(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】モータ駆動システム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230524BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230524BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230524BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20230524BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2019204174
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】竹▲崎▼ 朗
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 尚志
(72)【発明者】
【氏名】富澤 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】高山 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 俊博
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】安部 健一
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 雄吾
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-338563(JP,A)
【文献】特開2018-130007(JP,A)
【文献】特開2018-139480(JP,A)
【文献】特開2009-029284(JP,A)
【文献】特開2017-043338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したステアバイワイヤシステム(90)において、ドライバの操舵トルク及び路面反力に応じた反力トルクを出力するモータとして機能する反力アクチュエータ(10)、並びに、車輪(99)を転舵させる転舵トルクを出力するモータとして機能する転舵アクチュエータ(20)、の二台のアクチュエータを備えるモータ駆動システムであって、
前記反力アクチュエータ及び前記転舵アクチュエータは、それぞれ、モータ駆動制御に関する演算を行う、冗長的に設けられた二つの制御演算部(161、162、261、262)、及び、対応する前記制御演算部が生成した駆動信号に基づいて駆動しトルクを出力する、冗長的に設けられた二つのモータ駆動部(171、172、271、272)を有し、
各前記アクチュエータ内で互いに対応する二組の前記制御演算部と前記モータ駆動部との組をそれぞれ第1系統及び第2系統とし、一方の系統から見た他方の系統を裏系統と定義すると、各前記アクチュエータ内の裏系統の前記制御演算部同士は、系統間通信により相互に送受信した情報を共通に用いて前記モータ駆動部にトルクを出力させる協調駆動モードにより動作可能であり、
前記反力アクチュエータ及び前記転舵アクチュエータにおける、互いに対をなす系統の前記制御演算部である連携制御演算部同士は、アクチュエータ間通信により相互に送受信した情報に基づいて連携して動作可能であり、
各前記アクチュエータにつき二系統の計四つの前記制御演算部のうち、着目するいずれかの前記制御演算部を着目制御演算部とし、
前記着目制御演算部と、前記着目制御演算部の裏系統の前記制御演算部との前記系統間通信を隣接系統間通信と定義し、
前記着目制御演算部と、前記着目制御演算部の前記連携制御演算部との前記アクチュエータ間通信を隣接アクチュエータ間通信と定義すると、
前記着目制御演算部が動作中に停止し、前記隣接系統間通信又は前記隣接アクチュエータ間通信の少なくとも一方が途絶した後、前記着目制御演算部が復帰した場合、前記隣接系統間通信及び前記隣接アクチュエータ間通信を復帰さ
せ、
さらに各前記制御演算部は、前記協調駆動モードに加え、
前記着目制御演算部の正常動作復帰の可能性があるとき、前記系統間通信による情報を用いず、自身の演算結果に基づき自系統の前記モータ駆動部にトルクを出力させる復帰可能モード、及び、
前記着目制御演算部の故障が確定したとき、故障系統の裏系統の前記制御演算部が対応する前記モータ駆動部にトルクを出力させる故障確定モードにより動作可能であり、
前記着目制御演算部の停止から所定の系統間通信復帰待ち時間、及び、所定のアクチュエータ間通信復帰待ち時間が二重に設定されており、
前記系統間通信復帰待ち時間が前記アクチュエータ間通信復帰待ち時間より短く設定された構成において、前記着目制御演算部の停止により、前記隣接系統間通信が途絶した場合、
前記着目制御演算部の裏系統の制御演算部は、前記着目制御演算部の停止から前記系統間通信復帰待ち時間以上の期間、前記復帰可能モードで動作し、
前記アクチュエータ間通信復帰待ち時間が前記系統間通信復帰待ち時間より短く設定された構成において、前記着目制御演算部の停止により、前記隣接アクチュエータ間通信が途絶した場合、
前記着目制御演算部の前記連携制御演算部は、前記着目制御演算部の停止から前記アクチュエータ間通信復帰待ち時間以上の期間、制御演算を継続するモータ駆動システム。
【請求項2】
前記系統間通信復帰待ち時間が前記アクチュエータ間通信復帰待ち時間より短く設定された構成において、前記着目制御演算部の停止から前記系統間通信復帰待ち時間以内に、前記着目制御演算部の復帰により前記隣接系統間通信が復帰した場合、
