(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20230613BHJP
C08L 77/02 20060101ALI20230613BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20230613BHJP
H01R 13/46 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C08L77/06
C08L77/02
C08K5/3492
H01R13/46
(21)【出願番号】P 2019094605
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2022-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2018103316
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 恵一
(72)【発明者】
【氏名】当房 翔吏
(72)【発明者】
【氏名】柴田 博司
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/149892(WO,A1)
【文献】特開2008-239896(JP,A)
【文献】特開2007-035468(JP,A)
【文献】特開平11-233200(JP,A)
【文献】特開2018-073791(JP,A)
【文献】特開2008-007614(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099522(WO,A1)
【文献】特開2002-291135(JP,A)
【文献】特開2002-313484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01R 13/40-13/533
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)ポリアミド66樹脂、(A2)ポリアミド6/66樹脂、(B)トリアジン系化合物を含有し、(A1)ポリアミド66樹脂と(A2)ポリアミド6/66樹脂を(A1)/(A2)=60/40~
85/15の重量比で含有し、
(A2)ポリアミド6/66樹脂が(a1)カプロアミド単位50重量%以上98重量%以下および(a2)ヘキサメチレンアジパミド単位2重量%以上50重量%以下の共重合ポリアミド樹脂であり、(A1)と(A2)の合計100重量部に対して、前記(B)トリアジン系化合物を20~45重量部含有する、金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
(A1)ポリアミド66樹脂と(A2)ポリアミド6/66樹脂の合計100重量部に対して、(B)トリアジン系化合物を25~35重量部含有する、請求項1記載の金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
(A2)ポリアミド6/66樹脂が(a1)カプロアミド単位50重量%以上
95重量%以下および(a2)ヘキサメチレンアジパミド単位
5重量%以上50重量%以下の共重合ポリアミド樹脂である請求項1または2に記載の金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
(A1)ポリアミド66樹脂と(A2)ポリアミド6/66樹脂を(A1)/(A2)=
65/35~85/15の重量比で含有する、請求項1~3のいずれかに記載の金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を用いてなる、金属端子が圧入される溝を有する成形品。
【請求項6】
コネクターである、請求項5に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成部およびそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミド樹脂は、機械特性、耐熱性、難燃性、電気特性や成形加工性等に優れていることから自動車部品や電機電子部品等の工業部品や、日用家具などの日用品等の部品として広く用いられている。様々な用途の中でも、ポリアミド樹脂を用いた成形品は、耐熱性、機械特性に優れることから、筐体、外装部品、コネクターなどの電気電子部品に好適に用いられる。特に電気電子部品においては、近年では安全性の意識が強くなってきており、高い難燃性、特に例えばIEC60335-1第4版(「家庭用及び類似用途の電気機器安全性」)において定められるように、グローワイヤー特性に関して高いグローワイヤー着火温度が要求され、高度な難燃化技術が求められるようになった。
