(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/622 20210101AFI20230524BHJP
【FI】
G01N27/622
(21)【出願番号】P 2019112123
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】平川 千佳
(72)【発明者】
【氏名】岩松 正
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-041736(JP,A)
【文献】特表2015-508894(JP,A)
【文献】特開2009-002815(JP,A)
【文献】特開2012-113827(JP,A)
【文献】米国特許第09147565(US,B1)
【文献】特表2011-503805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60-G01N 27/70
H01J 49/00-H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子放出素子と、検出部と、前記電子放出素子と前記検出部との間の領域に電位勾配を形成するように設けられた電場形成部と、前記電子放出素子と前記検出部との間に配置された静電ゲート電極と、制御部とを備え、
前記電子放出素子は、下部電極、表面電極及び前記下部電極と前記表面電極との間に配置された中間層を有し、かつ、前記下部電極と前記表面電極との間に電圧を印加することにより電子を放出するように設けられ、かつ、前記電子放出素子と前記静電ゲート電極との間のイオン化領域において放出した電子により直接的又は間接的に陰イオンを生成するように設けられ、
前記静電ゲート電極は、前記静電ゲート電極と前記検出部との間のドリフト領域への陰イオンの注入を制御するように設けられ、
前記検出部は、前記電位勾配により前記ドリフト領域を移動してきた陰イオンを検出するように設けられ、
前記制御部は、前記下部電極と前記表面電極との間にパルス電圧を印加するように設けられ、かつ、前記パルス電圧がオンとなっている時間において前記静電ゲート電極が陰イオンを前記ドリフト領域に注入するように前記静電ゲート電極に電圧を印加するように設けられたことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ドリフト領域に陰イオンを注入した後で前記ドリフト領域に次に陰イオンを注入する前のタイミングで、前記下部電極と前記表面電極との間に印加するパルス電圧をオフとするように設けられた請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ドリフト領域に陰イオンを注入してから10m秒後までの間のタイミングで前記パルス電圧をオフにするように設けられた請求項1又は2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記下部電極と前記表面電極との間に印加するパルス電圧のパルス幅は、1m秒以上30m秒以下である請求項1~3のいずれか1つに記載の分析装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記パルス電圧がオフからオンに切り替わってからパルス幅の半分の時間が経過した後のタイミングで前記静電ゲート電極が陰イオンを前記ドリフト領域に注入するように前記静電ゲート電極に電圧を印加するように設けられた請求項1~4のいずれか1つに記載の分析装置。
【請求項6】
ドリフトガスを装置内に注入するように設けられたドリフトガス注入部と、装置内の気体を排出するように設けられた排気部とをさらに備え、
前記ドリフトガス注入部及び前記排気部は、前記ドリフト領域においてドリフトガスが検出部側から静電ゲート電極側に向かって流れるように設けられた請求項1~5のいずれか1つに記載の分析装置。
【請求項7】
前記排気部は、前記イオン化領域の側面の第1開口から気体を排出するように設けられた請求項6に記載の分析装置。
【請求項8】
第1開口は、第1開口の電子放出素子側の端が前記電子放出素子よりも静電ゲート電極側である位置に配置された請求項7に記載の分析装置。
【請求項9】
前記制御部は、陰イオンが前記ドリフト領域に注入される時間が0.1μ秒間以上0.1m秒間以下となるように前記静電ゲート電極に電圧を印加するように設けられた請求項1~8のいずれか1つに記載の分析装置。
【請求項10】
試料を装置内に注入するように設けられた第1試料注入部をさらに備え、
第1試料注入部は、前記イオン化領域の側面の第2開口から前記イオン化領域に前記試料を供給するように設けられた請求項1~9のいずれか1つに記載の分析装置。
【請求項11】
第2開口は、第2開口の電子放出素子側の端が前記電子放出素子よりも静電ゲート電極側である位置に配置された請求項10に記載の分析装置。
【請求項12】
試料を装置内に注入するように設けられた第2試料注入部をさらに備え、
第2試料注入部は、前記電子放出素子のイオン化領域側と反対側のスペースに前記試料を供給するように設けられた請求項1~11のいずれか1つに記載の分析装置。
【請求項13】
下部電極、表面電極及び前記下部電極と前記表面電極との間に配置された中間層を有する電子放出素子と、検出部と、前記電子放出素子と前記検出部との間の領域に電位勾配を形成するように設けられた電場形成部と、前記電子放出素子と前記検出部との間に配置された静電ゲート電極と、試料を装置内に注入するように設けられ
