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特許7286833炭素含有量が規定されたフィラーワイヤを準備して溶接鋼ブランクを製造する方法、関連する溶接ブランク、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品並びに関連する部品を用いて溶接部品を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】炭素含有量が規定されたフィラーワイヤを準備して溶接鋼ブランクを製造する方法、関連する溶接ブランク、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品並びに関連する部品を用いて溶接部品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230529BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230529BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20230529BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20230529BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20230529BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20230529BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20230529BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20230529BHJP
   C22C 19/05 20060101ALN20230529BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/00 301W
C22C38/60
B23K26/322
B23K26/21 F
B23K35/30 320A
B23K35/30 320Q
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C21D9/50 101B
C22C19/05 B
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2022052923
(22)【出願日】2022-03-29
(62)【分割の表示】P 2020528247の分割
【原出願日】2018-11-26
(65)【公開番号】P2022104942
(43)【公開日】2022-07-12
【審査請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/057386
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・アルバレス
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー・リゾン
(72)【発明者】
【氏名】マリア・ポワリエ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-220445(JP,A)
【文献】特開2013-204090(JP,A)
【文献】特開2017-189781(JP,A)
【文献】特表2014-529007(JP,A)
【文献】特表2017-521263(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0033541(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 1/02- 1/84
C21D 9/00- 9/44, 9/50
B23K 26/00-26/70
B23K 35/00-35/34
B23K 35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接鋼ブランク(1)の製造方法であって、以下の連続工程:
- 2枚のプレコート板(2)を準備する工程であって、鋼基材(3)を含む各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有し、前記プレコーティング(5)が、少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)、並びに任意で前記金属間合金層(9)の上に延伸する金属合金層(11)を含み、前記金属合金層(11)が、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であり、前記基材(3)が、プレス硬化性鋼でできており、且つ0.8mm~5mmの間の厚さを有し、前記プレコート板(2)の少なくとも1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である工程、
- フィラーワイヤ(20)を使用して前記プレコート板(2)を突合せ溶接して、前記プレコート板(2)間の接合部に溶接継手(22)を形成する工程であって、突合せ溶接時に前記プレコーティング(5)が、各プレコート板(2)の少なくとも1つの主面(4)の全体を被覆している工程
を含み、
- 前記フィラーワイヤ(20)が、0.01wt%~0.45wt%の間(基準C1)の炭素含有量を有すること、
- 前記フィラーワイヤ(20)の組成及び溶接プールに添加される前記フィラーワイヤ(20)の割合を、得られた前記溶接継手(22)が、以下の特徴:
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数1】
(基準C2)であり、
式中、
- FTBMが、前記2枚のプレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の低い鋼基材(3)の前記焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、次の式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi-1532xC-5xMn-127xSi-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は最も硬化性の低い基材であることと、
(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが0.15wt%以上の場合、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJFAWJ>5000(基準C3)、ここで、前記溶接継手(22)の前記軟化係数FAWJが、前記溶接継手(22)のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9Si-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算されることと
を有するように選択することを特徴とする、
製造方法。
【請求項2】
前記溶接継手(22)の重量パーセントでの炭素含有量CWJが、1.25xCBMmost hardenable)-CWJ≧0(基準C4)であり、式中、CBMが、前記2枚のプレコート板(2)の前記基材(3)のうち最も硬化性の高い(most hardenable)基材(3)の、重量パーセントでの炭素含有量である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶接継手(22)のニッケル含有量NiWJが、2.0wt%~11.0wt%の間(基準C5)である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
準備工程で準備される前記プレコート板(2)が、それらの主面(4)の両方にプレコーティング(5)を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
突合せ溶接時に、前記プレコーティング(5)が、前記プレコート板(2)の少なくとも1枚の両方の主面(4)に完全に残っている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
突合せ溶接の前に、前記溶接継手(22)に少なくとも部分的に組み込まれることが意図されている、前記プレコート板(2)の少なくとも1枚の溶接端部(14)を、ブラッシング、機械加工、面取り、べべリング及び/又は前記プレコーティング(5)の少なくとも一部の除去のうち、少なくとも1つの処理工程を使用して作製することをさらに含み、もって、前記作製が、前記プレコーティング(5)が、前記2枚のプレコート板(2)各々の少なくとも1つの主面(4)に完全に残るように実施される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶接工程が、レーザービームを使用して実施される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記プレコート板(2)の少なくとも1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記プレコート板(2)の1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.040%≦C≦0.100%
0.80%≦Mn≦2.00%
Si≦0.30%
S≦0.005%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.100%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%、
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記プレコート板(2)の1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦Al≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、
ここで、前記チタン及び窒素の含有量が、
Ti/N>3.42
の関係を満たし、
前記炭素、マンガン、クロム及びシリコンの含有量が、
【数2】
の関係を満たし、
鋼が、任意選択的に
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%%
0.0005%≦Ca≦0.005%
