(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】生体信号解析システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/349 20210101AFI20230613BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20230613BHJP
A61B 5/347 20210101ALI20230613BHJP
【FI】
A61B5/349
G06N20/00 160
A61B5/347
(21)【出願番号】P 2021570835
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2021041847
(87)【国際公開番号】W WO2022113792
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2020194594
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 陸
(72)【発明者】
【氏名】水田 慎吾
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-033878(JP,A)
【文献】特開2020-156927(JP,A)
【文献】特開2020-036633(JP,A)
【文献】特開2014-150826(JP,A)
【文献】特開2014-100473(JP,A)
【文献】高橋柊, 落合桂一, 深澤祐介,Stacked Convolutional Denoising Autoencodersを用いた2誘導心電図からの特徴抽出および不整脈分類,情報処理学会論文誌,Vol.59.No.12,日本,2018年12月,p.2213-2220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/346-5/366
A61B 5/00
G06N 3/08
G06N 20/00
G16H 50/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心電情報に基づいて不整脈の判定を行う一連の生体信号解析システムであって、
前記心電情報の入力を受け付ける入力部と、
前記心電情報を時間-周波数変換して判定用データを生成するデータ変換部と、
心電情報に基づく学習用データを用いた自己符号化器の学習によって得られる学習済みモデルを用いて、前記判定用データを復元した復元データを生成するデータ復元部と、
前記復元データと前記判定用データとの差量を算出する差算出部と、
前記差量
が予め設定されている閾値
よりも小さい場合、前記判定用データが正常波形データ
であると判定し、前記差量が前記閾値よりも大きい場合、前記判定用データが不整脈波形データ
である
と判定する判定部と、
を備える生体信号解析システム。
【請求項2】
前記学習済みモデルは、95%以上が正常波形データに基づいて生成される複数の既知の学習用データを用いた学習により生成されたモデルである、
請求項1に記載の生体信号解析システム。
【請求項3】
前記学習済みモデルは、95%以上が正常波形データに基づいて生成される複数の既知の学習用データ、および判定を行う対象から取得した学習用データを用いた学習により生成されたモデルである、
請求項1に記載の生体信号解析システム。
【請求項4】
前記学習済みモデルは、判定対象から取得した学習用データを用いた学習により生成されたモデルである、
請求項1に記載の生体信号解析システム。
【請求項5】
前記入力部は、前記心電情報が有する波形データに対し、所定の時間範囲の波形データを抽出した単位波形データにセグメント化し、
前記データ変換部は、前記単位波形データを時間-周波数変換して前記判定用データを生成する、
請求項1~4のいずれかに記載の生体信号解析システム。
【請求項6】
前記データ変換部は、前記判定用データにおいて不整脈の時間-周波数特徴領域に対して重み付けした重み付けデータを生成する、
請求項1~5のいずれかに記載の生体信号解析システム。
【請求項7】
前記差算出部は、前記復元データと前記判定用データとの差を示す差データを生成し、該差データに基づいて前記差量を算出し、
前記判定部は、前記差データの時間および周波数特徴に基づいて不整脈要因を特定する、
請求項1~6のいずれかに記載の生体信号解析システム。
【請求項8】
前記学習済みモデルは、前記正常波形データであることが既知の学習用データを用いた学習により生成されたモデルである、
請求項1~7のいずれかに記載の生体信号解析システム。
【請求項9】
前記学習用データを用いて前記自己符号化器の学習を行って前記学習済みモデルを生成する学習部、
をさらに備える請求項1~8のいずれかに記載の生体信号解析システム。
【請求項10】
前記学習用データを用いて前記自己符号化器の学習を行って前記学習済みモデルを生成する学習部、
をさらに備え、
前記学習部は、
前記既知の学習用データの特徴に応じた複数の自己符号化器、
を有し、
判定対象の正常波形データの特徴に基づいて、前記複数の自己符号化器から自己符号化器を1つ選択する、
請求項2に記載の生体信号解析システム。
【請求項11】
前記学習用データを用いて前記自己符号化器の学習を行って前記学習済みモデルを生成する学習部、
をさらに備え、
前記学習部は、
前記既知の学習用データの特徴に応じた複数の学習用データ群または複数の自己符号化器、
を有し、
判定対象の正常波形データの特徴に基づいて前記複数の学習用データ群または前記複数の自己符号化器から学習用データ群または自己符号化器を1つ選択する、
請求項3に記載の生体信号解析システム。
【請求項12】
前記学習済みモデルは、正常波形データの特徴抽出および復元が可能である、
請求項1に記載の生体信号解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば心電信号(以下、心電情報)に基づいて、正常/不整脈を判定する一連の生体信号解析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
心臓は収縮と拡張とを繰り返し、血液を全身に送り出すポンプの役割を果たしている。この活動は心筋細胞における微弱な電気刺激によって規則正しさを保っているが、この電気刺激に異常が顕れると心臓の活動にまで異常が起こる。これを不整脈と呼ぶ。不整脈には様々な種類があり、例えば、心停止を引き起こす致死性の高い心室細動、心室頻拍や、脳梗塞を引き起こす心房細動などが挙げられる。したがって、不整脈を判定することが非常に重要であり、生体信号測定器によって判定対象から取得した心電情報を用いて不整脈を判定することが行われている。
【0003】
しかしながら、不整脈の判定には長期かつ連続的な心電情報を医師が目視して診断しており、医師への負担が大きい。そこで、不整脈を自動判定するための生体信号解析装置および方法が用いられている(例えば、非特許文献1、2を参照)。
【0004】
非特許文献1に記載の方法は、不整脈のうち、心房細動に限定した判定を行うものである。心房細動は電気的な異常興奮によって心房と呼ばれる部位が小刻みに震える不整脈であり、心電情報から判定するための特徴は小刻みな振動成分であるF波の発生と、心拍周期(以下、RRレシオ)の異常性とが挙げられる。非特許文献1はこの後者に着目しており、RRレシオを横軸にとったヒストグラムにおいて、正常洞調律(以下、正常波形)に比べて、心房細動ではバラツキが大きくなるため、ここから心房細動を判定している。
【0005】
また、非特許文献2に記載の方法は、非特許文献1と同様に心房細動に着目しているが、機械学習による自動解析を行うものである。非特許文献2は、取得した心電情報を15秒ごとにセグメント化し、これを時間-周波数変換することで波形特徴を顕在化させ、既に学習してある「正常波形、ノイズ、心房細動、その他」の4つに分類して心房細動を判定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】B. Logan and J. Healey, "Robust detection of atrial fibrillation for a long term telemonitoring system," Computers in Cardiology, 2005, Lyon, 2005, pp. 619-622, doi: 10.1109/CIC.2005.1588177.
