(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法、塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法および酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 14/18 20060101AFI20230530BHJP
H01M 8/1072 20160101ALI20230530BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230530BHJP
【FI】
C08F14/18
H01M8/1072
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020560080
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047949
(87)【国際公開番号】W WO2020116652
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018230213
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019036946
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】平居 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貢
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-143055(JP,A)
【文献】特開2010-108646(JP,A)
【文献】特開2010-284948(JP,A)
【文献】特許第5217708(JP,B2)
【文献】国際公開第2005/003062(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F、C08L、H01B1、H01M8
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式m1で表されるモノマー、およびテトラフルオロエチレンを110℃以上250℃以下の温度で重合させることを特徴とする、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
【化1】
(上式中、R
F1およびR
F2はそれぞれ独立に、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。)
【請求項2】
前記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの容量流速値が220℃以上である、請求項1に記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項3】
重合前および重合中に仕込まれた前記式m1で表されるモノマーの合計量100gあたり、かつ重合時間の1時間あたりに生成するフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー量が1.0g以上である、請求項1または2に記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法にて製造された前記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーのフルオロスルホニル基を加水分解して塩型のスルホン酸基とすることを特徴とする、塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのイオン交換容量が1.81~2.50ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、請求項4に記載の塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の製造方法にて製造された塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの、前記塩型のスルホン酸基を酸型化して酸型のスルホン酸基とすることを特徴とする、酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのイオン交換容量が1.81~2.50ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、請求項6に記載の酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法、塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法および酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、例えば、2つのセパレータの間に膜電極接合体を挟んでセルを形成し、複数のセルをスタックしたものである。膜電極接合体は、触媒層を有するアノードおよびカソードと、アノードとカソードとの間に配置された固体高分子電解質膜とを備えたものである。固体高分子電解質膜は、例えば、酸型のスルホン酸基、または塩型のスルホン酸基を有するポリマーを膜状にしたものである。
【0003】
固体高分子電解質膜に用いられる酸型のスルホン酸基、または塩型のスルホン酸基を有するポリマーは、イオン交換容量が高いことが望まれている。イオン交換容量が高いとイオンの導電率が向上するため、たとえば、固体高分子形燃料電池の発電性能の向上や、塩化アルカリ電解における膜抵抗等の過電圧の低下による電力原単位の減少が期待できる。
イオン交換容量が高いポリマーとしては、1分子中にフルオロスルホニル基を有するモノマーに基づく単位とテトラフルオロエチレンに基づく単位とを有するフルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換したスルホン酸基含有ポリマーが提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4848587号
【文献】特許第5217708号
【文献】特許第5862372号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの前駆体となるフルオロスルホニル基含有ポリマーは、分子量の指標となるTQ値が高いことが望ましい。
【0006】
本発明者らは、従来技術の特性について評価したところ、スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのイオン交換容量が高く、スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの前駆体となるフルオロスルホニル基含有ポリマーのTQ値が高いポリマーを得ることはできなかった。
