転工具T及びホルダ4の前進方向への送り動作の開始と停止並びに孔加工後において回転工具Tを退避させるための回転工具T及びホルダ4の後退方向への送り動作の開始と停止の切換えについても、所望のスイッチを設けてユーザが手動で操作できるようにすることができる。
【0058】
但し、回転工具T及びホルダ4の回転動作と送り動作を連動させれば、ユーザによる工具駆動装置1の操作が単純となり、適切な加工条件で容易にワークWの孔加工を行うことが可能となる。そこで、以降では、回転工具T及びホルダ4の回転動作と送り動作を連動させるためのエア信号回路25が工具駆動装置1に設けられる場合を例に説明する。
【0059】
エア信号回路25は、工具回転装置2のスイッチ8の切換状態に応じて第1のエアモータ5及び第2のエアモータ10の双方を連動させて回転させる回路である。尚、エア信号回路25全体を工具駆動装置1の構成要素としても良いし、エア信号回路25の一部として工場等に配備される備品を使用しても良い。エア信号回路25を構成するために必要となるバルブ等の回路要素は、エア信号回路ユニット25Aとして第2のエアモータ10の筐体15等に取付けることができる。そして、エア信号回路25の回路構成によって工具駆動装置1には様々な自動制御機能を付与することができる。
【0060】
例えば、工具回転装置2のスイッチ8をオン状態に切換えると、第1のエアモータ5と第2のエアモータ10の双方が回転し、スイッチ8をオフ状態に切換えると、第1のエアモータ5と第2のエアモータ10の双方が停止する単純なエア信号回路25を工具駆動装置1に設けることができる。
【0061】
別の具体例として、工具回転装置2のスイッチ8をオン状態に切換えると、第1のエアモータ5と第2のエアモータ10の双方がそれぞれ予め設定した回転数で一定期間正回転した後、別の回転数に変化して一定期間正回転し、更にその後、回転工具T及びホルダ4を回転させる第1のエアモータ5については回転が停止する一方、回転工具T及びホルダ4に送り動作を付与する第2のエアモータ10については逆回転させて回転工具T及びホルダ4を初期位置に戻す複雑なエア信号回路25を設けることもできる。換言すれば、回転工具Tを用いたワークWの切削加工中において、回転工具Tの回転数と送り速度が自動的に変化するエア信号回路25を設けることができる。このようなエア信号回路25は、タイムディレイバルブ等のエアタイマーを用いて構成することができる。
【0062】
エアタイマーを用いたエア信号回路25の更に別の例としては、第1のエアモータ5の回転中において第2のエアモータ10の正回転と逆回転を断続的に繰返すことによって回転工具T及びホルダ4の前進と後退を断続的に繰返すステップ加工を行うための回路が挙げられる。
【0063】
他に、工具軸AX方向における切削抵抗が上限に達すると、第1のエアモータ5の回転を停止させる一方、第2のエアモータ10については逆回転させて回転工具T及びホルダ4を初期位置に戻すエア信号回路25を工具駆動装置1に設けることもできる。切削抵抗が上限に達したか否かは、例えば、第2のエアモータ10を正回転させるためのエア信号の圧力が上限に達したか否かを検出することによって判定することができる。このため、所定の圧力で開閉するピストン付の空気圧操作制御弁等の回路要素を用いて、切削抵抗が上限値に達した場合に自動的に回転工具T及びホルダ4の回転を停止させて初期位置に戻すエア信号回路25を構成することができる。また、空気圧操作制御弁を開閉させる圧力を調整できるようにすれば、切削抵抗の上限値を可変設定することも可能となる。
【0064】
ここでは、一例として、工具回転装置2のスイッチ8をオン状態に切換えると、回転工具T及びホルダ4の回転と前進が開始され、回転工具Tによる孔加工が完了すると、回転工具Tの回転が自動的に停止し、かつ回転工具T及びホルダ4が後退して初期位置に戻るようにするエア信号回路25の回路構成について説明する。
【0065】
図5は
図1又は
図4に示す工具駆動装置1をエア信号で制御するためのエア信号回路ユニット25Aを含むエア信号回路25の回路構成例を示す回路図である。
