(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20230613BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20230613BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20230613BHJP
B60W 10/188 20120101ALI20230613BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20230613BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20230613BHJP
B60K 28/10 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B60W10/00 120
B60W10/06
B60W10/188
F02D29/02 321A
B60T7/12 A
B60K28/10 Z
(21)【出願番号】P 2019152679
(22)【出願日】2019-08-23
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】長屋 淳也
(72)【発明者】
【氏名】林 親司
(72)【発明者】
【氏名】深谷 浩一
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-196828(JP,A)
【文献】特開2007-056789(JP,A)
【文献】特開2001-206206(JP,A)
【文献】特開2013-163432(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102007010488(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 ~ 10/30
F02D 29/00 ~ 29/02
B60T 7/12
B60K 28/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバの制動操作量が第1閾値以上であることを含む自動停止条件に基づいてエンジンを自動停止させるアイドリングストップ制御を実行する車両用制御装置であって、
車速が所定速度以下である状態で、前記制動操作量が前記第1閾値と前記第1閾値より小さい第2閾値との間の値であるか否かを判定する操作判定部と、
前記操作判定部により前記制動操作量が前記第1閾値と前記第2閾値との間の値であると判定された場合に、制動液圧を、前記制動操作量が前記第1閾値であるときに発生する所定制動液圧以上となるまで加圧する自動加圧処理を実行する加圧処理部と、
前記自動加圧処理により前記制動液圧が前記所定制動液圧に達した場合、前記制動操作量が前記第1閾値未満である状態においても前記アイドリングストップ制御を実行する制御部と、
を備える車両用制御装置。
【請求項2】
前記加圧処理部は、車速が0になったときに前記自動加圧処理を実行する請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
モータ及び前記モータで駆動するポンプを有し、前記制動液圧を調整可能なアクチュエータを備え、
前記加圧処理部は、前記自動加圧処理において、前記モータの回転数の目標値である目標回転数を一定に設定する請求項1又は2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
車両の外部状況を検出する状況検出部と、
前記状況検出部が検出した前記外部状況に応じて、前記アイドリングストップ制御の実行を禁止するか否か、又は前記自動加圧処理の実行を禁止するか否かを判定する禁止判定部と、
を備え、
前記加圧処理部は、前記禁止判定部により前記アイドリングストップ制御又は前記自動加圧処理の実行が禁止されている場合、前記自動加圧処理を実行せず、
前記制御部は、前記禁止判定部により前記アイドリングストップ制御の実行が禁止されている場合、前記アイドリングストップ制御を実行しない請求項1~3の何れか一項に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
自動停止条件に基づいてエンジンを自動停止させるアイドリングストップ制御を実行する車両用制御装置であって、
車両の外部状況を検出する状況検出部と、
前記状況検出部が検出した前記外部状況に応じて、前記アイドリングストップ制御の実行を禁止するか否かを判定する禁止判定部と、
