(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】改変された抗CD19 CAR-T細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 15/867 20060101AFI20230531BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230531BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230531BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230531BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230531BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230531BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20230531BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230531BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230531BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230531BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230531BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230531BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230531BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230531BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230531BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20230531BHJP
【FI】
C12N15/867 Z ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
C07K19/00
C07K16/28
C07K14/705
C12N5/10
C12N15/864 100Z
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
A61K35/76
A61K35/17
A61K48/00
C12N5/0783
(21)【出願番号】P 2021515259
(86)(22)【出願日】2018-10-24
(86)【国際出願番号】 CN2018111640
(87)【国際公開番号】W WO2019223226
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】201810509014.4
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520459850
【氏名又は名称】ベイジン マリノ バイオテクノロジー プロプライアタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】ヨンチャオ・イェン
(72)【発明者】
【氏名】イーリン・ヂュ
(72)【発明者】
【氏名】スーイー・チェン
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107034193(CN,A)
【文献】国際公開第2017/120997(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/090470(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107880128(CN,A)
【文献】国際公開第2017/028374(WO,A1)
【文献】Ying, Zhitao, et al.,Application progress of chimeric antigen receptor T cell in treatment of B cell lymphoma and existing problems,JOURNAL OF INTERNAL MEDICINE CONCEPTS & PRACTICE,2017年12月05日,Vol. 12, No. 5,pp. 318-323
【文献】Alabanza, Leah, et al.,Function of novel anti-CD19 chimeric antigen receptors with human variable regions is affected by hinge and transmembrane domains,MOLECULAR THERAPY,2017年11月01日,Vol. 25, No. 11,pp. 2452-2465,https://doi.org/10.1016/j.ymthe.2017.07.013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-16/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を有することを特徴とするレンチウイルス:
キメラ抗原受容体をコードする第1の核酸分子であって、前記キメラ抗原受容体が、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む;及び
非機能性上皮増殖因子受容体(EGFR)をコードする第2の核酸分子を含み、前記非機能性上皮増殖因子受容体(EGFR)が配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む。
【請求項2】
前記第1の核酸分子が、配列番号9で示されるヌクレオチド配列を含み、
前記第2の核酸分子が、配列番号11で示されるヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載のレンチウイルス。
【請求項3】
配列番号12で示されるヌクレオチド配列を含む、請求項1から2のいずれかに記載のレンチウイルス。
【請求項4】
非機能性
上皮増殖因子受容体(EGFR
)及びキメラ抗原受容体を発現するトランスジェニックリンパ球であって、
前記キメラ抗原受容体が、配列番号8で示されるアミノ酸を含み、
前記非機能性上皮増殖因子受容体(EGFR)が配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とするトランスジェニックリンパ球。
【請求項5】
前記キメラ抗原受容体が、ヒト抗原CD19に特異的に結合する一本鎖抗体領域とヒンジ領域とを含む細胞外セグメントを含み、
前記一本鎖抗体領域が、一本鎖抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、
前記ヒンジ領域は、55個のアミノ酸残基のヒトCD8アルファ(CD8α)の細胞外ドメインと、前記ヒトCD8αの前記細胞外ドメインのN末端に位置する3個のアラニン残基(AAA)とを含み、
膜貫通セグメントは、前記細胞外セグメントの前記ヒンジ領域に結合され、Tリンパ球の細胞膜に埋め込まれた前記ヒトCD8αの膜貫通ドメインを含み、
細胞内セグメントは、前記ヒトCD8αの細胞内ドメイン、4-1BB分子の細胞内ドメイン、及びCD3ζ鎖の細胞内ドメインを含み、前記ヒトCD8αの前記細胞内ドメインは、7個のアミノ酸残基を含み、前記ヒトCD8αの前記膜貫通ドメインに結合されている、請求項4に記載のトランスジェニックリンパ球。
【請求項6】
前記ヒトCD8
αの前記細胞外ドメインは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、
前記ヒトCD8αの前記膜貫通ドメインは、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含み、
前記ヒトCD8αの前記細胞内ドメインは、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含み、
前記細胞外セグメントは、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含み、
前記膜貫通セグメントは、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含み、
前記細胞内セグメントは、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含み、
前記ヒンジ領域は、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む、請求項5に記載のトランスジェニックリンパ球。
【請求項7】
前記キメラ抗原受容体の細胞内セグメントが、OX-40、CD40L、CD27、CD30、
及びCD2
8から選択される免疫共刺激分子の少なくとも1つの細胞内ドメインを更に含む、請求項4又は5に記載のトランスジェニックリンパ球。
【請求項8】
前記トランスジェニックリンパ球が、CD8
+Tリンパ球である、請求項4から7のいずれかに記載のトランスジェニックリンパ球。
【請求項9】
前記トランスジェニックリンパ球が、細胞毒性T細胞である、又は
前記トランスジェニックリンパ球が、ナチュラルキラー(NK)細胞である、又は
前記トランスジェニックリンパ球が、ナチュラルキラーT(NKT)細胞である、請求項4から7のいずれかに記載のトランスジェニックリンパ球。
【請求項10】
第1の核酸配列と、第2の核酸配列とを含む構築物であって、
前記第1の核酸配列が、キメラ抗原受容体をコードし、前記キメラ抗原受容体が、配列番号8で示されるアミノ酸を含み、
前記第2の核酸配列が、非機能性
上皮増殖因子受容体(EGFR
)をコードし、前記非機能性上皮増殖因子受容体(EGFR)が配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする構築物。
【請求項11】
前記第1の核酸配列及び前記第2の核酸配列が、請求項4から9のいずれかに記載のトランスジェニックリンパ球に、前記キメラ抗原受容体と前記非機能性
上皮増殖因子受容体(EGFR
)とを発現するように設けられ、前記キメラ抗原受容体と前記非機能性
上皮増殖因子受容体(EGFR
)が、非融合型である、請求項10に記載の構築物。
【請求項12】
前記第1の核酸配列に機能可能に結合された第1のプロモーターと、
前記第2の核酸配列に機能可能に結合された第2のプロモーターと、を更に含む、請求項10又は11に記載の構築物。
【請求項13】
前記第1のプロモーター及び前記第2のプロモーターが、独立して、CMV、EF-1、LTR、及びRSVの各プロモーターから選択される、請求項12に記載の構築物。
【請求項14】
前記第1の核酸配列と前記第2の核酸配列との間に設けられる内部リボソーム侵入部位を更に含み、
前記内部リボソーム侵入部位が、配列番号13で示されるヌクレオチド配列を含む、請求項10から13のいずれかに記載の構築物。
【請求項15】
第3の核酸配列を更に含み、前記第3の核酸配列が、前記第1の核酸配列と前記第2の核酸配列との間に設けられる、リンカーペプチドをコードし、前記リンカーペプチドが、リンパ球内で切断され得る、請求項10から14のいずれかに記載の構築物。
【請求項16】
前記リンカーペプチドが、配列番号14~17
のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、請求項15に記載の構築物。
【請求項17】
前記構築物のベクターが、非病原性ウイルスベクターである、請求項10から16のいずれかに記載の構築物。
【請求項18】
前記
非病原性ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、及びアデノ関連ウイルスベクターから選択される少なくとも1つである、請求項17に記載の構築物。
【請求項19】
請求項4から9のいずれかに記載のトランスジェニックリンパ球を調製するための方法であって、
請求項1から3のいずれかに記載のレンチウイルスを、Tリンパ球に導入すること、又は
請求項10から18のいずれかに記載の構築物を、Tリンパ球に導入することを含
み、
前記方法が、ヒトを除く対象に適用されることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1から3のいずれかに記載のレンチウイルス、請求項4から9のいずれかに記載のトランスジェニックリンパ球、又は請求項10から18のいずれかに記載の構築物と、
