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特許7285022組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの遺伝子配列及びその使用
<図1-1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの遺伝子配列及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20230525BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230525BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230525BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230525BHJP
   A61P 27/10 20060101ALI20230525BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 9/14 20060101ALN20230525BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N15/864 100Z
C12N5/10
A61K35/76
A61P27/02
A61P27/10
A61K48/00
C12N9/14
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021509904
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 CN2019102352
(87)【国際公開番号】W WO2020038473
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】201810968173.0
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521001087
【氏名又は名称】ウーハン ニューロフス バイオテクノロジー リミテッド カンパニー
【氏名又は名称原語表記】WUHAN NEUROPHTH BIOTECHNOLOGY LIMITED COMPANY
【住所又は居所原語表記】C270-271 B1,No.666 Ave Gaoxin,Wuhan,Hubei 430060(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ビン
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/191274(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/146588(WO,A1)
【文献】Sci. Rep.,2018年02月06日,Vol.8, No.1, 2468,pp.1-6
【文献】Mol. Ther. Methods Clin. Dev.,2017年12月01日,Vol.8,pp.87-104
【文献】Eye,2014年05月,Vol.28, No.5,pp.521-537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードするヌクレオチド配列を含み、前記ヌクレオチド配列が、配列番号1の配列と同一である、組換え核酸。
【請求項2】
更に、非翻訳領域(UTR)配列若しくはプロモーター配列、又はその両方を含む、請求項1に記載の組換え核酸。
【請求項3】
前記UTR配列は、5’-UTR配列若しくは3’-UTR配列、又はその両方を含む、請求項に記載の組換え核酸。
【請求項4】
前記5’-UTR配列は、前記ヌクレオチド配列の5’末端に機能可能なように連結されている、請求項に記載の組換え核酸。
【請求項5】
前記3’-UTR配列は、前記ヌクレオチド配列の3’末端に機能可能なように連結されている、請求項に記載の組換え核酸。
【請求項6】
前記5’-UTR配列は、前記ヌクレオチド配列の5’末端に機能可能なように連結され、前記3’-UTR配列は、前記ヌクレオチド配列の3’末端に機能可能なように連結されている、請求項に記載の組換え核酸。
【請求項7】
前記組換え核酸が、5’末端から3’末端の向きで式I:
Z1-Z2-Z3(I)
の構造を有し、
式中、
それぞれの「-」が、独立して、結合またはヌクレオチドリンカー配列であり、
Z1が、存在しないか、または5’-UTR配列であり、
Z2が、ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードするヌクレオチド配列であり、
Z3が、3’-UTR配列である、請求項に記載の組換え核酸。
【請求項8】
請求項1に記載の組換え核酸を含む、ベクター。
【請求項9】
前記ベクターが、プラスミドまたはウイルスベクターから選択される、請求項に記載のベクター。
【請求項10】
前記ベクターが、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項に記載のベクター。
【請求項11】
前記ベクターがAAVベクターである、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
前記AAVベクターが、AAV2、AAV5、AAV7、AAV8、及びそれらの組み合わせから選択される血清型を有する、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
前記ベクターが、DNAウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターである、請求項に記載のベクター。
【請求項14】
請求項1に記載の組換え核酸を含む、単離された宿主細胞であって、前記ヌクレオチド配列が、前記宿主細胞の染色体に組み込まれたものである、前記宿主細胞。
【請求項15】
前記単離された宿主細胞が、293T細胞、光受容細胞、視細胞、及び神経細胞からなる群から選択される、請求項14に記載の宿主細胞。
【請求項16】
(a)請求項1に記載の組換え核酸を含むアデノ随伴ウイルスと、(b)医薬的に許容可能な担体または医薬品添加物と、を含む、医薬調製物。
【請求項17】
前記医薬調製物の剤形が、凍結乾燥調製物及び液体調製物からなる群から選択される、請求項16に記載の医薬調製物。
【請求項18】
前記医薬調製物中の前記ウイルスの含量が、1×10~1×1016個ウイルス/mLである、請求項16に記載の医薬調製物。
【請求項19】
前記医薬調製物中の前記ウイルスの含量が、2×1011~1×1012個ウイルス/mLである、請求項18に記載の医薬調製物。
【請求項20】
細胞中でのミトコンドリアダイニン様GTPaseの発現及び/または活性を増加させるための医薬調製物であって、
前記医薬調製物が、(a)組換え核酸を含むベクター及び(b)医薬的に許容可能な担体または医薬品添加物を含み
前記組換え核酸は、ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードし、且つ配列番号1の配列と同一であるヌクレオチド配列を含む、前記医薬調製物
【請求項21】
対象の眼に投与される、眼疾患の治療のための医薬調製物であって
前記医薬調製物は、(a)組換え核酸を含むアデノ随伴ウイルス及び(b)医薬的に許容可能な担体または医薬品添加物を含み、
前記組換え核酸は、ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードし、且つ配列番号1の配列と同一であるヌクレオチド配列を含み、
前記眼疾患が、オプティックアトロフィー1(OPA1)のハプロタイプ不全に起因する常染色体優性視神経萎縮(ADOA)である、前記医薬調製物
【請求項22】
組換え核酸を調製するための方法であって、前記方法が、前記組換え核酸を含む宿主細胞を培養し、それによって前記組換え核酸を得ることを含み、
前記組換え核酸は、ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードし、且つ配列番号1の配列と同一であるヌクレオチド配列を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的調製物の分野に関し、具体的には、組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの遺伝子配列及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
常染色体優性視神経萎縮(ADOA)は、最も一般的な形態の原発性遺伝性視神経症であり、その罹患率は約1:12,000~1:50,000である。ADOAの発症は小児期に潜行する。ADOAの臨床的特徴は、軽度から中等度の漸進的視力低下、色覚異常、中心視野欠損、及び視神経乳頭耳側蒼白によって顕在化する。乳頭血管束が最初に損傷を受け、上行性視神経萎縮及び視神経の髄鞘の消失が続発する。
【0003】
ADOAは、ミトコンドリア内膜タンパク質をコードする遺伝子及び遺伝子座が変異することによって誘発され、こうした遺伝子が主にOPA1~OPA8であることが国外の学者によって決定されている。OPA1~OPA8の中で、ADOA患者の約75%が、OPA1が保有するヘテロ接合型優性変異と関連することが最初に確認されており、エクソンの740及び2794にこうした部位変異が見られることが最も一般的である。OPA1タンパク質は、ミトコンドリア内膜に位置し、エネルギー代謝及びアポトーシスを制御し、クリステ及びmtDNAの完全性を維持し、GTPase活性を有する。変異OPA1がコードするタンパク質は、完全なGTPaseドメインには通常は満たない様々な短縮型のものであり、このことはアレルの欠失に相当し、これによってOPA1の量が大きく減少する結果、いわゆるハプロタイプ不全を招くことでミトコンドリア機能が損なわれることがADOAの発症機序である。断片化したミトコンドリアは、ATPを視神経細胞に正常に供給できず、RGC細胞が徐々にアポトーシスを起こし、これによって患者がADOAを発症する。
【0004】
現在のところ、ADOAに対する治療手段は存在せず、ADOAは、世界が認知する遺伝性視神経症の1つである。遺伝子治療の開発に伴って、ADOAの遺伝子治療が可能になってはいるが、そこでの問題は、様々な形態のOPA1エクソンスプライシング及び様々な形態の変異が、様々な型及び変異形態の病原性タンパク質を生じさせ、その結果、ある特定の遺伝子薬を全ての患者の治療に使用することが不可能なことである。
【0005】
国外の研究では、OPA1変異によって誘発されるADOAの発症機序が研究され、様々な形態のOPA1転写産物及びOPA1遺伝子産物が分析され、組換えOPA1タンパク質のよりよい精製方法が探求されている。更に、家族歴を調査及び解析することで、不完全なOPA1を保有しているかどうかのスクリーニング、同定、及び診断をどのように行うかについても探求されている。更に、OPA1変異によって誘発されるADOAの予後的な遺伝子診断及び治療についても期待が寄せられている。しかしながら、現在のところ、アデノ随伴ウイルスベクターを使用して行うヒトミトコンドリアダイニン様GTPaseのいずれかの型の遺伝子の組換え、並びにその産生及び使用についての報告は存在しない。
【0006】
従って、この分野では、良好な治療効果を有するヒトミトコンドリアダイニン様GTPaseのための発現系及び調製方法を開発する必要に迫られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、良好な治療効果を有するヒトミトコンドリアダイニン様GTPaseのための発現系、及びその調製方法を提供することである。
【0008】
本発明の目的は、ヒトミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードする最適化核酸配列、ベクター、及びその調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードするヌクレオチド配列を提供し、このヌクレオチド配列は、
(a)配列番号1に示されるヌクレオチド配列と、
(b)配列番号1に示されるヌクレオチド配列との同一性が≧95%、好ましくは≧98%、より好ましくは≧99%であるヌクレオチド配列と、
からなる群から選択される。
【0010】
