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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】LGPS系固体電解質および製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20230613BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230613BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230613BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230613BHJP
   C01G 19/00 20060101ALI20230613BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M10/052
C01G19/00 A
C01B25/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020525460
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2019022075
(87)【国際公開番号】W WO2019239949
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2018112866
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智裕
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106129465(CN,A)
【文献】国際公開第2013/118722(WO,A1)
【文献】特開2013-177288(JP,A)
【文献】特開2017-21965(JP,A)
【文献】国際公開第2018/096957(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 10/0562
H01M 10/052
C01G 19/00
C01B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiSn(6≦u≦14、0.8≦v≦2.1、9≦y≦16、0<z≦1.6、Xは、Cl、BrまたはIを表す)の組成を満たし、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°、及び29.10°±0.50°の位置にピークを有することを特徴とする、LGPS系固体電解質。
【請求項2】
前記2θ=29.10°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である、請求項1に記載のLGPS系固体電解質。
【請求項3】
前記LGPS系固体電解質が、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、PおよびSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体Tと、P元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有し、前記八面体O、前記四面体TおよびTにおけるS元素は、その一部がCl、BrまたはIで置換されていてもよい、請求項1または2に記載のLGPS系固体電解質。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のLGPS系固体電解質を用いた全固体電池。
【請求項5】
LiSとPとをLiS/P=0.75~1.85のモル比となるように有機溶媒中で混合して反応させることによって均一溶液を調製する溶液化工程と、
前記均一溶液にLiX(Xは、Cl、BrまたはIを表す)を加えて該LiXを溶解させ、続いて、SnSとLiSとを添加して混合し、沈殿を形成する沈殿化工程と、
