(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】作業機械の部品劣化推定システム及び作業機械の部品劣化推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20230525BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20230525BHJP
【FI】
G01N17/00
G01M99/00 Z
(21)【出願番号】P 2019200847
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南谷 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 聡志
(72)【発明者】
【氏名】藤島 一雄
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 史十
(72)【発明者】
【氏名】金野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】高見 弘樹
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-71057(JP,A)
【文献】特開昭59-179332(JP,A)
【文献】特開2011-099691(JP,A)
【文献】特開2002-317615(JP,A)
【文献】特開2002-33398(JP,A)
【文献】特開2001-215187(JP,A)
【文献】特開2003-215023(JP,A)
【文献】米国特許第04677847(US,A)
【文献】特開2004-21290(JP,A)
【文献】特開2017-122585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00-17/04
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械の部品の劣化状況を推定する作業機械の部品劣化推定システムであって、
作業機械の非稼働日直前の作業日報にある作業機械の位置における環境データを記憶する環境データ記憶部と、
前記環境データ記憶部に記憶された環境データに基づいて作業機械の部品の劣化量を算出する劣化量演算部と、
前記劣化量演算部により算出された部品の劣化量に基づいて部品の使用可能期間を算出する使用可能期間演算部と、
を備えることを特徴とする作業機械の部品劣化推定システム。
【請求項2】
前記使用可能期間演算部は、部品の過去の故障データに基づいて予め作成された使用可能期間と劣化量との関係、累積故障確率と劣化量との関係、生存率と使用可能期間との関係、又は生存率と劣化量との関係のいずれかを利用し、前記劣化量演算部により算出された部品の劣化量から部品の使用可能期間を算出する請求項1に記載の作業機械の部品劣化推定システム。
【請求項3】
部品の使用期間情報を記憶する使用期間記憶部と、
前記使用可能期間演算部により算出された使用可能期間と前記使用期間記憶部に記憶された使用期間とを比較し、部品の交換又はメンテナンスの要否を判定する判定部と、を更に備える請求項1又は2に記載の作業機械の部品劣化推定システム。
【請求項4】
前記使用期間記憶部に記憶された使用期間には、少なくとも作業機械の非稼動期間が用いられる請求項3に記載の作業機械の部品劣化推定システム。
【請求項5】
前記使用期間記憶部に記憶された使用期間は、作業機械の非稼動期間と、作業機械の稼動期間に重み付け係数を乗じた値との和である請求項4に記載の作業機械の部品劣化推定システム。
【請求項6】
作業機械の部品の劣化状況を推定する作業機械の部品劣化推定方法であって、
作業機械の非稼働日直前の作業日報にある作業機械の位置における環境データを取り込む環境データ取り込みステップと、
前記環境データ取り込みステップで取り込んだ環境データに基づいて作業機械の部品の劣化量を算出する劣化量演算ステップと、
前記劣化量演算ステップで算出した部品の劣化量に基づいて部品の使用可能期間を算出する使用可能期間演算ステップと、
を含むことを特徴とする作業機械の部品劣化推定方法。
【請求項7】
前記使用可能期間演算ステップにおいて、部品の過去の故障データに基づいて予め作成された使用可能期間と劣化量との関係、累積故障確率と劣化量との関係、生存率と使用可能期間との関係、又は生存率と劣化量との関係のいずれを利用し、前記劣化量演算ステップで算出した部品の劣化量から部品の使用可能期間を算出する請求項6に記載の作業機械の部品劣化推定方法。