別の好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列には、DNA配列、cDNA配列、又はmRNA配列が含まれる。
【0011】
別の好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列には、一本鎖配列及び二本鎖配列が含まれる。
【0012】
別の好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列には、配列番号1と完全に相補的なヌクレオチド配列が含まれる。
【0013】
別の好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列は、配列番号1に示されるものであり、
位置1~288は、MISをコードする配列であり、
位置289~2772は、GTPaseドメイン、中央ダイニンドメイン、及びGTPaseエフェクタードメインをコードする配列であり、
位置2773~2775は、終止コドンである。
【0014】
別の好ましい実施形態では、配列番号1の配列は、配列番号1の位置1~288に示されるMISをコードする配列と、配列番号1の位置289~2772に示されるGTPaseドメイン、中央ダイニンドメイン、及びGTPaseエフェクタードメインをコードする配列と、を含む。
【0015】
別の好ましい実施形態では、配列番号2の配列は、配列番号2の位置1~288に示されるMISをコードする配列と、配列番号2の位置289~2772に示されるGTPaseドメイン、中央ダイニンドメイン、及びGTPaseエフェクタードメインをコードする配列と、を含む。本発明は、MISを独立してコードするヌクレオチド配列(配列番号1または配列番号2の位置1~288)と、GTPaseドメイン、中央ダイニンドメイン、及びGTPaseエフェクタードメインを独立してコードするヌクレオチド配列(配列番号1または配列番号2の位置289~2772または位置289~2775)と、も提供する。
【0016】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に記載のヌクレオチド配列を含む融合核酸を提供する。
【0017】
別の好ましい実施形態では、融合核酸は、UTR配列、プロモーター配列、又はそれらの組み合わせ、からなる群から選択される配列をさらに含む。
【0018】
別の好ましい実施形態では、UTR配列は、3’-UTR及び/又は5’-UTRを含む。
【0019】
別の好ましい実施形態では、UTR配列は、構造を安定化させるためのポリA配列を含む。
【0020】
別の好ましい実施形態では、融合核酸は、5’末端から3’末端の向きで式I:
Z1-Z2-Z3 (I)
の構造を有し、
式中、
それぞれの「-」は、独立して、結合またはヌクレオチドリンカー配列であり、
Z1は、存在しないか、または5’-UTR配列であり、
Z2は、本発明の第1の態様に記載のヌクレオチド配列であり、
Z3は、3’-UTR配列である。
【0021】
別の好ましい実施形態では、Z1は、5’-UTR配列である。
【0022】
別の好ましい実施形態では、それぞれのヌクレオチドリンカー配列の長さは、1~30ntであり、好ましくは1~15ntであり、より好ましくは3~6ntである。
【0023】
別の好ましい実施形態では、ヌクレオチドリンカー配列は、制限エンドヌクレアーゼを介する消化によって形成されるヌクレオチドリンカー配列に由来する。
【0024】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様によるヌクレオチド配列を含むベクター、又は本発明の第2の態様による融合核酸を含むベクターを提供する。
【0025】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、1つ以上のプロモーター(核酸配列に機能可能なように連結される)、エンハンサー、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列、複製起点、選択可能マーカー、核酸制限酵素認識部位、及び/又は相同組換え部位を含む。
【0026】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、プラスミド及びウイルスベクターからなる群から選択される。
【0027】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、又はそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。好ましくは、ベクターは、AAVベクターである。
【0028】
別の好ましい実施形態では、AAVベクターの血清型は、AAV2、AAV5、AAV7、AAV8、又はそれらの組み合わせから選択される。
【0029】
別の好ましい実施形態では、ベクターには、DNAウイルス及びレトロウイルスベクターが含まれる。
【0030】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、本発明の第1の態様に記載のヌクレオチド配列を含むAAVベクターもしくは当該ヌクレオチド配列が挿入されたAAVベクターであるか、又は本発明の第2の態様に記載の融合核酸を含むAAVベクターもしくは当該融合核酸が挿入されたAAVベクターである。好ましくは、ベクターは、AAVベクタープラスミドpSNaVである。
【0031】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの発現に使用される。
【0032】
本発明の第4の態様は、宿主細胞を提供し、当該宿主細胞は、本発明の第3の態様に記載のベクターを含むか、または当該宿主細胞は、本発明の第1の態様に記載のヌクレオチド配列もしくは本発明の第2の態様に記載の融合核酸を有し、このヌクレオチド配列または融合核酸は、当該宿主細胞の染色体に外来性に組み込まれたものである。
【0033】
別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、哺乳類細胞であり、こうした哺乳類には、ヒト及び非ヒト哺乳類が含まれる。
【0034】
別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、293T細胞、光受容細胞(錐体細胞及び/又は桿体細胞を含む)、他の視細胞(双極細胞など)、(視)神経細胞、又はそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。
【0035】
別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、桿体細胞、錐体細胞、オン型双極細胞、オフ型双極細胞、水平細胞、神経節細胞、アマクリン細胞、又はそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。好ましくは、宿主細胞は、(網膜)神経節細胞である。
【0036】
本発明の第5の態様は、対象における視力回復及び/又は眼疾患治療のための調製物又は組成物の調製における本発明の第3の態様に記載のベクターの使用を提供する。
【0037】
別の好ましい実施形態では、眼疾患は、網膜症である。
【0038】
別の好ましい実施形態では、調製物または組成物は、遺伝性視神経症の治療に使用され、好ましくは常染色体優性視神経萎縮(ADOA)の治療に使用される。
【0039】
別の好ましい実施形態では、調製物又は組成物は、網膜神経節細胞のアポトーシスの治療に使用される。
【0040】
本発明の第6の態様は、(a)本発明の第3の態様に記載のベクターと、(b)医薬的に許容可能な担体または医薬品添加物と、を含む医薬調製物を提供する。
【0041】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物の剤形は、凍結乾燥調製物、液体調製物、又はそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。
【0042】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、又はそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。好ましくは、ベクターは、AAVベクターである。
【0043】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物中のベクターの含量は、1×10~1×1016個ウイルス/mLであり、好ましくは1×10~1×1013個ウイルス/mLであり、より好ましくは2×1011~1×1012個ウイルス/mLである。
【0044】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物は、眼疾患の治療に使用され、好ましくは網膜神経節細胞のアポトーシスの治療に使用される。
【0045】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物は、遺伝性視神経症の治療に使用され、好ましくは常染色体優性視神経萎縮(ADOA)の治療に使用される。
【0046】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物は、眼球におけるミトコンドリアダイニン様GTPaseの発現及び/又は活性を顕著に増加させ得る。
【0047】
本発明の第7の態様は、ミトコンドリアダイニン様GTPaseの発現及び/又は活性を長期的に増加させるための方法を提供し、この方法は、本発明の第3の態様に記載のベクターを導入すること、及び/又は本発明の第6の態様に記載の医薬調製物を投与することを含む。
【0048】
別の好ましい実施形態では、方法は、細胞中に産生するATPの量を効果的に増加させ、及び/又はミトコンドリアのアポトーシスを効果的に抑制し得る。
【0049】
別の好ましい実施形態では、方法は、GTPaseの発現及び/又は活性を持続的に上方制御し得る。
【0050】
本発明の第8の態様は、治療方法を提供し、この治療方法は、本発明の第3の態様に記載のベクターを、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0051】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、またはそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。好ましくは、ベクターは、AAVベクターである。
【0052】
別の好ましい実施形態では、ベクターは、それを必要とする対象の眼に導入される。
【0053】
別の好ましい実施形態では、それを必要とする対象には、ヒト及び非ヒト哺乳類が含まれる。
【0054】
別の好ましい実施形態では、治療方法は、眼疾患を治療するための方法である。
【0055】
別の好ましい実施形態では、眼疾患は、遺伝性視神経症であり、好ましくは常染色体優性視神経萎縮(ADOA)である。
【0056】
治療方法は、眼球におけるミトコンドリアダイニン様GTPaseの発現及び/又は活性を効果的に増加させ得る。
【0057】
治療方法は、眼球におけるミトコンドリアダイニン様GTPaseの発現及び/又は活性を、最大6ヶ月間、好ましくは最大3ヶ月間、効果的に増加させ得る。
【0058】
治療方法は、網膜中のATP含量を効果的に増加させ、及び/又はミトコンドリアのアポトーシスを効果的に抑制し得る。
【0059】
本発明の第9の態様は、組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseを調製するための方法を提供し、この方法は、本発明の第4の態様に記載の宿主細胞を培養し、それによって組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseを得ることを含む。
【0060】
本発明の第10の態様は、OPA1遺伝子の発現又は活性が低下しているADOA(常染色体優性視神経萎縮)の細胞モデルを提供する。
【0061】
別の好ましい実施形態では、細胞には、網膜神経節細胞(RGC)が含まれる。
【0062】
別の好ましい実施形態では、OPA1遺伝子は、発現しないか、又は完全に不活性である。
【0063】
本発明の第11の態様は、ADOA(常染色体優性視神経萎縮)の細胞モデルを調製するための方法を提供し、この方法は、細胞を提供し、細胞中のOPA1遺伝子に点変異を導入してOPA1遺伝子の点変異を有する細胞を得ること、及びスクリーニングを介して点変異陽性のモノクローナル細胞を得ること、を含む。