前記沈殿から前記有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を200~700℃にて加熱処理してLGPS系固体電解質を得る加熱処理工程と、を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のLGPS系固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、及び酢酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥工程における温度が、60~280℃である、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理工程を不活性ガス雰囲気下で行う、請求項5から7のいずれかに記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LGPS系固体電解質およびその製造方法に関する。なお、LGPS系固体電解質とは、Li、P及びSを含む、特定の結晶構造を有する固体電解質を言うが、本発明は、Li、Sn、P、Sおよびハロゲンを含む固体電解質である。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、更には定置型蓄電システムなどの用途において、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池は、電解液として可燃性の有機溶媒を使用しており、有機溶媒が漏れないように強固な外装を必要とする。また、携帯型のパソコン等においては、万が一、電解液が漏れ出した時のリスクに備えた構造を取る必要があるなど、機器の構造に対する制約も出ている。
【0003】
更には、自動車や飛行機等の移動体にまでその用途が広がり、定置型のリチウムイオン二次電池においては大きな容量が求められている。このような状況の下、安全性が従来よりも重視される傾向にあり、有機溶媒等の有害な物質を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発に力が注がれている。
【0004】
例えば、全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質として、酸化物、リン酸化合物、有機高分子、硫化物等を使用することが検討されている。
これらの固体電解質の中で、硫化物はイオン伝導度が高く、比較的やわらかく固体-固体間の界面を形成しやすい特徴がある。活物質にも安定であり、実用的な固体電解質として開発が進んでいる。
【0005】
硫化物固体電解質の中でも、特定の結晶構造を有するLGPS系固体電解質がある(非特許文献1および特許文献1)。LGPSは硫化物固体電解質の中でも極めてイオン伝導度が高く、-30℃の低温から100℃の高温まで安定に動作することができ、実用化への期待が高い。
【0006】
LGPS系固体電解質は、高価なGeを使用しない組成の開発が進んでおり、その中でもSiとハロゲンを含むものはイオン伝導度が高いことが知られている(特許文献2~4)。しかし、原料の一つであるSiSは水との反応性が極めて高く(非特許文献2)、大気中ではすぐに有毒であるHSを発生し、一部がSiOへと変質してしまう。そして、変質したSiSを原料としてLGPS系固体電解質を製造すると、イオン伝導度が大きく低下するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2011-118801
【文献】特許6044587
【文献】特許6044588
【文献】特許6222134
【非特許文献】
【0008】
【文献】Nature Energy 1, Article number: 16030 (2016)
【文献】THE SANTAFE SYMPOSIUM, May 2010, “The Tarnishing of Silver Alloys: Causes and Possibilities”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の下、高価な元素であるGeを使用せず、製造工程において原料の変質の影響を受けにくい、かつ、イオン伝導度の高いLGPS系固体電解質を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を行ったところ、以下の本発明によって、水分の影響を受けにくいSnSを原料に用いつつ、高いイオン伝導度を示すLGPS系固体電解質を見出すに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
<1> LiSn(6≦u≦14、0.8≦v≦2.1、9≦y≦16、0<z≦1.6、Xは、Cl、BrまたはIを表す)の組成を満たし、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°、及び29.10°±0.50°の位置にピークを有することを特徴とする、LGPS系固体電解質である。
<2> 前記2θ=29.10°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である、上記<1>に記載のLGPS系固体電解質である。
