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特許7287553フィルムコンデンサ用フィルム、金属積層体、フィルムコンデンサ、パワーコントロールユニット、電動自動車、および電動航空機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】フィルムコンデンサ用フィルム、金属積層体、フィルムコンデンサ、パワーコントロールユニット、電動自動車、および電動航空機
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/32 20060101AFI20230530BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
H01G4/32 511L
B32B27/00 B
H01G4/32 511G
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022147612
(22)【出願日】2022-09-16
(65)【公開番号】P2023044670
(43)【公開日】2023-03-30
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2021151881
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】辰喜 利海
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-219236(JP,A)
【文献】特開2004-90551(JP,A)
【文献】特開2014-118417(JP,A)
【文献】国際公開第2010/004700(WO,A1)
【文献】特開2021-154734(JP,A)
【文献】特開2021-154735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/32
B32B 1/00-43/00
C08J 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みの異なる2種類の樹脂層を有するフィルムコンデンサ用フィルムであって、
前記2種類の樹脂層のうち、厚みの小さい層を樹脂層A、厚みの大きい層を樹脂層Bとしたときに、前記樹脂層Bの少なくとも片面に前記樹脂層Aを有し、
前記樹脂層Aに含まれる水素原子H、炭素原子C、硫黄原子S、ケイ素原子Si、窒素原子N、および酸素原子Oの原子分率から下記式(i)に基づいて計算されるXAが0.050以上0.80以下であり、
23℃の雰囲気下において10kHzで測定した誘電正接が0.50%以下であり、かつ下記の条件1及び2の少なくとも一方を満たす、フィルムコンデンサ用フィルム。
式(i) XA=(炭素原子Cの原子分率+窒素原子Nの原子分率+硫黄原子Sの原子分率+ケイ素原子Siの原子分率)/(水素原子Hの原子分率+酸素原子Oの原子分率)
条件1:DSCで測定される融点が180℃以上である。
条件2:DSCで測定されるガラス転移温度が130℃以上370℃以下である。
【請求項2】
400℃における熱分解GC-MS測定を行ったときに、保持時間2分以上20分以下の区間に強度25000以上のピークを有する、請求項1に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
【請求項3】
窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で前記樹脂層Aの熱重量変化率を測定したときに、10質量%減少温度が390℃以下である、請求項1または2に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
【請求項4】
窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で熱重量変化率を測定したときに、1質量%減少温度が430℃以下である、請求項1または2に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
【請求項5】
前記樹脂層Aが構造r1~r8で表される部分構造(nは1以上の整数である)のいずれかを構成単位として有する、請求項1または2に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
【化1】
【請求項6】
前記樹脂層Aが、ウレタンアクリレート重合体、アクリレート重合体、ウレタンメタクリレート重合体、メタクリレート重合体、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレアからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、請求項1または2に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
【請求項7】
前記樹脂層Bが、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリイミドからなる群の少なくとも一つを含み、かつその合計量が50質量%以上100質量%以下である、請求項1または2に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
【請求項8】
前記樹脂層Aの厚みが1.0nm以上500nm以下である、請求項1または2に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
【請求項9】
少なくとも一方の面の算術平均粗さSaが5.0nm以上1000nm以下である、請求項1または2に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
【請求項10】
請求項1または2に記載のフィルムコンデンサ用フィルムの少なくとも一方の表面に金属層を有する、金属積層体。
【請求項11】
前記樹脂層B、前記樹脂層A、前記金属層をこの順に有する、請求項10に記載の金属積層体。
【請求項12】
請求項10記載の金属積層体を用いてなる、フィルムコンデンサ。
【請求項13】
請求項12に記載のフィルムコンデンサを有する、パワーコントロールユニット。
【請求項14】
請求項13に記載のパワーコントロールユニットを有する、電動自動車。
【請求項15】
請求項13に記載のパワーコントロールユニットを有する、電動航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサの誘電体となるフィルムコンデンサ用フィルム、金属積層体、フィルムコンデンサ、パワーコントロールユニット、電動自動車、および電動航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ数年、地球環境問題等に起因してハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の電動機駆動併用車、あるいは電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)の電動機駆動車の市場が拡大しているが、これら電動機駆動併用車や電動機駆動車の市場拡大に伴い、これらの車に使用されるフィルムコンデンサの需要も急速に増大している。
【0003】
フィルムコンデンサは、樹脂製のフィルムを誘電体とするコンデンサであり、優れた周波数特性や温度安定性を備える。このフィルムコンデンサのフィルムとしては、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムやポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂フィルム等のポリエステル樹脂フィルム、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂フィルム等の熱可塑性樹脂フィルム、あるいは非晶性の熱可塑性樹脂フィルムであるポリエーテルイミド(PEI)樹脂フィルム等が挙げられる。
【0004】
これらのフィルムの中では、ポリエーテルイミド樹脂フィルムが注目されている(特許文献1、2)。これは、フィルムコンデンサがハイブリッド自動車や電動自動車の用途に利用される場合、120℃以上の環境下での使用に耐えられる耐熱性が要求される場合があり、ガラス転移点温度(Tg)が200℃以上のポリエーテルイミド樹脂製のフィルムを使用すれば、優れた耐熱性、耐電圧特性や誘電特性等の電気的特性を得ることができるからである。
【0005】
一方で、ポリエーテルイミドやポリフェニレンスルフィドなどの優れた耐熱性を持つフィルムは、一般的にセルフヒーリング(SH)性が悪く、長時間使用しているとコンデンサ容量が低下していくという欠点があった。これに対し、基材フィルムにコート層を設けることでセルフヒーリング性を改善する技術が知られている(特許文献3)。また、ポリエーテルイミドや、ポリエチレンナフタレートなどのフィルムは、コンデンサ用フィルムとして使用すると発熱が大きく、性能が低下するリスクがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-300126号公報
【文献】特開2018-163950号公報
【文献】国際公開第2007/080757号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献3に示すような従来技術では、耐熱性とセルフヒーリング性を両立する際に用いられるシリコーン系のセルフヒーリングコートがSiを含有しているため、絶縁破壊時に電気回路の導線不良の原因となり得るシロキサンを生成し、コンデンサとしての特性を損なうという課題があった。そこで、本発明は、かかる従来技術の背景を鑑み、高い耐熱性とセルフヒーリング性を具備し、コンデンサとして使用したときの発熱による性能低下を軽減できるフィルムコンデンサ用フィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題は、以下の発明によって解決可能である。すなわち本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、厚みの異なる2種類の樹脂層を有するフィルムコンデンサ用フィルムであって、前記2種類の樹脂層のうち、厚みの小さい層を樹脂層A、厚みの大きい層を樹脂層Bとしたときに、前記樹脂層Bの少なくとも片面に前記樹脂層Aを有し、前記樹脂層Aに含まれる水素原子H、炭素原子C、硫黄原子S、ケイ素原子Si、窒素原子N、および酸素原子Oの原子分率から下記式(i)に基づいて計算されるXAが0.050以上0.80以下であり、23℃の雰囲気下において10kHzで測定した誘電正接が0.50%以下であり、かつ下記の条件1及び2の少なくとも一方を満たす、フィルムコンデンサ用フィルムである。
【0009】
式(i) XA=(炭素原子Cの原子分率+窒素原子Nの原子分率+硫黄原子Sの原子分率+ケイ素原子Siの原子分率)/(水素原子Hの原子分率+酸素原子Oの原子分率)
条件1:DSCで測定される融点が180℃以上である。
条件2:DSCで測定されるガラス転移温度が130℃以上370℃以下である。
【0010】
なお、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは以下の態様とすることもでき、これを用いて金属積層体、フィルムコンデンサ、パワーコントロールユニット、電動自動車、および電動航空機を得ることもできる。
