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7286870ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置、ペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法
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  • -ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置、ペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法 図1
  • -ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置、ペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法 図2
  • -ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置、ペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置、ペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20230529BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
G03F1/62
G03F7/20 521
G03F7/20 503
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022503280
(86)(22)【出願日】2021-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2021005738
(87)【国際公開番号】W WO2021172104
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2020030942
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敦
(72)【発明者】
【氏名】高村 一夫
(72)【発明者】
【氏名】石川 比佐子
(72)【発明者】
【氏名】小野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰久
(72)【発明者】
【氏名】吉川 弥
(72)【発明者】
【氏名】松本 信子
(72)【発明者】
【氏名】出口 朋枝
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-92155(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008594(WO,A1)
【文献】特開2018-194838(JP,A)
【文献】国際公開第2019/115218(WO,A1)
【文献】特開2019-168502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 1/62
G03F 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層側に、炭素の少なくとも一部がケイ素に置き換えられた炭化ケイ素層を含有するカーボンナノチューブを含むペリクル膜。
【請求項2】
前記炭化ケイ素層の含有量が、前記カーボンナノチューブの全質量に対して、10質量%~100質量%の範囲である請求項1に記載のペリクル膜。
【請求項3】
膜の厚みが、2nm以上200nm以下である請求項1又は請求項2に記載のペリクル膜。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブにおけるチューブの径が、0.8nm以上400nm以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のペリクル膜。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブが、シングルウォールカーボンナノチューブ又はマルチウォールカーボンナノチューブである請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のペリクル膜。
【請求項6】
前記シングルウォールカーボンナノチューブにおけるバンドルの太さが、4nm~400nmである請求項5に記載のペリクル膜。
【請求項7】
前記マルチウォールカーボンナノチューブの単繊維の太さが、4nm~400nmである請求項5に記載のペリクル膜。
【請求項8】
EUV光を用いた露光に用いられる請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のペリクル膜。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のペリクル膜と、
前記ペリクル膜を支持する支持枠と、
を備えるペリクル。
【請求項10】
パターンを有する原版と、前記原版におけるパターンを有する側の面に装着された請求項9に記載のペリクルと、を含む露光原版。
【請求項11】
露光光を放出する光源と、請求項10に記載の露光原版と、前記光源から放出された露光光を前記露光原版に導く光学系と、を有し、前記露光原版は、前記光源から放出された露光光が前記ペリクル膜を透過して前記原版に照射されるように配置されている露光装置。
【請求項12】
カーボンナノチューブを準備する工程と、
前記カーボンナノチューブをシート状に成膜してカーボンナノチューブシートを製造する工程と、
前記カーボンナノチューブシートを、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように支持枠に接続してペリクル前駆体を製造する工程と、
前記ペリクル前駆体及びSi含有粒子をチャンバ内に配置して、加熱時間5分~120分、加熱温度1200℃~1700℃にて前記チャンバ内を加熱する工程と、
を含むペリクルの製造方法。
【請求項13】
光源から放出された露光光を、請求項10に記載の露光原版の前記ペリクル膜を透過させて前記原版に照射し、前記原版で反射させるステップと、前記原版によって反射された露光光を、前記ペリクル膜を透過させて感応基板に照射することにより、前記感応基板をパターン状に露光するステップと、を有する半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置、ペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペリクルに用いられるペリクル膜は、通常、シリコンウェハ基板上に、窒化シリコン(SiN)等を積層させて製造される。
一方で、光(例えばEUV光)に対する透過性及び耐性に優れる材料としてカーボンナノチューブが挙げられ、カーボンナノチューブ膜を用いたペリクルの開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、カーボンナノチューブ膜を用いたEUV用ペリクルが開示されている。
また、特許文献2には、カーボンナノチューブフィルムにコーティングを形成するEUV用ペリクルが開示されている。
【0004】
特許文献1:国際公開第2014/142125号
特許文献2:特開2018-194840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーボンナノチューブは優れた強度を示すことから、カーボンナノチューブをペリクルに用いることで、ペリクル膜の強度を向上させ得ると考えられる。
しかし、本開示の発明者らは、カーボンナノチューブを用いたペリクル膜を露光装置に装着して使用する際、露光装置においてしばしば使用される水素から発生する水素ラジカルが、カーボンナノチューブの強度を低下させることを見出した。
これに対して、例えば、表面にコーティングを形成したカーボンナノチューブをペリクル膜として用いることでペリクル膜に対して水素ラジカル耐性を付与しようとした場合、上記コーティングによりカーボンナノチューブの径が太くなるため、ペリクル膜の光透過率が低下する可能性がある。
以上より、ペリクル膜の水素ラジカル耐性と光透過性とを両立することは困難であった。
【0006】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、EUV露光の際に、水素ラジカル耐性及び光透過率に優れるペリクル膜、ペリクル、露光原版及び露光装置並びにこの露光原版を用いた半導体装置の製造方法を提供することである。
