(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】パターヘッド及びパター
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20230606BHJP
【FI】
A63B53/04 H
(21)【出願番号】P 2018169194
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】518319632
【氏名又は名称】ナリーズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀口 朋徳
(72)【発明者】
【氏名】堀口 佳徳
【審査官】神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-351177(JP,A)
【文献】登録実用新案第3147604(JP,U)
【文献】登録実用新案第3099147(JP,U)
【文献】特開平10-127834(JP,A)
【文献】実開昭59-147563(JP,U)
【文献】登録実用新案第3177927(JP,U)
【文献】特開昭60-040074(JP,A)
【文献】特開2009-268837(JP,A)
【文献】特開2006-075267(JP,A)
【文献】特開平03-018380(JP,A)
【文献】米国特許第7651409(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0116199(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/04
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
前記請求項1または2に記載のパターヘッドを備える事を特徴とするパター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ゴルフ競技等のパッティングで使用されるゴルフパター(以下、「パター」)に関する。
【背景技術】
【0002】
パターは、主にパッティンググリーン(以下、「グリーン」という)と呼ばれる場所にてゴルフボール(以下、「ボール」という)を打つ事に用いられる物である。ゴルフにおけるパッティングとは、グリーン上のホール(カップ)という特定の場所にボールを入れる又は近づける目的で行われる。狙いを付けたホール(カップ)に対してパッティングを行う為、競技者が意図した強さ通りにボールを打撃できる事が大切になる。しかしながら意図した強さで打撃する場合にも、フェースのどの個所に当たるかにより、ボールは転がる量が変化する。このフェースのトゥやヒール、フェースの上方や下方に当たるとボールの転がりが意図した距離とズレてしまう事に対して、従来から多くのメーカーが当該問題を課題として技術開発を行っている。(特許文献1)
ゴルフ競技者の間では、意図したパッティングを行う為には、アドレス(ゴルフにおける打撃前の構えの事)のときパターとボールの位置合わせを毎回一定に行うことが肝要であるとの認識が存在する。当認識のもと、既に市場には様々な種類の
図21の点照準105や
図22の線照準106をパターに施されたものが発売に至っている。
【0003】
ここでパターを打つ手順に合わせて、照準105、106の役割を説明する。パターを打つ前に、ゴルフ競技者はアドレスを取るが、手順としてパターに施された様々な種類の照準105、106を使い、ボール101に対して、パターを前後(トゥとヒール方向)に整列する。続いて、パターをグリーンより僅かに浮かせた後、パッティング動作に移る。僅かに浮かせるとは
図23のJの寸法を指しており、1mmから12mm程度の量でゴルフ競技の熟練度、または心理状態といった事によりその都度変化してしまう事が大きな問題となる。この一連のアドレスの中でパターを浮かせる動作については、競技者毎に手順や浮かせる量の差はあるが、何れにしてもパターとボールの関係を一定にする為に、パターを同じ浮きの量にする事が良い結果を毎回再現する上で肝要になる。
【0004】