【0064】
別の好ましい実施形態では、OPA1遺伝子点変異は、Q(グルタミン)285終結点変異(Stop point mutation)を指す。
【0065】
別の好ましい実施形態では、細胞には、RGC細胞が含まれる。
【0066】
本発明の第12の態様は、GRC細胞におけるOPA1遺伝子の発現及び/又は活性が低下しているADOA(常染色体優性視神経萎縮)の非ヒト哺乳類モデルを提供する。
【0067】
別の好ましい実施形態では、OPA1遺伝子は、点変異を有し、具体的にはQ(グルタミン)285終結点変異を有する。
【0068】
本発明の第13の態様は、ADOA(常染色体優性視神経萎縮)の非ヒト哺乳類モデルを調製するための方法を提供し、この方法は、下記のステップを含む:
(a)非ヒト哺乳類細胞を提供し、細胞中のOPA1遺伝子に点変異を導入し、それによってOPA1遺伝子の点変異を有する細胞を得るステップ、
(b)ステップ(a)において得られたOPA1遺伝子の点変異を有する細胞を使用することによってOPA1遺伝子の点変異を有する動物モデルを調製するステップ。
【0069】
別の好ましい実施形態では、OPA1遺伝子の点変異は、ヘテロ接合型又はホモ接合型である。
【0070】
別の好ましい実施形態では、OPA1タンパク質の位置285のグルタミン部位には、転写が終結するように変異が導入される。
【0071】
別の好ましい実施形態では、非ヒト哺乳類は、げっ歯類または霊長類であり、こうしたげっ歯類または霊長類には、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、及びサルが含まれる。
【0072】
別の好ましい実施形態では、ステップ(b)は、
(b1)OPA1遺伝子のキメラ点変異を獲得している動物モデルを調製した後、交雑を介してOPA1遺伝子のホモ接合型点変異またはヘテロ接合型点変異を有する動物モデルを得るステップ
を含む。
【0073】
別の好ましい実施形態では、方法は、
(1)CRISPR-CAS9技術を使用することによってOPA1の位置285のQ(グルタミン)を変異させて終止(即ち、Q285終止)点変異を有する組換えプラスミドを構築し、相同組換えを介する変異導入に対する選択可能マーカーを有するDNA配列で置き換えてOPA1のQ285終止点変異陽性のモノクローナル胚性幹細胞を得ること、
(2)ステップ(1)において得られたOPA1点変異を有するマウス胚性幹細胞クローンを使用することによってキメラマウスを調製し、得ること、
(3)ステップ(2)において得られたキメラマウスを正常な野生型マウスと交配させ、繁殖させ、OPA1点変異を獲得したヘテロ接合型マウス、即ちOPA1のQ285終結点変異を有するマウスモデルを子孫からスクリーニングすること、
を含む。
【0074】
別の好ましい実施形態では、ヘテロ接合型マウスを交配及び繁殖させ、その子孫から、OPA1点変異を獲得したホモ接合型マウスがスクリーニングされる。
【0075】
上記のさまざまな技術的特徴、及び本明細書に具体的に後述されるさまざまな技術的特徴(実施例等)は全て、新たな技術的解決法又は好ましい技術的解決法が得られるように、本発明の範囲内で互いに組み合わせ可能であることを理解されたい。スペースの制限があるため、そうしたものが本明細書に重複して記載されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1】ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの最適化ヌクレオチド配列と原型遺伝子配列との間でオープンリーディングフレーム配列を比較したものを示す。これら2つの配列の間の相同性は、72.25%(2005/2775)であり、これらの配列の間で同一の塩基は
【数1】

によって示される。上段横列は最適化オープンリーディングフレームヌクレオチド配列であり、下段横列はヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの原型遺伝子配列(非最適化野生型コード配列)である。
図2】OPA1アイソフォーム2の転写物のタンパク質構造の模式図を示す。
図3】組換えクローンからスクリーニングされた約3000bpの標的バンドを有する正しいクローンを示す。M:タンパク質マーカー、レーン1:rAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2の正しい組換えクローン、レーン2:陽性対照、レーン3:陰性対照。
図4】組換えアデノ随伴ウイルスプラスミドpSNaV/rAAV2/2-hOPA1の構造の模式図を示す。
図5】SDS-PAGE電気泳動によってrAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2の純度を検出するためにクマシーブリリアントブルーでの染色を行った結果を示す。図中、レーン1:タンパク質マーカー、レーン2:rAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2。
図6】硝子体切除術用レンズ下でのウサギの眼の眼底写真を示し、図中、Aは、rAAV2/2-ZsGreenを注射した群(対照群)であり、Bは、rAAV2/2-最適化hOPA1アイソフォーム2を注射した群(実験群A)である。
図7】ウサギの眼球切片の免疫蛍光検出を示し、図中、実験群Aは、rAAV2/2-最適化hOPA1アイソフォーム2を注射した群であり、実験群Bは、rAAV2/2-原型hOPA1アイソフォーム2を注射した群である。
図8】硝子体切除術用レンズ下でのウサギの眼のOCT写真を示す。図中、Aは、rAAV2/2-ZsGreenを注射した群(対照群)であり、Bは、rAAV2/2-最適化hOPA1アイソフォーム2を注射した群(実験群A)である。
図9】顕微鏡下で観察されたウサギの眼球のHE切片中の網膜を示す。図中、Aは、rAAV2/2-ZsGreenを注射した群(対照群)であり、Bは、rAAV2/2-最適化hOPA1アイソフォーム2を注射した群(実験群A)である。
図10】異なるプラスミドを注射したウサギの眼球の網膜中のhOPA1タンパク質の相対発現量をリアルタイム蛍光PCRで検出した結果を示す。実験群Aは、rAAV2/2-最適化hOPA1アイソフォーム2を注射した群であり、実験群Bは、rAAV2/2-原型hOPA1アイソフォーム2を注射した群であり、対照群は、rAAV2/2-ZsGreenを注射した群である。
図11】異なるプラスミドを注射したウサギの眼球の網膜中のhOPA1タンパク質をウエスタンブロットで検出した結果を示す。実験群Aは、rAAV2/2-最適化hOPA1アイソフォーム2を注射した群であり、実験群Bは、rAAV2/2-原型hOPA1アイソフォーム2を注射した群であり、対照群は、rAAV2/2-ZsGreenを注射した群である。
図12】ADOA(常染色体優性視神経萎縮)のモデルマウスの構築を示す。
図13】ADOA(常染色体優性視神経萎縮)の点変異のモデルマウスの遺伝子型を同定したものを示す。
図14】投与後のマウスの網膜中のATP含量の変化を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって検出したものを示す。
図15】透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察されたミトコンドリアの形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0077】
広範かつ徹底的な研究を経て、本発明者らは、組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPase(OPA1)の遺伝子コード配列に対して的を絞った最適化を施す設計を適用し、その結果、哺乳類細胞(ヒト細胞など)におけるOPA1タンパク質の効率的な転写及び効率的な発現に特に適したヌクレオチド配列(配列番号1)を得ると共に、組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseのための組換え発現ベクターを構築している。非最適化コード配列と比較すると、特別に最適化されたOPA1コード配列(配列番号1)の転写効率はわずかに改善しており、加えて、その発現量は5倍超に顕著に増加していることから、この最適化配列が哺乳類細胞(特にヒト細胞)における発現に非常に適しており、ADOA及び他の眼疾患を効果的に治療し得るものであることが実験結果から示されている。本発明は、これに基づいて、本発明者らによって達成されたものである。
【0078】
定義
本開示の理解を容易にするために、ある特定の用語が最初に定義される。本出願で使用される下記の用語はそれぞれ、本明細書にその他の明確な記載がない限り、以下に与えられる意味を有するものとする。他の定義は、本出願を通じて記載される。
【0079】
「約」という用語は、当業者によって決定される特定の値または組成の許容可能な誤差範囲の中に値または組成が含まれることを指し得、このことは、そうした値又は組成がどのように測定又は決定されるかに部分的には依存することになる。例えば、本明細書で使用される「約100」という表現は、99~101の値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を全て含む。
【0080】
本明細書で使用される「含む(comprising)」または「含む(including(含む(containing)))」という用語は、オープン、半クローズド、及びクローズドであり得る。換言すれば、これらの用語は、「から本質的になる」、又は「からなる」も含む。
【0081】
配列同一性は、所定の比較領域(参照ヌクレオチド配列または参照タンパク質の長さの50%、60%、70%、80%、90%、95%、または100%であり得る)に沿ってアライメントされた2つの配列を比較し、同一の残基が出現する位置の数を決定することによって決定される。通常、配列同一性は、パーセントとして表現される。ヌクレオチド配列の配列同一性の測定は、当業者によく知られる方法である。
【0082】
本明細書で使用される「対象」及び「それを必要とする対象」という用語は、任意の哺乳類または非哺乳類を指す。哺乳類には、限定されないが、ヒト、脊椎動物(げっ歯類、非ヒト霊長類、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、及びヤギなど)が含まれる。
【0083】
OPA1(視神経萎縮1)
本明細書で使用される「(組換え)ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPase」、「視神経萎縮タンパク質1」、「OPA1(タンパク質)」、「hOPA1(タンパク質)」、「ポリペプチド」、「本発明のポリペプチド」、及び「本発明のタンパク質」という用語は、同じ意味を有し、本明細書で互換的に使用され得る。OPA1は、ミトコンドリア内膜に位置するGTPase活性を有する膜貫通タンパク質であり、このタンパク質は、ミトコンドリア移入配列(MIS)を有するN末端膜貫通領域と、膜貫通領域(TR)及び疎水性領域(HR)と、GTPaseドメインと、中央ダイニンドメインと、GTPaseエフェクタードメイン(GED)を有するC末端と、を含む。OPA1のMISポリペプチドを機能は、GTPタンパク質をミトコンドリアに導くことである。
【0084】
ADOAは、ミトコンドリア内膜タンパク質をコードする遺伝子及び遺伝子座が変異することによって誘発され、こうした遺伝子が主にOPA1~OPA8であることが国外の学者によって決定されている。OPA1~OPA8の中で、ADOA患者の約75%が、OPA1が保有するヘテロ接合型優性変異と関連することが初期に確認されており、エクソン740及びエクソン2794にこうした部位変異が生じることが最も一般的である。OPA1タンパク質は、ミトコンドリア内膜に位置し、エネルギー代謝及びアポトーシスを制御し、クリステ及びmtDNAの完全性を維持し、GTPase活性を有する。変異OPA1がコードするタンパク質は、完全なGTPaseドメインには通常は満たないさまざまな短縮型のものであり、このことはアレルの欠失に相当し、これによってOPA1の量が大きく減少する結果、いわゆるハプロタイプ不全を招くことでミトコンドリア機能が損なわれることがADOAの発症機序である。断片化したミトコンドリアは、ATPを視神経細胞に正常に供給できず、RGC細胞が徐々にアポトーシスを起こし、これによって患者がADOAを発症する。
【0085】
アデノ随伴ウイルス
