(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】検出装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/026 20060101AFI20230606BHJP
A61B 7/04 20060101ALI20230606BHJP
A61M 1/36 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
A61B5/026 140
A61B7/04 A
A61M1/36 107
A61M1/36 143
(21)【出願番号】P 2022045690
(22)【出願日】2022-03-22
(62)【分割の表示】P 2019501312の分割
【原出願日】2018-02-19
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017031090
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】317007266
【氏名又は名称】エア・ウォーター・バイオデザイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131015
【氏名又は名称】三輪 浩誉
(72)【発明者】
【氏名】中島 太郎
(72)【発明者】
【氏名】曽我 祐介
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-52490(JP,A)
【文献】特開2005-40518(JP,A)
【文献】国際公開第2016/139802(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/125811(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0183632(US,A1)
【文献】特許第3083378(JP,B2)
【文献】特開2016-039924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02- 5/03
A61B 5/00- 5/01
A61B 7/00- 7/04
A61M 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である生体の手首付近又は肘窩部の静脈と上腕動脈とが吻合されてなるシャントが形成されている前記生体のシャント形成部位のシャント音を示すシャント音情報を聴診手段から取得する第1取得手段と、
前記シャント形成部位のシャント音の強度と、前記シャント形成部位より上流の前記上腕動脈の血流量と、の相関関係を示す参照情報を、前記参照情報を予め格納している格納手段から取得する第2取得手段と、
前記第1取得手段で取得されたシャント音情報に基づくシャント音の強度及び前記参照情報に基づいて、前記
シャント形成部位の血流量を推定する推定手段と、
を備えることを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記シャント音情報に所定の解析処理を施して、音の周波数毎の時間変化を示すデータを得る解析手段を有することを特徴とする請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記推定手段は、前記データのうち所定周波数帯域に該当するデータに基づいてシャント音の強度を特定することを特徴とする請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記推定手段は、前記データのうち所定期間に該当するデータに基づいてシャント音の強度を特定することを特徴とする請求項2又は3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記所定期間は、収縮期に相当する期間であることを特徴とする請求項4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記第1取得手段は、前記シャント形成部位の前記シャント音のうち所定周波数以下のシャント音を示すシャント音情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置に関し、特に、シャント音を利用して血流量を検出する検出装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば、音、血液回路の振動及び血液の圧力のうち少なくとも1種類を電気信号に変換し、該電気信号を周波数解析により周波数-音圧系に変換した後、シャント音が有する周波数成分の存在する周波数帯域のみを抽出して、脈拍測定を行う装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば透析治療の際、手首付近の静脈と動脈とが吻合されたシャントが形成された上で、患者から血液が取り出される場合がある。シャント近傍の血管(以降、適宜“シャント形成部位”と称する)は、例えば血液凝固等により狭窄することが多い。このため、医師や看護師は、例えばシャント音(即ち、動脈から静脈に血液が流れ込む際に生じる雑音)を聴診したり、エコー検査によりシャント形成部位の血流量を測定したりすることにより、シャント形成部位の状態を把握・評価していることが多い。しかしながら、シャント音を聴診する場合、シャント部の状態の評価は聴診者毎にばらつきがあり、客観的な評価が困難である。また、エコー検査の場合、ある程度の技術の習得が必要である。