パターを浮かせる目的の一つは、各メーカーが設計したパターにあるスイートスポット(最良の打点)とボールを整列する事である。スイートスポットとは、各メーカーが定めるパッティングの良い結果を生む打点の事で、良い結果の例を挙げると同一パターフェースの中でパッティングしたときに、ボールの到達距離が最長になる、ボールの到達地点のばらつきが最も小さい又は競技者の身体や試験マシンに伝わる衝撃が小さいなどがあり、これらの中の1つ又は複数の項目を満たすものである。先行技術としてパターを浮かせて位置合わせする事を極力省く為に、パターの底面(ソール)にいわゆる上げ底(特許文献2及び3)を取り付けたものが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭62-284670号公報
【文献】登録実用新案第3001052号公報
【文献】特開平9-285579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図23の様に一般的にアドレスのときにスイートスポット107とボール101の理想打点109(ボール中心からパタークラブ方向へ向かって、ボール表面に交差する点)を合わせる為には、多くの練習時間をかけグリーン面Gからパター100を浮かせる量が一定になる様に技術を体得する必要がある。これは、トゥ103とヒール104方向の照準であるパターヘッドに施された点照準105や線照準106のとは違い、高さ(ソールとクラウン)方向には照準が無いために発生する課題である。一般的なパターのフェース102には4度程度のロフト角が設けられているが、アドレスをとったゴルフ競技者から見るとフェース102はほとんど見えなく、例えフェース102にスイートスポット107の位置に目印がついていたとしても、視覚に頼ってボールの理想打点109と合わせる事は困難である。
【0007】
ゴルフ競技におけるパッティングのミスとして、パターヘッドのソールと地面が意図せず当たってしまうダフリというものがあるが、原因の一つにグリーンからの浮き量Jの値が小さい位置(1~3mm程度)に構えてしまう事が挙げられる。グリーン面Gに対して、高く構えるよりも低く構える方が地面に近くなるので、ダフリのミスが増える傾向にある。従来あった技術のソール面に上げ底部を設けたもの(特許文献2及び3)は、通常設計の物に比べてパターを構えたときにソール又は上げ底部がグリーン面Gに近く、パッティング動作中に僅かな浮き量の沈み込みが発生した際にグリーン表面に接触してしまい意図した強さや方向に打つことができない。この接触の問題は、上げ底を設ける事でごく一般的に市場に出回っているパターよりも、浮き量を減らす事でスイートスポットでの整列を行い易くするといった手段から、一般的なパターに比べて地面に近くなる事を理由に発生してしまう。また、トゥとヒールに重量配分を多く施し、スイートスポットを広げミスヒットに強くしたもの(所謂ピンタイプパターや特許文献1)は、ゴルフに関わる人間にとっては広く知られた事である。しかしながら、トゥとヒール方向の許容性拡大は問題の根本的な解決を対象としておらず、例えフェースのソールからクラウン方向(上下方向)への拡大がされたとしても、アドレスのときにスイートスポットからボールの理想打点がずれていた場合は、ミスヒットになってしまう確率が高い。
【0008】
本願発明は、アドレスのときにパターのスイートスポットとボールの理想打点109を高さ方向(ソールとクラウン)に容易に整列する事を目的としている。合わせて本願発明はソール側の構造によるものでは無いため、従来技術(特許文献2及び3)にあったグリーン面との接触も回避できる可能性が高まる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、グリーン面とパターのソールに依存しない高さの整列構造を考えた。ボールの理想打点は、ボールの中心から構えたパター方向のボール表面にある。ボールの天頂とパターの高さを整列する事ができれば、ボールの理想打点とパターの任意の場所を整列する事ができると見出した。つまりパターに対して、ボール天頂と高さを合わせる部位(以下、「特定部位」)を設定し、特定部位から21.335mm(
図6のK)の個所にパターのスイートスポットを設計及び配置する。ボール天頂と特定部位の高さを合わせた場合、容易にパターのスイートスポットとボールの理想打点の整列が完了する。本願発明は、パターのクラウン部付近に特定部位を設けた上で、ボール天頂と特定部位を競技者視線方向から奥行き方向(パターの高さ方向)に向かって整列する事で、容易にボールの理想打点とパターのスイートスポットが整列されるものである。