【文献】A. Qayyum, F. Meriaudeau and G. C. Y. Chan, "Classification of Atrial Fibrillation with Pre-Trained Convolutional Neural Network Models," 2018 IEEE-EMBS Conference on Biomedical Engineering and Sciences (IECBES), Sarawak, Malaysia, 2018, pp. 594-599, doi: 10.1109/IECBES.2018.8626624.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1および非特許文献2では次の課題がある。
非特許文献1では、RRレシオの異常性に特徴を持つ不整脈しか判定できない。前述したように不整脈には様々な種類があり、心室頻拍などRRレシオに特徴の出ない不整脈も存在するため、これらの不整脈の見逃しが発生する。また、バラツキからRRレシオの異常性を評価するため、心房細動を判定にはその不整脈(バラツキ)が長期に亘って連続的に続いている必要があり、突発的に発生する不整脈は判定が困難である。
非特許文献2では、事前学習が必要であるため、学習していない不整脈の判定を行うことはできない。
【0008】
本発明では、従来技術の上記課題を解決し、心電情報から不整脈であるか否かを不整脈の種類によらず判定可能な一連の生体信号解析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の一連の生体信号解析システムは、以下の構成からなる。
(1)心電情報に基づいて不整脈の判定を行う一連の生体信号解析システムであって、
前記心電情報の入力を受け付ける入力部と、
前記心電情報を時間-周波数変換して判定用データを生成するデータ変換部と、
自己符号化器からなる学習済みモデルを用いて前記判定用データを復元した復元データを生成するデータ復元部と、
前記復元データと前記判定用データとの差量を算出する差算出部と、
前記差量に基づいて、前記判定用データが正常波形データおよび不整脈波形データのいずれであるかを判定する判定部と、
を備える生体信号解析システム。
【0010】
(2)前記学習済みモデルは、95%以上が正常波形データに基づいて生成される複数の既知の学習用データを用いた学習により生成されたモデルである、
(1)に記載の生体信号解析システム。
【0011】
(3)前記学習済みモデルは、95%以上が正常波形データに基づいて生成される複数の既知の学習用データ、および判定を行う対象から取得した学習用データを用いた学習により生成されたモデルである、
(1)に記載の生体信号解析システム。
【0012】
(4)前記学習済みモデルは、判定対象から取得した学習用データを用いた学習により生成されたモデルである、
(1)に記載の生体信号解析システム。
【0013】
(5)前記入力部は、前記心電情報が有する波形データに対し、所定の時間範囲の波形データを抽出した単位波形データにセグメント化し、
前記データ変換部は、前記単位波形データを時間-周波数変換して前記判定用データを生成する、
(1)~(4)のいずれかに記載の生体信号解析システム。
【0014】
(6)前記データ変換部は、前記判定用データにおいて不整脈の時間-周波数特徴領域に対して重み付けした重み付けデータを生成する、
(1)~(5)のいずれかに記載の生体信号解析システム。
【0015】
(7)前記差算出部は、前記復元データと前記判定用データとの差を示す差データを生成し、該差データに基づいて前記差量を算出し、
前記判定部は、前記差データの時間および周波数特徴に基づいて不整脈要因を特定する、
(1)~(6)のいずれかに記載の生体信号解析システム。
【0016】
(8)前記学習済みモデルは、前記正常波形データであることが既知の学習用データを用いた学習により生成されたモデルである、
(1)~(7)のいずれかに記載の生体信号解析システム。
【0017】
(9)学習用データを用いて前記自己符号化器の学習を行って前記学習済みモデルを生成する学習部、
をさらに備える(1)~(8)のいずれかに記載の生体信号解析システム。
【0018】
(10)前記学習用データを用いて前記自己符号化器の学習を行って前記学習済みモデルを生成する学習部、
をさらに備え、
前記学習部は、
前記既知の学習用データの特徴に応じた複数の自己符号化器、
を有し、
判定対象の正常波形データの特徴に基づいて、前記複数の自己符号化器から自己符号化器を1つ選択する、
(2)に記載の生体信号解析システム。
【0019】
(11)前記学習用データを用いて前記自己符号化器の学習を行って前記学習済みモデルを生成する学習部、
をさらに備え、
前記学習部は、
前記既知の学習用データの特徴に応じた複数の学習用データ群または複数の自己符号化器、
を有し、
判定対象の正常波形データの特徴に基づいて前記複数の学習用データ群または前記複数の自己符号化器から学習用データ群または自己符号化器を1つ選択する、
(3)に記載の生体信号解析システム。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、心電情報から不整脈であるか否かを不整脈の種類によらず判定可能な一連の生体信号解析システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る一連の生体信号解析システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、解析に用いる心電情報の詳細例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る心電情報の入力部の処理例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る学習処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る判定処理を示すフローチャートである。
