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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】粒子の検出方法及びフローサイトメータ
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/14 20060101AFI20230524BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20230524BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
G01N15/14 C
G01N15/14 Z
G01N33/543 597
G01N33/543 575
G01N21/64 F
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021143099
(22)【出願日】2021-09-02
(62)【分割の表示】P 2017067469の分割
【原出願日】2017-03-30
(65)【公開番号】P2021193382
(43)【公開日】2021-12-23
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木西 基
(72)【発明者】
【氏名】加村 翔平
(72)【発明者】
【氏名】立谷 洋大
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 貴史
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 隆行
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-162484(JP,A)
【文献】特表2015-536643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/14
G01N 33/543
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定項目を特定するための情報の入力を受け付ける入力ステップと、
入力を受け付けた前記情報に対応する測定条件の入力操作を行うための画面を表示する表示ステップと、
試料中の粒子を含む粒子含有液をフローセルに通過させる通過ステップと、
前記フローセルを通過する前記粒子含有液中の粒子を光学的に測定する測定ステップと、を含み、
前記表示ステップにおいて、前記測定条件の入力操作の手順を前記画面に表示し、
前記測定ステップにおいて、標識抗体を含む試薬と生体試料とから調製された前記粒子含有液に含まれる前記標識抗体に由来する蛍光を検出する、
粒子の検出方法。
【請求項2】
測定項目を特定するための情報の入力を受け付ける入力ステップと、
入力を受け付けた前記情報に対応する測定条件の入力操作を行うための画面を表示する表示ステップと、
試料中の粒子を含む粒子含有液をフローセルに通過させる通過ステップと、
前記フローセルを通過する前記粒子含有液中の粒子を光学的に測定する測定ステップと、を含み、
前記表示ステップにおいて、前記測定条件の入力操作の手順を前記画面に表示し、
前記表示ステップにおいて、前記測定条件として、前記粒子に由来する光学的情報を検出するための検出感度の調整に関わる情報、前記光学的情報の補正に関わる情報、及び、選択する粒子の領域を前記光学的情報に基づいて設定するためのゲーティングに関わる情報の入力操作の手順を前記画面に表示する、粒子の検出方法。
【請求項3】
前記光学的情報の補正に関わる情報は、検出された光学的情報に含まれる検出対象外の光波長分布量に関わる情報を含む、請求項2に記載の粒子の検出方法。
【請求項4】
前記光学的情報は、前記粒子に由来する蛍光に関わる情報である、請求項3に記載の粒子の検出方法。
【請求項5】
前記ゲーティングに関わる情報は、前記粒子に由来する光学的情報の分布図上で粒子を選択する領域を設定するための情報を含む、請求項2から4のいずれか一項に記載の粒子の検出方法。
【請求項6】
前記検出感度の調整に関わる情報を入力する画面は、前記粒子含有液中の粒子の大きさに関わる情報を入力する画面を含む、請求項2から5のいずれか一項に記載の粒子の検出方法。
【請求項7】
測定項目を特定するための情報の入力を受け付ける入力ステップと、
前記入力ステップにより受け付けた前記測定項目を特定するための情報をユーザの施設の外部に設置された外部サーバへ送信する送信ステップと、
前記外部サーバから前記測定項目を特定するための情報に対応する測定条件を受信する受信ステップと、
前記受信ステップにより受信した前記情報に対応する測定条件の入力操作を行うための画面を表示する表示ステップと、
試料中の粒子を含む粒子含有液をフローセルに通過させる通過ステップと、
前記フローセルを通過する前記粒子含有液中の粒子を光学的に測定する測定ステップと、を含み、
前記表示ステップにおいて、前記測定条件の入力操作の手順を前記画面に表示する、粒子の検出方法。
【請求項8】
測定項目を特定するための情報の入力を受け付ける入力ステップと、
入力を受け付けた前記情報に対応する測定条件の入力操作を行うための画面を表示する表示ステップと、
試料中の粒子を含む粒子含有液をフローセルに通過させる通過ステップと、
前記フローセルを通過する前記粒子含有液中の粒子を光学的に測定する測定ステップと、を含み、
前記表示ステップにおいて、前記測定条件の入力操作の手順を前記画面に表示し、
前記測定項目を特定するための情報は、前記粒子と混合される試薬の識別情報である、粒子の検出方法。
【請求項9】
前記表示ステップでは、前記測定条件の入力操作の手順として、ウィザード形式で順次画面を表示する、請求項1から8のいずれか一項に記載の粒子の検出方法。
【請求項10】
測定項目を特定するための情報の入力を受け付ける入力部と、
前記入力部により受け付けた前記情報に対応する測定条件の入力操作を行うための画面を表示する表示部と、
試料中の粒子を含む粒子含有液が通過するフローセルを有し、前記画面を介して入力された測定条件に応じて、前記フローセルを通過する前記粒子含有液中の粒子を光学的に測定する測定部と、を備え、
前記表示部は、前記測定条件の入力操作の手順を前記画面に表示するように構成され、
前記測定部は、標識抗体を含む試薬と生体試料とから調製された前記粒子含有液に含まれる前記標識抗体に由来する蛍光を検出する、
フローサイトメータ。
【請求項11】
測定項目を特定するための情報の入力を受け付ける入力部と、
前記入力部により受け付けた前記情報に対応する測定条件の入力操作を行うための画面を表示する表示部と、
試料中の粒子を含む粒子含有液が通過するフローセルを有し、前記画面を介して入力された測定条件に応じて、前記フローセルを通過する前記粒子含有液中の粒子を光学的に測定する測定部と、を備え、
前記表示部は、前記測定条件の入力操作の手順を前記画面に表示するように構成され、
前記表示部は、前記測定条件として、前記粒子に由来する光の光学的情報を検出するための検出感度の調整に関わる情報、前記光学的情報の補正に関わる情報、及び、選択する粒子の領域を前記光学的情報に基づいて設定するためのゲーティングに関わる情報の入力操作の手順を前記画面に表示するように構成されている、フローサイトメータ。
【請求項12】
前記検出された前記光学的情報の補正に関わる情報は、検出された光学的情報に含まれる検出対象外の光波長分布量に関わる情報を含む、請求項11に記載のフローサイトメータ。
【請求項13】
前記光学的情報は、試料中の粒子に由来する蛍光に関わる情報である、請求項12に記載のフローサイトメータ。
【請求項14】
前記ゲーティングに関わる情報は、粒子に由来する光の光学的情報の分布図上で粒子を選択する領域を設定するための情報を含む、請求項11から13のいずれか一項に記載のフローサイトメータ。
【請求項15】
前記検出感度の調整に関わる情報を入力する画面は、前記粒子含有液中の粒子の大きさに関わる情報を入力する画面を含む、請求項11から14のいずれか一項に記載のフローサイトメータ。
【請求項16】
測定項目を特定するための情報の入力を受け付ける入力部と、
前記入力部により受け付けた前記測定項目を特定するための情報を、ネットワークを介して、ユーザの施設の外部に設置された外部サーバへ送信し、前記外部サーバからネットワークを介して前記測定項目を特定するための情報に対応する測定条件を受信する通信部と、
前記通信部により受信した前記情報に対応する測定条件の入力操作を行うための画面を表示する表示部と、
試料中の粒子を含む粒子含有液が通過するフローセルを有し、前記画面を介して入力された測定条件に応じて、前記フローセルを通過する前記粒子含有液中の粒子を光学的に測定する測定部と、を備え、
前記表示部は、前記測定条件の入力操作の手順を前記画面に表示するように構成されている、フローサイトメータ。
【請求項17】
測定項目を特定するための情報の入力を受け付ける入力部と、
前記入力部により受け付けた前記情報に対応する測定条件の入力操作を行うための画面を表示する表示部と、
試料中の粒子を含む粒子含有液が通過するフローセルを有し、前記画面を介して入力された測定条件に応じて、前記フローセルを通過する前記粒子含有液中の粒子を光学的に測定する測定部と、を備え、