【0007】
本発明の目的は、TQ値が高く、イオン交換容量が高いスルホン酸基含有含フッ素ポリマーが得られる、フルオロスルホニル基含有ポリマーの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]下式m1で表されるモノマー、およびテトラフルオロエチレンを110℃以上250℃以下の温度で重合させることを特徴とする、フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
【化1】
(上式中、R
F1およびR
F2はそれぞれ独立に、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。)
[2]上記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの容量流速値が220℃以上である、[1]に記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
[3]重合前および重合中に仕込まれた上記式m1で表されるモノマーの合計量100gあたり、かつ重合時間の1時間あたりに生成するフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー量が1.0g以上である、[1]または[2]に記載のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の製造方法にて製造された上記フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーのフルオロスルホニル基を加水分解して塩型のスルホン酸基とすることを特徴とする、塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
[5]上記塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのイオン交換容量が1.81~2.50ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、[4]に記載の塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
[6][4]または[5]に記載の製造方法にて製造された塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの、上記塩型のスルホン酸基を酸型化して酸型のスルホン酸基とすることを特徴とする、酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
[7]上記酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーのイオン交換容量が1.81~2.50ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、[6]に記載の酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、TQ値が高いフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーが得られ、該ポリマーからイオン交換容量が高いスルホン酸基含有含フッ素ポリマーが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(用語の定義など)
以下の用語の定義および記載の仕方は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「スルホン酸基」とは、塩型のスルホン酸基(-SO3
-M+。ただし、M+は金属イオン又はアンモニウムイオンである。)および酸型のスルホン酸基(-SO3
-H+)の総称である。
本明細書においては、式m1で表されるモノマーを、モノマーm1と記す。他の式で表されるモノマーも同様に記す。
本明細書においては、式1で表される化合物を、化合物1と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
ポリマーにおける「単位」は、モノマーが重合することによって形成された、該モノマー1分子に由来する原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを処理することによって該原子団の一部が別の構造に変換された原子団であってもよい。
本明細書においては、式u1で表される単位を、単位u1と記す。他の式で表される構成単位も同様に記す。
ポリマーの生産性指標(Rp)値は、重合前および重合中に仕込まれたフルオロスルホニル基含有モノマーの合計量100gあたり、かつ重合時間の1時間あたりに生成するポリマー量(g)を示す。
ポリマーの「イオン交換容量」は、実施例に記載の方法によって求める。
ポリマーの「容量流速値(以下、「TQ値」とも言う。)」は、実施例に記載の方法によって求める。
ポリマーの「導電率」は、実施例に記載の方法によって求める。
【0011】
(フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法)
本発明のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法は、下式m1で表されるモノマー、およびテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)を110℃以上250℃以下の温度で重合させる工程(以下、「重合工程」ともいう。)を有する。
【0012】
【0013】
上式m1中、RF1およびRF2はそれぞれ独立に、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。RF1およびRF2は同一であっても異なっていてもよい。
【0014】
RF1およびRF2としては、-CF2-、-CF2CF2-、-CF(CF3)-、-CF2CF2CF2-、-CF(CF2CF3)-、-CF(CF3)CF2-、-CF2CF(CF3)-、-C(CF3)(CF3)-などが挙げられる。原料がより安価であり、また、スルホン酸基含有ポリマーのイオン交換容量をより高くできる点から、RF1およびRF2は、炭素数1~2が好ましく、また直鎖が好ましい。具体的には、-CF2-、-CF2CF2-、又は-CF(CF3)-が好ましく、-CF2-がより好ましい。
【0015】
モノマーm1としては、例えば、モノマーm1-1が挙げられる。
【化3】
【0016】
モノマーm1は、例えば、以下のようにして製造できる。
化合物1とスルホン化剤とを反応させて化合物2を得る。
化合物2と塩素化剤とを反応させて化合物3を得る。
化合物3とフッ素化剤とを反応させて化合物4を得る。
化合物4をフッ素化処理して化合物5を得る。
