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特許7290109エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/32 20060101AFI20230606BHJP
   C08G 59/56 20060101ALI20230606BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230606BHJP
   C08L 81/06 20060101ALI20230606BHJP
   C08L 29/14 20060101ALI20230606BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C08G59/32
C08G59/56
C08L63/00 A
C08L81/06
C08L29/14
C08J5/24 CFC
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019533121
(86)(22)【出願日】2019-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2019023850
(87)【国際公開番号】W WO2019244829
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2018115109
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018115110
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018115111
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018138178
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小西 大典
(72)【発明者】
【氏名】山北 雄一
(72)【発明者】
【氏名】平野 啓之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英喜
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/107697(WO,A1)
【文献】特開2016-169381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/32
C08G 59/56
C08L 63/00
C08L 81/06
C08L 29/04
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分[A]、成分[B]、成分[C]および成分[D]を含み、成分[D]として、下記成分[D]-1および/または成分[D]-2を含み、下記条件1、条件2、条件3を全て満たすエポキシ樹脂組成物。
成分[A]:3官能のアミン型エポキシ樹脂
成分[B]:25℃において固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂
成分[C]:芳香族アミン化合物
成分[D]:成分[D]-1:ナフタレン型エポキシ樹脂、
成分[D]-2:イソシアヌル酸型エポキシ樹脂
条件1:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の曲げ弾性率が4.4GPa以上
条件2:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の曲げ強度が190MPa以上
条件3:成分[A]の平均エポキシ当量(Ea)と成分[B]の平均エポキシ当量(Eb)が、下式(1)を満たす
6≦Eb/Ea≦10 ・・・(1)
【請求項2】
次の成分[A]、成分[B]、成分[C]および成分[D]を含み、成分[D]として、下記成分[D]-1および/または成分[D]-2を含み、下記条件4、条件5、条件6を全て満たすエポキシ樹脂組成物。
成分[A]:3官能のアミン型エポキシ樹脂
成分[B]:25℃において固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂
成分[C]:芳香族アミン化合物
成分[D]:成分[D]-1:ナフタレン型エポキシ樹脂、
成分[D]-2:イソシアヌル酸型エポキシ樹脂
条件4:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の曲げひずみ量が6%以上
条件5:成分[B]の平均エポキシ当量が600~1000g/eq
条件6:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の、動的粘弾性測定より得られるガラス転移温度X(℃)と、ゴム状態の貯蔵弾性率Y(MPa)が、下式(2)を満たす
0.087X-6≦Y≦0.087X-4 ・・・(2)
【請求項3】
次の成分[A]、成分[B]、成分[C]および成分[D]を含み、成分[D]として、下記成分[D]-1および/または成分[D]-2を含み、下記条件5および条件7を満たすエポキシ樹脂組成物。
成分[A]:3官能のアミン型エポキシ樹脂
成分[B]:25℃において固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂
成分[C]:芳香族アミン化合物
成分[D]:成分[D]-1:ナフタレン型エポキシ樹脂、
成分[D]-2:イソシアヌル酸型エポキシ樹脂
条件5:成分[B]の平均エポキシ当量が600~1000g/eq
条件7:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の、動的粘弾性測定より得られるゴム状態の貯蔵弾性率Y(MPa)と、全エポキシ樹脂100質量部の活性基モル数(Ma)が、下式(3)を満たす
1100≦Y/Ma≦2000 ・・・(3)
【請求項4】
下記条件4、条件5、条件6を全て満たす、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
条件4:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の曲げひずみ量が6%以上
条件5:成分[B]の平均エポキシ当量が600~1000g/eq
条件6:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の、動的粘弾性測定より得られるガラス転移温度X(℃)と、ゴム状態の貯蔵弾性率Y(MPa)が、下式(2)を満たす
0.087X-6≦Y≦0.087X-4 ・・・(2)
【請求項5】
下記条件5および条件7を満たす、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
条件5:成分[B]の平均エポキシ当量が600~1000g/eq
条件7:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の、動的粘弾性測定より得られるゴム状態の貯蔵弾性率Y(MPa)と、全エポキシ樹脂100質量部の活性基モル数(Ma)が、下式(3)を満たす
1100≦Y/Ma≦2000 ・・・(3)
【請求項6】
下記条件7を満たす、請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物。
条件7:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の、動的粘弾性測定より得られるゴム状態の貯蔵弾性率Y(MPa)と、全エポキシ樹脂100質量部の活性基モル数(Ma)が、下式(3)を満たす
1100≦Y/Ma≦2000 ・・・(3)
【請求項7】
エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の曲げ弾性率が4.6GPa以上である、請求項1~6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
成分[A]が、アミノフェノール型エポキシ樹脂である、請求項1~7のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[A]を50~80質量部含む、請求項1~8のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[B]を20~40質量部含む、請求項1~9のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
成分[C]の活性水素モル数(Mc)と全エポキシ樹脂100質量部中の活性エポキシ基モル数(Ma)のの関係が、下式(4)に示す範囲となる、請求項1~10のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
0.95≦Ma/Mc≦1.05 ・・・(4)
【請求項12】
成分[C]が、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンである、請求項1~11のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
成分[H]として、熱可塑性樹脂を含む、請求項1~12のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエーテルスルホンである、請求項13に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物と強化繊維とからなるプリプレグ。
【請求項16】