前記着目制御演算部は前記復帰可能モードで動作を開始し、
前記着目制御演算部の裏系統の前記制御演算部は前記復帰可能モードで動作を継続する請求項
1に記載のモータ駆動システム。
【請求項3】
前記系統間通信復帰待ち時間が前記アクチュエータ間通信復帰待ち時間より短く設定された構成において、前記着目制御演算部の停止後、復帰せずに前記系統間通信復帰待ち時間を経過した場合、
前記着目制御演算部の裏系統の前記制御演算部は、前記故障確定モードに移行する請求項
1または2に記載のモータ駆動システム。
【請求項4】
前記アクチュエータ間通信復帰待ち時間が前記系統間通信復帰待ち時間より短く設定された構成において、
前記着目制御演算部の前記連携制御演算部は、前記隣接アクチュエータ間通信の途絶中に前記制御演算を継続する期間、前記モータ駆動部の出力を制限する請求項
1に記載のモータ駆動システム。
【請求項5】
前記着目制御演算部の停止から前記アクチュエータ間通信復帰待ち時間以内に、前記着目制御演算部の復帰により前記隣接アクチュエータ間通信が復帰した場合、
前記着目制御演算部の前記連携制御演算部は、前記モータ駆動部の出力制限を解除する請求項
4に記載のモータ駆動システム。
【請求項6】
前記アクチュエータ間通信復帰待ち時間が前記系統間通信復帰待ち時間より短く設定された構成において、前記着目制御演算部の停止後、復帰せずに前記アクチュエータ間通信復帰待ち時間を経過した場合、
前記着目制御演算部の前記連携制御演算部は、制御演算を停止する請求項
1、4または5に記載のモータ駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアバイワイヤシステムに適用されるモータ駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアバイワイヤシステムのモータが駆動されるモータ駆動システムにおいて、モータ駆動に関する演算を行う制御演算部や、制御演算部が生成した駆動信号に基づいて駆動するモータ駆動部が冗長的に複数設けられた構成が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示された制御システムのフェールセーフ制御装置では、反力又は転舵を制御する2個のECUのうち1個が失陥すると、失陥したECUを停止し、正常な1個のECUで制御を続行する。また、2個のモータのうち1個が失陥すると、失陥した操舵反力モータ又は転舵モータを停止し、正常な1個のモータを用いて制御を続行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の
図8、
図9に開示された実施例3の装置は、それぞれが操舵反力モータの駆動を制御する2個の反力ECU-(A)、(D)、及び、それぞれが転舵モータの駆動を制御する2個の転舵ECU-(B)、(C)を備える。例えば1個の反力ECU-(A)の失陥時には、反力ECU-(A)を停止し、正常な1個の反力ECU-(D)及び2個の転舵ECU-(B)、(C)、操舵反力モータ及び転舵モータの駆動制御を続行する。
【0006】
本明細書では、特許文献1の「反力ECU」及び「操舵反力モータ」を含めて「反力アクチュエータ」といい、「転舵ECU」及び「転舵モータ」を含めて「転舵アクチュエータ」という。また、特許文献1の「反力ECU」及び「操舵反力モータ」を「反力アクチュエータの制御演算部」及び「反力アクチュエータのモータ駆動部」という。特許文献1の「転舵ECU」及び「転舵モータ」を「転舵アクチュエータの制御演算部」及び「転舵アクチュエータのモータ駆動部」という。
【0007】
すなわち、本明細書における「アクチュエータ」の用語は、外部からの駆動信号により駆動される機械的要素のみでなく、自身の内部に有する制御演算部が生成した駆動信号によってモータ駆動部がトルクを出力する駆動装置を意味する。なお、アクチュエータ内の制御演算部とモータ駆動部とは物理的に一体に構成されてもよく、信号線を介して別体に構成されてもよい。
【0008】
ここで、特許文献1の従来技術において「反力アクチュエータの一方の制御演算部」である反力ECU-(A)と、「転舵アクチュエータの一方の制御演算部」である転舵ECU-(B)とが対をなし、情報を互いに送受信する構成を想定する。反力アクチュエータの一方の制御演算部が故障した場合、対をなす転舵アクチュエータの制御演算部により制御されるモータ駆動部が誤出力し、ドライバが意図しない方向へ車両が偏向されるおそれがある。そこでフェールセーフの視点からは、故障が発生した系統の各アクチュエータの制御演算部が共にモータ駆動制御を停止することが好ましいとも考えられる。
【0009】
しかし制御演算部の故障には、電源失陥やリセットにより瞬時的に動作を停止した後、正常復帰する場合が含まれる。このような瞬時的な停止の場合にも、故障が発生した系統の両アクチュエータのモータ駆動制御を常に停止すると、過剰なフェールセーフにより、システム機能が低下するおそれがある。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、ステアバイワイヤシステムにおける反力アクチュエータもしくは転舵アクチュエータの制御演算部が瞬時的に停止したとき、正常動作復帰可能であるにもかかわらず、過剰に機能を停止することを防止するモータ駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、車両の操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したステアバイワイヤシステム(90)において、反力アクチュエータ(10)及び転舵アクチュエータ(20)、の二台のアクチュエータを備えるモータ駆動システムである。反力アクチュエータは、ドライバの操舵トルク及び路面反力に応じた反力トルクを出力するモータとして機能する。転舵アクチュエータは、車輪(99)を転舵させる転舵トルクを出力するモータとして機能する。
