(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】インプラント用の筒状体
(51)【国際特許分類】
A61F 2/06 20130101AFI20230606BHJP
A61F 2/07 20130101ALI20230606BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20230606BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20230606BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20230606BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20230606BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
A61F2/06
A61F2/07
A61L27/18
A61L27/50 300
A61L31/06
A61L31/14
A61L27/58
A61L31/14 500
(21)【出願番号】P 2019548083
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034060
(87)【国際公開番号】W WO2020045611
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018163208
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古川 泰祐
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅規
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 一裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 諭
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸明
(72)【発明者】
【氏名】土倉 弘至
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/066476(WO,A1)
【文献】特開2008-142534(JP,A)
【文献】特表2013-524940(JP,A)
【文献】特開平01-195862(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181918(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/187569(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/06
A61F 2/07
A61L 27/18
A61L 27/50
A61L 31/06
A61L 31/14
A61L 27/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20Nの引っ張り荷重をかけた条件下で長軸方向の伸長率が5~100%である筒状基材と、
ポリアルキレングリコールブロック及びポリヒドロキシアルカン酸ブロックからなるブロック共重合体と、
を備え、
前記ブロック共重合体の全質量に対するアルキレングリコール残基の全質量の比率は、5~25%であり、
前記ブロック共重合体は、フィルムにした際のヤング率が200MPa以下である、インプラント用の筒状体。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシアルカン酸ブロックは、乳酸、グリコール酸及びカプロラクトンからなる群から選択される残基を含む、請求項1記載の筒状体。
【請求項3】
前記ポリヒドロキシアルカン酸ブロックは、カプロラクトン残基を含み、
前記ブロック共重合体の全質量に対するカプロラクトン残基の全質量の比率は、15~80%である、請求項2記載の筒状体。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシアルカン酸ブロックは、グリコール酸残基を含み、
前記ブロック共重合体の全質量に対するグリコール酸残基の全質量の比率は、10%以下である、請求項2又は3記載の筒状体。
【請求項5】
前記筒状基材は、下記式1を満たす、請求項1~4のいずれか一項記載の筒状体。
(L2-L1)/L1≧0.1 ・・・式1
L1: 前記筒状基材に応力を加えない状態で測定したときの外径において、該外径の最大値の5倍の距離で筒状基材の外周上に標線を引き、該筒状基材の長軸方向に0.01cN/dtexの応力で圧縮した時の標線間距離。
L2: 長軸方向に0.01cN/dtexの応力で伸長した時の標線間距離。
【請求項6】
前記筒状基材は、以下の式2を満たす、請求項1~5のいずれか一項記載の筒状体。
0.03≦(a-b)/a<0.2 ・・・式2
a: 長軸方向に0.01cN/dtexの応力で圧縮したときの該筒状基材の外径
b: 長軸方向に0.01cN/dtexの応力で伸長したときの該筒状基材の外径
【請求項7】
前記筒状基材の内表面粗さは、100μm以下である、請求項1~6のいずれか一項記載の筒状体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項記載の筒状体を備える、人工血管。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項記載の筒状体を備える、ステントグラフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラント用の筒状体に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性ポリマーは医療用の被覆材料、血管塞栓材料、縫合糸、DDS担体等、医療用途で幅広く用いられている。体内に埋める医療用の被覆材料は、体内に留置されるものであるため、無毒で最終的には分解され、体外に排出される必要がある。
【0003】
なかでも、血液に触れる被覆材料は、血栓形成を誘発してしまうと本来の機能を失う可能性があるため、生体適合性が求められる。
【0004】
このような分解性と抗血栓性に優れた生分解性ポリマーとして、ポリアルキレングリコールと脂肪族ポリエステルのブロック共重合体が報告されている(特許文献1及び2)。
【0005】
また、L-乳酸、D,L-乳酸、グリコール酸及びε-カプロラクトンから選ばれる成分と、ポリビニルアルコール及びポリエチレングリコールから選ばれる成分とを混合した共重合体を、生分解性の合成高分子として用いるとともに、これらの生分解性の合成高分子を繊維からなる筒状物に被覆した人工血管についても報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-309947号公報
【文献】国際公開1996/021056号公報
【文献】特開2004-313310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のブロック共重合体は、ポリアルキレングリコールの含有量が多いため、血液に触れた際に膨潤してしまい、人工血管の伸長に繋がる。人工血管が伸長すると、内径が細くなる場合があり、血液のずり速度が増大する。さらに、繊維からなる基材の場合、繊維密度が低下することで、血液成分が入り込む空隙が増大する。いずれの場合も血小板付着・凝集が促進され、血栓形成に繋がってしまう。
【0008】
特許文献2に記載のブロック共重合体は、ポリアルキレングリコールの含有量が少ないため、膨潤による伸長は起こらないが、ヤング率が高い。この高ヤング率のため、該ブロック共重合体で被覆後の人工血管は耐キンク性が低下することにより生体の動きに追従できず座屈してしまい、人工血管の閉塞に繋がってしまう。
【0009】
このように、従来技術のブロック共重合体は、高膨潤性や高ヤング率が原因のため、人工血管に適用したとしても、求められる高い開存率の維持ができない可能性がある。
【0010】
また、特許文献3に記載の人工血管は、被覆する生分解性ポリマーにポリエチレングリコールを混合しているため、移植初期にポリエチレングリコールが溶出してしまい、抗血栓性が持続しないことから、高い開存率を維持可能なインプラントとして用いるにはさらなる改良が必要であった。
【0011】
そこで、本発明は、抗血栓性、低膨潤性及び低ヤング率を達成することで、高い開存率を維持可能なインプラント用の筒状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の(1)~(9)の発明を見出した。
(1) 20Nの引っ張り荷重をかけた条件下で長軸方向の伸長率が5~100%である筒状基材と、ポリアルキレングリコールブロック及びポリヒドロキシアルカン酸ブロックからなるブロック共重合体と、を備え、上記ブロック共重合体の全質量に対するアルキレングリコール残基の全質量の比率は、5~25%であり、上記ブロック共重合体は、フィルムにした際のヤング率が200MPa以下である、インプラント用の筒状体。
(2) 上記ポリヒドロキシアルカン酸ブロックは、乳酸、グリコール酸及びカプロラクトンからなる群から選択される残基を含む、(1)記載の筒状体。
(3) 上記ポリヒドロキシアルカン酸ブロックは、カプロラクトン残基を含み、上記ブロック共重合体の全質量に対するカプロラクトン残基の全質量の比率は、15~80%である、(2)記載の筒状体。
(4) 上記ポリヒドロキシアルカン酸ブロックは、グリコール酸残基を含み、上記ブロック共重合体の全質量に対するグリコール酸残基の全質量の比率は、10%以下である、(2)又は(3)記載の筒状体。
(5) 上記筒状基材は、下記式1を満たす、(1)~(4)のいずれか記載の筒状体。
(L2-L1)/L1≧0.1 ・・・式1
L1: 上記筒状基材に応力を加えない状態で測定したときの外径において、該外径の最大値の5倍の距離で筒状基材の外周上に標線を引き、該筒状基材の長軸方向に0.01cN/dtexの応力で圧縮した時の標線間距離。
L2: 長軸方向に0.01cN/dtexの応力で伸長した時の標線間距離。
(6) 上記筒状基材は、以下の式2を満たす、(1)~(5)のいずれか記載の筒状体。
0.03≦(a-b)/a<0.2 ・・・式2
a: 長軸方向に0.01cN/dtexの応力で圧縮したときの該筒状基材の外径
b: 長軸方向に0.01cN/dtexの応力で伸長したときの該筒状基材の外径
(7) 上記筒状基材の内表面粗さは、100μm以下である、(1)~(6)のいずれか記載の筒状体。