請求項15に記載のプリプレグを硬化させてなる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ用途、一般産業用途、および航空宇宙用途に適した繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として好ましく用いられるエポキシ樹脂組成物、ならびに、これをマトリックス樹脂としたプリプレグおよび繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチックの製造には、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸したシート状の中間基材(プリプレグ)が汎用される。プリプレグを積層、加熱して熱硬化性樹脂を硬化する方法で成形体が得られ、航空機やスポーツなど、様々な分野へ適用されている。プリプレグのマトリックス樹脂として用いられる熱硬化性樹脂としては、耐熱性、接着性、機械強度に優れることから、エポキシ樹脂が汎用される。近年、構造部材への繊維強化複合材料の適用が拡大するにつれて、部材のさらなる軽量化の要求が高まり、プリプレグに用いられるエポキシ樹脂の高性能化が望まれている。具体的には、エポキシ樹脂硬化物の弾性率と変形能力を同時に高めることで、軽量かつ高性能な繊維強化複合材料を設計することが可能となる。
【0003】
特許文献1には、多官能ビスフェノール型エポキシ樹脂とアミン型エポキシ樹脂を併用することにより、エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率と破壊強度を両立する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、3官能型以上のアミン型エポキシ樹脂と、高分子量のビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いることにより、エポキシ樹脂硬化物の弾性率を高める技術が開示されている。
【0005】
特許文献3には、アミノフェノール型エポキシ樹脂を、芳香族アミン化合物にて硬化させることにより、エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率と破壊強度を高める技術が記載されている。
【0006】
特許文献4には、アミン型エポキシ樹脂と熱可塑性樹脂を必須成分としたエポキシ樹脂組成物を、芳香族アミンで硬化させる事により、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性を維持したまま、変形能力を高める技術が記載されている。
【0007】
特許文献5には、分子内にオキサゾリドン環型構造を有するエポキシ樹脂とトリブロック共重合体を併用することで、繊維強化複合材料の耐熱性と破壊靱性を高める技術が開示されている。
【0008】
特許文献6には、CFRP管状体の破壊強度を高めるため、CFRP90度曲げを向上させるための樹脂・プリプレグが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-226745号公報
【文献】特開2012-197413号公報
【文献】特開2010-275493号公報
【文献】国際公開第2016/067736号
【文献】国際公開第2014/030638号
【文献】特開2016-222935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、繊維強化複合材料の破壊強度を高めるためには、エポキシ樹脂硬化物の弾性率と変形能力を同時に高める必要がある。しかしながら、一般にエポキシ樹脂硬化物の弾性率を高めると変形能力が低下する。また、エポキシ樹脂硬化物の変形能力を高めるとガラス転移温度が低下し、耐熱性が要求される用途への適用が困難であった。そこで、弾性率と変形能力と耐熱性を同時に高める技術の構築が望まれている。
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載のエポキシ樹脂組成物は、樹脂硬化物の曲げ弾性率が不足しており、繊維強化複合材料の0°方向の曲げ強度が十分とはいえなかった。
【0012】
特許文献2に記載のエポキシ樹脂組成物は、樹脂硬化物が比較的高い曲げ弾性率を示すものの、曲げひずみが不足するため、繊維強化複合材料の90°方向の曲げ強度が不十分なものであった。
【0013】
特許文献3に開示されているエポキシ樹脂組成物は、樹脂硬化物の曲げ弾性率と曲げ強度が、ともに不足しており、繊維強化複合材料の機械特性が低いものであった。
【0014】
特許文献4に開示されているエポキシ樹脂組成物は、樹脂硬化物の耐熱性は高いが、曲げ弾性率が不足しており、繊維強化複合材料の機械特性が低いものであった。
【0015】
特許文献5に開示されているエポキシ樹脂組成物は、樹脂硬化物の変形量は高いが、曲げ弾性率が不足しているため、繊維強化複合材料の0°方向の曲げ強度が低いものであった。
【0016】
特許文献6に記載のエポキシ樹脂組成物は、樹脂硬化物の曲げ弾性率および強度が不足しており、繊維強化複合材料の0°方向の曲げ強度が十分とはいえなかった。
【0017】
本発明は、かかる従来技術の欠点を改良し、曲げ弾性率と曲げひずみを高いレベルで両立し、かつ、耐熱性に優れる樹脂硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物、および、該エポキシ樹脂組成物と強化繊維とからなるプリプレグ、ならびに該プリプレグを硬化させてなる、とくに0°および90°曲げ強度に優れる繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成を有するエポキシ樹脂組成物を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物は、以下の態様1~4のいずれかの構成を有する。
【0019】
態様1は、次の成分[A]、成分[B]、成分[C]を含み、下記条件1、条件2、条件3を全て満たすエポキシ樹脂組成物。
成分[A]:3官能のアミン型エポキシ樹脂
成分[B]:25℃において固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂
成分[C]:芳香族アミン化合物
条件1:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の曲げ弾性率が4.4GPa以上
条件2:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の曲げ強度が190MPa以上
条件3:成分[A]の平均エポキシ当量(Ea)と成分[B]の平均エポキシ当量(Eb)が、下式(1)を満たす
6≦Eb/Ea≦10 ・・・(1)。
【0020】
態様2は、次の成分[A]、成分[B]、成分[C]を含み、下記条件4、条件5、条件6を全て満たすエポキシ樹脂組成物。
成分[A]:3官能のアミン型エポキシ樹脂
成分[B]:25℃において固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂
成分[C]:芳香族アミン化合物
条件4:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の曲げひずみ量が6%以上
条件5:成分[B]の平均エポキシ当量が600~1000g/eq
条件6:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の、動的粘弾性測定より得られるガラス転移温度X(℃)と、ゴム状態の貯蔵弾性率Y(MPa)が、下式(2)を満たす
0.087X-6≦Y≦0.087X-4 ・・・(2)。
【0021】
態様3は、次の成分[A]、成分[B]、成分[C]を含み、下記条件5および条件7を満たすエポキシ樹脂組成物。
成分[A]:3官能のアミン型エポキシ樹脂
成分[B]:25℃において固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂
成分[C]:芳香族アミン化合物
条件5:成分[B]の平均エポキシ当量が600~1000g/eq
条件7:エポキシ樹脂組成物を180℃で120分反応させて得られる樹脂硬化物の、動的粘弾性測定より得られるゴム状態の貯蔵弾性率Y(MPa)と、全エポキシ樹脂100質量部の活性基モル数(Ma)が、下式(3)を満たす
1100≦Y/Ma≦2000 ・・・(3)。
【0022】
態様4は、次の成分[A]、成分[E]、成分[F]を含み下記条件8、条件9、条件10を全て満たすエポキシ樹脂組成物。
成分[A]:3官能のアミン型エポキシ樹脂
成分[E]:ソルビトール型エポキシ樹脂
成分[F]:ジシアンジアミドまたはその誘導体
条件8:エポキシ樹脂組成物を130℃で90分反応させて得られる樹脂硬化物の曲げ弾性率が4.3GPa以上
条件9:エポキシ樹脂組成物を130℃で90分反応させて得られる樹脂硬化物の曲げ強度が190MPa以上
条件10:エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[A]と成分[E]の合計が40質量部以上。
【0023】
また、本発明のプリプレグは、前記エポキシ樹脂組成物と強化繊維とからなるプリプレグである。
【0024】
