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特許7290112ガス拡散電極基材およびその製造方法、固体高分子形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】ガス拡散電極基材およびその製造方法、固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20230606BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20230606BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230606BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M4/96 B
H01M4/96 H
H01M4/88 C
H01M4/88 H
H01M8/10 101
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019559384
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019037844
(87)【国際公開番号】W WO2020067283
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2018183743
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 将道
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 史宜
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/076132(WO,A1)
【文献】特開2013-164896(JP,A)
【文献】特開2018-142450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/96
H01M 4/88
H01M 4/86
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性多孔質基材の片側にマイクロポーラス層を有するガス拡散電極基材であって、
前記導電性多孔質基材は、炭素繊維と樹脂炭化物とを含み、密度が0.25~0.39g/cm、細孔モード径が30~50μmの範囲内であって、
前記マイクロポーラス層は、炭素質粉末とフッ素樹脂とを含み、表面粗さが2.0~6.0μm、空隙率が50~95%、細孔モード径が0.050~0.100μmである、ガス拡散電極基材。
【請求項2】
前記導電性多孔質基材における前記マイクロポーラス層を有する面とは反対側の表面におけるケイ素/炭素元素比が0.020以上である、請求項1に記載のガス拡散電極基材。
【請求項3】
前記導電性多孔質基材における前記マイクロポーラス層を有する面とは反対側の表面における酸素/炭素元素比が0.005以上である、請求項1または2に記載のガス拡散電極基材。
【請求項4】
前記導電性多孔質基材における細孔モード径30~50μmにおける1cmあたりの積算細孔容積が1.5~4.0μL/cmである、請求項1~3のいずれかに記載のガス拡散電極基材。
【請求項5】
前記マイクロポーラス層表面における直径150μm以上の穴数が0.001~0.050個/cmである、請求項1~4のいずれかに記載のガス拡散電極基材。
【請求項6】
ガス拡散電極基材のマイクロポーラス層を有する面とは反対側の導電性多孔質基材表面における炭素質粉末の被覆率(裏抜け率)が10%未満である、請求項1~5のいずれかに記載のガス拡散電極基材。
【請求項7】
面内ガス拡散性が40~80cc/minである、請求項1~6のいずれかに記載のガス拡散電極基材。
【請求項8】
前記マイクロポーラス層に含まれる炭素質粉末のDBP吸油量が156~220mL/100gである、請求項1~7のいずれかに記載のガス拡散電極基材。
【請求項9】
前記マイクロポーラス層に含まれる炭素質粉末の1次粒径が20~39nmである、請求項1~8のいずれかに記載のガス拡散電極基材。
【請求項10】
前記マイクロポーラス層に、さらに、5nm以上10μm以下の繊維径を有し、アスペクト比10以上の繊維状炭化物が含まれる、請求項1~9のいずれかに記載のガス拡散電極基材。
【請求項11】
前記繊維状炭化物の酸素/炭素元素比が0.020以上である、請求項10に記載のガス拡散電極基材。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のガス拡散電極基材の製造方法であって、導電性多孔質基材にフッ素樹脂およびフッ素樹脂とは異なる撥水加工添加剤を同時に付与した後に炭素質粉末とフッ素樹脂粒子、および界面活性剤が水中に分散したMPLインクを塗布するガス拡散電極基材の製造方法。
【請求項13】
300℃以上の温度で熱処理した際の質量保持率が50%以下である撥水加工添加剤を用いる、請求項12に記載のガス拡散電極基材の製造方法。
【請求項14】
シリコーン系の撥水加工添加剤、パラフィン系の撥水加工添加剤、アクリレート重合体の主鎖にパーフルオロアルキル基もしくは炭化水素基からなる側鎖を有した高分子化合物(炭化水素系の撥水加工添加剤)のいずれかを撥水加工添加剤として用いる請求項12または13に記載のガス拡散電極基材の製造方法。
【請求項15】
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜の両面に形成される触媒層と、
前記触媒層の外側に形成される請求項1~11に記載のガス拡散電極基材、
および、それらを挟み込む2つのセパレーターで構成される、固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられるガス拡散電極基材に関し、特に、燃料電池の中でも燃料電池車などの電源として使用される固体高分子形燃料電池に好適なガス拡散電極基材に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、エネルギー効率が高く、排出物が水しかないことから、クリーンエネルギーとしてその普及が期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の基本構成は、高分子電解質膜と、高分子電解質膜の両面に形成される触媒層と、この触媒層の外側に形成されるガス拡散電極基材、および、それらを挟み込む2つのセパレーターである。
【0004】
燃料電池は水素と酸素が反応し水が生成する際に生じるエネルギーを電気的に取り出すシステムである。そのため、電気的な負荷が大きくなると、即ち電池外部へ取り出す電流を大きくすると、多量の水(水蒸気)が発生する。この水蒸気が低温では凝縮して水滴になり、ガス拡散電極基材の細孔を塞いでしまうと、ガス(酸素あるいは水素)の触媒層への供給量が低下する。そして、最終的に全ての細孔が塞がれてしまうと、発電が停止することになる(この現象をフラッディングという)。
【0005】
ガス拡散電極基材として、具体的には、炭素繊維からなるカーボンフェルト、カーボンペーパーおよびカーボンクロスなどの導電性多孔質基材が用いられるが、その繊維の目が粗いため、水蒸気が凝縮すると大きな水滴が発生し、フラッディングを起こしやすい。そのため、炭素質粉末などの導電性微粒子からなる微多孔層(マイクロポーラス層ともいう)を導電性多孔質基材上に設ける場合がある。
【0006】
このマイクロポーラス層は、一般に、炭素質粉末とそのバインダーであるフッ素樹脂粒子、界面活性剤が水中に分散したインク(以下、MPLインクという)を乾燥および焼結して形成する。ここで、フッ素樹脂の融点は前記MPLインクの乾燥の温度よりもはるかに高いため、乾燥において炭素質粉末が大きく移動して凝集し、クラックと呼ばれる裂け目を生じ、焼結によってフッ素樹脂が溶融して移動しても修復できない場合がある。
【0007】
マイクロポーラス層に形成されたクラックは、水蒸気の凝集の基点となり易いためフラッディングを生じやすく、性能が低くなりやすい。また、電解質膜が運転条件によって膨潤収縮するため、クラックの拡大や電解質膜の損傷による耐久性低下の原因になる。特に、マイクロポーラス層上に触媒塗液を塗布して触媒層を形成するプロセスを採用する場合は、触媒塗液が均一に塗布できない。
【0008】
特許文献1では、導電性多孔質基材の密度を変更してガス拡散電極基材を形成する技術が開示されている。
【0009】