前記禁止判定部により前記アイドリングストップ制御の実行が禁止されている場合、前記アイドリングストップ制御を実行せず、前記禁止判定部により前記アイドリングストップ制御の実行が許可されている場合、前記自動停止条件に基づいて前記アイドリングストップ制御を実行する制御部と、
を備える車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用制御装置は、燃費向上の観点から、例えばドライバの制動操作量が第1閾値を超えることを含む自動停止条件に基づいてエンジンを自動停止させるアイドリングストップ制御を実行するように構成されている。例えば、特開2015-101207号公報には、アイドリングストップ機能を含む複数の機能を備える車両用制御装置において、ドライバの違和感を与えることを抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車両用制御装置では、ドライバの制動操作量が第1閾値より小さい場合、車両が停止していたとしても、アイドリングストップ制御が実行されない。これは、アイドリングストップ制御の実行により停止したエンジンが再起動する際、制動力が小さいと車両の飛び出しが生じる可能性があるためである。しかし、車両が停止しているにもかかわらず、アイドリングストップ制御を実行しない車両用制御装置は、燃費向上の観点において、改善の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、エンジンの再起動時の飛び出しを防止しつつ、燃費の向上が可能となる車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様にかかる車両用制御装置は、ドライバの制動操作量が第1閾値以上であることを含む自動停止条件に基づいてエンジンを自動停止させるアイドリングストップ制御を実行する車両用制御装置であって、車速が所定速度以下である状態で、前記制動操作量が前記第1閾値と前記第1閾値より小さい第2閾値との間の値であるか否かを判定する操作判定部と、前記操作判定部により前記制動操作量が前記第1閾値と前記第2閾値との間の値であると判定された場合に、制動液圧を、前記制動操作量が前記第1閾値であるときに発生する所定制動液圧以上となるまで加圧する自動加圧処理を実行する加圧処理部と、前記自動加圧処理により前記制動液圧が前記所定制動液圧に達した場合、前記制動操作量が前記第1閾値未満である状態においても前記アイドリングストップ制御を実行する制御部と、を備える。
【0007】
本発明の第2態様にかかる車両用制御装置は、自動停止条件に基づいてエンジンを自動停止させるアイドリングストップ制御を実行する車両用制御装置であって、車両の外部状況を検出する状況検出部と、前記状況検出部が検出した前記外部状況に応じて、前記アイドリングストップ制御の実行を禁止するか否かを判定する禁止判定部と、前記禁止判定部により前記アイドリングストップ制御の実行が禁止されている場合、前記アイドリングストップ制御を実行せず、前記禁止判定部により前記アイドリングストップ制御の実行が許可されている場合、前記自動停止条件に基づいて前記アイドリングストップ制御を実行する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
第1態様によれば、制動操作量が第2閾値より大きく且つ第1閾値未満である場合、従来ではアイドリングストップ制御が実行されないところ、自動加圧処理の後に、アイドリングストップ制御が実行される。これにより、ドライバが第1閾値より小さい制動操作量で車両を停止させている場合でも、自動加圧処理によりアイドリングストップ制御に必要な制動液圧(所定制動液圧)が達成された状態で、エンジンが自動停止する。つまり、第1態様によれば、エンジンの再起動時の飛び出しを防止しつつ、アイドリングストップ制御の実行回数が増加することで燃費の向上が可能となる。
【0009】
第2態様によれば、外部状況に応じてアイドリングストップ制御の実行の可否が決定される。このため、アイドリングストップ制御が許可された状態では、例えばアイドリングストップ制御の実行にかかる閾値を第1閾値よりも若干小さい値に変更するなど、必要な制動力が発揮される範囲で、自動停止条件をアイドリングストップ制御が実行されやすい側に変更することができる。つまり、第2態様によれば、エンジンの再起動時の飛び出しを防止しつつ、燃費の向上が可能となる。また、アイドリングストップ制御が実行されるとドライバに煩わしさを感じさせる状況において、アイドリングストップ制御が自動的に禁止されることで、ドライビングフィールの向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の車両用制御装置の構成図である。