(8) (1)~(7)のいずれか記載の筒状体を備える、人工血管。
(9) (1)~(7)のいずれか記載の筒状体を備える、ステントグラフト。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインプラント用の筒状体は、特定の伸長率を有する筒状基材に対し、モノマーの重量比率を制御したポリアルキレングリコールブロックとポリヒドロキシアルカン酸ブロックからなるブロック共重合体を被覆した筒状体とすることで、従来達成できなかった高い開存率の維持を可能とし、特に心血管インプラント用の医療器材の材料として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】筒状基材の圧縮時標線間距離を測定するための装置の概念図である。
【
図3】筒状基材の伸長時時標線間距離を測定するための装置の概念図である。
【
図4】筒状基材の内表面粗さを測定するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のインプラント用の筒状体は、20Nの引っ張り荷重をかけた条件下で長軸方向の伸長率が5~100%である筒状基材と、ポリアルキレングリコールブロックとポリヒドロキシアルカン酸ブロックからなるブロック共重合体とを備え、上記ブロック共重合体中の全質量に対するポリアルキレングリコールの質量比率は、5~25%であり、上記ブロック共重合体からなるフィルムのヤング率が200MPa以下であることを特徴としている。
【0016】
20Nの引っ張り荷重をかけた条件下での長軸方向の伸長率が5%以上であれば体内に埋め込んだ際、筒状基材が生体の動きに追従しやすくなり、伸長率が100%以下であれば、術中の蛇行を防ぎ、目的の部位に収まりやすくなる。このことから、上記の筒状基材は、20Nの引っ張り荷重をかけた条件下での長軸方向の伸長率が5%~100%であることが好ましく、7%~75%がより好ましく、10%~50%がさらに好ましい。20Nの引っ張り荷重をかけた条件下での長軸方向の伸長率は、後述する測定例4によって測定することができる。
【0017】
上記の筒状基材は、下記標線間距離L1とL2との関係を下記式1の範囲とすることで、伸縮性、柔軟性及び耐キンク性(易屈曲性)に優れたインプラント用の筒状体を提供することができる。
(L2-L1)/L1≧0.1 ・・・式1
L1:上記筒状基材に応力を加えない状態で測定したときの織物外径において、その織物外径の最大値の5倍の距離で筒状基材の外周上に標線を引き、該筒状基材の長軸方向に0.01cN/dtexの応力で圧縮した時の標線間距離。
L2:長軸方向に0.01cN/dtexの応力で伸長した時の標線間距離。
【0018】
筒状基材を屈曲させる際、屈曲させた内周側では圧縮方向に応力がかかると同時に外周側では伸長方向に応力がかかるが、上記筒状基材は、下記標線間距離L1とL2との関係を上記範囲とすることにより、内周に対し外周が十分に伸長し得るので、耐キンク性に優れる。
【0019】
ここで、0.01cN/dtexの応力での伸長操作もしくは圧縮操作は、通常、人が該筒状基材を長軸方向に軽く手で伸長圧縮する際の応力に相当し、上記範囲にある場合に人が手で屈曲操作をする際にも操作性がよく、伸縮性、柔軟性に優れることを意味する。
【0020】
筒状基材の標線間距離L1とL2の値は、後述する測定例6によって測定することができる。また、上記(L2-L1)/L1の値は、伸縮性、柔軟性をよりいっそう向上させ得る点から0.15以上であることが好ましく、0.18以上であることがより好ましい。また、(L2-L1)/L1の値は、1.0以下であることが好ましい。
【0021】
また筒状基材の圧縮時外径a、伸長時外径b及び(a-b)/aの値は、後述する測定例7によって求められるa:長軸方向に0.01cN/dtexの応力で圧縮したときの該筒状基材の外径及びb:長軸方向に0.01cN/dtexの応力で伸長したときの該筒状基材の外径から導くことが出来る。(a-b)/aの値を下記式2の範囲とすることで、屈曲等伸長、圧縮が同時に生じる際に筒状基材の内径差が小さくなり、変化のない流路を確保することができるため、血流の乱流等が起こらず、血栓形成が抑制される。
0.03≦(a-b)/a<0.2 ・・・式2
a:長軸方向に0.01cN/dtexの応力で圧縮したときの該筒状基材の外径
b:長軸方向に0.01cN/dtexの応力で伸長したときの該筒状基材の外径
【0022】
屈曲等伸長、圧縮が同時に生じる際に筒状基材の内径差が小さくなり、変化のない流路を確保することができるという点から、(a-b)/aの値は、0.03以上、0.2未満であることが好ましく、0.05以上、0.15未満であることがより好ましい。
【0023】
本明細書中において、筒状基材の内表面粗さとは、筒状基材の外表面の任意の点と、前記外表面の任意の点から筒状基材の中心に向かう直線と内表面との交点との距離をDとし、筒状基材においてもっとも短いDをDs、もっとも長いDをDlとした際の、DsとDlの差とする。また、筒状基材の中心とは、筒状基材の中心から内表面までの最短距離のばらつきがもっとも小さくなる点を指す。ここで、筒状基材の内表面粗さは、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらにより好ましいである。下限としては、人工血管として用いた場合における内皮形成の点から3μm以上であることが好ましい。筒状基材の内表面粗さを上記の範囲とすることで、内径が小さい場合であっても流体に乱流が発生せず、特に細い人工血管として使用する場合であっても、血流に乱流が発生せず、血栓が生成し難い利点がある。筒状基材の内表面粗さは、後述する測定例8によって測定することができる。
【0024】
筒状基材の透水性とは、筒状基材の内表面にある一定圧力をかけた際に外表面から水が流れ出る性質のことであり、本明細書中において透水性の指標は、内表面に16kPaの圧力をかけたとき、外表面から流れ出てくる水の量(mL)を単位面積(cm2)及び単位時間(min.)で除した値とする。透水性の測定方法は、ISO7198に則り、筒状基材の内表面に16kPaの圧力をかけたときの筒状基材の外側に流れ出てくる水の量(mL)を単位面積(cm2)及び単位時間(min.)で除したものである。筒状基材の透水性が5mL/cm2/min.以上であれば、ブロック共重合体が分解した後に細胞・組織が浸潤しやすくなり、透水性が500mL/cm2/min.以下であれば、漏血を防ぎやすくなる。このため、内表面に16kPaの圧力をかけた条件下での透水性は5mL/cm2/min.~500mL/cm2/min.が好ましく、50mL/cm2/min.~350mL/cm2/min.がより好ましく、100mL/cm2/min.~250mL/cm2/min.がさらに好ましい。
【0025】
また、筒状基材は蛇腹構造を除く構造であることが好ましい。蛇腹構造以外の構造の場合、内表面粗さが無く、細い間に流体が流れる場合も乱流が発生せず、特に細い人工血管に使用する際には血流に乱流が発生せず、血栓が生成し難い利点がある。具体的には、繊維筒状物に螺旋状もしくは環状の波形溝を有する心棒を挿入し、加熱して波形セット加工されていない構造の織物もしくはプリーツ加工されていない構造を指す。
【0026】
上記の筒状基材とは、次に挙げるような素材からなる中空の基材であり、筒状基材の素材としては例えば、合成ポリマー及び天然ポリマー等が挙げられる。
【0027】
上記の合成ポリマーは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、PTFE、ePTFE、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル及びポリシロキサン又はこれらの混合物並びに共重合体等が挙げられる。天然ポリマーは、例えば、多糖、タンパク質及び天然ゴム等が挙げられ、タンパク質としては、例えば、ゼラチン及びコラーゲン等が挙げられる。
【0028】
上記の筒状基材の素材は任意の形状のものを用いることができ、素材の形状は例えば、フィルム、多孔質シート及び繊維等が挙げられる。
【0029】
上記の筒状基材が繊維からなる場合、種々の有機繊維を用いることができるが、吸水性や耐劣化性の点から、ポリエステルが好ましい。ポリエステルとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等を挙げることができる。また、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートに対して、酸成分として、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸又はアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合させた共重合ポリエステルを用いてよい。
【0030】
上記生分解性ポリマーとは、生体内で分解される性質を有するポリマーを指す。生分解性と互換的に使用され得る用語として生体吸収性、生体適合性等が挙げられる。
【0031】
上記のブロック共重合体は、ポリアルキレングリコールブロックとポリヒドロキシアルカン酸ブロックからなることを特徴としている。
【0032】
ポリアルキレングリコールとは、1種類以上のアルキレングリコールが重合されたポリマーであり、アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、オキシエチレングリコールジメチルエーテル、オキシプロピレングリコールモノブチルエーテル、オキシプロピレングリコールジアセテート1つ以上が含まれるポリマーが挙げられる。
【0033】
ポリヒドロキシアルカン酸とは、1種類以上のヒドロキシアルカン酸が重合されたものであり、ヒドロキシアルカン酸として、例えば、2-ヒドロキシプロピオン酸(乳酸)、2-ヒドロキシブタン酸、2-ヒドロキシペンタン酸、2-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシブタン酸(3-ヒドロキシ酪酸)、3-ヒドロキシペンタン酸(3-ヒドロキシ吉草酸)、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシノナン酸、3-ヒドロキシデカン酸、4-ヒドロキシペンタン酸、4-ヒドロキシヘキサン酸、4-ヒドロキシヘプタン酸、4-ヒドロキシオクタン酸、5-ヒドロキシヘキサン酸、5-ヒドロキシヘプタン酸、6-ヒドロキシヘプタン酸、6-ヒドロキシオクタン酸、8-ヒドロキシノナン酸、8-ヒドロキシデカン酸、9-ヒドロキシデカン酸、9-ヒドロキシウンデカン酸、10-ヒドロキシウンデカン酸、10-ヒドロキシドデカン酸、11-ヒドロキシドデカン酸又は12-ヒドロキシトリデカン酸が挙げられる。