【0003】
グローワイヤー特性と成形性を向上させる技術として、例えば、特許文献1において、ポリアミド樹脂100質量部に対して、トリアジン系化合物12~38質量部、高級脂肪酸金属塩およびカルボン酸アミド系ワックスを含有する難燃性ポリアミド樹脂組成物が開示されている。また、グローワイヤー特性、耐トラッキング性、薄肉部分の難燃性、電気特性および成形性を向上させる技術として、例えば、特許文献2において、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸との塩よりなるポリアミド構成単位とラクタムおよび/またはω-アミノ酸よりなるポリアミド構成単位とからなるポリアミド樹脂100重量部に対して、トリアジン系難燃剤35~60重量部配合してなる難燃性ポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/099522号
【文献】特開2008-239896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気電子部品の中でも、金属端子を有する、プラグやコネクター等は、少なくとも2つの部品を互いに接続することにより、電気信号の伝達を可能とする。コネクターを構成する部品は、一般的に電気を導通させる金属部分と、その周りの樹脂成形品などの非導電性材料を使用した部品とに分けられる。
【0006】
機械特性、耐熱性等の観点から、コネクター部品における樹脂成形品として、ポリアミド樹脂が用いられることがあるが、ポリアミド樹脂は分子内にアミド結合を有するため、その親水性により吸水性を有する。また、吸水により成形品の強度低下や寸法変化が起こりやすい。そのため、金属端子を有するコネクター等のハウジングとして、ポリアミド樹脂を用いる場合は、グローワイヤー特性に加え、ポリアミド樹脂と金属端子との強固な固定力(以下保持力と記載)が要求される。しかしながら、前記特許文献1および2には、金属端子とポリアミド樹脂との保持力については一切記載されていない。また、特許文献1および2に記載された成形品は、ポリアミド樹脂の吸水性により、金属端子との保持力に劣ると推測される。
【0007】
このように、金属端子を有する電気電子部品において、ポリアミド樹脂を用いた場合には、良好なグローワイヤー特性と大気平衡吸水時における良好な金属端子の保持力の両立が望まれている。加えて、コネクターは少なくとも2つの部品を嵌合させるため、嵌合時の割れを防ぐための靭性も求められる。
【0008】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑み、グローワイヤー特性、靭性、大気平衡吸水時の金属端子の保持力に優れる、金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成物および成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の種類のポリアミド樹脂に、トリアジン系化合物を特定量配合することによって、前記目的を達成し得ることを見いだし本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)(A1)ポリアミド66樹脂、(A2)ポリアミド6/66樹脂、(B)トリアジン系化合物を含有し、(A1)ポリアミド66樹脂と(A2)ポリアミド6/66樹脂を(A1)/(A2)=60/40~95/5の重量比で含有し、(A1)と(A2)の合計100重量部に対して、前記(B)トリアジン系化合物を20~45重量部含有する、金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成物。
(2)(A1)ポリアミド66樹脂と(A2)ポリアミド6/66樹脂の合計100重量部に対して、(B)トリアジン系化合物を25~35重量部含有する、(1)に記載の金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成物。
(3)(A2)ポリアミド6/66樹脂が(a1)カプロアミド単位50重量%以上98重量%以下および(a2)ヘキサメチレンアジパミド単位2重量%以上50重量%以下の共重合ポリアミド樹脂である(1)または(2)に記載の金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成物。