薬学的に許容可能な担体と、
を含むことを特徴とする癌を治療するための治療用組成物。
【請求項21】
前記癌の腫瘍細胞が、CD19を高発現する、請求項
20に記載の治療用組成物。
【請求項22】
リンパ球療法の安全性を改善するための方法であって、
リンパ球に、配列番号8で示されるアミノ酸を含むキメラ抗原受容体と、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む非機能性
上皮増殖因子受容体(EGFR
)とを発現させることを含
み、
前記方法が、ヒトを除く対象に適用されることを特徴とする方法。
【請求項23】
癌を治療するための方法であって、
請求項1から3のいずれかに記載のレンチウイルス、請求項4から9のいずれかに記載のトランスジェニックリンパ球、請求項10から18のいずれかに記載の構築物、又は請求項20から21のいずれかに記載の治療用組成物を、それを必要とする患者(ただし、ヒトを除く)に投与することを含み、
前記癌の腫瘍細胞が、CD19を高発現することを特徴とする癌を治療するための方法。
【請求項24】
癌の治療のための医薬の製造における、請求項1から3のいずれかに記載のレンチウイルス
、請求項4から9のいずれかに記載のトランスジェニックリンパ球、又は請求項10から18のいずれかに記載の構築物の使用であって、前記癌の腫瘍細胞が、CD19を高発現することを特徴とする使用。
【請求項25】
前記癌が、白血病又はリンパ腫を含む、請求項24に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連技術の相互参照
本願は、その全体を参照により本明細書に援用する、2018年5月24日出願の中国特許出願第201810509014.4号に対する優先権及びその利益を主張する。
【0002】
本開示は、生物医薬の分野、特に、抗CD19キメラ抗原受容体、Tリンパ球、レンチウイルス、トランスジェニックリンパ球、構築物、癌を治療するための治療用組成物、及びリンパ球療法の安全性を改善するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法は、悪性腫瘍、特に血液腫瘍を効果的に治療できる免疫療法である。キメラ抗原受容体(CAR)は、一本鎖抗体と細胞内T細胞シグナル伝達領域とを含む融合タンパク質であり、一本鎖抗体と細胞内T細胞シグナル伝達領域とは、キメラ抗原受容体のヒンジ領域及び膜貫通セグメントによって結合されており、CARのヒンジ領域と膜貫通セグメントは、T細胞によるキメラ抗原受容体の発現に必須であり得る。最近の臨床試験では、抗CD19 CAR-T細胞が、進行したB細胞悪性腫瘍の患者の症状を著しく緩和させることが示されている。急性白血病とリンパ腫に対する強力な治療効果が多くの臨床試験で示されているにもかかわらず、抗CD19 CAR-T細胞は、治療には重度のサイトカイン放出症候群(CRS)や脳における神経毒性などの患者の生命に危険を及ぼし得る深刻な副作用を伴う。
【0004】
食品医薬品局(FDA)は、再発性又は難治性の白血病又はリンパ腫の治療のために、2つの自家抗CD19 CAR-T細胞療法製品であるCTL019(Kymriah)及びKTE-C19(Yescarta)を承認した。2017年8月、NOVARTISによる抗CD19 CAR-T細胞療法(Kymriah)(CTL019としても知られる)が急性リンパ芽球性白血病(ALL)の治療に承認された。これは、過去において初めて承認されたCAR-T療法である。2017年12月の米国血液学会(ASH)の年次総会の要約において、NOVARTISによって発表された、グローバルピボタルフェーズ2臨床試験(Juliet試験)におけるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療に対するCTL019のデータによれば、研究者らは、CTL019の単回用量を99名の患者に投与することによって、再発又は難治性DLBCL患者に対するCTL019の治療効果を評価した。結果は、最も良い全奏効率(ORR)が53.1%、完全奏効率(CR)が39.5%であり、患者の86%にグレード3又は4の副作用があり、患者の58%がサイトカイン放出症候群に罹患していた。
【0005】
研究者らは、抗CD19 CAR-T細胞療法は優れた効果を有するが、重度のサイトカイン放出症候群及び神経毒性などの重度の毒性反応を引き起こすことが多いこと、そして、重度のサイトカイン放出症候群及び神経毒性の主な原因が、患者におけるCD19 CAR-T細胞の急速な増殖と、過剰な炎症性サイトカインの分泌であることを見出した。したがって、抗CD19 CAR-T細胞療法の安全性を改善し、副作用を低減することが、将来の白血病及びリンパ腫の治療における抗CD19 CAR-T細胞の普及及び日常的使用の鍵である。
【0006】
本願は、以下の事項と事実の解決における本開示者らの知見に基づいている。
NOVARTISのCTL019(Kymriah)は、抗CD19-BBz CAR融合タンパク質であり、細胞外抗CD19 FMC63一本鎖抗体領域(scFv)と、細胞内共刺激因子4-1BB領域と、T受容体CD3zシグナル伝達ドメインとを含み、細胞外抗CD19 FMC63一本鎖抗体領域(scFv)と、細胞内共刺激因子4-1BB領域と、T受容体CD3zシグナル伝達ドメインとは、CD8αのヒンジ領域及び膜貫通ドメインと結合されている(非特許文献1及び2)。しかし、CTL019(Kymriah)には、重度のサイトカイン放出症候群と神経毒性関連する深刻な副作用があり、これらは患者におけるCD19 CAR-T細胞の急速な増殖と、それによる炎症性サイトカインの過剰放出によって引き起こされる。
【0007】
本開示者らは、ヒンジ領域、膜貫通セグメント、及び細胞内セグメントのアミノ酸配列が、CAR分子の空間構造に影響を及ぼし、二量体及び多量体の形成に影響し、更に、下流のシグナル伝達分子との結合に影響を及ぼし、それによってリンパ球の活性化及びサイトカイン産生に影響を与えることを見出した。
【0008】
前記した知見に基づき、本開示者らは、先行技術のCD19-BBz CAR融合タンパク質のヒンジ領域、膜貫通セグメント、及び細胞内セグメントを改変することで、下流のシグナル伝達分子との結合に影響を及ぼす改善された空間構造及び二量体を有する改変CD19-BBz CAR融合タンパク質を得た。本開示者らは、驚くべきことに、改変されたCD19-BBz CAR融合タンパク質を含むリンパ球が、低減された細胞増殖を示し、生成するサイトカイン量が低下し、強力だがより安全な腫瘍殺滅能力力を有することを見出した。本願は、先行技術の技術的問題点の少なくとも1つを、ある程度解決することを目的とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Imai,C. et al. Leukemia. 2004; 18:676-684
【文献】Milone MC,et al. Mol Ther. 2009; 17:1453-64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
第1の態様において、本開示は、実施形態において、キメラ抗原受容体を提供する。
【0011】
本開示の実施形態においては、キメラ抗原受容体は、細胞外セグメントと、膜貫通セグメントと、細胞内セグメントとを含み、
前記細胞外セグメントは、ヒト抗原CD19に特異的に結合する一本鎖抗体領域とヒンジ領域とを含み、前記一本鎖抗体領域は、一本鎖抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、前記ヒンジ領域は、55個のアミノ酸残基のヒトCD8アルファ(CD8α)の細胞外ドメインと、前記ヒトCD8αの前記細胞外ドメインのN末端に位置する3個のアラニン残基(AAA)とを含み、
前記膜貫通セグメントは、前記細胞外セグメントの前記ヒンジ領域に結合され、Tリンパ球の細胞膜に埋め込まれたヒトCD8αの膜貫通ドメインを含み、
前記細胞内セグメントは、ヒトCD8αの細胞内ドメイン、4-1BB分子の細胞内ドメイン、及びCD3ζ鎖の細胞内ドメインを含み、前記ヒトCD8αの細胞内ドメインは、7個のアミノ酸残基を含み、前記ヒトCD8αの膜貫通ドメインに結合されている。
【0012】
先行技術と比較して、本開示の実施形態に係る改変キメラ抗原受容体は、改善された空間構造を有するので、改変キメラ抗原受容体を発現するTリンパ球は、強力な腫瘍殺滅能力を有する一方で、細胞増殖が低減され、サイトカイン産生が低下し、重度なサイトカイン放出症候群及び神経毒性に関連する副作用を低減する。
【0013】
本開示の実施形態においては、前記したTリンパ球は、以下の更なる技術的特徴のうちの少なくとも1つを更に有し得る。
【0014】
本開示の実施形態においては、ヒトCD8の細胞外ドメインは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む。
FVPVFLPAKPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(配列番号1)
【0015】
本開示の実施形態においては、ヒトCD8αの膜貫通ドメインは、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む。
IYIWAPLAGTCGVLLLSLVIT(配列番号2)
【0016】
本開示の実施形態においては、ヒトCD8αの細胞内ドメインは、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む。
LYCNHRN(配列番号3)
【0017】
本開示の実施形態においては、細胞外セグメントは、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む。
MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIPDIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDISKYLNWYQQKPDGTVKLLIYHTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDIATYFCQQGNTLPYTFGGGTKLEITGSTSGSGKPGSGEGSTKGEVKLQESGPGLVAPSQSLSVTCTVSGVSLPDYGVSWIRQPPRKGLEWLGVIWGSETTYYNSALKSRLTIIKDNSKSQVFLKMNSLQTDDTAIYYCAKHYYYGGSYAMDYWGQGTSVTVSSAAAFVPVFLPAKPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(配列番号4)
【0018】
本開示の実施形態においては、膜貫通セグメントは、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む。
IYIWAPLAGTCGVLLLSLVIT(配列番号5)
【0019】
本開示の実施形態においては、細胞内セグメントは、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む。
LYCNHRNKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号6)
【0020】
本開示の実施形態においては、ヒンジ領域は、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む。
AAAFVPVFLPAKPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(配列番号7)
【0021】
上に示すアミノ酸配列の細胞外セグメント、膜貫通セグメント、及び細胞内セグメントを含む改変キメラ抗原受容体によれば、改変キメラ抗原受容体を発現するTリンパ球は、細胞増殖が低減され、サイトカイン産生が低下するがより安全であり、より安全な腫瘍殺滅能力が得られる。
【0022】
第2の態様において、本開示は、実施形態において、Tリンパ球を提供する。本開示の実施形態によれば、Tリンパ球は、非機能性上皮増殖因子受容体(EGFR)と前記した抗CD19キメラ抗原受容体を発現する。非機能性EGFRは、N末端リガンド結合領域と細胞内受容体チロシンキナーゼの活性を欠いているが、野生型EGFRの膜貫通領域と、抗EGFR抗体に結合する完全な配列とを含んでおり、非機能性EGFRはリンパ球の自殺マーク(suicide mark)として使用できる。したがって、本開示の実施形態のTリンパ球は、CD19を高発現する腫瘍細胞を標的とする殺滅能力を有し、細胞増殖は緩やかであり、サイトカイン産生は低いがより安全であるので、安全な腫瘍殺滅性を発揮する。前記した本開示の実施形態に係るTリンパ球は、改変抗CD19 CAR-T細胞と称することができ、従来技術と比較してより安全な抗腫瘍活性を有する。