化合物5とペルフルオロアリル化剤(例えば、後述する化合物6)とを反応させてモノマーm1を得る。
【0017】
【0018】
ただし、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数1~3のアルキレン基である。R1およびR2は同一であっても異なっていてもよい。
R1およびR2としては、例えば、-CH2-、-CH2CH2-、-CH(CH3)-、-CH2CH2CH2-、-CH(CH2CH3)-、-CH(CH3)CH2-、-CH2CH(CH3)-、-C(CH3)(CH3)-が挙げられる。原料の化合物1がより安価であり、モノマーm1の製造が容易であり、また、本発明のポリマーから得られるスルホン酸基含有ポリマーのイオン交換容量をより高くできる点から、R1およびR2は、炭素数1~2のアルキレン基が好ましい。炭素数2の場合は、直鎖が好ましい。具体的には、-CH2-、-CH2CH2-又は-CH(CH3)-が好ましく、-CH2-がより好ましい。
【0019】
化合物1としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、イソプロピルメチルケトン、イソプロピルエチルケトン、イソプロピルプロピルケトンが挙げられる。化合物1がより安価であり、モノマーm1の製造が容易であり、また、本発明のポリマーから得られるスルホン酸基含有ポリマーの単位分子量当たりのイオン交換容量をより高くできる点から、アセトンが好ましい。
【0020】
スルホン化剤としては、例えば、塩化スルホン酸、フルオロスルホン酸、三酸化硫黄、三酸化硫黄の錯体、発煙硫酸、濃硫酸が挙げられる。
化合物1とスルホン化剤との反応温度は、0~100℃が好ましい。反応溶媒は、溶媒自身がスルホン化されにくい溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロメタン、シクロヘキサン、ヘキサン、石油エーテル、ペンタン、ヘプタン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジエチルが挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
塩素化剤としては、例えば、塩化チオニル、五塩化リン、三酸化リン、塩化ホスホリル、塩化スルホン酸、塩化スルフリル、塩化オキサリル、塩素が挙げられる。
化合物2と塩素化剤との反応温度は、0~100℃が好ましい。反応温度が上記範囲の上限値以下であれば、化合物3の分解を抑制できることから化合物3の収率が向上する。反応温度が上記範囲の下限値以上であれば、反応速度が上がり生産性が向上する。
【0022】
フッ素化剤としては、例えば、フッ化水素カリウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム、フッ化銀、第四級アンモニウムフルオリド(テトラエチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリド等)、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化水素錯体(HF-ピリジン錯体、HF-トリエチルアミン等)が挙げられる。
化合物3とフッ素化剤との反応温度は、-30~100℃が好ましい。反応溶媒は、フッ素化反応を受けにくい極性溶媒又は低極性溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロメタン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、水が挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
化合物4は、化合物1から直接合成することも可能である。たとえば化合物1とフッ化スルフリルを反応させて、化合物1を得る。化合物1とフッ化スルフリルとの反応温度は、-30~100℃が好ましい。反応溶媒は、フッ化スルフリルとの反応を起こしにくい極性溶媒または低極性溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロメタン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いてもよい。反応を促進させるために、3級アミン等の反応促進剤を添加して反応してもよい。反応は、化合物1と溶媒との混合溶液を仕込んだ反応器中にフッ化スルフリルガスを仕込んで加圧下で行ってもよく、冷却条件下、フッ化スルフリルを液化させて反応させてもよく、化合物1と溶媒との混合溶液中にフッ化スルフリルを常圧下バブリングさせることで行ってもよい。
【0024】
フッ素化処理は、化合物4とフッ素ガス又はフッ素化合物とを接触させて行う。
フッ素化合物としては、例えば、フッ化水素、フッ化ハロゲン(三フッ化塩素、五フッ化ヨウ素等)、ガス状フッ化物(三フッ化ホウ素、三フッ化窒素、五フッ化リン、四フッ化ケイ素、六フッ化硫黄等)、金属フッ化物(フッ化リチウム、フッ化ニッケル(II)等)、ハイポフルオライト化合物(トリフルオロメチルハイポフルオライト、トリフルオロアセチルハイポフルオライト等)、求電子的フッ素化反応試薬(セレクトフルオル(登録商標)、N-フルオロベンゼンスルホンイミド等)が挙げられる。
フッ素化処理としては、取り扱いが容易である点、および化合物5に含まれる不純物を少なくする点から、化合物4とフッ素ガスとを接触させる処理が好ましい。フッ素ガスは、窒素ガス等の不活性ガスで希釈して用いてもよい。フッ素化処理の温度は、-20~350℃が好ましい。反応溶媒は、化合物4又は化合物5の溶解性が高く、また溶媒自身がフッ素化処理を受けにくい溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロフルオロメタン、ペルフルオロトリアルキルアミン(ペルフルオロトリブチルアミン等)、ペルフルオロカーボン(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等)、ハイドロフルオロカーボン(1H,4H-ペルフルオロブタン、1H-ペルフルオロヘキサン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等)、ハイドロフルオロエーテル(CF3CH2OCF2CF2H等)が挙げられる。
なお、化合物5は、フッ化水素(HF)の存在下では、O=C<部分にフッ化水素が付加してHO-CF<となったアルコール体と平衡状態にあるか、アルコール体となっている場合がある。本明細書においては、単に化合物5と記載した場合でも、化合物5およびアルコール体のいずれか一方又は両方を表していることがある。
【0025】
ペルフルオロアリル化剤としては、化合物6が挙げられる。
CF2=CFCF2-G 式6
ただし、Gは、-OSO2F、-OSO2Rf、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、Rfは炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
