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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/231 20110101AFI20230523BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20230523BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/207
B60N2/42
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019069386
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164129
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-114648(JP,A)
【文献】特開2014-012475(JP,A)
【文献】特開2013-220714(JP,A)
【文献】特開2013-124063(JP,A)
【文献】特開2013-123989(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039160(WO,A1)
【文献】米国特許第06029993(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102008030380(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 - 21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席シートの左右双方に配設される部位と、シート座面の下方に配設されると共に左右の部位を連結する部位とを有し、前記座席シートの上方から側面に沿って前記シート座面の下方にまで回り込んで配設されるエアバッグと、
前記座席シートに着座した乗員の肩部よりも上方かつ左右方向内側で前記エアバッグの上部を保持する上部保持部と、
前記エアバッグの展開時に、衝突により乗員が左右の一方に移動することで押し込まれる部位に対し、押し込み方向とは逆方向に張力を与える張力部と、
を備え、
前記張力部が、前記エアバッグにおける左右の部位を連結する部位である、
ことを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記エアバッグは、展開時に前記シート座面の上方に突出して展開する、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記エアバッグの下部は、前記座席シートの前方または下方に展開する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記エアバッグの展開時に、前記エアバッグの下部を前記座席シートの前方または下方に展開させるために誘導するエアバッグ誘導部と、
を備えたことを特徴とする請求項3に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記エアバッグは、前記座席シートの左右一方に設けられた部位と、左右他方に設けられた部位と、が上方で連通している、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衝突等から乗員を保護するため、自動車などの車両では、シートベルト装置やエアバッグ装置が用いられている。
このようなエアバッグ装置として、乗員の前側から後ろ向きに展開するフロントエアバッグがある。このフロントエアバッグは、例えば、車両が前方から衝突する場合に展開され、前方衝突(前突)の際に前に移動しようとする乗員を受け止めて支え、保護するものである。
【0003】
また、車両の側方からの衝突に備えたカーテンエアバッグもある。このカーテンエアバッグは、車両の側面内側に沿って前後方向に展開するものである。例えば、車両の側方から衝突があった場合に展開され、側方衝突(側突)の際に車幅方向外側に向かって移動しようとする乗員を受け止めて支え、保護するものである。
一方、側方衝突の場合、衝突物が接触する側(ニアサイド)から遠い方(ファーサイド)の座席の乗員は、慣性によってニアサイド側に大きく移動するため、運転席と助手席との間に展開させるファーサイドエアバッグも考えられている。
【0004】
ただし、一般的なファーサイドエアバッグでは、ニアサイドで展開するエアバッグと異なり、サイドドアのような支えになる物体と隣接していないため、膨張展開しても乗員を受け止めた際の衝撃によって倒れ、十分に乗員拘束を行うことができない虞がある。