<3> 前記LGPS系固体電解質が、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、PおよびSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体Tと、P元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有し、前記八面体O、前記四面体TおよびTにおけるS元素は、その一部がCl、BrまたはIで置換されていてもよい、上記<1>または<2>に記載のLGPS系固体電解質である。
<4> 上記<1>から<3>のいずれかに記載のLGPS系固体電解質を用いた全固体電池である。
<5> LiSとPとをLiS/P=0.75~1.85のモル比となるように有機溶媒中で混合して反応させることによって均一溶液を調製する溶液化工程と、
前記均一溶液にLiX(Xは、Cl、BrまたはIを表す)を加えて該LiXを溶解させ、続いて、SnSとLiSとを添加して混合し、沈殿を形成する沈殿化工程と、
前記沈殿から前記有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を200~700℃にて加熱処理してLGPS系固体電解質を得る加熱処理工程と、を含むことを特徴とする上記<1>~<3>のいずれかに記載のLGPS系固体電解質の製造方法である。
<6> 前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、及び酢酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記<5>に記載の製造方法である。
<7> 前記乾燥工程における温度が、60~280℃である、上記<5>または<6>に記載の製造方法である。
<8> 前記加熱処理工程を不活性ガス雰囲気下で行う、上記<5>から<7>のいずれかに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造工程の水分環境の影響を受けにくいLGPS系固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るLGPS系固体電解質の結晶構造を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る全固体電池の概略断面図である。
図3】実施例1~3および比較例1で得られたイオン伝導体のX線回折測定の結果を示すグラフである。
図4】実施例1~3および比較例1で得られたイオン伝導体のラマン分光測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のLGPS系固体電解質、その製造方法、およびLGPS系固体電解質を用いた全固体電池について具体的に説明する。なお、以下に説明する材料及び構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0015】
<LGPS系固体電解質>
本発明のLGPS系固体電解質は、LiSn(6≦u≦14、0.8≦v≦2.1、9≦y≦16、0<z≦1.6、Xは、Cl、BrまたはIを表す)の組成を満たす。
好ましくは、6.5≦u≦12.0、0.85≦v≦1.70、9.5≦y≦14.5、0.1≦z≦1.5である。より好ましくは、7.0≦u≦12.0、0.85≦v≦1.60、10.0≦y≦14.5、0.1≦z≦1.0である。特に好ましくは、8.0≦u≦11.5、0.90≦v≦1.60、10.0≦y≦14.0、0.1≦z≦0.7である。また、Xは好ましくはBrである。
なお、元素の比率は、LGPS特有の結晶を発現させるために重要な要素であり、上記の範囲では所望のLGPS結晶が主として存在できる。また、一部のS原子をO原子に置換してもLGPS結晶を満たすことができ、その場合は上記のu、v、y、及びzの比率は、上記記載の範囲から外れることもある。
【0016】
前記LGPS系固体電解質は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°、及び29.10°±0.60°(より好ましくは29.10°±0.50°)の位置にピークを有することが好ましい。なお、2θ=17.00±0.50°、19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、23.50±0.50°、26.60°±0.50°、28.60±0.50°、29.10°±0.60°(より好ましくは29.10°±0.50°)の位置にピークを有することがより好ましい。
【0017】
また、前記LGPS系固体電解質は、前記2θ=29.10°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満であることが好ましい。より好ましくは、I/Iの値が0.40未満である。これは、Iに相当するのがLGPS結晶のピークであり、Iはイオン伝導性が低い結晶相のためである。
【0018】
