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  • 特許-炭素繊維シートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】炭素繊維シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06C 7/04 20060101AFI20230606BHJP
   D06B 15/09 20060101ALI20230606BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20230606BHJP
   D21H 13/50 20060101ALI20230606BHJP
   D06C 15/00 20060101ALI20230606BHJP
   D06B 15/02 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
D06C7/04
D06B15/09
D04H1/4242
D21H13/50
D06C15/00
D06B15/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019023300
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020133006
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大倉 良太
(72)【発明者】
【氏名】砂原 鉄弥
(72)【発明者】
【氏名】井上 幹夫
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-073715(JP,A)
【文献】特開2018-040099(JP,A)
【文献】特開2001-181064(JP,A)
【文献】特開2010-102879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00-18/04
D06B1/00-23/30
D06C3/00-29/00
D06G1/00-5/00
D06H1/00-7/24
D06J1/00-1/12
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維前駆体繊維および/または炭化可能な樹脂結着剤を含有する炭素繊維シート前駆体を複数枚積層した状態で熱処理炉を連続的に走行させる工程を有する炭素繊維シートの製造方法であって、
前記熱処理炉の内部で、前記複数枚の炭素繊維シート前駆体の層間に滞留する気体を排出する気体排出操作を行い、前記気体排出操作を、前記熱処理炉内における最高温度地点よりも下流側で、かつ前記熱処理炉内における前記炭素繊維前駆体繊維および/または炭化可能な樹脂結着剤の炭化反応により生じる分解ガスの発生が実質的になくなる地点よりも下流側で行うことを特徴とする炭素繊維シートの製造方法。
【請求項2】
前記気体排出操作が、前記複数枚の炭素繊維シート前駆体の層間に生じた間隙を圧潰する圧潰操作である、請求項1に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項3】
前記圧潰操作が、前記複数枚の炭素繊維シート前駆体の最上面に錘を載置する操作である、請求項2に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項4】
前記圧潰操作が、前記複数枚の炭素繊維シート前駆体の片面または両面から気体を吹き付ける操作である、請求項2に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項5】
前記圧潰操作が、前記複数枚の炭素繊維シート前駆体の片面または両面からガイド部材を押しつけながら走行させる操作である、請求項2に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項6】
前記複数枚の炭素繊維シート前駆体の片面または両面からガイド部材を押しつけながら走行させる際に、炭素繊維シート前駆体の屈曲を伴わない、請求項5に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項7】
前記圧潰操作により前記複数枚の炭素繊維シート前駆体間の間隙を0~3mmとする、請求項2~6のいずれかに記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項8】
前記気体排出操作を、前記熱処理炉の炉出口直前で行う、請求項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項9】