また、本発明の繊維強化複合材料は、前記プリプレグを硬化させてなる繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0025】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、曲げ弾性率と曲げひずみを高いレベルで両立し、かつ、耐熱性に優れる樹脂硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物である。本発明のエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂とした繊維強化複合材料は、優れた0°方向と90°方向の曲げ強度を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1~態様3は、成分[A]3官能のアミン型エポキシ樹脂、成分[B]25℃において固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂、成分[C]芳香族アミン化合物を必須成分として含む。本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1~態様3をマトリックス樹脂とした繊維強化複合材料は、層間靱性にも優れる。
【0027】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物の態様4は、成分[A]3官能のアミン型エポキシ樹脂、成分[E]ソルビトール型エポキシ樹脂、成分[F]ジシアンジアミドまたはその誘導体を必須成分として含む。
【0028】
まず、本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1~態様3について説明する。なお、本明細書において、本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1~態様4を、単に本発明の態様1~態様4と称する場合がある。また、態様を特定せずに、単に「本発明」という場合は、態様1~態様4の全ての態様を表す。
【0029】
(成分[A])
本発明における成分[A]は3官能のアミン型エポキシ樹脂である。
【0030】
かかる成分[A]としては、トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂、トリグリシジルアミノクレゾール型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0031】
前記トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100、ELM120(住友化学工業(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)などが挙げられる。
【0032】
中でも、成分[A]が、アミノフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましい。成分[A]がアミノフェノール型エポキシ樹脂である場合、樹脂硬化物の曲げ弾性率が高くなり、高い0°曲げ強度を有する繊維強化複合材料が得られやすくなる。
【0033】
さらに、エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率を高めるためには、全エポキシ100質量部のうち、成分[A]を50~80質量部含むことが好ましく、さらに好ましくは、55~65質量部の範囲である。上記範囲を満たすことで、樹脂硬化物の曲げ弾性率と曲げ強度のバランスが良いエポキシ樹脂硬化物を得られやすくなる。
【0034】
(成分[B])
本発明の態様1~態様3における成分[B]は、25℃において固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂である。
【0035】
前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、“jER(登録商標)”4004P、4005P、4010P(以上、三菱ケミカル(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF-2001、YDF-2004、YDF-2005RD(以上、東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0036】
本発明の態様1~態様3において、全エポキシ100質量部のうち、成分[B]を20~40質量部含むことが好ましい。上記範囲を満たすことで、樹脂硬化物の曲げ弾性率を損なう事なく、曲げ強度を高めやすくすることができる。
【0037】
(成分[C])
本発明の態様1~態様3における成分[C]は芳香族アミン化合物である。
【0038】
かかる成分[C]としては、アニリン、ジエチルトルエンジアミン、4,4’-メチレン-ビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)、ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。
【0039】
前記ジエチルトルエンジアミンとしては、“jERキュア(登録商標)”W(三菱ケミカル社製)などを使用することができる。4,4’-メチレン-ビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)としては、“Lonzacure(登録商標)”M-MIPA(Lonza社製)などを使用することができる。ジアミノジフェニルスルホンとしては、“セイカキュア(登録商標)”-S(セイカ(株)製)、3,3’-DAS(三井化学ファイン(株)製)などが挙げられる。
【0040】
中でも、成分[C]が、ジアミノジフェニルスルホンであることが好ましく、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンであることがより好ましい。成分[C]がジアミノジフェニルスルホンである場合、樹脂硬化物の曲げ弾性率が高くなりやすく、さらに高い0°曲げ強度を有する繊維強化複合材料が得られやすくなる。
【0041】
本発明の態様1~態様3における、成分[C]の活性水素モル数(Mc)と全エポキシ樹脂100質量部中の活性エポキシ基モル数(Ma)の関係は、下式(4)に示す範囲となることが好ましい。
0.95≦Ma/Mc≦1.05 ・・・(4)
かかる範囲とすることで、エポキシ樹脂と硬化剤の反応が効率的に起きやすくなるため、樹脂硬化物の曲げ強度が高いものとなりやすくなり、より高い90°曲げ強度を有する繊維強化複合材料が得られやすくなる。
【0042】
なお、全エポキシ樹脂100質量部中の活性エポキシ基モル数(Ma)とは、各エポキシ樹脂活性基のモル数の和のことであり、下式で表される。
Ma=(エポキシ樹脂Aの質量/エポキシ樹脂Aのエポキシ当量)+(エポキシ樹脂Bの質量/エポキシ樹脂Bのエポキシ当量)+・・・・+(エポキシ樹脂Wの質量/エポキシ樹脂Wのエポキシ当量)。
【0043】
また、成分[C]の活性水素モル数(Mc)は、芳香族アミン化合物の質量を芳香族アミン化合物の活性水素当量で除することにより求められ、下式で表される。
Mc=芳香族アミン化合物の質量/芳香族アミン化合物の活性水素当量。
【0044】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1は、上記成分[A]、成分[B]、成分[C]を含み、以下の条件1、条件2、条件3を全て満たす。
【0045】
該エポキシ樹脂組成物を180℃で120分硬化させてなる樹脂硬化物の曲げ弾性率が4.4GPa以上(条件1)、かつ、曲げ強度が190MPa以上(条件2)である。樹脂硬化物の曲げ弾性率と曲げ強度が上記範囲にあることで、0°曲げ強度と90°曲げ強度とを、高いレベルで両立する繊維強化複合材料が得られやすくなる。曲げ弾性率が4.4GPa以上であることにより、十分な0°方向の曲げ特性が得られやすくなる。曲げ強度が190MPa以上であることにより、十分な0°および90°方向の曲げ特性が得られやすくなる。
【0046】
前記条件1および条件2は、前記成分[A]、成分[B]、および成分[C]を適切な比率で配合することで、満たすことができる。
【0047】
ここで、本発明の樹脂硬化物の曲げ弾性率および曲げ強度は、例えば、JIS K7171(1994)に従って3点曲げ試験を実施することにより、評価することができる。
【0048】
本発明の態様1における、成分[A]の平均エポキシ当量(Ea)と成分[B]の平均エポキシ当量(Eb)の関係は、下式(1)を満たす必要がある(条件3)。
6≦Eb/Ea≦10 ・・・(1)
Eb/Eaの値が6以上であると、十分なエポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率が得られやすくなり、繊維強化複合材料の0°曲げ強度が十分なものとなりやすい。Eb/Eaが10以下であると、樹脂硬化物の変形能力が失われにくく、曲げ強度が低下しにくいため、十分な繊維強化複合材料の90°曲げ強度が得られやすくなる。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1は、成分[A]と成分[B]の平均エポキシ当量が、上記範囲を満たすことで、より高いレベルで樹脂硬化物の曲げ弾性率と曲げ強度を両立しやすくすることが可能となる。その理由は定かではないが、Eb/Eaが特定の範囲にあることで、エポキシ樹脂と硬化剤の反応によって形成する結合点の数が多くなり、エポキシ樹脂硬化物を変形させた際に発生する、破壊の起点となる脆弱部分が減少し、変形能力が向上したためと推測している。
【0050】
ここで、成分[A]および成分[B]の平均エポキシ当量は、例えば、JIS K7236(2001)に従って電位差滴定を実施することにより、評価することができる。
【0051】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様2は、上記成分[A]、成分[B]、成分[C]を含み、以下の条件4、条件5、条件6を全て満たす。
【0052】