【
図6A】
図6Aは、実施形態1に係るデータ変換部の処理例を示す図(その1)である。
【
図6B】
図6Bは、実施形態1に係るデータ変換部の処理例を示す図(その2)である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係る自己符号化器の構成を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る学習部の処理例を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、実施形態1に係るデータ復元部の処理例を示す図(その1)である。
【
図9B】
図9Bは、実施形態1に係るデータ復元部の処理例を示す図(その2)である。
【
図10A】
図10Aは、実施形態1に係る差算出部の処理例を示す図(その1)である。
【
図10B】
図10Bは、実施形態1に係る差算出部の処理例を示す図(その2)である。
【
図11A】
図11Aは、実施形態1に係る判定部の処理例を示す図(その1)である。
【
図11B】
図11Bは、実施形態1に係る判定部の処理例を示す図(その2)である。
【
図12】
図12は、実施形態1に係る処理による解析例を示す図である。
【
図13A】
図13Aは、本実施形態6に係る、三次元特徴データにおける不整脈特有の特徴の重み付け例を示す図(その1)である。
【
図13B】
図13Bは、本実施形態6に係る、三次元特徴データにおける不整脈特有の特徴の重み付け例を示す図(その2)である。
【
図14】
図14は、実施形態7に係る、時間-周波数座標に基づいた不整脈要因の特定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る一連の生体信号解析システムの実施形態を、図面に基づいて、詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、本発明の個々の実施形態は、独立したものではなく、それぞれ組み合わせて適宜実施することができる。
【0023】
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1に係る一連の生体信号解析システムの構成例を示す図である。
図1によれば、解析対象である心電情報10は、生体信号測定器2を介して判定対象1から取得する。判定対象1は、人や動物等、特に限定されない。生体信号測定器2の例としては、心電計が挙げられる。
【0024】
判定対象から取得した心電情報10は、判定対象1の情報や、取得日時、場所、測定結果を含む。測定結果は、横軸を時間、縦軸を電圧としてプロットして得られる波形データ11である(
図1参照)。
図2は、解析に用いる心電情報10の詳細例を示す図である。
図2の(a)は正常な脈の波形データ11Aを示し、
図2の(b)はF波が発生している心房細動の波形データ11Bを示す例である。各波形データは、P波11a、Q波11b、R波11c、S波11d、T波11e、F波11fと呼ばれる成分を含み得るものであり、これらの形状は不整脈の判定基準として用いられる。なお、心電情報10が有する波形データは、判定対象や生体信号測定器によってその形状が変わることもある。
【0025】
図1に戻り、本発明に係る生体信号解析システム3は、入力部31と、データ変換部32と、学習部33と、データ復元部34と、差算出部35と、判定部36と、制御部37と、記憶部38とを備える。
【0026】
入力部31は、生体信号測定器2から出力される心電情報の入力を受け付ける。また、入力部31は、取得した心電情報の波形データ11から単位波形データを抽出する。入力部31は、生体信号測定器2と電気的に接続するコネクタ、あるいは生体信号測定器2との通信手段を備える通信装置、あるいはデータが保存されたメディアの入力ポートによって構成され、さらにキーボード、マウス、マイク等のユーザインタフェースを含んで構成してもよい。
【0027】
データ変換部32は、心電情報10に変換処理を施す。具体的には、時間と強度(ここでは電圧)との関係を示す波形データに対して周波数解析を施して、時間-周波数-強度の三次元特徴データを生成する。
【0028】
図3は、実施形態1に係る心電情報の入力部31の処理例を示す図である。入力部31は、
図3の(a)に示す波形データ11について、指定の単位ごとに抽出した単位波形データ12を生成し(
図3の(b)参照)、記憶部38に登録する。単位波形データ12の抽出は、例えば、時間軸情報に基づいて指定の期間を単位とすることや、R波11cのピーク位置を抽出基準位置として指定の波形数を単位とすることが考えられるが、この限りではない。
図3に示す例では、R波11cのピーク位置11cpを検出し、R波11cのピーク位置11cpの前後指定秒数を一つの単位とすることで、単位波形データ12は波形データ11に基づく単波形を表している。その後、データ変換部32が処理を適用し、単位波形データ12から三次元特徴データ13を生成する(
図3の(c)参照)。
【0029】
ここで、波形データ11は、心拍の変動により各単位波形データ12の間隔が一定ではないが、単位波形ごとにセグメント化すると、後述する学習部33における自己符号化器41の学習精度が向上したり、差算出部35における差データおよび差量へのノイズ混入を抑制したりするため、不整脈の判定精度が向上する。また、
図3の(b)における単位外波形データ11gのように判定に有益な情報を持たない区間は除外されるため、処理量を抑えることが可能となる。
また、
図3に示す例では単位波形ごとにセグメント化するために、一定区間の極大値から検出されるR波11cのピーク位置11cpに基づいて前後指定秒数をひとつの単位波形としているが、この限りではない。入力部31は、波形データがR波11cを有しておらず、R波11cのピーク位置11cpを検出することができない場合、波形データの極大値を求め、その時間を基準位置として、前後指定秒数を一つの単位として抽出する。
