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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】車両接近通報装置
(51)【国際特許分類】
   B60Q 5/00 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
B60Q5/00 650D
B60Q5/00 620A
B60Q5/00 630B
B60Q5/00 680A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019055190
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020152335
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 雅久
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【弁理士】
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓也
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-049653(JP,A)
【文献】特開昭58-215695(JP,A)
【文献】国際公開第2013/150735(WO,A1)
【文献】特開2014-008902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の接近を周囲に通報するための通報音を発生する車両接近通報装置であり、
前記車両の前部に取り付けられ、第1の特定周波数にて共振する第1の振動板と、
前記車両の前部であり、前記第1の振動板に離間して取り付けられ、前記第1の特定周波数より低周波帯域である第2の特定周波数にて共振する第2の振動板と、
前記第1の振動板及び前記第2の振動板をそれぞれ振動させ、前記第1の振動板から第1の音を発生させると共に、前記第2の振動板から第2の音を発生させる電動振動部材と、を備え、
前記通報音は、所定の音圧以上の前記第1の音と、前記第2の音とを同時に発することを特徴とする車両接近通報装置。
【請求項2】
前記電動振動部材は、前記第1の特定周波数にて前記第1の振動板を繰り返し振動させることで、前記所定の音圧以上の前記第1の音を発生させると共に、前記第2の特定周波数にて前記第2の振動板を繰り返し振動させることで、前記所定の音圧以上の前記第2の音を発生させることを特徴とする請求項1に記載の車両接近通報装置。
【請求項3】
前記第1の振動板及び前記第2の振動板は、その長手方向の両端部側にて前記車両のフロントグリルに振動可能な状態に取り付けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両接近通報装置。
【請求項4】
前記第1の振動板及び前記第2の振動板は、前記車両の高さ方向に並んで配置され、
一組の前記第1の振動板及び前記第2の振動板は、前記車両の車幅方向の中心線に対して左右対称にそれぞれ取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の車両接近通報装置。
【請求項5】
前記第1の振動板及び前記第2の振動板は、前記フロントグリルよりも柔らかい材料から形成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の車両接近通報装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両接近通報装置に関し、特に、共振特性を用いた振動板を用い、車両接近時の通報音に対する法規を満たすと共に、装置全体の小型化や低コスト化を実現する車両接近通報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両は、エンジンを駆動源として走行するタイプが主流であり、歩行者等は、車両が発するエンジン音によって、後方や死角から接近する車両を認識することができた。しかしながら、近年では、電気自動車やハイブリッド車等のエンジンを使用せず走行可能な車両があり、それらの車両は、エンジン音を発しないため、歩行者等は、車両のエンジン音によって車両の接近を認識することが困難となる問題がある。
【0003】
そこで、上記問題を解決するために、現在、各国では、電気自動車やハイブリッド車等のエンジンを使用せず走行可能な車両は、通報音を発することで、上記問題へ対応するための法規化が進んでいる。そして、上記エンジンを使用せず走行可能な車両から発せられる通報音に対して、規定値以上の音圧を含む通報音の出力が求められるようになっている。
【0004】
例えば、日本の法規では、上記エンジンを使用せず走行可能な車両は、発進から20km/hまでは、160Hz~5kHzを1/3オクターブ毎に16分割した周波数帯域の内、2つの周波数帯域で規定値以上の音圧を出力する必要がある。
【0005】
従来の車両接近通報装置100を搭載した車両101として、図4に示す構造が知られている。図4は、従来の車両接近通報装置100を説明する側面図である。
【0006】
