(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】プラスチック光ファイバおよびプラスチック光ファイバコード
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20230606BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20230606BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20230606BHJP
A61B 1/07 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
G02B6/02 391
G02B6/036
G02B6/44 321
A61B1/07 732
(21)【出願番号】P 2019510383
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2019005070
(87)【国際公開番号】W WO2019171894
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2018038198
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018137363
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松葉 聡
(72)【発明者】
【氏名】梅原 正明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎二
(72)【発明者】
【氏名】小島 英樹
(72)【発明者】
【氏名】澤村 泰司
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-209487(JP,A)
【文献】特開平11-153718(JP,A)
【文献】特開2006-195078(JP,A)
【文献】特開2013-041060(JP,A)
【文献】特開2011-221450(JP,A)
【文献】特開2003-139971(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0127019(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02- 6/036
G02B 6/44
A61B 1/00- 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、少なくとも1層のクラッドとからなるプラスチック光ファイバであって、最内層のクラッドの曲げ弾性率が20~50MPaであ
り、
最内層のクラッドが
ヘキサフルオロプロピレン 17~25重量%
テトラフルオロエチレン 49~70重量%
弗化ビニリデン 14~30重量%
パーフルオロアルキルビニルエーテル 2~7重量%
を共重合成分とする共重合体からなり、かつ、テトラフルオロエチレンと弗化ビニリデンとの合計重量に対するヘキサフルオロプロピレンの重量の割合が、0.250~0.360であることを特徴とするプラスチック光ファイバ。
【請求項2】
最内層のクラッドのガラス転移温度が-50℃~20℃であり、かつ、最内層のクラッドの30℃における貯蔵弾性率が1×10
6Pa~4×10
7Paであることを特徴とする
請求項1に記載のプラスチック光ファイバ。
【請求項3】
前記クラッドが、弗素組成重量率が70~74%の共重合体からなり
、開口数(NA)が0.60~0.65である請求項1
または2に記載のプラスチック光ファイバ。
【請求項4】
前記開口数(NA)が0.62~0.65である請求項
3記載のプラスチック光ファイバ。
【請求項5】
前記クラッドの外側にさらに一層以上のクラッドを有し、最表層のクラッドが、
エチレン10~35重量%、
テトラフルオロエチレン45~69重量%、
ヘキサフルオロプロピレン20~45重量%、及び、式(1)
CH
2=CX
1(CF
2)
nX
2 (1)
(式中、X
1はフッ素原子又は水素原子を示し、X
2はフッ素原子、水素原子又は炭素原子を示し、nは1~10の整数である。)
で示されるフルオロビニル化合物0.01~10重量%
を共重合成分とする共重合体からなる請求項1~
4のいずれかに記載のプラスチック光ファイバ。
【請求項6】
コアがメチルメタクリレートを主成分とする重合体である請求項1~