のうち1つ以上の元素を含み、
残部が、鉄及び生産から生じる不可避の不純物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶接が、保護ガスを使用して実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記保護ガスが、ヘリウム及び/又はアルゴンである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
溶接され、その後熱間プレス成形及び冷却された鋼部品を製造する方法であって、以下の連続工程:
- 溶接鋼ブランク(1)を得るために、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を実行する工程と、
- 前記プレコート板(2)の前記基材(3)に、完全なオーステナイト組織を得るように、前記溶接鋼ブランク(1)を加熱する工程と、
- 前記溶接鋼ブランク(1)をプレス工具内で熱間プレス成形して、鋼部品を得る工程と、
- 前記プレス工具内で前記鋼部品を冷却する工程と
を含み、
熱間プレス成形及び冷却の後、前記溶接継手全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)が、前記溶接継手の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下である、方法。
【請求項14】
前記冷却工程中、冷却速度が、前記プレコート板(2)の前記基材(3)の中で、最も硬化性の高いもののベイナイト又はマルテンサイト冷却速度以上である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
溶接鋼ブランク(1)であって、2枚のプレコート板(2)を含み、鋼基材(3)を含む各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有し、前記プレコーティング(5)が、少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)、並びに任意で前記金属間合金層(9)の上に延伸する金属合金層(11)を含み、前記金属合金層(11)が、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であり、前記基材(3)が、プレス硬化性鋼でできており、且つ0.8mm~5mmの間の厚さを有し、
前記プレコート板(2)の少なくとも1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物であり、並びに
前記プレコート板(2)が、溶接継手(22)によって接合されており、前記溶接継手(22)が、
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数3】
(基準C2)であり、
式中
- FTBMが、2枚の前記プレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、硬化性が最も低い鋼基材(3)の焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi-1532xC-5xMn-127xSi-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材であること、及び
(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%以上の場合、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000(基準C3)となり、式中、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、アルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、前記溶接継手(22)中の、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9Si-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMnを使用して計算されること、
並びに、前記溶接継手(22)が、熱間プレス成形及び冷却の後、前記溶接継手(22)全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)が、前記溶接継手(22)の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下であることを特徴とし、
前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、重量パーセントで、1.25xCBM(most hardenable)-CWJ≧0(基準C4)であり、式中、CBMが、前記2枚のプレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の高い鋼基材(3)の、重量パーセントでの炭素含有量である、及び/又は
前記溶接継手(22)のニッケル含有量NiWJが、2.0wt%~11.0wt%の間である(基準C5)、溶接鋼ブランク(1)。
【請求項16】
溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品であって、第1の被覆鋼部品部分及び第2の被覆鋼部品部分を含み、鋼基材(3)を含む各被覆鋼部品部分が、少なくとも鉄及びアルミニウムを含むコーティングをその主面の少なくとも1つに有し、前記基材(3)が、プレス硬化性鋼でできており、且つ0.8mm~5mmの間の厚さを有し、
前記第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち、少なくとも1つの前記基材(3)の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物であり、並びに
前記第1及び第2の被覆鋼部品部分が、溶接継手(22)によって接合されており、前記溶接継手(22)が、
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数4】
(基準C2)であり、
式中、
- FTBMが、前記第1及び第2の被覆鋼部品部分の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の低い鋼基材(3)の前記焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi-1532xC-5xMn-127xSi-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材であること、及び
(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%以上の場合は、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000であり(基準C3)、式中、前記溶接継手(22)の前記軟化係数FAWJが、前記溶接継手(22)のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算され、
並びに、前記溶接継手(22)全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)が、前記溶接継手(22)の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下である、
溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項17】
前記第1及び第2被覆鋼部品部分の熱影響部の硬度低下が、そこに隣接する母材と比較して8%以下である、請求項16に記載の溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項18】
前記溶接継手(22)での平均硬度HVmean(WJ)が、600HV以下である、請求項16及び17のいずれか一項に記載の溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項19】
前記溶接継手(22)の重量パーセントでの炭素含有量CWJが、1.25xCBM-CWJ≧0(基準C4)であり、式中、CBMが、前記第1及び第2被覆鋼部品部分の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の高い鋼基材(3)の重量パーセントでの炭素含有量である、請求項16~18のいずれか一項に記載の溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項20】
前記溶接継手(22)のニッケル含有量NiWJが、2.0wt%~11.0wt%の間である(基準C5)、請求項16~19のいずれか一項に記載の溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項21】
前記第1及び第2被覆鋼部品部分のうち、1つの前記基材(3)の鋼が、重量で
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である、請求項16~20のいずれか一項に記載の溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項22】
前記第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち、1つの前記基材(3)の鋼が、重量で
0.040%≦C≦0.100%
0.80%≦Mn≦2.00%
Si≦0.30%
S≦0.005%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.100%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%、
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である、請求項16~21のいずれか一項に記載の、溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項23】
前記第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち、1つの前記基材(3)の鋼が、重量で、
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦Al≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、