(1) 厚みの異なる2種類の樹脂層を有するフィルムコンデンサ用フィルムであって、前記2種類の樹脂層のうち、厚みの小さい層を樹脂層A、厚みの大きい層を樹脂層Bとしたときに、前記樹脂層Bの少なくとも片面に前記樹脂層Aを有し、前記樹脂層Aに含まれる水素原子H、炭素原子C、硫黄原子S、ケイ素原子Si、窒素原子N、および酸素原子Oの原子分率から下記式(i)に基づいて計算されるXAが0.050以上0.80以下であり、23℃の雰囲気下において10kHzで測定した誘電正接が0.50%以下であり、かつ下記の条件1及び2の少なくとも一方を満たす、フィルムコンデンサ用フィルム。
式(i) XA=(炭素原子Cの原子分率+窒素原子Nの原子分率+硫黄原子Sの原子分率+ケイ素原子Siの原子分率)/(水素原子Hの原子分率+酸素原子Oの原子分率)
条件1:DSCで測定される融点が180℃以上である。
条件2:DSCで測定されるガラス転移温度が130℃以上370℃以下である。
(2) 400℃における熱分解GC-MS測定を行ったときに、保持時間2分以上20分以下の区間に強度25000以上のピークを有する、(1)に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
(3) 窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で前記樹脂層Aの熱重量変化率を測定したときに、10質量%減少温度が390℃以下である、(1)または(2)に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
(4) 窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で熱重量変化率を測定したときに、1質量%減少温度が430℃以下である、(1)~(3)のいずれかに記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
(5) 前記樹脂層Aが構造r1~r8で表される部分構造(nは1以上の整数である)のいずれかを構成単位として有する、(1)~(4)のいずれかに記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
【0011】
【化1】
【0012】
(6) 前記樹脂層Aが、ウレタンアクリレート重合体、アクリレート重合体、ウレタンメタクリレート重合体、メタクリレート重合体、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレアからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、(1)~(5)のいずれかに記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
(7) 前記樹脂層Bが、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリイミドからなる群の少なくとも一つを含み、かつその合計量が50質量%以上100質量%以下である、(1)~(6)のいずれかに記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
(8) 前記樹脂層Aの厚みが1.0nm以上500nm以下である、(1)~(7)のいずれかに記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
(9) 少なくとも一方の面の算術平均粗さSaが5.0nm以上1000nm以下である、(1)~(8)のいずれに記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
(10) (1)~(9)のいずれかに記載のフィルムコンデンサ用フィルムの少なくとも一方の表面に金属層を有する、金属積層体。
(11) 前記樹脂層B、前記樹脂層A、前記金属層をこの順に有する、(10)に記載の金属積層体。
(12) (10)または(11)に記載の金属積層体を用いてなる、フィルムコンデンサ。
(13) (12)に記載のフィルムコンデンサを有する、パワーコントロールユニット。
(14) (13)に記載のパワーコントロールユニットを有する、電動自動車。
(15) (13)に記載のパワーコントロールユニットを有する、電動航空機。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い耐熱性とセルフヒーリング性を具備するフィルムコンデンサ用フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムについて具体的に説明する。本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、厚みの異なる2種類の樹脂層を有するフィルムコンデンサ用フィルムであって、前記2種類の樹脂層のうち、厚みの小さい層を樹脂層A、厚みの大きい層を樹脂層Bとしたときに、前記樹脂層Bの少なくとも片面に前記樹脂層Aを有し、前記樹脂層Aに含まれる水素原子H、炭素原子C、硫黄原子S、ケイ素原子Si、窒素原子N、および酸素原子Oの原子分率から下記式(i)に基づいて計算されるXAが0.050以上0.80以下であり、23℃の雰囲気下において10kHzで測定した誘電正接が0.50%以下であり、かつ下記の条件1及び2の少なくとも一方を満たす、フィルムコンデンサ用フィルムである。
【0015】
式(i) XA=(炭素原子Cの原子分率+窒素原子Nの原子分率+硫黄原子Sの原子分率+ケイ素原子Siの原子分率)/(水素原子Hの原子分率+酸素原子Oの原子分率)
条件1:DSCで測定される融点が180℃以上である。
条件2:DSCで測定されるガラス転移温度が130℃以上370℃以下である。
【0016】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、厚みの異なる2種類の樹脂層を有する。ここで「厚みの異なる」とは厚みの差が0.10μm以上であることをいい、「2種類の樹脂層」とは互いに組成の異なる2つの樹脂層をいう。樹脂層とは、樹脂を主成分とする層をいい、主成分とは層中に50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいう(以下、主成分については同様に解釈することができる。)。また、「組成の異なる」とは、各層を構成する成分の10質量%以上100質量%以下が互いに異なることをいい、好ましくは主成分が異なることをいう。
【0017】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、2種類の樹脂層のうち、厚みの小さい層を樹脂層A、厚みの大きい層を樹脂層Bとしたときに、樹脂層Bの少なくとも片面に前記樹脂層Aを有し、樹脂層Aに含まれる水素原子H、炭素原子C、硫黄原子S、ケイ素原子Si、窒素原子N、および酸素原子Oの原子分率から下記式(i)に基づいて計算されるXAが0.050以上0.80以下であることが重要である。
【0018】
式(i) XA=(炭素原子Cの原子分率+窒素原子Nの原子分率+硫黄原子Sの原子分率+ケイ素原子Siの原子分率)/(水素原子Hの原子分率+酸素原子Oの原子分率) 。
【0019】
XAは樹脂層Aにおける絶縁破壊時に蒸散しにくい傾向のある原子と蒸散しやすい傾向のある原子の比であり、これを0.80以下とすることで、セルフヒーリング性やコンデンサの信頼性が高くなり、0.050以上とすることで、金属層を積層した際に、金属層の酸化劣化を抑制することができる。上記観点からXAは、好ましくは0.70以下であり、より好ましくは0.65以下であり、さらに好ましくは0.60以下であり、特に好ましくは0.55以下である。一方、実現容易性の観点からXAは、好ましくは0.20以上であり、より好ましくは0.40以上である。樹脂層Aにおける原子の含有量は、ラザフォード後方散乱/水素前方散乱分析同時測定法(National Electrostatics Corporation製Pelletron 3SDH)による分析で得られた原子分率より求めることができ、詳細な手順は後述する。
【0020】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、下記の条件1及び2の少なくとも一方を満たす。条件1:DSCで測定される融点が180℃以上である。条件2:DSCで測定されるガラス転移温度が130℃以上370℃以下である。なお、以下DSCで測定される融点、DSCで測定されるガラス転移温度について、それぞれ単に「融点」、「ガラス転移温度」ということがある。
【0021】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは前記条件1及び2の少なくとも一方を満たすことで、フィルムコンデンサとして使用したときに熱収縮や破膜による絶縁不良を起こしにくくなる。上記観点から融点は、好ましくは205℃以上、より好ましくは215℃以上である。一方、成形加工性の観点から融点は、好ましくは370℃以下、より好ましくは360℃以下である。上記観点からガラス転移温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは165℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。一方、成形加工性の観点からガラス転移温度は、好ましくは350℃以下である。
【0022】
ここでいう融点は、JIS K-7122(1987)に準じて、フィルムコンデンサ用フィルムを昇温速度20℃/minで樹脂を25℃からTmax[℃]まで20℃/分の昇温速度で加熱して得られた示差走査熱量測定チャートにおける、JIS K-7121(1987)に記載の方法に基づいて求められた融解ピーク温度のうち、最も高い融解ピーク温度のことである。なお、Tmax[℃]は初めに350℃に設定して測定を行い、融点が観測されなかった場合380℃に設定して再度測定を行った。Tmax=380℃で融点が観測されなかった場合、融点なしとした。
【0023】
ここでいうガラス転移温度は、JIS K-7122(1987)に準じて、フィルムコンデンサ用フィルムを昇温速度20℃/minで樹脂を25℃からTmax[℃]まで20℃/分の昇温速度で加熱(1st Run)、その状態で5分間保持後、次いで25℃以下となるよう急冷し、再度25℃から20℃/minの昇温速度でTmax[℃]まで昇温(2nd Run)を行って得られた2nd RUNの示差走査熱量測定チャートにおける、JIS K-7121(1987)に記載の方法に基づいて求められた中間点ガラス転移温度のうち、最も高い中間ガラス転移温度のことである。なお、Tmax[℃]は初めに350℃に設定して測定を行い、ガラス転移温度が観測されなかった場合380℃に設定して再度測定を行った。Tmax=380℃でガラス転移温度が観測されなかった場合、ガラス転移温度なしとした。
【0024】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムが前記条件1及び2の少なくとも一方を満たすようにする手段は特に限定されるものではないが、例えば、樹脂層Bの原料として前記条件1及び2の少なくとも一方を満たすものを選定し、樹脂層Aの厚みを樹脂層Bの厚みの30%以下とする方法が挙げられる。また、条件1及び2の少なくとも一方を満たすものを樹脂層A、樹脂層Bの原料として選定する方法も挙げられる。