図4に示す如く、車両101の車両接近通報装置100は、主に、演算ユニット102と、スピーカ103と、を有している。そして、車両接近通報装置100では、演算ユニット102にて所定の通報音信号を生成し、この通報音信号に基づく通報音を、スピーカ103を介して車外に向けて発する。歩行者等は、上記車両101からの通報音を認識することで、車両101が接近していることを把握することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-179802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、車両接近通報装置100の演算ユニット102は、車体環境演算部と、発音制御部と、発音出力部と、を有している。そして、発音出力部では、ミキサーにて生成された通報音信号を増幅する機能を有し、その増幅された通報音信号をスピーカ103に入力する。スピーカ103では、上記通報音信号に基づく通報音を車外へと発することで、歩行者等に自車の存在を知らせている。
【0009】
しかしながら、車両接近通報装置100では、演算ユニット102の発音出力部にて、日本の法規の規定値以上の音圧となるように通報音信号を増幅する必要があるため、発音出力部が大型化し、発音出力部の搭載場所の確保が困難となると共に、製造コストも増加するという課題がある。
【0010】
また、車両接近通報装置100は、上記通報音をスピーカ103を介して車外に向けて発する。ここで、スピーカ103が、車両101の右側前方や左側前方に配置されている場合、その配置箇所側の歩行者等は、上記通報音を認識し易いが、その配置箇所と反対側の歩行者等は、スピーカ103から遠くなり、上記通報音を認識し難いという課題がある。
【0011】
一方、上記スピーカ103の配置箇所による課題を解決するために、スピーカ103から発する通報音を大きくすることが考えられる。しかしながら、この対策では、上述したように、通報音信号を更に大きく増幅する必要があり、発音出力部の大型化を招き、発音出力部の搭載場所の確保が困難となると共に、製造コストも増加するという課題がある。
【0012】
また、上記スピーカ103の配置箇所による課題を解決するために、スピーカ103を含む車両接近通報装置100を車両101の左右両側前方に配置することも考えられる。しかしながら、この対策では、車両接近通報装置100が2つとなり、搭載場所の確保が困難となると共に、製造コストも増加するという課題がある。
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、共振特性を用いた振動板を用い、車両接近時の通報音に対する法規を満たすと共に、装置全体の小型化や低コスト化を実現する車両接近通報装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の車両接近通報装置は、車両の接近を周囲に通報するための通報音を発生する車両接近通報装置であり、前記車両の前部に取り付けられ、第1の特定周波数にて共振する第1の振動板と、前記車両の前部であり、前記第1の振動板に離間して取り付けられ、前記第1の特定周波数より低周波帯域である第2の特定周波数にて共振する第2の振動板と、前記第1の振動板及び前記第2の振動板をそれぞれ振動させ、前記第1の振動板から第1の音を発生させると共に、前記第2の振動板から第2の音を発生させる電動振動部材と、を備え、前記通報音は、所定の音圧以上の前記第1の音と、前記第2の音とを同時に発することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の車両接近通報装置では、前記電動振動部材は、前記第1の特定周波数にて前記第1の振動板を繰り返し振動させることで、前記所定の音圧以上の前記第1の音を発生させると共に、前記第2の特定周波数にて前記第2の振動板を繰り返し振動させることで、前記所定の音圧以上の前記第2の音を発生させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の車両接近通報装置では、前記第1の振動板及び前記第2の振動板は、その長手方向の両端部側にて前記車両のフロントグリルに振動可能な状態に取り付けられていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の車両接近通報装置では、前記第1の振動板及び前記第2の振動板は、前記車両の高さ方向に並んで配置され、一組の前記第1の振動板及び前記第2の振動板は、前記車両の車幅方向の中心線に対して左右対称にそれぞれ取り付けられていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の車両接近通報装置では、前記第1の振動板及び前記第2の振動板は、前記フロントグリルよりも柔らかい材料から形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両接近通報装置は、車両の前部に取り付けられ、第1の特定周波数にて共振する第1の振動板と、車両の前部であり、第1の振動板の近傍に取り付けられ、第1の特定周波数より低周波帯域である第2の特定周波数にて共振する第2の振動板と、第1の振動板及び第2の振動板をそれぞれ振動させ、第1の振動板から第1の音を発生させると共に、第2の振動板から第2の音を発生させる電動振動部材と、を備え、通報音は、所定の音圧以上の第1の音及び第2の音を含んでいる。この構造により、エンジンを使用せず走行可能な車両であっても、上記通報音により車両周辺の歩行者等に対して車両の接近を伝えることができる。そして、上記通報音には、低周波帯域の第2の音を含むことで、高周波帯域の音は聞き取り難い高齢者に対しても、車両の接近を伝えることができる。
