(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】角形鋼管とH形鋼との接合構造、及び角形鋼管どうしの接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20230529BHJP
E04B 1/32 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
E04B1/58 505H
E04B1/58 505G
E04B1/32 102B
(21)【出願番号】P 2019137882
(22)【出願日】2019-07-26
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】谷口 尚範
(72)【発明者】
【氏名】木内 佑輔
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-182641(JP,A)
【文献】実開昭53-024106(JP,U)
【文献】特開2000-204671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38-1/61
E04B 1/32,1/24
E04B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに所定の方向に沿って配置された角形鋼管の端部とH形鋼の端部とを接合する角形鋼管とH形鋼との接合構造であって、
前記角形鋼管の端部には、対向する一対の板面部に、該板面部の板厚方向に貫通するように形成されたスリットと、
前記H形鋼のウェブに設けられ、フランジよりも前記角形鋼管側に突出し、前記角形鋼管の内部に配置された突出ウェブ部と、を備え、
前記突出ウェブ部における前記フランジ側の端部は、前記スリットに配置されるとともに、前記角形鋼管の前記一対の板面部に溶接されていることを特徴とする角形鋼管とH形鋼との接合構造。
【請求項2】
前記角形鋼管の端部には、前記ウェブと直交する直交板部が設けられている請求項1に記載の角形鋼管とH形鋼との接合構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の角形鋼管とH形鋼との接合構造を複数備え、
各前記H形鋼が近接するように配置され、
各前記H形鋼の前記ウェブには、ウェブ連結プレートが連結され、
前記H形鋼の前記フランジ及び前記ウェブ連結プレートは、カバープレートに連結されていることを特徴とする角形鋼管どうしの接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角形鋼管とH形鋼との接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼管や他の部材等の部材どうしを接合する場合には、部材どうしの間に鋳鋼製のボールジョイント等の金物を配置して、鋳鋼製の金物と部材とが接合された構成が知られている(特許文献1参照)。また、単層ドーム等の構造物に使用される鋼管(パイプ部材)の接合部を剛接合とするために、このような鋳鋼接合部が用いられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1に示す構成では、部材どうしを接合する際に用いられる鋳鋼製の金物は重いため、接合構造を含む構造体全体の構造耐力を高める必要があるとともに、施工の負担となるという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、軽量化を図ることができる角形鋼管とH形鋼との接合構造、及び角形鋼管どうしの接合構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る角形鋼管とH形鋼との接合構造は、互いに所定の方向に沿って配置された角形鋼管の端部とH形鋼の端部とを接合する角形鋼管とH形鋼との接合構造であって、前記角形鋼管の端部には、対向する一対の板面部に、該板面部の板厚方向に貫通するように形成されたスリットと、前記H形鋼のウェブに設けられ、フランジよりも前記角形鋼管側に突出し、前記角形鋼管の内部に配置された突出ウェブ部と、を備え、前記突出ウェブ部における前記フランジ側の端部は、前記スリットに配置されるとともに、前記角形鋼管の前記一対の板面部に溶接されていることを特徴とする。
【0007】