【0025】
前記樹脂層Bは、コンデンサとして使用する際の耐熱性を高くする観点から、前記条件1及び2の少なくとも一方を満たすことが好ましい。前記条件1及び2の少なくとも一方を満たすことで、フィルムコンデンサとして使用したときに熱収縮や破膜による絶縁不良を起こしにくくなる。上記観点から融点は、好ましくは205℃以上、より好ましくは215℃以上である。一方、成形加工性の観点から融点は、好ましくは370℃以下、より好ましくは360℃以下である。上記観点からガラス転移温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは165℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。一方、成形加工性の観点からガラス転移温度は、好ましくは370℃以下、より好ましくは350℃以下である。樹脂層Bの融点とガラス転移温度は、フィルム3.0mgの代わりに樹脂層Bをかきとったものを3.0mg使用する以外、後述するフィルムの融点、ガラス転移温度の測定方法と同様にして測定することができる。
【0026】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、23℃の雰囲気下において10kHzで測定した誘電正接が0.50%以下であることが重要である。前記誘電正接を0.50%以下とすることで、コンデンサとして使用したときの発熱を小さくすることができ、発熱による性能低下が軽減される。上記観点から誘電正接は、0.30%以下であることが好ましい。誘電正接の下限は特に限定されるものではないが、実現可能性の観点から、0.0010%であることが好ましく、製造コストも考慮すると0.010%であることがより好ましく、0.10%であることが特に好ましい。
【0027】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムの誘電正接を0.50%以下とする方法は特に限定されるものではないが、例えば、誘電正接が0.50%以下である原料で樹脂層Bを形成し、その一方の面に樹脂層Aを後述する範囲内の厚みで形成することで達成することができる。なお、ここでいう誘電正接はJIS C2138-2007に準じて測定した値をいい、その詳細な測定方法は後述する。
【0028】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、後述する条件にて400℃における熱分解GC-MS測定を行ったときに、保持時間2分以上20分以下の区間に強度25000以上のピークを有することが好ましい。前記した区間には、強度50000以上のピークが含まれることがより好ましく、強度90000以上のピークが含まれることがさらに好ましく、強度210000以上のピークが含まれることが特に好ましい。前記した区間に含まれるピークの数は、1つであってもよいし、複数あってもよい。強度25000以上のピークを含むことは、フィルム中に絶縁破壊時に蒸散する成分が多く含まれることを意味し、このような態様とすることで、コンデンサ用フィルムのセルフヒール性を高めることができる。前記した区間に強度25000以上のピークを有するようにする方法としては、例えば、誘電正接を前記した範囲に調整し、厚みの薄い樹脂層Aが絶縁破壊時に蒸散しやすい成分を含む態様とする方法が挙げられる。
【0029】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、セルフヒール性向上の観点から、窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で前記樹脂層Aの熱重量変化率を測定したときに、10質量%減少温度が390℃以下であることが好ましい。以下、窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で前記樹脂層Aの熱重量変化率を測定したときの10質量%減少温度を、「樹脂層Aの10質量%減少温度」ということがある。上記観点から、樹脂層Aの10質量%減少温度は、より好ましくは355℃以下であり、さらに好ましくは325℃以下であり、特に好ましくは295℃以下である。樹脂層Aの10質量%減少温度が390℃以下又は上記の好ましい範囲であることは、コンデンサ用フィルム(特に樹脂層A)中に含まれる絶縁破壊時に蒸散する成分が多いことを意味し、このような態様とすることでコンデンサ用フィルムのセルフヒール性を高めることができる。
【0030】
樹脂層Aの10質量%減少温度は、以下の手順で測定することができる。先ず、樹脂層Aのサンプルを23℃、50%RHの環境にて24時間保管し、保管後のサンプルを熱重量測定装置にて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで23℃から500℃まで加熱し、熱重量の変化を測定する。得られた熱重量の変化から、170℃での熱重量を100質量%として、各温度での熱重量変化率を求め、熱重量が質量90%となっている温度を樹脂層Aの10質量%減少温度とする。なお、測定装置は上記手順での測定が可能なものであれば公知の装置から適宜選択することができ、例えば、TGA-50(株式会社島津製作所製)等を使用することができる。
【0031】
樹脂層Aの10質量%減少温度を390℃以下とする方法としては、例えば、樹脂層Aに熱重量変化率を測定したときの10質量%減少温度が390℃以下となる原料を用いる方法が挙げられる。このような原料としては例えば、ウレタンアクリレート重合体、アクリレート重合体、ウレタンメタクリレート重合体、メタクリレート重合体、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。
【0032】
本発明のフィルコンデンサ用フィルムは、セルフヒール性向上の観点から、窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で熱重量変化率を測定したときに、1質量%減少温度が430℃以下であることが好ましい。なお、以下、窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で熱重量変化率を測定したときの1質量%減少温度を、「フィルムの1質量%減少温度」ということがある。上記観点からフィルムの1質量%減少温度は、より好ましくは380℃以下であり、さらに好ましくは370℃以下であり、特に好ましくは355℃以下で、最も好ましくは340℃以下である。フィルムの1質量%減少温度が430℃以下又は上記の好ましい範囲であることは、コンデンサ用フィルム中に含まれる絶縁破壊時に蒸散する成分が多いことを意味し、樹脂層Aの厚みが大きい場合、特に樹脂層Aの厚みをフィルム全体の厚みの5%以上に設計する場合に、このような態様とすることでコンデンサ用フィルムのセルフヒール性を高めることができる。
【0033】
フィルムの1質量%減少温度は、測定するサンプルをフィルムとし、読み取る温度を熱重量が質量99%となっている温度とする以外は、前述の樹脂層Aの10質量%減少温度と同様に測定することができる。フィルムの1質量%減少温度を430℃以下とする方法としては、誘電正接を前記した範囲に収める観点から樹脂層Aの設計にて制御するのが好ましく、例えば、樹脂層Aの原料に熱重量変化率を測定したときの10質量%減少温度が低い原料を用いる方法や、樹脂層Aの厚みを厚くする方法が挙げられる。樹脂層Aを前記した方法で設計することで、フィルムを加熱したときの430℃以下での樹脂層Aの分解量が増加し、フィルムの質量減少量も増加する。
【0034】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、構造r1~r8で表される部分構造のいずれかを構成単位として有する樹脂層Aを有することが好ましい(nは1以上の整数)。「構造r1~r8で表される部分構造のいずれかを構成単位として有する」とは、樹脂層Aを構成する樹脂のうち少なくとも1種の樹脂が構造r1~r8で表される部分構造を含むことを意味する。なお、部分構造とは、分子構造の一部分または全体を構成する、化学結合で結合した原子群を指す。このとき、構造r1~r8で表される同一の又は異なる部分構造を含む2種以上の成分が含まれていてもよく、1分子内に構造r1~r8で表される部分構造を2種以上含む成分を含んでもよい。構造r1~r8で表される部分構造は絶縁破壊時に蒸散しやすい構造であり、該構造を有する樹脂層Aを具備することでフィルムコンデンサ用フィルムのセルフヒーリング性を高めることができる。
【0035】
【化2】
【0036】
前記構造r1~r8で表される部分構造の含量について、樹脂層Aの質量を100質量%としたときに、前記構造r1~r8に該当する樹脂層A中の部分構造の質量の割合をWRとする。前記WRはセルフヒーリング性の観点から、5.0質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましい。また、WRの上限は特に制限されないが、実現可能性の観点から100質量%となる。同様にして、樹脂層Aの質量を100質量%としたときに、構造r5、r7、r8の群から選ばれる少なくとも1つの構造に該当する樹脂層A中の部分構造の質量の割合をW578とし、構造r7またはr8の少なくとも一方の構造に該当する樹脂層A中の部分構造の質量の割合をW78とする。
【0037】
樹脂層Aは、構造r1~r8で表される部分構造のうち、セルフヒーリング性の観点から、より蒸散しやすい構造r5、r7、r8の群から選ばれる少なくとも1つの構造を含有することが好ましく、特に蒸散しやすい構造r7またはr8の少なくとも一方の構造を含有することがより好ましい。同様の観点から、W578が1質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。W78が1質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。また、W578とW78の上限は特に制限されないが、いずれも実現可能性の観点から100質量%となる。
【0038】
原料組成が不明な場合に、樹脂層Aに前記構造r1~r8で表される部分構造が含まれているかどうかは、樹脂層Aをかきとったものに対して固体H-核磁気共鳴法(NMR)、固体13C-核磁気共鳴法(NMR)、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)等の公知の分析方法で分析することができる。前記分析は以下の手順で行うことができる。
【0039】
構造r1~r4の定量について説明する。先ず、熱分解GC-MSにより該構造のnの値を決定する。続いてDD/MAS法(Dipolar Decoupling/Magic Angle Spinning)の固体H-NMR分析により、2.0~2.8ppmに検出されるピークの面積から該構造が有するカルボニル炭素に隣接する炭素に結合している水素の原子数を定量する。得られた水素原子数から該構造が持つ他の原子の数を算出し、WRの計算に用いた。2.0~2.8ppmに検出されるピークのうち、どのピークが該構造の有するカルボニル炭素に隣接する炭素上の水素原子に対応するかは固体H-13C Cross-polarization-Heteronuclear Single Quantum Correlation(CP-HSQC)によって決定する。