【0020】
また、本発明の車両接近通報装置では、電動振動部材は、第1の特定周波数にて第1の振動板を繰り返し振動させることで、所定の音圧以上の第1の音を発生させると共に、第2の特定周波数にて第2の振動板を繰り返し振動させることで、所定の音圧以上の第2の音を発生させる。この構造により、発音出力部の小型化を実現し、発音出力部の搭載場所の確保が容易となると共に、発音出力部の製造コストの増加も防止することができる。
【0021】
また、本発明の車両接近通報装置では、第1の振動板及び第2の振動板は、その長手方向の両端部側にて車両のフロントグリルに振動可能な状態に取り付けられている。この構造により、車両接近通報装置の搭載場所の確保が容易となる。
【0022】
また、本発明の車両接近通報装置では、第1の振動板及び第2の振動板は、車両の高さ方向に並んで配置され、一組の第1の振動板及び第2の振動板は、車両の車幅方向の中心線に対して左右対称にそれぞれ取り付けられている。この構造により、車両の左右両側に対して通報音を確実に伝えることができると共に、発音出力部の小型化を実現することができる。
【0023】
また、本発明の車両接近通報装置では、第1の振動板及び第2の振動板は、フロントグリルよりも柔らかい材料から形成されている。この構造により、第1及び第2の振動板は、フロントグリルにより振動が吸収されることが防止され、それぞれ第1及び第2の特定周波数にて安定して共振することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態である(A)車両接近通報装置を備えた車両を説明する正面図、(B)車両接近通報装置を説明するブロック図である。
図2】本発明の一実施形態である車両接近通報装置を説明する(A)正面図、(B)グラフである。
図3】本発明の一実施形態である車両接近通報装置を説明する(A)正面図、(B)上面図である。
図4】従来の車両接近通報装置を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係る車両接近通報装置10を図面に基づき詳細に説明する。尚、本実施形態の説明の際には、同一の部材には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。また、以下の説明では、上下方向は車両11の高さ方向を示し、左右方向は車両11を前方から見た車幅方向を示し、前後方向は車両11の長さ方向を示している。
【0026】
図1(A)は、本実施形態の車両接近通報装置10を備えた車両11を説明する正面図である。図1(B)は、本実施形態の車両接近通報装置10を説明するブロック図である。図2(A)は、本実施形態の車両接近通報装置10の第1及び第2の振動板16,17を説明する正面図である。図2(B)は、本実施形態の車両接近通報装置10から発せられる通報音を説明するグラフである。図3(A)は、本実施形態の車両接近通報装置10の第1及び第2の振動板16,17を説明する正面図である。図3(B)は、本実施形態の車両接近通報装置10の備えた車両11の音圧測定試験を説明する上面図である。
【0027】
図1(A)に示す如く、車両11は、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料自動車等、エンジンを使用せず走行可能な車両である。そして、例えば、日本の法規では、上記エンジンを使用せず走行可能な車両11は、発進から20km/hまでは、160Hz~5kHzを1/3オクターブ毎に16分割した周波数帯域の内、2つの周波数帯域内で規定値以上の音圧を発する必要がある。詳細は後述するが、車両11に備えられた車両接近通報装置10(図1(B)参照)では、車両11の車速が20km/h以下の走行状態において、第1及び第2の振動板16,17が、それぞれ異なる第1または第2の特定周波数にて共振する。そして、第1及び第2の振動板16,17は、上記共振することで、所定の音圧以上の通報音を同時に発し、車両11周辺の歩行者等に対して車両11の接近を伝えることができる。
【0028】
図示したように、車両11の前方側では、車体に対してフロントフード12、フロントバンパ13及びフロントグリル14等が組み付けられている。車両11の車幅方向の両端部には、フロントバンパ13の上方に車両11の前方を照射する一対のヘッドライト15が、車体に組み付けられている。
【0029】
第1及び第2の振動板16,17は、フロントグリル14のエンブレム18の下方に、車両11の高さ方向に並んで取り付けられている。第1及び第2の振動板16,17は、それぞれ裏面側に電動振動部材23(図1(B)参照)が取り付けられ、車両接近通報装置10(図1(B)参照)のスピーカとして用いられる。そして、第1及び第2の振動板16,17は、フロントグリル14の中心、つまり、車両11の車幅方向の中心に配置され、車両11の前方に向けて通報音を伝えると共に、車両11の車幅方向の左右両側へも略均一に通報音を伝えている。
【0030】