【0012】
反力アクチュエータ(10)及び転舵アクチュエータ(20)は、それぞれ、冗長的に設けられた二つの制御演算部(161、162、261、262)、及び、冗長的に設けられた二つのモータ駆動部(171、172、271、272)を有する。二つの制御演算部は、モータ駆動制御に関する演算を行う。二つのモータ駆動部は、対応する制御演算部が生成した駆動信号に基づいて駆動しトルクを出力する。例えば多相ブラシレスモータでは、モータ駆動部は、電圧を供給するインバータ、ステータに巻回された多相巻線、永久磁石を有するロータ等により構成される。なお、多重巻線モータのように、複数のモータ駆動部においてロータ等が共通に設けられてもよい。
【0013】
各アクチュエータ内で互いに対応する二組の制御演算部とモータ駆動部との組をそれぞれ第1系統及び第2系統とし、一方の系統から見た他方の系統を「裏系統」と定義する。各アクチュエータ内の裏系統の制御演算部同士は、系統間通信により相互に送受信した情報を共通に用いてモータ駆動部にトルクを出力させる「協調駆動モード」により動作可能である。
【0014】
反力アクチュエータ及び転舵アクチュエータにおける、互いに対をなす系統の制御演算部である「連携制御演算部」同士は、アクチュエータ間通信により相互に送受信した情報に基づいて、連携して動作可能である。
【0015】
各アクチュエータにつき二系統の計四つの制御演算部のうち、着目するいずれかの制御演算部を「着目制御演算部」とする。着目制御演算部と、着目制御演算部の裏系統の制御演算部との系統間通信を「隣接系統間通信」と定義し、着目制御演算部と、着目制御演算部の連携制御演算部とのアクチュエータ間通信を「隣接アクチュエータ間通信」と定義する。本発明のモータ駆動システムは、着目制御演算部が動作中に停止し、隣接系統間通信又は隣接アクチュエータ間通信の少なくとも一方が途絶した後、着目制御演算部が復帰した場合、隣接系統間通信及び隣接アクチュエータ間通信を復帰させる。本発明では、着目制御演算部が正常動作復帰した場合、隣接系統間通信及び隣接アクチュエータ間通信を復帰させ、モータ駆動制御を再開することで、過剰なフェールセーフを回避し、システム機能を好適に維持することができる。
【0016】
さらに各制御演算部は、協調駆動モードに加え、「復帰可能モード」、及び「故障確定モード」により動作可能である。復帰可能モードでは、着目制御演算部の正常動作復帰の可能性があるとき、系統間通信による情報を用いず、自身の演算結果に基づき自系統のモータ駆動部にトルクを出力させる。故障確定モードでは、着目制御演算部の故障が確定したとき、故障系統の裏系統の制御演算部が対応するモータ駆動部にトルクを出力させる。具体的には、「復帰可能モード」は、例えば「独立駆動モード」として実現され、「故障確定モード」は、例えば「片系統駆動モード」として実現される。
【0017】
着目制御演算部の停止から所定の系統間通信復帰待ち時間、及び、所定のアクチュエータ間通信復帰待ち時間が二重に設定されている。系統間通信復帰待ち時間がアクチュエータ間通信復帰待ち時間より短く設定された構成において、着目制御演算部の停止により、隣接系統間通信が途絶した場合、着目制御演算部の裏系統の制御演算部は、着目制御演算部の停止から系統間通信復帰待ち時間以上の期間、復帰可能モードで動作する。アクチュエータ間通信復帰待ち時間が系統間通信復帰待ち時間より短く設定された構成において、着目制御演算部の停止により、隣接アクチュエータ間通信が途絶した場合、着目制御演算部の連携制御演算部は、着目制御演算部の停止からアクチュエータ間通信復帰待ち時間以上の期間、制御演算を継続する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ステアバイワイヤシステムに適用される一実施形態によるモータ駆動システムの全体構成図。
【
図3】同一アクチュエータの二系統の制御演算部による(a)協調駆動モード、(b)片系統駆動モードのモータ回転数-出力特性図。
【
図4】同上の(a)独立駆動モードで各系統の出力を制限しない場合、(b)独立駆動モードで一方の系統を出力制限する場合のモータ回転数-出力特性図。
【
図5】着目制御演算部(例.反力アクチュエータ第1系統の制御演算部=HM)が停止した状態を示す図。
【
図6】着目制御演算部の停止から通信復帰待ち時間以内に復帰する場合の動作を示すタイムチャート。
【
図7】着目制御演算部の停止後、系統間通信復帰待ち時間を経過した場合の動作を示すタイムチャート。
【
図8】着目制御演算部の裏系統の制御演算部(例.反力アクチュエータ第2系統の制御演算部=HS)の視点での処理を示すフローチャート。
【
図9】着目制御演算部の停止後、アクチュエータ間通信復帰待ち時間を経過した場合の動作を示すタイムチャート。
【
図10】着目制御演算部の連携制御演算部(例.転舵アクチュエータ第1系統の制御演算部=TM)の視点での処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のモータ駆動システムの一実施形態を図面に基づいて説明する。一実施形態のモータ駆動システムは、車両の操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したステアバイワイヤシステムにおいて、反力アクチュエータ及び転舵アクチュエータの二台のアクチュエータを備える。各アクチュエータは、冗長的に設けられた二つの制御演算部、及び、冗長的に設けられた二つのモータ駆動部を有する。各アクチュエータ内で互いに対応する制御演算部とモータ駆動部との組み合わせの単位を「系統」と定義する。