【請求項8】
前記使用可能期間演算ステップで算出した使用可能期間と作業機械の使用期間とを比較し、部品の交換又はメンテナンスの要否を判定する判定ステップを更に含む請求項6又は7に記載の作業機械の部品劣化推定方法。
【請求項9】
前記作業機械の使用期間には、少なくとも作業機械の非稼動期間が用いられる請求項8に記載の作業機械の部品劣化推定方法。
【請求項10】
前記作業機械の使用期間は、作業機械の非稼動期間と、作業機械の稼動期間に重み付け係数を乗じた値との和である請求項9に記載の作業機械の部品劣化推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の部品劣化推定システム及び作業機械の部品劣化推定方法に関し、特に環境要因に起因した部品の劣化状況を推定する作業機械の部品劣化推定システム及び作業機械の部品劣化推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械のような屋外で稼動する作業機械は、国内外の様々な環境で稼動・待機している。例えば沿岸の塩害環境、工業地帯の酸害環境、高温高湿環境等の厳しい環境で稼動・待機している作業機械では、腐食等の環境劣化によって部品が早期に故障することが予想される。
【0003】
具体的には、作業機械は、一箇所の作業現場に留まり稼動する場合もあるが、通常では様々な現場に移動しながら稼動・待機して場合が多い。稼動時において内燃機関により雰囲気温度が高温になるので、シリンダのような可動部では環境からの付着物(例えば塵埃)が取り除かれることが想定される。一方、待機時(すなわち、非稼動時)には雰囲気温度は季節によって結露環境になること、可動部では環境からの付着物が堆積固着して環境劣化による不具合の原因となることが想定される。このため、腐食を含む環境劣化によって部品が早期に故障する事例が生じている。
【0004】
このような環境劣化の影響による故障を防止し、作業機械を長期にわたり安定して稼動させるためには、部品の劣化状況を推定して部品交換時期を適切に提案することが考えられる。
【0005】
そこで、例えば特許文献1に記載された電線の腐食をセンサなしで推定する電線劣化推定方法を、作業機械の部品の腐食推定に適用することが考えられる。より具体的には、特許文献1の電線劣化推定方法では、公開環境データを活用して、腐食要因である塩化物付着量をシミュレーションに基づき塩分到達マップを作成することにより正確な塩化物付着量を推定し、推定した結果に基づいて電線の塩分付着による腐食劣化を定量化し、電線の寿命を評価している。従って、このような方法を用いて作業機械の部品の腐食を推定し、推定した状況に応じて部品の交換を行うことで作業機械を安定した稼動を図ることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の電線劣化推定方法は、建設機械のように稼動と非稼動を繰り返す作業機械に対する考慮がなされていないため、作業機械の部品腐食推定に適用するのは不向きであるという問題がある。すなわち、作業機械の場合は、国内外の様々な環境で稼動・待機しており、場所ごとに周囲環境が変化するため、電線の事例と異なり常時環境データを収集する必要がある。このため、上述の電線劣化推定方法を作業機械の部品の腐食推定に適用するのは難しい。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、稼動と非稼動を繰り返す作業機械に対して、環境要因に起因した部品の劣化状況を推定し、適切な部品交換又はメンテナンス等の対策を講じることで、作業機械の安定した稼動を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る作業機械の部品劣化推定システムは、作業機械の部品の劣化状況を推定する作業機械の部品劣化推定システムであって、作業機械の非稼働日直前の作業日報にある作業機械の位置における環境データを記憶する環境データ記憶部と、前記環境データ記憶部に記憶された環境データに基づいて作業機械の部品の劣化量を算出する劣化量演算部と、前記劣化量演算部により算出された部品の劣化量に基づいて部品の使用可能期間を算出する使用可能期間演算部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