そこで、ファーサイド側に小さなエアバッグを展開し、その外側にベルトを張ってエアバッグを支えるサイドエアバッグ装置が提供されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-012495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車両への衝突は、あらゆる方向から多くの衝突形態が考えられ、例えば、ローリングや、ヨーイングなどの複雑な動きをする場合もあり、多くの衝突形態に対応するためには、コストがかかりすぎてしまうという問題があった。また、上記従来のエアバッグ装置のように、局所的な拘束を複数で行うようにすると、特定の箇所に大きな力が集中してしまう虞がある。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、乗員に対して局所的に大きな力がかかることを防止し、また、乗員にかかる衝撃そのものを和らげることができ、乗員の保護機能を高めることができる乗員保護装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る乗員保護装置は、座席シートの上方から側面に沿ってシート座面の下方にまで回り込んで配設されるエアバッグと、前記座席シートに着座した乗員の肩部よりも上方かつ左右方向内側で前記エアバッグの上部を保持する上部保持部と、前記エアバッグの展開時に、前記エアバッグの下部を前記エアバッグが展開された側面とは逆方向に張力を与える張力部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、前記エアバッグは、前記座席シートの左右双方に配設され、前記シート座面の下方で連結されており、前記エアバッグの展開時に、前記エアバッグの左右一方が他方のエアバッグの下部に張力を与える、ようにしてもよい。
【0010】
さらに前記エアバッグの下部は、前記座席シートの前方または下方に展開する、ようにしてもよい。
【0011】
さらに、前記エアバッグの展開時に、前記エアバッグの下部を前記座席シートの前方または下方に展開させるために誘導するエアバッグ誘導部と、を備えるようにしてもよい。
【0012】
さらに、前記エアバッグは、展開時に前記シート座面の上方に突出して展開する、ようにしてもよい。
【0013】
さらに、前記エアバッグは、前記座席シートの左右一方に設けられたエアバッグと、左右他方に設けられたエアバッグと、が上方で連通している、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、乗員に対して局所的に大きな力がかかることを防止し、また、乗員にかかる衝撃そのものを和らげることができ、乗員の保護機能を高めることができる乗員保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の一例を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態におけるエアバッグの収納状態および展開状態を示す図である。
図3】本発明の実施の形態におけるエアバッグの展開時の経過状態を示す図である。
図4】本発明の他の実施の形態におけるエアバッグの収納状態および展開状態を示す図である。
図5】本発明の他の実施の形態におけるエアバッグの収納状態および展開状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
まず、本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の構成について、説明する。なお、図1は、本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の断面図である。また、図2は、本発明の実施の形態におけるエアバッグの収納状態および展開状態を示す図である。また、図3は、本発明の実施の形態におけるエアバッグの展開時の経過状態を示す図である。
【0017】
(車両1の構成)
図1に示すように、車両1の乗員室は、下部にアンダーフロア3、上部にルーフ4が設けられている。また、アンダーフロア3には、座席シート10が配備されている。
【0018】
座席シート10は、車両1に乗車した乗員Pが着座するものである。また、座席シート10は、乗員Pの臀部から大腿部を支えるシートクッション11(座部)と、リクライニング可能に設けられたシートバック12(背もたれ部)と、乗員Pの頭部を支えるヘッドレスト13(ヘッド部)と、を備えている。
【0019】
また、座席シート10には、後述するエアバッグ121を収納する収納部10Aが設けられている。収納部10Aは、シートバック12の収納部12a、12b、12cと、シートクッション11の収納部11a、11b、11cと、から構成される。