【0020】
(一実施形態)
図1に、車両のステアバイワイヤシステム90に適用されるモータ駆動システム80を示す。ステアバイワイヤシステム90の操舵機構は、ハンドル91、ステアリングシャフト93、操舵トルクセンサ94、及び反力アクチュエータ10等を含む。ステアバイワイヤシステム90の転舵機構は、ラック97、ナックルアーム98、及び転舵アクチュエータ20等を含み、転舵アクチュエータ20が出力する転舵トルクにより車輪99を転舵させる。車輪99は片側のみを図示し、反対側の車輪の図示を省略する。
【0021】
モータ駆動システム80は、反力アクチュエータ10と転舵アクチュエータ20とを備えている。以下の図中、「Act」は「アクチュエータ」を意味する。反力アクチュエータ10は、ドライバの操舵トルク及び路面反力に応じた反力トルクを出力するモータとして機能する。反力アクチュエータ10が反力を付与するようにハンドル91を回転させることで、ドライバに適切な操舵フィーリングを与える。転舵アクチュエータ20は、車輪99を転舵させる転舵トルクを出力するモータとして機能する。転舵アクチュエータ20が適切に車輪99を転舵させることで、ドライバが意図した方向へ車両が偏向される。
【0022】
各アクチュエータ10、20は二系統の冗長構成となっている。つまり、反力アクチュエータ10は、冗長的に設けられた二つの制御演算部161、162、及び、冗長的に設けられた二つのモータ駆動部171、172を有している。転舵アクチュエータ20は、冗長的に設けられた二つの制御演算部261、262、及び、冗長的に設けられた二つのモータ駆動部271、272を有している。
【0023】
以下、各アクチュエータ内で互いに対応する二組の制御演算部とモータ駆動部との組を「第1系統」及び「第2系統」と表し、一方の系統から見た他方の系統を「裏系統」と定義する。例えば第1系統と第2系統との間に主従関係があり、第1系統がメイン(又はマスター)、第2系統がサブ(又はスレーブ)として機能してもよい。或いは、第1系統と第2系統とが対等の関係であってもよい。第1系統の要素には符号の末尾に「1」を付し、第2系統の要素には符号の末尾に「2」を付す。
【0024】
また、反力アクチュエータ10の第1系統の制御演算部161を「HM」、同第2系統の制御演算部162を「HS」、転舵アクチュエータ20の第1系統の制御演算部261を「TM」、同第2系統の制御演算部262を「TS」の記号で表す。
図1、
図2、
図5では数字の符号と併記するが、その他の図では各制御演算部をHM、HS、TM、TSの記号のみで表すものとする。また、各制御演算部161、162、261、262間に両方向矢印で示される系統間通信H12、T12、及び、アクチュエータ間通信HT1、HT2については、
図2を参照して後述する。
【0025】
各アクチュエータ10、20の基本的構成は同様であるため、一方の説明で足りる点に関しては、代表として反力アクチュエータ10の構成要素により説明する。転舵アクチュエータ20については、対応する符号を読み替えて解釈可能である。制御演算部(HM)161、制御演算部(HS)162は、具体的にはマイコンやASICにより構成され、モータ駆動制御に関する演算を行う。なお、制御演算部(HM)161、制御演算部(HS)162は、モータ駆動制御以外の制御をあわせて実行してもよいが、本明細書では他の制御について言及しない。
【0026】
詳しくは、制御演算部(HM)161、制御演算部(HS)162は、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及びこれらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御演算部(HM)161、制御演算部(HS)162は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
【0027】
モータ駆動部171、172は、対応する制御演算部(HM)161、制御演算部(HS)162が生成した駆動信号に基づいて駆動し、トルクを出力する。例えば多相ブラシレスモータでは、モータ駆動部171、172は、電圧を供給するインバータ、ステータに巻回された多相巻線、永久磁石を有するロータ等により構成される。二系統のモータ駆動部171、172は、協働してトルクを出力する。例えばモータ駆動部171、172は、二系統の多相巻線が共通のステータに巻回された二重巻線モータとして構成されてもよい。
【0028】
図中、制御演算部(HM)161からモータ駆動部171への矢印、及び、制御演算部(HS)162からモータ駆動部172への矢印は、各系統の駆動信号を示す。多相ブラシレスモータの場合、駆動信号はインバータのスイッチングパルス信号であり、代表的にはPWM信号等である。
【0029】
反力アクチュエータ10の制御演算部(HM)161、制御演算部(HS)162は、操舵トルクtrq-s及び路面反力等を取得し、それらの情報に基づいて駆動信号を生成する。転舵アクチュエータ20の制御演算部(TM)261、制御演算部(TS)262は、操舵角又は転舵角θtやラックストロークXr等を取得し、それらの情報に基づいて駆動信号を生成する。
【0030】
このように、本明細書では、二つの制御演算部と二つのモータ駆動部とを含む一単位の駆動装置として「アクチュエータ」の用語を用いる。例えば特許文献1(特許第4848717号公報)では、駆動信号を演算するECUとは別に、機械的要素であるモータ本体部分のみをアクチュエータとして扱っており、本明細書とは用語の解釈が異なる。本実施形態のアクチュエータは、いわゆる「機電一体式」のモータとして、制御演算部とモータ駆動部とが物理的に一体に構成されてもよい。或いは、いわゆる「機電別体式」のモータとして、制御演算部とモータ駆動部とが信号線を介して別体に構成されてもよい。