特許文献2では、導電性多孔質基材を撥水加工した後、300℃以上の高温で熱処理して導電性多孔質基材の撥水性を高めた後にマイクロポーラス層を形成する技術が開示されている。
【0010】
特許文献3では、マイクロポーラス層を2層構成にして表面粗さを低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2011-195374号公報
【文献】特開2011-171182号公報
【文献】特開2006-310201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の技術は、導電性多孔質基材を低密度にすることでガス拡散性を高め、発電性能を向上させる技術が開示されているが、導電性多孔質基材にパルプ炭化物が含まれるため、細孔モード径が小さくなり、発電性能の向上には限界があった。またパルプ由来の不純物が燃料電池の耐久性を低下させるという課題があった。
【0013】
特許文献2に記載の技術は、導電性多孔質基材を撥水加工した後、300℃以上の高温で熱処理して導電性多孔質基材の撥水性を高めた後に前記MPLインクを塗布する技術が開示されているが、前記MPLインクの導電性多孔質基材への浸み込みが過剰に抑えられるため、MPLインクが弾かれて表面粗さが大きくなる、マイクロポーラス層と導電性多孔質基材の界面の接着が弱く、マイクロポーラス層と導電性多孔質基材の界面で剥離が起き易いという問題がある。また、マイクロポーラス層を形成する前に高温での熱処理を必要とするため製造コストが高くなる。
【0014】
特許文献3に記載の技術は、マイクロポーラス層を2層構成にすることで表面粗さを低減することができ、本発明においてマイクロポーラス層を2層構成とすることを排除しているわけではないが、前記MPLインクを2回塗布する必要があるため製造コストが高くなる。
【0015】
そこで本発明は、生産性が高く、燃料電池に用いた際に発電性能と耐久性とを向上させるガス拡散電極基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記の課題を解決するため、本発明では、導電性多孔質基材の片側にマイクロポーラス層を有するガス拡散電極基材であって、
前記導電性多孔質基材は、炭素繊維と樹脂炭化物とを含み、密度が0.25~0.39g/cm、細孔モード径が30~50μmの範囲内であって、
前記マイクロポーラス層は、炭素質粉末とフッ素樹脂とを含み、表面粗さが2.0~6.0μm、空隙率が50~95%、細孔モード径が0.050~0.100μmである、ガス拡散電極基材を提供する。
【0017】
また、本発明ガス拡散電極基材の製造方法であって、導電性多孔質基材にフッ素樹脂およびフッ素樹脂とは異なる撥水加工添加剤を同時に付与した後に炭素質粉末とフッ素樹脂粒子、および界面活性剤が水中に分散したMPLインクを塗布するガス拡散電極基材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガス拡散電極基材を用いることにより、生産性が高く、発電性能と耐久性が高い燃料電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のガス拡散電極基材は、導電性多孔質基材の少なくとも片側にマイクロポーラス層を有する。
【0020】
導電性多孔質基材としては、具体的には、例えば、炭素繊維織物、炭素繊維抄紙体、炭素繊維不織布、カーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素繊維を含む多孔質基材、発泡焼結金属、金属メッシュ、エキスパンドメタルなどの金属多孔質基材を用いることが好ましい。中でも、耐腐食性が優れることから、炭素繊維を含むことが必要であり、炭素繊維を含むカーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの多孔質基材を用いることが好ましい。さらには、電解質膜の厚み方向の寸法変化を吸収する特性、すなわち「ばね性」に優れることから、樹脂炭化物を含むことが必要であり、炭素繊維抄紙体を樹脂炭化物で結着することで得られる、樹脂炭化物を含む基材、すなわちカーボンペーパーを用いることが好適である。
【0021】
本発明のガス拡散電極基材に用いられる導電性多孔質基材は密度が0.25~0.39g/cmである。前記導電性多孔質基材の密度が0.25g/cm以上であると炭素繊維が樹脂炭化物で結着されやすくなり、導電性多孔質基材の導電性と強度が向上するため好ましい。また、前記導電性多孔質基材の密度が0.25g/cm以上であると、燃料電池内部で炭素繊維が電解質膜に突き刺さることで引き起こされる局所的な短絡が起き難くなるため好ましい。これらのことから、記導電性多孔質基材の密度は0.26g/cm以上が好ましく、0.28g/cm以上がより好ましい。0.30g/cm以上がさらに好ましい。また、記導電性多孔質基材の密度は0.39g/cm以下であると記導電性多孔質基材のガス拡散性が向上し、発電性能が向上するため好ましい。これらのことから、記導電性多孔質基材の密度は0.37g/cm以下が好ましく、0.35g/cm以下がより好ましい。
【0022】
本発明でいう基材の密度とは、1辺が10cmの正方形で測定した質量と、面圧0.15MPaで加圧した状態で、マイクロメーターを用いて求めた厚みから算出した値である。厚みは1辺が10cmの正方形の範囲内で10箇所以上を測定した平均値を用いる。
【0023】
本発明のガス拡散電極基材に用いられる導電性多孔質基材は細孔モード径が30~50μmである。前記導電性多孔質基材の細孔モード径が30μm以上であると、導電性多孔質基材から液水が抜けやすくなり、低温での発電性能が向上する。これらのことから、前記導電性多孔質基材の細孔モード径は35μm以上がより好ましい。また、前記導電性多孔質基材の細孔モード径が50μm以下であると、マイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの浸み込みが抑えられ、マイクロポーラス層の表面品位が向上する。これらのことから、前記導電性多孔質基材の細孔モード径は45μm以下がより好ましい。
【0024】
カーボンペーパーなどの炭素繊維抄紙体を樹脂炭化物で結着することで得られる基材の場合、炭素繊維に対する樹脂炭化物の比率を大きくすることで細孔モード径を小さくすることができ、または炭素繊維に対する樹脂炭化物の比率を一定にしたまま前記導電性多孔質基材の密度を小さくすることで細孔モード径を大きくすることができる。
【0025】
本発明でいう細孔モード径とは水銀圧入法により測定できる細孔径分布(横軸を細孔径、縦軸をLog微分細孔容積としてプロットしたグラフ)における最も高いピークの細孔径のことをいう。また、Log微分細孔容積は差分細孔容積dVを、細孔径の対数扱いの差分値d(LogD)で割った値を各区間の平均細孔径に対してプロットしたもののことをいう。ガス拡散電極基材に用いられる導電性多孔質基材の細孔モード径は細孔径分布における1μm以上にあるピーク位置、マイクロポーラス層の細孔モード径は細孔径分布における1μm未満にあるピーク位置のことをいう。
【0026】
細孔モード径の測定はガス拡散電極基材から試料片を切り出し、精秤の後、測定用セルに入れ、減圧下に水銀を注入し、以下に示す条件で測定できる。
【0027】
・測定圧力範囲:6kPa(400μm)~414MPa(30nm)
・測定セルモード:上記圧力範囲の昇圧過程
・セル容積:5cm
・水銀の表面張力:485dyn/cm
・水銀の接触角:130°
測定装置としては、島津製作所製オートポア9520、あるいはその同等品を用いることができる。
【0028】
本発明において、ガス拡散性を高める観点から、カーボンペーパーなどの導電性多孔質基材の厚みを薄くすることが好ましい。つまりカーボンペーパーなどの導電性多孔質基材の厚みは220μm以下が好ましく、150μm以下がさらに好ましく、特に好ましくは120μm以下であるが、余り薄くすると機械的強度が弱くなるので、製造工程でのハンドリングを容易にするためには、通常70μm以上が好ましい。
【0029】