【0040】
構造r5、r6の定量について説明する。熱分解GC-MSにより該構造のnの値を決定した。続いてDD/MAS法の固体H-NMR分析により、3.5~4.5ppmに検出されるピークの面積から該構造が有するエーテル結合酸素に隣接する炭素に結合している水素の原子数を定量し、得られた水素原子数から該構造が持つ他の原子の数を算出してWR、W578の計算に用いる。3.5~4.5ppmに検出されるピークのうち、どのピークが該構造が有するエーテル結合酸素に隣接する炭素上の水素原子に対応するかは固体H-13C Cross-polarization-Heteronuclear Single Quantum Correlation(CP-HSQC)によって決定する。
【0041】
構造r7、r8の定量について説明する。DD/MAS法の固体13C-NMR分析により、150~160ppmに検出されるピークの面積から該構造が有するカルボニル炭素の原子数を定量する。得られた炭素原子数から該構造が持つ他の原子の数を算出し、WR、W578、W78の計算に用いる。
【0042】
本発明のコンデンサ用フィルムにおける樹脂層Aの原料としては、特に限定されるものではないが、XAを0.050以上0.80以下にし、セルフヒール性を高める観点から、ウレタンアクリレート重合体、アクリレート重合体、ウレタンメタクリレート重合体、メタクリレート重合体、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレアからなる群より少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。中でも、分解温度が低くなる傾向にあるウレタン結合やウレア結合を含有させ、セルフヒール性を高める観点から、ウレタンアクリレート重合体、ウレタンメタクリレート重合体、ポリウレタン、ポリウレアからなる群より少なくとも1種の化合物を含むことがより好ましく、耐湿熱性を高くする観点から、ウレタンアクリレート重合体またはウレタンメタクリレート重合体の少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。ウレタンアクリレート重合体とは、ウレタン結合を含むアクリレートを重合した化合物を指す。アクリレート重合体とは、アクリレートを重合した化合物であってウレタンアクリレート重合体以外のものをいう。脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリアミドとは、脂肪族炭化水素基をそれぞれエーテル結合、エステル結合、アミド結合で繋いだ構造を有する化合物を指す。
【0043】
前記化合物群の化合物は2種以上を選んで混合してもよいし、前記化合物群の構成単位を2種以上含む化合物を少なくとも1種含んでもよい。前記化合物群の構成単位とは、以下の構造を指す。前記化合物群のうち、ウレタンアクリレート重合体とウレタンメタクリレート重合体は2種の構造を構成単位とし、該構造を2種とも含む場合に前記化合物の構成単位を1種含むものとする。また、複数の構成単位を有する化合物の場合は、各化合物について該当するかを判定するものとし、例えば、構造1と構造2と構造3を構成単位として有する化合物を含有する樹脂層は、ウレタンアクリレート重合体とアクリレート重合体とウレタンメタクリレート重合体とメタクリレート重合体を含有するものとして扱う。前記化合物には下記以外の構造を含む成分が含まれてもよい。樹脂層Aの質量を100質量%としたときに、下記構造1~7に該当する成分の質量比Wが1質量%以上となるように前記化合物群からなる化合物が樹脂層Aに含まれるのが好ましい。ただし、構造1~6のX、Y、Z部分の質量はWに含めないものとする。前記Wは5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが特に好ましい。また、Wの上限は特に制限されないが、理論上100質量%となる。
【0044】
ウレタンアクリレート重合体:構造1と構造2
アクリレート重合体:構造1
ウレタンメタクリレート重合体:構造2と構造3
メタクリレート重合体:構造3
脂肪族ポリエーテル:構造4
脂肪族ポリエステル:構造5
脂肪族ポリアミド:構造6
ポリウレタン:構造2
ポリウレア:構造7
【0045】
【化3】
【0046】
なお、ここでnは1以上の整数とする。R、Rは脂肪族炭化水素基を、X、Y、Zはそれぞれ任意の化学構造を指す。これらの中に同じ化学構造のものがあってもよいし、全て別の化学構造であってもよい。
【0047】
樹脂層Aが前記構成単位を含有するかどうかは、例えばH-NMR(核磁気共鳴法ともいう)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMSともいう)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IRともいう)といった高分子の構造解析に一般的に使用される方法を用いて分析することができる。
【0048】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムの樹脂層Bに用いる原料は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリメチルペンテン(PMP)、環状オレフィン(COP)、及び環状オレフィン・コポリマー(COC)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、及びポリエチレンナレフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド4T(PA4T)、ポリアミド6T(PA6T)、変性ポリアミド6T(変性PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリアミド10T(PA10T)、及びポリアミド11T(PA11T)等のポリアミド、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフェニルスルホン(PPSU)等のポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンスルホン等のポリアリーレンスルフィド、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、及びポリアミドイミド(PAI)等のポリイミド(PI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)等のポリアリールエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(四フッ化エチレンともいう)、ポリテトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)(四フッ化エチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体ともいう)、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)(四フッ化エチレン‐六フッ化プロピレン共重合体ともいう)、テトラフルオロエチレン‐エチレン共重合体(ETFE)(四フッ化エチレン‐エチレン共重合体ともいう)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)(三フッ化塩化エチレンともいう)、ポリビニリデンフルオライド(PVDE)(フッ化ビニリデンともいう)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロピレン共重合体等のフッ素系ポリマー、ポリアセタール、液晶ポリマー(LCP)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、フェノール樹脂、ポリウレア、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、シンジオタクチックポリスチレンとポリフェニレンエーテルの混合物、ポリウレタン等が挙げられる。
【0049】
これらの中では、前記した本発明のコンデンサフィルムが満たす条件1及び条件2の少なくとも一方を満たし、150℃での耐熱性に優れるポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、及びポリフェニルスルホン等のポリスルホン、ポリイミド、ポリメチルペンテン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリールエーテルケトン、フルオレン含有ポリエステル、シンジオタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレンとポリフェニレンエーテルの混合物、ポリウレタンを用いるのが好ましい。
【0050】
また、フィルムコンデンサ用フィルムの融点及びガラス転移温度の少なくとも一方を前記した条件に収めて耐熱性を高めつつ、誘電正接を低減させてコンデンサとして使用したときの発熱を抑制する観点から、樹脂層Bが、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリイミドのうち少なくとも1つの樹脂を含み、かつその合計量が50質量%以上100質量%以下であることが特に好ましい。上記観点からポリアリーレンスルフィドとポリイミドの合計量は、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。これらの樹脂はホモ体であってもよいが、変性体、誘導体、及び他の化合物との共重合体も使用することができる。また、単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用することもできる。なお、ここでポリアリーレンスルフィドの共重合体とは、樹脂を構成する全構成単位を100モル%としたときに、アリーレンスルフィド単位を50モル%より多く100モル%未満含み、他の構成単位を0モル%より多く50モル%未満含むものをいう。ポリイミドの共重合体も同様に解釈できる。
【0051】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムには、その特性を損なわない範囲で、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、架橋剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱向上剤、着色剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤、無機粒子、樹脂粒子、無機化合物、有機化合物等を含有してもよい。なお、これらの各成分は、必要に応じて単独でまたは複数種類を組み合わせてもよく、樹脂層A、樹脂層Bの何れの層にも用いることができる。
【0052】
本発明のコンデンサ用フィルムにおける樹脂層Aの厚みは、1.0nm以上500nm以下であることが好ましい。樹脂層Aの厚みを1.0nm以上とすることで、セルフヒール性を高めることができ、500nm以下とすることで、誘電正接を前記した範囲に収めることがより容易となる。上記観点から樹脂層Aの厚みは200nm以下であることがより好ましい。同様に上記観点から樹脂層Aの厚みは、5.0nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましい。