本開示の他の一実施形態が解決しようとする課題は、EUV露光の際に、水素ラジカル耐性及び光透過率に優れるペリクルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的手段は以下の態様を含む。
<1> 少なくとも表層側に、炭素の少なくとも一部がケイ素に置き換えられた炭化ケイ素層を含有するカーボンナノチューブを含むペリクル膜。
<2> 前記炭化ケイ素層の含有量が、前記カーボンナノチューブの全質量に対して、10質量%~100質量%の範囲である<1>に記載のペリクル膜。
<3> 膜の厚みが、2nm以上200nm以下である(好ましくは10nm以上200nm以下である)<1>又は<2>に記載のペリクル膜。
<4> 前記カーボンナノチューブにおけるチューブの径が、0.8nm以上400nm以下である<1>~<3>のいずれか1つに記載のペリクル膜。
<5> 前記カーボンナノチューブが、シングルウォールカーボンナノチューブ又はマルチウォールカーボンナノチューブである<1>~<4>のいずれか1つに記載のペリクル膜。
<6> 前記シングルウォールカーボンナノチューブにおけるバンドルの太さが、4nm~400nmである<5>に記載のペリクル膜。
<7> 前記マルチウォールカーボンナノチューブの単繊維の太さが、4nm~400nmである<5>に記載のペリクル膜。
<8> EUV光を用いた露光に用いられる<1>~<7>のいずれか1つに記載のペリクル膜。
<9> <1>~<8>のいずれか1つに記載のペリクル膜と、前記ペリクル膜を支持する支持枠と、を備えるペリクル。
<10> パターンを有する原版と、前記原版におけるパターンを有する側の面に装着された<9>に記載のペリクルと、を含む露光原版。
<11> 露光光を放出する光源と、<10>に記載の露光原版と、前記光源から放出された露光光を前記露光原版に導く光学系と、を有し、前記露光原版は、前記光源から放出された露光光が前記ペリクル膜を透過して前記原版に照射されるように配置されている露光装置。
<12> カーボンナノチューブを準備する工程と、前記カーボンナノチューブをシート状に成膜してカーボンナノチューブシートを製造する工程と、前記カーボンナノチューブシートを、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように支持枠に接続してペリクル前駆体を製造する工程と、前記ペリクル前駆体及びSi含有粒子をチャンバ内に配置して、加熱時間5分~120分、加熱温度1200℃~1700℃にて前記チャンバ内を加熱する工程と、を含むペリクルの製造方法。
<13> 光源から放出された露光光を、<10>に記載の露光原版の前記ペリクル膜を透過させて前記原版に照射し、前記原版で反射させるステップと、前記原版によって反射された露光光を、前記ペリクル膜を透過させて感応基板に照射することにより、前記感応基板をパターン状に露光するステップと、を有する半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、EUV露光の際に、水素ラジカル耐性及び光透過率に優れるペリクル膜、ペリクル、露光原版及び露光装置並びにこの露光原版を用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
本開示の他の一実施形態によれば、EUV露光の際に、水素ラジカル耐性及び光透過率に優れるペリクルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ペリクル膜の温度Tとペリクル膜の輻射率εとの関係を示すグラフである。
図2】ペリクル膜の温度Tとペリクル膜のEUV透過率Trとの関係を示すグラフである。
図3】本開示のペリクルを示す概略断面図である。
図4】本開示の露光装置の一例である、EUV露光装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0011】
≪ペリクル膜≫
本開示のペリクル膜(以下、単にペリクル膜ともいう)は、少なくとも表層側に、炭素の少なくとも一部がケイ素に置き換えられた炭化ケイ素層を含有するカーボンナノチューブ(本明細書中、単に「ケイ素含有カーボンナノチューブ」ともいう)を含む。
【0012】
本開示のペリクル膜は、無置換のカーボンナノチューブの表層における炭素をケイ素に置換されたケイ素含有カーボンナノチューブを含む。これによって、ペリクル膜の水素ラジカル耐性を向上させることができ、かつ、カーボンナノチューブの径の増大を抑制することができるため光透過率(例えば、EUV光に対する透過率)を良好に維持することができる。
【0013】
本開示のペリクル膜は、波長が短い露光光(例えば、EUV光、EUV光よりも更に波長が短い光、等)を用いたペリクルの作製に好適である。
上記の中でも、本開示のペリクル膜は、EUV光を用いた露光に好適に用いられる。
【0014】
本開示において、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光とは、波長1nm以上100nm以下の光を指す。
EUV光の波長は、5nm以上13.5nm以下が好ましい。
本開示では、EUV光、及び、EUV光よりも波長が短い光を総称し、「EUV光等」ということがある。
【0015】
<ケイ素含有カーボンナノチューブ>
本開示のケイ素含有カーボンナノチューブは、少なくとも表層側に、炭素の少なくとも一部がケイ素に置き換えられた炭化ケイ素層を含有するカーボンナノチューブである。
これによって、カーボンナノチューブを含むペリクル膜に、良好な水素ラジカル耐性を付与することができる。
【0016】
ケイ素含有カーボンナノチューブにおけるチューブの径は、例えば、0.8nm以上400nm以下にすることができる。
ペリクル膜の破損を抑制する観点から、チューブ径は、2nm以上であることが好ましく、4nm以上であることがより好ましく、8nm以上であることがさらに好ましく、10nm以上であることが非常に好ましく、20nm以上であることが特に好ましい。
光透過率を向上させる観点から、チューブ径は、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることがさらに好ましく、40nm以下であることが特に好ましい。
カーボンナノチューブにおけるチューブの径は、ペリクル膜中において、単繊維として存在する場合は単繊維の径を指し、カーボンナノチューブの束(即ちバンドル)として存在する場合はバンドルの径を指す。
【0017】
ケイ素含有カーボンナノチューブとしては、特に制限はなく、シングルウォールカーボンナノチューブ又はマルチウォールカーボンナノチューブであってもよい。
【0018】
ケイ素含有カーボンナノチューブがシングルウォールカーボンナノチューブである場合、上記シングルウォールカーボンナノチューブにおけるバンドルの太さは、例えば、4nm以上400nm以下であってもよい。
ペリクル膜の破損を抑制する観点から、バンドルの太さは、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、40nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。
光透過率を向上させる観点から、バンドルの太さは、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることがさらに好ましく、40nm以下であることが特に好ましい。
【0019】
ケイ素含有カーボンナノチューブがマルチウォールカーボンナノチューブである場合、
上記マルチウォールカーボンナノチューブの単繊維の太さは、例えば、4nm以上400nm以下であってもよい。
ペリクル膜の破損を抑制する観点から、バンドルの太さは、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、40nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。
光透過率を向上させる観点から、上記マルチウォールカーボンナノチューブの単繊維の太さは、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることがさらに好ましく、40nm以下であることが特に好ましい。
【0020】
本開示のケイ素含有カーボンナノチューブは、少なくとも表層側に、上記炭化ケイ素層を含有するカーボンナノチューブである。ケイ素含有カーボンナノチューブは、上記炭化ケイ素層のみで構成されていてもよく、上記炭化ケイ素層以外の層としてカーボンナノチューブ層をさらに含んでいてもよい。