更に、前記LGPS系固体電解質は、図1に示されるように、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、P及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体Tと、P元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有することが好ましい。なお、前記八面体O、前記四面体TおよびTにおけるS元素は、その一部がCl、BrまたはIで置換されていてもよい。
【0019】
<LGPS系固体電解質の製造方法>
本発明のLGPS系固体電解質は、原料を混合する工程と、混合した原料を加熱処理する工程を含む。
原料を混合する方法としては、特に限定されるわけではないが、例えば、遊星ボールミル、振動ミルおよびビーズミルに代表されるメカニカルミリングを用いた方法、原料を溶媒中で撹拌混合する方法、などを挙げることができる。大量生産を行う上では、溶媒中で撹拌混合する方法がより好ましい。
【0020】
1.原料
原料としては、特に限定されるわけではないが、LiS、P、SnSもしくはSnS、LiX(Xは、Cl、BrまたはIを表す)を用いることができる。また、LiSとPを反応させて得られるLiPSと、SnSとLiSを反応させて得られるLiSnSと、を原料とすることもできる。
LiSについては、市販品でも合成品でも使用することができる。LiSの純度は合成して得られるLGPS系固体電解質に大きな影響を与えることから、純度95%以上が好ましく、更に好ましくは純度98%以上である。特に、炭酸根(CO 2-)が含まれていると、LGPS系固体電解質のイオン伝導度を低下させることになる。
については、O原子が若干入っていても構わない。PはLiSと反応してLiPSとなるが、PS 3-の一部P-S結合がO原子に置換されてP-O結合が存在しても、最終的に得られるLGPS系固体電解質のイオン伝導度が大きく低下することはない。P-S結合の安定性の面からは、一部がP-O結合となっている方が安定となり、水との反応性が抑制され、結果的に硫化水素の発生抑制の効果がある。
【0021】
SnSについては、高純度であることが好ましい。SnSとLiSとが反応して生じるLiSnSは、LiPSとは異なり、Sn-Oの結合によって最終的に得られるLGPS系固体電解質のイオン伝導度が低下しやすいと考えられる。よって、SnSは純度95%以上が好ましく、更に好ましくは98%以上である。なお、SnSは水との反応が生じにくいため、製造工程においてもSnSの純度を低下させることなく、LGPS系固体電解質の原料として用いることができる。
LiX(Xは、Cl、BrまたはIを表す)は、市販品でも合成品でも使用することができる。純度は95%以上が好ましく、更に好ましくは98%以上である。LiX(Xは、Cl、BrまたはIを表す)中の水分は50ppm未満が好ましく、更に好ましくは10ppm未満である。これは、原料から混入する水分が、LGPS系固体電解質の製造工程において副生成物の発生につながるためである。LiIの水和物は安定なことから、水分管理は厳密に行う必要がある。
【0022】
2.混合方法
混合方法としては、それぞれの原料が均一に分散されれば、特に手法は問わない。例えば、湿式や乾式を問わず、ビーズミル、振動ミルまたは遊星ボールミルを用いたメカニカルミリングを挙げることができる。原料については、アモルファス化することが好ましいが、必ずしも全原料をアモルファス化する必要はなく、各原料粒子を数μm以下の微粒子とし、十分に混じり合っていれば十分である。なお、メカニカルミリングの雰囲気は、不活性ガス下で行うことが好ましい。
大量製造を前提とした混合方法としては、上述したメカニカルミリングよりも、以下に説明する、溶媒中で撹拌混合する方法が好ましい。
【0023】
溶媒中で撹拌混合する方法を詳細に説明する。
本発明の一実施形態では、LiSとPとをLiS/P=0.75~1.85のモル比となるように有機溶媒中で混合することによって反応させ、均一溶液を生成させる溶液化工程と、
前記均一溶液中にLiX(Xは、Cl、BrまたはIを表す)を加えて懸濁させ、更に、SnSとLiSを添加して混合することにより、沈殿を発生させる沈殿化工程と、
前記沈殿から前記有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、を有する。
沈殿化工程では、SnSを加えた後に、LiSを追添加することが好ましい。
各工程について、以下に詳細に説明する。
【0024】
A.溶液化工程
本発明における溶液化工程では、LiSおよびPをLiS/P=0.75~1.85のモル比となるように有機溶媒中で混合して反応させることによって、均一溶液を生成させる。本発明において均一溶液とは、未溶解の沈殿がない溶液を意味する。ここで、上記モル比は、好ましくはLiS/P=0.85~1.5であり、より好ましくはLiS/P=0.9~1.4である。LiS/P=0.75~1.85のモル比の範囲であると、室温においてLiSおよびPを溶液化することができる。上記モル比の範囲を外れると、沈殿が生じる場合がある。ただし、未溶解の沈殿を濾過等によって溶液と分離すれば、溶液中の組成は上記の範囲内で実施したものと同じになる。