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、アデノ随伴ウイルスとしても知られ、Parvoviridae科のDependovirus属に属する。AAVは、これまでに発見された中で最も単純な型の一本鎖DNA不完全ウイルスであり、その複製にはヘルパーウイルス(通常はアデノウイルス)が関与する必要がある。AAVは、両末端に位置する逆位反復配列(ITR)中にcap遺伝子及びrep遺伝子をコードする。ITRは、ウイルスの複製及びパッケージングにおいて決定的な役割を果たす。cap遺伝子は、ウイルスカプシドタンパク質をコードし、rep遺伝子は、ウイルス複製及び組み込みに関与する。AAVは、さまざまな細胞に感染し得る。
【0086】
組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)は、非病原性野生型アデノ随伴ウイルスに由来する。rAAVは、良好な安全性、宿主細胞の範囲の広さ(分裂細胞及び非分裂細胞)、免疫原性の低さ、インビボで外来遺伝子を長期的に発現させる能力、及び他の特徴を有することから、最も有望な遺伝子導入ベクターの1つと見なされており、遺伝子治療及びワクチン研究において世界的に広く使用されている。10年を超える研究を経て、組換えアデノ随伴ウイルスの生物学的特徴は深く理解されており、特に、さまざまな細胞、組織、及びインビボ実験におけるその適用効果の側面において多くのデータが蓄積している。医学的な研究では、rAAVは、さまざまな疾患のための遺伝子治療の研究(インビボ実験及びインビトロ実験を含む)において使用されている。同時に、rAAVは、特徴的な遺伝子導入ベクターとして、遺伝子機能研究、疾患モデル構築、及び遺伝子ノックアウトマウスの調製、ならびに他の局面においても広く使用されている。
【0087】
本発明の好ましい実施形態では、ベクターは、組換えAAVベクターである。AAVは、それが感染する細胞のゲノムに安定的かつ部位特異的な様式で組み込まれ得る比較的小さなDNAウイルスである。AAVは、細胞の増殖、形態、または分化に全く影響を及ぼすことなく幅広い範囲の細胞に感染する能力を有し、ヒト病理に関与しないものと思われる。AAVのゲノムは、クローニングされ、シークエンシングされ、特徴付けられている。AAVは、約4,700の塩基を含み、約145塩基の末端逆位反復(ITR)領域を各末端に含む。この領域は、ウイルスの複製起点として働く。ゲノムの残部は、カプシド形成機能を有する2つの重要な領域に分かれる:ウイルス複製及びウイルス遺伝子発現に関与するrep遺伝子を含むゲノム左側部分、ならびにウイルスカプシドタンパク質をコードするcap遺伝子を含むゲノム右側部分。
【0088】
AAVベクターは、当該技術分野の標準的な方法を使用して調製され得る。任意の血清型のアデノ随伴ウイルスが適している。ベクターを精製するための方法は、例えば、米国特許第6,566,118号、同第6,989,264号、及び同第6,995,006号において見つけることができ、これらの文献の開示内容は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。ハイブリッドベクターの調製は、例えば、PCT出願第PCT/US2005/027091号に記載されており、当該文献の内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。インビトロ及びインビボでの遺伝子導入のためのAAV由来のベクターの使用についての説明はなされている(例えば、国際特許出願公開公報第WO91/18088号及び同第WO93/09239号、米国特許第4,797,368号、同第6,596,535号、及び同第5,139,941号、ならびに欧州特許第0,488,528号を参照のこと(これらの文献はすべて、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる))。こうした特許刊行物では、rep遺伝子及び/またはcap遺伝子を欠失させ、目的遺伝子によって置き換えた様々なAAV由来コンストラクト、並びにこうしたコンストラクトを目的遺伝子のインビトロでの輸送(培養細胞への移入)及びインビボでの輸送(生物体への直接的な移入)に使用することについて記載されている。複製欠損型組換えAAVは、ヒトヘルパーウイルス(アデノウイルスなど)を感染させた細胞株に下記のプラスミドを共トランスフェクションすることによって調製され得る:2つのAAV末端逆位反復(ITR)領域が隣接する目的核酸配列を含むプラスミド、ならびにAAVカプシド形成遺伝子(rep遺伝子及びcap遺伝子)を保有するプラスミド。その後、得られたAAV組換え体が、標準的な手法によって精製される。
【0089】
いくつかの実施形態では、組換えベクターは、カプシド形成に供されてウイルス粒子(例えば、限定されないが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAV14、AAV15、及びAAV16を含む)とされる。したがって、本開示は、本明細書の記載のベクターのいずれかを含む組換えウイルス粒子(それが組換えポリヌクレオチドを含むことから、組換えと呼ばれる)を含む。そのような粒子の生成方法は、当該技術分野で知られており、米国特許第6,596,535号に記載されている。
【0090】
核酸コード配列
本発明が解決すべき技術的課題は、先行技術では組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの発現量が低く、治療効果が不十分であるという技術的欠点を克服することである。本発明の目的は、組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの最適化遺伝子配列を提供することである。組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの遺伝子は、配列番号1に示されるサイズが2,775bpの最適化CDSヌクレオチド配列(コドンATGから始まり、924アミノ酸をコードする)を有し、当該配列中、1~288bpは、OPA1-MISのコード配列(GTPタンパク質がミトコンドリアに入ってその生理学的機能を発揮するように導く働きをするアミノ酸数96のペプチド鎖をコードする)であり、289~2,772bpは、GTP機能性タンパク質として働くアミノ酸数828のペプチド鎖をコードし、最後の3bpは、終止コドンである。本発明の最適化OPA1遺伝子配列(配列番号1)は、OPA1タンパク質の発現効率を高め、患者の視神経節細胞において生理学的役割を担うOPA1タンパク質の存在量が増えることが研究によって明らかとなっている。
【0091】
本発明のヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードする核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1に示される。別の好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列との同一性が≧95%、好ましくは≧98%、より好ましくは≧99%であるものである。本発明では、ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードする核酸は、OPA1-最適化遺伝子またはOPA1-最適化核酸とも呼ばれる。
【0092】
本発明のポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAの形態ものであり得る。別の好ましい実施形態では、ヌクレオチドは、DNAである。DNAの形態には、cDNA、ゲノムDNA、または合成DNAが含まれる。DNAは、一本鎖または二本鎖であり得る。DNAは、コード鎖または非コード鎖であり得る。本発明のヌクレオチド配列は、配列番号3に示されるアミノ酸配列をコードする。OPA1-MISシグナルペプチドは、タンパク質がミトコンドリアに入るように導き、プロテアーゼによる加水分解を受けた後、成熟OPA1アイソフォーム2タンパク質がミトコンドリアに入って役割を果たす。
【化1】
【0093】
核酸配列は、DNA、RNA、cDNA、またはPNAであり得る。核酸配列は、ゲノム、組換え、または合成のものであり得る。核酸配列は、単離または精製されたものであり得る。核酸配列は、一本鎖または二本鎖であり得る。好ましくは、核酸配列は、本明細書に記載の感光性タンパク質をコードすることになる。核酸配列は、クローニングによって得ることができ、こうしたクローニングは、例えば、制限酵素消化、ライゲーション、及びゲル電気泳動を含む標準的な分子クローニング技術を使用して行われ、こうした分子クローニング技術は、例えば、Sambrook et al.Molecular Cloning:A laboratory manual,Cold Spring Harbour Laboratory Pressに記載されている。核酸配列は単離することができ、この単離は、例えば、PCR技術を使用して行わる。単離は、任意の不純物から核酸配列が分離されており、当該核酸配列の供給源では当該核酸配列と結び付いた状態で天然には見られる他の核酸配列及び/またはタンパク質から当該核酸配列が分離されていることを意味する。好ましくは、核酸配列は、細胞物質、培養培地、または精製/生成過程に由来する他の化学物質も含まないことになる。核酸配列は、合成のものであり得、例えば、直接的な化学合成によって生成される。核酸配列は、ネイキッド核酸として提供され得るか、またはタンパク質もしくは脂質との複合体として提供され得る。
【0094】
本発明の全長ヌクレオチド配列またはその断片は、通常、PCR増幅方法、組換え方法、または人工的な合成方法によって得ることができる。PCR増幅方法については、公開された関連ヌクレオチド配列、特にオープンリーディングフレーム配列に従ってプライマーを設計することができ、商業的に利用可能なcDNAライブラリーまたは当業者に知られる従来の方法によって調製されるcDNAライブラリーをテンプレートとして使用することができ、関連配列は、増幅によって得られる。配列が比較的長い場合、2種類以上のPCR増幅を実施した後、個々の増幅断片を正しい順序で繋ぎ合わせることが必要な場合が多い。現在では、発明のポリペプチド(またはその断片もしくは誘導体)をコードするDNA配列を化学合成によって完全に得ることができる。その後、当該技術分野で知られるさまざまな現存DNA分子(またはベクターなど)及び細胞にDNA配列を導入することができる。
【0095】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、及び本発明のベクターまたはポリペプチドコード配列を使用して遺伝子操作によって生成される宿主細胞にも関する。上述のポリヌクレオチド、ベクター、または宿主細胞は、単離されたものであり得る。
【0096】
本明細書で使用される「単離された」は、物質がその元の環境(物質が天然物質である場合、元の環境は天然環境を指す)から分離されていることを指す。例えば、生細胞中で天然状態にあるポリヌクレオチド及びポリペプチドは、分離及び精製されていないが、同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドでも、天然状態では共存する他の物質からそれが分離されているなら、そうしたポリヌクレオチドまたはポリペプチドは分離及び精製されている。
【0097】
本発明の好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列は、配列番号1に示されるものである。
【0098】
関連配列が得られると、組換え方法を使用して関連配列を大規模に得ることができる。このことは、通常、関連配列をベクターにクローニングした後、ベクターを細胞に導入し、次に、従来の方法によって増殖させた宿主細胞から関連配列を単離することによって行われる。
【0099】
さらに、人工的な合成方法を使用して関連配列を合成することもでき、この合成は、特に、当該断片の長さが短い場合に可能である。通常、非常に長い配列を有する断片は、複数の小さな断片を最初に合成した後、それらの断片をライゲーションすることによって得ることができる。
【0100】
本発明の遺伝子を得るには、好ましくは、PCR技術を使用してDNA/RNAを増幅する方法が使用される。PCRに使用されるプライマーは、本明細書に開示の本発明の配列情報に従って適切に選択され得ると共に、従来の方法によって合成され得る。増幅されたDNA/RNA断片は、従来の方法(ゲル電気泳動など)によって分離及び精製され得る。