上記カーボンナノチューブ層とは、ケイ素を含有しない層を指す。
【0021】
(炭化ケイ素層)
炭化ケイ素層は、炭素の少なくとも一部がケイ素に置き換えられた層である。即ち炭化ケイ素層において、ケイ素と炭素とが結合して形成された-C-Si-C-結合を含む。
本開示のケイ素含有カーボンナノチューブは、上記炭化ケイ素層を少なくとも表層側に含有する。
【0022】
上記炭化ケイ素層の含有量は、上記カーボンナノチューブの全質量に対して、10質量%~100質量%の範囲であることが好ましい。
炭化ケイ素層の含有量が、カーボンナノチューブの全質量に対して、10質量%以上であることで、ペリクル膜の水素ラジカル耐性をより向上させることができる。
上記の観点から、炭化ケイ素層の含有量が、カーボンナノチューブの全質量に対して、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが非常に好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。
炭化ケイ素層の含有量の上限としては100質量%以下であってもよいが、EUV透過率を保ちながらペリクル膜の強度を保つ観点から、炭化ケイ素層の含有量は、カーボンナノチューブの全質量に対して、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが非常に好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
炭化ケイ素層の含有量は、エックス線光電子分光分析(XPS)装置(例えば、株式会社島津製作所製のAxis NOVA)を用いて測定する。
まず、エックス線光電子分光分析(XPS)装置によってケイ素の含有量を測定する。
得られたケイ素の含有量を炭化ケイ素の含有量に換算することで、炭化ケイ素層の含有量を得る。
【0023】
上記炭化ケイ素層において、本開示の効果を損なわない範囲内で、カーボンナノチューブにケイ素以外の他の元素が置換されていてもよい。
上記の他の元素としては、例えば、ホウ素、ルテニウム等が挙げられる。
【0024】
(カーボンナノチューブ層)
本開示のケイ素含有カーボンナノチューブは、少なくとも表層側に上記炭化ケイ素層を含み、内側にカーボンナノチューブ層をさらに含んでいてもよい。
本開示のケイ素含有カーボンナノチューブが、内側にカーボンナノチューブ層をさらに含むことで、ケイ素含有カーボンナノチューブの強度をより向上させることができるため、ケイ素含有カーボンナノチューブを含む本開示のペリクル膜の強度をより向上させることができる。
なお、カーボンナノチューブ層とは、ケイ素を含有しないカーボンナノチューブ層を意味する。
【0025】
上記カーボンナノチューブ層の含有量は、上記ケイ素含有カーボンナノチューブの全質量に対して、0質量%超90質量%未満の範囲であることが好ましい。
カーボンナノチューブ層の含有量が、カーボンナノチューブの全質量に対して、0質量%超であることで、ペリクル膜の強度をより向上させることができる。
上記の観点から、炭化ケイ素層の含有量が、カーボンナノチューブの全質量に対して、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが非常に好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。
カーボンナノチューブ層の含有量が、90質量%未満であることで、相対的に炭化ケイ素層の含有量を向上させることができるため、ペリクル膜の水素ラジカル耐性をより向上させることができる。
上記の観点から、カーボンナノチューブ層の含有量は、カーボンナノチューブの全質量に対して、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
炭化ケイ素層とカーボンナノチューブ層との厚みの比(炭化ケイ素層/カーボンナノチューブ層)は、ペリクル膜の水素ラジカル耐性を向上させる観点から、3/100以上が好ましく、5/100以上がより好ましく、10/100以上がさらに好ましい。
ペリクル膜の強度を向上させる観点及びEUV光の透過率を向上させる観点から、炭化ケイ素層とカーボンナノチューブ層との厚みの比(炭化ケイ素層/カーボンナノチューブ層)は、60/100以下が好ましく、30/100以下がより好ましく、20/100以下がさらに好ましい。
炭化ケイ素層とカーボンナノチューブ層との厚みの比は、エックス線光電子分光分析(XPS)装置(例えば、株式会社 島津製作所製のAxis NOVA)を用いて測定する。
【0027】
<酸化防止層>
本開示のペリクル膜において、少なくとも片面側に、酸化防止層が積層されてもよい。
ペリクル膜に酸化防止層が積層されると、光照射又はペリクル保管の際に、ペリクル膜の酸化が抑制される。
【0028】
酸化防止層は、光(好ましくはEUV光)に対して安定な材料からなる層であれば、その種類は特に制限されない。例えば、SiO(x≦2)、Si(x/yは0.7~1.5)、SiON、Y、YN、Mo、Ru、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、またはRhからなる層等でありうる。
【0029】
光の透過を阻害しないためには、酸化防止層の厚みは1nm~10nm程度が好ましく、2nm~5nm程度がより好ましい。酸化防止層の厚みを1nm~10nm程度とすることにより、酸化防止層に光が吸収されることを抑制し、透過率の低下を抑制することができる。
【0030】
ペリクル膜の厚みに対する酸化防止層の厚みの割合は、0.03~1.0の範囲にあることが好ましい。上記数値範囲であれば、酸化防止層に光が吸収されることを抑制し、透過率の低下を抑制することができる。
【0031】
また、ペリクル膜に酸化防止層を積層すると、新たに生成した層界面、すなわち酸化防止層と空気の界面、及び酸化防止層とペリクル膜との界面で、光の反射が生じ、透過率が低下するおそれがある。これらの層界面での光の反射率は、ペリクル膜及び酸化防止層の厚み、ならびにペリクル膜及び酸化防止層を構成する元素の種類に応じて、算出することができる。そして、反射防止膜の原理と同様に膜の厚みを最適化することによって、反射率を低下させることができる。
【0032】
酸化防止層の厚みは、吸収による光の透過率低下及び反射による光の透過率低下を抑制しつつ、かつ酸化防止の性能を有する範囲で、最適な厚みとすることが好ましい。
【0033】
酸化防止層の厚み均一性や表面粗さも特に限定されない。露光のパターニング工程において、膜厚みの不均一性又は表面粗さに由来した透過率の不均一性、光の散乱による支障等が生じなければ、酸化防止層が連続層あるいは海島状のどちらであってもよく、また、膜厚みが不均一であっても表面粗さがあってもよい。
【0034】
ペリクル膜と酸化防止層とを併せたペリクル膜の平均屈折率は1.9~5.0の範囲であることが好ましい。屈折率は分光エリプソメトリーなどの手法で測定することができる。また、ペリクル膜と酸化防止層とを併せたペリクル膜の平均密度は1.5g/cm~5.0g/cmの範囲であることが好ましい。密度はX線反射法などの手法で測定することができる。
【0035】
ペリクル膜の厚み(二層以上からなる場合には総厚)は、例えば、2nm以上200nm以下とすることができる。
EUV光の透過率を高くする観点から、ペリクル膜の厚みは、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、40nm以下がさらに好ましく、30nm以下が非常に好ましく、20nm以下が特に好ましい。
ペリクル膜の破損し易さの観点及び異物遮蔽性の観点(つまり、ペリクル膜を異物が通過しないようにする観点)から、ペリクル膜の厚みは、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましい。
【0036】
本開示のペリクル膜において、上記カーボンナノチューブが不織布形状を形成していることが好ましい。
本開示のペリクル膜に含まれるケイ素含有カーボンナノチューブの形状は、通常、繊維形状であるため、本開示のペリクル膜全体として不織布形状を形成することができる。
ペリクル膜に含まれるカーボンナノチューブが不織布形状を形成していることで、ペリクル膜に通気性を確保することができる。
例えば、ペリクルを備える露光装置によりEUV光を用いて露光を行う場合、真空又は減圧条件下にてペリクルにEUV光を照射することが求められる。
通常、ペリクルに通気孔を設け、上記通気孔からペリクル内部の空気を除去して、真空又は減圧環境を作り出すが、通気孔を設ける手間がかかるという課題があった。
