(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】スプライン構造
(51)【国際特許分類】
F16D 3/06 20060101AFI20230606BHJP
F16C 3/03 20060101ALI20230606BHJP
F16D 3/12 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
F16D3/06 E
F16C3/03
F16D3/12 A
(21)【出願番号】P 2019188928
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神野 哲史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 伸二
(72)【発明者】
【氏名】宮本 裕己
(72)【発明者】
【氏名】小川 友樹
(72)【発明者】
【氏名】岩井 昭憲
(72)【発明者】
【氏名】石倉 智仁
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-174499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/03、3/06、3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に沿って延びる複数の外歯が形成されているスプライン軸を有する第1部材と、
前記軸方向に沿って延びる複数の内歯が形成されているスプライン穴であって前記スプライン軸に篏合しているスプライン穴を有する第2部材と、を備え、
前記スプライン軸の外面と、前記スプライン穴の内面との少なくとも一方は、樹脂膜でコーティングされており、
前記樹脂膜が形成されている前記複数の外歯または前記複数の内歯のそれぞれの歯先において、前記樹脂膜に前記軸方向に沿って延びる凹部が一つのみ形成されている、
スプライン構造。
【請求項2】
前記樹脂膜に、前記凹部を挟んで一対の凸条が形成されており、それぞれの前記凸条が前記歯先の夫々のエッジに沿っている、請求項1に記載のスプライン構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、スプライン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、スプライン構造の一例として、スプライン軸を有するシャフト部材と、スプライン穴を有するスリーブ部材とを有するプロペラシャフトが開示されている。このプロペラシャフトでは、スプライン軸の外面又はスプライン穴の内面の少なくとも一方が、樹脂膜によってコーティングされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなスプライン構造では、スライド性能の向上が求められており、そのためには、スプライン軸とスプライン穴との間の摺動抵抗を低減し得る技術が必要とされている。本明細書は、そのような要望に応える新規で有用な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するスプライン構造は、軸方向に沿って延びる複数の外歯が形成されているスプライン軸を有する第1部材と、軸方向に沿って延びる複数の内歯が形成されているスプライン穴であってスプライン軸に篏合しているスプライン穴を有する第2部材と、を備え、スプライン軸の外面と、スプライン穴の内面との少なくとも一方は、樹脂膜でコーティングされている。樹脂膜が形成されている複数の外歯または複数の内歯のそれぞれの歯先において、樹脂膜に軸方向に沿って延びる凹部が一つのみ形成されている。
【0006】
一般に、スプライン構造では、スプライン軸又はスプライン穴に形成された歯先のエッジ部分において、接触面圧が局所的に高まりやすい。接触面圧が局所的に高くなると、例えばグリスといった潤滑剤による被膜が切れてしまい、摺動抵抗の上昇を招くおそれがある。この点に関して、上記したスプライン構造では、スプライン軸又はスプライン穴の歯先において、樹脂膜に凹部が形成されている。このような構成によると、歯先のエッジ部分における剛性が低下することによって、当該エッジ部分における接触面圧を緩和することができる。その結果、潤滑剤による被膜が維持され易く、摺動抵抗の上昇が抑制される。さらには、樹脂膜に形成された凹部により、スプライン軸又はスプライン穴の歯先において、スプライン軸とスプライン穴との間の隙間が大きくなり、両者がスライドするときの潤滑剤の撹拌抵抗が低減される。その結果、スプライン軸とスプライン穴との間の摺動抵抗が低減し、スライド性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例のスプライン構造(第1部材10と第2部材20)を示す外観図。
【
図2】
図1中のII―II線における断面図であって、第1部材10と第2部材との篏合部を示す。
【
図4】樹脂膜30に設けられた凹部32のいくつかの実施形態の断面形状を示す図。
【
図5】樹脂膜30及び凹部32の形成方法の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して、実施例のスプライン構造について説明する。
図1に示すように、スプライン構造は、第1部材10と第2部材20を備える。第1部材10はスプライン軸12を有し、第2部材20は、スプライン軸12に篏合するスプライン穴22を有する。スプライン軸12は、径方向に関して外向きに突出する複数の外歯14を有する。複数の外歯14は、周方向に関して等間隔に配列されており、それぞれの外歯14はスプライン軸12の軸方向に沿って延びている。
【0009】