前記表示部は、前記測定条件の入力操作の手順を前記画面に表示するように構成され、
前記入力部は、前記測定項目を特定するための情報として、前記粒子と混合される試薬の識別情報の入力を受け付けるように構成されている、フローサイトメータ。
【請求項18】
前記表示部は、前記測定条件の入力操作の手順として、ウィザード形式で順次画面を表示するように構成されている、請求項10から17いずれか一項に記載のフローサイトメータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローサイトメータ及び粒子の検出方法に関し、詳しくは、測定条件の設定を簡単に行うフローサイトメータ及び粒子の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フローサイトメトリーは、シースフロー方式により粒子1つ1つを個別に検出することのできるフローサイトメータを用い、液体中に分散した粒子個々の大きさ、構造、及び蛍光強度等を光学的に検出し、その検出された情報に基づいて粒子の数や分布を計測する方法である。フローサイトメータには、粒子の測定条件等のパラメータをユーザのニーズに応じて設定できる応用範囲の広い汎用フローサイトメータや、特定の粒子種の検出に特化した専用フローサイトメータ(例えば、特許文献1)が存在する。
【0003】
フローサイトメトリーは、蛍光免疫染色と組み合わせることにより細胞表面や細胞内に存在する様々の抗原を検出することができ、細胞の解析には特に有用である。開発当初のフローサイトメータでは、1種類の蛍光色素を用いて、1種類ずつ抗原を検出しなければならなかった。つまり、細胞表面に複数種の抗原が存在している場合、検出したい抗原数に応じてアッセイ回数を増やさなければならず、またアッセイ回数に応じて測定のためにサンプリングする細胞数も増加させなければならなかった。しかし、現在では、蛍光色素の安定化と多色化、蛍光色素を励起するための様々なレーザー光源の開発、及び遺伝子組換え技術による多種抗原の大量生産化に伴う検出抗体のラインナップの充実等、フローサイトメトリーに必要な解析技術が飛躍的に進歩している。また、ヒトやマウスの全遺伝子配列が決定されたことにより、多数のタンパク質や表面マーカーが同定された。この結果、フローサイトメトリーで解析の対象となりうる抗原や細胞内マーカーは膨大な数となっている。このような解析技術の進歩と解析対象抗原等の増加を背景に、現在のフローサイトメトリーは、1回のアッセイで数種から十数種の抗原を同時に測定するマルチカラーフローサイトメトリーが主流となっている。
【0004】
その一方で、マルチカラーフローサイトメトリーは、細胞を免疫染色する段階も含め測定に必要な条件の設定が著しく煩雑であるという問題も抱えている。例えば、蛍光色素の多色化に伴い、一度に解析できる抗原数は増えたものの、複数の蛍光色素を同時に検出するためには、それぞれの蛍光色素を最も精度よく検出できるよう蛍光色素毎に、そして励起レーザー光源毎に、フローサイトメータの感度を調整する必要がある。また、蛍光色素同士の組み合わせによっては、一つの蛍光色素が他の蛍光色素の蛍光強度に干渉作用又は増幅作用を示すことがあるため、組み合わせる蛍光色素の相性を知る必要がある。さらには2種以上の蛍光スペクトルが重なる波長領域に関しては蛍光強度の実測値に対して蛍光補正を行う必要がある。加えて、1回のアッセイでの多数種の抗原を検出するためには、検出したい細胞種に合わせて抗原を選択することはもちろんであるが、検出抗体がその標的抗原以外で同時に検出される抗原と交差反応性を示すことがないか知っておく必要があり、交差反応性が認められる抗原同士は別のアッセイにする等、免疫染色された細胞をフローサイトメータにアプライする以前に抗体の特性の情報も必要となる。したがって、マルチカラーフローサイトメトリーにおいて信頼性の高い結果を再現性よく得るためには、マルチカラーフローサイトメトリーを実施する者が、上記のような煩雑な条件設定に対応できるだけの膨大な知識を身につけておく必要がある。
煩雑化したマルチカラーフローサイトメトリーに対応できる技術者を育成するため、フローサイトメータの提供元はフローサイトメトリーを扱う者のためのセミナーを開催しフローサイトメトリー技術の普及、技術者のスキルの向上に務めている。また、日本サイトメトリー学会ではサイトメトリー技術者の認定制度を設けて一定水準以上のサイトメトリー技術者の養成及び技術水準の向上を図っている。
【0005】
つまり、現在上述のマルチカラーフローサイトメトリーの煩雑さを克服するという課題を解決するため検討は、フローサイトメータそのもののハードウエアやソフトウエアの改良ではなく、技術者を育成又は教育するという方向に向かってなされているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-287491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フローサイトメトリーは、疾患の診断、疾患の病期の判定、及び治療方針の決定にも大きく貢献している技術である。例えば、Tリンパ球のCD4/CD8比はフローサイトメトリーが開発された当初からフリーサイトメトリーを使用して測定されていた検査項目であり、CD4/CD8比は当初ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染患者の免疫力を評価するための指標として使用されていた。現在では、CD4/CD8比は急性臓器移植拒絶反応、及び急性移植片対宿主病等の急性疾患の診断にも使用されている。
【0008】
また、フローサイトメトリーの普及により、腫瘍細胞の細胞系統を正確に知ることができるようになり、以前は細胞の形態観察、酵素染色、及び免疫染色に基づいて行われていた造血器腫瘍の診断は、その多くが細胞表面マーカーのプロファイリングに基づく診断に移行した。特に抗がん剤投与によって惹起される患者の易感染状態を防ぐためにG-CSF等のコロニー刺激因子を投与できるか否かは、腫瘍細胞の細胞系統に大きく左右される。G-CSFの普及により、造血器腫瘍患者の生存率が飛躍的に向上したが、この背景にはフローサイトメトリー技術の向上により腫瘍細胞の細胞系統を正確に把握できるようになったことがある。しかし、フローサイトメトリーは、原則として採取されてから24時間以内の細胞を使用する必要があるため、フローサイトメータは患者の病態変化に応じていつでも行えるように準備されている必要がある。
【0009】
開発当初のフローサイトメトリーは、慢性的な経過をたどる疾患の診断等に用いられていたが、現在では急性期の疾患の診断にも非常に有用である。急性期の疾患の診断を行うためには、患者の病態の急激な変化への対応も求められる。しかしながら、測定条件の設定が煩雑な現行のフローサイトメータは、トレーニングを受けた技術者でなければ扱えないため、一般病院ではフローサイトメトリーは外注検査となっていることが多い。このため、技術者がいない病院では緊急時等の検査が必要とされているタイミングでフローサイトメトリーを行うことができず、結果として患者への対応が遅れるおそれをはらんでいる。病院等で信頼性の高いフローサイトメトリーをいつでも実施できるようするためには、技術者の育成ではなく、フローサイトメータそのもののハードウエアやソフトウエアを改良し、特別な技術者が不要なフローサイトメータを構築する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフローサイトメータ(10)は、測定項目を特定するための情報の入力を受け付ける入力部(60)と、入力部(60)により受け付けた測定項目を特定するための情報に対応する一又は複数の測定条件から測定条件を選択する条件選択部(71)と、試料中の粒子を含む粒子含有液が通過するフローセル(20)を有し、条件選択部(71)により選択された測定条件に応じて、フローセル(20)を通過する粒子含有液中の粒子を光学的に測定する測定部(65)と、を備える。
【0011】
測定項目とはフローサイトメータで測定される1つ又は2つ以上の項目である。適切な測定条件は測定項目毎に異なっていてもよい。測定項目を特定するための情報に対応する一又は複数の測定条件は、ユーザの施設の外部に設置された外部サーバから受信してもよいし、ユーザの施設に設置されたコンピュータに予め記憶させておいてもよいし、フローサイトメータ内の記憶部に予め記憶させておいてもよい。
【0012】
このように、測定項目に応じた適切な測定条件を一又は複数の測定条件から選択するため、従来のフローサイトメータのようにユーザが自ら複雑な測定条件を入力する必要がない。従って、特別なトレーニングを受けた技術者でなくても、信頼性の高い結果を得るためのフローサイトメトリーの測定条件を簡単に設定することができる。
【0013】
入力部(60)により受け付けた測定項目を特定するための情報を、ネットワークを介して外部コンピュータに送信し、外部コンピュータからネットワークを介して測定項目を特定するための情報に対応する一又は複数の測定条件を受信する通信部(64)をさらに備え、条件選択部(71)は、通信部(64)で受信された一又は複数の測定条件から測定条件を選択することが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、ユーザの施設の外部に設置された外部サーバなどの外部コンピュータから、測定条件を受信することができ、フローサイトメータ内に予め測定条件を予め記憶させる必要がない。