本発明に係る作業機械の部品劣化推定システムでは、劣化量演算部は環境データ記憶部に記憶された環境データに基づいて作業機械の部品の劣化量を算出し、使用可能期間演算部は劣化量演算部により算出された部品の劣化量に基づいて部品の使用可能期間を算出する。このようにすることで、作業機械の移動場所ごとの環境データに基づいて部品の劣化状況を推定することが可能となるので、稼動と非稼動を繰り返す作業機械に対して、環境要因に起因した部品の劣化状況を推定することができる。その結果、推定した劣化状況に応じて適切な部品交換又はメンテナンス等の対策を講じることができるので、作業機械の安定した稼動を実現することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、稼動と非稼動を繰り返す作業機械に対して、環境要因に起因した部品の劣化状況を推定し、適切な部品交換又はメンテナンス等の対策を講じることで、作業機械の安定した稼動を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る作業機械の部品劣化推定システムの構成を示す概略図である。
【
図3】実施形態に係る作業機械の部品劣化推定方法を示すフロー図である。
【
図4】
図3中のステップS1の詳細を示すフロー図である。
【
図5】部品劣化データ記憶部に記憶された部品劣化データの一例を示す図である。
【
図6】
図3中のステップS2の詳細を示すフロー図である。
【
図7】使用期間記憶部に記憶された使用期間情報の一例を示す図である。
【
図8】
図3中のステップS3の詳細を示すフロー図である。
【
図9】環境データ記憶部に記憶された環境データの一例を示す図である。
【
図10】
図3中のステップS4の詳細を示すフロー図である。
【
図11】
図3中のステップS5の詳細を示すフロー図である。
【
図12】推定データの一例である、使用可能期間と腐食量との関係を示す図である。
【
図13】報知装置の設置例を示すモニタの正面図である。
【
図14】累積故障確率と劣化量との関係を示す図である。
【
図15】生存率と使用可能期間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明に係る作業機械の部品劣化推定システムの実施形態について説明する。下記の説明において、説明の煩雑を避けるために、「作業機械の部品劣化推定システム」を「部品劣化推定システム」、「作業機械の部品劣化推定方法」を「部品劣化推定方法」と省略する場合がある。
【0014】
図1は実施形態に係る作業機械の部品劣化推定システムの構成を示す概略図である。本実施形態の部品劣化推定システム1は、屋外での稼動又は非稼動に伴って環境要因に起因した作業機械の部品劣化状況を推定し、推定した結果を作業員、サービス員、ユーザなどに知らせるシステムである。
図1に示すように、部品劣化推定システム1は、主に、作業機械(ここでは油圧ショベル)2と、作業機械2と通信可能な通信衛星3と、通信衛星3と通信可能な基地局4と、回線網5を介して接続されたユーザ端末6、携帯端末7及び管理サーバ10とを備えている。
【0015】
作業機械2は、製造業者(メーカー)の工場から出荷され、土木作業、建設作業、解体作業、浚渫作業等が行われる作業現場において所定のユーザ(例えば、作業機械の所有者やレンタル契約者)に使用されている。作業機械2には、通信衛星3と通信するための通信アンテナが配置されている。また、作業機械2は、機械識別装置11、稼動検出装置12及び現在位置取得装置13を備えている(
図2参照)。
【0016】
機械識別装置11は、作業機械2を識別するものである。例えば、機械識別装置11は、作業機械2の機種や製造番号等に基づいて作業機械2の識別を行い、作業機械2に対応する機械情報(A)を抽出する。なお、機種としては、例えばE01、E02、E03…等のようなものである。
【0017】
稼動検出装置12は、作業機械の稼動情報を記録する作業日報を取得し、作業日報から稼動情報(B)を検出する。また、この稼動検出装置12は、作業日報の有無により作業機械が稼動しているか又は待機しているかを判定する。
【0018】
現在位置取得装置13は、稼動検出装置12で取得した作業日報が欠如する日を非稼動日とし、該非稼動日の直前の作業日報にある作業機械2の現在位置情報を取得するものである。すなわち、現在位置取得装置13は、非稼動日があった場合に、その非稼動日の直前の作業日報にある作業機械における地図上の現在位置情報(C)を取得するものであり、GPS(全地球測位システム)等を用いることができる。現在位置取得装置13としてGPSを用いる場合には、GPSを作業機械2に配置することにより、地図上の現在位置情報を取得することができる。
【0019】