【0101】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、本発明のベクターまたはタンパク質コード配列を使用して遺伝子操作によって生成される宿主細胞、及び組換え技術を介して宿主細胞を使用してOPA1タンパク質を発現させるための方法にも関する。
【0102】
本発明のOPA1タンパク質を発現する宿主細胞(哺乳類細胞など)は、従来の組換えDNA技術を介して本発明のポリヌクレオチド配列を使用して得ることができる。一般に、本発明の第1の態様に記載のポリヌクレオチドまたは本発明の第3の態様に記載のベクターを宿主細胞に導入するステップが含められる。
【0103】
本発明のポリペプチドをコードするDNA配列、及び適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターの構築には、当業者によく知ら得る方法が使用され得る。こうした方法には、インビトロの組換えDNA技術、DNA合成技術、及びインビボの組換え技術が含まれる。DNA配列は、発現ベクター中の適切なプロモーターに有効に連結されてmRNA合成を導き得る。発現ベクターは、翻訳開始のためのリボソーム結合部位、及び転写ターミネーターも含む。
【0104】
さらに、発現ベクターは、好ましくは、形質転換された宿主細胞を選択するための表現型形質を与えるための1つ以上の選択可能マーカー遺伝子を含み、こうしたものは、真核細胞培養のためのジヒドロ葉酸還元酵素、ネオマイシン耐性、及び緑色蛍光タンパク質(GFP)、またはE.coliについては、テトラサイクリン耐性またはアンピシリン耐性などである。
【0105】
上記の適切なDNA配列及び適切なプロモーターまたは制御配列を含むベクターは、適切な宿主細胞の形質転換に使用することができ、その結果、当該宿主細胞は、ポリペプチドを発現するようになり得る。
【0106】
宿主細胞は、原核細胞、下等真核細胞、または高等真核細胞(哺乳類細胞(ヒト細胞及び非ヒト哺乳類細胞を含む)など)であり得る。代表的な例は、動物細胞(CHO細胞、NSO細胞、COS7細胞、または293細胞など)である。本発明の好ましい実施形態では、293T細胞、光受容細胞(錐体細胞及び/または桿体細胞を含む)、他の視細胞(双極細胞など)、ならびに神経細胞が宿主細胞として選択される。別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、桿体細胞、錐体細胞、オン型双極細胞、オフ型双極細胞、水平細胞、神経節細胞、アマクリン細胞、またはそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。
【0107】
組換えDNAを使用する宿主細胞の形質転換は、当業者によく知られる従来の手法によって実施され得る。宿主が原核生物(Escherichia coliなど)である場合、対数増殖期を選び、CaCl2法による処理を経て、DNAを受け入れる能力を有するコンピテント細胞を収集することができ、この過程において使用される関連ステップは当該技術分野でよく知られている。別の方法は、MgCl2を使用するものである。必要に応じて、電気穿孔によって形質転換を実施することもできる。宿主が真核生物である場合、下記のDNAトランスフェクション方法が選択され得る:リン酸カルシウム共沈殿法、及び従来の機械的方法(マイクロインジェクション、電気穿孔、リポソームパッケージングなど)。
【0108】
得られる形質転換体は、本発明の遺伝子によってコードされるタンパク質を発現するように従来の方法によって培養され得る。培養において使用される培地は、使用される宿主細胞に応じて、さまざまな従来の培養培地から選択され得る。培養は、宿主細胞の増殖に適した条件の下で実施される。宿主細胞が増殖して適切な細胞密度に達した時点で、適切な方法(温度変換または化学的誘導など)を使用して選択プロモーターでの誘導が行われ、細胞の培養がさらに一定期間行われる。
【0109】
上記の方法では、ポリペプチドは、細胞内もしくは細胞膜上に発現するか、または細胞外に分泌され得る。必要に応じて、タンパク質の物理的特性、化学的特性、及び他の特性を使用してさまざまな分離方法によってタンパク質が分離及び精製され得る。こうした方法は、当業者によく知られている。こうした方法の例としては、限定されないが、従来の再生処理、タンパク質沈殿剤を用いる処理(塩析方法)、遠心分離、浸透による細胞破壊、超音波処理(ultra-treatment)、超遠心分離、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、及びさまざまな他の液体クロマトグラフィー手法、ならびにこうした方法の組み合わせが挙げられる。
【0110】
配列の最適化
本発明では、哺乳類細胞での発現に特に適した組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの最適化コード配列が提供され、このコード配列は、配列番号1に示される。
【0111】
本明細書で使用される「最適化されたOPA1コード配列」及び「最適化されたOPA1コード遺伝子」は、組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードするヌクレオチド配列を指し、このヌクレオチド配列は、配列番号3に示されるアミノ酸配列をコードする。
【0112】
本発明では、組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの野生型DNAコード配列(非最適化DNAコード配列)は配列番号2に示される。この非最適化野生型DNAコード配列の発現量は非常に少ない。
【0113】
野生型Homo sapiens:OPA1アイソフォーム2 CDS 2775bp
【化2】
【0114】
本発明では、遺伝子発現及びタンパク質局在化に影響を与える配列断片が最適化されており、こうした配列断片の最適化には、限定されないが、コドン使用頻度の偏り、発現の妨げになる二次構造(ヘアピン構造など)の除去、ならびにGC含量の変更、CpGジヌクレオチドの含量の変更、mRNAの二次構造の変更、潜在性スプライス部位の変更、初期ポリアデニル化部位の変更、配列内リボソーム進入部位及び配列内リボソーム結合部位の変更、負のCpGアイランドの変更、RNAの不安定領域の変更、反復配列(直列反復配列、逆位反復配列など)の変更、及びクローニングに影響し得る制限酵素認識部位の変更、が含まれる。配列番号1に示される特別に最適化されたDNAコード配列は、分析及び実験的スクリーニングを介して最終的に得られたものである。この配列は特別に最適化されており、その結果、その転写レベルはわずかに上昇し、その発現量は顕著に増加する。配列番号1に示される特別に最適化されたコード配列と、配列番号2に示される野生型コード配列との類似性は72.25%(2005/2775)であり、このことは図1に示される。
【0115】
最適化Homo sapiens:OPA1アイソフォーム2 CDS 2775bp
【化3】
【0116】
融合核酸
本発明は、本発明の第1の態様に記載のヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードする核酸配列を含む融合核酸も提供する。
【0117】
本明細書で使用される「融合核酸」は、異なる供給源に由来する2つ以上のヌクレオチド配列をライゲーションすることによって形成される核酸を指すか、または同じ供給源に由来する2つ以上のヌクレオチド配列を、それらの天然での配置とは異なるように互いにライゲーションすることによって形成される核酸を指す。
【0118】
別の好ましい実施形態では、融合核酸は、UTR配列、プロモーター配列、またはそれらの組み合わせ、からなる群から選択される配列をさらに含む。
【0119】
好ましくは、融合核酸は、ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードする核酸に機能可能なように連結されたUTR配列を有する。
【0120】
別の好ましい実施形態では、UTR配列は、3’-UTR及び/または5’-UTRを含む。
【0121】
別の好ましい実施形態では、UTR配列は、構造を安定化させるためのポリA配列を含む。
【0122】
別の好ましい実施形態では、融合核酸は、5’末端から3’末端の向きで式I:
Z1-Z2-Z3(I)
の構造を有し、
式中、
それぞれの「-」は、独立して、結合またはヌクレオチドリンカー配列であり、
Z1は、5’-UTR配列であり、
Z2は、本発明の第1の態様に記載のヌクレオチド配列であり、
Z3は、3’-UTR配列である。
【0123】
発現ベクター及び宿主細胞
本発明は、OPA1タンパク質のための発現ベクターも提供し、この発現ベクターは、本発明の最適化されたOPA1コード配列を含む。
【0124】
当業者なら、提供される配列情報を用いれば、利用可能なクローニング手法を使用して細胞への形質導入に適した核酸配列またはベクターを得ることができる。
【0125】
好ましくは、OPA1タンパク質をコードする核酸配列は、ベクターとして提供され、好ましくは、発現ベクターとして提供される。好ましくは、OPA1タンパク質をコードする核酸配列は、遺伝子治療ベクターとして提供され得、好ましくは、網膜標的細胞における形質導入及び発現に適した遺伝子治療ベクターとして提供され得る。こうしたベクターは、ウイルス性または非ウイルスのもの(例えば、プラスミド)であり得る。ウイルスベクターには、下記のウイルスに由来するものが含まれる:アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)(変異形態を含む)、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、MMLV、GaLV、サル免疫不全ウイルス(SIV)、HIV、ポックスウイルス、及びSV40。ウイルスベクターは複製欠損型であり得ると想定されるが、好ましくは、そうしたウイルスベクターは複製欠陥型であり、そうしたウイルスベクターは複製する能力を有するか、または条件的に複製する能力を有する。ウイルスベクターは、通常、標的網膜細胞のゲノムに組む込まれることなく染色体外に存在する状態を維持し得る。OPA1タンパク質をコードする核酸配列を網膜標的細胞に導入する上で好ましいウイルスベクターはAAVベクター(自己相補型アデノ随伴ウイルス(scAAV)など)である。特定のAAV血清型(AAV血清型2~AAV血清型12)またはこうした血清型のいずれか1つの改変バージョン(AAV 4YFベクター及びAAV 7m8ベクターを含む)を使用することで、選択的標的化を達成することができる。
【0126】
ウイルスベクターは、任意の不要な配列が欠失するように改変され得る。例えば、AAVに関しては、IX遺伝子、E1a遺伝子、及び/またはE1b遺伝子のすべてまたは一部が欠失するようにウイルスが改変され得る。野生型AAVについては、ヘルパーウイルス(アデノウイルスなど)が存在しなければ、その複製効率は非常に低い。組換えアデノ随伴ウイルスについては、好ましくは、複製遺伝子及びカプシド遺伝子はトランス(pRep/Capプラスミド)で提供され、AAVゲノムの2つのITRのみが残され、ビリオンにパッケージングされる一方で、必要なアデノウイルス遺伝子は、アデノウイルスまたは別のプラスミドによって提供される。同様の改変をレンチウイルスベクターに施すこともできる。
【0127】
ウイルスベクターは、細胞に入る能力を有する。一方で、非ウイルスベクター(プラスミドなど)については、それを薬剤と混合することで、標的細胞によるウイルスベクターの取り込みを促進させることができる。そのような薬剤には、ポリカチオン性の薬剤が含まれる。任意選択で、送達系(リポソームベースの送達系など)が使用され得る。本発明において使用するためのベクターは、好ましくは、インビボまたはインビトロでの使用に適するものであり、好ましくは、ヒトでの使用に適するものである。
【0128】
ベクターは、好ましくは、網膜標的細胞において核酸配列が発現するように導くための制御配列を1つ以上含むことになる。こうした制御配列には、核酸配列に機能可能なように連結されたプロモーター、エンハンサー、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列、複製起点、核酸制限酵素認識部位、及び相同組換え部位が含まれ得る。ベクターは、選択可能マーカーも含み得、これによって、例えば、増殖系(例えば、細菌細胞)または網膜標的細胞でのベクターの発現が決定される。
【0129】