【0015】
入力部(60)により受け付けた測定項目を特定するための情報に対応する一又は複数の測定条件の一覧を表示する表示部(62)をさらに備え、条件選択部(71)は、一又は複数の測定条件の一覧から測定条件の選択を受け付けることが好ましい。表示部に測定条件の一覧を表示させることで、ユーザは測定条件の選択を行い易くなる。
【0016】
好ましい実施形態においては、測定部(65)は、粒子含有液の温度を検出する温度センサ(22)を備え、条件選択部(71)記により選択された測定条件と温度センサ(22)が出力した温度検出信号とに基づいて測定を実行する。
【0017】
測定条件の選択後に粒子含有液の温度が変化すると、粒子に由来する光の強度は変化する。これに伴い、選択した測定条件では正確な測定を行うことができない場合がある。従来のフローサイトメータは、温度変化に対応していないため、測定時に、その都度測定条件を設定し直すことが必要であった。
【0018】
しかし、上記の構成によれば、測定項目を特定するための情報に対応した測定条件を一度選択して測定を開始すれば、温度変化が生じても温度変化に応じた処理を行うことができ、ユーザが測定条件の変更を行う必要がない。
【0019】
他の実施形態においては、測定部(65)は、フローサイトメータ(10)内の温度を検出する温度センサと、フローサイトメータ(10)の内部を加温又は冷却する温度調整装置を備え、測定部(65)は、温度センサが出力する温度検出信号を用いて、フローサイトメータ(10)内の温度が目標温度となるように温度調整装置を制御する。
【0020】
上記の構成によれば、フローサイトメータ(10)の内部の温度が目標温度に保たれて温度変化が生じないため、目標温度に応じた測定条件を一度受信すれば、測定条件を設定し直す必要がない。
【0021】
好ましい実施形態においては、測定条件には、粒子に由来する光の光学的情報を検出するための検出感度の調整に関わる情報、検出された光学的情報の補正に関わる情報、及び、選択する粒子の領域を光学的情報に基づいて設定するためのゲーティングに関わる情報の少なくとも一つが含まれる。
【0022】
上記の各情報を各測定項目に応じて設定することで、信頼性の高い測定を行うことが可能となる。
【0023】
好ましい実施形態においては、測定部(65)は、フローセル(20)を通過する粒子に光を照射する少なくとも1つの光源(101、124)と、粒子に由来する光の光学的情報を検出する少なくとも1つの受光素子(100A~100F)とを含み、光学的情報を検出するための検出感度の調整に関わる情報には、受光素子(100A~100F)の出力電圧の増幅度を示す値と、受光素子(100A~100F)に印加される電圧値との少なくとも1つを含む。
【0024】
受光素子の出力電圧の増幅度を示す値、受光素子に印加される電圧値のいずれか又は両方を設定することで、受光素子の検出感度の調整が可能となる。
【0025】
好ましい実施形態においては、検出された光学的情報の補正に関わる情報には、検出された光学的情報に含まれる検出対象外の光波長分布量に関わる情報を含む。
【0026】
フローサイトメータにおいて、一度の測定で例えば粒子が発するピーク波長の異なる2種の光の光学的情報を検出しようとする場合、当該2種の光の波長領域が一部重複することがある。このため、検出しようとしている一方の光に検出対象ではないもう一方の光が漏れ込み、光の検出の特異性が低下することがある。光の検出の特異性を担保するため、受光素子からの検出信号に数学的な補正を行い、検出対象の光からの光学的情報のみを取り出す、いわゆる補正を行うことが好ましい。検出された光学的情報に含まれる検出対象外の光波長分布量に関わる情報を得ることで、この情報に基づいて検出対象の光学的情報の補正を行うことが可能となる。
【0027】
好ましい実施形態においては、光学的情報が、試料中の粒子に由来する蛍光に関わる情報である。
【0028】
上記の構成によれば、受光素子により粒子が発する蛍光強度を検出することが可能となる。
【0029】
好ましい実施形態においては、ゲーティングに関わる情報には、粒子に由来する光の光学的情報の分布図上で粒子を選択する領域を設定するための情報を含む。
【0030】
上記ゲーティングに関わる情報を用いることで、測定項目に応じて分布図の中に一定の領域を設け、その領域内のデータを特定の粒子のデータとして選択することが可能となる。
【0031】
好ましい実施形態によれば、測定部(65)は、3以上の受光素子(100A~100F)を備え、この3以上の受光素子のうち少なくとも2以上の受光素子(100A~100F)は、異なるピーク波長を有する複数の蛍光をそれぞれ検出するものである。
【0032】
一度の測定で少なくとも2以上の蛍光を検出することができ、いわゆるマルチカラーフローサイトメータとして機能することができる。
【0033】
好ましい実施形態によれば、複数種類の蛍光標識抗体を含む試薬と生体試料とから調製された測定試料を粒子含有液として収容する試料容器から、測定試料を吸引する吸引部(710)をさらに備え、測定部(65)は、吸引部(710)により吸引された測定試料に含まれる各蛍光標識抗体に由来する蛍光をそれぞれ検出する。
【0034】
吸引部(710)は、ユーザにより試料容器が所定位置にセットされた状態で試料容器から測定試料を吸引するものであってもよい。
【0035】
入力部(60)は、測定項目を特定するための情報として、粒子と混合される試薬の識別情報の入力を受け付けることが好ましい。
【0036】
試薬は測定項目を検出するために使用されるものであるため、試薬の識別情報によって測定項目を特定することができる。
【0037】
入力部(60)は、粒子と混合される試薬を入れた試薬容器から、測定項目を特定するための情報として試薬の識別情報を読み取るリーダを含んでもよい。
【0038】
上記の構成によれば、簡単に測定項目を特定するための情報を入力することができる。また、ユーザは測定項目を特定するための情報として試薬の識別情報を手入力する必要がないため、入力ミスなく簡単に試薬の識別情報を読み取ることができる。
【0039】
好ましい実施形態においては、外部コンピュータは、フローサイトメータが設置された施設の外部に設置された外部サーバ(11)であり、外部サーバ(11)は、外部サーバ(11)に記憶された測定条件の更新又は追加が可能に構成されている。
【0040】
外部サーバを用いた場合には、外部サーバで測定条件の更新や新たな測定条件の追加を適宜行うことで、フローサイトメータは外部サーバから常に最新の測定条件を受信して設定することが可能となる。
【0041】
好ましい実施形態においては、通信部(64)は、入力部(60)が測定項目を特定するための情報の入力を受け付けるたびに、当該情報を外部サーバ(11)に送信し、外部サーバ(11)から最新の測定条件を受信する。
【0042】
上記構成によれば、ユーザは最新の測定条件を容易に活用することができる。
【0043】
入力部(60)は、粒子と混合される試薬を入れた試薬容器から、測定項目を特定するための情報として試薬の識別情報を読み取るとともに、試薬の製造業者を識別するための製造業者識別情報を読み取り、通信部(64)は、製造業者識別情報が特定の製造業者を示す場合に、外部サーバ(11)から測定条件を受信する。
【0044】
好ましい実施形態においては、測定部(65)は、条件選択部(71)が選択した測定条件を蓄積する記憶部(83)を含む。
【0045】
上記の構成によれば、以前に測定した測定項目と同じものを測定する場合に、フローサイトメータの記憶部内に蓄積された測定条件を読み出して使用すればよいため、外部サーバから測定条件を再度受信する必要がなく、測定に早く取りかかることができる。
【0046】
好ましい実施形態によれば、表示部(62)と、測定条件の入力を受け付ける条件入力部(61)とをさらに備え、測定部(65)は、条件入力部(61)を用いてユーザが測定条件の入力操作を行うための画面を表示部(62)に表示させ、画面を介して条件入力部(61)により入力された測定条件を記憶部(83)に記憶する。
【0047】
ユーザは条件入力部から測定条件の入力を行うことができる。
【0048】
また、好ましい実施形態によれば、測定部(65)は、外部サーバ(11)から受信した測定条件の修正を条件入力部(61)により受け付け、修正された測定条件を記憶部(83)に記憶する。このようにすれば、外部サーバ(11)から受信した測定条件をユーザの要望に応じて柔軟に変更して活用することができる。
【0049】
測定部(65)は、通信部(65)が外部サーバ(11)から測定条件を受信しなかったとき、画面を表示部(62)に表示させ、画面を介して条件入力部(61)により入力された測定条件を記憶部(83)に記憶してもよい。このようにすれば、外部サーバに測定項目を特定するための情報に対応した測定条件がなく、測定条件を受信することができない場合であっても、測定条件を入力することができる。
【0050】
好ましい実施形態によれば、測定部(65)は、粒子に由来する光の光学的情報を検出するための検出感度の調整に関わる情報を入力する画面と、検出された光学的情報の補正に関わる情報を入力する画面と、選択する粒子の領域を光学的情報に基づいて設定するためのゲーティングに関わる情報を入力する画面とを表示部(62)に表示させる。
【0051】