本発明における導電性多孔質基材は、排水性を向上する目的で撥水加工が施されていることも好ましい態様である。フッ素樹脂は300℃以上の高温で熱処理を行うと撥水性を発揮するため、本発明において用いる導電性多孔質基材は、フッ素樹脂などの撥水性樹脂を含むことが好ましい。導電性多孔質基材が含む撥水性樹脂、つまり導電性多孔質基材が含むフッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(たとえば“テフロン”(登録商標))、FEP(四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体)、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ化樹脂)、ETFE(エチレン四フッ化エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等が挙げられるが、強い撥水性を発現するPTFE、あるいはFEPが好ましい。撥水性樹脂の量は特に限定されないが、導電性多孔質基材の全体100質量%中に0.1質量%以上20質量%以下が適切である。0.1質量%より少ないと撥水性が十分に発揮されないことがあり、20質量%を超えるとガスの拡散経路あるいは排水経路となる細孔を塞いでしまったり、電気抵抗が上がったりする可能性がある。
【0030】
また、本発明における導電性多孔質基材は、撥水加工の工程において、前記フッ素樹脂とは異なる撥水加工添加剤を前記フッ素樹脂と同時に付与されることが好ましい。前記フッ素樹脂とは異なる撥水加工添加剤としては、シリコーン系の撥水加工添加剤、パラフィン系の撥水加工添加剤、アクリレート重合体の主鎖にパーフルオロアルキル基もしくは炭化水素基からなる側鎖を有した高分子化合物(炭化水素系の撥水加工添加剤)などが好ましい。環境へ負荷をかけることが知られているパーフルオロオクタン酸の排出がない、フッ素を含まない撥水加工添加剤がより好ましい。また、炭化水素系の撥水加工添加剤としては側鎖の炭化水素基の炭素数が12以上、24以下が好ましく、直鎖状アルキル基であるものがより好ましい。
【0031】
さらに、前記フッ素樹脂とは異なる撥水加工添加剤は、300℃以上の高温で熱処理を行った際に熱分解し親水性の残渣が残るため、熱処理前の撥水加工添加剤を100%とした際にその質量保持率は50%以下であることが好ましく、20%以下であるこがより好ましい。300℃以上の高温で熱処理を行った際の重量保持率を低くするために、前記フッ素樹脂とは異なる撥水加工添加剤はブロックドイソシアネート系架橋剤や、メラミン樹脂を含まないことが好ましい。
【0032】
炭化水素系の撥水加工添加剤であれば、日華化学(株)社製「ネオシード(商品名)」、大原パラジウム化学(株)社製「パラジウムECO(商品名)」、洛東化成工業(株)社製「ラクガードNOF(商品名)」等、シリコーン系の撥水加工添加剤であれば、日華化学(株)社製「ドライポン600E(商品名)」、信越シリコーン(株)社製「ポロン(商品名)」等、ワックス系の撥水加工添加剤であれば、日華化学(株)社製「TH-44(商品名)」、高松油脂(株)社製「ネオラックス(商品名)」等が挙げられる。
【0033】
上記のように、シリコーン系の撥水加工添加剤を使用する場合等において、本発明におけるガス拡散電極基材のマイクロポーラス層を有する面とは反対側の導電性多孔質基材表面にケイ素が含まれ得るが、この場合のケイ素/炭素元素比は0.020以上であることが好ましい。前記ケイ素/炭素元素比が0.020以上であるとマイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの導電性多孔質基材への浸み込みが抑えられ、マイクロポーラス層のクラックが減り、表面粗さが小さくなる。また、マイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの導電性多孔質基材への浸み込みが抑えられることで導電性多孔質基材の空隙率が高くなり、ガス拡散性と排水性が高くなり、フラッディングをより抑制することができ、発電性能が向上する。これらのことから、前記ケイ素/炭素元素比は0.025以上がより好ましく、0.030以上がさらに好ましい。
【0034】
また、前記ケイ素/炭素元素比が0.050以下であると導電性多孔質基材の撥水性が高くなり過ぎることがなく、マイクロポーラス層と導電性多孔質基材の界面の接着が強くなり好ましい。さらに、前記ケイ素/炭素元素比が0.050以下であるとガス拡散電極基材の表面の親水性が低下するため、ガス拡散電極基材の排水性が高くなり、フラッディングをより抑制することができ、発電性能が向上する。これらのことから、前記ケイ素/炭素元素比は0.045以下がより好ましく、0.040以下がさらに好ましい。
【0035】
前記ケイ素/炭素元素比が0.020~0.050であるガス拡散電極基材は、後述する導電性多孔質基材の撥水加工の工程において、ケイ素原子を分子構造内に有するシリコーン系の撥水加工添加剤を前記フッ素樹脂と同時に付与することによって得ることができる。ケイ素原子を分子構造内に有する撥水加工添加剤の付着量を大きくすることで前記ケイ素/炭素元素比を大きくすることができる。
【0036】
ここで、前記ケイ素/炭素元素比は、ガス拡散電極基材のマイクロポーラス層を有する面とは反対側の導電性多孔質基材表面を、加速電圧20kV、拡大倍率2000倍の条件で走査型電子顕微鏡(SEM)-EDX測定を行い、10箇所以上を測定した平均値より求めることができる。
【0037】
本発明におけるガス拡散電極基材のマイクロポーラス層を有する面とは反対側の導電性多孔質基材表面における酸素/炭素元素比は、0.005以上であることが好ましい。前記酸素/炭素元素比が0.005以上であるとマイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの導電性多孔質基材への浸み込みが抑えられていることを示し、マイクロポーラス層のクラックが減り、表面粗さが小さくなる。また、マイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの導電性多孔質基材への浸み込みが抑えられることで導電性多孔質基材の空隙率が高くなり、ガス拡散性と排水性が高くなり、フラッディングをより抑制することができ、発電性能が向上する。これらのことから、前記酸素/炭素元素比は0.006以上がより好ましく、0.007以上がさらに好ましい。
【0038】
また、前記酸素/炭素元素比が0.015以下であると、導電性多孔質基材の撥水性が高くなり過ぎることがなく、マイクロポーラス層と導電性多孔質基材の界面の接着が強くなり好ましい。さらに、前記酸素/炭素元素比が0.015以下であるとガス拡散電極基材の表面の親水性が低下するため、ガス拡散電極基材の排水性が高くなり、フラッディングをより抑制することができ、発電性能が向上する。これらのことから、前記酸素/炭素元素比は0.013以下がより好ましく、0.011以下がさらに好ましい。
【0039】
前記酸素/炭素元素比が0.005~0.015であるガス拡散電極基材は、後述する導電性多孔質基材の撥水加工の工程において、酸素原子を分子構造内に有する撥水加工添加剤を前記フッ素樹脂と同時に付与することによって得ることができる。酸素原子を分子構造内に有する撥水加工添加剤の付着量を大きくすることで前記酸素/炭素元素比を大きくすることができる。
【0040】
ここで、前記酸素/炭素元素比はガス拡散電極基材のマイクロポーラス層を有する面とは反対側の導電性多孔質基材表面を、加速電圧20kV、拡大倍率2000倍の条件で走査型電子顕微鏡(SEM)-EDX測定を行い、10箇所以上を測定した平均値より求めることができる。
【0041】
本発明におけるガス拡散電極基材の細孔モード径30~50μmにおける1cmあたりの積算細孔容積は1.5~4.0μL/cmの範囲内であることが好ましい。前記積算細孔容積が1.5μL/cm以上であると、導電性多孔質基材の細孔が多くなり、ガス拡散性と排水性が高くなり、フラッディングをより抑制することができ、発電性能が向上する。これらのことから、前記積算細孔容積は1.7μL/cm以上であることがより好ましく、2.0μL/cm以上であることがさらに好ましい。さらに、前記積算細孔容積が4.0μL/cm以下であると、導電性多孔質基材の厚みが適度な範囲内となりやすく、ガス拡散性と排水性が高くなり、フラッディングをより抑制することができ、発電性能が向上する。これらのことから、前記積算細孔容積は3.5μL/cm以下であることがより好ましく、3.0μL/cm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
前記積算細孔容積が1.5~4.0μL/cmであるガス拡散電極基材は、導電性多孔質基材の密度と厚さ、マイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの浸み込みを制御することにより得ることができる。例えば、導電性多孔質基材の密度を小さくする、もしくは厚さを大きくする、もしくはマイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの浸み込みを小さくすることにより、前記積算細孔容積の大きいガス拡散電極基材が得られる。