【0025】
LiSは合成品でも、市販品でも使用することができる。水分の混入は、他の原料や前駆体を劣化させることから、水分は低い方が好ましく、より好ましくは300ppm以下であり、特に好ましくは50ppm以下である。LiSの粒子径は小さい方が反応速度が速くなるため好ましい。好ましくは粒子の直径として10nm~100μmの範囲であり、より好ましくは100nm~30μmであり、更に好ましくは300nm~10μmの範囲である。なお、粒子径はSEMによる測定やレーザー散乱による粒度分布測定装置等で測定できる。
【0026】
は合成品でも、市販品でも使用することができる。Pの純度が高い方が、固体電解質中に混入する不純物が少なくなることから好ましい。Pの粒子径は小さい方が反応速度が速くなるため好ましい。好ましくは粒子の直径として10nm~100μmの範囲であり、より好ましくは100nm~30μmであり、更に好ましくは300nm~10μmの範囲である。水分の混入は、他の原料や前駆体を劣化させることから、低い方が好ましく、より好ましくは300ppm以下であり、特に好ましくは50ppm以下である。
【0027】
有機溶媒は、LiSおよびPと反応しない有機溶媒であれば、特に制限はない。例えば、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、ニトリル系溶媒などが挙げられる。具体的には、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトニトリルなどが挙げられる。特に好ましくはテトラヒドロフランおよびアセトニトリルである。原料組成物が劣化することを防止するために、有機溶媒中の酸素と水を除去しておくことが好ましく、特に水分については、100ppm以下が好ましく、より好ましくは50ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。
【0028】
有機溶媒中におけるLiSおよびPの合計の濃度は、1~40重量%が好ましく、5~30重量%がより好ましく、10~20重量%が特に好ましい。有機溶媒中におけるLiSおよびPの合計の濃度が40重量%より高いと、スラリーの粘度が上昇して混合が困難になる場合がある。一方、有機溶媒中におけるLiSおよびPの合計の濃度が1重量%より低い場合には、大量の有機溶媒を使用することになり、溶媒回収の負荷が増大すると共に、反応器の大きさが過度に大きくなる要因となる。
【0029】
本発明における溶液化工程の反応メカニズムとしては、有機溶媒に懸濁されたPに対しLiSが徐々に反応し、溶液化可能な状態となる。しかし、先にLiSを有機溶媒に加えて懸濁させ、そこにPを徐々に加えることが好ましい。Pが過剰なところにLiSを加えると、縮合した重合物が発生することがあるためである。
【0030】
溶液化工程における混合の際には基質が分散されたスラリー状態であるが、やがて反応して均一溶液となる。粒子を砕く特別な撹拌操作は不要であり、スラリーが懸濁分散できるだけの撹拌動力を与えれば十分である。
溶液化工程における反応温度は、室温下においても反応が緩やかに進行するが、反応速度を上げるために加熱することもできる。加熱する場合には、有機溶媒の沸点以下で行うことで十分であり、使用する有機溶媒によって異なるものの、通常は120℃未満である。オートクレーブ等を用いて加圧状態で行うことも可能であるが、120℃以上の高い温度で混合を行うと、副反応が進行することが懸念される。
【0031】
溶液化工程における反応時間としては、有機溶媒の種類や原料の粒子径、濃度によって異なるものの、例えば0.1~24時間行うことで反応が完結し、溶液化することができる。
溶液化した混合溶液には、加えた組成割合や原料不純物の混入具合によって、わずかな沈殿物が生じる場合がある。この場合、濾過や遠心分離によって沈殿物を取り除くことが望ましい。
【0032】
B.沈殿化工程
溶液化工程で得られた均一溶液に対し、LiX(Xは、Cl、BrまたはIを表す)を加えて撹拌し、LiXを溶解させる。LiXを加える理由としては、LGPS結晶中のS元素の一部が、Xに置換されることによって、SとLiの相互作用を低減できると考えられ、イオン伝導度が向上することを見出したためである。なお、LiXを加える量が多すぎると、アルジロダイト型結晶といった、LGPS結晶以外の結晶が生じ、イオン伝導度が低下する。LiXの添加量としては、均一溶液中のPに対して0.01~1.6倍モルが好ましく、0.1~1.5倍モルがより好ましい。