本開示のペリクル膜において、上記カーボンナノチューブが不織布形状を形成していることで、不織布形状によって通気性を確保することができ、容易に真空又は減圧環境を作り出すことができる。
【0037】
[ペリクル膜の物性]
(放熱性及び耐熱性について)
露光の際の光として、例えばEUVを用いる場合、EUVのエネルギーが様々な緩和過程を経て熱に変わる。そのため、ペリクル膜には放熱性及び耐熱性が求められる。本開示のフィルムを有するペリクル膜は、放熱性及び耐熱性を兼ね備え、EUVリソグラフィー中に、ペリクル膜が破損するおそれが少ない。
したがって、従来の単結晶シリコンからなるペリクル膜は放熱性が低く、EUV光照射中に熱的ダメージを受けて変形、あるいは、破損しやすいという問題がある一方、本開示のペリクル膜を用いることによって原版をより確実に保護することができる。以下に、炭素系材料を含むペリクル膜(以下、「炭素含有膜」とも称する)が放熱性及び耐熱性を兼ね備える理由を説明する。
【0038】
炭素含有膜の放熱性は主に、(i)炭素含有膜の輻射性(赤外線によるエネルギーの放出)及び(ii)炭素含有膜の熱伝導性によって定まる。
【0039】
(i)炭素含有膜の輻射率ε(輻射性)と、EUV光照射中の炭素含有膜の温度T、EUV光照射強度P、炭素含有膜のEUV透過率Tr、シュテファン・ボルツマン定数σ、及び壁温度(EUV光照射装置内部の温度)Twとの間には、以下の関係式(1)が成り立つ。なお、関係式(1)では、炭素含有膜の熱伝導性を0とする。
【0040】
【数1】
【0041】
図1は、上記式(1)から求められる「炭素含有膜温度T」と「炭素含有膜の輻射率ε」との関係を示すグラフであり;当該グラフでは、炭素含有膜のEUV透過率Trは80%、EUV光照射強度Pは100W/cmとしている。図1に示されるように、炭素含有膜の輻射率εが大きくなればなるほど、炭素含有膜の温度Tが低くなることがわかる。
【0042】
一方、図2は、前述の式(1)から求められる「炭素含有膜温度T」と「炭素含有膜の透過率Tr」との関係を示すグラフであり;当該グラフでは、炭素含有膜の輻射率εを0.01、EUV光照射強度Pを100W/cmとしている。図2に示されるように、炭素含有膜の透過率Trが変化すると、炭素含有膜の温度Tは多少変化するものの、その変化量が小さい。つまり、炭素含有膜の温度Tは、炭素含有膜のEUV透過率Trには殆ど依存せず、炭素含有膜の輻射率εに大きく依存する。
【0043】
ここで、炭素含有膜の輻射率εを実験的に求めることは困難である。ただし、キルヒホッフの法則に従えば、赤外線吸収率の高い膜ほど、輻射率εが高くなる。したがって、ペリクル膜の遠赤外線吸収スペクトルから、炭素含有膜の輻射性がある程度予測される。
【0044】
従来のペリクル膜である単結晶シリコンの赤外線吸収は、Si-Si結合の伸縮振動モードに起因する吸収のみであり、赤外線吸収率が低い。したがって、単結晶シリコン膜は、輻射性が低い。
【0045】
これに対し、炭素含有膜を形成する炭素系材料は、C-H結合由来の吸収やsp炭素結合由来の強い吸収を有し、赤外線吸収率が高い。したがって、炭素含有膜は輻射性が高い。
【0046】
(ii)ペリクル膜の熱伝導性は、膜を形成する材料の熱伝導度によって定まる。単結晶シリコンの熱伝導度は150W/mK~170W/mKである。これに対し、炭素含有膜の一例であるグラファイト膜の熱伝導度は1000W/mK~5000W/mKである。つまり、単結晶シリコンからなるペリクル膜は熱伝導性が低いのに対し、グラファイト膜などの炭素含有膜は熱伝導性が高い。
【0047】
以上のことから、従来のペリクル膜である単結晶シリコン膜は(i)輻射性及び(ii)熱伝導性のいずれも劣るため、放熱性が不十分であることがわかる。これに対し、本開示の炭素含有膜は、(i)輻射性及び(ii)熱伝導性の両方が優れる。したがって、放熱性が非常に高いといえる。
【0048】
ペリクル膜の耐熱性は、ペリクル膜を構成する材料の融点によって定まる。グラファイトなどの炭素含有膜の融点が3600℃であるのに対し、単結晶シリコンの融点は1410℃である。
【0049】
つまり、グラファイト膜などの炭素含有膜は、従来の単結晶シリコンからなるペリクル膜と比較して、格段に耐熱性が優れる。
【0050】
(ペリクル膜のEUV透過性と厚さ)
本開示のペリクル膜は、リソグラフィーに用いる光(例えば、波長13.5nmの光、波長6.75nmの光、EUV等)の透過率が50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、92%以上であることが特に好ましい。ペリクル膜が酸化防止層と積層される場合には、これらを含む膜の光の透過率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0051】
ペリクル膜の光の透過率Trはフォトダイオードで測定される。具体的には、ペリクル膜を設置しない状態で検出される電流値(入射光強度I)、及びペリクル膜を設置した状態で検出される電流値(透過光強度I)から、下記の式(2)に基づいて求められる。
【0052】
【数2】
【0053】
ペリクル膜の厚さは、ペリクル膜の光の透過率、ペリクル膜の赤外線吸収率、ペリクル膜の強度、及び自立性を勘案して設定されることが好ましい。
【0054】
EUV露光のパターニング工程の際に、膜厚みの不均一性又は表面粗さに由来した透過率の不均一性、EUV光の散乱による支障等が生じなければ、ペリクル膜の厚み均一性や表面粗さは特に問わない。
EUV露光のパターニング工程のときに、皺に由来した透過率の低下又は不均一性、散乱による支障等が生じなければ、ペリクル膜に皺があってもよい。
【0055】
ペリクル膜のEUV透過率Trと、ペリクル膜の厚さdとの間には、下記の式(3)の関係が成り立つ。
【0056】
【数3】
【0057】
式(3)における密度ρはペリクル膜を構成する物質固有の密度である。また、上記式(3)における質量吸光係数μは、以下のように求められる。光子のエネルギーがおよそ30eVより大きく、なおかつ光子のエネルギーが原子の吸収端から十分に離れている場合、質量吸光係数μは原子どうしの結合状態等に依存しない。例えば波長13.5nmの光子エネルギーは、92.5eV付近であり、原子の吸収端からも十分に離れている。よって、上記質量吸光係数μは、ペリクル膜を構成する化合物の原子同士の結合状態に依存しない。そのため、ペリクル膜の質量吸光係数μは、ペリクル膜を構成する各元素(1,2,・・・,i)の質量吸光係数μと、各元素の質量分率Wとから、以下の式(4)で求められる。
【0058】
【数4】
【0059】
上記式(4)における各元素の質量吸光係数μは、Henkeらによってまとめられている以下の参考文献の値を適用できる(B. L. Henke, E. M. Gullikson, and J. C. Davis, “X-Ray Interactions:Photoabsorption, Scattering, Transmission, and Reflection at E = 50-30,000 eV, Z = 1-92,” At. Data Nucl. Data Tables 54, 181 (1993) これらの数値の最新版はhttp://www.cxro.lbl.gov/optical_constants/に掲載されている。)。
【0060】
つまり、ペリクル膜の質量吸光係数μ、フィルムの密度ρが特定できれば、所望のEUV透過率Trに基づいて、好ましいペリクル膜の厚さdを設定できる。
【0061】
(ペリクル膜の応力について)
シリコンウエハなどの基板上に、薄膜を製膜して得たペリクル膜には応力が残留することがある。ペリクル膜の残留応力が大きいと、クラックが生じたり、自立膜としたときに破れの原因となったりするため、ペリクル膜の残留応力は小さいほうが好ましい。ペリクル膜の残留応力の向きと大きさは、製膜した基板の反りの向きと大きさを測定することによって測定することができる。製膜した基板の反りの向きと大きさは、例えばレーザー光を利用した変位計測装置を用いて測定することができ、具体的には三次元形状測定装置(NH-3SP 三鷹光器株式会社)などを用いて測定することができる。
ペリクル膜の残留応力の大きさは1GPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.5GPa以下であり、さらに好ましくは0.2GPa以下である。
【0062】