そして、作業機械2は、機械識別装置11で識別した機械情報(A)、稼動検出装置12で検出した稼動情報(B)及び現在位置取得装置13で取得した現在位置情報(C)を、通信衛星3、基地局4及び回線網5を介して管理サーバ10に送信することができる。
【0020】
管理サーバ10は、部品劣化推定システム1を構成するメインのコンピュータであり、作業機械2のメーカーの本社、支社、工場、或いは管理センタに設置されている。この管理サーバ10は、演算を実行するCPU(Central Processing Unit)と、演算のためのプログラムを記憶した二次記憶装置としてのROM(Read Only Memory)と、演算経過の保存や一時的な制御変数を保存する一時記憶装置としてのRAM(Random Access Memory)とを組み合わせてなるマイクロコンピュータにより構成されており、記憶されたプログラムの実行によって部品劣化量の算出、部品劣化量の更新、部品の使用可能期間の算出、部品の交換又はメンテナンスの要否判定、報知装置19への駆動等を行う。
【0021】
図2は管理サーバの構成を示すブロック図である。
図2に示すように、管理サーバ10は、主に、サーバ内記憶領域20、劣化部品判定部21、使用期間演算部22、劣化量演算部23、劣化量更新部24、使用可能期間演算部25及び交換メンテナンス判定部26を備えている。そして、サーバ内記憶領域20は、使用期間記憶部14と、部品劣化データ記憶部15と、環境データ記憶部16と、積算劣化量記憶部17と、推定データ記憶部18とを有する。
【0022】
使用期間記憶部14は、稼動検出装置12からの稼動情報に基づき、作業機械の使用期間として作業機械の稼動開始日から現時点までの非稼動日数を記憶する。非稼動日数は、上述したように作業日報が欠如する日に基づいて定められている。また、使用期間記憶部14は、非稼動日数のほか、稼動日数またはカレンダ日数等を記憶しても良い。そして、使用期間記憶部14は、例えば記憶した使用期間の情報を使用期間情報(D)として使用期間演算部22に出力する。
【0023】
部品劣化データ記憶部15は、機械識別装置11で識別した作業機械に関連する部品について、その劣化データを環境劣化に起因した部品交換が起こり易い順に記憶する。また、部品劣化データ記憶部15は、環境劣化を起こし易い部品の材質も記憶する。そして、部品劣化データ記憶部15は、例えば記憶した部品劣化のデータ(E)を劣化部品判定部21又は劣化量演算部23に出力する。
【0024】
環境データ記憶部16は、作業機械の非稼働日直前の作業日報にある作業機械の位置における環境データを記憶するものである。すなわち、環境データ取得部16は、現在位置取得装置13で取得した作業機械の現在位置での環境データを記憶するものである。環境データには、外気の温度、相対湿度、二酸化硫黄付着量または二酸化硫黄濃度、塩化物付着量または海岸線からの距離等が含まれている。図示しないが、この環境データ記憶部16は、気象庁や環境省等で公開されている環境データベースに接続する手段と、公開データベースから入手した環境データを管理サーバ10で対応できる値に換算する手段も含まれている。そして、環境データ記憶部16は、例えば記憶した環境データ(F)を劣化量演算部23に出力する。なお、本実施形態では、作業機械2に各センサを設置して、外気の温度、相対湿度、二酸化硫黄付着量または二酸化硫黄濃度、塩化物付着量等を直接測定し、測定した各データを環境データ記憶部16に記憶させてもよい。
【0025】
積算劣化量記憶部17は、作業機械の稼動開始日から現時点までの部品の劣化量データ、例えば劣化量の平均値や積算値を記憶する。積算劣化量記憶部17は、例えば記憶した劣化量データ(G)として劣化量更新部24に出力する。また、積算劣化量記憶部17は、部品の交換履歴情報に基づいて該当部品の劣化量を更新できるようになっている。例えばアームシリンダが交換された場合、積算劣化量記憶部17は、アームシリンダに関する劣化量を初期値(例えばゼロ)に戻すように構成されている。
【0026】
推定データ記憶部18は、部品の劣化推定(例えば、部品の使用可能期間の算出)に用いる各データを記憶するものである。推定データには、部品の過去の故障データに基づいて予め作成された使用可能期間と劣化量との関係、累積故障確率と劣化量との関係、生存率と使用可能期間との関係、又は生存率と劣化量との関係等が含まれている。これらの関係は図、式または表の形で推定データ記憶部18に記憶されている。そして、この推定データ記憶部18は、記憶した推定データ(H)を使用可能期間演算部25に出力する。
【0027】