その後にSnSを添加し、混合して懸濁させる。SnSの添加量としては、均一溶液中のPに対して0.8~2.1倍モルが好ましく、0.85~1.70倍モルがより好ましい。次に、LiSを追添加し、混合することによって沈殿を発生させる。追添加するLiSとしては、均一溶液中のPに対して、添加するLiSの全量が、3.0~7.0倍モルとなることが好ましく、3.2~6.0倍モルとなることがより好ましい。
混合方法としては、通常の撹拌羽を用いた混合で十分である。加えたSnSやLiSの粒子を砕くことを目的に、撹拌によって解砕させることが好ましい。更には、ホモジナイザーまたは超音波分散機を用いてもよい。
【0033】
SnSは、通常は元素の価数として4価であることが好ましい。すなわち、SnSであり、市販品を使用することができるし、合成品を用いてもよい。SnSの微粒であれば混合性が良くなるため好ましい。好ましくは粒子の直径として10nm~100μmの範囲であり、より好ましくは100nm~30μmであり、更に好ましくは300nm~10μmの範囲である。粒子径はSEMによる測定やレーザー散乱による粒度分布測定装置等で測定できる。なお、上記の原料の一部はアモルファスであっても問題なく使用することができる。水分の混入は、他の原料や前駆体を劣化させることから、低い方が好ましく、より好ましくは300ppm以下であり、特に好ましくは50ppm以下である。
【0034】
均一溶液にSnSを懸濁させた懸濁液にLiSを追加添加すると、徐々に沈殿が増加する。沈殿は溶媒和物となることもあり、例えば有機溶媒にテトラヒドロフラン(THF)を用いた場合、LiPS・3THF結晶が得られていると考えられる。加えるLiSは溶液化工程で用いたものと同様でよい。
【0035】
沈殿は反応が進行することによってLiPSが生成することで発生する。反応機構は定かではないが、溶液には-(P-S-P-S)n-の状態で溶けていると考えられる。ここに加えたLiSがスラリー状に分散し、P-Sを開裂させ、LiPSが生成すると考えられる。
【0036】
均一溶液にSnSを懸濁させるための混合時間は0.1~24時間が好ましい。この程度混合を行うことで、十分にSnSが懸濁された状態となる。LiSを追添加した後の混合時間は0.1~48時間行えばよく、より好ましくは4~36時間である。なお、追添加したLiSは溶液状態のLiS-Pと反応することから、反応時間が短いと、所望とするLiPSの生成が不十分となり、沈殿物中に未反応のLiSが混入してくる。
【0037】
混合する時の温度は、室温下で行うことができる。加温をしても問題はないが、あまり温度を高くしすぎると副反応が生じることが懸念される。加熱する場合には、有機溶媒の沸点以下で行うことで十分であり、使用する有機溶媒によって異なるものの、通常は120℃未満である。
【0038】
沈殿化工程における混合は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが挙げられ、アルゴンが特に好ましい。不活性ガス中の酸素および水分も除去していくことで原料組成物の劣化を抑制できる。不活性ガス中の酸素および水分は、どちらの濃度も1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下であり、特に好ましくは10ppm以下である。
【0039】
C.乾燥工程
得られた沈殿を乾燥して有機溶媒を除去することにより前駆体を得る。乾燥は不活性ガス雰囲気での加熱乾燥や真空乾燥で行うことができる。
乾燥温度は、60~280℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは100~250℃である。最適な範囲は有機溶媒の種類によって多少異なるが、温度の範囲は重要である。有機溶媒が存在する状態で乾燥温度を高くしすぎると、ほとんどの場合で前駆体が変質してしまう。また、乾燥温度が低すぎる場合には残溶媒が多くなり、そのまま次の加熱処理工程を行うと有機溶媒が炭化し、得られるLGPS系固体電解質の電子伝導性が高くなる。固体電解質の使用方法次第では電子伝導性を有することが好ましいが、図2の2部分に使用する固体電解質は電子伝導性が十分に低いことが求められる。このような用途に用いる場合は残溶媒が極力少なくなるようにする必要がある。
【0040】
乾燥時間は有機溶媒の種類と乾燥温度によって多少異なるが、1~24時間実施することで十分に有機溶媒を除去することができる。なお、真空乾燥のように減圧下で有機溶媒を除去することや、十分に水分の少ない窒素やアルゴン等の不活性ガスを流すことで、有機溶媒を除去する際の温度を下げると共に所要時間を短くすることができる。
なお、後段の加熱処理工程と乾燥工程とを同時に行うことも可能である。
【0041】
D.加熱処理工程