シートバック12の収納部12aは、シートバック12の左側の側部に沿って、上方から下端まで設けられている。また、シートバック12の収納部12bは、シートバック12の右側の側部に沿って、上方から下端まで設けられている。さらに、シートバック12の収納部12cは、シートバック12の上部に沿って設けられている。そして、シートバック12の収納部12bと収納部12cとが連結され、収納部12cと収納部12aとが連結されている。
【0020】
シートクッション11の収納部11a、収納部11b、収納部11cは、シートクッション11の座面(シート座面)の下に設けられている。
また、シートクッション11の収納部11aは、シートクッション11の左側の側部に沿って、後方から前方に向けて設けられ、また、後方がシートクッション11の上端まで延びている。また、シートクッション11の収納部11bは、シートクッション11の内部を左右に横断するように設けられている。
【0021】
さらに、シートクッション11の収納部11cは、シートクッション11の右側の側部に沿って、後方から前方に向けて設けられ、また、後方がシートクッション11の上端まで延びている。
そして、シートクッション11の収納部11aと収納部11bとが連結され、収納部11bと収納部11cとが連結されている。
【0022】
さらに、シートバック12の収納部12aとシートクッション11の収納部11aとが連結され、シートクッション11の収納部11cとシートバック12の収納部12bとが連結されている。
したがって、座席シート10の収納部10Aは、シートバック12の収納部12aから、シートクッション11の収納部11a、収納部11b、収納部11c、シートバック12の収納部12b、収納部12c、そして、収納部12aの順に、すべてが連結されている。
【0023】
また、座席シート10のシートクッション11には、シートクッション11の収納部11bに収納されたエアバッグ121が、展開時に展開方向が誘導される案内経路131が設けられている。
案内経路131は、シートクッション11の収納部11bから車両1の下方および斜め前方向に向かった通路であり、先端に向かうほど幅が広くなるように設けられている。また、案内経路131の先端部は、シートクッション11の下部付近まで延在している。そして、シートクッション11の下部で、案内経路131の先端部付近は、エアバッグ121の展開時には破断可能であって、エアバッグ121が外部に突出できるようになっている。
【0024】
(乗員保護装置101の構成)
次に、本発明の実施の形態における乗員保護装置の構成について、説明する。なお、本実施の形態の乗員保護装置は、エアバッグ展開制御ユニット(ACU)や、車両制御装置(ECU)等によって制御されるものである。
乗員保護装置101は、インフレータ111と、エアバッグ121と、を備えている。
【0025】
(インフレータ111)
インフレータ111は、車両1に対する衝突や衝突予測が検知されると、異常検知部やECU等から送られた信号に基づいて、火薬に点火し、燃焼による化学反応でガスを発生させ、エアバッグ121にガスを圧入させる。すなわち、インフレータ111は、エアバッグ121にガスを供給するものである。なお、インフレータ111は、座席シート10のシートクッション11の後方の内部に設けられている。すなわち、インフレータ111は、シートバック12よりも下方に設けられている。
【0026】
そして、例えば、座席シート10が左側の座席である場合、インフレータ111は、シートクッション11の車外側となる収納部11a(収納部11cが車両1のセンター側となる)の近辺に設けられ、ここから収納部11aに収納されたエアバッグ121にガスを圧入するようになっている。このようにすることにより、エアバッグ122の車外側がより早く展開するようになる。また、インフレータ111は、シートバック12の下部等に設けられていてもよい。
【0027】
(エアバッグ121)
エアバッグ121は、インフレータ111によってガスが圧入される袋体であって、非作動時は小さく折りたたまれている。また、エアバッグ121は、座席シート10の内部に収納されている。
具体的には、エアバッグ121は、座席シート10の収納部10Aに収納されている。すなわち、エアバッグ121は、シートバック12の収納部12a、12b、12cと、シートクッション11の収納部11a、11b、11cと、に収納されている。したがって、エアバッグ121は、座席シート10の左右双方、および、上下に配設されている。
【0028】
これにより、エアバッグ121は、シートバック12の上部から側壁に沿って下方まで設けられ、シートバック12の下部からシートクッション11の後方側部に入り込み、シートクッション11の側部を前方に向かう。そして、エアバッグ121は、シートクッション11の内部を逆の側部に横断し、逆の側部から後方に配設され、シートバック12の下部の側部に入る。さらに、エアバッグ121は、シートバック12の下部から側部を通って、上部に向かい、さらに、シートバック12の上部に沿って、元の位置まで繋がって、円環状となっている。
【0029】