【0066】
圧縮エアが封入されたエアタンク等の圧縮エア供給源に接続して圧縮エアの供給を受けるためのエアコネクタ30を一端に設けたエアの配管22Aは、第1の分岐要素31A、第2の分岐要素31B及び第3の分岐要素31Cによって4つの配管22B、22C、22D、22Eに分岐される。
【0067】
第1の分岐要素31Aで分岐する配管22Bは、工具回転装置2の筐体6内に導かれ、工具回転装置2内に設けられる第1のエアモータ5の入力信号を供給するために用いられる。第1のエアモータ5の入力信号を供給するための配管22Bには、エア信号の流量を調整するための第1のスピードコントローラ23と、押しボタンから成るスイッチ8の操作によって開閉する常時閉(ノーマルクローズ)の人力操作制御弁32が設けられる。人力操作制御弁32は、ばね32Aの弾性力を利用して切換る弁である。
【0068】
このため、第1のスピードコントローラ23でエア信号の流量を設定し、押しボタンから成るスイッチ8を押下すると人力操作制御弁32が開き、設定した流量のエア信号を第1のエアモータ5に入力することができる。すなわち、所望の回転数を設定し、回転工具T及びホルダ4を第1のエアモータ5で回転させることができる。
【0069】
第2の分岐要素31Bで分岐する配管22Cの出力側は、エア信号の出力先を2つの配管22F、22Gの間で切換える第1の空気圧操作制御弁33と接続される。第1の空気圧操作制御弁33は、空気圧で駆動するピストン33Aを利用して、空気圧操作ポートに入力されるエア信号によって切換る弁である。
【0070】
第1の空気圧操作制御弁33の一方の出力ポートに接続される配管22Fの出力側は、第2のエアモータ10の正回転用の入力ポートと接続される。また、第1の空気圧操作制御弁33の他方の出力ポートに接続される配管22Gの出力側は、第2の空気圧操作制御弁34を介して第2のエアモータ10の逆回転用の入力ポートと接続される。第2の空気圧操作制御弁34は、空気圧で駆動するピストン34Aを利用して、空気圧操作ポートに入力されるエア信号によって切換る常時閉の弁である。
【0071】
そして、第2のエアモータ10の正回転用の入力ポートと接続される配管22Fに、上述した前進用の第2のスピードコントローラ24Aが設けられる。同様に、第2のエアモータ10の逆回転用の入力ポートと接続される配管22Gにも、後退用の第2のスピードコントローラ24Bを設けることができる。上述したように第2のエアモータ10の逆回転用の入力ポートと接続される配管22Gにも、第2のスピードコントローラ24Bを設けると、第2のエアモータ10を逆回転させる際における回転数を調整することが可能となる。このため、回転工具T及びホルダ4の前進速度に加えて後退速度を調整することが可能となる。
【0072】
他方、工具回転装置2の筐体6内に導かれた配管22Bは、人力操作制御弁32と第1のエアモータ5との間に接続された分岐要素35で分岐し、分岐した配管22Hの出力側は、第1の空気圧操作制御弁33を切換えるための空気圧操作ポートと接続される。すなわち、工具回転装置2の筐体6内で分岐する配管22Hを流れるエア信号は、第1の空気圧操作制御弁33の入力ポートに接続された配管22Cの出力先を切換えるための操作信号として用いられる。
【0073】
第1の空気圧操作制御弁33の空気圧操作ポートにエア信号が入力されない状態では、第2の分岐要素31Bで分岐する配管22Cが、第2のエアモータ10の逆回転用の入力ポートと接続される配管22Gと連結される。一方、第1の空気圧操作制御弁33の空気圧操作ポートにエア信号が入力されると、第1の空気圧操作制御弁33の出力先が切換り、第2の分岐要素31Bで分岐する配管22Cが、第2のエアモータ10の正回転用の入力ポートと接続される配管22Fと連結される。
【0074】