5のいずれかに記載のプラスチック光ファイバ。
【請求項7】
前記プラスチック光ファイバが内視鏡用途、眼科手術用途、または、カテーテル用途であることを特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載の医療機器照明用プラスチック光ファイバ。
【請求項8】
前記内視鏡が、その観察プローブを胆管あるいは膵管に挿入することができる内視鏡である請求項
7記載の医療機器照明用プラスチック光ファイバ。
【請求項9】
請求項1~
6のいずれかに記載のプラスチック光ファイバの外層に、少なくとも1層の被覆層を設けたプラスチック光ファイバコード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性、耐熱性、耐環境性などに優れ、しかも耐屈曲性に非常に優れたプラスチック光ファイバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光ファイバは加工性、取り扱い性、製造コストなどの面でガラス系光ファイバに比べて優れているので、短距離の光信号伝送、ライトガイドなどに使用されている。
【0003】
特に、医療用途で使用される内視鏡照明用プラスチック光ファイバでは、複雑な構造を持つ体内器官を通過させるために、可とう性や繰り返し屈曲に対する耐久性が要求される。また、ロボット用導光センサーや、工業機器用光電センサーにおいても、曲げ駆動部が大きいので、優れた屈曲性が要求される。
【0004】
プラスチック光ファイバは、通常コアとクラッドとの2層より構成されており、コアにはポリメチルメタクリレート(以下、PMMAと略す)に代表されるように、透明性に優れ耐候性の良好な重合体が一般に使用される。一方、クラッドとしては、コア内部に光を閉じ込めておくために、コアよりも低屈折率であることが必要であり、弗素含有重合体が広く使用されている。
【0005】
プラスチック光ファイバが可とう性や繰り返し屈曲に対する耐久性を有するには、このクラッドが柔軟性を有していることが重要であり、これによりクラッドにひびが入ったり破断したりせず、コア/クラッド間の界面不整によって引き起こされる伝送損失の上昇も抑制される。
【0006】
弗素含有重合体として代表的な材料であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、可とう性を持った材料であり、耐薬品性や耐熱性を有しているが、プラスチック光ファイバに適用するにはその結晶性により不透明となることが問題となる。そのため、通常は透明性を確保するために2種類以上の弗素系材料を用いた共重合体が用いられる。
【0007】
クラッド用の弗素含有重合体としては、一般的に下記のものが多く使用されている。
(1)弗化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体(特許文献1)、弗化ビニリデン/ヘキサフルオロアセトン共重合体(特許文献2)などの弗化ビニリデン系共重合体をクラッドに用いたプラスチック光ファイバ。
(2)フルオロアルキルメタクリレートとメチルメタクリレ-トとの共重合体(特許文献3)をクラッドに用いたプラスチック光ファイバ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭63-67164号公報
【文献】特開昭61-22305号公報
【文献】特公昭43-8978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これら従来の弗素含有重合体を用いてプラスチック光ファイバを製造した場合、可とう性や繰り返し屈曲に対する耐久性が要求される用途では、強度特性が十分でなかったり、界面不整による伝送損失の低下が生じたりする問題が生じた。
【0010】
本発明の主な目的は、透光性、耐熱性、耐環境性などに優れ、しかも耐屈曲性に非常に優れたプラスチック光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、コアと、少なくとも1層のクラッドとからなるプラスチック光ファイバであって、最内層のクラッドの曲げ弾性率が20~50MPaであり、
最内層のクラッドが
ヘキサフルオロプロピレン 17~25重量%
テトラフルオロエチレン 49~70重量%
弗化ビニリデン 14~30重量%
パーフルオロアルキルビニルエーテル 2~7重量%