【0053】
一般にXAの低い原料は誘電正接が高くなる傾向が知られている。そのため、本来であれば前記した通り、コンデンサとして使用したときに発熱が大きくなりコンデンサとしての使用には適さない。しかしながら本発明では、樹脂層Bより薄い樹脂層Aとして該原料を用いることで、セルフヒール性を高くしながらコンデンサとして使用したときの発熱を抑えることができる。特に、樹脂層Aの厚みを前記した範囲に収めることで、より発熱を低減することができる。
【0054】
樹脂層Bの厚みは、樹脂層Aよりも大きければ特に限定されるものではないが、0.50μm以上9.0μm以下であることが好ましい。樹脂層Bの厚みを9.0μm以下とすることで、フィルムコンデンサ用フィルムとして用いたときにフィルムコンデンサを小型化することが容易となる。樹脂層Bの厚みを0.50μm以上とすることで、フィルムコンデンサ用フィルムをフィルムコンデンサに加工する際に生じる破膜を軽減することができる。上記観点から樹脂層Bの厚みは7.5μm以下であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましく、4.5μm以下であることがさらに好ましい。前記樹脂層Bの厚みは、1.0μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがより好ましい。
【0055】
ここで、各層の厚みは幅方向-厚み方向断面を電界放射走差電子顕微鏡で観察し、その測長機能により計測することができ、詳細な手順は後述する。
【0056】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、コンデンサへの加工性の観点から、少なくとも一方の面の算術平均粗さSaが5.0nm以上1000nm以下であることが好ましく、5.0nm以上300nm以下であることがより好ましい。少なくとも一方の面のSaを5.0nm以上とすることで、フィルムコンデンサ用フィルムに滑り性を付与でき、フィルムコンデンサに加工するのが容易となる。少なくとも一方の面のSaを1000nm以下とすることで、フィルムコンデンサとしたときの耐電圧を高めることができる。Saをこの範囲に収める方法は特に限定されるものではないが、Saを高めるには、樹脂層Bに粒子を添加することや、樹脂層Aに相分離する2成分を添加すること等が有効である。逆に、Saを下げるには、押出成形を平滑な鏡面ロール上で行うことや、樹脂層Bの形成を平滑な溶液製膜基材用フィルム上で行うこと等が有効である。本発明のフィルムコンデンサ用フィルムに滑り性を付与する観点から、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、より好ましくは両方の面のSaが5.0nm以上1000nm以下であり、さらに好ましくは両方の面のSaが5.0nm以上300nm以下である。
【0057】
以下、本発明のフィルムコンデンサ用金属積層体について説明する。本発明の金属積層体は、集積化の観点から、フィルムコンデンサ用フィルムの少なくとも一方の表面に金属層を有する。また、セルフヒーリング性を高める目的から、樹脂層B、樹脂層A、金属層をこの順に有する金属積層体とすることがより好ましい。なお、ここで「樹脂層B、樹脂層A、金属層をこの順に有する」とは、樹脂層B、樹脂層A、金属層がこの順に位置している態様全般をいい、樹脂層Bと樹脂層Aの間、樹脂層Aと金属層との間、樹脂層Bや金属層の外側に他の層があるか否かは問わない。
【0058】
金属層の厚みは、好ましくは1nm以上100nm以下、より好ましくは5nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上50nm以下の範囲である。また、金属層の表面抵抗値は、好ましくは0.1Ω/sq以上10Ω/sq以下、より好ましくは2Ω/sq以上8Ω/sq以下、さらに好ましくは3Ω/sq以上6Ω/sq以下の範囲である。これは、金属層の表面抵抗値が0.1Ω/sq未満の場合には、セルフヒーリング性が低下するので、好ましくないからである。逆に、10Ω/sqを超える場合には、誘電正接が悪化するおそれがあるという理由に基づく。なお、金属層の表面抵抗値を調整するには、金属層の厚みを調整すればよい。
【0059】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、コンデンサ用誘電体フィルムとして好ましく用いられるものであるが、コンデンサのタイプに限定されるものではない。具体的には電極構成の観点では箔巻きコンデンサ、金属蒸着膜コンデンサのいずれであってもよいし、絶縁油を含浸させた油浸タイプのコンデンサや絶縁油を全く使用しない乾式コンデンサにも好ましく用いられる。また、形状の観点では、捲巻式であっても積層式であっても構わない。これらの中では、本発明のフィルムの特性から、金属積層体を含む金属蒸着膜フィルムコンデンサとして使用するのが好ましい。金属層の形成方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が用いられる。これらの方法の中では、生産性に優れる真空蒸着法が好ましい。金属層が蒸着される場合、蒸着方法として、オイル法やテープ等が使用される。金属層の蒸着パターンとしては、特に限定されるものではないが、好ましいパターンとしては、例えばTマージンパターン、ハニカムパターン、モザイクパターン等が挙げられる。
【0060】
前記金属層の金属成分は特に限定されるものではないが、アルミニウムまたは、アルミニウムと亜鉛との合金が好ましく用いられる。また、アルミニウムと同時あるいは逐次に、例えば、ニッケル、銅、金、銀、クロムなどの他の金属成分を蒸着したものを金属層として用いることもできる。また、蒸着膜上にオイルなどで保護層を設けることもできる。樹脂層Aと樹脂層Bからなるフィルムへの金属層積層を蒸着によって行う場合、蒸着前にフィルムコンデンサ用フィルムの蒸着面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。このような表面処理を行うことで、蒸着した金属の表面への密着性を高めることができる。
【0061】
次に本発明のフィルムコンデンサについて説明する。本発明のフィルムコンデンサは、本発明の金属積層体を用いてなる。本発明のフィルムコンデンサは、自動車用インバーターおよび/またはコンバーター(例えば、ハイブリッド電気自動車用のインバーター、ハイブリッド電気自動車用のコンバーター、電気自動車用のインバーター、電気自動車用のコンバーターなど)の一部とすることができる。
【0062】
以下、本発明のパワーコントロールユニット、電動自動車、電動航空機について説明する。本発明のパワーコントロールユニットは、本発明のフィルムコンデンサを有する。パワーコントロールユニットは、電力により駆動する機構を持つ電動自動車や電動航空機等において、動力をマネジメントするシステムである。パワーコントロールユニットに本発明のフィルムコンデンサを搭載することで、パワーコントロールユニット自体の小型化、耐熱性向上、高効率化が可能となり、結果、燃費が向上する。
【0063】
本発明の電動自動車は、本発明のパワーコントロールユニットを有する。ここで電動自動車とは、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車等の電力により駆動する機構を有する自動車を指す。前述のとおり、本発明のパワーコントロールユニットは小型化が可能な他、耐熱性や効率にも優れるため、電動自動車が本発明のパワーコントロールユニットを備えることで燃費の向上等に繋がる。
【0064】
本発明の電動航空機は、本発明のパワーコントロールユニットを有する。ここで電動航空機とは、有人電動航空機やドローン等の電力により駆動する機構を有する航空機を指す。前述のとおり、本発明のパワーコントロールユニットは小型化が可能な他、耐熱性や効率にも優れるため、電動航空機が本発明のパワーコントロールユニットを備えることで燃費の向上等に繋がる。
【0065】
次に、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムの製造方法の例について説明する。なお、以下の例は樹脂層Aと樹脂層Bからなる2層構成のものであるが、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、樹脂層Aと樹脂層Bを有する限り2層構成であっても、それ以外の層を有する3層以上の構成であってもよい。
【0066】
まず、樹脂層Bの形成方法としては、樹脂層Bの原料を押出機に供給し、Tダイなどのスリット状口金から溶融押出させて冷却ドラムなどの上で固化させて樹脂層Bとする方法や、溶液又は液体状の樹脂層Bの原料を、ポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、またはそれらにシリコーンコートをして離型性を高めたフィルムなどの溶液製膜基材用フィルム上にコーターで塗工した後、乾燥または重合、固化することで樹脂層Bを形成する方法や、該液体を流延ベルト上に流延させた後、乾燥または重合、固化することで樹脂層Bを形成する方法等が挙げられる。中でも、樹脂層Bの厚み均一性を高める観点から、溶液又は液体状の樹脂層Bの原料を溶液製膜基材用フィルム上にコーターで塗工した後、乾燥する方法で樹脂層Bを形成する方法か、原料を押出機に供給し、Tダイなどのスリット状口金から溶融押出させて冷却ドラムなどの上で固化させてフィルム状に成形した後、一軸または二軸で延伸したものを樹脂層Bとする方法のいずれかの方法で行うのが好ましい。溶液製膜基材用フィルム上に樹脂層Bを形成した場合には、樹脂層Aの形成を行う前に樹脂層Bを溶液製膜基材用フィルムから剥離してもよいし、しなくてもよいが、搬送性を高める観点から、剥離せずに樹脂層Aの形成を行うのが好ましい。
【0067】
樹脂層Bの形成方法の一例として、二軸配向PPS層を樹脂層Bとする場合の方法を述べる。原料として、170℃~190℃で真空乾燥したPPSを押出機に供給し、窒素雰囲気下、310℃~330℃の温度で溶融させ、Tダイ口金に導入する。次いで、Tダイ口金内より、シート状に押出して溶融単層シートとし、これを表面温度10℃~30℃に保たれたキャストドラム上に吐出した後、静電印加法で密着させて冷却固化することによりキャストし、未延伸フィルムを得る。得られた未延伸フィルムを加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して延伸温度85℃~115℃でフィルムの長手方向に2.0倍~5.0倍の倍率で延伸する。その後、得られた一軸延伸フィルムの幅方向両端部をクリップで担持してテンターに導き、延伸温度95℃~105℃で幅方向に2.5倍~5.0倍の倍率で延伸する。引き続いて270℃~290℃で熱処理を行った後、1%~10%弛緩処理を行い、室温まで冷却する。次いでフィルム表面(キャストドラム接触面側)に20W・min/m~30W・min/mの処理強度で大気中でコロナ放電処理を行い、その後、フィルムエッジを除去して厚み1μm~8μmの二軸配向PPSフィルムを得ることができ、これを樹脂層Bとして用いる。
【0068】