(4)(A1)ポリアミド66樹脂と(A2)ポリアミド6/66樹脂を(A1)/(A2)=60/40~85/15の重量比で含有する、(1)~(3)のいずれかに記載の金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成物。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を用いてなる、金属端子が圧入される溝を有する成形品。
(6)コネクターである、(5)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属端子が圧入される溝を有する成形品用ポリアミド樹脂組成物によれば、優れたグローワイヤー特性、良好な靭性および大気平衡吸水時の金属端子の保持力に優れる成形品を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
【0013】
本発明は、(A1)ポリアミド66樹脂、(A2)ポリアミド6/66樹脂、(B)トリアジン系化合物を含有する、金属端子が圧入される溝を有する樹脂成形品用ポリアミド樹脂組成物である。金属端子が圧入される溝を有する樹脂成形品とは、成形品に設けられた溝に金属端子を圧入した場合に、金属と、ポリアミド樹脂組成物を成形して得られるポリアミド樹脂成形品とが直接接し、金属がポリアミド樹脂成形品に固定されている成形品である。
【0014】
コネクターの製法としては、インサート成形と成形品に端子に対応した溝を形成した上で個々の溝に端子を圧入して成形する方法がある。インサート成形とは、金型内に圧入した金属部品の周りに樹脂を注入して金属部品と樹脂とを一体成形することをいう。しかしながら、インサート成形では、注入された樹脂の流動によって、端子が動いてしまい、精度よく接触部を設けることが困難となりやすい。加えて、金属端子と樹脂部の境目付近に、バリが発生することが多い。
【0015】
そのため、本願発明は金属樹脂の境目のバリ発生を低減させ、金属と樹脂を強固に固定させるために、まず金属端子に対応した溝を形成した成形品を成形し、その溝に端子を圧入してコネクターを成形させる。
【0016】
本発明の実施形態の成形品に用いられる金属端子の金属としては、特に限定されないが、例えば、銀、銅、黄銅、銅合金、アルミニウム、窒化アルミ、アルミナ、ニッケル、アルミダイカストなどの合金、ステンレス鋼、錫、金、ニッケル、亜鉛、これら金属の酸化物などが挙げられる。強度や耐久性の点から、銀、銅、黄銅、アルミニウム、アルミダイカスト、酸化錫、酸化亜鉛などが好ましい。本発明の実施形態の成形品に用いられる金属端子の形状は、特に限定されない。
【0017】
本発明の実施形態の成形品に設けられた「溝」の形状は特に限定されない。「溝」の形状の例としては、円形状、楕円形状、扁平形状、多角形状またはそれらを組み合わせた形状等が挙げられる。金属端子の強固な固定力を得るために「溝」には、金属端子と嵌合できる任意の構造を有していても良い。また、「溝」は成形品を貫通していても良い。
【0018】
本発明の実施形態におけるポリアミド樹脂組成物は、(A1)ポリアミド66樹脂(以下、(A1)と略記することもある)を含有する。(A1)を含むことで、大気平衡吸水時の金属端子の保持力に優れる成形品を得ることが出来る。
【0019】
本発明の実施形態におけるポリアミド樹脂組成物は(A2)ポリアミド6/66樹脂(以下、(A2)と略記することもある)を含有する。(A2)を含むことで、グローワイヤー特性、靭性に優れ、大気平衡吸水時の金属端子の保持力に優れる成形品を得ることが出来る。
【0020】
(A2)は、(a1)カプロアミド単位(以下、(a1)と略記することもある)および(a2)ヘキサメチレンアジパミド単位(以下、(a2)と略記することもある)を含有する共重合ポリアミド樹脂である。(A2)は、ポリアミド6/66共重合ポリアミド樹脂が好ましく、その共重合比率としては、(a1)が50重量%以上98重量%以下および(a2)が2重量%以上50重量%以下であることが好ましい。前記範囲のポリアミド6/66樹脂を使用することで、グローワイヤー特性、靭性に優れ、良好な大気平衡吸水時の金属端子の保持力に優れる成形品を得ることが出来る。(a1)と(a2)の共重合比率としては、(a1)が50重量%以上95重量%以下および(a2)が5重量%以上50重量%以下とすることがより好ましく、(a1)が50重量%以上90重量%以下および(a2)が10重量%以上50重量%以下とすることが最も好ましい。前記範囲のポリアミド6/66樹脂を使用することで、靭性に優れる成形品を得ることが出来る。
【0021】