を共重合成分とする共重合体からなり、かつ、テトラフルオロエチレンと弗化ビニリデンとの合計重量に対するヘキサフルオロプロピレンの重量の割合が、0.250~0.360であることを特徴するプラスチック光ファイバである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透光性、耐熱性、耐環境性などに優れ、しかも耐屈曲性に非常に優れたプラスチック光ファイバが提供可能となる。これにより、医療用途の照明や工業用センサー用途に好適な曲げ特性を有したプラスチック光ファイバを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るプラスチック光ファイバおよびそれを含むプラスチック光ファイバコードの好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0014】
本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバは、コアと、少なくとも1層のクラッドとからなるプラスチック光ファイバであり、最内層のクラッドの曲げ弾性率が20~70MPaであることを特徴とする。また、本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバは、コアと、少なくとも1層のクラッドとからなるプラスチック光ファイバであり、最内層のクラッドのガラス転移温度が-50℃~10℃で、且つ、最内層のクラッドの30℃における貯蔵弾性率が1×106Pa~4×107Paである。
【0015】
(コア)
本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバにおいて、コアをなす重合体(ポリマー)としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート主体の共重合体(例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、置換スチレン、N-置換マレイミドなどを共重合したもの)、あるいはそれらを高分子反応したグルタル酸無水物、グルタルイミドなどの変性重合体などが挙げられる。好ましく用いられる重合体は、メチルメタクリレートを主成分とする重合体、すなわち、ポリマーを構成する繰り返し単位の50モル%以上、好ましく70モル%以上、より好ましく90モル%以上、がメチルメタクリレートに由来する重合体である。
【0016】
なお、(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレ-ト、t-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ボルニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレートなどが挙げられ、置換スチレンとしては、スチレン、メチルスチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられ、N-置換マレイミドとしては、N-イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-o-メチルフェニルマレイミドなどが挙げられる。
【0017】
これら共重合成分は、複数で用いても良く、これら以外の成分を少量使用してもよい。また、耐酸化防止剤などの安定剤が透光性に悪影響しない量だけ含まれていても構わない。これらの重合体の中で、実質的にPMMAであることが、生産性、透光性、耐環境性などの点から最も好ましい。
【0018】
(クラッド)
本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバにおいて、最内層のクラッドは、その曲げ弾性率が20~70MPaであり、または、最内層のクラッドは、そのガラス転移温度が-50℃~10℃で、かつ、30℃における貯蔵弾性率が1×106Pa~4×107Paである。ここで最内層のクラッドとは、クラッドを1層有する場合は当該クラッドを指し、クラッドが複数層で形成される場合は、その中で最も内側に位置するクラッドを指す。
【0019】
なおここで、「クラッドの曲げ弾性率」の意味は、当該クラッドを構成する重合体の曲げ弾性率の意味であり、後述する方法に拠って求められる。また、「クラッドのガラス転移温度」の意味は、当該クラッドを構成する重合体のガラス転移温度の意味であり、「クラッドの30℃における貯蔵弾性率」の意味は、当該クラッドを構成する重合体の30℃における貯蔵弾性率の意味であり、後述する方法に拠って求められる。なお、本発明において重合体の意味は、目的に応じて、重合体の混合物とする態様や他の成分を含有した態様(重合体組成物)とする意味を含む。