樹脂層Bの一方の面に樹脂層Aを形成する方法としては、溶液または液体状の樹脂層Aの原料を樹脂層B上にコーターで塗工した後乾燥する方法や、樹脂層Aの原料を樹脂層B上に真空蒸着する方法が挙げられる。樹脂層Bの一方の面に樹脂層Aの原料を塗工して形成する場合には、樹脂層Bとなるフィルムの塗工面に事前にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、樹脂層Aを形成するための塗料組成物の塗工面への濡れ性が向上する。その結果、塗料組成物のはじきが抑えられ、均一な塗布厚みを達成することが容易となる。
【0069】
樹脂層Aを形成する際には、樹脂層Aを形成するための塗料組成物の成分を架橋するのが好ましい。架橋する方法は特に限定されるものではないが、樹脂層Aを形成するための塗料組成物として反応点を複数持つ組成物を用い、熱や紫外線により架橋反応する方法や、樹脂層Aを形成するための塗料組成物を塗工した後に、電子線によって架橋する方法等が挙げられる。反応点を複数持つ組成物としては、ビニル基を2つ以上持つアクリレートまたはウレタンアクリレート、エポキシ基を2つ以上持つエポキシ、メラミンとホルムアルデヒドの縮合物や、イソシアネート基を2つ以上持つ化合物とヒドロキシ基を3つ以上持つ化合物の混合物、イソシアネート基を2つ以上持つ化合物とアミノ基を3つ以上持つ化合物の混合物などが挙げられる。このうち、絶縁破壊時の樹脂層Aの分解を促進し、セルフヒーリング性を高める観点から、ビニル基を2つ以上持つアクリレートまたはウレタンアクリレートか、イソシアネート基を2つ以上持つ化合物とヒドロキシ基を3つ以上持つ化合物の混合物、イソシアネート基を2つ以上持つ化合物とアミノ基を3つ以上持つ化合物の混合物を用いるのが好ましい。
【0070】
架橋反応を促進するために、樹脂層Aを形成する際に酸や塩基などの触媒や、カチオン開始剤、アニオン開始剤、ラジカル開始剤などの添加剤を反応点の反応性に合わせて添加してもよい。例えば、ビニル基を2つ以上持つアクリレートを、樹脂層Aを形成するための塗料組成物として用いる場合には、紫外線によりラジカルを生成するラジカル開始剤を添加した塗液を作成し、樹脂層Bに該塗液を塗工した後紫外線を照射することで架橋反応を促進することができる。ラジカル開始剤としては、特に限定されるものではないが、紫外線によりラジカルを生成する、ヒドロキシアルキルフェノン型開始剤、アミノアセトフェノン型開始剤等を用いることができる。このように樹脂層Aに架橋構造を形成することで、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムの耐熱性を高めることが容易となる。
【0071】
一例として、樹脂層Aをバーコーターにより形成する方法を述べる。アクリレート100質量部と、α-ヒドロキシアルキルフェノン1質量部~5質量部と、2-ブタノン800質量部~1000質量部とを混合した塗液を調合する。調合した塗液を、前記した方法で形成した樹脂層Bのコロナ放電処理した面にバーコーターで硬化後の塗膜厚みが50nm~500nmになる厚みで塗工する。これを80℃~100℃の乾燥炉に導入し、乾燥時間が30秒~2分になるよう乾燥させる。続いて、UV照射装置に導入し、照度40mW/cm~70mW/cm、照射量0.1J/cm~0.3J/cm、酸素濃度100ppm~300ppmの条件で塗膜を硬化させて樹脂層Aを形成することができる。また、得られた樹脂層Aと樹脂層Bの積層体を巻き取ることで、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムを得ることができる。
【0072】
こうして得られた樹脂層Aと樹脂層Bからなるフィルムコンデンサ用フィルムに、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等によって、アルミニウムまたはアルミニウムと亜鉛の合金等の金属を積層し、本発明の金属積層体を得ることができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例を用いて本発明のフィルムコンデンサ用フィルムについて具体的に説明する。なお、特性値の測定方法、並びに効果の評価方法は次のとおりである。
【0074】
(1)フィルム厚み
フィルムの任意の10箇所の厚みを、23℃65%RHの雰囲気下で接触式のアンリツ(株)製電子マイクロメータ(K-312A型)を用いて測定した。その10箇所の厚みの算術平均値をフィルム厚みとした。
【0075】
(2)樹脂層Aの厚み、樹脂層Bの厚み
ミクロトーム法を用い、フィルムの幅方向-厚み方向に断面を有する幅5mmの超薄切片を作製し、該断面に白金コートをして観察試料とした。次に、日立製作所製電界放射走差電子顕微鏡(S-4800)を用いて、フィルム断面を加速電圧1.0kVで観察し、観察画像の任意の箇所から樹脂層Aの厚み、樹脂層Bの厚みを計測した。なお、2層のうち厚い方の層を樹脂層B、薄い方の層を樹脂層Aとし、観察倍率は10,000倍とした。さらに、同様の計測を合計20回行い、その平均値をそれぞれ樹脂層Aの厚み、樹脂層Bの厚みとした。
【0076】
(3)フィルムの融点
JIS K-7122(1987)に準じて、フィルム3.0mgを測りとり、示差走査熱量計(セイコーインスツル製 EXSTAR DSC6220)を用いて、昇温速度20℃/minで樹脂を25℃からTmax[℃]まで20℃/分の昇温速度で加熱して示差走査熱量測定チャートを得た。得られた示差走査熱量測定チャートから、JIS K-7121(1987)に記載の方法に基づいて融解ピーク温度を求めた。得られた融解ピーク温度のうち、最も高い融解ピーク温度をフィルムの融点とした。Tmax[℃]は初めに350℃に設定して測定を行い、融点が観測されなかった場合380℃に設定して再度測定を行った。Tmax=380℃で融点が観測されなかった場合、融点なしとした。
【0077】
(4)フィルムのガラス転移温度
JIS K-7122(1987)に準じて、フィルム3.0mgを測りとり、示差走査熱量計(セイコーインスツル製 EXSTAR DSC6220)を用いて、昇温速度20℃/minで樹脂を25℃からTmax[℃]まで20℃/分の昇温速度で加熱(1st Run)、その状態で5分間保持後、次いで25℃以下となるよう急冷し、再度25℃から20℃/minの昇温速度でTmax[℃]まで昇温(2nd Run)を行って得られた2nd RUNの示差走査熱量測定チャートにおける、JIS K-7121(1987)に記載の方法に基づいて求められた中間点ガラス転移温度のうち、最も高い中間ガラス転移温度をフィルムのガラス転移温度とした。Tmax[℃]は初めに350℃に設定して測定を行い、ガラス転移温度が観測されなかった場合380℃に設定して再度測定を行った。Tmax=380℃でガラス転移温度が観測されなかった場合、ガラス転移温度なしとした。
【0078】
(5)樹脂層Aに含有される水素原子H、炭素原子C、硫黄原子S、ケイ素原子Si、窒素原子Nおよび酸素原子Oの原子分率と、層Bの酸素原子O、ケイ素原子Siの含有量
フィルムの樹脂層A側の表面をラザフォード後方散乱/水素前方散乱分析同時測定法(National Electrostatics Corporation製 Pelletron 3SDH)により分析し、樹脂層Aの水素原子H、炭素原子C、硫黄原子S、ケイ素原子Si、窒素原子Nおよび酸素原子Oの原子収率Y(H)、Y(C)、Y(S)、Y(Si)、Y(N)およびY(O)を得た。得られた値から、次式に基づいて得られた値を樹脂層Aに含有される水素原子H、炭素原子C、硫黄原子S、ケイ素原子Si、窒素原子Nおよび酸素原子Oの原子分率とした。
【0079】
<計算式>
Y(All)=Y(C)+Y(S)+Y(Si)+Y(N)+Y(O)+Y(H)とした。
水素原子Hの原子分率=Y(H)/Y(All)
炭素原子Cの原子分率=Y(C)/Y(All)
硫黄原子Sの原子分率=Y(S)/Y(All)
ケイ素原子Siの原子分率=Y(Si)/Y(All)
窒素原子Nの原子分率=Y(N)/Y(All)
酸素原子Oの原子分率=Y(O)/Y(All)。
なお、測定の条件は以下の通り。
入射イオン: He++
入射エネルギー:2300keV
入射角:75deg
散乱角:160deg
反跳角:30deg
試料電流:4nA
ビーム径:2mmφ
面内回転:無
照射量:0.5μC×20点。
【0080】
(6)XA
(5)に記載の方法で得られた各値を用いて、下記式(i)によりXAを算出した。
式(i) XA=(炭素原子Cの原子分率+窒素原子Nの原子分率+硫黄原子Sの原子分率+ケイ素原子Siの原子分率)/(水素原子Hの原子分率+酸素原子Oの原子分率)。
【0081】
(7)熱分解GC-MS
フィルム50μgを測り取り、下記した構成、設定の熱分解GC-MS装置にて分析を行い、GCチャートを得た。得られたチャートの、保持時間5.0s(10スキャン目)、15.0s(30スキャン目)、25.0s(50スキャン目)の位置のシグナル強度の平均をベースラインの強度とした。GCチャートの各点の強度からベースライン強度の差をとったベースライン補正後のGCチャートを作成した。ベースライン補正後のGCチャートの保持時間2分~20分の領域を見て、5.0×10以上の強度を有するピークの中で、最も強度の高いピークの強度(最大ピーク強度)を記録した。なお、5.0×10以上の強度を有するピークが見られなかった場合、同様の測定を3回行い、得られた最大ピーク強度の平均値をフィルムの測定値とした。
【0082】
<Pyrolyzer>
装置名:PY-3030D (Frontier lab製)
Pyrolyzer Temp:400℃
<GC>
装置名:7890A (Agilent製)
Column:“Ultra ALLOY”(登録商標)5(MS/HT)30 m×0.25 mmid×0.25 μm 5%Diphenyl-95%dimethylpolysiloxane
Column Temp.:40℃(3 min)-320℃(18 min)(Rate 20℃/min)
Injection Temp.:300℃
Injection Mode:Split(50:1)1.5 mL/min const.F
<MS>
装置名:JMS-Q1050GC (JEOL)
Ionization Mode:EI+
Scan Range:m/z 10.000-800.000
Scan Rate:0.5 s/scan。
【0083】
(8)熱重量分析
フィルムの熱重量変化率を測定する場合には該フィルムを10mg測りとったものを、樹脂層Aの熱重量変化率を測定する場合には該樹脂層Aを有するフィルムから該樹脂層Aを10mg測りとったものをサンプルとして用いた。サンプルを23℃、50%RHの環境にて24時間保管した。続いて、保管後のサンプルを熱重量測定装置 TGA-50(株式会社島津製作所製)にて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで23℃から500℃まで加熱し、熱重量の変化を測定した。得られた熱重量の変化から、170℃での熱重量を100質量%として、各温度での熱重量変化率を求め、熱重量が99質量%となっている温度を1質量%減少温度とし、熱重量が90%となっている温度を10質量%減少温度とした。以上の測定を1セットとして、n=5セットの測定を行い、1質量%減少温度、10質量%減少温度のn=5セットでの平均値を該サンプルの1質量%減少温度、10質量%減少温度とした。
【0084】
(9)算術平均粗さSa
