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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】自動運転システム
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/04 20060101AFI20230524BHJP
   B60W 50/12 20120101ALI20230524BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20230524BHJP
【FI】
B62D1/04
B60W50/12
B60W50/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019174719
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021049894
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑原 敬祐
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-55632(JP,A)
【文献】特開2021-46043(JP,A)
【文献】特開2017-207885(JP,A)
【文献】国際公開第2015/145605(WO,A1)
【文献】特開2019-142271(JP,A)
【文献】特表2006-521954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00,30/00-60/00
B62D 1/00
G08G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者がステアリングホイールに触れることなく自車両を自動で走行させる自動運転モードと、前記運転者が前記ステアリングホイールを把持して運転操作することにより前記自車両を走行させる手動運転モードとを備える自動運転システムであって、
前記自車両の進行方向の走行環境を認識する走行環境認識部と、
前記自動運転モードでの走行中に前記運転者の状態を監視し、少なくとも前記運転者の顔及び手の状態を検出する運転者監視部と、
前記走行環境の認識結果と前記運転者の状態の検出結果とに基づいて、前記ステアリングホイールの把持位置を決定する把持位置決定部と、
前記把持位置決定部で決定した前記ステアリングホイールの把持位置を、前記運転者に提示する把持位置提示部と、
を備えることを特徴とする自動運転システム。
【請求項2】
前記把持位置提示部によって提示された前記ステアリングホイールの把持位置を前記運転者が把持したことを認識した場合、前記ステアリングホイールを振動させて前記運転者に報知する把持報知部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の自動運転システム。
【請求項3】
前記把持位置決定部は、前記走行環境認識部で前記自車両の進行方向の道路形状がカーブであることを認識した場合、前記ステアリングホイールの把持位置を前記ステアリングホイールの上部位置に決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動運転システム。
【請求項4】
前記把持位置決定部は、前記運転者監視部で前記運転者が左右何れか一方の手で機器を操作していることを検出した場合、前記ステアリングホイールの把持位置を前記機器を操作していない手の側に決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動運転システム。
【請求項5】
前記把持位置決定部は、前記運転者監視部で前記運転者が両手で機器を操作していることを検出した場合、前記ステアリングホイールの把持位置を前記ステアリングホイールの全体に決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動運転システム。
【請求項6】
前記把持位置決定部は、前記運転者監視部で前記運転者が前記自車両の進行方向に対して左右何れかの方向を向いていることを検出した場合、前記ステアリングホイールの把持位置を前記運転者が向いている方向側に決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動運転システム。
【請求項7】
前記把持位置決定部は、前記運転者監視部で前記運転者が前記自車両の進行方向を向き、且つ前記運転者の両手が開放状態であることを検出した場合、前記ステアリングホイールの把持位置をランダムな位置に決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動運転システム。