なお、使用可能期間に関わる関係式または表では平均劣化量が使用され、累積故障確率や生存率に関わる関係式または表では積算劣化量が使用される。使用可能期間と劣化量(ここでは、腐食量)との関係の例として、例えば
図12に示すものがある。
図12に示す関係を利用して、腐食量から使用可能期間を求めることができる。
【0028】
一方、累積故障確率と劣化量との関係の例として、例えば
図14に示すものがある。
図14に示す関係を利用して、劣化量から累積故障確率を求めることができる。更に、劣化量をパラメータにする生存率と使用可能期間との関係の例として、例えば
図15に示すものがある。
図15に示す関係を利用して、劣化量と生存率から使用可能期間を求めることができる。更に、生存率と劣化量との関係の例として、例えば
図16に示すものがある。
図16に示す関係を利用して、劣化量から生存率を求めることができる。
【0029】
劣化部品判定部21は、部品劣化データ記憶部15からの部品劣化データ(E)に基づいて部品の劣化状況を判定する。使用期間演算部22は、使用期間記憶部14からの使用期間情報(D)に基づいて使用期間の積算を行う。
【0030】
劣化量演算部23は、環境データ記憶部16に記憶された環境データ(F)(例えば、外気の温度、相対湿度、二酸化硫黄付着量または二酸化硫黄濃度、塩化物付着量)に基づいて作業機械の部品の劣化量を算出する。劣化量更新部24は、劣化量演算部23で算出した劣化量と、積算劣化量記憶部17からの劣化量データ(G)(例えば、過去の劣化量の平均値又は積算値)とを用いて劣化量を更新する。また、劣化量更新部24は、更新した劣化量を積算劣化量記憶部17に記憶させる。
【0031】
使用可能期間演算部25は、劣化量演算部23により算出された部品の劣化量に基づいて部品の使用可能期間を算出する。より具体的には、使用可能期間演算部25は、推定データ記憶部18からの推定データ(H)(例えば、使用可能期間と劣化量との関係、累積故障確率と劣化量との関係、生存率と使用可能期間との関係、生存率と劣化量との関係)を利用し、劣化量演算部23で算出し更に劣化量更新部24で更新した劣化量から部品の使用可能期間を算出する。
【0032】
交換メンテナンス判定部26は、使用可能期間演算部25で算出した部品の使用可能期間と使用期間記憶部14からの使用期間情報(D)とを比較し、部品の交換又はメンテナンスが必要か否か(言い換えれば、部品交換時期又はメンテナンス時期に達したか否か)を判定する。そして、部品交換時期又はメンテナンス時期に達したと判定した場合、交換メンテナンス判定部26は報知装置19に対して駆動信号を出力する。
【0033】
報知装置19としては、ランプ、ブザーまたはモニタのような表示装置等を用いることができる。
図13は報知装置19の設置例を示す図である。例えば、点灯時に劣化量の積算値が所定の値に達したことを示すランプ33が、水温計31及び燃料計32とともにモニタ30に設定されている。作業員または管理者は、ランプ33を見ることにより、消灯時にはまだメンテナンス時期または部品交換時期に達していないことを知ることができ、点灯時にはメンテナンス時期または部品交換時期に達したことを知ることができる。これによって、作業機械の故障や寿命の低下を未然に防止することができる。また、報知装置19として表示装置を用いる場合には、その画面上にメンテナンス状態・時期を表示させることができる。
【0034】
更に、交換メンテナンス判定部26の判定結果は、回線網5を介してユーザ側のユーザ端末6と、サービス員側の携帯端末7にそれぞれ送信され、ユーザとサービス員に知らせる。このようにすれば、作業機械2のユーザはユーザ端末6を介し、サービス員は携帯端末7を介して部品の交換時期又はメンテナンス時期をそれぞれ容易に把握することができる。そして、部品の交換又はメンテナンスが必要の場合、サービス員は迅速に部品の交換又はメンテナンスを行うことができるので、作業機械2の安定した稼動を実現することが可能になる。なお、携帯端末7としては、例えばスマートフォン、タブレット端末、携帯電話、PDA(Personal Data Assistant)などが挙げられる。
【0035】
以下、
図3に基づいて部品劣化推定システム1を用いた部品劣化推定方法を説明する。
図3は作業機械の部品劣化推定方法を示すフロー図である。なお、
図3に示すフロー図の詳細フローを
図4、6、8、10、11に示す。
【0036】
まず、ステップS1では、管理サーバ10は、機械情報(A)の取り込み及び部品劣化データ(E)の取り込みを行う。具体的には、