図1(B)に示す如く、車両接近通報装置10は、主に、発音制御部21と、発音出力部22と、電動振動部材23と、第1の振動板16と、第2の振動板17と、を有している。そして、車両接近通報装置10では、車両11の車両状態検出部19からの検出信号に応じて、第1及び第2の振動板16,17を、適宜、振動させ、上記法規に適した通報音を車外へと発している。
【0031】
発音制御部21は、各種の演算を行うためのマイクロプロセッサと、当該マイクロプロセッサに各処理を実行させるソフトウエア等を記憶する書換え可能な不揮発性メモリと、を有している。そして、発音制御部21は、車両状態検出部19から入力される情報に基づいて、通報音信号を生成し、その生成した通報音信号を発音出力部22へと入力する。
【0032】
ここで、上記不揮発性メモリには、少なくとも第1の振動板16に入力する第1の特定周波数の第1の音信号と、第2の振動板17に入力する第2の特定周波数の第2の音信号と、が記憶されている。そして、発音制御部21では、少なくとも上記第1の音信号と上記第2の音信号とを含む通報音信号を生成する。尚、発音出力部22が、第1及び第2の振動板16,17に対して個別に設置される場合には、発音制御部21では、上記第1の音信号を含む通報音信号と、上記第2の音信号を含む通報音信号とをそれぞれ生成し、上記個別の発音出力部22へ入力する場合でも良い。
【0033】
発音出力部22は、発音制御部21から入力された通報音信号を増幅する、所謂、増幅器である。そして、発音出力部22にて増幅された通報音信号が、電動振動部材23に入力され、電動振動部材23が、第1及び第2の振動板16,17を振動させることで、通報音が車両11の外部へと発せられる。尚、電動振動部材23は、第1及び第2の振動板16,17を振動させる電動部材であり、例えば、圧電振動板である。
【0034】
車両状態検出部19は、車両11の走行状態等を検出し、例えば、車両11の車速を検出し、その検出信号を発音制御部21へ入力する。具体的には、車両状態検出部19は、車両11の車速メータを監視し、車両11の走行状態が、上記法規に従い、通報音を発する状態にあるか、否かを検出する。そして、発音制御部21では、車両状態検出部19から通報音を発する状態である検出信号が入力されることで、通報音信号を生成し、上述したように、第1及び第2の振動板16,17から車外へと通報音を発せさせる。
【0035】
図2(A)は、車両11のフロントグリル14を拡大して示し、一点鎖線は、車両11の車幅方向の中心線CLである。第1及び第2の振動板16,17は、それぞれ中心線CLに対して線対称となるように、車両11の高さ方向に並列に配置されている。そして、第1及び第2の振動板16,17は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂により成形され、撓み易く、電動振動部材23から振動を加えられた際に、振動し易くなっている。
【0036】
図示したように、第1及び第2の振動板16,17は、それぞれその長手方向(車両11の車幅方向)の両端側にて、フロントグリル14により、振動可能な状態に支持されている。そして、第1及び第2の振動板16,17は、それぞれ同じ高さ位置にてフロントグリル14により支持されている。また、フロントグリル14が、第1及び第2の振動板16,17より硬い材料から形成されている。この構造により、第1及び第2の振動板16,17は、フロントグリル14により振動が吸収されることが防止され、それぞれ第1または第2の特定周波数にて安定して共振することができる。
【0037】
図2(B)に示す如く、第1の振動板16は、高周波帯域にて共振する構造であり、その第1の特定周波数は、例えば、1.6kHzである。一方、第2の振動板17は、低周波帯域にて共振する構造であり、その第2の特定周波数が、例えば、800Hzである。
【0038】
上述したように、車両11の車速が20km/h以下の走行状態において、車両接近通報装置10からは、通報音が発せられるが、その通報音内には、第1の振動板16による高周波帯域の第1の音と、第2の振動板17による低周波帯域の第2の音とが含まれている。そして、高齢者は、高周波帯域の第1の音は聞き取り難い傾向にあるが、上記低周波帯域の第2の音を聞き取ることで、車両11の接近を認識することができる。一方、若齢者は、上記高周波帯域の第1の音の方が聞き取り易く、車両11の接近を認識することができる。
【0039】
ここで、共振周波数fの関係式として以下の式1がある。
[式1] f=1/2π×(k/m)1/2
f(Hz)は、第1及び第2の振動板16,17のそれぞれの共振周波数fであり、k(N/m)は、第1及び第2の振動板16,17のそれぞれのバネ定数であり、m(kg)は、第1及び第2の振動板16,17のそれぞれの質量である。
【0040】
本実施形態では、車両11の製造コストを低減する観点から、第1及び第2の振動板16,17は、同一材料から成形されている。図2(A)に示すように、第1及び第2の振動板16,17は、例えば、それぞれ平板形状であり、上記式1の関係より、第1及び第2の振動板16,17は、その厚みが同一であり、短手方向(車両11の高さ方向)の長さL1も同一となっている。一方、第2の振動板17の長手方向(車両11の車幅方向)の長さL2が、第1の振動板16の長手方向(車両11の車幅方向)の長さL3の略2倍となっている。
【0041】