該エポキシ樹脂組成物を180℃で120分硬化させてなる樹脂硬化物の曲げひずみ量が6%以上(条件4)である。樹脂硬化物の曲げひずみが上記範囲にあることで、該エポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂とする繊維強化複合材料の90°曲げ強度が優れたものとなりやすい。曲げひずみ量が6%以上であると、十分な90°方向の曲げ特性が得られやすくなる。
【0053】
前記条件4は、前記の成分[A]、成分[B]、および成分[C]を適切な比率で配合することで、達成することができる。
【0054】
ここで、本発明の樹脂硬化物の曲げひずみ量は、例えば、JIS K7171(1994)に従って3点曲げ試験を実施することにより、評価することができる。ここで、本発明における曲げひずみ量は、3点曲げ試験において最大の荷重を示した際の変位量から計算することができる。
【0055】
成分[B]の平均エポキシ当量(以下、EEW)は600~1000g/eqの範囲である(条件5)。成分[B]のEEWが600g/eq以上であると、十分な曲げ弾性率が得られやすい。成分[B]のEEWが1000g/eq以下であると、曲げ弾性率とひずみ量が向上しやすくなる。
【0056】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様2は、180℃で120分硬化させて得られる樹脂硬化物について、動的粘弾性測定より得たガラス転移温度X(℃)とゴム状態の貯蔵弾性率Y(MPa)が、下式を満たす(条件6)。
0.087X-6≦Y≦0.087X-4 ・・・(2)
ゴム状態の貯蔵弾性率が0.087X-6以上であると、曲げひずみ量と耐熱性を両立しやすくなる。また、0.087X-4以下であると、十分な曲げ弾性率が得られやすくなり、十分な繊維強化複合材料の0°方向の曲げ強度が得られやすくなる。
【0057】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様2は、ゴム状態の貯蔵弾性率Yが上記範囲を満たすことで、曲げ強度と耐熱性のバランスに優れた繊維強化複合材料が得られやすくなる。その理由は定かではないが、ゴム状態の貯蔵弾性率とガラス転移温度の関係が特定の範囲となることで、エポキシ樹脂硬化物中の架橋点の密度が適切なものとなるためと推測している。
【0058】
ここで、本発明の樹脂硬化物のガラス転移温度とゴム状態の貯蔵弾性率は、DMA測定(動的粘弾性測定)の昇温測定を実施して得られる、貯蔵弾性率と温度の散布図から算出することができる。ガラス転移温度は、上記散布図において、ガラス領域に引いた接線と、ガラス転移領域に引いた接線との交点における温度である。また、ゴム状態の貯蔵弾性率は、ガラス転移温度を50℃上回る温度における貯蔵弾性率である。
【0059】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様3は、上記成分[A]、成分[B]、成分[C]を含み、前記条件5および、下記条件7を同時に満たす。
【0060】
180℃で120分硬化させて得られる樹脂硬化物について、動的粘弾性測定より得たゴム状態の貯蔵弾性率Y(MPa)と、全エポキシ樹脂100質量部中の活性エポキシ基モル数(Ma)が、下式を満たす(条件7)。
【0061】
1100≦Y/Ma≦2000 ・・・(3)
Y/Maの値が1100以上であると、十分なエポキシ樹脂硬化物の曲げ強度が得られやすくなるため、十分な繊維強化複合材料の90°曲げ強度および層間靱性が得られやすくなる。Y/Maが2000以下であると、樹脂硬化物の曲げ強度に加えて十分な弾性率も得られやすいため、十分な繊維強化複合材料の曲げ強度が得られやすくなる。
【0062】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様3は、ゴム状態の貯蔵弾性率と全エポキシ樹脂100質量部中の活性エポキシ基モル数が、上記範囲を満たすことで、より高いレベルで曲げ弾性率と曲げ強度を両立しやすくなる。その理由は定かではないが、Y/Maが特定の範囲にあることで、硬化反応にともなうエポキシ基の消費が効率的に進行するためと推測している。該エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる樹脂硬化物は、未反応のエポキシ樹脂の残存量が少なく、均質な架橋状態を示す、すなわち、変形時に発生する応力を分散できるためと考えている。
【0063】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様3は、該エポキシ樹脂組成物を180℃で120分硬化させてなる樹脂硬化物の曲げ弾性率が4.6GPa以上、かつ、曲げひずみ量が6%以上であることが好ましい。樹脂硬化物の曲げ弾性率と曲げひずみ量が、かかる範囲となることで、曲げ強度が優れたものとなりやすいため、該エポキシ樹脂組成物からなる繊維強化複合材料は、高い曲げ強度と層間靱性を併せ持ちやすい。
【0064】
ここで、本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1は、成分[A]、成分[B]、成分[C]を含み、既述の条件1、条件2、条件3に加え、さらに以下(i)、(ii)、(iii)で示される条件のいずれかを満たすことが好ましい。
(i)条件4、条件5、および条件6を満たす。
(ii)条件5および条件7を満たす。
(iii)条件4、条件5、条件6、および条件7を満たす。
以下、各条件について説明する。
【0065】
(i)について
条件1、条件2、条件3に加え、条件4、条件5、および条件6を同時に満たすことで、高い樹脂曲げ弾性率と曲げ強度を両立し、さらに耐熱性とのバランスに優れるエポキシ樹脂組成物が得られやすくなる。該エポキシ樹脂組成物からなる繊維強化複合材料は、高い0°と90°曲げ強度を発現するとともに、耐熱性が要求される用途に好ましく用いられる。
【0066】
(ii)について
条件1、条件2、条件3に加え、条件5および条件7を同時に満たすことで、該エポキシ樹脂組成物からなる繊維強化複合材料は、0°と90°曲げ強度を両立することに加え、層間靱性にも優れる。
【0067】
(iii)について
条件1~条件7の全てを同時に満たすことで、高い樹脂曲げ弾性率と強度に加え、耐熱性とのバランスに優れ、さらに該エポキシ樹脂組成物からなる繊維強化複合材料の層間靱性が向上するため、特に好ましい。
【0068】
続いて、本発明の態様4について説明する。本発明のエポキシ樹脂組成物の態様4は、成分[A]3官能のアミン型エポキシ樹脂、成分[E]ソルビトール型エポキシ樹脂、成分[F]ジシアンジアミドを必須成分として含む。本発明のエポキシ樹脂組成物の態様4をマトリックス樹脂とした繊維強化複合材料は、層間靱性に優れることが好ましい。
【0069】
かかる成分[A]としては、既述の本発明の態様1~態様3と同様に、トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂、トリグリシジルアミノクレゾール型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0070】
中でも、成分[A]が、アミノフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましい。成分[A]がアミノフェノール型エポキシ樹脂である場合、樹脂硬化物の曲げ弾性率が高くなりやすく、高い0°曲げ強度を有する繊維強化複合材料が得られやすくなる。
【0071】
さらに、エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率を高めるためには、エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[A]を50~80質量部含むことが好ましい。この範囲を満たすことで、樹脂硬化物の曲げ弾性率と曲げ強度のバランスを高めることができる。
【0072】
以下、成分[E]および成分[F]について説明する。
【0073】
(成分[E])
本発明の態様4における成分[E]は、ソルビトール型エポキシ樹脂である。
【0074】
成分[E]としては、“デナコール(登録商標)”EX-614、EX-614B(以上、ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0075】
本発明の態様4において、エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[E]を20~40質量部含むことが好ましい。この範囲を満たすことで、樹脂硬化物の曲げひずみと曲げ強度のバランスをより高めることができる。
【0076】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様4において、エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[A]と成分[E]の合計は40質量部以上である(条件10)。
【0077】
成分[A]と成分[E]の合計が40質量部以上であると、エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率とひずみのバランスが十分となりやすく、十分な曲げ強度が得られやすくなる。その理由は定かではないが、主鎖が柔軟で多官能なソルビトール型エポキシが、3官能アミノフェノール型エポキシとジシアンジアミドが形成するネットワーク構造の欠陥を効果的に補完しているものと推測している。