「機能可能なように連結された」は、核酸配列が、それが機能可能なように連結された配列と機能的に関連し、その結果、それらの配列が互いの発現または機能に影響を及ぼす様式で連結されていることを意味する。例えば、プロモーターに機能可能なように連結された核酸配列は、その発現パターンが当該プロモーターによって影響を受けることになる。
【0130】
プロモーターは、その連結対象である核酸配列の発現を媒介する。プロモーターは、構成的または誘導性であり得る。プロモーターは、内部網膜細胞における遍在性の発現または神経細胞特異的な発現を生じさせ得る。後者の場合、プロモーターは、細胞型特異的な発現(例えば、視神経節細胞に特異的な発現)を生じさせ得る。当業者なら適切なプロモーターの知見を有しているであろう。例えば、適切なプロモーターは、L7、thy-1、リカバリン、カルビンジン、ヒトCMV、GAD-67、ニワトリβ-アクチン、hSyn、Grm6、及びGrm6エンハンサーSV40融合タンパク質からなる群から選択され得る。標的化は、細胞特異的プロモーターを使用して達成され得る。こうした細胞特異的プロモーターは、視神経細胞を選択的に標的とするためのGrm6-SV40などである。このGrm6プロモーターは、Grm6遺伝子の200塩基対のエンハンサー配列とSV40真核生物プロモーターとの融合体であり、Grm6遺伝子は、mGluR6(視神経細胞に特有の代謝型グルタミン酸受容体)をコードする。Grm6遺伝子の好ましい供給源は、マウス及びヒトである。遍在性の発現は、幅広い型の神経細胞において機能するプロモーターを使用して達成することができ、こうしたプロモーターの例は、当該技術分野で知られており、利用可能である。そのような例の1つはCAGである。CAGプロモーターは、CMV初期エンハンサーとニワトリβ-アクチンプロモーターとの融合体である。
【0131】
適切なプロモーターの一例は、前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。このプロモーター配列は、それが機能可能なように連結される任意のポリヌクレオチド配列を高いレベルで発現させる能力を有する強力な構成的プロモーター配列である。適切なプロモーターの別の例は、伸長成長因子-1α(EF-1α)である。しかしながら、他の構成的プロモーター配列が使用されることもあり得、こうした構成的プロモーター配列には、限定されないが、サルウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長鎖末端反復配列(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイルス前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにヒト遺伝子プロモーター(限定されないがアクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘムプロモーター、及びクレアチンキナーゼプロモーターなど)が含まれる。さらに、本発明は、構成的プロモーターの適用に限定されるべきものではない。誘導性プロモーターもまた、本発明の一部と見なされる。誘導性プロモーターを使用することで、誘導性プロモーターに機能可能なように連結されたポリヌクレオチド配列の発現を、そのような発現が望まれるときにオンにし、当該発現が望まないときには当該発現をオフにすることが可能な分子スイッチが得られる。誘導性プロモーターの例としては、限定されないが、メタロチオネインプロモーター、糖質コルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、及びテトラサイクリンプロモーターが挙げられる。
【0132】
哺乳類細胞(好ましくはヒト細胞、より好ましくはヒト視神経細胞、または光受容細胞)におけるOPA1タンパク質の発現には、多くの発現ベクターを使用することができる。本発明では、好ましくは、アデノ随伴ウイルスが発現ベクターとして使用される。
【0133】
本発明は、組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの遺伝子を組換えで適用するためのアデノ随伴ウイルスベクターを構築するための方法も提供し、この方法は、組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの遺伝子を保有する組換えアデノ随伴ウイルスベクターの迅速かつ容易な構築を可能にするものであり、これがパッケージングされることで複製欠陥型アデノ随伴ウイルスベクターが得られる。
【0134】
本発明は、OPA1タンパク質を発現させるための宿主細胞も提供する。好ましくは、宿主細胞は、OPA1タンパク質の発現量を増加させる哺乳類細胞(好ましくはヒト細胞、より好ましくはヒト視神経細胞、または光受容細胞)である。
【0135】
調製物及び組成物
本発明は、(a)本発明の第3の態様によるベクターと、(b)医薬的に許容可能な担体または医薬品添加物と、を含む調製物または組成物を提供する。
【0136】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物は、眼疾患の治療に使用される。
【0137】
別の好ましい実施形態では、医薬調製物は、遺伝性視神経症の治療に使用され、好ましくは常染色体優性視神経萎縮(ADOA)の治療に使用される。
【0138】
本発明に記載の医薬組成物中の「活性成分」は、本発明のベクター(ウイルスベクター(アデノ随伴ウイルスベクターを含む)など)を指す。本発明に記載の「活性成分」、調製物、及び/または組成物は、眼疾患の治療に使用され得る。「安全かつ有効な量」は、重篤な副作用を生じさせることなく活性成分が病状または症状を明らかに改善し得る量を意味する。「医薬的に許容可能な担体または医薬品添加物」は、ヒトへの使用に適しており、さらには純度が十分であり、毒性が十分に低いものでなくてはならない1つ以上の適合性の固体または液体の賦形剤またはゲル物質を意味する。本明細書に記載の「適合性」は、組成物中の個々の成分が本発明の活性成分と組み合わさり、活性成分の薬物効果を明らかに低減することなく互いに組み合わさり得ることを意味する。
【0139】
組成物は、液体または固体(粉末、ゲル、またはペーストなど)であり得る。好ましくは、組成物は、液体であり、好ましくは注射用液体である。当業者なら、適切な医薬品添加物の知見を有しているであろう。
【0140】
本発明では、担体は、網膜下投与または硝子体内投与によって眼に投与され得る。いずれの投与様式でも、担体は、好ましくは、注射用液体として提供される。好ましくは、注射用液体は、カプセルまたはシリンジとして提供される。
【0141】
医薬的に許容可能な担体の例としては、セルロース及びその誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースナトリウム、酢酸セルロース、及び同様のものなど)、ゼラチン、タルク、固体滑沢剤(ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムなど)、硫酸カルシウム、植物油(大豆油、ゴマ油、ピーナッツ油、オリーブ油、及び同様のものなど)、ポリオール(プロピレングリコール、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、及び同様のものなど)、乳化剤(Tween(登録商標)など)、湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウムなど)、着色剤、香味剤、安定化剤、抗酸化剤、保存剤、発熱性物質非含有水、ならびに同様のものが挙げられる。
【0142】
組成物には、生理学的に許容可能な滅菌水溶液もしくは滅菌非水溶液、分散液、懸濁液、または乳濁液、及び注射用の滅菌溶液または滅菌分散液へと再構成するための滅菌粉末が含まれ得る。適切な水性及び非水性の担体、希釈剤、溶媒、または医薬品添加物には、水、エタノール、ポリオール、及びそれらの適切な混合物が含まれる。
【0143】
本発明によって提供されるOPA1をコードする核酸または融合核酸は、インビトロまたはインビボでOPA1タンパク質またはOPA1融合タンパク質を生成し得、融合タンパク質、または融合タンパク質を含む調製物を使用して、常染色体優性視神経萎縮(ADOA)を治療するための薬物が調製され得る。
【0144】
ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseをコードする最適化核酸は、その発現量が高まり、それによって、翻訳されるOPA1タンパク質が増加するものであり、最適化OPA1タンパク質中のMIS配列は、GTP機能性タンパク質がミトコンドリアに入るように正確に導き得るものであり、それ故に、ミトコンドリアにトランスフェクションされるGTPaseが増加する。本発明の核酸を含む薬剤は、ウサギの眼の硝子体腔に注射され、薬剤は、硝子体腔中の活性を維持し、核酸は、視神経細胞にトランスフェクションされる。先行技術と比較すると、OPA1をコードする最適化核酸から発現するOPA1タンパク質は増加しており、これによって、常染色体優性視神経萎縮(ADOA)をより良く治療することができる。
【0145】
先行技術と比較すると、本発明は、主に、下記の利点を有する:
1.本発明の組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPase(OPA1)の遺伝子コード配列は、OPA1中のMISコード配列及びGTPaseドメインコード配列の最適化を含めて、特別に最適化されている。OPA1の非最適化DNAコード配列と比較して、発現量は顕著に増加し、ミトコンドリアにトランスフェクションされるOPA1タンパク質は増加する。最適化配列では、OPA1タンパク質の発現量が顕著に増加し、OPA1タンパク質が高い生物学的活性を有することが確保される。
2.本発明の最適化OPA1コード遺伝子(配列番号1)または融合核酸は、良好な安全性を伴って常染色体優性視神経萎縮(ADOA)を効果的に治療し得る。
3.本発明は、II型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの遺伝子の不活性化に基づくADOAの非ヒト哺乳類モデルを提供し、このモデルは、網膜ATP含量の低下及びミトコンドリアのアポトーシス性変化を含めて、常染色体優性視神経萎縮(ADOA)と同様の病理学的徴候を示し、常染色体優性視神経萎縮(ADOA)についての実験的研究、評価、または薬物スクリーニングに使用できるものである。
4.本発明によって提供されるrAAV2-hOPA1組換えアデノ随伴ウイルスは、ADOA(常染色体優性視神経萎縮)の点変異のモデルマウスの病状に対して顕著かつ効果的な改善作用を有し、改善作用を継続的に与えることができ、単回投与から3ヶ月で、モデルマウスにおける当該疾患の影響を完全かつ効果的に好転させることができるものである。
【実施例
【0146】
本発明は、下記の具体的な実施例と関連付けてさらに例示される。こうした実施例は、単に、本発明の例示にすぎず、本発明の範囲の限定を意図するものではないことを理解されたい。下記の実施例において具体的に記載されない特定の条件を伴う実験方法は、一般に、従来の条件(Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載の条件など)に従うものであるか、または製造者によって推奨される条件に従うものである。パーセント及び分率はすべて、別段の指定がない限り、重量によって計算されたものである。
【0147】
実施例1 組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの遺伝子のための組換えアデノ随伴ウイルスベクターの構築、ならびにそのウイルスパッケージング方法及び精製方法
【0148】
1.ヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルスベクターの構築
【0149】
1)ベクターの構築
組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの特別に最適化された遺伝子(配列番号:1)に対して2つの制限酵素消化部位(KpnI及びSalI)を追加した。あるいは、この新規の遺伝子に沿ってプライマーを設計して当該遺伝子をPCRによって増幅することで産物を得た。この産物及びpSNaVプラスミドベクターを、KpnI及びSalIでの二重消化にそれぞれ供し、消化産物を回収し、T4 DNAリガーゼを用いて一晩ライゲーションした。ライゲーション産物でコンピテント細胞の形質転換を行うことで、組換えpSNaV/rAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2を得た(図2)。