このように構成された角形鋼管とH形鋼との接合構造では、H形鋼の突出ウェブ部におけるフランジ側の端部は、角形鋼管の一対の板面部に形成されたスリットに配置され、板面部に溶接されている。角形鋼管とH形鋼との接合において、従来のように鋳鋼等の重量材料を用いる必要がなく、溶接により軽量化を図ることができる。
【0008】
また、本発明に係る角形鋼管とH形鋼との接合構造は、前記角形鋼管の端部には、前記ウェブと直交する直交板部が設けられていることが好ましい。
【0009】
このように構成された角形鋼管とH形鋼との接合構造では、角形鋼管の端部にはウェブと直交する直交板部が設けられているため、角形鋼管の変形、捩れ等が抑制される。
【0010】
また、本発明に係る角形鋼管どうしの接合構造は、上記のいずれか一に記載の角形鋼管とH形鋼との接合構造を複数備え、各前記H形鋼が近接するように配置され、各前記H形鋼の前記ウェブには、ウェブ連結プレートが連結され、前記H形鋼の前記フランジ及び前記ウェブ連結プレートは、カバープレートに連結されていることを特徴とする。
【0011】
このように構成された角形鋼管どうしの接合構造では、H形鋼のウェブに連結されたウェブ連結プレート及びH形鋼のフランジは、カバープレートに連結されている。よって、複数の角形鋼管を接合させる際に、従来のように鋳鋼等の重量材料を用いずに、角形鋼管の端部にH形鋼を接合して、ウェブ連結プレート及びカバープレートを用いることで、軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る角形鋼管とH形鋼との接合構造、及び角形鋼管どうしの接合構造によれば、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る角形鋼管とH形鋼との接合構造及び角形鋼管どうしの接合構造を備える屋根構造を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る角形鋼管とH形鋼との接合構造、及び角形鋼管どうしの接合構造を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る角形鋼管とH形鋼との接合構造、及び角形鋼管どうしの接合構造を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る角形鋼管とH形鋼との接合構造、及び角形鋼管どうしの接合構造を備える屋根構造について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る角形鋼管とH形鋼との接合構造及び角形鋼管どうしの接合構造を備える屋根構造を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施形態に係る屋根構造10は、ドーム架構1と、張弦リング材2と、複数の張弦リング束材3と、複数の放射ケーブル4と、を備えている。屋根構造10は、例えば運動競技施設等の大空間を有する建築物の屋根構造10である。
【0015】
以下の説明において、平面視で、屋根構造10の中心をPとする。平面視で、ドーム架構1の長軸方向をX方向として、短軸方向をY方向とする。
ドーム架構1は、球面に沿って配置されている。ドーム架構1は、平面視で、中心Pを中心として、X方向を長辺(長軸)とした楕円形状をなしている。
【0016】
ドーム架構1は、内周リング材11と、複数の円周方向部材12と、外周リング材13と、複数の放射方向部材14と、複数の斜め方向部材15と、を有している。本実施形態では、ドーム架構1は、いわゆる単層ドーム架構である。
【0017】
内周リング材11及び複数の円周方向部材12は、平面視で、中心Pを中心とした円形状をなしている。複数の円周方向部材12は、内周リング材11よりも外側(径方向外側)に配置されている。内周リング材11は、同一面上に配置されている。円周方向部材12は、同一面上に配置されている。本実施形態では、内周リング材11はH型鋼からなる部材が接続されて構成され、円周方向部材12は角形鋼管からなる部材が接続されて構成されている。
【0018】
外周リング材13は、平面視で、中心Pを中心とした楕円形状をなしている。外周リング材13が、平面視における、ドーム架構1の外形をなしている。本実施形態では、外周リング材13はH型鋼からなる部材が接続されて構成されている。
【0019】
外周リング材13には、正面視V字状をなす複数の斜柱16が固定されている。斜柱16は、不図示の下部構造に設置されている。
【0020】