【0078】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様4は、該エポキシ樹脂組成物を130℃で90分硬化させてなる樹脂硬化物の曲げ弾性率が4.3GPa以上(条件8)、かつ、曲げ強度が190MPa以上(条件9)である。樹脂硬化物の曲げ弾性率と曲げ強度が上記範囲にあることで、0°曲げ強度と90°曲げ強度とを、高いレベルで両立する繊維強化複合材料が得られやすくなる。曲げ弾性率が4.3GPa以上であると、十分な0°方向の曲げ特性が得られやすくなる。曲げ強度が190MPa以上であると、十分な0°および90°方向の曲げ特性が得られやすくなる。
【0079】
前記の条件8および条件9は、前記の成分[A]、成分[E]、および成分[F]を適切な比率で配合することで、満たすことができる。
【0080】
(成分[D])
本発明の態様4では、成分[D]として、下記成分[D]-1および/または成分[D]-2を含むことが好ましい。成分[D]を含むことで、樹脂硬化物の曲げ弾性率、曲げ強度に加え、ガラス転移温度とのバランスを高めやすくすることができる。ガラス転移温度はエポキシ樹脂硬化物の耐熱性の指標となる温度で、樹脂硬化物のDMAまたはDSC測定により評価することができる。
成分[D]-1:ナフタレン型エポキシ樹脂
成分[D]-2:イソシアヌル酸型エポキシ樹脂。
【0081】
本発明の態様4における成分[D]-1は、ナフタレン型エポキシ樹脂である。
【0082】
ナフタレン型エポキシ樹脂としては、“EPICLON(登録商標)”HP-4032D、HP-4700、HP-4770、HP-5000、HP-4710(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0083】
本発明の態様4における成分[D]-2は、イソシアヌル酸型エポキシ樹脂である。
【0084】
イソシアヌル酸型エポキシ樹脂しては、“TEPIC(登録商標)”-S、-G、-L、-PAS、-UC、-FL(以上、日産化学(株)製)などが挙げられる。
【0085】
(成分[F])
本発明の態様4における成分[F]は、ジシアンジアミドまたはその誘導体である。ジシアンジアミドは、化学式(HN)C=N-CNで表される化合物である。ジシアンジアミドは、それを硬化剤として得られるエポキシ樹脂硬化物に高い力学特性や耐熱性を与えることができる点で優れており、エポキシ樹脂の硬化剤として広く用いられる。かかるジシアンジアミドの市販品としては、DICY7、DICY15(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0086】
成分[F]は、芳香族ウレアなどの成分[I]硬化促進剤との併用で、成分[F]を単独で配合した場合と比較し、エポキシ樹脂組成物の硬化温度を下げることができる。成分[I]硬化促進剤としては、例えば、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(DCMUと略記することもある)、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、フェニルジメチルウレア(PDMUと略記することもある)、トルエンビスジメチルウレア(TBDMUと略記することもある)などが挙げられる。また、芳香族ウレアの市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“Omicure(登録商標)”24(ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)、“Dyhard(登録商標)”UR505(4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア、CVC製)などが挙げられる。
【0087】
本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1~態様4は、本発明の効果を失わない範囲において、成分[G]として、成分[A]、成分[B]、成分[C]、成分[D]、成分[E]とは異なるエポキシ樹脂を用いても良い。
【0088】
かかるエポキシ樹脂としては、例えば、アニリン型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、25℃において液状のビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらを単独で用いても、複数種を組み合わせてもよい。
【0089】
前記アニリン型エポキシ樹脂の市販品としては、GAN(N,N-ジグリシジルアニリン)、GOT(N,N-ジグリシジル-o-トルイジン)(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0090】
前記ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学工業(株)製)、YH434L(新日鉄住金化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、MY721(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)などが挙げられる。
【0091】
前記ジアミノジフェニルスルホン型エポキシの市販品としては、TG3DAS(小西化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0092】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”828、1001、1007(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0093】
前記25℃において液状のビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPICLON(登録商標)”830、807(以上、大日本インキ化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0094】
前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、jER(登録商標)”152、154、180S(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0095】
前記ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、HP7200L、HP7200、HP7200H、HP7200HH、HP7200HHH(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0096】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1~態様3は、イソシアヌル酸型エポキシ樹脂を用いてもよく、既述の成分[D]-2に例示されるエポキシ樹脂を使用することができる。
【0097】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、繊維強化複合材料を製造する工程に適した粘度に調節する目的、粘弾性を調整し、タッグやドレープ特性を調節する目的や、樹脂組成物の機械特性や靭性を高めるなどの目的で、成分[H]として、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。かかる熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどが挙げられる。特に、本発明のエポキシ樹脂組成物の態様4は、樹脂硬化物の曲げ弾性率、強度を損なうことなくその他の特性を調節できる観点から、成分[H]として、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、前記熱可塑性樹脂が、ポリエーテルスルホンであることがより好ましい。
【0098】
次に、本発明の繊維強化複合材料について説明する。
【0099】
本発明の繊維強化複合材料は、本発明のプリプレグを硬化させてなる。具体的には、例えば、本発明のエポキシ樹脂組成物と強化繊維とからなるプリプレグ、すなわち、本発明のプリプレグを積層した後、加熱し硬化させることにより、本発明の繊維強化複合材料を得ることができる。以下に、具体的に説明する。
【0100】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製には、例えばニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールおよび2軸押出機といった機械を用いて混練しても良いし、均一な混練が可能であれば、ビーカーとスパチュラなどを用い、手で混ぜても良い。
【0101】
本発明のプリプレグは、本発明のエポキシ樹脂組成物と強化繊維とからなる。本発明のプリプレグは、例えば、前記の方法にて調製したエポキシ樹脂組成物を、強化繊維基材に含浸させて得ることができる。含浸させる方法としては、ホットメルト法(ドライ法)などを挙げることができる。ホットメルト法は、加熱により低粘度化した熱硬化性樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、または離型紙などの上にエポキシ樹脂組成物をコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側または片側からこのフィルムを重ね、加圧加熱することにより強化繊維に樹脂を含浸させる方法である。この際、離型紙に塗布する樹脂の量を変えることで、プリプレグの繊維質量含有率を調整することができる。
【0102】
本発明に用いられる強化繊維は特に限定されるものではなく、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などが使用できる。これらの繊維を2種以上混合して用いても構わない。軽量かつ高剛性な繊維強化複合材料が得られる観点から、炭素繊維を用いることが好ましい。