ここで、前記チタン及び窒素の含有量が
Ti/N>3.42
の関係を満たし、
前記炭素、マンガン、クロム及びシリコンの含有量が、
【数5】
の関係を満たし、
前記鋼が、任意選択的に
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%%
0.0005%≦Ca≦0.005%
のうち1つ以上の元素を含み、
残部が、鉄及び生産から必然的に生じる不純物である、請求項16~21のいずれか一項に記載の、溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項24】
自動車用の侵入防止部品又はエネルギー吸収部品を製造するための、請求項16~23のいずれか一項に記載の、溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接鋼ブランクを製造する方法、それにより得られた溶接鋼ブランク、その溶接鋼ブランクから溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品を製造する方法、並びにそれにより得られた溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに突合せ溶接される、異なる組成及び/又は厚さの鋼板から溶接部品を製造する方法は、先行技術から知られている。より具体的には、溶接されたブランクは、通常、鋼のオーステナイト化を可能にする温度に加熱され、次に熱間プレス成形工具内で熱間成形及び冷却される。鋼の組成を選択して、その後の加熱及び成形作業を可能にすること、並びに溶接された鋼部品に高い機械的強度、高い衝撃強度及び良好な耐食性を与えることの両方ができる。
【0003】
このタイプの鋼部品は、特に自動車産業で使用され、より具体的には侵入防止用部品、構造部品又は自動車の安全性に寄与する部品の製造に使用される。
【0004】
腐食を防ぐために、鋼板は、アルミニウム含有浴での溶融めっきにより、アルミニウムベースのプレコーティングでプレコートされる。何ら事前準備をせずに鋼板を溶接する場合、アルミニウムベースのプレコーティングは、溶接作業中に溶融金属内の鋼基材で希薄されるであろう。プレコーティングのアルミニウム含有量の範囲で、2つの現象が発生し得る。
【0005】
溶融金属のアルミニウム含有量が局所的に高い場合、溶融金属のプレコーティングの一部が希薄化し、続いて熱間成形工程前の溶接継手の加熱中に合金化が起こり、その結果、溶接継手に金属間化合物が形成される。これらの金属間化合物は、初期クラックが最も発生しやすい個所である。
【0006】
さらに、アルミニウムは、溶接継手のオーステナイト化温度(Ac3)を上昇させる傾向があり、溶接継手のアルミニウム濃度が高いほど、このオーステナイト領域の変態は、さらに重大になる。場合によっては、これにより、溶接継手の完全なオーステナイト化が妨げられる可能性がある。溶接継手の完全なオーステナイト化は、成形前の加熱で起こるべきであり、熱間プレスのために、並びに熱間プレス成形及び冷却後の溶接継手でのマルテンサイト組織を得るために必要な第1の工程である。
【0007】
さらに、アルミニウムは、冷却中に溶接継手にマルテンサイト又はベイナイト組織を得るのに必要な臨界冷却速度を上昇させるので、溶接継手の焼入れ性にも悪影響を及ぼす。
【0008】
その結果、熱間成形後の冷却中にマルテンサイト又はベイナイトを得ることがもはや不可能になり、よって得られた溶接継手には、フェライトが含まれることになる。その場合溶接継手は、隣接する2枚の板よりも低い硬度及び機械的強度を示すため、部品の最も弱い領域となる。
【0009】
公報EP2007545は、プレコート鋼板の溶接端部で、金属合金の表面層を除去することからなる解決策を記載しており、これは、少なくとも部分的に溶接金属ゾーンに組み込まれることが意図されている。除去は、ブラッシング又はレーザービームを使用して実施できる。金属間合金層は、耐食性を保証し、成形作業前の熱処理中の脱炭現象及び酸化現象を防ぐために維持される。こうして、コーティングの表面層を局所的に除去することにより、アルミニウムの影響を大幅に減らす。
【0010】
しかしながら、プレコーティングの除去は、補足的な工程であり、それによって製造コストが増加する。
【0011】
EP2737971、US2016/0144456及びWO2014075824は、炭素、マンガン又はニッケルなどのオーステナイト安定化元素を含むフィラーワイヤを使用した、プレコート板の溶接方法を提供することにより、この問題を克服しようとしている。その目的は、プレコーティングの溶融に起因するアルミニウムが溶接部に存在しても、熱間プレス成形及び冷却後に、溶接継手に完全なマルテンサイト組織を得ることである。
【0012】
しかしながら、これらの方法は、溶接プール内のアルミニウムの存在に関する問題の1つ、すなわちオーステナイト化温度(Ac3)の補償を扱うのみであり、場合によっては高炭素フィラーワイヤの使用が、溶接継手の分離を引き起こす可能性があるため、完全に満足できるものではない。実際、本発明の発明者らは、上記の文献に開示された方法では、特に溶接継手でのアルミニウム含有量が0.7重量%以上の場合、熱間プレス成形及び冷却後に得られる部品で十分な機械的特性を得られないことを発見した。アルミニウム含有量が2.1%以上の場合はなおさらである。特に、このような部品の場合、溶接部の横方向の引張試験下で、溶接継手が破損する危険性が高い。
【0013】
WO2015/086781及びEP2942143に開示されている方法もこの問題を扱い、規定の溶加材を用いた特定の溶接方法を使用して、プレコート鋼板を溶接する方法を説明している。
【0014】
より具体的には、WO2015/086781は、金属粉末の形態で溶加材を供給しながら、ツインスポットレーザー溶接を使用することを提案しており、金属粉末の組成は、重量パーセントで、C:0~0.03wt%、Mo:2.0~3.0wt%、Ni:10~14wt%、Mn:1.0~2.0wt%、Cr:16~18wt%、及びSi:0.0~1.0wt%、残部は鉄である。
【0015】
EP2942143は、フィラーワイヤの形態で溶加材を供給しながら、レーザービームの前に配置されたアーク溶接トーチを使用する、ハイブリッドレーザー/アーク溶接を使用することを提案しており、フィラーワイヤの組成は、C:0~0.3wt%、Mo:0~0.4wt%、Ni:6~20wt%、Mn:0.5~7wt%、Cr:5~22wt%、及びSi:0~1.3wt%、Nb:0~0.7wt%、残部は鉄である。
【0016】
これらの方法も、満足できるものではない。実際、本発明の発明者らは、そこに記載されているフィラーワイヤを使用すると、溶接部に直に隣接するゾーンで、熱間プレス成形及び冷却後に部品が破損する危険性が高くなることを確認した。
【0017】
さらに、ハイブリッドレーザー/アーク溶接は、レーザー溶接と同じ溶接速度に到達できず、よって工程全体の生産性が低下するため、ハイブリッドレーザーアーク溶接の使用は望ましくない。
【0018】
さらに、粉末の添加は、一般にフィラーワイヤよりも大規模な工業環境で実施することが困難である。
【0019】
前述の溶加材の添加に基づく方法はすべて、溶加材の化学組成の範囲を特定するのみであり、溶接パラメーター及び条件が、溶加材の割合に影響するため、単一のフィラーワイヤが、溶接継手で全く異なる化学組成を引き起こし得る。
【0020】
したがって、フィラーワイヤの組成の説明だけでは、前述の問題を解決するには不十分であると思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】欧州特許第2007545号明細書
【文献】欧州特許第2737971号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0144456号明細書
【文献】国際公開第2014/075824号
【文献】国際公開第2015/086781号
【文献】欧州特許第2942143号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
したがって本発明の目的は、2枚のプレコート板から溶接鋼ブランクを製造する方法であって、溶接継手のアルミニウム含有量が比較的高くても、熱間プレス成形及び冷却後に、十分な衝突性能特性を有する部品を比較的低コストで得ることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的のために、溶接継手が、溶接されたブランクの熱間プレス成形及び冷却後に得られる部品の、最も弱いゾーンとならないことが望ましい。したがって、このような部品は、溶接継手に垂直な方向で張力を受けた場合に、溶接作業で生じる熱影響部に該当する溶接継手又は溶接継手に隣接する領域で、破損してはならない。
【0024】
この目的のために、本発明は、溶接鋼ブランクの製造方法であって、以下の連続工程:
- 2枚のプレコート板を準備する工程であって、鋼基材を含む各プレコート板が、その主面の少なくとも1つにプレコーティングを有し、プレコーティングが、少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層、並びに任意で金属間合金層の上に延伸する金属合金層を含み、金属合金層が、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層である工程、
- フィラーワイヤを使用してプレコート板を突合せ溶接して、プレコート板間の接合部に溶接継手を形成する工程であって、突合せ溶接時にプレコーティングが、各プレコート板の少なくとも1つの主面の全体を被覆している工程、
を含む製造方法に関する。
【0025】
この方法では、
- 前記フィラーワイヤが、0.01wt%~0.45wt%の間(基準C1)の炭素含有量を有すること、
- フィラーワイヤの組成及び溶接プールに添加されるフィラーワイヤの割合を、こうして得られた溶接継手が、以下の特徴を有するように選択する:
(a)溶接継手の焼入れ係数FTWJが、
【0026】
【数1】
(基準C2)
式中、
- FTBMは、2枚のプレコート板の鋼基材のうち、最も硬化性の低い鋼基材の焼入れ係数であり、
- 焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、次の式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi-1532xC-5xMn-127xSi-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiは、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は溶接継手であり、FTBMの場合は最も硬化性の低い基材であり、及び