【0034】
ブロック共重合体中の全質量に対するアルキレングリコール残基の全質量の比率とは、ブロック共重合体中に含まれる全残基の質量に対する、アルキレングリコール残基の全質量の比率を指し、後述する測定例1に挙げられるように、1H-NMR測定により得られた数値から算出される。ブロック共重合体の全質量に対するアルキレングリコール残基の全質量の比率が5%以上であれば好適な抗血栓性が得られ、25%以下であれば好適な膨潤性を得る。このため、好適な抗血栓性と膨潤性の両立のためには、ブロック共重合体中の全質量に対するアルキレングリコール残基の全質量の比率は、5~25%であることが好ましく、8~22%がより好ましく、10~20%がさらに好ましい。
【0035】
ブロック共重合体中の全質量に対するカプロラクトン残基の全質量の比率とは、ブロック共重合体中に含まれる全残基の質量に対する、カプロラクトン残基の全質量の比率を指し、後述する測定例1に挙げられるように、1H-NMR測定により得られた数値から算出される。ブロック共重合体中の全質量に対するカプロラクトン残基の全質量の比率が15%以上であればヤング率が好適な値になり、80%以下であれば好適な分解性を有する。このため、好適な分解性とヤング率の両立のためには、ブロック共重合体中の全質量に対するカプロラクトン残基の全質量の比率は、15~80%であることが好ましく、20~70%がより好ましく、25~60%がさらに好ましい。
【0036】
ブロック共重合体中の全質量に対するグリコール酸残基の全質量の比率とは、ブロック共重合体中に含まれる全残基の質量に対する、グリコール酸残基の全質量の比率を指し、後述する測定例1に挙げられるように、1H-NMR測定により得られた数値から算出される。ブロック共重合体の全質量に対するグリコール酸残基の全質量の比率は、10%以下であるとヤング率が好適な値になるため好ましく、7%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0037】
ポリアルキレングリコールブロックは単一のポリアルキレングリコール分子であってもよく、複数のポリアルキレングリコール分子がリンカーを介して連結していてもよい。ポリアルキレングリコールブロックを構成するポリアルキレングリコール分子の重量平均分子量は、7,000~170,000が好ましく、8,000~100,000がより好ましく、10,000~50,000がさらに好ましい。
【0038】
ブロック共重合体からなるフィルムのヤング率とは、後述する測定例2に挙げられる方法によって評価することができる。ブロック共重合体に被覆された、インプラント用の筒状体が良好なキンク耐性を示すためには、ブロック共重合体からなるフィルムのヤング率が200MPa以下であることが好ましく、100MPa以下であることがより好ましく、10MPa以下であることがさらに好ましい。
【0039】
上記のブロック共重合体は、筒状基材を被覆するため、フィルム形成する必要がある。そのためブロック共重合体の重量平均分子量は10,000以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、成形性を向上させるためには、1,600,000以下が好ましく、800,000以下がより好ましく、400,000以下がさらにより好ましい。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により求めることができ、例えば次に示す方法で求めることができる。
【0040】
ブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、0.45μmのシリンジフィルター(DISMIC-13HP;ADVANTEC社製)を通過させて不純物等を除去した後にGPCにより測定して、ブロック共重合体の重量平均分子量を算出する。
機器名:Prominence(株式会社島津製作所製)
移動相:クロロホルム(HPLC用)(和光純薬工業株式会社製)
流速:1mL/min
カラム:TSKgel GMHHR-M(φ7.8mm×300mm;東ソー株式会社製)
検出器:UV(254nm)、RI
カラム、検出器温度:35℃
標準物質:ポリスチレン
【0041】
上記の膨潤性とは、水に浸漬した際、ポリマーが含水し、膨張する性質のことを指し、本明細書中において、膨潤性の指標は膨潤率とする。
【0042】
ブロック共重合体からなるフィルムの膨潤率は、後述する測定例3で挙げられる方法によって評価することができる。ブロック共重合体からなるフィルムの膨潤率は、-10%以上であればブロック共重合体からなるフィルムが収縮した場合でも筒状基材から剥離することを防ぎ、20%以下であればブロック共重合体からなるフィルムが膨張した場合でも、インプラント用の筒状体が伸長しすぎることによる、血栓形成を防ぐことが出来る。このため、ブロック共重合体からなるフィルムの膨潤率は-10%~20%が好ましく、-5%~15%がより好ましく、0%~10%がさらに好ましい。
【0043】
ポリヒドロキシアルカン酸ブロック及びブロック共重合体は、例えば、環状モノマーを開始剤と触媒存在下で開環重合する方法(開環重合法)、触媒や縮合剤の存在下でブロック共重合体の両末端に同様のあるいは別のブロック共重合体を1分子ずつ末端同士を介して結合させてゆく方法(マルチ化法)及び開環重合法とマルチ化法を組み合わせた方法で合成できる。
【0044】
環状モノマーの例としては、D,L-ラクチド、L-ラクチド、グリコリド、D,L-ラクチド-コ-グリコリド、L-ラクチド-コ-グリコリド、ε-カプロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン-co-乳酸及びε-カプロラクトン-コ-グリコール酸-コ-乳酸等が挙げられる。
【0045】
開環重合法で製造する際の触媒としては、通常のゲルマニウム系、チタン系、アンチモン系及びスズ系触媒等の重合触媒が使用可能である。このような重合触媒の具体例としては、オクチル酸スズ(II)、三フッ化アンチモン、亜鉛粉末、酸化ジブチルスズ(IV)及びシュウ酸スズ(II)が挙げられる。触媒の反応系への添加方法は特に限定されるものではないが、好ましくは原料仕込み時に原料中に分散させた状態で、あるいは減圧開始時に分散処理した状態で添加する方法である。触媒の使用量は使用するモノマーの全量に対して金属原子換算で0.01~3重量%、より好ましくは0.05~1.5重量%である。
【0046】
マルチ化法で製造する際の金属触媒としてはスズ、チタン、鉛、亜鉛、コバルト、鉄、リチウム又は希土類等の金属並びにそれらの金属アルコキシド、金属ハロゲン化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩、硫酸塩又は酸化物が挙げられるが、重合反応性の点から、スズ化合物が好ましい。
【0047】
スズ化合物としては、例えば、スズ粉末、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、臭化スズ(II)、臭化スズ(IV)、エトキシスズ(II)、t-ブトキシスズ(IV)、イソプロポキシスズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、オクチル酸スズ(II)、ラウリン酸スズ(II)、ミリスチン酸スズ(II)、パルミチン酸スズ(II)、ステアリン酸スズ(II)、オレイン酸スズ(II)、リノール酸スズ(II)、アセチルアセトンスズ(II)、シュウ酸スズ(II)、乳酸スズ(II)、酒石酸スズ(II)、ピロリン酸スズ(II)、p-フェノールスルホン酸スズ(II)、ビス(メタンスルホン酸)スズ(II)、硫酸スズ(II)、酸化スズ(II)、酸化スズ(IV)、硫化スズ(II)、硫化スズ(IV)、酸化ジメチルスズ(IV)、酸化メチルフェニルスズ(IV)、酸化ジブチルスズ(IV)、酸化ジオクチルスズ(IV)、酸化ジフェニルスズ(IV)、酸化トリブチルスズ、水酸化トリエチルスズ(IV)、水酸化トリフェニルスズ(IV)、水素化トリブチルスズ、モノブチルスズ(IV)オキシド、テトラメチルスズ(IV)、テトラエチルスズ(IV)、テトラブチルスズ(IV)、ジブチルジフェニルスズ(IV)、テトラフェニルスズ(IV)、酢酸トリブチルスズ(IV)、酢酸トリイソブチルスズ(IV)、酢酸トリフェニルスズ(IV)、二酢酸ジブチルスズ、ジオクタン酸ジブチルスズ、ジラウリン酸ジブチルスズ(IV)、マレイン酸ジブチルスズ(IV)、ジブチルスズビス(アセチルアセトナート)、塩化トリブチルスズ(IV)、二塩化ジブチルスズ、三塩化モノブチルスズ、二塩化ジオクチルスズ、塩化トリフェニルスズ(IV)、硫化トリブチルスズ、硫酸トリブチルスズ、メタンスルホン酸スズ(II)、エタンスルホン酸スズ(II)、トリフルオロメタンスルホン酸スズ(II)、ヘキサクロロスズ(IV)酸アンモニウム、ジブチルスズスルフィド、ジフェニルスズスルフィド、硫酸トリエチルスズ及びフタロシアニンスズ(II)等が使用可能である。
【0048】
またマルチ化法で製造する際の非金属触媒や縮合剤としては、4,4-ジメチルアミノピリジン、p-トルエンスルホン酸4,4-ジメチルアミノピリジニウム、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’-カルボニルジイミダゾール、1,1’-カルボニルジ(1,2,4-トリアゾール)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム=クロリドn水和物、トリフルオロメタンスルホン酸(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-(2-オクトキシ-2-オキソエチル)ジメチルアンモニウム、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロりん酸塩、(7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、クロロトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロりん酸塩、ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩、O-(3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン-3-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩、S-(1-オキシド-2-ピリジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルチウロニウムテトラフルオロほう酸塩、O-[2-オキソ-1(2H)-ピリジル]-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩、{{[(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデン)アミノ]オキシ}-4-モルホリノメチレン}ジメチルアンモニウムヘキサフルオロりん酸塩、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロりん酸塩、1-(クロロ-1-ピロリジニルメチレン)ピロリジニウムヘキサフルオロりん酸塩、2-フルオロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロりん酸塩及びフルオロ-N,N,N’,N’-テトラメチルホルムアミジニウムヘキサフルオロりん酸塩等が使用可能である。