【0010】
特定部位とは材質、色、柄、粗度、形状及び大きさを問わずボールの天頂と高さを整列する目印になるものを指す。特定部位はアドレスをしたときに、ボール天頂108と高さを一致させる個所を含むものである。特定部位を使っての整列を実現するために、様々な試験片を用いてボールとの整列試験を行った。当方の奥行き判断試験の結果、日中の屋外において人間の目はボール天頂と特定部位の奥行き方向の距離を整列しようとすると、0.8mm以内の差異で判断できる事を突き止めた。(試験内容については後述)
本願発明はゴルフのアドレス手順の中に組み込めて、パターの特定部位をボール天頂に合わせるだけで
図6の如く、競技者本人からは視認し辛いフェースのスイートスポットとボールの理想打点を容易に整列する事ができるものである。従来のパターでは、アドレスの度に0.8mm以内に高さを整列する事は、高さ方向に整列する目安が無いため大変難しい作業であり、本願発明品がアドレスの際に有利に働く事は明白である。前記のダフリは従来のパターには高さを理想的な位置に揃える目印が備わっていない事が原因の一つとなる。そこで、例えば本願発明品パターの特定部位204とボール天頂108を揃えた時に、Jの値が3mmよりも大きくなるように設計した場合、ボール天頂108と特定部位204を揃える限りソールの浮き量Jは3mmより多く確保される事になる。つまり、高さを合わせる事ができない従来品とソール構造に依存する従来技術(特許文献2及び3)製品の使用時に発生しうるダフリを高い確率で削減することができる事になる。
請求項1の発明は、ゴルフ競技において用いられるパター200の先端に備えられるパターヘッド202であって、ゴルフボール101を打つためにアドレスしたときに、前記ゴルフボール天頂108の高さに整列させるための特定部位204を有するパターヘッドである。請求項2の発明は、前記ゴルフボール天頂108に対して、前記特定部位を整列したときにパターヘッドのスイートスポット207と前記ゴルフボール101の理想打点109が整列する請求項1のパターヘッドである。請求項3の発明は、アドレスしたときに、前記ゴルフボールの理想打点と前記特定部位におけるゴルフボール側の端末が水平方向に0mmから125mmである請求項1または2のパターヘッドである。請求項4の発明は、前記特定部位は材質、色、柄、粗度、大きさ、個数、及び形状に制限を受けない請求項1から3のいずれかに記載のパターヘッドである。請求項5の発明は、前記請求項1から4のいずれかに記載のパターヘッドを備えたパターである。
【発明の効果】
【0011】
本願発明を用いたパターを使用すると、ゴルフ競技者はアドレスを行うときに、ボールの天頂と
図6の如くパターの特定部位を合わせる事で、容易にボールの理想打点とパターのスイートスポットが正しく整列される。既に述べた前提である、競技者の意図する距離をパッティングするための高さの整列を、本願発明は容易に実現する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本願発明において、好ましい実施例のパターの斜視図
【
図2】
図1のパターの側面図(パターのヒール側からの見た図)
【
図3】
図1のパターの平面図(ゴルフ競技者のアドレス時の視線方向)
【
図6】本願発明品のスイートスポットがボールの理想打点と整列される図
【
図7】試験片との整列効果を試験する姿勢及び冶具の配置図
【
図10】試験片7種を10名による試験を行った結果表
【
図11】試験片Aを用いた10名による距離別試験の結果表
【
図12】
図9のLが0ミリメートルのとき、ピンタイプパターと特定部位を設けたピンタイプパターの2本を用いた、ボール打痕の収束性試験及びボールの到達地点に対する残り距離測定試験の結果表
【
図14】(a)実施例2の斜視図 (b)実施例2の側面図(パターのヒール側から見た図)
【
図15】(a)実施例3の斜視図 (b)実施例3の側面図(パターのヒール側から見た図)
【
図16】(a)実施例4の斜視図 (b)実施例4の側面図(パターのヒール側から見た図)
【
図17】(a)実施例5の斜視図 (b)実施例5の側面図(パターのヒール側から見た図)
【
図18】(a)実施例6の斜視図 (b)実施例6の側面図(パターのヒール側から見た図)