相対的に低温で熱処理を行う第1の熱処理炉と、相対的に高温で熱処理を行う第2の熱処理炉とを連続的に走行させる工程を有し、少なくとも前記第1の熱処理炉の内部で前記気体排出操作を行う、請求項1~のいずれかに記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項10】
前記第1の熱処理炉が、最高温度400~1000℃の熱処理炉であり、前記気体排出操作を、前記第1の熱処理炉内における最高温度地点よりも下流側で、かつ炉内温度が400℃を下回る地点よりも下流側で行う、請求項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項11】
前記第2の熱処理炉が、最高温度1600~3000℃の熱処理炉であり、前記第2の熱処理炉の内部でも前記気体排出操作を行う、請求項9または10に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項12】
前記気体排出操作を、前記第2の熱処理炉内における最高温度地点よりも下流側で、かつ炉内温度が1600℃を下回る地点よりも下流側で行う、請求項11に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項13】
前記炭素繊維シート前駆体が、炭化可能な樹脂結着剤を含有する炭素繊維の抄紙体である、請求項1~12のいずれかに記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項14】
前記炭素繊維シート前駆体が炭化可能な樹脂結着剤としてフェノール樹脂を含有する、請求項1~13のいずれかに記載の炭素繊維シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池、メタノール型燃料電池、リン酸型燃料電池等の燃料電池におけるガス拡散体や、不活性雰囲気の高温設備の断熱材として好ましく用いることができる炭素繊維シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池において発電反応が起こる膜-電極接合体を構成するガス拡散体としては、炭素短繊維を樹脂炭化物で結着したカーボンペーパー、炭素繊維を交絡させて形成した炭素繊維不織布、炭素繊維織物等の炭素繊維シートが用いられている。このような炭素繊維シートは、製造過程において高温の熱処理炉で熱処理する工程を有するが、熱処理炉の数が増えると、設備の導入や運転にかかる費用が高くなり、製造コスト上昇に直結する。
【0003】
このような問題に対して、特許文献1では、熱処理炉の一開口部に対し、搬送手段を上下複数段設け、複数枚を同時に熱処理することで生産性の向上が可能となる炭素繊維シートの連続的熱処理方法が記載されている。しかしながら特許文献1に記載の方法では、複数段の搬送手段を設けることで熱処理炉の炉内空間の高さが高くなったり、設備が複雑となり設備の導入費用が高くなったりする問題があった。更に、炉内空間の高さが高くなると、熱処理炉を加熱するために必要なエネルギーと、高温の熱処理炉自体の酸化を防止するために、熱処理炉の内部を不活性ガス雰囲気下に保つための不活性ガスの必要量が比例的に増加し、製造コストが依然として高い問題もあった。
【0004】
そこで、特許文献2では、炭素繊維シート前駆体を複数枚重ねて幅方向の端部を接合一体化し、複数枚の炭素繊維シート前駆体を同時に熱処理した後に、接合一体化された端部を切り落とし、複数枚に分割して炭素繊維シートを製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-147640号公報
【文献】特開2015-071508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載の方法では、複数枚の炭素繊維シートの層間に熱処理により発生した分解ガスが滞留し、熱処理炉の通過後に外部に漏洩する恐れがあった。
【0007】
本発明は、炭素繊維シートを複数枚積層した状態で熱処理する炭素繊維シートの製造方法において、熱処理炉内で発生した分解ガスの外部への漏洩を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、炭素繊維前駆体繊維および/または炭化可能な樹脂結着剤を含有する炭素繊維シート前駆体を複数枚積層した状態で熱処理炉を連続的に走行させる工程を有する炭素繊維シートの製造方法であって、熱処理炉の内部で、複数枚の炭素繊維シート前駆体の層間に滞留する気体を排出する気体排出操作を行うことを特徴とする炭素繊維シートの製造方法である。なお、「炭素繊維シート前駆体」は熱処理炉の通過中に十分な炭化が完了し、熱処理炉内で「炭素繊維シート」となるとも考えられるが、本発明の説明においては、厳密にどの時点で「炭素繊維シート前駆体」が「炭素繊維シート」となるかを議論する実益は乏しいため、本明細書においては熱処理炉内を走行中のものは全て「炭素繊維シート前駆体」と記述し、本発明の製造方法における最終的な製造物のみを「炭素繊維シート」と記述するものとする。