(A1)と(A2)は、(A1)/(A2)=60/40~95/5(60/40以上95/5以下)の重量比である。上記範囲を満たさない場合は、得られる成形品はグローワイヤー特性、靭性劣り、加えて大気平衡吸水時の金属端子の保持力にも劣る。(A1)/(A2)の重量比の上限は87/13以下が好ましく、85/15がより好ましく、重量比の下限は65/45以上が好ましく、70/30以上がより好ましい。
【0022】
本発明で用いられる(A1)の98%濃硫酸中での相対粘度は特に制限はないが、グローワイヤー特性、靭性および大気平衡吸水時の金属端子の保持力の観点から、2.0~3.0の範囲であることが好ましく、2.2~2.6の範囲であることがより好ましい。相対粘度が2.2~2.6の範囲にある場合、溶融混練時に発熱が抑制されて、(B)トリアジン系化合物の分解が抑制されるとともに、適度なせん断力が付与され(B)トリアジン系化合物の分散が良好となることから、グローワイヤー特性が高くなる。また適度な分子量であるため靭性を有し、かつ結晶化速度も適度に速いため、大気平衡吸水時の金属端子の保持力も高くなる。
【0023】
本発明で用いられる(A2)の98%濃硫酸中での相対粘度は特に制限はないが、グローワイヤー特性、靭性および大気平衡吸水時の金属端子の保持力の観点から、2.8~4.5の範囲であることが好ましく、3.0~4.3の範囲であることがより好ましい。相対粘度が3.0~4.3の範囲にある場合、溶融混練時に発熱が抑制されて、(B)トリアジン系化合物の分解が抑制されるとともに、適度なせん断力が付与され(B)トリアジン系化合物の分散が良好となることから、グローワイヤー特性が高くなる。また適度な分子量であるため靭性を有し、かつ結晶化速度も適度に速いため、大気平衡吸水時の金属端子の保持力も高くなる。98%濃硫酸中での相対粘度は、1g/dlの濃度で溶解した溶液で25℃で測定する。
【0024】
本発明の実施形態におけるポリアミド樹脂組成物は、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、(A1)および(A2)以外のポリアミド樹脂を用いてもよい。(A1)および(A2)以外のポリアミド樹脂の具体的な例としては、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリペンタメチレンセバカミド(ポリアミド510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリオクタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド8T)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリキシリレンアジパミド(ポリアミドXD6)、ポリキシリレンセバカミド(ポリアミドXD10)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6I)、ポリドデカミド/ポリヘキサメチレンテレフタラミドコポリマー(ポリアミド12/6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)コポリマー(ポリアミド6T/M5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリウンデカンアミドコポリマー(ポリアミド6T/11)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド66/6I/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T/6I)などが挙げられる。
【0025】
本発明で用いられるポリアミド樹脂の製造方法に特に制限はなく、例えば、3員環以上のラクタム、重合可能なアミノ酸、ジアミンと二塩基酸、あるいはこれらの混合物を重合缶内で、加圧、高温下で縮合させることによりオリゴマーを生成し、その後、減圧により適切な溶融粘度まで重合を進行させることにより所望のポリアミド樹脂を得ることができる。もちろん、市販品を使用することもできる。
【0026】
本発明の実施形態においては(A1)および(A2)の合計100重量部に対して、(B)トリアジン系化合物を20~45重量部(20重量部以上45重量部以下)含有する。(B)トリアジン系化合物を配合することで、高いグローワイヤー特性、良好な靭性および良好な大気平衡吸水時の金属端子の保持力に優れる成形品を得ることが出来る。(B)トリアジン化合物の配合量が20重量部未満の場合、成形品のグローワイヤー特性が低下する。25重量部以上が好ましい。一方、(B)トリアジン化合物の配合量が45重量部を越えると、成形品の靭性が低下する。40重量部以下が好ましく、特に35重量部以下にすることで良好な大気平衡吸水時の金属端子の保持力に優れる成形品を得ることが出来る。