【0043】
ここで、前記積算細孔容積は水銀圧入法により細孔径毎に得られる細孔容積をガス拡散電極基材の目付で除して、細孔径30~50μmの範囲内で積算することで得られる。ここで、ガス拡散電極基材の目付は電子天秤を用いて秤量したガス拡散電極基材の質量を、ガス拡散電極基材の面積で除して得られる。前記積算細孔容積の測定はガス拡散電極基材から約12mm×20mm角の試料片を3枚切り出し、精秤の後、重ならないように測定用セルに入れ、減圧下に水銀を注入し、以下に示す条件で測定できる。
【0044】
・測定圧力範囲:6kPa(400μm)~414MPa(30nm)
・測定セルモード:上記圧力範囲の昇圧過程
・セル容積:5cm
・水銀の表面張力:485dyn/cm
・水銀の接触角:130°
測定装置としては、島津製作所製オートポア9520、あるいはその同等品を用いることができる。
【0045】
本発明におけるガス拡散電極基材のマイクロポーラス層を有する面とは反対側の導電性多孔質基材表面における炭素質粉末による被覆率(裏抜け率)は10%未満であることが好ましい。前記裏抜け率が10%未満であると、マイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの導電性多孔質基材への浸み込みが抑えられ、マイクロポーラス層のクラックが減り、表面粗さが小さくなることを示す。また、マイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの導電性多孔質基材への浸み込みが抑えられることで導電性多孔質基材の空隙率が高くなり、ガス拡散性と排水性が高くなり、フラッディングをより抑制することができ、発電性能が向上する。これらのことから、前記裏抜け率は8%未満がより好ましく、6%未満がさらに好ましい。前記裏抜け率は小さいほど好ましいが、通常0.1%以上である。前記裏抜け率が10%未満であるガス拡散電極基材は、後述する製法において、導電性多孔質基材の密度を大きくすること、導電性多孔質基材の撥水性を大きくしてマイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの導電性多孔質基材への浸み込みを抑えること、もしくは導電性多孔質基材の細孔モード径を小さくすることなどにより得られる。
【0046】
ここで、前記裏抜け率は、例えば、次の手順にしたがって求めることができる。まず、ガス拡散電極基材のマイクロポーラス層を有する面とは反対側の導電性多孔質基材表面を200倍の観察倍率で写真撮影を行う。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S-5500、あるいはその同等品を用いることができる。前記表面の画像が10枚得られるまでガス拡散電極基材から無作為に異なる箇所を選び写真撮影を行う。次に、得られた画像から炭素質粉末で被覆されている部分を切り出し、二値化を行う。二値化の方法は様々あり、炭素質粉末で被覆されている部分と炭素質粉末で被覆されていない部分とを明確に判別できる場合は目視にて判別する方法を採用しても良いが、本発明においては画像処理ソフトなどを用いる方法を採用することが好ましい。ここで、画像処理ソフトとしては、Adobe System社製Adobe Photoshop(登録商標)もしくはJTrimを用いることができる。次にJTrim v1.53cを用いた場合の処理方法について説明する。それぞれの画像で、ノーマライズ処理を行った後に、閾値128で二階調化を行い、二値化画像を得ることが好ましい。得られたそれぞれの二値化画像で、撮影面積に対する炭素質粉末で被覆されている部分の面積の割合(%)を算出し、その平均値を求め、前記裏抜け率とする。画像処理ソフトで面積の割合を求める場合、画素数をカウントして算出することが好ましい。
【0047】
本発明におけるガス拡散電極基材の面内ガス拡散性は40~80cc/minの範囲内であることが好ましい。前記面内ガス拡散性が40cc/min以上であると、燃料電池内部でガスを面内方向に十分に拡散できるようになるため、発電性能が向上する。これらのことから、前記面内ガス拡散性は50cc/min以上がより好ましく、60cc/min以上がさらに好ましい。また、前記面内ガス拡散性が80cc/min以下であると、燃料電池内部で使用されずに排出されるガスが減るため好ましい。これらのことから、前記面内ガス拡散性は75cc/min以下がより好ましく、70cc/min以下がさらに好ましい。
【0048】
前記面内ガス拡散性が40~80cc/minであるガス拡散電極基材は、ガス拡散電極基材の密度と厚さ、マイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの浸み込みを制御することにより得られる。ここで、ガス拡散電極基材の密度を小さくする、もしくは厚さを大きくする、もしくはマイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの浸み込みを小さくすることにより、前記面内ガス拡散性の大きいガス拡散電極基材が得られる。
【0049】
ここで、前記面内ガス拡散性はガス拡散電極基材の面直断面(厚み方向の断面)に一定圧力でガスを流し、その流量(cc/min)を測定することにより得ることができる。ガス種は窒素を用い、測定圧力は大気圧に対して5kPaかかるようにし、測定面積は縦8mm横24mmで行い、基材の横方向からガスを流すことで測定することができる。測定装置としては、西華産業(株)製水蒸気ガス水蒸気透過拡散評価装置MVDP-200C、あるいはその同等品を用いることができる。
【0050】
<マイクロポーラス層>
本発明におけるマイクロポーラス層は、炭素質粉末とフッ素樹脂とを含み、マイクロポーラス層の表面粗さが2.0~6.0μmである。マイクロポーラス層の空隙率が50~95%、細孔モード径が0.050~0.100μmである。
【0051】
マイクロポーラス層の空隙率が50%以上であると、ガス拡散性と排水性が高くなり、フラッディングをより抑制することができ、発電性能が向上するため好ましい。これらのことから、前記マイクロポーラス層の空隙率は60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。また、前記マイクロポーラス層の空隙率が95%以下であると、導電性が向上するため好ましい。これらのことから、前記マイクロポーラス層の空隙率は90%以下がより好ましく、85%以下がさらに好ましい。
【0052】
空隙率が50~95%である前記マイクロポーラス層は、後述する製法において、マイクロポーラス層のフッ素樹脂、その他材料に対する炭素質粉末の配合量、炭素質粉末の種類を制御することにより得られる。ここで、フッ素樹脂、その他材料に対する炭素質粉末の配合量を大きくすることにより高空隙率のマイクロポーラス層が得られやすく、フッ素樹脂、その他材料に対する炭素質粉末の配合量を小さくすることにより低空隙率のマイクロポーラス層が得られる。
【0053】
ここで、マイクロポーラス層の空隙率は、イオンミリング装置を用いて作製した断面観察用サンプルを走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、1000倍以上に拡大して写真撮影を行い、空隙部分の面積を計測し、観察面積に対する空隙部分の面積の比を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S-5500、あるいはその同等品を用いることができる。
【0054】
マイクロポーラス層の表面粗さが6.0μm以下であると、電解質膜を傷つけにくくなり、燃料電池の耐久性を向上することができる。なお、ここでいう表面粗さにおける「表面」とは、導電性多孔質基材に接する面とは反対側の面を指し、ガス拡散電極基材におけるこれらのことから、前記マイクロポーラス層の表面粗さは5.5μm以下がより好ましく、5.0μm以下がさらに好ましい。前記表面粗さは小さいほど好ましいが、通常2.0μm以上である。表面粗さが2.0~6.0μmである前記マイクロポーラス層は、後述する製法において、導電性多孔質基材の密度を大きくすること、導電性多孔質基材の撥水性を大きくしてマイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの浸み込みを抑制すること、もしくは導電性多孔質基材の細孔モード径を小さくすること、ガス拡散電極基材の裏抜け率を小さくすることなどにより得られる。