【0150】
2)組換え体のスクリーニング及び同定
37℃での培養後、青色プラーク及び白色のプラークがLBプレート上に現れ、白色のプラークを組換えクローンとした。白色のコロニーをピッキングして取り出し、100mg/Lのアンピシリンを含むLB液体培地に添加し、37℃、200rpmで8時間培養した。培養した細菌懸濁物からプラスミドを抽出し、プラスミド抽出ステップでは、Biomigaの説明を参照した。プラスミド1μLをテンプレートとし、以下の特別なプライマーを使用した:
1F:5’-ATGTGGCGACTACGTCG-3’(配列番号4);
1R:5’-TTATTTCTCCTGATGAAGAG-3’(配列番号5);
【表1】
【0151】
PCR産物を電気泳動によって検出した。結果を図3に示される。サイズが約3000bpの目的のバンドを得た。同定の結果、クローンが目的遺伝子を含むことが示された。
【0152】
3)細菌懸濁物の保存、PCR増幅、及びその断片シークエンシング
同定した細菌懸濁物1mLを滅菌グリセロールと1:3の比でピペッテイングして混合し、-80℃で保存した。細菌懸濁物をシークエンシングに供し、シークエンシングによって得られた配列を、組換えヒトII型ミトコンドリアダイニン様GTPaseの遺伝子とアライメントし、正しい配列を有する組換えアデノ随伴ウイルスプラスミドpSNaV/rAAV2/2-hOPA1を得ることに成功した(図4)。
【0153】
2.rAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2組換えアデノ随伴ウイルスのエンベロープ形成
【0154】
1)トランスフェクションの前日に、225cmの細胞培養フラスコに3.0×10個細胞/mLの播種密度で293T細胞を播種し(DMEM+10%ウシ血清を培地とした)、5%COを含むインキュベーター中、37℃で一晩培養した。
【0155】
2)トランスフェクションの日に培地を交換し、新鮮なウシ血清10%含有DMEM培地を用いて培養を継続した。細胞が80~90%に増殖した時点で培養培地を捨て、PlasmidTransII(VGTC)トランスフェクションキットを使用してトランスフェクションを実施した。具体的なステップは下記の通りである:
(a)各トランスフェクションフラスコからプラスミドpAdHelper、プラスミドpAAV-r2c5、及びプラスミドpSNaV-hOPA1を取り出し、必要な比となるように1.5mLの滅菌Epチューブ中でDMEM+PlasmidTransII(VGTC)(トランスフェクション試薬)と混合し、試薬Aと命名した。次に、この試薬Aをそのまま室温で10~15分間保持した。
(b)試薬Aを30mLのDMEM+10%ウシ血清と混合し、試薬Bと命名した。
(c)試薬Bを細胞培養フラスコに均等に添加し、5%COを含むインキュベーター中、37℃で培養を継続した。
(d)トランスフェクションから16時間後に完全培地(DMEM+10%ウシ血清)を添加して培地交換を行った。
【0156】
3)トランスフェクションから48時間後に細胞を収集した。
【0157】
4)収集した細胞をPBS中に懸濁し、凍結解凍処理に3回反復して供した。
【0158】
3.rAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2ウイルスの精製及び濃縮
クロロホルム処理-PEG/NaCl沈殿-クロロホルム抽出という3つのステップを使用してrAAV2/2-hOPA1ウイルスの分離、濃縮、及び精製を行った。総回収率=最終産物中のウイルス粒子数/出発材料中のウイルス粒子数。
【0159】
4.ウイルスの純度及び力価の検証
SDS-PAGE用の分離ゲル及び濃縮ゲルをロードし、その際、分離ゲルの濃度は10%とした。試料15μgを各試料ウェルにそれぞれ添加した。電気泳動後、クマシーブリリアントブルーでゲルを染色し、対応する脱染溶液を用いて、バックグラウンドが下がって明瞭なバンドが出現するまでゲルを脱染した(図5)。
【0160】
結果は図5に示され、VP1/VP2/VP3=1:1:10となり、これらのバンドは明瞭であり、この比は正常であり、不純物バンドは存在せず、純度は99%超であった。
【0161】
rAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2の力価の決定に関しては、蛍光定量的PCR法を用いてrAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2の物理的力価を決定した。
【0162】
実験材料:SYBRII(takara)、目的断片に対するプライマー(20μM)、ウイルスパッケージングのための目的プラスミド(濃度既知)、決定対象のウイルス、PCR8連チューブ(Bio-red)。
【0163】
実験方法:1μlのテンプレート、7μlのSYBRII、0.25μlのプライマー1、及び0.25μlのプライマー2を取り、14μlに達するまでヌクレアーゼ非含有水を添加した。
【0164】
PCR反応条件:予備変性:95℃10分、サイクル:95℃15秒、60℃1分。
【0165】
最終的に、ゲノム力価を1×1012vg/mLと決定した。
【0166】
実施例2:ADOA(常染色体優性視神経萎縮)に対するrAAV2/2-hOPA1組換えアデノ随伴ウイルスの効果に関する実験
【0167】
1.ウサギの眼の硝子体腔への注射
24匹のウサギを3群に分け、これら3群には、実験群A、実験群B、及び対照群を含めた。rAAV2/2-最適化hOPA1アイソフォーム2、rAAV2/2-原型hOPA1アイソフォーム2、及びrAAV-ZsGreenを、それぞれ50μl(1×1012vg/mL)用意し、角膜縁から3mm離れた毛様体の平坦部を刺すことによって硝子体腔に注射した。
【0168】
2.細隙灯検査、眼圧検査、眼底写真検査
2つのウサギ群に対して、それぞれ細隙灯検査及び眼圧検査を、手術から1日目、3日目、7日目、及び30日目に行った。手術から1ヶ月後の眼底写真に示されるように、すべてのウサギについて、明らかな異常、結膜の充血及び分泌物、眼内炎、ならびに眼圧の上昇は認められなかった。
【0169】
この結果は図6に示される:すべてのウサギについて、網膜血管及び視神経に明らかな合併症または損傷は認められず、このことは、硝子体腔への通常の標準的注射が、明らかな炎症反応または他の合併症を誘発しないことを示している。
【0170】
3.網膜の蛍光写真
硝子体腔注射から30日後、ZsGreen群(対照群)の網膜の蛍光写真から、網膜上での良好なGFP発現が示され、このことは、GFPをトランスフェクションしてウサギの眼の硝子体に送り込むためのベクターとしてrAAVが機能したことを示しており、これによって、rAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2組換え遺伝子が網膜上に発現し得ることが実証された。
【0171】
4.hOPA1の免疫蛍光検出
硝子体腔注射から30日後、実験群A及び実験群Bならびに対照群の眼球を剥がし、パラフィン切片とした。これらのパラフィン切片を65℃の乾燥器中に入れて2時間乾燥させ、脱パラフィン処理に供してから水に浸し、PBSで3回(各5分間)すすいだ。切片をEDTA緩衝液に浸してマイクロ波による修復に供した後、中程度の熱で煮沸し、その後に静置して10分間の間隔を空けてから、沸騰に至るまで切片に低度の熱を加え、その後に電源を切った。自然冷却後、切片をPBSで3回洗浄(各5分間)した。切片を3%の過酸化水素溶液に浸し、室温で10分間インキュベートした。切片をPBSで3回洗浄(各5分間)し、スピン乾燥後に5%のBSAで20分間ブロッキングした。BSA溶液を除去した後、希釈した一次抗体を各切片に50μl添加して組織を覆い、4℃で一晩静置した。次に、切片をPBSで3回洗浄(各5分間)した。PBS溶液を除去し、対応する種の蛍光二次抗体を各切片に50μl~100μl添加し、遮光しながら切片を室温で50分~1時間インキュベートした。遮光しながら切片をPBSで3回洗浄(各5分間)した。PBS溶液を除去した。DAPIを各切片に50~100μl添加して、遮光しながら核を5分間染色した。切片をPBSで3回洗浄(各5分間)した。切片がわずかに乾燥した後、抗蛍光消光マウント媒体を切片にマウントし、写真撮影の準備が整うまで遮光しながら4℃で保管した。
【0172】
網膜の抗hOPA1免疫蛍光の結果は図7に示され、実験群Aの蛍光強度は、実験群Bのものと比較して顕著に高く、有意差及び1倍超の増加を伴っていた。実験群Aの網膜上でのhOPA1の発現量は、対照群及び実験群Bのものと比較して有意に高いことが示された。
【0173】
5.OCT検出
実験群A及び実験群Bの網膜神経線維束の厚さは、それぞれ67.55μm及び66.00μmであり、有意差を伴わないことが結果から示された(P>0.05、図8)。
【0174】
6.HE検出
実験群及び対照群における網膜神経節細胞の数は実質的に同じであり、構造は完全なものであることがHEの結果から示され、このことは、rAAV-hOPA1組換え遺伝子が安全であり、網膜に損傷を与えなかったことを示している(図9)。
【0175】
7.hOPA1の発現を検出するためのリアルタイムPCR
最初に、NCBIの保存ドメイン解析ソフトウェアを使用してhOPA1の保存構造を解析することで、設計プライマーを用いて増幅される断片が確実に非保存領域に位置するものとなるようにした。次に、蛍光定量的PCRのプライマー設計原理に従ってPrimer premier5を使用してプライマーを設計した:
【化4】
【0176】
1)RNAの抽出及び逆転写
TRIZOLキットを使用して、異なる実験群のウサギ網膜から全RNAを抽出し、逆転写を実施してcDNAテンプレートを得た。
【0177】
2)蛍光定量的PCRの反応系及び反応手順
Real-time PCR Detection Systemで蛍光定量的PCRを実施した。12.5μLのSYBR Green mix、8μLのddH2O、プライマーペア(各1μL)、2.5μLのcDNA試料を0.2mLのPCR反応チューブに添加し、系全体を25μLとした。目的遺伝子及び内部参照遺伝子(ウサギアクチン)の増幅に各試料を使用し、各遺伝子の増幅は3連で実施した。実際に試料を添加する際には、誤差低減のために、各PCR反応チューブに共通する試薬については、それらの試薬をひとまとめにしてから分注することができる。試料添加完了後に蛍光定量的PCRを実施した。
【0178】
増幅は、下記の反応手順に従って実施した:予備変性95℃1秒、変性94℃15秒、アニーリング55℃15秒、及び伸長72℃45秒のサイクルを全部で40回実施し、各サイクルの伸長段階の間に蛍光シグナルを収集した。反応完了後、94℃~55℃での融解曲線を解析した。
【0179】
2-ΔΔCT相対的定量法(Livak et al.,2001)を使用して遺伝子発現量の差異を調べた。この方法では、標準曲線を作成する必要はなく、ハウスキーピング遺伝子(ウサギアクチン)を内部参照遺伝子として使用した。機器に付属の解析ソフトウェアは、発現値を自動生成することができる。
【0180】
結果は図10に示され、実験群A及び実験群BにおけるhOPA1遺伝子のmRNAの相対発現量は共に、対照群におけるhOPA1遺伝子の相対発現量と比較して多く、実験群AのmRNAの相対発現レベルは、実験群Bのものと比較してわずかに高い。
【0181】
8.hOPA1タンパク質の発現を検出するためのウエスタンブロット
異なる実験群のウサギの眼球の網膜を剥がし、対応する体積のRIPA溶解溶液を100μL/組織50mgとなるように添加した後、ホモジナイザーを用いて均質化し、遠心分離して上清を収集した。BCA法によってタンパク質濃度を決定した後、総タンパク質量が50μgとなるように実験群及び対照群の試料ロード体積を計算し、SDS-PAGEゲル電気泳動及びウエスタンブロットを実施した。抗体とのインキュベート後、ECLでの発色を実施した。
【0182】
結果は図11に示され、ウエスタンブロットによる実験群AのhOPA1の相対発現レベル(1.13)は、実験群Bのもの(0.19)及び対照群のもの(0.05)と比較して有意(有意差P>0.05)に高く、このことは、実験群Aの網膜上のhOPA1の発現レベルが有意に増加したことを示しており、この発現レベルは、実験群B及び対照群のものと比較して、それぞれ約5倍及び22倍高いものであった。
【0183】
実施例3:ADOA(常染色体優性視神経萎縮)に対するrAAV2-hOPA1組換えアデノ随伴ウイルスの長期的効果に関する実験