【0027】
本発明の実施形態において、(B)トリアジン系化合物とは、3個の窒素原子を含み、不飽和の6員環構造を持つトリアジン骨格を有する化合物を指す。(B)トリアジン系化合物は、熱可塑性樹脂に配合して難燃性を付与することが可能な難燃剤として知られている。具体的な例としては、メラミン、メレム、メラム、メロンおよびこれらとシアヌール酸の塩、シアヌール酸、およびこれらの混合物が挙げられる。耐熱性、ポリアミド樹脂との混合性の良さから、メラミンシアヌレートがとりわけ好ましい。(B)トリアジン系化合物の平均粒子径は15μm以下が好ましい。平均粒子径が15μm以下であれば、靭性がより向上する。なお、平均粒子径はJIS K 5600-9-3(2006年)に準じて測定をした値から算出した数平均粒子径である。
【0028】
(B)トリアジン系化合物は、例えば、イタルマッチ社製MC25(メラミンシアヌレート)、日産化学社製MC4000(メラミンシアヌレート)、MC6000(メラミンシアヌレート)などが使用できる。
【0029】
本発明の実施形態におけるポリアミド樹脂組成物は、さらに本発明の目的を損なわない範囲で他のポリマー、銅系熱安定剤、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、および染料・顔料を含む着色剤などの通常の添加剤を一種以上含有することができる。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は特に制限がなく、例えば単軸または2軸の押出機やニーダー等の混練機を用いて220℃~330℃の温度で溶融混練する方法等が挙げられる。また、(B)トリアジン系化合物などの難燃剤は、その分散性が良好なほど高い難燃効果が発現するため、樹脂成分と同時に配合する製造方法が好ましい。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物からは、優れたグローワイヤー特性を有する成形品が得られる。具体的にはIEC60695-2-13に準拠した試験において、グローワイヤー着火温度は、厚み3mmにおいて775℃以上であることが好ましい。グローワイヤーグローワイヤー着火温度とは、GW-IT(Glow Wire Ignition Temperature)と呼ばれ、所望の温度に昇温したワイヤーを、規定厚みを有した樹脂成形品に押し当て、5秒以上の着火が確認される最低温度のことである。
【0032】
IEC60355-1第4版で要求されるグローワイヤー着火温度は、775℃以上であるが、コネクターなどのより複雑な形状を有する製品における、グローワイヤー着火温度は750℃以上であるため、(IEC60695-2-11記載のグローワイヤー温度(Glow Wire Temperature)参照)、前記基準をクリアするためにコネクターのグローワイヤー温度は800℃以上が好ましく、825℃以上がより好ましい。
【0033】
本発明のポリアミド樹脂組成物からは、優れた靭性を有する成形品が得られる。具体的にはISO178に準拠した試験における曲げ破断ひずみ(絶乾)が3.0%以上であることが好ましく、3.3%以上がより好ましく、3.5%以上が最も好ましい。上記範囲を有するポリアミド樹脂組成物を用いることにより、コネクターのように、例えば少なくとも2つの部品を嵌合させる製品において、嵌合時の割れを抑制することが出来る。加えて、金属端子が圧入される溝を有するコネクターにおいて、各溝同士のピッチ間隔が近接する場合は溝の壁が薄くなるが、上記優れた靭性を有する成形品を用いることにより、そのようなポリアミド樹脂成形品の溝へ端子を圧入する場合であっても、溝への端子の圧入が困難となることはない。
【0034】
本発明のポリアミド樹脂組成物からは、優れた大気平衡吸水時の金属端子の保持力を有する成形品が得られる。ここで本発明者らは、金属端子を有するポリアミド樹脂成形品において、金属端子の成形品における保持力は、金属端子と樹脂成形品(ハウジング)の接点における強度が関与しており、ハウジングに用いられる樹脂の最大曲げ応力に関係すると考えられる。具体的には、室温23℃、湿度50%の雰囲気下の大気平衡吸水率に達した樹脂成形品のISO178に準拠した試験における最大曲げ応力が57MPa以上であることが好ましく、60PM以上がより好ましく、65MPa以上が最も好ましい。ハウジングが吸水した時においても金属端子の保持力を高い水準で保持できる。
【0035】
なお、本発明の成形品は、示差走査熱量測定(DSC)による融点測定とガスクロマトグラフィー(GC)を用いたモノマー成分の比率を測定することで(A1)、(A2)の組成比率を特定することが出来る。また、水酸化ナトリウム水溶液などの溶媒を用いた抽出により、(B)の組成比率を特定することができる。