尚、上記第1及び第2の振動板16,17の形状はその一例である。そして、第1及び第2の振動板16,17として使用する材料には、それぞれ特有の固有振動数を有しており、使用材料を調整することで、第1及び第2の振動板16,17の形状は、任意の設計変更が可能である。
【0042】
上述したように、日本の法規では、2つの周波数帯域にて、規定値以上、例えば、45dB以上の音圧の音を含む通報音を発することが求められる。そこで、本実施形態では、第1の振動板16は、1.6kHzの時に共振する設計であり、第2の振動板17は、800Hzの時に共振する設計である。
【0043】
そして、電動振動部材23(図1(B)参照)には、上記第1または第2の特定周波数の小さい通報音信号が連続して入力され、電動振動部材23は、上記第1または第2の特定周波数にて繰り返し第1及び第2の振動板16,17を振動させる。そして、第1及び第2の振動板16,17が、共振することで、規定値以上の音圧の上記第1及び第2の音を発することとなる。
【0044】
この構造により、発音出力部22(図1(B)参照)は、少なくとも第1の音信号及び第2の音信号を含む通報音信号を上記規定値以上の音圧となる領域まで増幅する必要がなく、発音出力部22を小型化することができる。その結果、発音出力部22の搭載場所の確保が容易となると共に、発音出力部22の製造コストの増加も防止することができる。更には、第1及び第2の振動板16,17もフロントグリル14内に取り付けられることができ、車両接近通報装置10の搭載場所の確保が容易となる。
【0045】
図3(A)では、図2(A)と同様に、車両11のフロントグリル14を拡大して示し、一点鎖線は、車両11の車幅方向の中心線CLである。車両11の高さ方向に並んで配置された一組の第1及び第2の振動板16,17が、フロントグリル14内に上記中心線CLに対して左右対称にそれぞれ配置されている。
【0046】
図3(B)に示す如く、上記日本の法規による音圧測定試験では、以下の条件が規定されている。車両11の前進時には、車両11の先端の両側であり、車幅方向の中心線CLから左右両側に2m離れた地点において、地上から1.2mの高さにマイク31を設置し、上記2つの周波帯域の第1及び第2の音が、45dB以上の音圧の状態であるか、否かを測定する。一方、車両11の後退時には、車両11の後端の両側であり、車幅方向の中心線CLから左右両側に2m離れた地点において、地上から1.2mの高さにマイク31を設置し、上記2つの周波帯域の第1及び第2の音が、45dB以上の音圧の状態であるか、否かを測定する。
【0047】
特に、本実施形態の車両接近通報装置10(図1(B)参照)では、車両11の後退時には、車両11の先端に取り付けられた第1及び第2の振動板16,17にて発生した通報音にて対応する必要があり、上記試験の条件を満たすためには、45dBよりも大きな音圧にて通報音を発生させる必要がある。
【0048】
そこで、図3(A)に示すように、一組の第1及び第2の振動板16,17が、フロントグリル14内に上記中心線CLに対して左右対称にそれぞれ配置されている。そして、車両11の左右方向の上記測定用のマイク31に対して、それぞれ近い側の一組の第1及び第2の振動板16,17から通報音を伝えることができる。
【0049】
この構造により、発音出力部22(図1(B)参照)では、少なくとも第1の音信号及び第2の音信号を含む通報音信号を大きく増幅することなく、上記試験の条件を満たすことができる。そして、車両接近通報装置10では、第1及び第2の振動板16,17は一組増加するが、発音出力部22は増加する必要なく、ハーネスを追加することで対応可能である。その結果、発音出力部22の小型化が実現され、車両接近通報装置10の搭載場所の確保も容易となると共に、製造コストの増加も防止することができる。
【0050】
尚、本実施形態では、第1及び第2の振動板16,17が、平板形状からなる場合について説明したが、この場合に限定するものではない。例えば、第1及び第2の振動板16,17が、車両11の前方側が凸となる湾曲形状からなる場合でも良い。この場合には、第1及び第2の振動板16,17から発せられる通報音が、車両11の前方側だけでなく、車両11の左右両側へと向けて伝わり易くなる。その結果、車両11周辺の歩行者等に対して、上記通報音を伝え易くなり、歩行者等は、車両11の接近をより確実に認識し易くなる。
【0051】
また、第1及び第2の振動板16,17が、フロントグリル14に取り付けられる場合について説明したが、この場合に限定するものではない。例えば、第1及び第2の振動板16,17が、フロントバンパ13に対して振動可能な状態に取り付けられる場合でも良い。この場合においても、上述したように、第1及び第2の振動板16,17の取り付け位置やその組数を調整することで、同様な効果を得ることができる。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲にて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 車両接近通報装置
11 車両
13 フロントバンパ
14 フロントグリル
16 第1の振動板
17 第2の振動板
18 エンブレム
19 車両状態検出部
21 発音制御部
22 発音出力部
23 電動振動部材
31 マイク
図1
図2
図3
図4