【
図2】第1実施形態のアイドリングストップ制御を説明するためのタイムチャートである。
【
図3】第2実施形態の車両用制御装置の構成図である。
【
図4】第3実施形態の車両用制御装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。また、説明に用いる各図は概念図である。
【0012】
<第1実施形態>
図1に示すように、液圧制動装置100は、ブレーキペダル11と、倍力装置12と、マスタシリンダ13と、リザーバ14、ブレーキスイッチ15と、ストロークセンサ16と、アクチュエータ5と、ブレーキECU6と、を備えている。第1実施形態の車両用制御装置1は、アクチュエータ5及びブレーキECU6を備えている。
【0013】
ブレーキペダル11は、ドライバがブレーキ操作可能な操作部材である。ブレーキスイッチ15は、ブレーキペダル11に対する操作の有無を検出するセンサである。ストロークセンサ16は、ブレーキペダル11のペダルストローク(以下「ストローク」という)を検出するセンサである。ブレーキスイッチ15及びストロークセンサ16は、検出信号をブレーキECU6に出力する。倍力装置12は、例えばエンジンの吸気負圧を利用してブレーキ操作力を助勢するバキュームブースタである。
【0014】
マスタシリンダ13は、ブレーキペダル11の操作に応じたマスタ圧を発生させる装置である。具体的に、マスタシリンダ13は、ブレーキペダル11の操作に応じたマスタ圧を発生させる第1マスタ室131および第2マスタ室132を備えている。マスタシリンダ13は、第1マスタ室131と第2マスタ室132とに同一の液圧が形成されるように構成されている。第1マスタ室131は、第1マスタピストン133と第2マスタピストン134との間に形成され、第2マスタ室132は、第2マスタピストン134とマスタシリンダ13の底部との間に形成されている。第1マスタピストン133と第2マスタピストン134との間には、第1スプリング135が介装され、第2マスタピストン134とマスタシリンダ13の底部との間には、第2スプリング136が介装されている。リザーバ14は、フルードを貯蔵し、マスタシリンダ13(マスタ室131、132)に当該フルードを補給するための部材である。
【0015】
アクチュエータ5は、マスタシリンダ13から供給されるマスタ圧に基づいて、各ホイールシリンダ54の液圧(以下「ホイール圧」という)を調整する装置である。アクチュエータ5は、マスタシリンダ13とホイールシリンダ54との間に配置されている。アクチュエータ5は、ブレーキECU6の指示に応じて、ホイール圧を調整する。ホイール圧に応じて、各車輪Wf、Wrに設けられた例えばディスクブレーキ装置又はドラムブレーキ装置(図示略)が駆動し、各車輪Wf、Wrに制動力が発生する。
【0016】
アクチュエータ5は、ブレーキECU6の指示に応じて、ホイール圧をマスタ圧と同レベルにする増圧制御、ホイール圧をマスタ圧よりも高くする加圧制御、ホイール圧を減圧する減圧制御、又はホイール圧を保持する保持制御を実行する。アクチュエータ5は、ブレーキECU6の指示に基づき、例えば、アンチスキッド制御(又はABS制御とも呼ばれる)、又は横滑り防止制御(ESC制御)等を実行する。
【0017】
詳細に、アクチュエータ5は、油圧回路5Aと、モータ70と、を備えている。油圧回路5Aは、第1配管系統50aと、第2配管系統50bと、を備えている。また、各車輪Wf、Wrに対して、車輪速度センサ73が設置されている。
【0018】
第1配管系統50aは、流路Aと、差圧制御弁51と、保持弁52と、減圧流路Bと、減圧弁53と、調圧リザーバ56と、還流流路Cと、ポンプ57と、補助流路Dと、圧力センサ71と、を備えている。なお、説明において、「流路」の用語は、例えば液圧路、油路、管路、通路、又は配管等の用語に置換可能である。流路Aは、(流路17を介して)マスタシリンダ13とホイールシリンダ54とを接続する流路である。
【0019】
差圧制御弁51は、流路Aに設けられたノーマルオープン型のリニアソレノイドバルブである。差圧制御弁51は、印加された制御電流の大きさ及びポンプ57の駆動に基づき、自身のマスタシリンダ13側の流路の液圧よりも自身のホイールシリンダ54側の流路の液圧を高くする。つまり、差圧制御弁51は、マスタ圧とホイール圧との差圧を調整可能な電磁弁である。
【0020】
保持弁52は、流路Aに配置され、ブレーキECU6により開閉が制御されるノーマルオープン型の電磁弁である。減圧流路Bは、流路Aにおける保持弁52とホイールシリンダ54との間の部分と調圧リザーバ56とを接続する流路で構成されている。