【0031】
図2に、
図1のモータ駆動システム80を簡略化した模式図として示す。つまり、ステアバイワイシステム90としての構成を省略し、単純に「二系統冗長構成の反力アクチュエータ10及び転舵アクチュエータ20を備えたモータ駆動システム80」の構成を図示する。
図2では、各アクチュエータ10、20の第1系統及び第2系統に破線枠を示し、「第1系統101、201」、「第2系統102、202」の符号を付す。ただし、以下の説明中、文脈から自明な箇所等では、系統の符号を適宜省略する場合がある。
【0032】
図1の説明と一部重複するが、各アクチュエータ10、20の構成をあらためて記す。反力アクチュエータ10は、第1系統101の制御演算部(HM)161及び第2系統102の制御演算部(HS)162が冗長的に設けられており、また、第1系統101のモータ駆動部171及び第2系統102のモータ駆動部172が冗長的に設けられている。転舵アクチュエータ20は、第1系統201の制御演算部(TM)261及び第2系統202の制御演算部(TS)262が冗長的に設けられており、また、第1系統201のモータ駆動部271及び第2系統202のモータ駆動部272が冗長的に設けられている。
【0033】
各アクチュエータ10、20において、操舵トルクtrq-sの信号、操舵角又は転舵角θtやラックストロークXrのフィードバック信号等の情報は各系統の制御演算部へ冗長的に入力される。つまり、一つの情報信号が分岐されて各系統の制御演算部へ入力されるのでなく、第1系統専用に生成された情報信号が第1系統に入力され、第2系統専用に生成された情報信号が第2系統に入力される。
【0034】
例えば反力アクチュエータ10について、第1系統101の制御演算部(HM)161へは情報IfHM、第2系統102の制御演算部(HS)162へは情報IfHSが冗長的に入力される。また、転舵アクチュエータ20について、第1系統201の制御演算部(TM)261へは情報IfTM、第2系統202の制御演算部(TS)262へは情報IfTSが冗長的に入力される。
【0035】
各アクチュエータ10、20内の裏系統の制御演算部同士は、系統間通信により相互に送受信する。つまり、反力アクチュエータ10の第1系統の制御演算部(HM)161と第2系統の制御演算部(HS)162とは、系統間通信H12により相互に情報を送受信する。また、転舵アクチュエータ20の第1系統の制御演算部(TM)261と第2系統の制御演算部(TS)262とは、系統間通信T12により相互に情報を送受信する。
【0036】
系統間通信H12、T12により相互に送信される情報には、例えば、外部からの入力値、制御演算部が演算した電流指令値、電流制限値、フィードバックされる実電流等が含まれる。裏系統の制御演算部同士は、系統間通信により相互に送受信した情報に基づいてモータ駆動部にトルクを出力させる「協調駆動モード」により動作可能である。協調駆動モードについて詳しくは後述する。
【0037】
反力アクチュエータ10の第1系統と、転舵アクチュエータ20の第1系統とは互いに対をなす。また、反力アクチュエータ10の第2系統と、転舵アクチュエータ20の第2系統とは互いに対をなす。反力アクチュエータ及び転舵アクチュエータにおける、互いに対をなす系統の制御演算部を「連携制御演算部」という。第1系統の連携制御演算部同士、すなわち制御演算部(HM)161と制御演算部(TM)261とは、アクチュエータ間通信HT1により相互に情報を送受信する。第2系統の連携制御演算部同士、すなわち制御演算部(HS)162と制御演算部(TS)262とは、アクチュエータ間通信HT2により相互に情報を送受信する。
【0038】
アクチュエータ間通信HT1、HT2により相互に送受信される情報には、系統間通信H12、T12と同様の情報や、制御演算部又はモータ駆動部の異常情報等が含まれる。連携制御演算部同士は、アクチュエータ間通信により相互に送受信した情報に基づいて連携して動作可能である。反力アクチュエータ10と転舵アクチュエータ20とは、基本的に相関しながら、モータ回転角に対するハンドル91又は車輪99の舵角等の違いに応じてそれぞれ動作する。同一アクチュエータ内での裏系統の制御演算部同士による「協調」駆動とは意味合いが異なるため、本明細書では「連携」という用語を用いる。
【0039】
次に
図3、
図4を参照し、同一アクチュエータ内の二系統の制御演算部がモータ駆動部にトルクを出力させる駆動モードとして、協調駆動モード、独立駆動モード、片系統駆動モードについて説明する。制御演算部が正常か異常かという視点から、協調駆動モードは正常モードである。独立駆動モードは、瞬時的にマイコンがOFFしたものの故障が確定しておらず、正常動作復帰の可能性がある場合に各制御演算部が動作可能な「復帰可能モード」に相当する。片系統駆動モードは、故障が確定し、もはや正常動作復帰の可能性が無い場合に故障系統の裏系統の制御演算部が動作可能な「故障確定モード」に相当する。各駆動モードは、
図6~
図10の説明に用いられる。
【0040】
ここで、同一アクチュエータ内の二系統の電気的特性は同等であることを前提とする。以下では、各アクチュエータにつき二系統の四つの制御演算部161、162、261、262について、符号を用いず、HM、HS、TM、TSの記号を用いて記載する。四つの制御演算部HM、HS、TM、TSのうち着目するいずれかの制御演算部を「着目制御演算部」という。そして、反力アクチュエータ10の第1系統の制御演算部HMを着目制御演算部として説明する。他の制御演算部HS、TM、TSを着目制御演算部とする場合の動作も同様に類推可能である。
【0041】
図3、