従って、押しボタンから成るスイッチ8を押下して人力操作制御弁32をオン状態に切換えると、工具回転装置2内で分岐する配管22Hをエア信号が流れて第1の空気圧操作制御弁33の空気圧操作ポートにエア信号が入力する。このため、第1の空気圧操作制御弁33の出力先が切換り、第2の分岐要素31Bで分岐する配管22Cが、第2のエアモータ10の正回転用のエア信号を供給するための配管22Fと連結される。その結果、圧縮エアの供給源から配管22C及び配管22Fを介して第2のエアモータ10に正回転用のエア信号を入力することができる。
【0075】
これにより、第1のエアモータ5の回転開始と、第2のエアモータ10の回転開始を連動させ、回転工具T及びホルダ4の回転が開始すると、回転工具T及びホルダ4の送り動作も開始するようにすることができる。つまり、押しボタンから成る単一かつ共通のスイッチ8が押下されてオンに切換えられた場合に第1のエアモータ5及び第2のエアモータ10の双方の正回転を開始させることができる。
【0076】
また、回転工具T及びホルダ4の送り速度は、予め前進用の第2のスピードコントローラ24Aの操作によって、回転工具T及びホルダ4の回転速度とは独立して設定することができる。このため、回転工具Tの1回転当たりの工具軸AX方向への送り量を可変設定することができる。換言すれば、切削加工において重要な回転工具Tの1刃当たりの切込量を調整することができる。
【0077】
回転工具T及びホルダ4の回転速度と送り速度は、孔加工中においても互いに独立して変更することができる。すなわち、第1のエアモータ5及び第2のエアモータ10の回転中においても、第1のエアモータ5及び第2のエアモータ10の回転数を変更することができる。これは、第1のエアモータ5及び第2のエアモータ10の正回転中において、第1のスピードコントローラ23及び前進用の第2のスピードコントローラ24Aの操作によって第1のエアモータ5及び第2のエアモータ10の各回転数を独立して変更できるためである。
【0078】
このため、
図1及び
図4に例示されるように工具駆動装置1を用いて第1の材料M1と、第2の材料M2とを重ね合せて成るワークWの孔加工を行うことによって被加工品を製造する場合であれば、第1の材料M1を孔加工する時の回転工具Tの1回転当たりの工具軸AX方向への送り量と、第2の材料M2を孔加工する時の回転工具Tの1回転当たりの工具軸AX方向への送り量が、互いに異なる送り量となる孔加工条件で孔加工することができる。
【0079】
すなわち、アルミニウム合金やチタン合金等の金属はもちろん、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)等の材料に応じた適切な孔加工条件でワークWの孔加工を行うことが可能となる。加えて、単一の材料で構成されるワークWに限らず、異なる複数の材料の重ね合せ材がワークWであっても、回転工具Tの1回転当たりの工具軸AX方向への送り量を材料に合わせて変更しながら孔加工を行うことが可能となる。
【0080】
典型的な工具回転装置と同様に、工具回転装置2のスイッチ8は、
図1や
図5に例示されるように人力操作制御弁32に力を作用させる押しボタンで構成される。従来の典型的な工具回転装置において工具の回転を持続するためにはユーザが押しボタンを指で押し続ける必要がある。換言すれば、従来の典型的な工具回転装置においてユーザが押しボタンから指を離すと、ばねの弾性力で人力操作制御弁が閉じるため、工具の回転は停止する。
【0081】
しかしながら、ワークWの孔加工中においてユーザがスイッチ8を指で押し続けることは労力の増加に繋がるのみならず、ワークWの孔加工中においてスイッチ8がオフに切換ると、不十分な回転数で回転工具Tが前進してしまう不具合の発生に繋がる恐れがある。そこで、第2のエアモータ10が正回転し、回転工具T及びホルダ4が工具軸AX方向に前進移動している間はスイッチ8がオン状態のままロックするようにエア信号回路25を構成することができる。
【0082】
その場合には、例えば、スイッチ8の移動を物理的に抑止する抑止装置36を工具回転装置2に設ける一方、抑止装置36をエア信号で駆動するための回路をエア信号回路25に設けることができる。
図1及び
図4に示す例では、スイッチ8を構成する押しボタンが押下された場合には、押下された位置で押しボタンの頭を押さえるスイッチ保持プレート36Aで構成される抑止装置36が工具回転装置2に設けられている。