【0184】
1.マウスの眼の硝子体腔への注射
野生型C57BL/6Jマウスに対して硝子体腔を介する投与を行い、当該マウスを無作為に群分けした(マウス2匹/ケージ)。この投与では、濃度を2E11vg/mlとし、体積を1μLとしてrAAV2/2-OPA1を硝子体下注射によって投与した。投与後、マウスを7日群、15日群、20日群、30日群、45日群、60日群、及び90日群に分けた。指定日に達した時点で、異なる群のマウスを屠殺し、眼球試料を採取し、関連する検出及び解析を実施した。
【0185】
2.hOPA1の発現を検出するためのリアルタイムPCR
実施例2に記載の方法及びステップと同様に、全RNA抽出、RNAの濃度決定及び電気泳動による同定、逆転写、ならびにリアルタイムPCRによる同定を実施した。その際、以下のプライマー配列を使用した:
【化5】
【0186】
以下の反応条件を使用した:予備変性95℃3分、変性95℃10秒、アニーリング60℃15秒、及び伸長72℃25秒のサイクルを40回行う反応手順に従って増幅を実施し、各サイクルの伸長段階の間に蛍光シグナルを収集した。反応完了後、95℃~60℃での融解曲線を解析した。
【0187】
2-ΔΔCT相対的定量法(Livak et al.,2001)を使用して遺伝子発現量の差異を調べた。この方法では、標準曲線を作成する必要はなく、ハウスキーピング遺伝子(アクチン)を内部参照遺伝子として使用した。機器に付属の解析ソフトウェアは、発現値を自動生成することができる。
【0188】
結果は図11に示される:rAAV2-OPA1ウイルスを使用してマウスの眼の硝子体腔への注射を行った後、7日目、15日目、20日目、30日目、45日目、60日目、及び90日目にRT-PCRによって検出した目的遺伝子はすべて、そのレベルが投与前と比較して高まっており、20日目~30日目付近の発現量が最も多かった。
【0189】
実施例4:ADOA(常染色体優性視神経萎縮)のモデルマウスの構築及び同定
【0190】
1.CRISPR/Cas9技術を利用してマウスOPA1 Q285終結点変異導入を実施し、エクソン8(高度に保存されたGTPase領域(エクソン8~16))を変異エクソンとした。NGGで終結する標的を変異部位に設計し、CRISPR/Cas9の作用で切断した。約120bpのドナーをインビトロで構築し、この外来性ドナーを、相同組換えによって切断部位に挿入した。ガイドRNAの設計、OPA1構造、及び設計方針は図12に示される。
【0191】
下記の配列中:コード領域(大文字)、非コード領域(黒色)、及びイントロン領域(小文字)
【化6】
【0192】
2.ADOA(常染色体優性視神経萎縮)のモデルマウスの構築
【0193】
(1)CRISPR-CAS9技術を使用して、OPA1 Q285終結点変異を有する組換えプラスミドを構築した後、相同組換えを介する変異導入に対する選択可能マーカーを有するDNA配列で置き換えてOPA1 Q285終止点変異陽性のモノクローナル胚性幹細胞を得た。
【0194】
(2)ステップ(1)で得たOPA1点変異を有するマウス胚性幹細胞クローンを使用することによってキメラマウスを調製した。
【0195】
(3)ステップ(2)で得たキメラマウスを正常な野生型マウスと交配させた後に繁殖させ、OPA1点変異を有するヘテロ接合型マウスが得られるように子孫をスクリーニングした。
【0196】
(4)ステップ(3)で得られたヘテロ接合型マウスの相互交配によってOPA1 Q(グルタミン)285終結点変異を有するホモ接合型マウスを獲得し、それによってOPA1 Q(グルタミン)285終結点変異のマウスモデルを得た。
【0197】
3.ADOA(常染色体優性視神経萎縮)の点変異のモデルマウスの同定
【0198】
3.1 ゲノムDNAの抽出
【0199】
(1)消化:生後1週間以内のマウスからマウス足指を0.5cm切除し、1.5mlのEPチューブに添加し、軽く遠心分離した後、溶解溶液(製剤:100mMのTris(pH8.0)、5mMのEDTA(pH8.0)、0.5%のSDS、1.17g/100mlのNaCl)を500μl添加し、0.5μlのプロテイナーゼK(20mMのTris(pH7.4)、及び1mMのCaCl、50%のグリセロールを含む緩衝液に20mg/ml濃度で溶解させたもの(-20℃保存))を0.5μl添加し、均一に混合し、水浴中、55℃で一晩消化した。
【0200】
(2)イソプロパノール沈殿によるDNA抽出:
1)水浴ケトルから遠心管を取り出し、室温で10~15分間静置して試料温度を室温にさげ、遠心管を反転させて均一に混合した。13,000rpm、室温での遠心分離を15分間実施した。
2)上清400μlをピペットで別の新たな遠心管に移した。等体積のイソプロパノールを添加し、直ちに遠心管を穏やかに上下に反転させて完全に混合した。白色の綿状沈殿が出現した時点で、12000rpm、室温での遠心分離を10分間実施し、上清を捨てた。
3)氷冷75%エタノールを遠心管に700μl添加して産物をすすぎ、遠心管を穏やかに上下に反転させて均一に混合した。12000rpm、室温での遠心分離を5分間実施し、すべての上清を捨てた。
4)遠心管を反転させて吸収紙上に置いてエタノールを吸収させた。風乾後、DNAを50μlの滅菌ddH2Oに溶解し、55℃で2時間溶解させた(ただちに使用しない場合は-20℃で保存した)。
5)DNAの濃度を決定し、DNAを100~200ng取り分け、PCRテンプレートとして使用した。
【0201】
3.2 プライマー及びPCR反応
PCR増幅を介して、Q285部位を含む核酸増幅産物(長さ530bp)が得られるようにプライマーペアを合成した。
【0202】
3.3 同定結果
マウスの全DNAを抽出し、PCR産物をシークエンシングした。
【0203】
結果は図13に示され、これによって、位置285の塩基CがTに変異していることが示され、このことは、点変異マウスが良好に調製されたことを示している。
【0204】
実施例5:rAAV2-hOPA1組換えアデノ随伴ウイルス用いるADOA(常染色体優性視神経萎縮)の点変異を有するモデルマウスの改善に関する実験
【0205】
1.方法
OPA1変異マウスをマウス2匹/ケージとし、3群に分けた。rAAV-OPAl濃度を2E11vg/ml、投与体積を1μLとして、マウスの硝子体下への注射を行った。1ヶ月後及び3ヶ月後に、異なる群のマウスを屠殺して眼球試料を得た。OPA変異群に1μLのPBSを硝子体下注射し、野生型マウスをマウス2匹/ケージとし、1μLのPBSを硝子体下注射し、対照群とした。ATP含量の変化及びミトコンドリア形態観察について検出及び分析を実施した。
【0206】
2.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による、投与後のマウスの網膜中のATP含量の変化
【0207】
2.1 投与後の野生型マウス及びOPA1変異マウスの網膜を取り出し、予備冷却したPBSで1回洗浄し、液体窒素中に入れた。
【0208】
2.2 ATPの抽出
【0209】
(1)液体窒素粉砕を行った。
【0210】
(2)1mlの氷冷フェノール-TE(DTT含有)、200μlのクロロホルム、及び150μlの超純水を添加した後、4℃で20秒間振とう及び混合して均一化を行い、10,000gでの遠心分離を10分間実施した。
【0211】
(3)水相を200μl取り分け、孔径0.22μmのフィルター膜でろ過し、機器にロードしてATPをHPLCによって検出した。
【0212】
(4)BCA法を使用してタンパク質濃度を決定した。
【0213】
2.3 クロマトグラフィー分析法
クロマトグラフィーカラム:SepaxGP-C18(4.6mm×250mm、5μm)
移動相A:15mMのKH2PO4、15mMのKCL、及びpHを6.0に調整するために使用した0.1MのKOH
移動相B:アセトニトリル含有率15%、移動相A含有率85%とした混合液
ロード体積:20μl
検出波長:254nm
勾配溶出条件:
【表2】
【0214】
結果は図14に示される:対照群のOPA1変異マウスにおけるATP含量は減少する一方で、マウスの眼球の硝子体腔にrAAV2-OPA1ウイルスを注射した実験群では、投与後にATP含量が正常レベルにまで増加することがHPLC検出によって明らかとなり、このことは、ATP含量がOPA1投与後に回復し得ることを示している。
【0215】
投与から1ヶ月後及び投与から3ヶ月後に、マウスの眼球中のATP含量が経時的に増加したことが図14から見て取れ、OPA1変異マウスの眼球中のATP含量は、投与から3ヶ月後までには野生型マウスの眼球のATP含量と等しくなっており、このことは、rAAV2-OPA1ウイルスを使用することで、疾患の発生が効果的に好転したことを示唆している。
【0216】
3.透過型電子顕微鏡(TEM)によるミトコンドリアの形態の観察
マウス眼球を取り出した後、これらのマウス眼球を、それぞれ2.5%のグルタルアルデヒドに浸漬し、一晩固定化し、0.1mol/Lのリン酸緩衝液で3回洗浄(各15分間)し、オスミウム酸で2時間固定化し、0.1mol/Lのリン酸緩衝液で3回洗浄(各15分間)し、エタノール(50%、70%、80%、90%、100%)を使用して濃度勾配脱水を実施し、その後、純粋アセトンの使用に切り替え、純粋アセトンで2回脱水を行った。各ステップには15分かけた。812樹脂:アセトンを3:1、3:2、及び3:3の比で使用して濃度勾配浸透処理を実施した後(各ステップには40分かけた)、純粋な包埋剤を用いる45℃での一晩の包埋、60℃での重合、切片作成、染色、及び透過型電子顕微鏡下での観察を実施した。
【0217】
結果は図15に示される。OPA1変異マウスではミトコンドリアのクリステの消失がTEM電子顕微鏡法によって観察され、このことは、アポトーシスが生じていることを示している。投与から1ヶ月後に、OPA1変異マウスではミトコンドリアのクリステの回復が観察され、さらに、3ヶ月には顕著な回復が観察され、このことは、rAAV2-OPA1ウイルスを使用することで、疾患の発生が効果的に好転したことを示唆している。
【0218】
考察
眼疾患の治療において遺伝子治療が迅速に開発されれば、ADOAの治癒は困難なことではなくなるであろう。ヒトの眼とウサギ眼とは、解剖学的形態及び体積が類似していることから、本発明ではrAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2の硝子体腔注射のためのモデルとしてウサギの眼を使用した。この実験では、注射用量、安全性レベル、及び術後合併症を調べ、将来の臨床試験のための重要な基準が得られた。すべてのウサギに細隙灯検査及び眼圧検査を実施し、これらのウサギについて、明らかな異常、結膜の充血及び分泌物、眼内炎、ならびに眼圧の上昇は認められなかった。手術から1ヶ月後に撮影した眼底写真から、すべてのウサギについて、明らかな合併症または網膜血管及び視神経の損傷は認められないことが示され、このことは、この実験が安全であったことを示唆している。
【0219】
免疫蛍光、リアルタイム定量的PCR、及びウエスタンブロットの結果は、ウサギの網膜上にhOPA1が安定的に発現し得ることを実証し得るものである。ADOA病変は視神経乳頭周辺の網膜神経節細胞のアポトーシスを誘発し得ることから、rAAV-ZsGreen群の網膜切片では視神経乳頭周辺の網膜中での安定的な蛍光発現が検出され得る。hOPA1の蛍光染色の結果は、hOPA1が網膜神経節細胞に到達し得ることを実証し得るものであり、このことは、rAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2が患者の眼の疾患領域に到達し得ることを示している。眼底写真及びOCTの結果からは、5×1010vg/mLのrAAV2/2-hOPA1アイソフォーム2の単回の硝子体腔注射が安全であり、網膜毒性を有さず、将来の臨床試験に使用し得るものであることが示された。
【0220】
本発明において参照される文書はすべて、参照によって各文書が個別に組み込まれるのと同様に、参照によって本出願に組み込まれる。さらに、上述の本発明の教示内容を読むことで、当業者なら本発明に対してさまざまな変更または改変を施すことができ、こうした均等形態もまた、本出願の添付の特許請求の範囲によって定義される範囲に含まれることを理解されたい。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図12
図13
図14
図15
【配列表】
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