検出感度の調整に関わる情報と、検出された光学的情報の補正に関わる情報と、ゲーティングに関わる情報とを含む測定条件を、画面を介して入力することで、測定条件の設定に慣れていないユーザであっても、容易に測定条件の設定を行うことができる。各画面の表示はいずれの順序であってもよいが、検出感度の調整に関わる情報を入力する画面と、検出された光学的情報の補正に関わる情報を入力する画面とが表示された後にゲーティングに関わる情報を入力する画面が表示されることが好ましい。ゲーティングを行う際には、検出感度が調整され及び/又は光学的情報が補正された状態で取得された分布図を使用することが好ましいためである。
【0052】
一実施形態においては、検出感度の調整に関わる情報を入力する画面には、粒子含有液中の粒子の大きさに関わる情報を入力する画面が含まれている。
【0053】
粒子含有液中の粒子の大きさに関わる情報とは、粒子の直径等、粒子の大きさそのものでもよく、粒子の名称等、粒子の大きさが定まる情報であってもよい。粒子の大きさに関わる情報を入力することで、光学的情報を検出するための検出感度を粒子の測定が可能な範囲内に設定することができる。
【0054】
好ましい実施形態においては、測定部(65)は、条件入力部(61)によりユーザから入力された測定条件を蓄積し、蓄積された測定条件の一覧を表示部(62)に表示させる。
【0055】
上記の構成によれば、以前に測定した測定項目と同じものを測定する場合に、測定条件の一覧から該当する測定条件を選択して使用すればよいため、ユーザが再度測定条件を入力する必要がなく、測定に早く取りかかることができる。
【0056】
一実施形態においては、信号処理部(63)は、入力された検出信号を用いて粒子数の計測を含む分析を行い、分析結果を出力する。
【0057】
上記の構成によれば、ユーザはフローサイトメータ上で分析結果を得ることができる。
【0058】
本発明の粒子の検出方法は、測定項目を特定するための情報の入力を受け付ける入力ステップと、入力ステップで入力された測定項目を特定するための情報に対応する一又は複数の測定条件から測定条件を選択する選択ステップと、試料中の粒子を含む粒子含有液をフローセル(20)に通過させる通過ステップと、選択ステップで選択された測定条件に応じて、フローセル(20)を通過する粒子含有液中の粒子を光学的に測定する測定ステップと、を含む。
【0059】
上記の方法によれば、測定項目に応じた適切な一又は複数の測定条件から選択するため、ユーザが自ら複雑な測定条件を入力する必要がない。従って、特別なトレーニングを受けた技術者でなくても、信頼性の高い結果を得るためのフローサイトメトリーの測定条件を簡単に設定することができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、測定項目に応じた適切な測定条件を一又は複数の測定条件から選択するため、ユーザが自ら複雑な測定条件を入力する必要がない。従って、特別なトレーニングを受けた技術者でなくても、簡単に測定条件を設定することができ、信頼性の高いフローサイトメトリーの結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1A】フローサイトメータと外部サーバとの接続を示す概略図である。
図1B】フローサイトメータの外観図である。
図2】フローサイトメータの光学系を示す概略図である。
図3】フローサイトメータの情報処理系を示すブロック図である。
図4】測定条件に含まれる情報の例を示す図である。図中FSCは前方散乱光を示し、SSCは側方散乱光を示し、FL1、FL2、FL3、及びFL4はピーク波長の異なる4種の蛍光を示す。また、chはチャネルを示す。
図5】信号処理部の機能ブロック図である。
図6】測定条件候補一覧を示す画面を示す図である。
図7】測定条件の新規作成画面を示す図である。
図8】感度入力画面を示す図である。
図9】蛍光補正値入力画面を示す図である。
図10】ゲーティング入力画面を示す図である。
図11】測定指示画面を示す図である。
図12】測定条件の一覧を示す画面を示す図である。
図13】信号処理部の動作を説明するフローチャートである。
図14】測定条件をユーザが入力する動作を説明するフローチャートである。
図15】フローセルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に、第1実施形態を説明する。しかし、本発明はこの実施形態に示される態様のみに限定されない。
【0063】
[フローサイトメータと外部サーバ]
フローサイトメータは、例えば病院や検査施設等に設置され、図1Aに示すように、外部サーバ11とインターネット等のネットワーク12を介して接続される。図1Aでは、外部サーバ11には複数のフローサイトメータ10A~10Cが接続されている。ネットワーク12は、例えばインターネット、仮想プライベートネットワーク(VPN)、広域通信網(WAN)、公衆交換電話網(PSTN)等の通信媒体であるが、外部サーバ11とフローサイトメータ10との間で通信を行うことができるものであれば限定されない。以下、フローサイトメータ10A~10Cを区別する必要がない場合には、単に「フローサイトメータ10」という。
【0064】
外部サーバ11は、データベースセンター等に配置されており、データベースDを記憶する記憶装置を備えている。データベースDには、フローサイトメータ10の測定項目を特定するための情報に対応する測定条件が含まれている。フローサイトメータ10は、ネットワーク12を介して外部サーバ11からこの測定条件を受信する。外部サーバ11のデータベースDでは、サーバ管理者から随時測定条件の変更、追加を受け付けるように構成されている。フローサイトメータ10のような汎用フローサイトメータでは、同一の試薬であってもその試薬を適用可能な新たな測定項目を随時追加していくことが可能であるため、新たな測定項目に対応する測定条件をサーバ管理者がデータベースDに登録することで、ユーザ施設のフローサイトメータに新たな測定項目および測定条件を提供することが可能となる。
【0065】
ここで、測定項目とは、フローサイトメータ10で測定される1又は2以上の項目であり、例えば粒子の種類、粒子に存在する物質の種類等である。具体的には、細胞の種類、タンパク質の種類、糖鎖の種類、脂質の種類、糖タンパク質の種類、糖脂質の種類、リポタンパク質の種類、核酸の種類、円柱等の生体由来成分の種類などを挙げることができる。測定項目を特定するための情報とは、測定項目を特定できる限り制限されない。例えば、前記測定項目の名称そのものであってもよく、あるいは粒子を染色する染色の種類、酵素の基質、抗体等の粒子を検出するために必要な試薬に関する情報、又は抗原の名称などである。また、測定項目を特定するための情報には測定項目を測定するために粒子と混合される試薬の識別情報なども含む。
【0066】
外部サーバ11に接続されるフローサイトメータ10の数は限定されず、外部サーバ11に1つのフローサイトメータ10が接続されていてもよい。
【0067】
フローサイトメータ10は、図1Aに示すように、フローサイトメータ本体13と、フローサイトメータ本体13に接続された情報処理装置14とを備えている。図1Bに示すように、フローサイトメータ本体13は、昇降動作および水平移動が可能に構成された吸引部710を備える。ユーザは、手動で調製した測定試料を収容した試料容器を、フローサイトメータ本体13の外部の位置21に位置付けて、試料容器内の測定試料を測定させる。吸引部710が位置21の真上まで移動し、位置21に位置付けられた試料容器から測定試料が吸引される。
【0068】
[フローサイトメータの光学系]
図2は一実施形態に係るフローサイトメータ10の光学系を示す概略図である。フローサイトメータ10は、試料中の粒子を含む粒子含有液が通過するフローセル20と、フローセル20を通過する粒子に光を照射する光源101、124と、粒子に由来する光の光学的情報を検出して電気信号に変換された検出信号を出力する受光素子100A~100Fとを備えている。
【0069】
ここで、試料とは、フローサイトメータに吸引される粒子の浮遊液である。当該粒子は、磁気ビーズやプラスチックビーズ等の人工的な粒子であってもよい。また、粒子は円柱等の生体成分であってもよく、微生物、動物細胞、及び植物細胞などであってもよい。
【0070】
粒子は、所定の光を照射された際に1又は2以上の光を発することが好ましい。所定の光を照射された際に粒子から発せられる光を、粒子に由来する光と総称する。前記粒子に由来する光には散乱光及び発光などが含まれる。粒子に由来する光は、どのような波長の光であってもよいが、400nm~850nmの範囲にピーク波長を有する光であることが好ましい。より具体的には、前記粒子に由来する光は蛍光であることが好ましい。前記粒子に由来する光は、粒子に含まれる物質自体が発する光であってもよい。あるいは、前記粒子に由来する光は、粒子を蛍光物質などの発光物質で標識し、この発光物質が発する光を粒子に由来する光として検出してもよい。また、粒子に由来する光は、測定項目毎にピーク波長が異なることが好ましい。
【0071】
粒子含有液とは、試料からフローサイトメータ内に吸引された粒子浮遊液を含む液であり、必要に応じて希釈液を含む。