【0020】
最内層のクラッドの曲げ弾性率は、20~70MPaの範囲であり、好ましくは20~50MPaである。20MPa未満であると、クラッドが柔らかくなりすぎて、クラッドが傷つきやすくなる。また、70MPaより大きいと、クラッドが硬くなり、曲げ状態の透光損失が悪化する。
【0021】
一般に、医療用途で使用されるプラスチック光ファイバは、体内の細部まで先端を精密に駆動させながら進むため、可とう性や繰り返し屈曲に対する耐久性を有することが非常に重要である。最内層のクラッドの曲げ弾性率が20~70MPaの範囲にあることで、それらの特性を満足することができる。なお、曲げ弾性率は、ASTM D790により、測定された値である。ASTM D790の代表的な試験片としては、サイズが127mm×13mm×3.1mmのものを使用する。ASTM D790の測定単位はkg/cm2とし、曲げ弾性率は、応力-曲げ変位曲線において応力印加初期のもっとも傾斜が大きくなった箇所での傾き、すなわち当該箇所での接線、から求める。
【0022】
また、医療用途で使用されるプラスチック光ファイバは、体内に投入した場合に人間の体温より若干低い30℃付近の温度となる。そのため、特にこの温度付近において可とう性や繰り返し屈曲に対する耐久性を有することが重要である。その際、クラッドとコア材料との密着性を確保するには、クラッドにゴム弾性を有していることが重要であり、そのため、最内層のクラッドのガラス転移温度は30℃以下であることが好ましく、20℃以下であることが特に好ましい。また、クラッドの低融点化を抑えるために-50℃以上であることが好ましい。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、JIS K 7121-1987に記載された方法で、昇温レートを10℃/minにて測定することにより得られる。
【0023】
また、最内層のクラッドの30℃における貯蔵弾性率は1×106Pa~4×107Paであることが可とう性を有する点で好ましく、1×107Pa~4×107Paであることがさらに好ましい。30℃における貯蔵弾性率を1×106Pa以上にすることにより、クラッドの粘着性が増加してファイバどうしが接着することを防ぎ、被覆層を被覆するときの加工性も向上させることができる。30℃における貯蔵弾性率を4×107Pa以下にすることにより、クラッドの柔軟性が向上し、曲げたときにクラッドにひびが入ったり破断が起きやすくなることを防ぐ。さらに、コアとクラッド間の界面不整も生じにくく、プラスチック光ファイバを曲げたときの伝送損失が上昇することも防ぐ。
【0024】
また、プラスチック光ファイバの周囲温度変化の影響を受けなくするためにも、最内層のクラッドの25℃~40℃における貯蔵弾性率が1×106Pa~4×107Paであることが好ましく、15℃~70℃における貯蔵弾性率が1×106Pa~4×107Paであることがさらに好ましい。
【0025】
また、最内層以外のクラッドにおいても、上述した範囲の貯蔵弾性率を有していることが好ましい。すなわち、最内層以外の層の任意の層のクラッドの30℃における貯蔵弾性率は1×106Pa~4×107Paであることが好ましく、1×107Pa~4×107Paであることがさらに好ましい。また、25℃~40℃における貯蔵弾性率が1×106Pa~4×107Paであることが好ましく、15℃~70℃における貯蔵弾性率が1×106Pa~4×107Paであることがさらに好ましい。
【0026】
なお、貯蔵弾性率は、測定対象のクラッドの層を構成する重合体の試料を用いてプレス成形機にて210℃で5分加熱した後、室温へ冷却して、サイズ2.5cm×0.4cm、厚さ1.4mmの試験片に成形した後、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いてJIS K 7161-1994記載の引張試験法により測定された値である。
【0027】
本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバは、さらに、30℃におけるコアと最内層のクラッドとの線膨張係数の差が0.1×10-4~3.0×10-4/℃であることが好ましい。これにより、微小な温度変化によるコアとクラッドの界面ひずみが抑制され、コアとクラッドの密着性も保たれる。なお、線膨張係数は、測定対象のクラッドの層を構成する重合体の試料を用いてプレス成形機にて210℃で5分加熱した後、室温へ冷却して、サイズ2.5cm×0.4cm、厚さ5mmの試験片に成形した後、熱分析装置(TMA)を用いてJIS K 7197-1991記載の圧縮モードでの測定方法により測定された値である。