【0009】
炭素繊維シートを燃料電池のガス拡散体として用いる場合に、好適な電気伝導性や熱伝導性を保つためには、最終的な熱処理温度は1600℃以上であることが好ましい。熱処理温度が1600℃より低くなると、炭素繊維シートの黒鉛化度が低くなり、電気伝導性や熱伝導性が低くなる。また、熱処理温度を3000℃より高くすると、加熱のために莫大なエネルギーが必要になるとともに、炉に用いる炭素部材の消耗が進行しやすくなる。
【0010】
熱処理は、1つの熱処理炉で行うこともできるが、相対的に低温で熱処理を行う第1の熱処理炉と、相対的に高温で熱処理を行う第2の熱処理炉とで二段階で行う、すなわち、相対的に低温で熱処理を行う第1の熱処理炉と、相対的に高温で熱処理を行う第2の熱処理炉とを連続的に走行させる工程により行うことも好ましい。この場合、第1の熱処理炉の最高温度は400~1000℃であることが好ましく、第2の熱処理炉の最高温度は1600~3000℃であることが好ましい。このように二段階で熱処理を行う方法は、分解ガスが多く発生して炭化による収縮が進行する第1の熱処理炉と、燃料電池の電極として用いる場合に電池としての性能を保つために必要な第2の熱処理炉とを分離でき、第1の熱処理炉で発生した分解ガスが第2の熱処理炉に流れ込み固化析出することを防止できる。炭素繊維シート前駆体に含まれる炭化可能な樹脂結着剤の種類により異なるが、一般的には分解ガスは熱処理炉内の400~700℃の温度領域で発生しやすいため、二段階で熱処理を行う場合、後述する気体排出操作は少なくとも第1の熱処理炉の内部で行えばよいが、第2の熱処理炉の内部でも気体排出操作を行うことがより好ましい。
【0011】
本発明の炭素繊維シートの製造方法においては、炭素繊維前駆体繊維および/または炭化可能な樹脂結着剤を含有する炭素繊維シート前駆体を、複数枚積層した状態で熱処理炉を連続的に走行させる。
【0012】
炭素繊維前駆体繊維を含有する炭素繊維シート前駆体とは、熱処理により炭化可能な繊維により構成されたシートである。また、炭化可能な樹脂結着剤を含有する炭素繊維シート前駆体とは、炭素繊維、または炭素繊維前駆体繊維により構成されたシートに、繊維同士を結着させる等の目的のために、さらに熱処理により炭化可能な樹脂成分が付与されたシートである。本明細書においては、これらを総称して「炭素繊維前駆体繊維および/または炭化可能な樹脂結着剤を含有する炭素繊維シート前駆体」と記載する場合がある。
【0013】
炭素繊維前駆体繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)系繊維、ピッチ系繊維、レーヨン系繊維、フェノール系繊維、またはこれらを不融化処理して得られる耐炎繊維のいずれであってもよいが、炭素繊維前駆体繊維としてPAN系繊維またはピッチ系繊維を用いる場合に特に好適であり、PAN系繊維を用いる場合に最も好適である。炭素繊維としては、これらを炭化した繊維、すなわち、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維が挙げられる。
【0014】
特に好ましい態様において、炭素繊維シート前駆体は、炭化可能な樹脂結着剤を含有する炭素繊維または炭素繊維前駆体繊維の抄紙体である。このような抄紙体は、例えば、好適な長さに切断した炭素短繊維または炭素繊維前駆体繊維の短繊維を水中に均一に分散させ、網上に抄造し、抄造した短繊維シートをポリビニルアルコールの水系分散液に浸漬し、浸漬したシートを引き上げて乾燥させることによって得られる。ポリビニルアルコールは、短繊維同士を結着するバインダの役目を果たし、短繊維が分散した状態において、それらがバインダにより結着された状態の短繊維のシートが製造される。バインダとしては、他に、スチレン-ブタジエンゴム、エポキシ樹脂などを用いることが出来る。
【0015】
炭化可能な樹脂結着剤としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂や、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができるが、炭化収率が高い熱硬化性樹脂を用いるのが好ましく、中でもフェノール樹脂を用いるのがより好ましい。
【0016】
本発明の製造方法においては、炭素繊維シート前駆体は複数枚積層した状態で熱処理炉に導入されるが、この際積層する枚数は、均一な熱処理を行うため2~6枚が好ましく、2~4枚がより好ましい。なお、複数枚積層した状態とは、複数枚の炭素繊維シート前駆体同士が少なくとも一部分で重なるよう載置された状態を意味する。炭素繊維シート前駆体を複数枚積層した状態において、複数枚の炭素繊維シート前駆体は、両端部等一部で相互に固定されていても、固定されていなくてもよいが、固定されていない方が、焼成、走行による破壊が起こりにくいため好ましい。