残留応力は、引張方向の応力であることが好ましい。残留応力の方向が引張方向である場合には、膜に張力が加わるために、皺の無い自立膜を得ることができる。一方、残留応力の方向が圧縮方向である場合には、膜に圧縮力が加わるため皺が生じる。膜の皺を抑制することで、膜の厚みの変化を抑制してEUVの透過率をより均一にすることができ、また、振動などの外力に対して破れを生じにくくすることができる。
【0063】
<ペリクル>
本開示のペリクル(以下、単にペリクルともいう)は、本開示のペリクル膜と、上記ペリクル膜を支持する支持枠と、を備える。
本開示のペリクルは、本開示のペリクル膜を備えるので、本開示のペリクル膜と同様の効果を奏する。
【0064】
以下、図3を参照しながら、本開示に係るペリクルについて説明する。図3は、本開示のペリクル10を示す概略断面図である。ペリクル10は、膜接着剤層13を介してペリクル膜12と支持枠14とが接着されて構成されており、支持枠14には、通気孔16が形成され、かつ、原版用接着剤層15が形成されている。
【0065】
[支持枠]
支持枠(ペリクル枠)14は、ペリクル膜12を支持するためのものである。
支持枠の材質、形状などは、本開示のペリクル膜を、膜接着剤層等を介して支持可能な枠であれば特に制限されない。支持枠としては、例えばアルミニウム、ステンレス、ポリエチレンなどの樹脂、セラミックス製の枠であってもよい。
例えば図3に示されるように、支持枠14は、ペリクル10及び原版(不図示)に囲まれた領域と、EUV露光装置内との気圧を一定とするための通気孔16と、を有していてもよい。なお、上述の通り、通気孔16を設けない場合であっても、本開示のペリクル膜が不織布形状であれば、真空環境及び減圧環境を作り出すことが可能である。
EUV光による露光は、真空環境(減圧環境)下で行われるため、露光時の気圧が不均一であると、ペリクル膜12が、圧力差によって伸縮、又は破損するおそれがある。通気孔16には、ペリクル10及び原版に囲まれた領域に異物が入らないよう、フィルターが配設されることが好ましい。
フィルターとしては、ULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルター、金属メッシュなどが挙げられる。また、支持枠14は検査しやすいように露光に支障が無い範囲で着色されていてもよい。
【0066】
ペリクル膜を支持枠へ固定する手順や方法は特に制限されない。また、エッチングされた基板を支持枠の一部として使用してもよい。例えば、金属、シリコンウエハ、ガラス、樹脂、塩など、特定の処理方法で除去できる基板の上にペリクル膜を積層してもよく、その後に、ペリクル膜の配置面と反対面の基板表面に、枠のサイズに合わせてマスクを施し、マスク形状を残してエッチングまたは溶解させてもよい。これにより、基板の一部を支持枠として使用したペリクルを得ることができる。
【0067】
基板の形状を枠形状と合わせるためのトリミング方法は特に制限されない。シリコンウエハを用いる場合には、機械的にウエハを割る方法や、レーザートリミングの方法を用いることができる。
【0068】
[膜接着剤層]
膜接着剤層13は、支持枠14とペリクル膜12とを接着する層である。膜接着剤層13は、例えばアクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリイミド樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、無機系接着剤等からなる層でありうる。EUV露光時の真空度を保持する観点から、膜接着剤層13は、アウトガスが少ないものが好ましい。アウトガスの評価方法として、例えば昇温脱離ガス分析装置を用いることができる。
【0069】
また、ペリクル膜を支持枠に固定する方法は特に制限されず、ペリクル膜を支持枠へ直接貼り付けてもよく、支持枠の一方の端面にある膜接着剤層を介してもよく、機械的に固定する方法や磁石などの引力を利用してペリクル膜と支持枠とを固定してもよい。
ペリクル膜と支持枠の接着性の評価方法としては、例えば圧力、面積、距離、角度を変えてエアブローにより膜の破れや剥離の有無を評価する手法や、加速度、振幅を変えて振動試験により膜の破れや剥離の有無を評価する手法などを用いることができる。
【0070】
[原版用接着剤層]
原版用接着剤層15は、支持枠14と原版とを接着する層である。図3に示されるように、原版用接着剤層15は、支持枠14のペリクル膜12が固定されていない側の端部に設けられる。原版用接着剤層15は、例えば、両面粘着テープ、シリコーン樹脂粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、無機系接着剤等である。EUV露光時の真空度を保持する観点から、原版用接着剤層15は、アウトガスが少ないものが好ましい。アウトガスの評価方法として、例えば昇温脱離ガス分析装置を用いることができる。
【0071】
膜接着剤層13及び原版用接着剤層15は、EUV露光装置内で散乱したEUV光に曝されるため、EUV耐性を有することが好ましい。EUV耐性が低いと、EUV露光中に接着剤の接着性や強度が低下して、露光装置内部で接着剤の剥離や異物発生などの不具合が生じる。EUV光照射による耐性評価は、例えば、XPS測定、EDS分析、RBSなどの組成分析の手法、XPS,EELS,IR測定やラマン分光などの構造解析の手法、エリプソメトリーや干渉分光法、X線反射法等などの膜厚み評価法、顕微鏡観察、SEM観察やAFM観察などの外観や表面形状評価方法、ナノインデンターや剥離試験による強度及び接着性評価方法などを用いることができる。
【0072】
リソグラフィーでは、回路パターンが正確に転写されることが必要である。従って、露光範囲において露光光の透過率がほぼ均一であることが必要である。本開示のペリクル膜12を用いることで、露光範囲において一定の光透過率を有するペリクル10が得られる。
【0073】
(ペリクルの用途)
本開示のペリクルは、EUV露光装置内で、原版に異物が付着することを抑制するための保護部材としてだけでなく、原版の保管時や、原版の運搬時に原版を保護するための保護部材としてもよい。例えば、原版にペリクルを装着した状態(露光原版)にしておけば、EUV露光装置から取り外した後、そのまま保管すること等が可能となる。ペリクルを原版に装着する方法には、接着剤で貼り付ける方法、静電吸着法、機械的に固定する方法等がある。
【0074】
[変形例]
本開示のペリクル20の変形例としては、ペリクルを形成するペリクル膜は、膜の両面に酸化防止層が積層されていてもよい。
ペリクル膜に酸化防止層が積層されると、EUV光照射又はペリクル保管の際に、ペリクル膜の酸化が抑制される。なお、酸化防止層は、ペリクル膜の片面側のみに積層されていてもよい。
【0075】
≪ペリクルの製造方法≫
ペリクルの製造方法(以下、単にペリクルの製造方法ともいう)は、カーボンナノチューブを準備する工程(準備工程)と、上記カーボンナノチューブをシート状に成膜してカーボンナノチューブシートを製造する工程(シート製造工程)と、上記カーボンナノチューブシートを、開口部を有する支持枠の上記開口部を覆うように支持枠に接続してペリクル前駆体を製造する工程(前駆体製造工程)と、上記ペリクル前駆体及びSi含有粒子をチャンバ内に配置して、加熱時間5分~120分、加熱温度1000℃~1700℃にてチャンバ内を加熱する工程(加熱工程)と、を含む。
【0076】
<準備工程>
準備工程は、カーボンナノチューブを準備する工程である。
本開示のペリクルに含まれるケイ素含有カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブを準備して、上記カーボンナノチューブの表層における炭素をケイ素に置換すること(以下、ケイ素化ともいう)で製造することができる。
即ち、準備工程において、後にケイ素化されることとなるカーボンナノチューブを準備する。
【0077】
ケイ素化されるカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブバルク構造体でもよい)としては、反応系に金属触媒を存在させ、かつ反応雰囲気に酸化剤を添加するCVD(ChemicalVaporDeposition:化学気相成長法)法によって、化学気相成長用基材上に形成されたものを用いることが好ましい。
CVD法としては、例えばプラズマCVD法が用いられるが、低圧CVD、または熱CVD法を用いてもよい。
このとき、上記酸化剤には水蒸気が用いられる。水蒸気の濃度としては10ppm以上10000ppm以下であってもよく、600℃以上1000℃以下の温度環境下において水蒸気を添加してもよい。
【0078】
また、金属触媒を化学気相成長用基材上に配置あるいはパターニングしてカーボンナノチューブを合成してもよい。
また、得られるカーボンナノチューブは、単層であっても複層であってもよく、化学気相成長用基材面に対して垂直方向に立設するカーボンナノチューブであってもよい。