【0021】
減圧弁53は、減圧流路Bに配置され、ブレーキECU6により開閉が制御されるノーマルクローズ型の電磁弁である。調圧リザーバ56は、シリンダ、ピストン、及び付勢部材を有する、いわゆる低圧リザーバである。還流流路Cは、減圧流路B及び調圧リザーバ56と、分岐点Xとを接続する流路である。分岐点Xは、流路Aにおける差圧制御弁51と保持弁52との間の部分である。
【0022】
ポンプ57は、モータ70の回転に応じて駆動し、モータ70の正方向の回転によりフルードを吸入ポート571から吸入し吐出ポート572から吐出する装置である。ポンプ57は、還流流路Cに設けられている。吸入ポート571は、還流流路Cにおける調圧リザーバ56及び減圧流路B側の部分に接続されている。吐出ポート572は、還流流路Cにおける分岐点X側の部分に接続されている。ポンプ57は、モータ70の回転により、フルードを、調圧リザーバ56から吸入し、分岐点Xに吐出する。
【0023】
補助流路Dは、調圧リザーバ56の調圧孔56aと、流路Aにおける差圧制御弁51よりもマスタシリンダ13側の部分とを接続する流路である。調圧リザーバ56は、ストローク増加による調圧孔56aへのフルードの流入量増加に伴い、弁孔56bが閉塞されるように構成されている。弁孔56bの流路B、C側にはリザーバ室56cが形成される。圧力センサ71は、マスタ圧を検出するセンサである。圧力センサ71は、ブレーキECU6に検出結果を送信する。第2配管系統50bは、第1配管系統50aと同様の構成であるため、説明は省略する。アクチュエータ5は、モータ70及びモータ70で駆動するポンプ57を有し、制動液圧であるホイール圧を調整可能に構成された装置である。
【0024】
ブレーキECU6は、CPUやメモリ等を備える電子制御ユニットである。具体的に、ブレーキECU6は、1つ又は複数のプロセッサを備え、プロセッサにより各種制御が実行される。ブレーキECU6には、通信線(図示略)により、ブレーキスイッチ15、ストロークセンサ16、圧力センサ71、及び車輪速度センサ73等の各種センサが接続されている。ブレーキECU6は、これら各種センサの検出結果に基づき、アクチュエータ5の作動が必要か否かを判定する。
【0025】
ブレーキECU6は、差圧制御弁51、保持弁52、減圧弁53、及びモータ70を制御することでホイール圧を制御する。例えば、ブレーキECU6は、差圧制御弁51に目標差圧に応じた制御電流を印加するとともに、ポンプ57を駆動させることで、ホイール圧をマスタ圧よりも高圧に制御する。ブレーキECU6は、圧力センサ71の検出値及びアクチュエータ5の制御状態に基づいて、ホイール圧を推定する。なお、液圧制動装置100には、ホイール圧を検出する圧力センサが設けられても良い。
【0026】
(アイドリングストップ制御)
ブレーキECU6は、ドライバの制動操作量が第1閾値以上であることを含む自動停止条件に基づいて、エンジン9を自動停止させるアイドリングストップ制御を実行するように構成されている。自動停止条件には、制動操作量が第1閾値以上であることの他に、例えば車速が0になっていること等が含まれている。ブレーキECU6は、自動停止条件がすべて満たされると、アイドリングストップ制御を実行する。制動操作量は、例えば、マスタ圧(圧力センサ71の検出値)、ストローク(ストロークセンサ16の検出値)、又は踏力である。なお、車速は、例えば車輪速度センサ73の検出値に基づいて算出される。
【0027】
ブレーキECU6は、操作判定部61と、加圧処理部62と、制御部63と、を備えている。操作判定部61は、車速が所定速度以下である状態で、制動操作量が第1閾値と第1閾値より小さい第2閾値との間の値であるか否かを判定する。換言すると、操作判定部61は、車速が所定速度以下となった場合に、制動操作量が第2閾値より大きく且つ第1閾値未満(第2閾値<制動操作量<第1閾値)であるか否かを判定する。
【0028】
加圧処理部62は、操作判定部61により制動操作量が第1閾値と第2閾値との間の値であると判定された場合に、制動液圧を、制動操作量が第1閾値であるときに発生する所定制動液圧となるまで加圧する自動加圧処理を実行する。なお、自動加圧処理では、制動液圧が所定制動液圧より高くなるまで加圧してもよい。つまり、自動加圧処理は、制動液圧を所定制動液圧以上にする処理である。第1実施形態の制動液圧は、ホイール圧に相当する。第2閾値は、例えば、第2閾値に対応する制動力により車両の停止状態を維持できる程度の値に設定されている。以下、第1閾値と第2閾値とで区切られた範囲を所定範囲という。