【0017】
本発明においては、熱処理炉の内部で、積層された複数枚の炭素繊維シート前駆体の層間に滞留する気体を排出する気体排出操作を行うことを特徴とする。熱処理炉の内部で気体排出操作を行うことで、熱処理炉の内部で発生した分解ガスが熱処理炉の外側に漏れることを防止することができる。
【0018】
気体排出操作は、複数枚の炭素繊維シート前駆体の層間に生じた間隙を圧潰する圧潰操作であることが好ましい。圧潰操作は、圧潰操作完了直後の複数枚の炭素繊維シート前駆体間の間隙が0~3mmとなるよう行うことが好ましい。炭素繊維シート前駆体間の隙間が3mmより大きいと、炭素繊維シート前駆体間の間隙に滞留する分解ガスが多くなり、熱処理炉の外側に漏れ出る分解ガス量が多くなる。炭素繊維シート前駆体間の間隙が小さい方が滞留する分解ガスを少なく出来るため、間隙が0~1mmとなるよう圧潰操作を行うことがより好ましい。なお、ここでいう炭素繊維シート前駆体間の間隙とは、複数枚の炭素繊維シート前駆体間の距離の最大値を意味する。
【0019】
圧潰操作としては、特に限定されないが、複数枚の炭素繊維シート前駆体の最上面に錘を載置する操作、複数枚の炭素繊維シート前駆体の片面または両面から気体を吹き付ける操作、複数枚の炭素繊維シート前駆体の片面または両面からガイド部材を押しつけながら走行させる操作を挙げることができる。これらの実施形態については、後に図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
本発明において、気体排出操作は、熱処理炉内における最高温度地点よりも下流側で、かつ熱処理炉内における炭素繊維前駆体繊維および/または炭化可能な樹脂結着剤の炭化反応により生じる分解ガスの発生が実質的になくなる地点よりも下流側で行うことが好ましい。炭素繊維シート前駆体の、熱処理炉内のある地点における分解ガスの発生量は、熱処理炉内を走行中の炭素繊維シート前駆体を熱処理炉の炉入口より取り出し、取り出した炭素繊維シート前駆体を走行方向に100mm間隔になるよう100mm四方に切り出したサンプルを作製し、1つ上流側、すなわち100mm上流側のサンプルの重量との差として求めることができる。本明細書においては、100mm上流側のサンプルの重量との差が0.2%を下回った地点を分解ガスの発生が実質的になくなる地点と定義する。
【0021】
前述のように二段階で熱処理を行う場合において、最高温度400~1000℃の第1の熱処理炉で気体排出操作を行う場合、前述の通り、少なくとも熱処理炉内の最高温度地点よりも下流側で、かつ、熱処理炉内における炭素繊維前駆体繊維および/または炭化可能な樹脂結着剤の炭化反応により生じる分解ガスの発生が実質的になくなる蓋然性の高い、炉内温度が400℃を下回る地点よりも下流側で気体排出操作を行うことがより好ましい。また、最高温度1600~3000℃の第2の熱処理炉で気体排出操作を行う場合も、第1の熱処理炉と同様に、少なくとも熱処理炉内の最高温度地点よりも下流側で、かつ、熱処理炉内における炭素繊維前駆体繊維および/または炭化可能な樹脂結着剤の炭化反応により生じる分解ガスの発生が実質的になくなる蓋然性の高い、1600℃を下回る地点よりも下流側で気体排出操作を行うことがより好ましい。
【0022】
また、分解ガスの発生が実質的になくなる地点よりも確実に下流側で気体排出操作を行うため、気体排出操作は熱処理炉の炉出口直前で行うことも好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、炭素繊維シート前駆体を複数枚積層した状態で熱処理して炭素繊維シートとする場合においても、熱処理炉内で発生した分解ガスの外部への漏洩を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】炭素繊維シート前駆体の最上面に錘を載置する方法の例を示す、熱処理炉の断面模式図である。
図2】炭素繊維シート前駆体の片面から気体を吹き付ける方法の例を示す、熱処理炉の断面模式図である。
図3】炭素繊維シート前駆体の片面からガイドを押しつけながら走行させる方法の例を示す、熱処理炉の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施形態を、図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、また個々の実施形態の説明の中での好ましい材料や数値範囲等の記載は、同時に上位概念としての本発明の製造方法の説明と解釈し得るものである。
【0026】