【0028】
一般に、弗化ビニリデン系共重合体は、PMMAなどメチルメタクリレートを主成分とする重合体との相溶性が良いため、これらをクラッドに用いたPOF(プラスチックオプティカルファイバー)は、コアとの界面密着性が良く機械特性も良好である。しかしながら、それら弗化ビニリデン系共重合体はいずれも結晶性の重合体であるため、弗化ビニリデン組成が実質的に70~85モル%と限られた範囲内でしか無色透明性を示さない。また、弗化ビニリデン系共重合体をクラッドに用いたPMMA系のPOFの開口数は0.50前後であり、開口数アップは望めない。そこで、開口数の高いPOFを得るためには、さらに屈折率の低い弗素含有率の高いモノマーを共重合する必要がある。
【0029】
そこで、本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバにおいて、最内層のクラッドは、少なくとも、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンおよび弗化ビニリデンの3種を共重合成分とする共重合体からなることが好ましい。弗化ビニリデンとテトラフルオロエチレンの共重合体は透明性が高く、さらにヘキサフルオロプロピレンを成分として含むことによって結晶性を抑えることができるので、可とう性を付与することができる。これにより、開口数が高く透光性に優れ、柔軟なプラスチック光ファイバを製造できる。
【0030】
最内層のクラッドを構成する樹脂において弗化ビニリデンの含有率は、10~35重量%であることが好ましく、14~30重量%であることがより好ましく、14~25重量%であることがさらに好ましい。弗化ビニリデンが10重量%以上であると、コアとの界面密着性が良くなり、透光性が向上する。また、35重量%以下であると、弗素含有率の割合が増えるため、クラッドの屈折率が低くなり、高い開口数(高NAとも称する)が得られる。
【0031】
最内層のクラッドは、上記3種の含フッ素モノマーを共重合成分とする共重合体からなることが好ましいが、さらにもう1種類の含フッ素モノマーを含めた、4種を共重合成分とする共重合体とすることで、透明性を維持しつつ、高NAで柔軟性を有したプラスチック光ファイバを得ることができる。
【0032】
本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバ最内層のクラッドは、最内層のクラッドを構成する樹脂を得るモノマー成分の総量を100重量%としたとき、
ヘキサフルオロプロピレン 10~30重量%
テトラフルオロエチレン 45~75重量%
弗化ビニリデン 10~35重量%
パーフルオロアルキルビニルエーテル類 1~10重量%
から得られる共重合体からなることが好ましい。また、弗素組成重量率は70~74%であることがさらに好ましい。この範囲の組成とすることで、プラスチック光ファイバの開口数(NA)を0.60~0.65とすることが簡便にでき、コア/クラッド界面での臨界角が大きいために曲げによる光量損失を小さくすることができる。また、PMMAを代表とするコア材料への密着性が良好であり、耐屈曲性などの機械特性、低粘着性、耐熱性を両立したバランス良いプラスチック光ファイバ特性が得られる。
【0033】
本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバ最内層のクラッドは、最内層のクラッドを構成する樹脂を得るモノマー成分の総量を100重量%としたとき、
ヘキサフルオロプロピレン 17~25重量%
テトラフルオロエチレン 49~70重量%
弗化ビニリデン 14~30重量%
パーフルオロアルキルビニルエーテル類 2~7重量%
から得られる共重合体であることがより好ましい。またクラッドの弗素組成重量率が71~74%であることがより好ましく、プラスチック光ファイバの開口数(NA)が0.61~0.65であることがより好ましい。さらに好ましくNAは0.62~0.65である。さらに好ましくは0.62以上である。
【0034】