【0036】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形など通常の方法で容易に成形することができる。但し、インサート成形で得られる成形品を除く。本発明の成形品は、金属端子が圧入される溝を有する。かかる成形品はグローワイヤー特性、靭性、大気平衡吸水時の金属端子保持力に優れ、かかる溝に金属端子を圧入することにより、電気電子部品、自動車部品、筐体、外装部品に好適であり、プラグやコネクター部品に特に好適である。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品は金属端子が圧入される溝を有するが、金属端子を圧入することにより得られる成形品は、液晶テレビ、プラズマディスプレー、PDA、小型テレビ、ラジオ、ノートパソコン、パソコン、プリンター、スキャナー、パソコン周辺機器、ビデオデッキ、DVDデッキ、CDデッキ、MDデッキ、DATデッキ、アンプ、カセットデッキ、ポータブルCDプレーヤー、ポータブルMDプレーヤー、デジタルカメラ、家庭用電話、オフィス用電話、玩具、医療機器、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、洗濯機部品、ファクシミリ部品、コピー機部品に用いられる電気電子部品に好適であり、コネクターに特に好適である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げてさらに本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例4、10、及び11は、参考実験例4、10、及び11とする。実施例および比較例に用いた測定方法を以下に示す。
【0039】
(1)グローワイヤー着火温度(3mm厚)
実施例および比較例で得られたペレットを、日精樹脂工業(株)製の射出成形機NEX1000により、シリンダ温度280℃、金型表面温度80℃、スクリュー回転数130rpm、射出圧力100MPa、射出速度100mm/秒、射出/冷却=20/20秒の条件で射出成形し、80mm×80mm×3mmの試験片を作製した。得られた試験片を用いて、IEC60695-2-13に準拠してグローワイヤー着火温度(GW-IT)を測定し、GW-IT:775℃以上を満たしたときに合格とした。
【0040】
(2)靭性
ISO1874-2に従い、実施例および比較例で得られたペレットを、日精樹脂工業(株)製の射出成形機NEX1000により、シリンダ温度280℃、金型表面温度80℃、スクリュー回転数150rpm、成形品平行部流速200mm/秒、射出/冷却=20/20秒の条件で射出成形し、ISO Type-A規格の試験片を作製した。
【0041】
(a)曲げ破断ひずみ(絶乾時)
上記方法により得られた試験片をアルミの防湿袋に24時間真空密閉した。この試験片を用いて、アルミの防湿袋から取り出した直後に以下の標準方法に従って曲げ破断ひずみを測定した。曲げ破断ひずみ(絶乾時)が2.0%以上であれば、靱性に優れると判断し
た。
曲げ破断ひずみ:ISO 178。
【0042】
(3)最大曲げ応力(大気平衡吸水時)
上記方法により得られた試験片を室温23℃、湿度50%の雰囲気下で6か月以上時間静置し、大気平衡吸水率に達するまで静置した。この試験片を用いて、以下の標準方法に従って最大曲げ応力を測定した。最大曲げ応力が57MPa以上であれば、大気平衡吸水時の金属端子の保持力に優れると判断した。
曲げ破断ひずみ:ISO 178。
【0043】
参考例1 (A1-1)ポリヘキサメチレンアジパミド樹脂
ポリアミド66(東レ株式会社製“アミラン”(登録商標)E3001:98%硫酸での相対粘度 2.8)を使用した。
【0044】
参考例2 (A1-2)ポリヘキサメチレンアジパミド樹脂
98%硫酸での相対粘度 2.5のポリアミド66を使用した。
【0045】
参考例3 (A1-3)ポリヘキサメチレンアジパミド樹脂
98%硫酸での相対粘度 2.1のポリアミド66を使用した。
【0046】
参考例4 (A2-1)ポリアミド6/66樹脂
ε-カプロラクタム85.0重量部とヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の塩15.0重量部とを重合缶に投入し、水分量が45重量部となるように水分を加え、重合缶内を窒素で置換した後、260℃まで昇温した。ついて、1.7MPaにて1時間制圧・重合後、吐出・カッティングし、(A2)ポリアミド6/ポリアミド66樹脂を得た。JIS-K6810に従った98%硫酸での相対粘度は3.2であった。