したがって、エアバッグ121は、シートバック12の上方から側面に沿って、シートクッション11の座面(シート座面)の下方にまで回り込んで配設されている。また、エアバッグ121は、座席シート10の左右一方の設けられたエアバッグ部と、左右他方に設けられたエアバッグ部と、が上方および下方で連通している。
なお、本実施の形態では、エアバッグ121は、シートバック12の上方から配設するようにしたが、ヘッドレストから配設するようにしてもよい。
【0030】
また、エアバッグ121は、作動されると、乗員Pを取り囲むように展開するが、展開時の乗員Pの凹凸に合わせた形状となっている。すなわち、エアバッグ121の内周は、乗員Pの凸部形状の部位に対しては、凹部となっており、乗員Pの凹部形状の部位に対しては、凸部となっている。例えば、エアバッグ121の内周は、乗員Pの肩などと当たる部分よりも、腰などと当たる部分の方が、内側まで大きく展開する形状となっている。
【0031】
また、以下の説明のため、便宜上、シートバック12の収納部12a、シートクッション11の収納部11a、11b、11c、シートバック12の収納部12b、12cに収納されているエアバッグ121の各部位を、それぞれエアバッグ121a、121b、121c、121d、121e、121fとする。なお、エアバッグ121は円環状に連続して繋がったものであって、これらの各部位はあくまで説明の便宜上設けたものであり、厳密にその位置を示すものではなく、各収納部に収納されたおおよその範囲の部分を示すものである。
【0032】
また、前述のように、エアバッグ121は、ガスが入力され膨張すると、主にシートクッション11の収納部11bに収納されている部位、エアバッグ121cが、案内経路131に沿って下方および前方に誘導されることとなる。すなわち、案内経路131が、エアバッグ誘導部として機能する。なお、エアバッグ121cの誘導は、これに限らず、例えば、誘導用のインフレータを用いて、下方および前方に誘導させたり、エアバッグ121cを巻き取り機構等で引っ張って誘導させたり、油圧機構によって誘導させたり、するものでもよい。
【0033】
また、エアバッグ121は、膨張展開すると、エアバッグ121a、121eは、シートバック12の側部から外側に突出し、エアバッグ121fは、シートバック12の上部から上方に突出するようになっている。また、エアバッグ121b、121dは、シートクッション11の側部から外側に突出するようになっている。
なお、本実施の形態では、エアバッグ121は外側に突出するようにしたが、これに限らず、例えば、エアバッグ121a、121e、121fが、シートバック12の前方に突出するものであったり、エアバッグ121b、121dが、シートクッション11の上方に突出するものであってもよい。
【0034】
(乗員保護装置101の動作)
次に、車両1が衝突物と衝突する際の乗員保護装置101の動作について、説明する。
【0035】
このような乗員保護装置101において、車両1に対する衝突や衝突予測が検知されると、インフレータ111が作動され、インフレータ111によりエアバッグ121にガスが圧入される。
エアバッグ121は、インフレータ111によりガスが圧入されると、まず、シートクッション11の収納部11aに収納された部分、エアバッグ121bにガスが圧入され、さらに、シートクッション11の内部で左右に横断する収納部11bに収納された部分、エアバッグ121cにガスが圧入される。そして、エアバッグ121cが膨張すると、シートクッション11の収納部11bに収まりきらなくなり、案内経路131に沿って下方および前方に誘導される。また、エアバッグ121は、シートクッション11の収納部11a、11cに収納されたエアバッグ121b、121dが膨張して、シートクッション11の両外側に飛び出して展開する。
【0036】
そして、エアバッグ121は、エアバッグ121b、121dからシートバック12の収納部12a、12bに収納されたエアバッグ121a、121eに、ガスが圧入される。これにより、エアバッグ121a、121bも膨張し、シートバック12の両外側に飛び出して展開する。なお、前述のように、インフレータ111に近いエアバッグ121aの方が、インフレータ111から遠いエアバッグ121eよりも先に展開する。
【0037】
さらに、エアバッグ121は、エアバッグ121a、121eからシートバック12の上部に設けられた収納部12cに収納されたエアバッグ121fに、ガスが圧入される。これにより、エアバッグ121fも膨張し、シートバック12の上方に飛び出して展開する。
なお、乗員Pの肩部より上方かつ左右方向内側、すなわち、シートバック12の上方中央部付近に、上部保持部を有し、エアバッグ121fを保持するようにしてもよい。これにより、エアバッグ121は、上部で固定されることとなる。
【0038】
ここで、案内経路131に誘導されるエアバッグ121の展開時の経過について、詳しく説明する。