(b)溶接継手の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ない。又は溶接継手の炭素含有量CWJが0.15wt%以上の場合、溶接継手の軟化係数FAWJFAWJ>5000(基準C3)、ここで、溶接継手の軟化係数FAWJは、溶接継手のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式、FA=10291+4384.1xMo+3676.9Si-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMnを使用して計算される。
【0027】
特定の実施形態によれば、方法は、以下の特徴の1つ以上を単独で、又は技術的に可能な任意の組み合わせに従って、含むことができる。
-溶接継手の、重量パーセントでの炭素含有量CWJが、1.25xCBM(most hardenable)-CWJ≧0であり(基準C4)、式中、CBMは、2枚のプレコート板の基材のうち、最も硬化性の高い(most hardenable)基材の、重量パーセントでの炭素含有量である。
-溶接継手のニッケル含有量NiWJが、2.0wt%~11.0wt%の間である(基準C5)。
-準備工程で得られるプレコート板の両方の主面にプレコーティングを有する。
-突合せ溶接時に、プレコーティングが、プレコート板の少なくとも1枚の、好ましくは2枚のプレコート板の両方の主面に完全に残っている。
-方法が、突合せ溶接の前に、ブラッシング、機械加工、面取り、べべリング及び/又は少なくとも一部のプレコーティングの除去のうち、少なくとも1つを使用して、少なくとも部分的に溶接継手に組み込むことを意図した、少なくとも1枚のプレコート板の溶接端部を作製することをさらに含み、もって、その作製は、2枚のプレコート板の各々の少なくとも1つの主面に、プレコーティングが完全残るように実施される。
-溶接工程が、レーザービームを使用して実施される。
-プレコート板の少なくとも1枚について、基材の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
含み、残部が鉄及び生産から生じる不純物である。
-プレコート板の少なくとも1枚について、基材の鋼が、重量で
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部が鉄及び生産から生じる不純物である。
-プレコート板の少なくとも1枚について、基材の鋼が、重量で
0.040%≦C≦0.100%
0.80%≦Mn≦2.00%
Si≦0.30%
S≦0.005%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.100%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%、
を含み、残部が鉄及び生産から生じる不純物である。
-プレコート板の少なくとも1枚について、基材の鋼が、重量で
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦AI≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、ここで、チタン及び窒素の含有量が、
Ti/N>3.42
の関係を満たし、
炭素、マンガン、クロム及びシリコンの含有量が、
【0028】
【数2】
の関係を満たし、
鋼が、任意選択的に
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%%
0.0005%≦Ca≦0.005%
のうち1つ以上の元素を含み、
残部が、鉄及び生産から生じる不可避の不純物である。
-溶接が、保護ガス、特にヘリウム及び/又はアルゴンを使用して実施される。
【0029】
本発明はさらに、溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品を製造する方法であって、以下の連続工程:
- 溶接鋼ブランクを得るために、上記の方法を実行する工程と、
- プレコート板の基材に完全なオーステナイト組織を得るように溶接鋼ブランクを加熱する工程と、
- 溶接鋼ブランクをプレス工具内で熱間プレス成形して、鋼部品を得る工程、と
- プレス工具内で鋼部品を冷却する工程と、
を含む方法に関する。
【0030】
溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品を製造する方法の、特定の実施形態によれば、冷却工程中、冷却速度は、プレコート板の基材の中で、最も硬化性の高い基材のベイナイト又はマルテンサイトの冷却速度以上である。
【0031】
本発明は、さらに溶接鋼ブランクに関する。溶接鋼ブランクは、2枚のプレコート板を含み、鋼基材を含む各プレコート板が、その主面の少なくとも1つにプレコーティングを有し、プレコーティングが、少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間
合金層、並びに任意で金属間合金層の上に延伸する金属合金層を含み、金属合金層が、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であり、プレコート板が、溶接継手によって接合されており、溶接継手が以下のように特徴付けられる。
【0032】
(a)溶接継手の焼入れ係数FTWJが、
【0033】
【数3】
(基準C2)であり、
式中
- FTBMは、2枚のプレコート板の鋼基材のうち、硬化性が最も低い鋼基材の焼入れ係数であり、
- 焼入れ係数FTWJ及びFTBMは、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi-1532xC-5xMn-127xSi-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセントで表示された平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は溶接継手であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材であり、及び
(b)溶接継手の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ない。又は溶接継手の炭素含有量CWJが、0.15wt%以上の場合、溶接継手の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000(基準C3)であり、式中、溶接継手の軟化係数FAWJが、溶接継手でのアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式FA=10291+4384.1xMo+3676.9Si-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMnを使用して、計算され
並びに、
溶接継手が、熱間プレス成形及び冷却の後、溶接継手全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)が、溶接継手の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下である。
【0034】
鋼ブランクの特定の実施形態によれば、溶接継手の炭素含有量CWJは、重量パーセントで、1.25xCBM(most hardenable)-CWJ≧0(基準C4)であり、式中CBMは、2枚のプレコート板の鋼基材のうち、最も硬化性の高い(most hardenable)鋼基材の、重量パーセントでの炭素含有量であり、溶接継手のニッケル含有量NiWJは、2.0wt%~11.0wt%の間である(基準C5)。
【0035】
本発明はさらに、溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品に関する。その鋼部品は、第1の被覆鋼部品部分及び第2の被覆鋼部品部分を含み、鋼基材を含む各被覆鋼部品部分は、少なくとも鉄及びアルミニウムを含むコーティングをその主面の少なくとも1つに有し、第1及び第2の被覆鋼部品部分は、溶接継手によって接合されており、溶接継手は、以下のように特徴付けられる。
【0036】
(a)溶接継手の焼入れ係数FTWJが、
【0037】
【数4】
(基準C2)であり
式中、
- FTBMは、2枚のプレコート板の鋼基材のうち、最も硬化性の低い鋼基材の焼入れ係数であり、
- 焼入れ係数FTWJ及びFTBMは、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi-1532xC-5xMn-127xSi-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiは、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域は、FTWJの場合は溶接継手であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材である。
【0038】
(b)溶接継手の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は溶接継手の炭素含有量CWJが0.15wt%以上の場合は、溶接継手の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000であり(基準C3)、式中、溶接継手の軟化係数FAWJは、溶接継手のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算され、
並びに、溶接継手全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)が、溶接継手の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下である。
【0039】
溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品の特定の実施形態によれば、以下の特徴の1つ又は複数を、単独で、又は任意の可能な組み合わせに従って含むことができる。
-熱影響部の硬度低下が、そこに隣接する第1及び第2の被覆鋼部品部分の母材と比較して、8%以下である。
-溶接継手の平均硬度HVmean(WJ)が、600HV以下である。
-溶接継手の炭素含有量CWJが、重量パーセントで1.25xCBM-CWJ≧0(基準C4)であり、式中、CBMは、第1及び第2の被覆鋼部品部分の鋼基材のうち、最も硬度の高い鋼基材の重量パーセントでの炭素含有量である。