【0030】
学習部33は、ニューラルネットワークのネットワークパラメータを最適化する学習を行うことによって学習済みのモデルを生成する。学習部33は、自己符号化器を有し、心電情報に基づいて生成される三次元特徴データを学習用データとして、当該自己符号化器の学習を行う。学習としては、例えば誤算逆伝播法および確率的勾配降下法等を用いた学習が挙げられる。学習部33は、学習後の学習済みモデル(以下、単に学習モデルともいう)を記憶部38に記憶させる。
【0031】
ここで、学習部33による学習処理について説明する。
図4は、生体信号解析システム3による学習処理を示すフローチャートである。学習処理では、入力部31に入力された心電情報10に基づいて、データ変換部32が各処理を適用して生成した、単位波形データから学習用データとして三次元特徴データ13を取得する(ステップS101)。学習部33は、生成した学習用データを用いて自己符号化器の学習を行い、学習済みの学習モデルを出力する。このとき、学習用データは複数用意され、当該学習用データが正常であるか、不整脈であるかが既知であり、その大半が正常波形由来であるものを使用する。ここでいう「大半」とは、95%以上である。また、学習用データとして採用される「正常」とは、医師や検査技師等によって「正常」と判定されたものを指す。本実施形態1において、学習部33は、正常な脈の波形データ(正常波形データ)に基づく学習用データのみを用いて学習する。また、学習部33は、判定の精度を高めるという点で正常な波形データのみを用いることが好ましいが、この限りではない。
【0032】
図1に戻り、データ復元部34は、学習部33が生成した学習モデルを用いて、データ変換部32が生成した三次元特徴データであって、判定対象1から得た三次元特徴データ(以下、判定用データともいう)の復元処理を行う。
【0033】
差算出部35は、データ復元部34による復元処理前後のデータの差量を算出する。具体的には、差算出部35は、復元前の三次元特徴データと、復元後の三次元特徴データとの差データを生成し、該差データに基づいて差量を算出する。
【0034】
判定部36は、差算出部35が算出した差量に基づいて、判定対象1の脈が正常な波形データであるか、不整脈の波形データであるかのいずれかを判定する。
【0035】
制御部37は、生体信号解析システム3の動作を統括して制御する。また、制御部37は、判定部36部の判定結果を、ディスプレイに表示させたり、外部に出力したりする。
【0036】
記憶部38は、生体信号解析システム3を動作させるための各種プログラムや、各部が生成するデータ等を含む各種データを記憶する。各種プログラムには、学習モデルを用いて実行される判定プログラムも含まれる。記憶部38は、各種プログラム等があらかじめインストールしたROM(Read Only Memory)、および各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等を用いて構成される。
【0037】
各種プログラムは、HDD、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、Blu-ray(登録商標)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。また、入力部31が、通信ネットワークを介して各種プログラム取得することも可能である。ここでいう通信ネットワークは、例えば既存の公衆回線網、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等を用いて構成されるものであり、有線、無線を問わない。
【0038】
以上の機能構成を有する生体信号解析システム3は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の1または複数のハードウェアを用いて構成されるコンピュータである。
【0039】
続いて、判定対象1から得た心電情報に基づく、正常/不整脈の判定処理について説明する。
図5は、実施形態1に係る判定処理を示すフローチャートである。判定処理では、まず、入力部31が、判定対象1から得た心電情報10を、生体信号測定器2を介して取得する(ステップS201)。入力部31は、取得した心電情報10の波形データ11を部分的に抽出した単位波形データ12を生成する。
【0040】
データ変換部32は、単位波形データを変換して三次元特徴データを生成する(ステップS202)。この三次元特徴データが、判定用データまたは学習用データとなる。
【0041】
図6Aおよび
図6Bは、実施形態1に係るデータ変換部32の処理例を示す図である。
図6Aは正常波形における各種データの一例を示し、
図6Bは不整脈波形における各種データの一例を示している。また、各図の(a)は単位波形データ、(b)は学習用データ、または判定用データを示している。データ変換部32は、入力部31にて得た単位波形データ12に対して、時間-周波数変換を適用する。この際に、学習処理用の三次元特徴データとして既知の学習用データ14Xが得られ、判定処理用の三次元特徴データとして判定用データ14A、14Bが得られる。ここで、便宜上、判定用データ14A(正常波形:
図6A)と、判定用データ14B(不整脈波形:
図6B)とで区別しているが、実際には正常波形であるか不整脈波形であるかは未知である。なお、時間-周波数変換には、例えば短時間フーリエ変換やウェーブレット変換といった一般的な周波数変換手法を用いることができるが、この限りではない。また、既知の学習用データ14Xおよび判定用データ14A、14Bは数値データとして扱うことが好ましいが、画像データなどの別の形式として扱うことも可能である。
【0042】
ここで、