図4には、転舵アクチュエータ20の制御演算部TM、TSが、モータ回転数に応じて、対応するモータ駆動部271、272にトルクを出力させる出力特性を表す。モータ回転数が臨界値ωc以下の領域ではモータ出力は一定であり、モータ回転数が臨界値ωcを超える領域では、モータ回転数の増加につれてモータ出力は漸減する。
図3(a)に示す協調駆動モードでは、二系統の制御演算部TM、TSが指令値や制限値等の情報を共通に用いて、モータ駆動部271、272に同等のトルクを出力させる。したがって、二系統の合計トルクは各系統のトルクの2倍となる。
【0042】
図3(b)に示す片系統駆動モードでは、着目制御演算部の故障が確定したとき、故障系統の裏系統の制御演算部が対応するモータ駆動部にトルクを出力させる。制御演算部HMの故障が確定したとき、裏系統の制御演算部HSは、反力アクチュエータ10の第2系統のモータ駆動部172のみにトルクを出力させる。また、制御演算部HMの故障確定に伴い連携制御演算部TMが停止したとき、裏系統の制御演算部TSは、転舵アクチュエータ20の第2系統のモータ駆動部272のみにトルクを出力させる。
【0043】
この場合、出力トルクの上限値は、一点鎖線で示すように協調駆動モードの上限トルクの50%に設定されてもよく、長破線で示すように協調駆動モードの上限トルクの50%より大きい値に設定されてもよい。
【0044】
図4(a)、(b)に示す独立駆動モードでは、着目制御演算部の正常動作復帰の可能性があるとき、各制御演算部は、系統間通信による情報を用いず、自身の演算結果に基づき自系統のモータ駆動部に一系統分のトルクを出力させる。
図4(a)に示すように出力制限しない場合、入力情報に基づく各制御演算部の制御演算結果が同等であれば、各系統の制御演算部TM、TSはモータ駆動部271、272に同等のトルクを出力させるため、協調駆動モードと同様の出力特性となる。
【0045】
図4(b)には、独立駆動モードで一方の制御演算部TMがモータ駆動部271の出力を制限する場合の出力特性を示す。特にこの例では出力を0に制限するため、実質的に裏系統の制御演算部TSのみがモータ駆動部272にトルクを出力させる。なお、その他の例では、0より大きい出力制限値を設定し、制御演算部TMが軽微なトルクをモータ駆動部272に出力させるようにしてもよい。
【0046】
次に
図5に示すように、通常動作中に着目制御演算部HMが動作を停止した状況を想定する。動作停止前の通常動作時、着目制御演算部HMは、系統間通信H12により裏系統の制御演算部HSと協調駆動モードで動作しており、アクチュエータ間通信HT1により連携制御演算部TMと連携して動作している。
【0047】
通信構成上、着目制御演算部HMの裏系統の制御演算部HS、及び、着目制御演算部HMの連携制御演算部TMは、いずれも着目制御演算部HMと隣接していると考えられる。そこで、着目制御演算部HMと、着目制御演算部HMの裏系統の制御演算部HSとの系統間通信H12を「隣接系統間通信」という。また、着目制御演算部HMと、着目制御演算部HMの連携制御演算部TMとのアクチュエータ間通信HT1を「隣接アクチュエータ間通信」という。なお、TMとTSとの間の系統間通信T12は隣接系統間通信ではなく、HSとTSとの間のアクチュエータ間通信HT2は隣接アクチュエータ間通信ではない。
【0048】
着目制御演算部HMが動作を停止した要因は、制御演算部のマイコンやモータ駆動部等に実際に故障が発生したからかもしれないし、電源失陥やマイコンリセットにより瞬時的にマイコンがOFF状態になったからかもしれない。つまり、動作停止要因には、部品の交換や修理が必要な恒久異常の可能性もあるし、実際の故障ではなく正常動作復帰が可能な一時停止の可能性もある。
【0049】
仮に着目制御演算部HMが実際に故障した場合、隣接アクチュエータ間HT1を経由して連携制御演算部TMに入力される情報も異常値となり、連携制御演算部TMにより制御される転舵アクチュエータ20のモータ駆動部271が誤出力する可能性がある。その結果、ドライバが意図しない方向へ車両が偏向されるおそれがある。そこでフェールセーフの視点から、着目制御演算部HMと共に連携制御演算部TMもモータ駆動制御を停止し、各アクチュエータ10、20の裏系統の制御演算部HS及びTSでモータ駆動制御を継続することが好ましいと考えられる。
【0050】
ただし、通常時の二系統による協調駆動モードから片系統駆動モードの動作に切り替わるため、多くの場合、最大出力が制限され、システム機能が低下することとなる。したがって、着目制御演算部HMの動作停止が瞬時的なものであり正常動作復帰が可能な場合、過剰なフェールセーフにより、着目制御演算部HM及び連携制御演算部TMによるモータ駆動制御を常に停止させることは好ましくない。そこで本実施形態のモータ駆動システム80は、着目制御演算部HMが瞬時的に停止したとき、正常動作復帰可能であるにもかかわらず、過剰に機能を停止することを防止するものである。
【0051】
続いて
図6~
図10のタイムチャート及びフローチャートを参照し、本実施形態の動作を詳しく説明する。各タイムチャートには、各制御演算部HM、HS、TM、TSの駆動モード、及び、隣接系統間通信H12、隣接アクチュエータ間通信HT1の正常又は途絶(OFF)の切り替わりを示す。フローチャートの説明で、記号「S]はステップを意味する。また、以下の文中及びタイムチャートの対応箇所にフローチャートのステップ番号を付記する。
【0052】