【0029】
加圧処理部62は、制動操作量が所定範囲内にある場合、所定のタイミングで、アクチュエータ5を制御してアクチュエータ5に加圧制御を実行させる。加圧制御は、モータ70が駆動された状態で、差圧制御弁51に目標差圧に応じた制御電流が印加されることで実行される。自動加圧処理では、マスタ圧やストロークにかかわらず、ホイール圧が所定ホイール圧になるように、差圧制御弁51の目標差圧が設定される。加圧処理部62は、自動加圧処理により、第1閾値に対応する目標制動力を達成させる。このように、自動加圧処理は、ブレーキECU6とアクチュエータ5とにより実行される。
【0030】
制御部63は、自動加圧処理により制動液圧が所定制動液圧に達した場合、制動操作量が第1閾値未満である状態においてもアイドリングストップ制御を実行する。制御部63は、制動操作量が第1閾値未満であっても、制動液圧が所定制動液圧以上になったことで、アイドリングストップ制御を実行し、エンジン9を停止させる。なお、制御部63は、自動加圧処理が実行されなくても、自動停止条件がすべて満たされれば、アイドリングストップ制御を実行する。
【0031】
第1実施形態の制御において、制動操作量が所定範囲内にある場合、エンジン9の自動停止条件の1つが、「制動操作量が第1閾値以上であること」から「制動液圧が所定制動液圧以上であること」に読み替えられるともいえる。自動停止条件の1つである「制動操作量が第1閾値以上であること」の設定目的は、「制動液圧が所定制動液圧以上であること」すなわち「制動力が所定制動力以上であること」を達成することである。このため、自動加圧処理の実行により、「制動操作量が第1閾値以上であること」の目的は達成される。
【0032】
このように、ブレーキECU6(1つ又は複数のプロセッサ)は、車速が所定車速以下である際にドライバの制動操作量が所定範囲内にあるか否かを判定し、制動操作量が所定範囲内にある場合にアクチュエータ5を制御して自動加圧処理を実行し、自動加圧処理により制動液圧が所定制動液圧に達するとアイドリングストップ制御を実行するように構成されている。
【0033】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態によれば、制動操作量が第2閾値より大きく且つ第1閾値未満である場合、従来ではアイドリングストップ制御が実行されないところ、自動加圧処理の後に、アイドリングストップ制御が実行される。これにより、ドライバが第1閾値より小さい制動操作量で車両を停止させている場合でも、自動加圧処理によりアイドリングストップ制御に必要な制動液圧(所定制動液圧)が達成された状態で、エンジン9が自動停止する。つまり、第1実施形態によれば、エンジン9の再起動時の飛び出しを防止しつつ、アイドリングストップ制御の実行回数が増加することで燃費の向上が可能となる。
【0034】
また、上記のように、自動加圧処理によりアイドリングストップ制御の実行をアシストする機能(以下「アシスト機能」という)は、車速が所定速度以下で且つ制動操作量が所定範囲内にあるときにのみ作動する。アイドリングストップ制御が不要とドライバが考えている状況では、ドライバは、ブレーキペダル11の踏み込み量を調整して、アシスト機能を作動させないようにすることができる。また、アシスト機能により、アイドリングストップ制御が実行されやすくなり、車速が0であれば、多くの場合、アイドリングストップ制御が実行される。ドライバは、停車した際にアイドリングストップ制御が実行されることを見越して運転することができる。
【0035】
また、ドライバが車両に設けられたスイッチ81を操作することで、アシスト機能やアイドリングストップ制御の禁止/許可を手動で切り替えることができる。例えば、ドライバがスイッチ81を操作して、運転モードをノーマルモードからスポーツモードに切り替えると、アシスト機能は禁止され、アシスト機能は実行されない。また、スイッチ81の操作により、アイドリングストップ制御の実行を禁止することもできる。第1実施形態によれば、ドライバによる制動操作量の調整又はスイッチ操作により、アイドリングストップ制御に関するドライバの意思に合致した制御が可能となっている。
【0036】
(アシスト機能の具体例)
第1実施形態のアシスト機能について一例を挙げて説明する。
図2に示すように、車両走行中にドライバがブレーキペダル11を踏み込むと、マスタ圧が上昇し、ホイール圧も上昇する。ホイール圧が上昇することで、制動力が上昇し、車速が低下する。本例の制動操作量は、マスタ圧である。時間t1において、マスタ圧は第2閾値を超えている。
【0037】