図1図3は、本発明の炭素繊維シートの製造方法を説明するために、熱処理炉および熱処理炉内を走行中の炭素繊維シート前駆体を、進行方向の断面模式的として示した図である。
【0027】
本実施態様において、熱処理炉100は、炭素繊維シート前駆体21/22を熱処理温炉の内部で水平方向に搬送することが可能な熱処理炉、つまり横型炉である。
【0028】
炭素繊維シート前駆体21/22と熱処理炉100自体の酸化を防止するため、熱処理炉100の内部は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下に保つことが好ましい。
【0029】
熱処理炉100を構成する素材は炭素、金属、セラミックスを用いることが可能であるが、安価であることから炭素、金属が好ましく、1000℃以上となる部分は、化学的安定性が高いことから、炭素、中でも黒鉛がより好ましい。
【0030】
熱処理炉100は、炭素繊維シート前駆体21/22を2枚積層した状態で炉内空間101を連続的に走行させることで、炭素繊維シート前駆体21/22を熱処理し、炭素繊維前駆体繊維および/または炭化可能な結着樹脂を炭化させて、炭素繊維シート11/12とするものである。
【0031】
熱処理炉100には、炭素繊維シート前駆体21/22が通過する炉内空間101が貫通して設けられている。炉内空間101の開口部の一方(図1にいては左側の開口部)が熱処理炉の入口(以下、炉入口という)105、他方(図1にいては右側の開口部)が熱処理炉の出口(以下、炉出口)106となっている。炉内空間101は、炉入口105から最高温度地点へと昇温していき、そこから炉出口106へと降温していく。炭素繊維シート前駆体21/22は炉入口105より炉内に進入し、マッフル下壁103上に設けられた炉床104上を引きずられながら炉出口106に向かって、炉内空間101内を連続的に移動するとともに、熱処理により炭化が進行する。
【0032】
熱処理炉内で発生した分解ガスが炉内に滞留し固化析出または液状化し、熱処理炉内のマッフル上壁102や炉床104に付着することを防ぐため、熱処理炉100には排気口108が設けられている。
【0033】
熱処理炉100は、炭素繊維シート前駆体21/22を最高温度1600℃~3000℃で熱処理して、一段階で炭素繊維シート11/12とする炉であってもよいが、前述の通り、炭素繊維シート前駆体21/22を最高温度400~1000℃で加熱する炉であってもよく、この場合、当該熱処理炉が第1の熱処理炉となり、最高温度1600~3000℃で熱処理する第2の熱処理炉をさらに設けることができる。
【0034】
図1に示す実施形態おいては、熱処理炉100内を走行中の炭素繊維シート前駆体21/22上に、気体排出操作を行うための手段として、炭素繊維シート前駆体21と22の間に生じた間隙を圧潰する錘210が載置されている。
【0035】
このような錘210は熱処理炉100内で分解を起こさない材料であれば良いが、熱処理炉の内部での耐久性・耐熱性の高い炭素材料から構成されるものであることが好ましい。
【0036】
錘210は、炉内空間の高さを低くするためシート状物であることが好ましい。錘210としては、炭素繊維からなる不織布もしくは織物、炭素からなるシート等が好適に用いられる。炭素繊維で作られた不織布としては、炭素繊維化可能なポリアクリロニトリル(PAN)繊維を空気中で200~300℃に加熱することによって得られるPAN耐炎糸を不織布化し、熱処理して炭素化することにより得られる不織布などを用いることが出来る。炭素繊維で作られた織物としては、炭素繊維の長繊維からなる織物や、PAN耐炎糸の長繊維の織物を炭素化して得られる織物や、PAN耐炎糸の紡績糸の織物を炭素化して得られる織物などを用いることができる。炭素からなるシートとしては、膨脹黒鉛シートなどを用いることができる。耐久性やハンドリング性の観点から、錘210は炭素繊維の織物であることが好ましく、耐摩耗性からPAN耐炎糸の紡績糸織物を炭素化した炭素繊維織物であることがより好ましい。
【0037】
シート状の錘の目付は、複数枚の炭素繊維シートの最上面に載置した際に炭素繊維シートが重さによって変形する目付であればよいが、一般的な炭素繊維シートの剛性から錘の目付は50~800g/mであることが好ましい。目付が50g/m未満の場合は、炭素繊維シートを変形させるのに十分な荷重を付与できない場合がある。また、目付が800g/mを超えると、錘210を複数枚の炭素繊維シートの最上面に載置した際に、錘210の自重により炭素繊維シートに摩擦力がかかり、炭素繊維シートに切れ目や欠けが発生しやすくなる。錘210の目付は、200~600g/mであることがより好ましい。
【0038】