【0083】
スイッチ保持プレート36Aは回転シャフト36Bを中心に回転可能に設けられ、ねじりコイルばね36Cの弾性力によってスイッチ8の頭に押し当たるようになっている。このため、ユーザが一旦指でスイッチ8を押下すると、スイッチ8の頭がスイッチ保持プレート36Aで押さえられ、スイッチ8の移動が抑止される。すなわち、スイッチ8が押下された状態で、ばね32Aの弾性力で人力操作制御弁32が閉じないように、スイッチ8をロックすることができる。これにより、回転工具T及びホルダ4の回転と送りを自動継続することが可能となり、ユーザは、回転工具Tの回転数と送り速度の調整に専念することができる。
【0084】
ワークWの孔加工が完了した場合には、ロックしたスイッチ8をオフに切換えて、速やかに回転工具T及びホルダ4の回転を停止させることが圧縮エアのエネルギ損失の低減に繋がる。そこで、ワークWの孔加工の完了を検知し、ワークWの孔加工の完了が検知された場合には、スイッチ保持プレート36Aをスイッチ8の頭から外す回路をエア信号回路25に設けることができる。
【0085】
具体例として、
図1、
図4及び
図5に示すように、スイッチ保持プレート36Aをスイッチ8の頭から押し上げて外すエアシリンダ37を設けることができる。より具体的には、シリンダチューブ37Aにピストン37Bを挿入し、シリンダチューブ37A内にエア信号を入力するとピストン37Bに連結されたロッド37Cが突出してスイッチ保持プレート36Aの端部を押し付けるエアシリンダ37を、スイッチ8とともに工具軸AX方向に前進移動する工具回転装置2又は連結器具14等の任意の部分に取付けることができる。例えば、
図1及び
図4に示す例のように、工具回転装置2の筐体6と送り機構3とを連結するための環状連結具14Aに抑止装置36及びエアシリンダ37を取付けることができる。
【0086】
そうすると、エアシリンダ37にエア信号を入力すればロッド37Cが伸張してスイッチ保持プレート36Aの端部を押し付け、スイッチ保持プレート36Aがねじりコイルばね36Cの弾性力に逆らって回転シャフト36Bを中心に回転するように構成することができる。つまり、エア信号によってスイッチ8のロックを解除することが可能となる。
【0087】
他方、回転工具T及びホルダ4が停止位置に到達したことを検知することによって、ワークWの孔加工の完了を検知することができる。その場合には、
図1、
図2及び
図4に例示されるように、回転工具T及びホルダ4が停止すべき位置に到達した場合に、工具回転装置2側に連結されるストロークスイッチ押下部材38と接触して押下される押しボタン式のストロークスイッチ39を、ノーズピース13、雌ネジ17を設けた部材18或いはシャフト21等の工具軸AX方向に移動しない部分に設けることができる。
【0088】
或いは、逆にストロークスイッチ39を、第2のエアモータ10及びギア11を収納する筐体15等の工具軸AX方向に移動する部分に取付ける一方、ストロークスイッチ押下部材38を工具軸AX方向に移動しない部分に設けるようにしても良い。
【0089】
図1、
図2及び
図4に示す例では、複数のシャフト21のうちの1つにブラケット39Aでストロークスイッチ39が取付けられている。そして、第2のエアモータ10及びギア11を収納する筐体15にリニアブッシュ21等を取付けるための連結プレート14Dが、ストロークスイッチ39と接触するストロークスイッチ押下部材38を兼ねている。
【0090】
ストロークスイッチ39は、
図5に示すように、ばね40Aで開閉する常時閉の第1の機械操作制御弁40を切換えるための機械的スイッチとして、第1の機械操作制御弁40と連結することができる。第1の機械操作制御弁40は、第3の分岐要素31Cで分岐する一方の配管22D上に設けられる。第1の機械操作制御弁40で開閉される配管22Dは、スイッチ保持プレート36Aによるスイッチ8のロックを解除するためのエアシリンダ37と連結される。
【0091】