算術平均粗さSaは、ISO 25178-2 : 2012、25178-3:2012に準じて測定、算出した。ただし、測定は走査型白色干渉顕微鏡「VS1540」(株式会社日立ハイテクサイエンス製、測定条件と装置構成は後述する)を使用して行い、付属の解析ソフトにより撮影画面を補完処理(完全補完)し、多項式4次近似にて面補正した後、メジアンフィルタ(3×3ピクセル)で処理したものを測定した。また、S-filterのS-Filter Nesting Indexは0.455とした。測定は、5cm×5cmの正方形状に切ったフィルムの両面について行い、対角線の交差点を1点目の測定点(開始点)とし、開始点より4つある各角に向けて1cm離れた位置をそれぞれ2~5点目の測定点として合計5箇所の測定位置を決め、各測定位置で測定を行い、上記の手順に従って各測定位置のSaを求め、それぞれの平均値をフィルムのSaとして採用した。樹脂層Bの一方の面に樹脂層Aを有するフィルムについては樹脂層Bに対し樹脂層A側の最外層表面をα面、裏面をβ面とし、樹脂層Aを有さないフィルムについてはSaが低い方の面をα面、裏面をβ面とした。各面のSaが同一の場合、一方の面をα面、他方の面をβ面とした。
【0085】
<測定条件と装置構成>
対物レンズ:10x
鏡筒:1x
ズームレンズ:1x
波長フィルタ:530nm white
測定モード:Wave
測定ソフトウェア:VS-Measure 10.0.4.0
解析ソフトウェア:VS-Viewer10.0.3.0
測定領域:561.1μm×561.5μm
画素数:1,024×1,024。
【0086】
(10)セルフヒーリング(SH)不良率、セルフヒーリング性
フィルムのα面に25W・min/mの処理強度で大気中でコロナ放電処理を行った。次いでコロナ放電処理面にベルジャー式真空蒸着装置で気圧1.0×10-3Pa、フィラメント電圧2.6kVでアルミニウムを蒸着させ、50nmの蒸着膜を形成させて金属層積層フィルムを得た。得られた金属層積層フィルムを、長手方向を長辺とする12cm×7.5cmの長方形状に切り、試験片とした。次いで1m×2mの銅板の上に、10cm角の厚み1mmの“テフロン”(登録商標)シートを設置し、さらに試験片の短辺と“テフロン”(登録商標)シートの一辺が並行になり、かつ試験片の片側の短辺から端1cmの領域が“テフロン”(登録商標)シート上に乗るよう試験片を設置した。その後、試験片の“テフロン”(登録商標)シートに乗っている部分を2cm程度挟み込むようにして、5cm角の板状の導電性ゴム製電極を“テフロン”(登録商標)シートの上に乗せた。さらに、ゴム電極と試験片と“テフロン”(登録商標)シートが重なっている領域の上に重心が来るように3cmφの円柱の電極をゴム電極上に設置した。円柱の電極と銅板にそれぞれ電線を介してDC電源を接続し、初期電圧として100VDCの電圧を印加し、該電圧で15秒経過後にステップ状に100VDC/30秒で初期電圧+800VDCまで徐々に印加電圧を上昇させることを繰り返す所謂ステップアップ試験を行い、金属層積層フィルムに複数の絶縁破壊痕を発生させた。発生した絶縁破壊痕を目視観察し、2つ以上の絶縁破壊痕が重なっている絶縁破壊痕を1つのSH不良箇所、そうでない絶縁破壊痕を1つの正常箇所として、それぞれの数を求め、次式によりSH不良率を求めた。同様の測定を2回行い、平均値をフィルムのSH不良率として採用した。なお、絶縁破壊が発生しなかった場合、初期電圧を900VDCとして同様の測定を行った。900VDCにて絶縁破壊が発生しなかった場合、初期電圧を+800VDCして同様の測定を行うことを絶縁破壊が発生するまで繰り返し、初期電圧10,000VDCでも絶縁破壊が発生しなかった場合、SH不良率は0%とした。フィルムのSH不良率を基に、セルフヒーリング性について以下の評価基準で評価した。
【0087】
<計算式>
SH不良率(%)=100×(SH不良箇所の個数)/(正常箇所の個数+SH不良箇所の個数)
<評価基準>
S:SH不良率が10%以下であった。
A:SH不良率が10%より大きく、かつ20%以下であった。
B:SH不良率が20%より大きく、かつ35%以下であった。
C:SH不良率が35%より大きく、かつ50%以下であった。
D:SH不良率が50%より大きい。
【0088】
(11)加工性の評価
フィルムのα面に25W・min/mの処理強度で大気中でコロナ放電処理を行った。次いでコロナ放電処理面にベルジャー式真空蒸着装置で気圧1.0×10-3Pa、フィラメント電圧2.6kVで市販のアルミニウムを蒸着させ、50nmの蒸着膜を形成させ、金属層積層体を得た。得られた金属層積層体を、長手方向を長辺とする12cm×7.5cmの長方形状に切り、試験片とした。東洋精機(株)製スリップテスターを用いて、JIS K 7125(1999)に準じて、荷重200g、25℃、65%RHにて得られた金属層積層体の、金属蒸着面と、金属を蒸着していない面との間の動摩擦係数測定を3回行い、得られた値の平均値を金属積層体の動摩擦係数μMとした。なお、測定時にロードセルで検出された摩擦力が5.9Nを超えたときには、測定を中断し、その場合のμMの測定値を>3.0とした。得られたμMを基に、フィルムの加工性を以下の基準で判定した。
【0089】
A:μMが0.60以下である
B:μMが0.60より大きく、0.85以下である
C:μMが0.85より大きく、1.5以下である
D:μMが1.5より大きい。
【0090】
(12)誘電正接
JIS C2138-2007に準じて、誘電正接を測定した。まず、フィルムを50mm×50mmの正方形状に切り出し、導電性ペーストを一方の面にΦ18mm、他方の面にΦ28mmで塗布して電極を形成した。電極形成サンプルを22℃で90時間、60%RHの環境下で保存した後、precision LCR meter HP-4284A(アジレント・テクノロジー製)にて22℃、60%RH、周波数10kHzでn=5で誘電正接を測定し、得られた値の平均値を当該フィルムの誘電正接とした。
【0091】
(13)150℃でのフィルム絶縁破壊電圧の評価
150℃に保温されたオーブン内でフィルムを1分間加熱後、その雰囲気中でJIS C2330(2001)7.4.11.2 B法(平板電極法)に準じて測定した。絶縁破壊電圧試験(上記測定)を30回行い、得られた値をフィルムの厚み(上記(1)で測定)で除し、(V/μm)に換算して得られた計30点の測定値(算出値)のうち、最大値から大きい順に5点と最小値から小さい順に5点を除いた20点の平均値を求め、これを150℃でのフィルム絶縁破壊電圧とした。得られた150℃でのフィルム絶縁破壊電圧から、以下の通り150℃でのフィルム絶縁破壊電圧の評価を行った。
【0092】
S:150℃でのフィルム絶縁破壊電圧が270V/μm以上であった
A:150℃でのフィルム絶縁破壊電圧が240V/μm以上270V/μm未満であった
B:150℃でのフィルム絶縁破壊電圧が210V/μm以上240V/μm未満であった
C:150℃でのフィルム絶縁破壊電圧が100V/μm以上210V/μm未満であった
D:150℃でのフィルム絶縁破壊電圧が100V/μm未満もしくはフィルムの収縮が大きく評価不可であった。
【0093】
(14)フィルムコンデンサ特性の評価(150℃での信頼性)
フィルムのα面に25W・min/mの処理強度で大気中でコロナ放電処理を行った。次いでコロナ放電処理面に、膜抵抗10Ω/sqで長手方向に垂直な方向にマージン部を設けた、いわゆるT型マージン(マスキングオイルにより長手方向ピッチ(周期)が17mm、ヒューズ幅が0.5mm)を有する蒸着パターンでアルミニウム蒸着を施した(蒸着には(株)アルバック製真空蒸着機を使用)。その後、得られた蒸着体をスリットして、フィルム幅50mm(端部マージン幅2mm)の蒸着リールを得た。次いで、このリールを用いて(株)皆藤製作所製素子巻機(KAW-4NHB)にてフィルムコンデンサ素子を巻き取り、メタリコンを施した後、減圧下、130℃の温度で8時間の熱処理を施し、リード線を取り付けてフィルムコンデンサ素子に仕上げた。こうして得られたコンデンサ素子10個を用いて、150℃高温下でコンデンサ素子に250VDCの電圧を印加し、該電圧で10分間経過後にステップ状に50VDC/1分で徐々に印加電圧を上昇させることを繰り返す所謂ステップアップ試験を行った。静電容量が初期値に対して12%以下に減少するまで電圧を上昇させた後に、コンデンサ素子を解体し破壊の状態を調べて、フィルムコンデンサ特性を以下の評価基準で評価した。
【0094】
<評価基準>
S:フィルムコンデンサ素子形状の変化は無く貫通状の破壊は観察されなかった。
A:フィルムコンデンサ素子形状の変化は無くフィルム5層以内の貫通状破壊が観察された。
B:フィルムコンデンサ素子形状の変化は無くフィルム6層~7層を貫通する貫通状破壊が観察された。
C:フィルムコンデンサ素子形状に変化が認められた。若しくはフィルム8層~14層の貫通状破壊が観察された。
D:フィルムコンデンサ素子形状が大きく変化し破壊した、若しくはフィルムの加工性が悪く、フィルムコンデンサ素子を作製することができなかった。
【0095】
評価結果はS~Dの順にフィルムコンデンサ特性が優れていることを意味し、S~Cを合格、Dは実質コンデンサ用フィルムとしての使用が困難であるため不合格とした。
【0096】
〔原料、フィルム〕
アクリレート1:商品名“エポキシエステル3000A”、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、共栄社化学株式会社製
アクリレート2:商品名“ビスコート”(登録商標)#300、ペンタエリスリトールとアクリル酸の縮合物、ペンタエリスリトールテトラアクリレートを45質量%と、ペンタエリスリトールトリアクリレートを35質量%とを含有、大阪有機化学工業株式会社製
アクリレート3:商品名“TPGDA”、トリプロピレングリコールジアクリレート、ダイセル・オルネクス株式会社製
ウレタンアクリレート1:商品名“UV-3500BA”、ウレタンアクリレートの酢酸ブチル希釈品、三菱ケミカル株式会社製
ポリウレア化合物1:500mLのナス型フラスコに、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート5.90重量部、イソホロンジイソシアネート5.0重量部、ヒドロキシエチルアクリルアミド2.6重量部、触媒としてジオクチル錫ジラウレート0.012重量部、希釈用モノマーとしてアクリロイルモルホリン9.0重量部を仕込み、室温で1.5時間撹拌した。撹拌した反応溶液に、モノエタノールアミン0.71重量部を滴下し、室温でさらに3時間撹拌した。ついで撹拌した反応溶液に、イソプロパノール12重量部とジシクロヘキシルメタ ン-4,4’-ジアミン3.8重量部との混合溶液を加え、さらに室温で3時間撹拌し、ラジカル重合性置換基を有するポリウレア化合物1[不揮発分70%、重量平均 分子量(Mw)=1300]を得た。
【0097】
2-ブタノン:富士フイルム和光純薬株式会社製
“Omnirad”(登録商標)184:IGM Resins B.V.社製、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン。
【0098】
ポリフェニレンスルフィド系樹脂顆粒1(PPS顆粒1):