錘210の幅は、複数枚の炭素繊維シート前駆体21と22の間に生じた間隙を全幅にわたって圧潰するために炭素繊維シート前駆体21/22の幅と同等もしくは広幅であることが好ましく、炭素繊維シート前駆体21/22の幅よりも極端に狭くなければ特に限定されないが、炭素繊維シート前駆体21/22の幅の0.8~1.5倍の範囲であることが好ましい。錘210の幅が炭素繊維シート前駆体21/22の幅の1.5倍より大きいと、錘210の幅の分だけ熱処理炉100の幅を広げる必要がある。錘210の幅が0.8倍より小さいと、錘210により荷重を付与されない炭素繊維シート前駆体21/22の端部で複数枚の炭素繊維シート前駆体21および22の間に間隙が生じ、発生した分解ガスが排出されにくくなる。錘210の幅は、炭素繊維シート前駆体21および22の1.0~1.3倍の範囲であることがより好ましい。
【0039】
本実施形態において、錘210は、錘固定部材211により炉内空間101内に留まって継続的熱処理炉内で炭素繊維シート前駆体21/22に接触するように固定されている。固定方法は特に限定されるものではなく、炭素繊維シート前駆体12/22の熱処理中に錘210が大きく動かなければよい。
【0040】
図2は、気体排出操作を行うための手段として、炭素繊維シート前駆体21の上面から気体を吹き付けるためのエアノズル220が設けられている。エアノズル220は圧縮機221と接続されており、圧縮機221により圧縮された気体がエアノズル220から炭素繊維シート前駆体21/22の上面に吹き付けられるよう構成されている。なお、それ以外の部分は図1と同様であるため、説明を省略する。本実施形態においては、炭素繊維シート前駆体21の上面から気体を吹き付けることで、炉内空間101を走行中の炭素繊維シート前駆体21と22の間に生じた間隙を圧潰することが出来る。
【0041】
エアノズル220から吹き付ける気体は、炭素繊維シート前駆体21/22や熱処理炉100の酸化を防止するため、窒素やアルゴン等の不活性ガスであることが好ましい。
【0042】
エアノズル220から吹き付ける気体の流量は、吹き付け幅当たり0.3~3L/分/mmであることが好ましい。吹き付ける気体の流量が0.3L/分/mmより小さいと、炭素繊維シート前駆体を変形させるのに風圧が不足する場合がある。吹き付ける気体の流量が3L/分/mmより大きいと、炭素繊維シート前駆体自体を破壊したり、炭素繊維シート前駆体の表面を破壊したりする可能性がある。吹き付ける気体の流量は0.5~2L/分/mmであることがより好ましい。
【0043】
エアノズル220から気体を吹き付ける角度は、炭素繊維シート前駆体21/22の走行方向に対して45~90°であることが好ましく、60~90°であることがより好ましい。また、吹き付ける気体の幅は、複数枚の炭素繊維シートの間に生じた間隙を全幅にわたって圧潰するために炭素繊維シート前駆体21/22の幅と同等もしくは広幅であることが好ましく、炭素繊維シート前駆体21/22の幅の0.8~1.2倍の範囲であることが好ましい。
【0044】
図3は、気体排出操作を行うための手段として、炭素繊維シート前駆体21/22の両面からローラーを押し付けるガイド部材230が設けられている。なお、それ以外の部分は図1と同様であるため、説明を省略する。本実施形態においては、炭素繊維シート前駆体21/22の両面からガイド部材230を押しつけながら走行させることで、炉内空間101を走行中の炭素繊維シート前駆体21と22の間に生じた間隙を圧潰することが出来る。
【0045】
ガイド部材230を構成する素材は炭素、金属、セラミックスを用いることが可能であるが、安価であることから炭素または金属が好ましく、1000℃以上で使用する場合は、化学的安定性が高い炭素が特に好ましい。
【0046】
ガイド部材230は複数枚の炭素繊維シート前駆体の間に生じた間隙を圧潰できれば形状は特に問わないが、走行方向に屈曲を伴わない形状が、炭素繊維を炭素化可能な樹脂結着剤で結着された炭素繊維シートの場合、結着箇所にクラックを生じたり、シワや割れなどの損傷を受けたりしにくいため好ましい。
【0047】
図3に示す実施形態では、ガイド部材230において炭素繊維シート前駆体21/22と接する部品はローラーである。炭素繊維シート前駆体21/22と接する部品は必ずしもローラーのような円形断面部材である必要はないが、シートが急角度でガイドと接触するのを防止するため、炭素繊維シート前駆体21/22と接する面の全部または一部に曲面加工が施されていることが好ましい。
【符号の説明】
【0048】
11 上側の炭素繊維シート
12 下側の炭素繊維シート
21 上側の炭素繊維シート前駆体
22 下側の炭素繊維シート前駆体
100 熱処理炉
101 炉内空間
102 マッフル上壁
103 マッフル下壁
104 炉床
105 熱処理炉の入口
106 熱処理炉の出口
107 熱源
108 排気口
210 錘
211 錘固定部材
220 エアノズル
221 圧縮機
230 ガイド部材
図1
図2
図3