光学的情報とは、粒子から発せられる1又は2以上の光波長スペクトルに含まれる情報である。光波長スペクトルにはその光波長スペクトルに含まれる個々の光波長、光波長領域、及びそのそれぞれの光波長、又は光波長領域の強さが含まれる。個々の光波長、及び波長領域は、後述する1又は2以上の受光素子のいずれが受光したかによって特定することができる。また、それぞれの光波長、又は光波長領域の強さは、受光した前記受光素子100A~100Fが出力する電気信号によって特定することができる。
【0072】
以下、粒子に由来する光が散乱光と蛍光である場合を例として具体的に説明する。
光源101から出射された光は、コリメートレンズ102、ダイクロイックミラー103、集光レンズ104を経てフローセル20に照射される。フローセル20を通過する粒子に由来する光の前方散乱光は、集光レンズ105により集光され、ビームストッパー106、ピンホール板107、バンドパスフィルタ108を経て受光素子100Aに入射する。
【0073】
一方、フローセル20を通過する粒子に由来する光の側方散乱光及び側方蛍光は、集光レンズ109により集光される。側方散乱光は、ダイクロイックミラー110、111、112、ピンホール板103、バンドパスフィルタ114を経て受光素子100Bに入射する。波長が520nm以上、542nm以下の側方蛍光は、ダイクロイックミラー110、111を透過してダイクロイックミラー112で反射され、ピンホール板115、バンドパスフィルタ116を経て受光素子100Cに入射する。また、波長が570nm以上、620nm以下の側方蛍光は、ダイクロイックミラー110を透過してダイクロイックミラー111で反射され、ピンホール板117、バンドパスフィルタ118を経て受光素子100Dに入射する。さらに波長が670nm以上、800nm以下の側方蛍光は、ダイクロイックミラー110で反射され、ダイクロイックミラー119を透過してピンホール板120、バンドパスフィルタ121を経て受光素子100Eに入射する。
【0074】
光源124から出射された光は、コリメートレンズ125、ダイクロイックミラー103、集光レンズ104を経てフローセル20に照射される。フローセル20を通過する粒子に由来する光の側方蛍光は、集光レンズ109により集光される。662.5nm以上、687.5nm以下の側方蛍光はダイクロイックミラー110で反射され、ダイクロイックミラー119で反射された後、ピンホール板122、バンドパスフィルタ123を経て受光素子100Fに入射する。
【0075】
本実施形態では、光源101には488nmの波長のレーザダイオードを用い、光源124には642nmの波長のレーザダイオードを用いている。フローセル20にはシースフローセルを用いている。また、前方散乱光を受光する受光素子100Aにはフォトダイオードを用い、側方散乱光を受光する受光素子100Bにはアバランシェフォトダイオード(avalanche photodiode、APD)を用い、側方蛍光を受光する受光素子100C~100Fにはフォトマルチプライアチューブ(PhotoMultiplier Tube、PMT)を用いている。本実施形態は、フローサイトメータ10が6つの受光素子100A~100Bを備え、4つの受光素子100C~100Fは、試料中の粒子に結合した色素に由来し異なるピーク波長を有する4つの光の光学的情報をそれぞれ検出するものであるが、これに限定されず、3以上の受光素子を備え、3以上の受光素子のうち少なくとも2以上の受光素子は、異なるピーク波長を有する少なくとも2つの色素に由来する光の光学的情報をそれぞれ検出するものであればよい。例えばHIV検査において、CD4、CD45、CD8、CD3のそれぞれに結合する4種類の標識抗体色素を用いた場合には、それぞれの標識抗体色素に由来する4つのピーク波長を有する4つの蛍光が測定試料から生じるが、それぞれの蛍光を4つの受光素子100C~100Fで検出することができる。
【0076】
光源は、1つであっても2つ以上であってもよい。光源は、粒子に結合した色素に由来する光の波長領域に応じて選択される。光源が2以上である場合には、これらの光源は異なるピーク波長を有する光を発することが好ましい。光源が2以上である場合には、光源が1つである場合に比べて、精度良く複数の蛍光を分離して検出できるため好ましい。例えば、HIV検査において、1つの光源を用いる場合には、CD4に対する標識抗体色素としてFITC、CD8に対する標識抗体色素としてPEcy5を用いることがあるが、FITCからの蛍光のピーク波長とPEcy5からの蛍光のピーク波長とが近接しているため、それぞれの波長領域の重複部分が大きくなる傾向にある。一方、2つの光源を用いた場合には、各光源からの発光タイミングをずらすことで、複数の蛍光を分離して検出できる。また、各光源からの光のピーク波長に適した色素を用いることで、複数の蛍光のそれぞれの波長領域の重複部分を減らすこともできる。例えば、CD8に対する標識抗体色素として、PEcy5ではなくAPCを用いることができる。フォトダイオード、ダイクロイックミラー、及びバンドパスフィルタの数は、粒子に由来する光のピーク波長の数に応じて変更することができる。また、フォトダイオード、ダイクロイックミラー、及びバンドパスフィルタの種類も、粒子に由来する光のピーク波長、又は波長領域、及びその強さに応じて選択することができる。
【0077】
各受光素子100A~100Fが出力する検出信号は、図3に示すように、増幅部130A~130Fで増幅され、A/D変換部131A~131FでA/D変換されて信号処理部63に入力される。詳細には、フォトダイオードである受光素子100AとAPDである受光素子100Bとに接続された増幅部130A,130Bは、オペアンプ等から構成される既知の増幅回路であり、各増幅回路の増幅度の調整により、入力される受光素子100A,100Bの出力電圧を調整している。また、PMTである受光素子100C~100Fに印加される電圧値を変化させることで、PMTの出力電圧の調整を行っている。以下、受光素子100A~100Fの検出感度の調整とは、受光素子100A,100Bにおいては増幅回路の増幅度を調整することをいい、受光素子100C~100Fにおいては、受光素子100C~100Fに印加する電圧を調整することをいう。受光素子100A,100Bにおいて増幅回路における増幅度を調整することにより受光素子が出力する検出信号が増幅され、受光素子100C~100Fに印加する電圧を調整することにより受光素子100C~100Fが出力する検出信号が調整される。なお、増幅とは、入力信号に対する出力信号の比が1以上である場合も1未満である場合も含む。また、受光素子100C~100Fに接続された増幅部130C~130Fに、さらに既知の増幅回路を含んでいてもよく、受光素子100C~100Fの検出感度の調整とは、この増幅回路により受光素子100C~100Fの出力電圧を調整することを含んでいてもよい。
【0078】
フローサイトメータ10は、光源124と、フローセル20と、受光素子100A~100Fとを含む図2の構成と、増幅部130A~130Fと、A/D変換部131A~131Fと、信号処理部63と、後述する温度センサ22を含む測定部65を備えている。測定部65は、後述する通信部64で受信された測定条件に応じて、フローセル20を通過する粒子含有液中の粒子を光学的に測定する。ここで、測定とは、受光素子100A~100Fが粒子に由来する光の光学的情報を検出することと、受光素子100A~100Fが出力する検出信号を記憶することを含み、また、記憶した検出信号を用いて、例えば粒子数の計測などの結果を生成するなど、後述する信号処理部63が行う処理を含む。受光素子100A~100Fが出力する検出信号とは、増幅部130A~130Fを介してA/D変換部131A~131Fが出力する信号を含む。
【0079】
フローサイトメータ10は、図1Aに示すように、フローサイトメータ本体13と、フローサイトメータ本体13に接続された情報処理装置14とを備えており、測定部65のうち、光源124と、フローセル20と、受光素子100A~100Fとを含む図2の構成と、増幅部130A~130Fと、A/D変換部131A~131Fとはフローサイトメータ本体13に配置されている。また、信号処理部63は情報処理装置14に配置されている。なお、フローサイトメータ10が情報処理装置14を備えていない場合には、信号処理部63はフローサイトメータ本体13に配置されていてもよい。また、フローサイトメータ10は、粒子含有液をフローセル20に通過させて測定を行うために、図示しないポンプやモータ等を制御する制御部を有しているが、この制御部は、信号処理部63が兼ねていてもよく、別途、情報処理装置14又はフローサイトメータ本体13に配置されていてもよい。
【0080】
[測定条件]
フローサイトメータ10は、測定に先だって測定項目に応じた測定条件の設定を行うために、上述したように外部サーバ11から測定条件を受信している。図4は、粒子に由来する光が蛍光である場合における受信した測定条件に含まれる情報を例示している。測定条件は、測定に関する基本的な情報(以下、「基本測定情報」という)と、光学的情報を検出するための検出感度の調整に関わる情報(以下、「検出感度の調整に関わる情報」という)と、検出された光学的情報の補正に関わる情報と、選択する粒子の領域を光学的情報に基づいて設定するためのゲーティングに関わる情報(以下、「ゲーティングに関わる情報」という)と、後述する温度補正に用いるための計算式とを含む。
【0081】