【0026】
化合物6としては、原料の入手性、ペルフルオロアリル化剤の反応性、合成の簡便さ、取扱いの容易さの点から、化合物6-1が好ましい。
CF2=CFCF2OSO2F 式6-1
【0027】
化合物6-1は、例えば、三フッ化ホウ素の存在下にヘキサフルオロプロピレンと三酸化硫黄とを反応させて製造できる。三フッ化ホウ素の代わりに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体やトリメトキシボラン等のルイス酸を用いてもよい。
【0028】
化合物5とペルフルオロアリル化剤との反応は、フッ化物塩の存在下に行うことが好ましい。フッ化物塩としては、例えば、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化銀、第四級アンモニウムフルオリド、フッ化ナトリウムが挙げられる。
化合物5とペルフルオロアリル化剤との反応温度は、-70~40℃が好ましい。反応溶媒は、非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましく、非プロトン性極性溶媒のみがより好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、アセトニトリル、プロピオニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ニトロエタンが挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
本発明のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法は、重合工程において、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、モノマーm1、およびTFE以外のモノマー(以下、「他のモノマー」と記す。)を重合させてもよい。
他のモノマーとしては、例えば、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレン、プロピレン、(ペルフルオロアルキル)エチレン、(ペルフルオロアルキル)プロペンが挙げられる。
【0030】
重合工程における重合温度は110℃以上250℃以下であり、本発明の効果がより優れる点で、120~230℃が好ましく、140~200℃がより好ましく、147~168℃が特に好ましい。
【0031】
重合工程における重合法としては、重合温度が110℃以上250℃以下である限り特に限定されず、例えば、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法が挙げられる。また、液体又は超臨界の二酸化炭素中にて重合してもよい。
重合は、ラジカルが生起する条件で行われる。ラジカルを生起させる方法としては、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法、ラジカル開始剤を添加する方法等が挙げられる。
【0032】
ラジカル開始剤としては、例えば、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド、ビス(ペルフルオロアルキル)ペルオキシド、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシエステル、アゾ化合物、過硫酸塩が挙げられ、不安定末端基が少ないポリマーが得られる点から、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド、ビス(ペルフルオロアルキル)ペルオキシド等のペルフルオロ化合物が好ましい。
【0033】
溶液重合法にて用いる溶媒としては、20~350℃の沸点を有する溶媒が好ましく、40~250℃の沸点を有する溶媒がより好ましい。沸点の低い溶媒であれば、重合槽の気相部を内部還流により洗い流すことによるスケーリング防止が期待できる。沸点の高い溶媒であれば、重合圧力を下げる効果が期待できる。溶媒としては、例えば、ペルフルオロトリアルキルアミン(ペルフルオロトリブチルアミン等)、ペルフルオロカーボン(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等)、ハイドロフルオロカーボン(1H,4H-ペルフルオロブタン、1H-ペルフルオロヘキサン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等)、ハイドロフルオロエーテル(CF3CH2OCF2CF2H等)が挙げられる。
【0034】
溶液重合法においては、溶媒中にモノマー、ラジカル開始剤等を添加し、溶媒中にてラジカルを生起させてモノマーを重合させる。モノマーおよびラジカル開始剤の添加は、一括添加であってもよく、逐次添加であってもよく、連続添加であってもよい。
【0035】
懸濁重合法においては、水を分散媒として用い、分散媒中にモノマー、非イオン性のラジカル開始剤等を添加し、分散媒中にてラジカルを生起させてモノマーを重合させることが好ましい。
非イオン性のラジカル開始剤としては、例えば、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド、ジアルキルペルオキシジカーボネート、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、ビス(フルオロアルキル)ペルオキシド、アゾ化合物が挙げられる。
分散媒には、例えば、助剤として有機溶媒、懸濁粒子の凝集を防ぐ分散安定剤として界面活性剤、分子量調整剤として炭化水素系化合物(ヘキサン、メタノール等)を添加してもよい。
【0036】
乳化重合法においては、乳化剤と重合開始剤の存在下モノマーを水中に乳化させてモノマーを重合させる。乳化剤および重合開始剤としては、通常のペルフルオロポリマーの乳化重合で用いられる試剤を用いることができる。例えば乳化剤としては、CF3CF2CF2CF2OCF2COONH4、CF3CF2OCF2CF2OCF2COONH4といったペルフルオロカルボン酸アンモニウム塩を用いることができる。重合開始剤としては、ペルオキシド類、アゾ化合物、過硫酸塩等のラジカル開始剤を用いることができる。また、金属イオン等の酸化還元反応により、開始剤を活性化して用いてもよい。また、これらに加えて、通常のペルフルオロポリマーの乳化重合で用いられる緩衝剤、連鎖移動剤等を適宜用いてもよい。また、含フッ素モノマーの反応率を上げるために、重合開始前に水性溶媒および含フッ素モノマーの混合溶液をホモジナイザー、加圧乳化器等を用いて強制的に乳化してもよい。
【0037】
(フルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー)