また更に、テトラフルオロエチレンと弗化ビニリデンの合計重量に対するヘキサフルオロプロピレンの重量の割合が、0.250~0.360であることが好ましい。ヘキサフルオロプロピレンは側鎖にトリフルオロメチル基を有しているため、共重合体においては主鎖どうしの分子間力が弱める効果がある。このヘキサフルオロプロピレンの重量の割合を0.250以上にすることにより、クラッドに柔軟性が付与されるため、コアとの密着性が良くなり、曲げに対して強くなる。また、ヘキサフルオロプロピレンの割合を0.360以下とすることにより、クラッドの粘着性が増すことや、低融点化して耐熱性が低下することを抑制できる。テトラフルオロエチレンと弗化ビニリデンの合計重量に対するヘキサフルオロプロピレンの重量の割合としてより好ましい範囲は0.260~0.300であり、さらに好ましい範囲は0.270~0.290である。上記のように最内層のクラッドを構成する樹脂の組成を好ましく調整することによって、最内層のクラッドのガラス転移温度が10℃以下であり、30℃における貯蔵弾性率が1×106Pa~4×107Paである範囲とすることが容易となる。
【0035】
本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバの最内層のクラッドのメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある。)値は、10~100g/10分(条件:温度265℃、荷重5kg、オリフィス径2mm、長さ8mm)の範囲内であることが好ましい。特に好ましいMFRの範囲は、20~60g/10分である。MFRを上記範囲内とすることで押出が容易となることから、紡糸が円滑に進む。また、コアとの密着性を適度に保つことができ、偏心することなく、プラスチック光ファイバとしての外径変動を抑制することができる。
【0036】
本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバの最内層のクラッドの厚みは2~20μmであることが好ましい。特に好ましいクラッドの厚みの範囲は、5~12μmである。クラッドの厚みを上記範囲内とすることで、プラスチック光ファイバとしての引張り強度が保たれ、可とう性も維持される。
【0037】
また、前記クラッドの外側にさらに一層以上のクラッドを有しても良い。最表層のクラッドの特性としては、150~200℃の範囲に融点を有し、屈折率が1.37~1.41であり、比重が1.6~1.9の範囲であり、曲げ弾性率が、1000~1500MPaであり、シェアD硬度が50~90であることが好ましい。そのような重合体としては、カーボネート基を有する構造単位が共重合されたエチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体樹脂が挙げられる。また、最表層のクラッドは、最表層のクラッドを構成する樹脂を得るモノマー成分の総量を100重量%としたとき、
エチレン10~35重量%、
テトラフルオロエチレン45~69重量%、
ヘキサフルオロプロピレン20~45重量%、及び、式(1)
CH2=CX1(CF2)nX2 (1)
(式中、X1はフッ素原子又は水素原子を示し、X2はフッ素原子、水素原子又は炭素原子を示し、nは1~10の整数である。)
で示されるフルオロビニル化合物0.01~10重量%
から得られる共重合体であることが好ましい。より好ましくは、
CH2=CF(CF2)3H
で示されるフルオロビニル化合物0.01~10重量%を共重合成分とする共重合体を含有することである。最表層のクラッドは好ましくは係る共重合体から実質的になることが好ましい。なお、最表層のクラッドとは、クラッドを1層有する場合は当該クラッドを指し、クラッドを2層以上有する場合はその中で最も外側に位置するクラッドを指す。
【0038】
上記の最表層のクラッドにおいて、エチレンが10重量%未満の場合、成形安定性が低下する場合がある。35重量%を超える場合、結晶性が高くなり、透明性が低下し、伝送特性が低下する場合がある。エチレンの割合は11~30重量%が好ましい。テトラフルオロエチレンが45重量%未満の場合、成形安定性が低下する場合がある。69重量%を超える場合、結晶性が高くなり、透明性が低下し、伝送特性が低下する場合がある。また、融点が高くなり、光ファイバの紡糸温度付近での流動性が低下する場合がある。ヘキサフルオロプロピレンが20重量%未満の場合、柔軟性が低下し、曲げ損失が低下する場合がある。45重量%を超える場合、粘着性が増すため、被覆層を被覆するときの加工性が低下する場合がある。
【0039】
特に、コアのメチルメタクリレートを主成分とする(共)重合体への密着性や耐熱性に優れた特性を付与するために、上記の式(1)で示されるフルオロビニル化合物を0.01~10重量%含有することが望ましい。一方、他の共重合成分の含有量との関係から、その含有量は10重量%以下であることが望ましい。