【0005】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、シャント音から血流量を検出できる検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の検出装置は、測定対象である生体の手首付近又は肘窩部の静脈と上腕動脈とが吻合されてなるシャントが形成されている前記生体のシャント形成部位のシャント音を示すシャント音情報を聴診手段から取得する第1取得手段と、前記シャント形成部位のシャント音の強度と、前記シャント形成部位より上流の前記上腕動脈の血流量と、の相関関係を示す参照情報を、前記参照情報を予め格納している格納手段から取得する第2取得手段と、前記第1取得手段で取得されたシャント音情報に基づくシャント音の強度及び前記参照情報に基づいて、前記生体の上腕動脈の血流量を推定する推定手段と、を備える。
【0007】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例に係る検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】シャント音信号の解析処理結果の一例を示す図である。
【
図3】シャント音及び血流量の検出概念を示す図である。
【
図4】シャント音の強度と血流量との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の検出装置に係る実施形態を説明する。
【0010】
実施形態の検出装置は、測定対象である生体の手首付近又は肘窩部の静脈と上腕動脈とが吻合されてなるシャントが形成されている前記生体のシャント形成部位のシャント音を示すシャント音情報を聴診手段から取得する第1取得手段と、前記シャント形成部位のシャント音の強度と、前記シャント形成部位より上流の前記上腕動脈の血流量と、の相関関係を示す参照情報を、前記参照情報を予め格納している格納手段から取得する第2取得手段と、前記第1取得手段で取得されたシャント音情報に基づくシャント音の強度及び前記参照情報に基づいて、前記シャント形成部位の血流量を推定する推定手段と、を備える。
【0011】
本願発明者の研究によれば、シャント音の強度とシャント形成部位の血流量との間には、比較的強い相関があることが判明している。従って、当該検出装置によれば、シャント音から、シャント形成部位の血流量を検出することができる。特に、当該検出装置によれば、当該検出装置の操作者によらずに客観的にシャント形成部位の血流量を検出することができる。
【0012】
実施形態の検出装置の一態様では、シャント音の強度と血流量との関係を示す参照情報を取得する第2取得手段を備え、算出手段は、シャント音情報に基づくシャント音の強度及び参照情報に基づいて、シャント形成部位の血流量を算出する。この態様によれば、比較的容易にして、シャント形成部位の血流量を検出することができる。
【0013】
実施形態の検出装置の他の態様では、算出手段は、シャント音情報に所定の解析処理を施して、音の周波数毎の時間変化を示すデータを得る解析手段を有する。この態様によれば、比較的容易にしてシャント音の強度を求めることができる。
【0014】
この態様では、算出手段は、上記データのうち所定周波数帯域に該当するデータに基づいてシャント音の強度を特定してよい。このように構成すれば、例えば環境ノイズ等の影響を抑制することができる。
【0015】
この態様では、算出手段は、上記データのうち所定期間に該当するデータに基づいてシャント音の強度を特定してよい。この所定期間は、収縮期に相当する期間であってよい。このように構成すれば、例えば不整脈の影響を抑制することができる。
【0016】
実施形態の検出装置の他の態様では、第1取得手段は、シャント形成部位のシャント音のうち所定周波数以下のシャント音を示すシャント音情報を取得する。この態様によれば、例えば環境ノイズ等の影響を抑制することができる。
【実施例】
【0017】
本発明の検出装置に係る実施例について説明する。先ず、実施例に係る検出装置の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、実施例に係る検出装置の構成を示すブロック図である。
【0018】
図1において、検出装置1は、シャント音入力部11、音声信号解析処理部12、強度パラメータ演算部13、血流量推定部14及び血流量推定値表示部15を備えて構成されている。
【0019】
次に、検出装置1の各構成要素について説明する。シャント音入力部11には、電子聴診器20により検出された測定対象のシャント形成部位の音(即ち、シャント音を含む音)を示すアナログ信号が入力される。シャント音入力部11は、入力されたアナログ信号に対して、所定のサンプリング周波数Fsでアナログデジタル変換を施し、シャント音波形を算出する。尚、シャント音入力部11は、電子聴診器20と一体として形成されていてよい。
【0020】
音声信号解析処理部12、強度パラメータ演算部13及び血流量推定部14は、算出部を構成している。音声信号解析処理部12は、シャント音入力部11により算出されたシャント音波形の時刻nの値x(n)に対して、長さNのフレーム単位で、Nポイント短時間フーリエ変換を施す(下記式参照)。ここで、音声信号解析処理部12は、長さNの窓関数w(k)を用いて、上記長さNのフレームを切り出す。
【0021】
【0022】
“k=0…N-1”は、サンプリング周波数FsのN等分を単位とした、周波数の位置(高さ)を意味する。
【0023】
音声信号解析処理部12は、短時間フーリエ変換が施されたシャント音波形に対し、対数変換を施し、時間周波数解析波形PLog[n,k]を算出する。時間周波数解析波形PLog[n,k]は、下記式により表される。
【0024】
【0025】
強度パラメータ演算部13は、時間周波数解析波形PLog[n,k]から、所定の周波数帯域に該当し、且つ、所定期間に該当するデータを抽出して、シャント音の強度を求める。ここで、所定の周波数帯域及び所定期間について、