た試料注入部とを備え、
前記電子放出素子は、前記下部電極と前記表面電極との間に電圧を印加することにより電子を放出するように設けられ、かつ、前記電子放出素子と前記静電ゲート電極との間のイオン化領域において放出した電子により直接的又は間接的に陰イオンを生成するように設けられ、
前記試料注入部は、前記電子放出素子の静電ゲート電極側と反対側のスペースに前記試料を供給
し、供給された前記試料が前記電子放出素子の側部又は上部を回り込み前記イオン化領域へと流れるように設けられたことを特徴とする分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電場のかかった気体中において試料に含まれる成分をイオン化した陰イオンを移動させることにより陰イオンを分離し検出するイオン移動度分析(Ion Mobility Spectrometry、MIS)が知られている(例えば特許文献1参照)。
イオン移動度分析では、通常、コロナ放電を利用して試料に含まれる成分をイオン化している。
また、電極基板と表面電極との間に中間層を設けた電子放出素子が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2016/079780A1
【文献】特開2015-18637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試料に含まれる成分のイオン化にコロナ放電を利用すると、コロナ放電の特性上、特に負イオン発生時には、多量の窒素酸化物やオゾン、電磁波などIMS方式のガス分析時にノイズ源となる物質が発生する。一方で、電子放出素子を用いたイオン化源では、上記ノイズ源となる物質の発生が大幅に抑制できることが知られている。
しかし、大気中での電子放出素子を用いたイオン化では電子放出素子の寿命がコロナ放電と比較して短いため、長期に渡って安定した性能を維持することが困難である。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電子放出素子の駆動時間を短くし、長期に渡って安定して計測可能な分析装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、電子放出素子と、検出部と、前記電子放出素子と前記検出部との間の領域に電位勾配を形成するように設けられた電場形成部と、前記電子放出素子と前記検出部との間に配置された静電ゲート電極と、制御部とを備え、前記電子放出素子は、下部電極、表面電極及び前記下部電極と前記表面電極との間に配置された中間層を有し、かつ、前記下部電極と前記表面電極との間に電圧を印加することにより電子を放出するように設けられ、かつ、前記電子放出素子と前記静電ゲート電極との間のイオン化領域において放出した電子により直接的又は間接的に陰イオンを生成するように設けられ、前記静電ゲート電極は、前記静電ゲート電極と前記検出部との間のドリフト領域への陰イオンの注入を制御するように設けられ、前記検出部は、前記電位勾配により前記ドリフト領域を移動してきた陰イオンを検出するように設けられ、前記制御部は、前記下部電極と前記表面電極との間にパルス電圧を印加するように設けられ、かつ、前記パルス電圧がオンとなっている時間において前記静電ゲート電極が陰イオンを前記ドリフト領域に注入するように前記静電ゲート電極に電圧を印加するように設けられたことを特徴とする分析装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の分析装置では、電子放出素子の下部電極と表面電極との間にパルス電圧を印加することによりイオン化領域に電子を放出し試料に含まれる成分をイオン化するため、電子放出素子の駆動時間を短くすることができ、電子放出素子の寿命特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態の分析装置の概略斜視図である。
【
図2】
図1の破線A-Aにおける分析装置の概略断面図である。
【
図3】電子放出素子及び静電ゲート電極に印加する電圧のタイミングチャートである。
【
図4】(a)~(c)は電子放出素子と検出部との間の電位勾配を表したグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態の分析装置の概略断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態の分析装置の概略断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態の分析装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の分析装置は、電子放出素子と、検出部と、前記電子放出素子と前記検出部との間の領域に電位勾配を形成するように設けられた電場形成部と、前記電子放出素子と前記検出部との間に配置された静電ゲート電極と、制御部とを備え、前記電子放出素子は、下部電極、表面電極及び前記下部電極と前記表面電極との間に配置された中間層を有し、かつ、前記下部電極と前記表面電極との間に電圧を印加することにより電子を放出するように設けられ、かつ、前記電子放出素子と前記静電ゲート電極との間のイオン化領域において放出した電子により直接的又は間接的に陰イオンを生成するように設けられ、前記静電ゲート電極は、前記静電ゲート電極と前記検出部との間のドリフト領域への陰イオンの注入を制御するように設けられ、前記検出部は、前記電位勾配により前記ドリフト領域を移動してきた陰イオンを検出するように設けられ、前記制御部は、前記下部電極と前記表面電極との間にパルス電圧を印加するように設けられ、かつ、前記パルス電圧がオンとなっている時間において前記静電ゲート電極が陰イオンを前記ドリフト領域に注入するように前記静電ゲート電極に電圧を印加するように設けられたことを特徴とする。