基本測定情報は、基本情報、測定情報、閾値を含む。基本情報は、測定条件の種類を特定するための識別情報(図4においては、「測定条件ID」という)や測定条件名を含む。測定情報は、フローサイトメータに吸引される試料の分析容量、粒子をフローサイトメータ内に流す際の流速を示すフローレート、フローサイトメータに吸引される試料の希釈倍率を含む。閾値は検知レベルとも呼ばれ、粒子として検出する光学的情報の下限の設定値である。閾値は、各受光素子100A~100Fが粒子に由来する光に対してそれぞれ設定される。例えば、閾値は光の強度に応じて0から1023の数値の範囲で設定することができる。仮に閾値を50と設定した場合には、光の強度が50以上のものを粒子として検出する。
【0082】
検出感度の調整に関わる情報は、受光素子100A~100Fの出力電圧の増幅度を示す値と、受光素子100A~100Fに印加される電圧値との少なくとも1つを含む。例えば、受光素子100A、100Bに接続された増幅回路の増幅度を調整するための増幅値と、受光素子100C~100Fに印加される電圧を調整するためのPMT電圧値である。なお、増幅値及びPMT電圧値のいずれか一方のみを含むものであってもよい。また、受光素子100C~100Fに増幅回路が接続されている場合には、増幅回路における増幅度を調整するための増幅値を含んでいてもよい。
【0083】
検出された光学的情報の補正に関わる情報は、受光素子100A~100Fで検出された光学的情報に含まれる検出対象外の光波長分布量に関わる情報を含んでいる。これは一度の測定で粒子が発するピーク波長の異なる2以上の光を検出する場合、当該2以上の光の波長領域が一部重複することがある。このため、検出しようとしている一方の光に検出対象ではないもう一方の光が漏れ込み、光の検出の特異性が低下することがある。光の波長の分布とその光量を光波長分布量と称し、前記漏れ込んだ光の波長の分布とその光量を検出対象外の光波長分布量という。受光素子100C~100Fは、2以上の光の波長領域の重複部分を区別して受光することができないため、受光素子100C~100Fのそれぞれの電気信号から、検出対象外の蛍光に起因する電気信号を取り除いて、検出対象の蛍光からの光学的情報のみを取り出す、いわゆる蛍光補正を行う。検出された光学的情報に含まれる検出対象外の光波長分布量に関わる情報は、図4において蛍光補正値と示されており、この蛍光補正に用いられるものである。最も、簡便な蛍光補正値は、検出対象の蛍光の光波長分布量から差し引かれるべき検出対象外の蛍光の光波長分布量である。例えば、2つの異なるピーク波長を有する蛍光を蛍光1及び蛍光2とした場合、蛍光1と蛍光2の間で光波長分布が重ならず、蛍光補正の必要がなければ蛍光1の蛍光補正値は0.0となる。一方、蛍光1と蛍光2を同時に測定した際に光分布波長が重なり、その重なる光波長分布量が27.5%の時は、蛍光1の蛍光分布量から蛍光2に由来する蛍光分布量を27.5%引くために、蛍光補正値を27.5と設定することができる。
【0084】
ゲーティングに関わる情報は、粒子に由来する光の分布図上の分布設定に関わる情報を含むものである。フローサイトメータでは、検出した光学情報から1つ測定項目に対して、又は2以上の測定項目毎にスキャッタグラムやヒストグラムと呼ばれる粒子に由来する光の分布図を作成する。スキャタグラムは、2つの測定項目についてX軸とY軸の二軸で粒子に由来する光の分布を表すものである。ヒストグラムは、1つの測定項目について光の強さとその粒子の数により表されるものである。ゲーティングとは、このそれぞれの分布図に対して、測定項目に応じて適切な測定を行うために、分布図の中に測定項目に応じた一定の分布領域を選択することをいう。より具体的には、以下に示す情報を設定することをいう。
【0085】
粒子に由来する光の分布図上の分布設定に関わる情報には、スキャッタグラムに関わる情報と、ヒストグラムに関わる情報と、ゲートに関わる情報とを含む。スキャッタグラムに関わる情報は、スキャッタグラムを作成するための情報であり、作成されるスキャタグラムの名称であるスキャッタグラム名、上位ゲート、第1の測定項目を表す光を受光しているフォトダイオードを示すX軸チャネル(X軸chともいう)、そのX軸チャネルの名称、第2の測定項目を表す光を受光しているフォトダイオードを示すY軸チャネル(Y軸chともいう)、そのY軸チャネルの名称を含む。ヒストグラムに関わる情報はヒストグラムを作成するための情報であり、ヒストグラム名、上位ゲート、測定項目を表す光を受光しているフォトダイオードを示すX軸チャンネル、そのX軸チャンネルの名称を含む。上位ゲートとは、2以上のゲートを使用してこれに対応するそれぞれのスキャタグラムを作成する場合に、先に作成されたスキャタグラムのゲートを示す。ゲートに関わる情報は、スキャッタグラムやヒストグラムから選択する各粒子の領域を決定するためのものであり、選択したゲートの名称であるゲート名、ゲートの位置を示す位置情報、受光した光波長又は光波長領域に対して表示部上で与えられる色、測定項目名、受光する光の強度の上限値、受光する光の強度の下限値、分析結果を表示する際の結果値タイプを含む。結果値タイプとは、結果の様々な統計処理値であり、例えば、粒子総数、平均値、変動係数、全体に対する割合、最頻値などである。
【0086】
作成されるスキャッタグラム及びヒストグラムの数は測定項目により異なる。このため、スキャッタグラムに関わる情報と、ヒストグラムに関わる情報と、ゲートに関わる情報とは、作成されるスキャッタグラム及びヒストグラムの数に応じて複数個含まれる場合がある。
【0087】
[フローサイトメータの情報処理系]
以下、粒子に由来する光が蛍光の場合を例として具体的に説明する。
図3は、フローサイトメータ10の情報処理系の構成を示し、入力部60と、条件入力部61と、表示部62と、信号処理部63と、通信部64とを備えている。信号処理部63は、受光素子100A~100Fから出力される検出信号を増幅器130A~130FおよびA/D変換部131A~Fを介して取得する。また、粒子含有液の温度を検出して、電気信号に変換された温度検出信号を出力する温度センサ22を備えており、信号処理部63は、温度センサ22による温度検出信号を温度検出回路132、A/D変換部133を介して取得する。
【0088】
入力部60は、バーコードリーダにより構成され、粒子と混合される試薬を入れた容器に付されたバーコードを読み取ることで、測定項目を特定するための情報の入力を受け付ける。なお、入力部60は、容器に付されたタグから測定項目を特定するための情報を読み取るRFIDリーダであってもよい。また、入力部60をキーボード、マウスの少なくとも1つより構成し、測定項目を特定するための情報をユーザが手入力するか、予め用意された複数の選択肢から選択してもよい。
【0089】
条件入力部61は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルの少なくとも1つより構成され、ユーザが測定条件を入力した場合に、その測定条件の入力を受け付ける。
【0090】
表示部62は、例えばモニターにより構成され、図6図12に示す画面90~96や分析結果を表示する。
【0091】
入力部60と、条件入力部61と、表示部62は、フローサイトメータ本体13に接続された情報処理装置14に配置されているが、フローサイトメータ本体13に配置されてもよい。
【0092】
通信部64は、所定の通信規格で外部サーバ11とネットワーク12を介した通信を行うための通信装置などから構成される。測定項目を特定するための情報をネットワーク12を介して外部サーバ11へ送信し、外部サーバ11からネットワーク12を介して測定項目を特定するための情報に対応する測定条件などを受信する。
【0093】
信号処理部63は、データ処理の作業領域に使用するメモリ82と、プログラムおよび処理データを記録する記憶部83と、後述するデータ処理を行うCPU(Central Processing Unit)81と、各部の間でデータを伝送するバス84と、信号処理部63に接続された各部60、61、62、64との間でデータの入出力を行い、又は受光素子100A~100Fから出力される検出信号が増幅器130A~130FおよびA/D変換部131A~131Fを介して入力され、若しくは温度センサ22による温度検出信号が温度検出回路132、A/D変換部133を介して入力されるインタフェース部(図3において「I/F部」と示されている)85、86とを備えている。
【0094】
以下の説明においては、特に断らない限り、信号処理部63が行う処理は、実際には信号処理部63のCPU81が行う処理を意味する。CPU81はメモリ82を作業領域として必要なデータ(処理途中の中間データ等)を一時記憶し、記憶部83に長期保存するデータを適宜記録する。
【0095】
信号処理部63は、記憶部83又はメモリ82に格納されたプログラムを実行することにより、図5に示す測定項目取得部70、測定条件選択部71、測定条件記憶部72、第1の測定条件設定部73、温度補正部74、データ処理部75、第2の測定条件設定部76、演算部77としての機能を実現するデータ処理を行い、信号処理部63に接続された各部の動作を制御する。
【0096】
[フローサイトメータの情報処理系の動作]