第2部材20のスプライン穴22は、径方向に関して内向きに突出する複数の内歯24を有する。複数の内歯24は、周方向に関して等間隔に配列されており、それぞれの内歯24は、スプライン穴22の軸方向に沿って延びている。スプライン軸12の複数の外歯14と、スプライン穴22の内歯24は、僅かなクリアランスを介して互いに篏合している。これにより、第1部材10と第2部材20は、相対回転が禁止される一方で、軸方向に沿って相対的に移動することが許容されている。
【0010】
特に限定されないが、本実施例のスプライン構造では、第1部材10がシャフト状の部材であり、第2部材20はスリーブ状の部材である。但し、第1部材10及び第2部材20の具体的な形状は特に限定されない。また、第1部材10は、複数のスプライン軸12を有してもよく、第2部材20は、複数のスプライン穴22を有してもよい。
【0011】
図2、
図3に示すように、第1部材10のスプライン軸12の外面は、樹脂膜30でコーティングされている。樹脂膜30は、第1部材10及び第2部材20を構成する材料に対して、低弾性な材料で構成され、第1部材10と第2部材20との間に充填されたグリスの被膜を維持する。特に限定されないが、樹脂膜30を構成する樹脂材料としては、ナイロン、ポリエチレン、エポキシ、ポリエステル、ポリプロピレンが挙げられる。
【0012】
スプライン軸12の大径部(即ち、外歯14の歯先14a)では、樹脂膜30に凹部32が形成されている。凹部32は、スプライン軸12の軸方向に沿って、即ち、外歯14の長手方向に沿って、溝状に延びている。一般に、スプライン構造では、スプライン軸12又はスプライン穴22に形成された歯先14a、24aのエッジ部分において、接触面圧が局所的に高まりやすい。接触面圧が局所的に高くなると、例えばグリスといった潤滑剤による被膜が切れてしまい、摺動抵抗の上昇を招くおそれがある。
【0013】
この点に関して、本実施例のスプライン構造では、
図2、
図3に示すように、スプライン軸12の歯先14aにおいて、樹脂膜30に凹部32が形成されている。このような構成によると、スプライン軸12の歯先14aのエッジ部分における剛性が低下することによって、当該エッジ部分における接触面圧を緩和することができる。その結果、グリス又はその他の潤滑剤による被膜が維持され易く、摺動抵抗の上昇が抑制される。さらには、樹脂膜30に形成された凹部32により、スプライン軸12の歯先14aにおいて、スプライン軸12とスプライン穴22との間の隙間が大きくなり、両者がスライドするときのグリスの撹拌抵抗が低減される。その結果、スプライン軸12とスプライン穴22との間の摺動抵抗が低減し、スライド性能が向上する。
【0014】
樹脂膜30の凹部32の具体的な構成は、特に限定されない。例えば、
図4(A)に示すように、凹部32の断面形状は台形形状を有してもよい。あるいは、
図4(B)に示すように、凹部32の断面形状はドーム形状を有してもよい。即ち、凹部32の深さが、幅方向の中央において最も深く、幅方向の両側へ向かうにつれて減少してもよい。
図4(C)は参考例である。参考例では、一つの歯先14aに対して、複数の凹部32が形成されている。なお、本明細書において、樹脂膜30の凹部32の断面形状とは、スプライン軸12の軸方向に沿って延びる凹部32の長手方向に垂直な断面形状を意味する。これらの例に限られず、凹部32の具体的な構成については、例えば、凹部32の加工の容易性や、必要とされる凹部32の表面積に応じて、適宜設計することができる。
【0015】
次に
図5を参照して、樹脂膜30の形成方法について説明する。先ず、
図5(A)に示すように、スプライン軸12の外面に、流動浸漬法によって、樹脂膜30をコーティングする。このとき、一般的に流動浸漬法に用いられる材料、例えば、ナイロン、ポリエチレン、エポキシ、ポリエステル、ポリプロピレンといった樹脂を使用することができる。その結果、スプライン軸12の外面に、数百μmの厚みを有する樹脂膜30が形成される。通常、この段階では、樹脂膜30の厚みが設計値よりも大きい。次に、
図5(B)に示すように、スプライン軸12の歯先14aに形成された樹脂膜30に、凹部32を形成する。樹脂膜30の厚みが設計値よりも大きいので、凹部32についても設計値に対してより深く形成される。次に、
図5(C)に示すように、樹脂膜30の表面を加工して、スプライン形状を成形する。これにより、樹脂膜30の厚みが設計値へ調整され、凹部32の深さも設計値に等しくなる。以上により、樹脂膜30によってコーティングされ、樹脂膜30に凹部32を有する、スプライン軸12が得られる。
【0016】
本実施例のスプライン構造では、スプライン軸12の歯先14aにおいて、樹脂膜30に凹部32が形成されている。このような構成によると、歯先14aのエッジ部分における剛性が低下し、摺動抵抗の上昇抑制や、スライド性能を向上することができる。これに代えて、又は加えて、スプライン穴22の内面が樹脂膜でコーティングされてもよい。そして、スプライン穴22の小径部(即ち、内歯24の歯先24a)において、その樹脂膜に凹部が設けられてもよい。このような構成によれば、スプライン穴22の歯先24aに関しても、エッジ部分における接触面圧を緩和することができ、かつ、潤滑剤の撹拌抵抗を低減することもできる。
【0017】
以上、いくつかの具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書又は図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものである。
【符号の説明】
【0018】
10:第1部材
12:スプライン軸
14:外歯
14a:歯先
20:第2部材
22:スプライン穴
24:内歯
24a:歯先
30:樹脂膜
32:凹部