【0047】
参考例5 (A2-2)ポリアミド6/66樹脂
ε-カプロラクタム85.0重量部とヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の塩15.0重量部とを重合缶に投入し、水分量が45重量部となるように水分を加え、重合缶内を窒素で置換した後、260℃まで昇温した。ついて、1.7MPaにて1時間制圧・重合後、吐出・カッティングし、(A2)ポリアミド6/ポリアミド66樹脂を得た。JIS-K6810に従った98%硫酸での相対粘度は2.8であった。
【0048】
参考例6 (A2-3)ポリアミド6/66樹脂
ε-カプロラクタム85.0重量部とヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の塩15.0重量部とを重合缶に投入し、水分量が45重量部となるように水分を加え、重合缶内を窒素で置換した後、260℃まで昇温した。ついて、1.7MPaにて1時間制圧・重合後、吐出・カッティングし、(A2)ポリアミド6/ポリアミド66樹脂を得た。JIS-K6810に従った98%硫酸での相対粘度は4.4であった。
【0049】
参考例7 (A3)ポリアミド66/6樹脂
ε-カプロラクタム3重量部とヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の塩97重量部とを重合缶に投入し、水分量が45重量部となるように水分を加え、重合缶内を窒素で置換した後、280℃まで昇温した。ついて、1.7MPaにて1時間制圧・重合後、吐出・カッティングし、(A3)ポリアミド66/6樹脂を得た。JIS-K6810に従った98%硫酸での相対粘度は2.6であった。
【0050】
参考例8 (A4)ポリε-カプロアミド樹脂
ポリアミド6(東レ株式会社製“アミラン”(登録商標)CM1010:98%硫酸での相対粘度 2.7)を使用した。
【0051】
参考例9 (A5)ポリヘキサメチレンセバカミド樹脂
ポリアミド610(東レ株式会社製“アミラン”(登録商標)CM2001:98%硫酸での相対粘度 2.7)を使用した。
【0052】
参考例10 (A6)ポリアミド6/66樹脂
ε-カプロラクタム95.0重量部とヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の塩5.0重量部とを重合缶に投入し、水分量が45重量部となるように水分を加え、重合缶内を窒素で置換した後、260℃まで昇温した。ついて、1.7MPaにて1時間制圧・重合後、吐出・カッティングし、(A2)ポリアミド6/ポリアミド66樹脂を得た。JIS-K6810に従った98%硫酸での相対粘度は3.2であった。
【0053】
参考例11 (B)トリアジン系化合物
イタルマッチ社製:MC25(メラミンシアヌレート)を用いた。なお、JIS K5600-9-3に準じて平均粒子径(数平均値)を測定したところ、4μmであった。
【0054】
[実施例1~15]
(A1)、(A2)、(A3)または(A6)いずれかのポリアミド樹脂、(B)トリアジン系化合物を表1に示す配合量で2軸押出機((株)日本製鋼所:TEX30α)を用いて、トップフィード(元込めフィード)し、シリンダ設定温度280℃、吐出量40kg/時、スクリュー回転数250rpmの条件で溶融混練し、ストランド状のガットを成形し、冷却バスで冷却後、カッターで造粒してペレットを得た。得られたペレットを用いて、前記の評価方法によって諸特性を調べた。その結果を表1に示す。
【0055】
[比較例1~8]
(A1)、(A2)、(A4)または(A5)いずれかのポリアミド樹脂、(B)トリアジン系化合物を表2に示す配合量で2軸押出機((株)日本製鋼所:TEX30α)を用いて、トップフィード(元込めフィード)し、シリンダ設定温度280℃、吐出量40kg/時、スクリュー回転数250rpmの条件で溶融混練し、ストランド状のガットを成形し、冷却バスで冷却後、カッターで造粒してペレットを得た。得られたペレットを用いて、前記の評価方法によって諸特性を調べた。その結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
実施例1~15と比較例1~8の対比から、(A1)ポリアミド66樹脂、(A2)ポリアミド6/66樹脂、(B)トリアジン系化合物を含有し、前記(A1)と(A2)を(A1)/(A2)=60/40~95/5の重量比で含み、(A1)と(A2)の合計100重量部に対して、前記(B)が20~45重量部であるポリアミド樹脂組成物は、グローワイヤー特性、良好な靭性および大気平衡吸水時の金属端子の保持力に優れることがわかる。