【0049】
マルチ化する際、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基又は水酸基を2以上有するリンカー分子を用いてマルチ化してもよい。
【0050】
カルボキシル基を2以上有するリンカー分子としては、例えば、ジカルボン酸、クエン酸、多分岐ポリマーのうち、分岐末端にカルボキシル基を2以上有するもの又は上記ジカルボン酸、クエン酸及び多分岐ポリマーの酸ハロゲン化物、酸無水物若しくはエステルが挙げられる。すなわち、上記のカルボン酸基は、酸ハロゲン化物構造、エステル構造又は酸無水物構造に変換されていても構わない。また、上記ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸及びドデカン二酸等が挙げられる。また、上記多分岐ポリマーとしては、ハイパーブランチポリマー及びデンドリマー等が挙げられる。
【0051】
上記イソシアネート基を2以上有するリンカー分子としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート(CHDI)及び2,4-トルエンジイソシアネート(TDI)等が挙げられる。
アミノ基を2以上有するリンカー分子としては、エチレンジアミン、プトレシン、カダベリン、ヘキサメチレンジアミン及びフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0052】
上記水酸基を2以上有するリンカー分子として、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,15-ペンタデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール及びオキサ脂肪族ジオール等が挙げられる。
【0053】
上記リンカー分子として複数のカルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基及び水酸基を同一分子中に有するリンカー分子を使用すると、リンカーが分岐点となった分岐鎖状の共重合体を合成することができる。複数のカルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基及び水酸基を同一分子中に有するリンカーとして、例えば、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、リンゴ酸、ジアミンジオール等が挙げられる。
【0054】
ポリアルキレングリコール(両末端水酸基)を上記リンカー分子とあらかじめ反応させたり、水酸基を官能基変換させたりすることで、両末端にカルボキシル基、イソシアネート基、又はアミノ基を有するポリアルキレングリコールや片末端にカルボキシル基、イソシアネート基、又はアミノ基を有するポリアルキレングリコールを得ることができ、これらを原料として共重合体を製造することができる。
【0055】
重合反応がリビング性を有する場合、すなわち重合物の末端から連続して重合反応を開始しうる場合には、重合反応が終了した後のブロック共重合体溶液にモノマーを追添加する操作を繰り返すことで、マルチ化することができる。
【0056】
本明細書において、「残基」とは、原則として、当該モノマーを含む2種以上のモノマーを重合して得られたブロック共重合体の化学構造中における、当該モノマーに由来する化学構造の反復単位を言う。
【0057】
例えば、乳酸(CH
3CH(OH)COOH)と、下記の化学式(I)で示されるカプロラクトン(ε-カプロラクトン)とを重合し、乳酸とカプロラクトンのブロック共重合体とした場合、乳酸残基は、下記の化学式(II)で示される構造をとり、カプロラクトン残基は、下記の化学式(III)で示される構造をとる。
【化1】
【化2】
【化3】
【0058】
なお、例外として、モノマーとしてラクチド等の2量体を用いる場合には、「残基」は当該2量体に由来する2回繰り返し構造のうちの1つを意味するものとする。例えば、下記化学式(IV)で示されるジラクチド(
L-(-)-ラクチド)とカプロラクトンとを重合した場合、ブロック共重合体の化学構造には、ジラクチド残基として、上記化学式(II)で示される構造が2回繰り返された構造が形成されるが、この場合にはそのうち1つを乳酸残基と捉え、ジラクチドに由来して乳酸残基が2つ形成されたと考えるものとする。
【化4】
【0059】
筒状基材に被覆されたブロック共重合体の性質は、次のように解析することができる。例えば筒状基材に被覆された共重合体をクロロホルム等の溶媒に浸漬させ、抽出液を乾燥することで得られる固体に対し、後述する測定例1~3に挙げられるような測定を行う。
【0060】
耐キンク性の評価の指標として、キンク半径が挙げられる。キンク半径とは、インプラント用の筒状体でループを形成し、ループの径を徐々に小さくしていったときに座屈しない最小ループ半径のことを指す。キンク半径は、後述する測定例10で挙げられる方法によって評価することができる。キンク半径は大きすぎると、生体内に移植後、周辺組織の動きに追従できなかったり、屈曲部に移植できなかったりするため、キンク半径は、15mm以下であれば、生体内に移植後、周辺組織の動きに追従しやすくなり、屈曲部への移植も容易となるため好ましく、10mm以下がより好ましい。
【0061】
上記のブロック共重合体の被覆厚とは、インプラント用の筒状体の断面におけるブロック共重合体の層の厚みのことを指し、ブロック共重合体の被覆厚は、後述する測定例11で挙げられる方法によって評価することができる。ブロック共重合体の被覆厚が1μm以上であれば耐圧性が改善され、ブロック共重合体の被覆厚が500μm以下であれば分解に要する時間が好適な時間となる。このため、ブロック共重合体の被覆厚は、1μm~500μmであることが好ましく、10μm~300μmがより好ましく、20μm~200μmがさらに好ましい。
【0062】
筒状基材の内径は、人工血管又はステントグラフトとしての用途を考慮した場合には1~10mmが好ましく、2~4mmがより好ましい。
【0063】
人工血管は、例えば動脈硬化等の病的な生体血管の代替、あるいはバイパスやシャントを形成するために用いられる医療機器である。人工血管の材料としては、布、ポリテトラフルオロエチレン、生体材料及び合成ポリマー材料等が挙げられるが、抗凝固能の付与が容易であることから布が好ましい。
【0064】
人工血管の評価の指標としては開存率が挙げられる。ヒト臨床において、下肢の閉塞性動脈硬化症に対するバイパス手術では代用血管として人工血管を用いた場合の開存率は60%であるのに対し、自家静脈を用いた場合は80%と報告されている。心臓の冠動脈バイパス術等の心血管インプラントでは、術後の閉塞や狭窄を考慮して人工血管ではなく自家静脈が選ばれていることから、心血管インプラントにおいて、開存率20%程度の差は臨床において大きな意味をもつ。しかしながら自家静脈についても、摘出手術が必要で患者の負担が大きい、あるいは質が悪くそもそも使用できない患者がいるという課題を抱えている。そのため自家静脈と同等以上の開存率、すなわち開存率80%以上の人工血管は臨床において非常に大きな意義がある。
【0065】
抗凝固能とは、血液凝固を防ぎ、血栓形成を抑制する性質のことを指し、抗凝固能を付与する方法としては、ヘパリン又はヘパリン誘導体を材料の表面に付与する手法が挙げられる。
【0066】
ステントグラフトとは、ステントと人工血管(グラフト)を組み合わせた医療機器であり、生体血管内に留置し、動脈瘤を治療するために用いられる。
【実施例】
【0067】
以下、参考例、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
(参考例1)
50.0gのL-ラクチド(PURASORB(登録商標) L;PURAC社製)と、38.5mLのεーカプロラクトン(和光純薬工業株式会社製)とを、モノマーとしてセパラブルフラスコに採取した。これらをアルゴン雰囲気下とし、14.5mLのトルエン(超脱水)(和光純薬工業株式会社製)に溶解した触媒である0.29gのオクチル酸スズ(II)(和光純薬工業株式会社製)、開始剤として90μLのイオン交換水を添加し、90℃で1時間、助触媒反応を行った。その後、150℃で6時間、共重合反応させて、粗ポリヒドロキシアルカン酸Aを得た。
【0069】
得られた粗ポリヒドロキシアルカン酸Aを100mLのクロロホルムに溶解し、攪拌状態にある1400mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を3回繰り返し、沈殿物を70℃で減圧乾燥してポリヒドロキシアルカン酸Aを得た。
【0070】
得られたポリヒドロキシアルカン酸Aを14.2g、両末端にヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,000;シグマアルドリッチ社製)を0.41g、両末端カルボキシル基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,200)を0.42g混合し、触媒として0.56gのp-トルエンスルホン酸4,4-ジメチルアミノピリジニウム(非特許文献1記載の方法で合成)と、0.20gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)を添加した。これらをアルゴン雰囲気下とし、28mLのジクロロメタン(脱水)(和光純薬工業株式会社製)に溶解し、7mLのジクロロメタンに溶解した縮合剤である2.06gのジシクロヘキシルカルボジイミド(シグマアルドリッチ社製)を添加し、室温で2日間縮合重合させた。
【0071】