【0009】
前記制御部は、前記ドリフト領域に陰イオンを注入した後で前記ドリフト領域に次に陰イオンを注入する前のタイミングで、前記下部電極と前記表面電極との間に印加するパルス電圧をオフとするように設けられることが好ましい。前記制御部は、ドリフト領域に陰イオンを注入してから例えば10m秒後までの間のタイミングでパルス電圧をオフにするように設けられたことが好ましい。このことにより、電子放出素子の駆動時間を短くすることができ、電子放出素子の寿命特性を向上させることができる。
下部電極と表面電極との間に印加するパルス電圧のパルス幅は、例えば1m秒以上30m秒以下であることが好ましい。このことにより、電子放出素子の駆動時間を短くすることができ、電子放出素子の寿命特性を向上させることができる。
本発明の分析装置は、ドリフトガスを装置内に注入するように設けられたドリフトガス注入部と、装置内の気体を排出するように設けられた排気部とを備えることが好ましい。また、ドリフトガス注入部及び排気部は、ドリフト領域においてドリフトガスが検出部側から静電ゲート電極側に向かって流れるように設けられることが好ましい。このことにより、イオン化しなかったガスがドリフト領域へ流入することを防ぎ、ノイズやガスの吸着を抑制できる。
【0010】
本発明の分析装置は、試料ガスを装置内に注入するように設けられた第1試料注入部を備える。第1試料注入部は、イオン化領域の側面の第2開口からイオン化領域に試料ガスを供給するように設けられることが好ましい。このことにより、電子放出素子表面へ試料ガスを多く送り込むことができ、イオン化する試料ガスを増やすことができるため、検出波形のピークが高くなる。
第2開口は、第2開口の中心部が電子放出素子の表面電極と重なる位置に配置されることが好ましい。
【0011】
前記排気部は、イオン化領域の側面の第1開口から気体を排出するように設けられることが好ましい。このことにより、分析チャンバー内の試料ガス及びドリフトガスを排出することができ、分析チャンバー内に試料ガスの流れやドリフトガスの流れを形成することができる。
第1開口は、第1開口の中心部が電子放出素子の表面電極と重なる位置に配置されることが好ましい。このことにより、イオン化しなかった試料ガスやドリフトガスを効率よく排出できる。
【0012】
本発明の分析装置は、試料を装置内に注入するように設けられた第2試料注入部を備えることが好ましい。第2試料注入部は、電子放出素子のイオン化領域側と反対側のスペースに試料を供給するように設けられることが好ましい。このことにより、電子放出素子の表面電極に試料ガスに含まれる成分が付着することを抑制することができ、電子放出素子の電子放出特性が変化することを抑制することができる。
本発明は、下部電極、表面電極及び前記下部電極と前記表面電極との間に配置された中間層を有する電子放出素子と、検出部と、前記電子放出素子と前記検出部との間の領域に電位勾配を形成するように設けられた電場形成部と、前記電子放出素子と前記検出部との間に配置された静電ゲート電極と、試料を装置内に注入するように設けられた第2試料注入部とを備え、第2試料注入部は、前記電子放出素子の静電ゲート電極側と反対側のスペースに前記試料を供給するように設けられたことを特徴とする分析装置も提供する。
【0013】
以下、複数の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0014】
図1は、本実施形態の分析装置の概略斜視図であり、
図2は
図1の破線A-Aにおける分析装置の概略断面図である。また、
図2には、本実施形態の分析装置の電気的構成もブロック図で示している。
本実施形態の分析装置40は、電子放出素子2と、検出部6と、電子放出素子2と検出部6との間の領域に電位勾配を形成するように設けられた電場形成部7と、電子放出素子2と検出部6との間に配置された静電ゲート電極8と、制御部12とを備える。
【0015】
電子放出素子2は、下部電極3、表面電極4及び下部電極3と表面電極4との間に配置された中間層5を有し、下部電極3と表面電極4との間に電圧を印加することにより電子を放出するように設けられ、かつ、電子放出素子2と静電ゲート電極8との間のイオン化領域10において放出した電子により直接的又は間接的に陰イオンを生成するように設けられる。
静電ゲート電極8は、静電ゲート電極8と検出部6との間のドリフト領域11への陰イオンの注入を制御するように設けられる。
検出部6は、前記電位勾配によりドリフト領域11を移動してきた陰イオンを検出するように設けられる。
制御部12は、下部電極3と表面電極4との間にパルス電圧を印加するように設けられ、かつ、前記パルス電圧がオンとなっている時間において静電ゲート電極8が陰イオンをドリフト領域11に注入するように静電ゲート電極8に電圧を印加するように設けられる。
また、分析装置40は、試料注入部16又はドリフトガス注入部15を有することができる。
【0016】
本実施形態の分析装置40は、試料をイオン移動度分析(IMS)で分析する装置である。分析装置40はイオン移動度分析装置であってもよい。
分析装置40で分析する試料は、気体であってもよく、液体であってもよい。