-溶接継手のニッケル含有量NiWJが、2.0wt%~11.0wt%の間である(基準C5)。
-第1及び第2の被覆鋼部品部分のうちの少なくとも1つの基材の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である。
-第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち、少なくとも1つの基材の鋼が、重量で
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である。
-第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち、少なくとも1つの基材の鋼が、重量で
0.040%≦C≦0.100%
0.80%≦Mn≦2.00%
Si≦0.30%
S≦0.005%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.100%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%、
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である。
-第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち、少なくとも1つの基材の鋼が、重量で
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦AI≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、ここで、チタン及び窒素の含有量が、
Ti/N>3.42
の関係を満たし、
炭素、マンガン、クロム及びシリコンの含有量が、
【0040】
【数5】
の関係を満たし、
鋼が、任意選択的に
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%%
0.0005%≦Ca≦0.005%
のうち1つ以上の元素を含み、
残部が、鉄及び生産から必然的に生じる不純物である。
【0041】
本発明はさらに、自動車用の侵入防止部品又はエネルギー吸収部品を製造するための、上記の溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品の使用に関する。
【0042】
本発明は、例としてのみ提供された以下の明細書を読み、添付の図面を参照することで、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】プレコート板の斜視図である。
図2】板の周囲にプレコーティング除去ゾーンを含むプレコート板の斜視図である。
図3】本発明による方法の、溶接工程の開始の概略断面図である。
図4】本発明による方法の、溶接工程の終了の概略断面図である。
図5】硬度試験に使用される試験位置の概略図である。
【0044】
特許出願全体において、元素の含有量は、重量パーセント(wt%)で表示される。
【0045】
本発明の文脈において、「熱影響部」という表現は、溶接鋼ブランクでの溶接作業によって発生した熱影響部を指定するために使用されるが、さらに拡大して、溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品内部の、溶接鋼ブランクの熱影響部の熱間プレス成形及び冷却によって得られたゾーンを指定するためにも使用される。
【0046】
熱影響部は、溶接継手の両側に、例えば150~500マイクロメートルの間の幅で溶接継手から伸長する。
【0047】
母材は、プレコート板又は被覆鋼部品部分の、溶接作業によって発生した熱影響部に隣接して位置する基材の部分である。
【0048】
本発明は、溶接鋼ブランク1を製造する方法に関する。
【0049】
この方法は、2枚のプレコート板2を準備する、第1の工程を含む。
【0050】
図1に示すように、各プレコート板2は、2つの主面4及び、2つの主面4の間を一方の主面4から他方の主面まで延伸する、少なくとも1つの側面13を含む。図1に示す例では、プレコート板2は、4つの側面13を含む。例えば、側面13は、主面4の1つと60°~90°の間の角度を形成する。
【0051】
各プレコート板2は、主面の少なくとも1つにプレコーティング5を有する金属基材3を含む。プレコーティング5は、基材3上に重ねられ、それに接触している。
【0052】
金属基材3は、より具体的には鋼基材である。
【0053】
基材3の鋼は、より具体的には、フェライト-パーライト微細構造を有する鋼である。
【0054】
好ましくは、基材3は、熱処理を意図された鋼、より具体的にはプレス硬化性鋼、例えばマンガンボロン鋼(22MnB5タイプの鋼など)でできている。
【0055】
一実施形態によれば、基材3の鋼は、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、
残部は鉄及び生産から生じる不純物であり、
例えばそれらからなる。
【0056】
より具体的には、基材3の鋼は、重量で
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部は、鉄及び生産から生じる不純物である。
【0057】
代替案によれば、基材3の鋼は、重量で
0.040%≦C≦0.100%
0.80%≦Mn≦2.00%
Si≦0.30%
S≦0.005%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.100%
Mo≦0.100%
を含み、
Ca≦0.006%、
残部は鉄及び生産から生じる不純物であり、
例えばそれらからなる。
【0058】
代替案によれば、基材3の鋼は、重量で
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦AI≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%

を含み、
ここで、チタン及び窒素の含有量は、
Ti/N>3.42
の関係を満たし、
炭素、マンガン、クロム及びシリコンの含有量は、
【0059】
【数6】
の関係を満たし、
鋼が、任意選択的に
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%%
0.0005%≦Ca≦0.005%
のうち1つ以上の元素を含み、
残部は鉄及び生産から生じる不可避の不純物である。
【0060】
一例によれば、2枚のプレコート板2の基材3は、同じ組成を有する。
【0061】
別の例によれば、2枚のプレコート板2の基材3は、異なる組成を有する。特に、2枚の基材3は、上述の4種類の組成からそれぞれ選択される、異なる組成を有する。例えば、一方のプレコート板2の基材3の鋼は、上述の第1の組成を有し、他方のプレコート板2の基材3の鋼は、上述の第2、第3又は第4の組成から選択される組成を有する。
【0062】
基材3は、その所望の厚さに応じて、熱間圧延及び/若しくは冷間圧延とそれに続くアニーリング、又はその他任意の適切な方法によって得ることができる。
【0063】
基材3は、有利には、0.8mm~5mmの間、より具体的には、1.0mm~2.5mmの間の厚さを有する。
【0064】
プレコーティング5は、溶融めっきによって、すなわち、基材3を溶融金属の浴に浸漬することによって得られる。
【0065】
プレコーティング5は、基材3と接触する金属間合金層9を少なくとも含む。金属間合金層9は、少なくとも鉄及びアルミニウムを含む。金属間合金層9は、特に基材3と浴の溶融金属との間の反応によって形成される。より具体的には、金属間合金層9は、Fe-Alタイプ、より具体的にはFeAlの金属間化合物を含む。
【0066】
図1に示す例では、プレコーティング5は、金属間合金層9の上に延伸する金属合金層11をさらに含む。金属合金層11は、浴中の溶融金属の組成に近い組成を有する。これは、溶融めっき中に板が溶融金属浴を通過することによって運び去られた、溶融金属によって形成される。金属合金層11は、アルミニウムの層、又はアルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層である。
【0067】
この文脈において、アルミニウム合金は、50重量%を超えるアルミニウムを含む合金を指す。アルミニウムベースの合金は、重量でアルミニウムを主成分とする合金である。
【0068】
例えば、金属合金層11は、シリコンをさらに含むアルミニウム合金の層である。より具体的には、金属合金層11は、重量で
- 8%≦Si≦11%、
- 2%≦Fe≦4%、
を含み、残部は、アルミニウム及び考えられる不純物である。
【0069】
金属合金層11は、例えば、19μm~33μmの間、又は10μm~20μmの間の厚さを有する。
【0070】
図1に示す例では、プレコーティング5が金属合金層11を含み、金属間合金層9の厚さは、一般に数マイクロメートル程度である。具体的には、その平均的な厚さは、通常2~8マイクロメートルの間である。
【0071】
溶融めっきによって得られる金属間合金層9及び金属合金層11を含む、プレコーティング5の特定の構造は、特に特許EP2007545に開示されている。
【0072】
別の実施形態によれば、プレコーティング5は、上記のような金属間合金層9のみを含む。この場合、金属間合金層9の厚さは、例えば10μm~40μmの間である。金属間合金9からなるそのようなプレコーティング5は、例えば、上に開示されたような金属間合金層9及び金属合金層11を含むプレコーティング5を、予備合金化処理にかけることによって得られる可能性がある。このような予備合金化処理は、プレコーティング5の厚さの少なくとも一部分にわたって、プレコーティング5を基材3と合金化するように選択された温度及び保持時間で行われる。より具体的には、以下の工程を含み得る:予備合金化処理は、板を700℃~900℃の間の予備合金化温度に加熱する工程、及び予備合金化板をこの温度で、2分間~200の間の時間保持する工程。この場合、金属間合金層9は、異なる金属間副層、例えばFeAl、FeAl、FeAl、FeAl12Si及びFeAl副層などから構成されてもよい。
【0073】
有利には、図1に示すように、基材3は、その両方の主面上に上記のようなプレコーティング5を有する。
【0074】
任意選択で、図2に示すように、方法は、プレコート板2の少なくとも1枚、例えば両方のプレコート板2の溶接端部14を作製する工程をさらに含む。
【0075】
溶接端部14は、突合せ溶接中に溶接継手22内に少なくとも部分的に組み込まれることが意図されている、プレコート板2の周辺部分を含む。より具体的には、溶接端部14は、側面13並びに、この側面13から延伸し、プレコーティング5の一部及び基材3の一部を含むプレコート板2の一部を含む。