図6Aにおける4つの単位波形データ(正常な単位波形データ)12A~12Dは、それぞれ異なる判定対象から取得したものであり、判定対象により波形の形状が異なることがわかる。この個人差の例としては、S波の落ち込み量やT波の高さなどが挙げられる。そこで、これらの単位波形データ12A~12Dに対してデータ変換部32による時間-周波数変換を適用すると、三次元特徴データ13A~13Dが得られる。これらの三次元特徴データ13A~13Dは、正常波形由来の既知の学習用データ14Xおよび判定用データ14Aとして用いられ、単位波形データ12A~12Dに比べて、個人差が軽減する。したがって、後述の学習部33において、異なる対象から得た既知の学習用データ14X(三次元特徴データ13A~13D)の転用による学習の精度向上も可能となる。
【0043】
また、
図6Bにおける4つの単位波形データ(不整脈の単位波形データ)12E~12Hは、それぞれ主要な不整脈あるいはその予兆の例である。生体信号解析システム3の目的は、単位波形データ12A~12Dと、単位波形データ12E~12Hを区別することである。しかし、単位波形データのままではデータの特徴を捉えにくく、区別することが困難である。そこで、同様にデータ変換部32による時間-周波数変換を適用すると、三次元特徴データ13E~13Hが得られる。これらの三次元特徴データ13E~13Hは、不整脈波形由来の判定用データ14Bとして用いられ、
図6Bの(b)に示す領域R
1~R
5において不整脈特有の特徴が表れ、正常波形と区別することが容易となる。
【0044】
データ変換後、データ復元部34は、学習部33が生成した学習モデルを取得する(ステップS203)。この際、データ復元部34は、記憶部38を参照して学習モデルを取得するか、または学習部33から学習モデルを取得する。
【0045】
ここで、学習部33によって生成される学習データについて、
図7および
図8を参照して説明する。
図7は、実施形態1に係る自己符号化器の構成を示す図である。
図7に示すように、自己符号化器41はエンコーダ411とデコーダ412とからなるニューラルネットワークモデルである。エンコーダ411では、各ノード45が有する特徴を各エッジ46において固有の重みで重み付け、次元数を削減しながら、次の層のノード45に入力していく。これによって入力データ43の特徴を低次元に圧縮することが可能となる。デコーダ412では、エンコーダ411と逆の処理を行うことで、復元データ44を生成する。つまり、復元データ44はエンコーダ411にて圧縮された特徴から入力データ43を再構成したものである。以下、エンコーダ411による特徴の圧縮のことを特徴抽出、デコーダ412による特徴の再構成のことを復元と呼ぶ。また、自己符号化器41の入出力について、学習処理では入力データ43は学習用データ14Xを指し、判定処理では入力データ43は判定用データをそれぞれ指している。なお、本実施形態1において自己符号化器41の層数や各層が有するノード45の数は限定されない。
【0046】
図8は、実施形態1に係る学習部33の処理例を示す図である。学習部33は、学習用データを用いて、自己符号化器41の学習を行う。自己符号化器は学習用データとして入力される入力データ43の特徴抽出と抽出した特徴に基づいて、復元を行い、復元データを生成する。
図8の(a)は学習の初期段階を表しており、
図8の(b)は学習がある程度進行した段階を表している。
図8の(a)に示すように、学習がまだ不十分である場合、特徴抽出の精度が低く、復元データ(学習中)44Aは入力データ343を復元していない。自己符号化器41a(
図8の(a)参照)の学習によって、入力データ43と復元データ(学習中)44Aの差が小さくなるように各エッジ46における重み付け量を調整する。こうして学習が進行するに従い
図8の(a)から
図8の(b)の状態となる。具体的には、学習が進行した自己符号化器41bは、入力データ43に対して特徴抽出ができているので、高い精度で復元した復元データ44Bの生成が可能となる。
【0047】
本実施形態1では、学習モデルは、正常であることが既知の学習用データ14Xのみを用いて学習しており、正常波形の特徴抽出と復元が可能となっているが、学習モデルの学習に必要な既知の学習用データ14Xは、例えば容易かつ大量に入手可能な単位波形データ12A~12Dから得る。したがって、従来のように、検出対象となる不整脈を学習する必要がなく、学習用データの入手が容易であるため、学習の精度向上は容易である。
【0048】
学習モデルを取得すると、データ復元部34が、ステップS202で生成した判定用データと、学習部33が生成した学習モデルとを用いて復元処理を行う(ステップS204)。復元処理によって、ステップS202で生成した判定用データが復元された三次元特徴データが得られる。
【0049】
図9Aおよび
図9Bは、実施形態1に係るデータ復元部34の処理例を示す図である。なお、便宜上、判定用データ13I(正常波形:
図9A)と、判定用データ13J(不整脈波形:
図9B)とで区別しているが、実際には正常波形であるか不整脈波形であるかは未知である。データ復元部34は、学習部33にて学習した学習モデル42を用いて、データ変換部32にて生成した判定用データ13I、13Jを復元し、復元データ15A、15Bを生成する。
【0050】
ここで、学習モデル42は正常波形の特徴抽出と復元をするため、正常波形由来の判定用データ13Iを入力した場合、学習モデル42は正しく特徴抽出と復元を行うことができる。一方、不整脈由来の判定用データ13Jを入力した場合、学習モデル42は不整脈の特徴を抽出することができず、復元精度は低くなる。
【0051】
復元処理後、差算出部35は、ステップS202で生成した判定用データ(三次元特徴データ)と、ステップS204で復元された三次元特徴データとの差データを生成する(ステップS205)。その後、差算出部35は、差データから差量を算出する(ステップS206)。
【0052】
図10Aおよび