制御部12は、分析装置40を制御する部分である。制御部12は、例えば、CPU、メモリ、タイマー、入出力ポートなどを有するマイクロコントローラを含むことができる。また、制御部12は、電源部、電位制御回路、検出回路などを含むことができる。
【0017】
本実施形態の分析装置40は、試料に含まれる成分を分析する分析チャンバー30を有し、分析チャンバー30は、電子放出素子2と検出部6との間に試料に含まれる成分をイオン化し陰イオンを生成するためのイオン化領域10と、陰イオンを分離するためのドリフト領域11とを有する。イオン化領域10とドリフト領域11とは、静電ゲート電極8により仕切られる。また、イオン化領域10の静電ゲート電極8とは逆の端には、表面電極4がイオン化領域側となるように電子放出素子2が配置される。また、ドリフト領域11の静電ゲート電極8とは逆の端には、検出部6が配置される。
【0018】
試料注入部16は、分析チャンバー30に試料を注入する部分である。この注入された試料に含まれる成分がイオン移動度分析により分析される。試料が気体である場合、試料注入部16は試料ガスを連続的に分析チャンバー30に供給するように設けることができる。また、試料が液体である場合、試料注入部16は気化室を有することができ、この気化室で気化した試料ガスを分析チャンバー30に供給することができる。また、試料注入部16は、試料の沸点よりも高い温度に保持した分析チャンバー30に液体試料を注入して、試料を分析チャンバー30において気化してもよい。また、試料注入部16は、ガスクロマトグラフィで分離した気体又は液体クロマトグラフィで分離した液体など、予め分離手段を用いて分離させた試料を分析チャンバー30に注入するように設けられてもよい。また、試料注入部16は、イオン化領域10の側部の筐体28の開口(試料ガス入口)から分析チャンバー30へ試料ガスを供給するように設けることができる。
【0019】
ドリフトガス注入部15は、ドリフトガスを分析チャンバー30に注入するように設けられた部分である。ドリフトガスは、ドリフト領域11において陰イオンの移動方向とは逆方向に流すガスであり、陰イオンがドリフト領域11を移動する際の抵抗となるガスである。ドリフトガスは、乾燥空気であってもよく、不活性ガスであってもよい。他にもCO2ガスやイオン化を補助するためのドーパントをガスに混合させてもよい。ドリフトガス注入部15は、圧縮気体シリンダーの気体を分析チャンバー30に注入するように設けてもよく、ポンプにより気体を分析チャンバー30に注入するように設けてもよく、排気部20が分析チャンバー30の気体を強制排気することにより自然に気体を分析チャンバー30に吸い込むように設けてもよい。また、ドリフトガス注入部15は、排気部20により分析チャンバー30から排出された気体を浄化した後の気体を分析チャンバー30に供給するように設けられてもよい。
【0020】
排気部20は、分析チャンバー30の気体を排出するように設けられた部分である。排気部20は、ドリフトガス及び試料を分析チャンバー30から排出するように設けられる。排気部20は、排気ファンなどにより分析チャンバー30の気体を強制排気するように設けられてもよく、分析チャンバー30の気体を自然排気するように設けられてもよい。
【0021】
試料注入部16及び排気部20は、試料ガスがイオン化領域10を横切って流れるように設けることができる。このことにより、イオン化領域10において電子放出素子2の表面電極4から放出させた電子により直接的又は間接的に試料ガスに含まれる成分をイオン化し陰イオンを生成することができる。例えば、イオン注入部16はイオン化領域10の周りの筐体28の開口(試料入口)から試料ガスをイオン化領域10に供給するように設けることができ、排気部20は、試料ガスが供給される開口(試料入口)の対向する部分(イオン化領域10の周りの筐体28)に配置された開口(ガス出口)から試料ガスを排気するように設けることができる。
【0022】
ドリフトガス注入部15及び排気部20は、ドリフト領域11においてドリフトガスが検出部側から静電ゲート電極側に向かって流れるように設けられる。例えば、ドリフトガス注入部15は、検出部側からドリフトガスをドリフト領域11に供給するように設けることができ、排気部20は、イオン化領域10の周りの筐体28の開口(ガス出口)からドリフトガスを排気するように設けることができる。このような配置にすることで、イオン化していないガスがドリフト領域11へ流入することを防ぎ、ノイズ源やドリフト領域への試料ガスの付着を減らすことが可能となる。しかし、ノイズやドリフト領域11への試料ガスの付着が少ないなどの制約条件がない場合、ドリフトガス注入部15の位置に特に制限はなく、電子放出素子2側から注入させる、又はドリフトガス注入部15を設けなくてもよい。
【0023】
電子放出素子2は、表面電極4から電子を放出するように設けられた素子であり、この放出された電子により直接的又は間接的に試料に含まれる成分をイオン化し陰イオンを生成するための素子である。
電子放出素子2は、下部電極3と、表面電極4と、下部電極3と表面電極4との間に配置された中間層5とを有する。
【0024】
表面電極4は、電子放出素子2の表面に位置する電極である。表面電極4は、好ましくは40nm以上100nm以下の厚さを有することができる。また、表面電極4の材質は、例えば、金、白金である。また、表面電極4は、複数の金属層から構成されてもよい。
表面電極4は、40nm以上の厚さを有する場合であっても、複数の開口、すき間、10nm以下の厚さに薄くなった部分を有してもよい。中間層5を流れた電子がこの開口、すき間、薄くなった部分を通過又は透過することができ、表面電極4から電子を放出することができる。このような開口、すき間、薄くなった部分は、下部電極3と表面電極4との間に電圧を印加することによっても形成することができる。