図4に示すように、管理サーバ10は、機械識別装置11から出力された機械情報(A)の取り込み(ステップS11参照)を行った後、部品劣化データ記憶部15にアクセスして、先に取り込まれた機械情報(A)と部品劣化データ記憶部15に記憶された部品劣化データ(E)とを照合する(ステップS12参照)。次に、管理サーバ10は、機械情報(A)に対応する部品劣化情報を抽出し(ステップS13参照)、予め順序付けした環境劣化の可能性のある部品(例えば部品1、部品2)の情報を取り込む(ステップS14参照)。
【0037】
図5は部品劣化データ記憶部に記憶された部品劣化データの一例を示す図である。
図5に示すように、部品劣化データ記憶部15には、例えば機種E01に対応する環境劣化の可能性のある部品としてE11、E12等が、機種E02に対応する環境劣化の可能性のある部品としてE21、E22等が、機種E03に対応する環境劣化の可能性のある部品としてE31、E32等が、それぞれ記憶されている。なお、
図5では環境劣化の可能性のある部品の上位2種(すなわち、劣化レベル1及び劣化レベル2)を例として示したが、その数に制限はない。また、環境劣化の可能性のある部品のデータには、その材質が記載されている。
【0038】
ステップS1に続くステップS2では、稼動情報(B)の取り込み及び使用期間情報(D)の算出が行われる。具体的には、
図6に示すように、管理サーバ10は、作業機械が稼動している日に送信される作業日報を稼動検出装置12から取得することにより、作業機械の稼動情報(B)を取り込む(ステップS21参照)。次に、管理サーバ10は、作業日報の有無によりその日の稼動の有無を判定する(ステップS22参照)。
【0039】
次に、使用期間演算部22は、使用期間情報(D)の算出を行う。具体的には、使用期間演算部22は、
図7に示すように作業日報がある日は使用期間記憶部14に稼動あり情報と稼動時間をそれぞれ加算し、作業日報がない日は稼動なし情報と稼動時間ゼロをそれぞれ加算する。これによって、稼動日と非稼動日のデータがそれぞれ作成される(ステップS23参照)。更に、使用期間演算部22は、作業機械の稼動開始日から現時点までのカレンダ日数(すなわち、全期間)、稼動日数(すなわち、稼動期間)、非稼動日数(すなわち、非稼動期間)をそれぞれ算出(すなわち、加算)し、算出した結果を使用期間記憶部14に記憶させる(ステップS24参照)。
【0040】
ステップS2に続くステップS3では、現在位置情報(C)の取り込み及び環境データ(F)の取り込みが行われる。具体的には、
図8に示すように、現在位置取得装置13は、稼動検出装置12から取得した作業日報が欠如する日を非稼動日とし、該非稼動日の直前の作業日報にある作業機械の位置情報を取得し、作業機械の地図上の現在位置情報(C)を取得し、管理サーバ10に出力する。管理サーバ10は、出力された現在位置情報(C)を取り込む(ステップS31参照)。
【0041】
次に、管理サーバ10は、環境データ記憶部16にアクセスして、先に取り込まれた現在位置情報(C)と環境データ記憶部16に記憶された環境データ(F)とを照合し(ステップS32参照)、現在位置情報(C)に対応する環境データ(F)を取り込む(ステップS33参照)。これによって、環境データ(F)に含まれる温度データ、相対湿度データ、硫黄酸化物付着量データ、塩化物付着量データがそれぞれ取り込まれる(ステップS34参照)。なお、ステップS32~S34は、特許請求の範囲に記載の「環境データ取り込みステップ」に相当するものである。
【0042】
図9は環境データ記憶部に記憶された環境データの一例を示す図である。
図9に示すように、環境データ記憶部16には、例えば現在位置F01,F02,F03,…にそれぞれ対応する温度データF11,F12,F13,…、相対湿度データF21,F22,F23,…、硫黄酸化物付着量データF31,F32,F33,…、塩化物付着量データF41,F42,F43,…がそれぞれ記憶されている。なお、これらのデータは、時間平均値、日平均値、月平均値等複数のデータとして記憶されてもよい。
【0043】
ステップS3に続くステップS4では、劣化量演算部23は劣化量の算出を行う。このステップS4は、特許請求の範囲に記載の「劣化量演算ステップ」に相当するものである。具体的には、
図10に示すように、劣化量演算部23は、まず上記ステップで取り込まれた温度データ、相対湿度データ、硫黄酸化物付着量データ、塩化物付着量データを読み出す(ステップS41参照)。次に、劣化量演算部23は、作業機械の可動部の主要構造材である金属材料の劣化量(ここでは、炭素鋼の腐食量)について、温度データ、相対湿度データ、硫黄酸化物付着量データ、塩化物付着量データに基づいて算出する(ステップS42参照)。