【請求項8】
前記把持位置決定部は、前記ステアリングホールの操舵角又は操舵速度に応じて前記ステアリングホイールの把持位置を調整することを特徴とする請求項7に記載の自動運転システム。
【請求項9】
前記把持位置提示部は、前記把持位置決定部で決定した前記ステアリングホイールの把持位置を、前記ステアリングホイールの該当位置を発光させて前記運転者に提示することを特徴とする請求項1から請求項8の何れか一項に記載の自動運転システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を自動で走行させる自動運転モードと運転者が運転操作して車両を走行させる手動運転モードとを備える自動運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、車両を自動的に走行させる自動運転システムが開発されている。この自動運転システムでは、一般に、運転者がステアリングホイールを把持する必要のない手放し運転を前提とする自動運転モードに加えて、運転者がステアリングホイールを把持して運転操作を行う手動運転モードを備えている。
【0003】
このような自動運転システムでは、システムに異常が発生したり、自動運転の対象となる運行領域から外れる等して自動運転の継続が困難となった場合には、運転者がステアリングホイールを把持して運転を引継ぐことが要求される。また、自動運転での走行中に、運転者が自らの操作による手動運転を所望してステアリングホイールを把持するオーバーライド操作を行うと、自動運転が解除されて運転者による手動運転に引継がれる。
【0004】
この自動運転から手動運転への運転引継ぎに際しては、運転者が適正な運転操作が可能な状態であることが条件となる。このため、例えば、特許文献1には、ステアリングホイールの指定位置を把持する操作タスクを要求してから所定時間内に操作タスクの終了が検出されたか否かにより、乗員がステアリングホイールの操作が可能な状態か否かを判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-55632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、運転者がステアリングホイールを把持したか否かは、ステアリングホイールに設けられたタッチセンサによって検知される。しかしながら、特許文献1に開示されるように、自動運転から手動運転への運転引継ぎに際しては、一義的にステアリングホイールの把持位置を指定するのみでは、運転者の失陥によって身体の一部がステアリングホイールの指定位置に触れてしまったり、ステアリングホイールの指定位置への水分付着等により、タッチセンサが誤検出となる虞がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、自動運転から手動運転への運転引継ぎに際して、運転者にステアリングホイールの把持位置を適正に指示しながら把持の誤検出を防止することのできる自動運転システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による自動運転システムは、運転者がステアリングホイールに触れることなく自車両を自動で走行させる自動運転モードと、前記運転者が前記ステアリングホイールを把持して運転操作することにより前記自車両を走行させる手動運転モードとを備える自動運転システムであって、前記自車両の進行方向の走行環境を認識する走行環境認識部と、前記自動運転モードでの走行中に前記運転者の状態を監視し、少なくとも前記運転者の顔及び手の状態を検出する運転者監視部と、前記走行環境の認識結果と前記運転者の状態の検出結果とに基づいて、前記ステアリングホイールの把持位置を決定する把持位置決定部と、前記把持位置決定部で決定した前記ステアリングホイールの把持位置を、前記運転者に提示する把持位置提示部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動運転から手動運転への運転引継ぎに際して、運転者にステアリングホイールの把持位置を適正に指示しながら把持の誤検出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】自動運転システムの概略構成図
図2】運転者監視カメラの配置を示す説明図
図3】ステアリング把持位置の変化を示す説明図
図4】操舵角に応じたステアリング把持位置の変化を示す説明図
図5】カーブ走行時のステアリング把持位置を示す説明図
図6】運転者が車両進行方向左側を向いている場合のステアリング把持位置を示す説明図
図7】運転者が車両進行方向右側を向いている場合のステアリング把持位置を示す説明図
図8】運転者が下側を見ている場合のステアリング把持位置を示す説明図
図9】運転者の左手が機器操作状態の場合のステアリング把持位置を示す説明図