【0025】
下部電極3は、中間層5を介して表面電極4と対向する電極である。下部電極3は、金属板であってもよく、絶縁性基板上もしくはフィルム上に形成した金属層又は導電体層であってもよい。また、下部電極3が金属板からなる場合、この金属板は電子放出素子2の基板であってもよい。下部電極3の材質は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルなどである。下部電極3の厚さは、例えば200μm以上1mm以下である。
【0026】
中間層5は、表面電極4と下部電極3とに電圧を印加することにより形成される電界により電子が流れる層である。中間層5は、半導電性を有することができる。中間層5は、絶縁性樹脂、導電性樹脂、絶縁性微粒子、金属酸化物のうち少なくとも1つを含むことができる。また、中間層5は導電性微粒子を含むことが好ましい。中間層5の厚さは、例えば、0.5μm以上1.8μm以下とすることができる。
【0027】
電子放出素子2は、表面電極4と下部電極3との間に絶縁層29を有してもよい。この絶縁層29は、開口を有することができる。絶縁層29の開口は、表面電極4の電子放出領域を規定するように設けられる。絶縁層29には電子が流れることができないため、絶縁層29の開口に対応する中間層5に電子が流れ表面電極4から電子が放出される。従って、開口を有する絶縁層29を設けることにより、表面電極4に形成される電子放出領域が規定される。電子放出領域は、例えば5mm角の領域とすることができ、電極9の開口部やコレクターの大きさなどに併せて自由に設計することができる。
【0028】
表面電極4及び下部電極3はそれぞれ制御部12の電位制御回路と電気的に接続することができる。電位制御回路を用いて下部電極3の電位を表面電極4の電位と実質的に同じにすると、中間層5には電流は流れず電子放出素子2から電子は放出されない(電子放出素子2がオフ状態となる)。
電位制御回路を用いて下部電極3の電位が表面電極4の電位よりも低くなるように下部電極3と表面電極4との間に電圧を印加すると中間層5に電流が流れ、中間層5を流れた電子が表面電極4を通過しイオン化領域10へ放出される(電子放出素子2がオン状態となる)。電子放出素子2をオン状態とするために下部電極3と表面電極4との間に印加する電圧は、例えば5V以上40V以下とすることができる。
【0029】
制御部12の電位制御回路は、下部電極3と表面電極4との間にパルス電圧を印加するように設けられる。パルス電圧は、印加電圧が矩形波となるような電圧である。パルス電圧は単発パルスであってもよく、連続パルスであってもよい。分析装置40により連続的に測定を行い測定結果を積算する場合、測定回数だけ連続する連続パルスとすることができる。
電子放出素子2の総駆動時間が長くなると表面電極4や中間層3などが劣化し電子放出素子2の電子放出特性が低下する場合がある。このため、下部電極3と表面電極4との間にパルス電圧を印加することにより、電子放出素子2の実質的な駆動時間を短くすることができ、電子放出素子2の寿命特性を向上させることができる。また、下部電極3と表面電極4との間にパルス電圧を印加することにより、電子放出素子2によるイオン化効率を向上させることができる。
【0030】
例えば、電位制御回路が表面電極4の電位が-1000Vとなるように電圧を印加する場合、電位制御回路が下部電極3の電位が-1000Vとなるように電圧を印加することにより電子放出素子2をオフ状態とすることができ、電位制御回路が下部電極3の電位が-1020Vとなるように電圧を印加することにより電子放出素子2をオン状態とすることができる。この場合、電位制御回路は、例えば、
図3に示したタイミングチャートのように下部電極3に印加する電圧を変化させることができる。
電位制御回路が下部電極3と表面電極4との間に印加するパルス電圧のパルス幅は例えば1ミリ秒以上30ミリ秒以下とすることができる。
【0031】
イオン化領域10へ放出された電子は、直ちにガス分子と衝突しガス分子の陰イオンを形成する。試料注入部16はイオン化領域10に試料ガスを供給するため、表面電極4付近に試料ガスに含まれる成分が存在するとき、表面電極4から放出された電子が試料ガスに含まれる成分に衝突し陰イオンが生成する。また、ドリフトガスが乾燥空気である場合、表面電極4付近には酸素ガスが豊富に存在するため、表面電極4から放出された電子が酸素ガスに衝突し、酸素の陰イオンが生成される。この酸素の陰イオンは、イオン化領域10において試料ガスに含まれる成分に電荷を受け渡し試料ガスに含まれる成分の陰イオンを生成する。従って、電子放出素子2を用いてイオン化領域10に試料ガスに含まれる成分の陰イオンを間接的に生成することができる。
試料ガスは1種類のイオン可能な成分を含むガスであってもよく、複数種類のイオン可能な成分を含むガスであってもよい。
【0032】
試料ガスが複数種類のイオン化可能な成分を含んでいる場合、イオン化領域10において各成分の陰イオンを形成することができる。例えば、試料ガスがA、B、Cの3つの成分を含んでいる場合、イオン化領域10においてAの陰イオン、Bの陰イオン、Cの陰イオンを生成することができる。
生成した陰イオンは、電場形成部7及び電子放出素子2を用いてイオン化領域10に形成される電位勾配により静電ゲート電極8に近づくように移動する。
【0033】