図3に示すように、エアバッグ121は、インフレータ111によりガスが圧入されると、まず、エアバッグ121bにガスが圧入され、さらに、エアバッグ121cにガスが圧入される。そして、エアバッグ121cが膨張すると、図3(b)に示すように、シートクッション11の収納部11bに収まりきらなくなり、案内経路131に沿ってやや下方および前方に誘導される。
さらに、エアバッグ121cにガスが圧入されると、図3(c)に示すように、よりエアバッグ121cが膨張し、案内経路131に沿ってさらに下方および前方に誘導される。また、この頃には、エアバッグ121a、121eにもガスが入力され、エアバッグ121a、121eの下方等も、シートクッション11の両外側に飛び出して展開することとなる。
【0039】
そして、さらに、エアバッグ121cにガスが圧入されると、図3(d)に示すように、エアバッグ121cが最大限に膨張し、案内経路131の最下方および最前方に誘導される。
このように、エアバッグ121の下部となるエアバッグ121cは、案内経路131に誘導されて、座席シート10の前方および下方に展開することとなる。
【0040】
以上により、エアバッグ121が乗員Pの周りを円環状に取り囲むように展開するので、乗員Pの側面等を全体的に大きく覆うため、局所的に大きな力がかかることを防止でき、乗員Pに対する保護機能を高めることができる。
【0041】
また、エアバッグ121は、下方のエアバッグ121cが下方および前方に移動するので、上方のエアバッグ121fとの距離が長くなり、エアバッグ121a、121bやエアバッグ121d、121e等に張力が働き、乗員Pの側方への移動に対し、反力を与えることができる。
【0042】
したがって、例えば、乗員Pの左側から衝突が起こった場合、乗員Pは左方向に移動し、エアバッグ121の左側の輪の部分(エアバッグ121a)に接触することとなる。このとき、エアバッグ121は、円環状につながっているため、エアバッグ121の右側の輪の部分(エアバッグ121e)が左側の輪の部分(エアバッグ121a)の移動を阻害する(右側から反力が得られる)、すなわち、逆方向に張力を与える張力部として機能することとなる。また、右方向からの衝突の場合、エアバッグ121の左側の輪の部分(エアバッグ121a)が右側の輪の部分(エアバッグ121e)に対する張力部として機能する。したがって、エアバッグ121の左右一方が、他方に張力を与えることとなる。
【0043】
このため、エアバッグ121が、乗員Pが左側へ移動することを抑制し、左側からの衝突による車載部品等との接触を回避することができる。また、車載部品等との接触の回避までできなかったとしても、乗員Pがエアバッグ121ごと車載部品等に突入する勢いを弱めることができ、乗員Pにかかる衝撃を和らぎ、保護性能を高めることができる。
【0044】
さらに、例えば乗員Pの前方から衝突が起こった場合、エアバッグ121は、下方のエアバッグ121cが下方および前方に移動するので、円環状のエアバッグの下方側が、乗員前方へ遷移する。乗員肩部の前方にエアバッグ121の両側の環の部分(エアバッグ121a、エアバッグ121e)が存在することで、乗員の前方への移動や、その後の乗員の挙動を弱めることができ、乗員Pにかかる衝撃を和らぎ、保護性能を高めることができる。
【0045】
次に、エアバッグが乗員Pの頭部よりも上方に展開する例について、説明する。
なお、図4は、本実施の形態におけるエアバッグの収納状態および展開状態を示す図である。
【0046】
また、本実施の形態の座席シート10にも、上記実施の形態と同様に、エアバッグ122を収納する収納部10Aが設けられており、収納部10Aは、シートバック12の収納部12a、12b、12cと、シートクッション11の収納部11a、11b、11cと、から構成される。
さらに、シートバック12の上部には、後述するシート突出部140が設けられている。また、シートクッション11にも、上記実施の形態と同様に、エアバッグ122が展開時に誘導される案内経路131が設けられている。
【0047】
(乗員保護装置102の構成)
本実施の形態における乗員保護装置102は、インフレータ112と、エアバッグ122と、シート突出部140と、を備えている。
【0048】
(インフレータ112)
インフレータ112は、上述したインフレータ111と同様のものであり、車両1に対する衝突または衝突予測の検知に基づいて、ガスを発生させ、エアバッグ122にガスを圧入させるものである。
【0049】
(エアバッグ122)
エアバッグ122は、上述したエアバッグ121と同様に、円環状の袋体が座席シート10の内部に収納されている。すなわち、エアバッグ122は、シートバック12の収納部12a、シートクッション11の収納部11a、11b、11c、シートバック12の収納部12b、12cに収納されている。