第2のエアモータ10が正回転することによって、回転工具T及びホルダ4が停止位置に到達する前は、ストロークスイッチ39が押下されないため、第1の機械操作制御弁40は閉状態となる。このため、圧縮エアの供給源から第3の分岐要素31Cを経由して配管22Dを流れるエア信号は、エアシリンダ37には供給されない。従って、スイッチ保持プレート36Aによるスイッチ8のロックは維持される。
【0092】
これに対して、第2のエアモータ10が正回転することによって、回転工具T及びホルダ4が停止位置まで前進移動すると、工具回転装置2側に連結されるストロークスイッチ押下部材38がストロークスイッチ39として接触し、ストロークスイッチ39が押下される。そうすると、第1の機械操作制御弁40がオフ状態からオン状態に切換る。すなわち、第1の機械操作制御弁40が開き、エア信号が配管22Dからエアシリンダ37に入力する。
【0093】
その結果、ピストン37Bに連結されたロッド37Cがシリンダチューブ37Aから突出し、スイッチ保持プレート36Aの端部を押し付ける。このため、スイッチ保持プレート36Aがねじりコイルばね36Cの弾性力に逆らって回転シャフト36Bを中心に回転し、スイッチ8の頭から外れる。そうすると、人力操作制御弁32のばね32Aの弾性力によってスイッチ8がオフ状態に戻る。このため、配管22Bから第1のエアモータ5に供給されるエア信号が遮断され、第1のエアモータ5の回転が停止する。
【0094】
このように、スイッチ8をオン状態でロックするためのスイッチ保持プレート36Aと、ストロークスイッチ39の押下によって駆動するエアシリンダ37の動作によって、スイッチ8のロックの解除、スイッチ8のオフ状態への切換え及び第1のエアモータ5の回転の停止をいずれも自動的に行うことができる。
【0095】
尚、ストロークスイッチ39とストロークスイッチ押下部材38との間における距離を調整できるようにすれば、回転工具T及びホルダ4の停止位置、すなわちストローク(移動範囲)自体を可変設定することが可能となる。この場合、ワークWの孔加工の深さに応じて、回転工具T及びホルダ4を前進させる距離を調整することができる。そこで、例えば、ストロークスイッチ39をブラケット39Aでシャフト21の所望の位置に固定できるようにしても良い。すなわち、ストロークスイッチ39を取付けるためのブラケット39Aを止めねじ等で着脱可能にシャフト21に取付けるようにすれば、ストロークスイッチ39の位置を変更することができる。
【0096】
これは、ホルダ4が停止位置まで前進移動したことを検知するエア回路要素として、ストロークスイッチ39とストロークスイッチ押下部材38を用いる場合に限らず、他のエア回路要素を用いる場合においても同様である。すなわち、エア回路要素に応じて、ホルダ4の停止位置を調整できるように構成することができる。
【0097】
回転工具T及びホルダ4が停止位置まで到達し、回転工具T及びホルダ4の回転が停止した後は、回転工具T及びホルダ4を後退させて初期位置に戻すことが必要となる。但し、回転工具T及びホルダ4が初期位置に戻った場合には、回転工具T及びホルダ4の後退送り動作を停止することが必要である。
【0098】
そこで、回転工具T及びホルダ4が初期位置まで後退したか否かを検知するために、
図1、
図2及び
図4に例示されるように、回転工具T及びホルダ4が初期位置に到達した場合に、工具回転装置2側に連結されるプランジャ押下部材41と接触して押下されるプランジャ42を、雌ネジ17を設けた部材18等の工具軸AX方向に移動しない部分に設けることができる。もちろん、逆にプランジャ押下部材41を雌ネジ17を設けた部材18等の工具軸AX方向に移動しない部分に設ける一方、プランジャ42を工具軸AX方向に移動する部分に設けるようにしても良い。
【0099】
そして、
図5に示すようにプランジャ42を、ばね43Aで開閉する常時開(ノーマルオープン)の第2の機械操作制御弁43を切換えるための機械的スイッチとして第2の機械操作制御弁43と連結することができる。
【0100】