電場形成部7は、電子放出素子2と検出部6との間の領域に電位勾配を形成するための部分である。電場形成部7は、陰イオンが電子放出素子側から検出部側へ移動するような電位勾配を形成するように設けられる。電場形成部7は、複数の電場形成用電極9から構成されてもよい。電場形成用電極9は、電子放出素子2と検出部6との間の領域に電位勾配を形成することができればその形状は限定されないが、例えば、リング状電極であってもよく、アーチ状電極であってもよい。複数の電場形成用電極9は、リング内部又はアーチ内側にイオン化領域10及びドリフト領域11が形成されるように一列に並ぶ。また、電場形成部7を構成する複数の電場形成用電極9は、それぞれ制御部12の電位制御回路と電気的に接続する。
【0034】
電場形成部7に含まれる隣接する2つの電場形成用電極9は抵抗体を挟んで電気的に接続することができる。このことにより隣接する2つの電場形成用電極9の間に電位差を生じさせることができ、それぞれの電極間にこの電位差を生じさせることにより電子放出素子2と検出部6との間の領域に電位勾配を形成することができる。
【0035】
例えば、
図1、
図2に示した分析装置40では、電場形成部7は、複数の電場形成用電極9a~9hから構成され、隣接する2つの電場形成用電極9は抵抗体を挟んで電気的に接続している。電場形成用電極9は対象となるガス種により、個数や配置間隔を増減させてもよい。また、複数の電場形成用電極9のうち最も検出部6に近い電極9hは、グリッド電極25に抵抗体を挟んで電気的に接続している。また、グリッド電極25は例えばグラウンドに接続している。また、検出部6から最も遠い電極9aの電位を電位制御回路により制御することができる。例えば、電位制御回路は、電極9aの電位が例えば-1080Vとなるように電圧を印加することができる。また、グリッド電極25はグラウンドに接続するため0Vとなる。また、隣接する2つの電場形成用電極9は抵抗体を挟んで電気的に接続するため、一列に並んだ複数の電場形成用電極9の電位は検出部6に近づくに従い階段状に高くなる。このため、電子放出素子2と検出部6との間の領域(イオン化領域10及びドリフト領域11)に検出部6に近づくに従い電位が徐々に高くなる電位勾配を形成することができる。ただし、この電位勾配は、静電ゲート電極8近辺において静電ゲート電極8の電位により変化する。
また、この場合、電位制御回路は、電子放出素子2(表面電極5)の電位が例えば-1000Vとなるように電子放出素子2に電圧を印加することができる。なお、電極9aへの印加電圧を変えた際は電位勾配を考慮して、素子2への印加電圧を変える必要がある。
【0036】
静電ゲート電極8は、イオン化領域10とドリフト領域11とを仕切る電極であり、イオン化領域11において生成した陰イオンのドリフト領域11への注入を陰イオンと静電ゲート電極8との静電相互作用を利用して制御する電極である。
静電ゲート電極8は、リング状電極であってもよく、好ましくはグリッド電極であり、リング状電極の開口にグリッド電極を設けた電極であってもよい。静電ゲート電極8は、電場形成部7を構成する複数の電場形成用電極9と共に一列に並べて配置することができる。静電ゲート電極8は、制御部12の電位制御回路と電気的に接続することができる。また、静電ゲート電極8は、電場形成部7により形成される電位勾配を変化させることができるように設けられる。
【0037】
制御部12の電位制御回路は、静電ゲート電極8の電位を変化させて静電ゲート電極8のオープン状態とクローズ状態とを切り替えることができるように静電ゲート電極8の電位を制御する。
例えば、静電ゲート電極8の電位が電子放出素子側の隣接する電場形成用電極9bよりも小さい場合、電子放出素子2と検出部6(グリッド電極25)との間の電位勾配は、
図4(a)のようになる。この場合、イオン化領域10の陰イオンは、静電相互作用により静電ゲート電極8に近づくことができず、静電ゲート電極8を通過することはできない。このため、静電ゲート電極8はクローズ状態となる。
【0038】
例えば、静電ゲート電極8の電位が検出部側の隣接する電場形成用電極9cよりも大きい場合、電子放出素子2と検出部6(グリッド電極25)との間の電位勾配は、
図4(b)のようになる。この場合、イオン化領域10の陰イオンは、静電ゲート電極8に吸い寄せられるように移動し、陰イオンの電荷が静電ゲート電極8へと移動し陰イオンが中性化する。このため、陰イオンは静電ゲート電極8を通過することができず、静電ゲート電極8はクローズ状態となる。
【0039】
例えば、静電ゲート電極8の電位が電子放出素子側の隣接する電場形成用電極9bよりも大きく、検出部側の隣接する電場形成用電極9cよりも小さい場合、電子放出素子2と検出部6(グリッド電極25)との間の電位勾配は、電子放出素子2から検出部6に近づくにつれ徐々に電位が高くなるような電位勾配となる。例えば、
図4(c)のようになる。この場合、イオン化領域10の陰イオンは静電ゲート電極8を通過することができ、静電ゲート電極8はオープン状態となる。
【0040】
電位制御回路により、静電ゲート電極8がオープン状態となる電位範囲よりも高い電位から前記電位範囲よりも低い電位となるように静電ゲート電極8に印加する電圧を瞬間的に変化させた場合、又は電位制御回路が静電ゲート電極8がオープン状態となる電位範囲よりも低い電位から前記電位範囲よりも高い電位となるように静電ゲート電極8に印加する電圧を瞬間的に変化させた場合、静電ゲート電極8は、クローズ状態→オープン状態→クローズ状態と瞬間的に変化する。従って、電位制御回路を用いてこのように静電ゲート電極8に印加する電圧を変化させることにより、静電ゲート電極8をごく短い時間だけオープン状態とすることができ、イオン化領域10の陰イオンをこの短い時間にだけドリフト領域11に注入することができる。陰イオンがドリフト領域11に注入される時間は例えば0.1μ秒間以上0.1m秒間以下とすることができる。このことにより検出ピークをシャープにすることができる。