【0055】
ここで、マイクロポーラス層の表面粗さは、非接触式の粗さ測定機を用いて求めることができる。装置としてはキーエンス(株)製の形状測定機VR‐3200を用いることができ、マイクロポーラス層を上にした状態で浮きやシワがないように装置に固定して48mmの視野で測定することができる。マイクロポーラス層表面の任意の10点で測定を実施し、この10点の算術平均粗さRaの平均値を表面粗さとする。
【0056】
マイクロポーラス層の細孔モード径が0.050μm以上であると、前記マイクロポーラス層のガス拡散性が高くなり、ガス拡散電極基材の発電性能が高くなるため好ましい。これらのことから、前記マイクロポーラス層の細孔モード径は0.070μm以上がより好ましい。マイクロポーラス層の細孔モード径が0.100μm以下であると、マイクロポーラス層が潰れにくくなり、耐短絡性が高くなるため好ましい。また、前記マイクロポーラス層の細孔モード径が0.100μm以下であると、水蒸気の凝集の基点となり難いためフラッディングを生じ難い。また、マイクロポーラス層上に触媒塗液を塗布して触媒層を形成するプロセスを採用する場合は、触媒塗液がマイクロポーラス層に染みこみ難く、均一に塗布できる。これらのことから、前記マイクロポーラス層の細孔モード径は0.090μm以下がより好ましい。細孔モード径が0.050~0.100μmである前記マイクロポーラス層は、前記マイクロポーラス層に含まれる炭素質粉末の1次粒径を変えることで制御することができる。炭素質粉末の1次粒径を大きくすることでマイクロポーラス層の細孔モード径は大きくなる。
【0057】
ここで、マイクロポーラス層の細孔モード径は、前記導電性多孔質基材の細孔モード径の測定方法と同様の方法で、0.03μm以上で1μm未満の範囲における細孔モード径を求めることで得られる。
【0058】
本発明におけるマイクロポーラス層表面における直径150μm以上の穴数は0.001~0.050個/cmの範囲内であることが好ましい。前記穴数が0.050個/cm以下であると、マイクロポーラス層上に触媒塗液を塗布して触媒層を形成するプロセスを採用する場合は、触媒塗液がマイクロポーラス層に染みこみ難く、均一に塗布できる。これらのことから、前記穴数は0.040個/cm以下がより好ましく、0.030個/cm以下がさらに好ましい。前記穴数は小さいほど好ましいが、通常0.001個/cm以上である。前記穴数が0.001~0.050個/cmであるマイクロポーラス層は、後述する製法において、導電性多孔質基材の密度を大きくすること、導電性多孔質基材の撥水性を大きくしてマイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの浸み込みを抑制すること、もしくは導電性多孔質基材の細孔モード径を小さくすること、ガス拡散電極基材の裏抜け率を小さくすることにより得られる。
【0059】
ここで、前記穴数は、マイクロポーラス層の表面を光学顕微鏡で100倍以上に拡大した1辺が1mmの正方形よりも大きい領域を任意に選ぶ5箇所以上の視野で観察し、直径150μm以上の穴の個数を測定し、測定面積で除して得られる。穴の形状が真円でない場合、穴の面積と同じ面積を有する真円の直径を穴の直径とする。光学顕微鏡としては、例えばデジタルマイクロスコープM205C(ライカマイクロシステムズ(株)製)を用いることができる。
【0060】
本発明におけるマイクロポーラス層に含まれる炭素質粉末のDBP吸油量は156~220mL/100gの範囲内であることが好ましい。前記DBP吸油量が156mL/100g以上であると、MPL塗液の粘度が高くなり、マイクロポーラス層の塗布工程でMPLインクの導電性多孔質基材への浸み込みが抑えられることで導電性多孔質基材の空隙率が高くなり、ガス拡散性と排水性が高くなり、フラッディングをより抑制することができ、発電性能が向上する。これらのことから、前記DBP吸油量は160mL/100g以上がより好ましく、170mL/100g以上がさらに好ましい。また、前記DBP吸油量が220mL/100g以下であると、炭素質粉末の分散性が向上し、保存安定性の高いMPLインクとなる。また、前記DBP吸油量が220mL/100g以下であると、炭素質粉末の二次粒径が小さいため、マイクロポーラス層の表面粗さが小さくなる。これらのことから、前記DBP吸油量は210mL/100g以下がより好ましく、200mL/100g以下がさらに好ましい。
【0061】
ここで、前記DBP吸油量は炭素質粉末の製造時に原料となる粒子の衝突速度を上げることによって高めることができる。MPL塗液に含まれる炭素質粉末のDBP吸油量はJISK6217-4(2008年改正版)に準拠して求めることができる。
【0062】
本発明におけるマイクロポーラス層に含まれる炭素質粉末の1次粒径は20~39nmの範囲内であることが好ましい。前記1次粒径が20nm以上であると、マイクロポーラス層の細孔モード径が大きくなり、マイクロポーラス層のガス拡散性が高くなり、ガス拡散電極基材の発電性能が高くなる。これらのことから、前記1次粒径は23nm以上であることがより好ましく、26nm以上であることがさらに好ましい。また、前記1次粒径が39nm以下であるとマイクロポーラス層の細孔モード径が小さくなり、マイクロポーラス層が潰れにくくなり、耐短絡性が高くなる。また、前記マイクロポーラス層の細孔モード径が小さくなることで、水蒸気の凝集の基点となり難くなるためフラッディングを生じ難い。また、マイクロポーラス層上に触媒塗液を塗布して触媒層を形成するプロセスを採用する場合は、触媒塗液がマイクロポーラス層に染みこみ難く、均一に塗布できる。これらのことから、前記1次粒径は37nm以下がより好ましく、35nm以下がさらに好ましい。
【0063】
ここで、前記1次粒径はイオンミリング装置を用いて作製した断面観察用サンプルを走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、20万倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に選んだ一次粒子の直径を100個測定し、平均することで得られる。イオンミリング装置としては、例えば、IM4000((株)日立ハイテクノロジーズ製)などを用いることができる。
【0064】
本発明におけるマイクロポーラス層には5nm以上10μm以下の繊維径を持つアスペクト比10以上の繊維状炭化物が含まれることが好ましい。前記繊維状炭化物の酸素/炭素元素比は0.020以上が好ましい。繊維状炭化物の酸素/炭素元素比が0.020以上であると、繊維状炭化物の結晶性が低く、柔軟になることがあるため、アスペクト比が10以上であっても、固体高分子形燃料電池に用いた際に電解質膜に突き刺さりにくくなることがある。前記繊維状炭化物のアスペクト比は、大きいことによって補強効果の向上が期待できるため、10以上が好ましく、100以上がより好ましい。このため、前記繊維状炭化物の形状は繊維状であることが好ましく、繊維径は小さい方が好ましく、1μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましい。前記繊維状炭化物の繊維径は5nm以上100nm以下であると繊維状炭化物が電解質膜に突き刺さりにくくなり好ましい。また、繊維状炭化物の繊維径は500nm以上10μm以下であるとクラック抑制効果が得やすくなり好ましい。前記繊維径は、前記した上限と下限とからなるいずれの2つの間の範囲内であってもよい。本発明のマイクロポーラス層の断面には前記繊維状炭化物が1000個/mm以上含まれることが好ましい。前記繊維状炭化物が1000個/mm以上含まれることでクラック抑制効果が得やすくなる。本発明のマイクロポーラス層にはカーボンブラックおよびフッ素樹脂を含み、かつ前記繊維状炭化物を含むことが好ましい。カーボンブラックおよびフッ素樹脂を含み、かつ前記繊維状炭化物を含むことにより、撥水性の構造を均一に作ることができ、発電性能と耐久性が高くなる。このような繊維状炭化物として、例えばアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、セルロース、でんぷん、ポリ乳酸樹脂等を熱処理することで得られる繊維状炭化物を用いることができる。
【0065】