すなわち、回転工具T及びホルダ4が初期位置に到達し、プランジャ押下部材41と接触してプランジャ42が押下されている間は閉状態となり、回転工具T及びホルダ4が初期位置から離れ、プランジャ42が押下されていない間は開状態となる第2の機械操作制御弁43を、エア信号回路25に設けることができる。
【0101】
第2の機械操作制御弁43は、第3の分岐要素31Cで分岐する他方の配管22E上に配置される。そして、第2の機械操作制御弁43の出力ポートと接続される配管22Eの出力側は、第2の空気圧操作制御弁34の空気圧操作ポートと接続される。このため、回転工具T及びホルダ4が初期位置にある場合には、プランジャ42が押下されて第2の機械操作制御弁43が閉じられ、第2の空気圧操作制御弁34の空気圧操作ポートにはエア信号が入力されない。その結果、第2の空気圧操作制御弁34も閉状態となる。すなわち、第2のエアモータ10の逆回転用の入力ポートと接続される配管22Gが遮断される。
【0102】
逆に、回転工具T及びホルダ4が初期位置に無い場合には、プランジャ42が押下されず、第2の機械操作制御弁43は開くため、配管22Eを流れるエア信号は第2の空気圧操作制御弁34の空気圧操作ポートに入力する。このため、第2の空気圧操作制御弁34が開き、第2のエアモータ10の逆回転用の入力ポートと接続される配管22Gが開通する。
【0103】
つまり、プランジャ42を機械スイッチとして切換る第2の機械操作制御弁43と、第2の空気圧操作制御弁34を用いることによって、回転工具T及びホルダ4が初期位置に無い場合に限り、第2のエアモータ10の逆回転用のエア信号を供給するための配管22Gを開通させる回路を形成することができる。
【0104】
上述のように回転工具T及びホルダ4が停止位置まで前進移動するとストロークスイッチ39が押下されてスイッチ8がオフ状態に切換る。スイッチ8がオフ状態に戻ると、第1のエアモータ5に供給されるエア信号のみならず第1の空気圧操作制御弁33の空気圧操作ポートに入力されるエア信号も遮断される。このため、第1の空気圧操作制御弁33が初期状態に切換り、第1の空気圧操作制御弁33の入力ポートに接続された配管22Cが、第2のエアモータ10の逆回転用の入力ポートと接続される配管22Gと連結される。
【0105】
また、回転工具T及びホルダ4が前進した後はプランジャ42が押下されないため、第2のエアモータ10の逆回転用の入力ポートと接続される配管22G上に設けられる第2の空気圧操作制御弁34は、開状態となる。従って、圧縮エアの供給源と接続された配管22Cから第1の空気圧操作制御弁33を経由して配管22Gに供給されるエア信号は、第2の空気圧操作制御弁34を通過して第2のエアモータ10の逆回転用の入力ポートに入力する。その結果、第2のエアモータ10が逆回転し、回転工具T及びホルダ4が後退する。すなわち、第2のエアモータ10の回転方向が逆になり、回転工具T及びホルダ4の後退送り動作が自動的に開始される。
【0106】
第2のエアモータ10の逆回転によって回転工具T及びホルダ4が後退し、初期位置に到達するとプランジャ押下部材41がプランジャ42を押下する。このため、第2の機械操作制御弁43が閉状態に切換り、第2の空気圧操作制御弁34を開くためのエア信号の入力が遮断されるため、第2の空気圧操作制御弁34も閉状態に切換る。その結果、第2のエアモータ10の逆回転用の入力ポートへのエア信号の供給が断たれ、第2のエアモータ10の逆回転が停止する。すなわち、回転工具T及びホルダ4の後退移動が停止する。
【0107】
このように、スイッチ8をオン状態でロックするためのスイッチ保持プレート36Aと、ストロークスイッチ39の押下によって駆動するエアシリンダ37に加えて、プランジャ42を設けた第2の機械操作制御弁43、第1の空気圧操作制御弁33及び第2の空気圧操作制御弁34等の回路要素を組合わせることによって、回転工具T及びホルダ4が停止位置まで前進移動すると、第2のエアモータ10を自動的に逆回転させることによって、回転工具T及びホルダ4を工具軸AX方向に自動的に後退移動させる機能や、第2のエアモータ10が逆回転することによってホルダ4が初期位置まで後退移動すると、第2のエアモータ10の回転を自動的に停止させる機能を、エア信号回路25に設けることができる。