動作概要としてモータ駆動システム80は、着目制御演算部HMが動作中に停止し、隣接系統間通信H12又は隣接アクチュエータ間通信HT1の少なくとも一方が途絶した後、所定の通信復帰待ち時間以内に着目制御演算部HMが復帰するか否かに応じて処理を切り替える。つまり、通信復帰待ち時間以内に着目制御演算部HMが復帰した場合は、瞬時的な停止と判断される。一方、着目制御演算部HMが復帰せずに通信復帰待ち時間を経過した場合は、実際の故障であると判断され、着目制御演算部HM及び連携制御演算部TMによるモータ駆動制御を停止させる処置が行われる。要するに、二段階の停止判断の確定により、片側系統の停止処置が実行される。
【0053】
代表的な実施形態では、「系統間通信復帰待ち時間」及び「アクチュエータ間通信復帰待ち時間」が二重に設定される構成例について説明する。
図7及び
図9では、「系統間通信復帰待ち時間」と「アクチュエータ間通信復帰待ち時間」との短い方の時間に応じて、2通りの動作パターンを示す。
【0054】
図6に、着目制御演算部HMの停止から通信復帰待ち時間以内に復帰する場合の動作を示す。時刻t1以前の通常動作時、各制御演算部HM、HS、TM、TSは協調駆動モードで動作している。図中、協調駆動の関係を両方向ブロック矢印で示す。時刻t1に着目制御演算部HMのマイコンがOFFし、HMの駆動モードは停止状態となる(S10)。このとき、モータ駆動システム80は隣接系統間通信H12及び隣接アクチュエータ間通信HT1が途絶する(S11、S21)。なお、OFF状況によっては、隣接系統間通信H12又は隣接アクチュエータ間通信HT1の一方のみが途絶する場合もあり得る。
【0055】
隣接系統間通信H12が途絶すると、裏系統の制御演算部HSは協調駆動モードから独立駆動モードに移行する(S13)。裏系統の制御演算部HSは、系統間通信復帰待ち時間以上の期間、独立駆動モードで動作する。隣接アクチュエータ間通信HT1が途絶すると、連携制御演算部TMは、制御演算を継続しつつ協調駆動モードから独立駆動モードに移行する。連携制御演算部TMは、アクチュエータ間通信復帰待ち時間以上の期間、制御演算を継続する。さらに連携制御演算部TMは、隣接アクチュエータ間通信HT1の途絶中に制御演算を継続する期間、アクチュエータの意図しない動作を防ぐため、モータ駆動部271の出力を制限する(S22)。連携制御演算部TMの裏系統の制御演算部TSは、協調駆動モードから独立駆動モードに移行する(S23)。
【0056】
着目制御演算部HMの停止後、系統間通信復帰待ち時間以内かつアクチュエータ間通信復帰待ち時間以内の時刻t2に、着目制御演算部HMのマイコンがON復帰し、隣接系統間通信H12及び隣接アクチュエータ間通信HT1が復帰する場合を想定する。
【0057】
隣接系統間通信H12の復帰(S15:YES)により、着目制御演算部HMは独立駆動モードで動作を開始し、裏系統の制御演算部HSは独立駆動モードで動作を継続する(S16)。また、隣接アクチュエータ間通信HT1の復帰(S25:YES)により、連携制御演算部TMはモータ駆動部271の出力制限を解除して独立駆動モードで動作する(S26)。このとき、隣接アクチュエータ間通信HT1の途絶中も制御演算が継続されているため、瞬時停止以前からの情報の連続性が確保される。連携制御演算部TMの裏系統の制御演算部TSは、独立駆動モードで動作を継続する。
【0058】
図7に、着目制御演算部HMの停止後、復帰せずに系統間通信復帰待ち時間を経過した場合の動作を示す。この例では、系統間通信復帰待ち時間がアクチュエータ間通信復帰待ち時間より短く設定されているか、系統間通信復帰待ち時間が優先するように条件設定されているものとする。時刻t3に系統間通信復帰待ち時間を経過した場合(S14:YES)、故障が確定し、着目制御演算部HMが停止したまま、裏系統の制御演算部HSは、独立駆動モードから片系統駆動モードに移行する(S17)。
【0059】
すると、裏系統の制御演算部HSからアクチュエータ間通信HT2により送信される情報に基づき、裏系統の連携制御演算部TSが独立駆動モードから片系統駆動モードに移行する(S18)。そして、裏系統の連携制御演算部TSから系統間通信T12により送信される情報に基づき、着目制御演算部HMの連携制御演算部TMが独立駆動モードの出力制限状態から制御演算を停止する(S19)。これにより、着目制御演算部HM及び連携制御演算部TMによるモータ駆動制御が停止される。
【0060】
図8のフローチャートに、着目制御演算部HMの裏系統の制御演算部HSの視点で
図6、
図7の処理を示す。フローチャートの説明では各制御演算部を記号のみで表し、各ステップの処理を簡易的に記載する。S10でHMがOFFすると、S11では隣接系統間通信H12が途絶する。S13でHSは、協調駆動モードから独立駆動モードに移行する。
【0061】
S14でHSは、HMの停止から系統間通信復帰待ち時間が経過したか判断する。系統間通信復帰待ち時間の経過前であり、S14でNOの場合、S15でHSは、隣接系統間通信H12が復帰したか判断する。S15でNOの場合、S14の前に戻る。隣接系統間通信H12が復帰し、S15でYESと判断すると、S16でHSは、独立駆動を継続する。
【0062】
系統間通信復帰待ち時間を経過し、S14でYESと判断すると、S17でHSは片系統駆動モードに移行する。続いて、S18でTSは片系統駆動モードに移行し、S19でTMは制御演算を停止する。
【0063】
図9に、着目制御演算部HMの停止後、復帰せずにアクチュエータ間通信復帰待ち時間を経過した場合の動作を示す。この例では、アクチュエータ間通信復帰待ち時間が系統間通信復帰待ち時間より短く設定されているか、アクチュエータ間通信復帰待ち時間が優先するように条件設定されているものとする。時刻t4にアクチュエータ間通信復帰待ち時間を経過した場合(S24:YES)、故障が確定し、連携制御演算部TMが独立駆動モードの出力制限状態から制御演算を停止する(S27)。これにより、着目制御演算部HM及び連携制御演算部TMによるモータ駆動制御が停止される。