図10Bは、実施形態1に係る差算出部35の処理例を示す図である。差算出部35は、データ復元部34における入力と出力である、判定用データと復元データとを比較し、その差分をとった差データを生成し、該差データに基づいて差量を算出する。なお、差量の算出には、例えばRMSE(Root Mean Square Error)やMAE(Mean Absolute Error)といった一般的な差算出手法を用いることができるが、この限りではない。データ復元部34に判定用データ13Iを入力した場合、学習モデル42は正常波形の特徴を正しく復元できるため、差データ16Aは平坦な強度分布(ここでは黒色)のデータとなり、差量17Aの値は小さくなる(
図10A参照)。一方、データ復元部34に判定用データ13Jを入力した場合、学習モデル42は不整脈の特徴を正しく復元できず、差データ16Bは不均一な強度分布のデータとなり、差量17Bの値は大きくなる(
図10B参照)。
【0053】
判定部36は、ステップS206で算出された差量に基づいて、判定対象1から得た波形データが正常であるか、不整脈であるかを判定する(ステップS207)。その後、判定部36は、判定結果を出力する(ステップS208)。
【0054】
具体的には、判定部36は、差算出部35にて算出した差量(例えば差量17A、17B)が、あらかじめ設定されている閾値よりも小さいか否かによって、正常か不整脈かを判定し、判定結果を出力する。
図11Aおよび
図11Bは、実施形態1に係る判定部の処理例を示す図である。ここでは、差量17Aが閾値よりも小さく、差量17Bが閾値よりも大きいものとする。
図11Aに示すように、差量17Aは差量が小さいため、「正常」と判定する。一方、
図11Bに示すように、差量17Bは差量が大きいため、「不整脈」と判定する。
【0055】
図12は、実施形態1に係る処理による解析例を示す図である。具体的には、判定処理において、判定用データとして判定用データ14Aおよび判定用データ14B(
図6A、
図6B参照)をそれぞれ10サンプル与え、上述したRMSEによって算出した差量を示している。このとき、前述したように、不整脈波形由来の差量は、正常波形由来の差量に比べて大きく、この差に基づいて閾値Thを設定することで不整脈の判定が可能となる。
【0056】
原則、学習処理の後で判定処理が実行される。ただし、既に学習処理によって学習モデルを出力している場合は、既存の学習モデルを用いることで、学習処理を省略し、正常/不整脈を判定することも可能である。
【0057】
以上説明した本実施形態1によれば、判定部36は、正常な波形データと異なる波形データ、即ち不整脈の判定が可能となる。また、判定を行う単位を短くすれば、ノイズなどの影響で十分な連続量のデータとして扱えない場合であっても判定が可能であり、さらに、単発的に発生する不整脈であっても判定が可能となる。
【0058】
[実施形態2]
次に、本発明の実施形態2について説明する。本実施形態2は実施形態1に従属する。実施形態2に係る生体信号解析システムの構成は、実施形態1に係る生体信号解析システム3と同じであるため、説明を省略する。以下、実施形態1とは異なる部分について説明する。
【0059】
本実施形態2において、学習部33は、学習に用いる既知の学習用データ14Xのうち、元となる単位波形データの波形形状の特徴に基づいて学習用データ群に分類し、分類したタイプ(特徴)の学習用データ群ごとに学習を行うことで、複数の学習モデルを生成する。ここでいう波形形状の特徴としては、S波の落ち込み量やT波の高さなどが挙げられる。実施形態2では、学習部33が、分類タイプごとに設けられる複数の自己符号化器を有する。各自己符号化器によって、分類タイプごとの学習モデルが生成される。また、本実施形態2における学習部33で用意される学習モデル(自己符号化器)の数は自由に設定できるが、4つ以上であることが好ましい。
【0060】
本実施形態2における判定処理は、学習モデル取得処理(
図5に示すステップS203)のみが異なり、その他は
図5に示すフローチャートに準ずる。学習モデル取得処理では、判定対象1における単位波形データの波形形状の特徴に基づいて、学習部33が有する複数の学習用データ群または学習モデル(自己符号化器)から1つ選択される。選択する学習用モデルは目的に応じて決まるが、判定処理において最も適したものであることが好ましい。なお、最も適した学習モデルを選択する方法としては、例えば複数の学習モデルと、判定対象1から得た波形データとを、データ復元部34および差算出部35にて各処理を適用し、出力した差量が最も小さくなる学習モデルを選ぶ方法が考えられるが、この限りではない。
【0061】
実施形態1において、学習処理の特徴として単位波形データをデータ変換部32によって時間-周波数変換することで、個人差を軽減できる。しかし、この本実施形態2における学習モデルを用いれば、更に個人差の軽減が可能であり、判定精度の向上が可能となる。
【0062】
また、心肥大や心拡大を発症している判定対象から得た正常波形は、心肥大や心拡大を発症していない健常者から得たものと比較して波形形状の特徴に差異がある。よって、健常者から得た心電情報10で学習を行った学習モデルは、心肥大や心拡大に基づいた正常波形の特徴を正しく復元できず、差データの強度分布のムラ、および差量の値は大きくなり、不整脈として誤判定されるおそれがある。こうした際に、本実施形態2における学習部33が、心肥大の学習モデルや心拡大のモデルを用意することで、心肥大や心拡大を発症している判定対象に対しても不整脈を高精度に判定可能となる。
【0063】
[実施形態3]
次に、本発明の実施形態3について説明する。実施形態3に係る生体信号解析システムの構成は、実施形態1に係る生体信号解析システム3と同じであるため、説明を省略する。以下、実施形態1とは異なる部分について説明する。
【0064】