【
図19】(a)実施例7の斜視図 (b)実施例7の側面図(パターのヒール側から見た図)
【
図20】(a)実施例8の斜視図 (b)実施例8の側面図(パターのヒール側から見た図)
【
図21】市場に出回っている点(ドット)照準を施したパターヘッドの参考図
【
図22】市場に出回っている線照準を施したパターヘッドの参考図
【
図23】既存のパターの参考図(パターのトゥ側から見た図)
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
次に本発明の実施の形態について
図1から
図4及び
図13を参照して説明する。本実施の形態のパター200は、シャフト201とパターヘッド202とを備えている。
シャフト201の一端はパターヘッド202に連結され、シャフト201の他端にはグリップ203が取付られるが、本発明はシャフト201の長さ及び形状、グリップ203の数などに制限されるものでは無く、一般的に販売されているパター又は長尺パター又は正面打ち用パター(サイドサドルパター)を含むものである。パターヘッド202には、特定部位204を備えた上で、ボール天頂108と特定部位204を合わせた場合にスイートスポット207とボールの理想打点109が整列されるものであれば実施する形態としては好適といえる。
【0014】
パターヘッドは現在市販されているさまざまな形状をもとに特定部位が備えられても良いが、好ましいパターヘッド形状は、
図1の様にフェース205からテール206までの長さがあるもので、特定部位204が打球方向に沿ってクラウン208側に長く備えられているものである。特定部位204は
図1の様にゴルフボール101と同程度の半径の円柱又は円柱の一部形状をクラウン側に備えている。特定部位204は好ましくは暗い色よりも明るい色であり、より好ましくはゴルフボールに使われる白である。円柱又は円柱の一部形状は好ましくはスイートスポット207のクラウン208側に直上に備えられ、円柱の軸線方向はフェース205からテール206方向に沿うのが望ましい。
【0015】
特定部位204は、ボールのディンプルと同程度の数と深さの窪みを備えたものが望ましい。ゴルフ競技が行われる屋外では、ボールと同様に円筒部にも同じ光源(太陽)から光が当たり、ボールと同様に作られた陰がある状態が高さを整列する上で最も好適と考えられる。これは、当方の試験結果からも試験片Aが最も優れた結果を示している事からも好適な形状と判断できる。
【0016】
図2のパター200からシャフト201を除く部分をパターヘッド202と呼ぶが、ゴルフクラブのルールを規定するR&A及びUSGAの許可する範囲内で、パターヘッド202に対してシャフト201はクラウン208部に取付されている。このとき、シャフト201は特定部位204をアドレス時に遮らない状態での取付が望ましい。パターヘッド202にはフェース205が備わっており、ロフト角はルール内の0度から10度であり、フェース205にはミーリング加工やインサート部材の挿入も可とする。パターヘッド202は構造や意匠を工夫し、スイートスポットが特定部位204から垂直方向に21.335mmの位置に設計を行う。又は、アルミ等の鉄に対して比重の小さいものでパターヘッド202を作成し、タングステンなどの比重の大きいものを用いて適切なスイートスポット設計を行う事が本願発明の効果を発揮する為に重要となる。
【実施例2】
【0017】
実施例2は
図14の様に特定部位304がパターヘッド302のもっとも高い部位よりも一段窪んだ平面形状として備えている。特定部位304は好ましくは暗い色よりも明るい色であり、より好ましくはゴルフボールに使われる白である。特定部位表面は、極端に滑らかであったり粗かったりしても効果を発揮するが、ゴルフボール程度のパターンに基づいた凹凸状態が望ましい。パターヘッドのフェースの加工、フェースのインサート、ロフト角、及びスイートスポットの設計といった項目は実施例1と同等が好ましい。
【実施例3】
【0018】
実施例3は
図15の様に実施例1の変形例であり、パターヘッド402に備える特定部位404が平面形状である。特定部位404は好ましくは暗い色よりも明るい色であり、より好ましくはゴルフボールに使われる白である。特定部位表面は、極端に滑らかであったり粗かったりしても効果を発揮するが、ゴルフボール程度のパターンに基づいた凹凸状態が望ましい。パターヘッドのフェースの加工、フェースのインサート、ロフト角、及びスイートスポットの設計といった項目は実施例1と同等が好ましい。