図10】運転者の右手が機器操作状態の場合のステアリング把持位置を示す説明図
図11】運転者の両手が機器操作状態の場合のステアリング把持位置を示す説明図
図12】運転者がステアリングホイールを把持したときの報知を示す説明図
図13】ステアリングホイール把持位置報知処理のフローチャート
図14】ステアリングホイール把持位置決定処理のフローチャート
図15】ステアリングホイール把持位置変換処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は自動運転システムの概略構成図である。図1に示す自動運転システム1は、自動車等の車両に搭載され、運転者がステアリングホイールに触れることなく車両を自動で走行させる自動運転モードと、運転者がステアリングホイールを把持して運転操作することにより車両を走行させる手動運転モードとを備えている。
【0012】
具体的には、自動運転システム1は、自動運転制御ユニット10を中心として、外部環境認識ユニット20、ロケータユニット30、運転者監視ユニット40、制駆動制御ユニット50、操舵制御ユニット60、情報報知ユニット70等を備えて構成されている。個々のユニットは、単一或いは複数のプロセッサを有するコンピュータ、及びその周辺機器を備えるコンピュータシステムを備え、車内ネットワークを介して互いに通信可能に接続されている。
【0013】
外部環境認識ユニット20は、カメラユニット21、ミリ波レーダやレーザレーダ等のレーダ装置22等の環境認識用の各種デバイスを備え、ロケータユニット30とともに、自車両の進行方向の走行環境を認識する走行環境認識部を形成する。外部環境認識ユニット20は、カメラユニット21やレーダ装置22等で検出した自車両周囲の物体の検出情報、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報、ロケータユニット30で測位した自車両の位置情報等により、自車両周囲の外部環境を認識する。
【0014】
例えば、外部環境認識ユニット20は、カメラユニット21として、同一対象物を異なる視点から撮像する2台のカメラで構成されるステレオカメラを自車両に搭載し、ステレオカメラで撮像した左右一対の画像をステレオ処理することにより、外部環境を3次元的に認識する。ステレオカメラとしてのカメラユニット21は、例えば、車室内上部のフロントウィンドウ内側のルームミラー近傍に、CCDやCMOS等の撮像素子を有するシャッタ同期の2台のカラーカメラが所定の基線長で車幅方向左右に配置されて構成されている。
【0015】
ステレオカメラとしてのカメラユニット21で撮像された左右一対の画像はマッチング処理され、左右画像間の対応位置の画素ずれ量(視差)が求められる、そして、この画素ずれ量が輝度データ等に変換されて距離画像が生成される。距離画像上の点は、三角測量の原理から、自車両を中心とする実空間上の点に座標変換され、自車両が走行する道路の走行レーンを区画する左右の白線、障害物、自車両の前方を走行する車両等が3次元的に認識される。
【0016】
道路の左右の白線は、画像から白線の候補となる点群を抽出し、その候補点を結ぶ直線や曲線を算出することにより、認識することができる。例えば、画像上に設定された白線検出領域内において、水平方向(車幅方向)に設定した複数の探索ライン上で輝度が所定以上変化するエッジの検出を行い、探索ライン毎に1組の白線開始点及び白線終了点を検出することにより、白線開始点と白線終了点との間の中間の領域が白線候補点として抽出される。
【0017】
そして、単位時間当たりの車両移動量に基づく白線候補点の空間座標位置の時系列データを処理して左右の白線を近似するモデルを算出することにより、白線が認識される。白線の近似モデルとしては、ハフ変換によって求めた直線成分を連結した近似モデルや、2次式等の曲線で近似したモデルを用いることができる。
【0018】
ロケータユニット30は、外部環境認識ユニット20とともに自車両の進行方向の走行環境を認識する走行環境認識部を形成するものであり、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星等の複数の航法衛星からの信号に基づく測位を主として、自車両の位置を検出する。また、衛星からの信号(電波)の捕捉状態や電波の反射によるマルチパスの影響等で測位精度が悪化した場合には、ロケータユニット30は、ジャイロセンサ32や車速センサ33等の車載センサを用いた自律航法による測位を併用して自車両の位置を検出する。
【0019】
複数の航法衛星による測位は、航法衛星から送信される軌道及び時刻等に関する情報を含む信号を受信機31を介して受信し、受信した信号に基づいて自車両の自己位置を、経度、緯度、高度、及び時間情報を含む絶対位置として測位する。また、自律航法による測位は、ジャイロセンサ32によって検出した自車両の進行方位と車速センサ33から出力される車速パルス等から算出した自車両の移動距離とに基づいて、相対的な位置変化分としての自車位置を測位する。