本発明の方法により得られるフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーは、例えば、下式u1で表される単位u1、およびテトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位を有するフルオロスルホニル基含有ポリマー(以下、「ポリマーF」とも記す。)である。
【化5】
【0038】
式u1中、RF1およびRF2は、式m1で説明したRF1およびRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0039】
ポリマーFのTQ値は、220℃以上が好ましく、225℃以上がより好ましく、230℃以上がさらに好ましく、250℃以上が特に好ましい。TQ値が下限値以上であれば、充分な分子量を有するが得られるので、ポリマーから得られるスルホン酸基含有ポリマーの膜の機械的強度がより優れる。
一方、TQ値は、500℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましい。TQ値が上限値以下であれば溶融成型等の加熱成形性が良好なポリマーが得られる。TQ値は、ポリマーFの分子量の指標である。
【0040】
本発明のフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの製造方法において、重合前および重合中に仕込まれたモノマーm1の合計量100gあたり、かつ重合時間の1時間あたりに生成するフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマー量であるRp値が、1.0以上であることが好ましく、1.3以上であることがより好ましく、1.6以上であることがさらに好ましく、2.0以上であることが特に好ましい。
【0041】
(塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法)
本発明の塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法では、本発明のポリマーFのフルオロスルホニル基を塩型のスルホン酸基に変換する。
フルオロスルホニル基を塩型のスルホン酸基に変換する方法としては、ポリマーFのフルオロスルホニル基を加水分解して塩型のスルホン酸基とする方法が挙げられる。
【0042】
(酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法)
本発明の酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーの製造方法では、本発明のポリマーFのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換する。
フルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換する方法としては、ポリマーFのフルオロスルホニル基を加水分解して塩型のスルホン酸基とし、塩型のスルホン酸基を酸型化して酸型のスルホン酸基に変換する方法が挙げられる。塩型のスルホン酸基が求められる場合には、酸型化は行わない。
【0043】
加水分解は、例えば、溶媒中にてポリマーFと塩基性化合物とを接触させて行う。塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミンが挙げられる。溶媒としては、例えば、水、水と極性溶媒との混合溶媒が挙げられる。極性溶媒としては、例えば、アルコール(メタノール、エタノール等)、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
酸型化は、例えば、塩型のスルホン酸基を有するポリマーを、塩酸、硫酸、硝酸等の水溶液に接触させて行う。加水分解および酸型化における温度は、0~120℃が好ましい。加水分解又は酸型化の後に、ポリマーを水洗することが好ましい。
【0044】
ポリマーに不純物として含まれる有機物を除去するために、加水分解後の塩型のまま又は酸型化の後に、ポリマーを過酸化水素水に浸漬するなどの処理により、有機物を分解してもよい。
【0045】
(酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマー、塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマー)
本発明の方法により得られる酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマー又は塩型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーは、例えば、下式u2で表される単位u2、およびテトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位を有するスルホン酸基含有ポリマー(以下、「ポリマーH」とも記す。)である。
【化6】
【0046】
式u2中、RF1およびRF2は、式m1で説明したRF1およびRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。Z+は、H+、金属イオン、またはアンモニウムイオンである。金属イオンとしてはアルカリ金属が好ましい。
【0047】
ポリマーHのイオン交換容量は、1.81ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上が好ましく、1.90ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上がより好ましく、2.00ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上がさらに好ましい。また、ポリマーHのイオン交換容量は、2.50ミリ当量/グラム乾燥樹脂以下が好ましく、2.45ミリ当量/グラム乾燥樹脂以下がより好ましく、2.40ミリ当量/グラム乾燥樹脂以下がさらに好ましい。イオン交換容量が上記範囲の下限値以上であれば、ポリマーHのイオン導電率が高くなるため、固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質膜や触媒層に用いた場合、充分な電池出力が得られる。イオン交換容量が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーHが含水した際の膨潤が抑えられ、固体高分子電解質膜とした際に機械的強度が高くなる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。例1は合成例であり、例3~6は実施例であり、例2、7~11は比較例である。ただし、本発明はこれらの例によって限定されない。