操作判定部61は、車速が第1所定速度以下となったとき(時間t2で)、マスタ圧が所定範囲内にあると判定する。本例の自動加圧処理の実行条件には、制動操作量が所定範囲内になることの他に、車速が0になっていることが含まれている。つまり、加圧処理部62は、マスタ圧が所定範囲内にあり、且つ車速が0になっているときに、自動加圧処理を実行する。
【0038】
加圧処理部62は、マスタ圧が所定範囲内にある状態において、車速が0になる前に、具体的に車速が第2所定速度以下になった際に、モータ70を駆動させる。第2所定速度は、第1所定速度以下の値(0<第2所定速度≦第1所定速度)であって、本例では第1所定速度に等しい。したがって、操作判定部61が肯定的な判定をした時間t2において、モータ70が駆動される。第1及び第2所定速度は、0に近い値に設定されている。
【0039】
加圧処理部62は、自動加圧処理において、モータ70の回転数の目標値である目標回転数を一定に設定する。また、モータ70の回転数は、通常の加圧制御時よりも小さい値に設定されている。加圧処理部62は、モータ70を一定の回転数で駆動させた後、車速が0になったとき(時間t3)から、差圧制御弁51の目標差圧(制御電流)を所定ホイール圧に対応する値まで上昇させる。このように、加圧処理部62は、車速が0になったときに自動加圧処理を実行する。
【0040】
自動加圧処理では、モータ70の駆動によりポンプ57が駆動している状態で、差圧制御弁51により差圧状態が形成される。フルードは、ポンプ57の駆動により、調圧リザーバ56を介してマスタシリンダ13(マスタ室131、132)から分岐点Xに供給される。分岐点Xに供給されたフルードは、差圧制御弁51が機能することでホイールシリンダ54に供給される。これにより、ホイール圧は上昇し、マスタ圧は低下する。
【0041】
制御部63は、ホイール圧が所定ホイール圧に達すると(時間t4)、アイドリングストップ制御を実行し、エンジン9を停止する。また、制御部63は、時間t4において、モータ70を停止させる。なお、自動加圧処理の実行タイミング及び自動加圧処理でのホイール圧の上昇勾配は、アシスト機能なしでアイドリングストップ制御が実行された場合にエンジン9停止までに必要な時間(停止目標時間)に基づいて設定されている。
【0042】
本例のアシスト機能の流れをまとめると、ブレーキECU6は、車速が第1所定車速以下になると、マスタ圧が所定範囲内にあるか否かを判定する。マスタ圧が所定範囲内にある場合、ブレーキECU6は、一定の回転数でモータ70を駆動し、ポンプ57を作動させる。そして、車速が0になると、ブレーキECU6は、差圧制御弁51を制御し、自動加圧処理を実行する。自動加圧処理によりホイール圧が所定ホイール圧に達すると、ブレーキECU6は、アイドリングストップ制御を実行する。
【0043】
(効果)
本例のように、車速が0になったときに自動加圧処理を実行することで、減速度を発生させずに制動力を必要な値まで上昇させることができ、自動加圧処理がドライバに違和感を与えることを抑制することができる。
【0044】
また、第1実施形態のようにポンプ57へのフルードの供給源にマスタシリンダ13が含まれ、且つマスタピストン133、134とブレーキペダル11とが機械的に連結されている構成(インライン構成)では、自動加圧処理でのマスタ圧の低下により、ブレーキペダル11の吸い込み現象が発生する。ブレーキペダル11の吸い込み現象は、ポンプ57の作動によるマスタピストン133、134の前進に伴って、ブレーキペダル11がドライバの意思にかかわらず前進する現象である。
【0045】
ここで、上記例のように、車速が0になったときに自動加圧処理が実行されることで、ブレーキペダル11の吸い込み現象を、停車時の車両の揺れ(
図2の前後加速度参照)に紛れさせることができる。停車時の振動に吸い込み現象を紛れさせることで、自動加圧処理が、停車に向けたドライバの制動操作の延長として(一環として)ドライバに認識されやすくなる。つまり、自動加圧処理によりドライバが感じる違和感は低減される。
【0046】
また、自動加圧処理におけるモータ70の目標回転数が一定値に設定されることで、回転数の変動による駆動音の影響(目立ち)を抑制することができる。また、停車後でなく停車前(すなわち車両走行中)にモータ70を駆動させることで、モータ70の駆動音の影響を抑えることができる。また、停車直前にモータ70を駆動させることで、モータ70での電力消費を極力抑えることができる。
【0047】