【実施例4】
【0019】
実施例4は
図16の様に実施例1に対して、パターヘッド502に備える特定部位504がクラウンに対して凹の一定半径又は半径が変化した曲面形状となっていることが特徴である。特定部位504は好ましくは暗い色よりも明るい色であり、より好ましくはゴルフボールに使われる白である。特定部位表面は、極端に滑らかであったり粗かったりではなく、ゴルフボール程度のパターンに基づいた凹凸状態が望ましい。パターヘッドのフェースの加工、フェースのインサート、ロフト角、及びスイートスポットの設計といった項目は実施例1と同等が好ましい。
【実施例5】
【0020】
実施例5は
図17の様に半球状の特定部位604がパターヘッド602のクラウンから突出しているものである。半球状の特定部位604は半径21.335mmが最も好ましいが、真球ではなくても半径が変化した曲面でもよい。また半球状の特定部位604の位置は、スイートスポット607を通る打球方向の直上が好ましく、特定部位604が可能な限りフェースに近い方がより好ましい。特定部位604は好ましくは暗い色よりも明るい色であり、より好ましくはゴルフボールに使われる白である。特定部位表面は、極端に滑らかであったり粗かったりではなく、ゴルフボール程度のパターンに基づいた凹凸状態が望ましい。パターヘッドのフェースの加工、フェースのインサート、ロフト角、及びスイートスポットの設計といった項目は実施例1と同等が好ましい。
【実施例6】
【0021】
実施例6は
図18の様にパターヘッド702に突出した特定部位704を備えており、実施例3の特定部位404のフェース側とテール側を切り取った形状に近い。特定部位704は、複数あっても良いが、1つの方が好ましい。1つの場合は特定部位の位置は、スイートスポット707を通る打球方向の直上が好ましく、特定部位の天頂部が可能な限りフェース706に近い方がより好ましい。複数の場合は、打球線方向に対して対称の配置が望ましい。特定部位704は好ましくは暗い色よりも明るい色であり、より好ましくはゴルフボールに使われる白である。特定部位表面は、極端に滑らかであったり粗かったりではなく、ゴルフボール程度のパターンに基づいた凹凸状態が望ましい。パターヘッドのフェースの加工、フェースのインサート、ロフト角、及びスイートスポットの設計といった項目は実施例1と同等が好ましい。
【実施例7】
【0022】
実施例7は
図19の様に特定部位804がフェース806に隣接しておらず、パターヘッド802の中央部に貫通孔がある形状である。特定部位804はスイートスポット807を通る打球方向の直上が好ましいが、
図19の様にパターヘッド802中央付近に凹みや貫通孔を作ることはパターヘッド周辺に重量配分しパッティングの方向安定に寄与させる点からも妥当である。特定部位804は好ましくは暗い色よりも明るい色であり、より好ましくはゴルフボールに使われる白である。特定部位表面は、極端に滑らかであったり粗かったりではなく、ゴルフボール程度のパターンに基づいた凹凸状態が望ましい。パターヘッドのフェースの加工、フェースのインサート、ロフト角、及びスイートスポットの設計といった項目は実施例1と同等が好ましい。
【実施例8】
【0023】
実施例8は
図20の様に特定部位904がパターヘッド902形状と一体化したものである。実施例の特徴としては、従来のマレット型パターと似た形状を有しながらも特定部位904を備え容易にスイートスポット907とボールの理想打点109を整列できる事である。特定部位904は好ましくは暗い色よりも明るい色であり、より好ましくはゴルフボールに使われる白である。特定部位表面は、極端に滑らかであったり粗かったりではなく、ゴルフボール程度のパターンに基づいた凹凸状態が望ましい。パターヘッドのフェースの加工、フェースのインサート、ロフト角、及びスイートスポットの設計といった項目は実施例1と同等が好ましい。
【符号の説明】
【0024】