工程撹拌機付きの1リットルオートクレーブに、48質量%水硫化ナトリウム1.00モル、95質量%水酸化ナトリウム1.02モル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.54モル、酢酸ナトリウム0.47モル、及びイオン交換水140gを仕込み、250rpmで撹拌しつつ常圧で窒素を通じながら228℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、212gの水および4gのNMPを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。次に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)1.00モル、NMP1.32モルを加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。その後、250rpmで撹拌しながら、200℃~235℃まで0.7℃/分の速度で昇温して、235℃に到達後、235℃で反応を95分間継続した。その後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温して100分保持した。270℃に到達した後、1モルの水を15分かけて系内に注入した。270℃で100分保持した後、1.0℃/分の速度で200℃まで冷却し、その後室温の冷却水をオートクレーブにかけることで室温近傍まで冷却した。続いて、内容物を取り出し、0.4リットルのNMPで希釈して85℃で30分撹拌した後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別した。さらに、得られた固形物に、0.5リットルのNMPを加えて85℃で30分撹拌し、固形物を濾別した。その後、得られた固形物を0.9リットルの温水で3回洗浄して濾別した。こうして得られた粒子(固形物)に1リットルの温水を加えて2回洗浄、濾別してポリマー粒子を得た。これを、80℃で熱風乾燥した後、120℃で減圧乾燥し、融点が280℃、重量平均分子量70,000のポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂の顆粒(PPS顆粒1)を得た。
【0099】
フィルム用PPS原料1(PPS1):
PPS顆粒1を100質量部と、平均粒径が0.7μmの炭酸カルシウム粒子1(日東粉化工業社製“NITOREX”#30PS)を0.05質量部と、ステアリン酸カルシウムを0.2質量部とを混合して得られた混合粉末をペレット化し、PPSを主成分とする樹脂ペレットを調製した。得られた樹脂ペレットを320℃に加熱されたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数150回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した。その後、直ちにカッティングしてチップを作製し、フィルム用PPS原料1(PPS1)とした。
【0100】
フィルム用PPS原料2(PPS2):
炭酸カルシウム粒子1を添加しなかった以外はPPS1と同様にしてチップを作製し、フィルム用PPS原料2(PPS2)とした。
【0101】
フィルム用PPS原料3(PPS3):
炭酸カルシウム粒子1の代わりに、平均粒径が1.2μmの炭酸カルシウム粒子2(日東粉化工業社製“NITOREX”#30PS)を用いた以外は、PPS1と同様にしてチップを作製し、フィルム用PPS原料3(PPS3)とした。
【0102】
PPSフィルム1:
原料として、PPS1を180℃で3時間にわたって真空乾燥した。次いで、押出機に供給し、窒素雰囲気下、320℃の温度で溶融させ、Tダイ口金に導入した。次いで、Tダイ口金内より、シート状に押出して溶融単層シートとし、これを表面温度25℃に保たれた回転速度4.0m/minのキャストドラム上に吐出し、静電印加法で密着させて冷却固化することによりキャストし、未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して延伸温度103℃でフィルムの長手方向に3.2倍の倍率で延伸した。その後、得られた一軸延伸フィルムの幅方向両端部をクリップで担持してテンターに導き、延伸温度100℃で幅方向に3.3倍の倍率で延伸した。引き続いて280℃で熱処理を行った後、2%弛緩処理を行い、室温まで冷却した。次いでフィルム表面(キャストドラム接触面側)に25W・min/mの処理強度で大気中でコロナ放電処理を行い、その後、フィルムエッジを除去して厚み4.3μmの二軸延伸PPSフィルムを得た。
【0103】
PPSフィルム2:
原料として、PPS2を用いて、縦延伸機での延伸倍率を3.4倍とした以外はPPSフィルム1と同様にして二軸延伸PPSフィルムを得た。
【0104】
PPSフィルム3:
原料として、PPS3を用いて、縦延伸機での延伸倍率を3.0倍とした以外はPPSフィルム1と同様にして二軸延伸PPSフィルムを得た。
【0105】
PPSフィルム4:
直径500μmの球状シリカを0.5質量%含み、固有粘度が0.6のポリエチレンテレフタレート(PET)および300℃、せん断速度200s-1下の溶融粘度が4000ポイズのポリフェニレンスルフィドを別々のエクストルーダに供給し、溶融状態で口金上部にある積層装置でポリエチレンテレフタレート/ポリフェニレンスルフィドの2層積層になるよう導き、続いて設けられたTダイ型口金より吐出させ冷却回転ドラムで急冷し、ポリエチレンテレフタレート/ポリフェニレンスルフィドの2層積層シートを得た。次いで該2層積層シートを、表面温度90℃の複数の加熱ロール上を走行させ、加熱ロール群の次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向に3.7倍延伸した。得られた一軸延伸シートを、テンターを用いて幅方向に100℃で3.5倍延伸し、続いて260℃で10秒間熱処理し、トータル厚み4μm、ポリエチレンテレフタレート層厚み0.1μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0106】
PPフィルム1:
チーグラー・ナッタ触媒にて重合された、メソペンタッド分率が0.98、融点が167℃、メルトフローレイト(MFR)が2.6g/10分である直鎖状ポリプロピレン(PP)を単軸の溶融押出機に供給し、240℃で溶融押出を行った後、80μmカットの焼結フィルタで異物を除去して溶融ポリマーをTダイよりシート状に吐出させた。この溶融シート状物を、静電印加により95℃に保持されたキャスティングドラム上に密着させ、冷却固化して未延伸シートを得た。次いで、該未延伸シートを複数のロール群にて徐々に145℃まで予熱し、引き続き145℃の温度に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に5.0倍に延伸した。引き続き得られた一軸延伸フィルムをテンターに導き、165℃の温度で幅方向に8倍延伸し、次いで1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に8%の弛緩を与えながら130℃で熱処理を行い、さらに2段目の熱処理としてクリップで幅方向把持したまま140℃で熱処理を行った。その後100℃で冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、厚み3.0μmのフィルムを巻き取って二軸延伸PPフィルムを得た。
【0107】
PEIフィルム1:
ポリエーテルイミド〔SABICイノベーティブプラスチック社製 品名:ULTEM1010-1000-NB(以下、「1010-1000」と略す。)〕を用意し、この成形材料を150℃に加熱した除湿熱風乾燥機〔松井製作所社製 商品名:マルチジェット MJ3〕中に12時間放置して乾燥させ、この成形材料の含水率が300ppm以下であることを確認後、成形材料を幅900mmのTダイスを備えたφ40mmの単軸押出成形機にセットして溶融混練するとともに、この溶融混練した成形材料を単軸押出成形機のTダイスから連続的に押し出してポリエーテルイミドを帯形に押出成形したものを鏡面ロール上で冷却固化させ、巻き取ることにより厚み6.5μmのPEIフィルム1を得た。
【0108】
PESフィルム1:
ガラス転移点が225℃のポリエーテルサルホン樹脂〔住友化学製 スミカエクセル4800P〕100質量部を同方向回転二軸押出機の原料投入口に投入して溶融させ、同方向回転二軸押出機のダイス側のサイドフィーダに、炭酸カルシウム粒子1をポリエーテルサルホン樹脂100質量部に対して5.0質量部となるように供給して溶融混練分散させ、溶融混練物を同方向回転二軸押出機の先端部のダイスから棒状に押し出して水冷後にペレタイザーでカットすることにより、ペレット形の成形材料を調製した。この成形材料をポリエーテルイミドの代わりに用いた以外は、PEIフィルム1と同様にしてPESフィルム1を得た。
【0109】
(実施例1)
表1の塗液処方に従い、ウレタンアクリレート1、2-ブタノン、“Omnirad”(登録商標)184を100:900:0.3(質量比)で混合した塗液を100g作製した。表1に示すとおりPPSフィルム1を基材フィルム(樹脂層B)として、該PPSフィルムのコロナ処理を施した面上に、バーコーターを用いて硬化後の厚みが表1に示す樹脂層Aの厚み(50nm)となるように塗液を均一に塗工した後、90℃の乾燥炉で1分間乾燥させた。続いて、UV照射装置に導入し、照度50mW/cm、照射量0.1J/cm、酸素濃度100ppmの条件で塗膜を硬化させて樹脂層Aを形成した後、樹脂層Aと樹脂層Bの積層体を巻き取り、フィルムコンデンサ用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0110】
(実施例2~10)
塗液処方、基材フィルム、樹脂層Aの厚みを表1の通りにした以外は実施例1と同様にしてフィルコンデンサ用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0111】
(比較例1)
PPSフィルム1をフィルムコンデンサ用フィルムとして用いた。評価結果を表2に示す。
【0112】
(比較例2)
PPSフィルム4をフィルムコンデンサ用フィルムとして用いた。評価結果を表2に示す。
【0113】
(比較例3)
PPフィルム1をフィルムコンデンサ用フィルムとして、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0114】
(比較例4)
PEIフィルム1をフィルムコンデンサ用フィルムとして、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0115】
(比較例5)
塗液処方を実施例5と同様にし、樹脂層Aの厚みを550nmとし、基材フィルムをPEIフィルム1とした以外は実施例1と同様にしてフィルコンデンサ用フィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
なお、表1、2において、実施例1~10と比較例2、5は樹脂層A側の最外層表面をα面、比較例3、4はSaが低い側の表面をα面とし、比較例1は巻内面をα面とした。PPSフィルム4は相対的に厚みの大きいPPS層と相対的に厚みの小さいPET層の積層フィルムであるため、比較例2の基材フィルム(樹脂層B)はPPSフィルム4のPPS層部分となる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、包装用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気用途等の様々な用途に適用でき、特に高温時の耐電圧性と信頼性が必要な高電圧用コンデンサ用途に利用できる。