第1実施形態のアシスト機能(自動加圧処理)は、ドライバに与える違和感の抑制の観点において、制動中、車速が0又は0に近い値(例えば上記各所定速度)になったときから、車両が静止するまでの間(以下「好適アシスト期間」という)に実行されることが好ましい。車両の静止状態とは、車両が停止(車速=0)した後に、車両の振動の振幅が所定振幅以下となった状態を意味する。所定振幅は0又は0に近い値である。
【0048】
車両の振動は、例えば車両の前後方向の加速度(前後加速度)を検出する加速度センサ82で検出できる。好適アシスト期間は、
図2における時間t2~時間t5までの間に相当する。また、エンジン9は、時間t4からその回転数が減少していき、時間t5で停止する。
【0049】
停車前後であり且つ車両に何らかの動きがある好適アシスト期間に自動加圧処理が実行されることで、自動加圧処理時に生じ得る音、減速度、又は吸い込み現象を、車両の動きに紛れされることができ、ドライバに与える違和感を低減することができる。
【0050】
<第2実施形態>
第2実施形態の車両用制御装置1Aは、
図3に示すように、第1実施形態の構成に加えて、状況検出部83と、禁止判定部64と、を備えている。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態の説明及び図面を適宜参照することができる。
【0051】
状況検出部83は、車両の外部状況を検出する装置である。より具体的に、状況検出部83は、例えば、車外を撮像するカメラやナビゲーションシステム等である。ブレーキECU6は、カメラで撮像された車両前方の撮像データに基づいて、例えば、道路標識、路面標示、信号の状態(色等)、及び走行車線等を認識することができる。また、ブレーキECU6は、GPS機能をもつナビゲーションシステムからの情報に基づいて、車両の走行状況や走行予定ルート等を認識することができる。なお、ECUによる外部状況の認識は、周知の方法で実現することができる。
【0052】
ブレーキECU6は、状況検出部83の検出結果に基づいて、例えば車両が発進優先状況にあるか否かを判定することができる。発進優先状況は、例えば、キープレフトを定める国において車両が右折待ちで停車しようとしている状況(キープライトを定める国において車両が左折しようとしている状況)、踏切に接近している状況、又は一時停止の場所に接近している状況などである。これら例示した状況の少なくとも1つである発進優先状況は、ドライバが「停車後に応答性良く車両を発進させたい」と考える状況であると推測できる。つまり、多くの場合、発進優先状況では、アイドリングストップ制御が実行されないほうが、ドライバの意思に合致するといえる。
【0053】
そこで、ブレーキECU6は、第1実施形態の構成に加えて、さらに禁止判定部64を備えている。禁止判定部64は、状況検出部83が検出した外部状況に応じて、アイドリングストップ制御の実行を禁止するか否か判定する。例えば、禁止判定部64は、外部状況が上記の発進優先状況である場合、アイドリングストップ制御の実行を禁止する。禁止判定部64によりアイドリングストップ制御の実行が禁止されている場合、加圧処理部62は自動加圧処理を実行せず、制御部63はアイドリングストップ制御を実行しない。この場合、制御部63は、自動停止条件の成立の有無にかかわらず、アイドリングストップ制御を実行しない。
【0054】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態によれば、発進優先状況においてエンジン9が停止されず、ドライバは車両をスムーズに発進させることができる。つまり、第2実施形態によれば、状況に応じた制御が可能となり、ドライビングフィールの向上が可能となる。また、本構成は、アシスト機能によりアイドリングストップ制御が実行されやすい構成であるが、特定の外部状況においてアイドリングストップ制御を禁止することで、ドライビングフィールの向上と燃費向上との両立を図ることができる。また、ドライバのスイッチ81の操作による手動のモード切り替えなしに、アイドリングストップ制御が適宜実行又は禁止されるため、利便性が向上する。
【0055】
このように、第2実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、例えばアイドリングストップ制御が実行されるとドライバに煩わしさを感じさせるような特定の状況において、アイドリングストップ制御が自動的に禁止され、ドライビングフィールの向上が可能となる。
【0056】
なお、禁止判定部64は、外部状況に基づいて、自動加圧処理の実行を禁止するか否かを判定してもよい。そして、加圧処理部62は、禁止判定部64により自動加圧処理の実行が禁止されている場合、自動加圧処理を実行しない。この構成によれば、例えばドライビングフィールに影響が少ない場面(例えば発進優先状況以外の場面)でのみ、自動加圧処理(アシスト機能)を実行することができる。なお、自動加圧処理を禁止する状況は、アイドリングストップ制御を禁止する状況と異なってもよい。