図13は、本発明のフローサイトメータ10の信号処理部63及び外部サーバ11の動作を説明するフローチャートである。ST10の処理は測定項目取得部70が行い、ST11からST16の処理は測定条件選択部71が行い、ST17、ST18の処理は測定条件記憶部72が行い、ST19の処理は第1の測定条件設定部73、温度補正部74が行い、ST20の処理はデータ処理部75が行い、ST21の処理は演算部77が行う。また、ST50からST54の処理は外部サーバ11内で行う。なお、信号処理部63が外部サーバ11との間で送受信する情報は、通信部64を介して行っている。
【0097】
ST10において、信号処理部63は、測定項目を特定するための情報を取得する。例えば、入力部60であるバーコードリーダを使用して、試薬容器に付されたバーコードから測定項目を特定するための情報を読み取る。測定項目を特定するための情報は、例えば粒子と混合される試薬の識別情報である。ST11において、信号処理部63は、測定項目を特定するための情報を外部サーバ11に送信する。なお、試薬容器に付されたバーコードには、試薬の製造業者を識別するための製造業者識別情報を含めてもよい。その場合、試薬容器のバーコードから特定の製造業者を示す製造業者識別情報を取得した場合にのみ、外部サーバ11から測定条件を受信するようにし、特定の製造業者を示す製造業者識別情報を取得できなかった場合は、測定条件を受信しない旨の通知を表示部62に表示してもよい。
【0098】
ST50において、外部サーバ11は、測定項目を特定するための情報を受信する。ST51において、外部サーバ11は、データベースにこの測定項目を特定するための情報(試薬の識別情報)に対応する測定条件が存在するか否かを検索し、ST52において検索結果を信号処理部63に送信する。検索結果は、測定項目を特定するための情報(試薬の識別情報)に対応する1つ又は2つ以上の測定条件の候補を示す一覧(以下、「測定条件候補一覧」という)の情報であるか、又は対応する測定条件がないことを示す情報であるかのいずれかである。測定条件候補一覧には、ST10において試薬の識別情報が読み取られた試薬容器内の試薬を用いて測定できる測定項目に対応する測定条件の名称、測定条件の説明等を含む。例えばCD4に対する標識抗体、CD45に対する標識抗体等を含む試薬の識別情報がST10において読み取られた場合には、これらの標識抗体を用いて実施可能なHIV検査、造血幹細胞検査等に対応する測定条件が含まれる。
【0099】
ST12において、信号処理部63は、検索結果を外部サーバ11からネットワーク12を介して受信する。ST13において、信号処理部63は、測定条件候補一覧の情報を受信したか、測定条件がないことを示す情報を受信したかを判断する。信号処理部63は、測定項目を特定するための情報に対応する測定条件候補一覧を受信した場合には、ST14において、図6に示す測定条件候補一覧を表示した画面90を表示部62に表示する。データベースに測定項目を特定するための情報に対応する測定条件が存在しない場合には、図14に示すST31に進む。ST15において、信号処理部63は、ユーザにより測定条件候補一覧から選択された測定条件の候補を受け付けると、ST16において、受け付けた測定条件の候補をネットワーク12を介して外部サーバ11に送信する。
【0100】
ST53において、外部サーバ11はユーザが選択した測定条件の候補を受信し、ST54において、選択された測定条件の候補に対応する測定条件を送信する。ST17において、信号処理部63は、選択された測定条件の候補に対応する測定条件をネットワーク12を介して外部サーバ11から受信して記憶部83に記憶する。記憶部83では、測定項目を示す名称と測定条件とが対応付けて記憶される。
【0101】
なお、外部サーバ11に測定項目を特定するための情報に対応する測定条件が1つしかない場合には、信号処理部63は、外部サーバ11から測定条件候補一覧を受信せずに測定条件を受信して記憶してもよい。すなわち、ST52、ST53がスキップされ、ST12~ST16がスキップされる。
【0102】
ST18において、信号処理部63は、外部サーバ11から受信した測定条件を蓄積する。すなわち、過去に受信した測定条件を蓄積した測定条件一覧に受信した測定条件を追加してこの一覧を記憶する。ST19において、信号処理部63は、測定条件を設定する。測定条件の設定とは、検出感度の調整に関わる情報を用いて受光素子の出力電圧の増幅度または受光素子への印加電圧を調整し、検出された光学的情報の補正に関わる情報を用いて、検出された光学的情報に含まれる検出対象外の光波長分布量を決定し(「蛍光補正の設定」という)、ゲーティングに関わる情報を用いて分布図から選択する各粒子の領域を決定することである。
【0103】
信号処理部63には、受光素子100A~100Fが出力した検出信号が、増幅部130A~130F及びA/D変換部131A~131Fを介して入力される。ST20において、信号処理部63は、前記検出された光学的情報に含まれる検出対象外の光波長分布量を用いて、この検出信号の補正、いわゆる蛍光補正を行う。また、信号処理部63は、記憶部83に記憶された測定条件から温度補正に用いる計算式を読み出し、温度センサ22が出力する温度検出信号とこの計算式を用いて、受光素子100A~100Fが出力する検出信号の温度補正を行っており、詳細は後述する。ST21において、信号処理部63は、蛍光補正及び温度補正された検出信号を用いて粒子数の計測を含む分析を行い、分析結果を出力する。分析結果の出力とは、例えば、分布図と共に表示部62に分析結果を表示することである。
【0104】
なお、信号処理部63は、ST21の分析、分析結果の表示を行わずに、入力された検出信号を記憶部83に記憶し、通信部64は、記憶部83に記憶された検出信号を外部サーバ11又は外部サーバ11とは異なる外部サーバへ送信し、外部サーバ11とは異なる外部サーバで分析、分析結果の表示を行ってもよい。
【0105】
図14は、外部サーバ11に測定項目を特定するための情報に対応する測定条件が存在せず、通信部64が外部サーバ11から測定条件を受信しなかったときに、ユーザによる測定条件の入力を受け付ける動作の手順を説明するフローチャートである。T31からST40の処理は、第2の測定条件設定部76が行う。ST31からST40の処理においては、条件入力部61からユーザが測定条件の入力操作を行うための画面91~95をウィザード形式で順次、表示部62に表示させ、ユーザにより入力された測定条件を設定する。
【0106】
ST31において、信号処理部63は、図7に示す新規作成画面91を表示部62に表示する。ST32において、信号処理部63は、この画面91上の入力のためのボックスにユーザが入力する測定条件の名称とコメント等を受け付ける。
【0107】
ユーザが画面91上の「次へ」のボタン91aを押すことにより、信号処理部63が画面の切り替え指示を受け付けると、ST33において、信号処理部63は、図8に示す光学的情報を検出するための検出感度の調整に関わる情報を入力する画面(以下、「感度入力画面」という)92を表示部62に表示する。感度入力画面92は、前記検出感度の調整に関わる情報であって、粒子含有液中の粒子の大きさに関わる情報をユーザに入力させるための画面であり、粒子含有液中の粒子の大きさに関わる情報は、例えば、粒子の直径等の粒子の大きさ、粒子の名称、測定項目の名称等である。また、粒子の大きさを「大」「中」「小」の3段階で入力してもよい。
【0108】
ST34において、信号処理部63は、この画面92上の入力のためのボックスにユーザが入力する粒子含有液中の粒子の大きさに関わる情報を受け付ける。記憶部83には、粒子含有液中の粒子の大きさに関わる情報に対応する受光素子100A,100Bの出力電圧の増幅度を示す値と、受光素子100C~100Fに印加される電圧値が記憶されており、信号処理部63は、粒子の大きさに対応した前記増幅度を示す値及び前記電圧値を検出感度の調整に関わる情報として記憶部83から読み出す。
【0109】
ユーザが画面92上の「次へ」のボタン92aを押すことにより、信号処理部63が画面の切り替え指示を受け付けると、ST35において、信号処理部63は、図9に示す検出された光学的情報の補正に関わる情報を入力する画面(以下、「蛍光補正値入力画面」という)93を表示部62に表示する。ST36において、信号処理部63は、検出された光学的情報に含まれる検出対象外の光波長分布量に関わる情報(「蛍光補正値」ともいう)を受け付ける。蛍光補正値は、この画面93上の入力のためのボックスにユーザにより入力される。ユーザが画面93上の「次へ」のボタン93aを押すことにより、信号処理部63が画面の切り替え指示を受け付けると、ST37において、信号処理部63は、図10に示すように、選択する粒子の領域を前記光学的情報に基づいて設定するためのゲーティングに関わる情報を入力する画面(以下、「ゲーティング入力画面」という)94を表示部62に表示する。ST38において、信号処理部63は、この画面94上の入力のためのボックスにユーザが入力するゲーティングに関わる情報を受け付ける。
【0110】
ユーザが画面94上の「完了」のボタン94aを押すことにより、信号処理部63が入力の完了指示を受け付けると、ST39において、信号処理部63は、ユーザから受け付けた受光素子100A,100Bの出力電圧の増幅度を示す値と、受光素子100C~100Fに印加される電圧値と、蛍光補正値と、ゲーティングに関わる情報とを測定条件として記憶する。ST40において、信号処理部63は、ユーザにより入力された測定条件を蓄積する。すなわち、過去に受信した測定条件を蓄積した測定条件一覧にユーザにより入力された測定条件を追加してこの一覧を記憶する。なお、ユーザにより入力された測定条件と、外部サーバ11から受信した測定条件との両方が蓄積された測定条件一覧が記憶されていてもよく、ユーザにより入力された測定条件を蓄積した測定条件一覧と、外部サーバ11から受信した測定条件を蓄積した測定条件一覧とがそれぞれ記憶されていてもよい。