【0076】
より具体的には、溶接端部14の作製は、以下の加工工程、
-除去ゾーン18上の溶接端部14において、図2に示すように、プレコーティング5の少なくとも一部を除去する工程
-溶接端部14をブラッシングする工程、
-溶接端部14を機械加工する工程
-溶接端部14を面取りする工程、及び/又は
-溶接端部14をべべリングする工程、
のうち、少なくとも1つを含むことができる。
【0077】
除去ゾーン18を含むプレコート板2の例を図2に示す。溶接端部14でのプレコーティング5の少なくとも一部の除去は、好ましくは、レーザービームを使用して実施される。
【0078】
除去ゾーン18は、板2の側面13から0.5mm~2mmの間の幅にわたって延伸できる。
【0079】
有利には、除去ゾーン18では、金属合金層11は除去されるが、金属間合金層9は、その厚さの少なくとも一部が全体的に残る。この場合、残っている金属間合金層9は、溶接ブランク1の溶接継手22と直に隣接する領域を、その後の熱間プレス成形工程中の酸化及び脱炭から、並びに耐用期間中の腐食から保護する。
【0080】
一実施形態によれば、除去工程中、金属間合金層9は、その完全な状態を維持するか、又はその初期厚さ一部のみ、例えば初期厚さの60%、80%又は90%超のみが残る。
【0081】
一実施形態によれば、溶接端部14の作製は、作製工程中に2枚のプレコート板2の各々の少なくとも1つの主面4に、プレコーティング5が全体に残るように行われる。
【0082】
詳細には、溶接端部14は、2枚のプレコート板2を突合せ溶接で接合することによって得られる溶接継手22のアルミニウム含有量が、0.7wt%以上、より具体的には1.0wt%、さらにより具体的には1.5wt%以上、例えば2.0wt%以上、又は2.1wt%以上となるように作製される。
【0083】
例えば、金属合金層11としてアルミニウム合金層を含み、25μm以上の厚さを有するプレコーティング5の場合、及び通常の溶接幅(0.8mm~1.8mmの間)の場合、作製後、プレコーティング5が、2枚のプレコート板2の各々の少なくとも1つの面4全体に残っていれば、溶接継手22のアルミニウム含有量は、0.7重量%以上になるだろう。
【0084】
ブラッシング工程により、機械的切断作業及び/又は溶接端部14でのプレコーティング5の可能な除去から生じる、溶接端部14上の、より具体的には側面13上のプレコーティング5の痕跡を、少なくとも部分的に除去できる。
【0085】
溶接端部14を面取り又はべべリングすることにより、溶接継手22での厚みの超過をもたらすことなく、添加される溶加材の量を増やすことができる。
【0086】
溶接端部14の機械加工は、機械加工前の溶接端部14の形状が、レーザー溶接できるほど真っ直ぐでない場合に実施される。
【0087】
方法は、任意選択の溶接端部14作製の後に、溶接鋼ブランク1を得るために、フィラーワイヤ20を使用してプレコート板2を突合せ溶接する工程をさらに含む。
【0088】
図3及び図4は、溶接鋼ブランク1を形成するための、溶接工程の2つの段階を示す。
【0089】
図3及び図4に示す例では、プレコート板2は、溶接前にそれらのプレコーティング5の除去を、何ら施されていない。この例では、プレコーティング5は、溶接前にプレコート板2の両方の主面4上に完全に残っている。この例では、突合せ溶接時にプレコート板2の2つの主面が、プレコーティング5で完全に覆われている。
【0090】
溶接作業により、2枚の板2間の接合部に溶融金属ゾーンが形成され、その後それは凝固して、溶接継手22を形成する。
【0091】
溶接工程は、具体的にはレーザービーム24が2枚の板2間の接合部に向けられる、レーザー溶接工程である。このレーザービーム24は、レーザービーム24の衝撃点26でフィラーワイヤ20を溶融するように構成されている。
【0092】
レーザー溶接工程は、例えば、COレーザー又は固体レーザーを用いて行われる。
【0093】
レーザー源は、好ましくは高出力レーザー源である。それは、例えば、約10マイクロメートルの波長を有するCOレーザー、約1マイクロメートルの波長を有する固体レーザー源又は、例えば約0.8~1マイクロメートルの間の波長を有するダイオードレーザーなどの半導体レーザー源から選択され得る。
【0094】
レーザー源の出力は、板2の厚さに応じて選択される。特に、出力は、フィラーワイヤ20の融解及び板2の溶接端部14の融解、並びに溶接継手22での十分な混合が可能になるように選択される。COレーザーの場合、レーザー出力は、例えば3kW~12kWの間である。固体レーザー又は半導体レーザーの場合、レーザー出力は、例えば2kW~8kWの間である。
【0095】
両方のタイプのレーザー源について、レーザービーム24の直径は、板2上のその衝撃点26において、約600μm程度であってもよい。
【0096】
溶接工程の間、溶接は、例えば保護雰囲気下で行われる。そのような保護雰囲気は、特に、溶接が実施されている領域の酸化及び脱炭、溶接継手22における窒化ホウ素の形成、並びに水素吸収による起こり得る低温割れを防止する。
【0097】
保護雰囲気は、例えば、不活性ガス又は不活性ガスの混合物である。不活性ガスは、ヘリウム又はアルゴン又はこれらのガスの混合物であり得る。
【0098】
この溶接工程中、2枚の板1の対向する側面13間の距離は、例えば0.3mm以下、より具体的には0.1mm以下である。2枚の板1の対向する側面13間にこのような隙間を設けることにより、溶接作業中に溶加材の堆積が促進され、溶接継手22での過剰な厚みの形成が防止される。作製工程中に、板2の溶接端部14において、端部が面取り又はべべリングされた場合にも、溶加材の堆積及び過剰な厚みの防止が増進される。
【0099】
溶接工程の間、溶接プールに添加されるフィラーワイヤ20の割合は、例えば10%~50%の間、より具体的には10%~40%の間である。
【0100】
本発明によれば、フィラーワイヤ20は、0.01wt%~0.45wt%の間の炭素含有量を有する(基準C1)。
【0101】
さらに、フィラーワイヤ20の組成及び溶接プールに添加するフィラーワイヤ20の割合は、このようにして得られた溶接継手22が、以下の特徴を有するように選択される。
【0102】
(a)溶接継手22の焼入れ係数FTWJが、
【0103】
【数7】
(基準C2)であり、
式中
- FTBMは、2枚のプレコート板2の鋼基材3のうち、最も硬化性の低い鋼基材3の焼入れ係数であり、
- 焼入れ係数FTWJ及びFTBMは、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi-1532xC-5xMn-127xSi-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、Mn及びSiは、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域は、FTWJの場合は溶接継手22であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材3であり、及び
(b)溶接継手22の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ない。又は溶接継手22の炭素含有量CWJが0.15wt%以上の場合は、溶接継手22の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000であり(基準C3)、
ここで、溶接継手22の軟化係数FAWJは、溶接継手22のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMnを使用して計算される。
【0104】
プレコート板2の基材3のうち最も硬化性の低い基材3は、最低の炭素含有量を有する基材3である。
【0105】
実際、本発明の発明者らは、上記の基準C1、C2及びC3が満たされると、このような溶接鋼ブランク1から得られた部品は、オーステナイト化工程(プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却)を含む熱処理の後、溶接継手22に垂直な引張試験を受けた場合、溶接継手22が0.7wt%以上、さらには2.1%以上のアルミニウム含有量を有していても、溶接継手22又は溶接継手22に隣接する熱影響部において破損しないという冶金学的な保証を、驚くべき方法で見出した。
【0106】
したがって、本発明の方法により、溶接継手22のアルミニウム含有量が比較的高い可能性があっても、比較的低コストで十分な衝突性能を有する部品を得ることが可能である。
【0107】
特に、もはやプレコート板2の両面のプレコーティング5を除去する必要がないので、プレコート板2の両主面4のプレコーティング5の除去を必要とする方法と比較して、製造コストが低減される。むしろ、両方の主面4をコートされた板2の場合、プレコート板2の1つの主面4のみでプレコーティング5を除去しても、プレコート板2のいずれの主面4でもプレコーティング5を除去しなくても、満足な特性が得られる可能性がある。
【0108】
より具体的には、本発明の発明者らは、0.01wt%~0.45wt%の間の炭素含有量(基準C1)を有するフィラーワイヤ20の使用により、特に溶接継手22にアルミニウムが多量に存在する場合、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却後の溶接継手22において、炭素偏析の発生を防ぎ、結果として硬度がピークに達することを、驚くべき方法で見出した。したがって、このようなフィラーワイヤ20の使用は、溶接継手22の脆性を低減し、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却後に得られる部品の、溶接継手22に対して垂直な張力下での溶接継手22における破損の回避に関与する特に、本発明の発明者らは、0.01wt%~0.45wt%の間の炭素含有量を有するフィラーワイヤ20が使用される場合、溶接継手22の全体的な最大硬度変動ΔHV(WJ)が、溶接継手22の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下であることを確認した。言い換えると、
【0109】
【数8】
式中、ΔHV(WJ)は、溶接継手22で測定された最高硬度と最低硬度との間の差であり、HVmean(WJ)は、溶接継手22で測定された平均硬度である。
【0110】