【0041】
制御部12の電位制御回路は、電子放出素子2の下部電極3と表面電極4との間に印加するパルス電圧がオンとなっている時間において静電ゲート電極8が陰イオンをドリフト領域11に注入するように静電ゲート電極8に電圧を印加するように設けられる。
パルス電圧がオンとなっている時間において電子放出素子2の表面電極4から電子が放出されるため、この時間においてイオン化領域10で陰イオンが生成される。従って、この時間において静電ゲート電極8をオープン状態とすることにより、イオン化領域10で生成した陰イオンをドリフト領域11に注入することができる。
例えば、電位制御回路により静電ゲート電極8の電位を-250Vから-700Vに変化させることにより静電ゲート電極8をオープン状態とする場合、
図3に示したタイミングチャートに示したようなタイミングで電位制御回路は静電ゲート電極8に印加する電圧を変化させることができる。
【0042】
下部電極3と表面電極4との間にパルス電圧を印加すると、電圧を印加した直後において表面電極4から多くの電子が放出される。そして、電子の放出量は徐々に低下し安定化する。
試料ガスに含まれる低濃度成分を分析する場合、電圧印加直後の電子放出量が多い時間帯において静電ゲート電極8がオープン状態となるように電位制御回路が静電ゲート電極8に電圧を印加することができる。このことにより、分析装置40の検出感度を高くすることができる。
【0043】
試料ガスに含まれる成分を定量分析する場合、電子放出量が安定した時間帯において静電ゲート電極8がオープン状態となるように電位制御回路が静電ゲート電極8に電圧を印加することができる。このことにより、定量分析の精度を向上させることができる。この場合、例えば、
図3に示したタイミングチャートのように、電子放出素子2をオン状態とした後一定時間(T1)経過後に静電ゲート電極8をオープン状態とすることができる。例えば、制御部12は、下部電極3と表面電極4との間に印加するパルス電圧がオフからオンに切り替わってからパルス幅の半分の時間が経過した後のタイミングで静電ゲート電極8が陰イオンをドリフト領域11に注入するように静電ゲート電極8に電圧を印加することができる。
【0044】
静電ゲート電極8を瞬間的にオープン状態とした後電子放出素子2をオフ状態とするまでの時間(T2)には特に限定されない。より短い方が電子放出素子2の実質的な駆動時間が短くなるため、好ましいが電位制御回路の設計に依存する。T2は、例えば10m秒以下とすることができ、好ましくは10μ秒以上1m秒以下とすることができる。また、電位制御回路を緻密に制御可能で、制御によるノイズが乗らない設計であれば、静電ゲート電極付近に既に到達しているイオンを測定に使用するため、電子放出素子2のオフタイミングは静電ゲート電極8をオープン状態とする前でもよい。しかし現実的にはより緻密な制御や制御時のノイズを乗らないように設計するためには費用がかかるため、T2は上記の範囲で制御を行った方がよい(電子放出素子2のオフタイミングは回路の構成により制御可能なタイミング等が異なる。)。
【0045】
計測周期(T4)で繰り返し測定を行う場合、1回の測定が終わる(陰イオンが検出部6に到達する)と、所定の時間(T3)経過後電位制御回路は静電ゲート電極8の電位を初期状態の電位(-250V)に戻す。
【0046】
ドリフト領域11に注入された陰イオンは、電位制御回路が電場形成部7、グリッド電極25に印加することにより形成される電位勾配によりドリフト領域11を検出部6へと向かって移動する。また、ドリフト領域11において検出部6側から静電ゲート電極8側に向かって流れるドリフトガスは、静電ゲート電極8から検出部6へと向かって流れる陰イオンの抵抗となる。この抵抗の大きさ(イオンの移動度)はイオン種により異なる。一般的に移動度はイオンの衝突断面積に反比例するため、イオンの衝突断面積が大きいほどイオンが検出器に到達するためにかかる時間が長くなる。従って、静電ゲート電極8によりドリフト領域に注入されてから検出部6へと到達するまでの時間(移動時間、ピーク位置)が陰イオンのイオン種により異なる。従って、この移動時間(ピーク位置)に基づき陰イオン(試料に含まれる成分)を特定することが可能になる。また、試料ガスに含まれる複数の成分の陰イオンをドリフト領域において分離することができる。
また、陰イオンが静電ゲート電極8から検出部6まで移動する時間は装置の設計(ゲートから検出部までの距離や印加電圧)により異なるが、小型の検出器の場合であれば、陰イオンは検出部6に数ミリ秒で到達するため、分析装置40による1回の測定は数ミリ秒で終わる。
【0047】
検出部6は、電位勾配によりドリフト領域11を移動してきた陰イオンを検出するように設けられる。検出部6は、陰イオンの電荷を集める金属製のコレクターを有することができる。また、コレクターは制御部12の検出回路と電気的に接続することができる。また、この検出回路は、コレクターに電荷が溜まることにより生じる電流を測定するように設けられる。
試料ガスが複数の成分を含む場合、各成分の陰イオンはドリフト領域11において分離されて検出部6に到達するため、検出回路の検出曲線(測定値の経時変化)は、各陰イオンの移動時間に対応したピークを有する。