なお、本実施の形態においても、便宜上、シートバック12の収納部12a、シートクッション11の収納部11a、11b、11c、シートバック12の収納部12b、12cに収納されているエアバッグ122の各部位を、それぞれエアバッグ122a、122b、122c、122d、122e、122fとする。
【0050】
(シート突出部140)
シート突出部140は、座席シート10のシートバック12の上部に、シートバック12と一体となって設けられている。また、シート突出部140は、側方断面形状が凹部形状となっており、上部にエアバッグ122の保持用の溝を有している。これにより、エアバッグ122の上部にあたるエアバッグ122fの一部が下方から保持されるようになっている。
【0051】
そして、シート突出部140は、車両1に対する衝突または衝突予測が検知されると、図示しない突出装置により、上方に突出されるようになっている。また、シート突出部140の上方への突出は、エアバッグ122の上部(エアバッグ122fの一部)を保持したまま、乗員Pの頭部の位置よりも高い位置まで突出するようになっている。
【0052】
また、シート突出部140は、エアバッグ122fの一部を下方から支えるようになっているので、エアバッグ122の膨張を妨げることがない。また、本実施の形態では、シート突出部140は、エアバッグ122fの一部を常に保持するようにしているが、これに限らず、エアバッグ122fの上方への突出後は、エアバッグ122がシート突出部140から離れるようにしてもよい。また、シート突出部140は、内部に貫通路を有し、この貫通路内にエアバッグ122を保持するようにしたものであってもよい。
【0053】
さらに、上記突出装置は、例えば、インフレータ等を有し、車両1に対する衝突または衝突予測が検知された際に、インフレータを作動させ、シート突出部140を突出させるものである。また、突出装置は、バネ等を用いて、通常時はストッパで留めておき、作動時にこのストッパを解除するものであってもよい。また、シート突出部140の突出は、ソレノイドによるものや、油圧を用いて移動させるものであってもよい。
【0054】
このような乗員保護装置102において、車両1に対する衝突または衝突予測が検知されると、上述したエアバッグ121と同様に、エアバッグ122は、座席シート10の周りに展開する。また、突出装置によりシート突出部140が上方に突出されることにより、エアバッグ122の上部(エアバッグ122fの一部)が、乗員Pの頭部の上方に移動されるので、円環状のエアバッグ122が乗員Pの周りを完全に(頭部も含めて)囲むこととなる。
これにより、乗員Pの頭部を含めて乗員Pの周りがエアバッグ122に保護されているので、例えば、車両1がローリング等をしてしまっても、乗員Pを適切に保護することができ、車両1の衝突形態によらず、乗員Pを保護することができる。
【0055】
次に、エアバッグが座席シート10のシートクッション11の上部に突出して展開する例について、説明する。
なお、図5は、本実施の形態におけるエアバッグの収納状態および展開状態を示す図である。
【0056】
座席シート10には、後述するエアバッグ123を収納する収納部10Bが設けられている。収納部10Bは、シートバック12の収納部12a、12b、12cと、シートクッション11の収納部11d、11e、11fと、から構成される。
シートバック12の収納部12a、12b、12cは、上記実施の形態と同様のものである。また、シートバック12の上部にも、上記実施の形態と同様のシート突出部140が設けられている。
【0057】
シートクッション11の収納部11dは、シートクッション11の左側の側部に沿って、後方から前方に向けて設けられており、上記実施の形態の収納部11aと同様であるが、上記収納部11aよりも、シートクッション11の前方まで延びている。また、シートクッション11の収納部11eは、シートクッション11の内部を左右に横断するように設けられている点は、上記実施の形態の収納部11bと同様であるが、上記収納部11bよりも、前後方向の幅が広く設けられている。
さらに、シートクッション11の収納部11fは、シートクッション11の右側の側部に沿って、後方から前方に向けて設けられており、上記実施の形態の収納部11cと同様であるが、収納部11dのように、上記収納部11cよりも、シートクッション11の前方まで延びている。そして、シートクッション11の収納部11dと収納部11eとが連結され、収納部11eと収納部11fとが連結されている。
【0058】
さらに、シートバック12の収納部12aとシートクッション11の収納部11dとが連結され、シートクッション11の収納部11fとシートバック12の収納部12bとが連結されている。
したがって、座席シート10の収納部10Bは、上記収納部10Aと同様に、シートバック12の収納部12aから、シートクッション11の収納部11d、収納部11e、収納部11f、シートバック12の収納部12b、収納部12c、そして、収納部12aの順に、すべてが連結されている。