詳細には、たとえば国際公開2006/011655号等を参照して製造することができる。
このようなカーボンナノチューブの市販品としては、例えば、日本ゼオン株式会社が販売しているスーパーグロース製法のカーボンナノチューブが挙げられる。
【0079】
ケイ素化されるカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブバルク構造体でもよい)としては、改良直噴熱分解合成法(EnhancedDirectInjectionPyrolyticSynthesis、以下、e-DIPS法という)法によって製造されたものを用いることが好ましい。
直噴熱分解合成法(DirectInjectionPyrolyticSynthesis、以下、DIPS法という)とは、触媒(あるいは触媒前駆体)、および反応促進剤を含む炭化水素系の溶液をスプレーで霧状にして高温の加熱炉に導入することによって、流動する気相中で単層カーボンナノチューブを合成する気相流動法である。
このDIPS法を改良したe-DIPS法とは、触媒で使用されるフェロセンが反応炉内の上流下流側で粒子径が異なるという粒子形成過程に着目し、有機溶媒のみを炭素源として用いてきたDIPS法とは異なり、キャリアガス中に比較的分解されやすい。すなわち炭素源となりやすい第2の炭素源を混合することによって単層カーボンナノチューブの成長ポイントを制御した方法である。
詳細には、Saitoetal.,J.Nanosci.Nanotechnol.,8(2008)6153-6157を参照して製造することができる。
このようなカーボンナノチューブの市販品としては、例えば、名城ナノカーボン社製の商品名「MEIJOeDIPS」が挙げられる。
【0080】
<シート製造工程>
シート製造工程は、カーボンナノチューブをシート状に成膜してカーボンナノチューブシートを製造する工程である。
カーボンナノチューブをシート状に成膜する方法としては特に制限はないが、例えば、基板上において、カーボンナノチューブをシート状に成膜する方法であってもよい。
【0081】
CVD法およびe-DIPS法などで得られたカーボンナノチューブ(またはカーボンナノチューブバルク構造体)は、溶媒中に分散した状態で用いられ得る。
カーボンナノチューブ(またはカーボンナノチューブバルク構造体)が分散した液体(分散液)を基板上に塗布し、溶媒を蒸発させて除去することにより基板上にカーボンナノチューブ膜が形成される。
本の場合、分散液に用いた溶媒が除去されることにより、基板110の表面に対してカーボンナノチューブが略平行である膜が得られる。
上記塗布方法は特に限定されず、例えば、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート、エレクトロスプレーコートなどが用いられてもよい。
なお、カーボンナノチューブ形成に用いる金属触媒はEUV透過率低下の原因となる場合があるが、化学気相成長用基材からカーボンナノチューブを剥離した際に、カーボンナノチューブ中に金属触媒はほとんど含まれないため影響はない。
【0082】
基板としては、無機材料を用いてもよい。
例えば、基板には、シリコン(Si)が用いられてもよい。なお、基板は、シリコン(Si)に限定されず、ゲルマニウム(Ge)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、炭化シリコン(SiC)、砒化ガリウム(GaAs)などの半導体材料でもよいし、石英ガラス基板(酸化シリコン(SiO))、ソーダガラス基板、ホウ珪酸ガラス基板、サファイア基板などのガラス基板、窒化シリコン(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)基板、ジルコニア(ZrO)基板、酸化アルミニウム(Al)などでもよい。
また、基板には、カーボンナノチューブ膜との熱ひずみを低減する観点からは、ペリクル膜と線熱膨張率の近いシリコン、サファイア、炭化シリコンの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
また、シリコン(Si)は、単結晶シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、およびアモルファスシリコンのいずれであってもよいが、単結晶シリコンがエッチング効率の観点、及び、汎用性が高く安価である観点からは好ましい。
基板の形状は、円形でもよいし、矩形でもよい。
基板の厚さは、特に限定されないが、100μm以上1000μm以下、取り扱い上の観点から好ましくは200μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【0083】
<前駆体製造工程>
前駆体製造工程は、カーボンナノチューブシートを、開口部を有する支持枠の上記開口部を覆うように支持枠に接続してペリクル前駆体を製造する工程である。
前駆体製造工程において、上述のカーボンナノチューブシートと基板とを分離した後、分離したカーボンナノチューブシートを支持枠(即ちペリクル枠)に接続することでペリクル前駆体を製造してもよい。
【0084】
カーボンナノチューブシートと基板とを分離してペリクル前駆体を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば以下の製造例が挙げられる。
【0085】
(基板上に犠牲層を積層して後に除去する方法)
基板上に犠牲層を積層し、その上にカーボンナノチューブシートを形成して、後で犠牲層を除去することで自立膜を得ることができる。
犠牲層は、金属、酸化膜、樹脂、塩など、特定の処理方法で除去できるものとすることができる。例えば、犠牲層は、酸性溶液に溶けるアルミニウムなどの金属でありうる。具体的には、蒸着やスパッタなどでガラス基板やシリコンウエハの表面に金属層を積層し、さらに金属層の上にカーボンナノチューブシートを積層した後に、酸性溶液など金属層を溶かすことができる溶液に浸漬することによって、基板から膜を剥離することができる。
【0086】
基板として、自然酸化膜又は酸化ケイ素層を有するシリコンウエハを用いた場合には、シリコンウエハ上の自然酸化膜又は酸化ケイ素層にカーボンナノチューブシートをコーティングした後に、フッ酸水溶液に浸漬することによって自然酸化膜又は酸化ケイ素層を除去し、基板からカーボンナノチューブシートを剥離することもできる。
【0087】
基板に積層する犠牲層を、部分けん化ポリビニルアルコール樹脂や塩化ナトリウムなどの塩のような水溶性材料としてもよい。犠牲層の上にカーボンナノチューブシートを積層した後に、積層体を水に浸漬することによって、基板から膜を剥離することができる。
【0088】
基板上に積層した犠牲層を除去する方法を選定する上で、カーボンナノチューブシートのプロセス耐性、膜強度、犠牲層の除去速度、犠牲層の膜厚み均一性や表面粗さなどの特徴に応じて、もっとも適切な任意の手法を選定することができる。
【0089】
(基板をエッチングまたは溶解させる方法)
基板の材質を、金属、酸化膜、樹脂、塩など、特定の処理方法で除去できるものとした場合には、基板の上にカーボンナノチューブシートを積層したのちに、基板をエッチングまたは溶解させることで、膜を得ることができる。
【0090】
例えば、基板として銅箔を用いた場合、銅箔表面にカーボンナノチューブシートを積層した後に、塩化第二銅エッチング液に浸漬することで、銅箔基板をエッチングして基板を除去し、膜を得ることができる。
【0091】
基板をガラス基板とした場合、ガラス基板にカーボンナノチューブシートを積層した後に、フッ化水素酸を用いてガラス基板をエッチングして基板を除去し、膜を得ることができる。
【0092】
基板をシリコンウエハとした場合、シリコンウエハにカーボンナノチューブシートを積層した後に、ウェットエッチングまたはドライエッチングにより、シリコンウエハをエッチングしてシリコンウエハを除去し、膜を得ることができる。
ウェットエッチングは、KOHやTMAH、ヒドラジンなどのエッチング液を用いることができる。ドライエッチングは、フッ素系(SF、CF、NF、PF、BF、CHF、XeF、F+NO)、塩素系(Cl、SiCl)、臭素系(IBr)などのエッチングガスを用いることができる。ウェットエッチング速度は温度によって変化するため、シリコンウエハ上のカーボンナノチューブを含む薄膜に損傷を与えないようにエッチングするためには、液温を下げエッチングレートを下げることが好ましい。
【0093】
シリコンウエハをドライエッチングする場合には、シリコン基板表面に事前にエッチングストップ層などの層を設けてもよい。