このピーク位置(イオンの移動時間)はイオン種により異なるため、試料ガスに含まれる成分の種類を特定することが可能になる。また、ピーク面積から試料ガスに含まれる成分の濃度を定量分析することが可能になる。
また、分析装置40により1つの試料ガスについて複数回連続して測定を行う場合、それぞれの測定の検出曲線を積算することができる。このことにより、分析装置40の電気ノイズの影響を減らすことができるため、検出感度を向上させることができる。積算回数は例えば、10回とすることができる。
【0048】
分析装置40は、検出部6(コレクター)とドリフト領域11との間にグリッド電極25を有することができる。また、グリッド電極25を設けることにより、イメージ電流の発生を抑えることができる。
【0049】
第2実施形態
図5は、第2実施形態の分析装置40の概略断面図である。
第2実施形態では、試料注入部16は、電子放出素子2のイオン化領域側と反対側の分析チャンバー30に試料ガスを供給するように設けられる。例えば、試料注入部16は、電子放出素子2のイオン化領域10側と反対側の筐体28の開口から試料ガスを電子放出素子2の裏側の分析チャンバー30に供給するように設けることができる。電子放出素子2の裏側の分析チャンバー30に供給された試料ガスは、電子放出素子2の側部又は上部を回り込みイオン化領域10へと流れる。そして、イオン化領域10において試料ガスに含まれる成分がイオン化され陰イオンが生成される。
【0050】
試料注入部16がこのような構成を有することにより、試料ガスに含まれる成分が電子放出素子2の表面電極4などに付着することを抑制することができる。このことにより、電子放出素子2の電子放出特性が変化することを抑制することができる。
【0051】
第2実施形態の分析装置40の上述のイオン注入部16は、特に吸着しやすい成分を含む試料ガスや分析対象成分の濃度の高い試料ガスなど装置内部が汚染されやすい試料ガスを分析する際に有効である。
また、分析装置40は、第1実施形態で説明したイオン注入部16と、第2実施形態で説明したイオン注入部16との両方を備えてもよい。この場合、分析装置40は、試料に応じて、第1実施形態のイオン注入部16と第2実施形態のイオン注入部16とを切り替えることができるように設けられる。
その他の構成は第1実施形態と同様である。また、第1実施形態についての記載は矛盾がない限り第2実施形態についても当てはまる。
【0052】
第3実施形態
図6は、第3実施形態の分析装置40の概略断面図である。
第3実施形態では、排気部20がイオン化領域10の側面の筐体28の開口(ガス出口)から気体を排出するように設けられ、この開口は、開口の電子放出素子側の端が電子放出素子2よりも静電ゲート電極側である位置に配置される。また、排気部20の開口(ガス出口)は、開口の中心点が静電ゲート電極8よりも電子放出素子側に位置するように配置することができる。
また、排気部20は、電子放出素子2よりも静電ゲート電極8側に位置する電場形成用電極9bと静電ゲート電極8との間から気体を排出するように設けることができる。
また、イオン注入部16は、第2実施形態と同様に電子放出素子2の裏側から試料ガスを分析チャンバー30に供給するように設けられる。
【0053】
このようにガス出口を配置することにより、電子放出素子2の裏側からイオン化領域10へ回り込んだ試料ガスは電子放出素子2の表面電極4との接触が少なくなる。これにより、試料ガスに含まれる成分の表面電極4への付着による素子特性変化が起こりにくくなり、分析装置40による安定した分析が可能となる。
その他の構成は第1又は第2実施形態と同様である。また、第1又は第2実施形態についての記載は矛盾がない限り第3実施形態についても当てはまる。
【0054】
第4実施形態
図7は、第4実施形態の分析装置40の概略断面図である。
第4実施形態では、第3実施形態と同様に、排気部20がイオン化領域10の側面の筐体28の開口(ガス出口)から分析チャンバー30内の気体を排出するように設けられ、このガス出口は、開口の電子放出素子側の端が電子放出素子2よりも静電ゲート電極側である位置に配置される。また、排気部20のガス出口は、開口の中心点が静電ゲート電極8よりも電子放出素子側に位置するように配置することができる。
試料ガス注入部16は、排気部20の開口(ガス出口)に対向する筐体28の側面の開口(試料ガス入口)から分析チャンバー30内に試料ガスを供給するように設けられる。また、試料ガス注入部16の試料ガス入口は、排気部20のガス出口と同軸になるように配置することができる。
【0055】
この様なガス配管のレイアウトとすることで、試料ガスに含まれる成分が電子放出素子2の表面電極4に付着することを抑制することができる。また、試料ガスに含まれる分析対象成分の濃度が低い場合でも分析対象成分を効率よく陰イオン化することができ、分析装置40の検出感度を向上させることができる。
その他の構成は第1~第3実施形態と同様である。また、第1~第3実施形態についての記載は矛盾がない限り第4実施形態についても当てはまる。
【符号の説明】
【0056】
2:電子放出素子 3:下部電極 4:表面電極 5:中間層 6:検出部 7:電場形成部 8:静電ゲート電極 9、9a~9h:電場形成用電極 10:イオン化領域 11:ドリフト領域 12:制御部 15:ドリフトガス注入部 16:試料注入部 20:排気部 21:開口 22:素子ホルダー 25:グリッド電極 28:筐体 29:絶縁部 30:分析チャンバー 40:分析装置