【0023】
第3の態様において、本開示は、実施形態において、レンチウイルスを提供する。本開示の実施形態によれば、レンチウイルスは、キメラ抗原受容体をコードする第1の核酸分子と非機能性EGFRをコードする第2の核酸分子とを含み、前記キメラ抗原受容体は、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含み、前記第1の核酸分子は、配列番号9で示されるヌクレオチド配列を含み、前記非機能性EGFRは、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含み、前記第2の核酸分子は、配列番号11で示されるヌクレオチド配列を含む。
MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIPDIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDISKYLNWYQQKPDGTVKLLIYHTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDIATYFCQQGNTLPYTFGGGTKLEITGSTSGSGKPGSGEGSTKGEVKLQESGPGLVAPSQSLSVTCTVSGVSLPDYGVSWIRQPPRKGLEWLGVIWGSETTYYNSALKSRLTIIKDNSKSQVFLKMNSLQTDDTAIYYCAKHYYYGGSYAMDYWGQGTSVTVSSAAAFVPVFLPAKPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号8)。
ATGCTTCTCCTGGTGACAAGCCTTCTGCTCTGTGAGTTACCACACCCAGCATTCCTCCTGATCCCAGACATCCAGATGACACAGACTACATCCTCCCTGTCTGCCTCTCTGGGAGACAGAGTCACCATCAGTTGCAGGGCAAGTCAGGACATTAGTAAATATTTAAATTGGTATCAGCAGAAACCAGATGGAACTGTTAAACTCCTGATCTACCATACATCAAGATTACACTCAGGAGTCCCATCAAGGTTCAGTGGCAGTGGGTCTGGAACAGATTATTCTCTCACCATTAGCAACCTGGAGCAAGAAGATATTGCCACTTACTTTTGCCAACAGGGTAATACGCTTCCGTACACGTTCGGAGGGGGGACTAAGTTGGAAATAACAGGCTCCACCTCTGGATCCGGCAAGCCCGGATCTGGCGAGGGATCCACCAAGGGCGAGGTGAAACTGCAGGAGTCAGGACCTGGCCTGGTGGCGCCCTCACAGAGCCTGTCCGTCACATGCACTGTCTCAGGGGTCTCATTACCCGACTATGGTGTAAGCTGGATTCGCCAGCCTCCACGAAAGGGTCTGGAGTGGCTGGGAGTAATATGGGGTAGTGAAACCACATACTATAATTCAGCTCTCAAATCCAGACTGACCATCATCAAGGACAACTCCAAGAGCCAAGTTTTCTTAAAAATGAACAGTCTGCAAACTGATGACACAGCCATTTACTACTGTGCCAAACATTATTACTACGGTGGTAGCTATGCTATGGACTACTGGGGTCAAGGAACCTCAGTCACCGTCTCCTCAGCGGCCGCATTCGTGCCGGTCTTCCTGCCAGCGAAGCCCACCACGACGCCAGCGCCGCGACCACCAACACCGGCGCCCACCATCGCGTCGCAGCCCCTGTCCCTGCGCCCAGAGGCGTGCCGGCCAGCGGCGGGGGGCGCAGTGCACACGAGGGGGCTGGACTTCGCCTGTGATATCTACATCTGGGCGCCCTTGGCCGGGACTTGTGGGGTCCTTCTCCTGTCACTGGTTATCACCCTTTACTGCAACCACAGGAACAAACGGGGCAGAAAGAAACTCCTGTATATATTCAAACAACCATTTATGAGACCAGTACAAACTACTCAAGAGGAAGATGGCTGTAGCTGCCGATTTCCAGAAGAAGAAGAAGGAGGATGTGAACTGAGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCGCAGACGCCCCCGCGTACCAGCAGGGCCAGAACCAGCTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGCTAA(配列番号9)
MALPVTALLLPLALLLHAARPGSRKVCNGIGIGEFKDSLSINATNIKHFKNCTSISGDLHILPVAFRGDSFTHTPPLDPQELDILKTVKEITGFLLIQAWPENRTDLHAFENLEIIRGRTKQHGQFSLAVVSLNITSLGLRSLKEISDGDVIISGNKNLCYANTINWKKLFGTSGQKTKIISNRGENSCKATGQVCHALCSPEGCWGPEPRDCVSCRNVSRGRECVDKCNLLEGEPREFVENSECIQCHPECLPQAMNITCTGRGPDNCIQCAHYIDGPHCVKTCPAGVMGENNTLVWKYADAGHVCHLCHPNCTYGCTGPGLEGCPTNGPKIPSIATGMVGALLLLLVVALGIGLFMRR(配列番号10)
ATGGCTCTGCCCGTCACCGCTCTGCTGCTGCCTCTGGCTCTGCTGCTGCACGCCGCACGCCCTGGGAGTCGCAAAGTCTGTAATGGGATCGGCATCGGCGAGTTCAAGGACAGCCTGTCCATCAACGCCACCAATATCAAGCACTTTAAGAATTGCACATCTATCAGCGGCGACCTGCACATCCTGCCAGTGGCCTTCCGGGGCGATTCTTTTACCCACACACCCCCTCTGGACCCTCAGGAGCTGGATATCCTGAAGACCGTGAAGGAGATCACAGGCTTCCTGCTGATCCAGGCCTGGCCTGAGAACAGAACCGATCTGCACGCCTTTGAGAATCTGGAGATCATCCGGGGCAGAACAAAGCAGCACGGCCAGTTCTCCCTGGCCGTGGTGTCTCTGAACATCACCAGCCTGGGCCTGAGGTCCCTGAAGGAGATCTCTGACGGCGATGTGATCATCTCCGGCAACAAGAACCTGTGCTACGCCAACACAATCAATTGGAAGAAGCTGTTTGGCACCTCTGGCCAGAAGACAAAGATCATCTCTAACCGGGGCGAGAATAGCTGCAAGGCAACCGGACAGGTGTGCCACGCACTGTGCAGCCCAGAGGGATGTTGGGGCCCAGAGCCACGGGACTGCGTGAGCTGTAGAAACGTGTCCAGGGGCCGCGAGTGCGTGGATAAGTGTAATCTGCTGGAGGGCGAGCCAAGGGAGTTCGTGGAGAACTCCGAGTGCATCCAGTGTCACCCCGAGTGCCTGCCTCAGGCCATGAACATCACCTGTACAGGCCGCGGCCCCGACAATTGCATCCAGTGTGCCCACTATATCGATGGCCCTCACTGCGTGAAGACCTGTCCAGCCGGCGTGATGGGCGAGAACAATACACTGGTGTGGAAGTACGCAGACGCAGGACACGTGTGCCACCTGTGCCACCCCAATTGCACCTATGGCTGTACAGGACCAGGCCTGGAGGGATGCCCAACCAACGGCCCTAAGATCCCAAGCATCGCCACAGGCATGGTGGGGGCACTGCTGCTGCTGCTGGTGGTGGCTCTGGGGATTGGGCTGTTTATGAGAAGGTAA(配列番号11)
【0024】
本開示の実施形態においては、トランスジェニックリンパ球は、前記レンチウイルスをリンパ球に導入することによって得られ、これは、腫瘍細胞、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に対する標的殺滅能力を有し、緩やかな細胞増殖と低いがより安全なサイトカイン産生を伴うので、ゆっくりとした長期に亘る腫瘍殺滅性を示す。得られた改変抗CD19 CAR細胞は、より安全な抗腫瘍活性を有する。
【0025】
第4の態様において、本開示は、実施形態において、レンチウイルスを提供する。本開示の実施形態によれば、レンチウイルスは、配列番号12で示されるヌクレオチド配列を含む。
ATGCTTCTCCTGGTGACAAGCCTTCTGCTCTGTGAGTTACCACACCCAGCATTCCTCCTGATCCCAGACATCCAGATGACACAGACTACATCCTCCCTGTCTGCCTCTCTGGGAGACAGAGTCACCATCAGTTGCAGGGCAAGTCAGGACATTAGTAAATATTTAAATTGGTATCAGCAGAAACCAGATGGAACTGTTAAACTCCTGATCTACCATACATCAAGATTACACTCAGGAGTCCCATCAAGGTTCAGTGGCAGTGGGTCTGGAACAGATTATTCTCTCACCATTAGCAACCTGGAGCAAGAAGATATTGCCACTTACTTTTGCCAACAGGGTAATACGCTTCCGTACACGTTCGGAGGGGGGACTAAGTTGGAAATAACAGGCTCCACCTCTGGATCCGGCAAGCCCGGATCTGGCGAGGGATCCACCAAGGGCGAGGTGAAACTGCAGGAGTCAGGACCTGGCCTGGTGGCGCCCTCACAGAGCCTGTCCGTCACATGCACTGTCTCAGGGGTCTCATTACCCGACTATGGTGTAAGCTGGATTCGCCAGCCTCCACGAAAGGGTCTGGAGTGGCTGGGAGTAATATGGGGTAGTGAAACCACATACTATAATTCAGCTCTCAAATCCAGACTGACCATCATCAAGGACAACTCCAAGAGCCAAGTTTTCTTAAAAATGAACAGTCTGCAAACTGATGACACAGCCATTTACTACTGTGCCAAACATTATTACTACGGTGGTAGCTATGCTATGGACTACTGGGGTCAAGGAACCTCAGTCACCGTCTCCTCAGCGGCCGCATTCGTGCCGGTCTTCCTGCCAGCGAAGCCCACCACGACGCCAGCGCCGCGACCACCAACACCGGCGCCCACCATCGCGTCGCAGCCCCTGTCCCTGCGCCCAGAGGCGTGCCGGCCAGCGGCGGGGGGCGCAGTGCACACGAGGGGGCTGGACTTCGCCTGTGATATCTACATCTGGGCGCCCTTGGCCGGGACTTGTGGGGTCCTTCTCCTGTCACTGGTTATCACCCTTTACTGCAACCACAGGAACAAACGGGGCAGAAAGAAACTCCTGTATATATTCAAACAACCATTTATGAGACCAGTACAAACTACTCAAGAGGAAGATGGCTGTAGCTGCCGATTTCCAGAAGAAGAAGAAGGAGGATGTGAACTGAGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCGCAGACGCCCCCGCGTACCAGCAGGGCCAGAACCAGCTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGCTAATCCTACTGCGTCGACTTCGAATTTAAATCGGATCCGCGGCCGCGCCCCTCTCCCTCCCCCCCCCCTAACGTTACTGGCCGAAGCCGCTTGGAATAAGGCCGGTGTGCGTTTGTCTATATGTTATTTTCCACCATATTGCCGTCTTTTGGCAATGTGAGGGCCCGGAAACCTGGCCCTGTCTTCTTGACGAGCATTCCTAGGGGTCTTTCCCCTCTCGCCAAAGGAATGCAAGGTCTGTTGAATGTCGTGAAGGAAGCAGTTCCTCTGGAAGCTTCTTGAAGACAAACAACGTCTGTAGCGACCCTTTGCAGGCAGCGGAACCCCCCACCTGGCGACAGGTGCCTCTGCGGCCAAAAGCCACGTGTATAAGATACACCTGCAAAGGCGGCACAACCCCAGTGCCACGTTGTGAGTTGGATAGTTGTGGAAAGAGTCAAATGGCTCTCCTCAAGCGTATTCAACAAGGGGCTGAAGGATGCCCAGAAGGTACCCCATTGTATGGGATCTGATCTGGGGCCTCGGTGCACATGCTTTACATGTGTTTAGTCGAGGTTAAAAAAACGTCTAGGCCCCCCGAACCACGGGGACGTGGTTTTCCTTTGAAAAACACGATGATAATATGGCCACAACCATGGCGTCCGGATCTAGAATGGCTCTGCCCGTCACCGCTCTGCTGCTGCCTCTGGCTCTGCTGCTGCACGCCGCACGCCCTGGGAGTCGCAAAGTCTGTAATGGGATCGGCATCGGCGAGTTCAAGGACAGCCTGTCCATCAACGCCACCAATATCAAGCACTTTAAGAATTGCACATCTATCAGCGGCGACCTGCACATCCTGCCAGTGGCCTTCCGGGGCGATTCTTTTACCCACACACCCCCTCTGGACCCTCAGGAGCTGGATATCCTGAAGACCGTGAAGGAGATCACAGGCTTCCTGCTGATCCAGGCCTGGCCTGAGAACAGAACCGATCTGCACGCCTTTGAGAATCTGGAGATCATCCGGGGCAGAACAAAGCAGCACGGCCAGTTCTCCCTGGCCGTGGTGTCTCTGAACATCACCAGCCTGGGCCTGAGGTCCCTGAAGGAGATCTCTGACGGCGATGTGATCATCTCCGGCAACAAGAACCTGTGCTACGCCAACACAATCAATTGGAAGAAGCTGTTTGGCACCTCTGGCCAGAAGACAAAGATCATCTCTAACCGGGGCGAGAATAGCTGCAAGGCAACCGGACAGGTGTGCCACGCACTGTGCAGCCCAGAGGGATGTTGGGGCCCAGAGCCACGGGACTGCGTGAGCTGTAGAAACGTGTCCAGGGGCCGCGAGTGCGTGGATAAGTGTAATCTGCTGGAGGGCGAGCCAAGGGAGTTCGTGGAGAACTCCGAGTGCATCCAGTGTCACCCCGAGTGCCTGCCTCAGGCCATGAACATCACCTGTACAGGCCGCGGCCCCGACAATTGCATCCAGTGTGCCCACTATATCGATGGCCCTCACTGCGTGAAGACCTGTCCAGCCGGCGTGATGGGCGAGAACAATACACTGGTGTGGAAGTACGCAGACGCAGGACACGTGTGCCACCTGTGCCACCCCAATTGCACCTATGGCTGTACAGGACCAGGCCTGGAGGGATGCCCAACCAACGGCCCTAAGATCCCAAGCATCGCCACAGGCATGGTGGGGGCACTGCTGCTGCTGCTGGTGGTGGCTCTGGGGATTGGGCTGTTTATGAGAAGGTAA(配列番号12)
【0026】
本開示の実施形態においては、前記レンチウイルスをリンパ球に導入することによって得られるトランスジェニックリンパ球は、腫瘍細胞、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に対する標的殺滅能力を有し、緩やかな細胞増殖と低いがより安全なサイトカイン産生を伴う。得られる改変抗CD19 CAR細胞は、より安全な抗腫瘍活性を有する。
【0027】
第5の態様において、本開示は、実施形態において、トランスジェニックリンパ球を提供する。本開示の実施形態によれば、トランスジェニックリンパ球は、非機能性EGFRとキメラ抗原受容体を発現し、キメラ抗原受容体は、細胞外セグメントと、膜貫通セグメントと、細胞内セグメントとを含み、前記細胞外セグメントは、腫瘍抗原に特異的に結合する一本鎖抗体領域とヒンジ領域とを含み、前記一本鎖抗体領域は、一本鎖抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、前記腫瘍抗原がCD19抗原であり、前記細胞内セグメントは、免疫共刺激分子の細胞内ドメインを含む。非機能性EGFRとキメラ抗原受容体を発現する改変抗CD19 CAR細胞は、腫瘍細胞、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に特異的な殺滅能力を有するので、より安全な抗腫瘍活性を発揮する。
【0028】
本開示の実施形態においては、前記トランスジェニックリンパ球は、以下の更なる技術的特徴のうちの少なくとも1つを更に有し得る。
【0029】
本開示の実施形態においては、免疫共刺激分子の細胞内ドメインは、独立して、4-1BB、OX-40、CD40L、CD27、CD30、CD28、及びそれらの誘導体から選択される少なくとも1つである。実施形態における免疫共刺激分子の細胞内ドメインの発現は、細胞免疫応答を正に調節及び増強することができ、腫瘍に対するトランスジェニックリンパ球の標的殺滅能力が改善される。免疫共刺激分子の細胞内ドメインと非機能性EGFRとの共発現により、トランスジェニックリンパ球は、腫瘍に対してより強力な標的殺滅能力を、より高い安全性で有する。
【0030】
本開示の一実施形態においては、免疫共刺激分子の細胞内ドメインは、4-1BBの細胞内ドメインである。本開示のトランスジェニックリンパ球におけるキメラ抗原受容体の免疫共刺激分子の細胞内ドメインは、4-1BBの細胞内ドメインである。本開示の実施形態によれば、免疫共刺激分子の細胞内ドメインは、4-1BBの細胞内ドメインであるので、トランスジェニックリンパ球の標的殺滅能力が更に増強される。
【0031】
本開示の実施形態においては、前記トランスジェニックリンパ球によって発現される非機能性EGFRは、N末端リガンド結合領域及び細胞内受容体チロシンキナーゼの活性を欠くが、野生型EGFRの膜貫通領域及び抗EGFRに結合sるう完全ドメインを含むので、非機能性EGFRは、本開示のトランスジェニックリンパ球の自殺マークとして使用することができる。非機能性EGFRととキメラ抗原受容体の共発現により、トランスジェニックリンパ球の標的殺滅能力を効果的に得ることができるだけでなく、患者に重篤な副反応がある場合、トランスジェニックリンパ球を抗EGFR抗体によって殺滅することができるので、CD19を高発現する腫瘍患者の治療に対するトランスジェニックリンパ球の安全性が改善される。
【0032】
本開示の一実施形態においては、トランスジェニックリンパ球は、CD8+Tリンパ球である。前記したトランスジェニックリンパ球は、非機能性EGFRと、CD19抗原特異的キメラ抗原受容体などの抗原特異的キメラ抗原受容体の両方を発現することができるので、腫瘍に対する標的殺滅能力を、より高い安全性で有する。
【0033】
本開示の実施形態においては、前記ヒンジ領域は、ヒトCD8アルファ(CD8α)の細胞外ドメインを含み、前記細胞外ドメインは、55個のアミノ酸残基のヒトCD8αの細胞外ドメインと、前記ヒトCD8αの前記細胞外ドメインのN末端に位置する3個のアラニン残基(AAA)とを含み;前記膜貫通セグメントは、前記細胞外セグメントの前記ヒンジ領域に結合されたヒトCD8αの膜貫通ドメインを含み;前記細胞内セグメントは、更に、ヒトCD8αの細胞内ドメイン、4-1BBの細胞内ドメイン、及びCD3ζ鎖の細胞内ドメインを含み、前記ヒトCD8αの細胞内ドメインは、7個のアミノ酸残基を含み、前記ヒトCD8αの膜貫通ドメインに結合されている。本開示に係るリンパ球は、強力な腫瘍殺滅活性を有し、細胞増殖が緩やかであり、サイトカイン産生が少ないので、サイトカイン放出症候群及び神経毒性に関連する副作用が低減される。
【0034】
本開示の実施形態においては、トランスジェニックリンパ球は、ナチュラルキラー(NK)細胞又はナチュラルキラーT(NKT)細胞である。
【0035】
第6の態様において、本開示は、実施形態において、構築物を提供する。本開示の実施形態によれば、構築物は、キメラ抗原受容体をコードする第1の核酸分子と非機能性EGFRをコードする第2の核酸分子とを含み、キメラ抗原受容体及び非機能性EGFRは、前記した通りである。本開示の実施形態によれば、前記構築物が成功裏に導入されたリンパ球は、腫瘍細胞、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に対する標的殺滅能力を有し、細胞増殖が緩やかで、サイトカイン産生が低いがより安全なレベルであるので、ゆっくりとした長期に亘る腫瘍殺滅性を示す。したがって、得られた改変抗CD19 CAR細胞は、より安全な抗腫瘍活性を有する。
【0036】
本開示の実施形態においては、前記した構築物は、以下の更なる技術的特徴のうちの少なくとも1つを更に含み得る。
【0037】
本開示の一実施形態においては、第1の核酸分子及び第2の核酸分子は、キメラ抗原受容体と非機能性EGFRを発現するように前記したトランスジェニックリンパ球に提供され、キメラ抗原受容体と非機能性EGFRは、非融合形態である。本開示の実施形態によれば、前記した第1の核酸分子及び第2の核酸分子が成功裏にトランスジェニックリンパ球に提供され、得られたトランスジェニックリンパ球は、非機能性EGFRとキメラ抗原受容体(例えば、CD19特異的キメラ抗原受容体など)の両方を細胞表面上に発現することができ、キメラ抗原受容体及び非機能性EGFRは非融合形態である。本開示に係るリンパ球は、強力で特異的な腫瘍殺滅能力とより高い安全性を有する。
【0038】
本開示の実施形態においては、構築物は、第1の核酸配列に機能可能に結合された第1のプロモーター;第2の核酸配列に機能可能に結合された第2のプロモーターを更に含む。本開示の実施形態によれば、第1のプロモーター及び第2のプロモーターの導入により、第1の核酸配列及び第2の核酸配列を独立して発現させることができ、キメラ抗原受容体の抗原標的化の生物学的効果を効果的に確実にし、非機能性EGFRの効果的発現により、リンパ球の腫瘍、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に対する標的殺滅能力が得られるので、免疫殺滅の安全性が保証される。
【0039】
本開示の実施形態においては、第1のプロモーター及び第2のプロモーターは、独立して、CMV、EF-1、LTR、及びRSVの各プロモーターから選択される。本開示の実施形態によれば、前記したプロモーターは、高い開始効率及び高い特異性という特徴を有し、それにより、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体の効率的な発現が確保されるので、腫瘍に対するリンパ球の標的殺滅能力及び安全性が効果的に確実とされる。
【0040】
本開示の実施形態においては、構築物は、第1の核酸配列と第2の核酸配列との間に設けられる内部リボソーム侵入部位を更に含み、内部リボソーム侵入部位は、配列番号13で示されるヌクレオチド配列を含む。
CCCCTCTCCCTCCCCCCCCCCTAACGTTACTGGCCGAAGCCGCTTGGAATAAGGCCGGTGTGCGTTTGTCTATATGTTATTTTCCACCATATTGCCGTCTTTTGGCAATGTGAGGGCCCGGAAACCTGGCCCTGTCTTCTTGACGAGCATTCCTAGGGGTCTTTCCCCTCTCGCCAAAGGAATGCAAGGTCTGTTGAATGTCGTGAAGGAAGCAGTTCCTCTGGAAGCTTCTTGAAGACAAACAACGTCTGTAGCGACCCTTTGCAGGCAGCGGAACCCCCCACCTGGCGACAGGTGCCTCTGCGGCCAAAAGCCACGTGTATAAGATACACCTGCAAAGGCGGCACAACCCCAGTGCCACGTTGTGAGTTGGATAGTTGTGGAAAGAGTCAAATGGCTCTCCTCAAGCGTATTCAACAAGGGGCTGAAGGATGCCCAGAAGGTACCCCATTGTATGGGATCTGATCTGGGGCCTCGGTGCACATGCTTTACATGTGTTTAGTCGAGGTTAAAAAAACGTCTAGGCCCCCCGAACCACGGGGACGTGGTTTTCCTTTGAAAAACACGATGATAATATGGCCACAACC(配列番号13)
【0041】
内部リボソーム侵入部位の導入により、第1の核酸分子及び第2の核酸分子を独立して発現させることができる。本開示の実施形態によれば、内部リボソーム侵入部位配列の導入は、キメラ抗原受容体の抗原標的化の生物学的効果及び非機能性EGFRの効果的発現を確実にするので、リンパ球の腫瘍に対するより強力な標的殺滅能力及び高い安全性がもたらされる。
【0042】