反応混合物に60mLのクロロホルムを添加し、攪拌状態にある1000mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この沈殿物を100mLのクロロホルムに溶解し、攪拌状態にある1000mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を2回繰り返し、沈殿物として精製された参考例1のブロック共重合体を得た。
【0072】
(参考例2)
0.20gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)への添加の際、ポリヒドロキシアルカン酸Aの添加量を14.2gから13.4gに、両末端にヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,000;シグマアルドリッチ社製)の添加量を0.41gから0.82gに、両末端カルボキシル基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,200)の添加量を0.42gから0.83gにそれぞれ変更した以外は、参考例1と同様の方法を用い、参考例2のブロック共重合体を得た。
【0073】
(参考例3)
0.20gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)への添加の際、ポリヒドロキシアルカン酸Aの添加量を14.2gから11.7gに、両末端にヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,000;シグマアルドリッチ社製)の添加量を0.41gから1.63gに、両末端カルボキシル基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,200)の添加量を0.42gから1.67gにそれぞれ変更した以外は、参考例1と同様の方法を用い、参考例3のブロック共重合体を得た。
【0074】
(参考例4)
0.20gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)への添加の際、ポリヒドロキシアルカン酸Aの添加量を14.2gから10.9gに、両末端にヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,000;シグマアルドリッチ社製)の添加量を0.41gから2.04gに、両末端カルボキシル基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,200)の添加量を0.42gから2.08gにそれぞれ変更した以外は、参考例1と同様の方法を用い、参考例4のブロック共重合体を得た。
【0075】
(参考例5)
0.20gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)への添加の際、ポリヒドロキシアルカン酸Aの添加量を14.2gから10.1gに、両末端にヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,000;シグマアルドリッチ社製)の添加量を0.41gから2.45gに、両末端カルボキシル基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,200)の添加量を0.42gから2.50gにそれぞれ変更した以外は、参考例1と同様の方法を用い、参考例5のブロック共重合体を得た。
【0076】
(参考例6)
0.20gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)への添加の際、ポリヒドロキシアルカン酸Aの添加量を14.2gから8.40gに、両末端にヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,000;シグマアルドリッチ社製)の添加量を0.41gから3.27gに、両末端カルボキシル基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,200)の添加量を0.42gから3.33gにそれぞれ変更した以外は、参考例1と同様の方法を用い、参考例6のブロック共重合体を得た。
【0077】
(参考例7)
0.20gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)への添加の際、ポリヒドロキシアルカン酸Aの添加量を14.2gから6.75gに、両末端にヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,000;シグマアルドリッチ社製)の添加量を0.41gから3.27gに、両末端カルボキシル基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,200)の添加量を0.42gから3.33gにそれぞれ変更した以外は、参考例1と同様の方法で作成し、参考例7のブロック共重合体を得た。
【0078】
(参考例8)
70.7gのL-ラクチド(PURASORB(登録商標) L;PURAC社製)と、19.0gのグリコリド(PURAC社製)とを、モノマーとしてセパラブルフラスコに採取した。これらをアルゴン雰囲気下とし、14.5mLのトルエン(超脱水)(和光純薬工業株式会社製)に溶解した触媒である0.29gのオクチル酸スズ(II)(和光純薬工業株式会社製)、開始剤として388μLのイオン交換水を添加し、90℃で1時間、助触媒反応を行った。その後、130℃で6時間、共重合反応させて、粗ポリヒドロキシアルカン酸2を得た。
【0079】
得られた粗ポリヒドロキシアルカン酸2を100mLのクロロホルムに溶解し、攪拌状態にある1400mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を3回繰り返し、沈殿物を70℃で減圧乾燥してポリヒドロキシアルカン酸2を得た。
【0080】
得られたポリヒドロキシアルカン酸2を9.81g、参考例1で得られたポリヒドロキシアルカン酸1を5.22g混合し、触媒として0.56gのp-トルエンスルホン酸4,4-ジメチルアミノピリジニウム(Messmore,Benjamin W. et al.,Journal of the American Chemical Society,2004,126,14452.に記載の方法で合成)と、0.20gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)を添加した。これらをアルゴン雰囲気下とし、28mLのジクロロメタン(脱水)(和光純薬工業株式会社製)に溶解し、7mLのジクロロメタンに溶解した縮合剤である2.06gのジシクロヘキシルカルボジイミド(シグマアルドリッチ社製)を添加し、室温で2日間縮合重合させた。
【0081】
反応混合物に60mLのクロロホルムを添加し、攪拌状態にある1000mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この沈殿物を100mLのクロロホルムに溶解し、攪拌状態にある1000mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を2回繰り返し、沈殿物として精製された参考例8のブロック共重合体を得た。
【0082】
(参考例9)
0.56gのp-トルエンスルホン酸4,4-ジメチルアミノピリジニウム(Messmore,Benjamin W. et al.,Journal of the American Chemical Society,2004,126,14452.に記載の方法で合成)と、0.20gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)の添加の際、ポリヒドロキシアルカン酸2の添加量を9.81gから0.33gに、ポリヒドロキシアルカン酸1の添加量を5.22gから14.7gに変更した以外は、参考例8と同様の方法で作成し、参考例9のブロック共重合体を得た。
【0083】
各原材料の添加量を変更したことから、上記参考例1~9のブロック共重合体中では、乳酸残基、グリコール酸残基、カプロラクトン残基及びエチレングリコール残基のモル比率が変更されている。そのため、上記参考例1~9について、水素核磁気共鳴(1H-NMR)による各残基のモル比率を測定し、そこから各ブロック共重合体中の乳酸残基及びカプロラクトン残基及びグリコール酸残基及びエチレングリコール残基の全質量の比率を算出した。参考例1~9それぞれの値は表1に示す。
【0084】
(測定例1:水素核磁気共鳴(1H-NMR)による各残基の質量比率測定)
参考例1~9のブロック共重合体を重クロロホルムに溶解し、JNM-EX270(日本電子株式会社製)を用いて室温で、1H-NMRで測定した。得られた1H-NMRの各ピークを元に、参考例1~9のブロック共重合体中の乳酸残基及びカプロラクトン残基及びエチレングリコール残基のモル比率をそれぞれ算出した。具体的には、乳酸残基であれば、メチン基であるα位の水素原子(化学シフト値:約5.2ppm)が特徴的なピークであるため、これを全シグナルとの積分値に基づいてモル比率を算出し、カプロラクトン残基の場合には、メチレン基であるα位の水素原子(化学シフト値が約2.3ppm)が特徴的なピークであるため、これを全シグナルとの積分値に基づいてモル比率を算出し、グリコール酸残基の場合には、メチレン基であるα位の水素原子(化学シフト値が約4.8ppm)が特徴的なピークであるため、これを全シグナルとの積分値に基づいてモル比率を算出し、エチレングリコール残基の場合には、エチレン基の4つの水素原子(化学シフト値:約3.6ppm)が特徴的なピークであるため、これを全シグナルとの積分値に基づいてモル比率を算出した。
【0085】
上記の結果得られたモル比率から、下記式3~7を用いて参考例1~9のブロック共重合体におけるエチレングリコール、乳酸、カプロラクトン及びグリコール酸残基の全質量の比率を算出した。結果を表1に示す。
WPEG(%)=(MEG×xEG)/Mxtotal×100 ・・・式3
WPLA(%)=(MLA×xLA)/Mxtotal×100 ・・・式4
WPCL(%)=(MCL×xCL)/Mxtotal×100 ・・・式5
WPGA(%)=(MGA×xGA)/Mxtotal×100 ・・・式6
Mxtotal=MEG×xEG+MLA×xLA+MCL×xCL+MGA×xGA ・・・式7
WPEG:エチレングリコール残基の全質量の比率
MEG:エチレングリコール残基の分子量
xEG:エチレングリコール残基のモル比
WPLA:乳酸残基の全質量の比率
MLA:乳酸残基の分子量
xLA:乳酸残基のモル比
WPCL:カプロラクトン残基の全質量の比率
MCL:カプロラクトン残基の分子量
xCL:カプロラクトン残基のモル比
WPGA:グリコール酸残基の全質量の比率