【0040】
また、最表層のクラッドの共重合体が、ポリマー鎖末端または側鎖にカルボニル基含有官能基を有する共重合体であると、クラッドが1層の場合には、コアのメチルメタクリレートを主成分とする(共)重合体や被覆層との密着性が更に向上し、また、2層以上のクラッドにおける最表層である場合は被覆層との密着性が更に向上する。
【0041】
ここで、カルボニル基含有官能基とは、一般に-OC(=O)O-の結合を有するカーボネート基や-COY[Yはハロゲン元素]の構造を有するカルボン酸ハライド基であり、特に含フッ素カーボネート基(RF-O-C(=O)-RF’)、またはカルボン酸フルオライド基(-C(=O)F)が好ましい。RFやRF’はフッ素基が含まれる官能基、例えばフッ化アルキル基やフッ化ビニリデン基などを表している。
【0042】
なお、さらに保護層として、弗化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、弗化ビニリデン/ヘキサフルオロアセトン共重合体、弗化ビニリデンホモポリマーなどの弗化ビニリデン系(共)重合体、あるいはコアと同様なメチルメタクリレ-ト主体の(共)重合体、ナイロン12などの重合体を2~100μm程度被せた構造としても構わない。この保護層は例えばカーボンブラックなどの顔料を入れて着色することも可能である。
【0043】
本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバは一般的な製造法と同様にして製造することができる。例えば、コア材とクラッド材とを加熱溶融状態下で、同心円状複合用の複合口金から吐出してコア/クラッドの2層芯鞘構造を形成させる複合紡糸法が好ましく用いられる。続いて、機械特性を向上させる目的で1.2~3倍程度の延伸処理が一般的に行なわれプラスチック光ファイバとなる。このプラスチック光ファイバの外径は通常0.1~3mm程度であり、目的に応じて適宜選択すればよいが、取扱性などの面から0.5~1.5mmのものが好ましい。また、保護層に設ける場合にも公知の方法によって製造することができるが、3層同時の複合紡糸法が好ましく用いられる。
【0044】
本発明の実施の形態に係るプラスチック光ファイバには、更に、ポリエチレン、ポリプロピレンあるいはそれらの共重合体、ブレンド品、有機シラン基を含有するオレフィン系ポリマー、エチレン-酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ弗化ビニリデン、ナイロン12などのポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロンエラストマー、ポリエステルエラストマーあるいはウレタン樹脂、弗素樹脂といった樹脂により被覆し、コードとすることができる。被覆層は1層でも多層でも良く、多層の場合は間にケブラーなどのテンションメンバーを入れても良い。これらの被覆材には、難燃剤の他、耐酸化防止剤、耐老化剤、UV安定剤などの安定剤などを含んでも良い。なお、被覆層はクロスヘッダダイを使用した溶融押し出し成形法等の公知の方法によって形成することができる。
【0045】
本発明のプラスチック光ファイバおよびプラスチック光ファイバコードは、自動車や航空機、船舶、電車等の移動体内の配線、AV機器、家庭内機器、オフィス機器等の短距離通信用配線、医療用内視鏡照明、カテーテル用照明、顕微鏡照明、ロボット用導光センサー、工業機器用光電センサー、自動車衝突センサー、壁面装飾用照明、室内照明等の用途に好適に用いることができる。特に、高い開口率と適度な柔軟性、また、屈曲に対しても伝送損失を減じ難いという性質を有していることから内視鏡用途、眼科手術用途、カテーテルの用途に好適であり、とりわけ胆管や膵管といった細い組織に用いる内視鏡の用途に好適である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により、更に詳細に説明する。なお、クラッド材料および作製したプラスチック光ファイバの評価は以下の方法で行った。
【0047】
組成比:固体19F NMR(Bruker社製AVANCE NEO 400)を用いて求めた。
【0048】
比重:ASTM D792の測定方法を用いた。
【0049】
シェアD硬度:ASTM D2240の測定方法を用いた。
【0050】
曲げ弾性率:ASTM D790の測定方法を用いた。試験片のサイズは、127mm×13mm×3.1mmとした。ASTM D790の測定単位はkg/cm2とし、曲げ弾性率は、応力-曲げ変位曲線において応力印加初期のもっとも傾斜が大きくなった箇所での傾き、すなわち当該箇所での接線、から求めた。