本開示の実施形態においては、構築物は、第1の核酸配列と第2の核酸配列との間に提供された、リンカーペプチドをコードする第3の核酸配列を更に含み、前記リンカーペプチドは、リンパ球内で切断可能である。リンカーペプチドをコードする第3の核酸配列の導入により、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体を細胞膜上にて非融合状態で発現させることができ、それにより非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体の生物学的効果を更に確実にする。したがって、本開示の実施形態のリンパ球は、より強力で特異的な腫瘍殺滅能力及びより高い安全性を有する。
【0043】
本開示の実施形態においては、リンカーペプチドは、配列番号14~17で示されるアミノ酸配列を有する。
(GSG) E G R G S L L T C G D V E E N P G P(配列番号14)
(GSG) A T N F S L L K Q A G D V E E N P G P(配列番号15)
(GSG) Q C T N Y A L L K L A G D V E S N P G P(配列番号16)
(GSG) V K Q T L N F D L L K L A G D V E S N P G P(配列番号17)
【0044】
配列番号14~17で示されるアミノ酸配列は、口蹄疫ウイルスF2A、ウマ鼻炎AウイルスE2A、ブタテスコウイルスP2A、thosea asignaウイルスT2Aの自己切断2Aペプチドに由来する。リンカーペプチドの導入により、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体を細胞膜上にて非融合状態で発現させることができる。本開示の実施形態によれば、リンカーペプチドの導入は、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体の生物学的効果を確実にするので、本開示のリンパ球は、より強力で特異的な腫瘍殺滅能力及び高い安全性を有する。
【0045】
本開示の実施形態によれば、構築物のベクターは、非病原性ウイルスベクターである。非病原性ウイルスベクターの導入は、リンパ球における構築物の複製及び増幅効率を大幅に改善し、それにより、リンパ球における非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体の効率的な発現を著しく改善するので、リンパ球の標的能力を更に高め、安全性が更に向上する。
【0046】
本開示の実施形態においては、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、及びアデノ関連ウイルスベクターから選択される少なくとも1つである。ウイルスのパッケージング及び感染の過程において、本開示のウイルスベクターは、そのゲノムが宿主染色体に組み込まれる又は組み込まれない状態で、広範な感染を達成することができ、例えば、最終分化細胞及び分裂期の細胞のいずれにも感染することができ、広域スペクトル及び高感染効率を達成する。したがって、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体が、リンパ球内で効率的に発現することができるので、リンパ球の腫瘍細胞、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に対する標的能力を改善し且つ安全性を改善する。
【0047】
第7の態様において、本開示は、実施形態において、前記したTリンパ球又はトランスジェニックリンパ球を調製するための方法を提供する。本開示の実施形態によれば、この方法は、前記したレンチウイルス又は構築物をリンパ球又はTリンパ球に導入することを含む。前記方法によりば、レンチウイルス又は構築物は、前記したリンパ球又はTリンパ球に成功裏に導入され、リンパ球における非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体の発現を達成する。このことは、前記方法で調製されたTリンパ球又はトランスジェニックリンパ球が、腫瘍細胞、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に対する標的殺滅能力を有し、細胞増殖が緩やかで、サイトカインの産生が低いがより安全なレベルであるので、ゆっくりとした長期に亘る腫瘍殺滅性を発揮することを示す。したがって、得られた改変CD19CAR-T細胞は、より安全な抗腫瘍活性を有する。
【0048】
第8の態様において、本開示は、実施形態において、癌を治療するための治療用組成物を提供する。本開示の実施形態によれば、治療用組成物は、前記した抗CD19キメラ抗原受容体、構築物、レンチウイルス、Tリンパ球、又はトランスジェニックリンパ球を含む。前記治療用組成物の任意の成分は、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体のトランスジェニックリンパ球又はTリンパ球における効率的な発現を達成することができるので、得られたトランスジェニックリンパ球又はTリンパ球は、腫瘍細胞に対する標的殺滅能力を有することができる。したがって、本開示の癌を治療するための治療用組成物は、腫瘍細胞、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に対する標的殺滅能力、及び高い安全性を有する。
【0049】
本開示の実施形態においては、前記した治療用組成物は、以下の更なる技術的特徴のうちの少なくとも1つを更に含み得る。
【0050】
本開示の実施形態においては、癌の腫瘍細胞は、CD19を高発現する。本開示の治療用組成物は、CD19を高発現する腫瘍細胞を標的とする殺滅及び高い安全性を有するトランスジェニックリンパ球又はTリンパ球の細胞膜に非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体(例えば、抗CD19キメラ抗原受容体など)の効率的な発現を達成することができる。
【0051】
第9の態様において、本開示は、実施形態において、リンパ球療法の安全性を改善するための方法を提供し、この方法は、リンパ球に、キメラ抗原受容体及び非機能性EGFRを発現させることを含む。キメラ抗原受容体、非機能性EGFR、及びリンパ球は、前記した通りである。非機能性EGFRは、N末端リガンド結合領域と細胞内受容体チロシンキナーゼの活性を欠くが、野生型EGFRの膜貫通領域と、抗EGFR抗体に結合する完全なアミノ酸配列を含むので、非機能性EGFRは、リンパ球の自殺マークとして使用できる。したがって、CD19を高発現する腫瘍細胞の治療に適用する場合、本開示のTリンパ球は、緩やかに増殖し、サイトカインを低いがより安全なレベルで放出することができる。更に、患者が重篤な有害反応を有する場合、本開示のリンパ球は、抗EGFR抗体によって殺滅することができるので、高い安全性で腫瘍殺滅性を発揮する。
【0052】
第10の態様において、本開示は、実施形態において、癌を治療するための方法を提供し、この方法は、前記した構築物、レンチウイルス、Tリンパ球、トランスジェニックリンパ球、又は抗CD19キメラ抗原受容体を、それを必要とする患者に投与することを含む。本開示の癌を治療するための方法を、癌の治療(例えば、腫瘍細胞の殺滅など)に適用する場合、Tリンパ球は、緩やかに増殖し、サイトカインを低いがより安全なレベルで放出することができる。更に、患者が重篤な有害反応を有する場合には、リンパ球を抗EGFR抗体で殺滅することができる。したがって、本開示の癌を治療するための方法は、より安全な腫瘍治療効果を有する。
【0053】
本開示の実施形態においては、前記癌を治療するための方法は、以下の更なる技術的特徴のうちの少なくとも1つを更に含み得る。
【0054】
本開示の実施形態おいては、癌の腫瘍細胞は、CD19を高発現する。本開示の実施形態に係る癌を治療するための方法は、CD19を高発現する腫瘍細胞に対してより強力な殺滅能力を有する。
【0055】
本開示の実施形態においては、癌は、白血病又はリンパ腫を含む。本開示に係る癌を治療するための方法は、白血病又はリンパ腫に対して強力な治療効果を、高い安全性で有する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る抗CD19 CARを含むレンチウイルスベクターの概略図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施形態に係る、各種組換えレンチウイルスベクターとCD19
+腫瘍細胞が導入された抗CD19 CAR-T細胞の共培養下におけるサイトカインの産生を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施形態に係る、各種組換えレンチウイルスベクターが導入された抗CD19 CAR-T細胞によるCD19
+腫瘍細胞に対する細胞殺滅を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本開示の実施例を以下に詳細に説明する。以下に参考として記載する実施例は、説明的、例示的であり、本開示の概要を理解するために用いられる。これらの実施例は、本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0058】
本開示の実施例によれば、特段の断りのない限り、「抗CD19 CAR」という用語は、抗CD19キメラ抗原受容体を意味し、「抗CD19 CAR細胞」という用語は、抗CD19 CARを発現する細胞を意味し、「抗CD19 CAR-T細胞」という用語は、抗CD19 CARを発現するT細胞を意味する。
【0059】
キメラ抗原受容体
一態様において、本開示は、キメラ抗原受容体を提供する。
【0060】
本開示の実施形態によれば、キメラ抗原受容体は、細胞外セグメントと、膜貫通セグメントと、細胞内セグメントとを含み、
前記細胞外セグメントは、ヒト抗原CD19に特異的に結合する一本鎖抗体領域とヒンジ領域とを含み、前記一本鎖抗体領域は、一本鎖抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、前記ヒンジ領域は、ヒトCD8アルファ(CD8α)の細胞外ドメインを含み、前記細胞外ドメインは、55個のアミノ酸残基のヒトCD8αの細胞外ドメインと、前記ヒトCD8αの前記細胞外ドメインのN末端に位置する3個のアラニン残基(AAA)とを含み、
前記膜貫通セグメントは、前記細胞外セグメントの前記ヒンジ領域に結合され、Tリンパ球の細胞膜に埋め込まれたヒトCD8αの膜貫通ドメインを含み、
前記細胞内セグメントは、ヒトCD8αの細胞内ドメイン、4-1BB分子の細胞内ドメイン、及びCD3ζ鎖の細胞内ドメインを含み、前記ヒトCD8αの細胞内ドメインは、7個のアミノ酸残基を含み、前記ヒトCD8αの膜貫通ドメインに結合されている。
【0061】
先行技術と比較して、本開示の実施形態に係る改変キメラ抗原受容体は、改善された空間構造を有するので、改変キメラ抗原受容体を発現するTリンパ球は、強力な腫瘍殺滅能力を有する一方で、細胞増殖が低減され、サイトカイン産生が低下している。したがって、改変キメラ抗原受容体を発現するリンパ球を腫瘍患者の治療に適用する場合、重度なサイトカイン放出症候群及び神経毒性に関連する副作用が低減される。
【0062】
先行技術と比較して、本開示に記載されるキメラ抗原受容体のヒンジ領域は、(55個のアミノ酸残基からなる)ヒトCD8アルファ(CD8α)の細胞外ドメインと3個のアラニン残基(AAA)を含み、配列番号7で示されるアミノ酸配列を有する(
図1)。本開示のキメラ抗原受容体の膜貫通セグメントは、21アミノ酸残基からなるヒトCD8αの膜貫通セグメントを含み、配列番号5で示されるアミノ酸配列を有する(
図1)。本開示のキメラ抗原受容体の細胞内セグメントは、7個のアミノ酸残基からなるヒトCD8αの細胞内ドメインを含み、配列番号3に示すアミノ酸配列を有する(
図1)。本開示のキメラ受容体のヒンジ領域、膜貫通セグメント、及び細胞内セグメントのアミノ酸配列は、先行技術のキメラ抗原受容体とは異なるので、本開示の改変抗CD19 CARは、先行技術の抗CD19 CARと異なる空間構造を有する。本発明者らは、驚いべきことに、改変キメラ抗原受容体を発現するTリンパ球が、強力な腫瘍殺滅活性を有する一方で、細胞増殖が低減され、サイトカイン産生が低下し、緩やかだがより安全な腫瘍殺滅活性がもたらされることを見出した。
【0063】
Tリンパ球又はトランスジェニックリンパ球
別の態様において、本開示は、Tリンパ球又はトランスジェニックリンパ球を提供する。本開示の実施形態によれば、Tリンパ球は、前述したように、非機能性上皮増殖因子受容体(EGFR)と抗CD19キメラ抗原受容体を発現する。非機能性EGFRは、N末端リガンド結合領域と細胞内受容体チロシンキナーゼの活性を欠くが、野生型EGFRの膜貫通領域と、抗EGFR抗体に結合する完全なアミノ酸配列とを含むので、非機能性EGFRは、リンパ球の自殺マークとして使用できる。Tリンパ球又はトランスジェニックリンパ球は、抗CD19キメラ抗原受容体を発現し、腫瘍細胞、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に対して標的殺滅能力を有し、緩やかな細胞増殖と、少ないサイトカイン産生を伴い、ゆっくりとした長期に亘る腫瘍殺滅性を示す。得られた改変抗CD19 CAR-T細胞は、より安全な抗腫瘍活性を有する。