本発明の製造方法においては、乾燥工程で得られた前駆体を加熱処理することによって、LGPS系固体電解質を得る。加熱温度は、種類によって異なり、通常200~700℃の範囲であり、より好ましくは350~650℃の範囲であり、特に好ましくは400~600℃の範囲である。上記範囲よりも温度が低いと所望の結晶が生じにくく、一方、上記範囲よりも温度が高くても、目的とする以外の結晶が生成する。
【0042】
加熱時間は、加熱温度との関係で若干変化するものの、通常は0.1~24時間の範囲で十分に結晶化される。高い温度で上記範囲を超えて長時間加熱することは、LGPS系固体電解質の変質が懸念されることから、好ましくない。
加熱は、真空もしくは不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、好ましくは不活性ガス雰囲気下である。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどを使用することができるが、中でもアルゴンが好ましい。酸素や水分が低いことが好ましく、その条件は沈殿化工程の混合時と同じである。
【0043】
上記のようにして得られる本発明のLGPS系固体電解質は、各種手段によって所望の成形体とし、以下に記載する全固体電池をはじめとする各種用途に使用することができる。成形方法は特に限定されない。例えば、後述する<全固体電池>において述べた全固体電池を構成する各層の成形方法と同様の方法を使用することができる。
【0044】
<全固体電池>
本発明のLGPS系固体電解質は、例えば、全固体電池用の固体電解質として使用され得る。また、本発明の更なる実施形態によれば、上述した全固体電池用固体電解質を含む全固体電池が提供される。
【0045】
ここで「全固体電池」とは、全固体リチウムイオン二次電池である。図2は、本発明の一実施形態に係る全固体電池の概略断面図である。全固体電池10は、正極層1と負極層3との間に固体電解質層2が配置された構造を有する。全固体電池10は、携帯電話、パソコン、自動車等をはじめとする各種機器において使用することができる。
本発明のLGPS系固体電解質は、正極層1、負極層3および固体電解質層2のいずれか一層以上に、固体電解質として含まれてよい。正極層1または負極層3に本発明のLGPS系固体電解質が含まれる場合、本発明のLGPS系固体電解質と公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質または負極活物質とを組み合わせて使用する。正極層1または負極層3に含まれる本発明のLGPS系固体電解質の量比は、特に制限されない。
【0046】
固体電解質層2に本発明のLGPS系固体電解質が含まれる場合、固体電解質層2は、本発明のLGPS系固体電解質単独で構成されてもよいし、必要に応じて、酸化物固体電解質(例えば、LiLaZr12)、硫化物系固体電解質(例えば、LiS-P)やその他の錯体水素化物固体電解質(例えば、LiBH、3LiBH-LiI)などを適宜組み合わせて使用してもよい。本発明のLGPS系固体電解質は、負極活物質に金属Li等の強い還元力を示す材料を用いた場合、LGPS系固体電解質と活物質の界面において反応が生じ、不可逆容量の発現や抵抗の増加が生じる場合がある。このような現象を防ぐためには、負極層側もしくは負極活物質の表面に還元耐性を有する固体電解質、錯体水素化物固体電解質、アルジロダイト型硫化物固体電解質、硫化物ガラスセラミックス等を設けることが好ましい。
【0047】
全固体電池は、上述した各層を成形して積層することによって作製されるが、各層の成形方法および積層方法については、特に制限されない。
例えば、固体電解質および/または電極活物質を溶媒に分散させてスラリー状としたものをドクターブレードまたはスピンコート等により塗布し、それを圧延することにより製膜する方法;真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を用いて製膜および積層を行う気相法;ホットプレスまたは温度をかけないコールドプレスによって粉末を成形し、それを積層していく加圧成形法等がある。
【0048】
本発明のLGPS系固体電解質は比較的柔らかいことから、加圧成形法によって各層を成形および積層して全固体電池を作製することが特に好ましい。加圧成形法としては、加温して行うホットプレスと加温しないコールドプレスとがあるが、コールドプレスでも十分に成形することができる。
なお、本発明には、本発明のLGPS系固体電解質を加熱成形してなる成形体が包含される。該成形体は、全固体電池として好適に用いられる。また、本発明には、本発明のLGPS系固体電解質を加熱成形する工程を含む、全固体電池の製造方法が包含される。
【実施例
【0049】
以下、実施例により本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