【0020】
また、ロケータユニット30は、地図データベースDBを備え、測位した自車両の位置データから地図データベースDBの地図データ上での位置を特定する。地図データベースDBは、自動運転を含む走行制御用に作成された高精度地図を保有するデータベースであり、HDD(hard disk drive)やSSD(solid state drive)等の大容量記憶媒体に格納されている。
【0021】
詳細には、高精度地図は、道路形状や道路間の接続関係等の静的な情報と、インフラ通信によって収集される交通情報等の動的な情報とを複数の階層で保持する多次元マップ(ダイナミックマップ)として構成されている。道路データとしては、道路白線の種別、走行レーンの数、走行レーンの幅、走行レーンの幅方向の中心位置を示す点列データ、走行レーンの曲率、走行レーンの進行方位角、制限速度等が含まれ、データの信頼度やデータ更新の日付等の属性データと共に保持されている。
【0022】
更に、ロケータユニット30は、地図データベースDBの保守管理を行い、地図データベースDBのノード、リンク、データ点を検定して常に最新の状態に維持すると共に、データベース上にデータが存在しない領域についても新規データを作成・追加し、より詳細なデータベースを構築する。地図データベースDBのデータ更新及び新規データの追加は、測位された位置データと、地図データベースDBに記憶されているデータとの照合によって実施される。
【0023】
運転者監視ユニット40は、運転者を撮像する運転者監視カメラ41を備え、この運転者監視カメラ41を用いて運転者の状態を監視し、少なくとも運転者の顔及び手の状態を検出する運転者監視部として機能する。詳細には、運転者監視ユニット40は、運転者監視カメラ41で撮像した画像を処理して、運転者の顔の向きや視線方向、運転者の手の動きや各種機器の操作状態等を検出する。
【0024】
図2は運転者監視カメラの配置を示す説明図であり、例えば、自車両Mの運転席前方のインストルメントパネルに、運転者監視カメラ41が設置されている。運転者監視カメラ41は、運転者Dを正面から撮像し、主として運転者の顔及び手を含む上体が撮像範囲に入るように設定されている。
【0025】
運転者監視ユニット40は、ステアリングホイールHを把持しない状態で運転席に着座している運転者Dを撮像した画像に基づいて、運転者Dの顔の向きや視線の方向、手の状態を検出する。例えば、運転者監視ユニット40は、運転者Dの顔Dfの画像から運転者Dが自車両の進行方向を向いて前方を注視しているか、或いは進行方向の左右何れかの側を向いて脇見しているかを検出する。また、運転者Dの手Dhの画像から、運転者Dが片手或いは両手で携帯電話機や携帯情報端末等の機器Tを把持或いは操作しているか否かを検出する。
【0026】
尚、運転者監視ユニット40は、運転者監視カメラ41に加えて、運転者の呼吸、心拍数、血圧、体温、脳波等の生体情報を検出する生体センサを備え、運転者の健康状態も検出する。
【0027】
制駆動制御ユニット50は、電動モータや内燃機関で発生させる走行駆動力を制御し、また、自車両の走行速度、前進と後退の切換え、ブレーキ等を制御する。例えば、制駆動制御ユニット50は、エンジン運転状態を検出する各種センサ類からの信号及び車内ネットワークを介して取得される各種制御情報に基づいて、エンジンの運転状態を制御し、また、ブレーキスイッチ、4輪の車輪速、操舵角、ヨーレート、その他の車両情報に基づき、4輪のブレーキ装置(図示せず)を運転者のブレーキ操作とは独立して制御する。更に、制駆動制御ユニット50は、各輪のブレーキ力に基づいて各輪のブレーキ液圧を算出して、アンチロックブレーキ制御や横すべり防止制御等を行う。
【0028】
操舵制御ユニット60は、例えば、車速、運転者の操舵トルク、操舵角、ヨーレート、その他の車両情報に基づいて、操舵系に設けた電動パワーステアリング(EPS)ユニット61による操舵トルクを制御する。この操舵トルクの制御は、実操舵角を目標操舵角に一致させるための目標操舵トルクを実現するEPSユニット61の電動モータに対する電流制御として実行される。EPSユニット61は、操舵制御ユニット60からの目標操舵トルクを指示トルクとして、この指示トルクに対応する電動モータの駆動電流を、例えばPID制御によって制御する。
【0029】
情報報知ユニット70は、車両の各種装置に異常が生じた場合や運転者に注意を喚起するための警報、及び運転者に提示する各種情報を出力する。また、情報報知ユニット70は、自動運転を含む走行制御を実行中、その制御状態を運転者に提示し、運転者の操作によって自動運転を含む走行制御が休止された場合には、そのときの運転状態を運転者に報知する。情報報知ユニット70による情報の提示は、モニタ、ディスプレイ、ランプ等の視覚的な出力、スピーカ・ブザー等の聴覚的な出力、モータによる振動機構等の触覚的な出力の少なくとも一つを用いて行われる。