【0064】
更に、本開示の実施形態によれば、非機能性EGFRは、N末端リガンド結合領域及び細胞内受容体チロシンキナーゼの活性を欠くが、野生型EGFRの膜貫通領域と、抗EGFR抗体に結合する完全なアミノ酸配列を含むので、非機能性EGFRは、リンパ球の自殺マークとして使用できる。非機能性EGFRを発現するリンパ球は、抗EGFR抗体によってインビボで殺滅することができる。したがって、非機能性EGFRを発現するTリンパ球又はトランスジェニックリンパ球は、標的殺滅能力を確実にできるだけでなく、患者が重篤な有害反応を有する場合、抗EGFR抗体によって殺滅することもできるので、CD19を高発現する腫瘍患者の治療に対する安全性を改善する。
【0065】
また、本開示の実施形態によれば、前記したキメラ抗原受容体の細胞外セグメントにおける抗体は、一本鎖抗体である。本発明者らは、一本鎖抗体が非特異的な反応で競合表面タンパク質を除去することができると共に、一本鎖抗体が腫瘍組織により容易に浸透して薬剤の治療濃度を高めることができることを見出した。
【0066】
本開示の実施形態に係るトランスジェニックリンパ球は、一本鎖抗体を含むキメラ抗原受容体を発現するので、腫瘍細胞に対する標的殺滅能力を更に改善する。
【0067】
本開示の別の実施形態によれば、前記した一本鎖抗体によって結合される抗原は、CD19である。したがって、本開示のトランスジェニックリンパ球は、抗原CD19を発現する細胞に対する標的殺滅能力を有し、抗原と一本鎖抗体との間の特異的結合はより強い。したがって、本開示のトランスジェニックリンパ球は、CD19抗原を発現する腫瘍細胞に対する向上した標的殺滅を有する。
【0068】
更に、本開示の実施形態によれば、免疫共刺激分子の細胞内ドメインは、独立して、4-1BB、OX-40、CD40L、CD27、CD30、CD28、及びそれらの誘導体のうちの少なくとも1つである。免疫共刺激分子の細胞内ドメインの発現は、細胞性免疫応答を正に調節及び増強することができるので、CD19を高発現する腫瘍に対するトランスジェニックリンパ球の標的殺滅能力を改善する。免疫共刺激分子の細胞内ドメイン及び非機能性EGFRの発現により、トランスジェニックリンパ球は、より効果的且つより安全な殺滅能力を有する。
【0069】
本開示の実施形態によれば、トランスジェニックリンパ球は、細胞傷害性Tリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はナチュラルキラーT(NKT)細胞である。細胞傷害性T細胞はキラーT細胞とも呼ばれる。ナチュラルキラー細胞は、標的細胞を非特異的に認識する免疫細胞の一種である。ナチュラルキラーT細胞は、T細胞とナチュラルキラー細胞の受容体を含むT細胞のサブセットである。前記したトランスジェニックリンパ球は、非機能的EGFRとキメラ抗原受容体を共発現するので、より効果的且つより安全な免疫殺滅能力を有する。
【0070】
レンチウイルス又は構築物
別の態様において、本開示は、レンチウイルス又は構築物を提供する。本開示の実施形態によれば、レンチウイルス又は構築物は、キメラ抗原受容体をコードする第1の核酸分子と非機能性EGFRをコードする第2の核酸分子とを含み、前記キメラ抗原受容体は、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含み、前記第1の核酸分子は、配列番号9で示されるヌクレオチド配列を含み、前記非機能性EGFRは、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含み、前記第2の核酸分子は、配列番号11で示されるヌクレオチド配列を含む。本開示の実施形態によれば、レンチウイルス又は構築物をリンパ球に導入することによって得られるトランスジェニックリンパ球は、細胞膜上に非機能性EGFR及び抗CD19キメラ抗原受容体の両方を発現することができるので、腫瘍細胞に対する強力な標的殺滅能力を有し、細胞増殖が緩やかで、サイトカイン産生が低下し、ゆっくりとした長期に亘る腫瘍殺滅性を示す。したがって、得られた改変抗CD19 CAR-T細胞は、より安全な抗腫瘍活性を有する。
【0071】
本開示の実施形態によれば、レンチウイルス又は構築物は、配列番号12で示されるヌクレオチド配列を有する。配列番号12で示されるヌクレオチド配列は、非機能性EGFRと抗CD19キメラ抗原受容体の両方をコードする(CD19 CAR/tEGFR)。本開示の実施形態によれば、この実施形態におけるレンチウイルスをリンパ球に導入することによって得られるトランスジェニックリンパ球は、非機能性EGFR及び抗CD19キメラ抗原受容体の両方を発現することができるので、CD19を高発現する腫瘍細胞に対する強力な標的殺滅能力を有し、細胞増殖が緩やかで、サイトカイン産生が低下し、ゆっくりとした長期に亘る腫瘍殺滅性を示す。したがって、得られた改変抗CD19 CAR-T細胞は、より安全な抗腫瘍活性を有する。
【0072】
本開示の実施形態によれば、前記したような、非機能性EGFR及び細胞キメラ抗原受容体の独立した発現が、以下の方法の少なくとも1つによって達成される。
【0073】
内部リボソーム侵入部位(IRES):
内部リボソーム侵入部位は、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子と非機能性EGFRをコードする核酸分子との間に設けられる。内部リボソーム侵入部位は、配列番号13で示されるヌクレオチド配列を有する。内部リボソーム侵入部位は通常、RNAウイルスゲノムの5’非翻訳領域(UTR)に位置し、1つのタンパク質の翻訳を5’キャップ構造から独立させることができ一方で、別のタンパク質の翻訳は、5’キャップ構造に依存するので、IRESの前後の2つの遺伝子の比例的な発現(proportional expression)が可能となる。内部リボソーム侵入部位の導入により、キメラ抗原受容体をコードする第1の核酸分子及び非機能性EGFRをコードする第2の核酸分子を独立して発現させることができる。本開示の実施形態によれば、内部リボソーム侵入部位は、キメラ抗原受容体及び非機能性EGFRの効率的な発現を効果的に確実にし、腫瘍細胞に対するリンパ球の特異的殺滅を、高い安全性で更に改善する。
【0074】
第3の核酸配列:
第3の核酸配列は、第1の核酸配列と第2の核酸配列との間に設けられ、第3の核酸分子は、リンパ球内で切断され得るリンカーペプチドをコードする。本開示の実施形態によれば、リンカーペプチドは、配列番号14~17で示されるアミノ酸配列を含む。第3の核酸配列の導入により、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体をリンパ球の細胞膜上にて非融合状態で発現させることができるので、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体の生物学的効果を確実にし、リンパ球の腫瘍に対するより強力で特異的な殺滅を、より高い安全性でもたらす。
【0075】
プロモーター:
第1のプロモーターは、キメラ抗原受容体をコードする第1の核酸配列に機能可能に連結され、第2のプロモーターは、非機能性EGFRを発現する核酸配列に機能可能に連結される。本開示の実施形態によれば、第1のプロモーター及び第2のプロモーターは、独立して、CMV、EF-1、LTR、及びRSVの各プロモーターから選択される。第1のプロモーター及び第2のプロモーターの導入により、キメラ抗原受容体をコードする第1の核酸配列及び非機能性EGFRをコードする第2の核酸配列を独立して発現させることができるので、キメラ抗原受容体の効率的な発現を確実にし、リンパ球の腫瘍細胞に対する標的能力及び特異的殺滅能力を、高い安全性で更に向上させる。
【0076】
内部リボソーム侵入部位又は第1のプロモーター及び第2のプロモーターの導入により、本開示のトランスジェニックリンパ球の細胞膜上での非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体の効率的な発現が可能になることによって、キメラ抗原受容体の生物学的作用を確実にし、不所望のトランスジェニックリンパ球を適時に効果的に殺滅するので、リンパ球の腫瘍細胞に対する標的能力及び特異的殺滅能力を、高い安全性で更に向上させる。
【0077】
更に、本開示の実施形態によれば、構築物のベクターは、非病原性ウイルスベクターである。非病原性ウイルスベクターの導入により、リンパ球における構築物の複製及び増幅効率が大幅に改善され、リンパ球の腫瘍細胞に対する標的能力及び特異的殺滅能力を、高い安全性で更に向上させる。
【0078】
本開示の実施形態によれば、構築物のベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、又はアデノウイルス関連ウイルスベクターから選択される少なくとも1つであるウイルスベクターである。本開示の実施形態によれば、ウイルスベクターは、ウイルスのパッケージング及び感染の際に、そのゲノムが宿主染色体に組み込まれる又は組み込まれない状態で、広範な感染を達成することができ、例えば、最終分化細胞及び分裂期の細胞のいずれにも感染することができ、広域スペクトル及び高感染効率を達成する。したがって、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体が、リンパ球内で効率的に発現することができるので、リンパ球の腫瘍細胞に対する標的能力及び特異的殺滅能力を、高い安全性で顕著に改善する。
【0079】
本開示の特定の実施形態によれば、例えば、レンチウイルスベクターを構築するために、本発明者らは、ある位置でウイルスゲノムに標的核酸配列を挿入し、複製欠損レンチウイルスを生成した。次いで、本発明者らは、gag、pol、及びenv遺伝子を含むが、LTR及びパッケージング配列は含まないパッケージング細胞株を、レンチウイルスを得るために構築した。標的核酸配列を、レンチウイルスのLTR及びパッケージング配列と共に含む組換えレンチウイルストランスジェニックプラスミドを、パッケージング細胞株に導入する。このパッケージング配列により、組換えレンチウイルストランスジェニックプラスミドの転写産物をパッケージングしてレンチウイルスとして、次いで、培養培地中に分泌される。続いて、本発明者らは、組換えレンチウイルスを含む培養培地を回収し、選択的に濃縮し、遺伝子導入した。レンチウイルスベクターは、分裂可能な細胞及び分裂できない細胞を含む様々な細胞型に感染することができる。
【0080】
更に、本開示の実施形態によれば、レンチウイルスは、組換えレンチウイルスであり、一般的なレンチウイルス遺伝子(gag、pol、及びenv)だけでなく、調節及び構造機能を有する他の遺伝子も含む。レンチウイルスベクターは、当業者にはよく知られており、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1、HIV-2)及びシミアン免疫不全ウイルスSIVを含む。レンチウイルスベクターは、HIV病原性遺伝子の複数個の減少、例えば、全遺伝子(即ち、env、vif、vpr、vpu、及びnef)の欠失によって生成されるので、レンチウイルスベクターは、生物学的に安全なベクターとして得られる。組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染することができ、インビボ及びインビトロでの遺伝子導入及び核酸配列発現に使用することができる。例えば、適当な宿主細胞において、パッケージング配列を有する2以上のレンチウイルスベクター(gag、pol、env、rev、及びtat)は、非分裂細胞に感染することができる。組換えウイルスの標的能力は、特定の細胞受容体を標的とする抗体又は特定のリガンドの膜タンパク質への結合によって達成される。一方、組換えウイルスの特異的標的能力は、ウイルスベクターに、調節領域を含む有効な配列を、特定の標的細胞の受容体に結合するリガンドをコードする別の配列と共にを挿入することによって得ることができる。様々な有効なレンチウイルスベクター、並びに様々な方法及び操作によって生成されたベクターが、細胞発現の調節に有用である。
【0081】
本開示の実施形態によれば、アデノ関連ウイルスベクター(AAV)を、1以上のよく知られた血清型のアデノ関連ウイルスベクターのDNAを使用して構築することができる。当業者であれば、キメラ抗原受容体及び非機能性EGFRを共発現するヌクレオチド配列を有するように適切なアデノ関連ウイルスベクターを構築することができる。
【0082】