本実施形態3において、学習部33は、判定対象本人以外の判定対象を含む既知の学習用データ(以下、学習用データ14Xとする)と、判定対象本人から得た、正常波形の波形データに基づく学習用データ(以下、学習用データ14Yとする)とを併せて学習を実施する。学習用データ14Xと、学習用データ14Yとを併せた学習には、例えば、学習用データ14Xと学習用データ14Yを一つのデータ群として学習を実施する方法が考えられるが、この限りではない。そうして得た学習モデルを、判定処理におけるデータ復元部34の学習モデルとして使用することで、復元精度が高くなり、判定精度の向上が可能となる。
【0065】
実施形態1および実施形態2において、学習処理の特徴として、単位波形データをデータ変換部32によって時間-周波数変換することで個人差を軽減できる。しかし、本実施形態3に係る学習部33の学習処理を用いれば、判定対象本人から得た学習用データによって個人差を更に排除することが可能であり、判定精度の向上が可能である。こうして学習した学習モデルは実施形態1における学習モデルとして転用してもよい。本実施形態3における学習部33による学習が可能となるのは、学習モデルの学習に必要なものは容易かつ大量に入手可能な正常波形データのみであり、学習の難易度が極めて低いことによる。
【0066】
[実施形態4]
次に、本発明の実施形態4について説明する。本実施形態4は実施形態3に従属する。実施形態4に係る生体信号解析システムの構成は、実施形態1に係る生体信号解析システム3と同じであるため、説明を省略する。以下、実施形態3とは異なる部分について説明する。
【0067】
本実施形態4において、学習部33は、学習に用いる既知の学習用データ14Xのうち、元となる単位波形データの波形形状の特徴に基づいて学習用データ群に分類し、分類した複数の学習用データ群に基づいて学習を行った複数の学習モデルを有する。ここでいう波形形状の特徴としては、S波の落ち込み量やT波の高さなどが挙げられる。実施形態4では、学習部33が、分類タイプごとに設けられる複数の自己符号化器を有する。各自己符号化器によって、分類タイプごとの学習モデルが生成される。また、本実施形態における学習部33で用意される学習用データ群、または学習モデル(自己符号化器)の数は自由に設定できるが、4つ以上であることが好ましい。
【0068】
本実施形態4における学習処理または判定処理は、基本的に
図4、5に示すフローチャートに準ずるが、学習モデル生成処理(
図4に示すステップS102)および学習モデル取得処理(
図5に示すステップS203)では、判定対象1における単位波形データの波形形状の特徴に基づいて、学習部33が有する複数の学習用データ群または複数の学習モデルから1つ、好ましくは最も適したものを選択し、学習または判定に用いる。なお、最も適した学習用データ群または学習モデルを選択する方法としては、例えば複数の学習用データ群に基づいて学習を行った複数の学習モデルと、判定対象1から得た正常波形データとをデータ復元部34および差算出部35にて各処理を適用し、出力した差量が最も小さいものを選ぶ方法が考えられるが、この限りではない。
【0069】
実施形態3において、学習処理の特徴として判定対象本人から得た学習用データ14Yによって個人差を更に排除することが可能である。しかし、この本実施形態4に係る学習部33の学習処理を用いれば、更に個人差の軽減が可能であり、判定精度の向上が可能となる。
【0070】
また、心肥大や心拡大を発症している判定対象から得た正常波形は、健常者から得たものと比較して波形形状の特徴に差異がある。よって、健常者から得た心電情報10で学習を行った学習モデルは心肥大や心拡大に基づいた正常波形の特徴を正しく復元できず、差データの強度分布のムラ、および差量の値は大きくなり、不整脈として誤判定されるおそれがある。こうした際に、本実施形態における学習部33が、心肥大や心拡大の学習用データ群または学習モデルを用意することで、心肥大や心拡大を発症している判定対象に対しても高精度な不整脈の判定が可能となる。こうして学習した学習モデル42は実施形態1~3における学習モデルとして転用してもよい。
【0071】
[実施形態5]
次に、本発明の実施形態5について説明する。実施形態5に係る生体信号解析システムの構成は、実施形態1に係る生体信号解析システム3と同じであるため、説明を省略する。以下、実施形態1とは異なる部分について説明する。
【0072】
本実施形態5における学習処理は、基本的に
図4に示すフローチャートに準ずるが、学習モデル生成処理(
図4に示すステップS102)において、学習部33は、判定対象本人から得た学習用データ14Yのみを用いて学習を実施する。そうして得た学習モデルを、判定処理におけるデータ復元部34の学習モデルとして使用することで、復元精度が高くなり、判定精度の向上が可能となる。
【0073】
実施形態3において、学習処理の特徴として、判定対象本人以外の判定対象を含む既知の学習用データ14Xと、判定対象本人から得た学習用データ14Yとによって個人差を更に排除することが可能である。しかし、本実施形態5に係る学習部33の学習処理を用いれば、判定対象本人から得た学習用データ14Yのみであることによって個人差を完全に排除することが可能であり、判定精度の向上が可能である。また、実施形態2および4において、対応した学習用データ群または学習モデルがない場合にも有効である。こうして学習した学習モデルは実施形態1~4における学習モデルとして転用してもよい。本実施形態5における学習部33による、判定対象本人から得た学習用データ14Yを用いた学習が可能となるのは、学習モデルの学習に必要なものは容易かつ大量に入手可能な、判定対象本人の正常波形データのみであり、学習の難易度が極めて低いことによる。
【0074】
[実施形態6]
次に、本発明の実施形態6について説明する。実施形態6に係る生体信号解析システムの構成は、実施形態1に係る生体信号解析システム3と同じであるため、説明を省略する。以下、実施形態1とは異なる部分について説明する。
【0075】