【0051】
屈折率:測定装置としてアッベ屈折率計を使用して、室温25℃雰囲気にて測定した。
【0052】
透光性:ハロゲン平行光(波長650nm、入射NA=0.25)を使用して30/2mカットバック法により測定した。
【0053】
連続屈曲破断回数:ファイバの一端に500gの荷重をかけ、直径30mmφのマンドレルで支持し、その支持点を中心にファイバの他端を角度90°で連続的に屈曲させて、ファイバが切断するまでの回数を測定した(n=5の平均値)。
【0054】
曲げ状態の透光損失:発光波長660nmのLED(発光ダイオード)を使用し、金属製半径5mmの棒に360度巻きつけたときの光量を測定して、その前後での減少量を指標とした。
【0055】
捻回後の透光損失:発光波長660nmのLED(発光ダイオード)を使用し、試長200mmのファイバの両端をクランプで保持して時計回り、反時計回りに180°ずつ500,000回ねじりを与え、その前後での光量の減少量を指標とした。
【0056】
耐熱性:高温オーブン(タバイエスペック社製PHH-200)内に試長28mのファイバ(両末端各1mはオーブン外)を85℃、500時間投入し、試験前後の光量を測定してその変化量を指標とした(n=3の平均値。マイナスは光量ダウンを示す)。
【0057】
貯蔵弾性率:試料を、プレス成形機(井元製作所製IMC-1AE4)を用いて210℃で5分加熱した後、室温へ冷却して、サイズ2.5cm×0.4cm、厚さ1.4mmに成形し、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御製DVA-200)にてJIS K 7161-1994に準拠し、30℃の貯蔵弾性率を測定した。
【0058】
ガラス転移温度(Tg):示差走査熱量測定装置(DSC)を使用して測定した。昇温速度は10℃/分で行った。また、ガラス転移温度は、低温側のベースラインを高温側に延長した直線とガラス転移の階段状変化部分の曲線のこう配が最大になるような点で引いた接線との交点とした。
【0059】
線膨張係数:試料を、プレス成形機(井元製作所製IMC-1AE4)を用いて210℃で5分加熱した後、室温へ冷却して、サイズ2.5cm×0.4cm、厚さ5mmに成形し、熱分析装置(日立ハイテクサイエンス製EXSTAR TMA/SS6100)にてJIS K 7197-1991に準拠し、線膨張係数を測定した。
【0060】
[実施例1]
クラッド材として表1の共重合比の弗化ビニリデン(2F)/テトラフルオロエチレン(4F)/ヘキサフルオロプロピレン(6F)/ヘプタフルオロプロピルビニルエーテル共重合体(屈折率1.360、弗素含有率71.7%)を複合紡糸機に供給した。さらに、連続魂状重合によって製造したPMMA(屈折率1.492)をコア材として複合紡糸機に供給して、240℃にてコア、クラッドを芯鞘複合溶融紡糸し、ファイバ径1000μm(コア径980μm、クラッド厚10.0μm)のベアファイバを得た。
【0061】
こうして得られたPOFを前記の評価方法により評価し、その結果を表1に示した。表1からわかるように、高開口数であり、透光性、繰り返し屈曲性、曲げ特性、捻回特性、耐熱性が良好であり、プラスチック光ファイバとして好適なものであった。
【0062】
[実施例2、3、参考例1、比較例1~7]
クラッド材を表1のとおりに変更した以外は実施例1と同様にしてPOFを得た。これらのPOFを使用して実施例1と同じ評価を行い、その結果を表1に示した。
【0063】
実施例2、3は、繰り返し屈曲性、曲げに対する透光損失、捻回に対する透光損失が優れていた。
【0064】
すなわち、テトラフルオロエチレンと弗化ビニリデンの合計重量に対するヘキサフルオロプロピレンの重量の割合が低い比較例1~6に比べて、実施例1~3は機械特性に優れ、特に曲げに対する透光損失が優れる。また、2種類の弗素系材料の共重合体である比較例7は、低開口数となり、機械特性や耐熱性も劣るものとなった。
【0065】
[実施例5]
クラッド材を表1のとおりに変更し、三層積層型の複合紡糸機を用いてコア/クラッド内層/クラッド外層を同心円状に配した以外は実施例1と同様にしてPOFを得た。得られたPOFを使用して実施例1と同じ評価を行い、その結果を表1に示した。実施例1と比較し、連続屈曲回数と耐熱性が向上した。
【0066】
なお、表1中、フルオロビニル化合物は、CH2=CF(CF2)3H である。
【0067】