本発明におけるマイクロポーラス層は実質的にクラックがないことが好ましい。クラックが無い場合、水蒸気の凝集の基点となり難いためフラッディングを生じ難い。また、電解質膜が運転条件による膨潤収縮をする際、面方向の変形を抑制し易い。更に、マイクロポーラス層上に触媒塗液を塗布して触媒層を形成するプロセスを採用する場合は、触媒塗液を均一に塗布できる。本発明における「実質的にクラックがない」マイクロポーラス層とは、目視において明らかなクラックとして認知できない程度のものを言う。例えば、マイクロポーラス層の表面を光学顕微鏡で100倍以上に拡大した1辺が1mmの正方形よりも大きい領域を任意に選んだ5箇所以上の視野で観察し、100μm以上の長さの裂け目の個数を測定したとき、1cm当たりに換算した個数が50個/cm以下のものである。好ましくは15個/cm以下であり、より好ましくは5個/cm以下である。光学顕微鏡としては、例えばデジタルマイクロスコープM205C(ライカマイクロシステムズ(株)製)を用いることができる。
【0066】
本発明におけるマイクロポーラス層の厚みは、100μm以下であることが好ましい。100μmを超えるとガス拡散電極自体のガスや水の拡散性(透過性や排水性)が低下したり、電気抵抗が高くなったりすることがある。透過性や排水性を高める、あるいは電気抵抗を下げるという観点からは、マイクロポーラス層の厚みは、好ましくは80μm以下、より好ましくは40μm以下であり、一般的な導電性多孔質基材の空隙率と空隙サイズ、撥水性を考慮すれば、導電性多孔質基材の粗さを覆うために15μm以上であることが好ましい。
【0067】
ここで、マイクロポーラス層の厚みは、断面を観察して算出した値を言い、例えば、イオンミリング装置を用いてマイクロポーラス層またはマイクロポーラス層が積層されたガス拡散電極基材を厚み方向にカットし、その面直断面(厚み方向の断面)をSEMで観察した像から算出する方法で求める。イオンミリング装置としては、例えば、IM4000((株)日立ハイテクノロジーズ製)などを用いることができる。
【0068】
<炭素質粉末>
本発明において、マイクロポーラス層を構成する炭素質粉末は、アスペクト比が20未満のものが好ましい。アスペクト比が20以上になると、アスペクト比が20を下回る場合よりも相互に引っかかり易いため、乾燥時や焼結時にクラックを生じにくいものではあるが、それ以上に、アスペクト比が20以上の繊維状炭素は電解質膜に突き刺さり易く、局所的な短絡を生じ得る問題があることがある。また、アスペクト比が20以上の繊維状炭素を用いると、マイクロポーラス層内の細孔径が同体積の粒子形炭素質粉末を用いた場合よりも大きくなる傾向があり、マイクロポーラス層上に触媒塗液を塗布して触媒層を形成するプロセスを採用する場合は、触媒塗液が均一に塗布できないことがある。これらのことから、アスペクト比は15以下がより好ましく、10以下がさらに好ましく、2以下が特に好ましい。このような炭素質粉末として、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のチョップドファイバー、グラフェン、黒鉛など導電性を有する材料を選択することができるが、アスペクト比が小さいこと、価格と、健康面での信頼性、製品品質の安定性の点から、カーボンブラックが好適に用いられる。また、不純物が少ないため触媒の活性を低下させにくいという点でアセチレンブラックが好適に用いられる。なお、断面を走査型電子顕微鏡で観察し、1辺が5μmの正方形を超える任意に選択した視野に、アスペクト比が20以上の繊維状炭素が確認できなければ、アスペクト比が20以上の繊維状炭素を含まないと判断し、どの視野を観察してもアスペクト比が20以上の繊維状炭素が確認できる場合は、アスペクト比が20以上の繊維状炭素を含むと判断する。
【0069】
本発明におけるアスペクト比は、炭素質粉末が繊維状炭素の場合、平均長さ/平均直径を意味する。平均長さは、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などの顕微鏡で、1000倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる10個の繊維状炭素を選び、その長さを計測し、平均値を求めたものであり、平均直径は、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などの顕微鏡で、10000倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に、異なる10個の繊維状炭素を選び、繊維軸方向の長さ0.5μmごとに、写真上の繊維軸方向と直交する方向の長さ(幅)を測り、その平均値をその直径として、10個の平均値を求めたものである。炭素質粉末が板状物の場合、平均粒子径/平均厚さを意味する。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計を用いて測定し、体積換算の50%累積径を求めたものである。平均厚さは、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などの顕微鏡で、10000倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる10個の対象物を選び、その厚さを計測し、平均値を求めたものである。厚さは、カーボンブラックの場合、1次粒子の最小外接円直径/最大内接円直径を意味する。かかる最小外接円直径と最大内接円直径は、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などの顕微鏡で、20万倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる100個のカーボンブラックを選び、その大きさを計測し、平均値を求めたものである。このような走査型電子顕微鏡としては、例えばS-5500((株)日立製作所製)を用いることができる。なお、本発明において、アスペクト比が20を超えるものについては、統一的に>20として扱うことができる。
【0070】
<撥水性物質>
また、本発明のマイクロポーラス層には、前記の炭素質粉末同士を接着するためのバインダー機能、水蒸気の凝集抑制、水の排水性、あるいは保湿性、熱伝導性のために、フッ素樹脂をはじめとする撥水性物質が含まれることが好ましい。マイクロポーラス層に含まれるフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)等の高分子物質が挙げられる。
【0071】
本発明では前記の撥水性物質の380℃における溶融粘度が10Pa・s以下であることが好ましく、10Pa・s以下であることがより好ましく、10Pa・s以下であることが更に好ましい。高分子物質の上記溶融粘度が小さいことにより、焼結工程で炭素繊維表面へぬれ広がる速度が早く、優れた撥水性を得られるためである。これによって、水蒸気が凝集することを抑制し易くなるとともに、マイクロポーラス層上に触媒塗液を塗布して触媒層を形成するプロセスを採用する場合は、触媒塗液が均一に塗布できる。このような撥水性物質として、分子量や化合物の種類によって制御することができ、例えば、FEPは好ましい態様である。
【0072】
<ガス拡散電極基材>
本発明の導電性多孔質基材としては、例えば、炭素繊維織物、炭素繊維抄紙体、炭素繊維不織布、カーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素繊維を含む多孔質基材、発泡焼結金属、金属メッシュ、エキスパンドメタルなどの金属多孔質基材が好ましく例示される。中でも、耐腐食性が優れることから、炭素繊維を含むことが必要であり、炭素繊維を含むカーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの多孔質基材を用いることが好ましく、さらには、電解質膜の厚み方向の寸法変化を吸収する特性、すなわち「ばね性」に優れることから、樹脂炭化物を含むことが必要であり、炭素繊維抄紙体を樹脂炭化物で結着することで得られる、樹脂炭化物を含む基材、すなわちカーボンペーパーを用いることが好適である。
【0073】
本発明において、ガス拡散性を高める観点から、カーボンペーパーなどの導電性多孔質基材の厚みを薄くすることが好ましい。つまりカーボンペーパーなどの導電性多孔質基材の厚みは220μm以下が好ましく、150μm以下がさらに好ましく、特に好ましくは120μm以下であるが、余り薄くすると機械的強度が弱くなることから、製造工程でのハンドリングを容易にするためには、通常70μm以上が好ましい。
【0074】
<燃料電池>
固体高分子形燃料電池の単セルは、典型的には、高分子電解質膜と、高分子電解質膜の両面に形成される触媒層と、この触媒層の外側に形成されるガス拡散電極基材、および、それらを挟み込む2つのセパレーターで構成される。本発明のマイクロポーラス層は、通常、ガス拡散電極基材の一部またはガス拡散電極基材そのものとして、触媒層と接する面に配置される。