図6Bの(b)において、心房細動由来の三次元特徴データ13Eは領域R
1、R
2において不整脈特有の特徴が現れるとしたが、その特徴は微弱であるため、データ復元部34による復元処理で消失したり、判定部36による不整脈判定でデータ全体の差量として小さくなり正常波形データとの切り分けが困難になったりするおそれがある。
【0076】
そこで、本実施形態6におけるデータ変換部32は、判定用データにおいて、不整脈特有の特徴が現れる時間-周波数特徴領域に対して重み付けを行う。
図13Aおよび
図13Bは、本実施形態6に係る、三次元特徴データにおける不整脈特有の特徴の重み付け例を示す図である。
図13Aおよび
図13Bでは例として、時間および周波数についてそれぞれ範囲が設定される領域R
6に基づき、心房細動の特徴の重み付けを行っているが、この限りではない。例えば、正常波形由来であることが既知の判定用データ13Kに基づき領域R
6の重み付けを行った重み付けデータ13K´では重み付けによる影響は極めて小さく、得られる差データ16Kは
図10Aの例と同様に平坦な強度分布となる(
図13A参照)。一方で、心房細動由来であることが既知の判定用データ13Lに基づき領域R
6の重み付けを行った重み付けデータ13L´では、領域R
6に大きな特徴が現れるため、得られる差データ16Lは不均一な強度分布のデータとなる(
図13B参照)。
【0077】
このように、本実施形態6におけるデータ変換部32によれば、心房細動や心房粗動の持つF波11f(例えば
図2の(b)参照)などの微弱な不整脈特有の特徴について事前に重み付けすることで、復元による特徴の消失を防ぐことができる。その結果、正常波形データと不整脈波形データとの切り分けが容易となる。
【0078】
[実施形態7]
次に、本発明の実施形態7について説明する。実施形態7に係る生体信号解析システムの構成は、実施形態1に係る生体信号解析システム3と同じであるため、説明を省略する。以下、実施形態1とは異なる部分について説明する。
【0079】
図14は本実施形態7に係る、時間-周波数座標に基づいた不整脈要因の特定例を示す図である。
図14の(Sa)は心房細動、(Sb)は心室期外収縮、(Sc)は心室肥大に関する心電情報の一例を示す。また、それぞれに対応する単位波形データが
図14の(a)に示すデータ(単位波形データ18A~18C)であり、この単位波形データを周波数変換して得られる判定用データが
図14の(b)に示すデータ(判定用データ19A~19C)であり、この判定用データと、復元後の判定用データとに基づく差データが
図14の(c)に示すデータ(差データ20A~20C)である。実施形態1~3において、判定部36はあくまで正常波形に基づいて、正常/不整脈の判定を行うものであり、その種類に依らず不整脈の判定が可能だが、不整脈要因を特定することができない。ここでいう不整脈要因の特定は、不整脈あるいはその疾患名を特定することや「R波起因」のように大まかな枠を設定した不整脈要因を絞り込むことを指す。
【0080】
そこで、本実施形態7における判定部36は、単なる不整脈の判定ではなく、不整脈要因の特徴が顕れる座標を参考に不整脈要因の特定を行う。既知の学習用データ14Xおよび判定用データ19A~19Cは、時間座標から波形成分(
図2に示すP波11a、Q波11b、R波11c、S波11d、T波11e、F波11f)を区分できる。また、帯域の推移状態からどのような波形を描いているか読み取ることができる。
図14では、一例として、P波またはF波を含む区分(PorF波)、Q波、R波およびS波を含む区分(QRS波)、T波またはF波を含む区分(TorF波)に分ける例を示す。例えば、心室期外収縮(Sb)のようにR波11cの顕れる時間座標において、強度の出る帯域が低周波方向へシフトした場合、R波11cの幅は拡大したということである。よって判定用データと復元データとから得た差データに基づいて、指定した座標範囲(例えば領域R
11、R
12、R
13、R
14)ごとに差量を算出し、その大きさ、あるいはそれらの関係性から不整脈要因の特定が可能となる。この際、座標範囲の指定は、例えばエッジ検出等の画像処理によって自動で行ってもよいし、入力部31を介してユーザが指定範囲を入力してもよい。
【0081】
また、本実施形態7における判定部36によるもうひとつの効果として、指定した座標範囲ごとに差量を算出するため、心房細動のF波の発生といった微弱な特徴に対しても判定が容易である。
【0082】
(その他の実施の形態)
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は、上述した実施形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、生体信号解析システム3が学習部33を備えるものとして説明したが、生体信号解析システム3が学習部33を有さずに、通信ネットワークを介して学習モデルを取得する構成としてもよい。また、解析対象の情報は、心電情報に限らず、上述した波形データを用いるものであれば適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係る一連の生体信号解析システムを用いれば、心電情報に基づいた不整脈の判定が可能となる。
【符号の説明】
【0084】
1 判定対象
2 生体信号測定器
3 生体信号解析システム
10 心電情報
11 波形データ
12、12A~12H 単位波形データ
13、13A~13H 三次元特徴データ
13I~13L、14A、14B、19A~19C 判定用データ
13K´、13L´ 重み付けデータ
14X 学習用データ
15A、15B 復元データ
16A、16B、16K、16L、20A~20C 差データ
17A、17B 差量
31 入力部
32 データ変換部
33 学習部
34 データ復元部
35 差算出部
36 判定部
37 制御部
38 記憶部
41a、41b 自己符号化器
42 学習モデル
43 入力データ