以下において、「ポリマーF」とは、実施例に係るフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの総称である。また、「ポリマーF’」とは、比較例に係るフルオロスルホニル基含有含フッ素ポリマーの総称である。
【0049】
(1H-NMR)
1H-NMRは、周波数:300.4MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒としては、特に付記のない限りCD3CNを用いた。生成物の定量は、1H-NMRの分析結果および内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0050】
(19F-NMR)
19F-NMRは、周波数:282.7MHz、溶媒:CD3CN、化学シフト基準:CFCl3の条件にて測定した。生成物の定量は、19F-NMRの分析結果および内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0051】
(13C-NMR)
13C-NMRは、周波数:75.5MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒は、特に付記のない限りCD3CNを用いた。
【0052】
(収率)
収率は、反応工程の収率×精製工程の収率を意味する。反応収率は、目的物を精製する前の反応工程の収率のみの、精製工程のロスが含まれない収率を意味する。
【0053】
(イオン交換容量)
ポリマーFまたはポリマーF’のイオン交換容量(ミリ当量/グラム乾燥樹脂)を以下のようにして求めた。
ポリマーFまたはポリマーF’の膜を120℃で12時間真空乾燥した。乾燥後のポリマーの膜の質量を測定した後、ポリマーの膜を0.85モル/gの水酸化ナトリウム溶液(溶媒:水/メタノール=10/90(質量比))に60℃で72時間以上浸漬して、イオン交換基を加水分解した。加水分解後の水酸化ナトリウム溶液を0.1モル/Lの塩酸で逆滴定することによりを求めた。なお、本明細書において、ポリマーFまたはポリマーF’のイオン交換容量は、ポリマーFのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換したポリマーHまたはポリマーH’のイオン交換容量と同じである。
(各単位の割合)
ポリマーFまたはポリマーF’における各単位の割合は、ポリマーFまたはポリマーF’のイオン交換容量から算出した。
(TQ値)
長さ1mm、内径1mmのノズルを備えたフローテスタ(島津製作所社製、CFT-500A)を用い、2.94MPa(ゲージ圧)の押出し圧力の条件で温度を変えながらポリマーを溶融押出した。ポリマーFまたはポリマーF’の押出し量が100mm3/秒となる温度(TQ値)を求めた。なおTQ値が300℃を上回る場合は、300℃以下の押出量の測定値から外挿することによりTQ値を求めた。外挿は絶対温度の逆数に対する押出量の相関を対数近似した近似式により行った。TQ値が高いほどポリマーの分子量は大きい。
【0054】
(略号)
TFE:テトラフルオロエチレン、
PSAE:CF
2=CFCF
2OCF
2CF
2SO
2F、
PFtBPO:(CF
3)
3COOC(CF
3)
3、
tBPO:(CH
3)
3COOC(CH
3)
3、
HFC-52-13p:CF
3(CF
2)
5H、
HFE-347pc-f:CF
3CH
2OCF
2CF
2H、
P2SAE:下記式
【化7】
【0055】
[例1]
(例1-1)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた2Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、塩化スルホン酸の560gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、内温を20℃以下に保ったまま化合物1-1の139.5gとジクロロメタンの478.7gの混合溶液を20分かけて滴下した。滴下時は発熱とガスの発生が見られた。滴下完了後、フラスコをオイルバスにセットし、内温を30~40℃に保ったまま7時間反応させた。反応はガスの発生を伴いながら進行し、白色の固体が析出した。反応後、フラスコ内を減圧してジクロロメタンを留去した。フラスコ内には黄色味を帯びた白色固体が残った。固体を1H-NMRで分析したところ、化合物2-1が生成していることを確認した。
【0056】
【0057】
化合物2-1のNMRスペクトル;
1H-NMR(溶媒:D2O):4.27ppm(-CH2-、4H、s)。
13C-NMR(溶媒:D2O):62.6ppm(-CH2-)、195.3ppm(C=O)。
【0058】
(例1-2)
例1-1で得た化合物2-1は単離せずに、次の反応にそのまま用いた。例1-1のフラスコ内に塩化チオニルの2049gを加えた。フラスコを80℃に加熱して15時間還流した。反応の進行に伴い、還流温度は52℃から72℃まで上昇した。反応中はガスの発生が確認された。化合物2-1がすべて溶解し、ガスの発生が収まった点を反応終点とした。反応液を2Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら9時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に黒褐色の固体が析出した。デカンテーションで未反応の塩化チオニルを除去した。トルエンを添加して析出固体を洗浄し、再びデカンテーションでトルエンを除去した。トルエン洗浄は合計3回実施し、トルエンの使用量は合計1207gだった。析出固体を窒素ガス気流下、25℃にて71時間乾燥した。乾燥後の固体を回収し、1H-NMRで分析したところ、純度96.2%の化合物3-1の356.5gが得られたことを確認した。化合物1-1基準の収率は56.0%となった。
【0059】
【0060】
化合物3-1のNMRスペクトル;
1H-NMR:5.20ppm(-CH2-、4H、s)。
13C-NMR:72.3ppm(-CH2-)、184.6ppm(C=O)。
【0061】
(例1-3)
撹拌機、コンデンサー、温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、化合物3-1の90.0gとアセトニトリルの750mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌しながらフッ化水素カリウムの110.3gを加えた。添加に伴う発熱はわずかだった。氷浴を水浴に変え、内温を15~25℃に保ったまま62時間反応させた。反応に伴い、細かい白色の固体が生成した。反応液を加圧ろ過器へ移し、未反応のフッ化水素カリウムと生成物をろ別した。ろ過器にアセトニトリルを加え、ろ液が透明になるまでろ別した固体を洗浄し、洗浄液を回収した。ろ液と洗浄液をエバポレーターにかけてアセトニトリルを留去した。乾固して残った固体にトルエンの950mLを添加し、100℃に加熱して固体をトルエンに溶解させた。溶解液を自然ろ過して未溶解分を除去した。ろ液を1Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら14時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に薄茶色の針状結晶が析出した。トルエンで結晶を洗浄し、窒素ガス気流下、25℃にて30時間乾燥させた。乾燥後の固体を回収し1H-NMRおよび19F-NMRで分析したところ、純度97.6%の化合物4-1の58.1gが得られたことを確認した。化合物3-1基準の収率は72.3%となった。