図2を参照して説明する。
図2は、シャント音信号の解析処理結果(即ち、時間周波数解析波形PLog[n,k])の一例を示す図である。
【0026】
透析を安全に効率よく行うためにはシャント形成部位に十分な血流量が必要である。電子聴診器20により検出された音には、シャント形成部位に起因するシャント音以外に、環境ノイズや、例えば狭窄に起因する高調音等のノイズが含まれる。
【0027】
ノイズは、例えば400~800ヘルツ等の周波数帯域に現れることが多い(
図2(a)の点線円で囲んだ部分参照)。他方で、シャント音は、例えば100~500ヘルツ等の比較的低い周波数帯域の音として検出される。そこで、本実施例では、ノイズの影響を低減するために、例えば100~300ヘルツの周波数帯域が、上記所定の周波数帯域として設定されている(
図2(a)の“対象帯域”参照)。
【0028】
加えて、本実施例では、心拍に同期したシャント形成部位に起因するシャント音を強調するために、また不整脈による拡張期の時間変動の影響を低減するために、収縮期が、上記所定期間として設定されている(
図2(b)参照)。ここで、収縮期は、時間周波数解析波形PLog[n,k]に基づく音量の時間変化から1心拍区間を検出し、該検出された1心拍区間の前半、及び/又は、1心拍区間における音量の最大値を100%として、例えば80~100%の音量の期間、として設定される。
【0029】
具体的には、強度パラメータ演算部13は、下記式により、シャント音の強度を求める。下記式において、“r1”、“r2”、“t1”及び“t2”は、夫々、「対象帯域の下限周波数」、「対象帯域の上限周波数」、「収縮期の開始時刻」及び「収縮期の終了時刻」を意味する。
【0030】
【0031】
血流量推定部14は、強度パラメータ演算部13により求められたシャント音の強度と、シャント音の強度及び血流量の関係を規定する参照情報とに基づいて、シャント形成部位の血流量を推定する。ここで、参照情報について、
図3及び
図4を参照して説明を加える。
図3は、シャント音及び血流量の検出概念を示す図である。
図4は、シャント音の強度と血流量との関係の一例を示す図である。
【0032】
対象がヒトである場合、
図3に示すように、手首付近の静脈と上腕動脈とが吻合されたシャントが形成されることが多い。この場合、エコー検査では、シャント形成部位の血流量として、上腕動脈の血流量が測定される。エコー検査により測定された血流量と狭窄との関係は、比較的明らかになっている。
【0033】
手首付近の静脈と上腕動脈とが吻合されたシャントが形成される場合を一例に挙げると、
図3に示すように、電子聴診器によりシャント音を検出しつつ、エコー装置により上腕動脈の血流量を測定する。同時刻のシャント音の強度及び血流量を対応付けて、シャント音の強度と血流量とを軸とする平面上にプロットすると、例えば
図4に示すような結果を得られる。この結果に基づく、例えば近似直線“y=ax+b”が、本実施例に係る「参照情報」の一例である。尚、参照情報は、例えば強度パラメータ演算部13に予め格納されている。
【0034】
血流量推定値表示部15は、血流量推定部14により推定された血流量を表示する。
図4に示すように、シャント音の強度と血流量との間には比較的強い相関がある。このため、血流量推定部14により推定される血流量は、比較的精度が高いと言える。
【0035】
実施例に係る「シャント音入力部11」、「音声信号解析処理部12」及び「強度パラメータ演算部13」は、本発明に係る「第1取得手段」、「解析手段」及び「第2取得手段」の一例である。
【0036】
尚、当該検出装置1は、ヒトに限らず、例えば犬や猫にも適用可能である。当該検出装置1を、例えば犬や猫に適用する場合には、例えば犬や猫についてのシャント音の強度と血流量との関係を規定する参照情報を予め強度パラメータ演算部13に格納すればよい。
【0037】
<第1変形例>
上述の実施例では、シャント音の強度を求める際に、時間周波数解析波形PLog[n,k]の所定の周波数帯域(例えば100~300ヘルツ)に該当し、且つ、収縮期に該当するデータを用いている。しかしながら、時間周波数解析波形PLog[n,k]の所定の周波数帯域(例えば100~300ヘルツ)に該当するデータを用いてシャント音の強度が求められてもよい。
【0038】
具体的には、強度パラメータ演算部13は、下記式により、シャント音の強度を求めてよい。下記式において、“T”は、「1心拍区間の終了時刻」を意味する。
【0039】
【0040】
<第2変形例>
上述の実施例では、強度パラメータ演算部13により、時間周波数解析波形PLog[n,k]から所定の周波数帯域に該当するデータが抽出される。本変形例では、シャント音入力部11に、例えばバンドパスフィルタやローパスフィルタが設けられている。そして、シャント音入力部11は、電子聴診器20により検出された音のうち、所定の周波数帯域に該当する音に対してアナログデジタル変換を施して、シャント音波形を算出する。
【0041】
<第3変形例>
上述の実施例では、シャント音入力部11においてアナログデジタル変換が行われるが、例えば電子聴診器20において、或いは、電子聴診器20及び検出装置1とは異なる他の機器において、アナログデジタル変換が施された音(即ち、シャント音波形)が、シャント音入力部11に入力されてよい。
【0042】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う検出装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0043】
1…検出装置、11…シャント音入力部、12…音声信号解析処理部、13…強度パラメータ演算部、14…血流量推定部、15…血流量推定値表示部、20…電子聴診器