【0030】
本実施の形態においては、ステアリングホイールHを把持する運転者に直接且つ効果的に報知するため、ステアリングホイールHに、LED等の発光体が全周に渡って配設されると共に、モータ及び偏心分銅等からなる振動発生器が取り付けられている。ステアリングホイールHの発光体は、情報報知ユニット70に接続されるステアリング発光コントローラ71によって制御される。また、ステアリングホイールHの振動発生器は、情報報知ユニット70に接続されるステアリング振動コントローラ72によって制御される。
【0031】
次に、自動運転システム1の中心となる自動運転制御ユニット10について説明する。自動運転制御ユニット10には、運転者が運転モードを選択するための運転モードスイッチ11が接続されている。運転者が運転モードスイッチ11を操作して運転支援モード或いは自動運転モードをONしたとき、自動運転制御ユニット10は、外部環境認識ユニット20及びロケータユニット30からの情報に基づいて、制駆動制御ユニット50及び操舵制御ユニット60を介した運転制御を実行する。
【0032】
運転支援モードは、運転者の運転操作の一部を支援するモードであり、本実施の形態においては、運転者がステアリングホイールHを把持或いは操舵する必要のある運転モードである。また、自動運転モードは、運転者がステアリングホイールHを把持する必要のない手放し運転を前提とする運転モードであり、自動運転機能が正常に作動する設計上の運行領域において加減速制御及び操舵制御の全てを自動で行う条件付きの自動運転モードである。
【0033】
また、自動運転制御ユニット10には、運転者がステアリングホイールHを把持したことを検知するステアリング把持センサ12が接続されている。ステアリング把持センサ12は、例えば、柔軟な導電性材料を用いで電極層を形成した静電容量型のタッチセンサであり、ステアリングホイールHのリム部全周に渡って配設されている。
【0034】
自動運転制御ユニット10は、運転者がステアリングホイールHに触れる必要のない自動運転モードでの制御中に、自動運転を継続可能な条件(自動運転条件)を満足しなくなった場合、運転者に運転の引継ぎを要求する引継要求を出力する。
【0035】
例えば、システムの一部に異常が発生したり、自動運転の運行領域外となる等して自動運転の継続が困難となった場合、或いは、運転者監視ユニット40によって運転者の体調悪化が検出され、正常に運転可能な状態でないと判断された場合等には、自動運転条件が不成立と判断して引継ぎ要求を出力する。
【0036】
自動運転制御ユニット10は、ステアリング把持センサ12からの信号により、運転者が引継ぎ要求に応答してステアリングホイールHを把持したことを検知したとき、自動運転モードの制御を停止し、自車両の運転を運転者に引き継ぐ。
【0037】
また、自動運転制御ユニット10は、自動運転モードでの制御中、ステアリング把持センサ12からの信号によって運転者がステアリングホイールHを把持したことを検知した場合、運転者が自らの運転操作による手動運転で自車両を走行させることを所望するオーバーライド操作と判断する。自動運転制御ユニット10は、運転者のオーバーライド操作を検出したとき、自動運転モードの制御を停止し、自車両の運転を運転者に引き継ぐ。
【0038】
このようなシステムによる手動運転へ引継ぎ要求や運転者のオーバーライド操作による手動運転への引継ぎ要求は、ステアリング把持センサ12からの信号に基づいて受け付けられる。しかしながら、運転者がステアリングホイールHを把持したことをステアリング把持センサ12によって検出する場合、運転者の失陥によるステアリング把持センサ12への誤接触や、水分付着等による誤検出が生じる可能性がある。
【0039】
このため、自動運転制御ユニット10は、随時、ステアリングホイールHの把持位置(ステアリング把持位置)を変更することにより、同じ把持位置が継続的に指示されることを回避し、ステアリング把持センサ12への誤接触や誤検出を防止するようにしている。このステアリング把持位置の変更に係る機能として、自動運転制御ユニット10は、把持位置決定部10a、把持位置提示部10b、把持報知部10cを備えている。
【0040】
把持位置決定部10aは、外部環境認識ユニット20による走行環境の認識結果と、運転者監視ユニット40による運転者の状態の検出結果とに基づいて、ステアリング把持位置を決定する。ステアリング把持位置は、基本的には、運転者が自車両の進行方向を向き、且つ運転者の両手が開放状態で機器を操作する等していないことが検出された場合、手動運転への引継ぎ要求毎に、また一つの位置で一定時間が経過する毎に、ランダムに変更される。