101・・・ゴルフボール、108・・・ボールの天頂、109・・・ボールの理想打点、200・・・パター、201・・・シャフト、202・・・パターヘッド、203・・・グリップ、204・・・特定部位、205、227、706、806・・・フェース、206,228・・・テール、207・・・スイートスポット、208・・・クラウン、209・・・ソール、210・・・トゥ、211・・・ヒール、220・・・試験片、220A・・・試験片を使用した試験において、特定部位に相当する試験片の部位、221・・・試験用パター(ピンタイプ)、222・・・シャフト部、231・・・試験用パター(フェースからテールまでが長いタイプ)、302・・・実施例2のパターヘッド、304・・・実施例2の特定部位、307・・・実施例2のスイートスポット、402・・・実施例3のパターヘッド、404・・・実施例3の特定部位、407・・・実施例3のスイートスポット、502・・・実施例4のパターヘッド、504・・・実施例4の特定部位、507・・・実施例4のスイートスポット、602・・・実施例5のパターヘッド、604・・・実施例5の特定部位、607・・・実施例5のスイートスポット、702・・・実施例6のパターヘッド、704・・・実施例6の特定部位、707・・・実施例6のスイートスポット、802・・・実施例7のパターヘッド、804・・・実施例7の特定部位、807・・・実施例7のスイートスポット、902・・・実施例8のパターヘッド、904・・・実施例8の特定部位、907・・・実施例8のスイートスポット
【0025】
特定部位を模した試験片を使った試験
特定部位の有効性を確かめる為、様々な種類の試験片220を準備した。試験片220は形状や表面の異なるものだが何れも表面を特定部位220Aとして見立て、試験用パターに組み込んだ。言うまでもなく、試験片220は試験用パター221のスイートスポットから特定部位220Aのボール天頂と高さを合わせる個所までの寸法が、高さ方向に21.335mmの位置関係になる様に備えられている。ゴルフ経験により物体に対しての距離感が養われ優れている可能性を考慮し、試験結果の偏りを避けるため、ゴルフ経験の無い10名の試験者に次の試験を行った。
【0026】
パッティングと似た
図7のような前傾姿勢を取ってもらい、眼球から1メートル程度先のボール101と特定部位220Aを備える試験片220を取り付けた試験用パター221を構えてもらった。試験用パター221のシャフト部222には
図8の様に固定用冶具223を宛がい、試験者の合図で試験用パター221を固定できる様に準備した。試験者には自由に浮きの量を調整してもらい、目視によりボールの天頂108と特定部位220Aが同じ高さになったと判断したところで試験用パター221を止め、試験者とは別の人員が試験用パター221を固定用冶具223の留め具224によって固定した。予めボールの天頂108の高さは
図8のように固定用冶具223に取り付けられた副尺付き物差し225に印226が付けられており、試験片220と印226の関係を計測すればどの程度ボール天頂108に対して整列されたかを正確に測る事ができるようにした。水平器を付けた渡し板を用意し、特定部位220Aから渡し板を水平に架けて、副尺付き物差し225を読み計測をする。このときの計測値は、特定部位220Aが固定冶具223に付けられた印226に対して、高かった場合も低かった場合も絶対値として扱う事とした。
【0027】
10名夫々には10回の計測試験を行ってもらい、ボール天頂108の高さに付けられた印226と試験片220の距離を計測し平均値を算出した。このときのボール101と試験用パター221の位置関係は、アドレスのときに一般的に多く用いられる位置関係の、フェース227とボール101がほぼ接した状態とした。尚、試験片220にはA、B、C、D、E、F、Gの7つを準備し夫々に試験を行った。試験は一般的にゴルフ競技が開催される程度の明るさの晴れの屋外にて実施した。試験結果は
図10の通りである。尚、試験片Aを備えた状態の試験用パターはパターヘッド200に相当する。
【0028】
試験結果には程度の差はあるが何れの場合も0.8mmまでに収まり高さを整列させる効果は十分に良好との結果を得る事ができた。また、7種類の試験片を用いた事で、本願発明は特定部位の色、模様、凹凸具合及び形状に依存することなく一定水準の整列効果を持っているものと判断する事ができる。
【0029】
試験結果から
図1から
図5で示すようなボールと同程度の半径(21.335mm)の円柱の一部形状を含むもので、試験片Aのような形状で特定部位の陰の発生具合がボールと同等になるものは、より高さの整列を行いやすく好適な事例であると言える。但し、本事例は本願発明を限定するものでは無い。