更に、本開示の実施形態によれば、マイクロ遺伝子が含まれ、これは、選択されたヌクレオチド配列及び必須且つ機能可能な連結配列を含む配列組合せが、宿主細胞においてインビボ又はインビトロで遺伝子産物の形質転換、転写、及び/又は発現を指示するために使用されることを示す。「機能可能な連結配列」は、連続する標的遺伝子の発現制御配列と、トランス又はリモート制御標的遺伝子のための発現制御配列とを含む。
【0083】
更に、本開示の実施形態におけるベクターは、従来の制御エレメントを更に含む。これらのエレメントは、細胞トランスフェクション中のプラスミドベクター及び/又は細胞感染中のウイルスベクターと共に、形質転換されたmRNAの転写及び発現を可能にする。多数の発現制御配列(天然、誘導性、及び/又は組織特異的プロモーターを含む)を使用することができる。本開示の実施形態によれば、プロモーターは、pol I、pol II、及びpol IIIから選択されるRANポリメラーゼプロモーターである。本開示の実施形態によれば、プロモーターは組織特異的プロモーターである。本開示の実施形態によれば、プロモーターは誘導性プロモーターである。本開示の実施形態によれば、プロモーターは、選択されたベクターに基づくプロモーターから選択される。本開示の実施形態によれば、レンチウイルスベクターの選択のために、プロモーターは、CMV IE遺伝子、EF-1α、ユビキチンC、又はホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーターである。他の従来の発現制御配列には、ジェネティシン、ハイグロマイシン、アンピシリン、又はプロマイシン耐性タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、選択可能なマーカー又はレポーター遺伝子が含まれる。ベクターの他の成分は、複製起点を含む。
【0084】
ベクターを構築するための技術は、当業者によく知られており、これらは、本開示で使用されるポリメラーゼ連鎖反応などの従来のクローニング技術、及び必要なヌクレオチド配列を提供するための任意の適切な方法を含む。
【0085】
本開示の実施形態によれば、本発明者らは、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体(CAR)を共発現するウイルスベクターを構築した。非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体(CAR)を発現するウイルスベクター又はプラスミドは複合体であり得、その安定性を改善する又はその標的能力を支援するためにポリマー又は他の材料と組み合わせることができる。
【0086】
トランスジェニックリンパ球を調製するための方法
本開示の別の態様において、本開示は、前記したTリンパ球又はトランスジェニックリンパ球を調製するための方法を提供する。本開示の実施形態によれば、この方法は、前記した構築物又はレンチウイルスをリンパ球又はTリンパ球に導入することを含む。導入は、宿主細胞のエレクトロポレーション又はウイルス感染によって行うことができる。実施形態によれば、構築物又はレンチウイルスは、リンパ球又はTリンパ球に成功裏に導入されて、非機能性EGFR及び抗CD19キメラ抗原受容体の発現を可能にし、構築物又はレンチウイルスが導入されたリンパ球又はTリンパ球は、腫瘍細胞、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に対する特異的殺滅能力を有し、細胞増殖は緩やかで、サイトカイン産生が少なく、ゆっくりとした長期に亘る腫瘍殺滅性を有する。得られた改変抗CD19 CAR-T細胞は、より安全な抗腫瘍活性を有する。
【0087】
癌を治療するための治療用組成物
本開示の更なる態様において、本開示は、癌を治療するための治療用組成物を提供する。本開示の実施形態によれば、治療用組成物は、前記した抗CD19キメラ抗原受容体、構築物、レンチウイルス、Tリンパ球、又はトランスジェニックリンパ球を含む。前記治療用組成物の任意の成分は、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体のトランスジェニックリンパ球又はTリンパ球における効率的な発現を達成することができるので、得られたトランスジェニックリンパ球又はTリンパ球は、腫瘍細胞、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に対する標的殺滅能力を有することができ、細胞増殖が緩やかで、サイトカイン産生が低下し、より安全な免疫殺滅を示す。
【0088】
本開示の実施形態によれば、患者に投与する場合、治療用組成物は、適宜、生体適合性溶液又は薬学的に許容可能な担体に調製される。調製された様々な治療用組成物は、生理食塩水、等張生理食塩水、又は当業者に自明の他の処方などの薬学的又は生理学的に許容される担体に懸濁又は溶解される。適切な担体は、主に、投与経路によって異なる。他の水性又は無水等張滅菌注射液及び懸濁液が、薬学的に許容される担体である。
【0089】
本開示の実施形態によれば、十分な数のウイルスベクターがT細胞に導入されるので、非機能性EGFR及び抗CD19キメラ抗原受容体を発現するのに十分な量の標的遺伝子(即ち、トランスジーン)が提供される。治療用組成物の投与量は、主に、治療対象の患者の状態、年齢、体重、及び健康に依存し、患者間で差が生じ得る。
【0090】
非機能性EGFR及び抗CD19キメラ抗原受容体を発現する方法は、併用療法の一部である。養子免疫療法で使用されるこれらのウイルスベクター及び抗腫瘍T細胞は、単独で、又は他の癌治療方法と組み合わせて行うことができる。好適な条件下では、治療法は、1以上の薬物療法の使用することができる。
【0091】
本開示の実施形態によれば、癌の腫瘍細胞は、CD19を高レベルに発現する。トランスジェニックリンパ球又はTリンパ球は、非機能性EGFR及びキメラ抗原受容体を高発現するので、腫瘍細胞、特にCD19を高発現する腫瘍細胞に対する標的殺滅能力を有し、より安全且つ有効な免疫殺滅を示す。
【0092】
リンパ球療法の安全性を改善するための方法
更なる態様において、本開示は、リンパ球療法の安全性を改善するための方法を提供する。この方法は、リンパ球に、キメラ抗原受容体及び非機能性EGFRを発現させることを含む。非機能性EGFR、リンパ球、及びキメラ抗原受容体は、前記した通りである。非機能性EGFRは、N末端リガンド結合領域と細胞内受容体チロシンキナーゼの活性を欠くが、野生型EGFRの膜貫通領域と、抗EGFR抗体に結合する完全なアミノ酸配列とを含むので、非機能性EGFRは、リンパ球の自殺マークとして使用することができる。CD19を高発現する腫瘍細胞の治療に適用する場合、本開示のTリンパ球は、緩やかな細胞増殖と、少ないがより安全なサイトカイン産生を示し、更に、患者が重篤な有害反応を有する場合には殺滅することができる。これにより、サイトカイン放出症候群及び神経毒性に関連する副作用が低減され、より安全且つ有効な免疫殺滅を有する。
【0093】
本開示を以下の実施例を参照して更に記載する。
当業者であれば、以下の実施例が説明的であり、本開示の範囲を限定するとみなされ得ないことを理解しよう。特定の技術又は条件が実施例に指定されていない場合、当該技術分野の文献(例えば、“Molecular Cloning Experiment Guide”J.Sambrooket al.,Huang Peitang et al.により翻訳,第3版,Science Press)に記載される技術若しくは条件又は製品取扱説明書にしたがうものとする。試薬又は機器の製造元が指定されない場合には、試薬又は機器は、市販品であることができる。
【実施例】
【0094】
実施例1
本開示の実施例で使用される細胞株及び基本的な実験技術は、以下の通りである。
レンチウイルスの産生及びヒトTリンパ球の導入
複製欠損レンチウイルスベクターを作成し、次いで、ヒトTリンパ球の後続の導入用に遠心分離により回収する。レンチウイルスベクターの作成及び回収の実験プロセスを簡単に記載した。293T細胞を、底面積が150cm2の細胞培養皿にプレーティングした後、Express-In(Open Biosystems/THERMO SCIENTIFIC,Waltham MAから購入)を取扱説明書にしたがい用いて、レンチウイルスを導入した。15μgのレンチウイルストランスジェニックプラスミド、5μgのVSV糖タンパク質発現プラスミド(pVSV-G)、10μgのpCMVR8.74プラスミド(Gag/Pol/Tat/Rev発現プラスミド)、及び174μlのExpress-In(濃度:1μg/μl)を、293T細胞を各細胞培養皿に添加した。その後、24時間と48時間で上清をそれぞれ回収し、遠心ローター(Beckman SW 32 Ti,BECKMAN COULTER,Brea,Californiaから購入)付き超遠心機を使用して、28,000rpmで2時間遠心分離した。レンチウイルスプラスミドペレットを、0.75mlのロズウェルパーク記念研究所(RPMI)-1640培地で再懸濁した。
【0095】
健康なボランティアドナーから単離した初代ヒトTリンパ球を、RPMI-1640培地で培養し、CD3及びCD28に対するモノクローナル抗体でコーティングされたビーズ(INVITROGEN,Carlsbad,Californiaから購入)を使用して活性化した。活性化から18~24時間後、ヒトTリンパ球を、スピンインプランテーションを用いて導入した。具体的には、24ウェルプレートの各ウェル中に、0.5×106個のTリンパ球を播種し、0.75mlの再懸濁後レンチウイルスプラスミド液とポリブレン(濃度:8μg/ml)を各ウェルに添加する。Tリンパ球とレンチウイルスプラスミドの混合物を、ベンチトップ遠心分離機(SORVALL ST 40から購入;THERMO SCIENTIFIC)で、2500rpmで室温にて90分間、遠心分離した。ヒト組換えインターロイキン-2、IL-2(NOVARTIS,Basel,Switzerlandから購入)を、最終濃度100IU/mlで、2~3日ごとにTリンパ球含有RPMI-1640培地に添加し、Tリンパ球の細胞密度を0.5×106~1×106細胞/mLに維持した。例えば、細胞増殖が緩慢である若しくは細胞サイズが小さいなどの休眠状態になったら又はある計画的な時点で、導入Tリンパ球を機能分析に付した。細胞増殖及び細胞サイズを、Coulter Counter(Beckman Coulterから購入)で評価した。
【0096】
この実施例では、フローサイトメーターBD FACSCanto II(BD BIOSCIENCESから購入)を使用し、フローサイトメトリーデータを、FlowJoバージョン7.2.5ソフトウェア(TREE STAR,Ashland,ORから購入)を使用して分析した。
【0097】
抗体依存性細胞傷害(ADCC)
ADCCに関連する実施例では、非機能性EGFRを発現するリンパ球を4時間51Cr放出法で検出して、抗EGFR抗体によって誘発される細胞依存性溶解能力を評価した。レンチウイルスベクターが導入されたヒトTリンパ球を、標的細胞として使用した。100μのCiNa2
51CrO4(GE HEALTHCARE LIFE SCIENCES,Marlborough,MAから購入)を使用して2~5×106の標的細胞を、37℃で1時間振とうしながらインキュベートすることにより標識した。標識した標的細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、培地で再懸濁して1×105細胞/mlの細胞密度とした。次いで、5×103個の標識細胞を含有する培地50μlを、96ウェルプレートの各ウェルに添加し、細胞プレーティングし、50μlの抗EGFR抗体(ERBITUX,Genentechから購入)を添加し、最終濃度20μg/mlとし、次いで、室温で30分間インキュベートした。一方、51Crの自然放出を検出するために、各ウェルに5×103個の標識細胞を含有する別の培地に、抗EGFR抗体を含まない通常培地を添加した。更に、51Crの最大放出を確実にするために、最終濃度1%のTriton X-100を添加した。ADCCに関連する以下の実施例では、ヒト末梢血単核球(PBMC、エフェクター細胞)を、5×105細胞/ウェルで、96ウェルプレートに添加した後、細胞を37℃で一晩インキュベートした。翌日、上清を回収し、ガンマ(γ)カウンターで計算されるカウント毎分(cpm)値により51Crの放出を測定した。細胞毒性比は次の式で計算した:%特異的溶解=(実験的放出cpm値-自発的放出cpm値)/(最大放出cpm値-自発的放出cpm値)×100(式中、最大放出cpm値は、標的細胞にTriton X-100を追加添加して得られた値であり、自発的放出cpm値は、抗EGFR抗体及びエフェクター細胞の非存在下で得られた値である。)
【0098】
51Cr放出実験