【0062】
【0063】
化合物4-1のNMRスペクトル;
1H-NMR:4.97ppm(-CH2-、4H、d、J=3.1Hz)。
19F-NMR:62.4ppm(-SO2F、2F、t、J=3.1Hz)。
13C-NMR:60.7ppm(-CH2-)、184.9ppm(C=O)。
【0064】
(例1-4)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の9.93gとアセトニトリルの89.7gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を6.7L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから反応液の103.2gを回収した。反応液を19F-NMRで定量分析したところ、化合物5-1が8.4質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は66%となった。
【0065】
【0066】
化合物5-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-104.1ppm(-CF2-、4F、s)、45.8ppm(-SO2F、2F、s)。
【0067】
(例1-5)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の19.9gとアセトニトリルの85.6gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を16.4L/hrの流量で6.5時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の109.6gを回収した。
【0068】
(例1-6)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の20.1gとアセトニトリルの80.1gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=20.0モル%/80.0モル%)を8.4L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の107.1gを回収した。
【0069】
(例1-7)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの1.65gとジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)の7.8mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-4で得た反応液の8.43gを、プラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には15分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、15~20℃で1時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の6.56gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて20~25℃で3.5時間反応させた。吸引ろ過により反応液から副生固体を除去し、ろ液を回収した。ろ過残固体は適当量のアセトニトリルで洗浄し、洗浄液はろ液と混合した。ろ液の37.1gを19F-NMRで定量分析したところ、モノマー1-1が2.04質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は46.6%となった。
【0070】
【0071】
モノマーm1-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-191.5ppm(CF2=CF-、1F、ddt、J=116、38、14Hz)、-133.8ppm(-O-CF-、1F、tt、J=21.3、6.1Hz)、-103.1ppm(-CF2-SO2F、4F、m)、-101.5ppm(CF2=CF-、1F、ddt、J=116、49、27Hz)、-87.6ppm(CF2=CF-、1F、ddt、J=49、38、7Hz)、-67.5ppm(-CF2-O-、2F、m)、46.8ppm(-SO2F、2F、s)。
【0072】
(例1-8)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた500mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの36.6gとアセトニトリルの125.6gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-5で得た反応液の79.8gを、プラスチック製滴下ロートを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には23分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で5.5時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の146.0gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で16時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の412.3gを19F-NMRで定量分析したところ、モノマーm1-1が3.93質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は55.9%となった。ろ液を減圧蒸留することにより、沸点97.2℃/10kPa留分として化合物7-1を単離した。ガスクロマトグラフィー純度は98.0%であった。
【0073】