さらに、本発明の発明者らは、溶接継手22の組成が基準C2を満たす場合、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却後の溶接継手22の最低硬度HVmin(WJ)が、プレコート板2の2枚の基材3のうち、最も硬化性の低い基材の平均硬度HVmean(BMleast hardenable)以上であることも、驚くべき方法で見出した。したがって、基準C2が満たされ、溶接継手22で均質な混合が行われると仮定すると、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却後に得られる部品は、溶接継手22に対し垂直方向の張力下での溶接継手22の破損が、発生しにくい。
【0111】
最後に、発明者らは、驚くべきことに、溶接継手22の炭素含有量CWJが厳密に0.15wt%未満(基準C3、最初の代替案)である場合、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却の後に得られる部品の熱影響部で生じる硬度低下が、そこに隣接する母材と比較して8%以下であることを確認した。
【0112】
溶接継手22の炭素含有量CWJが0.15wt%以上の場合、軟化係数FAWJが5000以下であれば、発明者らは、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却の後に得られた部品の熱影響部の硬度が、そこに隣接する母材と比較して10%以上低下することを確認した。それとは逆に、溶接継手22の軟化係数FAWJが厳密に5000を超える(基準C3、第2の代替案)場合、発明者らは、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却の後に得られた部品の熱影響部での硬度低下が、そこに隣接する母材と比較して8%以下であることを確認した。
【0113】
この場合、硬度低下は、以下のように定義される。
【0114】
【数9】
【0115】
本発明の文脈では、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却の後に得られた部品の熱影響部の硬度低下が、そこに隣接する母材と比較して、厳密に8%を超えないようにすることが望ましい。このような硬度低下は、溶接継手に垂直方向の張力下での、熱影響部の破損の危険性を高めるからである。
【0116】
したがって、基準C3が満たされると、熱影響部での破損の危険性が大幅に低下する。
【0117】
結果として、基準C1、C2及びC3が累積的に満たされる本発明による方法では、溶接継手22に垂直な張力下での破損が、熱影響部又は溶接継手22で起こりにくい。
【0118】
有利には、溶接継手22中のアルミニウムの含有量は、0.7wt%以上、より具体的には1.0wt%以上、より具体的には1.5wt%以上、さらにより具体的には2.0wt%以上、例えば2.1wt%以上である。
【0119】
有利には、フィラーワイヤ20の組成及び溶接プールに添加されるフィラーワイヤ20の割合は、溶接継手22内の炭素含有量CWJが、溶接ブランク1を形成するプレコート板2の基材3のうち、最も硬化性の高い(most hardenable)基材3の炭素含有量CBMの、厳密に1.25倍以下(基準C4)になるように、さらに選択される。つまり、1.25xCBM(most hardenable)-CWJ≧0
溶接ブランク1を形成するプレコート板2の基材3のうち、最も硬化性の高いものは、最高の炭素含有量を有する基材3である。
【0120】
実際、本発明の発明者らは、この基準C4が確認されると、熱処理後の溶接継手22の破損の危険性が、さらに低下することを見出した。
【0121】
好ましくは、フィラーワイヤ20の組成及び溶接プールに添加されるフィラーワイヤ20の割合は、溶接継手22のニッケル含有量NiWJが2.0wt%~11.0wt%の間となるように、さらに選択される(基準C5)。
【0122】
実際、発明者らは、基準C5が満たされる場合、熱処理後の溶接継手22の硬度が特に安定することを確認した。より具体的には、この場合、溶接継手22内の炭素含有量が0.15wt%以上でも、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却後の溶接継手22全体の硬度差ΔHV(WJ)が、80HV以下であることが確認される。張力下でのひずみをより均一に再分配することで、溶接継手22の破損の危険性をさらに低減するので、このような安定性の向上は、有利である。
【0123】
例えば、フィラーワイヤ20の組成は、重量で
0.001%≦C≦0.45%、より具体的には0.02%≦C≦0.45%
0.001%≦Mn≦30%、より具体的には0.05%≦Mn≦20%
0.001%≦Si≦1%
0.001%≦Ni≦56%
0.001%≦Cr≦30%
0.001%≦Mo≦5%
0.001%≦Al≦0.30%
0.001%≦Cu≦1.80%
0.001%≦Nb≦1.50%
0.001%≦Ti≦0.30%
0.001%≦N≦10%
0.001%≦V≦0.1%
0.001%≦Co≦0.20%、
であり、残部は、鉄及び生産から生じる不純物である。
【0124】
例えば、フィラーワイヤ20は、上記の元素からなる。
【0125】
一例によれば、フィラーワイヤ20は、上記で定義された組成及び0.001重量%~7重量%の間のニッケル含有量を有する。
【0126】
別の例によれば、フィラーワイヤ20は、上記で定義された組成及び7重量%~56重量%の間のニッケル含有量を有する。
【0127】
特定の例によれば、フィラーワイヤ20の組成は、重量で
0.02%≦C≦0.45%、
0.05%≦Mn≦20%
0.001%≦Si≦1%
7%≦Ni≦56%
0.001%≦Cr≦30%
0.001%≦Mo≦5%
0.001%≦Al≦0.30%
0.001%≦Cu≦1.80%
0.001%≦Nb≦1.50%
0.001%≦Ti≦0.30%
0.001%≦N≦10%
0.001%≦V≦0.1%
0.001%≦Co≦0.20%、
であり、残部は、鉄及び生産から生じる不純物である。
【0128】
例えば、フィラーワイヤ20は、上記の元素からなる。
【0129】
フィラーワイヤ20は、例えば、ソリッドワイヤ又はフラックスコアワイヤである。
【0130】
本発明はさらに、上記の方法を使用して得ることができる溶接鋼ブランク1に関する。
【0131】
そのような溶接鋼ブランク1は、2枚のプレコート板2を含み、鋼基材3を含む各プレコート板2は、その主面4の少なくとも1つにプレコーティング5を有し、プレコーティング5は、少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層9、並びに任意で、金属間合金層9の上に延伸する金属合金層11を含み、金属合金層11は、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であり、プレコート板2は、溶接継手22によって接合される。
【0132】
プレコート板2及び溶接継手22は、溶接鋼ブランク1を製造する方法に関して上記で開示された特徴を有する。
【0133】
特に、溶接継手22は、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却の後、溶接継手22全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)が、溶接継手22の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下となる。つまり、
【0134】
【数10】
【0135】
さらに、溶接継手22は、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却後の溶接継手22の最低硬度HVmin(WJ)が、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却後のプレコート板2の2枚の基材3のうち、最も硬化性の低いものの平均硬度HVmean(BMleast hardenable)以上となる。
【0136】
さらに、溶接継手22は、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却後、熱影響部の硬度低下が、そこに隣接する母材と比較して8%以下になる。つまり、
【0137】
【数11】
【0138】
有利には、溶接継手22は、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却の後、溶接継手22全体の硬度差ΔHV(WJ)が、80HV以下となる。
【0139】
有利には、溶接継手22は、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却後の溶接継手22の平均硬度HVmean(WJ)が、600HV以下となる。
【0140】
本発明はまた、溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品を製造する方法であって、
- 上記の方法を使用して溶接鋼ブランク1を製造する工程、
- 溶接ブランク1を構成するプレコート板2の基材3に、完全なオーステナイト組織を得るように溶接鋼ブランク1を加熱する工程と、
- 溶接鋼ブランク1をプレス工具内で熱間プレス成形して、鋼部品を得る工程と、
- プレス工具内で鋼部品を冷却する工程と、
を含む方法に関する。
【0141】
より具体的には、加熱工程中に、溶接鋼ブランク1は、オーステナイト化温度まで加熱される。それは次に、溶接鋼ブランク1を形成する板2の厚さに応じた保持時間、オーステナイト化温度で保持される。保持時間は、溶接ブランク1がオーステナイト化され、所定の厚さの合金化金属間層が基材3とプレコーティング5との間の合金化によって形成されるように、オーステナイト化温度に応じて選択される。例えば、保持時間は約5分程である。
【0142】
熱間プレス成形の前に、このようにして加熱された溶接鋼ブランク1は、熱間成形プレス工具内内で転写される。転写時間は、有利には5~10秒の間である。熱間プレス成形前の溶接鋼ブランク1の冶金学的変態を回避するために、転写時間は可能な限り短くなるように選択される。
【0143】
冷却工程中の冷却速度は、2枚の鋼板2の基材3の少なくとも1つ、例えば最も硬化性の高い鋼板1、すなわち臨界冷却速度が最も低い鋼板のマルテンサイト又はベイナイト臨界冷却速度以上である。
【0144】
本発明はまた、上記の方法を使用して得られる、溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品に関する。
【0145】
より具体的には、この鋼部品は、それぞれ、2枚のプレコート鋼板2をプレス工具内で熱間プレス成形及び冷却することで得られる、第1の被覆鋼部品部分及び第2の被覆鋼部品部分を含む。
【0146】