<溶液化工程>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)およびP(シグマ・アルドリッチ社製、純度99%)を、LiS:P:=1:1のモル比となるように量り取った。次に、(LiS+P)の濃度が10wt%となるようにアセトニトリル(和光純薬工業社製、超脱水グレード)に対して、LiS、Pの順に加え、室温下で12時間混合した。混合物は徐々に溶解し、均一な溶液を得た。
<沈殿化工程>
得られた均一溶液に、上記均一溶液中のPに対して0.29倍モルのLiBr(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)を撹拌しながら加え、溶解させた。次に、上記均一溶液中のPに対して1.09倍モルのSnS(高純度化学研究所社製GEI04PB)を撹拌しながら加え、室温化で12時間混合した。更に上記均一溶液中のPに対して3.2倍モルのLiSを撹拌しながら加え(すなわち全量のモル比はLiS:SnS:P:LiBr=4.18:1.09:1:0.29)、室温下で24時間混合してスラリー液を得た。
【0051】
<乾燥工程>
得られたスラリー液を、200℃、3時間、真空乾燥を行うことにより、前駆体を得た。一連の操作は、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で実施した。
<加熱処理工程>
得られた前駆体をグローブボックス内でガラス製反応管に入れて、前駆体が大気に暴露しないように電気管状炉に設置した。反応管にアルゴン(G3グレード)を吹き込み、3時間かけて475℃まで昇温し、その後8時間475℃で焼成することにより、Li8.66Sn1.0911.36Br0.29結晶を合成した。
【0052】
(実施例2)
LiBrをLiClとした以外は実施例1と同様に行い、Li8.66Sn1.0911.36Cl0.29結晶を合成した。
(実施例3)
LiBrをLiIとした以外は実施例1と同様に行い、Li8.66Sn1.0911.360.29結晶を合成した。
【0053】
(比較例1)
実施例1における<沈殿化工程>において、LiBrを添加せず、添加するSnSのモル比をPに対して0.74倍モルとし、添加するLiSのモル比をPに対して4.48倍モルとした以外は実施例1と同様に行い、Li9.81Sn0.812.1912結晶を合成した。
【0054】
<X線回折測定>
実施例1~3および比較例1で得られたイオン伝導体の粉末について、Ar雰囲気下、室温(25℃)にて、X線回折測定(PANalytical社製「X’Pert3 Powder」、CuKα:λ=1.5405Å)を実施した。
実施例1~3および比較例1で得られたイオン伝導体のX線回折測定の結果を図3に示す。
図3に示したとおり、実施例1~3では、少なくとも、2θ=19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°、及び29.10°±0.50°に回折ピークが観測され、このパターンはICSDデータベースのLi10GeP12と一致した。
2θ=29.10°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした場合に、Iはわずかであり、I/Iの値が、実施例1~3のすべてにおいて0.1以下であった。
【0055】
<リチウムイオン伝導度測定>
実施例1~3および比較例1で得られたイオン伝導体を一軸成型(420MPa)に供し、厚さ約1mm、直径10mmのディスクを得た。全固体電池評価セル(宝泉株式会社製)を用い、室温(25℃)において、インジウム電極を利用した四端子法による交流インピーダンス測定(Solartron社製「SI1260 IMPEDANCE/GAIN―PHASE ANALYZER」)を行い、リチウムイオン伝導度を算出した。
具体的には、サンプルを25℃に設定した恒温槽に入れて30分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定した。測定周波数範囲は0.1Hz~1MHz、振幅は50mVとした。リチウムイオン伝導度の測定結果を下記表1に示す。
【表1】
【0056】
<ラマン分光測定>
(1)試料調製
上部に石英ガラス(Φ60mm、厚さ1mm)を光学窓として有する密閉容器を用いて測定試料の作製を行った。アルゴン雰囲気下のグローブボックスにて、試料を石英ガラスに密着させた後、容器を密閉してグローブボックス外に取り出し、ラマン分光測定を行った。
(2)測定条件
レーザーラマン分光光度計NRS-5100(日本分光株式会社製)を使用し、励起波長532.15nm、露光時間5秒にて測定を行った。実施例1~3および比較例1で得られたイオン伝導体のラマン分光測定の結果を図4に示す。
【符号の説明】
【0057】
1 正極層
2 固体電解質層
3 負極層
10 全固体電池
図1
図2
図3
図4