【0059】
また、シートクッション11の上面、略中央には、横方向にテアシームが設けられている。これにより、エアバッグ123の展開時には、このテアシームが破断し、シートクッション11の上方、すなわち、座席シート10の座面(シート座面)の上に、エアバッグ123が突出することとなる。
なお、本実施の形態のシートクッション11には、上記実施の形態における案内経路131は設けられていない。
【0060】
(乗員保護装置103の構成)
本実施の形態における乗員保護装置103は、インフレータ113と、エアバッグ123と、シート突出部140と、を備えている。
【0061】
(インフレータ113)
インフレータ113は、上述したインフレータ112と同様のものであり、車両1に対する衝突または衝突予測の検知に基づいて、ガスを発生させ、エアバッグ123にガスを圧入させるものである。
【0062】
(エアバッグ123)
エアバッグ123は、上述したエアバッグ122と同様に、円環状の袋体が座席シート10の内部に収納されている。ただし、エアバッグ123は、エアバッグ122よりも、シートクッション11の内部で前方まで設けられており、エアバッグ123の下部の幅が広くなっている。
【0063】
なお、本実施の形態においても、便宜上、シートバック12の収納部12a、シートクッション11の収納部11d、11e、11f、シートバック12の収納部12b、12cに収納されているエアバッグ123の各部位を、それぞれエアバッグ123a、123b、123c、123d、123e、123fとする。
【0064】
(シート突出部140)
シート突出部140は、上記実施の形態のシート突出部140と同様のものである。ただし、本実施の形態では、シート突出部140は、エアバッグ123fの一部を常に保持するものではなく、エアバッグ123fの一部を下から支えるだけのものであることが望ましい。すなわち、シート突出部140は、エアバッグ123fを上方へ突出させた後は、エアバッグ122がシート突出部140から自由に移動できるものであることが望ましい。
【0065】
このような乗員保護装置103において、車両1に対する衝突または衝突予測が検知されると、上述したエアバッグ122と同様に、エアバッグ123は、座席シート10の周りに展開する。また、エアバッグ123は、シートクッション11の上方に突出することにより、乗員Pを浮かすこととなる。
これにより、車両1に対する側突の際に、乗員Pが垂直のまま、平行移動しやすくなるので、乗員Pの保護性能が向上する。例えば、乗員Pが通常の着座状態である場合、乗員Pの下肢や臀部と、シートクッション11と、の摩擦が大きいので、乗員Pの下半身部分は動かず、乗員Pの上体のみが左右に振られるため、乗員Pの姿勢が斜めになってしまう。これに対して、エアバッグ123をシートクッション11の上方に突出させることにより、乗員Pとエアバッグ123との摩擦力、あるいは、エアバッグ123とシートクッション11との摩擦力が低減され、衝撃に対して乗員Pが平行移動されるため、乗員Pの保護性能を向上させることができる。
【0066】
以上のように、本実施の形態における乗員保護装置101~103は、座席シート10の側面に沿って上方から下方までエアバッグ121~123を展開し、上方および下方において、乗員Pが倒れ込む側とは逆方向に張力がかかるようにしているので、乗員Pに対して局所的に大きな力がかかることを防止でき、さらに、乗員Pにかかる衝撃そのものを和らげることができ、乗員の保護機能を高めることができる。
【0067】
上述の実施形態においては、エアバッグのシート前方および/または下方への展開構成として、案内経路を備えて構成したが、案内経路ではなく、エアバッグの固定点の配置により展開方向を設定してもよい。例えば、エアバッグの収納位置と固定点よりも上方側にシート骨格等を配置しエアバッグを展開すれば、エアバッグは下方へ展開することとなる。その際、インフレータからのガスの注入位置を車両後方側に、固定点もエアバッグの袋体の全体に対し後方側に配置することで、エアバッグは前方へ展開することとなる。
また、例えば、エアバッグの袋体内の車両後方側にのみ袋体の上下の内壁をつなぐテザーを配置することで、エアバッグ袋体が車両前方側より大きく膨らむことで、相対的に車両前方が下方へ展開することとなる。
【符号の説明】
【0068】
1 車両、3 アンダーフロア、4 ルーフ、10 座席シート、10A、10B 収納部、11 シートクッション、11a、11b、11c 収納部、12 シートバック、12a、12b、12c 収納部、13 ヘッドレスト、101、102、103 乗員保護装置、111、112、113 インフレータ、121、122、123 エアバッグ、131 案内経路、140 シート突出部
図1
図2
図3
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図5