【0075】
<ガス拡散電極基材の製造方法>
本発明のガス拡散電極基材を製造する方法としては、カーボンペーパーなどの導電性多孔質基材をフッ素樹脂とフッ素樹脂とは異なる撥水加工添加剤を同時に付与して撥水加工した後、MPLインクを塗布し乾燥させた後、上記乾燥温度を上回る温度で熱処理して製造する方法が好ましく例示される。
【0076】
導電性多孔質基材を撥水加工する方法は、フッ素樹脂を含むディスパージョンに撥水加工添加剤を混ぜ、導電性多孔質基材を浸漬する処理技術のほか、ダイコート、スプレーコートなどによって導電性多孔質基材にフッ素樹脂と撥水加工添加剤を塗布する塗布技術も適用可能である。なお、撥水加工の後、必要に応じて乾燥工程、さらには焼結工程を加えても良い。ただし、マイクロポーラス層の成分の浸み込みが過度に抑えられてしまうことがあるため、マイクロポーラス層の形成後に焼結を行うことが好ましい。
【0077】
マイクロポーラス層を形成する方法としては、MPLインクをスクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、スプレー噴霧、凹版印刷、グラビア印刷、ダイコーター印刷、バー塗布、ブレード塗布、ナイフコーター等により、塗布する方法が好ましい。
【0078】
本発明では、前記炭素質粉末とは別にアスペクト比が10以上のクラック抑制材(熱処理後に繊維状炭化物となるもの)を含むことが好ましい。
【0079】
本発明に係るアスペクト比が10以上のクラック抑制材は、後述の乾燥温度を上回る温度で熱処理して分解除去されるものであり、乾燥時には炭素質粉末の間に入り込んでクラック抑制の効果を奏するクラック抑制材として機能し、その後の工程で分解除去されるために、電解質膜への突き刺さりなどの問題が無く、撥水性物質の撥水機能を阻害しない。ここで、「乾燥温度を上回る温度」とは、乾燥時に達する最高の温度よりも高い温度を言う。好ましくは、乾燥の温度より50℃以上高い条件である。
【0080】
本発明に係るアスペクト比が10以上のクラック抑制材のMPLインク中の含有量は、炭素質粉末質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。熱処理で分解除去しきれなかったクラック抑制材量が電解質膜に突き刺さるリスクを低減できるためである。上記割合が0.5質量%以上であれば、クラック抑制効果が得やすいため好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。
【0081】
本発明に係るクラック抑制材のアスペクト比は、大きいことによって補強効果の向上が期待できるため、50以上が好ましく、100以上がより好ましい。このため、クラック抑制材の形状は繊維状であることが好ましく、分散性や均一性、分解除去後の表面平滑性といった観点から繊維径は小さい方が好ましく、例えば1μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましい。
【0082】
本発明に係るMPLインクには、水や有機溶媒などの分散媒を含んでも良いし、界面活性剤などの分散助剤を含んでもよい。MPLインク中の炭素質粉末の濃度は、生産性の観点から、5質量%以上が好ましい。分散媒としては水が好ましく、分散助剤にはノニオン性の界面活性剤を用いるのがより好ましい。
【0083】
本発明に係るクラック抑制材は、150℃で耐熱性を有し、かつ、420℃で分解除去されることが好ましい。これは、MPLインクを乾燥する温度が、分散媒が水であれば通常は70~150℃であることと、通常の撥水性物質(例えばフッ素樹脂)が変質または分解除去しない温度である420℃以下で分解除去されるためである。このようなクラック抑制材の原料としては、例えばアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、セルロース、でんぷん、ポリ乳酸樹脂等を用いることができる。本発明における分解除去は、50重量%以下まで減量することが好ましく、30重量%以下まで減量することがより好ましい。
【0084】
導電性多孔質基材にMPLインクを塗布して乾燥した後、クラック抑制材を分解除去する。この工程は乾燥工程と同一、すなわち乾燥時の温度からそのまま温度を上げて行っても良いし、順の工程で実施しても良い。クラック抑制材の分解除去は、撥水性物質を分解しない温度で、かつ、撥水剤を溶融して均一に付着させる温度であり、さらに分散助剤を分解除去するものであることが好ましい。このため、空気中で300~400℃に加熱することが好ましく、360~400℃に加熱することがより好ましい態様である。
【0085】
<燃料電池の製造方法>
本発明のマイクロポーラス層を用いた燃料電池の製造方法には2つの好ましい態様がある。1つは、高分子電解質膜に、フィルム上で形成しておいた触媒層を転写して触媒層付高分子電解質膜を製造し、これを一方の表面にマイクロポーラス層が形成されたガス拡散電極基材で挟み込んで燃料電池を製造するものであり、触媒層を平滑に形成できる好ましい態様である(本発明ではCCM法と呼称する)。2つ目は、一方の表面にマイクロポーラス層が形成されたガス拡散電極基材上に触媒塗液を塗布して触媒層付ガス拡散電極基材を製造し、高分子電解質膜をこれで挟み込んで燃料電池を製造するものであり、転写工程を省けるため生産性に優れる態様である(本発明ではGDE法と呼称する)。
【実施例
【0086】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
【0087】
<評価>
A.細孔モード径、積算細孔容積
島津製作所製オートポア9520で測定し、水銀の表面張力σを485dyn/cm、水銀とマイクロポーラス層との接触角を130°として計算した。
【0088】
B.ケイ素/炭素元素比、酸素/炭素元素比
ケイ素/炭素元素比はガス拡散電極基材のマイクロポーラス層を有する面とは反対側の導電性多孔質基材表面を、加速電圧20kV、拡大倍率2000倍の条件で走査型電子顕微鏡(SEM)-EDX測定を行い、10箇所以上を測定した平均値より求めた。
【0089】
C.マイクロポーラス層の空隙率
マイクロポーラス層の空隙率は、イオンミリング装置を用いて作製した断面観察用サンプルを(株)日立製作所製S-5500で、1000倍以上に拡大して写真撮影を行い、空隙部分の面積を計測し、観察面積に対する空隙部分の面積の比を求めた。
【0090】
D.マイクロポーラス層の表面粗さ
キーエンス(株)製の形状測定機VR‐3200を用いて、マイクロポーラス層を上にした状態で浮きやシワがないように装置に固定して48mmの視野で、マイクロポーラス層表面の任意の10点で測定を実施し、この10点の算術平均粗さRaの平均値をマイクロポーラス層の表面粗さとした。
【0091】
E.マイクロポーラス層の穴数
マイクロポーラス層の表面をデジタルマイクロスコープM205C(ライカマイクロシステムズ(株)製)を用いて5mm角の視野で5箇所観察し、直径150μm以上の穴の個数を測定し、測定面積で除してマイクロポーラス層の穴数とした。
【0092】
F.繊維状炭化物の分析
繊維状炭化物の酸素/炭素元素比は以下のように求めた。イオンミリング装置により作製したガス拡散電極基材の厚さ方向の断面観察用サンプルを用い、加速電圧10kV、拡大倍率10万倍の条件で走査型電子顕微鏡(SEM)-EDX測定を行い、繊維状炭化物上の酸素/炭素元素比を得た。
【0093】
走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S-5500、エネルギー分散型X線分析装置としては、(株)堀場製作所EX-220SEを用いた。イオンミリング装置としては、IM4000((株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。
【0094】
G.裏抜け率
ガス拡散電極基材のマイクロポーラス層を有する面とは反対側の導電性多孔質基材表面を(株)日立製作所製S-5500を用いて200倍の観察倍率で10箇所写真撮影を行い、得られた画像から炭素質粉末で被覆されている部分を切り出し、画像処理ソフトを用いて二値化を行った。得られたそれぞれの二値化画像で、撮影面積に対する炭素質粉末で被覆されている部分の面積の割合(%)を算出し、その平均値を求め、前記裏抜け率とした。
【0095】
H.面内ガス拡散性
面内ガス拡散性はガス拡散電極基材の面直断面(厚み方向の断面)に5kPaの圧力で窒素ガスを流し、その流量(cc/min)を測定することにより求めた。測定面積は縦8mm横24mmで行い、測定装置としては、西華産業(株)製水蒸気ガス水蒸気透過拡散評価装置MVDP-200Cを用いた。