エッチングストップ層としては、SiOやSiNからなる層などが挙げられる。エッチングストップ層は引張応力が生じる膜により構成されることが好ましい。
基板及び薄膜の表面に対して平行方向に働く残留応力には引張応力と圧縮応力とがある。薄膜内部に薄膜を拡げようとする力が働くときには引張応力となり、一方で薄膜内部に薄膜を収縮させようとする力が働くときは圧縮応力となる。これらの応力は主に薄膜の製膜過程において生じる。
残留応力をもたらす要因の一つとして、基板と薄膜との熱膨張率の違いがある。室温に戻すとき基板も薄膜も収縮するがその割合は熱膨張率により異なっており、薄膜の熱膨張率が基板の熱膨張率より大きければ引張応力、逆のときは圧縮応力となる。引張応力が生じる膜により、当該膜上に設けたカーボンナノチューブシートに張力が加わり、皺のない膜ができるため好ましい。SiNからなる層は引張応力を生じさせるため、シリコンウエハをドライエッチングして得られる、カーボンナノチューブシートを、皺のない膜とすることができる。エッチングストップ層は、シリコンウエハのドライエッチングが終わった後に除去することで、目的とする自立膜を得ることができる。
【0094】
基板を塩化ナトリウムなどの塩からなる基板とした場合、基板表面にカーボンナノチューブシートを積層した後に、水に浸漬して基板をエッチングして基板を除去し、膜を得ることができる。
基板をプラスチック基板とした場合、プラスチック基板表面にカーボンナノチューブシートを積層した後に、プラスチック基板を可溶な溶媒に浸漬することで、プラスチック基板を溶解させて膜を得ることができる。
【0095】
(基板の表面上を剥離しやすいように前処理を施す方法)
基板に表面処理を施すことで、カーボンナノチューブシートと基板面との相互作用を制御し、溶媒への浸漬や機械的な剥離プロセスにより、基板から膜を容易に剥離することができる。
カーボンナノチューブシートと基板面との相互作用を制御する方法として、例えばシランカップリング剤による表面処理方法が挙げられる。そのほかには、水、有機溶媒、ピラニア溶液、硫酸、UVオゾン処理、などにより基板表面を洗浄する方法が挙げられる。
基板をシリコンウエハとする場合には、過酸化水素水と水酸化アンモニウムとの混合液、塩酸と過酸化水素水との混合液など、RCA洗浄法で用いられる溶液などを使用することができる。
【0096】
犠牲層の製膜、基板上の表面処理は、基板をエッチングまたは溶解させる方法を、それぞれ組み合わせて用いてもよい。犠牲層の製膜又は表面処理に用いられる物質は、カーボンナノチューブシートの表面、内部等に残りにくく、また残っても容易な方法で除去できるものが好ましい。
例えば、ガスによるエッチング、熱による蒸発、溶媒による洗浄、光による分解除去などがあり、それらを組み合わせて除去を実施してもよい。
【0097】
<加熱工程>
加熱工程は、上記ペリクル前駆体及びSi含有粒子をチャンバ内に配置して、真空排気により0.3Paの真空度で、ピーク加熱時間5分~120分、加熱温度1200℃~1700℃にてチャンバ内を加熱する工程である。
加熱工程において、ペリクル前駆体に含まれるカーボンナノチューブの表層における炭素を、Si含有粒子中のケイ素と反応させ、上記炭素を上記ケイ素に置換する。
Si含有粒子としては、例えばSiO、表面が自然酸化したSi等の粒子が挙げられる。
【0098】
加熱工程において、加熱時間は5分~120分である。
上記炭化ケイ素層の厚みを調整して、優れた水素ラジカル耐性及び光透過率を両立する観点から、加熱時間は5分~60分であることが好ましく、10分~40分であることがより好ましい。
【0099】
加熱工程において、加熱温度は1000℃~1700℃である。
上記炭化ケイ素層の厚みを調整して、優れた水素ラジカル耐性及び光透過率を両立する観点から、加熱温度は1250℃~1500℃であることが好ましく、1250℃~1400℃であることがより好ましい。
【0100】
ペリクルの製造方法は、本開示の効果を阻害しない範囲において、カーボンナノチューブにケイ素以外の他の元素を置換する工程を含んでもよい。
【0101】
<露光原版>
本開示の露光原版は、パターンを有する原版と、上記原版におけるパターンを有する側の面に装着された本開示のペリクルと、を含む。
本開示の露光原版は、本開示のペリクルを備えるので、本開示のペリクルと同様の効果を奏する。
【0102】
本開示のペリクルに原版を装着する方法は、特に限定されない。例えば、原版を支持枠へ直接貼り付けてもよく、支持枠の一方の端面にある原版用接着剤層を介してもよく、機械的に固定する方法や磁石などの引力を利用して原版と支持枠と、を固定してもよい。
【0103】
ここで、原版としては、支持基板と、この支持基板上に積層された反射層と、反射層上に形成された吸収体層と、を含む原版を用いることができる。吸収体層が光(例えば、EUV光)を一部吸収することで、感応基板(例えば、フォトレジスト膜付き半導体基板)上に、所望の像が形成される。反射層は、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との多層膜でありうる。吸収体層は、クロム(Cr)や窒化タンタル等、EUV光等の吸収性の高い材料でありうる。
【0104】
<露光装置>
本開示の露光装置は、露光光を放出する光源と、本開示の露光原版と、上記光源から放出された露光光を上記露光原版に導く光学系と、を有し、上記露光原版は、上記光源から放出された露光光が上記ペリクル膜を透過して上記原版に照射されるように配置されている。
このため、本開示の露光装置は、本開示の露光原版と同様の効果を奏する。
【0105】
本開示の露光装置は、露光光(好ましくはEUV光等、より好ましくはEUV光。以下同じ。)を放出する光源と、本開示の露光原版と、上記光源から放出された露光光を上記露光原版に導く光学系と、を備え、上記露光原版は、上記光源から放出された露光光が上記ペリクル膜を透過して上記原版に照射されるように配置されていることが好ましい。
この態様によれば、EUV光等によって微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が問題となり易いEUV光を用いた場合であっても、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
【0106】
<半導体装置の製造方法>
本開示の半導体装置の製造方法は、光源から放出された露光光を、本開示の露光原版の上記ペリクル膜を透過させて上記原版に照射し、上記原版で反射させるステップと、上記原版によって反射された露光光を、上記ペリクル膜を透過させて感応基板に照射することにより、上記感応基板をパターン状に露光するステップと、を有する。
本開示の半導体装置の製造方法によれば、異物による解像不良が問題となり易いEUV光を用いた場合であっても、異物による解像不良が低減された半導体装置を製造することができる。
【0107】
以下、図4を用いて本開示に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する。
図4は、本開示の露光装置の一例である、EUV露光装置800の概略断面図である。
図4に示されるように、EUV露光装置800は、EUV光を放出する光源831と、本開示の露光原版の一例である露光原版850と、光源831から放出されたEUV光を露光原版850に導く照明光学系837と、を備える。
露光原版850は、ペリクル膜812及び支持枠814を含むペリクル810と、原版833と、を備えている。この露光原版850は、光源831から放出されたEUV光がペリクル膜812を透過して原版833に照射されるように配置されている。
原版833は、照射されたEUV光をパターン状に反射するものである。
支持枠814及びペリクル810は、それぞれ、本開示の支持枠及びペリクルの一例である。
【0108】
EUV露光装置800において、光源831と照明光学系837との間、及び照明光学系837と原版833の間には、フィルター・ウィンドウ820及び825がそれぞれ設置されている。
また、EUV露光装置800は、原版833が反射したEUV光を感応基板834へ導く投影光学系838を備えている。
【0109】
EUV露光装置800では、原版833により反射されたEUV光が、投影光学系838を通じて感応基板834上に導かれ、感応基板834がパターン状に露光される。なお、EUVによる露光は、減圧条件下で行われる。
【0110】
EUV光源831は、照明光学系837に向けて、EUV光を放出する。