【0041】
図3はステアリング把持位置の変化を示す説明図である。図3に示すように、初回(n=1)の引継ぎ要求時に、ステアリングホイールHの上部右側の領域R11と下部左側の領域R12とがステアリング把持位置として決定された場合、次の引継ぎ要求(n=2)では、ステアリングホイールHの上部左側の領域R21と下部右側の領域R22にステアリング把持位置が変更される。更に、3回目の引継ぎ要求(n=3)では、ステアリングホイールHの上部領域R31と下部領域R32がステアリング把持位置とされる。所定のステアリング把持位置で一定時間が経過した場合も、同様である。
【0042】
この場合、把持位置決定部10aは、ステアリング把持位置を、操舵角が0度の状態を基準位置として操舵角又は操舵速度に応じて円周方向にシフトさせ、操舵角θが0度以外の状態であっても、運転者から見てステアリング把持位置が同様の位置となるように調整する。
【0043】
図4は操舵角に応じたステアリング把持位置の変化を示す説明図である。図4においては、ステアリング把持位置は、操舵角θがθ=0,θ=θ1,θ=θ2と異なる場合であっても、運転者から見て同じ領域R11,R12となるように調整される。操舵速度が異なる場合も同様である。
【0044】
また、把持位置決定部10aは、ステアリング把持位置を決定する際に、以下の(1)~(3)に示すように、自車両の進行方向の道路形状、運転者の手の状態、運転者の顔の向きの検出結果に基づいて、ステアリング把持位置を決定する。
(1)自車両の進行方向の道路形状
把持位置決定部10aは、自車両の進行方向の道路形状が予め設定した曲率以上のカーブであることを検知した場合、ステアリング把持位置を、ステアリングホイールHの上部位置に決定する。自車両の進行方向の道路形状は、外部環境認識ユニット20からの認識情報やロケータユニット30からの地図情報及び自己位置情報によって検知することができる。
【0045】
図5はカーブ走行時のステアリング把持位置を示す説明図である。図5においては、ステアリングホイールHの上部2箇所の領域Rcv1,Rcv2がステアリング把持位置とされる。これにより、カーブ走行時に運転者がステアリングホイールHを把持して操舵する際の操作性を向上することができる。
(2)運転者の顔の向き
把持位置決定部10aは、運転者監視ユニット40によって運転者が自車両の進行方向に対して左右何れかの方向を向いていることを検出した場合、ステアリング把持位置を運転者が向いている方向側に決定する。尚、ここでの運転者の顔の向きは、運転者の視線方向を含むものとする。
【0046】
図6は運転者が進行方向左側を見ている場合のステアリング把持位置を示す説明図である。図6においては、ステアリングホイールHの左半分側の上下の領域Rl1,Rl2がステアリング把持位置とされ、運転者が向いている左側の視界内でステアリングホイールHの把持位置を認識させることが容易となり、迅速にステアリングホイールHを把持して運転を引き継ぐことが可能となる。
【0047】
図7は運転者が進行方向右側を見ている場合のステアリング把持位置を示す説明図である。図7においては、ステアリングホイールHの右半分側の上下の領域Rr1,Rr2がステアリング把持位置とされ、運転者が向いている右側の視界内でステアリングホイールHの把持位置を認識させることが容易となり、迅速にステアリングホイールHを把持して運転を引き継ぐことが可能となる。
【0048】
図8は運転者が下側を見ている場合のステアリング把持位置を示す説明図である。図8においては、ステアリングホイールHの下半分側の左右の領域Rd1,Rd2がステアリング把持位置とされ、運転者が向いている下側の視界内でステアリングホイールHの把持位置を認識させることが容易となり、迅速にステアリングホイールHを把持して運転を引き継ぐことが可能となる。
(3)運転者の手の状態
把持位置決定部10aは、運転者監視ユニット40によって運転者が左右何れか一方の手で機器を操作していることを検出した場合、ステアリング把持位置を、運転者の機器を操作していない手の側に決定する。
【0049】
図9は運転者の左手が機器操作状態の場合のステアリング把持位置を示す説明図である。図9においては、運転者が左手Dhlで機器Tを操作しているため、機器を操作していない右手Dhr側のステアリングホイールHの領域Rtr1,Rtr2がステアリング把持位置とされる。これにより、運転者が自由な状態の右手Dhrで迅速にステアリングホイールHを把持して運転を引き継ぐことが可能となる。
【0050】
また、図10は運転者の右手が機器操作状態にある場合のステアリング把持位置を示す説明図である。図10においては、運転者が右手Dhrで機器Tを操作しているため、機器を操作していない左手Dhl側のステアリングホイールHの領域Rtl1,Rtl2がステアリング把持位置とされる。これにより、運転者が自由な状態の左手Dhlで迅速にステアリングホイールHを把持して運転を引き継ぐことが可能となる。