MGA:グリコール酸残基の分子量
xGA:グリコール酸残基のモル比
【0086】
参考例1~9のブロック共重合体の精製品を、減圧(100Pa)、室温下で1昼夜乾燥した。その後、ブロック共重合体を濃度が5重量%になるようにクロロホルムに溶解させ、その溶液をテフロン(登録商標)製シャーレ上に移して、常圧、室温下で1昼夜乾燥させた。これを減圧(100Pa)、室温下で1昼夜乾燥させて、参考例1~9のブロック共重合体からなるフィルムをそれぞれ得た。
【0087】
(測定例2:引っ張り試験)
得られた参考例1~9のブロック共重合体からなるフィルムについて、フィルム状態の特性を観察するため、ヤング率を測定する。具体的には、参考例1~9のブロック共重合体からなるフィルムを短冊状(50mm×5mm×0.1mm)に切りだし、テンシロン万能試験機RTM-100(株式会社オリエンテック製)に対し、参考例1~9のブロック共重合体からなるフィルムを長さ方向のチャック間距離が10mmになるよう取り付け、下記の条件Aで引張試験を行い、JIS K6251(2010)に従って測定し、ε1=0.2%及びε2=0.3%のひずみ2点間に対応する応力/ひずみ曲線の傾きを読み取ることで、参考例1~9のブロック共重合体からなるフィルムのヤング率(MPa)を得た。ただし、2点間又は最小二乗法による傾きとしてヤング率を計算する場合がある。結果を表1に示す。
(条件A)
機器名:テンシロン万能引張試験機RTM-100(株式会社オリエンテック製)
初期長:10mm
引張速度:500mm/min
ロードセル:50N
試験回数:5回
【0088】
(測定例3:膨潤率測定)
得られた参考例1~9のブロック共重合体からなるフィルムについて、さらにフィルム状態の特性を観察するため、膨潤率を測定する。具体的には、測定例2と同様の手順で。作成した短冊状(50mm×5mm×0.1mm)の参考例1~9のブロック共重合体からなるフィルムをプラスチックチューブに入れ、フィルム全体が浸るようにイオン交換水(15mL)を加えた。このプラスチックチューブを37℃に設定したインキュベーター内で3時間振盪させたあと、フィルムを取り出し、長辺長さを測定した。得られた長辺長さから、下記の式8を用いて、参考例1~9のブロック共重合体からなるフィルムの膨潤率(%)を算出した。結果を表1に示す。
膨潤率(%)=(Lw-Ld)/(Ld)×100 ・・・式8
Ld:乾燥時(イオン交換水浸漬前)の長辺長さ(cm)
Lw:湿潤時(イオン交換水浸漬後)の長辺長さ(cm)
【0089】
【0090】
(参考例10:筒状基材Aの作成)
製織工程において、下記の経糸(経糸A、経糸B)及び緯糸(緯糸C、緯糸D)を使用した。
・経糸A(海島複合繊維):ポリエチレンテレフタレート繊維、66dtex、9フィラメント(脱海処理後:52.8dtex、630フィラメント)
・経糸B(溶解糸):5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した易アルカリ溶解性のポリエステル繊維、84dtex、24フィラメント
・緯糸C(内層)(海島複合繊維):ポリエチレンテレフタレート繊維、66dtex、9フィラメント(脱海処理後:52.8dtex、630フィラメント)
・緯糸D(外層):ポリエチレンテレフタレート繊維、56dtex、18フィラメント
【0091】
製織時において、経糸Bの張力を0.9cN/dtex、経糸Aの張力を0.1cN/dtexとして、後加工後の織密度が経糸A、201本/inch(2.54cm)、緯糸C、121本/inch(2.54cm)、緯糸D、121本/inch(2.54cm)となる、内径3.3mmの筒状織物を製織した。なお、経糸Aと経糸Bの配置は、経糸A3本に対して経糸B1本の比率で配置した。また、経糸Bは、内層に位置する緯糸Cと外層に位置する緯糸Dの間に配置した。
【0092】
次に、下記の工程により後加工を行い、筒状基材Aを得た。
(a)湯洗
処理条件は、温度98℃、時間20分で行った。
(b)プレ熱セット
外径2.8mmの丸棒を筒状織物に挿入し、両端を針金で固定して、熱処理を行った。処理条件は、温度180℃、時間5分であった。なお、前記丸棒の材質は、SUSであった。
(c)脱海処理
前記の経糸A、緯糸Cの脱海処理を行うとともに、経糸Bの溶解除去を行った。
(c-1)酸処理
酸としては、マレイン酸を使用した。処理条件は、濃度0.2質量%、温度130℃、時間30分であった。
(c-2)アルカリ処理
アルカリとしては、水酸化ナトリウムを使用した。処理条件は、濃度1質量%、温度80℃、時間90分であった。
(d)熱セット(1回目)
外径3.3mmの丸棒を筒状織物に挿入し、経糸方向にシワが入らないよう最大限圧縮した状態で、両端を針金等で固定して、熱処理を行った。処理条件は、温度180℃、時間5分であった。なお、前記丸棒の材質は、SUSであった。
(e)熱セット(2回目)
外径3.3mmの丸棒を筒状織物に挿入し、経糸方向に30%伸長した状態で、両端を針金等で固定して、熱処理を行った。処理条件は、温度170℃、時間5分であった。なお、前記丸棒の材質は、SUSであった。
【0093】
(参考例11:筒状基材Bの作成)
熱セット(1回目)及び熱セット(2回目)において、使用する丸棒の外径を外径3.3mmの丸棒から外径3.0mmの丸棒に変更し、さらに熱セット(2回目)において、経糸方向に30%伸長した状態で両端を固定することに変えて経糸方向に伸長せず針金で固定した以外は、参考例10と同様の方法で筒状基材を作成し、筒状基材Bを得た。
【0094】
(参考例12:筒状基材Cの作成)
筒状基材の外層を構成するポリエステル繊維として、単糸繊度が180dtex(直径0.13mm)のモノフィラメントと、単糸繊度が2.33dtex、総繊度56dtexのマルチフィラメントとを準備し、これを製織時には、経糸に前記マルチフィラメントを使用し、緯糸に前記モノフィラメントを使用した。また、筒状基材の内層を構成するポリエステル繊維として、海成分ポリマーが5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートで構成され、島成分ポリマーがポリエチレンテレフタレートで構成される海島繊維(海/島(質量比)=20/80の比率にて、島成分の数70)で単糸繊度が7.3dtex、総繊度66dtexのマルチフィラメントA´を使用した。このマルチフィラメントA´は極細化処理によりマルチフィラメントAとなる。これを製織時には、経糸並びに緯糸として使用した。
【0095】
上記繊維を用いて、シャットルルームにより、内径が3.3mmの多重筒状織物を織り、98℃で精練した。次に98℃の水酸化ナトリウム4質量%水溶液で20分間処理して前述の海島複合繊維の海成分を完全に溶脱させ、マルチフィラメントA´の単糸繊度を0.08dtex(単糸直径2.9μm)、総繊度53dtexに極細化した。次いで乾熱120℃で乾燥し、棒状治具を筒内に挿入して、170℃にて筒状に熱セットをし、外層の緯糸密度が21本/2.54cm、内層の緯糸密度が336本/2.54cmの筒状基材Cを得た。
【0096】
(参考例13:筒状基材Dの作成)
筒状基材の外層を構成するポリエステル繊維として、単糸繊度が108dtex(直径0.11mm)のモノフィラメントと、単糸繊度が2.33dtex、総繊度56dtexのマルチフィラメントとを準備し、これを製織時には、経糸に前記マルチフィラメントを使用し、緯糸に前記モノフィラメントを使用した。また、筒状基材の内層を構成するポリエステル繊維として単糸繊度が0.23dtex(単糸直径4.7μm)、総繊度33dtexのマルチフィラメントを準備した。これを製織時には、経糸並びに緯糸として使用した。
【0097】
上記繊維を用いて、シャットルルームにより、内径が3.3mmの多重筒状織物を織り、98℃で精練した。次いで乾熱120℃で乾燥し、棒状治具を筒内に挿入して、170℃にて筒状に熱セットをし、外層の緯糸密度が76本/2.54cm、内層の緯糸密度が230本/2.54cmの筒状基材Dを得た。
【0098】
上記筒状基材A~Dについて、次の測定例4~9の試験を行い得られた、筒状基材A~Dの20N負荷伸長率(%)、内径(mm)、外径(mm)、筒状基材A~Dの圧縮時標線間距離L1(mm)、伸長時標線間距離L2(mm)、(L2-L1)/L1の値、圧縮時外径a、伸長時外径b及び(a-b)/aの値、内表面粗さ(μm)及び16kPa圧力下における透水性(mL/cm2/min.)の値は表2及び表3に示す。なお筒状基材A~Dの質量に対する、筒状基材A~Dに備わるブロック共重合体の質量比率は1%未満である。
【0099】
筒状基材の質量に対して、被覆された筒状体を構成するブロック共重合体の質量比率については、次のような方法で測定できる。
【0100】
被覆された筒状体の任意の場所3箇所において、長軸方向に0.5cmの長さとなるよう、被覆された筒状体を切り出し、切り出した被覆された筒状体を有機溶媒に溶解させる。この溶液についてJNM-EX270(日本電子株式会社製)を用いて室温で、1H-NMR測定を行う。得られた1H-NMRの各ピークを元に、筒状基材の質量に対するブロック共重合体の質量の比率を算出する。具体的には、エチレンテレフタレート残基であれば、ベンゼン環の水素原子(化学シフト値:約8.2ppm)が特徴的なピークであるため、これを全シグナルとの積分値に基づいてモル比率を算出し、乳酸残基であれば、メチン基であるα位の水素原子(化学シフト値:約5.2ppm)が特徴的なピークであるため、これを全シグナルとの積分値に基づいてモル比率を算出し、カプロラクトン残基の場合には、メチレン基であるα位の水素原子(化学シフト値が約2.3ppm)が特徴的なピークであるため、これを全シグナルとの積分値に基づいてモル比率を算出し、グリコール酸残基の場合には、メチレン基であるα位の水素原子(化学シフト値が約4.8ppm)が特徴的なピークであるため、これを全シグナルとの積分値に基づいてモル比率を算出し、エチレングリコール残基の場合には、エチレン基の4つの水素原子(化学シフト値:約3.6ppm)が特徴的なピークであるため、これを全シグナルとの積分値に基づいてモル比率を算出する。
【0101】
上記の結果得られたモル比率から、下記式7,9を用いて筒状基材A~Dの重量に対する、筒状基材A~Dに備わるブロック共重合体の質量比率を算出する。
Wcop(%)=Mxtotal/(MET×xET)×100 ・・・式9
Mxtotal=MEG×xEG+MLA×xLA+MCL×xCL+MGA×xGA ・・・式7
Wcop:筒状基材の質量に対する、筒状基材に備わるブロック共重合体の質量比率
MET:エチレンテレフタレート残基の分子量
xET:エチレンテレフタレート残基のモル比