【0108】
上述の他、第2のエアモータ10の正回転用の入力ポートと配管22Fで連結される第1の空気圧操作制御弁33並びに第2のエアモータ10の逆回転用の入力ポートと配管22Gで連結される第2の空気圧操作制御弁34には、それぞれサイレンサとしてマフラ33B、34Bを連結することができる。
【0109】
以上のような工具駆動装置1、工具回転装置2用の工具送り機構及び孔加工方法は、回転工具T及びホルダ4を回転させる動力源としての第1のエアモータ5とは別に、回転工具T及びホルダ4を工具軸AX方向に前進及び後退させる動力源としての第2のエアモータ10を設けたものである。
【0110】
(効果)
工具駆動装置1、工具回転装置2用の工具送り機構及び孔加工方法によれば、回転工具T及びホルダ4の回転数と送り速度を別々に制御することができる。このため、回転工具Tの特性及びワークWの材質に適した1刃当たりの送り量及び1回転当たりの送り量でワークWの孔加工を行うことが可能となる。その結果、孔加工の品質を向上することができる。また、回転工具Tの送り速度を増加できるにも関わらず、送り速度を増加できないことに伴う孔加工時間の増加を回避することができる。
【0111】
従来の送り機能付きの工具駆動装置の場合には、回転工具の回転と送り動作が共通のエアモータで行われる。このため、回転工具の回転数と送り速度が連動しており、回転工具の回転数を増加させると送り速度も増加し、逆に回転工具の回転数を低下させると、送り速度も低下するという特性がある。従って、従来の工具駆動装置では回転工具の1回転当たりの送り量を調節することができず、回転工具のサイズやワークの材質等の孔加工条件ごとにチューニングされた複数の工具駆動装置を調達することが必要である。
【0112】
また、カートリッジを交換することによって回転工具の送り速度を変更できる工具駆動装置も市販されているが、カートリッジの交換に労力と時間を要する。
【0113】
これに対して工具駆動装置1を用いれば、第1のスピードコントローラ23と前進用の第2のスピードコントローラ24Aを操作するのみで回転工具T及びホルダ4の回転数と送り速度を連続的かつ独立して簡易に変更することができる。このため、1台の工具駆動装置1で異なる回転工具Tを用いた孔加工や異なる材質の孔加工を行うことができる。その結果、工具駆動装置の数とともに器工具費用の削減を図ることができるのみならず、工具駆動装置の交換が不要となることから孔加工の段取りに要する時間の削減を図ることができる。
【0114】
加えて、工具駆動装置1を用いれば、孔加工においても、回転工具の1刃当たりの送り量及び1回転当たりの送り量を変更することができる。このため、
図1及び
図4に例示されるように異なる材料M1、M2を重ね合せたワークWの孔加工を行う場合において、材料M1、M2ごとに異なる加工条件で孔加工を連続的に行うことが可能となる。
【0115】
具体例として、アルミニウム合金と、チタン合金を重ね合せたワークの孔加工を従来の工具駆動装置を用いて行う場合には、アルミニウム合金の孔加工用にチューニングされた工具駆動装置でアルミニウム合金の層を加工する一方、チタン合金の孔加工用にチューニングされた別の工具駆動装置でチタン合金の層を加工する第1の方法、アルミニウム合金の孔加工用にチューニングされた工具駆動装置のみでアルミニウム合金の層とチタン合金の層の双方を加工する第2の方法、チタン合金の孔加工用にチューニングされた工具駆動装置のみでアルミニウム合金の層とチタン合金の層の双方を加工する第3の方法の3通りが考えられる。
【0116】
しかしながら、第1の方法を採用すると2種類の工具駆動装置が必要となり、かつ孔加工の途中で工具駆動装置を交換することが必要となる。このため、孔加工コストの増加に繋がる。また、チタン合金はアルミニウム合金よりも強度が高く難削材として知られている。このため、アルミニウム合金の孔加工条件で孔加工を行う第2の方法を採用すると、チタン合金の孔加工時に回転工具の1刃当たりの送り量が過剰となり、チタン合金が焦げたり、回転工具が破損する恐れがある。その結果、孔加工品質の劣化や工具の消耗に繋がる。逆に、チタン合金の孔加工条件で孔加工を行う第3の方法を採用すると、アルミニウム合金の層を孔加工する際には、回転工具の1刃当たりの送り量を増加できるにも関わらず、回転工具の1刃当たりの送り量が増加しないことになる。このため、孔加工時間の増加に繋がる。