【0051】
更に、把持位置決定部10aは、運転者監視ユニット40によって運転者が両手で機器を操作していることを検出した場合、ステアリング把持位置をステアリングホイールHの全体に決定する。
【0052】
図11は運転者の両手が機器操作状態の場合のステアリング把持位置を示す説明図である。図11においては、運転者の両手Dhl,Dhrが機器T1,T2の操作状態にあるため、把持位置決定部10aは、ステアリングホイールHの全体の領域Rallをステアリング把持位置とする。これにより、運転者が最も把持しやすい位置で迅速にステアリングホイールHを把持して運転を引き継ぐことが可能となる。
【0053】
把持位置提示部10bは、把持位置決定部10aで決定したステアリング把持位置を情報報知ユニット70に送信する。本実施の形態においては、情報報知ユニット70は、ステアリング発光コントローラ71を介して、ステアリングホイールHのステアリング把持位置に対応する部位を発光させ、運転者に把持位置を報知する。
【0054】
尚、ステアリング把持位置は、インストルメントパネル等に設けた表示パネルやHUD(ヘッドアップディスプレイ)を用いて報知するようにしても良い。例えば、表示パネルやHUDに、ステアリングホイールHを図形的に表示し、図3図11に示すようなステアリング把持位置を点滅或いは発光強度を高くすることにより、強調表示するようしても良い。
【0055】
把持報知部10cは、ステアリング把持センサ12からの信号により、把持位置提示部10bによって提示されたステアリングホイールHの把持位置を運転者が把持したことを検知したとき、情報報知ユニット70に通知する。本実施の形態においては、情報報知ユニット70は、ステアリング振動コントローラ72を介してステアリングホイールHを振動させ、運転者に報知する。
【0056】
図12は運転者がステアリングホイールを把持したときの報知を示す説明図である。図12に示すように、システムによって提示されたステアリングホイールHの把持位置を運転者が適正に把持したとき、ステアリングホイールH全体が振動する。これにより、運転者によるステアリングホイールHの把持をシステムが認識したことを、運転者の手を介して触覚的に報知することができる。この場合、運転者がステアリングホイールHの提示された以外の部位を把持或いは触れても、システムが把持と認識せず、ステアリングホイールHは振動しない。
【0057】
次に、自動運転システム1の動作について、図13図15のフローチャートで示される自動運転制御ユニット10の動作を中心として説明する。図13はステアリングホイール把持位置報知処理のフローチャート、図14はステアリングホイール把持位置決定処理のフローチャート、図15はステアリングホイール把持位置変換処理のフローチャートである。
【0058】
先ず、図13のステアリングホイール把持位置報知処理について説明する。このステアリングホイール把持位置報知処理では、自動運転制御ユニット10は、最初のステップS1において、運転モードスイッチ11からの信号に基づいて自動運転モードがONされているか否かを調べる。自動運転モードがOFFの場合、自動運転モードがONされるまで待機し、自動運転モードがONされた場合、ステップS1からステップS2へ進む。
【0059】
ステップS2では、自動運転制御ユニット10は図14のステアリングホイール把持位置決定処理を実行し、ステアリングホイールHの把持位置を決定する。更に、自動運転制御ユニット10は、ステップS3で図15のステアリングホイール把持位置変換処理を実行し、決定したステアリング把持位置を操舵角及び操舵速度に応じた位置に変換する。
【0060】
ここで、ステップS2のステアリングホイール把持位置決定処理、ステップS3ステアリングホイール把持位置変換処理について説明する。
【0061】
先ず、ステップS2のステアリングホイール把持位置決定処理では、自動運転制御ユニット10は、図14に示すように、最初のステップS11において、外部環境認識ユニット20及びロケータユニット30からの情報に基づいて自車両の進行方向の道路形状を検知する処理を実行する。
【0062】
次に、自動運転制御ユニット10は、運転者監視ユニット40からの情報に基づいて、ステップS12で運転者の顔の向きを検知する処理を実行し、ステップS13で運転者の手の状態を検知する処理を実行する。更に、自動運転制御ユニット10は、ステップS14で乱数演算処理を実行し、ステップS15の位置決定処理に進む。
【0063】
ステップS15では、自動運転制御ユニット10は、ステップS11~S13の検知処理結果とステップS14の乱数演算処理結果に基づいて、ステアリング把持位置を決定する。このステアリング把持位置の決定に際しては、ステップS11~S13の検知結果、及びステップS14の乱数演算処理結果は、適宜、取捨選択される。