【0103】
プリプレグ積層成形法において、熱および圧力を付与する方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法などを適宜使用することができる。
【0104】
本発明の繊維強化複合材料は、スポーツ用途、航空宇宙用途および一般産業用途に好ましく用いられる。より具体的には、スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケットなどに好ましく用いられる。また、航空宇宙用途では、主翼、尾翼およびフロアビーム等の航空機一次構造材用途、および内装材等の二次構造材用途に好ましく用いられる。さらに一般産業用途では、自動車、自転車、船舶および鉄道車両などの構造材に好ましく用いられる。なかでも、高い0°および90°方向の曲げ強度を有する繊維強化複合材料が得られるという特徴を活かし、様々な構造部材に好適に用いられる。
【実施例
【0105】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記
載に限定されるものではない。なお、実施例1~4、7、9~11、13および14は、それぞれ、参考例1~4、7、9~11、13および14と読み替えるものとする。
【0106】
本実施例で用いる構成要素は以下の通りである。
【0107】
<使用した材料>
・成分[A]:3官能のアミン型エポキシ樹脂
成分[A]-1 “アラルダイト(登録商標)”MY0500(アミノフェノール型エポキシ樹脂、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、
成分[A]-2 “アラルダイト(登録商標)”MY0600(アミノフェノール型エポキシ樹脂、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)。
【0108】
・成分[B]:25℃において固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂
成分[B]-1 “エポトート(登録商標)”YDF-2001(東都化成(株)製)、
成分[B]-2 “jER(登録商標)”4004P(三菱ケミカル(株)製)、
成分[B]-3 “エポトート(登録商標)”YDF-2004(東都化成(株)製)、
成分[B]-4 “エポトート(登録商標)”YDF-2005RD(東都化成(株)製)、
成分[B]-5 “jER(登録商標)”4007P(三菱ケミカル(株)製)、
成分[B]-6 “jER(登録商標)”4010P(三菱ケミカル(株)製)。
【0109】
・成分[C]:芳香族アミン化合物
成分[C]-1 セイカキュア―S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、セイカ(株)製)、
成分[C]-2 3,3’DAS(3、3’-ジアミノジフェニルスルホン、三井化学ファイン(株)製)、
成分[C]-3 “Lonzacure(登録商標)”M-MIPA(4,4’-メチレン-ビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)、Lonza社製)、
成分[C]-4 “jERキュア(登録商標)”W(ジエチルトルエンジアミン、三菱ケミカル(株)製)。
【0110】
・成分[D]-1:ナフタレン型エポキシ樹脂
“EPICLON”HP-4032D(DIC(株)製)。
【0111】
・成分[D]-2: イソシアヌル酸型エポキシ樹脂
“TEPIC”-S(日産化学(株)製)。
【0112】
・成分[E]:ソルビトール型エポキシ樹脂
“デナコール(登録商標)”EX-614B(ナガセケムテックス(株)製)。
【0113】
・成分[F]: ジシアンジアミドまたはその誘導体
DICY7(三菱ケミカル(株)製)。
【0114】
・成分[G]:その他のエポキシ樹脂
成分[G]-1 GAN(ジグリシジルアニリン型エポキシ樹脂、日本化薬(株)製)、
成分[G]-2 “スミエポキシ(登録商標)”ELM434(ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、住友化学工業(株)製)、
成分[G]-3 TG3DAS(ジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、小西化学工業(株)製)、
成分[G]-4 “jER(登録商標)”828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製)、
成分[G]-5 “jER(登録商標)”1001(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製)、
成分[G]-6 “jER(登録商標)”1004(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製)、
成分[G]-7 “jER(登録商標)”154(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製)、
成分[G]-8 “EPICLON(登録商標)”830(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、大日本インキ化学工業(株)製)、
成分[G]-9 “EPICLON(登録商標)”807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、大日本インキ化学工業(株)製)、
成分[G]-10 NER-7604(多官能ビスフェノールF型エポキシ樹脂、日本化薬(株)製)、
成分[G]-11 EHPE-3150(固形脂環式エポキシ樹脂、ダイセル(株)製)、
成分[G]-12 AER-4152(オキサゾリドン環型エポキシ樹脂、旭化成イーマテイリアルズ(株)製)。
【0115】
・成分[H]:熱可塑性樹脂
成分[H]-1 “ビニレック(登録商標)”K(ポリビニルホルマール、JNC(株)製)、
成分[H]-2 “ビニレック(登録商標)”E(ポリビニルホルマール、JNC(株)製)、
成分[H]-3 “スミカエクセル(登録商標)”PES2603P(ポリエーテルスルホン、住友化学(株)製)、
成分[H]-4 “スミカエクセル(登録商標)”PES5003P(ポリエーテルスルホン、住友化学(株)製)、
成分[H]-5 “Virantage(登録商標)”VW-10700RFP(ポリエーテルスルホン、Solvay社製)。
【0116】
・成分[I]:硬化促進剤
DCMU99(3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、保土ヶ谷化学工業(株)製)。
【0117】
<エポキシ樹脂の平均エポキシ当量の測定方法>
ガラスビーカーに、成分[A]または成分[B]を、約300mgとなるように秤量、投入し、さらに10mLのクロロホルムを添加した。秤量した成分がクロロホルムに溶解するまで、マグネティックスターラを用いて撹拌した。前記溶液に対し、酢酸を20mL添加し、つづいて臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液(0.4g/mL酢酸)を10mL添加し、撹拌した。前記溶液に電極を浸漬し、過塩素酸-酢酸標準液(0.1mol/L)にて電位差滴定を実施し、JIS K7236(2001)に従って、成分[A]および成分[B]の平均エポキシ当量を算出した。平均エポキシ当量は、表1、2、6、7に示した通りである。なお、本明細書において、表1とは、表1-1、表1-2を指す。表2、表6、表7についても同様である。
【0118】
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
ニーダーに、成分[C]芳香族アミン化合物、成分[F]その他の硬化剤、および成分[I]硬化促進剤以外の成分を所定量入れ、60~150℃まで昇温し、各成分が相溶するまで適宜混練した。すなわち、実施例、比較例中のそれぞれの組成に応じて各成分が相溶可能な温度まで昇温したところ、いずれの組成においても60~150℃の範囲のいずれかの温度で、各成分を相溶させることができた。60℃まで降温させた後、成分[C]または、成分[F]および成分[I]を添加し、60℃において30分間混練することにより、エポキシ樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂組成は、表1~8に示した通りである。
【0119】
<エポキシ樹脂硬化物の曲げ特性の評価方法>
未硬化の樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、硬化剤の種類に応じて180℃または130℃の温度で2時間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。なお、実施例、比較例で使用されていない硬化剤を用いる場合の硬化させる温度については、示差走査熱量分析測定にて、発熱ピークが現れる温度よりも高い温度から適宜選択される。この樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを10mm/分とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げを実施し、曲げ弾性率、曲げひずみ、および曲げ強度を測定した。この際、サンプル数n=6で測定した値を曲げ弾性率、曲げひずみ、および曲げ強度の値として採用した。
【0120】
<エポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度と貯蔵弾性率の評価方法>