【0111】
図13のST19に戻り、記憶した測定条件を用いて、検出感度の調整、蛍光補正、ゲーティングを設定する。
【0112】
画面92、93、94上における各情報の入力の際に、ユーザは例えばFITCのみで染色した単染色コントロール試料など、人工的に作成した成分からなるコントロール試料を1回又は複数回予備的に測定して、その測定結果に基づき適切な前記増幅度を示す値と、前記電圧値と、蛍光補正値と、ゲーティングに関わる情報とを決定する場合がある。各画面92、93、94が表示されている時に、ユーザからコントロール試料の測定指示を受け付けると、信号処理部63は、画面92、93、94上に図11に示す測定指示画面95を表示させる。画面95の指示に従い測定試料が選択されると、信号処理部63はコントロール試料が所定位置にセットされたことを確認し、測定指示により予備的な測定を開始する。画面92、93、94上にある「再測定」ボタン92c、93c、94cをユーザが押すことで、信号処理部63は予備的な測定を再度行う。また、画面93においては、画面93上にある「再描画」ボタン93bをユーザが押すことで、信号処理部63は画面93上にスキャタグラム等の分布図を再表示させる。
【0113】
画面92,93,94を表示する順序は限定されず、いずれの順序であってもよい。
【0114】
測定終了後に過去に使用した測定条件を再度使用したい場合には、信号処理部63は、ユーザの要求に応じて蓄積された測定条件一覧を呼び出し、図12に示す測定条件一覧を示す画面96を表示部62に表示する。信号処理部63は、ユーザによって測定条件一覧から選択された測定条件を受け付けると、ST19と同様に、この測定条件を設定する。
【0115】
[温度センサによる温度補正]
受光素子100A~100Fの検出信号の温度補正について、まず、温度センサ22による粒子含有液の温度の検出方法について説明する。
図15に示すフローセル20は、整流部23と、加速部24と、オリフィス部25とからなる。整流部23は円筒状であって貫通する孔を有する。加速部24は円錐状であって、整流部23の孔と連なって通じている孔は、オリフィス部25に向かって径が徐々に小さくなる。フローセル20のオリフィス部25は断面が正方形の透明な角筒であり、孔を通過する粒子含有液に光源101、124からの光Lが照射される。
【0116】
フローセル20は固定具26に固定され、ノズル21はフローセル20に挿入され固定具26に固定されている。フローセル20のオリフィス部25の出口には、流路27aを有するセンサ設置部材27が接続されている。センサ設置部材27には温度センサ22とニップル28が設けられている。オリフィス部25から流路27aに導入された粒子含有液は、温度センサ22に接触し、ニップル28から排出される。ここでは、温度センサ22としてサーミスタ(芝浦電子(株)製のPB3M-35-TI型)を用いている。
【0117】
固定具26の流入口26aから流入したシース液は整流部23で整流され、加速部24で流れが加速される。ノズル21に矢印B方向から流入した試料は、ノズル21の先端からオリフィス部25に向って噴射されると、加速されたシース液に包まれ、粒子含有液となってオリフィス部25を通過する。粒子含有液に光Lが照射され、粒子含有液中の粒子に由来する光が、図2に示す受光素子100A~100Fにより検出される。
【0118】
オリフィス部25を通過した粒子含有液は、センサ設置部材27において温度センサ22によりその液温が検出され、ニップル28から矢印C方向に排出される。
【0119】
なお、上述した温度センサ22の取付位置は例示であり、温度センサ22は、検出する粒子の温度がオリフィス部25を通過する粒子含有液の温度と実質的に同じ温度である位置に取り付けられていれば、例えばフローセル20の入口や近傍に設けられてもよく、フローセル10の外に設けられていてもよい。
【0120】
次に、受光素子100A~100Fの検出信号の温度補正について説明する。温度補正は、信号処理部63の温度補正部74が、例えば、温度センサ22が出力する電気信号に変換された温度検出信号を用いて、各受光素子100A~100Fに接続された各増幅部130A~130Fにおいて各受光素子100A~100Fの検出信号を増幅することにより行う。信号処理部63は、温度センサ22が検出した温度を、サーミスタ回路132及びA/D変換部133を介して取得する。
【0121】
各増幅部130A~130Fは各受光素子100A~100Fの検出信号が入力される。増幅部にはローレベル・リファレンス電圧RLとして0.5Vの一定電圧が入力され、ハイレベル・リファレンス電圧RHとして制御電圧が信号処理部63から入力される。
【0122】
温度センサ22で検出される温度に対する受光素子100A~100Fの検出信号の補正曲線(実測値)は、温度(℃)に対する制御電圧の関係として示される。例えば、測定項目が網赤血球の場合には、計算式(A)として示される。
y=4.4838(x-23)2-64.815(x-23)+3031…(A)
ここで、xは温度センサ22で検出した温度(℃)、yは制御電圧(デジタル値)である。計算式(A)は測定項目毎に、測定条件として外部サーバ11から受信する。
【0123】
A/Dコンバータの入力に対する出力の比、すなわち増幅度は、RHとRLとの差(RH-RL)によって決定される。RLは一定であるため、増幅度はRH,すなわち、計算式(A)で決定された制御電圧により制御され、温度センサ22の検出温度により受光素子100A~100Fの検出信号が温度補正される。
【0124】
上記の実施形態では、増幅部130A~130Fの増幅度を制御したが、温度補正の方法はこれに限定されず、例えば、温度センサ22の温度検出信号に基づいて、受光素子100A~100Fのそれぞれに印加される電圧を調節してもよい。また、演算部77で得られた分析結果を補正するようにしてもよい。
【0125】
なお、温度センサ22、温度検出回路132、A/D変換部133及び信号処理部63の温度補正部74を設けず、温度補正を行わない形態であってもよい。
【0126】
本発明によれば、測定項目に応じて、適切な測定条件を一又は複数の測定条件から選択する。たとえば外部サーバ11から受信した一又は複数の測定条件から測定条件を選択する。そのため、ユーザが自ら複雑な測定条件を入力する必要がない。従って、特別なトレーニングを受けた専門家でなくても、簡単に測定条件を設定することができる。また、外部サーバに、測定項目を特定するための情報に対応した測定条件がなく、測定条件を受信することができない場合には、ユーザは条件入力部61から測定条件の設定を行うことができる。
【0127】
他の態様のフローサイトメータ10は、フローサイトメータ10内の温度を検出して、電気信号に変換された温度検出信号を出力する温度センサと、フローサイトメータ10内の任意の位置に設けられ、フローサイトメータ10内を加温又は冷却するための温度調整装置を備えている。温度調整装置は、例えば、ヒーター、ファンの少なくとも一つを含む。信号処理部63は温度補正部74を備えていない。温度調整装置は信号処理部63に接続されており、温度センサ22が出力する温度検出信号を用いて、フローサイトメータ10内の温度が目標温度となるように温度調整装置を制御する。目標温度は、信号処理部63が外部サーバ11から受信する測定条件に含まれていてもよく、予め信号処理部63に記憶されていてもよい。フローサイトメータ10内の温度が一定に保たれるため、受光素子100A~100Fが出力する検出信号に対して信号処理部63が温度補正を行う必要がない。また、測定項目を特定するための情報に対応した測定条件を一度受信して測定を開始すれば、ユーザが温度に応じた測定条件の変更を行う必要がない。他の構成は図1から図15に示すフローサイトメータ10と同様であるため説明を省略する。
【0128】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である
【0129】
たとえば、本実施形態では、試薬の識別情報に対応する一又は複数の測定条件を外部サーバ11から受信し、その中から測定条件を選択するように構成しているが、試薬の識別情報に対応する一又は複数の測定条件を、予めフローサイトメータ10の記憶部83に格納し、記憶部83から読み出した一又は複数の測定条件から測定条件を選択するようにしてもよいし、ユーザの施設内に設置された外部コンピュータ、たとえば検査室を管理するホストコンピュータの記憶部に予め測定条件を格納しておき、フローサイトメータ10がホストコンピュータから測定条件を受信するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0130】
10 フローサイトメータ
20 フローセル
11 外部サーバ
12 ネットワーク
22 温度センサ
60 入力部
61 条件入力部
62 表示部
63 信号処理部
64 通信部
65 測定部
83 記憶部
101、124 光源
100A~100F 受光素子
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15