放射方向部材14は、複数の円周方向部材12のうち最も内周側に配置された最内周円周方向部材12pと外周リング材13とを連結している。放射方向部材14は、円周方向に間隔を有して複数配置されている。各放射方向部材14の延長線上には、中心Pが配置されている。換言すると、放射方向部材14は、放射線状に延びている。本実施形態では、放射方向部材14は、角形鋼管からなる部材が接続されて構成されている。
【0021】
斜め方向部材15は、内周リング材11と外周リング材13とを連結している。斜め方向部材15は、曲線に沿って形成されている。本実施形態では、斜め方向部材15は、角形鋼管からなる部材が接続されて構成されている。
【0022】
張弦リング材2は、ドーム架構1の下方に配置されている。本実施形態では、複数の円周方向部材12のうち最も外周側に配置された最外周円周方向部材12qの直下に配置されている。
【0023】
張弦リング材2は、平面視で、中心Pを中心とした円形状(環状)をなしている。本実施形態では、張弦リング材2はH型鋼からなる部材が接続されて構成されている。張弦リング材2は、テンションリングとして機能し、ドーム架構1の外周リング材13(外周端部)が外側に広がろうとする力(スラスト力)を抗することができる。
【0024】
張弦リング束材3は、最外周円周方向部材12qと張弦リング材2とを連結している。張弦リング束材3は、鉛直方向に延びている。張弦リング束材3は、周方向の間隔を有して複数配置されている。本実施形態では、張弦リング束材3は円形鋼管で構成されている。
【0025】
放射ケーブル4は、外周リング材13と張弦リング材2とを連結している。放射ケーブル4は、周方向に間隔を有して複数配置されている。各放射ケーブル4の延長線上には、中心Pが配置されている。換言すると、放射ケーブル4は、放射線状に配置されている。本実施形態では、放射ケーブル4は、亜鉛めっき鋼より線で構成されている。
【0026】
放射ケーブル4の張力を鉛直方向の分力と水平方向の分力とに分けると、水平方向の分力が複数の放射ケーブル4において同じ大きさになるように構成されている。放射ケーブル4の張力により、外周リング材13の曲げ応力が低減されている。
【0027】
次に、円周方向部材12、放射方向部材14及び斜め方向部材15等の角形鋼管5どうしの接合構造100について説明する。
【0028】
以下では、
図1のA部に示す接合箇所について説明する。
図2は、
図1のA部における角形鋼管5どうしの接合構造100を示す斜視図である。
図2に示すように、A部では、円周方向部材12を構成する2本の角形鋼管5、放射方向部材14を構成する2本の角形鋼管5、斜め方向部材15を構成する4本の角形鋼管5の合計8本の角形鋼管5が接合されている。なお、接合構造100は2本以上の任意の本数の角形鋼管5が接合される箇所について適用することができる。
【0029】
図3は、角形鋼管5どうしの接合構造100を示す分解斜視図である。
図2及び
図3に示すように、角形鋼管5どうしの接合構造100は、角形鋼管5と、H形鋼6と、ウェブ連結プレート7と、カバープレート8と、を備えている。
【0030】
まず、各角形鋼管5の端部と対応するH形鋼6の端部との接合構造101(以下、単に接合構造101と称することがある)について説明する。
図3に示すように、接合構造101は、スリット52と、突出ウェブ部63と、を備えている。
複数の角形鋼管5は、同一面上に配置されている。各角形鋼管5の端部は、同一箇所(角形鋼管5どうしの接合構造100の中心Qと称する)を向くように配置されている。
ここで、複数の角形鋼管5が配置されている平面と直交する方向を、Z方向とする。
【0031】
角形鋼管5は、4枚の板面部51を有している。角形鋼管5の延在方向に直交する断面視で、4枚の板面部51は、矩形状に配置されている。換言すると、一対の板面部51どうしは、互いに対向配置されている。
【0032】
4枚の板面部51のうちZ方向に対向する一対の板面部51(以下、板面部51aとする)において、H形鋼6側を向く端部51bには、板厚方向(Z方向)に貫通するスリット52が形成されている。スリット52は、板面部51の幅方向の略中央に形成されている。
【0033】
H形鋼6は、連結される角形鋼管5の延在方向(所定の方向)に沿って延びている。H形鋼6の一対のフランジ61は、Z方向に対向配置されている。H形鋼6のウェブ62は、フランジ61に直交配置されている。ウェブ62は、角形鋼管5の延在方向に沿って延びている。
【0034】
ウェブ62には、フランジ61よりも角形鋼管5側に突出する突出ウェブ部63が設けられている。
【0035】
図4は、
図2のIV-IV線断面図である。
図5は、
図2のV-V線断面図である。
図4及び