未硬化の樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、硬化剤の種類に応じて180℃または130℃の温度で2時間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。なお、実施例、比較例で使用されていない硬化剤を用いる場合の硬化させる温度については、示差走査熱量分析測定にて、発熱ピークが現れる温度よりも高い温度から適宜選択される。この樹脂硬化物から、幅12.7mm、長さ45mmの試験片を切り出し、動的粘弾性測定装置(ARES W/FCO:TAインスツルメント社製)を用い、固体ねじり治具に試験片をセットし、昇温速度5℃/min、周波数1Hz、ひずみ量0.08%にて、40~260℃の温度範囲について測定を行った。この際、ガラス転移温度は、得られた貯蔵弾性率と温度のグラフにおいて、ガラス状態に引いた接線と、ガラス転移温度領域に引いた接線との交点における温度とした。ゴム状態の貯蔵弾性率は、得られた貯蔵弾性率と温度のグラフにおいて、ガラス転移温度を50℃上回る温度における貯蔵弾性率とした。
【0121】
<プリプレグの作製方法>
前記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に準じて得られたエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布し、所定の目付の樹脂フィルムを2枚作製した。樹脂フィルムの目付は、39g/mとなるように調整した。次に、シート状に一方向に配列させた炭素繊維“トレカ(登録商標)”T700S-12K-60E(東レ(株)製、目付150g/m)に、得られた樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、温度110℃、圧力2MPaの条件で加圧加熱してエポキシ樹脂組成物を含浸させ、一方向プリプレグを得た。得られたプリプレグの繊維質量含有率は、67%であった。
【0122】
<コンポジット特性の測定方法>
(1)CFRPの0°曲げ強度
上記<プリプレグの作製方法>により作製した一方向プリプレグの繊維方向を揃え、13プライ積層し、オートクレーブにて、180℃または130℃の温度で2時間、0.6MPaの圧力下、昇温速度1.7℃/分で成形して、厚み2mmの一方向材のCFRPを作製した。この積層板から、幅15mm、長さ100mmとなるように切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、JIS K7017(1988)に従って3点曲げを実施した。クロスヘッド速度5.0mm/分、スパン80mm、厚子径10mm、支点径4mmで測定を行い、曲げ強度を測定した。かかる0°曲げ強度は、6個の試料について測定し、繊維質量含有率を60質量%とした換算値を算出して、その平均を0°曲げ強度として求めた。
【0123】
(2)CFRPの90°曲げ強度
上記(1)と同様の方法で、一方向材のCFRPを作製した。得られた厚み2mmの一方向積層板を、幅15mm、長さ60mmとなるように切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いJIS K7017(1988)に従って3点曲げを実施した。クロスヘッド速度1.0mm/分、スパン40mm、厚子径10mm、支点径4mmで測定を行い、曲げ強度を測定した。かかる90°曲げ強度は、6個の試料について測定し、繊維質量含有率を60質量%とした換算値を算出して、その平均を90°曲げ強度として求めた。
【0124】
(3)層間靱性値G1cの評価方法
上記<プリプレグの作製方法>により作製した一方向プリプレグの繊維方向を揃え、13プライ積層し、2対の積層体を作製した。前記積層体の間に“トヨフロン(登録商標)”E(東レ(株)製)を、端部から40mm、繊維方向に沿って挟み、オートクレーブにて、180℃または130℃の温度で2時間、0.6MPaの圧力下、昇温速度1.7℃/分で成形して、厚み3mmの一方向材のCFRPを作製した。なお、実施例、比較例で使用されていない硬化剤を用いる場合の硬化させる温度については、示差走査熱量分析測定にて、発熱ピークが現れる温度よりも高い温度から適宜選択される。この積層板から、幅20mm、長さ200mmとなるように切り出し、フィルムを挿入した端部に、繊維方向と垂直になるようにアルミブロックを接着し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、JIS K7086(1993)に従って、双片持ちはり試験を実施した。クロスヘッド速度1.0mm/分で測定を行い、破壊靱性値を測定した。かかる破壊靱性値は、6個の試料について測定し、その平均値をG1cとして求めた。
【0125】
(4)層間靱性値G2cの評価方法
上記(3)G1cの評価方法、に記載の方法と同様の方法でCFRPを作製した。この積層板から、幅20mm、長さ400mmとなるように切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、JIS K7086(1993)に従って、3点曲げにて端面切欠き曲げ試験を実施した。クロスヘッド速度0.5mm/分、スパン100mm、厚子径10mm、支点径4mmで測定を行い、破壊靱性値を測定した。かかる破壊靱性値は、6個の試料について測定し、その平均をG2cとして求めた。
【0126】
(実施例1)
エポキシ樹脂として“アラルダイト(登録商標)”MY0500を10質量部、“アラルダイト(登録商標)”MY0600を45質量部、“エポトート(登録商標)”YDF-2004を18質量部、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434を10質量部、EPICLON(商標登録)”830を17質量部、芳香族アミン化合物としてセイカキュア-Sを41.5質量部、熱可塑性樹脂として“ビニレック(登録商標)”Kを5.0質量部用い、上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0127】
<エポキシ樹脂の平均エポキシ当量の測定方法>に従って、成分[A]および成分[B]の平均エポキシ当量を測定したところ、成分[A]は117g/eq、成分[B]は980g/eqであり、式(1)に示される成分[B]の平均エポキシ当量/成分[A]の平均エポキシ当量は8.4であった。
【0128】
このエポキシ樹脂組成物について、<エポキシ樹脂硬化物の曲げ特性の評価方法>に従い、180℃にて硬化したエポキシ樹脂硬化物の曲げ特性を取得したところ、曲げ弾性率は4.7GPa、曲げ強度は205MPa、曲げひずみ量は6.9%であった。
【0129】
<エポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度と貯蔵弾性率の評価方法>に従いガラス転移温度およびゴム状態の貯蔵弾性率を測定したところ、それぞれ、175℃、10.0MPaであった。式(2)に示されるガラス転移温度(X)とゴム状態の貯蔵弾性率(Y)の関係(式(2):0.087X-6≦Y≦0.087X-4)において、X=175℃であるため、9.2≦Y≦11.2となり、該エポキシ樹脂硬化物のゴム状態の貯蔵弾性率は、式(2)の範囲を満たした。
【0130】
<エポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度と貯蔵弾性率の評価方法>に従いゴム状態の貯蔵弾性率を測定したところ、10.0MPaであり、式(3)に示される全エポキシ樹脂100質量部中の活性エポキシ基モル数(Ma)とゴム状態の貯蔵弾性率(Y)の比率(Y/Ma)は、1489であった。
【0131】
得られたエポキシ樹脂組成物から、<プリプレグの作製方法>に従って、繊維質量含有率67質量%のプリプレグを作製し、得られたプリプレグを13プライ積層し、180℃で硬化せしめて、一方向の繊維強化複合材料(CFRP)を作製した。
【0132】
CFRPの機械特性を測定した結果、0°曲げ強度は1810MPa、90°曲げ強度は132MPaと、良好であった。
【0133】
また、CFRPの層間靱性を評価した結果、G1cは520J/m、G2cは610J/mと、良好な値を示した。
【0134】
(実施例2~15)
樹脂組成をそれぞれ表1および2に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、樹脂硬化物、および、CFRPを作製し、樹脂硬化物の曲げ特性、成分[B]の平均エポキシ当量/成分[A]の平均エポキシ当量(式(1))、ガラス転移温度とゴム状態の貯蔵弾性率の関係(式(2))、1100≦Y/Ma≦2000の関係(式(3))を取得したところ、式(1)~(3)の全てを満たした。
【0135】
各実施例のエポキシ樹脂組成物に関して、曲げ特性とCFRP特性を評価した結果、全ての水準で良好な物性が得られた。
【0136】
(実施例16~38)
樹脂組成をそれぞれ表3~5に示したように変更し、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグを作製した。前記<エポキシ樹脂硬化物の曲げ特性の評価方法>に従い、130℃で硬化してエポキシ樹脂硬化物を取得し、前記<コンポジット特性の評価方法>に準じてCFRPを得た。
【0137】
各実施例のエポキシ樹脂組成物に関して、曲げ特性とCFRP特性を評価した結果、全ての水準で良好な物性が得られた。
【0138】
(比較例1)
表6-1に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグを作製した。
【0139】