【0057】
この構成において、自動加圧処理が禁止されアイドリングストップ制御が禁止されていない場合、制御部63によるアイドリングストップ制御の実行は禁止されない。したがって、制御部63は、ドライバの制動操作によって所定制動液圧が達成されたことにより自動停止条件が満たされた場合、アイドリングストップ制御を実行する。
【0058】
このように、禁止判定部64は、外部状況に応じて、アイドリングストップ制御の実行を禁止するか否か及び/又は自動加圧処理の実行を禁止するか否かを判定してもよい。なお、自動加圧処理及び/又はアイドリングストップ制御の実行を禁止する外部状況は、ユーザーにより設定変更可能であってもよい。
【0059】
<第3実施形態>
第3実施形態の車両用制御装置1Bは、
図4に示すように、第2実施形態から操作判定部61及び加圧処理部62を除いた構成(すなわちアシスト機能を備えない構成)と同様の構成となっている。第3実施形態の説明において、第1実施形態及び第2実施形態の説明と図面を適宜参照することができる。
【0060】
第3実施形態の車両用制御装置は、自動停止条件に基づいてエンジンを自動停止させるアイドリングストップ制御を実行する制御部63を備える車両用制御装置であって、車両の外部状況を検出する状況検出部83と、状況検出部83が検出した外部状況に応じて、アイドリングストップ制御の実行を禁止するか否かを判定する禁止判定部64と、を備えている。
【0061】
そして、制御部63は、禁止判定部64によりアイドリングストップ制御の実行が禁止されている場合、アイドリングストップ制御を実行せず、禁止判定部64によりアイドリングストップ制御の実行が許可されている場合、自動停止条件に基づいてアイドリングストップ制御を実行する。
【0062】
ブレーキECU6(制御部63)は、アイドリングストップ制御の実行が許可されている場合、例えば比較的長期の停車が予想される所定の外部状況(例えば赤信号に接近している等)で、アイドリングストップ制御が実行しやすい側に自動停止条件を変更するように構成されてもよい。つまり、ブレーキECU6は、外部状況に応じて、例えば第1閾値を若干小さくするなど、必要な制動力が発揮される範囲で、アイドリングストップ制御の自動停止条件を変更してもよい。
【0063】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態によれば、外部状況に応じてアイドリングストップ制御の実行の可否が決定される。このため、アイドリングストップ制御が許可された状態では、例えばアイドリングストップ制御の実行にかかる閾値を第1閾値よりも若干小さい値に変更するなど、必要な制動力が発揮される範囲で、自動停止条件をアイドリングストップ制御が実行されやすい側に変更することができる。つまり、第3実施形態によれば、エンジン9の再起動時の飛び出しを防止しつつ、燃費の向上が可能となる。
【0064】
また、第2実施形態同様、アイドリングストップ制御が実行されるとドライバに煩わしさを感じさせる状況(例えば発進優先状況)において、スイッチ81の操作なしで、アイドリングストップ制御が自動的に禁止されることで、ドライビングフィールの向上が可能となる。アイドリングストップ制御の実行を禁止する外部状況は、ユーザーにより設定変更可能であってもよい。
【0065】
<その他>
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、液圧制動装置100の構成は、
図1のようなインライン構成に限らず、ポンプ57へのフルードの供給源がマスタシリンダ13以外の部材である構成であってもよい。この構成であれば、自動加圧処理によるブレーキペダル11の吸い込み現象は発生しない。また、例えば、自動加圧処理におけるモータ70の駆動は、車速が0になった時点以降に、差圧制御弁51の制御と同時又は別に、実行されてもよい。なお、第2実施形態及び第3実施形態の説明では、液圧制動装置100が第1実施形態と同様であるため、液圧制動装置100の全体構成図及び構成説明が省略されている。つまり、各実施形態で適宜
図1、2及びその説明を利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1、1A、1B…車両用制御装置、5…アクチュエータ、57…ポンプ、61…操作判定部、62…加圧処理部、63…制御部、64…禁止判定部、70…モータ、83…状況検出部。