より具体的には、各被覆鋼部品部分は、主面の少なくとも1面上に鉄及びアルミニウムを含むコーティングを有する鋼基材を含み、第1及び第2の鋼部品部分は、上記のように溶接継手22によって接合される。
【0147】
特に、第1及び第2の鋼部品部分のコーティングは、熱間プレス形成中の、プレコーティング5の少なくとも部分的な合金化から生じる。
【0148】
第1及び第2の鋼部品部分の基材は、プレコート板2について上述した組成を有する。それらは、プレコート板2の基材3の熱間プレス成形及び冷却から生じる。
【0149】
溶接継手22は、溶接継手22全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)が、溶接継手22の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下となる。つまり、
【0150】
【数12】
【0151】
溶接継手22の最低硬度HVmin(WJ)は、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却後のプレコート板2の2枚の基材3のうち、最も硬化性の低いものの平均硬度HVmean(BMleast hardenable)以上である。
【0152】
さらに、第1及び第2の被覆鋼部品部分のそれぞれについて、熱影響部の硬度低下は、そこに隣接する母材と比較して8%以下である。つまり、
【0153】
【数13】
【0154】
有利には、溶接継手22全体の硬度差ΔHV(WJ)は、80HV以下である。
【0155】
有利には、溶接継手22の平均硬度HVmean(WJ)は、600HV以下である。
【0156】
本発明の発明者らは、フィラーワイヤWを使用して、2枚のプレコート板A及びBを突合せレーザー溶接することによって溶接鋼ブランク1を製造する、試作を実施した。
【0157】
以下の表1は、実施された試作E1~E21の各々についての実験条件を列挙している。
【0158】
最初に準備されたプレコート板A及びBは、両方の主面4に約25マイクロメートルの厚さのプレコーティング5を有した。
【0159】
試験されたプレコート板A及びBのすべてについて、プレコーティング5は、溶融金属の浴中での溶融めっきにより得られ、金属合金層11及び金属間合金層9を含んだ。
【0160】
プレコーティング5の金属合金層11は、重量で
Si:9%
Fe:3%
を含み、残部は、アルミニウム及び加工で生じる可能性のある不純物からなる。
【0161】
金属合金層11の平均総厚は、20μmであった。
【0162】
金属間合金層9は、Fe-Alタイプ、多くはFeAl、FeAI及びFeAISiの金属間化合物を含んだ。厚さは、平均5μmであった。
【0163】
表1の「溶接端部でプレコーティングを除去したか」と題した列に示すように、溶接ブランク1には、突合せ溶接前にプレコート板A及びB各々の主面4の1つで、プレコーティング5の金属合金合金11を除去した後に得られたもの(「片面で除去」)、及びプレコーティング5を両方の主面4に完全に残したプレコート板2を溶接して得られたもの(「除去せず」)がある。除去は、先の出願であるWO2007/118939に開示された方法を使用して、レーザーアブレーションによって実施した。
【0164】
【表1】
【0165】
上記の表において、本発明によらない試作には下線が引かれている。
【0166】
表1に記載される種々の試作で使用された鋼基材は、以下の表2に列挙する組成を有し、含有量は、重量%で表示される。
【0167】
【表2】
【0168】
すべての基材について、組成の残部は鉄、考えられる不純物及び生産から生じる不可避の元素である。
【0169】
上記の表2で、「-」は、多くても微量の対象の元素を、基材が含むことを意味する。
【0170】
表1に記載される種々の試作で使用されたフィラーワイヤWは、以下の表3に列挙する組成を有し、含有量は、重量%で表示される。
【0171】
【表3】
【0172】
すべての溶接棒について、組成の残部は鉄、考えられる不純物及び生産から生じる不可避の元素である。
【0173】
次に発明者らは、各試作E1~E21について、得られた溶接継手22の組成を、従来の測定方法を使用して測定した。
【0174】
溶接継手22のマンガン、アルミニウム、ニッケル、クロム、モリブデン及びシリコン含有量を、走査型電子顕微鏡に内蔵されたエネルギー分散分光検出器を使用して、溶接継手22に対して垂直に採取したサンプルの断面で測定した。炭素含有量は、溶接継手22に対して垂直に採取したサンプルの断面で、Castaing電子マイクロプローブを使用して測定した。これらの測定の結果を以下の表4に示す。
【0175】
【表4】
【0176】
これらの測定に基づいて、発明者らは、試作E1~E21による溶接鋼ブランク1の各々について、本発明による基準C1、C2、C3及び任意の追加の基準C4及びC5を満たしているか否かを判定した。この判定の結果を以下の表5に要約する。
【0177】
【表5】
下線付きの値:本発明によるものではない
【0178】
表5から分かるように、E1~E8と参照される試作は、本発明による例であり、これらの試作では、基準C1~C3が満たされている。
【0179】
それとは逆に、E9~E21と参照される試作は、本発明によるものではなく、これらの試作では、基準C1~C3の少なくとも1つの基準が満たされていない。
【0180】
最後に、発明者らは、このようにして製造された溶接鋼ブランク1をオーステナイト化を含む熱処理にかけ、その後急冷して熱処理部品を得た。そのような熱処理された部品は、熱間プレス成形及び冷却された部品と同じ特性を有する。発明者らは、次にこれらの部品の機械的特性を決定するために測定を実施した。これらの測定の結果を以下の表6に示す。
【0181】
【表6】
下線付きの値:本発明によるものではない
【0182】
引張試験は、レーザー溶接方向に対し垂直に切り出した、タイプEN 12.5x50(240x30mm)の横方向溶接引張試験片に対して次の規格、すなわちNF EN ISO 4136及びNF ISO 6892-1に開示されている方法を使用して、周囲温度(約20℃)で実施した。各試作(E1~E21)について、5回の引張試験を実施した。<<破損箇所>>と題された列に示すパーセンテージは、各試作(E1~E21)について、前述の領域(母材、HAZ又は溶接継手)で破損が発生した引張試験のパーセンテージに相当する。
【0183】
硬度は、ビッカース硬度試験を使用して、規格NF EN ISO 6507-1に従って測定した。試験は、0.5kgf(HV0.5)の試験荷重を使用して、溶接継手に対して横方向に実施した。各熱処理部品の硬度測定の位置を図5に示す。この図から分かるように、硬度は、熱処理された部品の厚さのそれぞれ1/4、1/2及び3/4に位置する3本の線に沿って測定した。各線について、溶接継手22の中心軸から開始する、規格NF EN ISO 6507-1に準拠した通常の工程で測定を行った。
【0184】
溶接継手22又は母材の試験点の位置は、それ自体既知の試薬であるナイタールでのエッチング後の、試験表面の金属組織検査によって特定した。熱影響部を、3本の試験線上の、溶接継手22と直に隣接する2つの試験点を含む領域と特定した。
【0185】
溶接継手の最低硬度HVmin(WJ)は、溶接継手22で測定された最低硬度値に相当する。
【0186】
溶接継手の最高硬度HVmax(WJ)は、溶接継手22で測定された最高硬度値に相当する。
【0187】
溶接継手の平均硬度HVmean(WJ)は、溶接継手22で測定されたすべての硬度値の平均に相当する。
【0188】
熱影響部の最低硬度HVmin(HAZ)は、熱影響部で測定された最低硬度値に相当する。
【0189】
母材の平均硬度HVmean(BM)は、母材で測定されたすべての硬度値の平均に相当する。
【0190】
上記の表6から分かるように、基準C1~C3が満たされる試作E1~E8では、引張試験中の破損の100%は、溶接継手22又は熱影響部以外で発生した。
【0191】
さらに、
-溶接継手22全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)は、溶接継手22の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下である。
-溶接継手22の最低硬度HVmin(WJ)は、硬化性が最も低い母材の平均硬度HVmean(BMleast hardenable)以上である。
-熱影響部での硬度低下は、母材と比較して8%以下である。
【0192】
それとは逆に、基準C1~C3のうちの少なくとも1つが満たされていないため、本発明によらない試作E9~E21では、溶接継手22又は熱影響部のいずれかで破損が発生する。
【0193】
より具体的には、基準C1が満たされず、基準C2及びC3が満たされている場合(試作E13~E19)、溶接継手22全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)は、溶接継手22の平均硬度HVmean(WJ)の20%を厳密に超える。したがって、この場合、溶接継手22は、局所的な硬度ピーク領域を含み、それによって延性が低下し、溶接継手22での破損の危険性が高まる。
【0194】
さらに、基準C1及びC3は満たされるが基準C2が満たされない場合(試作E9~E12)、溶接継手22の最低硬度HVmin(WJ)は、硬化性が最も低い母材の平均硬度HVmean(BMleast hardenable)よりも厳密に少ない。この場合、破損の100%は、溶接継手22で発生した。
【0195】
最後に、基準C1及びC2は満たされるが基準C3が満たされない場合(試作E20及びE21)、母材と比較する熱影響部の硬度低下は、厳密に8%を超える。この場合、破損の少なくとも20%は、熱影響部で発生した。これらの結果で、C3が満たされない場合、熱影響部での破損の危険性が高くなることが確認される。
【0196】
さらに、基準C5が満たされる試作では、溶接継手22の炭素含有量が0.15wt%以上であっても、溶接継手内の硬度変動ΔHV(WJ)は、80HV以下であることが確認されている(試作E1~E8及びE19及びE20)。それとは逆に、基準C5が満たされない場合、溶接継手22の炭素含有量が0.15wt%以上であれば、溶接継手内の硬度変動ΔHV(WJ)は、80HVを厳密に超える(試作E10~E18)。
【0197】
したがって、本発明による方法は、溶接前にプレコーティング5を除去する必要なしに、溶接継手22を含む優れた機械的特性を有する部品を、プレス工具内での熱間プレス成形及び冷却後に得ることができるので、特に有利である。
【0198】
したがって、自動車の安全に寄与する侵入防止部品、構造部品又はエネルギー吸収部品の製造に特に適する。
図1
図2
図3
図4
図5