式(1)の値は20.1であり、<エポキシ樹脂硬化物の曲げ特性の評価方法>に従い、130℃にて硬化したエポキシ樹脂硬化物の曲げ特性を取得したところ、樹脂硬化物の曲げ弾性率は4.5GPaであったが、曲げ強度が180MPaと低いものであった。
【0140】
実施例1と同じ方法で、ガラス転移温度とゴム状態の貯蔵弾性率を取得した。このエポキシ樹脂硬化物について、式(2)の関係を調べたところ、式(2)を満たさず、またガラス転移温度は93℃であり、曲げひずみ量が4.3%と低いものであった。また、このエポキシ樹脂硬化物について、式(3)の関係を調べたところ満たさなかった。
【0141】
得られたエポキシ樹脂組成物から、<プリプレグの作製方法>に従って、繊維質量含有率67質量%のプリプレグを作製し、得られたプリプレグを13プライ積層し、130℃で硬化せしめて、一方向の繊維強化複合材料(CFRP)を作製した。
【0142】
CFRPの機械特性を測定した結果、0°曲げ強度は1701MPa、90°曲げ強度は113MPaであり、90°曲げ強度が低いものであった。
【0143】
また、CFRPの層間靱性を評価した結果、G1cは228J/m、G2cは483J/mと、不十分なものとなった。
【0144】
(比較例2~3)
表6-1に示した樹脂組成について、比較例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、樹脂硬化物、および、CFRPを作製し、樹脂硬化物の曲げ特性、式(2)、式(3)の関係、および、CFRPの特性を取得した。また、各エポキシ樹脂組成物は、成分[B]を含まない。各樹脂硬化物は式(2)および式(3)の関係を満たさないため、樹脂硬化物の曲げ弾性率が低く、また、耐熱性も不十分なものであった。また、CFRPの曲げ特性と層間靱性値が不十分であった。
【0145】
(比較例4)
表6-2に示した樹脂組成について、比較例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、樹脂硬化物、および、CFRPを作製し、樹脂硬化物の曲げ特性、式(2)、式(3)の関係、および、CFRPの特性を取得した。該エポキシ樹脂組成物は、成分[B]を含まない。樹脂硬化物は式(2)および(3)の関係を満たさず、ガラス転移温度は170℃であったが、曲げ弾性率が3.7GPa、曲げひずみ量が5.8%、曲げ強度が181MPaと低いものとなった。また、CFRPの0°、90°曲げ強度、および層間靱性値も低いものであった。
【0146】
(比較例5)
表6-2に示した樹脂組成について、比較例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、樹脂硬化物、および、CFRPを作製し、樹脂硬化物の曲げ特性、式(2)、式(3)の関係、および、CFRPの特性を取得した。該エポキシ樹脂組成物は、成分[B]を含まないが、25℃において液状のビスフェノールFを40質量部含む。樹脂硬化物は式(2)および(3)の関係を満たさず、曲げ弾性率、曲げひずみ量、曲げ強度は不十分なものであり、また、CFRPの90°曲げ強度も98MPaと低く、層間靱性値も不十分であった。
【0147】
(比較例6)
表6-2に示した樹脂組成について、比較例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、樹脂硬化物、および、CFRPを作製し、樹脂硬化物の曲げ特性、式(2)、式(3)の関係、および、CFRPの特性を取得した。該エポキシ樹脂組成物は成分[B]の平均エポキシ当量は2273g/eqであり、樹脂硬化物は式(2)および(3)の関係を満たさない。樹脂硬化物の曲げ弾性率は4.5GPaだが、曲げ強度が180MPaと低いため、CFRPの90°曲げ強度が89MPaと不十分なものとなった。
【0148】
また、CFRPの層間靱性を評価した結果、G1cは199J/m、G2cは365J/mと、不十分なものとなった。
【0149】
(比較例7)
表7-1に示した樹脂組成について、比較例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、樹脂硬化物、および、CFRPを作製し、樹脂硬化物の曲げ特性、式(2)、式(3)の関係、および、CFRPの特性を取得した。該エポキシ樹脂組成物は、成分[B]の平均エポキシ当量は4190g/eqであり、樹脂硬化物は式(2)および(3)を満たさないため、曲げひずみ量が低く、CFRPの0°、90°曲げ強度、および層間靱性値が不十分なものとなった。
【0150】
(比較例8)
表7-1に示した樹脂組成について、比較例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、樹脂硬化物、および、CFRPを作製し、樹脂硬化物の曲げ特性、式(2)、式(3)の関係、および、CFRPの特性を取得した。該エポキシ樹脂組成物は、成分[B]の平均エポキシ当量は480g/eqであり、樹脂硬化物は式(2)および(3)を満たさず、曲げ弾性率が不十分であり、CFRPの0°、90°曲げ強度、および層間靱性値も低いものであった。また、耐熱性も不足した。
【0151】
(比較例9)
表7-1に示した樹脂組成について、比較例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、樹脂硬化物、および、CFRPを作製し、樹脂硬化物の曲げ特性、式(2)、式(3)の関係、および、CFRPの特性を取得した。該エポキシ樹脂組成物は、成分[B]を含まないが、25℃で固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂を40質量部含む。樹脂硬化物は式(2)および(3)の関係を満たさず、ガラス転移温度は180℃と高いが、曲げ弾性率が4.0GPaと低いものであった。また、CFRPの0°、90°曲げ強度、および層間靱性値も不十分なものであった。
【0152】
(比較例10)
表7-2に示した樹脂組成について、比較例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、樹脂硬化物、および、CFRPを作製し、樹脂硬化物の曲げ特性、式(2)、式(3)の関係、および、CFRPの特性を取得した。該エポキシ樹脂組成物は、成分[B]を含まないが、25℃で固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂を30質量部含む。樹脂硬化物は式(2)および(3)を満たさず、樹脂硬化物は式(1)を満たさず、曲げ弾性率および曲げ強度は低いものであった。また、CFRPの曲げ強度および層間靱性値も不足した。
【0153】
(比較例11)
表7-2に示した樹脂組成について、比較例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、樹脂硬化物、および、CFRPを作製し、樹脂硬化物の曲げ特性、式(2)、式(3)の関係、および、CFRPの特性を取得した。該エポキシ樹脂組成物は、成分[A]を含まないが、4官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂であるELM434を60質量部含む。樹脂硬化物は式(1)および(2)を満たさず、ガラス転移温度は190℃と高いが、曲げ弾性率は4.0GPa、曲げ強度は160MPaと低いものであった。また、CFRPの曲げ強度および層間靱性値も不足した。
【0154】
(比較例12、13)
表8に示した樹脂組成について、実施例16と同じ方法で樹脂硬化物およびCFRPを作製し、曲げ特性を評価した。
【0155】
比較例12は、成分[E]を含まないため、曲げ弾性率とひずみが不十分であり、曲げ強度も不足した。
【0156】
比較例13は、成分[A]が含まれておらず、曲げ弾性率が不足した結果、曲げ強度も不足した。また、CFRPの0°および90°物性も低いものであった。
【0157】
(比較例14)
表8に示した樹脂組成について、実施例16と同じ方法で樹脂硬化物およびCFRPを作製し、曲げ特性を評価した。該樹脂組成物は、成分[A]と成分[E]の合計が40質量部未満であり、曲げ弾性率とひずみが両方不足したため、曲げ強度が不十分なものとなった。また、CFRPの曲げ特性も不足した。
【0158】
(比較例15)
表8に示した樹脂組成について、実施例16と同じ方法で樹脂硬化物およびCFRPを作製し、曲げ特性を評価した。曲げ弾性率とひずみが両方不足したため、曲げ強度が不十分であった。また、CFRPの曲げ特性も不足した。
【0159】
(比較例16)
表8に示した樹脂組成について、実施例16と同じ方法で樹脂硬化物およびCFRPを作製し、曲げ特性を評価した。曲げ弾性率とひずみのバランスが悪く、曲げ強度が不十分なものとなった。また、CFRPの曲げ特性も不足した。
【0160】
【表1-1】
【0161】
【表1-2】
【0162】
【表2-1】
【0163】
【表2-2】
【0164】
【表3】
【0165】
【表4】
【0166】
【表5】
【0167】
【表6-1】
【0168】
【表6-2】
【0169】
【表7-1】
【0170】
【表7-2】
【0171】
【表8】
【0172】
なお、表中の各成分の単位は質量部である。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、高い弾性率と曲げひずみを高いレベルで両立し、かつ耐熱性に優れる樹脂硬化物を与えるため、該エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料は、優れた0°曲げ強度と90°曲げ強度を有する。これにより、繊維強化複合材料の軽量化が可能となるため、構造設計の自由度が高くなり、様々な構造体への適用の可能性が広がることが期待される。