【0096】
I.発電性能(GDE法)
白金担持炭素(田中貴金属工業(株)製、白金担持量:50質量%)、精製水、“Nafion”(登録商標)溶液(Aldrich社製 “Nafion”(登録商標)5.0質量%)、イソプロピルアルコール(ナカライテスク社製)からなる触媒液をマイクロポーラス層上に塗布して触媒層付ガス拡散電極基材を得た。この触媒層付ガス拡散電極基材で電解質膜(デュポン社製、“Nafion”(登録商標))を挟み、ホットプレスすることにより、膜電極接合体(MEA)を作製した。この膜電極接合体を燃料電池用単セルに組み込み、電池温度80℃、燃料利用効率を70%、空気利用効率を40%、アノード側の水素、カソード側の空気をともに露点が70℃となるように加湿して発電させ、電流密度が1.5A/cmでの電圧を測定した。
【0097】
(実施例1)
基材厚み150μm、基材密度0.3g/cmのカーボンペーパーに、PTFE、シリコーン系の撥水加工添加剤を用いて、スリットダイコーターで導電性多孔質基材100質量%中にPTFEを10質量%、撥水加工添加剤を固形分換算で6質量%付着させ、120℃で乾燥させた。
【0098】
炭素質粉末として1次粒径が35μm、DBP吸油量が180mL/100gのカーボンブラック(CB)と、フッ素樹脂としてFEPと、界面活性剤と、分散媒として精製水を混合して、CB/撥水材/界面活性剤/精製水=7質量部/3質量部/14質量部/76質量部となるように調整してMPLインクを作製した。
【0099】
このMPLインクを、撥水加工したカーボンペーパー上にスリットダイコーターで塗布し、120℃で乾燥し、続いて380℃で加熱処理し、ガス拡散電極基材を得た。
【0100】
得られたガス拡散電極基材の評価結果は表1の通りだった。
【0101】
(実施例2)
実施例1と同じカーボンペーパーに、PTFE、シリコーン系の撥水加工添加剤を用いて、スリットダイコーターで導電性多孔質基材100質量%中にPTFEを10質量%、撥水加工添加剤を固形分換算で16質量%付着させ、120℃で乾燥させた。得られたカーボンペーパー上に、実施例1と同じMPLインクを用いて、実施例1と同じ方法で塗布、加熱処理等行い、ガス拡散電極基材を得た。
【0102】
得られたガス拡散電極基材の評価結果は表1の通りだった。発電性能は良好だったが、マイクロポーラス層の浸み込みが大きく抑制されたため、導電性多孔質基材の界面の接着がやや弱かった。
【0103】
(実施例3)
実施例1と同じカーボンペーパーに、フッ素樹脂としてPTFE、シリコーン系の撥水加工添加剤を用いて、スリットダイコーターで導電性多孔質基材100質量%中にPTFEを10質量%、撥水加工添加剤を固形分換算で10質量%付着させ、120℃で乾燥させた。得られたカーボンペーパー上に、MPLインクとして、実施例1と同じMPLインクに繊維状炭化物としてアスペクト比が20のパルプを1質量%添加したものを用いて、実施例1と同じ方法で塗布、加熱処理等行い、ガス拡散電極基材を得た。
【0104】
得られたガス拡散電極基材の評価結果は表1の通りだった。
【0105】
(実施例4)
実施例1と同じカーボンペーパーに、フッ素樹脂としてPTFE、炭化水素系の撥水加工添加剤を用いて、スリットダイコーターで導電性多孔質基材100質量%中にPTFEを10質量%、撥水加工添加剤を固形分換算で10質量%付着させ、120℃で乾燥させ、得られたカーボンペーパーに実施例3と同じMPLインクを用いて、実施例1と同じ方法で塗布、加熱処理等行い、ガス拡散電極基材を得た。
【0106】
得られたガス拡散電極基材の評価結果は表1の通りだった。
【0107】
(実施例5)
基材厚み150μm、基材密度0.3g/cmのカーボンフェルトに、PTFE、シリコーン系の撥水加工添加剤を用いて、スリットダイコーターで導電性多孔質基材100質量%中にPTFEを10質量%、撥水加工添加剤を固形分換算で10質量%付着させ、120℃で乾燥させた。得られたカーボンペーパー上に、実施例1と同じMPLインクを用いて、実施例1と同じ方法で塗布、加熱処理等行い、ガス拡散電極基材を得た。
【0108】
得られたガス拡散電極基材の評価結果は表1の通りだった。
【0109】
(比較例1)
導電性多孔質基材として基材厚み190μm、基材密度0.45g/cmの東レ(株)製カーボンペーパー(TGP-H-060)にし、素樹脂としてPTFEを用いて、スリットダイコーターで導電性多孔質基材100質量%中にPTFEを10質量%、シリコーン系の撥水加工添加剤を固形分換算で6質量%付着させ、120℃で乾燥させた。得られたカーボンペーパー上に、実施例1と同じMPLインクを用いて、実施例1と同じ方法で塗布、加熱処理等行い、ガス拡散電極基材を得た。
【0110】
得られたガス拡散電極基材の評価結果は表1の通りだった。導電性多孔質基材にMPLインクが浸み込み、導電性多孔質基材の細孔モード径が小さくなり、ガス拡散性が低下し、発電性能も低下した。
【0111】
(比較例2)
導電性多孔質基材として基材密度0.24g/cmのカーボンペーパーにした以外は比較例1と同様にしてガス拡散電極基材を得た。
【0112】
得られたガス拡散電極基材の評価結果は表1の通りだった。比較例1と比べても低密度の基材にMPLインクが浸み込みやすく、導電性多孔質基材の細孔モード径が小さくなってガス拡散性が低下し、発電性能も低下し、また、MPL表面に粗さが生じた。マイクロポーラス層表面の穴数が増えたため、触媒塗液を均一に塗布することができなかった。
【0113】
(比較例3)
基材厚み150μm、基材密度0.3g/cmのカーボンペーパーに、フッ素樹脂としてPTFEを用いて、スリットダイコーターで導電性多孔質基材100質量%中にPTFEを10質量%、シリコーン系の撥水加工添加剤を固形分換算で6質量%付着させ、120℃で乾燥させた。
【0114】
この導電性多孔質基材をMPLインクの塗布前に380℃で加熱処理し、得られたカーボンペーパー上に、実施例1と同じMPLインクを用いて、実施例1と同じ方法で塗布、加熱処理等行い、ガス拡散電極基材を得た。
【0115】
得られたガス拡散電極基材の評価結果は表1の通りだった。マイクロポーラス層を形成する前に高温での熱処理を行ったため製造コストが高くなり、生産性が低下した。また、MPL塗布前の熱処理によりマイクロポーラス層の浸み込みが大きく抑制され過ぎ、導電性多孔質基材の界面の接着が著しく低下した。
【0116】
(比較例4)
導電性多孔質基材として比較例3と同じ方法でカーボンペーパーを得て、続いて、炭素質粉末として1次粒径が45μm、DBP吸油量が140mL/100gのカーボンブラック(CB)のものを用いた以外は実施例1と同じ処方でMPLインクを作製し、実施例1と同じ方法で塗布、加熱処理等行い、ガス拡散電極基材を得た。
【0117】
得られたガス拡散電極基材の評価結果は表1の通りだった。MPLインクの浸み込みが多いために導電性多孔質基材の細孔モード径が低下し、発電性能が低下した。マイクロポーラス層表面の穴数が増えたため、触媒塗液を均一に塗布することができなかった。
【0118】
(比較例5)
導電性多孔質基材として比較例3と同じ方法でカーボンペーパーを得て、続いて、実施例1と同じMPLインクを2回に分けてスリットダイコーターで塗布し、実施例1と同じ方法で加熱処理等行ってガス拡散電極基材を得た。
【0119】
得られたガス拡散電極基材の評価結果は表1の通りだった。MPLインクを2回塗布したため製造コストが高くなり、生産性が低下した。また、MPLインクの浸み込みが多く、導電性多孔質基材の細孔モード径が低下し、発電性能が低下した。
【0120】
(比較例6)
実施例1と同じカーボンペーパーに、PTFEを用いて、スリットダイコーターで導電性多孔質基材100質量%中にPTFEを10質量%、シリコーン系の撥水加工添加剤を固形分換算で6質量%付着させ、120℃で乾燥させた。
【0121】
炭素質粉末として繊維径150nm、酸素/炭素元素比0.005、アスペクト比>20の気相成長炭素繊維(VGCF)を用いたこと以外は実施例1と同じMPLインクを作製し、実施例1と同じ方法で塗布、加熱処理等行い、ガス拡散電極基材を得た。
【0122】
得られたガス拡散電極基材の評価結果は表1の通りだった。マイクロポーラス層の細孔モード径が大きいため、触媒塗液の浸み込みが多くなり、触媒塗液を均一に塗布することができなかった。また、マイクロポーラス層の浸み込みが大きく抑制されたため、導電性多孔質基材の界面の接着が著しく低下した。また、VGCFを用いたため製造コストが高くなり、生産性が低下した。
【0123】
【表1】