実施例において、4時間51Cr放出法を適用して、抗CD19キメラ抗原受容体T細胞(即ち、抗CD19 CAR-Tリンパ球)の細胞毒性活性を評価した、これは、以下の具体的ステップを含む。標的試験細胞を、37℃にて1時間51Crで標識した後、標識試験細胞を、10%胎児子牛血清(FCS)を含むRPMI培地で洗浄した。洗浄後の細胞を、1×105細胞/mlの濃度で、10%FCSを含むRPMI培地に再懸濁した。形質導入されたT細胞を、様々な比のエフェクター細胞と標的細胞(E:T)で標的試験細胞の懸濁液に添加した後、各ウェル200μlの容量の96ウェルに播種した。細胞を、37℃のインキュベーターで4時間培養した。その後、各ウェル中の上清30μlを、カウント分析のためにカウンター(即ち、トップカウンティングNXTマイクロシンチレーションカウンター、PACKARD BIOSCIENCEから購入)の96マイクロプレートに入れた。各カウントウェルのエフェクター細胞の数を、形質導入T細胞の総数に基づいて決定した。標識された標的試験細胞は、ATCCからのヒト胸膜中皮腫細胞、CD19+MSTO-211H細胞とした。
【0099】
実施例2 非機能性EGFR及び抗CD19キメラ抗原受容体を共発現するベクターの構築
この実施例において、本発明者らは、両端のXbaI及びBstBIクローニング部位と共に、抗ヒトCD19一本鎖抗体、ヒトCD8α、4-1BB分子の細胞内ドメイン、及びT細胞受容体のCD3ζ鎖をコードする配列を人工的に合成した。人工合成配列を、EF-1プロモーター(即ち、PCDH-EF1-MCS-IRES-GFP、SYSTEM BIOSCIENCES, Palo Alto, CA)を含むレンチウイルスベクターのシャトルプラスミドに、XbaI及びBstBIの二重酵素消化、ライゲーション、スクリーニング、及び標的プラスミドの増幅によってクローニングした。更に、本発明者らは、非機能性tEGFR並びにBspEI及びSalIクローニング部位を両端にコードする配列を人工的に合成し、次いで、非機能性tEGFR及び抗CD19キメラ抗原受容体を共発現するレンチウイルスベクターのシャトルプラスミド(LV-CD19-BBz(86)と命名)を、二重酵素消化、ライゲーション、スクリーニング、及び標的プラスミドの増幅によって構築した。
【0100】
図1は、改変抗CD19キメラ抗原受容体、IRES、及び非機能性tEGFRをコードする配列を含むLV-CD19-BBz(86)レンチウイルスベクターの概略図である。抗CD19キメラ抗原受容体の配列は、EF-1プロモーターの制御下で発現され、別のmRNA転写ユニットとしての非機能性tEGFRは、IRESの後に翻訳された。先行技術におけるCD19-BBz(CTL019)(Kymriah)を発現するレンチウイルスベクターLV-CD19-BBzを構築するための方法は、Imai, C. et al. Leukemia. 2004; 18: 676-684; Milone MC, et al. Mol Ther. 2009; 17: 1453-64に記載されている。
【0101】
実施例3 改善されたLV-CD19-BBz(86)CAR-Tリンパ球によるサイトカイン分泌の著しい低下
この実施例では、匿名のドナーから採取した末梢血リンパ球を、勾配遠心分離機Ficoll-Hypaqueを用いて勾配遠心分離により分離した。Tリンパ球と、CD3/CD28に対するモノクローナル抗体をコーティングしたTリンパ球活性化磁気ビーズ(INVITROGEN,Carlsbad,Californiaから購入)を、2mmol/Lグルタミン、10%高温不活化胎児子牛血清(FCS)(SIGMA-ALDRICH Co.から購入)、及び100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(INVITROGEN GIBCOから購入、カタログ番号12633-012)を含む高度RPMI 1640培地中、5%CO
2、37℃で72時間インキュベートした。72時間の活性化及び培養の後、T細胞を洗浄緩衝液で洗浄して磁気ビーズを除去した。洗浄後のT細胞を、組換えフィブロネクチン断片(FN ch-296;RETRONECTIN)をコーティングした細胞培養皿に播種した。その後、T細胞に、改善されたLV-CD19-BBz(86)のレンチウイルス、先行技術のLV-CD19-BBz、又はtEGFRのみを発現するブランクベクターLV-コントロールを導入した。これは、実施例1に記載した通りに行った。形質導入T細胞をRPMI-1640培地で培養し、組換えヒトIL-2因子(100ng/ml,R&D SYSTEMSから購入)で7~10日間誘導し、増殖させた後、照射されたCD19陽性Raji腫瘍細胞と共培養した。本発明者らは、ELISA法を使用して、共培養上清中の様々なサイトカインの濃度を測定した。
図2Aの結果から、CD19陽性Raji腫瘍細胞との共培養下で、改善されたLV-CD19-BBz(86)が導入されたCAR-Tリンパ球によって産生された様々なサイトカインの濃度が、先行技術のLV-CD19-BBzが導入されたCAR-Tリンパ球による場合よりも遥かに低いことが示された。非CD19特異的抗CD3との共培養下では、改善されたLV-CD19-BBz(86)が導入されたCAR-Tリンパ球は、先行技術のLV-CD19-BBzが導入されたCAR-Tリンパ球による場合と同じ濃度のサイトカインを産生した(
図2B)。コントロールとしてのブランクベクターLV-コントロール(即ち、LV-コントロール/NS)が導入されたCAR-Tリンパ球は、CD19陽性Raji腫瘍細胞及び非CD19特異的抗CD3の非存在下において非常に低い濃度のサイトカインを産生した。
【0102】
実施例4 改善されたLV-CD19-BBz(86)CAR-Tリンパ球の強力な腫瘍細胞殺滅能力
この実施例では、匿名のドナーから採取した末梢血リンパ球を、勾配遠心分離機Ficoll-Hypaqueを用いて勾配遠心分離により分離した。Tリンパ球と、CD3/CD28に対するモノクローナル抗体をコーティングしたTリンパ球活性化磁気ビーズ(INVITROGEN,Carlsbad,Californiaから購入)を、2mmol/Lグルタミン、10%高温不活化胎児子牛血清(FCS)(SIGMA-ALDRICH Co.から購入)、及び100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(INVITROGEN GIBCOから購入、カタログ番号12633-012)を含む高度RPMI 1640培地中、5%CO
2、37℃で72時間インキュベートした。72時間の活性化及び培養の後、T細胞を洗浄緩衝液で洗浄して磁気ビーズを除去した。洗浄後のT細胞を、組換えフィブロネクチン断片(FN ch-296;RETRONECTIN)をコーティングした細胞培養皿に播種した。その後、T細胞に、改善されたLV-CD19-BBz(86)のレンチウイルス、先行技術のLV-CD19-BBz、又はtEGFRのみを発現するブランクベクターLV-コントロールを導入した。これは、実施例1に記載した通りに行った。形質導入T細胞をRPMI-1640培地で培養し、組換えヒトIL-2因子(100ng/ml,R&D SYSTEMSから購入)で7~10日間誘導し、増殖させた後、機能試験実験に付した。本発明者らは、各種レンチウイルスを導入したT細胞のCD19陽性Raji腫瘍細胞に対する殺滅能力を、実施例1に記載の標準的な4時間
51Cr放出法にしたがって、エフェクター細胞と標的細胞との様々な比率で測定した。
図3における結果から、改善されたLV-CD19-BBz(86)が導入されたCAR-Tリンパ球と、エフェクター細胞としてのLV-CD19-BBzが導入されたCAR-Tリンパ球の両方が、標的細胞としてのCD19陽性Raji腫瘍細胞を有意に殺滅できることが示され、一方、非機能性EGFRのみを発現するレンチウイルスが導入されたTリンパ球(即ち、LV-コントロールTリンパ球)は、CD19陽性腫瘍細胞を僅かに殺滅する。これらの結果から、改善されたLV-CD19-BBz(86)が導入されたCAR-Tリンパ球が、サイトカインを著しく低い濃度で様々な産生するにもかかわらず、依然として強力な腫瘍細胞殺滅能力を有することが示された。
【0103】
実施例5 抗EGFR抗体は、非機能性EGFR及び抗CD19キメラ抗原受容体を共発現するCAR-Tリンパ球を効果的に殺滅する
この実施例では、匿名のドナーから採取した末梢血リンパ球を、勾配遠心分離機Ficoll-Hypaqueを用いて勾配遠心分離により分離した。Tリンパ球と、CD3/CD28に対するモノクローナル抗体をコーティングしたTリンパ球活性化磁気ビーズ(INVITROGEN,Carlsbad,Californiaから購入)を、2mmol/Lグルタミン、10%高温不活化胎児子牛血清(FCS)(SIGMA-ALDRICH Co.から購入)、及び100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(INVITROGEN GIBCOから購入、カタログ番号12633-012)を含む高度RPMI 1640培地中、5%CO2、37℃で72時間インキュベートした。72時間の活性化及び培養の後、T細胞を洗浄緩衝液で洗浄して磁気ビーズを除去した。洗浄後のT細胞を、組換えフィブロネクチン断片(FN ch-296;RETRONECTIN)をコーティングした細胞培養皿に播種した。その後、T細胞に、改善されたLV-CD19-BBz(86)のレンチウイルス、先行技術のLV-CD19-BBz、又はブランクベクターLV-コントロールを導入した。これは、実施例1に記載した通りに行った。非機能性EGFRを発現する形質導入T細胞を、抗EGFR抗体で染色し、フローサイトメトリー(即ち、蛍光活性化セルソーティング、FACS)で単離した。標的細胞としての単離後T細胞を、RPMI-1640培地で培養し、組換えヒトIL-2因子(100ng/ml;R&D SYSTEMSから購入)で7~10日間誘導し、増殖させた。本発明者らは、ADCCアッセイのための標準的な4時間51Cr放出法にしたがって、抗EGFR抗体によって媒介される各種レンチウイルスが導入されたT細胞に対する殺滅効果を測定した。これは、実施例1に記載した通りに行った。抗EGFR抗体は、非機能性EGFRを発現するTリンパ球の殺滅を効果的に媒介できるが、抗EGFR抗体は、非機能性EGFRを発現しない非形質導入Tリンパ球の殺滅を媒介できないことが示される。
【0104】
実施例6 改善されたLV-CD19-BBz(86)CARが導入されたCAR-Tリンパ球の著しく低下した増殖
本発明者らは、改善されたLV-CD19-BBz(86)が導入されたCAR-Tリンパ球の増殖活性を試験した。健康なヒトから単離した末梢血リンパ球を、CD3/CD28に対するモノクローナル抗体(THERMOFISHER SCIENTIFIC,Waltham,MA)をコーティングした免疫磁気ビーズで、1:1の比で一晩活性化した。その後、活性化されたリンパ球に、改善されたLV-CD19-BBz(86)又は先行技術のLV-CD19-BBzを導入した。T細胞のカウントから、改善されたLV-CD19-BBz(86)が導入されたTリンパ球とLV-CD19-BBzが導入されたTリンパ球は、経時で同様の速度で増殖したことが示された。このことは、CD19-CARの導入が、T細胞の内因性TCRシグナル伝達に影響を及ぼさなかったことを示している。更に、本発明者らは、抗原特異的細胞下での形質導入CAR-Tリンパ球の増殖を試験した。本発明者らは、形質導入CAR-T細胞を回収した後、免疫磁気ビーズを除去し、次いで、照射されたCD19+K562細胞と3:1の比で共培養した。改善されたLV-CD19-BBz(86)が導入されたCAR-Tリンパ球は、LV-CD19-BBzが導入されたCAR-Tリンパ球よりもゆっくりと増殖した。このことは、改善されたCD19-BBz(86)が導入されたCAR-Tリンパ球の細胞増殖が低下したことを示す。
【0105】
本明細書全体を通して、「実施形態」、「いくつかの実施形態」、「一実施例」、「別の実施例」、「実施例」、又は「いくつかの実施例」という記載は、実施形態又は実施例に関して記載される具体的な特徴、構造、材料、又は特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態又は実施例に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な場所での前記各句は、必ずしも本開示の同一実施形態または実施例に言及しているという訳ではない。更に、具体的な特徴、構造、材料、または特性は、1以上の実施形態または実施例において任意の適切な方法で組み合わせることができる。更に、当業者であれば、互いに矛盾することなく、本明細書に記載の異なる実施形態または実施例及び異なる実施形態または実施例の特徴を組み合わせることができる。
【0106】
例示的な実施例を示して記載してきたが、当業者であれば、前記した実施例は、本開示を限定するものと解釈することはできず、本開示の精神、原理、及び範囲から逸脱することなく、実施例において、変更、代替、及び修正を行うことができることを理解しよう。
【配列表】