図5に示すように、突出ウェブ部63は、角形鋼管5の内部に配置されている。
図4に示すように、突出ウェブ部63におけるZ方向の一方側(以下、+Z側と称する)の端部(フランジ61側の端部)63aは、角形鋼管5のスリット52に配置されている。突出ウェブ部63の端部の先端面63bは、角形鋼管5の外側に突出している。
【0036】
突出ウェブ部63におけるZ方向の他方側(以下、-Z側と称する)の端部(フランジ61側の端部)63cは、角形鋼管5のスリット52に収まり、角形鋼管5の外側に突出していない。
【0037】
突出ウェブ部63の端部63a,63cが角形鋼管5のスリット52に配置されることで、H形鋼6と角形鋼管5との間でウェブ62の板厚方向に相対変位が抑制されている。
【0038】
突出ウェブ部63の端部63a,63cは、角形鋼管5の板面部51のスリット52の縁部に溶接されている。接合構造101により、角形鋼管5の軸力がH形鋼6のウェブ62に伝達されている。
【0039】
図3及び
図5に示すように、角形鋼管5の端部にウェブ62を挟んで両側に直交板(直交板部)56が設けられている。直交板56は、ウェブ62と直交するように配置されている。
【0040】
図3に示すように、各H形鋼6のウェブ62は、ガセットプレート57を介してウェブ連結プレート7に連結されている。ウェブ連結プレート7は、板状に形成されている。ウェブ連結プレート7の板厚方向は、H形鋼6のウェブ62の板厚方向と同一方向である。ウェブ連結プレート7は、H形鋼6のウェブ62の延長線上に配置されている。
【0041】
ウェブ連結プレート7の一端部7aは、H形鋼6のウェブ62に連結されている。各H形鋼6に連結されたウェブ連結プレート7は、他端部7bを中心Qに向けて(各H形鋼6の他端部7bを近接させるように)配置されている。
【0042】
本実施形態では、8枚のウェブ連結プレート7のうち一直線上に配置された2枚のウェブ連結プレート7Aは、連続した一枚ものとして構成されている。8枚のウェブ連結プレート7のうち4枚の2枚のウェブ連結プレート7Bは、中心でウェブ連結プレート7に溶接等により接合されている。8枚のウェブ連結プレート7のうち残りの2枚のウェブ連結プレート7Cは、ウェブ連結プレート7A,7Bと離間して配置されている。なお、8枚のウェブ連結プレート7が全て溶接等により接合される鋼製であってもよい。
【0043】
カバープレート8は、ウェブ連結プレート7を挟んで、Z方向の両側(+Z側及び-Z側)に配置されている。カバープレート8は、Z方向から見て、ウェブ連結プレート7を覆う形状をなしている。
【0044】
図5に示すように、フランジ61におけるカバープレート8を向く側の端部61aは、カバープレート8に溶接等により接合されている。ウェブ連結プレート7におけるZ方向の両側の端部7cは、カバープレート8に溶接等により接合されている。
【0045】
このように構成された屋根構造10では、H形鋼6の突出ウェブ部63の端部63a,63cは、角形鋼管5の一対の板面部51aに形成されたスリット52に配置され、板面部51aに溶接されている。角形鋼管5とH形鋼6との接合において、従来のように鋳鋼等の重量材料を用いる必要がなく、溶接により軽量化を図ることができる。
【0046】
また、H形鋼6の突出ウェブ部63が角形鋼管5の内部に配置されているため、角形鋼管5の座屈補剛がされている。
【0047】
また、角形鋼管5の端部51bにはウェブ62と直交する直交板56が設けられているため、角形鋼管5の変形、捩れ等が抑制される。
【0048】
また、H形鋼6のウェブ62に連結されたウェブ連結プレート7及びH形鋼6のフランジ61は、カバープレート8に連結されている。よって、複数の角形鋼管5を接合させる際に、従来のように鋳鋼等の重量材料を用いずに、角形鋼管5の端部にH形鋼6を接合して、ウェブ連結プレート7及びカバープレート8を用いることで、軽量化を図ることができる。
【0049】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…ドーム架構
2…張弦リング材(リング材)
3…張弦リング束材(束材)
4…放射ケーブル(引張材)
5…角形鋼管
6…H形鋼
7…ウェブ連結プレート
8…カバープレート
11…内周リング材
12…円周方向部材
13…外周リング材
14…放射方向部材
15…斜め方向部材
10…屋根構造
51…板面部
52…スリット
61…フランジ
62…ウェブ
63…突出ウェブ部
56…直交板(直交板部)
100…角形鋼管どうしの接合構造
101…角形鋼管とH形鋼との接合構造