【0044】
炭素鋼の腐食量は、例えば温度データT、相対湿度データRH、二酸化硫黄付着量データPd、塩化物付着量データSdの関数f1(T、RH、Pd、Sd)で求められる。関数f1としては、例えばISO9223規格で定められている。この関数f1を用いて屋外環境での炭素鋼の腐食速度を温度、相対湿度、硫黄酸化物量、塩化物量から算出することができる。
【0045】
具体的には、暴露1年目の炭素鋼の腐食量(厚み減少量又は侵食度ともいう)rcorr(μm/年)は以下の式(1)で求められる。
rcorr=1.77・Pd0.52exp(0.020・RH+fSt)+0.102・Sd0.62exp(0.033・RH+0.040・T) 式(1)
【0046】
式(1)において、Tは年平均気温(℃)、RHは年平均相対湿度(%)、Pdは年平均硫黄酸化物付着量(mg/m2/日)、Sdは年平均塩化物付着量(mg/m2/日)、fStは係数で気温T≦10℃のとき0.150・(T-10)、また気温T>10℃のとき-0.054・(T-10)である。なお、ここでは炭素鋼の腐食を指標としたが、他に亜鉛、銅、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属を指標にするのも有効である。
【0047】
ステップS4に続くステップS5では、劣化量の更新及び使用可能期間の算出が行われる。具体的には、
図11に示すように、劣化量更新部24は、上記ステップで算出した炭素鋼の腐食量r
corr’を読み出し(ステップS51参照)、更に積算劣化量記憶部17から出力される劣化量データ(G)(すなわち、これまで積算された炭素鋼の腐食量r
corr)を取り込み(ステップS52参照)、取り込んだ腐食量r
corrに読み出した腐食量r
corr’を加算して腐食量の更新を行う(ステップS53参照)。
【0048】
次に、使用可能期間演算部25は、推定データ記憶部18から推定データ(H)を取り込み(ステップS54参照)、取り込んだ推定データ(H)に基づき、上記ステップで更新した腐食量rcorrから部品の使用可能期間Tlimitを算出する(ステップS55参照)。上述したように、作業機械の稼動時と比べて非稼動時の方は、環境要因による部品の劣化が生じやすいため、ここでは使用可能期間Tlimitに非稼動期間が用いられる。
【0049】
図12は推定データの一例である、使用可能期間(すなわち、非稼動期間)と腐食量との関係を示す図である。
図12に示す使用可能期間と腐食量との関係は、例えば実環境での故障に至るまでの非稼動期間と本方法で算出した腐食量のデータの近似式が採用される。そして、使用可能期間演算部25は、
図12に示す使用可能期間と腐食量との関係を利用して、更新した腐食量r
corrから使用可能期間T
limitを求める。なお、使用可能期間と劣化量との関係は、
図12に示す線図のほか、式又は表(マップ)を用いてもよい。
【0050】
また、推定データ(H)として、上述した使用可能期間と劣化量との関係のほか、生存時間解析等を用いてもよい。すなわち、例えば
図14に示す累積故障確率と劣化量との関係、又は
図15に示す劣化量をパラメータにする生存率と使用可能期間との関係、或いは
図16に示す生存率と劣化量との関係を用いてもよい。このような様々な関係を用いることで、様々な観点から部品の使用可能期間を算出することができるとともに、算出精度の向上を図ることができる。
【0051】
なお、ステップS5は、特許請求の範囲に記載の「使用可能期間演算ステップ」に相当するものである。
【0052】
ステップS5に続くステップS6では、管理サーバ10は、使用期間情報(D)の取り込みを行う。使用期間情報(D)として、非稼動期間Tnopが採用される。すなわち、本実施形態では、作業機械を構成している様々な交換部品の分析を行い、作業機械が待機している期間が長いほど、環境劣化による部品故障(部品交換)サイクルが早くなることを考慮し、使用期間情報(D)として非稼動期間Tnopを採用した。従って、ステップS6では、管理サーバ10は、使用期間記憶部14から出力された使用期間情報(D)として非稼動期間Tnopを取り込む。なお、非稼動期間は、作業機械が全く稼動しない日は勿論だが、当日の作業機械の稼動時間が1時間以内の場合であっても稼動していない状況とみなし、非稼動日として積算されてもよい。
【0053】