【0064】
すると、連携制御演算部TMから系統間通信T12により送信される情報に基づき、裏系統の制御演算部TSは、独立駆動モードから片系統駆動モードに移行する(S28)。そして、連携制御演算部TMの裏系統の制御演算部TSからアクチュエータ間通信HT2により送信される情報に基づき、着目制御演算部HMの裏系統の連携制御演算部HSが独立駆動モードから片系統駆動モードに移行する(S29)。
【0065】
図10のフローチャートに、着目制御演算部HMの連携制御演算部TMの視点で
図6、
図9の処理を示す。
図8と共通のS10でHMがOFFすると、S21ではアクチュエータ間通信HT1が途絶する。S22でTMは、制御演算を継続しつつ協調駆動モードから独立駆動モードに移行し、さらに出力制限する。S23でTSは協調駆動モードから独立駆動モードに移行する。
【0066】
S24でTMは、HMの停止からアクチュエータ間通信復帰待ち時間が経過したか判断する。アクチュエータ間通信復帰待ち時間の経過前であり、S24でNOの場合、S25でTMは、隣接アクチュエータ間通信HT1が復帰したか判断する。S25でNOの場合、S24の前に戻る。隣接アクチュエータ間通信HT1が復帰し、S25でYESと判断すると、S26でTMは、出力制限を解除して独立駆動モードで動作する。
【0067】
アクチュエータ間通信復帰待ち時間を経過し、S24でYESと判断すると、S27でTMは制御演算を停止する。続いて、S28でTSは片系統駆動モードに移行し、S29でHSは片系統駆動モードに移行する。
【0068】
以上のように本実施形態のモータ駆動システム80は、着目制御演算部HMが停止し、隣接系統間通信H12又は隣接アクチュエータ間通信HT1の少なくとも一方が途絶した後、着目制御演算部HMが正常動作復帰した場合、隣接系統間通信H12及び隣接アクチュエータ間通信HT1を復帰させる。そして、モータ駆動制御を再開することで、過剰なフェールセーフを回避し、システム機能を好適に維持することができる。
【0069】
一方、着目制御演算部HMの停止後、着目制御演算部HMが復帰せずに所定の通信復帰待ち時間が経過した場合、故障が確定する。このとき、もはや正常動作復帰の可能性は無いと判断され、停止処置が実行される。着目制御演算部HMの故障時に連携制御演算部TMが共にモータ駆動を停止することで、着目制御演算部HMから送信された異常値による連携制御演算部TMの誤出力により、ドライバが意図しない方向へ車両が偏向することが防止される。
【0070】
本実施形態のモータ駆動システム80は、各アクチュエータ10、20の裏系統の制御演算部同士の駆動モードを停止時及び復帰時に切り替えることで、対応するモータ駆動部の出力を適切に管理することができる。また、隣接アクチュエータ間通信HT1の途絶中、連携制御演算部TMが制御演算を継続することで、復帰時に瞬時停止以前からの情報の連続性を確保することができる。さらに連携制御演算部TMは、制御演算を継続する期間、モータ駆動部271への出力を制限することで、アクチュエータの意図しない動作を防ぐことができる。
【0071】
(その他の実施形態)
(a)着目制御演算部HMの停止からの通信復帰待ち時間を設定せず、例えばエンジン車におけるイグニッションオフまで、隣接系統間通信H12及び隣接アクチュエータ間通信HT1が途絶した状態のまま放置してもよい。現実的には、所定の通信復帰待ち時間を数Hr単位の十分に長い時間に設定した場合にも同様の結果となる。
【0072】
(b)上記実施形態では、系統間通信復帰待ち時間とアクチュエータ間通信復帰待ち時間とを二重に設定し、先に経過した方に基づき、
図7又は
図9のタイムチャートによる処理が実行される。これに対し、系統間通信復帰待ち時間のみを設定し、
図7の処理のみが実行されるようにしてもよく、アクチュエータ間通信復帰待ち時間のみを設定し、
図9の処理のみが実行されるようにしてもよい。
【0073】
(c)
図6に示すように、通信復帰待ち時間の経過前に着目制御演算部HMが復帰した場合、各制御演算部は「復帰可能モード」としての独立駆動モードに移行する。さらに、同一アクチュエータ内の二系統の制御演算部は、独立駆動モードから協調駆動モードに移行してもよい。
【0074】
(d)上記実施形態では、反力アクチュエータ10の第1系統101と転舵アクチュエータ20の第1系統201とは互いに対をなし、反力アクチュエータ10の第2系統102と転舵アクチュエータ20の第2系統202とは互いに対をなす。つまり、同一番号の系統同士が互いに対をなし、制御演算部が「連携制御演算部」を構成している。ただし、「第1系統」及び「第2系統」の用語は便宜上割り振られているに過ぎず、二つの系統のどちらを「第1系統」とし、どちらを「第2系統」とするかは自由である。システムによっては、「反力アクチュエータの第1系統」と「転舵アクチュエータの第2系統」とが対をなし、「反力アクチュエータの第2系統」と「転舵アクチュエータの第1系統」とが対をなすようにしてもよい。
【0075】
以上、本発明は上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0076】
10・・・反力アクチュエータ、
161・・・(反力アクチュエータ第1系統の)制御演算部(HM)、
162・・・(反力アクチュエータ第2系統の)制御演算部(HS)、
171、172・・・(反力アクチュエータの)モータ駆動部、
20・・・転舵アクチュエータ、
261・・・(転舵アクチュエータ第1系統の)制御演算部(TM)、
262・・・(転舵アクチュエータ第2系統の)制御演算部(TS)、
271、272・・・(転舵アクチュエータの)モータ駆動部、
80・・・モータ駆動システム、
90・・・ステアバイワイヤシステム、 99・・・車輪。