【0117】
これに対して、工具駆動装置1を用いれば、アルミニウム合金の層とチタン合金の層を異なる加工条件で孔加工することができる。すなわち、難削材であるチタン合金の層については、回転工具Tの1刃当たりの送り量を十分に低下させて孔加工品質を維持する一方、切削加工が容易なアルミニウム合金の層については、回転工具Tの1刃当たりの送り量を増加させて加工時間の短縮化を図ることができる。
【0118】
また、エアモータではなくエアシリンダで回転工具Tに送り動作を付与することも考えられるが、エアシリンダによって得られる推力は空気圧でピストンを押し出すことによって得られる力であることから限界がある。このため、ワークの強度が大きい場合には、孔加工反力に対抗できる程の推力がエアシリンダでは得られない可能性がある。
【0119】
これに対して、工具駆動装置1のように第2のエアモータ10の回転によって直線的に移動するボールネジ9A等の直線移動機構9で機械的に回転工具Tに力を伝達する構成とすれば、エアシリンダでは得ることが困難な大きな推力を得ることができる。このため、孔加工反力に対抗できる推力で回転工具Tを送りつつ、送り速度の調整が可能となる。特に、第2のエアモータ10にギア11を連結すれば、ワークの強度が大きい場合であっても、孔加工反力に対抗できる推力を生成することが可能となる。
【0120】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0121】
例えば、上述した実施形態では、工具駆動装置1がハンドツールである場合を例に説明したが、工具軸AX方向への回転工具Tの送り機能を備えたエア式の手持ち式ではない穿孔機や工作機械においても回転工具T及びホルダ4を回転させる動力源としての第1のエアモータ5とは別に、回転工具T及びホルダ4を工具軸AX方向に前進及び後退させる動力源としての第2のエアモータ10を設けることによって工具駆動装置1を構成することができる。
【符号の説明】
【0122】
1…工具駆動装置、2…工具回転装置、3…送り機構、4…ホルダ、5…第1のエアモータ、6…筐体、7…グリップ、8…スイッチ、9…直線移動機構、9A…ボールネジ、10…第2のエアモータ、11…ギア、12…ガイド機構、13…ノーズピース、14…連結器具、14A…環状連結具、14B…L型連結具、14C…連結シャフト、14D…連結プレート、15…筐体、16…遊星ギア、16A…太陽ギア(サンギア)、16B…遊星ピニオン(プラネタリピニオン)、16C…内歯ギア、17…雌ネジ、18…部材、19…シャフト、20…ブッシングチップ、20A…ブッシュ、20B…板状の部分、21…リニアブッシュ、22A、22B、22C、22D、22E、22F、22G、22H…配管、23…第1のスピードコントローラ、24A、24B…第2のスピードコントローラ、25…エア信号回路、25A…エア信号回路ユニット、30…エアコネクタ、31A、31B、31C…分岐要素、32…人力操作制御弁、32A…ばね、33…第1の空気圧操作制御弁、33A…ピストン、33B…マフラ、34…第2の空気圧操作制御弁、34A…ピストン、34B…マフラ、35…分岐要素、36…抑止装置、36A…スイッチ保持プレート、36B…回転シャフト、36C…ねじりコイルばね、37…エアシリンダ、37A…シリンダチューブ、37B…ピストン、37C…ロッド、38…ストロークスイッチ押下部材、39…ストロークスイッチ、39A…ブラケット、40…第1の機械操作制御弁、40A…ばね、41…プランジャ押下部材、42…プランジャ、43…第2の機械操作制御弁、43A…ばね、AX…工具軸、J…治具、J1…止めねじ、M1…第1の材料、M2…第2の材料、T…回転工具、W…ワーク。