【0064】
例えば、前述したように、自車両の進行方向の道路形状が設定曲率以上のカーブである場合には、ステアリング把持位置はステアリングホイールHの上部に制限されて決定される。また、運転者が自車両の進行方向に対して左右何れかの側或いは下側を向いている場合、ステアリング把持位置は、ステアリングホイールHの運転者が向いている側に決定される。
【0065】
また、運転者が左右何れか一方の手機器を操作している場合には、ステアリング把持位置は、ステアリングホイールHの運転者が機器を操作していない手の側に決定され、運転者が両手で機器を操作している場合には、ステアリング把持位置は、ステアリングホイールHの全体に決定される。
【0066】
また、道路形状が直線路であり、運転者が自車両の進行方向を向き且つ運転者の両手が開放状態で機器を操作する等していない場合には、ステアリング把持位置は、乱数演算処理によって得られるランダムな位置に決定される。
【0067】
次に、ステップS3のステアリングホイール把持位置変換処理では、自動運転制御ユニット10は、図15に示すように、最初のステップS21でステアリング把持位置の情報を取得し、ステップS22で現在の操舵角及び操舵速度の情報を取得する。そして、自動運転制御ユニット10は、ステップS23で、ステアリング把持位置を現在の操舵角及び操舵速度に基づいて所定角度だけ周方向にシフトさせた位置に変換するステアリング把持位置変換処理を実行する。
【0068】
その後、自動運転制御ユニット10は、ステアリングホイール把持位置報知処理に戻り、ステップS4において、先に決定したステアリング把持位置を表示して指定するステアリング把持位置表示処理を実行する。このステアリング把持位置表示処理では、自動運転制御ユニット10は、情報報知ユニット70にステアリング把持位置を送信し、ステアリング発光コントローラ71を介してステアリングホイールHの指定位置を発光させる等して運転者にステアリング把持位置を提示する。
【0069】
次に、ステップS5において、自動運転制御ユニット10は、ステアリング把持センサ12からの信号により、ステップS4で提示したステアリング把持位置でステアリングホイールHが把持された否かを判断する。自動運転制御ユニット10は、提示したステアリング把持位置でステアリングホイールHが把持されていないと判断した場合、ステップS6の処理に進み、設定時間が経過したか否かを調べる。
【0070】
ステップS6において、設定時間が経過していない場合、自動運転制御ユニット10は、ステップS6からステップS3の処理へ戻り、舵角或いは舵角速度が変化した場合にステアリング把持位置を変換する。設定時間が経過した場合には、自動運転制御ユニット10は、ステップS6からステップS2の処理に戻り、ステアリング把持位置を新たな位置に再決定する。
【0071】
一方、ステップS5において、自動運転制御ユニット10は、提示した位置でステアリングホイールHが把持されたと判断した場合、ステップS5からステップS7の処理に進む。ステップS7では、自動運転制御ユニット10は、情報報知ユニット70にステアリングホイールHが把持されたことを通知し、ステップS1の処理に戻る。情報報知ユニット70は、ステアリング振動コントローラ72を介してステアリングホイールHを振動させ、ステアリングホイールHの把持をシステムが認識したことを運転者に報知する。
【0072】
このように本実施の形態においては、自動運転から手動運転への運転引継ぎに際して、外部環境認識ユニット20及びロケータユニット30による走行環境の認識結果と運転者監視ユニット40による運転者の状態の検出結果とに基づいてステアリングホイールHの把持位置を決定し、決定したステアリングホイールの把持位置を運転者に提示するので、運転者にステアリングホイールの把持位置を適正に指示しながら把持の誤検出を防止することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 自動運転システム
10 自動運転制御ユニット
10a 把持位置決定部
10b 把持位置提示部
10c 把持報知部
11 運転モードスイッチ
12 ステアリング把持センサ
20 外部環境認識ユニット
30 ロケータユニット
40 運転者監視ユニット
41 運転者監視カメラ
50 制駆動制御ユニット
60 操舵制御ユニット
70 情報報知ユニット
71 ステアリング発光コントローラ
72 ステアリング振動コントローラ
図1
図2
図3
図4
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図10
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