ステップS6に続くステップS7では、交換メンテナンス判定部26は、非稼動期間Tnopと上記ステップS5で求めた使用可能期間Tlimitとを対比し、非稼動期間Tnopが使用可能期間Tlimitに達しているか否かを判定する。そして、非稼動期間が稼動可能期間に達している(すなわち、Tnop≧Tlimit)と判定した場合、交換メンテナンス判定部26は、報知装置19に駆動信号を出力し(ステップS8参照)、作業員又は管理者に部品の交換又はメンテナンス等を実施するように注意を促す。一方、非稼動期間が使用可能期間に達していない(すなわち、Tnop<Tlimit)と判定した場合、処理はステップS1に戻って上述の各ステップが繰り返される。なお、ここでのステップS7は、特許請求の範囲に記載の「判定ステップ」に相当するものである。
【0054】
以上のように構成された部品劣化推定システム1では、劣化量演算部23は環境データ記憶部16に記憶された環境データに基づいて作業機械2の部品の劣化量を算出し、使用可能期間演算部25は劣化量演算部23により算出された部品の劣化量に基づいて部品の使用可能期間を算出する。このようにすれば、作業機械2の移動場所ごとの環境データに基づいて部品の劣化状況を推定することが可能となるため、稼動と非稼動を繰り返す作業機械2に対して、環境要因に起因した部品の劣化状況を推定することができる。その結果、推定した劣化状況に応じて適切な部品交換又はメンテナンス等の対策を講じることができるので、作業機械2の安定した稼動を実現することができる。
【0055】
また、交換メンテナンス判定部26は、使用可能期間演算部25により算出された使用可能期間と使用期間記憶部14に記憶された使用期間とを比較し、部品の交換又はメンテナンスが必要か否かを判定するので、部品交換又はメンテナンス等の対策をタイムリーに実施することが可能となり、作業機械2の安定した稼動を実現し易くなる。
【0056】
一方、本実施形態に係る部品劣化推定方法では、作業機械2の非稼働日直前の作業日報にある作業機械2の位置における環境データを取り込み、取り込んだ環境データに基づいて作業機械2の部品の劣化量を算出し、算出した部品の劣化量に基づいて部品の使用可能期間を算出するので、作業機械2の移動場所ごとの環境データに基づいて部品の劣化状況を推定することが可能となるので、稼動と非稼動を繰り返す作業機械2に対して、環境要因に起因した部品の劣化状況を推定することができる。その結果、推定した劣化状況に応じて適切な部品交換又はメンテナンス等の対策を講じることができるので、作業機械2の安定した稼動を実現することができる。
【0057】
上述した実施形態では、使用期間情報(D)として採用した非稼動期間Tnopについて、作業機械の非稼動日のみに基づいて定められたが、稼動期間でも部品の劣化が進行することを考慮した場合、作業機械の非稼動期間と稼動期間に重み付け係数(0から1の数値、例えば0.2を採用する)を乗じた値との和、すなわち「非稼動期間+重み付け係数×稼動期間」といった関係式で補正非稼動期間Tnop’としてもよい。このようにすれば、部品の交換又はメンテナンスが必要か否かを判定する精度を高めることができる。
【0058】
また、上述した実施形態では、
図10に示すステップS4を実行するにあたり、作業機械の主要構造材である炭素鋼の腐食量を採用した。作業機械の主要部品は炭素鋼であるが、他にもステンレス鋼等が用いられている。ステンレス鋼では、塩化物の方が二酸化硫黄より腐食感受性があり、塩化物による腐食(孔食やすき間腐食)が顕著と考えられる。
図5に示す部品劣化データ記憶部15に記憶された部品劣化データには、部品材料が記載されている。従って、部品がステンレス鋼からなる場合には、腐食量の算出式として、二酸化硫黄付着量データPdを除いた、温度データT、相対湿度データRH、塩化物付着量データSdの関数f1(T、RH、Sd)を採用する。これにより、ステンレス鋼製部品の劣化量を精度良く算出することができる。
【0059】
更に、作業機械の部品として、金属材料のほか、樹脂材料等からなる場合がある。本発明は、樹脂材料からなる部品にも適用することが可能である。
【0060】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0061】
1 作業機械の部品劣化推定システム
2 作業機械
3 通信衛星
4 基地局
5 回線網5
6 ユーザ端末
7 携帯端末
10 管理サーバ
11 機械識別装置
12 稼動検出装置
13 現在位置取得装置
14 使用期間記憶部
15 部品劣化データ記憶部
16 環境データ記憶部
17 積算劣化量記憶部
18 推定データ記憶部
19 報知装置
20 サーバ内記憶領域
21 劣化部品判定部
22 使用期間演算部
23 劣化量演算部
24 劣化量更新部
25 使用可能期間演算部
26 交換メンテナンス判定部