用いる有機溶媒は筒状基材とブロック共重合体の両方を溶解させるものであれば特に限定はされないが、好ましくは1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール-D2が用いられる。
【0102】
(測定例4:20N負荷伸長率)
筒状基材A~Dを長軸方向の長さが150mmとなるようにカットし、デュアルコラム卓上型試験機INSTRON5965(インストロンジャパン社製)に長軸方向のチャック間距離が100mmになるように筒状基材A~Dを取り付け、ISO7198(2016)に従い、下記の条件Bで引張試験を測定した。20Nの負荷がかかった際の筒状基材A~D筒状体の伸長率(%)を下記式10から求めた。
(条件B)
機器名:デュアルコラム卓上型試験機INSTRON5965(インストロンジャパン社製)
初期長:100mm
引張速度:50mm/min
ロードセル:1kN
試験回数:5回
伸長率(%)=20Nの負荷がかかった際の筒状基材の長さ(mm)/初期長(mm)×100 ・・・式10
【0103】
(測定例5:筒状基材A~Dの内径及び外径の測定)
筒状基材A~Dの内径については、ISO7198のガイダンスに則り測定した。具体的には、テーパー度1/10以下の円錐を垂直にたて、その上に筒状基材を径方向に切断した断面を被せるように垂直にそっと落とし、止まったサンプルの下端位置の円錐の径を測定した。長軸方向に50mm間隔で切断し、5箇所測定を行い、得られた測定結果の平均値を筒状基材A~Dのそれぞれの内径(mm)とした。また、筒状基材A~Dの外径については、筒状基材に応力を加えない状態で長軸方向に50mm間隔で5箇所、ノギスで外径を測定し、得られた測定結果の平均値を筒状基材A~Dのそれぞれの外径(mm)とした。結果を表2に示す。
【0104】
(測定例6:筒状基材の圧縮時標線間距離L1、伸長時標線間距離L2測定の測定)
測定例5で得られた筒状基材に応力を加えない状態における筒状基材A~Dの外径(mm)から、圧縮時標線間距離(mm)を測定した。
図1は、筒状基材に標線を引くための説明図であるが、この
図1に示す通り、筒状基材の一方端部から5mmの基材外周に1本目の標線2を引き、この1本目の標線から筒状基材の外径の最大値の5倍の距離Aで筒状基材の外周に2本目の標線3を引く。この2本目の標線から5mmの位置で、筒状基材を径方向に切断する。
【0105】
図2は、筒状基材A~Dの圧縮時標線間距離(mm)を測定するための装置の概念図である。この
図2に示す通り、当該装置は、荷重測定器(フォースゲージ)4として、日本計測システム株式会社製HANDY DIGITAL FORCE GAUGE HF-1(定格容量10N)を、架台5に設置し、芯棒部を有する圧縮用チャック治具6を荷重測定器4に取り付け、前記芯棒部を挿入可能な孔部を有する圧縮用受け治具7を架台5に取り付けられたものである。筒状基材A~Dに圧縮用チャック治具6の芯棒部を通して上記装置にセットし、長軸方向に0.01cN/dtexの応力で圧縮した時の標線間距離L1(圧縮時標線間距離)をノギスにて測定した。
【0106】
ここで、圧縮用チャック治具6の、筒状基材1に挿入する芯棒部は、筒状基材1の内径-0.1mm(±0.03mm)径とし、圧縮用受け治具7の孔部は、筒状基材の内径と同径とする。ここで同径とは厳密に同じ径である必要はなく、±0.03mm程度の差は同じ径として取り扱うものとする。また、
図3は、筒状基材の伸長時標線間距離を測定するための装置の概念図であるが、この
図3に示す通り、当該装置は、荷重測定器(フォースゲージ)4として、日本計測システム株式会社製HANDY DIGITAL FORCE GAUGE HF-1(定格容量10N)を、架台5に設置し、伸長用チャック治具8を荷重測定器4に取り付け、伸長用受け治具9を架台5に取り付けられたものである。筒状基材1の標線外側を固定ヒモ10で固定し、長軸方向に0.01cN/dtexの応力で伸長した時の標線間距離L2(伸長時標線間距離)をノギスにて測定した。結果を表3に示す。
【0107】
(測定例7:圧縮時外径a、伸長時外径b及び(a-b)/aの値の測定)
筒状基材A~Dに、
図2記載の圧縮用チャック治具6の芯棒部を通して
図2記載の装置にセットし、筒状基材A~Dを長軸方向に0.01cN/dtexの応力で圧縮した状態で長軸方向に50mm間隔で5箇所、ノギスで外径を測定し、得られた測定結果の平均値を筒状基材A~Dのそれぞれの「圧縮時外径a」とした。
また、筒状基材A~Dに、
図2記載の圧縮用チャック治具6の芯棒部を通して
図2記載の装置にセットし、筒状基材A~Dを長軸方向に0.01cN/dtexの応力で伸長した状態で長軸方向に50mm間隔で5箇所、ノギスで外径を測定し、得られた測定結果の平均値を筒状基材A~Dのそれぞれの「伸長時外径b」とした。
【0108】
得られた筒状基材A~Dの圧縮時外径a及び筒状基材A~Dの伸長時外径bから、(a-b)/aの値を求めた。結果を表3に示す。
【0109】
(測定例8:筒状基材の内表面粗さ)
筒状基材A~Dを長軸方向に切断した断面を電子顕微鏡にて150倍に拡大した写真をもとに、筒状基材A~Dの内表面のD
sとD
lを測定し、D
sとD
lの差から内表面粗さを求めた。
図4はD
sとD
lの例である。視野を変えて5回測定を行い、平均値で評価した。平均値を「筒状基材の内表面粗さ」とした。結果を表3に示す。
【0110】
(測定例9:透水性)
筒状基材A~Dの両末端にジョイント(アイシス社製)を取り付け、シリコンチューブを繋いだ。筒状基材の内表面に16kPaの圧力がかかるように、片方のシリコンチューブから水を流す一方で、もう片方のシリコンチューブを鉗子で挟み、シリコンチューブから水が流れ出ないようにした。この状態で約1分間水を流し、筒状基材A~Dの外表面から流れ出てくる水の量(mL)を測定し、この値を、筒状基材A~Dの外表面の面積(cm2)及び水を流していた時間(min.)で除した値から、筒状基材A~Dの16kPa圧力下における透水性(mL/cm2/min.)を得た。結果を表3に示す。
【0111】
【0112】
(実施例1)
参考例1のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに塗布し、被覆層を形成させて実施例1の被覆された筒状体を得た。
【0113】
(実施例2)
参考例1のブロック共重合体に変えて、参考例2のブロック共重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例2のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに塗布し、被覆層を形成させて実施例2の被覆された筒状体を得た。
【0114】
(実施例3)
参考例1のブロック共重合体に変えて、参考例3のブロック共重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例3のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに塗布し、被覆層を形成させて実施例3の被覆された筒状体を得た。
【0115】
(実施例4)
参考例1のブロック共重合体に変えて、参考例4のブロック共重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。測定を行った。具体的には、参考例4のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに塗布し、被覆層を形成させて実施例4の被覆された筒状体を得た。
【0116】
(実施例5)
ポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに変えてポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Bを用いた以外は実施例2と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例2のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液を上記記載の筒状基材Bに塗布し、被覆層を形成させて実施例5の被覆された筒状体を得た。
【0117】
(比較例1)
参考例1のブロック共重合体に変えて、参考例5のブロック共重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例5のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに塗布し、被覆層を形成させて比較例1の被覆された筒状体を得た。
【0118】
(比較例2)
参考例1のブロック共重合体に変えて、参考例6のブロック共重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例6のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに塗布し、被覆層を形成させて比較例2の被覆された筒状体を得た。
【0119】
(比較例3)
参考例1のブロック共重合体に変えて、参考例7のブロック共重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例7のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに塗布し、被覆層を形成させて比較例3の被覆された筒状体を得た。
【0120】
(比較例4)
参考例1のブロック共重合体に変えて、参考例8のブロック共重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例8のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに塗布し、被覆層を形成させて比較例4の被覆された筒状体を得た。
【0121】
(比較例5)
参考例1のブロック共重合体に変えて、参考例9のブロック共重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例9のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに塗布し、被覆層を形成させて比較例5の被覆された筒状体を得た。
【0122】
(比較例6)
筒状基材Aを筒状基材Bに変え、さらに、参考例1のブロック共重合体に変えて参考例5のブロック共重合体を用いた以外は、実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例5のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Bに塗布し、被覆層を形成させて比較例6の被覆された筒状体を得た。
【0123】
(比較例7)