【0030】
合わせて、試験結果の良好だった試験片Aを用いて、特定部位220Aとボールの天頂108を整列する際にどの程度の距離まで十分な整列効果を発揮するかを測定する。フェース227とボールの理想打点109が基本的には距離が0mmとして、
図9の様にフェース227から試験片220の寸法をLとする。Lの有効範囲の計測を行った。
【0031】
今回の計測は
図9のようなフェース227からテール228まで寸法の長い試験用パター231に試験片Aを特定部位として取り付けLの値を段階的に大きくして試験を行った。試験結果は
図11の通りで、Lの値が0mmに近いほど結果は良く150mmの結果では試験者全員の平均値が1.82mmとなった。
【0032】
図12の詳細は後述となるが、
図12の試験はボールを本願発明を施したピンタイプパターと標準的なピンタイプパターで実際にパッティングしたときの結果を記載している。
図12の「試験項目1」の「ショットマークに施した印よりズレた距離の平均値」の「標準的なピンタイプパター」の項目では、10名の平均値は1.46mmとなっており、
図11の本願発明のLの値が150mmの試験より結果がよく、Lの値が150mmになった場合はかえって整列効果が下がったと言える。この結果からLの値は125mmまでが十分に効果を発揮できる値と判断する事が出来た。
【0033】
実際のパッティングの効果の試験として、標準的なパター形状のピンタイプパターと本願発明の特定部位を設けたピンタイプパターを用意し、次の2つ項目を同時に試験した。尚、2つの試験にはゴルフ巧者10名(ハンディキャップ0から9)に参加して貰った。試験は、フェース227にショットマークを張り付け、ボールインパクト時に試験者がフェースのどの場所にボール101が当たったのかが分かる状態にして行った。ショットマークとはゴルフクラブのフェースに一時的に張り付けるゴルフ用品で、感圧紙の裏側が粘着シートになっており、ボールがフェースに当たった場所が変色し、打痕が残るもので一般に販売されている。
【0034】
試験方法は、ボール10球をパッティンググリーンにて、10メートルの距離からホール(カップ)に向かってパッティングを行って貰い、ピンタイプパターと特定部位を設けたピンタイプパターの2本にてどの様な違いが出るかを確認した。
【0035】
試験項目1 スイートスポットへのボール打痕の収束性試験
試験対象の2本のパターにはショットマークを貼った後、スイートスポットに収束すべき個所として印を付けた。前記の通り本願発明のパターは、パターヘッドに特定部位が取付られている状態となっている。尚、発明の目的はゴルフボールとパターの高さの整列なので、ズレた量のうちトゥヒール方向にズレた量は無視し、上下方向の値のみを抽出した。試験結果は
図12の試験項目1の通りである。試験結果からも明らかな通り、打痕は10名全員が特定部位を設けたピンタイプパターの方が上下方向(浮き量)に纏まってた。これは、スイートスポットに競技者が容易にアドレスでき、正確に意図した場所で打つ事を補助したと言える。
【0036】
試験項目2 ボールの到達地点に対する残り距離測定試験
さらに、ボールの行方から実際に行ったパッティングの結果の評価を行った。狙ったホール(カップ)の淵から計測し、夫々のボールがどれだけ距離を残したのか1センチメートル単位の端数切り上げ(1.5センチメートルは2センチメートル)で合計を算出し、10球の平均距離を求めた。
試験結果は同
図12の試験項目2の通りである。
【0037】
試験項目2は試験項目1のボールの打痕の纏まり具合と概ね比例して平均距離が短く、狙ったホール(カップ)に入った又は近づいた結果となった。従って特定部位を設けアドレス時の整列に活用した場合、パッティングにおいて良い結果が得られたと言える。尚、実施例の1~8のいずれも各試験結果と同等の良い結果を得る事ができた。
本願発明を用いたパターを使用すると、ゴルフ競技者はアドレスを行うときに、ボールの天頂と
図6の如くパターの特定部位を合わせる事で、容易にボールの理想打点とパターのスイートスポットを正しく整列する事ができた。既に述べた前提である、競技者の意図する距離をパッティングするための高さの整列を、本願発明は容易に実現した。