EUV光源831には、ターゲット材と、パルスレーザー照射部等が含まれる。このターゲット材にパルスレーザーを照射し、プラズマを発生させることで、EUVが得られる。ターゲット材をSnとすると、波長13nm~14nmのEUVが得られる。EUV光源が発する光の波長は、13nm~14nmに限られず、波長5nm~30nmの範囲内の、目的に適した波長の光であればよい。
【0111】
照明光学系837は、EUV光源831から照射された光を集光し、照度を均一化して原版833に照射する。
照明光学系837には、EUVの光路を調整するための複数枚の多層膜ミラー832と、光結合器(オプティカルインテグレーター)等が含まれる。多層膜ミラーは、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)が交互に積層された多層膜等である。
【0112】
フィルター・ウィンドウ820,825の装着方法は特に制限されず、接着剤等を介して貼り付ける方法や、機械的にEUV露光装置内に固定する方法等が挙げられる。
光源831と照明光学系837との間に配置されるフィルター・ウィンドウ820は、光源から発生する飛散粒子(デブリ)を捕捉し、飛散粒子(デブリ)が照明光学系837内部の素子(例えば多層膜ミラー832)に付着しないようにする。
一方、照明光学系837と原版833との間に配置されるフィルター・ウィンドウ825は、光源831側から飛散する粒子(デブリ)を捕捉し、飛散粒子(デブリ)が原版833に付着しないようにする。
【0113】
また、原版に付着した異物は、EUV光を吸収、もしくは散乱させるため、ウエハへの解像不良を引き起こす。したがって、ペリクル810は原版833のEUV光照射エリアを覆うように装着されている。EUV光はペリクル膜812を通過して、原版833に照射される。
【0114】
原版833で反射されたEUV光は、ペリクル膜812を通過し、投影光学系838を通じて感応基板834に照射される。
投影光学系838は、原版833で反射された光を集光し、感応基板834に照射する。投影光学系838には、EUVの光路を調製するための複数枚の多層膜ミラー835、836等が含まれる。
【0115】
感応基板834は、半導体ウエハ上にレジストが塗布された基板等であり、原版833によって反射されたEUVにより、レジストがパターン状に硬化する。このレジストを現像し、半導体ウエハのエッチングを行うことで、半導体ウエハに所望のパターンを形成する。
【0116】
また、ペリクル810は、原版用接着剤層等を介して原版833に装着される。原版に付着した異物は、EUVを吸収、もしくは散乱させるため、ウエハへの解像不良を引き起こす。したがって、ペリクル810は原版833のEUV光照射エリアを覆うように装着され、EUVはペリクル膜812を通過して、原版833に照射される。
【0117】
ペリクル810の原版833への装着方法としては、原版表面に異物が付着しないように原版に設置できる方法であればよく、支持枠814と原版833とを接着剤で貼り付ける方法や、静電吸着法、機械的に固定する方法などが挙げられるが特に限定されない。好ましくは、接着剤で貼り付ける方法が用いられる。
【実施例
【0118】
以下、実施例等により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
炭化ケイ素層の含有量は、上述の方法により測定した。
【0119】
(実施例1)
溶媒に分散させたシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNTともいう、名城ナノカーボン株式会社製)をSi基板上にスピンコートし、乾燥することで、Si基板上にカーボンナノチューブの極薄膜(以下、カーボンナノチューブ膜ともいう)を形成した。
次に、このSi基板を弱アルカリ性の水槽中に静かに沈めてSi基板の表面を溶解させ、カーボンナノチューブ膜を単膜としてSi基板から遊離させ、水面に浮上させた。
続いて、開口部を有するステンレス製の枠材を上記水槽に一旦沈め、カーボンナノチューブ膜を上記枠材に載せた後、上記枠材をゆっくりと引き上げることでカーボンナノチューブ膜を自立膜として枠材に展張させた。
このカーボンナノチューブ膜をSEMにより観察したところ、カーボンナノチューブはいわゆるバンドル構造を取っており、10本~20本程度のカーボンナノチューブの束(即ちバンドル)が網目状に絡んでいた。バンドルの太さは10nm~40nmであった。
上記枠材に展張されたカーボンナノチューブ膜を、開口部を有する支持枠(ペリクル枠)の上記開口部を覆うように支持枠に接続して、ペリクル前駆体を得た。即ち上記ペリクル前駆体は、支持枠と支持枠に展張されたカーボンナノチューブ膜とを備えている。
上記ペリクル前駆体におけるカーボンナノチューブ膜をよく乾燥し、ペリクル前駆体を反応炉内に配置した。また、SiO粉末を入れたるつぼを準備し、上記るつぼも反応炉内に配置した。
その後、真空中にて反応炉を昇温させたところ温度が800℃を超えた段階でSiOガスが発生しており、1300℃に達した段階で10分間保持することでカーボンナノチューブのSiC化を行い、炭化ケイ素層(厚み3nm、15質量%)を含むカーボンナノチューブ膜(即ちペリクル膜(膜全体の厚み10~40nm))及びペリクルを得た。
上記ペリクルは、上記ペリクル膜と上記ペリクル膜に接続された支持枠とを備えている。
【0120】
(実施例2)
カーボンナノチューブをSWCNTからマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT、MW-1、株式会社 名城ナノカーボン製)に変更し、反応炉を昇温させる際、1300℃に達した段階における保持時間を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、炭化ケイ素層(厚み10nm、12.5質量%)を含むペリクル膜(膜全体の厚み80nm)及びペリクルを得た。
なお、実施例2において形成された膜では、カーボンナノチューブは単繊維のまま膜を構成した。このカーボンナノチューブの太さは10nm~40nmであった。
【0121】
(比較例1)
ペリクル前駆体、及び、SiO粉末を入れたるつぼを入れた反応炉を昇温させて、ペリクル前駆体に含まれるカーボンナノチューブ膜をSiC化する工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、ペリクル膜(膜全体の厚み10~40nm)及びペリクルを得た。
【0122】
(比較例2)
ペリクル前駆体、及び、SiO粉末を入れたるつぼを入れた反応炉を昇温させて、ペリクル前駆体に含まれるカーボンナノチューブ膜をSiC化する工程を行わなかった以外は、実施例2と同様にして、ペリクル膜(膜全体の厚み80nm)及びペリクルを得た。
【0123】
(比較例3)
実施例1において得られたペリクル前駆体におけるカーボンナノチューブ膜の上に、スパッタ法にてSiCをコーティングし、実施例1と同様にして、ペリクル膜(膜全体の厚み23nm)及びペリクルを得た。
比較例3におけるペルクル膜は、カーボンナノチューブ膜上に、炭化ケイ素(SiC)コーティング層を含むペリクル膜である。また、ペリクル膜の全質量(即ち、カーボンナノチューブ膜及び炭化ケイ素コーティング層の全質量)に対する炭化ケイ素コーティング層の含有量を表1に示す。
【0124】
<評価>
(水素ラジカル耐性)
各実施例及び比較例にて得られたペリクル膜について、下記の方法により水素ラジカル耐性を評価した。
ガラス反応炉の風上にタングステンフィラメントを設置し、水素ガスをラジカル化、風下にサンプルを設置し、カーボンナノチューブの膜厚減少率を測定して、水素ラジカル耐性の指標とした。結果を表1に示す。
なお、膜厚減少率が小さいほど、水素ラジカル耐性に優れることを意味する。
【0125】
<光透過率(EUV透過率)>
各実施例及び比較例にて得られたペリクル膜に対して、強度150mW/cmのEUV光を照射して、光透過率(EUV透過率)を測定し、以下の評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
~評価基準~
A:EUV透過率が92%以上であった。
B:EUV透過率が92%未満であった。
【0126】
【表1】
【0127】
表1に示す通り、ケイ素含有カーボンナノチューブを含む実施例1及び実施例2は、膜厚減少が小さいため水素ラジカル耐性に優れており、かつ、EUV透過率についても優れていた。
一方、ケイ素を含有しないカーボンナノチューブを用いた比較例1及び比較例2は、膜厚減少が大きく、水素ラジカル耐性に劣っていた。
【0128】
2020年2月26日に出願された日本国特許出願2020-030942号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4