(例1-9)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの3.70gとアセトニトリルの10.9gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-6で得た反応液の10.2gを、プラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には8分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で3時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の14.6gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で17時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の55.9gを19F-NMRで定量分析したところ、モノマーm1-1が4.77質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は69.6%となった。また、化合物1-1基準の反応収率(モノマー合成工程全体での反応収率)は、28.2%となった。
【0074】
(例2)
オートクレーブ(内容積100mL、ステンレス製)に、モノマーm1-1の70.0gを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。オートクレーブにTFEの2.53gを導入し、内温が100℃になるまでオイルバスにて加温した。このときの圧力は0.29MPa(ゲージ圧)であった。またTFE分圧は0.39MPaとなった。重合開始剤であるPFtBPOの36.3mgとHFC-52-13pの2.58gとの混合溶液をオートクレーブ内に圧入した。さらに圧入ラインから窒素ガスを導入し、圧入ライン内の圧入液を完全に押し込んだ。この操作により気相部のTFEが希釈された結果、圧力は0.56MPa(ゲージ圧)まで増加した。圧力を0.56MPa(ゲージ圧)で維持したままTFEを連続添加し重合を行った。9.5時間でTFEの添加量が4.03gになったところでオートクレーブ内を冷却して重合を停止し、系内のガスをパージした。反応液をHFC-52-13pで希釈後、HFE-347pc-fを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、HFC-52-13p中でポリマーを撹拌して、HFE-347pc-fで再凝集する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEとモノマーm1-1とのコポリマーであるポリマーF’-1の6.4gを得た。結果を表1に示す。なお、凝集に用いたHFC-52-13pとHFE-347pc-fを乾固したところ、0.1gのオリゴマー成分が抽出された。すなわち、オリゴマー含有量は2質量%以下であった。
【0075】
(例3)
例2の各条件を表1のように変更した。重合開始剤をtBPOとし、重合温度を125℃とした。それ以外は、例2と同様にしてTFEとモノマーm1-1とのコポリマーであるポリマーF-1を得た。結果を表1に示す。
(例4~例7)
例2の各条件を表1のように変更した。重合開始剤を初期一括で圧入する代わりに、所定の重合温度に維持しながら窒素ガス希釈をおこなった後で、表1に示したTFE分圧の量のTFEを張り込んで表1記載の重合圧力としたのち、モノマーm1-1に溶解したtBPOの0.20質量%溶液を重合開始時および30分毎に圧入ラインから間欠添加させた(重合開始剤およびモノマーm1-1の合計添加量を表1に示した)。それ以外は、例2と同様にしてTFEとモノマーm1-1とのコポリマーであるポリマーF-2~ポリマーF-5を得た。結果を表1に示す。
【0076】
(例8)
オートクレーブ(内容積230mL、ステンレス製)に、PSAEの175.0gを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。内温が110℃になるまでオイルバスにて加温し、TFEを系内に導入して圧力を0.27MPa(ゲージ圧)に保持した。
重合開始剤であるPFtBPOの55.3mgとHFC-52-13pの8.45gとの混合溶液をオートクレーブ内に圧入した。さらに圧入ラインから窒素ガスを導入し、圧入ライン内の圧入液を完全に押し込んだ。この操作により気相部のTFEが希釈された結果、圧力は0.68MPa(ゲージ圧)まで増加した。圧力を0.68MPa(ゲージ圧)で維持したままTFEを連続添加し重合を行った。5.0時間でTFEの添加量が11.25gになったところでオートクレーブ内を冷却して重合を停止し、系内のガスをパージした。反応液をHFC-52-13pで希釈後、HFE-347pc-fを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、HFC-52-13p中でポリマーを撹拌して、HFE-347pc-fで再凝集する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEとPSAEとのコポリマーであるポリマーF’-2を得た。結果を表1に示す。
【0077】
(例9)
例8の各条件を表1のように変更した。ただし、例9では重合開始剤を初期一括で圧入する代わりに、所定の重合圧力まで窒素ガス希釈を行ったのち、PSAEに溶解したPFtBPOの0.50質量%溶液を重合開始時および60分毎に圧入ラインから間欠添加させた(重合開始剤およびPSAEの合計添加量を表1に示した)。それ以外は、例8と同様にしてTFEとPSAEとのコポリマーであるポリマーF’-3を得た。結果を表1に示す。
【0078】
(例10)
特許第5217708号の例1の手順にしたがってTFEとPSAEとのコポリマーであるポリマーF’-4を得た。
【0079】
(例11)
特許第5217708号の例4の手順にしたがってTFEとPSAEとのコポリマーであるポリマーF’-5を得た。
【0080】
(例12)
特許第5217708号の例5の手順にしたがってTFEとP2SAEとのコポリマーであるポリマーF’-6を得た。
【0081】
【0082】
例3~例7は、TQ値が220℃以上で、イオン交換容量が1.81~2.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂のポリマーF-1~F-4をRp(生産性指標)が1.0以上で得られる。例2は、TQ値が220℃以上で、イオン交換容量が1.81~2.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂のポリマーF’-1が得られるが、Rp(生産性指標)が1未満であった。例8~例12のポリマーF’-2~F’-6は、イオン交換容量が1.81ミリ当量/グラム乾燥樹脂未満であった。
なお、2018年12月07日に出願された日本特許出願2018-230213号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容および2019年02月28日に出願された日本特許出願2019-036946号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。