筒状基材Aを変えて、筒状基材Cを用いた以外は実施例2と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例2のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Cに塗布し、被覆層を形成させて比較例7の被覆された筒状体を得た。
【0124】
(比較例8)
筒状基材Aを筒状基材Cに変え、さらに、参考例1のブロック共重合体に変えて参考例5のブロック共重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例5のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Cに塗布し、被覆層を形成させて比較例8の被覆された筒状体を得た。
【0125】
(比較例9)
筒状基材Aを変えて、筒状基材Dを用いた以外は実施例2と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例2のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Dに塗布し、被覆層を形成させて比較例9の被覆された筒状体を得た。
【0126】
(参考例14)
25.0gのL-ラクチド(PURASORB(登録商標) L;PURAC社製)と、57.8mLのεーカプロラクトン(和光純薬工業株式会社製)とを、モノマーとしてセパラブルフラスコに採取した。これらをアルゴン雰囲気下とし、14.5mLのトルエン(超脱水)(和光純薬工業株式会社製)に溶解した触媒である0.29gのオクチル酸スズ(II)(和光純薬工業株式会社製)、開始剤として90μLのイオン交換水を添加し、90℃で1時間、助触媒反応を行った。その後、150℃で6時間、共重合反応させて、粗ポリヒドロキシアルカン酸Bを得た。
【0127】
得られた粗ポリヒドロキシアルカン酸Bを100mLのクロロホルムに溶解し、攪拌状態にある1400mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を3回繰り返した後の沈殿物を70℃で減圧乾燥して、ポリヒドロキシアルカン酸Bを得た。
【0128】
得られたポリヒドロキシアルカン酸Bを13.4g、両末端にヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,000;シグマアルドリッチ社製)を0.82g、両末端カルボキシル基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,200)を0.83g混合し、触媒として0.56gのp-トルエンスルホン酸4,4-ジメチルアミノピリジニウム(非特許文献1記載の方法で合成)と、0.20gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)を添加した。これらをアルゴン雰囲気下とし、28mLのジクロロメタン(脱水)(和光純薬工業株式会社製)に溶解し、7mLのジクロロメタンに溶解した縮合剤である2.06gのジシクロヘキシルカルボジイミド(シグマアルドリッチ社製)を添加し、室温で2日間縮合重合させた。
【0129】
反応混合物に60mLのクロロホルムを添加し、攪拌状態にある1000mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この沈殿物を100mLのクロロホルムに溶解し、攪拌状態にある1000mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を2回繰り返し、沈殿物として精製された参考例14のブロック共重合体を得た。
【0130】
(参考例15)
得られたポリヒドロキシアルカン酸Bを10.1g、両末端にヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,000;シグマアルドリッチ社製)を2.45g、両末端カルボキシル基を有するポリエチレングリコール(重量平均分子量10,200)を2.50g混合し、触媒として0.56gのp-トルエンスルホン酸4,4-ジメチルアミノピリジニウム(非特許文献1記載の方法で合成)と、0.20gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)を添加した。これらをアルゴン雰囲気下とし、28mLのジクロロメタン(脱水)(和光純薬工業株式会社製)に溶解し、7mLのジクロロメタンに溶解した縮合剤である2.06gのジシクロヘキシルカルボジイミド(シグマアルドリッチ社製)を添加し、室温で2日間縮合重合させた。
【0131】
反応混合物に60mLのクロロホルムを添加し、攪拌状態にある1000mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この沈殿物を100mLのクロロホルムに溶解し、攪拌状態にある1000mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を2回繰り返し、沈殿物として精製された参考例15のブロック共重合体を得た。
【0132】
(実施例6)
参考例1のブロック共重合体に変えて、参考例14のブロック共重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例14のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに塗布し、被覆層を形成させて実施例6の被覆された筒状体を得た。
【0133】
(比較例10)
参考例1のブロック共重合体に変えて、参考例15のブロック共重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で被覆された筒状体を作成した。具体的には、参考例15のブロック共重合体をクロロホルムに溶解し、濃度が20重量%の溶液を調製し、この溶液をポリエチレンテレフタレート繊維からなる筒状基材Aに塗布し、被覆層を形成させて比較例10の被覆された筒状体を得た。
【0134】
実施例1~6及び比較例1~10について、筒状基材の伸長率(%)、(L2-L1)/L1の値、(a-b)/aの値、内表面粗さ(μm)、ブロック共重合体の全質量に対するアルキレングリコール残基の全質量の比率(%)、ブロック共重合体の全質量に対するカプロラクトン残基の全質量の比率(%)、ブロック共重合体の全質量に対するグリコール酸残基の全質量の比率(%)、ブロック共重合体をフィルムにした際のヤング率(MPa)の値を以下の表4に示す。
【0135】
【0136】
実施例1~6及び比較例1~10に対し、測定例10~13に記載の方法に従い、キンク半径(mm)、被覆厚(μm)、湿潤時伸長率(%)及び血小板付着数(%)を測定した。結果を表5に示す。
【0137】
(測定例10:耐キンク性試験)
実施例1~6並びに比較例4,5及び7~10の被覆された筒状体に対し非内圧下でループを形成し、ループに対して半径がR(mm)のチューブを挿入し、ループ径を徐々に小さくしていった。ループ径がチューブ径に達するまでに被覆された筒状体が座屈するかどうかを確認し、座屈しなかった場合、その被覆された筒状体のキンク半径をR(mm)以下であるとした。結果を表5に示す。
【0138】
(測定例11:被覆厚測定)
実施例1~6及び比較例1~10の被覆された筒状体を円周方向に切断し、断面におけるブロック共重合体層の厚みをSEMで測定した。視野を変えて5回測定し、得られたブロック共重合体層の厚みの平均値を被覆厚(μm)とした。結果を表5に示す。
【0139】
(測定例12:ブタ多血小板血漿(ブタPRP)を用いた抗血栓性評価)
クエン酸加ブタ血液を130gで15分間遠心し、上清を回収した。回収した上清に生理食塩水を加え、希釈PRPとした。
【0140】
実施例1~6及び比較例1~10の被覆された筒状体を長軸方向の長さが3cmとなるようカットし、両末端へジョイント(アイシス社製)をとりつけ、試験水準とした。
【0141】
試験水準とポンプをシリコンチューブで接続し、作成した回路内に希釈PRPを満たし、室温で30分間循環した後、試験水準を取り出し、長さを測定した。下記の式11から実施例1~6及び比較例1~10の被覆された筒状体の湿潤時伸長率(%)を算出した。結果を表5に示す。
湿潤時伸長率(%)=(D2-D1)/(D1)×100 ・・・式11
D1:循環試験前の被覆された筒状体の長さ(cm)
D2:循環試験後の被覆された筒状体の長さ(cm)
【0142】
続いて、循環後の試験水準を生検トレパン(φ6mm)で打ち抜き、PBS(-)で3回洗浄した。
【0143】
LDH Cytotoxicity Detection Kit(タカラバイオ社製)を用いて、洗浄後の試験水準に付着した血小板数を算出した。この時、実施例1の被覆された筒状体の血小板付着数を100%として、その他の実施例及び比較例について相対比較を行った。結果を表5に示す。
【0144】
【0145】
(測定例13:イヌ移植実験における開存率評価)
実施例1、2、4、5及び6並びに比較例1、6、7、8、9及び10の被覆された筒状体を用いて、イヌ移植試験を行った。頸動脈に対し、端端吻合で被覆された筒状体(3cm)の移植を10例行い、移植3ヶ月後、エコー検査にて開存しているかどうかを確認した。
【0146】
具体的には雄のビーグル犬に移植2日前から摘出日までアスピリン及びジピリダモールを投与した。イソフルラン吸入麻酔を行った。頸部を切開して頸動脈を露出させた後、ヘパリン100IU/kgを静脈内投与により全身ヘパリン化した。血流を遮断し、被覆された筒状体(3cm)を端端吻合にて頸動脈に移植した。血流を再開させ、閉創し、麻酔から覚醒させた。移植1ヶ月後までは週1回、その後は移植3ヶ月後まで月1回、エコー装置(デジタル超音波画像診断装置Noblus、株式会社日立製作所)を用いて移植3ヶ月後までに閉塞した被覆された筒状体の数を確認した。その結果から、以下の式12を用いて開存率(%)を計算した。
P=Np/Na×100 ・・・式12
P:開存率(%)
Np:移植3ヶ月後まで開存した被覆された筒状体の数(本)
Na:移植した被覆された筒状体の数(本)
【0147】
ここで、一般的に移植3ヶ月後までに閉塞が起こらなければ長期開存が可能と言われていることから、イヌ移植実験における開存率評価については移植期間を3ヶ月間と設定した。
【0148】
実施例1、2、4、5及び6並びに比較例1、6、7、8、9及び10のインプラント用の被覆された筒状体の開存率(%)を表6に示した。
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明は、人工血管又はステントグラフト等のインプラントに関する医療用途に好適に利用できる。